(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】検査方法、及び、組電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20220616BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2020192292
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019208927
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 真也
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-048971(JP,A)
【文献】特開2001-236985(JP,A)
【文献】特開2015-191814(JP,A)
【文献】国際公開第2014/147808(WO,A1)
【文献】特開2010-157449(JP,A)
【文献】特開2019-075300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/05
H01M 4/64
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂集電体、前記樹脂集電体に活物質層が積層された電極シート、前記電極シートにセパレータが組み合わされたセパレータ付き電極シート、又は、順に積層された一組の正極樹脂集電体と正極活物質層とセパレータと負極活物質層と負極樹脂集電体とを備える単電池を検査対象物として、前記検査対象物の表面に導電体プローブを接触させて、前記検査対象物の表面の複数箇所における電気抵抗を測定する工程と、
前記電気抵抗が許容範囲外である箇所が前記検査対象物に存在するか否かを判定する工程と、を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記検査対象物の表面のうち、積層方向において対向する箇所に前記導電体プローブを接触させる請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記導電体プローブが積層方向において対向した状態で配置された領域に前記検査対象物を通過させることで、前記検査対象物の表面に前記導電体プローブを接触させる請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記導電体プローブが炭素材からなる請求項1~3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の検査方法により前記電気抵抗が許容範囲外である箇所が存在しないと判定された検査対象物を用いて、複数の単電池を積層する工程を備えることを特徴とする組電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法、及び、組電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量電池の需要が高まり、複数の単電池を積層した組電池が多く生産される中、それらの生産過程において不具合品を効率良く取り除く必要性が高まっている。
【0003】
特許文献1には、正極板と負極板をセパレータを介して積層して構成した極板群を電槽内に挿入して成る電池の短絡検査方法であって、極板群を電槽に挿入する前に極板群を加圧しながら短絡不良を検査することを特徴とする電池の短絡検査方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、組電池を構成する単電池を検査する方法であって、複数の単電池を積層状に配列し、配列した単電池群を積層方向に押圧した状態で各単電池を検査することを特徴とする単電池の検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-236985号公報
【文献】特開2005-339925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の検査方法では、単電池を組んだ極板群を加圧した状態で短絡不良を検査するため、極板群に不具合が発見された場合、どの単電池に不具合が生じているのかを特定することが容易ではない。一方、特許文献2に記載の検査方法では、積層状に配列した単電池群を積層方向に押圧した状態で各単電池を検査するため、単電池群に不具合が発見された場合、不具合が生じている単電池を単電池群から取り替える必要がある。このように、従来の検査方法は、効率的に不具合を発見する方法であるとは言えなかった。
【0007】
本発明は、樹脂集電体、電極シート、セパレータ付き電極シート又は単電池単位で短絡等の不具合を簡便に発見することができる検査方法を提供することを目的とする。本発明はまた、上記検査方法を用いた組電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂集電体、上記樹脂集電体に活物質層が積層された電極シート、上記電極シートにセパレータが組み合わされたセパレータ付き電極シート、又は、順に積層された一組の正極樹脂集電体と正極活物質層とセパレータと負極活物質層と負極樹脂集電体とを備える単電池を検査対象物として、上記検査対象物の表面に導電体プローブを接触させて、上記検査対象物の表面の複数箇所における電気抵抗を測定する工程と、上記電気抵抗が許容範囲外である箇所が上記検査対象物に存在するか否かを判定する工程と、を備えることを特徴とする検査方法;上記検査方法により上記電気抵抗が許容範囲外である箇所が存在しないと判定された検査対象物を用いて、複数の単電池を積層する工程を備えることを特徴とする組電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂集電体、電極シート、セパレータ付き電極シート又は単電池単位で短絡等の不具合を簡便に発見することができる。これにより、不具合が生じていない単電池を用いて組電池を作製することができるため、生産歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の検査方法の一例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の検査方法の別の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の検査方法のさらに別の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の検査方法において検査対象物として用いられる単電池の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
【
図5】
図5は、組電池の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[検査方法]
本発明の検査方法は、検査対象物の表面に導電体プローブを接触させて、上記検査対象物の表面の複数箇所における電気抵抗を測定する工程と、上記電気抵抗が許容範囲外である箇所が上記検査対象物に存在するか否かを判定する工程と、を備える。
【0012】
検査対象物においては、面内で均一な抵抗分布であることが望まれる。そのため、本発明の検査方法では、測定した電気抵抗が許容範囲外である箇所が検査対象物に存在する場合、その検査対象物に不具合が生じていると判定する。なお、電気抵抗の増加は、導電材料の分散不良に起因し、電池抵抗の悪化に繋がる。一方、電気抵抗の減少は、絶縁されるべき箇所が導通して電気抵抗が低下する微小短絡に起因し、電池品質や異常時信頼性の悪化に繋がる。
【0013】
本発明の検査方法において、電気抵抗の許容範囲は、電極の仕様に依存する所定値の±30%であることが好ましい。なお、上記所定値は、検査対象物の表面の複数箇所において測定された電気抵抗の平均値からも求めることができる。
【0014】
本発明の検査方法では、一例として、順に積層された一組の正極樹脂集電体と正極活物質層とセパレータと負極活物質層と負極樹脂集電体とを備える単電池を検査対象物とする。従来の金属集電体を用いた単電池では、横方向(面方向)への電気抵抗が低いため、電流値が面内で均一化されてしまい、本発明の検査方法では不具合を発見することができない。このように、本発明の検査方法は、樹脂集電体を用いた単電池にのみ有効であると言える。
【0015】
本発明の検査方法において、検査対象物として用いられる単電池としては、例えば、リチウムイオン電池等が挙げられる。本明細書において、リチウムイオン電池は、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0016】
あるいは、本発明の検査方法では、単電池に代えて、樹脂集電体、上記樹脂集電体に活物質層が積層された電極シート、又は、上記電極シートにセパレータが組み合わされたセパレータ付き電極シートを検査対象物とすることもできる。これらの検査対象物にも樹脂集電体が用いられているため、単電池を検査対象物とした場合と同様の効果を得ることができる。
【0017】
本発明の検査方法において、検査対象物の表面に導電体プローブを接触させる方法は特に限定されないが、面内における不具合箇所を確実に検出する観点からは、後述する
図1、
図2及び
図3に示すように、検査対象物の表面のうち、積層方向において対向する箇所に導電体プローブを接触させることが好ましい。
【0018】
本発明の検査方法において、導電体プローブの材質は特に限定されないが、金属のコンタミネーション(金属の異物混入)を防止する観点、及び、測定感度を高くする観点からは、導電体プローブが炭素材からなること、すなわち、導電体プローブの先端部分(検査対象物と接触する部分)の材料が炭素材料であることが好ましい。導電体プローブの先端部分の材料は、銅、アルミニウム等の金属系材料であってもよい。
【0019】
本発明の検査方法において、導電体プローブの形状やサイズは特に限定されない。導電体プローブの先端部分(検査対象物と接触する部分)の形状としては、例えば、長方形、正方形等が挙げられる。また、導電体プローブの先端部分の面積が小さくなるほど、局所の情報を得ることができるため、感度が良くなる。そのため、導電体プローブの先端部分の面積は、12cm2以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の検査方法において、導電体プローブを接触させるときの圧力は特に限定されないが、5kPa以上であることが好ましい。
【0021】
図1は、本発明の検査方法の一例を模式的に示す側面図である。
図1では、検査対象物1の両面に一対の導電体プローブ2が配置されており、検査対象物1の表面のうち、検査対象物1の積層方向(
図1では上下方向)において対向する箇所に導電体プローブ2を接触させている。この状態で、検査対象物1を矢印の向きに移動させることにより、検査対象物1の表面の複数箇所における電気抵抗を連続的に測定することができる。なお、検査対象物の両面には、矢印の向きに沿って複数対の導電体プローブ2が配置されていてもよい。
【0022】
図2は、本発明の検査方法の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図2では、検査対象物1の幅方向に沿って複数対の導電体プローブ2が検査対象物1の両面に配置されており、検査対象物1の表面のうち、検査対象物1の積層方向において対向する箇所に導電体プローブ2を接触させている。この状態で、検査対象物1を矢印の向きに移動させることにより、検査対象物1の幅方向における電気抵抗を同時に測定することができる。なお、複数対の導電体プローブ2は、いわゆるジグザグ状に配置されていてもよい。また、検査対象物の両面には、矢印の向きに沿って複数対の導電体プローブ2がさらに配置されていてもよい。
【0023】
本発明の検査方法では、
図1及び
図2に示すように、導電体プローブが積層方向において対向した状態で配置された領域に検査対象物を通過させることで、検査対象物の表面に導電体プローブを接触させることが好ましい。なお、本発明の検査方法では、検査対象物を移動させる代わりに、導電体プローブを移動させてもよい。また、検査対象物及び導電体プローブの両方を移動させてもよい。
【0024】
図3は、本発明の検査方法のさらに別の一例を模式的に示す斜視図である。
図3では、検査対象物1の測定箇所Pに対応する箇所に複数対の導電体プローブ2が検査対象物1の両面に配置されており、検査対象物1の表面のうち、検査対象物1の積層方向において対向する箇所に導電体プローブ2を接触させる。これにより、検査対象物1の表面の複数箇所における電気抵抗を同時に測定することができる。導電体プローブ2の配置は特に限定されず、例えば、千鳥状や格子状等に配置される。
【0025】
本発明の検査方法において、検査対象物の表面に複数の導電体プローブを接触させる場合、導電体プローブの配置は特に限定されない。また、隣接する導電体プローブ間の距離は、等間隔であることが好ましいが、特に限定されない。
【0026】
以下、本発明の検査方法の実施例について説明する。なお、本発明の検査方法は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
導電体プローブとして、検査対象物との接触面を構成する先端部分の材料(表1中、「接触面材料種」と記載する)が炭素材料であり、先端部分の面積が48cm
2である測定端子を単電池の両面(上面及び下面)に接触させる。この際、同端子に5kPaの圧力がかかるよう押圧する。また、測定端子の先はLCRメーター(テクシオ・テクノロジー製、LCR-916)に接続し、単電池の電気抵抗をモニタリングする。その状態で、単電池の端をクリップでつかんで、
図1に示すように単電池を引っ張り、測定端子間に単電池を通過させる。移動速度は10~60mm/secとする。その結果、実施例1の仕様では、正常領域では抵抗平均値が51.0Ω・cm
2を示し、意図的に短絡させた箇所を通過すると抵抗値が46.0Ω・cm
2まで低下する事象が確認された。
【0028】
(実施例2~7)
単電池の上面に接触させる測定端子の先端部分の面積(表1中、「上面プローブ面積」と記載する)、単電池の下面に接触させる測定端子の先端部分の面積(表1中、「下面プローブ面積」と記載する)、及び、測定端子を接触させるときの圧力(表1中、「押圧」と記載する)を表1に示す値に変更したことを除いて、実施例1と同様に単電池の電気抵抗をモニタリングした。
【0029】
実施例1~7における正常領域の抵抗平均値、短絡箇所の抵抗値、上面プローブ面積、下面プローブ面積、押圧、及び、接触面材料種を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1より、実施例1~7では、意図的に短絡させた箇所を測定端子が通過すると、正常領域よりも抵抗値が低下する事象が確認された。
【0032】
(実施例8)
実施例2の条件で単電池の電気抵抗をモニタリングした。
【0033】
(実施例9)
検査対象物との接触面を構成する先端部分の材料(表2中、「接触面材料種」と記載する)を炭素材料から金属系材料である銅に変更したことを除いて、実施例8と同様に単電池の電気抵抗をモニタリングした。
【0034】
(実施例10)
検査対象物との接触面を構成する先端部分の材料を炭素材料から金属系材料であるアルミニウムに変更したことを除いて、実施例8と同様に単電池の電気抵抗をモニタリングした。
【0035】
実施例8~10において、単電池の正常領域を複数箇所測定して、抵抗値の標準偏差(N)を算出するとともに、正常領域の抵抗値と短絡領域の抵抗値との差(S)を算出し、Nに対するSの割合であるS/N比を算出した。この数値が高いほど、測定感度が高いことを表している。
【0036】
実施例8~10におけるS/N比、上面プローブ面積、下面プローブ面積、押圧、及び、接触面材料種を表2に示す。
【0037】
【0038】
表2は、検査対象物との接触面を構成する先端部分の材料が金属系材料(銅又はアルミニウム)である場合に比べて、炭素材料である場合の方が、S/N比が高く、測定感度が高いことを示している。これは、炭素材料は接触抵抗が小さく標準偏差Nが小さくなるのに対して、金属系材料は接触抵抗が大きく標準偏差Nが大きくなるため、炭素材料の場合には、単電池の表面と導電体プローブとの間の接触抵抗の差が小さくなるためと考えられる。
【0039】
(実施例11~20)
単電池10個に対して、実施例2の条件で電気抵抗をモニタリングし、それぞれの単電池における抵抗値の標準偏差Nを算出した。また、各実施例において、単電池の設計から算出される出力と、実際に単電池の出力試験を行った際の出力との比である出力/設計割合を算出した。この数値が100%に近いほど、設計通りの出力が出ていることを表しているため、良品と判断できる。
【0040】
実施例11~20における抵抗値の標準偏差、及び、出力/設計割合を表3に示す。
【0041】
【0042】
表3は、本発明の検査方法で得られる抵抗値の標準偏差Nと出力/設計割合との間に相関があることを示している。具体的には、抵抗値の標準偏差Nが大きくなるほど、出力/設計割合が低下している。この結果から、実際に単電池の出力試験を行わなくても、本発明の検査方法によって単電池の良品判定が可能であることが確認された。
【0043】
図4は、本発明の検査方法において検査対象物として用いられる単電池の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
図4に示す単電池10は、略矩形平板状の正極樹脂集電体17の表面に正極活物質層15が形成された正極12と、同様に略矩形平板状の負極樹脂集電体19の表面に負極活物質層16が形成された負極13とが、同様に略平板状のセパレータ14を介して積層されて構成され、全体として略矩形平板状に形成されている。この正極12と負極13とがリチウムイオン電池の正極及び負極として機能する。
【0044】
単電池10は、正極樹脂集電体17及び負極樹脂集電体19の間に配置されて正極樹脂集電体17及び負極樹脂集電体19の間にセパレータ14の周縁部を固定し、かつ正極活物質層15、セパレータ14及び負極活物質層16を封止する、環状の枠部材18を有することが好ましい。
【0045】
正極樹脂集電体17及び負極樹脂集電体19は、枠部材18により所定間隔をもって対向するように位置決めされているとともに、セパレータ14と正極活物質層15及び負極活物質層16も枠部材18により所定間隔をもって対向するように位置決めされている。
【0046】
正極樹脂集電体17とセパレータ14との間の間隔、及び、負極樹脂集電体19とセパレータ14との間の間隔はリチウムイオン電池の容量に応じて調整され、これら正極樹脂集電体17、負極樹脂集電体19及びセパレータ14の位置関係は必要な間隔が得られるように定められている。
【0047】
本発明の検査方法に用いられる検査対象物は、単電池10に代えて、正極樹脂集電体17、負極樹脂集電体19、正極樹脂集電体17に正極活物質層15が積層された正極シート、負極樹脂集電体19に負極活物質層16が積層された負極シート、正極シートにセパレータ14が組み合わされたセパレータ付き正極シート、又は、負極シートにセパレータ14が組み合わされたセパレータ付き負極シートであってもよい。
【0048】
以下に、単電池を構成する各構成要素の好ましい態様について説明する。
【0049】
正極活物質層には正極活物質が含まれる。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属元素が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び遷移金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0050】
正極活物質は、導電助剤及び被覆用樹脂で被覆された被覆正極活物質であることが好ましい。
正極活物質の周囲が被覆用樹脂で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0051】
導電助剤としては、金属系導電助剤[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、炭素系導電助剤[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、炭素系導電助剤及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及び炭素系導電助剤であり、特に好ましくは炭素系導電助剤である。
また、これらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0052】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0053】
被覆用樹脂と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗等の観点から、重量比率で被覆用樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50であることが好ましく、1:0.2~1:3.0であることがより好ましい。
【0054】
被覆用樹脂としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0055】
また、正極活物質層は、被覆正極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。
導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0056】
正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。
ここで、非結着体とは、正極活物質が結着材(バインダともいう)により位置を固定されておらず、正極活物質同士及び正極活物質と集電体が不可逆的に固定されていないことを意味する。
【0057】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
なお、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。一方、結着材として用いられる溶液乾燥型の電極バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。
従って、溶液乾燥型の電極バインダ(結着材)と粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0058】
正極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0059】
負極活物質層には負極活物質が含まれる。
負極活物質としては、公知のリチウムイオン電池用負極活物質が使用でき、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
【0060】
また、負極活物質は、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆用樹脂で被覆された被覆負極活物質であってもよい。
導電助剤及び被覆用樹脂としては、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆用樹脂を好適に用いることができる。
【0061】
また、負極活物質層は、被覆負極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0062】
負極活物質層は、正極活物質層と同様に、負極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。また、正極活物質層と同様に、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
【0063】
負極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0064】
正極樹脂集電体及び負極樹脂集電体は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体である。
樹脂集電体の形状は特に限定されず、導電性高分子材料からなるシート状の集電体、及び、導電性高分子材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
樹脂集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0065】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、導電性高分子や、樹脂に必要に応じて導電剤を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0066】
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0067】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0068】
正極活物質層及び負極活物質層には電解液が含まれる。
電解液としては、公知のリチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0069】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiN(FSO2)2、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2及びLiC(CF3SO2)3等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはイミド系電解質[LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2及びLiN(C2F5SO2)2等]及びLiPF6である。
【0070】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0071】
電解液の電解質濃度は、1~5mol/Lであることが好ましく、1.5~4mol/Lであることがより好ましく、2~3mol/Lであることがさらに好ましい。
電解液の電解質濃度が1mol/L未満であると、電池の充分な入出力特性が得られないことがあり、5mol/Lを超えると、電解質が析出してしまうことがある。
なお、電解液の電解質濃度は、リチウムイオン電池用電極又はリチウムイオン電池を構成する電解液を、溶媒などを用いずに抽出して、その濃度を測定することで確認することができる。
【0072】
[組電池の製造方法]
本発明の組電池の製造方法は、本発明の検査方法により電気抵抗が許容範囲外である箇所が存在しないと判定された検査対象物を用いて、複数の単電池を積層する工程を備える。
【0073】
図5は、組電池の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
図5では、外装体の一部を除去して示している。
図5に示す組電池100は、単電池10が複数個接続されてなる。
図5には、
図4に示す単電池10が5つ積層された組電池100を示している。組電池100では、隣り合う単電池10の負極樹脂集電体19の上面と正極樹脂集電体17の下面が隣接するように積層されている。この場合、単電池10は複数個直列接続されている。
【0074】
組電池100は、外装体110に収容されている。外装体110としては、金属缶ケース、高分子金属複合フィルム等を使用することができる。
【0075】
組電池100の最下面の正極樹脂集電体17の上には導電性シートが設けられ、導電性シートの一部が外装体110から引き出されて正極引出端子120となる。また、組電池100の最上面の負極樹脂集電体19の上には導電性シートが設けられ、導電性シートの一部が外装体110から引き出されて負極引出端子130となる。正極引出端子120及び負極引出端子130を構成する導電性シートとしては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等の材料を適宜選択して用いることができる。
【0076】
上述のとおり、本発明の検査方法では、樹脂集電体、電極シート、セパレータ付き電極シート又は単電池単位で短絡等の不具合を発見することができる。これにより、本発明の組電池の製造方法では、確実に不具合が生じていない単電池を用いて組電池を作製することができるため、生産歩留まりを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の検査方法に用いられる単電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 検査対象物
2 導電体プローブ
10 単電池
12 正極
13 負極
14 セパレータ
15 正極活物質層
16 負極活物質層
17 正極樹脂集電体
18 枠部材
19 負極樹脂集電体
100 組電池
110 外装体
120 正極引出端子
130 負極引出端子
P 測定箇所