(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】電波吸収体の取付け構造
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220616BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20220616BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20220616BHJP
F16B 5/10 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H05K9/00 N
E04B1/98 Z
E04H9/14 Z
F16B5/10 C
(21)【出願番号】P 2019229859
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 卓秀
(72)【発明者】
【氏名】荒井 淳
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-042198(JP,U)
【文献】特開平07-249889(JP,A)
【文献】中国実用新案第206322854(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0096469(US,A1)
【文献】実開平02-000798(JP,U)
【文献】特開2009-231534(JP,A)
【文献】特開平09-199885(JP,A)
【文献】国際公開第99/041962(WO,A1)
【文献】特開2001-203492(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105386630(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
E04B 1/98
E04H 9/14
F16B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波暗室の電磁シールド面を構成する2以上の電磁シールド部材
は、前記電波暗室の層間変形に追従して個別に滑り移動および/または回転可能に取付けられており、前記2以上の電磁シールド部材に跨る1つの電波吸収体が遊嵌接合部によって取付けられる電波吸収体の取付け構造であって、前記電磁シールド部材に設けられた第一遊嵌接合部と、前記第一遊嵌接合部に相対して前記電波吸収体に設けられた第二遊嵌接合部と
は、前記2以上の電磁シールド部材の滑り移動および/または回転による想定変位に対して、それらの動きを許容できる遊び寸法が確保された状態で嵌合され、かつ前記第一遊嵌接合部は、相隣接するシールド部材間の隙間を跨ぐ部分では不連続であることを特徴とする、電波吸収体の取付け構造。
【請求項2】
前記第一遊嵌接合部
はT形断面部材であり、前記第二遊嵌接合部は前記電波吸収体の台座部に形成されたスリット部であり、前記T形断面部材は、相隣接するシールド部材間を跨ぐ部分では不連続に設けられ、かつ隙間が設けられていることを特徴とする、請求項
1記載の電波吸収体の取付け構造。
【請求項3】
前記第一遊嵌接合部と前記第二遊嵌接合部のうち、一方は軸部と軸部よりも大きな直径の頭部とを有するボルト状部材であり、他方は前記ボルト状部材の頭部が挿通可能な寸法の孔と、その孔に連続し、前記ボルト状部材の軸部直径よりも広く、かつ前記頭部直径よりも狭い幅を有する細長孔と、からなる嵌合孔であり、かつ少なくとも一つの前記電波吸収体に対して設けられた2以上の遊嵌接合部が、相隣接する前記シールド部材間の隙間を跨ぐ位置にそれぞれ設置されていることを特徴とする、請求項
1記載の電波吸収体の取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗室の室内面を覆う電波吸収体と、その電波吸収体が取付く電磁シールド部材(以下、シールド部材)とを接合する取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄板等の導電体から成るシールド部材で室内外を電磁的に区画される電波暗室において、その室内面に設置される電波吸収体は、前記シールド部材の表面に取付けられるが、その接合には、従来、接着剤を用いることが一般的であった。
【0003】
一方、近年の電波暗室の大型化に伴い、電波暗室としてのシールド区画壁を構成するシールド部材が、頻発する地震により繰り返し発生する大きな層間変形により損傷して電磁波が漏洩することを防止するために、シールド区画壁の部分断面を示す
図1および
図2(b)を参照して、相隣接するシールド部材2、2の縁端部相互間に隙間を確保し、その隙間をシールドガスケット3、3を介して縦および横胴縁4a、4bと押え縁5、5とで挟み込んで覆う接合部構造が採用されることがあった(以下、この接合部構造を用いたシールド区画壁の構築方法をスライド工法と称す)。
【0004】
例えば、特許文献1で開示しているスライド工法では、胴縁と押え縁とで挟まれた前記シールド部材は、設定された前記縁端部相互間の隙間の範囲でシールド部材面内での滑り移動や回転が可能なので、地震時に電波暗室に層間変形が生じても、シールド部材に力が作用し難く損傷を免れることができ、かつ、地震後でもシールド区画壁としての機能を保持できる。
【0005】
即ち、地震時に、相隣接するシールド部材同士は一体的に挙動せず、それぞれのシールド部材面内で別個に滑り移動や回転を生じることになる。
【0006】
つまり、スライド工法において、これらのシールド部材表面に接着剤で取付けられた電波吸収体は、特に、複数のシールド部材に跨っている場合、前記のようなシールド部材面内の滑り移動や回転によって強制的に変形されようとするので、これら電波吸収体とシールド部材との接着面で剥がれる可能性が高まる。
【0007】
この問題に対して、従来は、接着剤の弾性に期待して、前記強制変形に追従させることにより、電波吸収体の剥離を回避するとしていた。
【0008】
しかし、電波暗室の大型化に伴い、地震時の層間変形が大きくなれば、前記接着剤の弾性許容範囲を超えた強制変形を余技なくされる可能性が高まっており、また、接着剤の場合は、その経年劣化や施工上の不具合に起因する電波吸収体の剥離、脱落の可能性もあった。
【0009】
更には、鋼板等のシールド部材と接着剤との接着面において、温度変化による両者の伸縮率の違いにより発生するせん断応力によって、前記接着面近傍に亀裂が発生することがあり、実際、スライド工法ではなかったが、地震とは無関係に電波吸収体が脱落したことがあった。
【0010】
これらのことから、特に、スライド工法における電波吸収体の脱落を確実に防止し、地震後でもその機能を保持できる電波吸収体の取付け構造の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記のように、電波暗室において、地震によって生じるシールド部材と電波吸収体との接合部に作用する過度な力を避け、電波吸収体の脱落を確実に防止する取付け構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の手段は、電波暗室の電磁シールド面を構成する2以上の電磁シールド部材に、前記2以上の電磁シールド部材に跨る1つの電波吸収体が遊嵌接合部によって取付けられる電波吸収体の取付け構造であって、前記電磁シールド部材に設けられた第一遊嵌接合部と、前記第一遊嵌接合部に相対して前記電波吸収体に設けられた第二遊嵌接合部とが遊びをもった状態で嵌合され、かつ前記第一遊嵌接合部は、相隣接するシールド部材間の隙間を跨ぐ部分では不連続であることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記相隣接する2以上のシールド部材は、前記電波暗室の地震による層間変形に追従して個別に滑り移動および/または回転可能に取付け、かつ前記第一遊嵌接合部と前記第二遊嵌接合部との間に、地震による前記電波暗室の層間変形に追従して生じる前記2以上の電磁シールド部材の滑り移動と回転による想定変位に対して、それらの動きを許容できる遊び寸法を確保するのがよい。
【0015】
また、前記第一遊嵌接合部と前記第二遊嵌接合部のうち、一方はT形断面部材、他方は前記電波吸収体の台座部に形成されたスリット部とし、かつ前記T形断面部材は、相隣接する前記シールド部材間を跨ぐ部分では不連続に設け、かつ隙間を設けるのがよい。
【0016】
また、前記第一遊嵌接合部と前記第二遊嵌接合部のうち、一方は軸部と軸部よりも大きな直径の頭部とを有するボルト状部材、他方は前記ボルト状部材の頭部が挿通可能な寸法の孔と、その孔に連続して形成され前記ボルト状部材の軸部直径よりも広くかつ前記頭部直径よりも狭い幅を有する細長孔と、からなる嵌合孔とし、かつ少なくとも一つの前記電波吸収体に対して設けられた2以上の遊嵌接合部が、相隣接するシールド部材間の隙間を跨ぐ位置にそれぞれ設置されるようにしてもよい。
【0017】
以上のような手段によるので、前記シールド部材に取付けられた電波吸収体は、複数のシールド部材に跨っている場合であっても、地震時にシールド部材にその面内の滑り移動や回転が生じても、前記シールド部材側の第一遊嵌接合部と、その第一遊嵌接合部に嵌合された電波吸収体側の第二遊嵌接合部との間に遊びがあり、かつ前記電磁シールド部材側の第一遊嵌接合部は、相隣接するシールド部材間の隙間を跨ぐ部分では不連続であるので、水平もしくは上下に変位することがある程度可能となるため、その変位許容範囲において前記シールド部材と前記電波吸収体との接合部に力が作用することが無くなるもしくは大幅に緩和される。よって、前記電波吸収体の脱落が確実に防止される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のような手段によるので、次のような効果が得られる。
(1)電波吸収体をシールド部材に接着剤で取付ける従来の方法に比べて、地震時における電波吸収体の接合部に作用する力が極めて少なく、電波暗室の地震時層間変形への追従性が高いので、特に、スライド工法で構築された電波暗室における電波吸収体脱落を防止できる。
【0019】
(2)従来の接着剤を使う湿式工法に特有の経年劣化や施工不良、あるいは温度変化による接着面剥離などのような懸念がない。
(3)特に、地震による層間変形に対して高い電磁シールド効果を発揮するスライド工法により構築された電波暗室において、電波吸収体脱落を確実に防止しうることは、電波暗室の大型化ニーズと相まって、地震後の電波暗室機能維持に大いに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施例を適用する、スライド工法で構築された電波暗室シールド壁面1の部分を示した図である。
【
図2】電波暗室のシールド壁面1の断面構成について、従来工法と本発明とを対比した説明図である。(a)が従来工法における電波吸収体6の接合状態であり、(b)がスライド工法における、本発明の第1もしくは第2実施例の電波吸収体6の接合状態を示し、
図1のA部のイ断面視に対応する。
【
図3】
図1のロ-ロ断面視であり、本発明の第1実施例におけるシールド部材2と電波吸収体6との接合状態を示す説明図である。
【
図4】本発明の第1実施例における電波吸収体6側の遊嵌接合部8であって、(a)は台座部6aの上下面にスリット部8bとして形成した電波吸収体6の側面図を示し、(b)は(a)のハーハ断面視である。
【
図5】本発明第1実施例における電波吸収体6の一般部における取付け要領の説明図を示す。
【
図6】本発明の第2実施例であり、(a)は壁付近の電波吸収体6、6、・・・の設置途中の状況説明図であり、(b)は(a)のニーニ断面視であり、シールド部材2に直交するシールド壁面1際に設置される電波吸収体6´の取付け要領を示す。
【
図7】
図1のB部拡大図であり、電波暗室のシールド壁面1に層間変形が生じた状態を示す説明図であり、(a)はシールド部材2、2、・・・の変形状態を示し、(b)は、(a)の状態におけるT形断面部材8aと台座部6aのスリット部8bの状態を示す模式図である。
【
図8】本発明の第3実施例における遊嵌接合部10を示す図であり、シールド部材2側の遊嵌接合部10(嵌合ボルト10a)に、台座部6aの底面を覆うベースプレート9の四隅部に設けた電波吸収体6側の遊嵌接合部10(嵌合孔10b)を嵌合する要領を説明する図である。
【
図10】本発明の第3実施例において、左右に相隣接する2つのシールド部材2、2に電波吸収体6が跨って取付けられている場合の説明図であり、(a)が初期状態、(b)が前記2つのシールド部材2、2の回転と共にそれら側縁が上下にずれた状態を示す模式図である。
【
図11】本発明の第3実施例において、上下に相隣接する2つのシールド部材2、2に電波吸収体6が跨って取付けられている場合の説明図であり、(a)が初期状態、(b)が前記2つのシールド部材2、2の回転と共にそれら側縁が左右にずれた状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1実施例を
図1~
図5にて説明する。
図1はスライド工法により構築された電波暗室のシールド壁面1の一部であり、図中の一点鎖線は電波吸収体6を示している。電波吸収体6は、
図4に図示のように、台座部6aと角錐体部6b、6b、・・・とで構成されている。
【0022】
図2(a)は従来のシールド壁面1への電波吸収体6の取付け方法であって、室外側に添えられた補強パネル2aで補強されたシールド部材2の室内側表面に、電波吸収体6が接着剤2bにて直接接着されている。
【0023】
図2(b)に本発明の第1実施例を示す。スライド工法により構築された電波暗室のシールド壁面1において、シールド部材2の縦および横補強材7a、7bが縦および横胴縁4a、4bとは反対側(室内側)に設置されており、電波吸収体6はシールド部材2にシールド部材2の横補強材7bを介して、遊嵌接合部8によって取付けられている。
【0024】
遊嵌接合部8は、第一遊嵌接合部8aと第二遊嵌接合部8bとを備え、第一遊嵌接合部8aは、
図3に図示のように横補強材7bに取付けられたT形断面部材(以下、第一遊嵌接合部をT形断面部材と称する)であり、第二遊嵌接合部8bは相対する電波吸収体6の台座部6aの上下面に形成されたスリット部(以下、第二遊嵌接合部をスリット部と称する)である(
図4参照)。
【0025】
即ち、本実施例は、横補強材7b側のT形断面部材8aの片端部(小口)に、電波吸収体6の台座部6aの上下面に形成されたスリット部8b、8bの片端部を合わせて、水平方向に電波吸収体6を挿入するものである。
【0026】
よって、
図5に図示のように、1つの電波吸収体6の取付け後、横隣りに延長設置されているT形断面部材8aの片端部に、次の電波吸収体6のスリット部8bの片端部を合わせ、
図5の矢印方向へ水平に移動させて篏合を完了する、という手順を繰り返すことになる。
【0027】
但し、第1実施例の場合、
図5に図示のように、設置済みの電波吸収体6の横隣りにT形断面部材8a、8aが先行して取付けられているため、次の電波吸収体6を取付けるためには、少なくとも電波吸収体6の幅相当分の空間が、壁(シールド壁面1)との間に余分に必要である。従って、
図6(a)に図示のように、壁際の電波吸収体6´は第1実施例の方法では取付けができない。
【0028】
第2実施例はこの問題を解決するものである。
図6(a)に図示のように、電波吸収体6´を壁(シールド壁面1)の間際に取付ける時は、
図6(b)のように、先ず、電波吸収体6´の下側のスリット部8bを横補強材7bに固定済みのT形断面部材8aに篏合しておき、電波吸収体6´の上側のスリット部8bにはもう一つのT形断面部材8aを嵌めた状態で、同図の湾曲矢印方向に立起こし、次に、上段のT形断面部材8aを横補強材7bに、上からビス3a止めするものである。
【0029】
以上のような方法であるので、壁際の電波吸収体6´であっても容易に所定位置に設置できる。この方法は、壁際以外でも使用可能であることは言うまでもない。
【0030】
なお、実施例1および2において、全ての電波吸収体6、6、・・が設置完了すれば、各電波吸収体6の左右には僅かな隙間しかないので、各電波吸収体6がT形断面部材8aから外れることはない。
【0031】
以上のような構造の遊嵌接合部8を有する電波吸収体6であるので、
図7に図示のように、地震により生じた電波暗室の層間変形のために、シールド壁面1の縦胴縁4aが傾斜し(傾斜角θ)、隣接する2以上のシールド部材2、2、・・・がシールド壁面1内で、それぞれ(必ずしも同じではない)滑り移動や回転(回転角φ1≠φ2≠θ)を起こした場合、シールド部材2の滑り移動に対しては、電波吸収体6は台座部6aのスリット部8bの長手方向に、僅かながらも滑り移動可能である。
【0032】
また、シールド部材2の回転に対しては、
図7(b)に図示のように、台座部6aのスリット部8bの長手直行(上下)方向にはT形断面部材8a縁端との間に少し隙間があり、かつ遊嵌接合部8の一方であるT形断面部材8aは、相隣接するシールド部材2、2間の隙間を跨ぐ部分では不連続で隙間があり、スリット部8bと重なる長さが短いので、電波吸収体6の回転はより許容される。
【0033】
電波吸収体6のこれら滑り移動や回転に対する許容寸法は、シールド壁面1の許容最大層間変形に追従して生じる前記2以上の電磁シールド部材の滑り移動と回転による想定変位に対して、それらの動きを許容できる遊び寸法として設計すればよい。
【0034】
因みに、本発明の第1実施例の方法を用いて、隣接した2枚のシールド部材2を跨いで電波吸収体6を取付けたモデルを作成し、2枚のシールド部材2相互が上下にずれる状況を模擬した実験(図示せず)を実施したが、層間変形1/100超相当の変形が生じても、電波吸収体6の接合部分の異状は確認されなかった。
【0035】
図8と
図9は、本発明の第3実施例の説明図である。電波吸収体6の台座部6aの底面を覆うベースプレート9の四隅部にひょうたん型の嵌合孔10bを設け、そのひょうたん型の嵌合孔10bに相対する位置の台座部6aの一部を切り欠いて空隙を形成することにより電波吸収体6側の第二遊嵌接合部(以下、第二遊嵌接合部を嵌合孔と称する)10bとし、シールド部材2の横補強材7bに取付けられた固定プレート11に固定された嵌合ボルト10aを第一遊嵌接合部(以下、第一遊嵌接合部を嵌合ボルトと称する)10aとしたものである。
【0036】
嵌合孔10b、10bは、丸孔部と丸孔部の上側に位置する長孔部とからひょうたん型に形成され、かつ電波吸収体6、6の、相隣接するシールド部材2、2間の隙間を跨ぐ位置にそれぞれ設置されている(
図10、
図11参照)。
【0037】
本実施例において電波吸収体6をシールド部材2に取付けるには、先ず、台座部6aのベースプレート9の四隅にあるひょうたん型の嵌合孔10bの丸孔部に、相対する嵌合ボルト10aの頭部を挿入し、次に、嵌合ボルト10aの軸部に接触するまで電波吸収体6を下げれば(
図8の矢印方向)、電波吸収体6はシールド部材2の横補強材7bに設置が完了する。
【0038】
特に、嵌合孔10bは、丸孔部と丸孔部の上側に位置する長孔部とからひょうたん型に形成され、かつ長孔部の幅は嵌合ボルト10aの頭部直径よりも狭いので、電波吸収体6がある程度上に移動しても、シールド部材2の面外方向に外れることはない。また、この長孔部の幅は嵌合ボルト10aの軸部直径よりも若干幅広に設定されていて隙間があるので、電波吸収体6は、その隙間分だけ左右にも動くことができる。
【0039】
第3実施例は以上のような構成なので、地震により生じた電波暗室の層間変形のため、シールド壁面1の縦胴縁4aが傾斜し、隣接する2以上のシールド部材2がシールド部材1面内で、それぞれ(必ずしも同じではない)滑り移動や回転を起こした場合、電波吸収体6はひょうたん型の嵌合孔10bの長孔部の幅方向に滑り移動可能であり、かつ長孔部の長手(上下)方向にもある程度移動可能であるので、電波吸収体6の接合部は力を受けることなく、ある程度の回転が許容される。なお、電波吸収体6のこれら滑り移動や回転に対する許容寸法は、シールド壁面1の許容最大層間変形角に応じて設計すればよい。
【0040】
図10と
図11に、第3実施例において、シールド壁面1の縦胴縁4aが傾斜して相隣接する2つのシールド部材2、2が上下また左右にずれた場合に、シールド部材2側と電波吸収体6側の遊嵌接合部10(10a、10b)がどのような状態になるかを説明した模式図を示す。但し、嵌合孔10bの形状は単純化のため、ひょうたん型ではなく角丸の長方形で表現している。
【0041】
図10は、左右に相隣接する2つのシールド部材2、2に電波吸収体6が跨って取付けられている場合で、(a)が初期状態、(b)が左右に相隣接するシールド部材2、2の回転と共にそれら側縁が上下にずれた状態を示す。
図10(b)に図示のように、紙面左側のシールド部材2の方が大きく傾斜しているので、電波吸収体6は初期状態(点線表示)に対し右回転し、かつ紙面左側のシールド部材2側の嵌合ボルト10aと嵌合孔10bの位置関係(寸法d
1、d
2)は、各遊嵌接合部それぞれで異なる。
【0042】
図11は、上下に相隣接する2つのシールド部材2、2に電波吸収体6が跨って取付けられている場合で、(a)が初期状態、(b)が上下に相隣接するシールド部材2、2の回転と共にそれら側縁が左右にずれた状態を示す。
図11(b)に図示のように、紙面上側のシールド部材2の方が大きく傾斜しているので、電波吸収体6は初期状態(点線表示)に対し右回転し、かつ紙面上側のシールド部材2側の嵌合ボルト10aと嵌合孔10bの位置関係(寸法d
1、d
2)は、各遊嵌接合部それぞれで異なる。
【0043】
即ち、
図10と
図11から分かるように、遊嵌接合部10に上下左右方向にある程度の隙間が確保されていれば、相隣接する2つのシールド部材2、2に電波吸収体6が跨って取付けられている場合であっても、ある程度の移動や回転が許容され電波吸収体6の接合部には力が作用しないので、地震により生じた電波暗室の層間変形に追従可能となり、電波吸収体6の脱落が回避される。
【0044】
このことは、第3実施例だけでなく、第1および第2実施例でも同様であって、本発明によれば、スライド工法により構築された電波暗室において、地震時においても電波吸収体6の脱落が防止される。勿論、本発明は、従来工法による電波暗室のシールド壁に適用してもよく、接着工法では懸念される接着剤の劣化や施工不良が原因での脱落が回避される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
近年、電波暗室の大型化ニーズが高まっており、本発明は、特に、頻発する地震により繰り返し発生する大きな層間変形に対しても、高いシールド効果を発揮するスライド工法により構築された電波暗室において、地震後の電波暗室機能維持に大いに貢献する。
【符号の説明】
【0046】
1:シールド壁面
2:シールド部材
2a:補強パネル
2b:接着剤
3:シールドガスケット
3a:ビス
4a:縦胴縁
4b:横胴縁
5:押え縁
6、6´:電波吸収体
6a:台座部
6b:角錐体部
7a:縦補強材
7b:横補強材
8、10:遊嵌接合部
8a:T形断面部材(第一遊嵌接合部)
8b:スリット部(第二遊嵌接合部)
9:ベースプレート
10a:嵌合ボルト(第一遊嵌接合部)
10b:嵌合孔(第二遊嵌接合部)
11:固定プレート
d1、d2:寸法
θ:縦胴縁の傾斜角
φ1、φ2:シールド部材の回転角