(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20220617BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20220617BHJP
F16J 15/3244 20160101ALI20220617BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/3204 201
F16J15/3244
F16J15/18 C
(21)【出願番号】P 2018086018
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 貞和
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実公昭34-010302(JP,Y1)
【文献】特開2009-257485(JP,A)
【文献】実開平04-123395(JP,U)
【文献】特開2018-063050(JP,A)
【文献】特開2002-181057(JP,A)
【文献】特開2005-299753(JP,A)
【文献】実開昭62-068076(JP,U)
【文献】特開2011-080570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/447
F16J 15/3204
F16J 15/3244
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに設けられた挿通孔に挿通される回転部材との間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに嵌合される芯金と、該芯金に固着されるシール部とを備え、
前記シール部は、密封対象流体をシールするための環状の第1リップと、
前記第1リップに対して大気側に配置されて該大気側からの異物の侵入を抑制するとともに、前記回転部材に向って延出する環状の第2リップと、を備え、
前記第2リップは、前記回転部材の周面に対して所定の隙間を空けた状態で前記回転部材の周面に対向する円筒
部を備え、
前記円筒部は、その軸方向の長
さが前記隙間以上とされ、かつ前記回転部材の周面に向けて突出した複数の第1ガイド突部を備え、
前記複数の第1ガイド突部は、3以上の奇数個であり、これらの第1ガイド部が前記隙間と同等の間隔を空けて配列されていることで、最も大気側の第1ガイド突部と最も密封対象流体側の第1ガイド突部との間隔を前記隙間の偶数倍としたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
前記第2リップの前記第1リップとの間には、前記円筒部よりも前記回転部材側に突出しないような第2ガイド突部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密封装置において、
前記第2リップの大気側の先端角部は、前記大気側に向うにつれて拡径する傾斜面とされていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記第1ガイド突部は、断面が湾曲形状であることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記第1ガイド突部は、周方向に沿って連続して環状に設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記第1リップは、大気側に向かおうとする前記密封対象流体としてのオイルを前記回転部材の回転時に前記ハウジング内に押し戻すポンピング作用を発揮するように構成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと、該ハウジングに設けられた軸孔に挿通される回転部材との間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような密封装置は、ハウジングと回転部材との間に形成される隙間からオイル等の密封対象流体の漏出を防止するために、回転部材に摺動させるリップを備えている。リップの回転部材に対する摺動部に、塵埃等の異物が侵入すると、異物が摺動部に噛み込み、リップの摩耗が促進され、オイル漏れの要因になってしまう。また複数のリップを備えた密封装置の場合は、リップ間が負圧になるとリップが回転部材の周面にはりつき、摩擦熱の発生、摺動トルクの増加、密封性能及び耐久性が低下する等、様々な問題が生じる。
【0003】
下記特許文献1には、オイル漏れを防ぐ主リップと、主リップの外側に外部からの異物の侵入を防ぐダストリップとを備えたオイルシールに関し、ダストリップと回転軸の周面との間に微小の隙間を持たせたものが開示されている。
また下記特許文献2には、下記特許文献1と同じく2つのリップを備えた密封装置に関し、ダストリップに相当するサブリップのリップ端の外径面に、複数の環状突起が軸方向に並んで設けたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭62-172858号公報
【文献】特開2009-257485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び上記特許文献2は、ダストリップと回転部材との間に隙間が形成されるので、ダストリップの回転部材の周面へのはりつきは防止されるが、このはりつきを防ぐための隙間から異物が侵入してしまい、噛み込みが生じることを十分に抑制できるとはいえない。
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みなされたもので、摺動トルクを低減し密封性能の寿命を長期化できる上、大気側からの異物の侵入を抑制できる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、ハウジングと、該ハウジングに設けられた挿通孔に挿通される回転部材との間を密封する密封装置において、密封対象流体をシールするための環状の第1リップと、前記第1リップに対して大気側に配置されて該大気側からの異物の侵入を抑制するとともに、前記回転部材に向って延出する環状の第2リップと、を備え、前記第2リップは、前記回転部材の周面に対して所定の隙間を空けた状態で前記回転部材の周面に対向する円筒部を備え、前記円筒部は、その軸方向の長さが前記隙間以上とされ、かつ前記回転部材の周面に向けて突出した複数の第1ガイド突部を備え、前記複数の第1ガイド突部は、3以上の奇数個であり、これらの第1ガイド部が前記隙間と同等の間隔を空けて配列されていることで、最も大気側の第1ガイド突部と最も密封対象流体側の第1ガイド突部との間隔を前記隙間の偶数倍としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る密封装置は、上述の構成としたことで、摺動トルクを低減し密封性能の寿命を長期化できる上、大気側からの異物の侵入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る密封装置の第1実施形態であって、密封装置がオイルシールとして装着された状態を模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図2】同実施形態に係る密封装置が装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である(
図1の部分拡大図)。
【
図3】(a)及び(b)は、同実施形態に係る密封装置の変形例を示す図であり、装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図4】(a)及び(b)は、同実施形態に係る密封装置のさらなる変形例を示す図であり、装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図5】本発明に係る密封装置の第2実施形態であって、密封装置が装着される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
【
図6】
図5のX部の拡大図であって、装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図7】
図5のY部の拡大図であって、装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る密封装置4は、ハウジング3と、該ハウジング3に設けられた挿通孔30に挿通される回転部材7との間を密封するものである。密封装置4は、オイルやグリース等の密封対象流体をシールするための環状の第1リップ80と、第1リップ80に対して大気側に配置されて該大気側からの異物の侵入を抑制するとともに、回転部材7に向って延出する環状の第2リップ81と、を備えている。第2リップ81は、回転部材7の外周面7aに対して所定の隙間Hを空けた状態で回転部材7の外周面7aに対向する円筒部81aが形成され、円筒部81aは、その軸方向の長さLが、隙間H以上に形成されている。以下、詳述する。
【0011】
<第1実施形態>
まずは本発明の第1実施形態について、
図1~
図4を参照しながら説明する。第1実施形態では、密封装置4Aがオイルシールとして適用された例を説明する。
図1は、自動車用エンジンにおけるオイルパン1とシリンダブロック2との合わせ部を示している。オイルパン1は、シリンダブロック2の下端部に不図示のボルトによって締結一体に取り付けられ、オイルパン1とシリンダブロック2とにより、機械運動機構部(不図示)及びオイルを収容するハウジング3が構成され、オイルパン1とシリンダブロック2との合わせ部にクランクシャフト7を導出するための挿通孔30が形成されている。
挿通孔30はオイルパン1側に形成される半円形の孔壁30aと、シリンダブロック2側に形成される半円形の孔壁30bとにより構成されている。クランクシャフト7は、コンロッド及びピストンピンを介してピストン(いずれも不図示)に連結され、ピストンの上下往復動がクランクシャフト7の軸L1回りの回転(軸回転)に変換され、これらにより機械運動機構部が構成される。クランクシャフト7は、不図示の軸受を介してシリンダブロック2に軸回転可能に支持され、挿通孔30より出力軸として導出される。
【0012】
本実施形態の密封装置4Aは、機械運動機構部及びオイルを収容するハウジング3とクランクシャフト7との間に設けられて、ハウジング3に収容されたオイルの漏出を抑制するものである。
密封装置4Aは、ハウジング3に取付けられる芯金5と、芯金5に固着される環状のシール部8とを備える。
芯金5は、円筒部50と、第1起立部51と、傾斜部52と、第2起立部53とを有している。円筒部50は、オイルパン1側の孔壁30a及びシリンダブロック2側の孔壁30bに嵌合される。第1起立部51は円筒部50の密封対象流体側の一端部から内径側に延びるように形成されている。傾斜部52は第1起立部51の内径側の一端部から大気側に斜め方向に延びるように形成されている。第2起立部53は傾斜部52の大気側の一端部から内径側に延びるように形成されている。円筒部50とハウジング3との間には、外周シール部83が介在するように配されている。これにより、芯金5とハウジング3との間に外周シール部83が弾性的に圧縮した状態で介在しハウジング3に芯金5が嵌合されるので、芯金5とハウジング3との間に隙間が生じず、密封性がよい。
【0013】
シール部8は、ゴム等の弾性体からなる環状体で、芯金5に対して加硫接着されることで一体成型されている。シール部8は、第1リップ80と、第2リップ81とを有している。シール部8は、芯金5の主に密封対象流体側に配される。具体的には、円筒部50の外周側には外周シール部83が配されている。そして、芯金5の第1起立部51及び傾斜部52の密封対象流体側には、被覆部84が配され、その内径側には、第1リップ80が形成されている。さらに、第1リップ80よりも大気側には第2リップ81が形成されており、第2起立部53の端部は大気側まで回り込んで配された回り込み部85が設けられている。
【0014】
第1リップ80は、内径側に向かいつつ密封対象流体側に延びるラジアルリップであるとともに、密封対象流体であるオイルをシールするために設けられたリップとして主機能を有する。第1リップ80の先端部80aは、ハウジング3の内部に向けて縮径し、ハウジング3内のオイルの漏出を抑制するように形成されている。第1リップ80には、大気側に位置する内径側周面に、図示しないねじ溝が形成されており、第1リップ80は、クランクシャフト7の回転時に、大気側に向かおうとするオイルをハウジング3内に押し戻すポンピング作用を発揮するように構成されている。第1リップ80の先端部80aの最も内径側は、クランクシャフト7の外周面7aに締め代をもって弾接する摺動部80aaである。第1リップ80は、その外周面に外装されたコイルばね82によって、クランクシャフト7に押し付けられ、ハウジング3内のオイルをシールしている。具体的には、コイルばね82は、第1リップ80の先端部80aを縮径方向に締め付けるように付勢する。上述の機械運動機構部の作動によって、クランクシャフト7が軸回転すると、第1リップ80は、クランクシャフト7の外周面7aに弾性的に相対した状態で摺接する。これにより、ハウジング3内に収容されているオイルの大気側への漏出が抑制される。
【0015】
図2は、
図1に示す密封装置4Aの第1リップ80及び第2リップ81を拡大した図である。
第2リップ81は、第1リップ80より大気側に配置され、クランクシャフト7に向って延出して形成されたダストリップである。つまり、第2リップ81は、軸方向において第1リップ80とは反対側に延びるとともに、大気側から侵入するダスト等の異物が、第1リップ80に到達することを抑制するために設けられている。第2リップ81は、クランクシャフト7の外周面7aに摺接せず、
図2に示すように所定の隙間Hを空けた状態に設けられる。このように第2リップ81は、クランクシャフト7に対して隙間Hを空けて配されているので、第1リップ80がポンピング作用を発揮しても、第1リップ80と第2リップ81との間の空間が負圧になることがない。したがって、第2リップ81がクランクシャフト7の外周面7aにはりつくことがなく、摩擦熱の発生や摺動トルクの増加を抑制できる。
【0016】
第2リップ81は、クランクシャフト7の外周面7aに対向するとともに、クランクシャフト7の軸L1に平行な円筒部81aを備え、円筒部81aは、その軸方向の長さLが、隙間H以上に形成されている。隙間Hは、円筒部81aの内径面81abからクランクシャフト7の外周面7aまでの距離を言い、第1ガイド突部81aaの先端部とクランクシャフト7の外周面7aとの距離は隙間Hより小さくなる。円筒部81aの構造、形状等は特に限定されないが、後記するようにクランクシャフト7の回転数が一定数になれば、円筒部81aをその軸方向の長さLが隙間H以上に形成することで、隙間Hにテイラー渦が発生することがわかっている。そして円筒部81aの内径面81abとクランクシャフト7の外周面7aとの間にテイラー渦が形成されるので、テイラー渦が障壁となって、隙間Hへの異物の侵入を抑制することができる。よって、異物が大気側から第2リップ81の隙間Hを通過し、密封対象流体側の第1リップ80に異物が達する量を抑制できる。そしてこのように第1リップ80に達する異物の量を抑制できれば、異物が第1リップ80の摺動部に噛み込まれて摩耗することを抑制できるので、密封性能の長寿命化を図ることができる。
第2リップ81の円筒部81aの軸方向の長さLは、第2リップ81の形状によって様々であるが、本実施形態では、最も大気側に設けられた第1ガイド突部81aaと最も密封対象流体側に設けられた第1ガイド突部81aaとの軸方向の距離を第2リップ81の円筒部81aの軸方向の長さLとする。
【0017】
ここで、テイラー渦とは、クランクシャフト7の周方向に巻きつくように発生する周期的な渦列のことである。例えばクランクシャフト7の軸径が80mmで、隙間Hが1.3mmの場合、クランクシャフト7の回転数が1000~1300r/mになるとテイラー渦が発生する。そして、クランクシャフト7の回転数が1300~1500r/mに達する頃には、発生したテイラー渦の渦流が安定した状態になる。
図2等において、第1ガイド突部81aa,81aa間に記載された矢印がテイラー渦を示している。
【0018】
上述のように隙間Hと円筒部81aの軸方向の長さLを規定すれば、テイラー渦を発生させることはできるが、円筒部81aの内径面81abに形成された第1ガイド突部81aaの形成個数や間隔を調整することで、規則的で安定した渦流のテイラー渦を意図的に発生させ易くすることができる。
ここに示すように第2リップ81の円筒部81aは、複数の第1ガイド突部81aaと、第2ガイド突部81bと、先端角部81cとを有している。複数の第1ガイド突部81aaは、クランクシャフト7の外周面7aに向けて突出している。複数の第1ガイド突部81aaは、それぞれ同様な形状に形成されている。
図2に示す例では、第1ガイド突部81aaを3個とし、隙間Hと間隔DはH≒Dの関係にある。また、
隣り合う第1ガイド突部81aa間の間隔Dは全ての箇所において等しい。最も大気側の第1ガイド突部81aaと最も密封対象流体側の第1ガイド突部81aaとの間隔Lが隙間Hの偶数
倍となることを目安に第2リップ81の設計を行えば、
図2に示すような安定した渦流のテイラー渦T2,T3を発生させることができる。
【0019】
上述のように設けられた第1ガイド突部81aaにより、テイラー渦T2,T3の渦流が所定の向きに案内されるため、テイラー渦T2,T3は安定する。第2ガイド突部81bは、第2リップ81と第1リップ80との間に設けられ、円筒部81aよりもクランクシャフト7側に突出しないように形成されている。具体的には、第2ガイド突部81bは、第2リップ81の基端側内周面に設けられている。第2ガイド突部81bは、最も密封対象流体側の第1ガイド突部81aaから隙間Hよりも大きく離れている。この第2ガイド突部81bによれば、異物が第2リップ81とクランクシャフト7の外周面70aとの間を通過して密封対象流体側に向う経路に、テイラー渦T4,T5(
図2参照)を安定的に発生させることができる。
【0020】
第2リップ81の大気側の先端角部81cは、大気側に向うにつれて拡径する曲面状の傾斜面81caとされている。このように先端角部81cが傾斜面81caとなるように形成されていれば、第2リップ81の大気側の先端角部81cとクランクシャフト7の外周面7aとの間にテイラー渦T1を発生させることができる。テイラー渦T1は、異物が第2リップ81の円筒部81aとクランクシャフト7の外周面7aとの隙間Hに入り込む前に、異物の侵入を抑制する空気流れとなる。
【0021】
以上の構成によれば、クランクシャフト7が一定の回転数に達すると、第1ガイド突部81aa,81aa間に矢印方向のテイラー渦T2,T3が発生し、これに伴いテイラー渦T2に隣接する大気側にもテイラー渦T1が発生する。テイラー渦T1は大気側に異物を誘導する方向(
図2のT1矢印方向参照)の渦流になるので、異物の侵入口となる先端角部81cの隙間箇所で異物の侵入を効果的に抑制することができる。またテイラー渦T3に隣接して密封対象流体側にもテイラー渦T4が発生する。そして第2ガイド突部81bによって、第2リップ81と第1リップ80との間にテイラー渦T4とは渦流の方向が異なるテイラー渦T5が発生する。これにより、異物が第2リップ81の円筒部81aとクランクシャフト7の外周面70aとの間を通過したとしても、第1リップ80に向うまでの経路にテイラー渦T4,T5が発生しているため、テイラー渦T5によって異物を大気側へ戻す作用が働き、異物が第1リップ80の摺動部80aaに達することを抑制できる。
【0022】
第1ガイド突部81aaの構成は図例に限定されず、
図2に示すように断面が緩やかな湾曲形状としてもよいし、略三角山形状であってもよい。また第1ガイド突部81aaは、周方向に沿って連続して環状に設けられる方がテイラー渦を安定して規則的に発生させるという観点からは望ましいが、断続的に設けられる第1ガイド突部81aaを除外するものではない。以下では、第1ガイド突部81aaのさらに異なる例について説明する。
【0023】
図3(a)及び
図3(b)は、第1ガイド突部81aaの形成個数が
図2の例とは異なる変形例を示している。
図2と共通する箇所は共通の符号を付し、共通する箇所の説明は省略する。
第1ガイド突部81aaの形成個数は特に限定されず、
図3(a)に示すように第1ガイド突部81aaを3以上の奇数個とし、最も大気側の第1ガイド突部81aaと最も密封対象流体側の第1ガイド突部81aaとの間隔Lが隙間Hの偶数倍としてもよい。ここに示すように第1ガイド突部81aaを2n+1個設け、隙間Hと同等の間隔Dを空けて設けるようにしてもよい。この場合、
図3(a)では、隙間Hと長さLはL≒2nHの関係になる。
以上の構成によれば、第2リップ81の大きさ・形状に応じた望ましい位置に複数の第1ガイド突部81aaを設けることで、テイラー渦が発生する位置及び個数の安定化を図ることができる。
なお、
図3(a)では第2ガイド突部81bが設けられていない例を示している。
図3(a)のように多数のテイラー渦を発生させる構成とすれば、障壁が増えることになるため、第2ガイド突部81bを省略してもよい。
【0024】
図3(b)では第1ガイド突部81aaが設けられていない例を示している。
図3(b)のように、円筒部81aの軸方向の長さLが、隙間H以上に形成されていれば、第1ガイド突部81aaを省略してもよい。この場合、円筒部81aは、その軸方向の長さLがL≒2nHの関係となるように形成すると好ましい。第1ガイド突部81aaが存在しなくてとも、クランクシャフト7が所定の回転数に達すれば、円筒部81aとクランクシャフト7との間にテイラー渦が発生し、異物の侵入が抑制されるようになる。
【0025】
図4(a)及び
図4(b)は、回転部材側にもテイラー渦発生のためのガイド凹部7b、60aを形成した例を示している。
図2と共通する箇所は共通の符号を付し、共通する箇所の説明は省略する。
図4(a)はクランクシャフト7の外周面7aに複数のガイド凹部7bが形成されている。ガイド凹部7bの形成位置は、隣り合う第1ガイド突部81aa,81aa間の空間に対向して形成されている。そして、隣り合う第1ガイド突部81aa,81aaの間の空間とガイド凹部7bとで形成された空間には、テイラー渦を安定して発生させることができる。この例においても、第1ガイド突部81aa等の形成位置や形成個数は限定されず、ガイド凹部7bは、第1ガイド突部81aaの形成位置に対応して形成される。
【0026】
図4(b)は、クランクシャフト7の外周面7aに金属環6が嵌合され、その金属環6の嵌合部60に、ガイド凹部60aが形成された例である。金属環6は大気側からの異物の侵入を抑制するために設けられ、断面略L字状に形成されている。金属環6は、クランクシャフト7の外周面7aに嵌合される嵌合部60と、嵌合部60の大気側一端部から略垂直方向に折曲形成された鍔部61とを備えている。
図4(b)に示す例も、ガイド凹部60aが隣り合う第1ガイド突部81aa,81aaの間の空間に対向して形成され、隣り合う第1ガイド突部81aa,81aaの間の空間とガイド凹部7bとで形成された空間にはテイラー渦が安定して発生する。
以上によれば、金属環6によって異物侵入を抑制している上に、隙間Hにテイラー渦を発生させる構造になっているので、一層、効果的に異物侵入を抑制でき、密封装置4Aの密封性能の長寿命化を図ることができる。
【0027】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について、
図5~
図7を参照しながら説明する。第2実施形態では、密封装置4B,4Cが軸受ユニット用密封装置として適用された例を説明する。第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は割愛する。
【0028】
図5は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受ユニット10を示す。この軸受ユニット10は、大略的に、外輪11と、ハブ輪70と、ハブ輪70の車体側に嵌合一体とされる内輪部材71と、外輪11とハブ輪70及び内輪部材71との間に介装される2列の転動体(ボール)14…とを含んで構成される。この例では、外輪11は、自動車の車体(不図示)に固定され、ハウジング3を構成する。ハブ輪70及び内輪部材71が内側部材としての内輪7を構成し、回転部材とされ、外輪11に設けられる挿通孔30に挿通される。また、ハブ輪70にはドライブシャフト16が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト16は等速ジョイント15を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト16はナット16aによって、ハブ輪70と一体化され、ハブ輪70のドライブシャフト16からの抜脱が防止されている。内輪7(ハブ輪70及び内輪部材71)は、外輪11に対して、軸L2回りに回転可能な回転部材とされ、外輪11と、内輪7とにより、相対的に回転する2部材が構成され、該2部材間に環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体14…が、リテーナ14aに保持された状態で、外輪11の軌道輪11a、ハブ輪70及び内輪部材71の軌道輪70e,71bを転動可能に介装されている。ハブ輪70は、円筒形状のハブ輪本体70bと、ハブ輪本体70bより立上基部70cを介して径方向外側に延出するよう形成されたハブフランジ70dを有し、ハブフランジ70dにボルト17及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。以下において、軸L2方向に沿って車輪に向く側(
図5において左側)を車輪側、車体に向く側(
図5において右側)を車体側と言う。
なお、第1実施形態では、回転部材としてクランクシャフトに「7」の符号を付したので、第2実施形態における回転部材となる内輪に符号「7」を付している。
【0029】
軸受空間Sの軸L2方向に沿った両端部であって、外輪11と内輪部材71、及び外輪11とハブ輪70との間には、密封装置4B,4Cが装着され、軸受空間Sの軸L2方向に沿った両端部が密封される。これら密封装置4B,4Cによって、軸受空間S内への泥水等の侵入や軸受空間S内に充填される密封対象流体である潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
密封装置4B,4Cのうち、以下ではまず
図6で車体側の密封装置4Bに本発明を適用した例を説明する。
【0030】
図6を参照しながら、密封装置4Bを説明する。
図6は、
図5におけるX部の拡大図である。密封装置4Bは、外輪11に嵌合される円筒部200を有した芯金20と、芯金20に固着されるシール部21と、内輪部材71に嵌合されるスリンガ90とを備えている。
芯金20は、外輪11の車体側内径面11bに内嵌される円筒部200と、円筒部200の軸受空間S側の端部200aから内径側に延びる内向鍔部201とを有している。スリンガ90は、内輪部材71の外周面71aに外嵌されるスリンガ円筒部900と、スリンガ円筒部900の軸受空間Sとは反対側の端部900aから外径側に延びる外向鍔部901とを有している。芯金20及びスリンガ90は、鋼板をプレス加工することにより断面が略L字状に形成され、これらを互いに対向して組み合わせることでいわゆるパックシールを構成している。
【0031】
シール部21は、ゴム等の弾性体からなり、芯金20に対して加硫接着されることで一体成型されている。シール部21は、シールリップ基部210と、シールリップ基部210から延出されるとともに最も大気側に設けられたリップ部211と、リップ部211よりも内径側に設けられ大気側に向って延びる第2リップ81と、密封対象流体側に向って延びる第1リップ80とを有している。これらリップ部211、第1リップ80、第2リップ81の個数や形状は図例に限定されない。円筒部81aの内径面81abは、スリンガ90のスリンガ円筒部900に対して所定の隙間Hを空けた状態で形成されている。そして、円筒部81aは、その軸方向の長さLが、隙間H以上に形成されている。また円筒部81aに複数の第1ガイド突部81aa、第2ガイド突部81b及び先端角部81cを有している点も第1実施形態と同様である。
図6の例も第1実施形態の
図2の例と同様に第1ガイド突部81aaを3個とし、隙間Hと同等の間隔Dを空けて設けられている。よって、この場合、隙間Hと間隔DはH≒Dの関係にある。また最も大気側の第1ガイド突部81aaと最も密封対象流体側の第1ガイド突部81aaとの間隔Lが隙間Hのおよそ2倍を目安に第2リップ81の設計を行えば、安定した渦流のテイラー渦を発生させることができる。
【0032】
このようなパックシールタイプの密封装置4Bにおいても、第1実施形態で説明したテイラー渦を発生しやすい構造を適用できる。これによれば、第2リップ81がスリンガ円筒部900に、はりつくことがなく、摩擦熱の発生や摺動トルクの増加を抑制できる。また大気側からの異物の侵入も抑制でき、異物が第1リップ部80の摺動部80aaに噛み込まれて摩耗することを抑制できるので、密封性能の長寿命化を図ることができる。
なお、図示していないが、この密封装置4Bにおいても、円筒部81aを
図3(a)及び
図3(b)の構成とすることができ、また
図4(b)のように回転部材側となるスリンガ円筒部900にガイド凹部60aを形成してもよい。
【0033】
次に
図7を参照しながら、密封装置4Cを説明する。
図7は、
図5におけるY部の拡大図である。密封装置4Cは、車輪側の密封装置4Cを示している。
密封装置4Cは、外輪11の車輪側の内径面11cに内嵌される芯金40と、芯金40に固着されたシール部41とを備えている。
芯金40は、鋼板をプレス加工して形成されている。芯金40は、外輪11の内径面11cに内嵌される円筒部400と、円筒部400の車輪側の端部400aから内径側に延びる内向鍔部401とを有している。シール部41は、ゴム等の弾性体からなり、芯金40に加硫成型により固着一体とされる。シール部41は、円筒部400の外周側に配された外周シール部410と、最も大気側に設けられたリップ部411と、リップ部411よりも内径側に設けられ大気側に向って延びる第2リップ81と、密封対象流体側に向って延びる第1リップ80とを備える。
【0034】
これらリップ部411、第2リップ81、第1リップ80の個数や形状は図例に限定されない。第2リップ81には、回転部材であるハブ輪本体70bに対して所定の隙間Hを空けた状態で円筒部81aが形成されている。そして、円筒部81aは、その軸方向の長さLが、隙間H以上に形成されている。また円筒部81aに複数の第1ガイド突部81aa、第2ガイド突部81b及び先端角部81cを有している点も第1実施形態と同様である。
図7の例も第1実施形態の
図2の例と同様に第1ガイド突部81aaを3個とし、隙間Hとほぼ等しい間隔Dを空けて設けられている。よって、この場合、隙間Hと間隔DはH≒Dの関係にある。また最も大気側の第1ガイド突部81aaと最も密封対象流体側の第1ガイド突部81aaとの間隔Lが隙間Hのおよそ2倍を目安に第2リップ81の設計を行えば、安定した渦流のテイラー渦を発生させることができる。
【0035】
このような密封装置4Cにおいても、第1実施形態で説明したテイラー渦を発生しやすい構造を適用でき、第2リップ81がハブ輪本体70bの周面70baにはりつくことがなく、摩擦熱の発生や摺動トルクの増加を抑制できる。また大気側からの異物の侵入も抑制できるので、異物が第1リップ部80の摺動部に噛み込まれて摩耗することを抑制できるので、密封性能の長寿命化を図ることができる。
なお、図示していないが、この密封装置4Cにおいても、円筒部81aを
図3(a)及び
図3(b)の構成とすることができ、また
図4(a)のように回転部材側となるハブ輪本体70bや立上基部70cにガイド凹部を形成してもよい。さらに金属材製等からなるデフレクターを備えたハブシールの場合は、デフレクター側に
図4(b)に示すようなガイド凹部を形成してもよい。
【0036】
以上の実施形態では、本発明に係る密封装置4が、自動車用エンジンにおけるオイルシール4Aや自動車用の軸受ユニットに組み付けられる密封装置4B,4Cとして適用される例について述べたが、これに限らず、ハウジング3と、該ハウジング3に設けられた挿通孔30に挿通される回転部材7との間を密封するものに適用可能である。よって、例えば第1実施形態のハウジング3が、船舶、或いは農業機械等に用いられるギヤードモータやポンプ等のハウジングであってもよい。この場合は、可動軸が出力軸であって、複数のギヤの噛み合いによって構成されるギヤ機構と出力軸とによって機械運動機構部が構成される。また、芯金5,20,40やシール部8,21,41、スリンガ90、金属環6等の形状・構成も図例のものに限定されず、第1リップ80、第2リップ81等のリップ部の形状や個数等も図例のものに限定されず、他の態様も採用可能である。したがって、例えば、第1実施形態において、第1リップ80がポンピング作用を発揮できる構成であるならば、第1リップ80にはねじ溝が形成されていない態様も採用可能である。また第2リップ81の円筒部81aは、その軸方向の長さLが隙間H以上となる関係を満たすような形状ならば、図例のものに限定されず、他の態様も採用可能である。また、第1実施形態において、第2リップ81の先端角部81cには、曲面状の傾斜面81caが形成されているが、これに限らず、直線状の傾斜面81caを形成してもよい。さらにスリンガ90に回転検出を行うためのエンコーダが固着されたものであってもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
4(4A,4B,4C) 密封装置
3(1,2,11) ハウジング(オイルパン,シリンダブロック,外輪)
30 挿通孔
7(7,71,70b,70c) 回転部材(クランクシャフト,内輪部材,ハブ輪本体,立上基部)
7a,71a,70ba (外)周面
5,20,40 芯金
8,21,41 シール部
80 第1リップ
81 第2リップ
81a 円筒部
H 隙間
L 円筒部の軸方向の長さ(最も大気側の第1ガイド突部と最も密封対象流体側の第1ガイド突部との間隔)
81aa 第1ガイド突部
D 第1ガイド突部の間隔
81b 第2ガイド突部
81c 先端角部