(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】カソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20220616BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20220616BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220616BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/392
H01M4/485
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021037338
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2021-05-13
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン カールソン
(72)【発明者】
【氏名】クワン スキナー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ドイル
(72)【発明者】
【氏名】ニック レイノルズ
(72)【発明者】
【氏名】ラリサ スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス ハンケ
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0130690(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0293707(US,A1)
【文献】国際公開第2019/177992(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/367
G01R 31/392
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するコンピュータ実装方法であって、
プロセッサによって自動化された方法で、前記電池の動作中の前記カソード材料の劣化依存モデルを決定することであって、前記劣化依存モデルは、前記プロセッサによって第1のデータ構造に格納され、(i)前記カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの前記電池の動作中の前記カソード材料の可能な原子配置であって、前記電池の動作中に前記カソード材料内の原子の再配列によって生成される劣化欠陥のある構成を含む可能な原子配置、および(ii)前記可能な原子配置の総エネルギーを含むことと、
前記カソード材料の最低総エネルギー原子配置および複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーを決定し、第2のデータ構造に格納することであって、前記決定は、前記第1のデータ構造に格納された、動作中の前記カソード材料の前記劣化依存モデルに基づいて、自動化された方法で前記プロセッサによって実行されることと、
各化学量論または電池容量での前記カソード材料のオープンセル電圧を決定し、第3のデータ構造に格納することであって、前記決定は、前記第2のデータ構造に格納された、各化学量論または電池容量での前記最低総エネルギーに基づいて、自動化された方法で前記プロセッサによって実行されることと
を含むコンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記劣化欠陥を有する構成は、前記カソード材料内の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成を含み、前記原子の再配列は、前記電池の動作中に前記電荷運搬部位の前記部分的または完全な遮断を含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う前記構成が、遷移金属原子の位置をアルカリイオンと交換することによって形成されたアンチサイトを伴う構成を含む、請求項2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
前記構成は、充電中にアルカリ金属イオンが除去され、前記劣化欠陥によってブロックされない限り、放電中にアルカリ金属イオンに置き換えることができる遷移金属原子のフレームワークを含む、請求項3に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
各化学量論または電池容量での前記カソード材料の前記オープンセル電圧を決定し、前記第3のデータ構造に格納することは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記カソード材料中の電荷キャリアの化学ポテンシャルと電荷キャリア濃度の関数としての参照電荷キャリア電極との差異を決定することを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記カソード材料が遷移金属およびアルカリイオンを含み、前記化学量論が前記アルカリイオンの濃度を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
前記劣化依存モデルを決定することは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、確率モデルを使用して前記可能な原子配置を決定し、前記可能な原子配置を前記第1のデータ構造に格納することを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
前記劣化依存モデルを決定することは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、モンテカルロ法、遺伝的アルゴリズム、および列挙検索のうちの少なくとも1つを使用して前記可能な原子配置を決定することと、前記第1のデータ構造に前記可能な原子配置を格納することとを含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
前記劣化依存モデルを決定することは、前記カソード材料の原子の量子力学的モデルを使用して、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記原子配置をモデル化することを含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
前記量子力学的モデルは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で実装された密度汎関数理論に基づくモデルを含む、請求項9に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、各化学量論または電池容量での第1のカソード材料のオープンセル電圧を決定し、前記第3のデータ構造に格納することと、
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、各化学量論または電池容量での第2のカソード材料のオープンセル電圧を決定し、第4のデータ構造に格納することと、
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記第3のデータ構造からの前記第1のカソード材料のオープンセル電圧を、前記第4のデータ構造からの前記第2のカソード材料のオープンセル電圧と比較し、前記比較の結果を第5のデータ構造に格納することと、
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記第1のカソード材料の前記オープンセル電圧を前記第2のカソード材料の前記オープンセル電圧と比較した前記結果を報告することと
をさらに含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項12】
電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するためのコンピュータシステムであって、
プロセッサによって自動化された方法で、前記電池の動作中の前記カソード材料の劣化依存モデルを決定し、前記プロセッサを使用して第1のデータ構造内の前記劣化依存モデルをメモリに格納するように構成された劣化依存モデリングモジュールであって、前記第1のデータ構造は、(i)前記カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの前記電池の動作中の前記カソード材料の可能な原子配置であって、前記電池の動作中に前記カソード材料内の原子の再配列によって生成される劣化欠陥のある構成を含む可能な原子配置、および(ii)前記可能な原子配置の総エネルギーを含む、劣化依存モデリングモジュールと、
前記カソード材料の最低総エネルギー原子配置および前記複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーを決定し、第2のデータ構造内の前記最低総エネルギー原子配置および関連する最低総エネルギーをメモリに格納するように構成された安定配置モジュールであって、動作中に前記カソード材料の、前記第1のデータ構造に格納された前記劣化依存モデルに基づいて、自動化された方法で前記プロセッサを使用して、前記最低総エネルギー原子配置および関連する最低総エネルギーを決定するように構成された安定配置モジュールと、
各化学量論または電池容量での前記カソード材料のオープンセル電圧を決定し、第3のデータ構造内の前記オープンセル電圧をメモリに格納するように構成されたオープンセル電圧決定モジュールであって、自動化された方法で前記プロセッサを使用して、前記第2のデータ構造に格納された、各化学量論または電池容量での前記最低総エネルギーに基づいて、前記オープンセル電圧を決定するように構成されたオープンセル電圧決定モジュールと
を備えたコンピュータシステム。
【請求項13】
前記劣化欠陥を有する構成は、前記カソード材料内の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成を含み、前記原子の再配列は、前記電池の動作中に前記電荷運搬部位の前記部分的または完全な遮断を含む、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項14】
前記電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う前記構成が、遷移金属原子の位置をアルカリイオンと交換することによって形成されたアンチサイトを伴う構成を含む、請求項13に記載のコンピュータシステム。
【請求項15】
前記構成は、充電中にアルカリ金属イオンが除去され、前記劣化欠陥によってブロックされない限り、放電中にアルカリ金属イオンに置き換えることができる遷移金属原子のフレームワークを含む、請求項14に記載のコンピュータシステム。
【請求項16】
前記オープンセル電圧決定モジュールは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記カソード材料中の電荷キャリアの化学ポテンシャルと電荷キャリア濃度の関数としての参照電荷キャリア電極との差異を決定することによって、各化学量論または電池容量での前記カソード材料の前記オープンセル電圧を決定するように構成される、請求項12乃至15のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項17】
前記カソード材料が遷移金属およびアルカリイオンを含み、前記化学量論が前記アルカリイオンの濃度を含む、請求項12乃至16のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項18】
前記劣化依存モデリングモジュールは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、確率モデルを使用して前記可能な原子配置を決定することによって、前記劣化依存モデルを決定し、前記第1のデータ構造内の前記可能な原子配置をメモリに格納するように構成された、請求項12乃至17のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項19】
前記劣化依存モデリングモジュールは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、モンテカルロ法、遺伝的アルゴリズム、および列挙検索のうちの少なくとも1つを使用して前記可能な原子配置を決定することによって、前記劣化依存モデルを決定し、前記第1のデータ構造内の前記可能な原子配置をメモリに格納するように構成された、請求項12乃至18のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項20】
前記劣化依存モデリングモジュールは、前記カソード材料の原子の量子力学的モデルを使用して、前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記原子配置をモデル化することによって前記劣化依存モデルを決定するように構成された、請求項12乃至19のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項21】
前記量子力学的モデルは、前記プロセッサを使用して自動化された方法で実装された密度汎関数理論に基づくモデルを含む、請求項20に記載のコンピュータシステム。
【請求項22】
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記第3のデータ構造からの第1のカソード材料のオープンセル電圧を、第4のデータ構造からの第2のカソード材料のオープンセル電圧と比較し、第5のデータ構造内の前記比較の結果をメモリに格納するように構成されたカソード材料比較モジュールと、
前記プロセッサを使用して自動化された方法で、前記第1のカソード材料の前記オープンセル電圧と前記第2のカソード材料の前記オープンセル電圧との比較の前記第5のデータ構造からの前記結果を報告するように構成された報告モジュールと
をさらに備えた請求項12乃至21のいずれか1項に記載のコンピュータシステム。
【請求項23】
電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するための命令を格納するように構成された非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記命令は、作業メモリにロードされ、プロセッサによって実行されると、
プロセッサによって自動化された方法で、前記電池の動作中の前記カソード材料の劣化依存モデルを決定することであって、前記劣化依存モデルは、前記プロセッサによって第1のデータ構造に格納され、(i)前記カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの前記電池の動作中の前記カソード材料の可能な原子配置であって、前記電池の動作中に前記カソード材料内の原子の再配列によって生成される劣化欠陥のある構成を含む可能な原子配置、および(ii)前記可能な原子配置の総エネルギーを含むことと、
前記カソード材料の最低総エネルギー原子配置および前記複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーを決定し、第2のデータ構造に格納することであって、前記決定は、前記第1のデータ構造に格納された、動作中の前記カソード材料の前記劣化依存モデルに基づいて、自動化された方法で前記プロセッサによって実行されることと、
各化学量論または電池容量での前記カソード材料のオープンセル電圧を決定し、第3のデータ構造に格納することであって、前記決定は、前記第2のデータ構造に格納された、各化学量論または電池容量での前記最低総エネルギーに基づいて、自動化された方法で前記プロセッサによって実行されることと
によって、前記プロセッサは、前記電池の前記カソード材料の前記劣化依存オープンセル電圧を決定する、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2020年3月10日に出願された米国仮出願第62/ 987,583号の利益を主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電池の潜在的なカソード材料の性能を研究および最適化することを望む人々は、通常、電池の物理的に発生する現象の実験的観察を行う。計算の文献にはモデリング作業があるが、これは従来、電池が充電および放電によって劣化する前の、元の状態の電池のモデリングに対処する。電池の従来のモデリングは、特定の材料の組成(非特許文献1)、理想的な可逆充電サイクルでの電圧曲線(非特許文献2)、およびサイクル前の理想的な化学量論的材料での欠陥形成(非特許文献3、4)の研究を含む。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン電池の繰り返しのリチウム化および脱リチウム化の間など、電池の動作中に電池材料で観察されると予想され得る劣化の程度を予測する継続的な必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ordering in Lix(Ni0.5Mn0.5)O2 and its relation to charge capacity and electrochemical behavior in rechargeable lithium batteries. Van Der Ven, A. and Ceder G., 2004, Electrochemistry Communications, Bd. 6, S. 1045.
【文献】Thermodynamic description of the LiNiO2-NiO2 pseudo-binary system and extrapolation to the Li(Co,Ni)O2-(Co,Ni)O2 system. Chang K., Hallstedt B., and Music D. 2012, Calphad: Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry, Bd. 37, S. 100.
【文献】Conflicting roles of anion doping on the electrochemical performance of Li-ion battery cathode materials. Kong F., Liang C., Longo R. C., Yeon D. H., Zheng Y., Park J. H., Doo S-G., and Cho K. 2016, Chemistry of Materials, Bd. 28, S. 6942.
【文献】Defect chemistry in layered transition-metal oxides from screened hybrid density functional calculations. M., Hoang K. and DeJohannes. 2014, J. Mater Chem. A, S. 5224.
【文献】Updating the Structure and Electrochemistry of LixNiO2 for 0 ≦ x ≦ 1. Li H., Zhang N., Li J., and Dahn J. R. 2018, Bd. 165, S. A2985.
【文献】The electrochemical stability of lithium-metal oxides against metal reduction. K., Ceder G. and Azdinol M. 1998, Bd. 109, S. 151.
【発明の概要】
【0005】
本発明による実施形態は、原子シミュレーションを介して、特に充電サイクル中に発生するカソード材料における原子欠陥の生成をシミュレートすることによって、電池内のカソード材料の劣化を調査するための自動化されたシステムおよび方法を提供する。体系的な手順は、たとえば密度汎関数理論シミュレーションを通じて、材料内の原子再配列による基礎となる構造変化に電池性能メトリックの劣化を関連付ける。このアプローチでモデル化された性能メトリックは、オープンセル電圧(OCV)と放電容量曲線を含む。
【0006】
本発明による一実施形態は、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するコンピュータ実装方法である。コンピュータ実装方法は、プロセッサによって自動化された方法で、電池の動作中のカソード材料の劣化依存モデルを決定することを含む。劣化依存モデルは、プロセッサによって第1のデータ構造に格納され、(i)カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの電池の動作中のカソード材料の可能な原子配置であって、電池の動作中にカソード材料内の原子の再配列によって生成される劣化欠陥のある構成を含む可能な原子配置、および(ii)可能な原子配置の総エネルギーを含む。カソード材料の最低総エネルギー原子配置および複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーが決定され、第2のデータ構造に格納される。最低総エネルギー原子配置の決定は、動作中のカソード材料の、第1のデータ構造に格納された劣化依存モデルに基づいて、自動化された方法でプロセッサによって実行される。各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧が決定され、第3のデータ構造に格納される。オープンセル電圧の決定は、2番目のデータ構造に格納されている各化学量論または電池容量での最低総エネルギーに基づいて、自動化された方法でプロセッサによって実行される。
【0007】
さらに、関連する実施形態では、劣化欠陥を伴う構成は、カソード材料内の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成を含み得、原子再配列は、電池の動作中の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を含む。電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成は、遷移金属原子の位置をアルカリイオンと交換することによって形成されるアンチサイトを伴う構成を含み得る。構成は、充電中にアルカリ金属イオンが除去され、劣化欠陥によってブロックされない限り、放電中にアルカリ金属イオンに置き換えることができる遷移金属原子のフレームワークを含み得る。各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧の第3のデータ構造を決定および格納することは、プロセッサを使用して自動化された方法で、カソード材料中の電荷キャリアの化学ポテンシャルと電荷キャリア濃度の関数としての参照電荷キャリア電極との差異を決定することを含み得る。カソード材料は、遷移金属およびアルカリイオンを含み得、化学量論は、アルカリイオンの濃度を含み得る。
【0008】
他の関連する実施形態では、劣化依存モデルを決定することは、プロセッサを使用して自動化された方法で、確率モデルを使用して可能な原子配置を決定すること、および当該可能な原子配置を第1のデータ構造に格納することを含み得る。劣化依存モデルの決定は、プロセッサを使用して自動化された方法で、モンテカルロ法、遺伝的アルゴリズム、および列挙検索のうちの少なくとも1つを使用して可能な原子配置を決定すること、および当該可能な原子配置を第1のデータ構造に格納することを含み得る。劣化依存モデルの決定は、カソード材料の原子の量子力学的モデルを使用して、プロセッサを使用して自動化された方法で、原子配置をモデル化することを含み得る。量子力学的モデルは、プロセッサを使用して自動化された方法で実装された密度汎関数理論に基づくモデルを含み得る。
【0009】
別の関連する実施形態では、方法は、プロセッサを使用して自動化された方法で、各化学量論または電池容量での第1のカソード材料のオープンセル電圧を決定し、第3のデータ構造に格納すること、プロセッサを使用して自動化された方法で、各化学量論または電池容量での第2のカソード材料のオープンセル電圧を決定し、第4のデータ構造に格納すること、プロセッサを使用して自動化された方法で、第3のデータ構造からの第1のカソード材料のオープンセル電圧を第4のデータ構造からの第2のカソード材料のオープンセル電圧と比較し、比較の結果を第5のデータ構造に保存すること、および、プロセッサを使用して自動化された方法で、第1のカソード材料のオープンセル電圧を第2のカソード材料のオープンセル電圧と比較した結果を報告することをさらに含み得る。
【0010】
本発明による別の実施形態は、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するためのコンピュータシステムである。コンピュータシステムは、プロセッサによって自動化された方法で、電池の動作中にカソード材料の劣化依存モデルを決定し、プロセッサを使用して第1のデータ構造内の劣化依存モデルをメモリに格納するように構成された劣化依存モデリングモジュールを備える。第1のデータ構造は、(i)カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの電池の動作中のカソード材料の可能な原子配置であって、電池の動作中にカソード材料内の原子の再配列によって生成される劣化欠陥のある構成を含む可能な原子配置、および(ii)可能な原子配置の総エネルギーを含む。安定配置モジュールは、カソード材料の最低総エネルギー原子配置および複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーを決定し、第2のデータ構造内の最低総エネルギー原子配置および関連する最低総エネルギーをメモリに格納するように構成される。安定配置モジュールは、動作中にカソード材料の、第1のデータ構造に格納された劣化依存モデルに基づいて自動化された方法でプロセッサを使用して、最低総エネルギー原子配置および関連する最低総エネルギーを決定するように構成される。オープンセル電圧決定モジュールは、各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧を決定し、第3のデータ構造内の前記オープンセル電圧をメモリに格納するように構成される。オープンセル電圧決定モジュールは、第2のデータ構造に格納された各化学量論または電池容量での最低総エネルギーに基づいて自動化された方法でプロセッサを使用してオープンセル電圧を決定するように構成される。
【0011】
さらに、関連するコンピュータシステムの実施形態では、劣化欠陥を伴う構成は、カソード材料内の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成を含み得、原子再配列は、電池の動作中の電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を含む。電荷運搬部位の部分的または完全な遮断を伴う構成は、遷移金属原子の位置をアルカリイオンと交換することによって形成されるアンチサイトを伴う構成を含み得る。構成は、充電中にアルカリ金属イオンが除去され、劣化欠陥によってブロックされない限り、放電中にアルカリ金属イオンに置き換えることができる遷移金属原子のフレームワークを含み得る。オープンセル電圧決定モジュールは、プロセッサを使用して自動化された方法で、カソード材料中の電荷キャリアの化学ポテンシャルと電荷キャリア濃度の関数としての参照電荷キャリア電極との差異を決定することによって、各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧を決定するように構成され得る。カソード材料は、遷移金属およびアルカリイオンを含み得、化学量論は、アルカリイオンの濃度を含み得る。
【0012】
他の関連するコンピュータシステムの実施形態では、劣化依存モデリングモジュールは、プロセッサを使用して自動化された方法で、確率モデルを使用して可能な原子配置を決定することによって劣化依存モデルを決定し、第1のデータ構造内の可能な原子構成をメモリに格納するように構成され得る。劣化依存モデリングモジュールは、プロセッサを使用して自動化された方法で、モンテカルロ法、遺伝的アルゴリズム、および列挙検索のうちの少なくとも1つを使用して可能な原子配置を決定することによって、劣化依存モデルを決定し、第1のデータ構造内の可能な原子配置をメモリに格納するように構成され得る。劣化依存モデリングモジュールは、カソード材料の原子の量子力学的モデルを使用して、プロセッサを使用して自動化された方法で原子配置をモデリングすることによって劣化依存モデルを決定するように構成され得る。量子力学的モデルは、プロセッサを使用して自動化された方法で実装された密度汎関数理論に基づくモデルを含み得る。
【0013】
別の関連するコンピュータシステムの実施形態では、コンピュータシステムは、プロセッサを使用して自動化された方法で、第3のデータ構造からの第1のカソード材料のオープンセル電圧とオープンセル電圧を第4のデータ構造からの第2のカソード材料のオープンセル電圧とを比較し、第5のデータ構造内の比較の結果をメモリに格納するように構成されたカソード材料比較モジュールと、プロセッサを使用して自動化された方法で、第1のカソード材料のオープンセル電圧と第2のカソード材料のオープンセル電圧との比較の第5のデータ構造からの結果を報告するように構成された報告モジュールとをさらに含み得る。
【0014】
本発明による別の実施形態は、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するための命令を格納するように構成された非一時的なコンピュータ可読媒体であり、命令が、作業メモリにロードされ、プロセッサによって実行されると、プロセッサによって自動化された方法で、電池の動作中のカソード材料の劣化依存モデルを決定し、当該劣化依存モデルは、プロセッサによって第1のデータ構造に格納されており、(i)カソード材料の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの電池の動作中のカソード材料の可能な原子配置であって、電池の動作中のカソード材料内の原子再配列によって生成される劣化欠陥を有する構成を含む可能な原子配置、および(ii)可能な原子配置の総エネルギーを含むこと、カソード材料の最低総エネルギー原子配置および複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギーを決定し、第2のデータ構造に格納し、当該決定は、動作中のカソード材料の第1のデータ構造に格納された劣化依存モデルに基づいて自動化された方法でプロセッサによって実行されること、および、各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧を決定し、および第3のデータ構造に格納し、当該決定は、第2に格納された、各化学量論または電池容量での最低総エネルギーに基づいて自動化された方法でプロセッサによって実行されることによって、プロセッサは、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上記内容は、同様の参照文字が異なるビュー全体を通して同じ部分を参照する添付の図面に示されているように、例示的な実施形態の以下のより具体的な説明から明らかであろう。図面は必ずしも縮尺通りになっているとは限らず、代わりに実施形態を図示することに重点が置かれている。
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するためのコンピュータシステムの概略ブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、電池セルを充電する原子プロセスの例を示す概略図である。
【
図2B】
図2Bは、電池セルを放電する原子プロセスの例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態によるオープンセル電圧決定モジュールの概略ブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による劣化依存モデリングモジュールの概略ブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態による、カソード材料比較モジュールおよび報告モジュールを示す概略ブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態による、例示的なカソード材料の格子定数対アルカリ金属濃度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態による、例示的なカソード材料についてのアルカリ金属濃度に対する、アルカリ金属濃度の多数の可能な原子配置についての全エネルギー(生成熱)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に従って決定された、オープンセル電圧対アルカリ金属濃度を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に従って決定された、カソード材料のオープンセル電圧対電池容量を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態を実施することができるコンピュータネットワークまたは同様のデジタル処理環境を示す。
【
図11】
図11は、
図10のコンピュータシステムにおけるコンピュータ(例えば、クライアントプロセッサ/デバイスまたはサーバコンピュータ)の例示的な内部構造の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
例示的な実施形態の説明が続く。
【0018】
一実施形態は、電池のカソード材料の原子配置の不可逆的な変化のために、充電サイクル中に電池の性能が劣化する理由を理解するという技術的問題に対処する。これは、リチウムイオン電池のリチウム化および脱リチウム化中など、電池の動作中に電池材料内の原子の再配列のために観察されると予想され得る劣化の程度を予測するのに役立つ。システムおよび方法は、充電と放電のサイクルを繰り返す間に、電池のカソード材料がどのように劣化するかを自動的にシミュレートする。対照的に、従来の研究と知識は、劣化挙動を明確に示す実験的調査に基づいているが、タイムリーかつ費用効果の高い方法で観察された効果につながる原子プロセスを明らかにすることはできない。電池の劣化をシミュレートできるようにすることにより、一実施形態は、例えば、研究者が費用と時間のかかる実験的調査を回避し、所望の電池性能基準を満たす可能性が高いカソード材料に努力を集中することを可能にする。
【0019】
体系的な方法を使用して、原子シミュレーションを介して劣化プロセスを調査する。方法は、たとえば、充電サイクル中に発生する原子欠陥の生成をシミュレートして、材料が充電サイクルされるときに、欠陥形成が第一原理密度汎関数理論(DFT)アプローチから電池性能にどのように影響するかをモデル化することができる。
【0020】
このアプローチでモデル化された性能メトリックは、オープンセル電位またはオープンセル電圧(OCV)と、放電容量曲線とを含む。以前の技術は、元の材料に基づいて、電池容量または材料組成の関数として材料の電圧をモデル化することができる。これは、電池セル内の材料の初期性能のアイデアを実践者に提供するが、使用により電池が古くなると、複数の充電/放電サイクル後に材料がどのように機能するかについては対処しない。従来の技術とは対照的に、本明細書で教示される実施形態は、劣化依存オープンセル電圧を決定することができ、元の電池材料および古くなった電池材料の両方の性能特性を予測することができる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による、電池のカソード材料の劣化依存オープンセル電圧を決定するためのコンピュータシステム100の概略ブロック図である。コンピュータシステム100は、プロセッサ104と、コンピュータコード命令を格納するメモリ105とを含む。プロセッサ104およびメモリ105は、コンピュータコード命令とともに、劣化依存モデリングモジュール108、安定配置モジュール114、およびオープンセル電圧決定モジュール118を実装するように構成される。さらに、本発明による他の実施形態では、プロセッサ104およびメモリ105は、オープンセル電圧決定モジュール318(
図3参照)、劣化依存モデリングモジュール408(
図4参照)およびそのモジュール450、452、454、456、458および460、劣化依存オープンセル電圧システム500およびそのモジュール508、514、518、562および566(
図5参照)のうちの1つまたは複数を実装するように構成され得る。プロセッサ104およびメモリ105は、1つまたは複数の別個のプロセッサおよび1つまたは複数の別個のメモリ上に実装され得、それらの任意の組み合わせは、本明細書の実施形態の全部または一部を実装するために一緒に協働することが理解されよう。
【0022】
図1の実施形態では、コンピュータシステム100は、電池の動作中にカソード材料106の劣化依存モデルを自動的に決定し、プロセッサ104を使用して劣化依存モデルを劣化依存モデルデータ構造110に格納するように構成された劣化依存モデリングモジュール108を備える。劣化依存モデルデータ構造110は、カソード材料106の複数の化学量論または電池容量のそれぞれでの電池の動作中に、カソード材料106の可能な原子配置115を含む。可能な原子配置115は、電池の動作中にカソード材料内の原子再配列によって生成される劣化欠陥を伴う構成を含む。劣化依存モデルデータ構造110はまた、可能な原子配置115の総エネルギー117を含む。安定配置モジュール114は、カソード材料の最低総エネルギー原子配置121および複数の化学量論または電池容量のそれぞれにおける関連する最低総エネルギー123を決定し、安定配置データ構造119に格納するように構成される。安定配置モジュール114は、データ構造110に格納された劣化依存モデルに基づいて、自動化された方法でプロセッサ104を使用して、最低総エネルギー原子配置121および関連する最低総エネルギー123を決定するように構成される。オープンセル電圧決定モジュール118は、各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧を決定し、オープンセル電圧データ構造116に格納するように構成される。オープンセル電圧決定モジュール118は、データ構造119に格納された各化学量論または電池容量での最低総エネルギー123に基づいて、自動化された方法でプロセッサ104を使用してオープンセル電圧を決定するように構成される。
【0023】
図2Aは、電池セルを充電する原子プロセスの例を示す概略図であり、
図2Bは、電池セルを放電する原子プロセスの例を示す概略図である。
図2Aの電池セルは、グラファイトタイプのアノード209a/209bおよびLi遷移金属酸化物カソード211a/211bを含む。電解質213a/213bは、炭酸プロピレンとLiPF6の混合物からなる。わかりやすくするために、固体電解質界面(SEI)は省略されている。要素の陰影は次のとおりである:キャプションに示されているように、H(268c、白)、Li(268b、ダークグレー)、C(268d、黒)、F(268e、ライトグレー)、P(268f、ミディアムグレー)および遷移金属(Ni、268a、大きな灰色の原子)。正電位は、充電中にカソード211aに印加されて、Liイオン268bをカソード211aからアノード209aに送る。
図2Bは、放電中の
図2Aの電池セルを示す。
図2Bの放電において、負荷を超えてアノード209bおよびカソード211bの回路を閉じることは、グラファイトアノード209bに貯蔵されたLiイオン268bが拡散してカソード211bに戻ることを可能にする。しかしながら、Ni原子268aは、
図2Bの白い矢印233によって示されるように、位置をLiイオン268bと交換するために、Li層に移動し得る。これにより、Ni-Liアンチサイト238bが作成される。これらのアンチサイト238bは、金属酸化物層のLiイオンをトラップし、Li層のアクティブなLiサイトをブロックする。
【0024】
図2Aおよび2Bの概略図は、劣化依存挙動をモデル化することができる電池カソード材料206(
図1の106のものと同様)を示す。カソード材料206は、
図2Aのように、充電中にアルカリ金属イオン234a(リチウムイオン268bなど)が除去され、それらが劣化欠陥によってブロックされない限り、
図2Bのように、放電中にアルカリ金属イオン234bに置き換えることができる遷移金属原子232(ニッケル原子268aなど)のフレームワークであり得る原子230の構成を含む。劣化欠陥が発生すると、部位238bは、原子の構成においてアンチサイトとして知られるものになる可能性がある。アンチサイトは、電池の動作中に原子再配列233による電荷運搬部位238bの部分的または完全な閉塞によって形成されたカソード材料206内の欠陥の例である。他の複雑な再配置も、電荷運搬部位をブロックする可能性がある。一例では、アンチサイト238bは、遷移金属原子232の位置をアルカリイオン234a/234bと交換することによって形成されることができる。カソード材料206の性能は、例えば、アルカリイオン234a/234bの濃度を含むことができるその化学量論によって影響される。
【0025】
図3は、本発明の実施形態による、オープンセル電圧決定モジュール118(
図1参照)として使用することができるオープンセル電圧決定モジュール318の概略ブロック図である。オープンセル電圧決定モジュール318は、プロセッサ(
図1の104など)を使用して自動化された方法で、カソード材料内の電荷キャリアの化学ポテンシャルと電荷キャリア濃度の関数としての参照電荷キャリア電極との差異を決定することによって、各化学量論または電池容量でのカソード材料のオープンセル電圧を決定するように構成される。例えば、オープンセル電圧決定モジュール318は、本明細書で教示されるコンピュータプロセッサによって自動化された方法で実装され、
図3に示されるように、本明細書で教示される式(1)または(2)のいずれかを使用することができる。
【0026】
図4は、本発明の実施形態による劣化依存モデリングモジュール408の概略ブロック図であり、これは、劣化依存モデリングモジュール108(
図1参照)として使用することができる。
図4の劣化依存モデリングモジュール408は、プロセッサ104(
図1参照)を使用して自動化された方法で、確率モデル450を使用して可能な原子配置を決定することによって劣化依存モデルを決定し、決定された可能な原子配置115を劣化依存モデルデータ構造110(
図1を参照)に格納するように構成することができる。劣化依存モデリングモジュール408は、プロセッサを使用して自動化された方法で、モンテカルロ法452、遺伝的アルゴリズム454、および列挙検索456(完全な列挙検索やクラスター展開による構造の部分的な列挙など)のうちの少なくとも1つを使用して可能な原子配置を決定することによって劣化依存モデルを決定し、決定された可能な原子配置115を劣化依存モデルデータ構造110(
図1参照)に格納するように構成することができる。劣化依存モデリングモジュール408はまた、カソード材料106の原子の量子力学的モデル458を使用して、プロセッサを使用して自動化された方法で原子配置をモデリングすることによって劣化依存モデルを決定するように構成することができる。量子力学的モデル458は、プロセッサを使用して自動化された方法で実装された密度汎関数理論に基づくモデル460、または別の量子力学的モデルであり得るか、またはそれらを含むことができる。他の確率モデル、可能な配置を決定する技術、および原子モデルを使用できることが理解されよう。原子配置115の形成されたモデルから、劣化依存モデリングモジュール408は、劣化依存モデルデータ構造110(
図1)に格納された総エネルギー117の量を計算して提供する。
【0027】
図5は、本発明の実施形態による、カソード材料比較モジュール562および報告モジュール566を示す概略ブロック図である。これらのモジュールは、プロセッサ504、メモリ505、およびモジュール508、514、および518としてここに(関連するデータ構造なしで)示されている
図1の構成要素と共に使用することができる。カソード材料比較モジュール562は、プロセッサ504を使用して自動化された方法で、それぞれがそれぞれのデータ構造516a/516bに格納された、第1のカソード材料506aのオープンセル電圧を第2のカソード材料506bのオープンセル電圧と比較し、比較の結果をデータ構造564に格納するように構成される。報告モジュール566は、プロセッサ504を使用して自動化された方法で、第1のカソード材料506aのオープンセル電圧と第2のカソード材料506bのオープンセル電圧との比較のデータ構造564からの結果を報告するように構成される。これらのような比較を使用して、コンピュータシステム500のユーザは、実験を実施する必要なしに、シミュレーションによってカソード材料106、506a、506bの特性を迅速かつ自動化された方法で決定することができる。例えば、コンピュータシステム500のユーザは、どのカソード材料がより大きなオープンセル電圧を生成するか、および時間の経過とともに電池の使用中のカソード材料の劣化の関数としてオープンセル電圧がどのように変化するかを決定することなどによって、理解および設計の選択を得ることができる。オープンセル電圧の劣化依存性は、電池が使用される設定に応じて、カソード材料の選択に影響を与える可能性がある。したがって、カソード材料の選択に関係する設計上のトレードオフは、本明細書で教示されるコンピュータシステムによるシミュレーションを使用して最適化することができる。
【0028】
一実施形態は、カソード材料106、506a、506bの不可逆的な原子再配列のために電池がどの程度劣化するかを予測することを可能にする。文献でこれをモデル化する以前の試み(非特許文献2参照)には、密度汎関数理論(DFT)計算が含まれ、材料の化学量論の変化に伴って材料の性能メトリックがどのように変化するかとともに、初期の元の材料がモデル化される。化学量論のこれらの変化は、材料の貯蔵電池容量の変化をもたらす。材料が放電されると、原子の再配列が有利になり、相変化だけでなく、不可逆的な欠陥の形成も生じる可能性がある。関心のある1つの欠陥は、アンチサイトの形成である。これらのアンチサイトは、材料の再充電段階中に復元される電荷運搬部位の部分的または完全な遮断のために、その後に充電される材料の電池容量の減少をもたらす可能性がある。これらの以前にアクセス可能なサイトの部分的な閉塞による電池容量の減少を予測する能力により、実践者は、材料組成がアンチサイト形成のために著しく劣化する傾向が少ないかまたは多いかを事前に予測することができる。この振る舞いを予測するための従来の慣行には、長い実験作業が含まれる(たとえば、非特許文献5参照)。
【0029】
劣化依存モデリングモジュール108(
図1参照)によって実施される1つの段階では、一実施形態は、モデル構築の以下のプロセスを使用することができる。カソード材料はサイクル中に化学量論を変化させ、最初のステップはこのプロセス中にアルカリイオン234a/ 234bの正確な位置を決定することである。各アルカリイオン濃度の安定した構造を決定するために、アルカリイオンの多数の構成を生成する必要がある。さらに、
図2Aおよび2Bについて説明したように、アルカリ金属原子234aが除去されて空孔が生成されると、他の金属原子がこれらの以前は占有されていたが現在は空のアルカリ金属位置に移動し得るため、アルカリ金属空孔だけでなく他のより複雑な欠陥構成も含めることが重要である。以前の計算では、たとえば、アルカリイオンと遷移金属イオンがサイトを交換するアンチサイトは、完全な化学量論的材料の低エネルギー欠陥であることが示されている(非特許文献3)(非特許文献4)。一実施形態は、充電サイクル中のアンチサイトの生成をモデル化する可能な原子配置を探す構成を含む。
【0030】
図4について説明したように、これらの構成を生成するための方法は、例えば、モンテカルロ法、遺伝的アルゴリズム、および列挙検索を含むことができる。たとえば、米国マサチューセッツ州ウォルサムのDassault Systemes BIOVIAのソフトウェアソリューションPipeline Pilotは、このような構成を効率的に生成する方法を提供できる。アルカリ金属原子は、例えば、リチウム、ナトリウム、またはカリウム原子のうちの1つまたは複数とすることができる。様々な遷移金属およびアルカリイオンを含む、多種多様なカソード材料をモデル化できることが理解されよう。これらの材料の価電子とイオンの相互作用は、たとえば、密度汎関数理論(DFT)などの量子力学的方法によって計算することができる。実装は、例えば、波動関数の拡張のための平面波基底、または同様の方法を使用することができ、これは、スレーター型軌道または強結合実装に基づくことができる。
【0031】
理論計算の実験例:
本発明の実施形態による実験的シミュレーションでは、密度汎関数理論(DFT)技術が、エネルギーカットオフ600eVで設定された波動関数の拡張のための平面波基底で使用された。密度汎関数理論における交換相関汎関数は、たとえば、少なくともPBEのようなGGAタイプの汎関数とすることができ、カソードで使用される遷移金属酸化物材料における強い相関の特別な処理を含むことができる。実験では、GGA+U交換相関汎関数を使用した。逆格子空間は、10A-1の解像度でサンプリングされた。 原子緩和の反復収束基準は、原子にかかる力については10meV/A、連続する反復間のエネルギー変化については1 micro eV/atomだった。モデル構築フェーズで生成されたすべての構造の計算された総エネルギーは、各スーパーセルの特性とともにMicrosoft(登録商標) Excelシートデータベースに保存された。特性には、各元素の原子数、セルの体積と密度、磁気モーメントと電荷が含まれていた。この情報を使用して、リチウム濃度の関数としてのオープンセル電圧と、リチウム濃度の関数としての材料の電池容量を計算した。このプロセスは、本明細書で教示される技術を実装する専用のプロセッサによって自動化することができる。
【0032】
電池の性能を予測するために、一実施形態は、サイクル中の各化学量論での安定配置を決定することから始めることができる。これは、例えば、安定配置モジュール114によって、スーパーセルを緩和し、例えば、モデリングモジュール108によって、モデル構築段階中に生成される異なる配置の形成熱を計算することによって達成することができる。
図6に示すように、緩和されたスーパーセルの格子定数を実験的な格子定数と直接比較して、サイクル中のカソード材料の体積膨張を理解することができる。形成熱が最も低い配置は、
図7に例示されているように、この特定の化学量論での最も安定した配置であると予測される。
【0033】
実施形態は、アルカリ金属濃度xの関数(非特許文献6)としての、カソード材料中のアルカリ金属イオンの化学ポテンシャル対参照アルカリ金属電極の差異として定義される、オープンセル電位、VOCV、を決定することができる。
【0034】
【0035】
ここで、zはアルカリ金属原子の電荷、Fはファラデー定数である。
【0036】
これは、密度汎関数理論計算のフレームワークにおいて、次のように計算できる。
【0037】
【0038】
ここで、Aはアルカリ金属であり、Mは1つ以上の遷移金属元素である。オープンセル電圧は、モデル構築フェーズ中に作成された構造を使用して、たとえばモジュール108によって、およびモジュール114によって決定された最低エネルギー配置によって、アルカリ金属濃度xごとに計算でき、xに対してプロットして
図8のアルカリ金属濃度の関数としてセル電圧を与えることができる。
【0039】
電池性能の共通の表現(一般的に)は、カソード材料の電池容量の関数としてのオープンセル電圧の表現である。電池容量Cは、カソード材料xのアルカリ金属濃度に直接関係し、材料の重量に反比例する。単位あたりの質量は、単位格子の体積Ωと密度ρから計算でき、電池容量の式を与える。
【0040】
【0041】
一実施形態を使用して、カソード材料の性能特性は、
図9に示されるように、欠陥複合体形成などのサイクル中に発生する構造変化を考慮に入れて、上記の式に従ってオープンセル電圧対電池容量を計算することによってシミュレートすることができる。見てわかるように、電池容量は
図8に示されているアルカリ金属濃度(または他の化学量論)に比例するので、
図9の横軸は
図8の横軸のスケーリングされたバージョンである。
【0042】
一例では、以下の劣化進行が想定される。カソード材料は、最初のサイクルの間、おおよそ欠陥がない。充電中の脱リチウム化プロセスにより、アルカリ金属イオンが順番に除去され、遷移金属酸化物の骨格が残る。これにより、最初のサイクル中に最大電池容量が得られる。遷移金属イオンは可動性になり、アルカリ金属イオンと部位を交換して、アンチサイト欠陥複合体を形成し得る。遷移金属部位(アンチサイト)におけるアルカリ金属イオンは、アルカリ金属層よりも緊密に結合しているため、アルカリ金属は遷移金属酸化物層にトラップされ、充電および放電プロセスに参加できない。これにより、カソード材料の電池容量が減少する。
【0043】
一実施形態を使用して、
図9のグラフが生成されて、単一材料のオープンセル電圧対電池容量を表すプロットが作成されると、ユーザは、異なる材料の別のプロットを計算して、例えば、
図5の比較および結果モジュール562、566を使用して、材料間の相対比較を行うことができる。たとえば、組成Aの材料の計算されたOCV曲線を、組成Bの材料と比較して、どちらがより大きなオープンセル電圧を有するかを決定することができる。一部のエンドユーザーアプリケーションでは、より大きなOCVが望ましい。同様に、アンチサイトが導入されたときのシミュレートされたOCV曲線の小さな変化も望ましく、これは、電池容量のフェードが小さいためにより長い寿命を有する電池を表すためである。この情報は、ここで説明するシミュレーション方法からも決定することができる。選択した材料のセット間で追加の比較を行うことができ、最も興味深いものは、シミュレーションよりも完了するのにはるかに長い時間がかかることが多いため、ラボでの合成作業の対象にすることができる。
【0044】
一例として、米国マサチューセッツ州ウォルサムのDassault Systemes BIOVIAによって販売されているMaterials Studioソフトウェアスイートがモデル構築に使用され、Materials Studioソフトウェアスイート内のCASTEPモジュールが計算に使用される。米国マサチューセッツ州ウォルサムのDassault Systemes BIOVIAが販売しているPipeline Pilotは、配座空間内のさまざまな構成の検索を支援するために使用される。
【0045】
図10は、本発明の実施形態が実施され得るコンピュータネットワークまたは同様のデジタル処理環境を示す。クライアントコンピュータ/デバイス50およびサーバコンピュータ60は、アプリケーションプログラムなどを実行する処理、記憶、および入力/出力デバイスを提供する。クライアントコンピュータ/デバイス50はまた、通信ネットワーク70を介して、他のクライアントデバイス/プロセス50およびサーバコンピュータ60を含む他のコンピューティングデバイスにリンクすることができる。通信ネットワーク70は、リモートアクセスネットワーク、グローバルネットワーク(例えば、インターネット)、コンピュータの世界的なコレクション、ローカルエリアまたはワイドエリアネットワーク、および現在それぞれのプロトコル(TCP / IP、Bluetooth(登録商標)など)を使用して相互に通信するゲートウェイの一部とすることができる。他の電子デバイス/コンピュータネットワークアーキテクチャが適している。
【0046】
図11は、
図10のコンピュータシステムにおけるコンピュータ(例えば、クライアントプロセッサ/デバイス50またはサーバコンピュータ60)の例示的な内部構造の図である。各コンピュータ50、60は、システムバス79を含み、バスは、コンピュータまたは処理システムのコンポーネント間のデータ転送に使用されるハードウェアラインのセットである。システムバス79は、本質的に、要素間の情報の転送を可能にするコンピュータシステムの異なる要素(例えば、プロセッサ、ディスクストレージ、メモリ、入力/出力ポート、ネットワークポートなど)を接続する共有導管である。システムバス79に接続されているのは、様々な入力および出力デバイス(例えば、キーボード、マウス、ディスプレイ、プリンタ、スピーカーなど)をコンピュータ50、60に接続するための入出力デバイスインターフェース82である。ネットワークインターフェース86は、コンピュータがネットワーク(例えば、
図9のネットワーク70)に接続された様々な他のデバイスに接続することを可能にする。メモリ90は、本発明の実施形態を実施するため(例えば、本明細書に詳述されたシステム100、モジュール108、114、118、318、408およびそのモデルおよび方法、システム500およびそのモジュール、並びに対応するデータ構造110、114、116,516a、516b、564の1つ以上を実施することを含む)に使用されるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94のための揮発性ストレージを提供する。ディスクストレージ95は、本発明の実施形態を実施するために使用されるコンピュータソフトウェア命令92およびデータ94のための不揮発性ストレージを提供する。中央プロセッサユニット84もまた、システムバス79に接続され、例えば、本明細書で教示されるようなデータおよび制御の流れを有するコンピュータ命令の実行を提供する。
【0047】
一実施形態では、プロセッサルーチン92およびデータ94は、本発明のシステムのソフトウェア命令の少なくとも一部を提供する非一時的なコンピュータ可読媒体(例えば、1つまたは複数のDVD-ROM、CD-ROM、ディスク、テープなど)を含むコンピュータプログラム製品(一般に92として参照される)である。コンピュータプログラム製品92は、当技術分野でよく知られているように、任意の適切なソフトウェアインストール手順によってインストールすることができる。別の実施形態では、ソフトウェア命令の少なくとも一部はまた、ケーブル通信および/または無線接続107を介してダウンロードされ得る。他の実施形態では、本発明のプログラムは、伝搬媒体(例えば、電波、赤外線、レーザー波、音波、または、インターネットもしくは他のネットワークなどのグローバルネットワークにわたって伝搬する電波)上の伝搬信号上に具現化されたコンピュータプログラム伝搬信号製品である。そのようなキャリア媒体または信号は、本発明のルーチン/プログラム92のためのソフトウェア命令の少なくとも一部を提供するために使用され得る。
【0048】
代替の実施形態では、伝搬信号は、伝搬媒体上で運ばれるアナログ搬送波またはデジタル信号である。例えば、伝播信号は、グローバルネットワーク(例えば、インターネット)、通信ネットワーク、または他のネットワークを介して伝播されたデジタル化信号であり得る。一実施形態では、伝搬信号は、ミリ秒、秒、分、またはそれ以上の期間にわたってネットワークを介してパケットで送信されるソフトウェアアプリケーションの命令など、一定期間にわたって伝搬媒体を介して送信される信号である。
【0049】
他の実施形態では、ソフトウェア命令92およびデータ94は、SaaS(Software as a Service)などとして、クラウドプラットフォーム上で提供される。
【0050】
本明細書で引用されたすべての特許、公開された出願および参考文献の教示は、その全体が参照により組み込まれる。
【0051】
例示的な実施形態が特に示され、説明されているが、当業者には、添付の特許請求の範囲に含まれる実施形態の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行うことができることが理解される。