(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】CHA型チタノシリケート分離膜およびその製造方法、並びにガス分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220617BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220617BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220617BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20220617BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20220617BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20220617BHJP
C01B 39/08 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D53/22
C01B33/20
C01B39/48
C01B39/08
(21)【出願番号】P 2018040807
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-01-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)開催日 2017年11月30日(木)~12月1日(金) (2)集会名、開催場所 第33回ゼオライト研究発表会(主催:一般社団法人日本ゼオライト学会)長良川国際会議場(岐阜市長良福光2695-2) (3)公開者 今坂怜史、荒木貞夫、山本秀樹、石井甫泰 (4)公開された発明の内容 今坂怜史、荒木貞夫、山本秀樹及び石井甫泰が第33回ゼオライト研究発表会にて、「Ti-CHA型ゼオライト膜の合成およびガス透過特性」について発表した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】今坂 怜史
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 甫泰
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-262064(JP,A)
【文献】特開2013-226535(JP,A)
【文献】特開2011-121040(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142056(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/081841(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0050308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
C01B 33/20- 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上に製膜されたCHA型のチタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の製造方法であって、
珪素源、チタン源、フッ化物、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンおよび水を含む原料を混合した合成ゲルを水熱処理して種結晶を製造するステップと、
前記種結晶を上記多孔質支持体上に担持させるステップと、
前記種結晶が担持された多孔質支持体に、珪素源、チタン源、フッ化物、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンおよび水を含む原料を混合した合成ゲルを塗布して水熱合成するステップを含むチタノシリケート分離膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法によって多孔質支持体上に製膜され
たCHA型のチタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜を用い、混合ガスを前記チタノシリケート分離膜に接触させて、前記混合ガスから特定成分のガスを分離するガス分離方法であって、
前記混合ガスは、CHA型チタノシリケート結晶の細孔径以上の分子径を有する1種または2種以上の第1ガスおよびCHA型チタノシリケート結晶の細孔径未満の分子径を有する1種または2種以上の第2ガスを含み、
前記第2ガスから選択される1種または2種以上のガスを前記チタノシリケート分離膜および前記多孔質支持体を透過させて分離することを特徴とするガス分離方法。
【請求項3】
前記第1ガスは、メタン、エタン、酢酸、エタノール、2-プロパノール、六フッ化硫黄、ベンゼン、o-キシレン、m-キシレンおよびp-キシレン、トルエン、からなる群から選ばれた1種以上のガスであり、
前記第2ガスは、水素、ヘリウム、水、メタノール、二酸化炭素、アルゴン、酸素および窒素からなる群から選ばれた1種以上のガスであることを特徴とする請求項
2に記載のガス分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油化学分野において混合ガスを分離精製するための緻密性分離膜、およびその製造方法、並びにガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CHA型ゼオライトは注目されているゼオライトの1つである。CHA型構造は3次元の細孔構造を有し、細孔径は約0.38nm(メタンの分子サイズとほぼ同程度)であり、内部に大きなケージを有している。この細孔径0.38nmは、ゼオライト細孔径と物質分子径の差を利用した分子篩作用によって、混合ガスの特定成分を混合ガスから分離する上で、他のゼオライト結晶の細孔径と比較して、水や二酸化炭素等を分離するのに適している。
【0003】
従来のCHA型ゼオライト膜は、骨格内にアルミニウムを含むため、酸や水蒸気によって結晶構造が崩壊するという欠点を有し、適用できる被分離混合ガスの適用範囲が限定されてきた。
【0004】
また、天然ガス精製などのガス分離系では水分が共存するが、アルミニウム原子はゼオライト細孔内で水の吸着を引き起こすため、目的の分離対象物が細孔から出てこられにくくなり、目的とする処理量が得られないという欠点を有している。
【0005】
さらに、ガス分離系は、高温・高圧かつ硫化水素が共存した過酷な分離系となっており、ゼオライトの耐久性が求められている。現在ゼオライトの物理化学特性を向上させるため、Si/Al比を高くした高シリカゼオライト膜や特許文献1に記載された完全にシリカだけで構成された結晶性ピュアシリカ膜が提案されている。
【0006】
また、非特許文献1に記載されたTi-CHAのようにAl原子の一部をTi原子で置き換えた結晶性の高いゼオライトや、特許文献2に記載されたAl原子の全てをTi原子で置き換えたチタノシリケート型ゼオライト膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】國武祐輔、外5名、「FAUゼオライト転換によるTi―CHAゼオライトの合成」、触媒討論会討論会A予稿集、2014年9月18日発行
【文献】国際公開第2017/081841号
【文献】特開2005-262064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の完全にシリカだけで構成された結晶性ピュアシリカ膜でも高温にさらされると、崩壊する欠点を有しており、耐熱性の点で問題を有する。
【0009】
非特許文献1に記載のCHA型ゼオライトの結晶構造中のAl原子を一部Ti原子に置き換えたものは、耐久性や水の吸着性において、従来のCHA型ゼオライトと比較して改善がみられるが、まだ結晶構造中にAl原子が存在しているため、このAl原子を起点として結晶崩壊を起こしたり、透過性能を阻害する水の吸着を起こしたりする。
【0010】
特許文献2に記載のチタノシリケート型ゼオライト膜では、結晶構造中のAl原子が全てTi原子に置き換えられているが、ゼオライト結晶構造がMFI型であり、CHA型ゼオライトの細孔径に比べて大きい。MFI型ゼオライトの細孔径は0.5~0.55nmであるのでメタンやエタン等を含む混合ガスから二酸化炭素や水等を分離するための分離膜として用いることができない。
【0011】
本発明の目的は、MFI型のゼオライト分離膜では分離することができない比較的小さなサイズの分子を含む混合ガスの分離にも使用でき、高温環境下での耐久性が高く、水分を含む混合ガスの分離において水の吸着が少ないチタノシリケート分離膜およびその製造方法、並びに本チタノシリケート分離膜を用いた分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明(1)は、多孔質支持体上に製膜されたCHA型のチタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜であって、前記チタノシリケート結晶構造の骨格に実質的にアルミニウムが含まれず、前記チタノシリケート結晶構造は、珪素、酸素、およびチタンで構成されていることを特徴とするチタノシリケート分離膜である。
【0013】
「実質的にアルミニウムが含まれず」とは、原料として、Alが含有されていないことを意味する。このため、製造過程において、例えば水熱合成の際の耐熱容器等からAlを含む不純物元素が不可避的に混入したとしても、当該不純物が混入した材料は、実質的に不純物を含まないものとして扱う。
【0014】
ゼオライト結晶構造のAlをTiに置き換えることで、TiはSiと同じ4価の元素であるので合成したチタノシリケートが理論上極性を持たず、Tiは酸素(O)との結合エネルギーが非常に高いので、耐熱性等の耐久性の向上や水を吸着しにくくなることで分離性能が向上する。
【0015】
なお、「CHA」とは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association、IZA)が定めたゼオライトを構造により分類したコードである。
【0016】
本発明(2)は、本発明(1)のチタノシリケート分離膜を製造するための原料であって、前記原料は珪素源、チタン源、水、鉱化剤としてフッ化物、を少なくとも含み、構造規定剤としてN,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを含むことを特徴とする原料である。
【0017】
Alを含む通常のCHA型ゼオライトは、鉱化剤としてNaOHなどを含むアルカリ性のゲル中で水熱処理することで得られる。しかしながら、Alを含まないCHA型ゼオライトを合成するための鉱化剤としてNaOH等のアルカリ化合物を用いると、水熱合成を行ってもゼオライトが結晶化(固相化)しないという問題がある。この問題を解決するために、本発明ではNaOHの代わりにフッ化物を用いた。
【0018】
Alを含まないCHA型チタノシリケートを製造するためには、鉱化剤としてフッ化水素酸、フッ化ナトリウムまたはフッ化カルシウムのようなフッ化物と、テンプレートのような役割をする構造規定剤が必要である。本発明では、構造規定剤として1-アダマンタンアミンから誘導されるN,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを用いることで、AlのないCHA型チタノシリケートの合成に成功した。N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを含む構造規定剤であれば、水酸化物であってもハロゲン化物であっても良いが、緻密なCHA型チタノシリケート結晶構造を形成するため、水酸化物を用いるのが好ましい。
【0019】
原料の主成分は、珪素源、チタン源および水からなるので、合成されるCHA型チタノシリケート結晶構造は、実質的に結晶骨格内にAl原子を含まない。この原料には、その他の成分として鉱化剤としてフッ化物および構造規定剤としてN,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを含むので、これまで結晶骨格内の全てのAl原子をTi原子に置き換えることが長く実現できなかったのが、初めて実現できた。
【0020】
本発明(3)は、多孔質支持体上に製膜されたCHA型のチタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の製造方法であって、種結晶を製造するステップと、前記種結晶を上記多孔質支持体上に担持させるステップと、前記種結晶が担持された多孔質支持体に、珪素源、チタン源、フッ化物、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンおよび水を含む原料を混合した合成ゲルを塗布して水熱合成するステップを含むチタノシリケート分離膜の製造方法である。
【0021】
この製造方法を用いることによって、長くCHA型チタノシリケート膜の合成において、全てのAl原子をTi原子に置き換えることが出来なかったのが可能となった。特許文献2に記載の方法で、全てのAl原子をTi原子に置き換えたCHA型チタノシリケート膜の合成が出来なかったのは、この鉱化剤の選択と構造規定剤の選択が本願発明と異なっているからである。
【0022】
本発明(4)は、多孔質支持体上に製膜された請求項1に記載のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜を用い、混合ガスを前記チタノシリケート分離膜に接触させて、前記混合ガスから特定成分のガスを分離するガス分離方法であって、前記混合ガスは、CHA型チタノシリケート結晶の細孔径以上の分子径を有する1種または2種以上の第1ガスおよびCHA型チタノシリケート結晶の細孔径未満の分子径を有する1種または2種以上の第2ガスを含み、前記第2ガスから選択される1種または2種以上のガスを前記チタノシリケート結晶構造および前記多孔質支持体を透過させて分離することを特徴とするガス分離方法である。
【0023】
混合ガスには種々の分子径を有するガス分子が含まれている。本発明(1)のチタノシリケート分離膜は、CHA型のチタノシリケート結晶構造を有するので、分子篩の作用により、MFI型のゼオライト分離膜では分離することができない比較的小さなサイズの分子を含む混合ガスから特定成分のガスを分離することができる。
【0024】
本発明(5)は、前記第1ガスは、メタン、エタン、酢酸、エタノール、2-プロパノール、六フッ化硫黄、ベンゼン、o-キシレン、m-キシレンおよびp-キシレン、トルエン、からなる群から選ばれた1種以上のガスであり、前記第2ガスは、水素、ヘリウム、水、メタノール、二酸化炭素、アルゴン、酸素および窒素からなる群から選ばれた1種以上のガスであることを特徴とする本発明(4)に記載のガス分離方法である。
【0025】
本発明(1)のCHA型チタノシリケート結晶構造の細孔径は0.38nmである。本CHA型チタノシリケート結晶構造を透過できないガスの分子径は、メタンで0.38nm、エタンで0.44nm、酢酸で0.43nm、エタノールで0.43nm、2-プロパノールで0.47nm、六フッ化硫黄で0.55nm、ベンゼンで0.66nm、p-キシレンで0.66×0.38nm、o-キシレンおよびm-キシレンで0.73×0.39nmである。本CHA型チタノシリケート結晶構造を透過できるガスの分子径は、水素で0.29nm、ヘリウムで0.26nm、水で0.30nm、二酸化炭素で0.33nm、アルゴンで0.34nm、酸素で0.346nm、メタノールで0.36nm、窒素で0.364nmである。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、MFI型のゼオライト分離膜では分離することができない比較的小さなサイズの分子を含む混合ガスの分離にも使用でき、高温環境下での耐久性が高く、水分を含む混合ガスの分離において水の吸着が少ないチタノシリケート分離膜およびその製造方法、並びに本チタノシリケート分離膜を用いた分離方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のチタノシリケート分離膜によるガス分離の模式図を示す。
【
図2】従前のアルミニウム元素を含むゼオライト膜の結晶構造と本発明のアルミニウム元素がチタン元素に置き換わったCHA型のチタノシリケート結晶構造を模式的に示す図である。
【
図3】実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の表面の電子顕微鏡像である。
【
図4】実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の表面のX線回折パターンである。
【
図5】実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の種々の温度に対する、種々のガスの透過度試験の結果を示す。
【
図6】Al含有CHA型(Al-CHA)ゼオライトの1000℃耐熱試験前後のX線回折パターンである。
【
図7】オールシリカCHA型(オールSi-CHA)ゼオライトの1150℃耐熱試験前後のX線回折パターンである。
【
図8】本発明によるCHA型チタノシリケートのSi/Ti比を変動させたときの1150℃耐熱試験前後のX線回折パターンである。
【
図9】Al含有CHA型ゼオライト(Al-CHA)粉末と本発明によるCHA型チタノシリケート粉末の水蒸気吸着等温線の比較を示す。
【
図10】オールシリカCHA型(オールSi-CHA)ゼオライト粉末と本発明によるCHA型チタノシリケート粉末の水蒸気吸着等温線の比較を示す。
【
図11】Al-CHA型ゼオライト分離膜と本発明によるCHA型チタノシリケート分離膜のCO
2透過度比とCO
2/CH
4選択率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
つぎに、本発明の実施の形態を実施例とともに説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
多孔質支持体は、特に限定されるものではないが、アルミナセラミック製の支持体であることが好ましい。本発明によるチタノシリケート分離膜の製造工程は、種結晶の調製工程とCHA型チタノシリケート結晶構造の合成工程の2つに分けることができる。種結晶の調製工程も、CHA型チタノシリケート結晶構造の合成工程も、原料は、珪素源、チタン源、水、鉱化剤としてフッ化物、を少なくとも含み、構造規定剤としてN,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを含んでいる。
【0030】
<種結晶の調製工程>
珪素源としてColloidal silica、チタン源としてTiO2、構造規定剤としてN,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオン、鉱化剤としてフッ化水素酸、フッ化ナトリウムまたはフッ化カルシウムのようなフッ化物を用いる。TiO2はアナターゼ型が好ましい。N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンを含む構造規定剤としては水酸化物が好ましく、実施例では、N,N,N-trimethyl-1-adamant ammonium hydroxide (TMAdaOH)を用いた。
【0031】
Colloidal Silica (40wt%)、TiO2(アナターゼ型)およびTMAdaOH(25wt%、SACHEM社製)を混合し、混合溶液が中性となるようにHF (46wt%)を加えた。その後200℃で加熱および250rpmで撹拌し、H2Oを蒸発させた。生成物をメノー乳鉢で粉砕し、H2Oを加えて、合成ゲルを調製した。ゲルのモル比は、1SiO2:xTiO2:1.4TMAdaOH:1.4HF:6.0H2Oである。(x:実施例ではSi/Ti=15、30および57となるように決定した。)調製したゲルをオートクレーブに移し、オーブンを用いて150℃で24時間水熱処理した。オートクレーブをオーブンから取り出し冷却後、ろ過にて生成物を回収した。イオン交換水で生成物を洗浄し、24時間減圧乾燥した。最後に、焼成炉にて700℃で10時間焼成することで、CHA型チタノシリケート粒子を得た。
【0032】
<CHA型チタノシリケート結晶構造の合成工程>
次に種結晶を上記多孔質支持体上に担持させる。担持させる方法は特に限定されないが、擦り込み法(ラビング法)によるのが好ましい。珪素源、チタン源、フッ化物、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンおよび水を含む原料を混合して合成ゲルを製造し、前記種結晶が担持された多孔質支持体に塗布して水熱合成する。上記合成ゲルの原料は、種結晶の調製工程で用いる原料と同様である。実施例では、合成したCHA型チタノシリケート粒子を種結晶として、擦り込み法(ラビング法)によりアルミナ多孔質支持体(日立造船(株)製、外径16mm、内径12mm)に担持した。合成ゲル材料には、珪素源としてColloidal silica(40wt%)、構造規定剤としてN,N,N-trimethyl- 1-adamant ammonium hydroxide(TMAdaOH)(25wt%、SACHEM社製)およびチタン源としてTiO2(アナターゼ型)を使用した。Colloidal Silica、TiO2およびTMAdaOHを混合し、混合溶液が中性となるようにHF(46wt%)を加えた。その後200℃で加熱および250rpmで撹拌し、H2Oを蒸発させた。生成物をメノー乳鉢で粉砕し、下記に示す組成になるようにH2Oを加えた。調製する合成ゲルの最終モル組成は1SiO2:xTiO2:1.4TMAdaOH:1.4HF:6.0H2Oである。(x:実施例ではSi/Ti=15、30、57となるように決定した。)調製した合成ゲルをラビング後の支持体表面に塗布し、合成ゲルが流れ落ちないように全面をPTFEテープでシールした。合成ゲルを塗布した支持体をオートクレーブに移し、150℃で72時間水熱合成を行った。合成後、支持体を水洗し、24時間減圧乾燥を行った。その後、焼成炉にて580℃で12時間焼成した。
【0033】
図1は、本発明のCHA型チタノシリケート分離膜によって、ガスを分離している様子を模式的に示している。多孔質支持体は、多孔質部とキャップ形状の緻密質部と管状の緻密質部からなっている。多孔質部の表面にCHA型チタノシリケート結晶構造が形成されている。被分離ガスを含む供給ガスが左方から供給され、CHA型チタノシリケート結晶構造の細孔を透過できる分子径を有するガスはCHA型チタノシリケート結晶構造および多孔質部を通過して管の内部を右方向に流れていく。CHA型チタノシリケート結晶構造の細孔を透過できない分子径を有するガスは、管の外部を流れるので、供給ガスを分離することができる。管の外部の圧力を管の内部の圧力よりも高くすることによって、透過ガスが管の外部から内部へ流れ込むようになされている。
多孔質支持体は、特に限定されるものではないが、アルミナ支持体(日立造船(株)製)であることが好ましい。多孔質支持体の直径は10~50mm、長さは500~1500mmであることが好ましい。CHA型チタノシリケート結晶構造の厚さは、特に限定されるものではないが、薄く製造出来れば良く1.0~10.0μm程度であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明によるAlを実質的に含まず、Si、Ti、OからなるCHA型チタノシリケート結晶構造をTi-CHAとも略称し、従来のAlを含むゼオライト膜をAl-CHAとも略称し、オールシリカ(ピュアシリカ)のゼオライト膜をAll SilicaまたはオールSi-CHAとも略称することがある。
【0035】
図2は、ゼオライト結晶構造を模式的に示す。矢印の左側は、従来のAl原子を結晶構造内に含むもので、矢印の右側が本発明のCHA型チタノシリケート結晶構造を示している。Al原子を実質的に含まず、結晶構造は、Si、Ti、Oから構成されている。
【0036】
図3は、実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の表面の電子顕微鏡像(SEM)である。
図3を見ると、CHA型チタノシリケート特有の結晶が隙間なく形成されていることがわかる。合成後のCHA型チタノシリケート結晶構造のSi/Ti比が347となる合成のための原料のSi/Ti比は30であった。なお、合成後のCHA型チタノシリケート結晶構造のSi/Ti比が45となる合成のための原料のSi/Ti比は15であり、CHA型チタノシリケート結晶構造のSi/Ti比が578となる合成のための原料のSi/Ti比は57であった。
【0037】
図4は、実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の表面の周方向4箇所(約90°間隔)で取得したX線回折パターンである。このパターンより、合成されたCHA型チタノシリケート結晶構造は、CHA型であると同定することができた。
【0038】
図5は、実施例でアルミナ支持体上に製膜されたSi/Ti比=347のCHA型チタノシリケート結晶構造を有するチタノシリケート分離膜の種々の温度に対する、種々のガスの透過速度試験の結果を示す。
【0039】
調製したチタノシリケート分離膜のガス透過特性をH2(0.29nm)、CO2(0.33nm)、N2(0.364nm)、CH4(0.38nm)およびSF6(0.55nm)を用いて評価した。膜間差圧は0.1MPa、測定温度は40、80、120および160℃とした。透過流速(ml/s)を、石鹸膜流量計を用いて測定した。得られた結果から、それぞれのガスの透過速度Pi[mol/m2sPa]および選択率αsingle[-]を以下の式(1)、(2)を用いてそれぞれ算出した。
【0040】
【0041】
【数2】
ここで、P
i、q
iおよびΔp
iはそれぞれi成分の透過速度(透過度)[mol/m
2sPa]、透過量[mol/s]、分圧差[Pa]であり、Sは膜面積[m
2]である。P
xおよびP
yは、xおよびy成分の透過度[mol/m
2sPa]である。
【0042】
図5は、チタノシリケート分離膜の測定温度に対する単ガスの透過速度を示している。測定温度が40℃の時、CO
2透過速度が1.5×10
-6molm
-2s
-1Pa
-1と非常に高い値が得られた。
【0043】
次に、表1に各ガスの選択率について示す。CHA型チタノシリケート結晶構造の細孔径(0.38nm)と同じ大きさを持つCH4、それより大きいSF6に対するH2、CO2の選択率は高い値を得ることが出来た。これは、分子ふるい効果によるものと考えられ、緻密な膜が合成できていることが確認された。
【0044】
【表1】
図6は、Al-CHA型ゼオライトの耐熱試験前のX線回折パターンと1000℃の熱負荷後のX線回折パターンを示す。耐熱試験後では、CHA型ゼオライト特有の回折パターンが消失しており、Alを骨格に含むゼオライトでは耐熱性が悪いことがわかる。なお、この試験に供したAl-CHA型ゼオライトのSi/Al比は10である。
【0045】
図7は、オールSi-CHA型ゼオライトの耐熱試験前のX線回折パターンと1150℃の熱負荷後のX線回折パターンを示す。耐熱試験後では、CHA型ゼオライト特有の回折パターンが残っており、Alを骨格に含まないオールSi-CHA型ゼオライトは、耐熱性が良いことがわかる。
【0046】
図8は、CHA型チタノシリケートの耐熱試験前のX線回折パターンと1150℃の熱負荷後のX線回折パターンを示す。耐熱試験後では、CHA型チタノシリケート特有の回折パターンが残っており、Al原子がTi原子に置き換わったCHA型チタノシリケートは、オールSi-CHA型ゼオライトと同様に耐熱性が良いことがわかる。ここで、Si/Ti比を45、347、578と変化させても耐熱性に変化は見られなかった。これによって、Al原子をTi原子に置き換えたCHA型チタノシリケートは、Si/Ti比の影響を受けることなく良い耐熱性を有していることがわかった。
【0047】
図7と
図8のX線回折パターンにおいて、耐熱試験前に対する耐熱試験後の2θが21°付近のピーク高さ比を比較した結果を下記表2に示す。
【0048】
【表2】
表2の結果をみると、本発明によるCHA型チタノシリケートはいずれも、オールSi-CHA型ゼオライトと比較してさらに高い耐熱性能を示していることがわかる。
【0049】
表3は、耐熱試験前後のBET比表面積(a
sBET)とミクロ孔細孔容積V
t-plotを、Al-CHA型ゼオライト、オールSi-CHA型ゼオライトおよびCHA型チタノシリケートについて測定した結果を示す。耐熱試験条件は、
図6~
図9に結果を示す試験における条件と同じである。BET比表面積の測定は、マイクロトラックベル社製のBET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による測定器BELSORPによって測定した。ミクロ孔細孔容積の測定は、マイクロトラックベル社製のt-plot法による測定器BELSORPによって測定した。
【0050】
【表3】
表3の試験結果から求めた、試験前の値に対する試験後の比率(%)を下記表4に示す。
【0051】
【表4】
表4の結果を見ると、Al-CHA型ゼオライトよりもオールSi-CHA型ゼオライトの方が試験前後の変化が少なく、耐熱性が良い。また、オールSi-CHA型ゼオライトよりもCHA型チタノシリケートの方がさらに試験前後の変化が少なく、耐熱性がより良い結果となっている。なお、この試験に供したAl-CHA型ゼオライトのSi/Al比は10である。
【0052】
図9は、Al-CHA型ゼオライトとCHA型チタノシリケートの水蒸気吸着等温線である。ここで、横軸のP/P
0は、相対圧を示しており、P
0は313Kでの飽和水蒸気圧である。縦軸は、水吸着量である。実線が吸着時で点線が脱離時の曲線である。この測定は、マイクロトラックベル社製の定容量法による測定器Belsorp-maxによって測定した。
【0053】
Al-CHA型ゼオライトと比較して、CHA型チタノシリケート(Si/Ti比347)の水吸着量は大幅に低減されていることがわかる。
【0054】
図10は、オールSi-CHA型ゼオライトとCHA型チタノシリケート(Si/Ti=578、347、45)の水蒸気吸着等温線である。オールSi-CHA型ゼオライトと比較して、CHA型チタノシリケートの水吸着量は低減されていることがわかる。その低減量は、Si/Ti比が小さくなるほど(Tiの成分が多くなるほど)より大きくなり好ましいことがわかる。
【0055】
図11は、混合ガス(CO
2/CH
4比が50/50)中に水蒸気が含まれている場合における、水蒸気含有量がCO
2の透過度比とCO
2/CH
4の選択率に及ぼす影響を、CHA型チタノシリケート膜とAl-CHA型ゼオライト膜とを比較して示した図である。
【0056】
試験条件として、膜間差圧0.1MPa、温度40℃、水蒸気濃度は、体積濃度で、0%、0.1%、0.2%、1.0%、2.0%、5.0%の6つの場合で測定をした。
【0057】
図11のグラフで、左側縦軸は、CO
2の透過度比(Permeance ratio)(%)で、このCO
2の透過度比は、混合ガス中に水蒸気が含まれる場合の透過度Pwetを水蒸気が含まれない場合の透過度Pdryで除したときの割合(%)である。なお、この試験に供したAl-CHA型ゼオライトのSi/Al比は10である。
【0058】
図11のグラフをみると、CO
2の透過度比については、CHA型チタノシリケート膜のほうがAl-CHA型ゼオライト膜に比べて有意に高く、水蒸気が1%以上含まれる混合ガスに対しては、約2~8倍程度高くなっている。
【0059】
CO2/CH4の選択率についても、CHA型チタノシリケート膜のほうがAl-CHA型ゼオライト膜に比べて有意に高く、水蒸気が1%以上含まれる混合ガスに対しては、約2~18倍程度高くなっている。