(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ドネペジルを含有するマイクロニードル経皮パッチ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/445 20060101AFI20220617BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220617BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220617BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220617BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
A61K31/445
A61K47/36
A61K9/70 401
A61P25/28
A61M37/00 530
(21)【出願番号】P 2020514481
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 KR2018005614
(87)【国際公開番号】W WO2018212592
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2019-12-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0062465
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519412970
【氏名又は名称】ボヒュン ファーマーシューティカル カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】519412523
【氏名又は名称】ラパス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ボヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジャン ドン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ド ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ドンチョル
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ヨンユン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ユン-サン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュ ハン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ウン ジン
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0051648(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106422045(CN,A)
【文献】特開2016-175853(JP,A)
【文献】特開2015-151380(JP,A)
【文献】特表2009-517468(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0145475(KR,A)
【文献】日本バイオレオロジー学会誌(B&R),1999年,Vol.13, No.4,pp.168-174
【文献】KIM, Ji-Yeon et al.,European journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2016年06月08日,Vol. 105,pp. 148-155,https://doi.org/10.1016/j.ejpb.2016.06.006
【文献】KEARNEY, Mary-Carmel et al.,European journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2016年03月24日,Vol. 103,pp. 43-50,https://doi.org/10.1016/j.ejpb.2016.03.026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61M 37/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩、およびヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩を含み、
前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩と前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩の重量比が1:1.5~1:5であ
り、前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩の固有粘度(intrinsic viscosity)が0.150~0.250m
3
/kgである、マイクロニードル製造用組成物。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩は、組成物の全体重量に対して45~80%で含まれる、請求項1に記載のマイクロニードル製造用組成物。
【請求項3】
ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩、およびヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩を含み、
前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩と前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩の重量比が1:1.5~1:5であ
り、前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩の固有粘度(intrinsic viscosity)が0.150~0.250m
3
/kgである、溶解性マイクロニードル。
【請求項4】
前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩の含量が、溶解性マイクロニードルの総重量に対して43重量%以下である、請求項
3に記載の溶解性マイクロニードル。
【請求項5】
強度が0.058N以上である、請求項
3に記載の溶解性マイクロニードル。
【請求項6】
強度が0.1N以上である、請求項
5に記載の溶解性マイクロニードル。
【請求項7】
支持体からの長さが500~950μmである、請求項
3に記載の溶解性マイクロニードル。
【請求項8】
先端の直径が35~110μmである、請求項
3に記載の溶解性マイクロニードル。
【請求項9】
(a)請求項
3に記載の溶解性マイクロニードル;および
(b)前記溶解性マイクロニードルが少なくとも一つ以上付着された支持体を含む、マイクロニードル経皮パッチ。
【請求項10】
前記支持体の単位面積当たりのドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩の搭載量が2.2~11ng/mm
2である、請求項
9に記載のマイクロニードル経皮パッチ。
【請求項11】
支持体の単位面積当たりの溶解性マイクロニードルの個数が0.2~0.5個/mm
2である、請求項
9に記載のマイクロニードル経皮パッチ。
【請求項12】
支持体に付着された溶解性マイクロニードルの間隔が0.2~0.5mmである、請求項
9に記載のマイクロニードル経皮パッチ。
【請求項13】
前記溶解性マイクロニードルの皮膚内単位面積当たりの挿入能が90%以上である、請求項
9に記載のマイクロニードル経皮パッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドネペジルを含有するマイクロニードル製造用組成物、ドネペジルの経皮伝達のための溶解性マイクロニードル、および前記溶解性マイクロニードルを含むマイクロニードル経皮パッチに関する。
【背景技術】
【0002】
痴呆は、記憶喪失、知能の退歩、性格の変化、言語障害、行動異常などに特徴付けられる、複合的な認知障害が特徴である症候群をいう。現代社会で老年人口の増加と共にアルツハイマー(Alzheimer)型痴呆患者が多くなるにつれて、患者の管理が深刻な社会問題として台頭している。痴呆の原因が明らかになってはいないが、痴呆患者の脳において正常な人より神経伝達物質であるアセチルコリンの濃度が16~30%程度減少することが知られている。脳中のアセチルコリンを増加させることによって、アルツハイマー型痴呆患者の認知能力を向上できることが知られている。それにより、痴呆患者の治療には、アセチルコリン分解要素であるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を用いてアセチルコリン濃度を高める方法が広く用いられている。
【0003】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のうちの一つであるドネペジルは、1日1回投与する5mg、10mgまたは23mg用量の経口製剤として販売されており、アルツハイマー疾患による軽度および中等度以上の痴呆の治療に用いられる。しかし、痴呆患者は、大半が老人であるため、経口剤を飲み込み難い場合が多い。また、記憶喪失などの認知障害により服薬有無を記憶できない場合も多くて服薬順応度が落ちるという問題がある。
【0004】
経皮吸収剤は、痴呆患者のこのような問題を解決できる一つの解決方法になることができる。米国特許出願公開第2004/0258741号明細書(特許文献1)、第2010/0080842号明細書(特許文献2)、第2008/0138388号明細書(特許文献3)、第2009/0175929号明細書(特許文献4)および国際公開第2011/049038号パンフレット(特許文献5)には、マトリックス形態のドネペジル経皮吸収型製剤が開示されている。しかし、ドネペジル塩酸塩は、分子量が415.96であり、log Pは4.27であって、経皮を透過できる限界(分子量500、lop 5以下)に近接した物理化学的性質を持っていて、皮膚透過が円滑になされない。このような理由から、従来の一般的なマトリックス形態のドネペジル経皮吸収剤は、低い皮膚透過率を克服するために、過度に大きい面積に製造されなければならない。それのみならず、経口剤に使用する用量に比べて数十倍以上を経皮吸収剤に搭載しなければならないという問題がある。
【0005】
それを克服するために、イオン導入法(iontophoresis)、電気泳動(electrophoresis)、加熱(heating)、マイクロニードル(microneedle)などの新しいシステムが開発されている。この中でも、マイクロニードルは、付属装置無しにパッチ形態で適用することができるため、日常生活で簡便に適用できるという長所がある。マイクロニードルパッチは、複数のマイクロニードルがパッチ内に付着されており、マイクロニードルが皮膚表面に小さい穴を開けて薬物を伝達する方式である。マイクロ単位のニードルパッチは、注射剤より痛みが少ないかまたは痛み無しに薬物を伝達することができるが、単位面積当たりに搭載可能な薬物量の限界などにより、少ない用量(dose)でも効果が期待できる高効能(high potency)薬物(例えば、ワクチン、バイオ薬物など)に開発が集中していることが大半である。
【0006】
このようなマイクロニードルパッチの薬物搭載量の限界を克服するために、後面にマトリックスまたはフィルムタイプの薬物リザーバ、前面にヒドロゲルタイプのマイクロニードルを置き、ヒドロゲルマイクロニードルが皮膚へ浸透した後に膨らんで(swelling)薬物が拡散して伝達されるようにする通路としての役割をする接近が試みられている。しかし、このような方式では、薬物が単純拡散によって放出されるので伝達率が低くなり、ニードルの膨張により皮膚に刺激を与えるという短所がある。
【0007】
前記ヒドロゲルマイクロニードルタイプを用いてインビトロ(in vitro)試験を行った結果、ドネペジル搭載用量2mgのうち24時間の間伝達される比率は約10%~34%レベルに過ぎず、経口投与量(5mg/10mg)より10倍以上高い160mg用量の搭載が必要であった。また、該当グループの面積当たりの薬物搭載量が0.08mg/cm2であるため、約188~1,250cm2面積のパッチを付着しなければならないが、このような大型パッチを長時間皮膚に付着させると、皮膚炎症などのような多くの問題をもたらしうる。したがって、数mg~数十mg/day用量の経口用薬剤を商業的に利用可能なレベルのパッチ型に開発するためには、単位面積当たりの薬物搭載量を最大化する技術の開発が必要である。しかし、薬物搭載量の増加に応じてマイクロニードルを形成する高分子素材の量が減少するため、マイクロニードル強度の減少を伴うことになり、これはマイクロニードル機能の本質である皮膚内に透過する挿入能の減少につながるという問題が発生する。一方、薬物搭載量の増加は、面積当たりのマイクロニードルの数、すなわち、集積度を増加させることによっても或る程度達成できるが、集積度の増加につれてマイクロニードル間の間隔が狭くなることにより、ベッドネイル効果(bed nail effect)と呼ばれる挿入能の低下が発生する。このような挿入能の減少は、薬物の皮膚内伝達率の減少につながる。
【0008】
したがって、皮膚透過率を高めて少ない用量の薬物を用い、皮膚接触表面積が少なく、且つ、マイクロニードル内の薬物搭載量を高めても皮膚に挿入できる十分な強度を有するマイクロニードルが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2004/0258741号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0080842号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0138388号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/0175929号明細書
【文献】国際公開第2011/049038号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、薬物搭載量が高く、且つ、皮膚を透過するのに好適な強度を保持するマイクロニードルを製造するためのマイクロニードル製造用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、薬物搭載量が高く、且つ、皮膚を透過するのに好適な強度を保持する溶解性マイクロニードルを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、前記溶解性マイクロニードルを含むマイクロニードル経皮パッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、1)マイクロニードル製造用組成物、2)溶解性マイクロニードル、および3)マイクロニードル経皮パッチを提供する。
【0012】
本発明において、「マイクロニードル(microneedle)」という用語は、マイクロメーター(μm)単位の長さを有する針状の構造体を意味し、先端が針のように尖った形態を持って皮膚を透過することができる。その構造は
図1を参考にする。前記マイクロニードルは、皮膚の最外角層である角質層に穴を形成し、生成された穴を通して薬物を伝達し、前記マイクロニードルの長さが非常に短くて神経細胞に影響を及ぼさない適正長さであるため、痛みはほぼ発生しない。
【0013】
本発明において、「溶解性マイクロニードル(dissolving microneedle)」という用語は、皮膚に透過するように適用された時に体内で溶解することにより搭載された薬物を放出させるマイクロニードルを意味する。溶解性でないヒドロゲルタイプのマイクロニードルの場合は、皮膚へ浸透した時に膨らむので皮膚に圧迫を与えて刺激が発生しうるし、除去過程で痛みが発生しうる。しかし、前記溶解性マイクロニードルの場合は、皮膚に適用した後に消滅するため、皮膚への刺激が少なく、除去の必要性がない。
【0014】
本発明において、「パッチ(patch)」という用語は皮膚に付着して薬物を体内に伝達させる剤形を意味し、その構造は
図2を参考にする。
以下では、各々の発明について詳しく説明する。
【0015】
マイクロニードル製造用組成物
本発明は、ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩、および生分解性高分子物質を含むマイクロニードル製造用組成物を提供する。
【0016】
本発明において、「ドネペジル(donepezil)」は、下記化学式1の化合物を意味し、ドネペジルの薬学的に許容可能な塩は、通常の技術者が適用できる全ての塩を含むが、好ましくは、ドネペジル塩酸塩であってもよい。
【0017】
【0018】
本発明の組成物において、前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩と前記生分解性高分子物質の重量比は1:1~1:5であり、好ましくは1:1.5~1:4である。
【0019】
本発明において、前記生分解性高分子物質は、マイクロニードルを形成してその形態を保持することができ、皮膚透過後に体内で溶解する物質であれば、特に制限されずに用いることができる。前記生分解性高分子物質としては、例えば、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸-グリコール酸、ゼラチン、コラーゲン、キトサンまたはこれらの混合物であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0020】
本発明において、前記生分解性高分子物質の平均分子量は、300~800kDaであってもよく、好ましくは500~750kDaであってもよい。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記生分解性高分子物質は、1個以上の生分解性高分子物質の混合物からなってもよく、分子量が異なる同一高分子物質の混合物であってもよい。
【0022】
本発明の一具体例によれば、前記生分解性高分子物質は、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩であってもよい。前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩の平均分子量は、300~800kDaであってもよく、好ましくは500~750kDaであってもよい。
【0023】
本発明の組成物において、前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩は、組成物の総重量に対して20~43%含量で含有し、好ましくは20~38%含量で含有する。
【0024】
また、本発明の組成物において、前記生分解性高分子物質は、組成物の総重量に対して45~80%で含まれ、好ましくは55~65%で含まれる。
【0025】
本発明の一具体例によれば、本発明の組成物は、親水性溶媒に溶解したものであってもよい。前記親水性溶媒としては、例えば、水、イオン水、生理食塩水、蒸留水、精製水、滅菌精製水、C1-4アルコールが挙げられるが、これらに制限されるものではなく、好ましくは水である。
【0026】
本発明のマイクロニードル製造用組成物は、使用目的に応じて、可溶化剤、可塑剤、界面活性剤、保存剤、抗炎剤などをさらに含むことができる。
【0027】
本発明の組成物は、十分な強度を保持するために、組成物の製造に用いられる生分解性高分子物質の固有粘度(intrinsic viscosity)は、0.150~0.250m3/kgであってもよく、好ましくは0.160~0.230m3/kgであってもよく、より好ましくは0.165~0.210m3/kgであってもよい。
【0028】
上記のような本発明のマイクロニードル製造用組成物によれば、ドネペジルの搭載量が高く、且つ、皮膚を透過するのに好適な強度を保持するマイクロニードルを製造することができる。
【0029】
溶解性マイクロニードル
本発明は、ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩、および生分解性高分子物質を含み、前記生分解性高分子物質の分子量が300~800kDaであり、前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩と前記生分解性高分子物質の重量比が1:1~1:5である、溶解性マイクロニードルを提供する。
【0030】
本発明の溶解性マイクロニードルに含まれるドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩、および生分解性高分子物質は、本発明のマイクロニードル製造用組成物に用いられたものをそのまま用いることができる。
【0031】
本発明の一具体例によれば、本発明の溶解性マイクロニードルは、送風引張方式(Droplet-born Air Blowing)により製造されたものであってもよい。
【0032】
前記送風引張方式は、次のステップを含む:
(1)第1支持体および第2支持体に前記ドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩および前記生分解性高分子物質を含有する粘性組成物をスポッティングするステップ;
(2)前記粘性組成物がスポッティングされた第1支持体と第2支持体とを接触させるステップ;
(3)前記第1支持体と前記第2支持体を離隔させて粘性組成物を引張させるステップ;
(4)引張された粘性組成物を送風して乾燥させるステップ;および
(5)乾燥された粘性組成物を切断してマイクロニードルを形成するステップ。
【0033】
前記製造方法は、本発明のマイクロニードル製造用粘性組成物を出発物質として用いる。前記粘性組成物は、支持体に接触した状態で引張されてマイクロニードルを形成する。また、前記粘性組成物は、体内に挿入した時に生分解性を示し、薬物が放出されるようになる。
【0034】
また、本発明の一具体例によれば、前記ステップ(1)の粘性組成物は、次のステップから製造される:
(i)親水性溶媒に生分解性高分子物質を溶解させるステップ;および
(ii)ステップ(i)で製造された溶液にドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩を添加するステップ。
【0035】
前記ステップ(1)のスポッティングは、前記粘性組成物を液滴(drop-let)形態で吐出することを意味する。また、前記スポッティングは、ディスペンサにより行われてもよく、好ましくは、エアジェットディスペンサにより行われてもよい。
【0036】
前記ステップ(1)において、スポッティング当たりの粘性組成物の量は、0.1~0.24mgであってもよく、好ましくは0.15~0.24mgである。
【0037】
前記第1支持体および第2支持体は、例えば、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容可能な塩、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸-グリコール酸、ゼラチン、コラーゲン、キトサンまたはこれらの混合物から選択されてもよく、第1支持体と第2支持体は、互いに同じであるかまたは異なってもよい。
【0038】
前記ステップ(4)の送風は、引張された粘性組成物を破壊しない範囲の風速で行われることができる。また、送風時間は、通常の技術者により適切に調節できる。
【0039】
前記ステップ(5)の切断は、乾燥された粘性組成物をさらに離隔させるか、または通常の技術者が適切な装置を用いて行うことができる。
【0040】
本発明に適用される前記送風引張方式は、熱や紫外線などの追加処理がなくても、マイクロニードルを形成させることができるため、有効成分の変性危険が少なく、製造にかかる時間も非常に短くて経済的である。
【0041】
また、本発明に適用される送風引張方式は、モールド(mold)を用いないことから表面張力の影響を受けないので、相対的に高分子量の生分解性高分子を適用するのに有利である。
【0042】
上記のように製造された本発明の溶解性マイクロニードルは、その強度が少なくとも0.058N以上であるときに有効に皮膚を穿通することができる。本発明の具体例によれば、本発明の溶解性マイクロニードルの強度は、0.10~1.40Nであってもよく、好ましくは0.30~0.80Nであってもよい。
【0043】
本発明において、前記溶解性マイクロニードルの長さは、支持体から500~950μmであってもよく、好ましくは650~750μmであってもよい。
【0044】
本発明において、前記溶解性マイクロニードルの先端の直径は、好ましくは35~110μmであってもよく、より好ましくは45~85μmであってもよい。
【0045】
本発明において、一つの前記マイクロニードルの質量は、32.5~61.5μgであってもよく、好ましくは40~61.5μgであってもよい。
【0046】
本発明の溶解性マイクロニードルは、痴呆の予防、治療または改善用として用いられることができる。前記痴呆は、具体的にはアルツハイマー性痴呆であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0047】
本発明の溶解性マイクロニードルは、高い薬物搭載量を有し、且つ、皮膚を透過するのに好適な強度を保持することができるため、少ない量でも十分な量の薬物を体内に伝達することができる。また、本発明の溶解性マイクロニードルは、体内で生分解されて、皮膚への刺激がなく、除去の必要性もないため、服薬便宜性および服薬順応度が非常に良い。
【0048】
マイクロニードル経皮パッチ
また、本発明は、(a)本発明の溶解性マイクロニードル;および(b)前記溶解性マイクロニードルが少なくとも一つ以上付着された支持体を含むマイクロニードル経皮パッチを提供する。
【0049】
溶解性マイクロニードルは前述した通りであり、以下では詳しい説明は省略する。
本発明のマイクロニードルパッチは、一面にマイクロニードルを有し、加圧により皮膚にマイクロニードルを挿入させることができる。
【0050】
本発明において、「支持体」は、マイクロニードルが付着される平面層であり、例えば、ヒアルロン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸-グリコール酸、ゼラチン、コラーゲン、キトサンまたはこれらの混合物を含むことができるが、これらに制限されるものではない。前記支持体は、好ましくは、ヒアルロン酸またはその塩を含む。また、本発明のマイクロニードルパッチの支持体は、粘着性を有する素材であってもよい。
【0051】
本発明のマイクロニードルパッチにおいて、支持体の単位面積当たりのドネペジルまたはその薬剤学的に許容可能な塩の搭載量は、2.2~11ng/mm2であってもよく、好ましくは6.6~10ng/mm2である。ここで、支持体の面積は、経皮パッチにおいて溶解性マイクロニードルが付着された部位のみを意味する。
【0052】
また、本発明のマイクロニードルパッチにおいて、支持体の単位面積当たりの溶解性マイクロニードルの個数は、0.2~0.5個/mm2であってもよく、好ましくは0.3~0.46個/mm2である。
【0053】
また、本発明のマイクロニードルパッチにおいて、支持体に付着された溶解性マイクロニードルの間隔は、0.2~0.5mmであってもよく、好ましくは0.3~0.4mmである。前記溶解性マイクロニードルの間隔は、2以上が離隔して位置するマイクロニードル間の距離を意味し、一つのマイクロニードルの先端とまた他のマイクロニードルの先端との間の直線距離を測定したものである。
【0054】
通常、一つのマイクロニードルの強度が皮膚を穿通させるのに適しているとしても、マイクロニードルパッチにおけるマイクロニードル間の間隔が狭すぎる場合、ベッドネイル効果(bed nail effect)により皮膚穿通度が減少するようになる。しかし、本発明の溶解性マイクロニードルは薬物搭載量が高いため、少ない数の溶解性マイクロニードルだけでも有効な量の薬物を体内に伝達することができ、それにより、溶解性マイクロニードルの間の間隔をbed nail effectが発生しない程度に配置することができる。結局、本発明の溶解性マイクロニードルパッチは薬物搭載量が高いため、狭い面積のマイクロニードルパッチだけでも有効な量の薬物を体内に伝達することができる。
【0055】
本発明のマイクロニードルパッチにおいて、前記溶解性マイクロニードルの皮膚内単位面積当たりの挿入能は90%以上であり、好ましくは95%以上であり、より好ましくは99%以上である。
【0056】
また、本発明のマイクロニードルパッチは、同一なドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩を同一の用量で経口投与した場合に比べて、生体利用率が1.5倍以上優れている。
【0057】
本発明の一具体例によれば、本発明のマイクロニードルパッチは、(c)溶解性マイクロニードルが付着された面と反対面の支持体に粘着性シートが付着された構造であってもよい。
【0058】
前記粘着性シートは、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ヒドロコロイドまたはこれらの混合物を含むことができる。
【0059】
本発明のマイクロニードル経皮パッチは、痴呆の予防、治療または改善用として用いられることができる。前記痴呆は、具体的にはアルツハイマー性痴呆であってもよいが、これに制限されるものではない。
【発明の効果】
【0060】
本発明のマイクロニードル製造用組成物は、薬物(ドネペジル)搭載量に優れ、且つ、皮膚透過が可能な強度を有する溶解性マイクロニードルを製造することができる。
【0061】
また、本発明の溶解性マイクロニードルは、高い薬物(ドネペジル)搭載量を有し、且つ、皮膚を透過するのに好適な強度を保持することができるため、少ない量でも十分な量の薬物を体内に伝達することができる。また、体内で生分解されて、皮膚への刺激がなく、除去の必要性もないため、服薬便宜性および服薬順応度が良い。
【0062】
さらに、本発明のマイクロニードル経皮パッチは、従来には適用し難かったドネペジルを経皮投与の形態で投与することができるようにして、痴呆患者などのような経皮投与が必要な患者の服薬順応度を大幅に改善することができ、経口投与した場合より生体利用率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】本発明の溶解性マイクロニードルの構造図である。
【
図2】本発明のマイクロニードルパッチの構造図である。
【
図3】実施例1~4で製造されたマイクロニードルを顕微鏡で観察したものを示すものである。
【
図4】実験例1におけるマイクロニードルパッチが付着された部位を表示したものである。
【
図5】実験例1におけるマイクロニードル(MN)が挿入される前と後にラットの皮膚を光学顕微鏡で観察したものを示すものである。
【
図6】フランツ拡散(Franz diffusion)試験法に用いられる実験装置を示すものである。
【
図7】実験例3で用いられたマイクロニードルパッチにおいて、時間に応じたマイクロニードルの形状を観察したものを示すものである。
【
図8】実験例3におけるドネペジルの溶出率の測定結果を示すグラフであり、(a)は時間当たりのドネペジルの溶出量であり、(b)はパッチ当たりのドネペジルの溶出率であり、(c)はドネペジルの溶出蓄積量である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、実施例および実験例を通じて本発明について具体的に説明する。ただ、これらの実施例および実験例は本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0065】
<実施例1-9>ドネペジル塩酸塩を含有する粘性組成物、マイクロニードルおよびマイクロニードルパッチの製造
【0066】
(1)粘性組成物の製造
生分解性高分子であるヒアルロン酸(平均分子量565~677kDa)を下記表1に記載された量で水に添加した後、ドネペジル塩酸塩を下記表1に記載された量で添加して、下記表2に記載されたような平均固有粘度を示す粘性組成物を生成した。
【0067】
【0068】
【0069】
(2)マイクロニードルおよびパッチの形成
ドネペジルと生分解性高分子物質とから製造された粘性組成物を引張させ、引張された粘性組成物を送風して乾燥させた。乾燥して凝固した粘性組成物を切断してマイクロニードルおよびこれらを含むパッチ(マイクロニードルが付着された面積:226.98mm2)を製造した。
【0070】
【0071】
その結果、
図3に示すようなマイクロニードルが形成され、光学顕微鏡で観察したマイクロニードルの長さおよび先端の直径は下記表4の通りである。
【0072】
【0073】
<比較例>
前記実施例に記載されたものと同様の過程で行われるが、下記表5の条件で比較例を製造した。
【0074】
【0075】
<実験例1>マイクロニードルの強度測定
支持体に付着されたマイクロニードルのうち中央部の3個のマイクロニードルに対して移植および圧縮試験機を用いて圧縮強度を測定した。同一の実施例で製造された6個のサンプルに対して繰り返して強度を測定して平均強度値を計算した。実施例1~9に該当するマイクロニードルの強度は下記表6の通りである。
【0076】
【0077】
このように、本発明のマイクロニードルは、皮膚を穿通するのに十分な強度を示すことが分かる。
【0078】
<実験例2>マイクロニードルの皮膚挿入能の測定
8週齢の雄SDラットを
図4のように下部(BOT)、中部(MID)、上部(TOP)に区切って、実施例4で製造されたマイクロニードルパッチを付着した。5分後にマイクロニードルパッチを除去し、ラット皮膚表面の穴数を光学顕微鏡で観察し、同様の方法により3回繰り返し実験した。
【0079】
その結果、
図5に示すように、マイクロニードル(MN)が95%以上挿入されたことを確認することができた。すなわち、本発明のマイクロニードルは、皮膚を
穿通するのに好適な強度を有していることが分かる。
【0080】
<実験例3>マイクロニードルのドネペジル溶出率の測定
フランツ拡散(Franz diffusion)試験により、本発明のマイクロニードルパッチのドネペジル溶出率を測定した。フランツ拡散試験は、薬物の皮膚溶出傾向を分析できる実験であり、
図6に示す試験装置を用いて行われるもので、皮膚を
穿通した後、レセプターチャンバー(receptor chamber)に伝達された薬物の量を確認して溶出率を測定する。
【0081】
実施例1のマイクロニードルパッチを用いてドネペジルの溶出率を確認した。具体的には、冷蔵したブタ皮膚を室温で解凍させた後、アプリケータを5回適用して実施例1で製造されたマイクロニードルを適用させた。その後、PBS 1xが満たされたレセプターチャンバー(receptor chamber)に実施例1で製造されたマイクロニードルが適用されたブタ皮膚を置いた後、定められた時間ごとにレセプターチャンバーから1mlをサンプリングし、再びレセプターチャンバーにPBS 1x 1mlを補充した。レセプターチャンバーの温度を一定に保持するために、ウォータージャケット(water jacket)の水の温度を37℃に保持した。マイクロニードルの残余形状を観察するために、実験が終わった後、ブタ皮膚からマイクロニードルを除去して顕微鏡で観察した。レセプターチャンバーから採集したサンプルは、HPLCを用いてパッチの初期値における溶出率を分析した。
【0082】
その結果、
図7に示すように、マイクロニードルパッチを付着してから2時間が経過した後、マイクロニードルの形状がこれ以上観察されなかった。また、
図8に示すように、24時間後に40.88±6.85%のドネペジルが溶出され、48時間後に57.74±3.74%のドネペジルが溶出されたことが確認された。すなわち、本発明のマイクロニードルが生分解性を示し、体内でドネペジルを有効に溶出させることが分かる。
【0083】
<実験例4>マイクロニードルパッチのドネペジルPKプロファイルの確認
除毛した8週齢の雄SDラットに各々実施例3および実施例4で製造されたマイクロニードルを挿入し、0.25、0.5、1、2、4、6、8、11、24、32および48時間後に採血した。また、前記マイクロニードルに含有されたドネペジル塩酸塩と同一な量のドネペジル塩酸塩を精製水に懸濁/溶解させて経口投与した後、0.17、0.33、0.67 1、2、4、8および24時間後に採血した。血液サンプルを遠心分離して血清を得て、LC/MS/MSで分析して薬物動態パラメータを計算した。
【0084】
その結果、下記表7に示すように、本発明のマイクロニードルは、経口投与した場合より約2.0~2.5倍優れた生体利用率を示すことが分かる。したがって、本発明のマイクロニードルは、経口投与より効率的にドネペジルを伝達することができる。
【0085】
【0086】
<実験例5>マイクロニードルに含有されるドネペジルの適正含量の評価
ドネペジルを安定的に含む適正含量を測定するために、実施例1~9のマイクロニードルおよび比較例1のマイクロニードルを室温で保管した。
【0087】
マイクロニードルにおけるドネペジルの含量が43.8%である比較例1の場合は、3日経過後、ドネペジルの析出が確認されて製剤均一性の問題が発生すると判別された。また、強度および挿入能の低下も観察された。その反面、ドネペジル含量が23.0%~37.8%である実施例1~9のマイクロニードルの場合は、ドネペジルの析出が観察されなかった。
【0088】
したがって、マイクロニードルにおけるドネペジルの含量は43%以下、より好ましくは38%以下が好適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の溶解性マイクロニードルは、高い薬物(ドネペジル)搭載量を有し、且つ、強度に優れて、狭い面積だけでも有効な量のドネペジルまたはその薬学的に許容可能な塩を含有することができる。したがって、本発明は、皮膚への刺激が少なく、経済的である。また、体内で生分解されて、皮膚への刺激がなく、除去の必要性もないため、服薬便宜性および服薬順応度が良い。
【0090】
さらに、本発明のマイクロニードル経皮パッチは、従来には適用し難かったドネペジルを経皮投与の形態で投与できるようにして、痴呆患者などのような経皮投与が必要な患者の服薬順応度を大幅に改善することができ、経口投与した場合より生体利用率に優れる。
【0091】
したがって、本発明は、痴呆の治療に有用に活用することができる。