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特許7090181燃料電池の層構造および該層構造の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】燃料電池の層構造および該層構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20220616BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220616BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 C
H01M4/88 K
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020564536
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2019068221
(87)【国際公開番号】W WO2020030355
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】102018213148.1
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(73)【特許権者】
【識別番号】591037096
【氏名又は名称】フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ヒュプナー,ゲロルト
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,ターニャ
(72)【発明者】
【氏名】シュラット,トーマス
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0257641(US,A1)
【文献】特表2011-519134(JP,A)
【文献】特開2004-039416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素に基づいた、触媒無しガス拡散層基材(2)と、該ガス拡散層基材(2)に接続され、炭素に基づいた微孔性層(3)とを備え、該微孔性層(3)が、イオン伝導性ポリマー結合剤混合物内に埋め込まれた複数の炭素キャリア(4)または炭素繊維を有してなる燃料電池用の層構造(1)であって、
前記イオン伝導性ポリマー結合剤混合物は、硫黄無し結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーを有し、前記ガス拡散層基材(2)から見て外方に向く前記微孔性層(3)の面上の前記結合ポリマーの割合は、前記スルホン化ポリマーの割合よりも小さく、
前記微孔性層(3)における前記結合ポリマーの割合は、前記ガス拡散層基材(2)の方向に増加し、前記スルホン化ポリマーの割合は、前記ガス拡散層基材(2)の方向に減少し、
前記結合ポリマーの割合は、前記ガス拡散層基材(2)の方向に連続的に増加することを特徴とする燃料電池用の層構造(1)。
【請求項2】
前記微孔性層(3)の前記炭素キャリア(4)は、前記ガス拡散層基材(2)から見て外方を向く体積領域(5)にある第1炭素微粒子(7)と、前記ガス拡散層基材(2)に向かって対向する体積領域(6)にある第2炭素微粒子(8)とを有し、前記第1および/または第2炭素微粒子(6,8)は、官能基化のためのコーティングを備えて設けられることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用の層構造(1)。
【請求項3】
記ガス拡散層基材(2)から見て外方を向く前記微孔性層(3)の側面に設けられた触媒コーティングをさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用の層構造(1)。
【請求項4】
炭素に基づいた、触媒無しガス拡散層基材(2)を設けるステップと、
硫黄無し結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーを有したイオン伝導性ポリマー結合剤混合物内に、複数の炭素キャリア(4)および炭素繊維を埋め込むステップと、
微孔性層(3)を形成するステップであって、前記ガス拡散層基材(2)から見て外方に向く前記微孔性層(3)の面上またはこの付近の前記結合ポリマーの割合は、前記スルホン化ポリマーの割合よりも小さいか、または等しい、前記微孔性層(3)を形成するステップと、
前記ガス拡散層基材(2)から見て外方に向く面、または前記ガス拡散層基材から見て外方を向く前記微孔性層(3)の側面に、触媒金属または触媒金属合金を塗布するステップと、
を含む、燃料電池用の層構造(1)の製造方法。
【請求項5】
前記触媒金属は、
前記触媒金属を有し、基材を形成する前記微孔性層(3)に対する準単一層に対応する原子または分子化合物の量を塗布することと、
前記触媒金属の前記原子または前記分子化合物の不動態化のために、前記微孔性層に前駆物質または不動態化ガスを適用することと、
前記触媒金属を有し、準単一層に対応する原子および分子化合物の更なる量を塗布することと、
から構成される1つのサイクルまたは複数のサイクルによって塗布されることを特徴とする請求項に記載の燃料電池用の層構造(1)の製造方法。
【請求項6】
前記炭素キャリア(4)は、年代順に前記触媒金属の塗布前に官能基化された炭素微粒子(7,8)として形成され、および/または前記ポリマー結合剤混合物の1つまたは複数のポリマーが、年代順に前記触媒金属の塗布前に官能基化されることを特徴とする請求項またはに記載の燃料電池用の層構造(1)の製造方法。
【請求項7】
前記ガス拡散層基材(2)と前記触媒金属を有した前記微孔性層(3)とは、ガス拡散電極および膜(9)から構成された配置を形成するように、前記膜(9)と共に熱間プレスされることを特徴とする請求項のいずれかに記載の燃料電池用の層構造(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素に基づいた、触媒無しガス拡散層基材と、該ガス拡散層基材に接続され、炭素に基づいた微孔性層とを備え、該微孔性層が、イオン伝導性ポリマー結合剤混合物内に埋め込まれた複数の炭素キャリアまたは炭素繊維を有してなる燃料電池用の層構造に関する。さらに、本発明は、上記層構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭で述べた形式の層構造は、所謂ガス拡散電極を形成し、該ガス拡散電極の1つは、燃料電池の膜の2つの側の各々に配置される。燃料電池は、水素であることが多い燃料と空気であることが多い酸素含有ガスとの間の電気化学反応を用いて電気エネルギを供給するように使用される。燃料電池は、膜電極配置を有することが多く、この膜電極配置では、アノードが膜の一方の側に形成され、カソードが他方側に形成される。水素ガスはアノードに供給され、一方、空気はカソードに供給される。反応物は、バイポーラプレートに形成されたチャネルを介してガス拡散層に運ばれ、該ガス拡散層は、アノード側において触媒層でプロトンと電子に分解される(酸化)ために、またはカソード側で電極を吸収しているときに生成水に変換される(還元)ために、反応物が隣接した微孔性層に入る前に大きな領域にわたって反応物を基本的に分配させる。
【0003】
米国特許第2006/0257641 A1号明細書は、ガス拡散層および二部分微孔性層を有する燃料電池用電極基材を有し、微孔性層の二部分のうちの一方の部分は、ガス拡散層内に埋め込まれている。触媒層は、微孔性層の他方の部分に適用される。
【0004】
また、国際公開第03/058743 A2号は、燃料電池で用いられ得る層構造を記載しており、この層構造は、炭素繊維から形成されたガス拡散層により構成され、ここで、炭素繊維は、フルオロ化ポリマーを用いてコーティングされる。微孔性層は、上記ガス拡散層に適用され、このガス拡散層は、第2フルオロ化ポリマーまたは同じフルオロ化ポリマー内に埋め込まれた炭素微粒子を有する。この設計は、燃料電池内の水の管理のために用いられる。
【0005】
また、ガス拡散層と、該ガス拡散層に取り付けられた微孔性層とが、国際公開第2015/101772 A1号に記載されており、該国際公開では、微孔性層は、異なる多孔性の領域を有して設計されている。代替的に、微孔性層は、一方で、疎水性特性を有した材料から構成されることができ、他方で、親水性特性を有した材料から構成されることができる。
【0006】
独国特許第197 37 389 A1号明細書が、燃料電池用のガス拡散電極を記載しており、このガス拡散電極は、異方性ガス拡散層および触媒層を備えている。ガス拡散層は、多孔性炭素マトリックスから構成されており、該多孔性炭素マトリックスを通して、炭素微粒子およびポリエーテルサルホンは、マトリックスがガス流れに対する横方向において均一に多孔性であり、ガス流れの方向におけるガスに対して非対称に多孔性であるように分配される。触媒炭素微粒子および熱可塑性ポリマーを有した触媒層が、ガス拡散層に適用される。触媒層は、平方センチメートルにつき0.2~0.5ミリグラムの低い金属触媒充填のみを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術から周知であるガス拡散電極では、膜のポリマーの溶液が、触媒金属を用いたコーティングの後に、触媒金属が備え付けられた微孔性層に塗布される。触媒金属の原子が、膜を形成するイオノマで不均一に湿らされることになり、このため、イオノマ溶液が、微孔性層の炭素および/または結合ポリマーに形成された孔を閉塞する危険性がある。従って、年代順に触媒金属の塗布後にイオノマを用いて含浸することで、微孔性層内の拡散の制限を生じさせることができる。他方で、イオノマが触媒金属の前に微孔性層に塗布される場合には、危険性が、触媒の塗布の方法に基づいてイオノマに関連付けられ、イオノマが、触媒金属の後続の堆積中に損傷することになり、イオノマのプロトン伝導性機能を全体的に失う可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明の目的は、上述した欠点が無くなる、または少なくとも減少するように、最初に述べた形式の層構造を精製することである。さらに、本発明の目的は、上記層構造を製造する方法を提供することである。
【0009】
層構造に関する目的の一部は、請求項1の特徴部のセットを有した層構造によって達成される。上記層構造の便宜的な精製を有した有利な実施形態が、従属請求項において規定される。
【0010】
層構造は、微孔性層において、ガス拡散層基材から見て外方に向く微孔性層の面上またはこの付近の結合ポリマーの割合または濃度が、スルホン化ポリマーの割合または濃度よりも小さいか、または等しいという点で特に識別される。
【0011】
このように形成された微孔性層に関しては、機能的な群が、微孔性層内に存在する炭素または微孔性層内に含まれる結合ポリマーとの共有結合性であり、かつより安定した結合を形成する。
【0012】
さらに、年代順に触媒コーティングの塗布後に、イオノマ溶液を用いて微孔性層を含浸させる必要性がないので、微孔性層の孔領域が合理的に閉塞されない。従って、反応物の流入のために、および燃料電池の水管理のために必要とされる、炭素キャリアまたは炭素繊維の孔および硫黄無し結合ポリマーの孔が、閉塞されない。
【0013】
さらに、イオノマを用いた含浸が不要なので、水の膨張のより少ない割合または水分の変動時の減少された体積の膨張が記録される。また、後続の触媒コーティング中のイオノマへの損傷が防止される。最後に、触媒金属の触媒活性面が、燃料電池の反応速度の減少を生じさせ得る過度に厚いイオノマ層によって閉塞されない。
【0014】
例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)が、硫黄無し結合ポリマーとして考慮される。パーフルオロ化スルホン(PFSA)、スルホン化炭化水素ポリマー、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sPEEK)、ポリスルホン(例えば、sPSU)およびポリエーテルサルホン(PES)等が、スルホン化ポリマーとして用いられることができる。
【0015】
結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーが微孔性層の体積において均一に分配される場合に有利であることが証明されている。これにより、原子層堆積法(ALD:英語では、「atomic layer deposition」)を用いて引き続いて適用される触媒金属の最適化されたイオン結合が可能となる。しかし、同時に、ガス拡散層基材から見て外方を向く微孔性層の面上またはこの付近において、燃料電池の水の管理に必要不可欠であるイオノマの制限された割合または残りの濃度が依然としてある。金属触媒が硫黄無し結合ポリマー上に堆積することは難しく、このため、スルホン化ポリマーの十分に大きな割合が微孔性層の面上に存在し、これにより、堆積を妨害しない、または結合ポリマ-よりも弱く堆積を少なくとも妨害することを、試験が示している。
【0016】
微孔性層の結合ポリマーの割合がガス拡散層基材の方向に増加する場合、およびスルホン化ポリマーの割合が、特に結合ポリマーの濃度の増加に対して補完的に、ガス拡散層基材の方向に減少する場合に、水管理および触媒金属の堆積の能力がさらに促進される。これにより、原子層堆積プロセスによって、膜に向かって対向する微孔性層の側面上に触媒金属をうまく堆積させることができ、同時に、微孔性層からガス拡散層基材への燃料電池の後の水輸送を妨害しないことが確実になる。
【0017】
こういうわけで、結合ポリマーの割合がガス拡散層基材の方向に段階的に増加する場合に有利であることが分かった。従って、微孔性層は、ポリマー結合剤混合物を用いて幾層で強化されることができ、ここで、結合ポリマーのおよびスルホン化ポリマーの割合の分布が、幾層で、または段階的に変化する。
【0018】
さらに、結合ポリマーの割合がガス拡散層基材の方向に連続的に増加し、従って、段階的な分布、従って、濃度勾配がある場合に有利であることが証明された。
【0019】
また、微孔性層の炭素キャリアは、ガス拡散層基材から見て外方を向く第1体積領域にある第1炭素微粒子と、ガス拡散層基材に向かって対向する第2体積領域にある第2炭素微粒子とを有し、第1および/または第2炭素微粒子は、官能基化のためのコーティングを備えて設けられるので、微孔性層にわたる硫黄無し結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーの対応する分布が達成されることができる。このコーティングは、例えばスルホン化ポリマーとすることができ、このため、炭素微粒子がプロトン伝導機能を有する。また、炭素微粒子が、ポリマー無しで、自身で、つまり直接にスルホン化されるという可能性がある。このプロトン伝導性であり、かつ官能基化された炭素微粒子は、ガス拡散層基材から見て外方を向く第1体積領域に関連づけられることが好ましい。代替的または付加的に、第2炭素微粒子が、ケイ酸塩を用いて、二酸化チタン(TiO2)を用いて、または二酸化ケイ素(SiO2)を用いてコーティングされることができ、これにより、水を用いて炭素微粒子の湿潤性が増加する。親水性であり、かつ官能基化された炭素微粒子は、微孔性層内の水管理に寄与する。従って、親水性の第2炭素微粒子は、ガス拡散層基材に向かって対向する、またはガス拡散層基材にさらに直接隣接する微孔性層の第2体積領域に配置されることが好ましい。このように、水は、親水性であり、かつ官能基化された炭素微粒子によってガス拡散層基材に運ばれ、該ガス拡散層基材は、微孔性層よりも大きな孔を備えている。
【0020】
さらに、官能基化のために、結合ポリマーにプロトン伝導性群を付加するという選択がある。この目的のために、好ましくはプラズマ形成を用いて、例えば、三酸化硫黄、ビニルスルホンまたはビニルホスホン酸が、結合ポリマー上に堆積されることができる。代替的または付加的に、これらの物質は、炭素上に直接堆積されることもできる。いかなる孔構造が完全に閉塞されず、これにより、水の管理について負の影響を有し得ることを確実にすべきである。さらに、触媒コーティングまたは触媒微粒子への反応物の供給は、妨害されるべきではない。
【0021】
燃料電池の反応に有利であるガス拡散層電極へと層構造を精製するために、触媒コーティングが、ガス拡散層基材から見て外方を向く微孔性層の側面に、特に該層の炭素繊維または炭素キャリアに塗布される、または微孔性層へ導入される場合に有利であることが証明された。ここで、貴金属、例えば白金、ルテニウムおよびパラジウム等を有した群から選択される触媒金属が考慮される。また、この貴金属を有した合金が、触媒金属として用いられることができる。材料の使用がほとんどなくて、非常に薄い層のみが形成されることができるので、触媒コーティングが原子層堆積プロセスを用いて塗布される場合に有利であることが分かった。触媒活性貴金属が非常に高価であり、このため、原子層堆積は、層構造の製造コストが非常に低く維持され得る方法である。
【0022】
方法に関する目的の一部が、請求項7の特徴部のセットを有した方法によって達成される。上記方法の便宜的な精製を有した有利な実施形態が従属請求項において規定される。
【0023】
燃料電池用の層構造の製造方法は、
炭素に基づいた(例えば繊維、糸および紙等)、触媒無しガス拡散層基材を設けるステップと、
硫黄無し結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーを有したイオン伝導性ポリマー結合剤混合物内に、複数の炭素キャリアおよび炭素繊維を埋め込むステップと、
微孔性層を形成するステップであって、ガス拡散層基材から見て外方に向く微孔性層の面上またはこの付近の結合ポリマーの割合は、スルホン化ポリマーの割合よりも小さいか、または等しい、微孔性層を形成するステップと、
ガス拡散層基材から見て外方に向く面、またはガス拡散層基材から見て外方を向く微孔性層の側面に、触媒金属または触媒金属合金を塗布するステップと、
を含む。
【0024】
従って、上述の方法は、ガス拡散電極を形成し、該ガス拡散電極では、触媒金属が、ガス拡散層基材から見て外方に向く微孔性層の側面に塗布される。微孔性層の上記側面上における結合ポリマーのより少ない割合のため、触媒金属は、信頼性をもって堆積されることになり、硫黄無し結合ポリマーの過度の割合によって堆積されない。しかし、ガス拡散層基材から見て外方に向く微孔性層の側面では、硫黄無し結合ポリマーの割合が存在し、これにより、燃料電池の水管理に寄与する。
【0025】
触媒金属を用いた均一なコーティングは、原子層堆積プロセスによって有利に達成されることができ、ここで、触媒金属の塗布は、
触媒金属を有し、基材を形成する微孔性層に対する準単一層に対応する原子または分子化合物の量を塗布することと、
触媒金属の原子または分子化合物の不動態化のために、微孔性層に前駆物質または不動態化ガスを適用することと、
触媒金属を有し、準単一層に対応する原子および分子化合物の更なる量を塗布することと、
から構成される1つのサイクルまたは複数のサイクルによって実行される。
【0026】
触媒金属、特に白金は、該触媒金属が堆積されるときに島状のものの成長へ向かいやすいという傾向を有していることを、実験が示している。これは、白金原子が1つまたは複数の他の白金原子上に、「置かれている」ことを好み、従って、基材は、十分に多量の触媒金属が用いられる場合に完全に覆われるのみであることを意味している。この問題に対処するために、既に堆積された白金原子を「占有する」、前駆物質または不動態化ガス、例えば一酸化炭素(CO)が用いられ、このため、後続の白金原子が基材上の自由空間に基本的に堆積されるのみであり、従って、触媒金属を有したより均一な触媒コーティングが生じる。
【0027】
例えば、第1サイクルステップでは、白金、例えば(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を既に有する前駆物質が用いられることができる。そして、サイクルの中間ステップでは、前駆物質(酸素または酸素から構成されたプラズマ)は、可能であれば基材の(例えば摂氏220℃を超えた)加熱を伴い、微孔性層上に堆積された分子化合物を酸化するように適用される。触媒金属は、基材に付着したままであり、「露出される」。そして、前駆物質または不動態化ガス(例えばCO)を用いた不動態化の第2サイクルステップが、白金を有した前駆物質が基材に再び適用される前に生じる。
【0028】
あらゆる場合において、微孔性層から望ましくない分子を最後にさらに取り除くために、微孔性層が、各サイクルの最後においてキャリアガスを用いて洗浄される場合に有利であることが証明されている。例えば酸素が、キャリアガスとして考慮される。
【0029】
年代順に触媒金属が塗布される前に官能基化された炭素微粒子として、微孔性層の炭素キャリアが形成される場合に、触媒の堆積にとって有利であることが証明されている。代替的または付加的に、ポリマー結合剤混合物の1つまたは複数のポリマーが、年代順に触媒金属が塗布される前に官能基化されるという可能性もある。官能基化のためのコーティングは、後でだけ、つまり微孔性層の形成の後で、ガス拡散層基材から外方を向く側面から、微孔性層に塗布される、または微孔性層へと導入されることが好ましい。
【0030】
特に簡潔な方法で燃料電池を製造することができるために、ガス拡散電極および膜から構成された配置を形成するように、ガス拡散層と触媒金属を有した微孔性層とが膜と共に熱間プレスされる場合に有利であることが分かっている。これにより、支持された白金触媒から構成されたペーストに基づいた、触媒コーティングされた膜(CCM:英語では「catalyst coated membrane」)の製造を無くすことができる。従来技術から周知なこととは異なり、電極は、該電極が膜と共に圧縮される前に、微孔性層および従ってガス拡散層と現在関連している。
【0031】
本発明の更なる利点、特徴および詳細は、請求項、好ましい実施形態の以下の説明から、および図面に基づいて生じる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】燃料電池の第1層構造の概略的な断面図である。
図2】燃料電池の第2層構造の概略的な断面図である。
図3】燃料電池の第3層構造の概略的な断面図である。
図4】燃料電池の第4層構造の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
高分子電解質型燃料電池(PEM燃料電池)では、燃料または燃料分子、特に水素が、第1電極(アノード)でプロトンと電子に分割される。アノードに隣接した膜9はプロトン(例えばH+)を通すが、電子(e-)を通さない。膜9は、イオノマ、好ましくはスルホン化テトラフルオロエチレンポリマー(PTFE)またはパーフルオロ化スルホン酸(PFSA)のポリマーから形成される。代替的に、膜9は、スルホン化炭化水素膜として形成されることもできる。以下の反応は、アノードで生じる。2H2→4H++4e-(酸化/電子供与)。プロトンが第2電極(カソード)へと膜9を通過しているときには、電子は、外部回路を介してカソードまたはエネルギ貯蔵部へ運ばれる。カソードガス、特に酸素または酸素を含む空気がカソードで供給され、このため、ここで、以下の反応が生じる。O2+4H++4e-→2H2O(還元/電子受け入れ)。
【0034】
本発明は、燃料電池のガス拡散電極の製造および使用に関する。
【0035】
この目的のために、図には、燃料電池のための異なる層構造1が示されており、該層構造1の全ては、炭素に基づき、触媒無しガス拡散層基材2と、炭素に基づいた微孔性層3とを備えており、該微孔性層3は、上記ガス拡散層基材2に接続されている。複数の炭素キャリアまたは炭素繊維が、微孔性層3においてイオン伝導性ポリマー結合剤混合物内に埋め込まれている。ポリマー結合剤混合物は、硫黄無し結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーを備えており、ここで、ガス拡散層基材2から見て外方に向く微孔性層3の面または側面上またはこの付近の結合ポリマーの割合または濃度は、スルホン化ポリマーの割合または濃度よりも小さいか、または等しい。
【0036】
この場合には、硫黄無し結合ポリマーはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、これは、燃料電池の水管理に大いに関係している。スルホン化ポリマーは、例えば、パーフルオロ化スルホン酸(PFSA)であり、従って、プロトンの輸送を担当する。スルホン化ポリマーは、ポリマー結合剤混合物にそのイオン伝導性を与える。
【0037】
図1に従う層構造1の例では、PTFEおよびプロトン伝導性ポリマーは、微孔性層3の体積において均一に分布しており、これは、格子縞のイラストによって示されている。しかし、この均一な分布により、ガス拡散層基材2から見て外方に向く微孔性層3の面上またはこの付近のスルホン化ポリマーの割合がスルホン化ポリマーの割合を超過しないことが確実となり、このため、微孔性層3上の触媒金属の原子または分子の後続の堆積が、PTFEによって妨害されない。
【0038】
図2に従う層構造1は、PTFEおよびプロトン伝導性スルホン化ポリマーの段階的な分布が微孔性層3内にある点で図1の層構造とは異なる。結合ポリマーの割合は、ガス拡散層基材2の方向に均一に増加しており、これは、図において3つの矢印によって示されている。これの補足として、スルホン化ポリマーの割合は、ガス拡散層基材2の方向に均一に減少する。代替的に、結合ポリマーの割合は、ガス拡散層基材2の方向に段階的に増加することもでき、これにより、あらゆる場合に、結合ポリマーが、ガス拡散層基材2から見て外方に向く微孔性層3の面から完全に消えず、従って、膜9の近くで水管理に関与したままとなることができる。
【0039】
図3に従う層構造1は、微孔性層3内に含まれた炭素キャリア4を(概略的に)示しており、微孔性層3では、第1炭素微粒子7および第2炭素微粒子8が存在する。また、これらは、微孔性層3内の結合ポリマーおよびスルホン化ポリマーにより形成された均一の分布を有したポリマー結合剤混合物内に埋め込まれることができる。しかし、代替的に、2つのポリマーの濃度勾配が、微孔性層3内に存在することもできる。ここで、触媒の原子層堆積によってコーティング中により効果的で可能な通過を生じさせるために、異なる炭素微粒子の大きさまたは多孔性を有した層により微孔性層3を強化する可能性がある。従って、例えば、触媒コーティングの前に現存の微孔性層3に1つまたは複数の更なる炭素層を適用することができる。
【0040】
第1炭素微粒子7は、第1体積領域5に配置されており、該第1体積領域5は、微孔性層3において、ガス拡散層基材2から見て外方に向いている。第1炭素微粒子7は、例えば、三酸化硫黄(SO3)、ビニルスルホンまたはビニルホスホン酸を用いて官能基化されることができ、このため、第1炭素微粒子7は、プロトン伝導機能を有し、従って、官能基化される。そして、例えば白金である触媒金属は、この第1炭素微粒子7上に、原子層堆積によって堆積されることができる。
【0041】
代替的または付加的に、微孔性層3の第2体積領域6に配置された炭素微粒子8は、例えば、二酸化ケイ素または二酸化チタンを使用して、薄いケイ酸塩層を用いてコーティングすることによって、官能基化されることもできる。これらの物質は親水性であり、このため、第2炭素微粒子8の官能基化によって、微孔性層3内の水の管理が向上する。第2炭素微粒子8の上記官能基化の結果として、燃料電池内で生じる水は、膜9から離れてガス拡散層基材2へ向かって分配され、または導かれ得る。
【0042】
上述の第1炭素微粒子7および上述の第2炭素微粒子8の官能基化が例示として理解されるのみであり、他の官能基化が依然として可能であることが指摘されるべきである。例えば、炭素キャリア4内の孔の大きさに影響を及ぼすことができる官能基化も考慮される。
【0043】
年代順に、炭素微粒子7,8が設置された後、または炭素微粒子7,8が微孔性層3内に埋め込まれた後まで、炭素微粒子7,8が官能基化されないという可能性がある。しかし、代替的に、炭素微粒子7,8は、年代順に、該炭素微粒子7,8が設置される前または微孔性層3内に埋め込まれる前に官能基化されることもできる。
【0044】
最後に、図4は、ガス拡散層基材2、微孔性層3およびプロトン伝導性膜9から形成された層構造1を示している。ここで、ガス拡散層基材2は、図1図3に従う層構造1にも示されているようなガス拡散層基材2に対応している。この場合には、微孔性層3は、図3に従う微孔性層3のように設計されており、ここで、代替的に、図1または図2に従う層構造1の微孔性層3を用いることもできる。
【0045】
年代順に、膜9が微孔性層3に適用された前に、触媒コーティングが、原子層堆積方法によって、特に、多くの数の堆積サイクルを用いて微孔性層3上に堆積された。ここで、十分な量の触媒金属が微孔性層3上に堆積されることを確実にするために、40サイクルよりも多い、特に、60サイクルよりも多いサイクル数が考慮される。
【0046】
これから、ガス拡散層基材2と、微孔性層の触媒金属コーティングを有した微孔性層3と、膜9とが、ガス拡散電極および膜9から構成された配置を形成するように互いに熱間プレスされ、この配置を用いて、ガス拡散層基材2等はユニットを形成する。ここで、触媒層が、熱間プレス前に、ガス拡散層基材2と、該ガス拡散層基材2に接続された微孔性層3とに関連することに留意すべきであり、ここで、触媒無しの膜9が、図4に従う層構造1に後で付加されただけである。
【0047】
従って、支持された触媒金属から形成されたペーストに基づいて触媒を用いてコーティングされた膜(「触媒コーティング済み膜」)の製造は、全体的に本発明を使用すること無しで済ますことができる。よって、本発明は、燃料電池を製造する完全に新しい取り組みを提供する。
【符号の説明】
【0048】
1 層構造
2 ガス拡散層基材
3 微孔性層
4 炭素キャリア
5 体積領域(ガス拡散層から見て外方を向く)
6 体積領域(ガス拡散層へ向かって対向する)
7 第1炭素微粒子
8 第2炭素微粒子
9 膜
図1
図2
図3
図4