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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20220616BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220616BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220616BHJP
   H05K 3/46 20060101ALN20220616BHJP
   C23C 14/14 20060101ALN20220616BHJP
   C23C 14/06 20060101ALN20220616BHJP
   H05K 1/09 20060101ALN20220616BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B9/00 A
B32B7/06
H05K3/46 S
C23C14/14 D
C23C14/06 F
C23C14/06 N
H05K1/09 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020558332
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044663
(87)【国際公開番号】W WO2020105535
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2018217756
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019118303
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳井 威範
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149811(WO,A1)
【文献】特許第5859155(JP,B2)
【文献】特開2007-307767(JP,A)
【文献】特開2017-228693(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/09
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアと、
前記キャリア上に設けられ、チタンを含む密着層と、
前記密着層の前記キャリアとは反対の面側に設けられ、を含む剥離補助層と、
前記剥離補助層の前記密着層とは反対の面側に設けられ、炭素を含む剥離層と、
前記剥離層の前記剥離補助層とは反対の面側に設けられる金属層と、
を備え、
前記密着層の厚さTに対する前記剥離補助層の厚さTの比であるT/T1.5以上6.7以下である、積層体。
【請求項2】
240℃以上340℃以下の任意の温度条件下において、30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を前記積層体に与えた場合に、JIS C6481-1996に準拠して測定される、前記剥離層と前記剥離補助層との間の剥離強度が1gf/cm以上100gf/cm未満である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記キャリアが、ガラス又はセラミックスで構成される、請求項1又は2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャリア、剥離層、金属層等を備えた積層体(例えばキャリア付銅箔)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の実装密度を上げて小型化するために、プリント配線板の多層化が広く行われるようになってきている。このような多層プリント配線板は、携帯用電子機器の多くで、軽量化や小型化を目的として利用されている。そして、この多層プリント配線板には、層間絶縁層の更なる厚さの低減、及び配線板としてのより一層の軽量化が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす技術として、コアレスビルドアップ法を用いた多層プリント配線板の製造方法が採用されている。コアレスビルドアップ法とは、いわゆるコア基板を用いることなく、絶縁層と配線層とを交互に積層(ビルドアップ)して多層化する方法である。コアレスビルドアップ法においては、支持体と多層プリント配線板との剥離を容易に行えるように、剥離層等によって剥離機能が付与されたキャリア上に金属層を備えた積層体を使用することが提案されている。例えば、特許文献1には、積層体としてキャリア付銅箔を使用し、このキャリア付銅箔のキャリア面に絶縁樹脂層を貼り付けて支持体とし、キャリア付銅箔の極薄銅層側にフォトレジスト加工、パターン電解銅めっき、レジスト除去等の工程により第一の配線導体を形成した後、絶縁材料を積層して熱プレス加工を行う等してビルドアップ配線層を形成し、キャリア付支持基板を剥離し、極薄銅層を除去することを含む、半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法が開示されている。
【0004】
このようなプリント配線板の製造工程においては、絶縁材料を積層する際に熱プレス加工が行われる。この点、熱プレス加工の加熱に伴い、キャリア及び金属層間の剥離強度が上昇して剥離性が失われることが知られており、かかる問題に対処可能な積層体が幾つか提案されている。例えば、特許文献2には、キャリア、接合界面層としての炭素層、及び銅箔を順に備えたキャリア付銅箔が開示されており、180℃を超える高温で加熱された後でも容易にキャリア箔と銅箔との引き剥がしが可能になるとされている。また、特許文献3には、キャリアの表面に、クロム層等の剥離層と、ニッケル層等の拡散防止層と、電気銅メッキ層とをこの順序に積層してなるキャリア付銅箔が開示されており、高温でキャスティング又は熱圧着して製造される銅張積層板からキャリア箔を容易に剥離できるとされている。
【0005】
ところで、積層体における金属層の厚さの更なる低減を実現するため、スパッタリング等の物理気相堆積(PVD)法により極薄銅層等の金属層を形成することも最近提案されている。例えば、特許文献4には、キャリア、密着金属層、剥離補助層、剥離層、及び極薄銅層を順に備えたキャリア付銅箔が開示されており、密着金属層、剥離補助層、剥離層、及び極薄銅層をスパッタリングで形成することが記載されている。また、この文献では、剥離層は炭素層であることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-101137号公報
【文献】特開2007-307767号公報
【文献】特開2006-22406号公報
【文献】国際公開第2017/149811号
【発明の概要】
【0007】
特許文献4に開示されるような、キャリア、密着層、剥離補助層、剥離層、及び金属層を順に備えた積層体は、幅広い分野での使用が検討されている。積層体の具体的な用途の例としては、回路形成用基板としての用途が挙げられる。このような積層体は、その用途に応じて様々な材料系が用いられる。一方、積層体に用いられる材料系の多様化に伴い、積層体の製造工程における熱処理温度域も幅広くなる。しかしながら、積層体を構成する剥離層は、剥離機能の観点から、対応する温度域が比較的狭い傾向にあり、この対応温度域から外れる加熱温度で積層体に加工を施した場合、剥離層が所望の剥離機能を発揮できなくなる場合がある。具体的には、例えば240℃程度の低温での熱処理に対応した剥離層は、例えば340℃程度の高温での熱処理により剥離機能が低下してしまう場合がある。一方、高温での熱処理に対応した剥離層は、低温での熱処理により剥離機能が低下してしまう場合がある。この点、例えば剥離層自体の厚さを調整することで剥離機能を保持させることも考えられるが、低温から高温までの幅広い温度域における熱処理に対応するほどの十分な剥離機能を保持することは困難である。
【0008】
本発明者らは、今般、キャリア上に、密着層、剥離補助層、剥離層及び金属層が順に設けられた積層体において、密着層及び剥離補助層の厚さの比を特定の範囲内に制御することで、低温及び高温のいずれの温度条件で熱処理した場合であっても、剥離層が有する剥離機能の低下を抑制することができるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本開示の目的は、低温及び高温のいずれの温度条件で熱処理した場合であっても、剥離層が有する剥離機能の低下を抑制することが可能な、積層体を提供することにある。
【0010】
本開示の一態様によれば、
キャリアと、
前記キャリア上に設けられ、負の標準電極電位を有する金属Mを含む密着層と、
前記密着層の前記キャリアとは反対の面側に設けられ、金属M(Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属である)を含む剥離補助層と、
前記剥離補助層の前記密着層とは反対の面側に設けられる剥離層と、
前記剥離層の前記剥離補助層とは反対の面側に設けられる金属層と、
を備え、
前記密着層の厚さTに対する前記剥離補助層の厚さTの比であるT/Tが1を超え20以下である、積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の積層体の一例を示す模式断面図である。
図2】従来の高温対応向け剥離層を備えた積層体における、低温加熱後の様子を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
積層体
本開示の積層体の一例が図1に模式的に示される。図1に示されるように、本開示の積層体10は、キャリア12と、密着層14と、剥離補助層16と、剥離層18と、金属層20とをこの順に備えたものである。密着層14は、負の標準電極電位を有する金属Mを含む層であり、キャリア12上に設けられる。剥離補助層16は、金属Mを含む層であり、密着層14のキャリア12とは反対の面側に設けられる。Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属である。なお、M及びMは互いに異なる金属であるのが好ましい。剥離層18は、剥離補助層16の密着層14とは反対の面側に設けられる。金属層20は、剥離層18の剥離補助層16とは反対の面側に設けられる。そして、本開示の積層体10は、密着層14の厚さTに対する剥離補助層16の厚さTの比であるT/Tが1を超え20以下である。所望により、積層体10における金属層20は、1層から構成される単層であってもよく、2層以上から構成される多層であってもよい。また、キャリア12の両面に上下対称となるように上述の各種層を順に備えてなる構成としてもよい。なお、本開示の積層体10は、あらゆる用途に使用され、特にプリント配線板製造用のキャリア付銅箔として使用されることが好ましい。
【0013】
本開示によれば、キャリア12上に、密着層14、剥離補助層16、剥離層18及び金属層20が順に設けられた積層体10において、密着層14及び剥離補助層16の厚さの比を特定の範囲内に制御することで、低温及び高温のいずれの温度条件で熱処理した場合であっても、剥離層18が有する剥離機能の低下を抑制することができる。具体的には、以下の通りである。
【0014】
まず、前述したとおり、積層体に対しては幅広い温度域での熱処理が施されることが想定される。すなわち、積層体は、その用途に応じて様々な材料系が用いられるところ、使用する材料系の多様化に伴い、積層体の製造工程における熱処理温度域も幅広くなる。また、積層体を用いて作製される製品の製造工程においても、幅広い温度域で熱処理されることが想定される。例えば多層プリント配線板の製造工程においては、キャリア付銅箔として使用される積層体に対し絶縁材料を積層して熱プレス加工を行う場合がある。この熱プレス加工の加工温度は積層する絶縁材料の硬化温度に依存するため、その温度は絶縁材料の種類によって大きく異なる。一方、従来の積層体における剥離層は、剥離機能の観点から、対応する温度域が比較的狭い傾向にある。ここで、例えば、積層体をプリント配線板の製造に用いられるキャリア付銅箔として用いた場合、当該積層体における剥離層としては、窒素含有有機化合物やカルボン酸等の有機成分を用いた有機剥離層、あるいは特許文献2及び3に開示されるような炭素層やクロム層等の無機剥離層を用いる技術が提案されている。しかしながら、これらの剥離層は、例えば240℃の低温向けまたは例えば340℃の高温向けに設計されており、適切な使用温度が限定されている。そのため、低温向けに設計された剥離層を備えた積層体に対して、低温で熱処理を行った場合には、キャリアと金属層とが剥離可能な状態が保持されるが、高温で熱処理を行った場合には、剥離強度が上昇してキャリアと金属層とを引き剥がすことが困難になるといった不具合が生じ得る。また、高温向けに設計された剥離層を備えた積層体に対して、高温で熱処理を行った場合には、キャリアと金属層とが剥離可能な状態が保持されるが、低温で熱処理を行った場合には、図2に示されるように、積層体110のキャリア112と金属層120との間に意図せぬ浮きが発生する等の不具合が生じ得る。このように、従来の積層体は、低温または高温のいずれかの温度条件にて熱処理を行ったときに、所望の剥離強度が達成されるよう設計されており、例えば低温から高温までの幅広い温度条件にて熱処理を行ったときに、キャリア及び金属層間の適度な剥離強度の保持を意図したものとはなっていない。この課題に対し、例えば剥離層自体の厚さを調整することで剥離機能を保持させることも考えられるが、例えば240℃以上340℃以下といった幅広い温度域での熱処理を施したときに、十分な剥離機能を付与することは困難である。
【0015】
本発明者らは、かかる点に着目して、低温から高温までの幅広い温度条件下にて熱処理を施した後の、剥離層が有する剥離機能について検討を行った。その結果、キャリアと剥離層との間に介在する密着層及び剥離補助層の厚さの比が剥離性に影響を及ぼすことを新たに見出すとともに、この厚さの比を上述した特定の範囲内に制御することにより、低温及び高温の幅広い温度条件にて熱処理を施した場合であっても、剥離層が有する剥離機能の低下を抑制することができることを発見し、本開示に至った。なお、密着層及び剥離補助層の厚さの比が剥離性に影響を及ぼすメカニズムは必ずしも定かではないが、上記厚さの比を変化させることで、加熱時における積層体の各層を構成する元素の拡散挙動に変化が生じることによるものと考えられる。
【0016】
したがって、本開示の積層体10は、240℃以上340℃以下の任意の温度条件下において、30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合に、剥離層18と剥離補助層16との間の剥離強度が所望の範囲内であることが好ましい。具体的な上記剥離強度は、例えば、0.5gf/cm以上であることが好ましく、中でも1gf/cm以上であることが好ましく、特に3gf/cm以上であることが好ましい。一方、上記剥離強度は、例えば、200gf/cm未満であることが好ましく、中でも100gf/cm未満であることが好ましく、特に30gf/cm未満であることが好ましい。より具体的には、240℃で30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合、260℃で30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合、280℃で30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合、320℃で30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合、及び340℃で30kgf/cmの圧力にて2時間プレスする熱履歴を積層体10に与えた場合のいずれにおいても、剥離層18と剥離補助層16との間の剥離強度が、上述した範囲となることが好ましい。剥離強度が上記範囲内であることにより、所定の剥離強度は維持しつつ、剥離工程においては良好な剥離を可能とすることができる。この剥離強度は後述の実施例で言及されるように、JIS C6481-1996に準拠して測定される値である。
【0017】
上記剥離強度を満足する観点から、積層体10は、密着層14の厚さTに対する剥離補助層16の厚さTの比であるT/Tは1を超え20以下である。中でも、T/Tは、例えば、1.5以上であることが好ましく、2以上であることが更に好ましく、2.5以上であることが一層好ましい。一方、T/Tは、例えば、15以下であることが好ましく、10以下であることが更に好ましく、6以下であることが一層好ましい。また、密着層14の厚さTは、例えば、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましく、30nm以上であることが一層好ましく、40nm以上であることがより一層好ましい。一方、密着層14の厚さTは、例えば、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、300nm以下であることが一層好ましく、100nm以下であることがより一層好ましい。剥離補助層16の厚さTは、例えば、50nm以上であることが好ましく、100nmを超えることが更に好ましく、150nm以上であることが一層好ましい。一方、剥離補助層16の厚さTは、例えば、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、300nm以下であることが一層好ましい。これらの厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定することができる。
【0018】
密着層14は、キャリア12との密着性を確保する点から、負の標準電極電位を有する金属Mを含む。好ましいMの例としては、チタン、クロム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくはチタン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくはチタン、ニッケル、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくはチタン、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、最も好ましくはチタンである。密着層14は、キャリア12との密着性を損なわない範囲において、M以外の元素を含んでいてもよい。上記の点から、密着層14におけるMの含有率は、例えば、50原子%以上であることが好ましく、60原子%以上であることがより好ましく、70原子%以上であることが更に好ましく、80原子%以上であることが一層好ましく、90原子%以上であることがより一層好ましい。一方、密着層14におけるMの含有率は、例えば、100原子%以下とすることができる。密着層14を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、密着層14の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。密着層14は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。密着層14は金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。
【0019】
剥離補助層16は、剥離層18との剥離強度を所望の値に制御する点から、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属Mを含む。好ましいMの例としては、銅、銀、錫、亜鉛、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、タングステン、タンタル、モリブデン及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは銅、銀、錫、亜鉛、チタン、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくは銅、銀、チタン、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅、銀、アルミニウム及びそれらの組合せ、最も好ましくは銅である。剥離補助層16は、キャリア12の剥離性を損なわない範囲において、M以外の元素を含んでいてもよい。上記の点から、剥離補助層16におけるMの含有率は、例えば50原子%以上であることが好ましく、60原子%以上であることがより好ましく、70原子%以上であることが更に好ましく、80原子%以上であることが一層好ましく、90原子%以上であることがより一層好ましい。一方、剥離補助層16におけるMの含有率は、例えば100原子%以下とすることができる。剥離補助層16を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、剥離補助層16の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。剥離補助層16は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。剥離補助層16は金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。
【0020】
好ましいM及びMの組み合わせとしては、例えば、Mがチタン、ニッケル、アルミニウムまたはモリブデンであり、かつ、Mが銅、銀、チタン、アルミニウムまたはモリブデンである組合せが挙げられる。より好ましい組合わせとしては、例えば、Mがチタン、ニッケルまたはモリブデンであり、かつ、Mが銅、銀またはアルミニウムである組合せが挙げられ、特に好ましい組合せとしては、Mがチタンであり、かつ、Mが銅である組合せが挙げられる。こうすることで、積層体10に前述した所望の剥離強度をより一層付与しやすくなる。
【0021】
キャリア12の材質はガラス、セラミックス、樹脂、及び金属のいずれであってもよく、積層体10の用途に応じて適宜選択すればよい。また、キャリア12の形態はシート、フィルム、板、及び箔のいずれであってもよい。また、キャリア12はこれらのシート、フィルム、板、及び箔等が積層されたものであってもよい。例えば、キャリア12はガラス板、セラミックス板、金属板等といった剛性を有する支持体として機能し得るものであってもよいし、金属箔や樹脂フィルム等といった剛性を有しない形態であってもよい。キャリア12の金属の好ましい例としては、銅、チタン、ニッケル、ステンレススチール、アルミニウム等が挙げられる。セラミックスの好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、その他各種ファインセラミックス等が挙げられる。樹脂の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等が挙げられる。中でも、電子素子を搭載する際の加熱に伴うコアレス支持体の反り防止の観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満、典型的には1.0ppm/K以上23ppm/K以下の材料であることが好ましい。そのような材料の例としては、特にポリイミド、液晶ポリマー等の低熱膨張樹脂、ガラス及びセラミックス等が挙げられる。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、キャリア12のビッカース硬度は、例えば100HV以上であることが好ましく、150HV以上であることがより好ましい。一方、キャリア12のビッカース硬度は、例えば、2500HV以下とすることができる。これらの特性を満たす材料として、キャリア12は樹脂フィルム、ガラス又はセラミックスから構成されることが好ましく、中でもガラス又はセラミックスから構成されることが好ましく、特にガラスから構成されることが好ましい。ガラスから構成されるキャリア12としては、例えばガラスシートが挙げられる。ガラスをキャリア12として用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層20の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、キャリア12がガラスである場合、積層体10をプリント配線板製造用のキャリア付銅箔として用いることで種々の利点を有する。例えば、コアレス支持体表面の配線層を形成した後、画像検査を行う際に銅めっきとの視認性コントラストに優れる点、電子素子搭載時に有利な表面平坦性、いわゆるコプラナリティを有している点、プリント配線板製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点、ビルドアップ層付積層体分離時に化学的分離法が採用できる点等である。キャリア12を構成するガラスの好ましい例としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、及びそれらの組合せが挙げられ、特に好ましくは無アルカリガラスが挙げられる。無アルカリガラスは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、及び酸化カルシウムや酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物を主成分とし、更にホウ酸を含有する、アルカリ金属を実質的に含有しないガラスのことを指す。この無アルカリガラスは、0℃から350℃までの広い温度帯域において熱膨脹係数が、例えば3ppm/K以上5ppm/K以下の範囲で低く安定しているため、電子素子として半導体チップを搭載した際、ガラスの反りを最小限にできるとの利点がある。キャリア12の厚さは、例えば、100μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、400μm以上であることが更に好ましい。一方、キャリア12の厚さは、例えば、2000μm以下であることが好ましく、1800μm以下であることがより好ましく、1100μmであることが更に好ましい。このような範囲内の厚さであることにより、ハンドリングに支障を来さない適切な強度を確保しながら、プリント配線板の薄型化、及び電子部品搭載時に生じる反りの低減を実現することができる。
【0022】
キャリア12の密着層14側の面の算術平均粗さRaは、例えば、0.1nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることがより好ましく、1.0nm以上であることが更に好ましく、1.5nm以上であることが一層好ましく、2.0nm以上であることがより一層好ましい。一方、キャリア12の密着層14側の面の算術平均粗さRaは、例えば、70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましく、40nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましい。上記算術平均粗さを小さくすることで、金属層20の剥離層18とは反対側の面、すなわち金属層20の外側表面において良好な算術平均粗さRaを達成することができる。これにより、例えば積層体10を用いて製造されるプリント配線板において、高度に微細化された配線パターンを形成するのに適したものとすることができる。ここで、高度に微細化された配線パターンとは、例えば、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下、具体的には、2μm/2μm以上12μm/12μm以下の範囲内で設計された配線パターンを指す。なお、上記算術平均粗さRaは、JIS B 0601-2001に準拠した方法により測定することができる。
【0023】
剥離層18は、キャリア12の剥離を可能とする層である。剥離層18は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよく、有機剥離層と無機剥離層との複合剥離層であってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、ニッケル、モリブデン、コバルト、クロム、鉄、チタン、タングステン、リン、亜鉛の少なくとも一種類以上の金属酸化物、炭素等が挙げられる。剥離層18は、金属酸化物及び炭素の両方を含む層であってもよい。これらの中でも特に、剥離層18は炭素を含む層であるのが剥離容易性や膜形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素を含んでなる層であり、さらに好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、特に好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボンからなる。この場合、剥離層18(すなわち炭素層)はXPSにより測定される炭素濃度が、例えば60原子%以上であることが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下であることが現実的である。特に炭素層等の剥離層18は、例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等といった不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に炭素層等の剥離層18には金属層20の成膜手法に起因して金属原子が混入する場合がある。炭素はキャリアとの相互拡散性及び反応性が比較的小さい。そのため、高温でのプレス加工等を受けても、金属層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を抑制して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。この剥離層18もスパッタリング等の気相法により形成された層であるのがアモルファスカーボン中の過度な不純物を抑制する点、前述の密着層14及び/又は剥離補助層16の成膜との連続生産性の点などから好ましい。剥離層18の厚さは、例えば1nm以上であることが好ましく、20nm以下、10nm以下であることが好ましい。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定することができる。
【0024】
金属層20は金属で構成される層である。金属層20は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。金属層20が2層以上の層で構成される場合には、金属層20は、剥離層18の剥離補助層16と反対の面側に、第1金属層から第m金属層(mは2以上の整数)までの各金属層が順に積層した構成であることができる。以下、金属層20が第1金属層及び第2金属層の2層で構成される例について説明する。
【0025】
第1金属層は、積層体10に対してエッチングストッパー機能や反射防止機能等の所望の機能を付与するものであれば特に限定されない。第1金属層を構成する金属の好ましい例としては、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、銀、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはチタン、ジルコニウム、アルミニウム、クロム、タングステン、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくはチタン、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくはチタン、モリブデン及びそれらの組合せである。これらの元素は、フラッシュエッチング液(例えば銅フラッシュエッチング液)に対して溶解しないという性質を有し、その結果、フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。したがって、第1金属層は、後述する第2金属層よりもフラッシュエッチング液によってエッチングされにくい層となり、それ故エッチングストッパー層として機能しうる。また、第1金属層を構成する上述の金属は光の反射を防止する機能も有するため、第1金属層は、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))において視認性を向上させるための反射防止層としても機能しうる。第1金属層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。第1金属層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。第1金属層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。第1金属層の厚さは、例えば、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、30nm以上であることが一層好ましく、50nm以上であることがより一層好ましい。一方、第1金属層の厚さは、例えば、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることが更に好ましく、300nm以下であることが一層好ましく、200nm以下であることがより一層好ましい。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定することができる。
【0026】
第2金属層を構成する金属の好ましい例としては、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、アルミニウム、並びにそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは銅、金、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、銀、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくは銅、金、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、コバルト、銀、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、さらにより好ましくは銅、金、チタン、アルミニウム、銀、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅、金、チタン、モリブデン及びそれらの組合せ、最も好ましくは銅である。第2金属層は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解金属めっき法及び電解金属めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した金属箔であってよい。特に好ましい金属層は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法により形成された金属層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された金属層である。また、第2金属層は、無粗化の金属層であるのが好ましい。一方、積層体10をプリント配線板の製造に用いる場合には、第2金属層は、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。第2金属層の厚さは、例えば10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましく、30nm以上であることが一層好ましく、50nm以上であることがより一層好ましく、70nm以上であることが特に好ましく、100nm以上であることが最も好ましい。一方、第2金属層の厚さは、上述したようなファインピッチ化に対応する観点から、例えば、1000nm以下であることが好ましく、900nm以下であることが更に好ましく、700nm以下であることが一層好ましく、600nm以下であることがより一層好ましく、500nm以下であることが特に好ましく、400nm以下であることが最も好ましい。このような範囲内の厚さの金属層はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0027】
第2金属層の第1金属層と反対側の表面(金属層20の外側表面)は、JIS B 0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaが、例えば、1.0nm以上であることが好ましく、2.0nm以上であることが更に好ましく、3.0nm以上であることが一層好ましく、4.0nm以上であることがより一層好ましく、5.0nm以上であることが特に好ましい。一方、第2金属層の第1金属層と反対側の表面(金属層20の外側表面)は、JIS B 0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaが、例えば、100nm以下であることが好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、15nm以下であることが特に好ましい。このように算術平均粗さが小さいほど、例えば積層体10を用いて製造されるプリント配線板において、高度に微細化された配線パターンを形成するのに適したものとすることができる。ここで、高度に微細化された配線パターンとは、例えば、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下、具体的には、2μm/2μm以上12μm/12μm以下の範囲内で設計された配線パターンを指す。
【0028】
金属層20が1層構成の場合には、上述した第2金属層を金属層20としてそのまま採用することが好ましい。一方、金属層20がn層(nは3以上の整数)構成である場合には、金属層20の第1金属層から第(n-1)層までを上述した第1金属層の構成とすることが好ましく、金属層20の最外層、すなわち第n金属層を上述した第2金属層の構成とすることが好ましい。
【0029】
密着層14、剥離補助層16、剥離層18及び金属層20はいずれも物理気相堆積(PVD)膜、すなわち物理気相堆積(PVD)法により形成された膜であるのが好ましく、より好ましくはスパッタ膜、すなわちスパッタリング法により形成された膜である。
【0030】
積層体の製造方法
本開示による積層体10は、キャリア12を用意し、キャリア12上に、密着層14、剥離補助層16、剥離層18、及び金属層20を形成することにより製造することができる。密着層14、剥離補助層16、剥離層18、及び金属層20の各層の形成は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、物理気相堆積(PVD)法により行われるのが好ましい。物理気相堆積(PVD)法の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法が挙げられる。中でも、0.05nm以上5000nm以下の幅広い範囲で膜厚制御できる点、広い幅ないし面積にわたって膜厚均一性を確保できる点等から、スパッタリング法を用いることが好ましい。特に、密着層14、剥離補助層16、剥離層18、及び金属層20の全ての層をスパッタリング法により形成することで、製造効率を格段に高くすることができる。物理気相堆積(PVD)法による成膜は公知の気相成膜装置を用いて公知の条件に従って行えばよく特に限定されない。例えば、スパッタリング法を採用する場合、スパッタリング方式としては、例えば、マグネトロンスパッタリング法、2極スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法等、公知の種々の方式が挙げられる。中でも、マグネトロンスパッタリング法が、成膜速度が速く生産性が高い点で好ましい。スパッタリング法はDC(直流)及びRF(高周波)のいずれの電源で行ってもよい。また、スパッタリング法においては、例えば、ターゲット形状も広く知られているプレート型ターゲットを使用することができる。中でも、ターゲット使用効率の観点から円筒形ターゲットを使用することが望ましい。以下、密着層14、剥離補助層16、剥離層18、及び金属層20の各層の物理気相堆積(PVD)法による成膜について説明する。なお、金属層20は、第1金属層及び第2金属層の2層構成の例として説明する。
【0031】
密着層14を物理気相堆積(PVD)法、好ましくはスパッタリング法により成膜するとき、上記成膜は、例えば、上述の金属Mで構成されるターゲットを用い、非酸化性雰囲気下でマグネトロンスパッタリング法により行われることが好ましい。膜厚分布均一性を向上することができるからである。ターゲットの純度は、例えば99.9%以上であることが好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、例えばアルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定することができる。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良の発生を抑制し、連続的に成膜するといった観点から、成膜時の圧力は、例えば0.1Pa以上20Pa以下であることが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定することができる。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり、例えば0.05W/cm以上10.0W/cm以下とすることができる。
【0032】
剥離補助層16を物理気相堆積(PVD)法、好ましくはスパッタリング法により成膜するとき、上記成膜は、例えば、上述の金属Mで構成されるターゲットを用い、非酸化性雰囲気下でマグネトロンスパッタリング法により行われることが好ましい。膜厚分布均一性を向上することができるからである。ターゲットの純度は、例えば99.9%以上であることが好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、例えばアルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定することができる。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良の発生を抑制し、連続的に成膜するといった観点から、成膜時の圧力は、例えば0.1Pa以上20Pa以下であることが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定することができる。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり、例えば0.05W/cm以上10.0W/cm以下とすることができる。
【0033】
剥離層18を物理気相堆積(PVD)法、好ましくはスパッタリング法により成膜するとき、上記成膜は、例えば、カーボンターゲットを用い、アルゴン等の不活性雰囲気下で行われることが好ましい。カーボンターゲットはグラファイトで構成されることが好ましいが、例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等といった不可避不純物を含んでいてもよい。カーボンターゲットの純度は、例えば、99.99%以上であることが好ましく、99.999%以上であることが更に好ましい。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良の発生を抑制し、連続的に成膜するといった観点から、成膜時の圧力は、例えば0.1Pa以上2.0Pa以下であることが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定することができる。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり、例えば0.05W/cm以上10.0W/cm以下とすることができる。
【0034】
第1金属層を物理気相堆積(PVD)法、好ましくはスパッタリング法により成膜するとき、上記成膜は、例えば、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、銀、ニッケル及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成されるターゲットを用い、マグネトロンスパッタ法により行われることが好ましい。ターゲットの純度は、例えば99.9%以上であることが好ましい。特に、第1金属層のマグネトロンスパッタ法による成膜は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。成膜時の圧力は、例えば、0.1Pa以上が好ましく、0.2Pa以上が更に好ましく、0.3Pa以上が一層好ましい。一方、成膜時の圧力は、例えば、20Pa以下が好ましく、15Pa以下が更に好ましく、10Pa以下が一層好ましい。なお、上記圧力範囲の制御は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することにより行うことができる。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定することができる。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり、例えば1.0W/cm以上15.0W/cm以下とすることができる。また、製膜時にキャリア温度を一定に保持することが、例えば膜抵抗や結晶サイズといった膜特性が安定した膜を得やすい点で好ましい。成膜時のキャリア温度は、例えば、25℃以上であることが好ましく、40℃以上であることが更に好ましく、50℃以上であることが一層好ましい。一方、成膜時のキャリア温度は、例えば、300℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることが更に好ましく、150℃以下とすることが一層好ましい。
【0035】
第2金属層を物理気相堆積(PVD)法、好ましくはスパッタリング法により成膜するとき、上記成膜は、例えば、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、並びにアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成されるターゲットを用い、アルゴン等の不活性雰囲気下で行われることが好ましい。銅ターゲット等の金属ターゲットは金属銅等の金属で構成されることが好ましいが、不可避不純物を含んでいてもよい。金属ターゲットの純度は、例えば、99.9%以上であることが好ましく、99.99%以上であることが更に好ましく、99.999%以上であることが一層好ましい。第2金属層の気相成膜時の温度上昇を避けるため、スパッタリングの際、ステージの冷却機構を設けることができる。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良の発生を抑制し、安定的に成膜するといった観点から、成膜時の圧力は、例えば0.1Pa以上2.0Pa以下であることが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定することができる。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり、例えば0.05W/cm以上10.0W/cm以下とすることができる。
【実施例
【0036】
本開示を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0037】
例1(比較)
図1に示されるように、キャリア12上に、密着層14、剥離補助層16、剥離層18及び金属層20(第1金属層及び第2金属層)をこの順に成膜して積層体10を製造した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0038】
(1)キャリアの準備
キャリア12として厚さ1.1mmのガラスシート(材質:ソーダライムガラス、算術平均粗さRa:0.6nm、セントラル硝子株式会社製)を用意した。
【0039】
(2)密着層の形成
キャリア12上に、密着層14として厚さ100nmのチタン層をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは以下の装置を用いて以下の条件で行った。
・装置:枚葉式マグネトロンスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
・ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のチタンターゲット(純度99.999%)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・スパッタリング圧:0.35Pa
・スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm
・成膜時温度:40℃
【0040】
(3)剥離補助層の形成
密着層14のキャリア12とは反対の面側に、剥離補助層16として厚さ100nmの銅層をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは以下の装置を用いて以下の条件で行った。
・装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
・ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の銅ターゲット(純度99.98%)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
・スパッタリング圧:0.35Pa
・スパッタリング電力:1000W(6.2W/cm
・成膜時温度:40℃
【0041】
(4)剥離層の形成
剥離補助層16の密着層14とは反対の面側に、剥離層18として厚み6nmのアモルファスカーボン層をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは以下の装置を用いて以下の条件で行った。
・装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
・ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の炭素ターゲット(純度99.999%)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
・スパッタリング圧:0.35Pa
・スパッタリング電力:250W(0.7W/cm
・成膜時温度:40℃
【0042】
(5)第1金属層の形成
剥離層18の剥離補助層16とは反対の面側に、第1金属層として厚さ100nmのチタン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
・装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
・ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のチタンターゲット(純度99.999%)
・キャリアガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・スパッタリング圧:0.35Pa
・スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm
【0043】
(6)第2金属層の形成
第1金属層の剥離層18とは反対の面側に、第2金属層として厚さ300nmの銅層をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは以下の装置を用いて以下の条件で行った。
・ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の銅ターゲット(純度99.98%)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
・スパッタリング圧:0.35Pa
・スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm
・成膜時温度:40℃
【0044】
例2から例11
密着層14及び剥離補助層16を、1<T/T≦20を満たすように表1に示される厚さで形成したこと以外は、例1と同様にして積層体10を製造した。
【0045】
評価
例1から例11までの積層体について、以下に示されるとおり、剥離強度の測定を行った。評価結果は表1に示されるとおりであった。また、表1には密着層14の厚さT、剥離補助層16の厚さT、及びT/Tも併せて示してある。
【0046】
<金属層の剥離性>
積層体10における熱履歴としての真空熱プレスを行った後の剥離強度を測定した。具体的には、積層体10の金属層20側に、厚さ18μmのパネル電解銅めっきを施して銅めっき層を形成して、剥離性評価用サンプルとした。剥離性評価用サンプルは各例につき複数個作製した。これらの剥離性評価用サンプルに対して、熱履歴として表1に示されるように240℃、260℃、280℃、320℃及び340℃のいずれかの温度にて30kgf/cmの圧力で2時間プレスした。熱プレス後の各剥離性評価用サンプルに対して、JIS C 6481-1996に準拠して、金属層20と一体となった上記電解銅めっき層を剥離したときの剥離強度(gf/cm)を測定した。このとき、測定幅は50mmとし、測定長さは20mmとした。得られた剥離強度(平均値)を以下の基準により格付け評価し、全てのプレス温度において評価Dが一つも無い場合は合格、それ以外の場合は不合格と判定した。
‐評価A:剥離強度が3gf/cm以上30gf/cm未満
‐評価B-:剥離強度が1gf/cm以上3gf/cm未満
‐評価B+:剥離強度が30gf/cm以上100gf/cm未満
‐評価C-:剥離強度が0.5gf/cm以上1gf/cm未満
‐評価C+:剥離強度が100gf/cm以上200gf/cm未満
‐評価D:剥離強度が0.5gf/cm未満又は200gf/cm超(剥離不可を含む)
【0047】
【表1】
図1
図2