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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】水硬性材料用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20220616BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220616BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C04B24/26 F
C04B24/26 E
C04B28/02
C08F220/06
C08F220/18
C08L33/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020539550
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033748
(87)【国際公開番号】W WO2020045511
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2018163225
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 太一朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 千紗
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-079184(JP,A)
【文献】特開平07-268167(JP,A)
【文献】特開2017-066013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C08F 220/06
C08F 220/18
C08L 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート系共重合体エマルション粒子を含む水硬性材料用添加剤であって、
該共重合体エマルション粒子は、全構造単位100質量%に対して、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)を80~99.9質量%有し、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)を0.1~10質量%有し、ガラス転移温度が-50℃以下であることを特徴とする水硬性材料用添加剤(グリシジル(メタ) アクリレート由来の構造単位を有する重合体を含むものを除く。)
【請求項2】
前記共重合体エマルション粒子は、前記アルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸(塩)以外のその他の単量体由来の構造単位(c)の含有割合が、全構造単位100質量%に対して0~19.9質量%であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性材料用添加剤。
【請求項3】
前記水硬性材料用添加剤は、吹付けコンクリート用途に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の水硬性材料用添加剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の水硬性材料用添加剤と水硬性材料とを含むことを特徴とする水硬性材料組成物。
【請求項5】
前記水硬性材料組成物は、更に減水剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の水硬性材料組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の水硬性材料用添加剤を水硬性材料とともに施工面に吹き付けて使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性材料用添加剤に関する。より詳しくは、吹付モルタル・コンクリート等の用途に有用な水硬性材料用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリレート系共重合体エマルションは、セメント等の水硬性材料組成物の改質性に優れ、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用等を有するため、土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。
例えば特許文献1には、反応性不飽和基を有するノニオン性界面活性剤が乳化剤として用いられたことを特徴とするセメント混和用アクリル樹脂エマルションが開示されている。特許文献2には、カルボキシル基を有する不飽和単量体と、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも一つの不飽和単量体とを含み、不飽和単量体の共重合体について重量分率法により算出したガラス転移温度が220~270Kである混合物を、エチレン性不飽和結合とポリオキシアルキレン基とを有する分子を含む乳化剤を用いて乳化重合して得られるポリマーエマルションが開示されている。特許文献3には、不飽和二塩基酸のジメチルエステルおよび/またはメチルアクリレートを必須の単量体成分として用いて得られる、乳化重合体を必須の成分として含有することを特徴とする、セメント用組成物が開示されている。特許文献4には、少なくとも1種の水硬物質と、水硬物質100重量部を基準にして、約25~約130重量部の水と、約0.01~約30重量部の共重合体気泡安定剤とを含む発泡水硬組成物であって、前記共重合体気泡安定剤が、a)1種またはそれ以上の非イオン性のエチレン性不飽和単量体約0.1~約98重量%と、b)少なくとも1種の単量体がカルボン酸を含有している、1種またはそれ以上のイオン性のまたはイオン化可能なエチレン性不飽和単量体約2~約40重量%とからなる共重合体である、前記組成物が開示されている。
【0003】
ところで、例えばトンネルの一次覆工や、岩盤斜面・法面の保護・補強、コンクリート構造物の補修・補強等の土木・建築工事では、コンクリート(モルタル)を施工面に吹付ける吹付工法が広く用いられている。吹付工法の中でも、例えば湿式法では、急結剤以外の材料(水硬性材料、骨材、水、水硬性材料用添加剤等)を混合した後、圧縮空気又はポンプでノズル(吐出口)まで圧送し、ノズルの直前で別のポンプで送られた急結剤と混合して施工面に吹付ける。
吹付工法に用いられる水硬性材料に関して、例えば特許文献5には、セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度-20℃~0℃のエマルションとを含むことを特徴とする水硬性組成物が開示されている。特許文献6には、岩盤の狭幅の割れ目又は/及び岩盤間の狭幅の継ぎ目に、フロー値が250以下のセメント組成物を噴霧することを特徴とする岩盤の安定化工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-066013号公報
【文献】特開平10-251313号公報
【文献】特開平05-085786号公報
【文献】特開平03-199177号公報
【文献】特開2008-013384号公報
【文献】特開2001-248165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、種々の水硬性材料用添加剤を含む水硬性材料組成物や、吹付工法に用いられる安定化工法が開示されている。吹付工法で用いられる水硬性材料組成物は、施工面に吹付けた際のはね返りによるロス分(リバウンド量)を低減させるために、モルタル・コンクリート等におけるペースト分の骨材への高い粘着性が求められる。しかしながら従来の水硬性材料用添加剤は、水硬性材料組成物に用いた際のペースト分の骨材への粘着性の点において充分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、モルタル・コンクリート等におけるペースト分の骨材への粘着性を向上させることができる水硬性材料用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、水硬性材料用添加剤について種々検討したところ、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位及び(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位を有し、かつ、ガラス転移温度が-50℃以下である共重合体エマルション粒子を含む水硬性材料用添加剤が、モルタル・コンクリート等におけるペースト分の骨材への粘着性を向上させることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、(メタ)アクリレート系共重合体エマルション粒子を含む水硬性材料用添加剤であって、該共重合体エマルション粒子は、全構造単位100質量%に対して、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)を80~99.9質量%有し、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)を0.1~10質量%有し、ガラス転移温度が-50℃以下である水硬性材料用添加剤である。本開示において、「アルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位」とは、通常はアルキル(メタ)アクリレートが重合して形成された構造単位と同じ構造を有する構造単位であり、実際にアルキル(メタ)アクリレートが重合して形成された構造には限定されず、構造が同一であれば他の方法により形成された構造単位を含む。例えば、「アルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位」とは、-CH-CH(COOR)-、(前記式中、Rは置換基を有していても良いアルキル基を表す)で表される構造を有することが好ましい。
【0009】
上記共重合体エマルション粒子は、上記アルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸(塩)以外のその他の単量体由来の構造単位(c)の含有割合が、全構造単位100質量%に対して0~19.9質量%であることが好ましい。
【0010】
上記共重合体エマルション粒子は、平均粒子径が10~5000nmであることが好ましい。
【0011】
上記水硬性材料用添加剤は、吹付けコンクリート用途に用いられることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、上記水硬性材料用添加剤と水硬性材料とを含む水硬性材料組成物でもある。
【0013】
上記水硬性材料組成物は、更に減水剤を含むことが好ましい。
【0014】
本発明は更に、上記水硬性材料用添加剤を水硬性材料とともに施工面に吹き付けて使用する方法でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水硬性材料用添加剤は、上述の構成よりなり、モルタル・コンクリート等におけるペースト分の骨材への粘着性を向上させることができるため、吹付モルタル・コンクリート等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0017】
<(メタ)アクリレート系共重合体エマルション粒子>
本発明の水硬性材料用添加剤は、(メタ)アクリレート系共重合体エマルション粒子(以下、共重合体エマルション粒子ともいう。)を含む。
上記共重合体エマルション粒子は、全構造単位100質量%に対して、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)を80~99.9質量%有し、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)を0.1~10質量%有する。構造単位(a)及び(b)を上記割合で有することは、共重合体エマルション粒子のガラス転移温度が-50℃以下となることに寄与し、モルタル・コンクリート等におけるペースト分の骨材への粘着性を向上させる。これにより、施工面に水硬性材料組成物を吹き付けた際のリバウンド量を低減することができる。また、共重合体中の酸量が多い場合には、塩基性である水硬性材料と混合した際に高粘性となるため、吹付工法においては吹き付け直前に水硬性材料と混合する必要があるが、本発明の共重合体エマルション粒子は、構造単位(a)及び(b)を上記割合で有することにより、塩基性である水硬性材料と混合した際にも高粘性となることを充分に抑制することができるため、水硬性材料と混合してから吹き付けまでの時間を充分に確保することもできる。
【0018】
上記構造単位(a)の含有割合として好ましくは全構造単位100質量%に対して85~99.9質量%である。これにより本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。より好ましくは90~99.9質量%であり、更に好ましくは95~99.9質量%である。
上記構造単位(b)の含有割合として好ましくは全構造単位100質量%に対して0.1~8質量%である。これにより本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。より好ましくは0.1~5質量%であり、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0019】
上記共重合体エマルション粒子は、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸(塩)以外のその他の単量体由来の構造単位(c)を有していてもよい。
構造単位(c)の含有割合として好ましくは、全構造単位100質量%に対して0~19.9質量%であり、より好ましくは0~14.9質量%であり、更に好ましくは0~9.9質量%であり、特に好ましくは0~4.9質量%であり、最も好ましくは0質量%である。
【0020】
上記共重合体エマルション粒子は、ガラス転移温度が-50℃以下である。すなわち、共重合体エマルション粒子を構成する樹脂(ポリマー)のガラス転移温度が-50℃以下である。
これにより、モルタル・コンクリートにおけるペースト分の粘着性を向上させ、ペースト分の骨材への粘着性を向上させる。
ガラス転移温度として好ましくは-55℃以下であり、より好ましくは-57℃以下であり、更に好ましくは-60℃以下である。
なお、共重合体エマルション粒子のガラス転移温度(Tg)は、後述する単量体成分の種類や使用割合によって制御することができ、次のFOXの式(1)により求められる他、DSC(示差走査熱量測定装置)やDTA(示差熱分析装置)によって求めることができる。
【0021】
【数1】
【0022】
式中、Tg’は、共重合体エマルション粒子のTg(絶対温度)である。W1’、W2’、・・・Wn’は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。Tg1、Tg2、・・・Tgnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。上記計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons, Inc.発行)などに記載されている。
【0023】
上記共重合体エマルション粒子は、平均粒子径が10~5000nmであることが好ましい。より好ましくは70~500nmであり、更に好ましくは150~350nmである。共重合体エマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱測定法により測定することができる。
【0024】
上記炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸の炭素数3~20のアルキルエステルである。上記アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と炭素数が3~20であるアルキルアルコールとのエステルと同じ構造であれば、(メタ)アクリル酸と炭素数が3~20であるアルキルアルコールとがエステル反応して得られたものに限定されない。
上記アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数として好ましくは3~18である。これにより、共重合体エマルションのガラス転移温度がより好適な範囲となる。アルキル基の炭素数としてより好ましくは4~16であり、更に好ましくは4~14であり、特に好ましくは4~12である。
【0025】
上記アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基として具体的には、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基、i-プロピル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、i-アミル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、t-アミル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、t-オクチル基、分岐したノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、イコシル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
【0026】
炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとして具体的には、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等であり、より好ましくはブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、である。
【0027】
上記共重合体エマルション粒子において、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを1種用いても、2種以上用いてもよい。該アルキル(メタ)アクリレートを2種用いる形態は、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸(塩)とは、アクリル酸、アクリル酸塩、メタクリル酸、メタクリル酸塩を表し、これらの中でも、アクリル酸、アクリル酸塩が好ましい。これら(メタ)アクリル酸(塩)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。上記(メタ)アクリル酸(塩)における塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられる。これらの中でも、Li、Na、K、Ca等のアルカリ金属塩が好ましく、より好ましくは、ナトリウム塩またはアンモニウム塩である。
【0029】
上記共重合体エマルション粒子は、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸(塩)以外のその他の単量体由来の構造単位(c)を有していてもよく、その他の単量体としては、上記アルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸(塩)と共重合できる限り特に制限されない。
その他の単量体として具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル;クロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸等の(メタ)アクリル酸(塩)以外のエチレン性不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸等の不飽和多価カルボン酸類;マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノエチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物等のカルボキシル基を有する単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホ(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する単量体;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシ-3-クロロプロピルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸等の酸性リン酸エステル系単量体;
【0030】
アリルアルコール、メタリルアルコール、イソプロピルアルコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールとのモノエステル、α-(ヒドロキシルメチル)アクリル酸メチル等のヒドロキシル基を有する単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する単量体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体;N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等のアミド基を有する単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、アミノスチレン等のアミノ基を有する単量体;イソプロペニルオキサゾリン、ビニルピロリドン等のその他の官能基を有する単量体;
【0031】
(メタ)アクリル酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールとのエステル;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物;(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸とアリルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロスチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチルエチル等のハロゲン成分を有する単量体が挙げられる。
【0032】
<共重合体エマルション>
本発明はまた、上記共重合体エマルション粒子と溶媒とを含む樹脂分散体(以下、共重合体エマルションともいう)である。
上記溶媒としては、後述する共重合体エマルションの製造方法に記載の溶媒が挙げられる。
【0033】
<共重合体エマルションの製造方法>
本発明の共重合体エマルションの製造は、特に制限されないが、単量体成分を乳化重合することにより製造することができる。乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体成分、重合開始剤及び乳化剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いてもよい。
本発明はまた、共重合体エマルション粒子を含む水硬性材料用添加剤を製造する方法であって、上記製造方法は、全単量体成分100質量%に対して80~99.9質量%の炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートと0.1~10質量%の(メタ)アクリル酸(塩)とを含む単量体成分を重合して、ガラス転移温度が-50℃以下である共重合体エマルション粒子を形成する工程を含む水硬性材料用添加剤の製造方法でもある。また、上記共重合体エマルション粒子を形成する工程を行うことにより得られる水硬性材料用添加剤もまた、本発明の1つである。
上記単量体成分は、全単量体100質量%に対して、炭素数が3~20であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを80~99.9質量%含み、(メタ)アクリル酸(塩)を0.1~10質量%含む。(メタ)アクリル酸(塩)を上記割合で含むことにより、重合性が向上し、得られる共重合体エマルションの安定性が向上する。
単量体成分の具体例及び好ましい例、並びに、各単量体の好ましい割合は、上述のとおりである。
【0034】
上記水系溶媒としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水が好ましい。
【0035】
上記乳化剤としては、アニオン性(系)、カチオン性(系)、ノニオン性(系)、両性の各種界面活性剤、及び、高分子界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
上記アニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルコハク酸ジ塩;ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
上記アニオン系界面活性剤として好適な市販品としては、例えば、ラテムルWX、ラテムル118B、ペレックスSS-H、エマルゲンA-60、B-66、レベノールWZ(花王社製)、ニューコール707SF、ニューコール707SN、ニューコール714SF、ニューコール714SN、AB-26S、ABEX-2010、2020、2030、DSB(ローディア日華社製)、ハイテノール18E(第一工業製薬社製)等を挙げることができる。
また、これらのノニオンタイプに相当する界面活性剤も使用することができる。
【0037】
上記アニオン系界面活性剤としては、また反応性界面活性剤として、反応性アニオン系界面活性剤、スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤、アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルS-120、S-120A、S-180及びS-180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS-2(商品名、三洋化成工業社製)、アデカリアソープSR-10、SR-20、SR-30(ADEKA社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
更に、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS-30」、日本乳化剤社製「アントックスMS-60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH-10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD-104」等)等も用いることができる。
【0038】
また、上記アニオン系界面活性剤としては、更に反応性界面活性剤として、下記の界面活性剤等も用いることができる。
炭素数3~5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1~4)エステル塩型界面活性剤、例えば、2-スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤。
【0039】
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER-20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD-420」、「ラテムルPD-430」等)等の反応性を有するノニオン系界面活性剤も用いることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記カチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記界面活性剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の界面活性剤を用いることが好適である。
【0043】
上記重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素とアスコルビン酸、t-ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと二亜硫酸ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1~2重量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~1重量部である。
【0044】
上記重合開始剤には、重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.001~1重量部であることが好ましい。
【0045】
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトプロピオン酸、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2-エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2-メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α-メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、全単量体成分100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは、10重量部以下である。更に好ましくは、5.0重量部以下、特に好ましくは2.0重量部以下、最も好ましくは1.0重量部以下である。
【0046】
上記重合は、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や、無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0047】
上記製造方法における重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0~100℃であることが好ましく、より好ましくは40~95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1~15時間とすることが好適で、より好ましくは2~10時間である。
単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
本発明の共重合体エマルションの製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、中和剤によりエマルションを中和することが好ましい。これにより、エマルションが安定化されることになる。
中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;ジグリコールアミン、アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
<水硬性材料用添加剤及び水硬性材料組成物>
本発明の水硬性材料用添加剤は、上記共重合体エマルション粒子を含むものであり、共重合体エマルション粒子を2種以上含んでいてもよい。上記水硬性材料用添加剤における上記共重合体の含有量(2種以上の共重合体エマルション粒子を含む場合は、その総含有量)は、特に制限されないが、水硬性材料用添加剤中の固形分(すなわち不揮発分)100質量%中、5~90質量%であることが好ましい。より好ましくは20~90質量%、更に好ましくは30~75質量%である。
なお、本明細書中、「水硬性材料用添加剤」とは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性材料組成物へ添加される添加剤のことをいい、上記共重合体エマルションのみからなる剤であってもよいし、また、上記共重合体エマルションだけでなく、必要に応じて更に後述するその他の添加剤等を含む剤であってもよい。
【0050】
本発明の水硬性材料用添加剤は、水硬性材料を含む水硬性材料組成物に用いられることが好ましい。すなわち、水硬性材料用添加剤と水硬性材料とを含む水硬性材料組成物もまた、本発明の1つである。上記水硬性材料組成物が更に骨材を含む形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0051】
上記水硬性材料組成物において、本発明の水硬性材料用添加剤の配合割合としては、例えば、本発明の必須成分である共重合体エマルション粒子(複数含む場合はその合計量)の割合が、固形分換算で、水硬性材料の全量100質量%に対して、0.005~10質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは0.01~5質量%であり、更に好ましくは0.02~3質量%である。なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
<固形分測定方法>
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1.5時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固形分測定物の質量で除することで固形分を測定する。
【0052】
上記水硬性材料としては、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント;珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム等のセメントの構成成分;潜在水硬性を有するフライアッシュ、シリカヒューム、スラグ、石灰微粉等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通ポルトランドセメントが通常よく使用され、好適に適用することができる。
【0053】
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0054】
本発明の水硬性材料用添加剤は、水硬性材料組成物において、本発明の水硬性材料用添加剤以外のその他の添加剤と併用してもよく、その他の添加剤としては、通常使用されるセメント分散剤や減水剤、水溶性高分子物質、遅延剤、急結剤、早強剤・促進剤、鉱油系消泡剤、油脂系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、オキシアルキレン系消泡剤、アルコール系消泡剤、アミド系消泡剤、リン酸エステル系消泡剤、金属石鹸系消泡剤、シリコーン系消泡剤、AE剤、界面活性剤、防水剤、防錆剤、防腐剤、ひび割れ低減剤、膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、コロイダルシリカ、繊維、石膏、等のセメント添加剤(材)が挙げられる。
【0055】
セメント分散剤(減水剤)としては特に限定されず、例えば、(i)ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系分散剤;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂、スルホン酸塩系分散剤;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系分散剤;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系分散剤;ポリスチレンスルホン酸塩系分散剤;等の分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤(減水剤);(ii)特公昭59-18338号公報、特開平7-223852号公報に記載の如く、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体から得られる共重合体;特開平10-236858号公報、特開2001-220417号公報、特開2002-121055号公報、特開2002-121056号公報に記載の如く、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体、マレイン酸系単量体または(メタ)アクリル酸系単量体から得られる共重合体;等の分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する各種ポリカルボン酸系分散剤(減水剤);(iii)特開2006-52381号公報に記載の如く、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸モノエステル系単量体、およびリン酸ジエステル系単量体から得られる共重合体等の、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とリン酸エステル基とを有する共重合体;特表2008-517080号公報に記載の如く、(ポリ)オキシアルキレン基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、およびアルデヒド化合物からなる重縮合生成物;特表2015-508384号公報に記載の如く、芳香族トリアジン構造単位、ポリアルキレングリコール構造単位、およびリン酸エステル構造単位を有する分散剤;等の各種リン酸系分散剤(減水剤)等が挙げられる。
本発明の水硬性材料用添加剤は、上記その他の添加剤の中でも、減水剤と併用されることが好ましい。これによりペースト分の骨材への粘着性がより向上する。
すなわち、上記水硬性材料組成物は、更に減水剤を含むものであることが好ましく、このような形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0056】
上記急結剤としては公知の急結剤であれば良く特に限定されない。用いる急結剤は粉体急結剤、液体急結剤でも、スラリータイプの急結剤でも良い。液体急結剤としては例えば硫酸アルミニウム、フッ素、及びアルカリ金属、さらに、これらとアルカノールアミンを含有するものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また本発明で使用する液体急結剤には、既知の水溶性の水和促進剤を使用することが可能である。水和促進剤としては、例えば、ギ酸又はその塩、酢酸又はその塩、及び乳酸又はその塩等の有機系の水和促進剤や、水ガラス、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、及びチオシアン酸塩等の無機系の水和促進剤を使用することが可能である。粉体急結剤としては例えば、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなるもの等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
前記消泡剤としては、公知の消泡剤であれば良く特に限定されない。例えば、燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;ジエチレングリコールモノラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール等のアルコール系消泡剤;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;シリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変成ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物等のオキシアルキレン系消泡剤;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。上記例示の消泡剤の中でも特に、オキシアルキレン系消泡剤が最も好ましい。本発明のセメント混和剤用共重合体とオキシアルキレン系消泡剤とを組み合わせて用いると、消泡剤使用量が少なくて済み、さらに消泡剤と共重合体との相溶性にも優れるからである。オキシアルキレン系消泡剤としては、分子内にオキシアルキレン基を有しかつ水性液体中の気泡を減少させる作用を有する化合物であれば特に制限はないが、その中でも下記一般式(2)で表わされる特定のオキシアルキレン系消泡剤が好ましい。
{-T-(R O)t-R }n (2)
上記式(2)中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数1~22のアルキニル基、フェニル基またはアルキルフェニル基(アルキルフェニル基中のアルキル基の炭素数は1~22である)を表わす。ROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。tは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、0~300の数を表わす。tが0のとき、R、Rが同時に水素原子であることはなく、Tは-O-、-CO-、-SO-、-PO-又は-NH-の基を表わす。nは、1又は2の整数を表わし、Rが水素原子のとき、nは1である。
上記式(2)で表されるオキシアルキレン系消泡剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル、炭素数12~14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0058】
上記水硬性材料組成物において、上記減水剤の配合割合としては、固形分換算で、水硬性材料の全量100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.5質量%であり、更に好ましくは0.07~0.3質量%である。
【0059】
上記水硬性材料組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位水量100~300kg/m、使用セメント量300~500kg/m、水/セメント比(重量比)=0.35~0.6であることが好ましい。より好ましくは、単位水量140~240kg/m、使用セメント量350~480kg/m、水/セメント比(重量比)=0.4~0.5である。
【0060】
本発明の水硬性材料用添加剤は、水硬性材料組成物に用いられる限り特に制限されず、レディーミクストコンクリート、吹付けコンクリート等に用いることができる。好ましくは吹付けコンクリート用途に用いることである。本発明の水硬性材料用添加剤の吹付けコンクリートへの使用方法もまた、本発明の1つである。本発明は更に、本発明の水硬性材料用添加剤を水硬性材料とともに施工面に吹き付けて使用する方法でもある。
上記使用方法は、本発明の水硬性材料用添加剤を水硬性材料とともに施工面に吹き付ける限り特に制限されないが、水硬性材料用添加剤と水硬性材料とを混合したものを施工面に吹き付けることが好ましい。上記使用方法としては、水硬性材料用添加剤と水硬性材料とを混合する工程と、混合工程により得られた水硬性材料組成物を圧縮空気又はポンプ等で圧送する工程と、圧送された水硬性材料組成物を吹き付ける工程とを含むことがより好ましい。上記水硬性材料組成物の好ましい形態等は、上述のとおりである。
【実施例
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0062】
<粒子径>
動的光散乱法による粒子径測定装置(Malvern社製Zetasizer Nano)を用い、散乱強度平均粒子径を測定した。
【0063】
<実施例1>水硬性材料用添加剤の製造
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート539.0g、2-エチルヘキシルアクリレート539.0g、およびアクリル酸22.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分57.2%、粒子径270nmであった。
【0064】
<実施例2>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート1078.0g、およびアクリル酸22.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分57.2%、粒子径280nmであった。
【0065】
<実施例3>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、2-エチルヘキシルアクリレート1078.0g、およびアクリル酸22.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分57.9%、粒子径300nmであった。
【0066】
<実施例4>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート539.0g、2-エチルヘキシルアクリレート539.0g、メタクリル酸12.1g、およびアクリル酸9.9gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分57.9%、粒子径290nmであった。
【0067】
<比較例1>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート550.0g、2-エチルヘキシルアクリレート550.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下しようと試みたが、重合反応中にゲル化し、目的となるエマルションを得ることができなかった。
【0068】
<比較例2>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート264.0g、2-エチルヘキシルアクリレート264.0g、スチレン550.0g、およびアクリル酸22.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分53.8%、粒子径260nmであった。
【0069】
<比較例3>
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水387.7gを仕込んだ。他方、滴下ロートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノール18E」)の20%水溶液82.5g、脱イオン水278.1g、ブチルアクリレート220.0g、メチルメタクリレート220.0g、およびエチルアクリレート660.0gからなるプレエマルションを調製して仕込んだ。次に、前記プレエマルション7.2g(プレエマルション全量の0.5%に相当)をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら攪拌下で80℃まで昇温した。昇温後、フラスコ内に、3.5%過硫酸カリウム水溶液14.3gと2.5%二亜硫酸ナトリウム水溶液2.8gとを添加して重合を開始させた。添加後に反応系内を80℃で20分間維持した。ここまでを初期反応とする。初期反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのプレエマルション1433.4g(プレエマルション全量の99.5%に相当)と、3.5%過硫酸カリウム水溶液73.7gとを240分間かけて均一に滴下した。滴下後、脱イオン水18gで滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコ内に添加した。その後、80℃で60分間維持したのち、室温まで冷却した。得られた反応液に25%アンモニア水溶液16.4gを添加し、30分間攪拌したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション樹脂組成物を得た。得られたエマルション樹脂組成物を分析したところ、固形分53.8%、粒子径195nmであった。
【0070】
<製造例1>減水剤(ポリカルボン酸共重合体)の製造
温度計、攪拌機、滴下ロート、環流冷却器を備えたガラス製反応容器にイオン交換水72.26部、3-メチル-3-ブテン-1-オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール127.74部を仕込み、65℃に昇温した後、そこへ過酸化水素30%水溶液0.71部を添加し、アクリル酸40%水溶液46.58部を3時間、3-メルカプトプロピオン酸0.67部を3時間、L-アスコルビン酸2.1%水溶液12.97部を3.5時間かけて滴下した。その後60分引き続いて65℃に温度を維持し
て重合反応を完結させ、温度を50℃以下に降温し水酸化ナトリウム12.2%水溶液76.07部でpH4からpH7になるように中和し、重量平均分子量29,000の重合体水溶液からなる本発明のポリカルボン酸共重合体を得た。尚、重合時に使用する原料の全量に対する全単量体の使用量は、56.2重量%であった。
【0071】
<コンクリート官能評価>
下記のとおり調製した(練り上げた)コンクリートをスコップで扱った際に手に感じる、コンクリートの粘着性を5段階評価で表した。粘着性が高いものを5、低いものを1とした。
コンクリートの調製:
パン型コンクリートミキサーにて、表1の配合割合に従って、水、セメント(普通ポルトランドセメント、太平洋セメント(株)製)、粗骨材(青梅産硬質砕石、表乾比重=2.65g/cm)、細骨材(大井川産陸砂、表乾比重=2.62g/cm)、及び、上記実施例、比較例で得られた水硬性材料用添加剤をセメントに対して0.3重量部となる様に投入し、90秒間混練を行ってコンクリートを作成した。更にスランプ値が20±1cmとなるように、減水剤として製造例1で得られたポリカルボン酸共重合体を添加した。なお、空気量は消泡剤であるオキシアルキレン系消泡剤を添加して3.0%未満となるように調整した。得られたコンクリートのスランプ値はJIS A 1150に従って測定した。
【0072】
【表1】
【0073】
<テクスチャーアナライザーによる粘着性評価>
装置:英光精機株式会社製 テクスチャーアナライザーTA.XT Plus
装置の概要:プローブ、試料台、応力検出器からなり、一定荷重を一定時間与えることができる機構、及び、モルタルとプローブとの接触及び引き剥がしを一定速度で行えるように当該速度を制御できる機構を有する。
粘着性試験用プローブ:つきさし、圧縮用円柱プローブ P/35(材質:アルミニウム、直径35mm)
評価方法:下記のとおり調製した(練り上げた)モルタル試料を200mLデスカップに移し試料台に置いた。次に毎秒1mmの速度でプローブを試料の表面から20mmの深さまで貫入させ、その後直ちに1mm/sec.の速度でプローブを引き抜き、プローブがモルタルから剥がれる際に要する最大荷重を求め、プローブタック試験の値とした。単位はN/cmで表記した。エマルション未添加の系の最大荷重を100%としたときの各々の系の最大荷重比を、粘着性と定義した。最大荷重比が100%以上である場合に、粘着性が高いとみなした。
モルタル試料の調製:
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±15%の環境下で行った。モルタル配合は、C/S/W=560/1350/250(g)とした。
ただし、
C:セメント(普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製)
S:細骨材(大井川産陸砂)
W:試料と消泡剤のイオン交換水溶液
とし、Wについては上記実施例、比較例で得られた水硬性材料用添加剤及び消泡剤を含み、イオン交換水中充分に均一溶解させた。
モルタルミキサー(ホバート社製ミキサー、型番:N-50)を用い、混練容器へCおよびSを投入し、1速で10秒間混練した。さらに1速で混練しながら、Wを10秒かけて投入した。混練を始めてから60秒後にミキサーを停止し、30秒間モルタルの掻き落としを行った。その後、さらに2速で60秒間混練を行い、モルタルを調製した。上記のようにして得られたモルタルを、フロー測定板(60cm×60cm)に置かれたミニスランプコーン(JISマイクロコンクリートスランプコーン、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mm)に半量詰めて15回突き棒で突き、さらにモルタルをミニスランプコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回突き棒で突いた後、ミニスランプコーンの表面をならした。その後、最初にミキサーを始動させてから3分30秒後にミニスランプコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)および該長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。更にフロー値が230mmとなるように、減水剤として製造例1で得られたポリカルボン酸共重合体を添加した。なお、空気量は消泡剤であるオキシアルキレン系消泡剤を添加して3.0%未満となるように調整した。
【0074】
<結果>
結果を以下表2に記した。表2における単量体は、以下のとおりである。なお、上記のFoxの式(1)により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に( )で示した。
BA:ブチルアクリレート(-56℃)
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(-70℃)
AA:アクリル酸(95℃)
St:スチレン(100℃)
MAA:メタクリル酸(130℃)
MMA:メチルメタクリレート(105℃)
EA:エチルアクリレート(-22℃)
【0075】
【表2】