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特許7090159L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/04 20060101AFI20220616BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220616BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220616BHJP
【FI】
C12P13/04 ZNA
C12P13/08 A
C12P13/08 D
C12N15/31
C12N1/21
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020530305
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 KR2019001067
(87)【国際公開番号】W WO2019147059
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0009633
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12153P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,スン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン,ビョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】イ,クァン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ピョン,ヒョ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン ウク
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】FEMS Microbiol. Lett., 2009, 290(1), pp.32-38
【文献】Database NCBI Reference Sequence Database [online],Accession No. WP_003855789.1, 18-JAN-2021 updated, [retrieved on 27-Jul-2021],MULTISPECIES: WhiB family transcriptional regulator WhcA [Corynebacterium],http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/489952482?sat=49&satkey=4920161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物であって、
前記不活性化が、前記タンパク質が改変されることにより、天然の野生型菌株、親株、又は前記タンパク質が改変されていない菌株に比べて、前記タンパク質の発現が全くないか、発現してもその活性がないか、又は減少したことであり、
前記天然の野生型菌株、前記親株、又は前記タンパク質が改変されていない菌株に比べて、前記L-アミノ酸生産能が向上した、
前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップと、
前記微生物又は培地からL-アミノ酸を回収するステップとを含む、L-アミノ酸の生産方法。
【請求項2】
前記L-アミノ酸は、塩基性アミノ酸、脂肪族アミノ酸又は分枝鎖アミノ酸である、請求項に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項3】
前記L-アミノ酸は、L-リシン(L-lysine)又はL-バリン(L-valine)である、請求項に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【請求項4】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載のL-アミノ酸の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いてL-アミノ酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質の基本構成単位であり、薬品原料や食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。とりわけ、L-リシンは、生体内で全く生合成されない必須アミノ酸であり、成長促進、カルシウム代謝、胃液分泌促進、病気に対する抵抗力の増加に必要なことが知られている。前記L-リシンは、飼料、医薬品、食品などに様々に用いられている。また、L-バリンも、必須アミノ酸の一つであり、抗酸化効果及び筋肉細胞のタンパク質合成作用を直接促進する効果があることが知られている。前記L-バリンは、健康補助剤、医薬品、食品、飼料、香料、毛髪及び皮膚のコンディショニング剤などに用いられている。
【0003】
一方、コリネバクテリウム属菌株(Corynebacterium)、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は、L-アミノ酸及びその他の有用物質の生産に多く用いられているグラム陽性微生物である。前記アミノ酸を生産すべく、高効率生産微生物及び発酵工程技術の開発のために様々な研究が行われている。例えば、コリネバクテリウム属菌株において、アミノ酸の生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、アミノ酸の生合成に不要な遺伝子を除去するなどの標的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献1,2)。また、前記方法以外に、アミノ酸生産に関与しない遺伝子を除去する方法、アミノ酸生産における具体的な機能が知られていない遺伝子を除去する方法も活用されている。しかし、依然として効率的に高収率でL-アミノ酸を生産する方法に関する研究が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第10-0924065号公報
【文献】韓国登録特許第1208480号公報
【文献】韓国登録特許第10-0159812号公報
【文献】韓国登録特許第10-0073610号公報
【文献】韓国登録特許第10-1117022号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【文献】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【文献】http://www.ncbi.nlm.nih.gov
【文献】Manual of Methods for General Bacteriology by the American Society for Bacteriology, Washington D.C., USA, 1981
【文献】Appl. Microbiol. Biothcenol. 52:541-545, 1999
【文献】Moore, S., Stein, W.H., Photometric ninhydrin method for use in the chromatography of amino acids. J. Biol. Chem.1948, 176, 367-388
【文献】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【文献】Binder et al. Genome Biology 2012, 13:R40
【文献】Biotechnology and Bioprocess Engineering, June 2014, Volume 19, Issue 3, pp 456-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、L-アミノ酸を高効率で生産する微生物を開発すべく鋭意研究した結果、特定遺伝子を不活性化するとL-アミノ酸の生産収率が増加するという事実を確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記微生物を用いた、L-アミノ酸の生産方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、前記微生物のL-アミノ酸生産増加のための用途を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、配列番号1を含むタンパク質をコリネバクテリウム属微生物において不活性化させるステップを含むL-アミノ酸生産増加方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のL-アミノ酸を生産する微生物は、L-アミノ酸を高効率で生産することができる。また、生産したL-アミノ酸は、動物飼料又は動物飼料添加剤だけでなく、人間の食品又は食品添加剤、医薬品など様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本明細書で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本明細書で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0014】
本発明における「L-アミノ酸」には、微生物が各種炭素源から代謝過程を経て生産するあらゆるL-アミノ酸が含まれ、具体的にはL-リシン、L-アルギニン、L-ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸、L-バリン、L-ロイシン、L-グリシン、L-イソロイシン、L-アラニン、L-プロリン、L-メチオニンなどの非極性アミノ酸、L-セリン、L-トレオニン、L-システイン、L-アスパラギン、L-グルタミンなどの極性アミノ酸、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-トリプトファンなどの芳香族アミノ酸、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸などの酸性アミノ酸、L-アラニン、L-バリン、L-イソロイシン、L-セリンなどの脂肪族アミノ酸、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシンなどの分枝鎖アミノ酸であってもよい。より具体的には、本発明におけるL-アミノ酸は、塩基性アミノ酸、脂肪族アミノ酸、分枝鎖アミノ酸であってもよい。さらに具体的には、L-リシン(L-lysine)又はL-バリン(L-valine)であってもよいが、これらに限定されるものではない。本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化されると生産能が向上するアミノ酸であればいかなるものでもよい。
【0015】
本発明における「配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質」とは、NCgl0275遺伝子によりコードされるコリネバクテリウム属微生物に内在的に存在するタンパク質を意味し、具体的にはコリネバクテリウム属微生物に内在的に存在する、配列番号1のアミノ酸配列からなる調節タンパク質(regulatory protein)を意味する。配列番号1のアミノ酸配列及び前記タンパク質をコードする遺伝子のポリヌクレオチド配列は、公知のデータベースから得られ、例えばNCBIのGenBankなどから得られるが、これらに限定されるものではない。また、前記タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列から必須に構成されるタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列から構成されるタンパク質であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、本発明の前記タンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列だけでなく、配列番号1と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列からなるものであってもよい。配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質には、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%、具体的には83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は97%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が含まれる。前記配列と相同性又は同一性を有する配列であって、実質的に前記タンパク質と同一又は相当する生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するものも本発明に含まれることは言うまでもない。
【0017】
本発明に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。すなわち、当該配列番号のアミノ酸配列を含むポリペプチドも本発明に用いられることは言うまでもない。
【0018】
それに加えて、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリペプチドをコードする塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同じ活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよい。例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2のポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によりコードされるものであってもよい。また、配列番号2のポリヌクレオチド配列を含むもの、配列番号2のポリヌクレオチド配列から必須に構成されるもの、配列番号2のポリヌクレオチド配列からなる遺伝子によりコードされるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
さらに、配列番号2のポリヌクレオチド配列は、配列番号2のポリヌクレオチド配列だけでなく、配列番号2と少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチド配列であってもよい。
【0020】
具体的には、配列番号1と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であれば本出願に含まれ、配列番号2のポリヌクレオチド配列と少なくとも80%、具体的には83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は97%以上の相同性又は同一性を有するポリヌクレオチド配列も含まれてもよい。
【0021】
また、配列番号2のポリヌクレオチド配列には、コドンの縮退(codon degeneracy)により、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質又はそれと相同性を有するタンパク質に翻訳されるポリヌクレオチドも含まれることは言うまでもない。さらに、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。
【0022】
前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、非特許文献1、2)に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本発明には、実質的に類似したポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片が含まれてもよい。
【0023】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0024】
本発明における「相同性」又は「同一性」とは、与えられたアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列に一致する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられてもよい。本発明において、与えられたアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列は「%の相同性」と表される。
【0025】
前記アミノ酸又はポリヌクレオチド配列の相同性又は同一性は、例えば文献によるアルゴリズムBLAST[参照:非特許文献3]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献4)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXというプログラムが開発されている(参照:非特許文献5)。
【0026】
また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献1、2)で決定される。
【0027】
本発明における「配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された」とは、前記タンパク質の発現が天然の野生型菌株、親株、又は配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が改変されていない菌株に比べて全く発現しないことや、発現してもその活性がないか、減少したことを意味する。ここで、前記減少は、前記タンパク質をコードする遺伝子の変異、欠損などによりタンパク質の活性が本来微生物が有するタンパク質の活性より減少した場合や、それをコードする遺伝子の発現阻害又は翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なタンパク質の活性の程度が天然の菌株又は改変前の菌株より低下した場合や、それらの組み合わせを含む概念である。
【0028】
本発明における前記不活性化は、当該分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、1)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、2)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の発現が減少するように発現調節配列を改変する方法、3)前記タンパク質の活性が欠失又は低下するようにタンパク質をコードする前記遺伝子配列を改変する方法、4)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、5)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、6)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3'末端に逆転写するようにプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering, RTE)などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0029】
具体的には、前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法は、微生物中の染色体挿入用ベクターを用いて、染色体内の内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部のヌクレオチド配列が欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行うことができる。このようなポリヌクレオチドの全部又は一部を欠失させる方法の一例として、相同組換えによりポリヌクレオチドを欠失させる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。他の例として、前記遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法は、紫外線などの光又は化学物質を用いて突然変異を誘発し、得られた突然変異体から標的遺伝子が欠失した菌株を選択することにより行うことができる。
【0030】
前記遺伝子欠失方法には、遺伝子組換え技術(Genetic recombination technique)による方法が含まれる。例えば、標的遺伝子に相同性を有するポリヌクレオチド配列が含まれるポリヌクレオチド配列又はベクターを前記微生物に導入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことにより行うことができる。また、前記導入されるポリヌクレオチド配列又はベクターには、優性選択マーカーが含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、前記発現調節配列を改変する方法は、当該分野で公知の様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、前記発現調節配列の活性がさらに低下するように、ポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より活性が低いポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
さらに、前記遺伝子配列を改変する方法は、前記酵素の活性がさらに低下するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに低下するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明における「L-アミノ酸を生産する微生物」とは、自然にL-アミノ酸生産能を有する微生物、又はL-アミノ酸の生産能のない親株にL-アミノ酸の生産能が付与された微生物を意味する。例えば、前記L-アミノ酸を生産する微生物は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された微生物であってもよい。あるいは、それに加えて、L-アミノ酸生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるか、分解経路の酵素を不活性化させた微生物であってもよい。あるいは、L-アミノ酸生合成経路の酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるか、分解経路の酵素を不活性化させた親株において、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された微生物であってもよい。前記L-アミノ酸を生産する微生物は、公知の様々な方法で製造することができる。
【0034】
本発明における「コリネバクテリウム属微生物」には、あらゆるコリネバクテリウム属微生物が含まれる。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウムテス・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)又はコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であり、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムである。
【0035】
本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物は、L-アミノ酸生産能が向上した微生物であってもよい。具体的には、前記微生物は、改変されていない菌株に比べてL-アミノ酸生産能が向上した微生物であってもよい。前記改変されていない菌株は、天然の野生型菌株、親株、又は配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0036】
本発明の他の態様は、本発明による前記微生物を培地で培養するステップと、前記微生物又は培地からL-アミノ酸を回収するステップとを含む、L-アミノ酸の生産方法を提供する。
【0037】
本発明による前記微生物については前述した通りである。
【0038】
本発明の方法において、コリネバクテリウム属微生物の培養は、当該技術分野で公知の任意の培養条件及び培養方法が用いられてもよい。
【0039】
本発明における「培養」とは、微生物を人工的に適宜制御した環境条件で生育させることを意味する。本発明におけるL-アミノ酸を生産する微生物を用いてL-アミノ酸を培養する方法としては、当該技術分野で公知の方法を用いることができる。具体的には、前記培養は、バッチプロセス又は流加もしくは反復流加プロセス(fed batch or repeated fed batch process)で連続して培養することができるが、これらに限定されるものではない。培養に用いられる培地は、特に限定されるものではなく、いかなるものでも用いることができ、例えばコリネバクテリウム菌株の培養培地は公知である(例えば、非特許文献6)。
【0040】
培地に用いることのできる糖源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
用いることのできる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、黄粉及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源も、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
用いることのできるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、又はそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよい。さらに、前記物質以外に、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長物質が用いられてもよい。さらに、培養培地に好適な前駆体が用いられてもよい。しかし、これらに限定されるものではない。前述した原料は、培養過程において培養物に好適な方式でバッチ毎に又は連続して添加されてもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記微生物の培養中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの基礎化合物、又はリン酸、硫酸などの酸性化合物を好適な方法で用いて培養物のpHを調整することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0044】
培養物の温度は、通常は20℃~45℃、具体的には25℃~40℃である。培養時間は、所望のL-アミノ酸の生成量が得られるまで続けてもよく、具体的には10~160時間であるが、これに限定されるものではない。
【0045】
培養物からのL-アミノ酸の回収は、当該技術分野で公知の通常の方法により行うことができる。その回収方法としては、遠心分離、濾過、クロマトグラフィー、結晶化などの方法が用いられてもよい。例えば、培養物を低速で遠心分離することによりバイオマスを除去して得られた上清をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができるが、これに限定されるものではない。
【0046】
前記回収ステップは、精製工程をさらに含んでもよい。
【0047】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性が不活性化された、コリネバクテリウム属微生物のL-アミノ酸生産増加のための用途を提供する。
【0048】
本発明のさらに他の態様は、本発明の配列番号1を含むタンパク質をコリネバクテリウム属微生物において不活性化させるステップを含むL-アミノ酸生産増加方法を提供する。
【実施例
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
トランスポゾンを用いたランダム突然変異ライブラリーの作製
リシン生産能が向上した菌株を得るために、次の方法でベクターライブラリーを作製した。
【0051】
まず、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P(特許文献3;前記微生物は、KFCC10881として公開され、ブダペスト条約上の国際寄託機関に寄託番号KCCM11016Pとして再寄託された)を親株とし、EZ-Tn5TM<R6Kγori/KAN-2>Tnp TransposomeTMキット(Epicentre)を用いて得たプラスミドを電気パルス法(非特許文献7)で形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含む複合平板培地に塗抹して約20,000個のコロニーを得た。
<複合平板培地(pH7.0)>
グルコース10g,ペプトン10g,牛肉抽出物5g,酵母抽出物5g,ブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion)18.5g,NaCl 2.5g,尿素2g,ソルビトール91g,寒天20g(蒸留水1リットル中)
【0052】
実施例2
トランスポゾンを用いたランダム突然変異ライブラリーのスクリーニング
実施例1で得た約20,000個のコロニーをそれぞれ300μlの次の選択培地に接種し、96ディープウェルプレート(96-deep well plate)にて32℃、1000rpmで約24時間培養した。
<選択培地(pH8.0)>
グルコース10g,硫酸アンモニウム(ammonium sulfate)5.5g,MgSO4・7H2O 1.2g,KH2PO4 0.8g,K2HPO4 16.4g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド2mg(蒸留水1リットル中)
【0053】
培養液中に生産されたL-リシンの生産量を分析するためにニンヒドリン法を用いた(非特許文献8)。
【0054】
培養終了後に、培養上清10μlとニンヒドリン反応液190μlを65℃で30分間反応させ、その後分光光度計(spectrophotometer)にて波長570nmで吸光度を測定し、対照群であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株と比較して高い吸光度を示す約60種のコロニーを選択した。その他のコロニーは、対照群として用いたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株と同等又は低下した吸光度を示すことが確認された。
【0055】
前述したように選択した約60種の菌株を前記と同様に再び培養し、その後ニンヒドリン反応を繰り返し行い、最終的に親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株と比較してL-リシン生産能が向上した上位10種の突然変異株を選択した。
【0056】
実施例3
選択したランダム突然変異株におけるL-リシン生産能の分析
実施例2で選択した10種の突然変異株を対象に、再現性のあるL-リシン生産能向上を示す菌株を最終選択するために、次の方法で培養を行った。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。培養終了後に、HPLC(Waters社, 2478)を用いて培養液中のL-リシン濃度を分析した。各突然変異株のL-リシン生産濃度を表1に示す。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド2mg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,(NH42SO4 40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0057】
【表1】
【0058】
前述したように選択した10種の突然変異株のうち、L-リシン生産能が有意に向上した菌株としてKCCM11016P/mt-3を最終選択した。
【0059】
実施例4
最終選択株におけるL-リシン生産能向上の原因解明
本実施例においては、実施例3で最終選択した突然変異株を対象に、トランスポゾンのランダムな挿入により欠損した遺伝子の同定を試みた。
【0060】
L-リシンの生産能が最も優れるKCCM11016P/mt-3のゲノムDNAを抽出して切断し、その後連結して大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。形質転換した20種のコロニーを選択し、その後未知の遺伝子の一部を含むプラスミドを得て、EZ-Tn5TM<R6Kγori/KAN-2>Tnp TransposomeTMキットのプライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いて塩基配列を分析した。
【0061】
その結果、配列番号2のポリヌクレオチド配列が欠損していることが確認された。配列番号2のポリヌクレオチド配列は、配列番号1のアミノ酸配列をコードするものであり、米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH Genbank)に報告されている塩基配列に基づいて機能が明確に解明されていない調節タンパク質(Regulatory protein)であることが確認された。
プライマー1(配列番号3):ACCTACAACAAAGCTCTCATCAACC
プライマー2(配列番号4):CTACCCTGTGGAACACCTACATCT
【0062】
よって、前記タンパク質の活性の不活性化によりL-リシン生産能に影響があるか否かを確認するために、前記遺伝子を欠損候補遺伝子として選択した。
【0063】
実施例5
遺伝子を欠損させる組換えベクターの作製
本実施例においては、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の不活性化によりL-リシン生産に影響があるか否かを確認するために、コリネバクテリウム属のL-リシンを生産する微生物の染色体上で実施例4において選択した遺伝子を欠損させるための組換えプラスミドを作製した。そのために、表2のプライマー3~6を合成した。
【0064】
【表2】
【0065】
具体的には、NCgl0275遺伝子のORF部位(配列番号2)を欠損させるために、5'末端にEcoRI、3'末端にSalI制限酵素部位を有するようにプライマー3(配列番号5)、プライマー4(配列番号6)、プライマー5(配列番号7)、プライマー6(配列番号8)(表2)を合成し、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型としてPCR(非特許文献1)を行った。
【0066】
その結果、前記遺伝子の上流及び下流に該当するDNA断片がそれぞれ500bpずつ増幅されることが確認された。ここで、PCR条件は、95℃で30秒間の変性、50℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を30サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製が不可能なpDZベクター(特許文献1)とPCRで増幅された前記断片を染色体導入用制限酵素EcoRI及びSalIで処理し、次いでDNAリガーゼを用いて連結し、その後大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。
【0067】
PCRにより前記標的遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選択し、その後プラスミド抽出法によりプラスミドを得た。そのプラスミドをpDZ-△NCgl0275と命名した。
【0068】
実施例6
コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016PにおいてNCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びそのL-リシン生産能の評価
代表的なL-リシン生産コリネバクテリウム属菌株であるKCCM11016P菌株に基づいて、前述したように選択したNCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、そのL-リシン生産能を評価した。
【0069】
具体的には、実施例5で作製した組換えプラスミドpDZ-△NCgl0275を染色体上での相同組換えによりL-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pに形質転換した(非特許文献9)。
【0070】
その後、4%のスクロースを含む固体平板培地において2次組換えを行った。2次組換えが終了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー6を用いたPCRにより、染色体上で配列番号2の遺伝子が欠損した菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P-NCgl0275と命名した。
【0071】
前述したように作製したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P-NCgl0275菌株のL-リシン生産能を分析するために、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株と共に次の方法で培養した。
【0072】
次の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pと実施例6で作製した菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P-NCgl0275を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド2mg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,(NH42SO4 40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0073】
培養終了後に、HPLCを用いてL-リシンの生産量を測定した。分析したL-リシンの濃度を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
これらの結果から、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016PからNCgl0275を欠損させると、親株に比べてL-リシン生産能が平均17.2%増加することが確認された。
【0076】
よって、コリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、L-リシン生産能が向上することが確認された。
【0077】
また、菌株KCCM11016P-NCgl0275をCA01-7512と命名し、ブダペスト条約上の寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2017年11月7日付けで寄託番号KCCM12153Pとして国際寄託した。
【0078】
実施例7
コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347PにおいてNCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-リシン生産能の評価
L-リシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、実施例6と同様に、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347P(特許文献4;前記微生物は、KFCC10750として公開され、ブダペスト条約上の国際寄託機関に寄託番号KCCM11347Pとして再寄託された)を対象に、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、KCCM11347P-NCgl0275と命名した。
【0079】
その後、実施例6と同様に培養し、培養終了後に、HPLCを用いてL-リシンの生産量を測定した。分析したL-リシンの濃度を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
これらの結果から、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347Pに基づいて、NCgl0275遺伝子を欠損させると、L-リシン生産能が平均13.6%増加することが確認された。
【0082】
よって、実施例6の結果と同様に、コリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、非改変微生物に比べてL-リシン生産能が向上することが確認された。
【0083】
実施例8
コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770PにおいてNCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-リシン生産能の評価
L-リシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、実施例6と同様に、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P(特許文献1)を対象に、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、KCCM10770P-NCgl0275と命名した。
【0084】
その後、実施例6と同様に培養し、培養終了後に、HPLCを用いてL-リシンの生産量を測定した。分析したL-リシンの濃度を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
これらの結果から、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770Pに基づいて、NCgl0275遺伝子を欠損させると、L-リシン生産能が平均14.6%増加することが確認された。
【0087】
よって、実施例7の結果と同様に、L-リシン生産能を有する様々なコリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、その親株に比べてL-リシン生産能が向上することが確認された。
【0088】
実施例9
コリネバクテリウム・グルタミカムCJ3PにおいてNCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-リシン生産能の評価
L-リシンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、実施例6と同様に、コリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P(非特許文献10)を対象に、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、CJ3P-NCgl0275と命名した。
【0089】
その後、実施例6と同様に培養し、培養終了後に、HPLCを用いてL-リシンの生産量を測定した。分析したL-リシンの濃度を表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
これらの結果から、L-リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3Pを対象に、NCgl0275遺伝子を欠損させると、L-リシン生産能が平均15.8%増加することが確認された。
【0092】
よって、実施例6~8の結果と同様に、L-リシン生産能を有する様々なコリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、L-リシン生産能が向上することが確認された。
【0093】
実施例10
コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201PにおいてNCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
前記L-リシン以外に、L-バリン生産能を有するコリネバクテリウム・グルタミカムにおいてもNCgl0275遺伝子の欠損によりバリン生産能が向上するか否かを評価した。
【0094】
実施例5で作製した組換えプラスミドpDZ-△NCgl0275を染色体上での相同組換えによりL-バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P(特許文献5)に形質転換した(非特許文献9)。その後、4%のスクロースを含む固体平板培地において2次組換えを行った。2次組換えが終了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー6を用いたPCRにより、染色体上でNCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P-NCgl0275と命名した。
【0095】
前述したように作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、次の方法で培養して培養液成分を分析した。生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表7に示す。
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,硫酸アンモニウム40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,炭酸カルシウム30g(蒸留水1リットル中)
【0096】
【表7】
【0097】
これらの結果から、KCCM11201P-NCgl0275菌株のL-バリン生産能は、対照群に比べて25.0%増加することが確認された。すなわち、コリネバクテリウム属微生物においてNCgl0275遺伝子を欠損させると、L-バリンの生産能が向上することが確認された。
【0098】
また、コリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、様々なL-アミノ酸生産能が向上することが確認された。
実施例11
【0099】
コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vを用いた、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に1種の変異[ilvN(A42V);非特許文献11]を導入してL-バリン生産能が向上した菌株を作製した。
【0100】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムの野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAを、G-spin Total DNA抽出ミニキット(Intron社, Cat. No 17045)により、キットに提供されたプロトコルに応じて抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。ilvN遺伝子にA42V変異を導入するベクターを作製するために、プライマー7(配列番号9)とプライマー8(配列番号10)のプライマー対及びプライマー9(配列番号11)とプライマー10(配列番号12)のプライマー対を用いて、遺伝子断片A、Bをそれぞれ得た。PCR条件は、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を25サイクル行い、72℃で7分間の重合反応を行うものとした。
【0101】
その結果、断片A、Bの両方において537bpのポリヌクレオチドが得られた。前述した2つの断片を鋳型とし、プライマー7(配列番号9)とプライマー10(配列番号12)を用いてOverlapping PCRを行うことにより、1044bpのPCR産物(以下、「変異導入断片」という)が得られた。
【0102】
前述したように得られた変異導入断片を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン含有LB培地から選択し、DNA-spinプラスミドDNA精製キット(iNtRON社)を用いてDNAを得た。前記ilvN遺伝子のA42V変異導入を目的とするベクターをpDZ-ilvN(A42V)と命名した。
【0103】
【表8】
【0104】
その後、前述したように作製した組換えプラスミドpDZ-ilvN(A42V)を染色体上での相同組換えにより野生型であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に形質転換した(非特許文献9)。その後、4%のスクロースを含む固体平板培地において2次組換えを行った。2次組換えが終了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー7とプライマー10を用いたPCRにより遺伝子断片を増幅し、その後遺伝子配列分析により変異導入菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vと命名した。
【0105】
最後に、L-バリン生産能を有するようになったコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vを対象に、実施例9と同様に、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、CJ7V-NCgl0275と命名した。作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例9と同様に培養し、L-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表9に示す。
【0106】
【表9】
【0107】
これらの結果から、CJ7V-NCgl0275菌株のL-バリン生成能は、対照群に比べて17.6%増加することが確認された。すなわち、L-バリン生産能を有する様々なコリネバクテリウム属微生物においてNCgl0275遺伝子を欠損させると、L-バリンの生産能が向上することが確認された。
【0108】
よって、実施例6~10と同様に、コリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、様々なL-アミノ酸生産能が向上することが確認された。
【0109】
実施例12
コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vを用いた、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においても前記と同じ効果があるか否かを確認するために、実施例10と同様に、野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869に1種の変異[ilvN(A42V)]を導入してL-バリン生産能を有するようになった変異株を作製した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vと命名した。
【0110】
L-バリン生産能を有するようになったコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vを対象に、実施例9と同様に、NCgl0275遺伝子が欠損した菌株を作製し、CJ8V-NCgl0275と命名した。
【0111】
作製した前記菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例9と同様に培養し、L-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表10に示す。
【0112】
【表10】
【0113】
これらの結果から、CJ8V-NCgl0275菌株のL-バリン生成能は、対照群に比べて25.9%増加することが確認された。すなわち、実施例10、11の結果と同様に、L-バリン生産能を有する様々なコリネバクテリウム属微生物においてNCgl0275遺伝子を欠損させると、L-バリンの生産能が向上することが確認された。
【0114】
よって、実施例6~11と同様に、コリネバクテリウム属微生物において配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を不活性化することにより、様々なL-アミノ酸生産能が向上することが確認された。
【0115】
以上の説明から、本願の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0116】
【配列表】
0007090159000001.app