(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】トルク計測装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20220617BHJP
G01L 1/26 20060101ALI20220617BHJP
G01L 3/14 20060101ALI20220617BHJP
G01L 1/22 20060101ALI20220617BHJP
G01L 5/1627 20200101ALI20220617BHJP
【FI】
G01L3/10 311
G01L1/26 D
G01L3/14 L
G01L1/22 F
G01L5/1627
(21)【出願番号】P 2019089285
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】503061485
【氏名又は名称】株式会社テック技販
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 和美
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 圭
(72)【発明者】
【氏名】土屋 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】大畝 善司
(72)【発明者】
【氏名】福田 潤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 富明
(72)【発明者】
【氏名】三井 浩幸
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-154263(JP,A)
【文献】特許第4368353(JP,B2)
【文献】特開2007-40774(JP,A)
【文献】特許第3669421(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2018/0024015(US,A1)
【文献】国際公開第2018/024518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に設けられた複数の開口部の間に形成された起歪部と、
当該起歪部の回転方向の前後の側面に設けられた第一ひずみゲージと、
前記回転体の表裏面側に設けられた第二ひずみゲージと、を備え、
当該第二ひずみゲージによって検出されたスラスト方向の荷重によって、前記第一ひずみゲージによって検出されたトルクを補正する演算部と、
を備えたことを特徴とするトルク計測装置。
【請求項2】
前記第二ひずみゲージが、起歪部の表裏面側に設けられたものである請求項1に記載のトルク計測装置。
【請求項3】
前記第二ひずみゲージが、起歪部の前後の側面に取り付けられた第一ひずみゲージに挟まれた位置に設けられたものである請求項1に記載のトルク計測装置。
【請求項4】
前記演算部が、前記第一ひずみゲージによって検出されたトルク値と、第二ひずみゲージによって検出されたスラスト方向の荷重によって、スラスト方向の荷重も演算するようにしたものである請求項1に記載のトルク計測装置。
【請求項5】
前記回転体が、自動車のエンジンとトランスミッションの間に設けられるドライブプレートである請求項1に記載のトルク計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブプレートなどの回転体に取り付けられたゲージからトルクを計測できるようにしたトルク計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンから出力された力は、クランクシャフトからドライブプレートや、トルクコンバーター、トランスミッションを介してドライブシャフトに伝達される。
【0003】
ところで、このようなエンジンから出力された力を計測する場合、ドライブシャフトにトルク計測装置を設けて計測する場合が多い。しかしながら、このようにドライブシャフトにトルク計測装置を取り付けて計測すると、ドライブプレートやトルクコンバーター、トランスミッションで機械的なロスを生じてしまうために、エンジンの出力を正確に計測することができないといった問題がある。
【0004】
そこで、可能な限りエンジンに近い位置でトルクを計測できるように、ドライブプレートにトルク計測装置を取り付けてトルクを計測できるようにした方法も提案されている。
【0005】
例えば、下記の特許文献には、ドライブプレートの回転方向に設けられた複数の開口部の間を起歪部とし、その起歪部の回転方向に沿った側面にひずみゲージを取り付けてトルクを計測できるようにした方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001―304985号公報
【文献】特開2005―084000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような起歪部の両側面にひずみゲージを取り付けてトルクを計測する場合、ドライブプレートがエンジンに近い位置に設けられているため、エンジンからの大きな振動が加わるばかりでなく、トルクコンバーターの内部圧力の上昇による膨張によって、ドライブプレートにスラスト方向のひずみを生じてしまう。特に、ドライブプレートはエンジンからの熱によって高温状態となるため、ひずみゲージの温度ドリフト量が大きくなる。このため、どうしてもスラスト方向に作用する荷重によって、トルクの計測に誤差を生じてしまうといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題に着目してなされたもので、ドライブプレートなどの回転体にスラスト方向の荷重が作用した場合であっても、正確にトルクを計測できるようにしたトルク計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、回転体に設けられた複数の開口部の間に形成された起歪部と、当該起歪部の回転方向の前後の側面に設けられた第一ひずみゲージと、前記回転体の表裏面側に設けられた第二ひずみゲージとを備え、当該第二ひずみゲージによって検出されたスラスト方向の荷重を用いて、前記第一ひずみゲージによって検出されたトルクを補正する演算部を設けるようにしたものである。
【0010】
このように構成すれば、スラスト方向に作用する荷重によって回転体にひずみを生じた場合であっても、そのスラスト荷重による補正を行って、より正確なトルクを計測することができるようになる。
【0011】
また、このような発明において、第二ひずみゲージを、起歪部の表裏面側に設けるようにする。
【0012】
このように構成すれば、よりスラスト方向に作用するひずみを検出しやすくなり、スラスト荷重によって生ずる誤差を補正しやすくなる。
【0013】
さらに、前記第二ひずみゲージを、起歪部の前後の側面に取り付けられた第一ひずみゲージに挟まれた位置に設けるようにする。
【0014】
このように構成すれば、第一ひずみゲージが設けられている場所と略同一の場所で、スラスト方向の荷重を検出して補正をすることができるようになる。
【0015】
また、前記演算部によって、前記第一ひずみゲージによって検出されたトルク値と、第二ひずみゲージによって検出されたスラスト方向の荷重によって、スラスト方向の荷重も演算する。
【0016】
このように構成すれば、回転体に対してどのようなスラスト方向の荷重が掛かっているのかを知ることもできるようになる。
【0017】
また、このような回転体として、自動車のエンジンとトランスミッションの間に設けられるドライブプレートを用いる。
【0018】
このように、ドライブプレートに適用することで、エンジンからの振動や熱などによる荷重が作用した場合であっても、よりエンジンに近い側でのトルクを正確に計測することができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転体に設けられた複数の開口部の間に形成された起歪部と、当該起歪部の回転方向の前後の側面に設けられた第一ひずみゲージと、前記回転体の表裏面側に設けられた第二ひずみゲージとを備え、当該第二ひずみゲージによって検出されたスラスト方向の荷重を用いて、前記第一ひずみゲージによって検出されたトルクを補正する演算部を設けるようにしたので、スラスト方向に作用する荷重によって回転体にひずみを生じた場合であっても、そのスラスト荷重による補正を行って、より正確なトルクを計測することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるドライブプレートを示す図
【
図3】同形態における送信コイルと受信コイルの配置を示す図
【
図4】同形態におけるトルクとスラスト荷重の作用を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
この実施の形態におけるトルク計測装置1は、自動車のエンジン付近に設けられるドライブプレート2に作用するトルクを検出できるようにしたものであって、
図1に示すように、そのドライブプレート2の同一円周上に設けられた複数の開口部25の両側面に設けられた第一ひずみゲージ4と、ドライブプレート2の表裏面側に設けられた第二ひずみゲージ5とを備え、この第一ひずみゲージ4によって算出したトルクを、第二ひずみゲージ5によるスラスト方向の荷重を用いて補正し、正確なトルクを検出できるようにしたものである。以下、本実施の形態におけるトルク計測装置1の構成について具体的に説明する。
【0023】
まず、ドライブプレート2は、自動車のエンジンとトランスミッションのトルクコンバーターとの間に設けられるものであって、外周部分に外歯を有し、セルモーターによって始動時の駆動力を伝達させられるように構成されている。そして、この駆動時におけるセルモーターからの力をクランクシャフトを介してエンジンに伝達し、エンジンを駆動させるようにするとともに、エンジンを駆動させた後においては、エンジンからの力をクランクシャフトを介して伝達させ、内側連結部21に連結されたドライブプレート2にその力を伝達させるとともに、そのドライブプレート2の外側連結部23に取り付けられたトルクコンバーターに力を伝達させられるようになっている。
【0024】
このドライブプレート2とクランクシャフトとは、内側連結部21を用いて連結される。この内側連結部21は、ドライブプレート2の中心側に設けられるものであって、同一円周上に複数の取付穴22を設け、その取付穴22に、図示しないボルトなどを装着して、クランクシャフトを連結させるようにしている。
【0025】
一方、このドライブプレート2とトルクコンバーターとを連結する外側連結部23は、ドライブプレート2の外周に近い側に設けられるものであって、同一円周上に設けられた複数の取付穴24にボルトを取り付けてトルクコンバーターを取り付けられるようになっている。
【0026】
このように構成されたドライブプレート2の内側の取付穴22と外側の取付穴24の間には、複数の開口部25が形成されている。この開口部25は、同一円周上に複数設けられるものであって、ここでは、外周側の辺と内周側の辺が円弧状となり、半径方向に沿った左右の辺が直線状となるように構成されている。そして、左右の開口部25を互いに隣接させるように設けることで、その間を起歪部3として設けるようにしている。なお、この実施の形態では、左右に隣接した開口部25を、回転軸を中心として直交する方向に合計4セット(開口部25を8箇所)設け、その開口部25の間に形成された起歪部3を直交方向に配置させることで、小さな撓みを軸対称の起歪部3によって増幅させて、検出精度を上げられるようにしている。
【0027】
このように構成されたドライブプレート2において、本実施の形態では、回転方向のトルクを検出する第一ひずみゲージ4と、ドライブプレート2のスラスト方向の荷重を検出する第二ひずみゲージ5を取り付けるようにしている。
【0028】
このうち、第一ひずみゲージ4は、
図1や
図2に示すように、起歪部3の回転方向に沿った両側壁に対向するように取り付けられる。そして、この第一ひずみゲージ4を抵抗とするブリッジ回路を形成し、入力伝達に対する出力電圧の差をトルクに換算した電気信号を取り出すようにしている。この場合、第一ひずみゲージ4のうち、起歪部3における回転方向の前面側に設けたもの同士をブリッジ回路の相対向する一方の二辺の抵抗とし、中央部の起歪部3における回転方向後面側に設けたもの同士をブリッジ回路の相対向する他方の二辺の抵抗とするようにしている。
【0029】
一方、第二ひずみゲージ5は、ドライブプレート2の回転軸方向に沿った表裏面側に取り付けられる。なお、この第二ひずみゲージ5を取り付ける場合、好ましくは、起歪部3の両側面に設けられた第一ひずみゲージ4に挟まれる位置であって、ドライブプレート2の表裏面側に取り付けるようにしている。このような位置に取り付ければ、第一ひずみゲージ4にスラスト方向の荷重が作用した場合であっても、その近傍に設けられた第二ひずみゲージ5によって、その位置におけるスラスト荷重の影響を補正することができるようになる。そして、このように取り付けられた第二ひずみゲージ5によってブリッジ回路を構成し、入力伝達に対する出力電圧の差をトルクに換算した電気信号を取り出す。
【0030】
この第一ひずみゲージ4や第二ひずみゲージ5に対して電力を供給する場合、この実施の形態では、電磁誘導方式によって電力が供給される。具体的には、
図1や
図3に示すように、ドライブプレート2側に回転軸を中心とする受電コイル62を設けておくとともに、エンジン側の壁面に送電コイル61を設けておき、交流電力を供給することによって受電コイル62側に電力を供給し、また、第一ひずみゲージ4や第二ひずみゲージ5からの出力も受信できるようにする。そして、その出力された値を演算部7(
図5参照)に出力してトルクを計測するとともに、スラスト方向からの荷重による補正を行うようにしている。
【0031】
演算部7でトルク演算を行う場合、トルクに対して、スラスト方向の荷重による誤差が含まれていると解釈して、次式を用いてトルクMやスラスト方向の荷重Fを算出する。
【0032】
【0033】
なお、ここでαとβは校正によって得られる干渉補正行列の成分であって、実験などによって予め設定される値である。また、「εmz」は第一ひずみゲージ4によって検出されたトルクであり、「εfz」は第二ひずみゲージ5によって検出されたスラスト方向の荷重である。
【0034】
次に、このように構成されたトルク計測装置1を用いて、ドライブプレート2に作用するトルクを計測する場合について説明する。
【0035】
まず、エンジンが駆動している状態において、エンジンから出力された力はクランクシャフトに伝達され、その力が内側連結部21を介してドライブプレート2に伝達される。これにより、ドライブプレート2が回転するようになる。
【0036】
このようにドライブプレート2が回転すると、そのドライブプレート2の外側連結部23に連結されたトルクコンバーターが回転するようになる。そして、このトルクコンバーターを回転させようとするトルクによりひずみが生ずる。
【0037】
このようにトルクによるひずみが生ずると、起歪部3の回転方向の両側面に取り付けられた第一ひずみゲージ4がひずむようになり、ブリッジ回路によってひずみに基づく出力電圧が出力される。そして、これを増幅させることによってトルクを計測する。
【0038】
一方、エンジンが駆動している状態では、エンジンからの熱がドライブシャフトに伝達され、ドライブプレート2が加熱されて、ひずみゲージの温度ドリフト量が大きくなる。また、トルクコンバーターは高速で回転しており、その内部圧力は高くなり、トルクコンバーター自身を膨張させ、ドライブプレート2をスラスト方向に押圧してしまう。そこで、このスラスト方向に作用する荷重を第二ひずみゲージ5で計測する。
【0039】
ドライブプレート2がスラスト方向にひずむと、ドライブプレート2の表裏面側に取り付けた第二ひずみゲージ5が変形し、これに伴って、ブリッジ回路からその変形に伴った荷重が出力される。そして、その出力されたスラスト力を演算部7に出力する。
【0040】
演算部7では、第一ひずみゲージ4のブリッジ回路によって検出されたトルク(εmz)と、第二ひずみゲージ5のブリッジ回路によって検出されたスラスト方向の荷重(εfz)を数1を用いて、最終的にスラスト荷重による補正が行われたトルクMzを演算する。また、これと同時に、スラスト方向にける荷重Fzを算出し、これを出力する。
【0041】
このように上記実施の形態によれば、ドライブプレート2に設けられた複数の開口部25の間に形成された起歪部3と、当該起歪部3の回転方向の前後の側面に設けられた第一ひずみゲージ4と、前記回転体の表裏面側に設けられた第二ひずみゲージ5とを備え、当該第二ひずみゲージ5によって検出されたスラスト方向の荷重を用いて、前記第一ひずみゲージ4によって検出されたトルクを補正する演算部7を設けるようにしたので、スラスト方向に作用する荷重によってドライブプレート2にひずみを生じた場合であっても、そのスラスト荷重による補正を行って、より正確なトルクを計測することができるようになる
【0042】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々の態様で実施することができる。
【0043】
例えば、上記実施の形態では、回転体の一例として、自動車に設けられるドライブプレート2を例に挙げて説明したが、モーターなどの他の駆動手段によって回転する回転体に作用するトルクを検出する場合についても同様の構成を適用することができる。このような例としては、機械設備装置におけるスプロケットやピニオンなどに作用するトルクを検出する場合などが考えられる。
【0044】
また、上記実施の形態では、起歪部3の回転方向の前後の側面に第一ひずみゲージ4を取り付けるとともに、その間の表裏面側に第二ひずみゲージ5を取り付けるようにしたが、第二ひずみゲージ5の取り付け位置については、他の離れた場所に設けるようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、数1を用いて最終的なトルクを計算するようにしたが、まず、第一ひずみゲージ4によってトルクを計算し、あらかじめ設定されたスラスト方向に対する補正値を積算あるいは加減算して最終的なトルクを計算するようにしてもよく、あるいは、他の演算方法によってスラスト荷重による補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1・・・トルク計測装置
2・・・ドライブプレート
21・・・内側連結部
22・・・取付穴
23・・・外側連結部
24・・・取付穴
25・・・開口部
3・・・起歪部
4・・・第一ひずみゲージ
5・・・第二ひずみゲージ
61・・・送電コイル
62・・・受電コイル
7・・・演算部