(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の正極、非水電解質二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/137 20100101AFI20220617BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20220617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220617BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220617BHJP
H01M 4/1399 20100101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/137
H01M4/60
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/1399
(21)【出願番号】P 2018062576
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24~29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「安定な有機ラジカルの蓄電および光電変換材料への応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】北野 祥平
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147157(JP,A)
【文献】特開2011-100594(JP,A)
【文献】特開2002-110239(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010334(WO,A1)
【文献】特開2015-230830(JP,A)
【文献】特開2013-062236(JP,A)
【文献】特開2015-230829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/137
H01M 4/60
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または下記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含
み、バインダを含まない非水電解質二次電池の正極。
【化1】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホノ基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。これらXにはさらに他の置換基が結合していてもよい。さらに別分子のXが結合することでトリオキソトリアンギュレン化合物が多量化してもよい。別分子のXが結合する場合の結合前の基Xは、トリス(トリアルキルシロキシ)シリル基であってもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表されるラジカルおよび(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はカチオン種を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または前記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体のXが水素原子である請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子、およびポリパラフェニレン系高分子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれかに記載の正極。
【請求項5】
前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)を含む請求項1~4のいずれかに記載の正極。
【請求項6】
さらに導電助剤を含む請求項1~5のいずれかに記載の正極。
【請求項7】
前記導電助剤が、カーボンブラック、天然グラファイト、合成グラファイト、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、および酸化グラフェン還元体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の正極。
【請求項8】
前記導電助剤が、カーボンナノチューブである請求項6または7に記載の正極。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の正極を有する非水電解質二次電池。
【請求項10】
下記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または下記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体、導電性高分子、および溶剤を含
み、バインダを含まない混合液を、集電体にスプレー塗布する非水電解質二次電池の正極の製造方法。
【化2】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホノ基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。これらXにはさらに他の置換基が結合していてもよい。さらに別分子のXが結合することでトリオキソトリアンギュレン化合物が多量化してもよい。別分子のXが結合する場合の結合前の基Xは、トリス(トリアルキルシロキシ)シリル基であってもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表されるラジカルおよび(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はカチオン種を示す。)
【請求項11】
前記混合液がさらに導電助剤を含む請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極、非水電解質二次電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、モバイル機器の電源や電気自動車用バッテリーなどに広く実用化されている。非水電解質二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウムを始めとする金属酸化物が主に使用されているが、充電時にリチウムイオンが一定量以上抜けてしまうと結晶構造が崩壊して発熱し、発火するという課題がある。特に、コバルトは希少元素であるため、コストや入手性にも問題がある。このような安全性、コスト、入手性に関する問題を解決するため、有機ラジカル化合物を正極活物質として用いる技術が開発されている(非特許文献1)。有機ラジカル化合物にトリオキソトリアンギュレン(TOTと称す)中性ラジカル誘導体を用いることで、高容量の非水電解質二次電池が得られている。また、充放電容量が大きく、高速充放電特性を可能とするため、TOT誘導体と導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)とを含む、非水電解質二次電池に用いる電極シートが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/010334号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yasushi Morita, et. al.,“Organic tailored batteries materials using stable open-shell molecules with degenerate frontier orbitals”, Nature Materials 10, 947-951 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TOT中性ラジカル誘導体を用いた場合、一般的な正極製造方法に従って正極を作製し、非水電解質二次電池を製造すると、すなわちTOT誘導体と導電助剤とバインダと溶媒とを含む正極スラリーを塗工法で集電体に塗布し乾燥して正極を作製し、非水電解質二次電池を製造すると、サイクル特性が未だ低いという問題がある。
また非特許文献1のように、TOT中性ラジカル誘導体と導電助剤を含むバッキーペーパーを正極に利用すると、前記一般的な正極製造方法に従って正極を作製する場合よりもサイクル特性は向上するものの、さらなるサイクル特性の向上が求められる。
本発明が解決しようとする課題は、非水電解質二次電池のサイクル特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、非水電解質二次電池の正極がTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含むことにより、サイクル特性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明に係る正極は、以下の点に要旨を有する。
[1] 下記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または下記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含む非水電解質二次電池の正極。
【化1】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホノ基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。これらXにはさらに他の置換基が結合していてもよい。さらに別分子のXが結合することでトリオキソトリアンギュレン化合物が多量化してもよい。別分子のXが結合する場合の結合前の基Xは、トリス(トリアルキルシロキシ)シリル基であってもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表されるラジカルおよび(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はカチオン種を示す。)
[2] 前記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または前記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体のXが水素原子である[1]に記載の正極。
[3] 前記導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子、およびポリパラフェニレン系高分子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[1]または[2]に記載の正極。
[4] 前記導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子より選ばれる少なくとも1種を含む[1]~[3]のいずれかに記載の正極。
[5] 前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)を含む[1]~[4]のいずれかに記載の正極。
[6] さらに導電助剤を含む[1]~[5]のいずれかに記載の正極。
[7] 前記導電助剤が、カーボンブラック、天然グラファイト、合成グラファイト、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、および酸化グラフェン還元体からなる群より選ばれる少なくとも1種である[6]に記載の正極。
[8] 前記導電助剤が、カーボンナノチューブである[6]または[7]に記載の正極。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の正極を有する非水電解質二次電池。
[10] 下記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または下記式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体、導電性高分子、および溶剤を含む混合液を、集電体にスプレー塗布する非水電解質二次電池の正極の製造方法。
【化2】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホノ基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。これらXにはさらに他の置換基が結合していてもよい。さらに別分子のXが結合することでトリオキソトリアンギュレン化合物が多量化してもよい。別分子のXが結合する場合の結合前の基Xは、トリス(トリアルキルシロキシ)シリル基であってもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表されるラジカルおよび(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はカチオン種を示す。)
[11] 前記混合液がさらに導電助剤を含む[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正極に少なくともTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を用いることで、導電性が向上するため、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。さらに、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体と導電性高分子を溶媒とともに混合液としてスプレー法により集電体に塗布すると集電体との密着性が向上するため、よりサイクル特性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン中性ラジカル誘導体および/または式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレンモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含むことを特徴とする非水電解質二次電池の正極に関する。
【0010】
<正極>
TOT中性ラジカル誘導体/TOTモノアニオン塩誘導体
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる正極は、少なくとも下記式(1)で示されるTOT中性ラジカル誘導体および/または下記式(2)で示されるTOTモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含む正極活物質層と、該正極活物質層が表面に形成された集電体とから構成される。
【化3】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホノ基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。これらXにはさらに他の置換基が結合していてもよい。さらに別分子のXが結合することでトリオキソトリアンギュレン化合物が多量化してもよい。別分子のXが結合する場合の結合前の基Xは、トリス(トリアルキルシロキシ)シリル基であってもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表されるラジカルおよび(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はカチオン種を示す。)
【0011】
前記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が含まれ、臭素原子が好ましい。
【0012】
前記アルキル基には、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数が1~20程度、好ましくは1~10程度の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数が3~20程度、好ましくは4~8程度のシクロアルキル基などが含まれる。
【0013】
前記(ヘテロ)アリール基は、アリール基およびヘテロアリール基の両方を含み、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基;ピリジル基、ピラジニル基、ピラゾリル基、ピリミニジル基、ピリダジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、キノリル基などの含窒素芳香族複素環基;チエニル基、チオピラニル基、チオクロメニル基、チオキサンテニル基などの含硫黄芳香族複素環基;フリル基、ピラニル基などの含酸素芳香族複素環基など、炭素数が3~20程度、好ましくは炭素数が3~10程度の(ヘテロ)アリール基が挙げられる。
【0014】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基などの炭素数6~10程度のアリール基が結合した炭素数1~5程度のアルキル基が挙げられる。
【0015】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数が1~20程度、好ましくは炭素数が1~10程度のアルキル基が結合したオキシ基が挙げられる。
前記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、アミノフェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数が6~20程度、好ましくは炭素数が6~10程度のアリール基が結合したオキシ基が挙げられる。
【0016】
前記アシル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基などの炭素数が2~20程度、好ましくは炭素数が2~10程度のアシル基が挙げられる。
前記アシルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などの炭素数が2~20程度、好ましくは炭素数が2~10程度のアシルオキシ基が挙げられる。
前記アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基などの炭素数が2~20程度、好ましくは炭素数が2~10程度のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0017】
前記アミノ基としては、例えば、無置換のアミノ基の他、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基などの炭素数が1~15程度、好ましくは炭素数が1~6程度のアルキル基が結合したアミノ基(モノアルキルアミノ基、またはジアルキルアミノ基など);アニリノ基、トルイジノ基、ベンジジノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数が4~15程度、好ましくは炭素数が6~10程度のアリール基が結合したアミノ基(モノアリールアミノ基、またはジアリールアミノ基など);炭素数が1~15程度、好ましくは炭素数が1~6程度のアルキル基と、炭素数が4~15程度、好ましくは炭素数が6~10程度のアリール基とが結合したアミノ基(モノアルキルモノアリールアミノ基など);ピロリジノ基、イミダゾリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基、ピラゾリジノ基、モルフォリノ基などの炭素数が3~15程度、好ましくは炭素数が4~10程度の含窒素飽和複素環構造を有するアミノ基などが挙げられる。アミノ基としては、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、含窒素飽和複素環構造を有するアミノ基が好ましい。
【0018】
前記アミド基としては、例えば、以下に示すような炭素数が1~20程度、好ましくは炭素数が1~13程度のアミド基が挙げられる。
【0019】
【0020】
前記イミド基としては、例えば、以下に示すような炭素数が3~20程度、好ましくは炭素数が3~14程度のイミド基が挙げられる。
【0021】
【0022】
前記スルフィド基としては、例えば、チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基などのチオアルキル基;チオフェニル基、チオトルイル基、チオキシリル基、チオナフチル基などのチオアリール基などの炭素数が1~20程度、好ましくは炭素数が1~12程度のスルフィド基が挙げられる。
【0023】
前記ホスホノ基としては、例えば、ジメチルホスホノ基、ジエチルホスホノ基、ジフェニルホスホノ基などの炭素数が2~20程度、好ましくは炭素数が2~12程度のホスホノ基が挙げられる。
【0024】
前記シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリル基;トリフェニルシリル基などのトリアリールシリル基;トリス(トリメチルシロキシ)シリル基などのトリス(トリアルキルシロキシ)シリル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、フェニルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基などのアルコキシシリル基などが挙げられる。該シリル基に含まれるアルキル基の炭素数は、例えば、1~20程度、好ましくは1~10程度であり、該シリル基に含まれるアリール基の炭素数は、例えば、6~20程度、好ましくは6~10程度である。
【0025】
異なる分子が基Xを介して形成する結合としては、例えば、一方の分子の基Xとしてのカルボキシ基と、他方の分子の基Xとしてのヒドロキシ基とが形成するエステル結合;一方の分子の基Xとしてのカルボキシ基と、他方の分子の基Xとしてのアミノ基とが形成するアミド結合;一方の分子の基Xとしてのカルボキシ基と、他方の分子の基Xとしてのカルボキシ基とが窒素原子を介して形成するイミド結合;一方の分子の基Xとしてのチオール基と、他方の分子の基Xとしてのチオール基とが形成するスルフィド結合;一方の分子の基Xとしてのヒドロキシ基と、他方の分子の基Xとしてのヒドロキシ基とが形成するエーテル結合;一方の分子の基Xとしてのトリス(トリアルキルシロキシ)シリル基と、他方の分子の基Xとしてのトリス(トリアルキルシロキシ)シリル基とが形成する加水分解縮合結合などが挙げられる。
【0026】
式(1)または式(2)のトリオキソトリアンギュレン(TOT)骨格に結合する3つのXは、互いに異なっていてもよく、特に該基Xが異なるTOT分子の結合基となる場合は該結合基がすべて同一にならなくてもよいが、基Xが結合基にならない場合は、基Xは少なくとも2つが同じであることが好ましく、3つとも同じであることがより好ましい。
【0027】
Xとしては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基もしくは炭素数6以下のアリール基が好ましく、水素原子がより好ましい。これら好ましいXによれば、TOT中性ラジカル誘導体またはTOTモノアニオン塩誘導体の分子量を小さくでき、電池単位体積あたりの、および/または単位重量あたりの充放電容量を大きくできる。なお、Xが全て水素原子である式(1)の化合物を、以下、H3TOTと表記する場合がある。
【0028】
M(+)で表されるカチオン種は、有機カチオン、無機カチオンのいずれであってもよいが、無機カチオンであることが好ましく、Li+、Na+などのアルカリ金属カチオンがより好ましく、Li+が最も好ましい。なおXが水素原子であり、M(+)がLi+である式(2)で表されるTOTモノアニオン塩誘導体を、以下、LiH3TOTと表記する場合がある。
【0029】
導電性高分子
導電性高分子は、特に限定されないが、ポリチオフェン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリパラフェニレン系高分子などのような共役する連結芳香族環を有する高分子(以下、含共役芳香環高分子という)、ポリアセチレン系高分子などが挙げられる。含共役芳香環高分子としては、ポリチオフェン系高分子、ポリアニリン系高分子が好ましい。また導電性高分子としては、ポリチオフェン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアセチレン系高分子がより好ましく、ポリチオフェン系高分子が最も好ましい。これら導電性高分子は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記含共役芳香環高分子は、複数の芳香族環が共役しながら連結しており、かつ全体として高分子であれば足り、共役する連結芳香族環部分は必ずしもポリマーを構成する必要はなく、オリゴマーであってもよい。共役する連結芳香族環部分がオリゴマーである場合、該オリゴマー部をドーピング(pドーピング、nドーピングなど)し、ドーパントとなるアニオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーとイオン結合させることで全体として高分子化させることができる。共役する連結芳香族環部分がポリマーであっても、該連結芳香族環ポリマー部をドーピング(pドーピング、nドーピングなど)し、ドーパントとなるアニオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーとイオン結合させてもよい。
共役する連結芳香族環部分を有するオリゴマーまたはポリマーとしては、例えば、3位および/または4位に置換基を有していてもよいチオフェン環の連結構造を有するオリゴマーまたはポリマーが挙げられ、好ましくは、無置換ポリチオフェン、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが挙げられる。ドーパントとなるアニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーなどとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などの繰り返し部分にスルホン酸基が導入された単独または共重合体が挙げられる。
共役する連結芳香族環部分を有するオリゴマーまたはポリマーと、該オリゴマーまたはポリマーをドーピングするアニオン性またはカチオン性ポリマーとを組み合わせた導電性高分子としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(ビニルスルホン酸)などが挙げられる。これらのうち、導電性が高い点で、PEDOT:PSSが好適に用いることができる。
【0031】
導電性高分子の含有量は、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体100重量部に対して、好ましくは1重量部以上150重量部以下であり、より好ましくは5重量部以上100重量部以下であり、さらに好ましくは10重量部以上50重量部以下である。導電性高分子はバインダとしての機能も有すると考えられるため、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体に対する導電性高分子の割合が少なすぎると、正極活物質層を形成することが困難となる。
【0032】
金属酸化物
正極活物質層は、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体と導電性高分子以外に、正極活物質としての金属酸化物を含んでいてもよい。金属酸化物としては、3d遷移金属の複酸化物が挙げられ、例えば層状結晶構造のコバルト酸リチウム(LiCoO2)などのコバルト系、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などのニッケル系、スピネル型結晶構造のマンガン酸リチウム(LiMn2O4)などのマンガン系、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)などのリン酸鉄系およびコバルト酸リチウムの一部をニッケルとマンガンで置換した三元系(Li(Ni-Mn-Co)O2)などが挙げられる。ただし、本発明では、正極活物質としてのTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体の利点を最大限にする観点から、前記金属酸化物を実質的に含まないことが好ましい。該金属酸化物の量は、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体100重量部に対して、例えば、50重量部以下、好ましくは10重量部以下、より好ましくは1重量部以下、最も好ましくは0重量部である。
【0033】
導電助剤
本発明の正極活物質層は導電性高分子以外の導電助剤を含んでもよい。導電助剤とは、電極の導電性を補助する働きを有する、導電性または半導電性の物質である。導電助剤としては、金属材料またはその他の炭素材料が好ましく、これら導電助剤は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
金属材料としては、銅またはニッケルなどが好ましい。また、炭素材料としては、カーボンブラック、天然グラファイト、合成グラファイト、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ(以下、CNTと表記する場合がある)、グラフェン、および酸化グラフェン還元体などが好ましく、カーボンブラックには、アセチレンブラック(以下、ABと表記する場合がある)、ケッチェンブラック、およびファーネスブラックなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
前記導電助剤としては、炭素材料が好ましく、なかでも天然グラファイト、合成グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンがより好ましく、カーボンナノチューブがさらにより好ましい。これら好ましい導電助剤、特にカーボンナノチューブは、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体との親和性が高い。
【0034】
導電助剤を含ませる場合の導電助剤の含有量は、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体100重量部に対して、好ましくは1重量部以上2000重量部以下、より好ましくは30重量部以上1500重量部以下、よりさらに好ましくは50重量部以上1000重量部以下である。このような範囲であれば、電極活物質層の導電性が十分に確保される。また、後述のバインダとの接着性が維持され、集電体との接着性を十分に得ることができる。
また正極活物質層に含まれるTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体と導電助剤の合計量は、正極活物質層の全固形分100重量部中、例えば、50重量部以上99重量部以下、好ましくは70重量部以上99重量部以下、より好ましくは80重量部以上95重量部以下である。
【0035】
バインダ
本発明の正極活物質層は、必要に応じてさらに、バインダを含んでもよい。バインダを含むことにより、正極活物質層内の材料同士を結着したり、正極活物質層と集電体との結着性を高めたりすることができる。バインダとしては特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、天然ゴム(IIR)、セルロース繊維、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、PVdF、PTFEなどの含フッ素樹脂が好ましい。バインダが含フッ素樹脂であれば、耐久性に優れる正極となる。
【0036】
バインダを含ませる場合のバインダの含有量は、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体100重量部に対して、例えば、1重量部以上30重量部以下、好ましくは2重量部以上15重量部以下である。前記範囲であれば、活物質と導電助剤と集電体との接着性が維持され、集電体との接着性を十分に得ることができる。
【0037】
正極活物質層の厚みは、例えば、1μm以上300μm以下であり、好ましくは2μm以上100μm以下であり、より好ましくは5μm以上50μm以下である。膜厚が大きいほど電池としての容量を大きくでき、膜厚が小さい程イオン伝導および電子伝導の効率が上がるため充放電速度が大きくなる。
【0038】
前記正極活物質層は、集電体の片面に形成してもよく、両面に形成してもよい。正極活物質層を集電体の両面に形成する場合、一方の面の正極活物質層と他方の面の正極活物質層とは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。正極活物質層を集電体の片面に形成する場合、集電体の残りの面は集電体が露出していてもよく、該残りの面に後述する負極活物質層が積層することで双極型(バイポーラ)電極にしてもよい。
【0039】
集電体
前記正極活物質層と積層される前記集電体としては、箔、フィルム、板、メッシュなどの種々の形態の材料を用いることができる。
集電体の材質は特に限定されないが、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、炭素繊維、グラファイトシートなどが好ましく、JIS規格1030、1050、1085、1N90、または1N99などに代表される高純度アルミニウムまたはそれらの合金がより好ましい。これらの集電体を用いれば、正極反応雰囲気下で安定である。
集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0040】
<正極の作製方法>
正極は、前記式(1)で示されるTOT中性ラジカル誘導体および/または前記式(2)で示されるTOTモノアニオン塩誘導体と、導電性高分子と、必要に応じて用いられる導電助剤、金属酸化物、バインダ等とを、溶媒中で混合した混合液を作製し、前記混合液を集電体に塗布することによって、およびその後、必要に応じて乾燥したり圧縮したりすることによって作製できる。
【0041】
混合液の作製方法は、特に限定されず、上記各構成成分を、乳鉢、ボールミル、ホモジナイザー、ミキサー、遊星式撹拌装置、超音波照射装置、シェイカー、フィルミックス(登録商標)などの公知の手段を用いて攪拌混合することによって混合液を作製できる。
【0042】
前記溶媒としては特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これら溶媒は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。導電性高分子として、連結芳香族環を有するアニオン化またはカチオン化されたポリマー或いはオリゴマーと、該ポリマー或いはオリゴマーとイオン結合するアニオン性またはカチオン性ポリマーとから構成されるものを用いる場合、特にPEDOT:PSSなどのポリチオフェン系高分子を用いる場合には、前記溶媒として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましく、エタノール、イソプロパノールがより好ましい。
【0043】
前記混合液を集電体に塗布する方法としては特に限定されないが、バーコート、ロールコート、ドクターブレードコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーン印刷などが挙げることができ、スプレーコートが好ましい。スプレーコートにより集電体に塗布すると、塗布物と集電体との密着性が向上するため、よりサイクル特性が向上する。
スプレーコートによる場合、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体と、導電性高分子と、溶媒とを含有する混合液を作製し、前記混合液を集電体にスプレー塗布した後、加熱乾燥で溶媒を除去することによって、正極を作製できる。集電体に混合液をスプレーする場合には、集電体を所定の温度に加温しておいてもよい。加温時の集電体の温度は、塗布する混合液に使用する溶媒に応じて適宜設定でき、該溶媒がアルコール、特にエタノールの場合、例えば、80~150℃である。
【0044】
TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体、導電性高分子、および溶媒以外の成分(すなわち任意成分)であって不溶性の成分(以下、不溶性任意成分という)、例えば、導電助剤を前記混合液が含む場合は、前記混合液を作製する際に該不溶性任意成分を添加すればよい。導電助剤等の不溶性任意成分を添加する場合、特にカーボンナノチューブ(CNT)を用いる場合、不溶性任意成分の濃度が混合液に対して0.1wt%以下になるようにするのが好ましい。不溶性任意成分の量が当該濃度よりも高いと、スプレーのノズルが閉塞する恐れが高まる。
【0045】
集電体に前記混合物を塗布した後は、必要に応じて該塗布物を圧縮してもよい。圧縮することによって正極密度を調整でき、また集電体と正極活物質層の密着性を高めることができる。圧縮方法は、ロールプレス、油圧プレスなどが好適に用いられる。なお前記塗布物の圧縮は、塗布物の乾燥前に行ってもよく、塗布物の乾燥後に行ってもよいが、塗布物の乾燥後に行うことが好ましい。
【0046】
前記正極を、負極、セパレータ、非水電解質などと組み合わせることで非水電解質二次電池を形成できる。
<負極>
前記負極は、予めアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を少なくとも含む負極活物質層と、該負極活物質層と積層される集電体とから構成される。
【0047】
炭素材料
前記負極活物質として用いる炭素材料としては、カーボンブラック、天然グラファイト、合成グラファイト、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、酸化グラフェン還元体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらのうち電池特性およびコストの点で天然グラファイト、合成グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく、天然グラファイト、合成グラファイトがより好ましい。
【0048】
前記炭素材料にドープさせるアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、入手性およびコストの点でリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、電池特性に優れる点でリチウム、ナトリウム、マグネシウムがより好ましく、リチウムが最も好ましい。
【0049】
バインダ
負極活物質層は、必要に応じてさらにバインダを含んでもよい。バインダを含むことにより、負極活物質層と集電体との密着性を高めることができる。負極活物質に使用するバインダの具体例、好ましい例、およびその理由はいずれも正極活物質に使用するバインダと同じである。
バインダを含ませる場合のバインダの含有量は、負極活物質としての炭素材料100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。前記範囲であれば、負極活物質と導電助剤と集電体との接着性が十分に担保される。
【0050】
負極活物質層の厚みは、例えば、1μm以上200μm以下であり、好ましくは5μm以上70μm以下である。膜厚が大きいほど電池としての容量を大きくでき、膜厚が小さいほどイオン伝導および電子伝導の効率を大きくできる。
【0051】
集電体
前記負極活物質層は、集電体の片面に形成してもよく、両面に形成してもよい。負極活物質層を集電体の両面に形成する場合、一方の面の負極活物質層と他方の面の負極活物質層とは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。負極活物質層を集電体の片面に形成する場合、集電体の残りの面は集電体が露出していてもよく、該残りの面に前記正極活物質層を積層することで双極型(バイポーラ)電極にしてもよい。
負極活物質層と積層される前記集電体としては、箔、フィルム、板、メッシュなどの種々の形態の材料を用いることができる。
負極の集電体の材質としては、ステンレス、銅、ニッケル、アルミニウム、またはそれらの合金などが挙げられ、耐食性や重量の観点から銅やその合金であることが好ましく、導電性が高く腐食の恐れが小さい点から、ステンレスあるいは銅が最も好ましい。
負極の集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0052】
<負極の作製方法>
負極の作製方法としては、従来周知の技術を用いればよく、好ましくは、前記負極活物質および溶媒で負極スラリーを作製し、その後負極スラリーを集電体上に担持し、そして溶媒を除去することによって負極活物質層を含む負極を作製する。
負極スラリーの作製は従来周知の技術を使用すればよい。また、負極スラリーの調製に用いる溶媒、負極スラリーの集電体上への担持方法、および担持後の溶媒除去方法についても従来周知の技術を使用すればよい。溶媒としては、正極の混合液の調製に使用される溶媒と同様のものが適宜使用でき、好ましくはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどの非プロトン性極性溶媒などのような、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と反応しない溶媒であり、より好ましくはNMPである。
負極スラリーを集電体上に担持した後は、必要に応じて該担持物を圧縮してもよい。圧縮することによって負極活物質層の密度を調整できる。圧縮方法は、ロールプレス、油圧プレスなどが好適に用いられる。なお担持物の圧縮は、担持物から溶媒を除去する前に行ってもよく、担持物から溶媒を除去した後に行ってもよいが、担持物から溶媒を除去した後に行うことが好ましい。
【0053】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を負極活物質にドープする方法およびタイミングは特に限定されず、公知技術を用いることができる。例えば、前記負極スラリー中にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を混合させる方法が挙げられる。また、負極活物質層と集電体との積層体(すなわち負極)を非水電解質中で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させる方法、あるいはこれら両者を組み合わせる方法などを使用することができる。これらのうち簡便である点から、負極活物質層と集電体との積層体を非水電解質中で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させる方法が好ましい。
ドープが実現されるメカニズムは、次のとおりと考える。負極活物質である炭素材料とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との接触または混合により、炭素材料の内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属のイオンが拡散していく。炭素材料とアルカリ金属またはアルカリ土類金属の電位を比較すると、炭素材料の電位が高く、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が低いため、電位差のある両者を接触させると短絡電流が発生し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から炭素材料へ電子が移動し、この電子移動を補償するためアルカリ金属またはアルカリ土類金属のイオンが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から炭素材料へ移動する。その結果、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンがドープされた負極活物質層が得られる。
【0054】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極との間に設置され、これらの間の電子やホールの伝導を阻止しつつ、これらの間のイオン伝導性を確保する機能を有する。
セパレータとしては、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、およびそれらを2種類以上複合したものが好適に用いられる。
セパレータの形状としては、正極と負極との間に設置され、絶縁性かつ非水電解質を含むことが出来る構造であればよく、織布、不織布または多孔質膜などが好適に用いられる。
セパレータは、可塑剤、酸化防止剤または難燃剤を含んでもよいし、金属酸化物等が被覆されてもよい。
セパレータの厚みは、10μm以上100μm以下であることが好ましく、12μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
セパレータの空隙率は、30%以上90%以下であることが好ましく、35%以上85%以下がより好ましく、40%以上80%以下がさらに好ましい。セパレータの空隙率が前記範囲内であれば、イオン伝導性および短絡防止性のバランスがよい。
【0055】
<非水電解質>
非水電解質は、負極と正極との間のイオン伝導を媒介する機能を有しており、非水条件を維持できる限り、液体電解質(電解液ともいう)、ゲル電解質、固体電解質のいずれであってもよく、支持電解質塩を含有する電解液またはゲル電解質であることが好ましい。非水電解液は、支持電解質塩を非水溶媒に溶解したものであり、ゲル電解質は、前記電解液を高分子に含浸させたものである。
前記非水溶媒は、非プロトン性溶媒および/または非プロトン性極性溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒がより好ましい。これら非水溶媒は、非水電解質二次電池の作動電位において分解が起こりにくい。
【0056】
非プロトン性極性溶媒としては、カーボネート、エステル、ラクトン、スルホン、ニトリルおよびエーテル類などが挙げられ、カーボネートが好ましい。カーボネートとしては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネートなどの環状または非環状のカーボネートが挙げられる。
これらの溶媒は、粘度およびイオン伝導性等のバランスを調整するために複数種を混合して用いても良く、環状非プロトン性極性溶媒と非環状非プロトン性極性溶媒とを組み合わせることが好ましい。
【0057】
環状非プロトン性極性溶媒および非環状非プロトン性極性溶媒の合計100体積%中の非環状非プロトン性極性溶媒の割合は、40体積%~80体積%が好ましく、60体積%~80体積%がより好ましい。非環状非プロトン性極性溶媒の割合が上記範囲内であれば、粘度および溶解性のバランスが良好となる。
【0058】
支持電解質塩としては、二次電池に使用される公知の塩が使用でき、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられ、好ましくはリチウム塩が挙げられる。リチウム塩としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、Li[N(SO2CF3)2]、Li[N(SO2C2F5)2]、Li[N(SO2F)2]、またはLi[N(CN)2]などが好適に用いられる。
【0059】
支持電解質塩の濃度は、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることが好ましい。
【0060】
非水電解質は、あらかじめ正極、負極およびセパレータに含ませてもよいし、正極と負極との間にセパレータを配置したものを積層した後に添加してもよい。
【0061】
非水電解質の量は、正極、負極およびセパレータの面積、電極活物質の量ならびに電池の容積に合わせて適宜調整される。
【0062】
非水電解質は、難燃剤などの添加剤を含んでもよい。例えば、難燃剤としてリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)やエトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼンが、添加剤としてビニレンカーボネート、1,3-プロパンスルトン、スクシノニトリルなどが挙げられる。
【0063】
<非水電解質二次電池>
本発明の実施形態にかかる非水電解質二次電池の例として、以下、リチウムイオン二次電池について記載する。リチウムイオン二次電池は、前記正極シートを、セパレータを介して負極シートに対向させ、電極間に非水電解質を満たして封入することによって作製することができる。
なお、本発明の実施形態にかかる非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池など、リチウム以外のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を用いた非水電解質二次電池であってもよい。
電池の封入体は、正極、負極およびセパレータを交互に積層または捲回してなる積層体、ならびに積層体を電気的に接続する端子を封入する部材である。
積層体の積層数は、所望の電圧値および電池容量を得る目的で、適宜調整してよい。
封入体としては、金属箔にヒートシール用の熱可塑性樹脂層を設けた複合フィルム、蒸着やスパッタリングによって形成された金属層、または角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形もしくはシート形の金属缶が好適に用いられ、複合フィルムがより好ましい。
複合フィルムの金属箔としては、アルミニウム箔が好適に用いられる。複合フィルムの金属箔がアルミニウム箔であれば、水分遮断性、重量およびコストのバランスが良好である。
複合フィルムの熱可塑性樹脂層としては、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好適に用いられる。複合フィルムの熱可塑性樹脂層がポリエチレンまたはポリプロピレンであれば、ヒートシール温度範囲および非水電解質の遮断性が良好である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特に断らない限り重量基準である。
以下において、TOT中性ラジカル誘導体あるいはTOTモノアニオン塩誘導体(H3TOTあるいはH3TOTアニオンLi塩)は、2-ヨードトルエンを出発原料として用い、非特許文献1に記載の方法によって合成した。
また、電極の膜厚はハイデンハイン株式会社製の長さゲージMT1281を用いて測定した。
【0065】
<実施例1>
(正極の作製)
エタノール59.7gに、単層CNT30mgを入れて、超音波照射しながら1時間攪拌し、CNT0.05%エタノール混合液を作製した。さらに、この混合液に、正極活物質としてH3TOTアニオンLi塩60mgを添加し、超音波照射しながら1時間攪拌した後、PEDOT:PSS(シグマ・アルドリッチ製、Orgacon DRY)10mgを入れて、さらに超音波照射しながら1時間攪拌し、混合液を作製した。
100℃に加熱したホットプレートの上に、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔を固定し、上記にて調製した混合液を、エアブラシ(トラスコ中山株式会社製、TAB-03)を用いて0.1MPaの圧縮空気で噴霧して、集電体上に塗布し、120℃の空気雰囲気下で1時間加熱、乾燥させ正極活物質層を作製した。さらにロールプレス機で800kg/cm2の圧力でプレスして、厚み23μm(アルミニウム箔を含む)の正極を得た。
なお、本実施例での、正極中TOTモノアニオン塩誘導体の含有量は60%であった。
【0066】
(負極の作製)
負極活物質として粉末状のグラファイト1.8g、PVdF(株式会社クレハ製、KFポリマー 5%NMP溶液)4.0g、溶媒としてNMP2.4mLを遊星式攪拌機で10分間撹拌させて、負極スラリーを作製した。この負極スラリーをクリアランス300μmのアプリケーターを用いて銅箔上に塗工し、120℃で1時間乾燥させ、ロールプレス機で800kg/cm2の圧力でプレスして、負極活物質層を作製した。
前記負極活物質層とリチウム箔とを電解液中で10時間以上接触させて、リチウムイオンをドープした負極を作製した。電解液としては、LiPF6を1.0Mの濃度でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比3:7)に溶解させたものを用いた。
【0067】
(非水電解質二次電池の製造)
前記で得られた正極を、予め80℃の減圧雰囲気下で12時間乾燥させた。負極側外装、ステンレス金属板、負極、ポリプロピレン製多孔質膜のセパレータ、正極、ステンレス金属板、バネ、正極側外装の順に重ね、内部に電解液を入れてかしめることにより、国際電気標準会議(IEC)60086が定めるCR2032と同じ形状の非水電解質二次電池を製造した。
電解液としては、LiPF6を1.0Mの濃度でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比3:7)に溶解させたものを用いた。
【0068】
(充放電試験)
前記非水電解質二次電池を充放電試験機(東洋システム株式会社製、TOSCAT-3100)に接続して、25℃、1.4~3.8Vの電圧範囲で、1.0Cレートで定電流充放電試験を200回繰り返し、容量維持率を算出した。
上記のCレートとは、リチウムイオン二次電池の全容量を1時間で充電または放電するために必要な電流値を1Cと定義し、例えば0.02Cとはその電流値の0.02倍を指す。
また、上記容量維持率とは、1~15回目間の最大放電容量に対する、100回目の放電容量の割合を容量維持率とした、下記式により定義した値である。下記式中、最大放電容量とは、1~15回目において放電容量が最大となるときのサイクル数における放電容量である。例えば、1~15回目における最大放電容量を100としたとき、100回目の放電容量が80であれば容量維持率は80%となる。
【0069】
【0070】
<実施例2~4>
TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体の種類、およびTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体とCNTとPEDOT:PSSの混合比を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の方法に正極を作製し、前記負極と組み合わせて非水電解質二次電池を製造して試験を行った。
【0071】
<比較例1>
PEDOT:PSSの代わりにPVdFを用いた以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を製造して試験を行った。
【0072】
<比較例2>
正極を次のようにして作製した以外は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を製造した。アセチレンブラック(AB)30部、PVdF10部、H3TOT60部と、NMPを混合して遊星式攪拌機で10分間撹拌させ、混合液を作製した。クリアランス300μmのアプリケーターを用いてアルミ箔上に塗工し120℃で1時間乾燥した。これをロールプレス機で800kg/cm2の圧力でプレスして、正極を作製した。
【0073】
<比較例3>
正極を、CNTバッキーペーパー正極に変更した以外は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池を製造した。
エタノールにCNTを入れ、超音波照射しながら攪拌させることにより、CNT0.2%エタノール分散液を作製した。この分散液にH3TOT60部入れ、超音波照射しながら攪拌させることにより、CNTバッキーペーパー作製用分散液を作製した。この分散液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通して減圧ろ過し、堆積物50℃で5時間乾燥させることによって、CNTバッキーペーパー正極を作製した。
【0074】
<比較例4~5>
比較例4では、CNT75部、PVdF25部と、溶媒であるNMPを混合して遊星式攪拌機で10分間撹拌させ、混合液を作製した。
比較例5では、CNT75部、PEDOT:PSS25部と、溶媒である水を混合して遊星式攪拌機で10分間撹拌させ、混合液を作製した。
これらの混合液を比較例2と同様にクリアランス300μmのアプリケーターを用いてアルミ箔上に塗工した。しかしながら、CNTの凝集が非常に強く、均一な正極の形成は困難であり、電池作製までに至らなかった。
【0075】
<比較例6~7>
比較例6では、CNT75部とPVdF25部とNMPとを超音波照射しながら攪拌させることにより、CNT0.2%のCNT/PVdF/NMPからなる混合液を作製した。
比較例7では、CNT75部、PEDOT:PSS25部と、溶媒である水を、超音波照射しながら攪拌させることにより、CNT0.2%のCNT/PEDOT:PSS/水からなる混合液を作製した。
これらの混合液を、実施例1と同様にエアブラシを用いて噴霧した。しかしながら、CNTの凝集が非常に強く、均一な正極の形成は困難であり、電池作製までに至らなかった。
【0076】
<総評>
実施例1~4および比較例1~7にて得られた非水電解質二次電池の評価結果を、表1に示す。
【0077】
【0078】
正極にTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体、および導電性高分子を含む実施例1~4では、いずれも80%を超える容量維持率が認められ、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られたといえる。
導電性高分子の代わりにバインダを用いた比較例1では、容量維持率は70%程度まで減少した。この結果から、正極にTOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体だけではなく導電性高分子を含むことが、サイクル特性向上に寄与しているといえる。
比較例2では、導電助剤としてAB、導電性高分子の代わりにバインダを用い、アプリケーターで塗工して作製した正極であり、広く一般に知られた二次電池正極の作製方法に準拠したものである。実施例1~4の本願発明の構成を満足するものと比較すると、容量維持率は60%未満と非常に低い結果であった。
導電性高分子を含まず、導電助剤の重量割合が高い比較例3では、TOT中性ラジカル誘導体および/またはTOTモノアニオン塩誘導体に対する導電助剤の重量割合が増加したことにより、正極の導電性が向上するものと考えられるが、実施例2と比較して、容量維持率が70%程度まで減少しており、サイクル特性が悪化しているといえる。したがって、導電性高分子は、単に導電性を向上させるだけでなく、導電助剤と組み合わせることによって相乗的にサイクル特性向上の効果をもたらすものであるといえる。