(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】基礎杭及び基礎杭構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/48 20060101AFI20220616BHJP
E02D 5/44 20060101ALI20220616BHJP
E02D 5/50 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
E02D5/48
E02D5/44 A
E02D5/50
(21)【出願番号】P 2019080387
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴之
(72)【発明者】
【氏名】千種 信之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062787(JP,A)
【文献】特開2005-139900(JP,A)
【文献】特開2011-122428(JP,A)
【文献】特開2001-098544(JP,A)
【文献】特開2013-256791(JP,A)
【文献】米国特許第06176055(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/48
E02D 5/44
E02D 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭本体部と、
この杭本体部に形成され、この杭本体部よりも拡径された
複数の節部とを具備し、
前記
各節部は、徐々に縮径するように傾斜する傾斜部を下部に備え、
前記傾斜部の傾斜角度は、50°~85°の範囲であ
り、
一の前記節部の傾斜部の傾斜角度と他の前記節部の傾斜部の傾斜角度とは、互いに異なっている
ことを特徴とする基礎杭。
【請求項2】
各節部は、徐々に縮径するように傾斜する上部傾斜部を上部に備え、
前記上部傾斜部の傾斜角度は、傾斜部の傾斜角度以下で、45°~85°の範囲である
ことを特徴とする請求項1記載の基礎杭。
【請求項3】
一の前記節部の径寸法と他の前記節部の径寸法とは、互いに同一または異なっている
ことを特徴とする請求項1または2記載の基礎杭。
【請求項4】
底部に根固め部を有する杭穴と、
節部の少なくとも一部が前記根固め部に配置されて前記杭穴に埋設された請求項1ないし3いずれか一記載の基礎杭と
を具備したことを特徴とする基礎杭構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭本体部よりも拡径された節部を有する基礎杭及びこれを備えた基礎杭構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在製造されているPHC杭は、基本的に円筒形状である。また、より大きな支持力を得るために、杭体表面に節部や溝部等の凹凸を設けたもの、杭体上下の軸径が異なるもの、先端を鋭角にしたペンシル型などの特殊な形状の杭も考案されている。従来の既製コンクリート杭工法に採用されるPHC杭は、工法毎に上記の特殊な形状を組み合わせたものとなっている(例えば、特許文献1乃至4参照)。
【0003】
基礎杭は、地上から伝達される荷重を地盤内に伝播させる際に、杭周面部での地盤と杭との周面摩擦力と、杭先端部から、杭穴先端部に形成される根固め部を介して支持層へ伝達される荷重の反力である先端支持力とを受け支持される。この場合、杭周面部の負担する荷重の割合は少なく、多くの荷重を根固め部で受け持っている(例えば、特許文献5および6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-98544号公報
【文献】特開2003-90036号公報
【文献】特開2005-83154号公報
【文献】特開2006-200190号公報
【文献】特開2011-122428号公報
【文献】特開2012-207532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
根固め部に貫入された杭は、支持層の反力により支持力を得られるが、杭先端部に凹凸部等の形状を設けることで杭と根固め部とが一体化し、杭先端部以深だけでなく根固め部周面範囲にも摩擦力が作用し、より多くの支持力を得られる。また、杭周面部においても、根固め部と同様に杭体に特殊な形状を設けることで地盤と杭との摩擦力が増大し、より多くの支持力を得られる。
【0006】
しかしながら、杭先端の支持層が極限支持力状態に至るまでは、杭先端部に設けられた節部への応力集中およびせん断力の作用により杭体が破損したり、根固め部への応力伝達範囲が狭いことで局所的な応力集中が生じて根固め部が破損したりしないようにすることが求められる。
【0007】
また、杭の節部からは、断面変化部から30°~45°の角度(荷重分散角)で応力が下方に伝わると推定されるため、その影響線より上方の根固め部を有効に利用することが困難である。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、支持力を向上できる基礎杭及びこれを備えた基礎杭構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の基礎杭は、杭本体部と、この杭本体部に形成され、この杭本体部よりも拡径された複数の節部とを具備し、前記各節部は、徐々に縮径するように傾斜する傾斜部を下部に備え、前記傾斜部の傾斜角度は、50°~85°の範囲であり、一の前記節部の傾斜部の傾斜角度と他の前記節部の傾斜部の傾斜角度とは、互いに異なっているものである。
【0010】
請求項2記載の基礎杭は、請求項1記載の基礎杭において、各節部は、徐々に縮径するように傾斜する上部傾斜部を上部に備え、前記上部傾斜部の傾斜角度は、傾斜部の傾斜角度以下で、45°~85°の範囲であるものである。
【0011】
請求項3記載の基礎杭は、請求項1または2記載の基礎杭において、節部が、複数設けられ、一の前記節部の径寸法と他の前記節部の径寸法とが、互いに同一または異なっているものである。
【0012】
請求項4記載の基礎杭構造は、底部に根固め部を有する杭穴と、節部の少なくとも一部が前記根固め部に配置されて前記杭穴に埋設された請求項1ないし3いずれか一記載の基礎杭とを具備したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、杭本体部よりも拡径された複数の節部の下部に徐々に縮径するように傾斜する傾斜部の傾斜角度を50°~85°の範囲とし、一の節部の傾斜部の傾斜角度と他の節部の傾斜部の傾斜角度とを互いに異ならせることで、荷重分散角を大きくできるため、節部が貫入された根固め部のより多くの範囲に圧縮応力を作用させることができ、根固め部において地盤からの反力に加えて、より広範囲の地盤との間の摩擦力を得ることができるので、これらの作用によって、支持力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態の基礎杭の一部の例を(a)ないし(e)に示す側面図である。
【
図2】同上基礎杭を備える基礎杭構造を示す側面図であり、(a)は一定径の掘削部を有する杭穴に基礎杭を埋設した例を示し、(b)は拡大部を有する掘削部を備える杭穴にて基礎杭の1つの節部のみを根固め部に埋設した例を示し、(c)は拡大部を有する掘削部を備える杭穴にて基礎杭の複数の節部を根固め部に埋設した例を示す。
【
図3】同上基礎杭構造の構築方法を示す側面図であり、(a)は掘削工程を示し、(b)は根固め部形成工程を示し、(c)は杭周面部形成工程を示し、(d)は杭建込み工程を示す。
【
図4】(a)は
図1(a)の例に対応する実施例Aの節部による圧縮応力の作用を模式的に示す側面図、(b)は一の従来例に対応する比較例Aの節部による圧縮応力の作用を模式的に示す側面図である。
【
図5】(a)は他の従来例に対応する基礎杭の一部を示す側面図、(b)はさらに他の従来例に対応する基礎杭の一部を示す側面図である。
【
図6】
図1(d)の例に対応する実施例B1、
図1(e)の例に対応する実施例C1、
図5(a)の例に対応する比較例B2、および、
図5(b)の例に対応する比較例C2との軸方向変位と杭頭荷重との関係の実測データの一例を示すグラフである。
【
図7】さらに他の従来例に対応する基礎杭の一部を示す側面図である。
【
図8】
図1(b)の例に対応する実施例D1、および、
図7の例に対応する比較例D2の軸方向変位と杭頭荷重との関係の実測データの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図2(a)ないし
図2(c)に示されるように、本実施の形態において、掘削された杭穴1は、掘削部2を有する。この掘削部2の底部は、固形地盤などの支持力が高い支持層3に達している。掘削部2の少なくとも底部、本実施の形態では全部に根固め液および杭周固定液としてのセメントミルクが注入されて、掘削土と混合することでソイルセメント化され、根固め部4および杭周面部5が形成されている。この杭穴1内には、既製杭である基礎杭6が根固め部4に至るまで埋設され、基礎杭構造が構成される。
【0017】
掘削された杭穴1の掘削部2は、
図2(a)に示されるように、先端に至るまで直径が同一の場合と、
図2(b)および
図2(c)に示されるように、底部に径が大きく形成された拡大部2aを備える場合とがある。
図2(a)に示すように、掘削部2の直径が先端に至るまで同一の場合、掘削部2の底部から基礎杭6の節部16の直径の2倍以上の長さを根固め部4とする。また、
図2(b)および
図2(c)に示されるように、拡大部2aを備える場合には、拡大部2aの一部または全部に根固め部4が形成される。根固め部4は、支持層3が強固であるほど強度が高い方が望ましい。そのため、根固め部4は、支持層3の強さの指標であるN値が高いほどセメントミルクの水セメント比を小さくするか、掘削土量に対するセメントミルク注入量の割合を増すか、補強材を配する。また、根固め部4を構成するソイルセメントに分離抵抗性や膨張性などの性能を付与する目的でセメントミルクに混和材ならびに添加剤を加えることもある。
【0018】
基礎杭6は、既製コンクリート杭工法に採用されるものであり、本実施の形態においては、遠心力高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)を例に挙げて説明する。基礎杭6は、1本の杭体で形成されていてもよいし、杭穴1の長さに応じて複数の杭体を継いで一体的に形成されていてもよい。例えば、本実施の形態の基礎杭6は、基端部側から先端部側に亘り、第一杭体である上杭10と、第二杭体である中杭11と、第三杭体である下杭12とが形成されている。上杭10および中杭11は、根固め部4よりも上方にあり、それぞれ杭周面部5に位置し、根固め部4には位置しない部分である。本実施の形態において、上杭10および中杭11は、それぞれその周面に凹凸や節部を有しない円筒形状のストレート杭の構造に形成されているが、凹凸や節部を周面に備える異形杭の構造でもよい。
【0019】
図1(a)ないし
図1(e)に示される基礎杭6(基礎杭6aないし基礎杭6e)の先端部である下杭12は、杭本体部(軸部)15と、この杭本体部15に拡径されて形成された節部16とを備える異形杭である。杭本体部15は、
図2(a)ないし
図2(c)に示されるように、上杭10および中杭11と同径の一定または略一定の径寸法を有する円筒状に形成されている。節部16は、好ましくは下杭12の先端部側に配置される。節部16は、基礎杭6(下杭12)の少なくとも先端部側に位置するものが根固め部4に埋設される。節部16は、
図1(a)および
図1(b)に示される例(基礎杭6aおよび基礎杭6b)のように、基礎杭6の軸方向に離れて複数形成されていてもよいし、
図1(c)ないし
図1(e)に示される例(基礎杭6cないし基礎杭6e)のように、1つのみ形成されていてもよい。
【0020】
節部16は、大径部17と、この大径部17の下部に位置してこの大径部17から離れるに従い徐々に縮径されるように傾斜する傾斜部(テーパ部)である下部傾斜部18とを備える。また、本実施の形態の節部16は、大径部17の上部に位置してこの大径部17から離れるに従い徐々に縮径されるように傾斜する上部傾斜部19を備えている。
【0021】
大径部17は、一定または略一定の径寸法を有するストレート部である。大径部17は、円筒面状に形成されている。大径部17は、節部16の最大径位置となっている。すなわち、大径部17は、節部16の径寸法を設定する部分である。大径部17の径寸法は、所望する支持力に応じて設定されている。節部16が複数備えられる場合、それぞれの節部16の径寸法、つまり大径部17の径寸法は、
図1(a)に示される例(基礎杭6a)のように、同一でもよいし、
図1(b)に示される例(基礎杭6b)のように異なっていてもよい。また、例えば3つ以上の節部16が備えられる場合、全ての節部16の径寸法(大径部17の径寸法)が互いに異なっていてもよいし、複数の節部16の径寸法(大径部17の径寸法)が同一で、残りの節部16の径寸法がそれらと異なっていてもよい。例えば、複数の節部16の大径部17の径寸法が異なる場合、先端部側に位置する節部16の大径部17の径寸法を基端部側に位置する節部16の大径部17の径寸法より小さくしてもよい。
【0022】
下部傾斜部18は、本実施の形態において、基礎杭6の軸方向と直交する方向に対する傾斜角度θが一定または略一定に設定された線形テーパ部である。つまり、下部傾斜部18は、截頭円錐面状に形成されている。この下部傾斜部18により、節部16がくさび形状となっている。下部傾斜部18の傾斜角度θは、45°を超える鋭角となっている。この傾斜角度θは、所望する支持力に応じて設定されている。傾斜角度θが大きいほど大きい支持力を得ることが可能になるが、大きすぎると節部16が長くなり、基礎杭6全体として材料となるコンクリートが増えるため、50°~85°の範囲に設定されていることが好ましい。また、節部16が複数形成されている場合、下部傾斜部18の傾斜角度θに応じて、
図1(a)に示される例(基礎杭6a)のように、隣接する節部16,16間に杭本体部15が位置する構造としてもよいし、
図1(b)に示される例(基礎杭6b)のように、上側の節部16の下部傾斜部18と下側の節部16の上部傾斜部19とが連なって、隣接する節部16,16間に杭本体部15が位置しない構造としてもよい。さらに、節部16が複数形成されている場合、各節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θは、それぞれ同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。また、例えば3つ以上の節部16が備えられる場合、全ての節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θが互いに異なっていてもよいし、複数の節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θが同一で、残りの節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θがそれらと異なっていてもよい。さらに、下部傾斜部18は、杭本体部15に向かって縮径されており、基本的に杭本体部15の径寸法を下回って縮径されない形状となっている。つまり、下部傾斜部18の最下部の径寸法は、杭本体部15の径寸法以上となっている。また、最先端部に位置する節部16の下部傾斜部18は、その下側に杭本体部15が連なって位置する。つまり、基礎杭6の最先端部に位置する下部傾斜部18は、基礎杭6の先端部に至るまで連なっておらず、基礎杭6の最先端部の径寸法は、杭本体部15の径寸法となっている。
【0023】
上部傾斜部19は、大径部17を挟んで下部傾斜部18とは反対側に位置している。本実施の形態において、上部傾斜部19は、基礎杭6の軸方向と直交する方向に対する傾斜角度φが一定または略一定に設定された線形テーパ部である。つまり、上部傾斜部19は、截頭円錐面状に形成されている。上部傾斜部19の傾斜角度φは、任意の鋭角に設定してよいが、好ましくは下部傾斜部18の傾斜角度θ以下に設定される。つまり、上部傾斜部19の傾斜角度φは、
図1(a)ないし
図1(c)に示される例(基礎杭6c)のように下部傾斜部18の傾斜角度θより小さい、または、
図1(d)および
図1(e)に示される例(基礎杭6dおよび基礎杭6e)のように下部傾斜部18の傾斜角度θと等しい。傾斜角度φが大きいほど、例えば地震時などに生じ得る引き抜き力に対する耐荷重を大きくすることが可能になるが、大きすぎると節部16が長くなり、基礎杭6全体として材料となるコンクリートが増えるため、45°~85°の範囲に設定されていることが好ましい。
図1(a)ないし
図1(c)に示される例(基礎杭6aないし基礎杭6e)のように、傾斜角度φは、より好ましくは45°に設定される。さらに、節部16が複数形成されている場合、各節部16の上部傾斜部19の傾斜角度φは、それぞれ同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。さらに、上部傾斜部19は、杭本体部15に向かって縮径されており、基本的に杭本体部15の径寸法を下回って縮径されない形状となっている。つまり、上部傾斜部19の最上部の径寸法は、杭本体部15の径寸法以上となっている。また、例えば3つ以上の節部16が備えられる場合、全ての節部16の上部傾斜部19の傾斜角度φが互いに異なっていてもよいし、複数の節部16の上部傾斜部19の傾斜角度φが同一で、残りの節部16の上部傾斜部19の傾斜角度φがそれらと異なっていてもよい。
【0024】
次に、上記第1の実施の形態の基礎杭構造の構築方法を説明する。
【0025】
基礎杭構造の構築方法は、様々な方法を用いてよいが、本実施の形態においては、例えば掘削工程と、根固め部形成工程と、杭周面部形成工程と、杭建込み工程とを行う。
【0026】
図3(a)ないし
図3(d)には、例えば
図2(b)および
図2(c)に示されるような、掘削部2に拡大部2aを有する杭穴1を備える基礎杭構造の構築方法を図示する。
【0027】
まず、掘削工程において、
図3(a)に示されるように、掘削装置としてオーガ21などを用い、杭穴1の掘削部2を所定の深度まで掘削する。
【0028】
次いで、根固め部形成工程において、
図3(b)に示されるように、掘削部2に根固め液としてセメントミルク22をオーガ21の先端部から吐出しつつ、掘削部2の底部を拡翼したオーガ21によって拡大して拡大部2aを構築しながら、注入されたセメントミルク22を掘削土と置換または混合撹拌することで掘削部2の底部に根固め部4を形成する。セメントミルク22には、根固め部4の周面摩擦力をより増加させるために、補強材や混和材ならびに添加剤が混入されてもよい。
図2(a)に示されるように、掘削部2をストレート形状とする場合には、拡大部2aを形成する必要はない。
【0029】
さらに、杭周面部形成工程において、
図3(c)に示されるように、杭周固定液としてセメントミルク23を注入し、掘削土と置換または混合撹拌することで根固め部4の上方に杭周面部5を形成する。杭周面部5を形成した後、オーガ21を杭穴1から引き上げる。
【0030】
そして、杭建込み工程において、
図3(d)に示されるように、基礎杭6を杭穴1に建込み、先端部にある節部16を根固め部4に埋設して、セメントミルク22を固結させて、基礎杭6を所定位置に定着させることで、基礎杭構造が完成する。このとき、基礎杭6に複数の節部16が形成される場合、
図2(b)に示されるように、先端部側に位置する節部16のみが根固め部4に埋設されて、残りの節部16が杭周面部5に埋設されてもよいし、
図2(c)に示されるように、全ての節部16が根固め部4に埋設されてもよい。また、先端部側に位置する複数の節部16が根固め部4に埋設され、残りの節部16が杭周面部5に埋設されてもよい。好ましくは、基礎杭6の先端部は、杭穴1の底部、つまり根固め部4の底部に対し上方に離れて位置する。
【0031】
このように形成された基礎杭構造は、下部傾斜部18の外面が根固め部4に対して圧着され、強固な接合力が発揮されて、節部16が根固め部4と一体化し、大きな支持力を得ることができる。また、基礎杭6の先端部以深だけでなく根固め部4の周面範囲にも摩擦力が作用し、より多くの支持力を得られる。
【0032】
具体的に、
図4(b)に示されるように節部16aの下部傾斜部18aの傾斜角度θを45°とした一の従来例の基礎杭25aに対応する比較例Aでは、根固め部4に貫入された節部16aの下部傾斜部18aから30°~45°、あるいは勾配1/3の角度で応力が下方に伝わることで(図中の破線に影響線を示す)、根固め部4とその周囲の支持層3と間の摩擦力が作用する範囲Raが比較的狭いのに対し、
図4(a)に示されるように、本実施の形態の
図1(a)に示される例(基礎杭6a)に対応する実施例Aでは、下部傾斜部18の傾斜角度θが50°~85°の範囲にあることで、根固め部4に貫入された節部16の下部傾斜部18から応力が伝わる角度が、下部傾斜部18の形状によって大きくなり(図中の破線に影響線を示す)、根固め部4との周囲の支持層3との間の摩擦力が作用する範囲Rが比較的広くなる。また、根固め部4の底部から基礎杭6の先端部の節部16が離れるほど、範囲Rをより広く設定することが可能になる。
【0033】
すなわち、杭本体部15よりも拡径された節部16の下部に徐々に縮径するように傾斜する下部傾斜部18の傾斜角度θを50°~85°の範囲とすることで、荷重分散角を大きくできるため、根固め部4のより多くの範囲に圧縮応力を作用させることができ、根固め部4において地盤、つまり底部の支持層3からの反力に加えて、より広範囲の支持層3との間の摩擦力を得ることができる。したがって、支持層3からの反力と、根固め部4の周面の支持層3との摩擦力との作用によって、支持力を向上できる。
【0034】
さらに、根固め部4を補強材により補強することで、根固め部4の周面の支持層3との摩擦力をより大きくすることができ、支持力をより向上できる。
【0035】
また、節部16と根固め部4との接合力が主として下部傾斜部18に作用するため、節部16への応力集中やせん断力の作用が低減され、基礎杭6の欠損を防止できる。
【0036】
例えば、本実施の形態の
図1(d)に示される例(基礎杭6d)に対応する一つの節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θを55°とした実施例B1と、
図1(e)に示される例(基礎杭6e)に対応する一つの節部16の下部傾斜部18の傾斜角度θを65°とした実施例C1と、
図5(a)に示される節部16aの下部傾斜部18aの傾斜角度θを45°とした従来例の基礎杭25bに対応する比較例B2、および、
図5(b)に示される節部16を備えないストレート形状の従来例の基礎杭25cに対応する比較例C2との杭頭の軸方向変位に対する杭頭荷重の実測データの一例を
図6に示す。実験は、セメントミルクに対し珪砂を混入した仮想根固め部に対し、実施例B1、実施例C1、比較例B2および比較例C2に対応するモデル杭を貫入して実験した。
図6に示されるように、比較例C2に対して比較例B2の方が、軸方向変位に対する杭頭荷重の最大値、すなわち最大荷重が大きく、比較例B2に対して実施例B1の方が、最大荷重が大きく、かつ、実施例B1に対して実施例C1のほうが、最大荷重が大きい。つまり、下部傾斜部18の傾斜角度θが大きいほど、最大荷重が大きいことが示された。
【0037】
また、本実施の形態の
図1(b)に示される例に対応する複数の節部16のそれぞれの下部傾斜部18の傾斜角度θを82°とした実施例D1と、
図7に示される複数の節部16aのそれぞれの下部傾斜部18aの傾斜角度θを45°とした従来例の基礎杭25dに対応する比較例D2との杭頭の軸方向変位に対する杭頭荷重の実測データの一例を
図8に示す。実験は、セメントミルクに対し珪砂を混入した仮想根固め部に対し、実施例D1および比較例D2に対応するモデル杭を貫入して実験した。
図8に示されるように、比較例D2に対して実施例D1の方が、軸方向変位に対する杭頭荷重が大きい。すなわち、節部16が複数の場合でも、傾斜角度θが大きいほど最大荷重が大きいことが示された。
【0038】
このように、節部16の数が多いほど、下部傾斜部18の傾斜角度θが大きいほど、最大荷重が大きくなる傾向にあることが確かめられた。
【0039】
なお、上記一実施の形態において、下部傾斜部18や上部傾斜部19は、線形テーパ部でなくてもよく、例えば傾斜角度θや傾斜角度φが徐々に変化する形状でもよい。その場合、傾斜角度θや傾斜角度φは、例えば大径部17と下部傾斜部18および上部傾斜部19とが連なる位置での接線の角度、傾斜角度θや傾斜角度φの最大値あるいは平均値などにより定義されるものとする。
【符号の説明】
【0040】
1 杭穴
4 根固め部
6 基礎杭
15 杭本体部
16 節部
18 傾斜部である下部傾斜部
θ,φ 傾斜角度