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特許7090266シトクロムP450の突然変異タンパク質およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】シトクロムP450の突然変異タンパク質およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/04 20060101AFI20220617BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220617BHJP
   C12P 33/00 20060101ALI20220617BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220617BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
C12N9/04 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P33/00
A01H1/00 A
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12N15/29
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019560442
(86)(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2018073453
(87)【国際公開番号】W WO2018133844
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】201710057245.1
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520313024
【氏名又は名称】シーエーエス センター フォー エクセレンス イン モレキュラー プラント サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】CAS Center for Excellence in Molecular Plant Sciences
【住所又は居所原語表記】300 Fenglin Road,Xuhui District,Shanghai 200032,CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】519266351
【氏名又は名称】ホングアン バイオ-ファーマ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HONGGUAN BIO-PHARMA CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】#518,No.1 West Gaoxin Road,Tongxiang High Tech Development Zone,Jiaxing,Zhejiang 314500,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,ジファ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ピンピン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イーシン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チェンシュアイ
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/167282(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104894077(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1284707(KR,B1)
【文献】HAN, J.-Y. et al.,Plant Cell Physiol.,2011年,Vol.52, No.12,pp.2062-2073
【文献】CHUN, J.-H. et al.,Plant Cell Rep.,2015年,Vol.34,pp.1551-1560
【文献】YAN, X. et al.,Cell Research,2014年,Vol.24,pp.770-773
【文献】LI, H.-M. et al.,Appl. Biochem. Biotechnol.,2008年,Vol.144, No.1,pp.27-36
【文献】Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47 (PPDS) mRNA, PPDS-1 allele, complete cds,GenBank accession no. JN604536,2012年,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/JN604536.1?report=girevhist,[retrieved on 2020-09-03], Retrieved from the Internet
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が配列番号1で示される野生型のシトクロムP450において、
91番目のプロリン(P)
が、突然変異しているタンパク質であって、
ここで91番目のプロリン(P)は、ヒスチジン(H)に突然変異しており、ならびに、
前記ンパク質は非天然タンパク質であり、
前記ンパク質はプロトパナキサジオールの生成を触媒する触媒活性を有しており、および
前記ンパク質は、ダンマレンジオール(DM)のC12部位をヒドロキシ化させ、プロトパナキサジオール(PPD)を生成するのを触媒する
ことを特徴とする、前記ンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のンパク質において、
87番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異している;および/または
235番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異している;および/または
349番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異している;および/または
366番目のバリン(V)がイソロイシン(I)に突然変異している;および/または
231番目のアスパラギン(N)がチロシン(Y)に突然変異している;および/または
285番目のセリン(S)がシステイン(C)に突然変異している;および/または
113番目のグルタミン(Q)がアルギニン(R)に突然変異している;および/または
18番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異している;および/または
1~4番目における1、2、3、または4個のアミノ酸が欠失している;
ンパク質であって、
前記タンパク質はプロトパナキサジオールの生成を触媒する触媒活性を有しており、および、
前記タンパク質は、ダンマレンジオール(DM)のC12部位をヒドロキシ化させ、プロトパナキサジオール(PPD)を生成するのを触媒する
ことを特徴とする、前記タンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のンパク質をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターを含むか、あるいは、そのゲノムに請求項3に記載のポリヌクレオチドが組み込まれていることを特徴とする、宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のンパク質を生成する方法であって、
発現に適切な条件において、請求項5に記載の宿主細胞を培養することによって、前記タンパク質を発現させる工程と、
前記ンパク質を単離する工程
とを含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
請求項1に記載のンパク質を含むことを特徴とする、酵素製剤。
【請求項8】
プロトパナキサジオールを製造する方法であって、
(i)請求項1に記載のンパク質を反応基質と接触させ、触媒反応を行うことによって、前記プロトパナキサジオールを得る工程と、
(ii)任意に、前記プロトパナキサジオールを単離・精製する工程
とを含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
請求項1に記載のンパク質の使用であって、ダンマレンジオール(DM)からプロトパナキサジオール(PPD)への生成、またはダンマレンジオール(DM)からプロトパナキサジオール(PPD)への生成を触媒する触媒製剤の製造に使用されることを特徴とする、前記使用。
【請求項10】
請求項1に記載のンパク質または請求項5に記載の宿主細胞の使用であって、プロトパナキサジオール(PPD)の製造に使用されることを特徴とする、前記使用。
【請求項11】
遺伝子組み換え植物を生成する方法であって、植物細胞である請求項5に記載の宿主細胞を、植物に再生させる工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術および植物生物学、天然産物薬物の分野に関し、具体的に、シトクロムP450の突然変異タンパク質およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジンセノサイドは、ウコギ科トチバニンジン属の植物(たとえばオタネニンジン、サンシチニンジン、アメリカニンジンなど)おける主要活性物質で、近年、ウリ科植物のアマチャヅルにもジンセノサイドが少し発見された。現在、国内外の科学者は既にオタネニンジン、アマチャヅルなどの植物から100種類以上のジンセノサイドが単離され、これらのジンセノサイドはオタネニンジンにおける含有量が大きく異なる。中では、一部の治療効果が顕著なトリテルペノイドサポニンは天然の全サポニンにおける含有量が非常に低く(希少サポニンとも呼ばれる)、抽出のコストが高いため、非常に高価である。現在、多くのサポニンが既に臨床に使用され、たとえばジンセノサイドRg3単量体を主要成分とする薬物である参一カプセルは主要患者の気虚症状を改善し、生体の免疫機能を向上させることができる。ジンセノサイドRh2単量体を主要成分とする今幸カプセルは生体の免疫力を向上させ、抗病力を増強するための健康薬品である。
【0003】
希少ジンセノサイドは、通常、独特な生物活性またはより顕著な治療効果を有するため、従来の希少ジンセノサイドの製造はいずれもオタネニンジンやサンシチニンジンから抽出された大量のサポニンから化学加水分解法、酵素法による加水分解および微生物法による加水分解によって製造する。野生のジンセン資源はほぼなくなり、ジンセン全サポニン資源は現在主にオタネニンジンやサンシチニンジンの人工栽培に依頼するが、その人工栽培の成長周期が長く(一般的に5~7年以上が必要)、そして地域の制限もあり、また病虫害が多くて大量の農薬の施用が必要であるため、オタネニンジンやサンシチニンジンの人工栽培は深刻な連作障害があり(オタネニンジンやサンシチニンジンの栽培地は連作障害を克服するには5~15年以上の休耕が必要である)、よってジンセノサイドの生産量、品質および安全性はいずれもチャレンジに直面している。一方、ジンセン全サポニンを原料として単一成分のサポニンを製造する場合、全サポニンに目的のジンセノサイド単量体(たとえばプロトパナキサトリオール型サポニン)に変換できない成分も大量にあって利用されず、資源の浪費のみならず、さらに抽出・精製のコストも増加する。
【0004】
合成生物学の発展は植物由来の天然産物の異種合成に新たなチャンスをもたらした。酵素を基盤に、代謝経路の構築と最適化によって、安価の単糖からアルテミシン酸またはジヒドロアルテミシン酸を発酵合成し、続いてさらにワンステップの化学変換の方法によってアルテミシニンを生産することが既に実現され、これは合成生物学は天然産物の薬物合成において大きな可能性があることを示す。酵素基盤細胞を利用して合成生物学の方法によって希少ジンセノサイド単量体を異種合成し、原料は安価の単糖で、製造過程は安全性が制御可能な発酵過程で、あらゆる外来の汚染(たとえば、原料植物の人工栽培時使用される農薬)が避けられるため、合成生物学の技術によって希少ジンセノサイド単量体を製造するのは、コストの優勢のみならず、完成品の品質と安全性も保証できる。合成生物学の技術によって十分な量の様々な高純度の希少ジンセノサイド単量体を製造し、活性測定および臨床実験に使用し、希少ジンセノサイドの新薬の研究・開発を促進する。
【0005】
合成生物学の方法によって薬用活性を有するジンセノサイドを人工合成するには、まず、プロトパナキサジオールPPDの合成代謝経路を解析・再構築する必要がある。ジンセノサイドはトリテルペン化合物に属し、植物におけるMVAおよびMEP代謝経路はテルペン系化合物の共通の前駆体であるIPPおよびDMAPPを提供し、トリテルペン化合物の前駆体であるスクアレンおよび2,3-エポキシスクアレンの合成の基礎となるが、現在のシトクロムP450タンパク質のダンマレンジオールからプロトパナキサジオールへの合成に対する触媒活性が低く、微生物細胞工場でPPDを生産する場合、律速ステップとなり、PPDの生産量の向上を制限するのみならず、中間産物DMの蓄積にもつながる。
【0006】
そのため、本分野では、シトクロムP450をさらに研究・改造することによって、より効率的なシトクロムP450タンパク質エレメントを得ることで、ジンセノサイドの細胞工場の合成効率を促進することが必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、シトクロムP450の突然変異タンパク質を提供し、前記の突然変異タンパク質を使用することによって、非常に高いPPD生産量およびPPD/DM比が得られる。
【0008】
本発明の第一の側面では、シトクロムP450の突然変異タンパク質であって、前記の
突然変異タンパク質は非天然タンパク質で、かつ前記突然変異タンパク質はプロトパナキサジオールの生成を触媒する触媒活性を有し、そして前記突然変異タンパク質は野生型のシトクロムP450の配列番号1に対応する、
91番目のプロリン(P)、
87番目のロイシン(L)、
235番目のリジン(K)、
349番目のリジン(K)、
366番目のバリン(V)、
231番目のアスパラギン(N)、
285番目のセリン(S)、
113番目のグルタミン(Q)、
18番目のロイシン(L)、
からなる群から選ばれる一つまたは複数の酵素触媒活性に関連するコアアミノ酸で突然変異し、
ならびに/あるいは、
1~4番目における1、2、3、または4個のアミノ酸が欠失した、
タンパク質を提供する。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記突然変異タンパク質は、以下の群から選ばれる一つまたは複数のアミノ酸が欠失した:
1番目のメチオニン(M)、
2番目のアラニン(A)、
3番目のアラニン(A)、
4番目のアラニン(A)。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異タンパク質は、配列番号1における1~4番目が欠失し、かつ18番目のロイシン(L)が突然変異した。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異タンパク質は、配列番号1における1~4番目が欠失し、かつ18番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異した。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記87番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異し、および/または、
235番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
349番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
366番目のバリン(V)がイソロイシン(I)に突然変異し、および/または、
231番目のアスパラギン(N)がチロシン(Y)に突然変異し、および/または、
285番目のセリン(S)がシステイン(C)に突然変異し、および/または、
91番目のプロリン(P)がヒスチジン(H)に突然変異し、および/または、
113番目のグルタミン(Q)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
18番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異した。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記の突然変異は、L87I、K235R、K349RおよびV366I、N231YおよびS285C、P91H、Q113Rからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質のアミノ酸配列は配列番号2~8で示される。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異タンパク質は、前記突然変異(たとえば87、235、349、366、231、285、91、113、18、および/または1~4番目のアミノ酸)以外、ほかのアミノ酸配列は配列番号1で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記のほぼ同様とは、多くとも50個(好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個)のアミノ酸が相違し、ここで、前記の相違はアミノ酸の置換、欠失または付加を含み、かつ前記の突然変異タンパク質はプロトパナキサジオールの生成を触媒する触媒活性を有するままである。
【0012】
もう一つの好適な例において、配列番号1で示される配列との相同性は少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%で、かつ相同性は≦485/486または99.79%である。
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質は、ダンマレンジオール(DM)を反応させてプロトパナキサジオール(PPD)を生成するのを触媒する。
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質は、ダンマレンジオール(DM)のC12部位をヒドロキシ化させ、プロトパナキサジオール(PPD)を生成するのを触媒する。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質は、以下のような反応を触媒する。
【化1】
【0014】
もう一つの好適な例において、前記方法は、
(i)反応系のpHは5.0~9.0、好ましくは7.0~8.0、より好ましくは7.4~7.5であること、
(ii)反応温度は20~40℃、好ましくは25~35℃、より好ましくは26~33℃、最も好ましくは30℃であること、
(iii)反応時間は0.5h~36h、好ましくは2h~12h、より好ましくは2h~3hであること、
からなる群から選ばれる一つまたは複数の特徴を有する。
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質は、ダンマレンジオール(DM)からプロトパナキサジオール(PPD)への生成に対する触媒活性が野生型P450(配列番号1)の125~250%である。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記シトクロムP450の突然変異タンパク質は、
(a)野生型のシトクロムP450タンパク質と比べ、触媒で得られるプロトパナキサジオール収量/ダンマレンジオール(PPD/DM)の比は≧20%、好ましくは23~250%、より好ましくは25~250%または30~200%であること、
(b)野生型のシトクロムP450タンパク質と比べ、触媒で得られるプロトパナキサジオール(PPD)の収量(mg/L)は≧300、好ましくは303~600、より好ましくは305~500であること、
からなる群から選ばれる一つまたは複数の特徴を有する。
【0016】
本発明の第二の側面では、本発明の第一の側面に記載の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
もう一つの好適な例において、前記ポリヌクレオチドは、
(a) 配列番号2~8のいずれかで示されるペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b) 配列番号15~21のいずれかで示されるポリヌクレオチド、
(c) ヌクレオチド配列と配列番号15~21のいずれかで示される配列との相同性が≧95%(好ましくは≧98%)で、かつ配列番号1または2~8のいずれかで示されるペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(d) (a)~(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチド、
からなる群から選ばれる。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは、シトクロムP450の突然変異タンパク質の横に、さらに、シグナルペプチド、分泌ペプチド、タグ配列(たとえば6His)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる補助エレメントを含有する。
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは、DNA配列、RNA配列、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0018】
本発明の第三の側面では、本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、発現ベクター、シャトルベクター、組込みベクターを含む。
【0019】
本発明の第三の側面では、本発明の第三の側面に記載のベクターを含むか、あるいはそのゲノムに本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた宿主細胞を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は真核細胞で、たとえば酵母細胞または植物細胞である。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は原核細胞で、たとえば大腸菌である。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は、オタネニンジン細胞である。
【0020】
本発明の第五の側面では、本発明の第一の側面に記載のシトクロムP450の突然変異タンパク質を生成する方法であって、
発現に適切な条件において、本発明の第四の側面に記載の宿主細胞を培養することによって、シトクロムP450の突然変異タンパク質を発現させる工程と、
前記シトクロムP450の突然変異タンパク質を単離する工程と、
を含む方法を提供する。
【0021】
本発明の第六の側面では、本発明の第一の側面に記載のシトクロムP450の突然変異タンパク質を含む酵素製剤を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の酵素製剤は、注射剤、および/または凍結乾燥製剤を含む。
【0022】
本発明の第七の側面では、プロトパナキサジオールを製造する方法であって、
(i)本発明の第一の側面に記載のシトクロムP450の突然変異タンパク質を反応基質と接触させ、触媒反応を行うことによって、前記プロトパナキサジオールを得る工程と、
(ii)任意に、前記プロトパナキサジオールを単離・精製する工程と、
を含む方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記反応基質は、ダンマレンジオールである。
もう一つの好適な例において、工程(i)では、前記触媒反応の時間は0.5h~36h、好ましくは2h~12h、より好ましくは2h~3hである。
もう一つの好適な例において、工程(i)では、前記触媒反応の温度は、20~40℃、好ましくは25~35℃、より好ましくは26~33℃、最も好ましくは30℃である。
【0023】
本発明の第八の側面では、ダンマレンジオール(DM)からプロトパナキサジオール(PPD)への生成、またはダンマレンジオール(DM)からプロトパナキサジオール(PPD)への生成を触媒する触媒製剤の製造のための本発明の第一の側面に記載の突然変異タンパク質の使用を提供する。
【0024】
本発明の第九の側面では、本発明の第一の側面に記載の突然変異タンパク質または本発明に記載の宿主細胞の使用であって、プロトパナキサジオール(PPD)の製造に使用されることを特徴とする使用を提供する。
【0025】
本発明の第十の側面では、遺伝子組み換え植物を生成する方法であって、植物細胞である、本発明の第四に記載の宿主細胞を植物に再生させる工程を含む方法を提供する。
【0026】
本発明の第十一の側面では、突然変異したプロモーター配列であって、野生型P450プロモーター(配列番号9)と比べ、P450タンパク質の転写活性が少なくとも30%(たとえば40~100%)向上したものを提供する。
もう一つの好適な例において、前記のプロモーターの配列は、配列番号10~13のいずれかで示される配列である。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記突然変異プロモーターはプロモーター1D1で、P450タンパク質の発現量を顕著に向上させることができ、
前記突然変異プロモーターは転写強度に関連する以下のコアヌクレオチドを有し、
28番目のヌクレオチドTが欠失し、
417番目のヌクレオチドがGで、
445番目のヌクレオチドがGで、
654番目のヌクレオチドがAで、
655番目のヌクレオチドがAで、
ここで、前記ヌクレオチドの位置の番号は配列番号9で示される配列に基づくものである。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記突然変異したプロモーター1D1は転写強度に関連する以下のコアヌクレオチドを有し、
417番目のヌクレオチドがGで、
445番目のヌクレオチドがGで、
ここで、前記ヌクレオチドの位置の番号は配列番号9で示される配列に基づくものである。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター1D1は、417および445番目のヌクレオチド以外、ほかのヌクレオチドは配列番号9で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター1D1は配列番号10で示される配列を有する。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記突然変異したプロモーターはプロモーター9C1-2で、転写強度に関連する以下のコアヌクレオチドを有し、
28番目のヌクレオチドTが欠失し、
ここで、前記ヌクレオチドの位置の番号は配列番号9で示される配列に基づくものである。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター9C1-2は、28番目のヌクレオチド以外、ほかのヌクレオチドは配列番号9で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター9C1-2は配列番号11で示される配列を有する。
【0030】
もう一つの好適な例において、前記突然変異したプロモーターはプロモーター11B5で、転写強度に関連する以下のコアヌクレオチドを有し、
654番目のヌクレオチドがAで、
ここで、前記ヌクレオチドの位置の番号は配列番号9で示される配列に基づくものである。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター11B5は、654番目のヌクレオチド以外、ほかのヌクレオチドは配列番号9で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター11B5は配列番号12で示される配列を有する。
【0031】
もう一つの好適な例において、前記突然変異したプロモーターはプロモーター15F1で、転写強度に関連する以下のコアヌクレオチドを有し、
655番目のヌクレオチドがAで、
ここで、前記ヌクレオチドの位置の番号は配列番号9で示される配列に基づくものである。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター15F1は、655番目のヌクレオチド以外、ほかのヌクレオチドは配列番号9で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異プロモーター15F1は配列番号13で示される配列を有する。
【0032】
本発明の第十二の側面では、本発明の上記のプロモーター、および前記プロモーターの操作性に関連する本発明に記載の本発明のP450の突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する、発現カセットを提供する。
【0033】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組み合わせ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、ダンマレンジオールを生産する組換え出芽酵母菌株WP8を示す構築概略図である。
図2図2は、野生型と1G4、2D8、3B9、8G7、9C1、16F8および24A10の突然変異体菌株PPD/DMを示す縦棒グラフである。
図3図3は、プロトパナキサジオールを生産する組換え出芽酵母菌株のHPLC検出を示す図である。
図4図4は、プロトパナキサジオールを生産する組換え出芽酵母菌株の収量を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
具体的な実施形態
本発明者は幅広く深く研究し、大量の選別によって、意外に、シトクロムP450の突然変異タンパク質の触媒活性を顕著に向上できる重要アミノ酸部位を見つけた。本発明者は、シトクロムP450 CYP716A47における重要部位に対して改造した後、PPD収量およびPPD/DM比率を顕著に向上させることができることを見出した。また、本発明者は、さらに、野生型のシトクロムP450 CYP716A47の1番目~4番目のアミノ酸が欠失し、同時にその一つの重要部位(たとえば18番目のアミノ酸)が突然変異すると、その触媒活性が顕著に向上し、具体的に、PPD/DMの比率が125.6%まで向上すると表れることを見出した。
【0036】
また、本発明者は、ダンマレンジオールDMを合成する出芽酵母基盤細胞WP8を構築し、そしてStratagene社のGeneMorph II Random Mutagenesis Kitランダム突然変異キットを使用することによって、シトクロムP450(CYP716A47)の突然変異体ライブラリーを得、そして出芽酵母基盤細胞WP8を形質転換させ、一つの単コピーを酵母ゲノムに挿入してプロトパナキサジオールPPDを合成するCYP716A47酵母突然変異体ライブラリーを構築した。これに基づき、本発明を完成させた。
【0037】
用語
本明細書で用いられるように、用語「AxxB」とはxx番目のアミノ酸Aがアミノ酸Bに変わることを表し、たとえば「L87I」とは87番目のアミノ酸LがIに突然変異することを表し、ほかも同じように表記する。
【0038】
本発明の突然変異タンパク質およびそのコード核酸
本明細書で用いられるように、用語「突然変異タンパク質」、「本発明の突然変異タンパク質」、「本発明のシトクロムP450の突然変異タンパク質」は入れ替えて使用することができ、いずれも非天然のシトクロムP450の突然変異タンパク質で、かつ前記突然変異タンパク質は配列番号1で示されるタンパク質を人工的に改造したタンパク質で、ここで、前記の突然変異タンパク質は酵素の触媒活性に関連するコアアミノ酸を含有し、かつ前記コアアミノ酸のうち、少なくとも一つが人工的に改造され、そして本発明の突然変異タンパク質はダンマレンジオールDMのC12がヒドロキシ化してプロトパナキサジオールPPDになるのを触媒する酵素活性を有する。
【0039】
用語「コアアミノ酸」とは配列番号1に基づいたもので、かつ配列番号1との相同性が少なくとも80%、たとえば84%、85%、90%、92%、95%、98%に達する配列において、対応する部位は本明細書に記載の特定のアミノ酸で、たとえば配列番号1で示される配列に基づき、コアアミノ酸は、
91番目のプロリン(P)、
87番目のロイシン(L)、
235番目のリジン(K)、
349番目のリジン(K)、
366番目のバリン(V)、
231番目のアスパラギン(N)、
285番目のセリン(S)、
113番目のグルタミン(Q)、
18番目のロイシン(L)、ならびに/あるいは、
1~4番目における1、2、3、または4個のアミノ酸の欠失であり、かつ上記コアアミノ酸を突然変異させて得た突然変異タンパク質または前記1~4番目のアミノ酸を欠失させて得た突然変異タンパク質はダンマレンジオールDMのC12がヒドロキシ化してプロトパナキサジオールPPDになるのを触媒する酵素活性を有する。
【0040】
好ましくは、本発明において、本発明の前記コアアミノ酸に対して以下の突然変異をさせた:
87番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異し、および/または、
235番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
349番目のリジン(K)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
366番目のバリン(V)がイソロイシン(I)に突然変異し、および/または、
231番目のアスパラギン(N)がチロシン(Y)に突然変異し、および/または、
285番目のセリン(S)がシステイン(C)に突然変異し、および/または、
91番目のプロリン(P)がヒスチジン(H)に突然変異し、および/または、
113番目のグルタミン(Q)がアルギニン(R)に突然変異し、および/または、
18番目のロイシン(L)がイソロイシン(I)に突然変異した。
【0041】
もちろん、本発明の突然変異タンパク質におけるアミノ酸の番号は配列番号1に基づくもので、ある具体的な突然変異タンパク質と配列番号1で示される配列の相同性が80%またはそれ以上に達する場合、突然変異タンパク質のアミノ酸の番号は配列番号1のアミノ酸とずれ、たとえばアミノ酸のN末端またはC末端の方向に1~5番ずれることがあるが、本分野の通常の配列アライメント技術によって、当業者にはこのようなずれが合理的な範囲内にあることがわかり、かつアミノ酸の番号のずれで、相同性が80%(たとえば90%、95%、98%)に達する、同様または類似のプロトパナキサジオールPPDを生成する触媒活性を有する突然変異タンパク質が本発明の突然変異の範囲内に入らないことはない。
【0042】
本発明の突然変異タンパク質は、合成タンパク質または組換えタンパク質で、すなわち、化学合成の産物でもよく、あるいは組換え技術で原核または真核宿主(たとえば、細菌、酵母、植物)から生成するものでもよい。組み換え生産プロセスで用いられる宿主にによって、本発明の突然変異タンパク質は、グリコシル化されたものでもよく、又はグリコシル化されていないものでもよい。また、本発明の突然変異タンパク質は、開始のメチオニン残基を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0043】
本発明は、さらに、前記突然変異タンパク質の断片、誘導体および類似物を含む。本明細書で用いられるように、用語の「断片」、「誘導体」および「類似物」とは、実質的に前記突然変異タンパク質と同じ生物学的機能または活性を維持するタンパク質である。
本発明の突然変異タンパク質の断片、誘導体や類似物は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換された突然変異タンパク質でもよく、置換されたアミノ酸残基が遺伝コードでコードされてもされていなくてもよく、または(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基がある突然変異タンパク質でもよく、または(iii)成熟の突然変異タンパク質と他の化合物(たとえば、ポリエチレングリコールような突然変異タンパク質の半減期を延ばす化合物)と融合した突然変異タンパク質でもよく、または(iv)付加のアミノ酸配列がこの突然変異タンパク質に融合した突然変異タンパク質(たとえばリーダー配列または分泌配列またはこの突然変異タンパク質を精製するための配列または蛋白質前駆体配列、あるいは抗原IgG断片と形成した融合蛋白質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似体は当業者に公知の範囲に入っている。本発明において、保存的に置き換えたアミノ酸は、表Iのようにアミノ酸の置き換えを行って生成することが好ましい。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の活性突然変異タンパク質は、ダンマレンジオールDMのC12がヒドロキシ化してプロトパナキサジオールPPDになるのを触媒する酵素活性を有する。
好ましくは、前記の突然変異タンパク質は配列番号2~8で示される。もちろん、本発明の突然変異タンパク質は配列番号2~8で示される配列と比べ、通常、高い相同性を有し、好ましくは、前記の突然変異タンパク質と配列番号2~8で示される配列との相同性は少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%~90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%で、最も好ましくは≧485/486(99.79%)である。
【0046】
また、本発明の突然変異タンパク質を修飾してもよい。修飾(通常は一次構造が変わらない)形態は、体内または体外の突然変異タンパク質の化学的に誘導された形態、たとえばアセチル化またはカルボキシ化を含む。修飾は、さらにグリコシル化、たとえば突然変異タンパク質の合成および加工でまたはさらなる加工の工程でグリコシル化修飾を行った突然変異タンパク質も含む。このような修飾は、突然変異タンパク質をグルコシル化する酵素(たとえば哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)に露出させることによって完成する。修飾形態は、さらにリン酸化アミノ酸残基(たとえばリン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列を含む。さらに、修飾によって抗タンパク質加水分解性を向上させた突然変異タンパク質または溶解性を改善した突然変異タンパク質を含む。
【0047】
用語「突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド」は、本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
本発明は、さらに、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたは突然変異タンパク質の断片、類似物および誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体および挿入変異体を含む。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの代替形態で、1つまたは2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入でもよいが、実質的にコードする突然変異タンパク質の機能を変えることはない。
【0048】
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、たとえば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、たとえば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上のときだけハイブリダイズすることである。
【0049】
本発明の突然変異タンパク質およびポリヌクレオチドは、好ましくは分離された形態で提供し、より好ましくは均質に精製される。
本発明のポリヌクレオチドの全長配列は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。PCR増幅法について、本発明で公開された関連のヌクレオチド配列、特に読み枠によってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリーまたは当業者に既知の通常の方法によって調製されるcDNAライブラリーを鋳型とし、増幅して関連配列を得る。配列が長い場合、通常、2回または2回以上のPCR増幅を行った後、各回の増幅で得られた断片を正確な順でつなげる必要がある。
【0050】
関連の配列を獲得すれば、組換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。
【0051】
現在、本発明のタンパク質(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドを得るには、PCR技術でDNA/RNAを増幅する方法が好適に使用される。特にライブラリーから全長のcDNAを得ることが困難な場合、好適にRACE法(RACE-cDNA末端快速増幅法)を使用し、PCRに使用されるプライマーはここで公開された本発明の配列情報によって適切に選択し、かつ通常の方法で合成することができる。通常の方法、たとえばゲル電気泳動によって増幅されたDNA/RNA断片を分離、精製することができる。
【0053】
野生型シトクロムP450
本明細書で用いられるように、「野生型シトクロムP450」とは、天然に存在する、人工的に改造されていないシトクロムP450で、そのヌクレオチドは遺伝子工学技術、たとえばゲノムシークエンシング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られ、そのアミノ酸配列はヌクレオチド配列から推測することができる。前記野生型シトクロムP450のアミノ酸配列は配列番号1で示される。
上記に係る野生タンパク質、本発明の突然変異タンパク質の配列情報は表2(実施例を参照)に示す。
【0054】
発現ベクター
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまたは本発明の突然変異タンパク質コード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞、ならびに組み換え技術によって本発明に係るポリペプチドを生成する方法にも関する。
通常の組み換えDNA技術によって、本発明のポリヌクレオチド配列で組み換えの突然変異タンパク質を発現または生産することができる。一般的に、以下の工程を含む。
(1)本発明の本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド(または変異体)を使用し、あるいはこのポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを使用し、適切な宿主細胞を形質転換または形質導入する。
(2)適切な培地において宿主細胞を培養する。
(3)培地または細胞からタンパク質を分離し、精製する。
【0055】
本発明において、突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は組換え発現ベクターに挿入してもよい。用語「組換え発現ベクター」とは、本分野でよく知られている細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物ウイルス、たとえばアデノウイルス、レトロウイルスまたはほかのベクターである。宿主体内で安定して複製することができれば、どんなプラスミドおよびベクターでも使用できる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御エレメントを含むことである。
【0056】
本発明の突然変異タンパク質のコードDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築に当業者によく知られている方法を使用することができる。これらの方法は、体外組換えDNA技術、DNA合成技術、体内組換え技術などを含む。前記のDNA配列は、有効に発現ベクターにおける適切なプロモーターに連結し、mRNA合成を指導することができる。これらのプロモーターの代表的な例として、大腸菌のlacまたはtrpプロモーター、λファージのPLプロモーター、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーターを含む真核プロモーター、レトロウイルスのLTRsやほかの既知の制御可能な遺伝子の原核または真核細胞あるいはそのウイルスにおける発現されるプロモーターが挙げられる。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用リボゾーム結合部位および転写ターミネーターを含む。
【0057】
また、発現ベクターは、好ましくは1つまたは2つ以上の選択性マーカー遺伝子を含み、形質転換された宿主細胞を選択するための形質、たとえば真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性および緑色蛍光タンパク質(GFP)、あるいは大腸菌用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を提供する。
【0058】
上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターは、適切な宿主細胞を形質転換し、タンパク質を発現するようにすることができる。
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌のような細菌細胞、酵母のような真菌細胞、植物細胞(たとえばオタネニンジン細胞)がある。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドが高等真核細胞において発現される場合、ベクターにエンハンサー配列を挿入すると転写が強化される。エンハンサーは、DNAのシスエレメントで、通常、約10~300bpで、プロモーターに作用して遺伝子の転写を強化する。例を挙げると、複製起点の後期側にある100~270bpのSV40エンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーなどを含む。
当業者は、どうやって適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞を選択するか、よくわかる。
【0060】
DNA組換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行っても良い。宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgClを使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
【0061】
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
【0062】
上記の方法における組換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の分離方法で組換えタンパク質を分離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および他の各種の液体クロマトグラフィー技術、並びにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(i)大量の選別と改造を経て、本発明は、初めて、シトクロムP450(CYP716A47)の触媒活性部位およびそのプロモーターの重要部位を見出し、関連部位を改造すると、シトクロムP450の触媒活性と発現量が顕著に向上し、かつPPD収量とPPD/DM比率が顕著に向上する。
(ii)本発明は、初めて、野生型のシトクロムP450 CYP716A47の1番目~4番目のアミノ酸が欠失し、同時にその一つの重要部位(たとえば18番目のアミノ酸)が突然変異すると、その触媒活性が顕著に向上し、具体的に、PPD/DMの比率が125.6%まで向上すると表れることを見出した。
(iii)本発明は、また、野生型のシトクロムP450 CYP716A47のほかの部位、たとえば235/349/366/231/285/91/113番目などの部位の一つまたは複数のアミノ酸を突然変異させると、その触媒活性が顕著に向上し、具体的に、PPD/DMの比率が26.1~80.2%向上すると表れることを見出した。
【0064】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
特に説明しない限り、本発明の実施例における試薬および材料はいずれも市販品である。
【実施例
【0065】
実施例1 ダンマレンジオールを生産する組換え出芽酵母菌株の構築
シトクロムP450 CYP716A47のライブラリーを選別するため、本発明では、まず、プロトパナキサジオールの前駆体化合物であるダンマレンジオールを生産する出芽酵母基盤細胞を1株構築した。
野生型出芽酵母にダンマレンジオール合成酵素遺伝子PgDDSを導入し、出芽酵母自身のメバロン酸経路によって合成された2,3-エポキシスクアレンでダンマレンジオールを合成することができる。合成の律速ステップの最適化、前駆体の供給の最適化などを含む人工的に構築されたダンマレンジオール合成経路に対する最適化によって高収率でダンマレンジオールを生産する出芽酵母菌株WP8を出芽酵母基盤細胞として得たが、図1に示す。
【0066】
実施例2 定向進化による効率的なシトクロムP450の突然変異体タンパク質の獲得
(1)シトクロムP450遺伝子配列(optPPDSと名づけ、配列番号14で、配列番号1をコードするアミノ酸配列)を鋳型とし、プライマーEP-1(5’’-ATGGCTGCGGCCATGGTCTTAT-3’’(配列番号22))およびEP-2(5’’-GTTATGTGGATGCAGATGGATT-3’’ (配列番号23)を使用してエラープローンPCRを行った。前記エラープローンPCRはStratagene社のGeneMorph II Random Mutagenesis Kitランダム突然変異キットを使用した。PCRプログラムは、95℃ 2minで、95℃ 10s、55℃ 15s、72℃ 2minの計28サイクルで、72℃ 10min後、10℃に降温させ、鋳型の使用量は50ngであった。PCR産物にアガロースゲル電気泳動を行った後、得られたシトクロムP450をエラープローンPCR産物として得た。
(2)出芽酵母ゲノムを鋳型とし、分子クローニングの通常の方法における酢酸リチウム転換方法によって工程(1)におけるエラープローンPCR産物を実施例1で製造された出芽酵母基盤細胞導入し、形質転換産物(すわち形質転換体)を得た。
【0067】
(3)形質転換産物を均一にYPD+200mg/L G418抗生物質選別プレートに塗布し、30℃で静置して2~3日培養した。すべてのクローンを爪楊枝で取って96ウェルプレートに接種し、30℃で1日振とう培養し、新しい96ウェルプレートに移して4日発酵させた。発酵液に等体積のn-ブタノール溶媒を入れて1h抽出し、上層の有機相を吸い取ってHPLCを行って各形質転換体のダンマレンジオールおよびプロトパナキサジオールの収量およびその比率を検出した。
(4)24枚の96ウェルプレートに対する選別によって、プロトパナキサジオールの収量/ダンマレンジオールの比率(PPD/DM)が20%以上向上したクローンを計7つ得たが、番号はそれぞれ1G4、2D8、3B9、8G7、9C1、16F8および24A10である。それぞれ各クローンのゲノムを鋳型とし、プライマーEP-1およびEP-2でPCRを行って各クローンのシトクロムP450の断片を得、シークエンシングを行うことによって、各突然変異体のヌクレオチド配列およびタンパク質配列を得た。
上記で得られた各野生型および突然変異体のタンパク質配列の情報およびPPD/DMは図2および表2に示す。
【表2】
【0068】
(5)シトクロムP450突然変異体ライブラリーに対する選別の過程において、さらに選別して一連の突然変異プロモーター配列を得、これらの突然変異したプロモーター配列はシトクロムP450の発現量の向上によるプロトパナキサジオールの合成効率および収量の向上に有利である。プロトパナキサジオールの収量/ダンマレンジオールの比率(PPD/DM)が20%以上向上したクローンを計4つ得たが、番号はそれぞれ1D1、9C1-2、11B5および15F1である。それぞれ1D1、9C1-2、11B5および15F1のクローンのゲノムを鋳型とし、プライマーでPCRを行って各クローンのプロモーター断片を得、シークエンシングを行うことによって、突然変異プロモーターのヌクレオチド配列を得た。
【0069】
上記で得られた各野生型および突然変異プロモーターのヌクレオチド配列の情報およびPPD/DMは表3に示す。
【表3】
【0070】
前記結果から、これらの突然変異したプロモーターはさらに野生型P450タンパク質の発現量を向上させることによって、プロトパナキサジオールの収量/ダンマレンジオールの比率を向上させることが示された。また、これらの突然変異したプロモーターは、本発明のP450の突然変異タンパク質のコード配列と併用することによって、プロトパナキサジオールの収量/ダンマレンジオールの比率をさらに向上させることができる。
【0071】
実施例3 前記シトクロムP450の突然変異体タンパク質によるプロトパナキサジオールの効率的な異種合成
(1)出芽酵母ゲノムを鋳型とし、実施例1の方法によって、配列番号14で出芽酵母菌株WP8を形質転換させ、プロトパナキサジオールを生産する組換え出芽酵母菌株WP8-WTを得た。
(2)野生型optPPDS遺伝子の代わりに、同じようにそれぞれ突然変異体の遺伝子1G4、2D8、3B9、8G7、9C1、16F8および24A10(ヌクレオチド配列は配列番号15~21で、対応するアミノ酸配列は配列番号2~8)を鋳型とした。上記PCRで各PCR断片を得、それぞれ出芽酵母菌株WP8を形質転換させ、各突然変異体タンパク質を含有する、プロトパナキサジオールを生産する組換え出芽酵母菌株WP8-1G4、WP8-2D8、WP8-3B9、WP8-8G7、WP8-9C1、WP8-16F8およびWP8-24A10を得た。
【0072】
(3)固体培地の調製:培地:1% Yeast Extract(酵母エキス)、2% Peptone(ペプトン)、2% Dextrose(デキストロース)(グルコース)、2%寒天粉を調製した。
液体培地の調製:培地:1% Yeast Extract(酵母エキス)、2% Peptone(ペプトン)、2% Dextrose(デキストロース)(グルコース)を調製した。
固体培地プレートに画線した組換え出芽酵母菌WP8-1G4、WP8-2D8、WP8-3B9、WP8-8G7、WP8-9C1、WP8-16F8およびWP8-24A10を取り、それぞれ5mL液体培地を含有する試験管に置いて一晩振とう培養し(30℃、250rpm、16h)、遠心で菌体を収集し、10mL 液体培地が入った50mL三角フラスコに移し、OD600が0.05になるように調整し、30℃、250rpmで4日振とう培養して発酵産物を得た。本方法は各組換え酵母に対して同時に一つの平行実験を設けた。
【0073】
ダンマレンジオールおよびプロトパナキサジオールの抽出および検出:10mLの発酵液から100μLの発酵液を吸い取り、Fastprepで振とうして酵母を分解させ、等体積のn-ブタノールを入れて抽出した後、真空の条件においてn-ブタノールを蒸発させた。100μLのメタノールで溶解させた後、HPLCによって目的産物であるPPDおよびDMの収量を検出した(図3図4および表4)。
【0074】
上記で得られた各組換え出芽酵母菌株のプロトパナキサジオールおよびダンマレンジオールの収量は表4に示す。
【表4-1】
【表4-2】
【0075】
結果から、野生型のシトクロムP450と比べ、本発明のシトクロムP450の突然変異タンパク質は顕著にPPDの収量(最高は490mg/Lに達する)およびPPD/DMの比率(最高は63%に達する)を向上させることが示された。
【0076】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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