(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ヤマブシタケ由来新規化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 49/82 20060101AFI20220617BHJP
A01N 35/04 20060101ALI20220617BHJP
A01N 37/38 20060101ALI20220617BHJP
A01N 37/42 20060101ALI20220617BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220617BHJP
C07C 69/84 20060101ALI20220617BHJP
C07C 69/92 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C07C49/82 CSP
A01N35/04
A01N37/38
A01N37/42
A01P21/00
C07C69/84
C07C69/92
(21)【出願番号】P 2018156448
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000141381
【氏名又は名称】株式会社岩出菌学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河岸 洋和
(72)【発明者】
【氏名】原田 栄津子
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-154639(JP,A)
【文献】特開昭58-167533(JP,A)
【文献】特開2014-181211(JP,A)
【文献】ZHANG, C. C. et al.,Chemical Constituents from Hericium erinaceus Promote Neuronal Survival and Potentiate Neurite Outgrowth via the TrkA/Erk1/2 Pathway,Int. J. Mol. Sci.,2017年,Vol. 18,1659
【文献】LIU, J. H. et al.,Anti-Helicobacter pylori activityofbioactivecomponentsisolatedfrom Hericium erinaceus,Journal of Ethnopharmacology,2016年,Vol. 183,pp. 54-58
【文献】Wu, Jing et al.,Erinaceolactones A to C, from the culture broth of Hericium erinaceus,Journal of Natural Products,2015年,Vol. 78,pp. 155-158
【文献】Ueda, Keiko et al.,Endoplasmic reticulum (ER) stress-suppressive compounds from scrap cultivation beds of the mushroom Hericium erinaceum,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2009年,Vol. 73,pp. 1908-1910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 49/82 - 69/92
A01N 35/04 - 37/42
A01P 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造で示される1-(2-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)フェニル)-3-メチルブタン-1-オン又はその塩。
【化1】
【請求項2】
下記の構造で示される(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-ヒドロキシ-3-(3-メチルブタノイル)ベンゾエート又はその塩。
【化2】
【請求項3】
下記の構造で示される(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート又はその塩。
【化3】
【請求項4】
下記の構造で示される2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート又はその塩。
【化4】
【請求項5】
下記の化合物又はその塩のいずれか1種以上を有効成分として含有する、植物成長調節剤。
(ii) 1-(2-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)フェニル)-3-メチルブタン-1-オン
【化5】
(iv) (2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-ヒドロキシ-3-(3-メチルブタノイル)ベンゾエート
【化6】
(v) (2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート
【化7】
(vi) 2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物に関し、より具体的には、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)抽出物に含まれ、植物成長調節活性を有する化合物に関する。本発明はまた、上記化合物を有効成分として含有する、植物成長調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)は、ヒダナシタケ目サンゴハリタケ科サンゴハリタケ属に属する可食用キノコである。本発明者等のグループはこれまでに、その子実体及び菌糸体中に認知症予防及び治療における有用性が期待される物質が含まれること(非特許文献1~6)、菌糸体培養ろ液中にHeLa細胞に対して細胞毒性を有する物質が含まれること(非特許文献7及び8)等を報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Tetrahedron Lett., 32, 4561-4564 (1991)
【文献】Phytochemistry, 32, 175-178 (1993)
【文献】Tetrahedron Lett., 35, 1569-1572 (1994)
【文献】Heterocycl. Commun., 2, 51-54 (1996)
【文献】Tetrahedron Lett., 37, 7399-7402 (1996)
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2402-2405 (2000)
【文献】Chem. Lett., 21, 2475-2476 (1992)
【文献】Phytochemistry, 34, 1445-1446 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キノコを形成する高等菌類は、胞子から菌糸、菌糸から子実体、そして子実体から胞子という生活環を持っており、各段階で、更に様々な物質が産生されていることが考えられるが、その全体像についてはまだ明らかとはなっていない。
また、キノコの発生時に菌糸体表面に液体が分泌されることが一般的であることが知られているが、この液体についてはこれまであまり着目されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等はまず、キノコの発生時に分泌される上記の液体が子実体形成に深く関与しているのではないかと推測し、この液体をフルーティングリキッド(Fruiting Liquid、FL)と命名してその生物活性を検討した。その結果、ヤマブシタケFLはエノキタケに対して子実体形成誘導活性あるいは子実体形成促進活性を示すことを見出している。
こうした知見に基づいて、本発明者等は更に、ヤマブシタケの生活環の各段階及びFLから、主にキノコの成長に関わる生物活性を有する新規化合物の単離を検討し、数種の有用な化合物を見出し、その有用な生物活性、具体的には植物の成長を調節する活性を見出すに到った。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
【0006】
1. 下記の構造で示される1-(2-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)フェニル)-3-メチルブタン-1-オン又はその塩。
【化1】
2. 下記の構造で示される(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-ヒドロキシ-3-(3-メチルブタノイル)ベンゾエート又はその塩。
【化2】
3. 下記の構造で示される(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート又はその塩。
【化3】
4. 下記の構造で示される2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート又はその塩。
【化4】
5. 下記の化合物又はその塩のいずれか1種以上を有効成分として含有する、植物成長調節剤。
(i) (2,2-ジメチル-2H-クロメン-6-イル)メタノール
【化5】
(ii) 1-(2-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)フェニル)-3-メチルブタン-1-オン
【化6】
(iii) (4-クロロ-3,5-ジメトキシフェニル)メタノール
【化7】
(iv) (2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-ヒドロキシ-3-(3-メチルブタノイル)ベンゾエート
【化8】
(v) (2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート
【化9】
(vi) 2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエート
【化10】
【発明の効果】
【0007】
本発明により、天然物由来であり、かつ植物成長調節効果を有する新規化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヤマブシタケ培養ろ液から化合物1~3を単離する分画スキームの1例を示す。
【
図2】ヤマブシタケのフルーティングリキッドから化合物FLY-1、FLY-4、FLY-5、FLY-7、及びFLY-9を単離する分画スキームの1例を示す。
【
図3-1】化合物FLY-1のプロトンNMRスペクトルを示す。
【
図3-2】化合物FLY-4のプロトンNMRスペクトルを示す。
【
図3-3】化合物FLY-5のプロトンNMRスペクトルを示す。
【
図3-4】化合物FLY-7のプロトンNMRスペクトルを示す。
【
図3-5】化合物FLY-9のプロトンNMRスペクトルを示す。
【
図4】本発明の化合物の植物成長調節活性の測定方法を模式的に示す。
【
図5】化合物1及び2(1、10、100、1000 nmol/ろ紙)の植物成長阻害活性を2,4-Dと比較して示す。「対照」は化合物を添加していないサンプルを示す。
【
図6】化合物3(1、10、100、1000 nmol/ろ紙)の植物成長阻害活性を2,4-Dと比較して示す。「対照」は化合物を添加していないサンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ヤマブシタケ由来の新規化合物、及びヤマブシタケ由来の化合物を有効成分として含有する、植物成長調節剤を提供する。本発明の化合物は、ヤマブシタケ抽出物、特に限定するものではないが、ヤマブシタケ菌糸体培養液由来抽出物又はヤマブシタケフルーティングリキッド(Fruiting Liquid、FL)抽出物から取得することができる。
【0010】
本発明において、「植物成長調節剤」とは、植物成長調節効果を有する物質を意図し、植物の成長を促進する「植物成長促進剤」及び植物の成長を阻害する「植物成長阻害剤」の双方を包含する。本発明の植物成長調節剤は、ヤマブシタケ抽出物由来の本発明の化合物のいずれか1種、又は2種以上を含むものとすることができる。
【0011】
本発明で使用するヤマブシタケ(Hericium erinaceum)は、例えば山梨県鳴沢村で採取することができるが、人工的に栽培することもできる。
【0012】
ヤマブシタケ菌糸体培養液由来抽出物は、特に限定するものではないが、例えば、ヤマブシタケ菌糸体(久保産業株式会社保有菌株)をPGY培地にてジャーファーメンターで2週間通気撹拌培養することによって得られた培養液を、ろ過することにより菌糸体を取り除き、得られた培養ろ液を減圧濃縮後、n-ヘキサン、酢酸エチルで液-液分配し、その残存液を乾固したものをエタノールで固-液分配することによって得られた各種可溶画分を減圧濃縮して得ることができる。
【0013】
上記の工程で得られたn-ヘキサン可溶画分から、下記の本発明の化合物を単離することができる。特に限定するものではないが、ヤマブシタケ菌糸体培養液に含まれる本発明の化合物は、例えばヘキサン可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相HPLC等の当分野で通常用いられる手段を用いて分画することで、単離することができる。
ヤマブシタケ菌糸体培養液由来抽出物には、以下の化合物(1)、(2)及び(3)が含有される。
【0014】
式(1)の化合物(本明細書において化合物(1)と記載する)は、(2,2-ジメチル-2H-クロメン-6-イル)メタノールの化学名を有し、実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液ヘキサン可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液28Lから39.7mgの収量で単離することができた。
【0015】
【0016】
式(2)の化合物(本明細書において化合物(2)と記載する)は、1-(2-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)フェニル)-3-メチルブタン-1-オンの化学名を有し、実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液ヘキサン可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液28Lから19.1mgの収量で単離することができた。なお、化合物(2)は文献未記載の新規化合物であった。
【0017】
【0018】
式(3)の化合物(本明細書において化合物(3)と記載する)は、(4-クロロ-3,5-ジメトキシフェニル)メタノールの化学名を有し、実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液ヘキサン可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケ菌糸体培養ろ液28Lから2.3mgの収量で単離することができた。
【0019】
【0020】
上記の化合物(1)~(3)は、いずれも植物成長調節活性を有することが明らかとなった。従って、本発明はまた、化合物(1)~(3)のいずれか1種以上を含有する植物成長調節剤を提供する。これらの化合物は、ヤマブシタケ菌糸体培養液から単離されたものであっても、化学的に合成されたものであっても良い。また、化合物(1)~(3)は、遊離化合物として、あるいは薬学的に許容される塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等として使用しても良い。
【0021】
また、ヤマブシタケは、その発茸時にその菌糸体表面に液体を分泌する。この液体は本発明者である河岸等によってフルーティングリキッド(fruiting liquid、FL)と命名された。ヤマブシタケのフルーティングリキッドは、例えば約800 mL容ポット内の菌床(菌糸体及び培地成分の混合物)6000本から約1Lの量で取得することができる。
ヤマブシタケフルーティングリキッド抽出物は、特に限定するものではないが、例えば、久保産業株式会社においてヤマブシタケを菌床栽培した際に発生したフルーティングリキッドを採取し、減圧濃縮後に、n-ヘキサン、酢酸エチルで液-液分配し、その残存液を乾固したものをエタノールで固-液分配することによって得られた各種可溶画分を減圧濃縮して得ることができる。
【0022】
上記の工程で得られた酢酸エチル可溶画分から、下記の本発明の化合物を単離することができる。特に限定するものではないが、ヤマブシタケフルーティングリキッド抽出物中の有効成分である化合物は、例えば酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相HPLC等の当分野で通常用いられる手段を用いて分画することで、単離することができる。ヤマブシタケフルーティングリキッド抽出物には、以下の化合物(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)、(FLY-9)が含有される。
【0023】
化合物(FLY-1)は、現時点では化合物の構造式は未同定である。実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケフルーティングリキッドの酢酸エチル可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケフルーティングリキッド5.9Lから38.8mgの収量で単離することができた。
【0024】
式(FLY-4)の化合物(本明細書において化合物(FLY-4)と記載する)は、(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-ヒドロキシ-3-(3-メチルブタノイル)ベンゾエートの化学名を有し、実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケフルーティングリキッドの酢酸エチル可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケフルーティングリキッド5.9Lから7.4mgの収量で単離することができた。
【0025】
【0026】
式(FLY-5)の化合物(本明細書において化合物(FLY-5)と記載する)は、(2S,3S,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエートの化学名を有し、実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケフルーティングリキッドの酢酸エチル可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケフルーティングリキッド5.9Lから10.5mgの収量で単離することができた。
【0027】
【0028】
式(FLY-7)の化合物(本明細書において化合物(FLY-7)と記載する)は、2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル 4-クロロ-3,5-ジメトキシベンゾエートの化学名を有し、化合物(FLY-5)の立体異性体である。実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケフルーティングリキッドの酢酸エチル可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケフルーティングリキッド5.9Lから39.2mgの収量で単離することができた。
【0029】
【0030】
化合物(FLY-9)は、現時点では化合物の構造式は未同定である。実施例に記載する工程を用い、ヤマブシタケフルーティングリキッドの酢酸エチル可溶画分を各種クロマトグラフィーに供することによって、ヤマブシタケフルーティングリキッド5.9Lから24.2mgの収量で単離することができた。
【0031】
化合物(FLY-4)、(FLY-5)、及び(FLY-7)は文献未記載の新規化合物であった。また、化合物(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)、(FLY-9)は、それぞれ植物成長調節活性を有することが明らかとなった。従って、本発明はまた、化合物(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)、(FLY-9)のいずれか1種以上を含有する植物成長調節剤を提供する。これらの化合物は、ヤマブシタケ抽出物から単離されたものであっても、化学的に合成されたものであっても良い。また、化合物(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)、及び(FLY-9)は、遊離化合物として、あるいは薬学的に許容される塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等として使用しても良い。
【0032】
植物成長調節剤
本発明の化合物は、植物成長調節活性を有することから、植物成長調節剤として使用することができる。例えば植物成長阻害効果を有する化合物を、除草剤等の植物成長阻害剤の有効成分として使用することができる。あるいは、植物成長促進効果を有する化合物を、単独で用いるか、肥料等に添加し得る植物成長促進剤の有効成分として使用することができる。
本発明の化合物によって成長を調節され得る植物としては、特に限定するものではないが、例えばイネ科植物、キク科植物、アブラナ科植物、マメ科植物、ヒルガオ科植物、ナス科植物、ナデシコ科植物、ツユクサ科植物、アオイ科植物、ヒユ科植物等を挙げることができる。
【0033】
例えば、植物成長阻害活性を有する本発明の化合物は、エノコログサ、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、ススキ等のイネ科雑草;タンポポ、オナモミ、ブタクサ等のキク科雑草;ナズナ等のアブラナ科雑草;マメ科雑草;ヒルガオ科雑草;ナス科雑草;ナデシコ科雑草;ツユクサ科雑草;アオイ科雑草;ヒユ科雑草等の望ましくない成長を阻害することができ、特にキク科雑草の成長を阻害することができる。
一方、植物成長促進活性を有する本発明の化合物は、例えばイネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビ、エンバク、芝、キク、ヒマワリ、アブラナ、ダイズ、タバコ、ワタ、テンサイ等の成長を促進することができる。
【0034】
本発明の化合物の植物成長調節活性は、当分野で知られている活性測定方法を用いて測定することができる。本発明者等は、実施例に記載するレタス実生からの胚軸及び根の伸長に対する化合物の促進又は阻害活性を検討した。その結果、本発明の化合物が胚軸及び根の伸長に対して成長調節活性を有することが実証された。
【0035】
本発明の植物成長調節剤は、例えば成長が望ましくない植物、具体的には雑草が成長し得る庭、水田、畑、運動場、ゴルフ場、空き地等に直接散布して使用することができる。また、成長を促進することが意図される植物が生育する庭、水田、畑等に直接散布することができる。あるいはまた、土壌及び/又は肥料を予め本発明の植物成長調節剤で処理しておくこともできる。本発明の植物成長調節剤の使用量は、限定するものではないが、それぞれ例えば1アールあたり0.1~100g、好ましくは0.5~50gの範囲であり得る。
本発明の植物成長調節剤は、化合物(1)、(2)、(3)、(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)、(FLY-9)の1種以上を単独若しくは組み合わせて、農薬としての活性を有する他の薬剤と共に、又は農薬として許容される賦形剤と共に、農薬組成物として提供することができる。この場合、植物成長阻害活性を有する化合物と、植物成長促進活性を有する化合物とは、その目的に応じてそれぞれ別個に使用することが好適である。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1 ヤマブシタケ菌糸体培養液からの化合物の単離]
ヤマブシタケ菌糸体(乾燥重量255g)の培養液28Lを濾別し、得られた培養ろ液を減圧濃縮後、n-ヘキサン、酢酸エチルで順次各3回の液-液分配によって抽出した。また、抽出後の培養ろ液を減圧濃縮することにより乾固して、エタノールで固-液分配した。得られた可溶部を順次減圧濃縮し、「ヘキサン可溶画分」、「酢酸エチル可溶画分」、及び「エタノール可溶画分」のそれぞれをヤマブシタケ培養ろ液由来抽出物として取得した(
図1)。
【0038】
上記で得られたヘキサン可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(silica gel 60N(関東化学株式会社), 溶媒:ジクロロメタン; 90%, 80%, 70%, 60%, 50%, 40%, 30%ジクロロメタン/酢酸エチル; 酢酸エチル; アセトン; メタノール)により溶出させて分画して26画分を取得した。分画した酢酸エチル可溶画分のうち、画分8を逆相HPLC(Phenylhexyl(ジーエルサイエンス株式会社), 内径20 mm×250 mm, 70% メタノール)に供して、化合物(1)(39.7 mg)を得た。
【0039】
【0040】
また、画分8を逆相HPLC(Phenylhexyl(ジーエルサイエンス株式会社), 内径20 mm×250 mm, 70% メタノール)に供して、化合物(2)(19.1 mg)を得た。化合物(2)は、これまで報告されていない新規化合物であることが判明した。
【0041】
【0042】
そして、画分5を逆相HPLC(Phenylhexyl(ジーエルサイエンス株式会社), 内径20 mm×250 mm, 70% メタノール)に供して、化合物(3)(2.3 mg)を得た。
【化19】
【0043】
[実施例2 ヤマブシタケフルーティングリキッド(FL)からの化合物の単離]
ヤマブシタケ菌床5.9Lのヤマブシタケフルーティングリキッドを減圧濃縮後、n-ヘキサン、酢酸エチルで順次各3回の液-液分配によって抽出した。また、抽出後の培養ろ液を減圧濃縮することにより乾固して、エタノールで固-液分配した。得られた可溶部を順次減圧濃縮し、「ヘキサン可溶画分」、「酢酸エチル可溶画分」、及び「エタノール可溶画分」のそれぞれを取得した(
図2)。
【0044】
上記で得られた酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(silica gel 60N(関東化学株式会社), 溶媒:ジクロロメタン; 90%, 85%, 80%, 75%, 70%, 60%, 50%, 40%, 30%ジクロロメタン/メタノール; メタノール)により溶出させて分画して15画分を取得した。分画した酢酸エチル可溶画分のうち、画分2を逆相HPLC(Phenyl(ジーエルサイエンス株式会社), 内径20 mm×250 mm, 50% メタノール)に供して、画分2-3を得た。画分2-3を逆相HPLC(Phenylhexyl(ジーエルサイエンス株式会社), 内径20 mm×250 mm, 10% メタノール)に供して化合物(FLY-1)(38.8 mg)および化合物(FLY-9)(24.2 mg)を得た(
図2)。これらはともに構造未決定であるが、単一の化合物であることが確認されている。
また、画分4を逆相HPLC(Phenylhexyl, 内径20 mm×250 mm, 60% メタノール)に供して化合物(FLY-4)(7.4 mg)を白色結晶として得た。化合物(FLY-4)は、HR-ESI-MSにより分子量が356であると決定され、NMR及びX線結晶構造解析により、以下の構造を有することが判明した。
【0045】
【0046】
最後に、画分3を逆相HPLC(Phenyl, 内径20 mm×250 mm, 40% メタノール)に供して、化合物(FLY-5)(10.5 mg)および化合物(FLY-7)(39.2mg)をいずれも白色非晶質として得た。
【0047】
【0048】
【0049】
化合物(FLY-4)、(FLY-5)及び(FLY-7)は、これまで報告されていない新規化合物であった。精製した化合物(FLY-1)、(FLY-4)、(FLY-5)、(FLY-7)及び(FLY-9)のプロトンNMRスペクトルを
図3-1~
図3-5にそれぞれ示す。
【0050】
[実施例3 効果]
実施例1で単離した化合物(1)~(3)、及び対照化合物として既知の除草剤成分である2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)を用いて、
図4に図示する以下の手順でキク科植物であるレタスに対する植物成長調節活性試験に供した。
ステップ1:前培養
それぞれの化合物を含むサンプル溶液を、ろ紙あたりの化合物量が1、10、100、又は1,000nmolとなるようにシャーレに入れたろ紙に浸透させた後、風乾させた。一方、別のシャーレに入れたろ紙に蒸留水を浸透させ、レタスの
種子を置き、25℃、暗所条件で1日間培養した。
ステップ2:本培養
サンプル溶液を風乾させたろ紙に蒸留水1mLを加え、前培養したレタスの実生を移し、25℃、暗所条件で3日間培養した。
ステップ3:観察・測定
レタスの形態変化を観察し、胚軸及び根の伸長を測定した。
【0051】
その結果、
図5及び6に示すように、化合物(1)~(3)はいずれも、レタスの胚軸及び根の伸長に対して有意な成長阻害活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ヤマブシタケ抽出物から取得された本発明の化合物は、植物成長調節活性を有し、植物成長調節剤として好適に使用することができる。