(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】軌条車両用換気装置
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20220616BHJP
B04C 5/185 20060101ALI20220616BHJP
B04C 5/28 20060101ALI20220616BHJP
B04C 9/00 20060101ALI20220616BHJP
B01D 50/00 20220101ALI20220616BHJP
【FI】
B61D27/00 R
B04C5/185
B04C5/28
B04C9/00
B01D50/00 501A
B01D50/00 501J
(21)【出願番号】P 2021505598
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004594
(87)【国際公開番号】W WO2020184010
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019045408
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 寛展
(72)【発明者】
【氏名】小林 克年
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 知足
(72)【発明者】
【氏名】明丸 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義博
(72)【発明者】
【氏名】雙木 貴之
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159848(JP,A)
【文献】特開2015-192982(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101885338(CN,A)
【文献】特開2019-55398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
B04C 5/185
B04C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の空気を入れ替える換気装置と、前記換気装置に併設される集塵装置と、を有する軌条車両用換気装置であって、
前記集塵装置は、筺体と、前記筺体の内部に備えられるサイクロン筒体と、を有しており、
前記換気装置は、前記サイクロン筒体を通過した車外の新鮮空気を前記車両に供給する給気用送風機を有しており、
前記筺体は、前記サイクロン筒体に取り込まれる新鮮空気が通過する金網と、前記金網に接続する背板と、を有しており、
前記集塵装置は、前記背板が前記換気装置の内部に位置するように前記換気装置に接続されること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項2】
請求項1に記載される軌条車両用換気装置において、
前記換気装置は、前記給気用送風機の上流側に給気用送風機前室を有しており、
前記背板が前記給気用送風機前室の壁の一部を構成すること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項3】
請求項1に記載される軌条車両用換気装置において、
前記集塵装置は、前記サイクロン筒体の下方に、前記サイクロン筒体が集塵した異物を蓄える集塵箱を有しており、
前記集塵箱は、前記サイクロン筒体の本数に応じた数の区画を有すること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項4】
請求項3に記載される軌条車両用換気装置において、
前記集塵箱は、前記換気装置に固定された前記集塵装置から分離できること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項5】
請求項1に記載される軌条車両用換気装置において、
前記筺体は、その垂直側面4面のうち3面に金網を有するとともに、残りの1面に前記背板を有する直方体であり、
前記サイクロン筒体と、前記サイクロン筒体の上端部を固定する上板と、前記サイクロン筒体の下端部を固定する下板とで、サイクロンユニットを構成しており、
前記サイクロンユニットの高さ寸法および幅寸法は、前記背板に対向配置される前記金網の高さ寸法および幅寸法より小さく設定されていること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載される軌条車両用換気装置において、
仕切り板によって仕切られている区画を備えた集塵箱を有すること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載される軌条車両用換気装置において、
複数の前記サイクロン筒体が、軌条車両の進行方向に対して交差する方向に並べて配置されていること、
を特徴とする軌条車両用換気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両用換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のような軌条車両、特に高速車両は気密性の高い車両構体を有するため、一般的に車内の換気は自然換気ではなく強制換気を行っている。このような軌条車両においては、車外の新鮮空気を車内に取り入れる給気ファンと、車内の汚染空気を車外に排出する排気ファンとを備えた換気装置を車両床下に配設しており、かかる換気装置によって強制換気を実現している。
【0003】
ところで、車外の空気が常にクリーンであるとは限らず、例えば塵埃の多い区間を車両が通過する場合もある。そこで、給気ファンの換気装置の開口(新鮮空気取り入れ口)部には例えば不織布製のプレフィルタが設けられ、これにより外気から塵埃を集塵し、清浄空気を車内に給気している。
【0004】
このプレフィルタは使用時間が長くなるにつれて塵埃が蓄積され汚染が進行するため、一定周期で清掃が必要になるが、塵埃が織目に固着すると、その排除には一定の手間がかかる。特に汚染の度合いによってはプレフィルタの清浄が困難となって再使用できないため、交換を余儀なくされるケースもある。比較的高価なプレフィルタの交換の頻度が高まれば、メンテナンスコストを増大させる恐れがある。
【0005】
また、不織布を用いることから、プレフィルタの集塵性能が布の織目に依存するという問題がある。例えば広目の不織布を使用すると、目詰まりは生じにくい一方で集塵性能が十分でない。これに対し、車内空気の清浄性を向上するために高い集塵性能を得ようとすべく細目の不織布を使用すると、それにより招来される高圧力損失を克服するために、給気ファンの送風性能を高める必要が生じ、コスト高を招く恐れがある。また、より高い集塵性能を求める場合にはプレフィルタの目詰まりも激しくなり、それにより清掃頻度が高まってメンテナンスコストを増大させる恐れがある。
【0006】
このような理由から、プレフィルタの代替としてサイクロン式の集塵装置の搭載が提案されている。サイクロン式の集塵装置は、円筒形の風路内に旋回流を生じさせることで塵埃に遠心力を与えて清浄空気から分離するという作用を有するため、プレフィルタを設ける場合に比べ、風路の目詰まりが抑制され、また清掃性が向上するという利点がある。特許文献1には、サイクロン式の集塵装置を車両の床下に設置する例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたサイクロン式の集塵装置を設けることにより、上述したようなプレフィルタによる課題を解消することが期待される。しかしながら特許文献1の技術では、サイクロン式の集塵装置が換気装置から別置されていることから、装置全体の設置スペースを大きく確保する必要がある。特に近年は、機器を床下に高密度配置する車両設計が推進されているが、従来のサイクロン式の集塵装置は比較的大型である故に、このような車両設計に適さないとされている。
【0009】
また、サイクロン式の集塵装置において集塵する円筒部(サイクロン筒体)は導入管である排気管を介して換気装置に付設されているが、給気ファンに偏心して風が流れることになり、それにより集塵性能および送風性能が抑制される恐れや、圧力損失の増大を招く恐れがある。また、サイクロン筒体の位置が近隣装置に近いために、その給気口も近隣装置に近くなる。そのため、給気管の曲り等がきつくなり給気性能が低下する恐れがある。更に、サイクロン筒体が比較的大きい直径を有することから、同一風速時の遠心力が低下して集塵性能が低くなる恐れもある。
【0010】
本発明の目的は、圧力損失を抑制して集塵効率を確保し、装置の設置スペースを抑制できる集塵装置を備えた軌条車両用換気装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の軌条車両用換気装置の一つは、車両の空気を入れ替える換気装置と、前記換気装置に併設される集塵装置と、を有する軌条車両用換気装置であって、前記集塵装置は、筺体と、前記筺体の内部に備えられるサイクロン筒体と、を有しており、前記換気装置は、前記サイクロン筒体を通過した車外の新鮮空気を前記車両に供給する給気用送風機を有しており、前記筺体は、前記サイクロン筒体に取り込まれる新鮮空気が通過する金網と、前記金網に接続する背板と、を有しており、前記集塵装置は、前記背板が前記換気装置の内部に位置するように前記換気装置に接続されることにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力損失を抑制し、集塵効率を確保し、設置スペースを抑制できる集塵装置を備えた軌条車両用換気装置を提供できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかる換気装置を車両へ取り付けた状態と共に、換気される新鮮空気および排気空気の流れを示す換気空気系統図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかる集塵装置を備える換気装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかる集塵装置を備える換気装置の車両長手方向に交差する面による部分断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる集塵装置を備える換気装置の車両長手方向に沿う垂直面による断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態にかかる換気装置に併設される集塵装置が分離した塵埃を回収する手順を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態にかかる換気装置に併設される集塵装置の一部の分解図である。
【
図7】
図7は、本実施形態にかかる換気装置に併設される集塵装置の他の実施形態の斜視図である。
【
図8】
図8は、本実施形態にかかる換気装置の他の実施形態における車両床下の断面図である。
【
図9】
図9は、従来の換気装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1から
図7までを用いて第1の実施形態を説明する。まず、各方向を定義する。車両100の長手(レール)方向に沿う方向をX方向、車両100の幅(枕木)方向に沿う方向をY方向、車両100の高さ方向をZ方向とする。以下、単にX方向、Y方向、Z方向と記す場合がある。
【0015】
軌条車両は、敷設される軌道に沿って運行される車両であり、鉄道車両、モノレール車両、路面電車、新交通車両等を含む。軌条車両の代表例として、鉄道車両を取り上げて本発明の実施の形態を説明する。本発明は、高速の軌条車両に限らず、全ての軌条車両に適用可能である。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる換気装置を鉄道車両へ取り付けた状態と共に、換気される新鮮空気および排気空気の流れを模式的に示す換気空気系統図である。車両100を高速で走行させると、トンネル通過時等に車外圧力が大きく変動する。そのような場合であっても車内圧力が大きく変動して乗客等が聴覚に不快感を覚えないように、車両100は気密性の高い車両構体より構成される。
【0017】
さらに、車両100が気密性の高い車両構体を有する場合、車内換気が重要となるので、車両100は床下に強制的に車内外の空気を換気する換気装置101と、空調装置102を、床板630の下方に備える。換気装置101は車外の空気(新鮮空気)を車内へ供給する給気用送風機と、車内の排気空気を車外へ排出する排気用送風機を備える。一般に、高速で走行する車両100は、その重心を下げるために、換気装置101および空調装置102を車両100の床下に搭載している。
【0018】
換気装置101は、車外から取り込んだ新鮮空気111を空調装置102へ供給するとともに、車内の排気空気113を車外へ排出して、車両100を強制的に換気する。空調装置102は、換気装置101から供給される新鮮空気111と、車内からの再循環空気115とを混合した混合空気の温湿度を調整して、調和空気112を生成して車内へ供給する。
【0019】
本実施形態において、換気装置101の新鮮気取入口に集塵装置103(
図2参照)を備えている。集塵装置103は、車外から取り込んだ新鮮空気111に大気中の塵埃や軌道上に舞い落ちた枯葉等が混入していた場合、これらを取り除く機能を有する。
【0020】
図2は、本実施形態にかかる集塵装置を備える換気装置の斜視図であり、
図3は、本実施形態にかかる換気装置の集塵装置を、車両長手方向に直交する垂直面に沿って切断した部分断面図である。
図4は、本実施形態にかかる集塵装置を備える換気装置の車両長手方向に沿う垂直面による断面図である。
【0021】
車外の空気中に含まれる塵埃等を取り除く集塵装置103を併設した換気装置101は、その筺体に備えられる吊り具105(
図3)を利用して、車両100の床下に固定される。換気装置101は、新鮮空気を取り入れる新鮮空気取り入れ口(図示なし)と、取り入れた新鮮空気を吐出す新鮮空気吐出し口400と、車内の排気空気を取り入れる排気空気取り入れ口401と、取り入れた排気空気を吐出す排気空気吐出し口(図示なし)を備える。
【0022】
新鮮空気吐出し口400は、車両100が備える新鮮空気ダクトに接続されて、空調装置102に新鮮空気を供給する流路の起点となる。排気空気取り入れ口は、車両100が備える排気ダクトに接続される。車両100が備える排気ダクトは、車両100の各部から排気空気を換気装置101へ導く。
【0023】
換気装置101の新鮮空気取り入れ口の上流側には、新鮮空気111に含まれる塵埃や落ち葉等を取り除いて、清浄度を高めた新鮮空気を確保する集塵装置103が備えらえる。集塵装置103は、換気装置101のX方向における一方の端に片持ちの態様で設置され換気装置101に一体に固定される。
【0024】
集塵装置103は、金網200と、金網200に接続する背板340(
図4)などから構成される直方体状の筺体と、取り込んだ新鮮空気を旋回流にする略円筒形状の3本のサイクロン筒体300と、サイクロン筒体300の下方に備えられるとともにサイクロン筒体300で集塵した塵埃等を一時的に蓄える集塵箱220と、サイクロン筒体300の上方で塵埃等を分離して清浄度を高めた新鮮空気を集める帽子状流路210と、を備える。なお、サイクロン筒体300の本数は任意であり、ここでは
図3に示すように、Z方向に沿って立設された3本のサイクロン筒体300を備える一例を示す。集塵箱220は、集塵装置103に対してボルトまたは掛け金等により脱着可能に取り付けられている。
【0025】
集塵装置103の筺体は、その垂直側面4面のうち3面(X方向の一方の面およびY方向の両面)に金網200を備えており、残りの1面には背板340を備える。筺体の3面に金網200を備えるので、集塵装置103はX方向(111a)およびY方向(111b、111c)から金網200を通過した新鮮空気を筺体の内部に導入できる。
【0026】
サイクロン筒体300は、
図4に示すように、鉛直方向に軸を有するサイクロン内筒323と、同様に鉛直方向に軸を有するとともにサイクロン内筒323を内包するサイクロン外筒320から構成される。第1給気口310および第2給気口311は、サイクロン外筒320とサイクロン内筒323で構成される流路に接続される。
【0027】
金網200を通過して集塵装置103内に流入した新鮮空気は、サイクロン筒体300にX方向に沿って備えられる第1給気口310と第2給気口311からサイクロン筒体300の内部に流入する。第1給気口310および第2給気口311は、円筒形状のサイクロン筒体300の水平断面のX方向に沿う接線方向に新鮮空気を導くため、サイクロン筒体300内部に流入した新鮮空気は旋回流330(
図3)となる。金網200の目の寸法は第1給気口310、第2給気口311の寸法より少し小さく設定されており、比較的大きな落ち葉や羽毛等のサイズの大きい異物がサイクロン筒体300に吸い込まれることを抑制する。
【0028】
サイクロン筒体300に流入してサイクロン外筒320の内側面に沿って旋回する新鮮空気が、サイクロン外筒320とサイクロン内筒323との間の流路を通過する過程で、新鮮空気に含まれる塵埃や落ち葉等の異物は、遠心力でサイクロン外筒320の内壁面に押し付けられて新鮮空気から異物として分離される。分離された異物は、サイクロン外筒320の内壁面に沿って下方に落下した後、サイクロン筒体300の下方に備えられる集塵箱220に蓄えられる。
【0029】
異物が取り除かれて清浄度を高めた新鮮空気は、旋回しながらサイクロン外筒320の下端部まで降下した後、サイクロン内筒323の内側を通ってZ方向に上昇する。サイクロン内筒323の上端部に至った新鮮空気は、開口部322を介して複数のサイクロン筒体300の上端部を共通に包含する帽子状流路210に集約されて、換気装置101の筺体の内部に構成される給気用送風機前室511を通過して、給気用送風機吸込み口512から給気用送風機510に吸い込まれる。
【0030】
その後、給気用送風機510によって静圧を高められた新鮮空気は、新鮮空気吐出し口400から新鮮空気ダクト(図示なし)を経由して空調装置102へ供給される。給気用送風機510および排気用送風機520は、共通の電動機500によって駆動される。
【0031】
1本のサイクロン筒体300に2か所の第一給気口310および第二給気口311を備えることによって、1ヶ所の給気口から新鮮空気を吸い込む場合に比較して、給気面積を大きくできる。又、複数の給気口から流速の小さい新鮮空気を吸い込むので、給気効率を高めてサイクロン筒体300への流入損失(抵抗)を小さくできる。さらに、サイクロン筒体300への流入損失が小さくできるので、サイクロン筒体300の第1給気口310(第2給気口311)で生じる流体騒音を抑制できる。
【0032】
集塵箱220は、
図3に示すように、サイクロン筒体300の本数に応じて、仕切り板221によって区画される区画室222を有する。集塵箱220の内部において、多くの塵埃を含む旋回流330が渦巻いているが、複数の区画室222を備えることによって区画室222の隅部(角部)を通過する旋回流330の流速を小さくできる。このため、流速が低下した旋回流330からより多くの塵埃を区画室222に捕捉することができるため、集塵効率を高めることができる。さらに、区画室222の隅部(角部)は旋回流330の流速が小さいため、いったん捕捉された塵埃等が再び旋回流330に取り込まれて換気装置101へ送られることを抑制できる。
【0033】
図4において、X方向に沿う換気装置101の寸法をA、同様に、換気装置101に併設されてX方向に突出した態様の集塵装置103の突出寸法をBとすると、寸法Aを寸法Bの5~7倍に設定することによって、集塵装置103の集塵性能を確保しながらも、集塵装置103を併設する換気装置101の小型化を図れるから、効率的に車両100の床下に設置できる。
【0034】
集塵装置103のY方向の幅寸法をE(
図2)とすると、寸法Eを寸法Bの2~4倍に設定することによって、集塵効率を維持するために必要となるサイクロン筒体の設置スペースを確保することができる。
【0035】
集塵装置103は、
図4に示すように、その筺体の一部をなす背板340が換気装置101の端面より給気用送風機510に近づくよう内部に入り込んだ態様で、換気装置101に固定される。背板340は、給気用送風機吸込み口512からX方向に寸法D離れた位置に置かれ、集塵装置103が備える帽子状流路210の出口から給気用送風機吸込み口512に至る給気用送風機前室511の壁の一部を構成する。この構成によって、集塵装置103が固定された換気装置101全体のX方向の寸法(A+B)を小さくすることができるので、車両100の床下機器の設置スペースを小さくできる。
【0036】
第2給気口311と背板340との間のX方向寸法をCとし、背板340と給気用送風機吸込み口512との間のX方向寸法をDとすると、寸法Cを寸法Dの2~4倍に設定することによって、第2給気口311の吸入損失および給気用送風機前室511の圧力損失の増大を抑制できる。
【0037】
図5は、本実施形態の換気装置に併設される集塵装置が分離した塵埃を回収する手順を模式的に示す図である。集塵箱220に溜まった塵埃等は、車両100の定期点検時に集塵箱220から取り出されて廃棄される。
【0038】
以下に、集塵装置103が集塵した塵埃等を廃棄する手順を記す。まず、検修庫等に停車した車両100の床下から集塵装置103の下方に位置する下塞ぎ板600を取り外す。下塞ぎ板600は、換気装置101と換気装置101に隣接する機器(例えば、主変換装置610)に跨って敷設されるものである。
【0039】
下塞ぎ板600を取り外す具体的な手順は、換気装置101および主変換装置610の下端部の受け部620に固定するボルト(図示なし)を外した後、一度、下塞ぎ板600のX方向端部を上方に跳ね上げてから斜め下方にスライドして引き出す。これにより形成される開口部OPを通して集塵箱220が露出する。そこで、集塵装置103に固定するボルトまたは掛け金等を外して、開口部OPより集塵箱220を車両100の下方に取り出した後、集塵箱220から塵埃等を所定の場所に廃棄する。集塵箱220を取り外すことで集塵装置103に内蔵されるサイクロン筒体300(
図4参照)の下端が露出するので、ここからサイクロン筒体300の洗浄を行っても良い。
【0040】
図6は、本実施形態の換気装置に併設される集塵装置の一部を示す分解図である。集塵装置103に内蔵されるサイクロン筒体300は、Y方向に沿ってサイクロン筒体300の上端部が固定されるとともにサイクロン筒体300から帽子状流路210に導かれる新鮮空気が通過する3つの貫通孔241を有する上板240と、Y方向に沿ってサイクロン筒体300の下端部の集塵口321の周縁部が固定されるとともにサイクロン筒体300で分離された塵埃等が通過する3つの貫通孔251とを有する下板250と、に支持される。
【0041】
サイクロン内筒323の上端内径と、上板240の貫通孔241の内径はほぼ同寸法である。サイクロン筒体300の上端部と上板240とは着脱可能な機械的締結部(たとえばねじ止め)242で締結され、同様に、サイクロン筒体300の下端部と下板250とは着脱可能な機械的締結部(たとえばねじ止め)252で締結される。
【0042】
複数のサイクロン筒体300および上板240および下板250から構成されるサイクロンユニットの幅方向寸法Y1と高さ方向寸法Z1は、背板340に対向して配置される金網200のY方向寸法およびZ方向寸法(
図2参照)より小さく設定されている。このため、集塵装置103が換気装置101に固定されている状態で、背板340に対向する金網200を取り外せば(
図3参照)、サイクロンユニットの一式をX方向に抜き出し後、車両100の下方へ引き出すことができる。
【0043】
これにより、個別にサイクロン筒体300を分解洗浄することができるとともに、目視点検等を行うことができ、それにより異常が発見されたサイクロン筒体300のみを交換することもできる。また、サイクロン筒体300(3個)を同一形状にすれば、部品共通化を図れるため低コストでサイクロン筒体300を入手し交換することができる。
【0044】
表1に、本実施形態にかかるサイクロン筒体300の集塵性能を検証した実験結果を示す。営業路線で供された換気装置の新鮮空気吸込み口に備えたプレフィルタが補足した異物等を参考にして、車両100が営業路線を走行した時に集塵装置103が捕捉するであろう4種類の異物を想定して、集塵性能を検証した。
【0045】
【0046】
ここで、換気装置101は、高速走行時の車外圧力変動による換気装置101の給気用送風機510の給気量と排気用送風機520の排気量の差が小さくなるように、給気用送風機510および排気用送風機520を駆動する電動機500の回転数を大きくして、大きな風量と高い静圧を得る。一方、停車時を含む低速走行時には消費電力を小さくするために、電動機500の回転数を小さくして、小さな風量を得る。このため、集塵装置103の風量を、風量大と風量小の2種類で評価した。
【0047】
また、異物は、けい砂、鉄粉(数十から数百μmの粉体)で、羽毛、枯葉(数mmに裁断したもの)の4種類とし、集塵効率を集塵装置103に吸引する前の重量と、集塵装置103で分離して集塵箱220で回収したこれらの重量の比と定義して、これらの異物毎の集塵装置103の集塵性能を評価した。すなわち、表1にて集塵効率99%とは、重量比で99%の異物が集塵され、残り1%の異物が気体に混入していることを意味する。表1に示すように、全ての異物に対して高い集塵効率が確認され、集塵装置103は十分な集塵性能を有することが確認された。
【0048】
図7は、本実施形態の換気装置に併設される集塵装置の他の例を示す斜視図であり、金網を取り外した状態で示している。車両100が走行する線区の環境によっては、多くのけい砂を含む塵埃が回収される場合もある。このように、路線の環境に合わせて、サイクロン筒体300の本数を変更して、塵埃の組成に応じて集塵装置103の集塵性能を調整することができる。例えば、集塵装置103の圧力損失の増大を許容しつつ、より高い集塵性能を得たい場合(数μm未満の極小粉体まで集塵する場合など)、サイクロン筒体300の外径を小さくして、同一風量時により大きな旋回力(分離力)を発生するように調整することができる。
【0049】
このような場合は、より高い集塵性能を確保するとともに所定の換気風量を維持するために、集塵装置103の体積および重量が多少大きくなるが、例えばサイクロン筒体の本数を10本にすることで対応する。この例では、
図7に示すように、Y方向に沿って5本の小径のサイクロン筒体800をX方向に2列配設している。例えサイクロン筒体の本数が増減しても、対応する帽子状流路210および集塵箱220の構成を用いることで、保守性を確保し、塵埃の再取り込み等を抑制しながら、所定の換気量を維持しつつ、より高い集塵性能を有する集塵装置103を構成することができる。
【0050】
図8は、本実施形態の換気装置の他の実施形態を、車両床下に配置した状態を示す断面図である。上述した実施形態では、
図5を参照して、集塵箱220を車両100の下方に引き出せる構成を説明した。本実施形態では、集塵箱220をY方向に引き出すことができる。その手順を以下に説明する。
【0051】
車両100の床板630の下方には、集塵装置103を有する換気装置101、空調装置102(
図1参照)、または補助電源原装置等の床下機器900が備えられる。車両100は、床板630のY方向の両端部から下方に延伸する側スカート910を備えている。一方の側スカート910の下端部から他方の側スカート910の下端部に渡って、下塞ぎ板600が備えられている。後述する集塵トレー921を引き出す位置に備えられる側スカート910は、掛け金等で開閉可能(着脱可能)な蓋部911を備える。
【0052】
換気装置101は、サイクロン筒体300(
図3参照)の下方に備わる集塵箱部220aと、集塵を溜める集塵トレー921と、集塵トレー921を支持する底板920と、を有する。底板920は、そのY方向の一方の端部(車両100のY方向の中央寄り)を蝶番(ヒンジ)931で固定するとともに、そのY方向の他方の端部に着脱可能な掛け金930を備える。掛け金930を外せば、底板920は、Y-Z平面内で蝶番931を支点に回動できるので、底板920に載置される集塵トレー921をY方向に引き出せる。
【0053】
以下に、集塵した塵埃等を廃棄する手順を記す。車両100が点検等で検修庫等へ入庫した際に、側スカート910に備えられる蓋部911の掛け金を外して、蓋部911を開ける。その後、集塵装置103の下部の掛け金930を外して、点線で示すように底板920を、蝶番931を枢支点として下方へ回動した後、底板920に支持される集塵トレー921を蓋部911から車両100の外へ取り出して集塵等を廃棄する。
【0054】
この構成によれば、集塵等を廃棄するために車両100の下塞ぎ板600を取り外す必要がないため、集塵の廃棄作業に係わる工数を小さくできるので、メンテナンスコストを抑制することができる。
【0055】
図9は、従来の換気装置の一例を参考的に示す図である。従来の換気装置101は、換気装置101のX方向の一方の面(換気装置前面120)に新鮮空気を取り入れる給気口を備えており、この給気口に、本実施形態の集塵装置103の代わりに不織布等からなるプレフィルタ121を備えている。それ以外の構成は、本実施形態と同様である。
【0056】
図9の換気装置においては、プレフィルタ121が捕捉する塵埃等の量が増えるに従い、給気口の面積が小さくなり、結果的に給気量が減少する懸念があった。このため、季節によっては、プレフィルタ121の点検、交換頻度を高める必要があった。
【0057】
これに対し、上述した本実施形態によれば、集塵装置103を有する換気装置101は、メンテナンスコストの上昇を抑制するとともに、圧力損失を抑制し、集塵効率を確保し、装置の設置スペースを抑制できる軌条車両用換気装置を提供することができる。
【0058】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
100:車両、 101:換気装置、
102:空調装置、 103:集塵装置、
105:吊り具、 111:新鮮空気、
112:調和空気、 113:車内の排気空気、
114:排気空気、 115:再循環空気、
120:換気装置前面、 121:プレフィルタ、
200:金網、 210:帽子状流路、
220:集塵箱、 220a:集塵箱部、
221:仕切り板、 222:区画室、
240:上板、 241:貫通孔、
242:機械的締結部、 250:下板、
251:貫通孔、 252:機械的締結部、
300:サイクロン筒体、 310:第1給気口、
311:第2給気口、 320:サイクロン外筒、
321:集塵口、
323:サイクロン内筒、 330:旋回流、
340:背板、 400:新鮮空気吐出し口、
401:排気空気取り入れ口、 500:電動機、
510:給気用送風機、 511:給気用送風機前室、
512:給気用送風機吸込み口、 520:排気用送風機、
600:下塞ぎ板、 610:主変換装置、
620:受け部、 630:床板、
800:小径のサイクロン筒体、 900:床下機器、
910:側スカート、 911:蓋部、
920:底板、 921:集塵トレー、
930:掛け金、 931:蝶番(ヒンジ)