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特許7090065ダイヤモンド材料から作製された減衰全反射結晶
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ダイヤモンド材料から作製された減衰全反射結晶
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20220616BHJP
【FI】
G01N21/552
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019500297
(86)(22)【出願日】2017-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2017066517
(87)【国際公開番号】W WO2018007329
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2019-01-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】1611651.9
(32)【優先日】2016-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ドッドソン ジョセフ
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】渡戸 正義
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-322745(JP,A)
【文献】特開2003-42952(JP,A)
【文献】特開2012-52957(JP,A)
【文献】特開2008-298460(JP,A)
【文献】特開2004-85433(JP,A)
【文献】特開平6-129979(JP,A)
【文献】特開2003-42952(JP,A)
【文献】米国特許第4829186(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/01
G01N21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
ATR結晶がダイヤモンド材料から形成され、かつ
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成されており、ここでATR結晶が、入射面および出射面を形成する2つだけの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をしており;
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、
前記作用面が凸曲面であり、2から100μmの範囲の深さを有するセグメントを画定することを特徴とする、ATR結晶。
【請求項2】
前記作用面が球対称である、請求項1に記載のATR結晶。
【請求項3】
前記作用面を囲う二次的面取り面をさらに含む、請求項1または2に記載のATR結晶。
【請求項4】
前記入射面、前記出射面、および/または前記作用面が30nm未満の表面粗さRaを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のATR結晶。
【請求項5】
赤外線ビーム源、請求項1からのいずれか1項に記載のATR結晶、および検出器を含むATR分光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰全反射(ATR)赤外線分光用のダイヤモンド材料から作製されたATR結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
減衰全反射(ATR)分光は、試料を、固体または液体状態で直接的に調べることを可能とする分析技術である。赤外光のビームは、それが、分析される試料と接触したATR結晶の内表面から反射するように、ATR結晶の中を通過する。この反射は、試料中に延びるエバネッセント波を形成する。試料中への侵入深さは、典型的には、0.5から2μmの間であり、その正確な値は光の波長、入射角、ならびにATR結晶および調べている媒質の屈折率によって決定される。反射の数は、入射角およびATR結晶の形状を変化させることによって変更され得る。次いで、赤外線ビームは、それがATR結晶を出た後に、検出器によって集光される。
エバネッセント効果は、ATR結晶が、調べている試料よりも高い屈折率を持つ光学材料から作製されていることを必要とする。固体試料の場合には、ATR結晶および試料は押し付け合わされる。ATR角柱および試料の間の密着が、最良の結果のために望まれる。ダイヤモンド材料の優れた光学的および機械的特性は、それを、特に、非常に硬い固体を調べる場合に、ATR分光のための理想的な材料とする。
ATR結晶の種々の形状が利用できる。ATR結晶の形状は、分光計のタイプおよび分析される試料の性状に依存するであろう。典型的なATR結晶の形状は、角柱、切頭角柱、面取り矩形ブロック、面取り円柱およびそれらの変形を含む。これらの形状の共通した特徴は、分析される試料に押し付けられた「平坦な作用面、および赤外線分析ビームを試料と接触した作用面に向けることができ、次いで、検出器に向けてATR結晶に内面反射できるように、該ビーム用に入射面および出光面を供する角度付きまたは面取り側面を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ダイヤモンドATR結晶のための改良された形状を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によると、分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
ATR結晶はダイヤモンド材料から形成され、かつ
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成され、ここで、ATR結晶が、入射面および出射面を形成する2つの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をしており、
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向い、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、および
作用面は凸曲面である、ATR結晶が提供される。
本発明の第2の態様によると、赤外線ビーム源、本発明の第1の態様によるATR結晶、および検出器を含むATR分光計が提供される。
本発明の良好な理解のため、およびどのようにしてそれを実施することができるかを示すために、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して例としてのみ記載する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本発明の実施形態によるATR結晶の側面図を例示する。
図2図2は、図1のATR結晶の斜視図を例示する。
図3図3は、図1および2に例示されたATR結晶の製造に関する工程を例示する。
図4図4は、本発明の実施形態によるATR結晶を含むATR分光計の基本的な構成部品および構成を例示する。
図5図5(a)から5(d)は、本発明の実施形態によるいくつかの代替ATR結晶の形状を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1および2は、本発明の実施形態によるダイヤモンドATR結晶10の側面図および斜視図を例示する。ATR結晶10は、赤外線分析ビーム用の入射面12、赤外線分析ビーム用の出射面14、および分析される試料と接触するための作用面16を有するように構成される。入射面12、出射面14および作用面16は、使用に際して、分析ビームが、入射面12を通って、分析される試料と接触する作用面16の内側に向かうことができ、かつ分析ビームが出射面14を通ってATR結晶10の外へ出るように分析される試料と接触する作用面16の内側で内面反射できるように構成されている。
【0007】
ダイヤモンドATR結晶に対する鍵となる改変は、作用面が、従来の平坦な構成を有するのではなく、湾曲するように加工されたことである。ATR結晶にダイヤモンドを用いる利点の1つは、ダイヤモンドが非常に硬く、したがって、損傷することなく分析される試料に押し付けることができることである。しかしながら、ダイヤモンドは非常に剛直であり、ダイヤモンドATR結晶の平坦な作用面を分析される試料に押し付ける場合に、ダイヤモンド材料の平坦な作用面の中央領域が試料と密着しない恐れがあることが分かった。例えば、これは、試料表面が正確には平坦でなく、凹状形状を有し、またはそうでなければ、ダイヤモンド作用面の中央領域が試料と密着するのを妨げるように、試料と接触するダイヤモンド作用面の周辺部分を結果として生じかねない、より複雑な形状を有する場合であろう。もし分析ビームが向けられたダイヤモンド作用面の領域が試料と密着していなければ、分析は最適とはならないであろう。
上記に照らして、本発明は、湾曲作用面を有するダイヤモンドATR結晶を提供する。湾曲作用面は、分析ビームが向けられる作用面の領域が試料とより信頼性良く密着できるように、平坦な作用面と比較して外向きに突出している(すなわち、凸)。さらに、ダイヤモンドは極度に硬いので、ATR結晶を有意に変形または損傷させることなく、この湾曲構成で試料材料中に効果的に押し込むことができる。
【0008】
多くの用途では、ダイヤモンドATR結晶の作用面と分析される試料との間の良好な接触を達成する信頼性を有意に改善するのに必要とされるのは、作用面のわずかに凸状の湾曲のみである。それ自体、作用面は、例えば、5mm、10mm、13mm、または15mmよりも大きく、および/または200mm、150mm、100mm、50mm、30mm、または20mm未満、および/またはこれらの値の任意の組合せによって形成される範囲内の、ATR結晶のサイズに対して比較的大きな曲率半径を有してよい。この構成は、より高度に湾曲した面と比較したときに、より容易にダイヤモンド構成部品に加工することができ、また、ATR角柱を試料に押し付けられたときに、分析中の試料を過度に変形させない利点も有することができる。上記範囲内の最適な曲率半径は、ATR結晶のサイズに依存するであろう。実施に際して、ATR結晶は、通常、1から5mm、より通常には2から4mmの範囲の直径を有することとなろう。
ATR結晶の凸曲面作用面を規定する別の方法は、凸曲面作用面の深さ、すなわち、凸曲面作用面によって規定される球状セグメントの深さによる。有利には、凸曲面作用面によって規定される該セグメントの深さは、少なくとも2μm、5μm、または10μm、および/または100μm、80μm、または70μm未満、および/またはこれらの値の任意の組合せによって形成される範囲内である。
【0009】
作用面は、球対称な曲面でもよい。図1および2に例示された配置において、ATR結晶は、入射面および出射面を形成する2つの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態である。この構成において、面取り円柱の端面を加工して、ATR結晶の湾曲作用面を形成する。
図1および2に例示されたATR結晶のさらなる特徴は、作用面を囲う二次的面取り面である。この二次的面取り面は、湾曲作用面の表面積を低下させ、したがって、ATR結晶の曲面と分析される試料との接触を改良することができる所与の力のための圧力を増大させるように働く。
【0010】
入射面、出射面および/または作用面は、30nm、20nm、15nm、10nm、5nm、2nmまたは1nm未満の表面粗さRaを有するように作製することができる。さらに、入射面、出射面、および/または作用面は、高い忠実度で、例えば、高度に平坦に、または正確に湾曲させて作製することができる(作用面は湾曲している)。それ自体、入射面、出射面、および/または作用面は、正確に平坦なまたは正確に湾曲した対象面プロファイルに対して測定して、632.8nmにおいて≦1の縞の表面不規則性を有してもよい。そのような特徴は、変形または分析ビームの散乱がない良好な光学性能をもたらす。好ましくは、表面粗さおよび表面不規則性のこれらの特徴は、各表面の表面積の大部分にわたって、例えば、各表面の表面積の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%にわたって提供される。
図3は、図1および2に例示されたATR結晶の製造に関する基本的な工程を例示する。
【0011】
工程1において、ダイヤモンド材料30の筒状片を加工して、2つの平坦な面取り面32、34を形成する。これは、レーザー切削、ラッピングおよび研磨などの機械的技術、化学機械研磨、または任意の他の適切な技術を介して達成され得る。有利には、表面32、34は高度に研磨されている。
工程2において、円柱の末端を加工して、湾曲作用面36を形成する。ダイヤモンド材料において曲面を形成するための適切な方法は、レーザー旋削および研磨カップを用いる研磨を含む。
工程3において、二次的面取り面38が、湾曲作用面36の周りに形成される。これは、レーザー切削、旋削、または研磨を用いて行ってよい。
原理的には、工程1から3は任意の順序で行うこともできよう。
ATR結晶を作製するのに用いるダイヤモンド材料は、好ましくは、単結晶ダイヤモンド材料、より好ましくは、IIa型ダイヤモンド材料、より好ましくは、IIa型合成ダイヤモンド材料、最も好ましくは、単結晶化学蒸着(CVD)ダイヤモンド材料である。
【0012】
図4は、本発明の実施形態によるATR結晶を含むATR分光計40の基本的な構成部品および構成を例示する。ATR分光計は、赤外線ビーム源42、ATR結晶44、および検出器46を含む。構成部品は、使用に際して、分析ビームが、ATR結晶の入射面を通って分析される試料48と接触する作用面の内側に向けられるように、相互に対して構成される。分析ビームは、分析ビームが出射面を通って検出器までATR結晶の外へ出るように、分析される試料と接触する作用面の内側で内面反射する。
ATR結晶の形状に関する多様性を想定することができる。図5(a)から5(d)は、本発明の実施形態によるATR結晶のいくつかの代替形状を例示し:図5(a)は、異なる面取り形状を有する変形を例示し;図5(b)は、二次的面取り面が設けられていない変形を例示し;図5(c)は、平坦なベースでなく尖ったベースを有する結晶の構成を例示し;および図5(d)は、球状曲面ではなく矩形曲面を有する変形を例示す。これらは非包括的な1組の代替例を表し、本発明を、実施形態を参照して特に示し、記載してきたが、添付の請求の範囲によって規定される本発明の範囲を逸脱することなく形態および詳細の種々の変形をなすことができるのは、当業者に理解されるであろう。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕分析される試料の減衰全反射(ATR)分光用のATR結晶であって、
ATR結晶がダイヤモンド材料から形成され、かつ
赤外線分析ビーム用の入射面、赤外線分析ビーム用の出射面、および分析される試料と接触するための作用面を有するように構成されており、ここでATR結晶が、入射面および出射面を形成する2つの平坦な面取り側壁、および作用面を形成する面取り円柱の端面を含む面取り円柱の形態をしており;
入射面、出射面および作用面が、使用に際して、分析ビームが、入射面を通って、分析される試料と接触している作用面の内側に向かい、次いで分析される試料と接触している作用面の内側で内面反射することにより、分析ビームが出射面を通ってATR結晶の外へ出ることができるように構成されており、
前記作用面が凸曲面であることを特徴とする、ATR結晶。
〔2〕前記凸曲面作用面が、2から100μmの範囲の深さを有するセグメントを画定する、前記〔1〕に記載のATR結晶。
〔3〕前記作用面が球対称である、前記〔1〕または〔2〕に記載のATR結晶。
〔4〕前記作用面を囲う二次的面取り面をさらに含む、前記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載のATR結晶。
〔5〕前記入射面、前記出射面、および/または前記作用面が30nm未満の表面粗さR a を有する、前記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載のATR結晶。
〔6〕前記入射面、前記出射面、および/または前記作用面が、632.8nmにおいて≦1の縞の表面不規則性を有する、前記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載のATR結晶。
〔7〕赤外線ビーム源、前記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載のATR結晶、および検出器を含むATR分光計。
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】