IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミクリマ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図1
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図2
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図3
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図4
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図5
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図6
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図7
  • 特許-医用画像処理システムおよび方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】医用画像処理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0507 20210101AFI20220616BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61B5/0507 ZDM
A61B10/00 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019533013
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 GB2017053825
(87)【国際公開番号】W WO2018115858
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】1621659.0
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518040530
【氏名又は名称】ミクリマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ボア クリス フランク
(72)【発明者】
【氏名】バニスター ピーター ロミリー
(72)【発明者】
【氏名】イリアルテ アナ
(72)【発明者】
【氏名】ギビンズ デイヴィッド リーズ
(72)【発明者】
【氏名】ツイ チュン シン ルイス
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/143691(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0106334(US,A1)
【文献】特開2013-113603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/0507
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの送信アンテナおよび複数の受信アンテナを含んでいるマイクロ波アンテナ・アレイであって、前記送信アンテナが、患者の体の一部に当てるために、周波数の範囲にわたるマイクロ波信号を送信するように構成されており、前記受信アンテナが、前記体の一部の内部で散乱した後の前記マイクロ波信号を受信し、前記体の一部の内部の物体から生じる散乱による影響を受けた前記受信されたマイクロ波信号を表すデータを収集するように構成されている、マイクロ波アンテナ・アレイと、
前記収集されたデータを処理して、前記体の一部の内部の複数の位置に関して散乱パラメータの複数のセットを決定することであって、散乱パラメータの各セットが、前記体の一部の内部の対応する位置から、前記周波数の範囲にわたる各周波数で、散乱場を表す、処理して決定することと、
前記散乱パラメータの複数のセットを使用して、前記体の一部の内部構造を示す出力を生成し、前記体の一部の内部の対象領域を識別することと、
前記周波数の範囲にわたって、前記対象領域に対応する散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの変化を分析することによって、内部の組織の種類に基づいて前記対象領域を分類することとを実行するように構成されているプロセッサとを備えている、マイクロ波撮像システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、第1の周波数範囲にわたる前記対象領域に対応する前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの大きさの平均値、および前記第1の周波数範囲とは異なる第2の周波数範囲にわたる前記対象領域に対応する前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの大きさの平均値に基づいて、前記対象領域を分類する、請求項1に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記第1の周波数範囲および前記第2の周波数範囲の値を少なくとも2つのクラスに分割する決定境界に基づいて、前記対象領域を分類する、請求項2に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項4】
前記第1の周波数範囲および前記第2の周波数範囲が隣接していない、請求項2または3に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項5】
前記周波数の範囲にわたって、前記対象領域に対応する前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの前記変化を分析することが、前記周波数の範囲にわたる前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの前記変化に基づいて、周波数による誘電率における変化を決定することを含んでおり、
前記プロセッサが、周波数による誘電率における前記決定された変化に基づいて前記対象領域を分類するように構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項6】
前記周波数の範囲にわたって、前記対象領域に対応する前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの前記変化を分析することが、前記周波数の範囲にわたる前記散乱パラメータのセット内の散乱パラメータの前記変化に基づいて、前記対象領域の静的伝導率の値および/または分極強度の値を決定することを含んでおり、
前記プロセッサが、組織の種類と前記静的伝導率の値および/または前記分極強度の値との間の既定の相関関係に基づいて、前記対象領域を分類するように構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記対象領域に対応する前記散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータを事前に定義された基準座標空間に投影するように構成されており、
前記プロセッサが、前記事前に定義された基準座標空間内の前記投影された散乱パラメータの位置に基づいて前記対象領域を分類するように構成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項8】
前記事前に定義された基準座標空間が複数の軸を含んでおり、各軸が、参照データのセットの主成分に対応する、請求項7に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項9】
前記参照データのセットが、既知の組織の種類のサンプル組織の各セットに関して取得された散乱パラメータの複数のセットを含んでいる、請求項8に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項10】
前記プロセッサが前記対象領域を悪性または良性として分類する、請求項1から9のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項11】
前記マイクロ波アンテナ・アレイが基板上で形成され、前記基板が、前記体の一部に適合するように輪郭形成されているか、輪郭形成可能である、請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項12】
前記基板が半球状である、請求項11に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項13】
前記プロセッサが、前記散乱パラメータの複数のセットに基づいて、胸部の前記内部構造の画像を生成するようにさらに構成されている、請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロ波撮像システム。
【請求項14】
周波数の範囲にわたって、マイクロ波アンテナ・アレイの送信アンテナから放出されたマイクロ波信号を患者の体の一部に当てるステップと、
前記マイクロ波アンテナ・アレイの複数の受信アンテナで、前記体の一部の内部で散乱した後の前記マイクロ波信号を受信し、前記体の一部の内部の物体から生じる散乱による影響を受けた前記受信されたマイクロ波信号を表すデータを収集するステップと、
前記収集されたデータを処理して、前記体の一部の内部の複数の位置に関して散乱パラメータの複数のセットを決定するステップであって、散乱パラメータの各セットが、前記体の一部の内部の対応する位置から、前記周波数の範囲にわたる各周波数で、散乱場を表す、ステップと、
前記散乱パラメータの複数のセットを使用して、前記体の一部の前記内部構造を示す出力を生成するステップと、
前記出力から前記体の一部の内部の対象領域を識別するステップと、
前記周波数の範囲にわたって、前記対象領域に対応する散乱パラメータのセット内の前記散乱パラメータの変化を分析することによって、内部の組織の種類に基づいて前記対象領域を分類するステップとを含んでいる、医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内での組織識別のための医用画像処理システムおよび方法に関連している。
【背景技術】
【0002】
人体を調べるためのさまざまな医用画像処理技術が知られている。そのような画像処理技術は、組織および臓器を調べて、組織を識別するために使用されることがある。例えば、X線(マンモグラフィ)、マイクロ波撮像、超音波、MRIは、すべて一般的な画像診断法である。そのような技術は、胸部組織を調べるために一般的に使用されているが、肝臓、膵臓、前立腺、甲状腺、肺、卵巣、およびリンパ節などの、人体の他の領域で使用されることもある。
【0003】
多くの既存の技術では、未確認の組織が存在する対象領域が識別された後に、その場所から生体組織を採取し、その生体組織に対してさらに検査を実行する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体組織検査が必要ないか、または一部の状況においてのみ必要であるなどの、対象領域に関する情報をさらに提供できる、改良された画像処理技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様に従って、
1つの送信アンテナおよび複数の受信アンテナを含んでいるマイクロ波アンテナ・アレイであって、この送信アンテナは、患者の体の一部に当てるために、周波数の範囲にわたるマイクロ波信号を送信するように構成されており、これらの受信アンテナは、体の一部の内部で散乱した後のマイクロ波信号を受信するように構成されている、マイクロ波アンテナ・アレイと、
周波数の範囲にわたるマイクロ波信号に関する散乱パラメータのセットを取得し、これらの散乱パラメータを使用して、体の一部の内部構造を示す出力を生成し、体の一部の内部の対象領域を識別するように構成されているプロセッサであって、
このプロセッサが、周波数の範囲にわたって、対象領域に関して散乱パラメータの変化を分析することによって、内部の組織の種類に基づいて対象領域を分類するようにさらに構成されている、プロセッサとを備えている、マイクロ波撮像システムが提供されている。
【0006】
これらの散乱パラメータは、周波数領域の散乱パラメータであってよい。例えば、ある位置(または対象領域)に関する散乱パラメータが周波数ごとに決定され、周波数の範囲にわたってスペクトルを形成すると考えられてよい。
【0007】
プロセッサは、対象領域を悪性または良性として分類してよい。
【0008】
プロセッサは、第1の周波数範囲にわたる対象領域の散乱パラメータの大きさの平均値、および第2の周波数範囲にわたる対象領域の散乱パラメータの大きさの平均値に基づいて、対象領域を分類してよい。
【0009】
プロセッサは、第1および第2の周波数範囲の値を少なくとも2つのクラスに分割する決定境界に基づいて、対象領域を分類してよい。
【0010】
第1および第2の周波数範囲は、隣接していなくてよい。
【0011】
周波数の範囲にわたって、対象領域に関して散乱パラメータの変化を分析することは、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化に基づいて、周波数による誘電率における変化を決定することを含んでよく、プロセッサは、周波数による誘電率における決定された変化に基づいて対象領域を分類するように構成されてよい。
【0012】
周波数の範囲にわたって、対象領域に関して散乱パラメータの変化を分析することは、周波数の範囲にわたる散乱パラメータにおける変化に基づいて、対象領域の静的伝導率および/または分極強度を決定することを含んでよく、プロセッサは、組織の種類と静的伝導率および/または分極強度との間の既定の相関関係に基づいて対象領域を分類するように構成されてよい。
【0013】
プロセッサは、対象領域に関する散乱パラメータ(例えば、第1および第2の周波数範囲の散乱パラメータの平均値)を事前に定義された基準座標空間に投影するように構成されてよく、プロセッサは、事前に定義された基準座標空間内の投影された散乱パラメータの位置に基づいて対象領域を分類するように構成されてよい。
【0014】
事前に定義された基準座標空間は複数の軸を含んでよく、各軸は、参照データのセットの主成分に対応する。
【0015】
参照データのセットは、既知の組織の種類のサンプル組織の各セットに関して取得された散乱パラメータの複数のセットを含んでよい。例えば、散乱パラメータの複数のセットは、既知の組織の種類のサンプル組織に対して本発明の方法を使用して取得されていてよい。
【0016】
マイクロ波アンテナ・アレイは基板上に形成されてよく、この基板は、体の一部に適合するように輪郭形成されているか、輪郭形成可能である。
【0017】
この基板は、半球状であってよい。
【0018】
プロセッサは、測定された散乱パラメータに基づいて胸部の内部構造の画像を生成するようにさらに構成されてよい。
【0019】
本発明の別の態様に従って、
周波数の範囲にわたって、マイクロ波アンテナ・アレイの送信アンテナから放出されたマイクロ波信号を患者の体の一部に当てることと、
マイクロ波アンテナ・アレイの複数の受信アンテナで、体の一部の内部で散乱した後のマイクロ波信号を受信することと、
散乱したマイクロ波信号を処理して、周波数の範囲にわたってマイクロ波信号の散乱パラメータのセットを取得し、体の一部の内部構造を示す出力を生成することと、
出力から体の一部の内部の対象領域を識別することと、
周波数の範囲にわたって、対象領域に関して散乱パラメータの変化を分析することによって、内部の組織の種類に基づいて対象領域を分類することとを含んでいる医用画像処理方法が提供されている。
【0020】
本発明をよく理解するため、および本発明が実行され得る方法をさらに明瞭に示すために、ここで例として、添付の図面に対して参照が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に記載された医用画像処理システムのシステム図である。
図2】医用画像処理システムの概略図である。
図3】サンプリング方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に記載された分類方法を示すフローチャートである。
図5】モデルに基づく分類器の方法のフローチャートである。
図6】低周波数の大きさに対する高周波数の大きさのグラフである。
図7】低周波数の大きさに対する中周波数の大きさのグラフである。
図8】主成分分析(PCA:principal component analysis)に基づいて分類器を決定する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の実施形態に従う医用画像処理システム2を示している。医用画像処理システムは、通常、プロセッサ4およびプロセッサ4と通信するマイクロ波アンテナ・アレイ6を備えている。
【0023】
図2に示されているように、アンテナ・アレイ6は、外殻基板18の表面または内部にわたって配置された、複数(N個)のアンテナ16を含んでいる。外殻18は、図に示されているように、湾曲した断面を有している。特に、外殻18は部分的な球状または半球状であり、胸部の形状を近似するように構成される。アンテナ16は、それらがすべて共通の焦点を指し示すように、外殻18の上に配置される。
【0024】
アンテナ16はそれぞれ、スイッチング・マトリクス20に電気的に接続される。次に、スイッチング・マトリクス20が、送信経路と受信経路の両方に接続される。送信経路は、増幅器24に結合された信号発生器22を含んでいる。受信経路は、検出器28およびプロセッサ4に結合された増幅器26を含んでいる。
【0025】
スイッチング・マトリクス20は、アンテナ16の各々を送信経路または受信経路のいずれかに選択的に結合する。
【0026】
アンテナ・アレイ6は、マルチスタティック方式で動作する。具体的には、スイッチング・マトリクス20は、アンテナ16のうちの1つを送信経路に接続し、残りのアンテナ16を受信経路に接続するように制御される。信号発生器22は、段階的周波数の連続波(CW:continuous wave)信号を生成し、この信号が増幅器24によって増幅され、その後、送信経路に接続されたアンテナ16によって送信される。この段階的周波数の連続波信号は、連続波エネルギーの連続的な一連のパルスであり、各パルスは、周波数の範囲(通常は、3~8GHzの範囲内)にわたって段階的に増加する周波数を有している。その他のアンテナ16は、送信された信号を受信し、受信された信号は、検出された後に、プロセッサ4によって記録される。
【0027】
図2に示されているように、外殻18がカップ30を支える。カップ30は、外殻18内に収まるように、外殻18に対して補完的な形状を有している。信号損失を最小限に抑えて、マイクロ波信号の送信を改善するために、アンテナ16とカップ30の間の結合を改善するように、結合液(誘電率によって制御される液体(dielectric constant controlled fluid))の層が、外殻18とカップ30の間の隙間31に挿入されてよい。
【0028】
モーターなどのアクチュエータ(図示されていない)が、マイクロ波アンテナ・アレイ6に接続されてよい。アクチュエータは、胸部36に対して固定されたままであるカップ30と相対的にマイクロ波アンテナ・アレイ6を移動するように構成されてよい。具体的には、アクチュエータは、マイクロ波アンテナ・アレイ6を、胸部36の周囲でカップ30と相対的に回転させる。マイクロ波アンテナ・アレイ6は、外殻18の中心(すなわち、外殻18の対象対称軸)の周りを回転する。この回転は、カップ30と外殻18の間の螺合によって可能にされてよい。具体的には、カップ30の外側および外殻18の内側がねじ部を有してよく、これらによってのねじ部がかみ合って、外殻18およびアンテナ・アレイ6がカップ30と相対的に回転できるようにする。これによって、結合液を交換できるようにするために、カップ30を素早く簡単に取り外すことができるようにしてもよい。
【0029】
アンテナ16は、WO 2009/060181に記載された通りであってよい。具体的には、アンテナ16は、導電素子で形成されたスロット16を備えてよく、このスロットは、導電素子の実質的に閉じた内縁部によって定められた長方形の外部境界を有している。マイクロストリップ・フィード・ラインが、誘電体基板によって導電素子から間隔を空けられてよく、このラインの遠心端が、スロットの幾何学的中心に配置される。
【0030】
使用中に、患者は、胸部36がカップ30内に収まるように、腹臥位で横たわる。結合液の層が、アンテナ16と胸部36の間の結合を改善するために、カップ30と胸部36の間の隙間35に設けられてもよい。
【0031】
図示されていないが、カップ30の内面と胸部36がさらに良く適合できるように、1つまたは複数のインサートがカップ30内に配置されてよい。例えば、複数のそのようなインサートが提供されてよく、それらのインサートは、それぞれ異なる形状およびサイズを有しており、システムが異なる形状およびサイズの胸部にさらに良く適応できるようにする。これらのインサートは、カップと同じ材料(例えば、セラミック)から作られていてよい。
【0032】
図3は、データ収集方法のフローチャートを示している。図に示されているように、スイッチング・マトリクス20は、N個のアンテナのうちの1つのアンテナmを送信経路に接続する。他のすべてのアンテナ16(n=1…N、n≠m)は、受信経路に接続される。送信経路に接続されたアンテナ16は、マイクロ波信号を胸部36に当てる。この信号は胸部組織で散乱し、散乱した信号が送信アンテナ以外のアンテナ16の各々で受信され、(場合によっては、時分割構成で)検出されて記録される。m≠Nである場合、スイッチング・マトリクス20が、送信経路に接続される次のアンテナ16(m=m+1)に進む。これが、すべてのアンテナ16が送信経路に接続されるまで繰り返される。
【0033】
追加のデータ・セットが必要な場合は、アクチュエータが、胸部のを適切な位置をに留めたまま、胸部36と相対的にアレイ6を回転させるために使用される。その後、新しい構成で、アンテナ・アレイ6を使用した収集プロセスが繰り返される。
【0034】
プロセッサ4は、送信された信号の測定された位相および振幅を散乱した信号の位相および振幅と比較したときの相対的差異を記録してよく、この差異は複素数(実部および虚部を含む)として記録される。
【0035】
各アンテナ16で検出される信号は、撮像されるボリューム(すなわち、胸部36)内の物体から生じる散乱による影響を受ける。具体的には、腫瘍は、水分含有量が多いことに起因して、脂肪および結合組織よりも高い誘電特性を示すため、著しい反射を発生させることがあり、そのため、収集されたデータにおいて識別され得る。
【0036】
収集されたデータは、体の一部の内部のある位置から、周波数の範囲にわたる各周波数で、散乱場(例えば、散乱場の大きさ)を表す(例えば、散乱場の大きさを表す)散乱パラメータを決定するために、プロセッサ4によって使用されてよい。
【0037】
収集されたデータは、胸部36の内部構造の画像を構築するために、プロセッサ4によって使用されてよい。例えば、(周波数の範囲にわたる)散乱パラメータは、体の一部(例えば、胸部)の内部の複数の(および実施形態では、分解可能なすべての)位置に関して決定され、胸部の画像を生成するために(または正確には、体の一部(胸部)の内部構造を画像で表すために使用され得るデータを生成するために)使用されてよい。このデータから、プロセッサ4は、対象領域(存在する場合)(例えば、分類される領域)を、(場合によっては、追加のユーザ入力または確認を伴って)識別することができる。この対象領域は、腫瘍の可能性またはその他の病変が存在することがある領域であってよい。
【0038】
収集されたデータの前述した処理(すなわち、データ再構築)は、フェーズドアレイ(周波数領域)、遅延和(DAS:Delay and Sum、時間領域)手法、または任意のその他の適切な手法(3Dフーリエ変換、逆投影など)を使用して実行されてよい。
【0039】
胸部36の誘電特性(したがって、対象領域または対象の位置に関してプロセッサ4によって測定された散乱パラメータ)が周波数に依存するということが、明らかになっている。さらに、誘電特性の周波数応答が、異なる種類の組織によって変化するということが、明らかになっている。このことにより、対象領域内の組織を識別すること、および例えば領域を識別するために使用される散乱パラメータに直接基づいて、組織を、悪性または良性のいずれかであるとしてさらに分類することが可能になる。すなわち、対象領域内の組織が、周波数の範囲にわたる、対象領域に関する散乱パラメータの分析に基づいて、分類されてよい。
【0040】
ここで、図4に関して、分類手順全体が説明される。図4は、本発明の一実施形態に従ってさまざまな処理ステップを示すフローチャートである。
【0041】
図4からわかるように、この方法はステップ41で開始し、ステップ41で、体の一部に関して、図3に関して上で説明された方法で散乱パラメータのセットが決定される。このステップは、散乱パラメータを使用して、体の一部の内部構造を示す出力を生成し、体の一部の内部の対象領域を識別することも含む。
【0042】
体の一部の内部の対象領域およびそれに対応する散乱パラメータのセットが識別された後に、本発明の方法がステップ42に進み、この時点で、対象領域に関する散乱パラメータのセットは、分類前に処理され、分析される。具体的には、プロセッサ4が散乱パラメータのセットを処理して、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化を示す情報および/またはこの変化から得られる情報を決定する。
【0043】
その後、この情報が、ステップ43で、既知の組織の種類に関して取得されたデータに対してトレーニングされている「分類器」との比較に基づいて対象領域内の組織を分類するために使用される。この分類は、対象領域内の組織の種類を(例えば、皮膚、筋肉、脂、脂肪などとして)識別すること、および/または組織を悪性または良性のいずれかであるとして識別することを含んでよい。
【0044】
ステップ44で、臨床医による診断を支援するために、分類の結果が出力されてよい。この出力は、組織の識別情報(例えば、組織が皮膚、筋肉、または脂などであるという識別情報)、二分決定(例えば、悪性/良性)、または可能性の指示(例えば、組織が良性である確率が90%であるという指示)の形態を取ってよい。
【0045】
ステップ42で、散乱パラメータのセットを処理するために任意の適切な望ましい分類前処理方法が使用されてよいということ、および散乱パラメータのセットに対して実行される特定の処理が、トレーニング済みの、ステップ43で使用される分類器の種類によって決まるということが、理解されるであろう。
【0046】
説明を簡単にするために、ここで、本発明に従って使用されてよいさまざまな分類前処理ステップが、以下のセクションで別々に説明される。ただし、本明細書に記載された方法のうちのいずれか1つまたは複数が、必要に応じて分離して、または組み合わせて使用され得るということが、理解されるであろう。
【0047】
モデルに基づく分類器
図5は、本明細書に記載された本発明の実施形態に従って、モデルに基づく分類方法を示すデータ・フロー図を示している。
【0048】
図5に示されているように、ステップ51で、周波数の範囲にわたる散乱パラメータのセットが、対象領域に関して決定される。このステップは、図4に示されているステップ41に対応する。
【0049】
したがって、その後、図4のステップ42に関して説明されているように、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化を表す、および/またはこの変化に基づく情報を決定するために、散乱パラメータのセットに対して分類前プロセスが実行される。
【0050】
図5に示されている例では、分類前処理は、モデル・フィッティング・ステップ(ステップ52)およびモデル・パラメータ決定ステップ(ステップ53)という2つのステップを含む。
【0051】
ステップ52で、モデルが、周波数の範囲にわたる散乱パラメータに対してフィッティングされる。このモデルは、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化に対してフィッティングされ得るか、または周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化から得られたデータに対してフィッティングされ得る、任意の適切な望ましいモデルであってよい。このモデルは、必要に応じて、分散モデルまたは幾何学モデルであってよい。
【0052】
図5の特定の例では、低マイクロ波帯0.5~20GHzにおける生物組織に関する周波数に依存する誘電率のデバイ・モデルが、周波数による誘電率の変化にフィッティングされる。これを実行するために、最初に、周波数の範囲にわたる散乱パラメータが、適切な誘電率の値に変換される。
【0053】
境界(一般に、体の一部の組織(一般に)と対象領域の組織の間)では、周波数に依存する散乱パラメータが次のように定義される。
【0054】
【数1】
ここで、Z(ω)は、境界の入射側での周波数に依存するインピーダンス(例えば、一般に、体の一部のインピーダンス)、Z(ω)は、境界の送信側でのインピーダンス(すなわち、対象領域のインピーダンス)である。
【0055】
インピーダンスは、次式を介して誘電率に関連している。
【0056】
【数2】
ここで、μは透磁率、εは複素誘電率である。
【0057】
生物組織に関して、μ=μ=μであると仮定することができ、μ=4πx10-7H/mは、自由空間の透磁率である。この仮定を用いて、Sの方程式を次のように書き換えることができる。
【0058】
【数3】
ここで、ε(ω)は、境界の入射側での周波数に依存する誘電率、ε(ω)は、境界の送信側での周波数に依存する誘電率である。対象領域が胸部内の領域である場合、基準誘電率ε(ω)は胸部の誘電率であり、近似することができる。
【0059】
ε(ω)を主題にすると、次式が得られる。
【0060】
【数4】
【0061】
このようにして、境界の送信側での周波数に依存する誘電率を、周波数の範囲にわたる散乱パラメータから計算することができる。その後、周波数の範囲にわたる得られた誘電率の値のセットを使用して、データに対してデバイ・モデルをフィッティングすることができる。
【0062】
具体的には、低マイクロ波帯(0.5~20GHz)で単極デバイ・モデルを使用して、対象領域に関して、計算された周波数に依存する誘電率をモデル化することができる。このモデルは、次式として得られる。
【0063】
【数5】
ここで、εは無限周波数での比誘電率、ε=8.854x10-12F/mは自由空間の誘電率、Δεは分極強度、ωは角周波数、τは時定数、σは静的伝導率である。
【0064】
Lazebnik他(Phys Med Biol. 2007 Oct 21 ;52(20):6093-6115。がん手術から取得された正常な胸部組織、良性の胸部組織、および悪性の胸部組織の、超広帯域マイクロ波の誘電特性の大規模な研究)によって、高い値のΔεおよびσを有する組織が、がんである可能性が高いことが示された。したがって、分極強度および静的伝導率を使用して、対象領域内の組織を悪性または良性のいずれかとして分類することができる。
【0065】
ステップ52で、対象領域に関する散乱パラメータに対してモデルがフィッティングされた後に、ステップ53で、パラメータ(Δεおよびσ)の値がデバイ・モデルから直接得られる。
【0066】
ステップ54で、得られたΔεおよびσの値を使用して、対象領域内の組織ががんである可能性を評価する(すなわち、対象領域内の組織を分類する)ことができる。
【0067】
この評価は、Δεおよび/またはσの得られた値と、既知の既存データに対してトレーニングされた線形または非線形分類器との間の比較の形態を取ることができる。代替として、Δεおよびσの値に基づいて、「がんの可能性」の確率値が提供され得る。
【0068】
一実施形態では、分類器は、悪性(Ca)または良性(嚢腫(Cy))であるという既知の組織学的診断を伴う病変サンプルから(図3の方法を使用して)取得された散乱パラメータ・データに対して、上記のモデル・フィッティング方法を実行することによって、トレーニング(事前に決定)される。
【0069】
ここで、デバイ・モデルの代わりに、任意の適切なモデルが使用されてよいということが、理解されるであろう。例えば、周波数による誘電率における変化(すなわち、ε(ω)における変化)は、低マイクロ波帯(0.5~20GHz)において、生物組織に関して、誘電率の単極ドルーデ・モデルを使用して次式のようにモデル化されてよい。
【0070】
【数6】
ここで、εは無限周波数での比誘電率、εは自由空間の誘電率、Δεは分極強度、ωは角周波数、τは時定数、αは、0~1の範囲内の値を取り、さまざまなスペクトル形状の記述を可能にする指数パラメータ、σは静的伝導率の寄与である。
【0071】
さらに、図5の実施形態は、周波数の範囲全体にわたる決定された散乱パラメータに対してモデルをフィッティングすることに関して説明されたが、これが必須ではないということが理解されるであろう。実施形態では、散乱パラメータに対して、モデル・フィッティングに先立って、早期の処理ステップが実行されてよい。例えば、散乱パラメータに対して、下で説明されているように、1つまたは複数の特徴縮小プロセスが実行されてよく、それに応じてモデルが、そのような処理済みの散乱パラメータのセットに対してフィッティングされてよい。具体的には、周波数の範囲全体のすべてではなく一部を含んでいる周波数のサブセットに対して、モデルがフィッティングされてよい。代替として、周波数の範囲が周波数の複数の帯域に分割されてよく、モデルが、望ましいように、周波数の帯域ごとに、散乱パラメータ(または、対応する誘電率の値)の平均値に対してフィッティングされてよい。そのような構成において使用される周波数の帯域は、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの主成分分析に基づいて選択されてよい。
【0072】
特徴縮小分類器
本出願人は、場合によっては、本発明の医用画像処理システム2が、対象領域を正確に分類するために必要なデータより多くのデータ(または正確には、より複雑なデータ)を記録するということを認識した。例えば、場合によっては、システムは、対象領域を正確に分類するために実際に必要な周波数の帯域または範囲より多くの周波数の帯域または範囲に関する散乱パラメータ・データを生成することがある。
【0073】
本出願人は、そのような場合に、分析に不可欠な情報の損失を最小限に抑えながら、最初にデータの複雑さを減らすこと(例えば、必要な時間および記憶領域を減らすこと)が望ましいことがあるということも認識した。したがって、実施形態では、周波数の範囲にわたる散乱パラメータ・データに対して「特徴縮小」のプロセスが実行され、特徴縮小は、基本的に、散乱パラメータ・データの特徴(特徴空間)を組織の分類に関して最も多くの情報を与える特徴に圧縮する方法である。
【0074】
その後、対象領域に関する、特徴が縮小された散乱パラメータ・データ(分離可能性が増加している)を分析して、対象領域を分類することができる。具体的には、対象領域に関する、周波数の範囲わたる特徴が縮小された散乱パラメータ・データが、対応する特徴縮小のプロセスが実行された(既知の組織の種類の以前のサンプルに関して検出された)散乱パラメータ・データから得られた対応する分類器と比較されてよい。
【0075】
それに応じて、実施形態では、図4の前処理ステップ42が、対象領域に関して周波数の範囲にわたって取得された散乱パラメータに対して、特徴縮小プロセスを実行することを含む。そのような特徴縮小プロセスは、対象領域内の組織を分類するために図4のステップ43で使用される分類器の種類に応じて、前述したモデル・フィッティング方法などの、他の前処理方法と組み合わせて使用されてよく、または代替の構成では、別々に使用されてよい。
【0076】
ここで、本発明の実施形態に従うさまざまな特徴縮小プロセスが、対象領域内の組織を分類するために使用される分類器の種類に関して説明される。
【0077】
帯域幅平均化
図6および7に示された実施形態に従って、プロセッサ4は、周波数の範囲を複数の帯域に分割することによって、分類前の散乱パラメータに対して特徴縮小プロセスを実行し、周波数の帯域ごとに、対象領域に関して散乱パラメータの大きさの平均値を決定する。
【0078】
帯域は、任意の適切な方法または望ましい方法で選択されてよい。例えば、帯域は手動で選択されてよい。しかし、実施形態では、遺伝的アルゴリズなどの特徴選択プロセスを実行して、分類プロセスに最も適しているか、または妥当な帯域を自動的に選択することによって、2つ以上の帯域が選択される。
【0079】
特徴縮小プロセスの後に、プロセッサ4は、第1の周波数範囲(第1の帯域)にわたる対象領域の散乱パラメータの大きさの平均値、および第2の周波数範囲(第2の帯域)にわたる対象領域の散乱パラメータの大きさの平均値に基づいて、対象領域を分類する。
【0080】
これを容易にするために、本発明は、異なる周波数帯域に対するサンプルの大きさの平均値の応答に基づいて、(別の分析が実行されていない)新しいサンプルを例えば悪性または良性のいずれかとして分類できるようにする分類器を決定してよい。
【0081】
図6および7の例では、悪性(Ca)または良性(線維腺腫(Fa)および嚢腫(Cy))であるという組織学的診断を伴う孤立性病変を示す48人の患者に基づいて行われた研究からのデータが、周波数の範囲にわたる散乱パラメータの変化に基づいて対象領域内の組織の種類を識別するための分類器を決定するために使用された。評価された研究は、悪性の診断を伴う17の症例および良性の診断を伴う31の症例(12のFaおよび19のCy)を含んでいた。
【0082】
3~8GHzの範囲にわたって、各患者の対象領域に関して、無線周波数応答が記録された。限られた数のパラメータを使用して応答の特性を明らかにするために、3~8GHzの範囲が、低周波数帯域(3~4.6GHz)、中周波数帯域(4.7~6.3GHz)、および高周波数帯域(6.4~8.9GHz)という3つの帯域に分割された。この例で使用された3つの帯域は、手動で選択された。その後、帯域(低周波数、中周波数、および高周波数に対して、R、G、およびBというラベルがそれぞれ付けられた)ごとに、大きさの平均値の応答が計算された。
【0083】
R、G、およびBの値の異なる組み合わせの散布図のセットを使用して、悪性の病変のRF特性と良性の病変のRF特性の間の差異が分析された。
【0084】
図6および7は、そのような散布図の例を示している。具体的には、図6はRとBのプロットを示しており、図7はGとBのプロットを示している。これに関して、RGB周波数帯域の異なる組み合わせの選択は手動による特徴選択に対応するが、自動的な特徴選択方法を使用することも可能だったということが理解されるであろう。
【0085】
図に示されているように、異なる周波数帯域に対するサンプルの大きさの平均値の応答に基づいて、(別の分析が実行されていない)新しいサンプルを悪性または良性のいずれかとして分類できるようにする線形分類器61、71を導出するために、サンプルが使用されてよい。線形分類器61、71は、プロットを悪性のクラスおよび良性のクラスに分割する最適化された決定境界(この場合は、直線に対応する)を定義する。線形判別分析(LDA:Linear Discriminant Analysis)、ロジスティック回帰などの、任意の既知の線形判別方法が、データに基づいて線形分類器61、71を導出するために使用されてよい。
【0086】
図から観察できるように、異なるプロットは、悪性の症例を良性の症例から区別する異なる程度を示している。具体的には、RとBのプロット(すなわち、低周波数の大きさに対する高周波数の大きさ)によって最も正確な分類が提供されるということが、明らかになった。RとBのプロットは、76%の陽性的中率(PPV:positive predicted value)で悪性の症例を良性の症例から区別することができ、73%のPPVを有するGとBのプロット(すなわち、低周波数の大きさに対する中周波数の大きさ)がそれに続いている。RとBのプロットを使用することで、周波数範囲が隣接していないときに、より正確な分類を提供できる。
【0087】
ここで、線形分類器を導出することに関して図6および7が説明されているが、これが必須ではないということが理解されるであろう。例えば、異なる周波数帯域に対するサンプルの大きさの平均値の応答に基づいて、(別の分析が実行されていない)新しいサンプルを悪性または良性のいずれかとして分類できるようにする非線形分類器を導出するために、サンプルを使用することができる。この非線形分類器は、プロットを悪性のクラスおよび良性のクラスに分割する(直線の決定境界と比較して)さらに最適化された決定境界を定義できる。サポート・ベクター・マシン方法またはニューラル・ネットワーク方法などの任意の既知の非線形判別方法が、非線形分類器を導出するために使用されてよい。
【0088】
多変量解析
本出願人は、図4に関して上で説明された分類前プロセスの間に多変量解析を実行することによって、特徴縮小を実現できるということを認識した。
【0089】
一般に、多変量解析は、散乱パラメータを異なる座標空間に投影することを含んでおり、この座標空間では、周波数による散乱パラメータの変化に関連する特徴が、(例えば、散乱パラメータが定義されている元の空間における分離可能性と比較して)より大きい分離可能性を有している。その後、それらの特徴を(この座標空間に対して定義された)分類器と比較して、対象領域内の組織を分類または識別することができる。
【0090】
独立成分分析(ICA:independent component analysis)などの、任意の適切な、または望ましい多変量解析方法が使用されてよい。
【0091】
しかし、一実施形態では、多変量解析は、主成分分析(PCA)を実行して散乱データを新しい軸のセットに変換することを含む。具体的には、主成分分析は、周波数の範囲にわたって対象領域に関して得られた散乱パラメータのセットに対して直交変換を実行し、散乱パラメータのセットを主成分と呼ばれる変数を表す値のセットに変換することを含む。個別の主成分の数は、元の特徴の数(すなわち、周波数の範囲にわたる周波数点の数)に等しい。
【0092】
本発明の一実施形態では、悪性(Ca)または良性(嚢腫(Cy))であるという既知の組織学的診断を伴う複数(m個)の病変サンプルの研究から(図3の方法を使用して)取得された散乱パラメータに対してPCAを実行することによって、分類器がトレーニングされる。具体的には、悪性の診断を伴う18の症例および良性の診断を伴う19の症例を含んでいる(m=)37個の病変サンプルが使用される。この研究の散乱パラメータは、周波数を、周波数範囲3~8GHzにわたって、101の離散的な周波数のパルスに段階的に変化させることによって、取得された。
【0093】
37個のすべての病変サンプルからの散乱パラメータが、単一の行列Aにまとめられてよく、この行列内の各行は、所与の病変サンプルの散乱パラメータに対応する。
【0094】
その後、共分散行列Cを最初に計算することによって、散乱パラメータ行列Aから主成分が決定され、共分散行列Cが、周波数が互いに相関している程度を示す。共分散行列Cは、次式によって与えられる。
C = (transpose(A-mean(A))(A-mean(A)))/m
【0095】
次に、共分散行列の固有ベクトルVおよび対応する固有値Dが、次の方程式の解を決定することによって計算される。
CV=VD
【0096】
共分散行列Cの固有ベクトルVおよび固有値Dを見つけることは、n次元の楕円体(nは、元の特徴の数に対応する)をデータの分散にフィッティングすることであると考えることができ、楕円体の各軸は主成分を表す。
【0097】
その後、各固有ベクトル(他の固有ベクトルと相互に直交している)は、散乱パラメータが投影される座標空間の軸として使用され得る。具体的には、Vの1つの固有ベクトルvは、散乱パラメータ・データSを投影できる座標系の1つの軸であると見なすことができ、値S’は、所与の固有ベクトルvの軸に投影された(すなわち、線形に変換された)散乱パラメータである。
S’=Sv
S’=Si,1+Si,2...Si,n
【0098】
したがって、S’は、i番目の主成分の方向に沿った座標系の原点からの距離に対応する。したがって、この距離の値は、それに関連付けられた主成分によって表された分散の相関関係に関連している。
【0099】
その後、周波数の範囲にわたって適切に変換/投影された散乱パラメータに対して、判別分析方法を実行し、分類器を決定することができる。
【0100】
図8は、周波数を、周波数範囲3~8GHzにわたって、101の離散的な周波数のパルスに段階的に変化させることによって、前述した37個の病変サンプルに関して取得された散乱パラメータに対して、PCAを実行した結果を示している。
【0101】
説明および図を簡単にするために、図8は、第1の主成分、第2の主成分、および第3の主成分(すなわち、最大の分散を含んでいる最も重要な3つの主成分)に対応する軸を含んでいる3次元のみを有する座標系80を示している。しかし、任意の数の次元(または主成分)を分類プロセスにおいて使用できるということが、理解されるであろう。主成分の最大数は、元の散乱パラメータ・データにおける次元の数に等しい値に制限される。
【0102】
図8の例に示されているように、投影空間内のサンプルの位置に基づいて悪性の組織の種類および良性の組織の種類を最適に分離する超平面81を見つけるために、線形判別分析(LDA)方法が採用された。線形判別分析(LDA)、ロジスティック回帰などの、任意の既知の線形判別方法が、データに基づいて線形分類器を導出するために使用されてよい。代替として、(平面の決定境界と比較して)さらに最適化された決定境界を定義するために、非線形分類器が使用されてよい。サポート・ベクター・マシン方法またはニューラル・ネットワーク方法などの、任意の適切な非線形判別方法が、非線形分類器を決定するために使用されてよい。
【0103】
最も重要な3つの主成分を使用して超平面81を決定することによって、68%の陽性的中率(PPV)が達成される。主軸(したがって、散乱パラメータが投影される座標空間の次元)の数を10に増やすことによって、81%のPPVが達成されるということも明らかになった。分類器は、任意の数の主成分を含んでいる座標空間に投影された散乱パラメータに基づいてトレーニングされてよい。
【0104】
上記の投影方法を使用して、(別の分析が実行されていない)新しいサンプルを決定された超平面81と比較して、悪性または良性のいずれかとして分類することができる。
【0105】
例えば、対象領域の散乱パラメータは、前述した37個の病変サンプルに関して決定された散乱パラメータの主成分分析に基づいて導出された座標空間(基準座標空間)に投影されてよく、対象領域は、座標空間内の投影された散乱パラメータの位置に基づいて分類されてよい。
【0106】
図8の実施形態は、周波数の範囲全体に対してPCAを実行する(散乱パラメータを基準座標空間に投影する)ことに関して説明されたが、これが必須ではないということが理解されるであろう。実施形態では、散乱パラメータに対して、例えば前述したような特徴縮小および/または選択の分類前プロセスが実行されてよく、散乱パラメータの処理済みのセットが、PCAプロセスへの入力として使用されてよい(すなわち、基準座標空間に投影されてよい)。具体的には、(周波数のすべてではなく一部を含んでいる)周波数のサブセットにわたる散乱パラメータが、PCAにおいて使用されて(この周波数のサブセットの散乱パラメータを事前に定義された基準座標空間に投影して)よい。代替的または追加的に、望ましいように、周波数の範囲が周波数の複数の帯域に分割されてよく、周波数の各帯域の散乱パラメータの平均値が、PCAプロセスへの入力として使用されてよい(すなわち、事前に定義された基準座標空間に投影されてよい)。
【0107】
説明したように、対象領域の分類は、対象領域が最初に識別された散乱パラメータに基づいて行われ得る。すなわち、画像を生成するために得られた散乱パラメータは、対象領域を識別するためだけでなく、その領域内の組織の種類を識別するためにも使用され得る。したがって、対象領域を決定した後に、この分類を行うために任意の追加データを取得する必要はなく、そのデータは自動的に導出され得る。
【0108】
本発明の概念が、悪性のクラスおよび/または良性のクラス内の下位分類をさらに包含するように拡張されてよいということが、理解されるであろう。この拡張は、マルチクラス分類を使用して実現されてよい。
【0109】
各図面は組織を悪性または良性のいずれかとして分類することに関して説明されたが、これが必須ではないということも理解されるであろう。本発明は、異なる種類の組織(例えば、皮膚、筋肉、脂、脂肪など)および/または病変(例えば、がん腫、嚢腫、線維腺腫、脂肪腫)を分類/識別するなどのために、他の種類の組織の間での分類を包含するように拡張されてよい。この拡張は、その後のサンプルにおいて分類される組織の種類に対応する既知の組織のサンプルに関して取得された散乱パラメータに基づいて、前述した方法を使用して分類器を決定する(「トレーニングする」)ことによって、実行されてよい。
【0110】
本明細書において労力の不必要な重複およびテキストの繰り返しを避けるために、特定の特徴が、本発明の1つまたは複数の態様または実施形態のみに関して説明された。しかし、技術的に可能な場合、本発明のいずれかの態様または実施形態に関して説明された特徴が、本発明の任意のその他の態様または実施形態と共に使用されてもよいということが、理解されるべきである。
【0111】
本発明は、本明細書に記載された実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく、修正または適応されてよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8