(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】保守支援装置および保守支援方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220616BHJP
G06Q 10/00 20120101ALI20220616BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G06Q10/00 300
(21)【出願番号】P 2020172143
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】足立 新
(72)【発明者】
【氏名】久保 直紀
(72)【発明者】
【氏名】吉越 洋志
(72)【発明者】
【氏名】長塩 拓馬
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-261886(JP,A)
【文献】特開2008-050965(JP,A)
【文献】特開2013-152624(JP,A)
【文献】特開2003-099119(JP,A)
【文献】特開2009-047696(JP,A)
【文献】特開2005-315581(JP,A)
【文献】特開2011-247660(JP,A)
【文献】特開2013-231673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
G06Q 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データと、前記機械の稼働計画とを取得する取得部と、
取得した前記シミュレーション結果データから、前記機械に含まれる複数の保守対象部の寿命消費率を算出する寿命算出部と、
前記寿命消費率と前記機械の稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出する保守時期算出部と、を備え
、
前記各保守対象部は回転運動を行う回転体を含み、
前記シミュレーション結果データは、
前記各保守対象部に加わる予定トルク値と、
前記予定トルク値に基づき行われた前記各保守対象部の応力解析の結果と、を含み、
前記寿命算出部は、
前記応力解析の結果と、前記各保守対象部を構成する材料の機械的性質とを線形累積損傷則に適用することで、前記各保守対象部の寿命消費率を算出する
保守支援装置。
【請求項2】
前記保守時期算出部は、
前記推定寿命に、任意に設定される保守設定値を掛けることで前記推奨保守時期を算出する
請求項
1に記載の保守支援装置。
【請求項3】
前記各保守対象部の保守作業に必要な保守費用を記憶する保守費用記憶部と、
前記推奨保守時期と、前記保守費用とから、前記機械の単位時間当たりの維持費用を算出する維持費用算出部とをさらに備える
請求項1
または2に記載の保守支援装置。
【請求項4】
機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データと、前記機械の稼働計画とを取得する取得部と、
取得した前記シミュレーション結果データから、前記機械に含まれる複数の保守対象部の寿命消費率を算出する寿命算出部と、
前記寿命消費率と前記機械の稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出する保守時期算出部と、を備え
、
前記機械が運転を開始した後、
前記取得部は、
ネットワークを介して接続した前記機械から取得した前記保守対象部に加わった実トルク値を用いて修正された応力解析の結果を取得し、
前記寿命算出部は、
前記各機械が含む複数の保守対象部について寿命消費率を算出するとともに、前記各機械が運転を開始した後、前記各機械が含む複数の保守対象部について前記実トルク値を用いて修正された応力解析の結果に基づいて修正寿命消費率を算出する
保守支援装置。
【請求項5】
機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データから、前記機械に含まれる保守対象部の寿命消費率を算出することと、
前記寿命消費率と前記機械の稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出することと、を含
み、
前記各保守対象部は回転運動を行う回転体を含み、
前記シミュレーション結果データは、
前記各保守対象部に加わる予定トルク値と、
前記予定トルク値に基づき行われた前記各保守対象部の応力解析の結果と、を含み、
前記寿命消費率を算出することは、
前記応力解析の結果と、前記各保守対象部を構成する材料の機械的性質とを線形累積損傷則に適用することで、前記各保守対象部の寿命消費率を算出する
保守支援方法。
【請求項6】
機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データから、前記機械に含まれる保守対象部の寿命消費率を算出することと、
前記寿命消費率と前記機械の稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出することと、を含
み、
前記寿命消費率を算出することは、
前記機械が運転を開始した後、ネットワークを介して接続した前記機械から取得した前記保守対象部に加わった実トルク値を用いて修正された応力解析の結果を取得し、
前記各機械が含む複数の保守対象部について寿命消費率を算出するとともに、前記各機械が運転を開始した後、前記各機械が含む複数の保守対象部について前記実トルク値を用いて修正された応力解析の結果に基づいて修正寿命消費率を算出する
保守支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保守支援装置および保守支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械の寿命の予測を行う寿命予測装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。寿命予測装置は、機械の稼働状態を検出するセンサの出力データや、機械の故障の有無に関するデータを観測し、観測したデータに基づいて機械の寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した寿命予測装置は、運転を開始した機械の状態を観測することで機械の寿命を予測する。一方、機械の導入にあたっては、機械が運転を開始する前から、機械の保守にかかる工数や費用を高い精度で予測することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、見積り時や機械の導入前を含めた、機械が運転を開始する前から、機械の保守時期を高い精度で予測することのできる保守支援装置および保守支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する保守支援装置は、機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データと、前記機械の稼働計画とを取得する取得部と、取得した前記シミュレーション結果データから、前記機械に含まれる複数の保守対象部の寿命消費率を算出する寿命算出部と、前記寿命消費率と前記稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出する保守時期算出部と、を備える。
【0007】
また、上記課題を解決する保守支援方法は、機械のシミュレーション条件データと前記機械の運転条件とを用いて生成された前記機械のシミュレーション結果データから、前記機械に含まれる保守対象部の寿命消費率を算出することと、前記寿命消費率と前記稼働計画とを用いて前記各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、前記各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出することと、を含む。
【0008】
上述した構成および方法によれば、機械の導入前を含めた機械が運転を開始する前から、各保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とを高い精度で算出することが可能となる。
上記保守支援装置において、前記各保守対象部は回転運動を行う回転体を含み、前記シミュレーション結果データは、前記各保守対象部に加わる予定トルク値を含み、前記寿命算出部は、前記予定トルク値を用いて前記各保守対象部の寿命消費率を算出してもよい。
【0009】
上述した構成によれば、保守支援装置は、エンジンに接続する回転軸、カップリングといった回転体を含む保守対象部の寿命消費率を算出することが可能となる。
上記保守支援装置において前記シミュレーション結果データは、前記予定トルク値に基づき行われた前記各保守対象部の応力解析の結果と、前記各保守対象部を構成する材料の機械的性質とを含み、前記寿命算出部は、前記応力解析の結果と、前記材料の機械的性質とを線形累積損傷則に適用することで、前記各保守対象部の寿命消費率を算出してもよい。
【0010】
上述した構成によれば、保守支援装置は、保守対象部の寿命消費率をより高い精度で算出することが可能となる。
上記保守支援装置は、保守設定値を記憶する記憶部をさらに備え、前記保守時期算出部は、前記推定寿命に、前記記憶部から取得した前記保守設定値を掛けることで前記推奨保守時期を算出してもよい。
【0011】
上述した構成によれば、機械の運転中に保守対象部が寿命を迎えるリスクと保守費用とを考慮して適切な保守時期を設定することが可能となる。
上記保守支援装置において、前記各保守対象部の保守作業に必要な保守費用を記憶する保守費用記憶部と、前記推奨保守時期と、前記保守費用とから、前記機械の単位時間当たりの維持費用を算出する維持費用算出部とをさらに備えてもよい。
【0012】
上述した構成によれば、機械の導入前を含めた機械が運転を開始する前から、各保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とに加えて機械の維持費用を算出することが可能となる。
【0013】
上記保守支援装置において、前記機械が運転を開始した後、前記取得部は、前記保守対象部に加わった実トルク値をさらに取得し、前記寿命算出部は、前記シミュレーション結果データと前記運転条件と前記実トルク値とを用いて前記各保守対象部の修正寿命消費率を算出してもよい。
【0014】
上述した構成によれば機械の運転を開始した後、寿命消費率を算出したときに用いた機械の運転条件と異なる運転条件の下で機械を運転しても、機械の寿命消費率を修正することが可能となる。
【0015】
上記保守支援装置において、前記取得部は、ネットワークを介して接続した機械から取得した実トルク値を用いて修正された応力解析の結果を取得し、前記寿命算出部は、前記各機械が含む複数の保守対象部について寿命消費率を算出するとともに、前記各機械が運転を開始した後、前記各機械が含む複数の保守対象部について前記実トルク値を用いて修正された応力解析の結果に基づいて修正寿命消費率を算出してもよい。
【0016】
上述した構成によれば、ネットワークを介して機械が出力した実トルク値を取得して、保守対象部の修正寿命消費率を容易に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】保守支援装置の第1実施形態の構成を示すブロック図。
【
図2】同実施形態における機械の一例を示す模式図。
【
図3】同実施形態において保守支援装置が行う処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】同実施形態において保守対象部に発生すると予測された応力の変動パターンの一例を示す模式図。
【
図5】同実施形態において応力の変動パターンに応力頻度解析を行った結果の一例を示す模式図。
【
図6】同実施形態における応力頻度解析の結果の二次元頻度から一次元頻度への換算式の一例を示す模式図。
【
図7】同実施形態において保守対象部の寿命消費率の算出に用いるS-N線図の一例を示す模式図。
【
図8】保守支援装置の第2実施形態の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図7を参照して、保守支援装置の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、保守支援装置1は、入力部11、記憶部12、取得部13、シミュレーション実施部14、寿命算出部15、保守時期算出部16、および、出力部17を備える。保守支援装置1は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクなどのハードウェアにより構成されたコンピュータであって、例えば、デスクトップ型、ノート型、またはタブレット型の通常のコンピュータである。保守支援装置1は、機械の推奨保守時期を算出するためのコンピュータシステムである。
【0019】
入力部11は、保守支援装置1に各種情報を入力するための手段であり、キーボードやポインティングデバイス、通信インターフェースなどにより構成される。入力部11は、機械のシミュレーション条件データや、機械の運転条件、機械の稼働計画を保守支援装置1に入力する。
【0020】
機械のシミュレーション条件データは、機械部品を構成する材料の機械的性質を含む。機械のシミュレーション条件データは、CAD(Computer Assisted Design)システムによって作成された機械の構造を表す三次元モデルをさらに含んでもよい。材料の機械的性質は、S-N線図、応力頻度解析の結果の二次元頻度から一次元頻度への換算式などの疲労破壊に関するデータを含む。材料の機械的性質は、材料の密度、熱伝導率、摩擦係数等の物性値をさらに含んでもよい。機械の運転条件は、出力の時系列変化を示す出力パターンである。機械の稼働計画は、一定期間、例えば1カ月間において、機械を運転する回数や、機械を運転する時間を示す運転スケジュールである。入力された機械のシミュレーション条件データ、運転条件、および、稼働計画は記憶部12に記憶される。
【0021】
記憶部12は、入力部11によって入力された情報や、後述するシミュレーション実施部14が実施したシミュレーションの結果を含むシミュレーション結果データ、寿命算出部15が算出した保守対象部の寿命消費率、後述する保守設定値および、保守時期算出部16が算出した推定寿命、推奨保守時期を記憶する。
【0022】
取得部13は、保守支援装置1が機械の推奨保守時期を算出する際に、必要な情報を取得する。シミュレーション実施部14がシミュレーションを行うとき、取得部13は、機械のシミュレーション条件データと機械の運転条件とを記憶部12から取得し、取得したシミュレーション条件データと機械の運転条件とをシミュレーション実施部14に出力する。
【0023】
また、寿命算出部15が寿命消費率を算出するとき、取得部13は、機械のシミュレーション結果データを記憶部12から取得し、シミュレーション結果データを寿命算出部15に出力する。
【0024】
保守時期算出部16が推定寿命と推奨保守時期とを算出するとき、取得部13は、寿命消費率と機械の稼働計画と保守設定値とを記憶部12から取得して、寿命消費率と機械の稼働計画と保守設定値とを保守時期算出部16に出力する。
【0025】
シミュレーション実施部14がシミュレーションを行うとき、取得部13は、入力部11から入力された機械のシミュレーション条件データと機械の運転条件とを直接取得してもよい。また、寿命算出部15が寿命消費率を算出するとき、取得部13は、シミュレーション実施部14が生成したシミュレーション結果データをシミュレーション実施部14から直接取得してもよい。保守時期算出部16が推定寿命と推奨保守時期とを算出するとき、取得部13は、寿命算出部15が算出した寿命消費率を寿命算出部15から直接取得してもよく、また、取得部13は、機械の稼働計画と保守設定値とを入力部11から直接取得してもよい。
【0026】
さらに、取得部13は、シミュレーション実施部14、寿命算出部15、および、保守時期算出部16のそれぞれが必要な情報を、それぞれが処理を行うときに逐一取得してもよい。取得部13は、シミュレーション実施部14、寿命算出部15、および、保守時期算出部16が一連の処理を行うために必要な情報を、一連の処理が行われる前に一括して取得してもよい。
【0027】
シミュレーション実施部14は、機械のシミュレーション条件データと機械の運転条件とを用いて機械のシミュレーションを実施して、シミュレーション結果データを生成する。シミュレーション結果データは、シミュレーションに用いたシミュレーション条件データと運転条件、機械が運転条件に従って運転した際に機械の各要素にかかるトルクの大きさである予定トルク値の算出結果、および、予定トルク値から算出した応力解析の結果を含む。シミュレーション実施部14は、生成したシミュレーション結果データを記憶部12に記憶させる。
【0028】
寿命算出部15は、機械のシミュレーション結果データを用いて、各保守対象部の寿命消費率を算出する。保守対象部は、機械を構成する部品のうち、保守作業を行う対象として設定された部品である。寿命消費率は、寿命を1としたときに消費した寿命の割合を示す数値である。
【0029】
保守時期算出部16は、各保守対象部の寿命消費率を用いて推定寿命を算出し、推定寿命を用いて各保守対象部の推奨保守時期を算出する。推奨保守時期は、機械が運転を開始したときから各保守対象部に保守作業を行うことが推奨されるときまでの時間である。出力部17は、寿命算出部15が算出した寿命消費率と、保守時期算出部16が算出した推奨保守時期とを出力する。出力部17は、各種情報を出力するための手段であり、ディスプレイ、プリンタなどにより構成される。
【0030】
図2に、保守支援装置1が推奨保守時期を算出する機械の一例として、エンジン40の性能を試験するエンジン試験装置2の構成を示す。エンジン試験装置2は、エンジン40を支持する支柱31と、エンジン40のトルクを検出して当該トルクの大きさを計測するトルク検出器29と、エンジン40の負荷を制御する動力計50とを備える。動力計50は、エンジン40の出力を受けて電力を発生させる発電機として構成される。支柱31に支持されるエンジン40と、動力計50とは、中間軸22、中間軸受軸25、中間軸受軸延長軸26、および、延長軸28を介して接続される。エンジン40は、中間軸22、中間軸受軸25、中間軸受軸延長軸26、および延長軸28を回転させることで動力を動力計50に伝達する。
【0031】
中間軸22とエンジン40とは、クラッチ21を介して接続される。クラッチ21は、中間軸22とエンジン40との間で動力が伝達される状態と遮断される状態とを切り替え可能に構成される。
【0032】
中間軸22と中間軸受軸25とは、動力を伝達可能に接続される。中間軸22の左端はフランジとなっており(図示略)、当該フランジにおいて中間軸22と中間軸受軸25とはボルト締結される。軸受23は、中間軸受軸25が滑らかに回転できるように支持する。中間軸受箱24は、軸受23を収容する。中間軸受箱24は、支柱32によって支持される。また、中間軸受軸25と中間軸受軸延長軸26とは、動力を伝達可能に接続される。中間軸受軸延長軸26の右端はフランジとなっており(図示略)、当該フランジにおいて中間軸受軸25と中間軸受軸延長軸26とはボルト締結される。
【0033】
中間軸受軸延長軸26と延長軸28とは、第1カップリング27Aを介して接続される。また、延長軸28とトルク検出器29とは、第2カップリング27Bを介して接続される。さらに、トルク検出器29と動力計50とは、第3カップリング27Cを介して接続される。
【0034】
エンジン試験装置2における保守対象部は、エンジン40から出力を受けて回転運動を行う回転体を含む部品であって、中間軸22、中間軸受軸25、中間軸受軸延長軸26、第1カップリング27A、延長軸28、第2カップリング27B、トルク検出器29、および、第3カップリング27Cである。各保守対象部の寿命消費率、推定寿命、および、推奨保守時期は、各保守対象部に加わるトルクの大きさをシミュレーションすることで算出することができる。
【0035】
次に、
図3~
図7を参照して、保守支援装置1が保守対象部の推奨保守時期を算出するときに行う処理について説明する。
まず、取得部13は、記憶部12から、機械のシミュレーション条件データと、機械の運転条件とを取得する(ステップS1)。
【0036】
続いて、シミュレーション実施部14は、機械のシミュレーションを実施して、シミュレーション結果データを生成する(ステップS2)。シミュレーション実施部14は、機械のシミュレーション条件データと機械の運転条件とに基づいて、各保守対象部に加わることが予定されているトルクの大きさである予定トルク値を算出し、予定トルク値に基づいて応力解析を行う。機械の運転条件は、例えば上述したエンジン試験装置2においては、エンジンの出力パターンである。エンジン試験装置2におけるエンジンの出力パターンとしては、エンジンの排出ガス試験において用いられるWHTCモードが用いられる。エンジンの出力パターンは、WHTCモード以外の出力パターンが用いられてもよい。
【0037】
シミュレーション実施部14は、応力解析の結果として、
図4に示すような各保守対象部に発生する応力の変動パターンを得る。シミュレーション実施部14は、予定トルク値と応力解析の結果とをシミュレーション結果データとして記憶部12に保存する。
【0038】
次に、取得部13は、記憶部12から機械のシミュレーション結果データを取得する(ステップS3)。
続いて、寿命算出部15は、取得部13が取得したシミュレーション結果データを用いて、各保守対象部の寿命消費率を算出するための応力頻度解析工程を開始する。まず、寿命算出部15は、各保守対象部において得られた応力の変動パターンに対して、応力頻度解析を行う(ステップS4)。応力頻度解析では、応力の変動パターンを、互いに異なる複数の正弦波の和として表し、各正弦波が発生する頻度nを算出する。応力頻度解析には、二次元レインフロー法に代表される二次元頻度解析を用いる。各正弦波は、応力振幅と平均応力との組み合わせで表され、応力頻度解析の結果は、二次元ヒストグラムや、
図5に示すような二次元分布図として表される。例えば、各正弦波がp種類の平均応力とq種類の応力振幅の組み合わせで表されるとき、
図5では、横軸に平均応力σ
m、縦軸に応力振幅σ
aを示す平面において、応力振幅がσ
aj(j=1,2,…,p)であり平均応力がσ
mk(k=1,2…,q)である正弦波W
i(i=1,2,…,p×q)が発生する頻度n
j,kの多寡が、当該平面上における色の濃さとして表される。平均応力がσ
m1、応力振幅がσ
a1である正弦波W
1は、平均応力σ
m2、応力振幅がσ
a2である正弦波W
2よりも色の薄いエリアに属しており、正弦波W
1の発生頻度n
1,1が正弦波W
2の発生頻度n
2,2よりも少ないことが示されている。
【0039】
続いて、寿命算出部15は、各保守対象部の寿命消費率を算出する(ステップS5)。以下では、寿命算出部15が、応力の二次元頻度解析の結果から保守対象部の寿命消費率を算出する際の手順を詳述する。
【0040】
寿命算出部15は、応力の二次元頻度解析の結果を、一次元頻度解析の結果に換算する。例えば、寿命算出部15は、
図6に示すような二次元頻度から一次元頻度への換算式を用いて、平均応力がσ
m1、応力振幅がσ
a1である正弦波W
1を、平均応力が0、応力振幅がσ
t1である別の正弦波W
1´に置き換える。このとき、X-Y平面上に描かれた曲線として当該換算式を表すグラフにおいて、2つの正弦波W
1と正弦波W
1´とは1本の直線上に位置する。このとき、正弦波W
1の頻度n
1,1は、換算された正弦波W
1´の頻度n
1と等しい。さらに、正弦波W
1と正弦波W
1´とは、材料に対して各正弦波に従って応力が繰り返し加えられたときに当該材料が破断に至る繰り返し回数N
1が等しいとみなせる。
【0041】
応力頻度解析の結果の二次元頻度から一次元頻度への換算式としては、以下の式(1)および
図6に示すように修正グッドマンの式を用いる。このとき、σ
Bは引張強さを表す。また当該換算式としては、グッドマンの式、ゲルバーの式またはゾーダーベルクの式等をはじめとした各種換算式を用いてもよい。
【0042】
【0043】
そして、寿命算出部15は、線形累積損傷則を用いて保守対象部の寿命消費率を算出する。寿命算出部15は、応力振幅がσ
tiである正弦波W
i´(i=1,2,…,p×q)について、各正弦波が発生する頻度n
i(i=1,2,…,p×q)と、
図7に示すようなS-N線図を参照して取得した、当該応力振幅を繰り返し加えたときに保守対象部が破断に至る繰り返し回数N
i(i=1,2…,p×q)とを線形累積損傷則に適用することで、試験装置が運転条件に従って運転した際の保守対象部の寿命消費率ΔDを算出する。このとき、寿命消費率ΔDは式(2)を用いて算出する。
【0044】
【0045】
なお、寿命消費率ΔDの算出は、上述した方法に限らず、例えば、修正マイナー則、ハイバッハの方法、コーテン-ドランの方法、および、JSCC(一般社団法人日本鋼構造協会)の指針のうちのいずれか1つを用いてもよい。
【0046】
寿命算出部15は、算出した寿命消費率を記憶部12に保存する。
続いて、取得部13は、記憶部12から寿命消費率、機械の稼働計画、および、保守設定値を取得する(ステップS6)。そして、保守時期算出部16は、寿命消費率と、機械の稼働計画とを用いて、各保守対象部の推定寿命を算出する(ステップS7)。保守時期算出部16は、機械が1回運転したときの寿命消費率ΔDの数値を機械の稼働計画に基づき加算したとき、ΔDの総和が1に達するまでにかかる時間を、各保守対象部の推定寿命として算出する。
【0047】
続いて、保守時期算出部16は、各保守対象部の推定寿命と保守設定値をもとに、各保守対象部の推奨保守時期を算出する(ステップS8)。保守設定値は、機械の運転中に保守対象部が寿命を迎えて機械の運転に問題が発生するリスクと、保守費用との関係を考慮して、任意に設定される係数である。保守時期算出部16は、以下の式(3)を用いて、推奨保守時期を算出する。
【0048】
【0049】
最後に、出力部17は、各保守対象部について算出した寿命消費率と推奨保守時期とを出力する(ステップS9)。
【0050】
以上、上述した実施形態によれば、以下の効果を得ることが出来る。
(1)保守支援装置1は、機械のシミュレーション条件データと運転条件とを用いて生成したシミュレーション結果データから、機械に含まれる複数の保守対象部の寿命消費率を算出する寿命算出部15と、寿命消費率と稼働計画とを用いて各保守対象部について算出された推定寿命に基づき、各保守対象部に保守作業を行うべき推奨保守時期を算出する保守時期算出部16と、を備える。そのため、機械の導入前を含めた機械が運転を開始する前から、各保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とを高い精度で算出することが可能となる。
【0051】
(2)シミュレーション結果データは、各保守対象部に加わる予定トルク値を含み、寿命算出部15は、予定トルク値を用いて各保守対象部の寿命消費率を算出する。そのため、保守支援装置1は、エンジン40に接続する回転軸やカップリングといった回転体を含む保守対象部の寿命消費率を算出することが可能となる。
【0052】
(3)シミュレーション結果データは、予定トルク値を用いて行う各保守対象部の応力解析の結果を含み、寿命算出部15は、応力解析の結果と、各保守対象部を構成する材料の機械的性質とを線形累積損傷則に適用することで、各保守対象部の寿命消費率を算出する。そのため、保守支援装置1は、保守対象部の寿命消費率をより高い精度で算出することが可能となる。
【0053】
(4)保守時期算出部16は寿命消費率と機械の稼働計画とから推定寿命を算出し、推定寿命に保守設定値を掛けることで推奨保守時期を算出する。そのため、機械の運転中に保守対象部が寿命を迎えるリスクと保守費用とを考慮して適切な保守時期を設定することが可能となる。
【0054】
[第2実施形態]
続いて、
図8を参照して、保守支援装置の第2実施形態について説明する。
図8に示すように、保守支援装置100は、使用者端末200、および、保守支援装置100が保守作業を支援する機械の一例である複数のエンジン試験装置2とネットワークNWを介して接続する。使用者端末200は、保守支援装置100の使用者が使用するコンピュータ端末である。保守支援装置100の使用者は、例えば、機械を製造する者であって、機械が運転を開始する前、例えば機械を導入するかどうかを検討する際の機械の見積り時に機械が備える保守対象部の寿命消費率、推定寿命、および、推奨保守時期を算出する者であって、また、機械が運転を開始した後に機械の運転状況に基づいて保守対象部の寿命消費率、推定寿命、および、推奨保守時期を更新する者である。機械の運転状況は、機械の運転に伴って検出された機械の状況を示す値であって、例えば、エンジンが出力したトルクの値、機械の温度、機械の運転音や振動の大きさである。
【0055】
使用者端末200は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクなどのハードウェアにより構成されたコンピュータであって、例えば、デスクトップ型、ノート型、またはタブレット型の通常のコンピュータである。また、保守支援装置100は、例えば、クラウドコンピューティングに用いるクラウドサーバである。保守支援装置100は、クラウドサーバに限らず、保守支援装置100の使用者によって管理されるサーバであってもよい。
【0056】
機械の導入前を含めた機械が運転を開始する前は、使用者端末200は、機械のシミュレーション結果データを生成し、保守支援装置100に送信する。保守支援装置100は、使用者端末200から機械のシミュレーション結果データを取得し、機械の保守対象部の寿命消費率、推定寿命、および、推奨保守時期を算出する。保守支援装置100は、算出した保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とを使用者端末200に送信する。使用者端末200は、保守支援装置100から受信した保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とを出力する。
【0057】
また、機械が運転を開始した後は、使用者端末200は、ネットワークNWを介して機械と接続しており、機械の運転状況をネットワークNWを介して取得する。本実施形態において、機械は
図2に示すようなエンジン試験装置2であって、エンジン試験装置2は、機械の運転状況としてエンジンが出力したトルクの値を、トルク検出器29において実トルク値として検出する。エンジン試験装置2は、トルク検出器29が検出した実トルク値を、ネットワークNWを介して使用者端末200に送信する。使用者端末200は、エンジン試験装置2が送信した実トルク値を取得して、シミュレーション実施部204において、エンジン試験装置2の各保守対象部に発生したと考えられる応力の修正変動パターンを算出する。使用者端末200は、ネットワークNWを介して応力の修正変動パターンを保守支援装置100に送信する。保守支援装置100は、応力の修正変動パターンを頻度解析した上で線形累積損傷則を適用することにより各保守対象部の修正寿命消費率を算出して、修正寿命消費率に基づいて修正推定寿命を算出する。そして、保守支援装置100は、修正推定寿命と保守設定値とを用いて推奨保守時期を更新する。
【0058】
以下、保守支援装置100、使用者端末200の構成について詳述する。使用者端末200は、入力部201、記憶部202、取得部203、シミュレーション実施部204、および、出力部207を備える。入力部201は、保守支援装置100に各種情報を入力するための手段であり、キーボードやポインティングデバイス、通信インターフェースなどにより構成される。入力部201は、機械のシミュレーション条件データや、機械の運転条件、機械の稼働計画を保守支援装置100に入力する。
【0059】
機械のシミュレーション条件データは、CADシステムによって作成された機械の構造を表す三次元モデルや、機械部品の機械的性質を含む。機械の運転条件は、機械の出力の時系列変化を示す出力パターンである。機械の稼働計画は、一定期間において、機械が運転する回数、または機械が運転する時間を示す運転スケジュールである。入力された機械のシミュレーション条件データ、運転条件、および、稼働計画とは記憶部202によって記憶される。
【0060】
記憶部202は、入力部201によって入力された情報や、後述するシミュレーション実施部204が実施したシミュレーション結果データ、保守支援装置100の寿命算出部105が算出した保守対象部の寿命消費率、保守設定値、および、保守時期算出部106が算出した推定寿命、推奨保守時期を記憶する。
【0061】
取得部203は、シミュレーション実施部204がシミュレーションを行うために必要な情報を取得する。
シミュレーション実施部204は、機械のシミュレーション条件データと機械の運転条件とを用いて機械のシミュレーションを実施して、シミュレーション結果データを生成する。シミュレーション結果データは、機械が運転条件に従って運転した際に機械の各要素にかかるトルクの大きさである予定トルク値の算出結果と、予定トルク値から算出した応力解析の結果とを含む。シミュレーション実施部204は、生成したシミュレーション結果データを記憶部202に記憶させる。
【0062】
出力部207は、各種情報を出力するための手段であり、ディスプレイ、プリンタなどにより構成される。出力部207は、保守支援装置100が算出して使用者端末200が受信した保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とを出力する。
【0063】
保守支援装置100は、取得部103、寿命算出部105、保守時期算出部106を備える。取得部103は、保守支援装置100が機械の推奨保守時期を算出するために必要な情報を使用者端末200の記憶部202から取得する。取得部103は、使用者端末200のシミュレーション実施部204が生成したシミュレーション結果データを使用者端末200から直接取得し、また、使用者端末200の入力部201から入力された機械の稼働計画を使用者端末200から直接取得してもよい。
【0064】
寿命算出部105は、取得した機械のシミュレーション結果データを用いて、各保守対象部の寿命消費率を算出する。
保守時期算出部106は、各保守対象部の寿命消費率と機械の稼働計画とを用いて保守対象部の推定寿命を算出し、そして、推定寿命と保守設定値とを用いて各保守対象部の推奨保守時期を算出する。推奨保守時期は、機械が運転を開始したときから各保守対象部に保守作業を行うことが推奨されるときまでの時間である。
【0065】
複数のエンジン試験装置2はそれぞれネットワークNWを介して使用者端末200の取得部203と接続される。エンジン試験装置2は保守支援装置100が寿命消費率と推奨保守時期とを算出する対象である保守対象部を備える。保守対象部は、エンジンが出力する実トルク値を検出するトルク検出器29を含む。トルク検出器29は、検出した実トルク値を使用者端末200に送信する。使用者端末200において、取得部203がトルク検出器29から実トルク値を取得し、そして、シミュレーション実施部204がエンジン試験装置2のシミュレーション条件データと運転条件と実トルク値とを用いて、応力の修正変動パターンを算出する。保守支援装置100において、取得部103が使用者端末から応力の修正変動パターンを取得し、そして、寿命算出部105は保守対象部の修正寿命消費率を算出する。その後、保守支援装置100において、算出した修正寿命消費率をもとに、保守時期算出部106が保守対象部の推奨保守時期を更新する。
【0066】
例えば、実際に機械が運転された出力パターンと、シミュレーションに用いた機械の出力パターンとが違うために予定トルク値と異なる実トルク値が検出された場合、まず、寿命算出部105は、実トルク値を用いて、実トルク値が検出された期間の修正寿命消費率を算出する。そして、今後はシミュレーションと同様の出力パターンで機械を運転する予定である場合、保守時期算出部106は、実トルク値が検出された期間の修正寿命消費率に、予定トルク値に基づいて算出した寿命消費率を今後の機械の稼働計画に従って加算する。そして、保守時期算出部106は、修正寿命消費率に寿命消費率を加算した値がいつ1に達するかを算出することで、保守対象部の修正推定寿命を算出する。
【0067】
また、今後の機械の運転条件や稼働計画がシミュレーションと異なる場合は、新しい機械の運転条件や機械の稼働計画に基づいて、寿命算出部105が寿命消費率を算出し直す。そして、保守時期算出部106は、修正寿命消費率に、算出し直した寿命消費率を稼働計画に従って加算する。保守時期算出部106は、修正寿命消費率に寿命消費率を加算した値がいつ1に達するかを算出することで、保守対象部の修正推定寿命を算出する。保守時期算出部106は、修正推定寿命に基づき、保守対象部の推奨保守時期を更新する。
【0068】
一方、実際に機械が運転された出力パターンとシミュレーションに用いた機械の出力パターンとが同様であるにも関わらず予定トルク値と実トルク値とが異なる場合、応力解析に用いた予定トルク値を実トルク値で補正した上で応力解析の結果を算出し直す。そして、算出し直した応力解析の結果に基づいて保守対象部の修正寿命消費率を算出する。保守時期算出部106は、機械の稼働計画に基づいて修正寿命消費率を加算する。保守時期算出部106は、修正寿命消費率を加算した値がいつ1に達するかを算出することで、保守対象部の修正推定寿命を算出し、そして、保守対象部の推奨保守時期を更新してもよい。
【0069】
なお、修正寿命消費率、修正推定寿命、および、推奨保守時期をより高い精度で算出するため、寿命算出部105および保守時期算出部106が行う処理に対して、予定トルク値と実トルク値の差異を3Dモデルなどのシミュレーション実施データで補正できるよう反映する、または、予定トルク値に差異を補正する係数を掛ける、などの処理を追加しても良い。
【0070】
以上、上述した実施形態によれば、上記(1)~(4)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(5)保守支援装置100と使用者端末200と複数の機械とは、ネットワークNWを介して接続する。シミュレーション実施部204は、ネットワークNWを介して各機械から取得した実トルク値を用いて応力解析の結果を修正する。寿命算出部105は、各機械が含む複数の保守対象部のそれぞれについて寿命消費率を算出するとともに、各機械が運転を開始した後、複数の保守対象部について修正された応力解析の結果に基づいて修正寿命消費率を算出する。そのため、機械の導入前を含めた機械が運転を開始する前に保守対象部の寿命消費率を算出した上で、機械が実際に出力した実トルク値をネットワークを介して取得して、保守対象部の修正寿命消費率を容易に算出することが可能となる。結果として、保守支援装置100は、推定寿命の精度を高めた修正推定寿命を算出し、そして、推奨保守時期をより精度高いものに更新することが可能となる。
【0071】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・第1実施形態および第2実施形態において、保守支援装置1,100は、保守対象部の保守作業に必要な保守費用を記憶する保守費用記憶部と、機械の単位時間当たりの維持費用を算出する維持費用算出部とをさらに備えてもよい。維持費用算出部は、保守時期算出部16,106が算出した推奨保守時期と、保守費用とから、機械の単位時間当たりの維持費用を算出する。維持費用算出部は、例えば、機械の1年あたりの維持費用を算出する。上述した構成によれば、機械を導入する前を含めた機械が運転を開始する前から、各保守対象部の寿命消費率と推奨保守時期とに加えて機械の維持費用を算出することが可能ともなる。
【0072】
・第1実施形態および第2実施形態において、保守支援装置1,100は、シミュレーション結果データに含まれる予定トルク値と応力解析の結果以外のデータを用いて機械の構成要素の寿命消費率と推奨保守時期とを算出してもよい。例えば、軸受23の寿命は、回転体の回転速度R(min-1)と回転体に発生する荷重の大きさ(N)から導くこともできる。
【0073】
中間軸受軸25や軸受23が行う回転運動の回転速度はエンジンの出力パターンにしたがって変動するため、エンジンの出力パターンから平均回転速度Rm(min-1)を算出し、軸受23の寿命消費率の算出に用いる。例えば、回転体が回転速度Ri(min-1)(i=1,2,…k)でそれぞれ時間ti(i=1,2,…k)だけ回転するとき、回転体の平均回転速度Rm(min-1)は、以下の式(4)で算出される。
【0074】
【0075】
軸受23の基本定格寿命L10h(h)は、軸受23の平均回転速度Rm(min-1)、軸受23にかかる動等価荷重P(N)、軸受23の基本動定格荷重C(N)を用いて以下の式(5)によって算出される。
【0076】
【0077】
なお、式(5)における指数pの値は、玉軸受の場合はp=3、ころ軸受の場合はp=10/3として計算する。
【0078】
保守時期算出部16,106は、機械の運転条件から回転体の回転速度の変動パターンを取得し、また、応力の変動パターンから動等価荷重P(N)を算出する。そして、保守時期算出部106は上述した式(4)、式(5)を用いて軸受23の推定寿命として基本定格寿命を算出し、そして、軸受23の推奨保守時期を算出する。
【0079】
また、軸受23が密封形玉軸受である場合、軸受23のグリス寿命L(h)は、軸受23の呼び外径D(mm)、呼び内径d(mm)、平均回転速度Rm(min-1)、軸受23にかかる動等価ラジアル荷重Pr(N)、基本ラジアル定格荷重Cr(N)、軸受の運転温度T(℃)(50≦T≦120,50>Tの場合はT=50)を用いて以下の式(6)によって算出してもよい。
【0080】
【0081】
さらに、軸受23の推定寿命としては、上述した基本定格寿命L10hとグリス寿命Lとをそれぞれ算出した上で、より短い方を軸受23の推定寿命として採用してもよい。
【0082】
上述した方法によれば、軸受23のような複雑な動きをする回転体であっても、推定寿命と推奨保守時期とを算出することが可能となる。
・第1実施形態および第2実施形態において、応力頻度解析には、二次元レインフロー法に代表される二次元頻度解析を用いた。一方、応力頻度解析には極値法、最大最小法、レインフロー法、振幅法などの一次元頻度解析を用いてもよい。この場合、ステップS5において、二次元頻度解析の結果を一次元頻度解析の結果に換算する処理は不要である。
【0083】
・第1実施形態および第2実施形態において、保守支援装置が保守作業の支援を行う対象である機械の一例としてエンジン試験装置を挙げて説明した。一方、機械は、エンジン試験装置に限らず、例えば、トランスミッションの性能を試験する試験装置や、車の性能を試験する試験装置であってもよい。また、機械は、試験装置に限らず、保守作業を要する装置であれば、保守支援装置を用いて保守作業を支援することが可能である。
【0084】
・第1実施形態および第2実施形態において、シミュレーション実施部14,204は、予定トルク値の算出と、予定トルク値に基づく応力解析とを行う構成とした。一方、シミュレーション実施部14,204は、予定トルク値の算出のみを行う構成であってもよい。このとき、寿命算出部15,105は、材料力学の公式に基づき、予定トルク値から保守対象部に発生する応力の大きさを計算してもよい。
【0085】
・第1実施形態および第2実施形態において、寿命算出部が保守対象部の寿命消費率を算出するのに用いるS-N線図や応力頻度解析の結果の二次元頻度から一次元頻度への換算式などの疲労破壊に関するデータは、シミュレーションに用いる材料の機械的性質に含まれてシミュレーション結果データとともに取得される構成とした。一方、疲労破壊に関するデータは、記憶部12,202に記憶されて、寿命算出部15,105が保守対象部の寿命消費率を算出する際に、取得部13,103が記憶部12,202から取得する構成であってもよい。
【0086】
・第1実施形態および第2実施形態において、寿命算出部15,105が寿命消費率を算出する処理を行い、保守時期算出部16,106が、寿命消費率と稼働計画とから保守対象部の推定寿命を算出する処理と、推定寿命と保守設定値とから推奨保守時期を算出する処理とを行う構成とした。一方、寿命算出部15,105が寿命消費率を算出する処理と、寿命消費率と稼働計画とから保守対象部の推定寿命を算出する処理とを行い、保守時期算出部16,106が、推定寿命と保守設定値とから保守対象部の推奨保守時期を算出する処理を行う構成としてもよい。
【0087】
・第1実施形態において、保守支援装置1は、シミュレーション実施部14を備えなくともよい。すなわち、外部のコンピュータ端末が、シミュレーション条件データと機械の運転条件とから機械のシミュレーション結果データを生成するシミュレーション実施部を備え、保守支援装置1は、生成されたシミュレーション結果データを外部のコンピュータ端末から取得する構成であってもよい。上述した構成であったとしても、上記(1)に準じた効果を得ることができる。
【0088】
・第1実施形態において、保守支援装置1は、機械が運転を開始した後、機械のトルク検出器29が検出したトルクの大きさである実トルク値を取得し、寿命算出部15は、各保守対象部の寿命消費率を算出し直した値である修正寿命消費率を算出する構成であってもよい。寿命算出部15は、シミュレーション結果データと運転条件と実トルク値とを用いて、修正寿命消費率を算出する。上述した構成によれば、機械が運転を開始した後、寿命消費率を算出したときに用いた機械の運転条件と異なる運転条件の下で機械を運転したとしても、実トルク値を用いて寿命消費率の算出値を修正することが可能となる。
【0089】
なお、取得部13が実トルク値を取得するとき、入力部から入力された実トルク値を取得してもよく、入力部から入力されて記憶部に記憶された実トルク値を記憶部から取得してもよい。
【0090】
・第2実施形態において、保守支援装置100は、ネットワークを介して一つの機械と接続する構成であってもよい。上述した構成であったとしても、上記(5)に準じた効果を得ることができる。
【0091】
・第2実施形態において、保守支援装置100は取得部103、寿命算出部105、および、保守時期算出部106を備え、使用者端末200は、入力部201、記憶部202、取得部203、シミュレーション実施部204、出力部207を備える構成とした。一方、保守支援装置100と使用者端末200は、上述した構成に限られない。
【0092】
例えば、保守支援装置100がシミュレーション実施部を備え、また、保守支援装置100がネットワークNWを介して機械から実トルク値を取得する構成であってもよい。このとき、保守支援装置100は、機械が運転を開始した後、実トルク値を用いて、応力の修正変動パターンを算出する。そして、保守支援装置100は、応力の修正変動パターンを用いて修正寿命消費率を算出し、修正寿命消費率に基づいて修正推定寿命を算出するとともに推奨保守時期を更新する。
【0093】
また、保守支援装置100がネットワークNWを介して機械から実トルク値を取得し、また、使用者端末200がシミュレーション実施部204を備える構成であってもよい。このとき、使用者端末200は、機械が運転を開始した後、ネットワークNWを介して保守支援装置100から実トルク値を取得して、取得した実トルク値を用いて、応力の修正変動パターンを算出する。そして、使用者端末200は、応力の修正変動パターンを用いて修正寿命消費率を算出し、修正寿命消費率に基づいて修正推定寿命を算出するとともに推奨保守時期を更新する。
【0094】
すなわち、保守支援装置100と使用者端末200とが、機械と接続されて、保守支援装置100が、取得部103、寿命算出部105、保守時期算出部106を備える構成であれば、上記(5)に準じた効果を得ることができる。
【0095】
・第2実施形態において、機械は、トルク検出部で検出された実トルク値に対して頻度解析を行う頻度解析部をさらに備え、保守支援装置100は、実トルク値に対する頻度解析の結果をネットワークNWを介して機械から受信し、実トルク値に対する頻度解析の結果を応力頻度に換算する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0096】
1,100…保守支援装置
11,201…入力部
12,202…記憶部
13,103,203…取得部
14,204…シミュレーション実施部
15,105…寿命算出部
16.106…保守時期算出部
17,207…出力部
200…使用者端末
2…エンジン試験装置
21…クラッチ
22…中間軸
23…軸受
24…中間軸受箱
25…中間軸受軸
26…中間軸受軸延長軸
27A…第1カップリング
27B…第2カップリング
27C…第3カップリング
28…延長軸
29…トルク検出器
31…支柱
32…支柱
40…エンジン
50…動力計
NW…ネットワーク