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特許7090294耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法及びその関連製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法及びその関連製品
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20220617BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C01B33/18 D
F16L59/02
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020078939
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021172566
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】519395466
【氏名又は名称】台湾気凝膠科技材料開発股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Taiwan Aerogel Technology Material Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】陳 建宏
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104556969(CN,A)
【文献】特表2012-525290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0160446(US,A1)
【文献】特表2019-503952(JP,A)
【文献】特開2019-089707(JP,A)
【文献】特表2010-521399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン化合物、オレフィン基シロキサン化合物及びR基-シリコンオリゴマーのうちのいずれか又はそれらの少なくとも1種を含む混合物と混合溶剤とを混合し、混合溶液を形成する混合ステップと、
酸触媒を前記混合溶液に添加して加水分解反応を進行させる加水分解ステップと、
アルカリ触媒を前記混合溶液に添加し、重縮合反応を進行させ、重縮合反応中に分散溶媒を添加し、高速攪拌して、前記混合溶液を前記分散溶媒に分散して均一な構造で粒径が数百nm~数百μmの範囲の大きさのエアロゲルのウェットゲルが形成する、或いは前記重縮合反応中に分散溶媒を添加することで、前記混合溶液がより均一な構造のエアロゲルのウェットゲルを形成し、大量の分散溶媒雰囲気下で前記エアロゲルのウェットゲルを破砕し、前記エアロゲルのウェットゲルを粒径が数百μm~数十mmの範囲の大きさになるまで破砕すると共に前記分散溶媒中に分散する重縮合ステップと、
特定の温度下で前記エアロゲルのウェットゲルの熟成を行い、前記エアロゲルのウェットゲル構造を安定化させる熟成ステップと、
常圧下で高温水の脈動作用を利用して前記エアロゲルのウェットゲル内の有機成分または溶剤を前記エアロゲルのウェットゲルが乳白状になるまで交換する高温脈動水による洗浄ステップと、
前記溶剤を高温蒸留により排除または濾過機により濾過した後、前記エアロゲルのウェットゲルを高温乾燥することで高い孔隙率及び高い比表面積の疎水性エアロゲル粒子を得る乾燥ステップと、
前記疎水性エアロゲル粒子と無機繊維とを攪拌機で混合し、均一に分散した無機混合物質を形成し、その後無機ゲル溶液を添加し、前記疎水性エアロゲル粒子、前記無機繊維、及び前記無機ゲル溶液の相互作用により粘着性を有するエアロゲル複合ゲル状物質を形成するブレンドステップと、を含むことを特徴とする疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項2】
前記シロキサン化合物はテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランであり、前記オレフィン基シロキサン化合物はメチルトリメトキシシランまたはメチルトリエトキシシランであり、前記R基-シリコンオリゴマーはポリジメチルシリカゲル(PDMS)またはシリカゲル前駆物質(DMDMS)であり、前記R基はシリカゲル分子鎖末端に接続される官能基で、酸基-COOH、アミン基-NH、イミド基-NH-、ポリアミン基-NH-NH、ヒドロキシ基-OH、エポキシ基イソシアネート基-N=C=O、またはイソシアヌル基-N-CO-N-を含み、且つ炭素数はC1~C6の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項3】
前記混合溶剤は水、処理水、脱イオン水、エタノール、トルエン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ポリビニルアルコール、またはヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドであることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項4】
前記混合溶剤は第一成分及び第二成分を含み、第一成分は水、アルコール類、芳香族類、及びアルキル類よりなる群のうちの1種類以上の物質を含み、第二成分は乳化剤及び界面活性剤よりなる群のうちの1種類以上の物質を含み、前記界面活性剤は陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、双性イオン界面活性剤、或いは非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項5】
前記重縮合ステップで用いられる分散溶媒は、水、二次水、アルコール類、芳香族類、アルキル類のうちの1種類以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項6】
前記高温脈動水による洗浄ステップにおける水温は50℃~95℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項7】
前記乾燥ステップにおける高温蒸留排除は90℃~160℃の常圧条件下で高速乾燥が行われ、高温乾燥は流動層乾燥機、恒温槽、ドラム式乾燥機、ブレンド乾燥機、スプレー乾燥機、または真空乾燥機により90℃~250℃の範囲で行われることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項8】
前記ブレンドステップは、前記疎水性エアロゲル粒子を攪拌機の攪拌力により無機繊維と混合し、均一に分散した無機混合物質を形成し、前記無機混合物質に無機ゲルを添加し、前記エアロゲル粒子、前記無機繊維、及び前記無機ゲルの相互作用により粘着状のエアロゲル複合ゲル状物質を形成した後、水、粘着剤、分散剤、またはエアロゲル粉末を添加することで前記エアロゲル複合ゲル状物質の粘度を調整するステップに代替可能であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項9】
前記無機ゲルとして、リン酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、硼酸塩、及び金属酸化物よりなる群のうちの1種類以上が選択され、前記リン酸塩はリン酸ジルコニウムまたはリン酸‐酸化銅であり、前記ケイ酸塩はケイ酸アルミニウムまたは水ガラスであり、前記金属酸化物は銅、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、またはランタン系元素の酸化物であることを特徴とする請求項8に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【請求項10】
前記無機繊維として、セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、酸化繊維、岩綿繊維、及び金属酸化物繊維よりなる群のうちの1種類以上が選択されることを特徴とする請求項1に記載の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法及びその関連製品(a method for producing a cold resisting and heat insulating composite gel composed of a hydrophobic aerogel and the related product thereof)に関する。複合ゲル状物質は耐寒性、低温耐性、断熱性、及び撥水性を兼ね備える。本発明は、特に、エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法及びその関連製品に関し、-200℃~300℃の温度範囲に耐え得る複合ゲル状物質に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは立体網状構造を有する多孔材料であり、低密度(0.003g/cm~0.2g/cm)、高比表面積(500m/g~2、000m/g)、及び低熱伝導率(0.02w/mK~0.036w/mK)等の特性を有するハイテク製品である。孔隙率が95%以上に達し、エアロゲル内部に大量の空気が含まれるため、外観は透明を呈し、低い熱伝導係数、低い音伝導率、及び低い誘電率等の特徴があり、エアロゲルが極めて優れた断熱性、遮音性、電気絶縁性、高い吸着性、及び高効率の濾過性能を有する。
【0003】
しかしながら、実際の使用において、上述の機能を実現するには、エアロゲルを岩綿、ガラス繊維、或いは炭素繊維等の基材に均一に分散してエアロゲル断熱ブランケットを形成する必要があった。現在よくあるエアロゲル断熱ブランケットは粉を吹きやすく、-200℃~300℃の温度範囲で繰り返し使用すると、水分子が氷点温度に近付いた際にエアロゲル断熱ブランケットに滲入し、ブランケット内に氷塊が形成される。そのため、エアロゲル断熱ブランケットが敷設された管路が錆びたり、断熱ブランケット構造が破壊されたりすることがあった。また、従来のエアロゲル断熱ブランケットは一般的な有機粘着剤によりエアロゲル粉体と粘結されて形成されるため、300℃の温度で有機粘着剤が開裂し始めると共に大量の有毒ガスや悪臭を放出し、エアロゲル断熱ブランケットに顕著な開裂が発生し、断熱効果が低下した。上述の現象は全てのエアロゲル断熱ブランケットが配置される管路を腐食させて人や環境に被害を与える。このため、現在遠洋漁業、生鮮食品運送業、及び低温製造に関連する産業界では、断熱性能が更に優れ、高温でも火災を発生させない新たな低温断熱製品が切実に求められている。
【0004】
従来のエアロゲルの製造方法は、ゾルゲル法を基礎とする。まずアルコキシシラン化合物(alkoxysilane)、オルトケイ酸テトラメチル、或いは水ガラス等の前駆物質と有機溶剤とを混合した後、加水分解反応(hydrolysis)が生じるように酸触媒を添加する。一定時間加水分解を行った後、凝集(重縮合)反応(condensation)が生じるようにアルカリ触媒を添加すると、重縮合過程でゾルが徐々に形成され、ゾル内の分子が持続的に結合して半固体の高分子ゲルが徐々に形成される。その後、一定時間熟成(aging)した後、ゾルが安定した構造の立体網状構造が形成される。その後、ブタノール、n-ヘキシルアルコール、n-ヘキサン、或いはシクロヘキサン等の溶剤を使用して溶剤交換を行い、超臨界乾燥技術により立体網状構造内の溶剤を抽出して乾燥し、多孔性の乾燥疎水性エアロゲル粉末を得る。
【0005】
疎水性エアロゲルの製造方法もゾルゲル法を基礎とする。まずオレフィン基シロキサン化合物(例えば、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane:MTMS)やトリエトキシメチルシラン(methyltriethoxysilane:MTES))等の前駆物質と有機溶剤とを混合した後、加水分解反応が生じるように酸触媒を添加する。一定時間加水分解を行った後、凝集(重縮合)反応を生じさせることで、凝集過程でゲルが徐々に形成される。次いで、ブタノール、n-ヘキシルアルコール、n-ヘキサン、或いはシクロヘキサン等の溶剤を使用して溶剤交換を行い、溶剤交換の完了後に常温常圧または高温常圧で乾燥を行う。または、アルコキシシラン化合物(例えば、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane:TEOS)やテトラメトキシシラン(tetramethoxysilane:TMOS))等の前駆物質と有機溶剤とを混合した後、加水分解反応が生じるように酸触媒を添加し、一定時間加水分解を行った後、凝集反応が生じるようにアルカリ触媒を添加すると、凝集過程で安定した構造の立体網状構造が徐々に形成される。
最後に、ブタノール、n-ヘキシルアルコール、n-ヘキサン、またはシクロヘキサン等の溶剤を使用して溶剤交換を行い、クロロトリメチルシランまたは疎水性シラン等の修飾材料により疎水の修飾を行い、疎水性官能基構造と立体網状構造とを化学結合させる。最後に、常圧乾燥技術によりエアロゲル内の溶剤を乾燥し、多孔性の乾燥エアロゲルバルク材を獲得する。
【0006】
例えば、特許文献1には「エアロゲル粒子及びその製造方法」が記載されている。具体的には、平均粒径が1μm未満であるエアロゲル粒子、そのエアロゲル粒子を含む製品、そのエアロゲル粒子を製造する方法、及びそのエアロゲル粒子の用途が開示されている。公開されている製造方法によると、エアロゲルの初期粒子を均一させ、またはエアロゲルの初期粒子に対して湿式研磨加工を行い、且つエアロゲルの初期粒子に研削加工期間に表面処理を施すことで凝集や集中を防止する。得られたエアロゲル粒子は下記特性を有する。
(1)シリカゲル粒子を含む。
(2)少なくとも80%が1μm未満の粒径を有する。
(3)平均粒径が0.1μm~1μmの範囲である。
(4)疎水性を有する。このような疎水性エアロゲル粒子の製造では、研磨加工によりエアロゲルを平均化するか湿式研磨加工を行う必要があり、容易に製造プロセスを実行できず、コストパフォーマンスも優れない。
【0007】
また、例えば、特許文献2には「疎水性二酸化ケイ素エアロゲル断熱複合材料の製造方法」が記載されている。具体的には下記ステップを含む。
(1)二酸化ケイ素ゾルの製造ステップ。シロキサンを前駆物質とし、有機溶剤、水、及び酸触媒剤を添加し、
二酸化ケイ素ゾルを得る。
(2)複合ゲルの製造ステップ。二酸化ケイ素ゾルに断熱剤及び赤外線遮断剤を添加すると共に均一に攪拌した後、アルカリ触媒剤を添加すると共に無機繊維製品を二酸化ケイ素ゾル中に浸漬して静置する
(3)溶剤交換ステップ。有機溶剤を用いて複合ゲルの溶剤交換を行う。
(4)乾燥ステップ。複合ゲルを乾燥する。
先行技術では無機繊維製品を二酸化ケイ素ゾル中に浸漬し、0℃~80℃で0.01時間~72時間静置し、複合ゲルを得る。次いで、0℃~80℃で0時間~96時間熟成を行う。その後、有機溶剤を用いて熟成後の複合ゲルを1回約1時間~48時間で1回から10回溶剤交換を行う。以上の製造プロセス全体に要する時間は冗長であり、コストパフォーマンスが低かった。
【0008】
なお、特許文献3には「エアロゲル複合物及びその製造方法並びに使用方法」が記載されている。複合物はエアロゲル成分を含むと共に低い熱伝導率を有する。また、ゲル材料または複合材料の製造方法において、約60vol%~95vol%のエアロゲル成分は、セメント、石膏、石灰またはそれらが任意で組み合わせられた無機粘結剤、及び表面活性剤の組み合わせから選択されるステップを含む。また、乾燥後に得られた複合物は自己支持剛性複合材料であり、約20mW/mK未満の熱伝導率を有する。この先行技術によるエアロゲルは疎水性であり、これら疎水性エアロゲルはセメント、石膏、または石灰等の無機粘結剤と均一に混合しにくかった。また、疎水性エアロゲルの問題点は、使用温度が350℃以上の高温の場合、急速に開裂して有毒な濃煙が発生することである。
【0009】
さらに、特許文献4には「多孔材料及びその製造方法」が記載されている。主にアルコキシシラン化合物(例えば、TEOS)またはケイ酸塩化合物(例えば、水ガラス)と有機溶剤とを混合してゾルゲル反応を進行させ、さらに修飾剤により修飾を行って多孔材料を得る。これにより、多孔材料の表面の親水性官能基が疎水性官能基に交換され、エアロゲルが水分の表面張力の影響により破裂することが防がれるため、室温常圧下での乾燥が可能となる。
【0010】
特許文献5には「電熱複合セラミックれんが及びその製造方法」が記載されている。ここでは電熱フィルムを発熱素子とし、55wt%~75wt%のエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、変成シリコン樹脂等の有機粘結剤が含まれるが、これらの有機物は加熱中に有毒ガスを放出しやすい。
【0011】
現在市場に出回る耐寒性断熱製品は、主に有機発泡スポンジまたは発泡スポンジチューブ等の多孔性発泡材を、有機プラスチック材料を利用した発泡加工によって製造される多孔プラスチック構造である。このような発泡技術を利用することによって多孔性有機発泡スポンジが軽質で優れた断熱効果を有するようになり、その熱伝導率は約0.04W/mK~0.06W/mKとなる。但し、使用温度が150℃以下であり、高温ではすぐに開裂して有毒濃煙を発生させてしまうという欠点があった。また、低温下で使用すると水分子が発泡スポンジ内部で凝結し、断熱効果が失われてスポンジが配置される内部管路に重度の錆が生じた。
【0012】
また、-100℃の低温から300℃の高温の温度範囲で循環使用可能な発泡多孔質セラミック材料も少数ながら存在する。製造される多孔質セラミック板は主に発泡セラミック、ハニカムセラミック、或いは粒状セラミック結合体であり、全て高温焼成されるケイ酸塩セラミック材料である。このような多孔質セラミック板の本質的な構造は高密度セラミック構造であり、発泡技術を使用するため軽質で薄く、難燃性が高い。しかしながら、低温で水分子が凝結する環境では、発泡多孔質セラミック材料内部に大量の水分が蓄積して断熱性が低下する。最も重要なことは、多孔質セラミックは内部に大量の水分が蓄積した後、高温環境になるまで急速に加熱されると多孔質セラミックが破裂し、工場の安全性に影響が及ぶことである。さらには、内部の金属管路に連続的な腐食が生じ、管路が損壊する。これらの現象は動作中の管路の原料漏れや爆発等の事故に繋がる危険性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】中国特許出願公開第CN101679657B号明細書
【文献】中国特許出願公開第CN104556969A号明細書
【文献】中国特許出願公開第CN105753388A号明細書
【文献】日本特許出願公開第JP200835648号明細書
【文献】中国特許出願公開第CN105025598A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明者は上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に解決する本発明の提案に至った。
【0015】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、本発明の第一の目的は、従来のエアロゲル断熱ブランケットの欠陥及び環境汚染等の関連する欠点を解決することである。
【0016】
また、本発明の第二の目的は、火炎に対しても高い断熱性と少ない開裂という特性を有する二酸化ケイ素エアロゲル材料及び無機繊維を提供する。無機ゲル水溶液及び極少量の撥水剤等の物質を混合して得られたエアロゲル複合ゲル材料を乾燥した後に、超撥水性及び高い断熱性を有するエアロゲル断熱板または断熱れんがが得られる。
【0017】
また、本発明の別の目的は、従来使用されている有機発泡スポンジまたは発泡スポンジチューブが200℃の高温ですぐに開裂して有毒濃煙が発生し、生産ライン及び人員に被害が及ぶという課題を解決することができる。また、有機発泡スポンジは低温環境では水分が蓄積して水滴がつき、内部管路に重度の錆が生じる問題も改善する。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、従来のエアロゲル断熱ブランケットは高温環境に適用できないという問題を改善することである。また、従来の疎水性エアロゲルにより製造された関連する断熱ブランケット製品は、300℃の高温では内部の疎水性エアロゲル及び関連する有機物質が熱により開裂し、粉を吹く等の問題も改善する。
【0019】
また、本発明のさらに別の目的は、エアロゲルの製造過程において、従来の疎水性エアロゲルの製造に用いられる溶剤交換、疎水修飾、及び高コストな超臨界乾燥技術を用いて疎水性エアロゲルを生産するステップに代替することである。具体的には、疎水性エアロゲルの製造中に短時間の脈動水による洗浄技術を用いてエアロゲル生成物を製造することで、製造コストを削減し、歩留まりを高める。
【0020】
また、本発明のさらなる目的は、製造したエアロゲル複合ゲルを利用吹き付け塗装、吸圧、或いは糊付け等の従来の加工技術により各種金属、セラミック、木材、プラスチック等の材料に簡単に直接塗布し、後続の加工及び作業を便利にすることである。
【0021】
また、本発明のさらにさらなる目的は、製造したエアロゲル複合ゲルを、吹き付け塗装、吸圧、或いは糊付けにより一般的な無機繊維生地または繊維ブランケット、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、岩綿繊維、炭素繊維等の無機繊維ブランケットに結合し、柔軟性、撥水性、及び断熱性を有するエアロゲル断熱ブランケットを得、断熱性及び耐寒性が求められる室内及び室外に適用可能にすることである。
【0022】
本発明では、シロキサン系化合物の混合及びゾルゲル法等の技術を結合し、超疎水性エアロゲル、無機繊維、無機ゲル水溶液、及び少量の分散剤等の材料を互いに均一に混合し、疎水性エアロゲル複合ゲル材料を形成する。そのため、疎水性エアロゲル複合ゲル材料は、疎水性エアロゲル及び親水性無機繊維が均一に混合され、優れた断熱性及び難燃性を兼ね備えている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法は、下記ステップを含む。
(1)シロキサン系混合物を混合溶剤に添加して混合溶剤中に分散させ、均一な混合溶液を形成する混合ステップである。
(2)加水分解反応が生じるように酸触媒を混合溶液に添加する加水分解ステップである。
(3)凝集(重縮合)反応が生じるように加水分解後の混合溶液にアルカリ触媒を添加し、凝集(重縮合)溶液が大量の分散溶剤中で安定した液滴を形成し、分散溶剤により粒径がサブミクロン~マイクロメートル級のサイズの安定したウェットゲル構造が形成されるように凝集過程において大量の分散溶剤を添加するとし乳化分散を行う凝集(重縮合)ステップである。
(4)特定の温度範囲でウェットゲル構造の熟成を行い、ウェットゲル構造中の未結合部分を相互に結合させ、更に安定したウェットゲル構造を形成させる熟成ステップである。
(5)常圧高温条件下で大量の脈動水により洗浄を行うことで、乳白色の透明状を呈するまでウェットゲル内の溶剤を高速で交換する高温脈動水による洗浄ステップである。
(6)常圧下でウェットゲル中の溶剤の蒸発乾燥を行う。乾燥過程では約80℃~90℃の環境下でウェットゲル構造中の水分子を高速に脱離させ、断熱性を有する疎水性エアロゲル粒子を獲得する乾燥ステップである。
(7)溶剤の蒸発乾燥によって得られたエアロゲル粒子を無機繊維と共に攪拌機内で相互に混合し、均一に分散した無機混合物質を形成し、その後、無機ゲル水溶液を添加することで、エアロゲル粒子、無機繊維、及び無機ゲル水溶液の相互作用により粘着性を有するエアロゲル複合ゲル状物質を形成させる。次いで、ゲル状物質の粘度を調整するように水、粘着剤、分散剤、撥水剤、またはエアロゲル粉末を添加する。得られたゲル状物質中の疎水性エアロゲル粒子の含量は35v/v%~50v/v%の範囲であり、無機繊維は10v/v%~25v/v%の範囲であり、無機ゲル水溶液及び分散剤等は35v/v%~55v/v%の範囲である。乾燥ゲル状物質により得られたエアロゲル断熱板中では、エアロゲル及び無機繊維の総含量は約75wt%~95wt%を占めるブレンドステップである。
【0024】
さらに、シロキサン系混合物は、シロキサン化合物(アルコキシシラン:alkoxysilane)、オレフィン基シロキサン化合物、及びR基-シリコンオリゴマーよりなる群のうちの1種類以上を含む。シロキサン化合物はテトラメトキシシラン(tetramethoxysilane:TMOS)やテトラエトキシシラン(tetraethoxysilane:TEOS)等であり、以上の分子は本発明では主にエアロゲルに網状構造の結合点となり密度を向上させ、構造強度を強化する。オレフィン基シロキサン化合物は、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane:MTMS)やトリエトキシメチルシラン(methyltriethoxysilane:MTES)等であり、以上の分子は本文では主にエアロゲルに疎水性特性を付与し、柔軟性を高めてエアロゲル構造の環境安定性を向上させる。或いは、R基-シリコンオリゴマーは、ポリジメチルシリカゲル(polydimethylsiloxane:PDMS)やシリカゲル前駆物質(DMDMS)等であり、以上の分子は本発明では主にエアロゲルに弾性と柔軟性を与え、エアロゲル構造の環境安定性を高める。R基はシリコンオリゴマーの鎖末端に接続する官能基である。
【0025】
さらに、混合溶剤は第一成分及び第二成分を含む。第一成分は水、アルコール類、芳香族類、及びアルキル類よりなる群のうちの1種類以上の物質を含み、第二成分は乳化剤及び界面活性剤よりなる群のうちの1種類以上の物質を含む。
【0026】
さらに、加水分解に用いられる酸触媒は硫酸、リン酸、硝酸、及び硝酸よりなる群のうちの1種類以上の成分を含む。
【0027】
さらに、混合溶剤中の界面活性剤は陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、双性イオン界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤よりなる群のうちの1種類以上の成分を含む。
【0028】
さらに、凝集(重縮合)に用いられるアルカリ触媒は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸二水素ナトリウムよりなる群のうちの1種類以上の成分を含む。
【0029】
さらに、凝集ステップで用いられる分散溶媒は、水溶液または製造プロセスに必要な親水性溶剤及び疎水性溶剤を調製することで生成される混合溶媒を含む。凝集反応過程中に大量の分散溶媒(例えば、水、二次水、アルコール類、芳香族類、アルキル類のうちの1種類以上の混合)を添加することで、混合溶液を大量の分散溶媒の作用下で高速にゲル化させてウェットゲルを形成させると共に大量の孔を生成させる。親水性溶剤及び疎水性溶剤の調合比例により分散溶媒及び混合溶液の相互作用を制御し、形成された液滴が凝集結合過程でミクロ相分離及びゲル化する現象を更に制御し、これにより形成されるウェットゲル分子の粒子の大きさ及び孔の分布等の特性を制御する。
【0030】
さらに、高温脈動水による洗浄ステップでは、高温脈動水洗浄装置を使用して、50℃~95℃で、エアロゲルのウェットゲル粒子の洗浄を実行する。この装置では50℃~95℃の高温の水とウェットゲル構造中の有機成分または溶剤との高速な交換を実行し、温度が高くなるほど交換速度が速くなる。また、パルス波の作用により高温水がウェットゲル内部に滲入して有機成分または溶剤と交換する速度を加速させる。これにより、高温脈動水洗浄装置を使用して安定的なウェットゲル構造中の有機成分または溶剤の洗浄及び交換効果を顕著に向上させ、製造全体にかかる時間を短縮する。高温脈動水による洗浄ステップでは高温及びパルス波効果によりウェットゲルの溶剤交換及び洗浄速度を約30%~70%高める。粒径2mmのウェットゲルを例にすると、約10分以内に洗浄が完了し、水とウェットゲル構造中の有機成分または溶剤とをウェットゲルが完全に清浄になるまで交換する。
【0031】
さらに、一般的な高温常圧方式を利用して乾燥を行う。乾燥後に撥水性及び断熱性を有するエアロゲル粒子が得られる。全体の製造プロセスが24時間~30時間以内に完了するように短縮され、且つ連続生産により疎水性を有するエアロゲル粒子を製造し、生産速度を加速させる。
【0032】
さらに得られた疎水性エアロゲル粒子は攪拌機の攪拌力により無機繊維と直接混合し、均一に分散したエアロゲル及び無機繊維混合物が形成される。その後、無機ゲル水溶液を添加して攪拌することで、無機ゲルがエアロゲル及び無機繊維の表面に均一に分散し、エアロゲル粒子、無機繊維、及び無機ゲルの相互作用により粘着状エアロゲル複合ゲル状物質が形成される。その後、ゲル状物質の性質を調整するように水、粘着剤、分散剤、撥水剤、またはエアロゲル粉末を添加し、完成品を得る。本発明に係るエアロゲル複合ゲル状物質中のエアロゲルの含量は35v/v%~50v/v%の範囲であり、無機繊維の含量は10v/v%~25 v/v%の範囲であり、無機ゲル水溶液の含量は35v/v%~55v/v%の範囲である。本発明に係るエアロゲル複合ゲル状物質は高い粘着性を有し、極低温の設備の金属管路または冷凍機に直接充填されるか、またはこれらに被覆する。或いは、ダイカスト法により高撥水エアロゲル及び無機繊維複合れんがまたは板材等の製品として製造する。
【0033】
複合ゲル状物質を乾燥した後、エアロゲル及び無機繊維の含量が約75wt%~95wt%を占め-200℃の低温環境下で金属或セラミック等の材質との優れた接着力を有し、且つ室温下における熱伝導係数が0.04W/mK~0.045W/mKとなる。
【0034】
無機繊維はセラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、酸化繊維、岩綿繊維、及び金属酸化物繊維よりなる群のうちの1種類以上の材料から選択される。
【0035】
本発明に係るエアロゲル複合ゲル状物質は、塗布、吸圧、または押し出し充填等の加工技術により繊維ブランケットや発泡プラスチックに直接添加され、繊維ブランケットや発泡プラスチック内部に大量の高撥水エアロゲル及び無機繊維複合ゲル状物質が填入される。その後、プラスチックフィルムシーリングにより、高撥水のエアロゲル複合断熱ブランケットまたは高撥水のエアロゲル複合構造が製造される。繊維ブランケットは有機不織布、ガラス繊維ブランケット、炭素繊維ブランケット、及び岩綿ブランケットよりなる群のうちの1種類以上の材料から選択される。
【0036】
有機不織布はポリエステル繊維不織布、ポリオレフィン系繊維不織布、及びナイロン繊維不織布よりなる群のうちの1種類以上の成分から選択される。
【0037】
発泡プラスチックはポリエステル発泡材、ポリオレフィン系発泡材、ポリアミド発泡材、ポリウレタン発泡材、ポリシアナミド発泡、及びポリウレア発泡材よりなる群のうちの1種類以上の成分から選択される。
【発明の効果】
【0038】
上記構成により、本発明では、以下の効果が得られる。
1、凝集(重縮合)ステップでは、異なる比率の親水性溶剤及び疎水性溶剤を混合することにより、親水性及び疎水性混合溶剤の効果を得る。ゲル化過程における混合溶液の水分子とケイ素分子及び酸素分子との水和を低減させ、ウェットゲル構造が乾燥中に収縮するのを確実に回避させ、高い孔隙率を有する疎水性エアロゲル粒子を生産する。これにより、疎水性エアロゲルの断熱性及び耐寒性を顕著に高め、混合材料中のエアロゲル粒子の含量を確実に高め、実用的価値を向上させる。
2、得られた疎水性エアロゲル粒子の密度、粒径、空孔率、及び孔の大きさは製造条件(シロキサン化合物の含量、オレフィン基シロキサン化合物の含量、R基-シリコンオリゴマーの含量、溶剤の含量、溶剤の粘度、酸触媒の含量、アルカリ触媒の含量、分散溶媒の成分及びその含量、脈動水による洗浄温度、及び攪拌速度)により調節される。
3、凝集ステップでは大量の水溶液により破砕及び高速攪拌を行った後、水溶液の乾燥除去を行うことで、粒径が数百μm~数十mmの範囲の大きさの疎水性エアロゲル粒子が生産される。本方法によって生産される疎水性ウェットゲルは水を含むことで一般的な基材中に高い含量で混入し、且つ基材中で高い孔隙率を保持し、様々な基材の断熱性及び耐寒性を高める。
4、高温脈動水による洗浄では、脈動作用力及び水温等の条件の制御により、ウェットゲル全体の溶剤交換にかかる時間を短縮し、最速で8時間~24時間以内で大量の疎水性エアロゲル粒子の製造を完了し、生産速度を加速させる。
5、得られた疎水性エアロゲル粒子は無機繊維及び無機ゲル水溶液と混合し、均一に分散した粘着状エアロゲル複合ゲル状物質が形成される。その後、複合ゲル状物質の性質を調整するために水、粘着剤、分散剤、撥水剤、またはエアロゲル粉末を添加し、極低温の設備の金属管路または冷凍機に直接充填される、又はそられを被覆することで、超撥水性及び低温耐性特性を付与する。
6、得られた高撥水エアロゲル及び無機繊維複合ゲル状物質は-200℃の低温~300℃の高温に耐え、優れた低温耐性及び高温断熱性を有する。また、室温下での熱伝導係数は0.035W/mK~0.042W/mKの範囲となり、産業に応用可能となる。具体的には、塗布、吸圧、または押し出し充填等の加工技術により繊維ブランケットや発泡材料中に直接充填した後、プラスチックフィルムシーリングにより高撥水の断熱ブランケット或いは高撥水の複合発泡材料として製造し、管路に直接被覆して使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一実施形態に係る耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法を模式的に示したフローチャートである。
図2】本発明により調製したサブミクロンの疎水性エアロゲル粒子の外観の写真である。
図3】本発明により調製した数ミリの疎水性エアロゲル粒子の外観の写真である。
図4】本発明により調製した数ミリの疎水性エアロゲル粒子の走査型電子顕微鏡観察写真である。
図5】本発明により調製した耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲルレンガを水面に浮かべた状態を示す写真である。
図6】本発明により調製した耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲルレンガを10.5 cm x 10.5 cm x 7.8 cmの体積にカットした状態を示す写真である。
図7】本発明により調製した耐寒性と断熱性を有する疎水性エアロゲルレンガの水滴に対する界接触角度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明する構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0041】
図1は本発明の実施形態に係る超撥水性、耐寒性、及び断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質を製造する方法を示すフローチャートである。この方法は混合ステップ(S1)と、加水分解ステップ(S2)と、凝集分散(S3)または凝集破砕ステップ(S3’)と、熟成ステップ(S4)と、高温脈動水による洗浄ステップ(S5)と、乾燥ステップ(S6)と、ブレンドステップ(S7)と、を含む。この方法により製造される数百μm~数mmの疎水性エアロゲル粒子により超撥水性、耐寒性、及び断熱性を有する疎水性エアロゲル複合ゲル状物質が製造され、さらに超撥水性、低温耐性、耐寒性、断熱性を有するエアロゲル複合れんがが製造される。
【0042】
<混合ステップ(S1)>
シロキサン化合物、オレフィン基シロキサン化合物、及びR基-シリコンオリゴマーのうちの1つまたはそれらの混合物と混合溶剤とを攪拌混合し、混合溶液を調製する。シロキサン化合物はテトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等であり、オレフィン基シロキサン化合物はメチルトリメトキシシラン(MTMS)やメチルトリエトキシシラン(MTES)等であり、R基-シリコンオリゴマーはポリジメチルシリカゲル(PDMS)やシリカゲル前駆物質(DMDMS)等である。R基はシリカゲル分子の鎖末端に接続される官能基であり、酸基-COOH、アミン基-NH、イミド基-NH-、ポリアミン基-NH-NH、ヒドロキシ基-OH、エポキシ基、イソシアネート基-N=C=O、或いはイソシアヌル酸基-N-CO-N-を含み、且つ官能基の炭素数はC1~C6の範囲である。混合溶液の総含量を基に計算すると、オレフィン基シロキサン化合物及びR基-シリコンオリゴマーの総含量は3.0mol%~40.0mol%の範囲であり、混合溶剤の含量は97.0mol%~60.0mol%の範囲である。

【0043】
混合ステップ(S1)で用いられる混合溶剤は第一成分及び第二成分を含む。第一成分は水、アルコール類、芳香族類、及びアルキル類よりなる群のうちの1種類以上の物質が選択され、第二成分は乳化剤または界面活性剤等よりなる群のうちの1種類以上の物質が選択される。具体的には、アルコール類はエタノール等であり、芳香族類はトルエン等であり、アルキル類はシクロヘキサン等であり、乳化剤はポリビニルアルコール等であり、界面活性剤はヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)等である。
【0044】
混合溶剤に界面活性剤を添加する目的は、水分子の界面張力を低下させることである。前記界面活性剤は陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、双性イオン界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤等よりなる群のうちの1種類以上の成分を含む。
【0045】
<加水分解ステップ(S2)>
加水分解反応が生じるように酸触媒を混合溶液に添加する。オレフィン基シロキサン化合物及びR基-シリコンオリゴマーの総含量と酸触媒との含量比は1:0.5~1:0.00002の範囲である。
【0046】
<凝集分散(S3)または凝集破砕ステップ(S3’)>
凝集反応が生じるようにアルカリ触媒を混合溶液に添加する。凝集反応中に大量の分散溶媒(例えば、水、二次水、アルコール類、芳香族類、アルキル類のうちの1種類以上の混合)を添加することで、分散溶媒により混合溶液が高速にゲル化されると共に大量の孔を有するウェットゲル構造が形成される。酸触媒とアルカリ触媒とのモル比は、例えば1:1~1:4の範囲である。使用する分散溶媒は、水溶液または製造プロセスの必要に応じて親水性溶剤及び疎水性溶剤を調製した混合溶媒である。
【0047】
凝集分散ステップ(S3)では、凝集反応の完了が近付く前に、分散溶媒を加える。混合溶液がまず溶液状ゾル(Solution-like sol)を形成し、大量の非相溶系の親水性分散溶媒中で600rpm至2000rpmの高速で回転攪拌し、溶液状ゾルが攪拌作用を受けて数百nmの粒子状ウェットゲルとなって分散し、分散溶媒中に懸濁する。混合溶液と分散溶媒との体積比は1:0.5~1:4の範囲である。分散溶媒の含量が高くなるほど、ウェットゲルの再結合が低減する。また、分散溶媒のアルカリの含量が高くなるほど、マクロ視点から見ると相分離が厳重になり、且つウェットゲルが不透明な外観を呈する。また、構造の孔隙率が高くなるほど密度が低くなる。
【0048】
凝集破砕ステップ(S30)では、凝集反応の完了が近付く前に、分散溶媒を加える。混合溶液が溶液状ゾルを形成し、大量の非相溶系の水性分散溶媒中に静置してゲルを硬化することにより、混合溶液中のケイ素分子が集中して数百nmの粒子のウェットゲルとなる。その後、再度集中して三次元網状構造のウェットゲルが形成されると共に分散溶媒中に懸濁する。次いで、この大量の水性分散溶媒中で三次元網状構造のウェットゲルを破砕する。ウェットゲルが数百μm~数十mmの範囲の大きさの粒径になるまで破砕し水性分散溶媒中に分散する。混合溶液と分散溶媒との体積比は1:0.5~1:4の範囲である。同様に、分散溶媒の含量が高くなるほど、その後に製造されるウェットゲルの再結合が低減する。分散溶媒のアルカリの含量が高くなるほど、マクロ視点から見ると相分離が酷くなり、ウェットゲルが不透明な外観を呈し、孔隙率が高くなるほど密度が低くなる。
【0049】
<熟成ステップ(S4)>
形成された疎水性エアロゲルのウェットゲルは特定の温度下で熟成され、疎水性エアロゲルのウェットゲル構造が安定化する。熟成温度は、例えば35℃~80℃や40℃~50℃の範囲である。
【0050】
<高温脈動水による洗浄ステップ(S5)>
高温脈動水洗浄装置により、50℃~95℃でエアロゲルのウェットゲルの洗浄を行う。この高温脈動水洗浄装置は50℃~95℃の高温水とウェットゲル構造中の有機成分または溶剤との交換を行う。温度勾配及び濃度勾配を組み合わせることで発生した駆動力によりウェットゲル構造中の有機物質または溶剤の洗浄を行う。水温は徐々に上昇させる必要がある。一般的には、水温が高くなるほど交換速度が速くなる。また、パルス波の作用によりウェットゲル粒子内部への水分子の滲入が加速し、有機成分または溶剤との交換速度も速まる。全体としては、この高温脈動水洗浄装置を使用することで、エアロゲルのウェットゲル中の有機成分及び溶剤の交換洗浄効果が顕著に高まる。また、パルス波の作用周波数が高くなるほど、或いは増幅場の距離が伸びるほど、洗浄速度が速くなり、且つ温度効果及びパルス波効果を組み合わせることでエアロゲルの製造にかかる全体的な時間が短縮される。この高温脈動水による洗浄ステップにおける溶剤交換及び洗浄速度が約30%~70%高速化し、粒径2mmのエアロゲルのウェットゲル粒子の洗浄時間が約10分以内となり、この間にエアロゲル粒子の交換から清浄が完了するまでのステップが完了する。
【0051】
上述のように、粒径が数百nm~数十mmの範囲の大きさの多孔性疎水性エアロゲル粒子を製造する。また、疎水性エアロゲル粒子は未乾燥時に、例えば、セメント、セメント塗料、水性接着剤等の親水性基材と混合することにより、エアロゲル粒子の応用価値が高まる。ちなみに、疎水性エアロゲル粒子を低温耐性複合材または低温エアロゲル断熱ブランケットの原料とすれば、エアロゲルが断熱及び耐寒効果を発揮する。
【0052】
<乾燥ステップ(S6)>
余剰の溶媒を高温蒸留により排除するか濾過機により濾過した後、90℃~160℃の常圧条件で高速乾燥を行い、高密度の疎水性エアロゲル粒子を得る。さらに、流動層乾燥機、恒温槽、ドラム式乾燥機、ブレンド乾燥機、或いは真空乾燥機によりエアロゲル粒子を乾燥し、乾燥速度を加速させる。例えば、高温蒸留温度は90℃~250℃の範囲とする。
【0053】
<ブレンドステップ(S7)>
溶剤を蒸発乾燥したエアロゲル粒子と無機繊維とを攪拌機により混合し、均一に分散した無機混合物質を形成する。その後、無機ゲル水溶液を添加し、エアロゲル粒子、無機繊維、及び無機ゲル水溶液の相互作用により粘着性を有するエアロゲル複合ゲル状物質を形成する。
【0054】
図2及び図3は一般的なカメラを使用して異なるサイズの疎水性エアロゲル粒子の外観を観察したものでる。これらの粒子は明らかに異なる粒径を有する。
【0055】
図4は数百μmの疎水性エアロゲル粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。疎水性エアロゲルは、約数十nm~数百nmのサイズの大量のエアロゲル粒子が堆積することで形成され、大量の孔構造が形成されることが分かる。
【0056】
図5は製造した撥水性エアロゲル耐寒性断熱れんがを水面に浮かべた状態を示す写真である。体積の約80%が水面上に浮かんでおり、且つ完全に撥水しており、優れた撥水性及び低密度を備えていることが分かる。
【0057】
図6は撥水性エアロゲル耐寒性断熱れんがを10.5cm×10.5cm×7.8cmの体積にカットした状態を示す写真である。その重量は144.4gである。製造した撥水性エアロゲル耐寒性断熱れんがの密度は約0.168g/cmであり、軽量化特性及び断熱効果を有する。
【0058】
図7は撥水性エアロゲル耐寒性断熱れんが表面の水滴の界接触角度を示す写真である。断熱れんがの表面の水滴の界接触角度は約128度であり、優れた撥水効果を有することを示す。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0060】
(S1) 混合ステップ
(S2) 加水分解ステップ
(S3) 凝集分散ステップ
(S3’) 凝集粉砕ステップ
(S4) 熟成ステップ
(S5) 高温脈動水による洗浄ステップ
(S6) 乾燥ステップ
(S7) ブレンドステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7