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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】腕時計の打方機構用ゴングのアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/06 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
G04B21/06 Z
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020196697
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2021092558
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】19214109.1
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594082512
【氏名又は名称】ブランパン・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ロラーヌ・シュヴァリエ
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ファーヴル
(72)【発明者】
【氏名】メディ・デンデン
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2767875(EP,A2)
【文献】特開2016-75895(JP,A)
【文献】特開2014-81374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0091431(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腕時計の打方機構用の第1、第2、第3のゴングキャリア(3、3’、3’’)に接続する、第1、第2、第3、第4のゴング(2、2’、2’’、2’’’)のアセンブリ(1)であって、
前記第1のゴングキャリア(3)はその左端に第1のゴング(2)が接続され、
前記第2のゴングキャリア(3’)はその右端に第2のゴング(2’)が接続され、
前記第3のゴングキャリア(3’’)はその両端に第3、第4のゴング(2’’、2’’’)が接続され、
前記第3、第4のゴング(2’’、2’’’)の高さ位置は、前記第1、第2のゴング(2、2’)の高さ位置とは異なり、かつ前記第1、第2のゴング(2、2’)の高さ位置は同一であり、さらに、前記第1、第2のゴングキャリア(3、3’)の間に前記第3のゴングキャリア(3’’)が配置されており、前記第1のゴング(2)は前記第2のゴング(2’)の素材とは異なる素材から製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1のゴングキャリア(3)と前記第1のゴング(2)は、一体型の1つの部品のみで製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項3】
請求項2に記載のアセンブリ(1)であって、前記第2のゴングキャリア(3’)と前記第2のゴング(2’)は、一体型の1つの部品のみで製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項4】
請求項1に記載のアセンブリ(1)であって、記第3のゴングキャリア(3’’)と前記第3、第4のゴング(2’’、2’’’)は、一体型の1つの部品のみで製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項5】
請求項に記載のアセンブリ(1)であって、前記第3のゴング(2’’)および前記第4のゴング(2’’’)は、互いに異なる素材で製造される前記第1、第2のゴング(2、2’)とは異なる素材から製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項6】
請求項に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1、第2、第3のゴングキャリア(3、3’、3’’)は、前記第1、第2、第3、第4のゴング(2、2’、2’’、2’’’)の厚さに類似する厚さの板状であることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項7】
請求項1に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1、第2、第3、第4のゴングのもう1つの端部は自由に移動することを特徴とする、アセンブリ。
【請求項8】
請求項に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1のゴング(2)は第1の素材から製造され、前記第2のゴング(2’)は、前記第1の素材とは異なる第2の素材から製造され、前記第3のゴング(2’’)および前記第4のゴング(2’’’)は、前記第1の素材および前記第2の素材とは異なる第3の素材から製造されることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項9】
請求項1に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1、第2、第3、第4ののゴング(2、2’、2’’、2’’’)は、腕時計ケース内で互いに重なって配置可能であり、異なる長さを有し、それによって、リピータのために起動されると、それぞれが特定の異なる音符を生成することを特徴とする、アセンブリ。
【請求項10】
請求項に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1、第2、第3、第4のゴング(2、2’、2’’、2’’’)は腕時計ケース内で互いに重なって配置可能であり、前記第1、第2、第3、第4のゴング(2、2’、2’’、2’’’)は、腕時計ケース内部で円形状に配置されていることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のアセンブリ(1)であって、前記第1、第2、第3、第4のゴングの素材は、
-銅および青銅をベースとする合金と、
パラジウム、ジルコニウムまたは白金をベースとした金属ガラスと、
-コバルトをベースとした合金と、
-焼き入れ硬化鋼鉄またはばね鋼と、
-60重量%超の割合の鉄を有する鋼鉄であって、Cr、Ni、Mn、Al、Si、C、MoまたはVの要素を含有する鋼鉄と、
-銀、金、パラジウムまたは白金合金と、
-タングステンベースの合金と
を含む素材から選択可能であることを特徴とする、アセンブリ。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のアセンブリ(1)であって、丸い断面のゴングは四角い断面のゴングに接続することを特徴とする、アセンブリ。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のアセンブリ(1)であって、丸い断面のゴングは、異なる直径の別の丸い断面のゴングに接続することを特徴とする、アセンブリ。
【請求項14】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のアセンブリ(1)であって、第1の表面積を有する四角い断面のゴングは、前記第1の表面積とは異なる第2の表面積を有する四角い断面のゴングに接続することを特徴とする、アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕時計の打方機構用の少なくとも1つのゴングキャリアに接続する、少なくとも2つのゴングのアセンブリに関する。各ゴングが打たれるときに、豊かな音を確実に生成しながら、腕時計ケース内で利用可能な空間も考慮に入れるために、各ゴングは特定の素材で設計する必要がある。
【背景技術】
【0002】
時計製造の分野では、時計ムーブメントは打方機構を備えていてもよい。そのためには、少なくとも1つのゴングが備えられてもよい。ゴングは、たとえば鋼鉄製の円形の金属線である。一般に、この金属線は、腕時計ケース内でムーブメントの周りに配置される。このゴングは、たとえば、はんだ付けまたはろう付けによって、ゴングキャリアに固定される。ゴングキャリア自体は、地板または腕時計ケースの中央部に固定される。ゴングの振動は、一般にゴングキャリアの近くで、少なくとも1つのハンマの衝撃によって生じる。この振動は複数の固有または部分周波数からなる。具体的には、1kHzから20kHzの間の可聴範囲における周波数の数および強さは、ゴングの形状および用いる素材の物理的特性によって異なる。基本波より高い周波数が低周波数の整数倍ではなくなる場合に、部分音が画定される。
【0003】
金属線の形状のゴングはまた、ハンマを打つことによって生じる可聴振動の部分音を多く有するために、特許文献1で画定するように金で設計されてもよい。金からゴングを製造することによって、ハンマが打方機構を打つときに、豊かな音が生成される。一方、異なる音符を生成するために、金からなる複数のゴングが打方機構に備えられる場合、ゴングが調律されるとき、または連続してハンマによって打たれてゴングの音が連続するとき、不協和音の問題が引き続き生じることもあるという欠点が生じる。
【0004】
特許文献2は、各ゴングに異なる素材を用いることによって、生成される音を修正することを記載している。そのために、各ゴングは、音の高さおよび音の周波数構成に関してはっきりと判別される音を生成するように構成される。各ゴングは、打方機構内で隣接する様々なゴングの間の調律を調節可能である。周波数の違いを調節するため、または振動挙動をパラメータ化するため、ゴングは、少なくとも1つの開口をばねブレードの本体に含んでいてもよい。開口はゴングのばねブレードの基本の素材以外の素材で充填される。ただし、各ゴング内に別の素材によって充填される開口を作ることによって、各ゴングの製造と、振動周波数の調節が複雑になるという欠点が生じる。
【0005】
特許文献3は、同じ素材で設計された各ゴングを修正せずに、異なる素材で製造される2つのサブストライカを記載している。したがって、この構成によって、ゴングが調律されるとき、または、連続して打方機構のハンマによって打たれてゴングの音が連続するときの、不協和音の問題を排除することはできないという欠点が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第2107436号
【文献】スイス国特許出願第707078号
【文献】国際公開第2012/151710号
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、したがって、腕時計の打方機構用ゴングのアセンブリを提供することによって、従来技術の欠点を克服することである。本アセンブリは、ゴングが調律されるとき、または、打方機構の少なくとも1つのハンマによって連続して打たれるゴングの連続音の間に生じる不協和音の問題を回避することが可能である。
【0008】
そのため、本発明は、独立請求項1に規定する特徴を備えるゴングのアセンブリに関する。
【0009】
ゴングのアセンブリの具体的な実施形態は、従属請求項2から17で規定される。
【0010】
ゴングのアセンブリの1つの有利点は、本アセンブリが、少なくとも1つのゴングキャリアに接続し、互いに異なる素材から製造される少なくとも2つのゴングを備えるという事実にある。各ゴングは、特定の音符を生成するように構成される。これらのゴングまたは一群のゴングを異なる素材で製造することによって、具体的には、ゴングが調律されるとき、すでに存在する不協和音を回避することが可能となる。4つのゴングのアセンブリの場合、そのうち2つのゴングは、それぞれのゴングキャリアに接続可能である一方、残りの2つのゴングは同一のゴングキャリアに接続してもよい。異なる素材を用いることによって、具体的にはゴングの調律中に、不協和音を排除しながらメロディを得るために、正確な音符を意図することが可能となる。
【0011】
有利には、それぞれのゴングキャリアに接続する各ゴングと、同一のゴングキャリアに接続する一群の少なくとも2つのゴングは、それぞれ一体型で製造されてもよい。たとえば、第1のゴングキャリアに接続する第1のゴングは、一体型の1つの部品のみで製造され、第2のゴングキャリアに接続する第2のゴングも同様に一体型の1つの部品のみで製造される。同一のゴングキャリアに接続する一群の2つのゴングもまた、一体型の1つの部品のみで製造される。したがって、ゴングキャリアは、それぞれ各ゴングと同等の厚さの板状であってもよい。ゴングキャリアは、たとえば、腕時計ムーブメントのディスクまたは板に、容易にねじ止めされてもよく、これには大きな空間を必要としない。ゴングキャリアはまた、好ましくは、腕時計ケースの狭い空間内での空間要件を低減するために、腕時計ケースの中央部の縁にねじ止めされてもよい。
【0012】
腕時計の打方機構用ゴングのアセンブリの目的、有利点および特徴は、具体的には図を参照して、以下の説明でより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による腕時計の打方機構用ゴングのアセンブリの上面図を示す。
図2A】本発明による、図1のゴングのアセンブリ内の、ゴングキャリアに接続する各ゴングの上面図を示す。
図2B】本発明による、図1のゴングのアセンブリ内の、ゴングキャリアに接続する各ゴングの上面図を示す。
図2C】本発明による、図1のゴングのアセンブリ内の、ゴングキャリアに接続する各ゴングの上面図を示す。
図3】本発明による、打方を持つ腕時計の一部の部分断面図を示す。打方は、2つのゴングを備えるアセンブリを有する。
図4】本発明による、打方を持つ腕時計の一部の部分断面図を示す。打方は、4つのゴングを備えるアセンブリを有する。
図5A】本発明によるゴングのアセンブリによって奏でられる音符の様々な波長を示す。
図5B】本発明によるゴングのアセンブリによって奏でられる音符の様々な波長を示す。
図5C】本発明によるゴングのアセンブリによって奏でられる音符の様々な波長を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、本技術分野で周知である腕時計の打方機構のすべての部品を簡潔にのみ説明する。腕時計の打方機構は、少なくとも1つのゴングキャリアに接続するゴングのアセンブリを備える。腕時計ケース内の打方機構用ゴングのアセンブリに焦点を当て、その構成および設計の特殊性を重点的に説明する。
【0015】
図1はゴングのアセンブリ1を示す。アセンブリ1は、少なくとも2つのゴング2、2’を備える。少なくとも2つのゴング2、2’は、少なくとも1つのゴングキャリア3に接続してもよく、または図1に部分的に示すように、それぞれ独自のゴングキャリア3、3’に接続してもよい。2つのゴング2、2’は、互いに異なる素材から製造される。ゴングのアセンブリ1はまた、2つを超えるゴング2、2’、2’’、2’’’を備えていてもよい。2つを超えるゴング2、2’、2’’、2’’’は、簡略化した実施形態において同一のゴングキャリア3に接続してもよい。本事例では、各ゴング2、2’、2’’、2’’’は、他のゴング2、2’、2’’、2’’’とは異なる素材で製造されてもよい。ゴングキャリア3には各ゴング2、2’、2’’、2’’’の第1の端部が接続されてもよく、ゴング2、2’、2’’、2’’’の各第2の端部は自由に移動可能であってもよく、打方を備える腕時計の時計ムーブメントの地板に固定されてもよく、または腕時計ケースの中央部の縁または壁にも、腕時計ダイヤル下部で固定されてもよい。具体的な実施形態によれば、ゴングは一般に円形であり、時計ムーブメントの周りに部分的に配置されてもよい。
【0016】
図1に詳細に示すように、ゴングのアセンブリ1は、4つのゴング2、2’、2’’、2’’’を備える。第1のゴング2は第1のゴングキャリア3に接続し、第1の素材で製造される。第2のゴング2’は第2のゴングキャリア3’に接続し、第1の素材とは異なる第2の素材で製造される。第3のゴング2’’および第4のゴング2’’’は同一の第3のゴングキャリア3’’に接続し、第1の素材および第2の素材とは異なる第3の素材で製造される。ただし、4つのゴングを製造するために少なくとも2つの異なる素材を有するように想定されてもよい。
【0017】
第1のゴング2の第1の端部は第1のゴングキャリア3に接続し、第1のゴング2の第2の端部は自由に移動する。第2のゴング2’の第1の端部は第2のゴングキャリア3’に接続し、第2のゴング2’の第2の端部は自由に移動する。第3のゴング2’’の第1の端部は第3のゴングキャリア3’’の第1の端部に接続し、第4のゴング2’’’の第1の端部は、第1の側面に対向する第3のゴングキャリア3’’の第2の側面に接続する。第3のゴング2’’の第2の端部および第4のゴング2’’’の第2の端部は自由に移動する。
【0018】
図1に示す各ゴングキャリア3、3’、3’’は板状であるが、他の形状のゴングキャリアも想定可能である。各板の厚さは各ゴング2、2’、2’’、2’’’の厚さに類似する。各ゴングは円形であり、腕時計のガラスの直径に対応する直径を有し、円の一部を角度で説明すると、150°と250°との間、好ましくは185°と220°との間である。各ゴングは、不図示の時計ムーブメントの一部を囲むように設計可能である。ゴングキャリア3、3’、3’’は所定の開口を有するように設計され、開口によって、たとえばディスクもしくは時計ムーブメントを支持する地板、または好ましくは腕時計ケースの中央部の縁または壁に取り付けられる。第3のゴングキャリア3’’は、第1のゴングキャリア3および第2のゴングキャリア3’と同一面の、たとえば中央部の縁に、第1のゴングキャリア3と第2のゴングキャリア3’の間に配置され、固定されてもよい。3つのゴングキャリア3、3’、3’’は、円形の様式で、たとえば円形のゴング2、2’、2’’、2’’’に沿って配置される。ただし、ゴングキャリアをムーブメントディスクに固定するように配置されてもよい。
【0019】
第1のゴング2および第1のゴングキャリア3は、同一の素材で製造される一体型の1つの部品のみを形成してもよい。したがって、ゴングキャリア3を形成する板は、たとえば、ねじによって、ゴング2を腕時計ケースの中央部の対応する部分、または時計ムーブメントのディスクの対応する部分に取り付けるための穴を備える。ゴングキャリアは別の形状でもよく、異なる厚さでもよく、または腕時計の中央部分とただ1つの部品として作られてもよい。第2のゴング2’および第2のゴングキャリア3’は、ゴング2および第1のゴングキャリア3の素材とは異なる同一の素材で、一体型の1つの部品のみを形成してもよい。第3のゴングキャリア3’’に接続する第3のゴング2’’および第4のゴング2’’’もまた同一の素材で、一体型の1つの部品のみを形成してもよい。この素材は、第1のゴングキャリア3を備える第1のゴング2の素材とは異なり、第2のゴングキャリア3’を備える第2のゴング2’の素材とも異なる。ただし、4つのゴングを製造するために2つの異なる素材を有することが想定されてもよい。
【0020】
腕時計ケースに取り付けられるように、それぞれのゴングキャリア3、3’、3’’に接続する各ゴング2、2’、2’’、2’’’は、一般に、打方機構の一部を形成する。打方機構はまた、好ましくは、規定の瞬間にそれぞれのゴングを打つために、ゴングごとに1つのハンマを備える。各ハンマの衝撃部分は図1には示さないが、一般に、ゴングキャリアとの接続部付近で対応するゴングを打ち、音響共鳴を生成する。4つのゴングを備える打方機構は、回転可能にディスク上に取り付けられた4つのハンマを備え、各対応するゴングを規定の瞬間に打ち、チャイムのメロディ、たとえばウエストミンスターの鐘を生成する。
【0021】
図2Aから2Cは、特定のメロディを生成するように構成および調律される4つのゴングを示す。第1のゴング2は、1mm未満の厚さを有し、第1のゴングキャリア3に接続する。第1のゴング2は第1の素材で製造され、第1の音符を生成するために腕時計ムーブメントの一部を囲むように構成される。第2のゴング2’は、第1のゴング2と同等の厚さを有していてもよく、第2のゴングキャリア3’に接続する。第2のゴング2’は第2の素材で製造され、第1の音符とは異なる第2の音符を生成するために腕時計ムーブメントの一部を囲むように構成される。第3のゴング2’’は、第1のゴング2と同等の厚さを有していてもよく、第3のゴングキャリア3’’に接続する。第3のゴング2’’は第3の素材で製造され、第1の音符および第2の音符とは異なる第3の音符を生成するために腕時計ムーブメントの一部を囲むように構成される。第4のゴング2’’’は第1のゴング2と同等の厚さを有していてもよく、第3のゴングキャリア3’’に接続する。第4のゴング2’’’は第3の素材で製造され、第1の音符、第2の音符および第3の音符とは異なる第4の音符を生成するために腕時計ムーブメントの一部を囲むように構成される。
【0022】
本発明により詳細に特定するように、ゴングを製造するために、少なくとも2つの異なる素材が用いられる。また、2つの異なる素材によって、ゴングが調律されるとき、または、打方機構のそれぞれのハンマによって連続して打たれ、ゴングの音が連続するときの不協和音の問題を排除することができる。
【0023】
本発明において、互いに一部が異なる各ゴングに用いられる素材は、以下の素材から選択することができる。
ベースおよび青銅ベース合金、
パラジウムベース、銅ベース、ジルコニウムベースまたは白金ベースなどの金属ガラス、
コバルトベース合金、
60重量%以上の割合の鉄を含み、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、炭素(C)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)などの少なくとも1つの要素を含有する鋼鉄であって、たとえば焼き入れ硬化鋼鉄またはばね鋼、
銀、金、パラジウムまたは白金合金、
タングステンベース合金。
【0024】
各ゴング2、2’、2’’、2’’’とゴングキャリア3、3’、3’’はフライス加工、電食、レーザ加工、金型成型、鋳造、高温圧縮または本技術分野における別の適切な製造方法によって製造されてもよい。1または複数のゴング2、2’、2’’、2’’’はまた、鋳造物、高温圧縮物、または温冷変形製品から製造されてもよい。これは、ゴング2、2’、2’’、2’’’は、異方性または等方性であってもよいことを意味する。これらの特徴は、音響特性に影響を与えることもある。
【0025】
図3は、打方を備える腕時計の一部の部分断面図を示す。打方は、本発明によるリピータのための少なくとも2つのゴング2、2’’’を備える。円形の第1のゴング2は、たとえば、円形の第2のゴング2’’’の下に配置されるが、異なる長さを有する。それによって、たとえば、起動されると、第1の音符とは異なる音符を生成する。第1のゴング2は、第2のゴング2’’’の第2の素材とは異なる第1の素材から製造される。
【0026】
第2のゴング2’’’は腕時計ダイヤル4の直下に位置してもよく、第1のゴング2は第2のゴング2’’’下部かつ腕時計中央部5の内縁5’上部にある。結合部分6はダイヤルと中央部5を接続する。ゴング2、2’’’を配置するための小空間10が設けられる。不図示のゴングキャリアは、ゴングキャリアが各ゴングと同一の厚さの板を形成するとき、内縁5’に固定されてもよい。
【0027】
各ゴング2、2’’’は0.4mm以上の幅l1を有する。第2のゴング2’’’はダイヤル4から高さh1だけ離間する。高さh1は、第2のゴング2’’’の断面とほぼ同じ値である。第1のゴング2は第2のゴング2’’’から高さh2だけ離間する。高さh2は、第1のゴング2の断面の2倍未満である。最後に、第1のゴング2は中央部5の底面の内縁5’から高さh3だけ離間する。高さh3は、第1のゴング2の断面とほぼ同じ値である。第1および第2のゴング2、2’’’は、中央部5から距離d1だけ離間する。距離d1は、第1および第2のゴング2、2’’’の断面の2倍以下である。
【0028】
図4は、打方を備える腕時計の一部の部分断面図を示す。打方は、本発明による、たとえばメロディまたはチャイムのための4つのゴング2、2’、2’’、2’’’を備える。第2のゴング2’は、内部に向かって第1のゴング2と同軸に、かつ同一面に取り付けられる。第3のゴング2’’は、内部に向かって第4のゴング2’’’と同軸に、かつ同一面に取り付けられる。第3のゴング2’’および第4のゴング2’’’は、第2のゴング2’上部かつ、腕時計ダイヤル4直下で第1のゴング2上部に取り付けられる。各ゴングは異なる長さおよび/または異なる形または厚さを有し、それによって、起動されると特定の異なる音符を生成する。第1のゴング2と第4のゴング2’’’との間の空間と、第2のゴング2’と第3のゴング2’’との間の空間は、ほぼその断面と同じである。
【0029】
4つのゴングのアセンブリを設けることも可能であり、各ゴングはそれぞれのゴングキャリアに接続し、各ゴングはその他のゴングとは異なる素材から製造されることに留意されたい。さらに、それぞれのゴングキャリアに接続する各ゴングは、一体型の1つの部品のみを形成することも想定される。
【0030】
本発明による、異なる素材からゴングを製造することをさらに理解するために、音響論理および不協和音の現象を説明する。
【0031】
音階を構成する連続した各音符間には半音がある。2つの音符間の音程は、2つの音符間にある半音の数によって限定されえる。たとえば、ドとド#との間、またはミとファとの間など、2つの音符間の1つの半音の差は短二度とよばれる。2つの音符間の7つの半音の差は完全五度とよばれる。聞いて快い音程ならば協和音といえる。聞いて不快な音程もあり、それらは不協和音といえる。
【0032】
音程は一般に、最も協和する協和音から最も不協な不協和音まで以下の順番となる。同音、オクターブ、完全五度、完全四度、長三度、長六度、短三度、短六度、短七度、長二度、三全音、長七度、次に短二度である。
【0033】
音符は以下の数式で決定されえる基本波周波数に対応する。
【0034】
【数1】
【0035】
式中、
fn:必要な音符の周波数、
f0:基準音符の周波数(平均律において440Hzのラ3)、
n:音符の半音上。
【0036】
これによって、様々なオクターブにしたがって、以下の周波数がヘルツで得られる。
【0037】
【表1】
【0038】
混合方法の使用例を以下に挙げる。
【0039】
チャイムを備える腕時計にとって、耳に心地よいメロディを構築するために、正確な音符を検索することが必要である。ゴングを調律するための方法は、所与の周波数での音符を目標とすることからなり、その他の取得した部分音は、目標とした周波数に依存する。たとえば、5N金からなるゴングを音符シに調律するためには、ゴングの長さを目標とする1975.5Hzの周波数に近似するように最適に調節する。その他の周波数もまた、ゴングを打っている間に生成される。これらの周波数モードは、たとえば、具体的にはゴングの形状および素材によって異なる。
【0040】
様々な部分音が調和しない場合、一連の2つの連続する音符は、不協和音につながることもある。たとえば、短二度、つまり、2つの音符間の1つの半音は非常に不協な和音となることは周知である。半音の差は、たとえば、音符「ラ」と音符「ラ#」との間、または音符「シ」と音符「ド」との間にある。これは、半音だけ離間している2つの音符が同時に、または連続して演奏されると、不協和音に聞こえることを意味する。
【0041】
次に、豊かな音は、可聴周波数の範囲にある多数のモードによって特徴づけられるが、貧弱な音は、可聴周波数範囲にある周波数モードは少なく、よりはっきりと聞こえる。したがって、豊かな音は耳に非常に心地よいが、豊かな音を有する複数の音符が連続して演奏される場合、不協和音を有する可能性が高くなる。素材を混合する方法によって、この種類の不協和音を回避することができる。
【0042】
たとえば、豊かな音を生成することで知られる金などの素材を用いることができる。以下に画定するように、1975.5Hzで音符シを生成するように調律される5N金からなるゴングは、たとえば、図5Aに示す波長を有する。頂点の高さは代表するものではない。画定するように、音符ファ#を2960Hzで生成するように調律される5N金からなるゴングは、たとえば、図5Bに示す波長を有する。頂点の高さは代表するものではない。以下で画定するように、音符ファ#を2960Hzで生成するように調律される鋼鉄からなるゴングは、たとえば、図5Cに示す波長を有する。頂点の高さは代表するものではない。
【0043】
1000Hzと10000Hzとの間のメロディを構築することに関連する周波数モードを考慮するとき、5N金から生成される音符シおよびファの連続では、不協和音となる4つのモードがあることに留意されたい。メロディ内で、音符のわずかな減衰を求めてもよい。本事例では、5N金からなる2つのゴングで連続して生成される音符シおよびファは、不協和音となる4つの短二度を生成する(以下の表参照)。
【0044】
【表2】
【0045】
本事例では、たとえば、鋼鉄ゴングはこのように、音符シを金ゴングで、およびファを鋼鉄ゴングで連続して演奏するために用いられる。これによって、以下の調律が得られる。
【0046】
【表3】
【0047】
したがって、本事例では、シおよびファ#の2つの音符を連続して演奏する場合、2つのゴングの素材を変えて5N金および鋼鉄製とすることで、2つの金ゴングから生成される不協和音を回避することができる。
【0048】
本実施例から、素材を混合する方法を用いる具体的構想が得られるが、これに限定するものではない。人間の耳の音響分析および認知は、不協和音の検知に関して優勢である。これは、前述の例では、不協和音につながる周波数の中には耳で聞こえないものもあるからである。言い換えれば、これらの不協和音を検知するのは主に人間の耳であり、これらの不協和音は、ゴングの素材を混合することによって回避可能となる。
【0049】
素材を混合することに加えて、不協和音の現象を回避するためにも、ゴングの大きさを混合することも想定可能である。たとえば、ゴングの断面の形状および大きさに作用することも可能である。丸い断面のゴングおよび四角い断面のゴングを組み合わせることも可能である。また、同一のゴングキャリアまたは2つの異なるゴングキャリアに接続する丸い断面のゴングと四角い断面のゴングを有することも可能である。丸い断面のゴングを、異なる直径を有する丸い断面のゴングと組み合わせることも可能であり、または同一のゴングキャリアまたは2つの異なるゴングキャリアに接続する丸い断面のゴングを有することも可能である。たとえば、0.5mmX0.5mmの第1の表面積を有する四角い断面のゴングを、たとえば0.65mmX0.65mmの第2の表面積を有する四角い断面のゴングと組み合わせることも可能である。また、たとえば、同一のゴングキャリアまたは2つの異なるゴングキャリアに接続する、0.5mmX0.5mmの第1の表面積を有する四角い断面のゴングを、たとえば0.65mmX0.65mmの第2の表面積を有する四角い断面のゴングと組み合わせることも可能である。
【0050】
当然のことながら、別の直径を有するゴングも、打方機構を備える腕時計の大きさに対応して適用可能である。
【0051】
ここまでの説明から、腕時計の打方機構用ゴングアセンブリの複数の変形が、請求項によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく当業者によって設計可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 :アセンブリ
2 :ゴング
2 :第1のゴング
2’ :第2のゴング
2’’ :第3のゴング
2’’’ :第4のゴング
2’’’ :第2のゴング
3 :ゴングキャリア
3 :第1のゴングキャリア
3’ :第2のゴングキャリア
3’’ :第3のゴングキャリア
4 :ダイヤル
5 :腕時計中央部
5 :中央部
5’ :内縁
6 :結合部分
10 :小空間
d1 :距離
h1 :高さ
h2 :高さ
h3 :高さ
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C