(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】治療剤に対する免疫応答を除去するための改善された方法及び化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20220617BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220617BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220617BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220617BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220617BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20220617BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220617BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220617BHJP
C07K 14/46 20060101ALI20220617BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220617BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220617BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220617BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220617BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220617BHJP
C12N 15/79 20060101ALI20220617BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220617BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20220617BHJP
A61K 38/19 20060101ALN20220617BHJP
A61K 38/37 20060101ALN20220617BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220617BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
A61K38/00 ZNA
A61K39/00
A61K48/00
A61P37/06
A61P43/00 121
C07K7/00
C07K7/08
C07K14/00
C07K14/46
C07K19/00
C12N7/01
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/79 Z
C12N15/86 Z
A61K35/76
A61K38/19
A61K38/37
A61K39/395
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2018515566
(86)(22)【出願日】2016-09-23
(86)【国際出願番号】 EP2016072690
(87)【国際公開番号】W WO2017050966
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-09-24
(32)【優先日】2015-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517133976
【氏名又は名称】イムサイス エスエー
【氏名又は名称原語表記】IMCYSE SA
【住所又は居所原語表記】GIGA B34, Avenue de l’Hopital 1, B-4000 Liege, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】サン-レミ,ジャン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルエルスト,リュック
(72)【発明者】
【氏名】カルリエ,ヴァンサン
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-500308(JP,A)
【文献】国際公開第2015/063176(WO,A3)
【文献】特表2014-501508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0184023(US,A1)
【文献】国際公開第2009/101206(WO,A3)
【文献】国際公開第2009/101204(WO,A3)
【文献】VINCENT A CARLIER,INCREASED SYNAPSE FORMATION OBTAINED BY T CELL EPITOPES CONTAINING A CXXC MOTIF IN 以下備考,PLOS ONE,2012年01月01日,VOL:7, NR:10,,PAGE(S):E45366/1-16,http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0045366,FLANKING RESIDUES CONVERT CD4+ T CELLS INTO CYTOLYTIC EFFECTORS
【文献】ELIN MALEK ABRAHIMIANS,MHC CLASS II-RESTRICTED EPITOPES CONTAINING AN OXIDOREDUCTASE ACTIVITY PROMPT CD4(+) 以下備考,FRONTIERS IN IMMUNOLOGY,2015年09月02日,VOL:6,,PAGE(S):449/1-5,http://dx.doi.org/10.3389/fimmu.2015.00449,T CELLS WITH APOPTOSIS-INDUCING PROPERTIES
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 39/00
A61K 48/00
A61P 37/06
A61P 43/00
C07K 7/00
C07K 7/08
C07K 14/00
C07K 14/46
C07K 19/00
C12N 7/01
C12N 15/12
C12N 15/62
C12N 15/63
C12N 15/79
C12N 15/86
A61K 35/76
A61K 38/19
A61K 38/37
A61K 39/395
A61K 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) b1) 治療用タンパク質と、b2) a1)に規定され、配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むポリペプチド
を含んでなるポリペプチドキット。
【請求項2】
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) b1) 治療用タンパク質と、b2) a1)に規定され、配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現ベクター
を含んでなるキット。
【請求項3】
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) 遺伝子治療又は遺伝子ワクチン接種用のウイルスベクターであって、骨格に、b1) 該ベクターの機能及び維持のためのウイルスベクタータンパク質と、b2) a1)に規定され、配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスベクター
を含んでなるキット。
【請求項4】
b)のタンパク質が、融合パートナーとして、b1) 治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質と、b2) a1)に規定され、配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含む融合タンパク質である、請求項1~3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
オキシドレダクターゼモチーフ配列がC-X(2)-C [配列番号2]である、請求項1~4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
CD1d-制限NKT細胞エピトープモチーフが配列[FWYHT]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWYHT] [配列番号1]を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
CD1d-制限NKT細胞エピトープモチーフが配列[FWY]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWY] [配列番号28]を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
MHCクラスII T細胞エピトープが1又は2以上のHLA-DR1分子に結合する無差別エピトープである、請求項1~7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
MHCクラスII T細胞エピトープが配列X1X2MATX6LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、Y、H、F及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
医薬として使用する請求項1~9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
b1) 治療用タンパク質と、b2) 配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープとを含むポリペプチドを含む組成物であって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用する組成物。
【請求項12】
b1) 治療用タンパク質と、b2) 配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープとを含むポリペプチドをコードする発現ベクターを含む組成物であって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用する組成物。
【請求項13】
b1) ベクターの機能及び維持のためのウイルスタンパク質と、b2) 配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープとを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を骨格に含んでなる遺伝子治療又は遺伝子ワクチン接種用のウイルスベクターを含む組成物であって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用する組成物。
【請求項14】
a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドを含んでなる、前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d結合性ペプチドエピトープを用いて治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に対する免疫応答を防止するための組成物であって、前記エピトープが前記治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に生じない配列を有する、組成物。
【請求項15】
a) 配列中に、非改変のタンパク質に生じないMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープの配列を導入することにより改変された治療用タンパク質を作製すること、
b) a)のMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチドを作製すること
を含んでなるポリペプチドキットの製造方法。
【請求項16】
a) 配列中に、非改変のタンパク質に生じないMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの配列を導入することにより改変された治療用タンパク質又はベクターの機能及び維持用ウイルスベクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを作製すること、
b) a)のMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチドを作製すること
を含んでなるキットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、代償療法、遺伝子治療及び遺伝子ワクチン接種に用いる改変されたタンパク質に関する。
本発明は更に、代償療法、遺伝子治療及び遺伝子ワクチン接種に用いるタンパク質に対する免疫応答を防止する化合物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
治療剤として用いるタンパク質は、しばしば免疫応答を惹起し、そのため更なる使用が妨げられる。例として、血友病A患者の治療における第VIII因子、及びサイトカイン又は細胞表面マーカーに特異的な抗体(それぞれ、例えば、抗TNF-α抗体又は抗CD20抗体)が挙げられる。このような薬剤で治療された患者の平均30%が末梢血に検出可能な濃度の抗体を生じる。加えて、相当な割合の患者が予想用量より高い用量での治療剤の投与を必要とし、このことは、検出未満の濃度の抗体が薬剤活性を中和し、及び/又は循環からのクリアランスを増大させることを示唆している。この状況下では、免疫応答の防止が有利である。
【0003】
遺伝子治療及び遺伝子ワクチン接種は、遺伝子導入の実施に用いるウイルスベクターに依拠する。しかし、これらベクターが発現するウイルスタンパク質は免疫応答を惹起して、遺伝子導入の効果を低減させ、導入遺伝子の再投与を妨げる。この応答の回避により、導入遺伝子の長期発現が可能になり、機能的な遺伝子導入又はワクチン接種の効果を達成するに必要なウイルス粒子の数が減少する。
【0004】
特許出願WO2008017517は、抗原のクラスII-制限T細胞エピトープとレドックスモチーフ配列とを有するペプチド及び幾つかの疾患の治療におけるその使用を記載する。更なる詳細はCarlierら(2012), PloS ONE 7, e45366に公開されている。このペプチドの使用は、ペプチド-MHCクラスII複合体との同族相互作用後に(当該ペプチドの設計に用いた抗原を提示する)抗原提示細胞のアポトーシスを誘導する細胞溶解特性を有するCD4+ T細胞の産生をもたらす。
【0005】
同じ発明者の更なる特許出願は、この技術を、治療用タンパク質若しくは抗体に対する免疫応答(WO2009101206)又は遺伝子治療又はワクチン接種用ウイルスベクターの骨格がコードするタンパク質に対する免疫応答(WO2009101204)を回避するために使用することを開示している。
複数のMHCクラスII分子に結合する無差別MHCクラスII T細胞エピトープが、種々の抗原について記載されている。
VEGFと無差別Tヘルパー細胞エピトープとの融合タンパク質がUS2007184023に開示されている。
透明帯タンパク質とテタヌス毒の無差別T細胞エピトープとの融合タンパク質は、内因性透明帯タンパク質に結合する抗体を生じさせ、避妊薬として作用する(Louら(1995) J. Immunol. 155, 2715-2720)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の要旨
本発明は、下記の問題の解決策を提供する。
上記の先行技術の方法では、ペプチドに用いるエピトープの配列は、抗原の配列により規定される。
このエピトープペプチドは、単離され、レドックスモチーフ配列に融合されると、タンパク質分解性切断を受け易くなることがあり、可溶化が困難であり得、又はレドックスモチーフと内部システイン架橋を形成する傾向があり得る。
更に、異なる治療用タンパク質についての異なるペプチドの使用は、標準手順(用いる治療用タンパク質のタイプに関わらず、同一濃度で且つ同一のワクチン接種スキームでペプチドを投与することができるもの)の設計を困難にする。
【0007】
ヒトにおけるMHCクラスII決定基の大きな多形性は、1つのタンパク質に由来する単一又は少数のエピトープをその多形性に適合するように使用することを困難にする。
無差別エピトープを含む抗原又はこの多形性を回避する異なるエピトープの同定が可能である抗原についてのみ、HLAタイプに関わらず任意の個体の治療が可能である。
CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープがタンパク質に存在する場合には、その使用によりHLA多形性を迂回することができるが、全ての抗原性タンパク質がそのようなペプチド配列を含むわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、T細胞エピトープを含む抗原との関係の切り離し、及び該エピトープの、エピトープとレドックスモチーフ配列とを有するペプチドの作製のための使用が可能となる。
本発明により、異なるMHCクラスIIタンパク質及び対立形質に結合するT細胞エピトープの使用が可能になる。
【0009】
本願に記載され、下記でより詳細に記載される医療用途から容易に理解可能なように、これら医療用途には、エピトープ及びオキシドレダクターゼモチーフを含むペプチドを投与して、当該エピトープを提示する抗原提示細胞(APC)に対して細胞溶解性CD4+集団を惹起させること(第1の投与)が必要である。続いて、新たに導入したエピトープと共に治療用タンパク質又は遺伝子治療用ベクターを投与する(第2の投与)。ここで、治療用タンパク質(又はベクターがコードするウイルスベクタータンパク質)は、第1の投与に用いたペプチドに存在するものと同じエピトープを含む。結果として生じる免疫応答(例えば、治療用タンパク質に対するもの)は、APCによる治療用タンパク質のエピトープの提示から開始する。APCは、治療用タンパク質自体に存在するエピトープを提示するのみならず、導入されたエピトープも提示する。結果として、APCは上記細胞溶解性細胞により殺傷され、抗原のクリアランスが防止される。
本発明の医療用途は、この2つのタイプのポリペプチドの分離投与をベースとする。したがって、これらポリペプチドは、同義語である「組合せ」、「セット」又は「キット」と称呼される。
【0010】
本発明の1つの観点は、
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) b1) 治療用タンパク質と、b2) a1)に規定するエピトープであって、その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むポリペプチド
を含んでなるポリペプチドキットに関する。
【0011】
本発明の1つの観点は、
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) b1) 治療用タンパク質と、b2) a1)に規定するエピトープであって、その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現ベクター
を含んでなるキットに関する。
【0012】
本発明の1つの観点は、
a) a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列とを含むペプチド、及び
b) 遺伝子治療又は遺伝子ワクチン接種用のウイルスベクターであって、その骨格に、b1) 該ベクターの機能及び維持のためのウイルスベクタータンパク質と、b2) a1)に規定するエピトープであって、その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むウイルスベクター
を含んでなるキットに関する。
【0013】
よって、エピトープの配列は、先行技術の治療法で用いられるような、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の天然の(又は野生型若しくは天然型)配列に存在しない。本発明は、前記タンパク質内の既存のエピトープが該タンパク質の融合パートナーとして繰り返されている融合タンパク質を意図するものではない。本発明は、上記a)のエピトープが、組換えDNA技術による欠失及び挿入により、前記タンパク質の配列から切り取られて別の部分に挿入された既存のエピトープであるタンパク質を意図するものではない。
【0014】
これらキットの実施形態において、b)のタンパク質は、融合パートナーとして、b1) 治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質と、b2) a1)に規定するエピトープであって、その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるエピトープとを含む融合タンパク質である。
これらキットの実施形態において、オキシドレダクターゼモチーフ配列はC-X(2)-C [配列番号2]である。
これらキットの実施形態において、CD1d-制限NKT細胞エピトープモチーフは配列[FWYHT]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWYHT] [配列番号1]を有する。
これらキットの実施形態において、CD1d-制限NKT細胞エピトープモチーフは配列[FWY]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWY] [配列番号28]を有する。
これらキットの実施形態において、MHCクラスII T細胞エピトープは1又は2以上のHLA-DR1分子に結合する無差別エピトープである。
これらキットの実施形態において、MHCクラスII T細胞エピトープは配列X1X2MATX6LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、Y、H、F及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する。
本発明の1つの観点は、医薬として使用する上記キットに関する。
【0015】
本発明の1つの観点は、
b1) 治療用タンパク質と、b2) その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープとを含むポリペプチドであって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用するポリペプチドに関する。
【0016】
本発明の1つの観点は、
b1) 治療用タンパク質と、b2) その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープとを含むポリペプチドをコードする発現ベクターであって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用する発現ベクターに関する。
【0017】
本発明の1つの観点は、
b1) ベクターの機能及び維持のためのウイルスタンパク質と、b2) その配列がb1)のタンパク質の配列とは異なるMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープとを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をその骨格に含んでなる遺伝子治療又は遺伝子ワクチン接種用のウイルスベクターであって、
a1) 前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープと、a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用するウイルスベクターに関する。
【0018】
本発明の1つの観点は、
- a1) MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、
- a2) 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列と
を含んでなる、前記MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d結合性ペプチドエピトープを用いて治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に対する免疫応答を防止するためのペプチドであって、前記エピトープが前記治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に生じない配列を有する、ペプチドに関する。
【0019】
本発明の1つの観点は、
a) その配列中に、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープの配列であって、非改変のタンパク質に生じない配列を導入することにより改変された治療用タンパク質を作製すること、
b)
- a)のMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、
- 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列と
を含むペプチドを作製すること
を含んでなるポリペプチドキットの製造方法に関する。
【0020】
本発明の1つの観点は、
a) その配列中に、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの配列であって非改変のタンパク質に生じない配列を導入することにより改変された治療用タンパク質又はベクターの機能及び維持用ウイルスベクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを作製すること、
b)
- a)のMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、
- 該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列と
を含むペプチドを作製すること
を含んでなるキットの製造方法に関する。
【0021】
本発明の1つの観点は、
- モチーフX1X2MATX6LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、F、H、Y及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する改変CLIP配列と、
- 該改変CLIP配列と直接接して又は該改変CLIP配列から最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列と
を含んでなる12~100アミノ酸長のペプチドに関する。
この実施形態において、CLIP配列は、FFMATRLLM [配列番号30]、WWMATRLLM [配列番号31]、WFMATRLLM [配列番号32]、FWMATRLLM [配列番号33]、FFMATPLLM [配列番号34]、WWMATPLLM [配列番号35]、WFMATPLLM [配列番号36]及びFWMATPLLM [配列番号37]からなる群より選択される。
【0022】
本発明の1つの観点は、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に生じない配列を有し、モチーフX1X2MATX6LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、F、H、Y及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する配列を有するMHCクラスII T細胞エピトープの存在を特徴とする治療用タンパク質又は治療用タンパク質若しくはウイルスベクタータンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0023】
本発明の1つの観点は、無差別MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープをコードするヌクレオチド配列の存在を特徴とする、治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドのインフレームで挿入するためのマルチクローニング部位を含む発現ベクターであって、該治療用タンパク質のポリヌクレオチドを挿入すると、前記無差別MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープに融合した該治療用タンパク質を含む融合タンパク質をコードして発現する発現ベクターに関する。
【0024】
この実施形態において、発現ベクターは哺乳動物発現ベクターである。
実施形態において、発現ベクターは、
転写及び翻訳エレメントの制御下に、無差別MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープをコードする配列とインフレームで治療用タンパク質をコードする配列とを含んでなり、該無差別MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞エピトープであって治療用タンパク質の配列とは異なる配列を有するエピトープに融合した該治療用タンパク質を含む融合タンパク質の発現を可能にする。
或る特定の実施形態において、MHCクラスII T細胞エピトープはモチーフX1X2MATX6LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、F、H、Y及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する配列を有する。
この実施形態において、配列はFFMATRLLM [配列番号30]、WWMATRLLM [配列番号31]、WFMATRLLM [配列番号32]、FWMATRLLM [配列番号33]、FFMATPLLM [配列番号34]、WWMATPLLM [配列番号35]、WFMATPLLM [配列番号36]及びFWMATPLLM [配列番号37]からなる群より選択される。
【0025】
本発明は、
a) 改変された治療用タンパク質又は改変されたウイルスベクタータンパク質であって、その改変が、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の非改変の配列に生じない配列を有するMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの存在であることを特徴とするタンパク質と、
b) a)に規定するMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドと
のポリペプチドの組合せに関する。
【0026】
組合せの実施形態において、a)のタンパク質は、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープに融合した治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の融合タンパク質である。
組合せの実施形態において、a)のタンパク質は少なくとも2つの異なるエピトープで改変されており、b)中、各ペプチドがa)に規定するエピトープを含む少なくとも2つのペプチドが存在する。
組合せの実施形態において、オキシドレダクターゼモチーフ配列はC-X(2)-C [配列番号2]である。
組合せの実施形態において、b)中、エピトープ及びレドックスモチーフは最大で4アミノ酸離れている。
CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープモチーフの実施形態は、[FWYHT]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWYHT] [配列番号1]又は[FWYH]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWYH] [配列番号27]及び[FWY]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWY] [配列番号28]である。
1つの代表的な実施形態において、T細胞エピトープは、1又は2以上のHLA-DR1分子に結合する無差別エピトープであり、好ましくは、少なくともHLA-DR1*0101、HLA-DR1*0102及びHLA-DR1*0302に結合する。
具体的に実施形態において、T細胞エピトープは、配列X
1
X
2
MATX
6
LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、Y、H、F及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する。この例は、FFMATRLLM [配列番号30]、WWMATRLLM[配列番号31]、WFMATRLLM [配列番号32]又はFWMATRLLM [配列番号33]である。
本発明は、医薬としての使用についての上記観点に記載したポリペプチドの組合せに関する。
【0027】
本発明は、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープと、該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドで予め治療された個体において医薬として使用するための改変された治療用タンパク質又は改変されたウイルスベクタータンパク質であって、その改変が、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の非改変の配列に生じない配列を有するMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの存在であるタンパク質に関する。
【0028】
本発明は、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d結合性ペプチドエピトープを用いて治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質に対する免疫応答を防止するための、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d結合性ペプチドエピトープと、該エピトープと直接接して又は該エピトープから最大で7アミノ酸離れて、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]のオキシドレダクターゼモチーフ配列を有する配列とを含むペプチドであって、
- 前記エピトープは、前記治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の野生型配列に生じない配列を有し、場合により
- 該タンパク質は、該エピトープ配列のN末端又はC末端部分の7アミノ酸配列中に、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]を有する配列を含まない
ペプチドに関する。
【0029】
本発明は、その配列中に、非改変のタンパク質に生じないMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの配列を導入する工程を含んでなる、改変された治療用タンパク質又は改変されたウイルスベクタータンパク質の製造方法に関する。
代表的には、エピトープ配列は、融合タンパク質を得るために当該タンパク質に付着される。
【0030】
本発明は、モチーフX
1
X
2
MATX
6
LLM [配列番号29](式中、X1及びX2は独立してV、I、L、M、F、H、Y及びWから選択され、X6はR又はPである)を有する改変されたCLIP配列を含む12~100アミノ酸長のペプチドに関する。この例は、FFMATRLLM [配列番号30]、WWMATRLLM [配列番号31]、WFMATRLLM [配列番号32]、FWMATRLLM [配列番号33]、FFMATPLLM [配列番号34]、WWMATPLLM [配列番号35]、WFMATPLLM [配列番号36]及びFWMATPLLM [配列番号37]である。
具体的実施形態において、これらペプチドは、[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8] レドックスモチーフ配列を有する配列を更に含み、ここで、レドックスモチーフ配列と改変CLIP配列とは、0~7アミノ酸又は0~4アミノ酸又は0~2アミノ酸離れている。
モチーフの具体的実施形態はC-X(2)-C [配列番号2]である。
【0031】
本発明は、改変された治療用タンパク質又は改変されたウイルスベクタータンパク質であって、その改変が、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の非改変配列に生じない配列を有するMHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの存在である、改変タンパク質に関する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
定義
用語「ペプチド」と「タンパク質」との区別は任意である。なぜならば、両者とも、ペプチド結合により結合したポリペプチド(ただし、(例えば、連結有機化合物のような)非アミノ酸構造を含み得る)をいうからである。ポリペプチドは、通常の20アミノ酸又は(翻訳後修飾で得られるような)その改変バージョンのいずれをも含むことができ、化学ペプチド合成又は化学的若しくは酵素的改変により組み込まれた天然に存在しないアミノ酸(例えば、生理学的アミノ酸)を含むことができる。本明細書で用いる場合、ペプチドは、2アミノ酸から20、30、50、75又は100アミノ酸までのアミノ酸配列を含む分子に言及するために用いる。
【0033】
用語「抗原」は、本明細書で用いる場合、巨大分子の構造体、典型的にはタンパク質(多糖部分を有していてもいなくてもよい)、又は1若しくは2以上のハプテンを含み、T細胞エピトープを含むタンパク質組成物をいう。用語「抗原性タンパク質」は、本明細書で用いる場合、1又は2以上のT細胞エピトープを含むタンパク質をいう。自己抗原又は自己抗原性タンパク質は、本明細書で用いる場合、体内に存在するヒト又は動物のタンパク質であって、当該ヒト又は動物の体内で免疫応答を誘発するタンパク質をいう。
用語「食品又は医薬品抗原性タンパク質」は、食品又は医薬品(例えばワクチン)中の抗原性タンパク質をいう。
用語「エピトープ」は、抗体若しくはその一部分(Fab'、Fab2'など)又はB若しくはT細胞リンパ球の細胞表面に提示されるレセプターが特異的に認識して結合する抗原性タンパク質の1つ又は幾つかの部分(立体エピトープを規定してもよい)であって、当該結合により免疫応答を誘導することができる部分をいう。
【0034】
用語「T細胞エピトープ」は、本発明に関しては、ドミナント、サブドミナント又はマイナーT細胞エピトープ(すなわち、Tリンパ球の細胞表面のレセプターが特異的に認識して結合する抗原性タンパク質の部分)をいう。エピトープがドミナントであるか、サブドミナントであるか又はマイナーであるかは、当該エピトープに対して誘発される免疫反応に依存する。優勢の程度は、タンパク質中の可能な全てのT細胞エピトープのうち、当該エピトープがT細胞により認識されてT細胞を活性化することができる頻度に依存する。T細胞エピトープは、MHCクラスII分子により認識されるエピトープであり、MHC II分子の溝に嵌合する9アミノ酸前後の配列からなる(MHC II分子の溝に嵌合するペプチドの長さは、幾つかのペプチド/MHCII複合体については8又は10アミノ酸であり得る)。9アミノ酸のT細胞エピトープを表すペプチド配列中で、エピトープ内のアミノ酸はP1~P9と番号付けされ、エピトープに対してN末端側のアミノ酸はP-1、P-2という具合に、エピトープに対してC末端側のアミノ酸は、P+1、P+2という具合に番号付けされる。
【0035】
アミノ酸配列の「モチーフ」は、本明細書では、Prosite方式(Sigristら(2002) Brief Bioinform. 3, 265-274)に従って記述される。記号Xは、任意のアミノ酸が許容される位置について用いられる。選択肢は、所与の位置について許容可能なアミノ酸を角括弧([ ])内に列挙することにより示される。例えば:[CST]は、Cys、Ser又はThrから選択される1アミノ酸を表す略号である。選択肢として排除されるアミノ酸は、波括弧({ })内に列挙することにより示される。例えば:{AM}は、Ala及びMetを除く任意のアミノ酸を表す略号である。モチーフ中の異なる要素は、ハイフン(-)で互いに分離される。モチーフ内での同一要素の繰返しは、丸括弧内の数値又は数値範囲を、当該要素の後に配置して示すことがある。例えば;X(2)はX-Xに、X(2,3)はX-X又はX-X-Xに、A(3)はA-A-Aに相当する。
【0036】
用語「CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープ」又は「CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープ」とは、CD1d分子が特異的に結合し、細胞表面で発現され、NKT細胞が認識する抗原性タンパク質の部分をいう。この定義において、語「ペプチド」は、先行技術のCD1d結合性化合物(例えば、セラミド)との差異を強調するために用い得る。
CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープは、一般的モチーフ[FWYHT]-X(2)-[VILM]-X(2)-[FWYHT] [配列番号1]を有する。この一般的モチーフの別バージョンは、1位及び/又は7位に代替の選択肢[FWYH]を有する。
この一般的モチーフの別バージョンは、1位及び/又は7位に代替の選択肢[FWYT]を有する。
この一般的モチーフの別バージョンは、1位及び/又は7位に代替の選択肢[FWY]を有する。
1位及び/又は7位のアミノ酸に関わらず、この一般的モチーフの別バージョンは、4位に代替の選択肢[ILM]を有する。
【0037】
用語「ホモログ」は、本明細書において本発明に用いるエピトープに関して用いる場合、天然に存在するエピトープと少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%のアミノ酸配列同一性を有し、このことにより、抗体又はB及び/若しくはT細胞の細胞表面レセプターと結合する当該エピトープの能力を維持する分子をいう。エピトープの特定のホモログは、最大で3つ、特に最大で2つ、更に特には1つのアミノ酸が改変された天然エピトープに相当する。
用語「誘導体」は、本明細書において本発明のペプチドに関して用いる場合、少なくともペプチド活性部分(すなわち、CD4+T細胞を検出できる部分)と、異なる目的(例えば、ペプチドの安定化、又はペプチドの薬物動態若しくは薬力学特性の改変)を有し得る付加部分とを含む分子をいう。
【0038】
2つの配列の「配列同一性」との用語は、本明細書で用いる場合、2つの配列を整列させたときの、(同一のヌクレオチド又はアミノ酸が占める位置の数)/(短い方の配列のヌクレオチド数又はアミノ酸数)をいう。配列同一性は、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上であり得る。
用語「ペプチドコーディングポリヌクレオチド(又は核酸)」及び「ペプチドをコードするポリヌクレオチド(又は核酸)」は、本明細書で用いる場合、適切な環境下で発現させたときに、該当するペプチド配列又はその誘導体若しくはホモログの生成をもたらすヌクレオチド配列をいう。このようなポリヌクレオチド又は核酸は、ペプチドをコードする通常の配列、並びに要求される活性を有するペプチドを発現させることができるこれら核酸の誘導体及び断片を含む。例えば、ペプチド又はその断片をコードする核酸は、哺乳動物を起源とするか若しくは哺乳動物の、特にはヒトのペプチド断片に対応するペプチド又はその断片をコードする配列である。
【0039】
用語「還元活性を有する有機化合物」とは、本発明に関しては、タンパク質のジスルフィド結合について還元活性を有する化合物、より具体的にはアミノ酸配列をいう。
有機化合物の還元活性は、例えばインスリン可溶性アッセイ(インスリンの可溶性が還元に際して変化する)において又は蛍光標識インスリンを用いて、スルフヒドリル基を還元する能力についてアッセイすることができる。還元性有機化合物は、T細胞エピトープのアミノ末端側又はT細胞エピトープのカルボキシ末端側に結合していてもよい。一般に、還元活性を有する有機化合物はペプチド配列である。還元活性を有するペプチド断片は、グルタレドキシン、ヌクレオレドキシン、チオレドキシンその他のチオール/ジスルフィド オキシドレダクターゼを含む小ジスルフィド還元酵素であるチオレダクターゼに見出される(Holmgren (2000) Antioxid. Redox Signal. 2, 811-820;Jacquotら(2002) Biochem. Pharm. 64, 1065-1069)。これらは多機能性であり、遍在し、多くの原核及び真核生物に見出される。これらは、保存的活性ドメインコンセンサス配列:C-X(2)-C [配列番号2]、C-X(2)-S [配列番号3]、C-X(2)-T [配列番号4]、S-X(2)-C [配列番号5]、T-X(2)-C [配列番号6](Fomenkoら(2003) Biochemistry 42, 11214-11225;Fomenkoら(2002) Prot. Science 11, 2285-2296)(xは任意のアミノ酸を表す)内のレドックス活性システインにより、タンパク質(例えば、酵素)のジスルフィド結合について還元活性を発揮する。このドメインは、より大きなタンパク質、例えばタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)及びホスホイノシチド特異的ホスホリパーゼCにも見出される。
【0040】
用語「天然の」、「野生型」、「天然型」は、本明細書においてペプチド又は配列に言及する場合、配列が天然に存在する配列又はその断片と同一であるという事実に関する。これに対して、用語「人工」は、それ自体が天然に生じず、上記の天然の/野生型/天然型配列とは異なる配列又はペプチドをいう。場合により、人工配列は、天然配列から、限定的な改変、例えば天然に存在する配列内の1若しくは2以上のアミノ酸を変更すること、又は天然に存在する配列のN若しくはC末端にアミノ酸を付加することにより得られる。アミノ酸は、本明細書では、その完全な名称、3文字略称又は1文字略称で言及する。人工配列はまた、アミノ酸側鎖を化学的に改変すること又は非天然アミノ酸を含ませることにより得ることができる。
用語「主要組織適合性抗原」とは、ヒトHLA系(マウスではH2)に結合する分子(2つの一般クラスに分類される)をいう。MHCクラスI分子は、3つのドメイン(α1、2及び3)を含む単一の多形性鎖から構成され、細胞表面でβ2ミクログロブリンと会合する。クラスI分子は3つの遺伝子座(ヒトではA、B及びCと呼ばれる)によりコードされる。この分子は、CD8+サブセットのTリンパ球にペプチドを提示する。クラスII分子は、各々が2つの鎖(α1及び2並びにβ1及び2)を含む2つの多形性鎖から構成される。このクラスII分子は3つの遺伝子座(ヒトではDP、DQ及びDRと呼ばれる)によりコードされる。このうち、HLA-DR分子がヒトで最も優勢である。異なる国籍及び人種における対立形質の頻度は、http://www.allelefrequencies.net (Gonzalez-Galarzaら(2015) Nucl. Acid Res. 28, D784-D788)から入手することができる。
【0041】
「遺伝子治療」は、欠けている遺伝子又は対立遺伝子を提供するか、又は変異体遺伝子又は変異体対立遺伝子を遺伝子治療により送達される機能的コピーで置換する目的を有する、1又は2以上の遺伝子の個々の細胞又は細胞群(例えば、組織又は器官)への挿入(エキソビボ又はインビボ)として定義することができる。「治療用遺伝子」はベクターと呼ばれる運搬体により送達される。最も一般的なベクターはウイルスベクターである。治療用遺伝子を有するウイルスベクターが標的細胞に感染すると、ウイルスベクターは、標的細胞内に、治療用遺伝子を含む遺伝物質を運び込み、その後、治療用遺伝子によりコードされる機能的タンパク質が生成される。遺伝子治療の標的たる細胞は、体細胞若しくは生殖細胞又は細胞株のいずれでもあることができる。加えて、遺伝子治療とは、個々の細胞又は細胞群内での過剰発現又は異所性発現を必要とする遺伝子を(エキソビボ又はインビボ)送達するためのベクターの使用をいう。ベクターは、核内への新たな遺伝子の組込みを容易にし、又は当該遺伝子のエピソーム発現を導くことができる。
「遺伝子ワクチン接種」は、対象者にワクチン接種する目的での、該対象者への機能的遺伝子(すなわち、コードするタンパク質を発現することができる遺伝子)の投与として定義することができる。よって、遺伝子ワクチン接種(又はDNAワクチン接種)は、ペプチド、タンパク質、減弱化又は不活化菌などを用いるより古典的なワクチン接種の変形である。遺伝子ワクチン接種は、裸DNA又はウイルスベクター(本発明に関して特に注目される)を用いて行うことができる。
【0042】
用語「ウイルスベクタータンパク質」とは、本明細書で用いる場合、ウイルスベクター自体の骨格に由来し、当該ベクターの機能及び維持に必要である任意のタンパク質又はペプチドをいう。この用語は、ベクター中にクローニングされている治療用遺伝子をいうものではない。代表的には、このウイルスベクタータンパク質は抗原性であり、1又は2以上のエピトープ(例えば、T細胞エピトープ)を含む。周知例はキャプシドタンパク質である。現在、RNAウイルス(ガンマ-レトロウイルス及びレンチウイルス)及びDNAウイルス(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス及びポックスウイルス)を含む幾つかのウイルスが、実験及びヒトの両方の遺伝子治療に、現在使用されている。
用語「アロ因子」又は「アロ抗原」とは、同一種の2個体間で比較したとき多形性を示すタンパク質、ペプチド又は因子(すなわち、任意の分子)をいい、より一般的には、アロ因子を与えられた対象者において(アロ反応性)免疫応答を誘導する任意のタンパク質、ペプチド又は因子をいう。
用語「アロ反応性」とは、グラフトレシピエントとドナーとの間の対立形質差に向けられた免疫応答をいう。アロ反応性は抗体及びT細胞に適用される。本発明は、T細胞のアロ反応性に完全に依拠し、ペプチド-MHC複合体としてMHC決定基に関して提示されるアロ抗原のT細胞認識に基づくものである。
【0043】
用語「無差別」とは、想定した集団の相当な割合をカバーするために異なるMHCクラスII分子に結合することができる性質を有するエピトープをいう。相当な割合は、想定した集団の少なくとも50%、又は少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも90%、更には少なくとも95%である。
想定した集団は、1若しくは2以上の国又は1若しくは2以上の地域若しくは大陸の個体群或いは一人種のメンバーと定義することができる。
或いは、無差別エピトープは、想定した集団内で最も優勢な15のHLA DR対立形質のうちの少なくとも7、8、9又は10に結合するものと定義することができる。
無差別エピトープは、抗原内に生じるような天然配列であり得、抗原内で生じる天然配列の1又は2以上のアミノ酸(2、3又は4)の置換により改変することもでき、完全に人工的でもあり得る(非生理学的アミノ酸、改変側鎖を有するアミノ酸又は小化合物を含む)。
当該技術分野では、用語「普遍性エピトープ」も存在する。しかし、この用語は、種々の抗原に見出される1つのエピトープ配列に関する。この普遍性エピトープは、異なるMHC分子及び対立形質に結合してもしなくてもよい。
【0044】
本発明の1つの観点は、MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープが付加されている、治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の改変バージョンに関する。改変は、代表的には、抗原とエピトープ配列との融合タンパク質を生成することにより行うが、エピトープ配列を当該タンパク質自体に導入することもできる。
ここで、9アミノ酸のT細胞エピトープ配列又は7アミノ酸のCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープ配列は、野生型の治療用タンパク質又はウイルスベクタータンパク質の断片ではない。
改変は、治療用タンパク質/ウイルスベクタータンパク質に存在するようなエピトープ配列の改変、又は別の抗原(ヒト又は非ヒト)に生じるようなエピトープ配列の使用、又は既存の抗原エピトープ配列のいずれとも配列同一性が低いか又は全く無いように設計された配列の使用により達成することができる。
MHCクラスII T細胞エピトープは無差別エピトープであり得る。この選択の合理性は、下記でより詳細に説明する。
【0045】
改変された治療用タンパク質/ウイルスベクタータンパク質は、導入したクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープの配列から4アミノ酸以内、代表的には7アミノ酸以内にモチーフ配列[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]が存在する場合、それ自体がCD4+細胞傷害性細胞の産生を惹起し得る。これは、改変が、エピトープ配列の導入とは別に、オキシドレダクターゼ配列の導入も含む場合に起こり得る。野生型配列にオキシドレダクターゼ配列を含む幾つかのタンパク質は、天然に存在するオキシドレダクターゼ配列の近位に(最大で7又は4アミノ酸離れて)エピトープ配列を含むように操作するすることができる。
この活性を、改変された治療用タンパク質/ウイルスベクタータンパク質が要求しない場合、改変はエピトープ配列の導入に限定される。改変された治療用タンパク質/ウイルスベクタータンパク質がその野生型配列中にオキシドレダクターゼ配列を含む場合、付加されるエピトープ配列は、該付加エピトープと既存のオキシドレダクターゼモチーフとが少なくとも4又は少なくとも7アミノ酸離れるように、改変タンパク質に導入される。
【0046】
エピトープは、当該タンパク質の機能に対する付加エピトープ配列の影響に応じて、融合タンパク質中で抗原のN末端側又はC末端側に存在することができる。具体的実施形態では、2又は3以上の異なるエピトープが抗原に付加される。
適切な場合には、リンカー配列をエピトープ配列と天然型抗原の配列との間に挿入することができる。
エピトープ配列が配列中の当該タンパク質の機能に関して重要でない領域に融合されている改変バージョンの抗原の作製もまた意図されている。代替の実施形態では、外来エピトープ配列は、抗原の配列内の/に1又は2以上のアミノ酸を変異及び/又は付加することにより作製する。
(融合タンパク質として又は内部タンパク質として付加された)導入エピトープ配列を有するタンパク質の長さは、主に抗原により規定され、制限性の特徴ではない。抗原は、ペプチドホルモンの場合には、非常に小さいものであり得る。タンパク質内の変異の影響は、より短いタンパク質においてより大きくなる蓋然性が高く、100アミノ酸長以下又は250アミノ酸長以下のタンパク質について融合タンパク質を考慮する裏付けとなる。
【0047】
本発明の治療剤は、生理学的物質の欠如を補償するため又は疾患プロセスを変更し、改変し、停止させ若しくは減速させるために用いる任意のペプチド又はタンパク質薬剤を含む。
このような治療剤としては以下が挙げられる:
1.凝固欠陥(第VIII因子、第IX因子及び第X因子の欠損を含む)用の代償薬剤、欠損を修正するための、又は外傷、手術、心不全の治療剤としての、又は血友病に罹患し、欠いている因子(第VIII因子又は第IX因子)の投与を妨げる阻害性抗体を産生する患者の治療における、第VII因子の投与、
2.フィブリン溶解剤(卒中及び心筋梗塞で投与される組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)又はスタフィロキナーゼを含む)
3.ホルモン、例えば、小人症及びインスリン依存性真性糖尿病を治療するための成長ホルモン又はインスリン
4.サイトカイン及び成長因子、例えば、インターフェロン-α、インターフェロン-γ、GM-CSF及びG-CSF;サイトカインレセプター、例えば、慢性関節リウマチの治療におけるIL-6レセプター及びIL-1bレセプター
5.免疫応答のモジュレーションのための抗体(アレルギー疾患における抗IgE抗体、移植拒絶及び種々の自己免疫疾患における抗CD3及び抗CD4抗体、非ホジキンリンパ腫における抗CD20抗体、抗サイトカイン又はサイトカインレセプター(例えば、抗IL6R)を含む)
ヒト化治療用抗体は、通常はマウス配列に由来するエピトープ結合部位(CDR)を除き、ヒトに由来する。本発明は、抗体の非ヒト部分に対する応答を惹起する能力を除去することを目的とする。
6.腎不全におけるエリスロポエチン
7.酵素を用いる補充治療(α-ガラクトシダーゼA(ファブリー病)、β-グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrase)(1型ゴーシェ病)及びα-グルコシダーゼ(ポーンプ病)を含む)。
【0048】
MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープが付加されたタンパク質に関する上記セクションに加えて、本発明の別の1つの観点は、上記タンパク質と、4アミノ酸のオキシドレダクターゼ配列及び治療用タンパク質又はウイルスベクターに付加されている同じエピトープ配列を含む別のペプチドとの組合せに関する。
このペプチドでは、オキシドレダクターゼ配列は、モチーフ[CST]-X(2)-C [配列番号7]又はC-X(2)-[CST] [配列番号8]を有する。このモチーフは、代替の選択肢C-X(2)-C [配列番号2]、S-X(2)-C [配列番号5]、T-X(2)-C [配列番号6]、C-X(2)-S [配列番号3]及びC-X(2)-T [配列番号4]を包含する。このモチーフの1つの特定の選択肢は、C-X(2)-C [配列番号2]である。
還元性化合物のモチーフにおいて、Cは、システイン又はチオール基を有する別のアミノ酸(例えば、メルカプトバリン、ホモシステイン、又はチオール官能性を有するその他の天然若しくは非天然アミノ酸)のいずれかを表す。還元活性を有するには、モチーフ中に存在するシステインは、システインジスルフィド橋架けの一部として存在してはならない。
レドックス中のアミノ酸Xは、任意の天然アミノ酸又は非天然アミノ酸であり得る。Xは小さな側鎖を有するアミノ酸(例えば、Gly、Ala、Ser又はThr)であり得る。特定の形態において、レドックスモチーフ中の少なくとも1つのXは、His、Pro又はTyrである。特定の形態において、XはCysではなく、他の特定の形態において、XはW、F、Yのいずれでもない。
【0049】
特定の条件の下で、1つのエピトープ配列及び1つのモチーフ配列を含むペプチドが提供される。モチーフは、ペプチド中で、1度、或いは、例えば、互いに1アミノ酸又は2アミノ酸以上離れていてもよいモチーフの繰返しとして、又は、互いに隣接した繰返しとして、又は互いに重複する繰返しとして、数度(2度、3度、4度、更には5度以上)現れ得る。
エピトープ配列と4アミノ酸のオキシドレダクターゼ配列は重複せず、7、6、5、4、3、2又は1アミノ酸のリンカー配列で互いに分離されているか、又は互いに直接接している(よって、リンカー配列なし、又は0個のアミノ酸のリンカー)。リンカーの代表的な範囲は、0~2アミノ酸、0~4アミノ酸、又は0~7アミノ酸である。
ペプチド中のエピトープ配列が抗原の断片である場合、リンカー中のアミノ酸は、代表的には、抗原中でエピトープの(側部に位置する)アミノ酸である。或いは、リンカー中のアミノ酸はGly及び/又はSerである。
【0050】
レドックスモチーフはまた、エピトープ配列のN末端又はC末端に存在することができる。
レドックスモチーフ配列及びエピトープ配列を有するペプチドは、MHCクラスII T細胞エピトープを有するペプチドについては12又は13アミノ酸程度、CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープを有するペプチドについては11アミノ酸程度の短いものであり得、上限は、エピトープとオキシドレダクターゼモチーフとの間のアミノ酸数及び「エピトープ+リンカー+レドックスモチーフ」配列又は「レドックスモチーフ+リンカー+エピトープ」配列のN末端及び/又はC末端の側方に位置するアミノ酸数に応じて、20、30、40、50、75又は100アミノ酸であり得る。
【0051】
よって、選択する実施形態に応じて、エピトープは、MHCクラスII エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープである。CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープは、NKT細胞を介する細胞溶解性CD4+ T細胞の生成に用いることができる。
CD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープは、このタンパク質に多形性が存在しないことから、全ての個体においてCD1dに結合するという利点を有する。
MHCクラスII T細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープが付加されたタンパク質と、このエピトープ及びレドックスモチーフを含むペプチドとの組合せでの使用により、抗原自体のエピトープ配列から、細胞溶解性CD4+細胞集団を惹起させるために用いるエピトープ配列を切り離すことができるようになる。
このことは、タンパク質とエピトープとの融合タンパク質について特に当てはまる。なぜならば、これは、タンパク質自体の配列を改変する必要がないからである。新たなエピトープ配列を含むように治療用タンパク質を改変することは、各タンパク質について最適化しなければならないという課題がある。
抗原配列からのエピトープ配列の切り離しにより、オーダーメイドのエピトープ配列の設計が可能になる。この配列は、可溶性及び安定性が向上する、分解が低減するなどのように最適化することができる。配列における特定のアミノ酸の選択とは別に、他の変更、例えば、ペプチド合成の間の非天然アミノ酸若しくはD-アミノ酸の組込み又は翻訳後修飾(例えば、シトルリン化、アセチル化及び硫酸化)も企図され得る。
【0052】
エピトープ配列はまた、MHCクラスII T細胞エピトープが確実に異なるHLAタンパク質に結合し、その結果、大きな対象者集団においてCD4+ T細胞に認識されるように最適化することもできる。このようなエピトープは、無差別エピトープとして当該分野において知られている。
このような無差別エピトープの例は、ウイルス性物質中、例えば麻疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、ミコバクテリア、腫瘍関連ウイルスの抗原中、又は自家タンパク質中に見出すことができる。エピトープ配列とHLA分子若しくは対立形質との結合を決定するため及びタンパク質配列中の無差別エピトープを同定するためのアルゴリズムは公知である。候補の無差別エピトープは種々のMHC分子について試験することができる。
無差別MHCクラスII T細胞エピトープの使用の代替として又はこれに加えて、ワクチン接種のために、最大限可能な数のMHCクラスII決定基をカバーするように、各々がチオレダクターゼモチーフ及びMHCクラスII T細胞エピトープを含む2又は3以上のペプチドを混合することができる。この場合、抗原もまた、ペプチド混合物に用いる2又は3以上のエピトープ配列を有する(代表的には、融合タンパク質の形態で)。
1つの具体的実施形態において、MHCクラスII T細胞エピトープとCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープとの組合せが用いられる。
【0053】
1つの具体的実施形態において、無差別エピトープは、不変鎖のタンパク質分解性切断により得られるCLIP(クラスII関連不変鎖ペプチド(KM1R2MATP6LLMQAL)[配列番号9]配列に由来する。CLIPは、親和性がより高いペプチドとの競合によって置換されるまで、MHCクラスII分子の疎水性のペプチド結合溝を保護する。CLIPは、DR、DP又はDQファミリーの全ての新生MHCクラスII分子を保護し、それ自体が無差別エピトープの最も説明的な例である。しかし、クラスII分子に関するCLIPの親和性は弱く、その結果、抗原提示細胞の表面では、CLIPを有するMHCクラスII分子の提示はない。DMタンパク質は、表面提示について、代替ペプチドによるCLIPの置換を触媒する(Posら(2012) Cell 151, 1557-1568)。
MHCクラスII分子のP1ポケットに位置する第1CLIPアミノ酸残基の、疎水性残基(例えば、F、W、H又はY又はV、I、L又はMでの置換が、代替ペプチドによる完全な置換を防止し、抗原提示細胞の表面での改変CLIPの提示を可能にするに十分であることが、本発明の1つの観点である。このことにより、CD4+ T細胞の活性化がもたらされる。1つの代替の形態において、CLIPのMHC結合断片の第2アミノ酸残基もまた、疎水性残基で置換される。
加えて、結合親和性を更に増大させるため、6位に位置するプロリン残基をPからRに変異させることができる。
【0054】
したがって、本発明は、一般的配列モチーフ[VILMFWYH]1[RVILMFWYH]2MAT[PR]6LLM [配列番号10]により表されるCLIPペプチドのMHCクラスII結合領域の改変バージョンを含むペプチドを提供する。
この改変CLIPペプチドにおいて、互いに独立して、P1は[FWHY]、[FWH]又は[FW]でもあり得、P2は[RFWHY]、RFW又はRでもあり得、P6はPでもあり得る。
具体的実施形態において、P1及びP6は、上記の可能性のうちの1つで改変され、P2のアルギニンは改変されない。
ペプチドは、多数のMHCクラスII分子において密接に嵌合する配列を用いて、完全に人工的に作製することができる。その一例はPADREペプチドにより提供される(aKXVAAWTLKAAaZC (a=D-アラニン、X = l-シクロヘキシルアラニン、Z = アミノカプロン酸) [配列番号11](Alexanderら(2000) J. Immunol. 64, 1625-1633)。この人工的な無差別ペプチドは、最適な嵌合が得られるようにアミノ酸残基の性質及びMHCクラスII分子の性質を考慮するコンピュータアルゴリズムにより作製することができる。このようなアルゴリズムの一例はProPredにより提供される(Sigh and Raghava (2001), Bioinformatics 17, 1236-1237)。アルゴリズムの他の例は下記に示される。
無差別エピトープは、テタヌス毒ペプチド(830~843)又はインフルエンザヘマグルチニンHA(307~319)にも見出される。
インシリコ又は細胞ベースアッセイによる無差別エピトープの検出方法は、Mustafaら(2014) PLoS One 9, e103679;Grzybowska-kowalczyk (2015) Thorax 69, 335-345;Grabowskaら(2014) Int. J. Cancer 224, 1-13;Fraserら(2014). Vaccine 32, 2896-2903に記載されている。
【0055】
非天然(又は改変)T細胞エピトープは、必要に応じて、MHCクラスII分子に対する結合親和性について更に試験することができる。これは種々の方法で行うことができる。例えば、可溶性HLAクラスII分子は、所与のクラスII分子に関してホモ接合型である細胞の溶解により得られる。可溶性HLAクラスII分子は、アフィニティークロマトグラフィーにより精製される。可溶性クラスII分子は、当該クラスII分子に関する強力な結合親和性に応じて作製されたビオチン標識参照ペプチドとインキュベートする。その後、クラスII結合性に関してアッセイすべきペプチドを、種々の濃度でインキュベートし、ニュートラビジンの添加により、クラスII結合から参照ペプチドを置換する能力を算出する。方法は、例えば、Texierら(2000) J. Immunol. 164, 3177-3184に見出すことができる。
【0056】
加えて及び/又は或いは、1又は2以上のインシリコアルゴリズムを用いて、タンパク質内のT細胞エピトープ配列を同定することができる。適切なアルゴリズムとしては、限定されないが、下記のウェブサイトに見出されるものが挙げられる:
- http://cvc.dfci.harvard.edu/balbc/
- http://www.syfpeithi.de/
- http://abi.inf.uni-tuebingen.de/Services/SVMHC
- http://bio.dfci.harvard.edu/Tools/antigenic.html;
- http://www.ddg-pharmfac.net/mhcpred/MHCPred/
- http://www.immunax.dfci.harvard.edu (PEPVAC)
- http://www.epivax.com/epimatrix/
より具体的には、これらアルゴリズムにより、抗原性タンパク質内の、MHC II分子の溝に嵌合する1又は2以上の9アミノ酸ペプチド配列の予測が可能になる。
MHCクラスIIペプチドの無差別性の決定の例は、Stumioloら(1999) Nat. Biotechnol. 17, 555-561)が開発し、www.iedb.orgから入手可能である方法を用いるWO2015/033140に記載されている。ここで、この分析について考慮されるHLAクラスII対立形質は、それぞれがHLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR11、HLA-DR13及びHLA-DR15抗原群の代表的メンバーとして考えられる、HLA-DRA*01:01/HLA-DRB1*01:01、DRA*01:01/HLA-DRB1*03:01、DRA*01:01/HLA-DRB1*04:01、DRA*01:01/HLA-DRB1*07:01、DRA*01:01/HLA-DRB1*08:02、DRA*01:01/HLA-DRB1*11:01、DRA *01:01/HLA-DRB1*13:01及びDRA*01:01/HLA-DRBl*15:01である。
【0057】
(天然又は人工の)クラスII-制限エピトープを、細胞溶解性CD4+ T細胞を惹起するワクチンとして使用可能であることが本発明の更なる1つの観点である。同じエピトープが付加されているがチオレダクターゼモチーフを有しない治療用タンパク質の後続投与により、ワクチン接種により得られる細胞溶解性CD4+ T細胞の活性化が導かれる。このことが治療剤に対する免疫応答の防止をもたらす。
本発明の方法は、レドックスモチーフ及びT細胞エピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドエピトープを有するペプチドを用いて(レドックスモチーフを有するペプチドに用いられているエピトープ配列を含む抗原を提示する抗原提示細胞を殺傷する)それぞれ細胞傷害性CD4+ T細胞集団又は細胞傷害性CD4+ NKT細胞集団を生じさせる組合せ治療に関する。
この方法では、対象者はワクチン接種され、後に投与される(エピトープを有する)抗原性タンパク質に対する免疫応答が防止される。
したがって、治療剤の投与前の、ワクチン接種用の無差別クラスII-制限T細胞エピトープ及びCD1d結合性ペプチドエピトープの使用が、本発明の1つの観点である。ワクチン接種に用いるものと同じエピトープを含むがチオレドックスモチーフを有さない治療剤の使用は、本発明のこの観点の一部である。
【0058】
ペプチド及び治療剤を用いて、当該治療剤を必要とする対象者を治療する。よって、本発明の1つの適用において、対象者は、無差別エピトープ及びチオレダクターゼモチーフを含むペプチドで免疫される。代表的には、免疫は、アジュバントに吸着させ又は溶解したペプチドの皮下投与により行われる。免疫された対象者は、その後、当該対象者が必要とする治療剤で治療される。この治療剤は、ワクチン接種に用いたペプチドに含まれているものと同じ無差別エピトープを含むが、チオレダクターゼモチーフを含まない。治療剤に対する免疫応答は、ワクチン接種手順(この手順により無差別エピトープに対して特異な細胞溶解性CD4+ T細胞が惹起されていること)に起因にして防止される。
チオレドックスモチーフを含むペプチドの投与は、直接免疫により行うことができる。或いは、投与は、治療剤を必要とする対象者から得た細胞に、細胞溶解性CD4+ T細胞を惹起し拡大するために、ペプチドをインビトロで曝露すること及び該対象者への再投与からなってもよい。
本発明のT細胞エピトープは、チオレダクターゼモチーフとCD4分子との間でジスルフィド橋架けを生成することでシナプス形成の強度を増大させることによりその特性を発揮すると考えられる。この作用機序は実験データにより実証されるが(下記実施例を参照)、本発明をこの特定の作用機序に限定する意図はない。
【0059】
投与すべき治療剤のタイプ及び頻度並びに治療剤を必要とする対象者の臨床状態に応じてこの事象系列の複数のバリエーションを考え得ることは当業者に自明である。
これらバリエーションの1つでは、インビトロ細胞培養でチオレダクターゼモチーフ含有エピトープに曝露した対象者自身の細胞の注入により対象者を先ず治療することがより適切であり得る。これは、免疫抑制治療下の対象者に好ましい方法であり得、アジュバントと共に投与したペプチドに対する免疫応答の発生を防止し得る。
ペプチド投与は任意の経路を企図し得るが、好適な経路は皮下である。
ペプチドは、化学合成により作製することができ、このことにより、非天然アミノ酸及び/又は化学修飾アミノ酸の組込みが可能となる。化学修飾アミノ酸の例は、病的状態において見出されるものであり、例えば、慢性関節リウマチにおけるエピトープのグリコシル化及びシトルリン化、セリアック病における脱アミド化、及びインスリン依存性真性糖尿病におけるエピトープ内ジスルフィド橋架けの形成である。しかし、アミノ酸側鎖の改変には多くの可能性が存在し、上記の例は全てを網羅したものではない。
【0060】
ポリペプチドは、組換えDNA技術を用いて、細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞又は哺乳動物細胞において作製することができる。短いペプチドは、種々のアミノ酸を互いに連結してペプチドを作製する化学ペプチド合成により作製することができる。例えば、D-アミノ酸、天然に存在しない側鎖を有するアミノ酸又は改変側鎖を有する天然アミノ酸(例えばメチル化システイン)を含ませるためには、化学合成が特に適切である。
化学ペプチド合成法は十分に記載されており、ペプチドは、例えばApplied Biosystemsその他の会社に対して発注することができる。ペプチド合成は、固相ペプチド合成(SPPS)又は液相ペプチド合成のいずれかで行うことができる。最も知られているSPPS法はt-Boc及びFmoc固相化学である。ペプチド合成の間、幾つかの保護基が用いられる。例えば、ヒドロキシル基及びカルボキシル基はt-ブチル基で保護され、リジン及びトリプトファンはt-Boc基で保護され、アスパラギン、グルタミン、システイン及びヒスチジンはトリチル基で保護され、アルギニンはpbf基で保護される。或る特定の状況下において、これら保護基は、合成後のペプチドに残すことができる。
或いは、ペプチドは、本発明のペプチドをコードする核酸分子を用いて、当該コーディングヌクレオチド配列を含む適切な発現ベクターにおいて合成することができる。このようなDNA分子は自動DNA合成装置及び遺伝子コードの周知のコドン-アミノ酸関係性を用いて容易に作製し得る。このDNA分子はまた、オリゴヌクレオチドプローブ及び慣用のハイブリダイゼーション法を用いてゲノムDNA又はcDNAとして入手し得る。このDNA分子は、適切な宿主(例えば、細菌(例えば、Escherichia coli)、酵母細胞、動物細胞又は植物細胞)におけるDNAの発現及びポリペプチドの産生に適合する発現ベクター(プラスミドを含む)に組み込んでもよい。
【0061】
本発明の実施形態において、MHCクラスIIエピトープ又はCD1d-制限NKT細胞ペプチドが、代表的には市販の発現ベクターのマルチクローニング部位の上流又は下流で、ベクター中にクローニングされている発現ベクターが提供される。治療用タンパク質をコードするDNAのインフレーム挿入により、例えばHisタグ付加タンパク質又はHAタグ付加タンパク質に匹敵する、エピトープ-タグ付加タンパク質の発現が可能になる。このような改変発現ベクターは、標準の分子生物学技法を用いて作製することができる。
エピトープタグの付着により、エピトープと、補充療法用に選択した治療用タンパク質との融合タンパク質がもたらされる。任意の治療用タンパク質について単一のベクターを用いることができる。
タンパク質は、患者に投与するため、細菌、酵母、植物又は哺乳動物ベクターを用いて発現させることができる。発現系のタイプの選択は、タンパク質に依存し、ほとんどの治療用タンパク質について公知である。こうして単離したタンパク質を注射する。
或いは、エピトープに融合した治療用タンパク質をコードするDNAを、ヒトにおける遺伝子治療に適切な哺乳動物発現ベクター中にクローニングする。
ペプチドが本発明に関して規定するような適用への使用に適切である(あり得る)かどうかを決定するため、興味対象のペプチドの物理特性及び化学特性(例えば、可溶性、安定性)を調べる。代表的には、これは、ペプチド配列の調整により最適化される。場合により、ペプチドは、当該分野において公知の技術を用いて、合成後に改変することができる(化学修飾、例えば、官能基の付加/除去)。場合により、ペプチドは、翻訳後改変により改変することができる。この例は、単一又は複数のアミノ酸残基のアセチル化、硫酸化、シトルリン化又はリン酸化である。
【実施例】
【0062】
ここでは、下記の実施例により本発明を説明するが、本発明をこれら実施例に限定する意図はない。
【0063】
実施例1:治療用抗体
多くのウイルスは普遍性クラスII制限T細胞エピトープを含み、その一例はC型肝炎ウイルスである。ペプチド配列1247~1261 (QGYK VLVLNPSVAA T) [配列番号12]及び1535~1550 (TTVRLRA YMNTPGLPV) [配列番号13]は、併せて、一般集団の85%以上を代表する15のDRBハプロタイプの12以上をカバーする。
クラスII-制限エピトープの最小結合配列及びチオレダクターゼモチーフを含む2つのペプチドの混合物を利用するワクチン接種ストラテジを確立する。
ペプチド1247~1261は、1251位~1260位にMHCクラスII結合配列(配列番号12で下線を付す)を含む。
ペプチド1535~1550は、1542位~1550位に最小MHCクラスII結合配列(配列番号13で下線を付す)を含む。
ワクチン接種のために、レドックスモチーフ及びエピトープ配列がVRジペプチドリンカーで分離されている2つのペプチドを作製する:
CPYC-VR-VLVLNPSVAA [配列番号14]、及び
CPYC-VR-YMNTPGLPV [配列番号15]。
水酸化アルミニウムに吸着させた、この2つのペプチドの混合物の投与は、細胞溶解特性を有する特異的CD4+ T細胞を惹起する。
CD20に対する抗体は、非ホジキンリンパ腫についての認められた治療法である。しかし、相当な割合の患者において、この投与は、更なる投与を妨げるか又は効果を最小化する特異的抗体を惹起する。
本発明は、このような望まない免疫を防止するワクチン接種ストラテジを提供する。
C型肝炎ウイルスの上記2配列(すなわち、配列番号12及び配列番号13)を、抗CD20抗体と直列に作製し、重鎖のアミノ末端に配置した[配列番号16]。この抗CD20抗体の投与に際し、ワクチン接種によって事前に惹起された細胞溶解性CD4+ T細胞が活性化し、アポトーシスにより、該治療用抗体の決定基の提示が止まるため、抗CD20に対する免疫が防止される。
【0064】
実施例2:エリスロポエチン
エリスロポエチン(EPO)は166アミノ酸残基長のポリペプチドであり、赤血球生成の低酸素誘導の主要メディエータであり、成人では腎臓で産生される(±80%)。低酸素はEPO産生の増大を誘導し、EPOは血漿中を循環し、赤血球始原細胞上に発現したレセプターに結合し、この前駆体の最終分化及び赤血球量の増加を導く。
ヒト組換えEPOは弱い免疫原であるが、例えば腎不全における反復使用、グリコシル化又は製造手順の軽微な差は、特異的な中和抗体の発生を導くことがある。EPOは、低酸素状態に起因する赤血球生成の唯一のメディエータであることから、中和免疫応答の存在は劇的な事象とみなされる。
このような望まない免疫応答の発生を防止する1つの方法は、エピトープ側方領域内に位置するチオレダクターゼモチーフに連結した無差別クラスII制限T細胞エピトープをワクチンとして、EPOを必要とする個体に接種することである。これにより、細胞溶解特性を有するエピトープ特異的CD4+ T細胞が惹起される。EPOと無差別エピトープとが結合した分子の投与は、細胞溶解性CD4+ T細胞を活性化し、このことにより、EPOを提示する抗原提示細胞がアポトーシスによって消滅し、したがってEPOに対する免疫応答を惹起する能力も消滅する。
不変鎖は、無差別T細胞エピトープであるCLIP配列を含み、CLIP配列は、新生MHCクラスII分子に比較的低い親和性で結合する。CLIPは、より高い親和性を示すペプチドとの競合により、クラスII結合から遊離する。このエピトープ交換の間、DM分子は、CLIPと新たなペプチドとの間の移行状態で、クラスII分子の第1アンカーポケットを保護する。
【0065】
最初の2アミノ酸(クラスII結合に関して弱い親和性を示す)が2つの疎水性残基で置換された変異バージョンのCLIPは、無差別性を維持しつつ、クラスII分子に対する親和性が増大する。加えて、結合親和性を更に増大させるため、6位に位置する残基をPからRに変異させることができる。
よって、配列KM
1
R
2
MATP
6
LLMQAL [配列番号9](2番目及び3番目のアミノ酸(それぞれM及びR)がそれぞれ1位及び2位に位置する)は、6位も変異され、KF
1
F
2
MATR
6
LLMQAL [配列番号17]を生じる。
ペプチドは、N末端でのチオレダクターゼモチーフ及びVal-Argリンカー配列の付加により作製され、全長配列:CPYC-VR-FFMATRLLMQAL [配列番号18]を生じる。
EPO注射を必要とする患者に、水酸化アルミニウムに吸着させたペプチド[配列番号18]の標準的手順を用いるSC注射による投与でワクチン接種をする。この手順は、特許出願WO200817517に記載されているように、エピトープ特異的細胞溶解性CD4+ T細胞を惹起することが知られている。
配列KFFMATRLLMQAL [配列番号17]はEPOの末端にEPO配列とは2グリシン隔てて付加され、合計181アミノ酸となる。この改変EPO [配列番号19]は、投与に際して完全な活性を保持し、ワクチン接種により得られる細胞溶解性CD4+ T細胞を活性化し、このことにより有害な免疫応答が排除される。
CLIP改変エピトープの無差別性により、この治療を必要とする患者への同じワクチン及び同じEPO分子の使用が可能となる。
【0066】
実施例3:α-ガラクトシダーゼ
ファブリー病は、リソソーム貯蔵疾患であり、リソソームヒドロラーゼであるα-ガラクトシダーゼの欠如に起因して、種々の組織にグリコスフィンゴリピドが蓄積する。これは、100,000人に1人前後が罹患するX連関遺伝子欠損疾患である。ファブリー病の現行の治療法としては、α-ガラクトシダーゼの定期的な注入が挙げられる。しかし、当該治療下の25%以上の患者がこの酵素に対する免疫応答を生じ、当該酵素の更なる使用が妨げられ、患者は卒中を含む種々の合併症のリスクに陥る。
組換えα-ガラクトシダーゼは、該分子のアミノ末端に付加されたクラスII-制限無差別T細胞エピトープの配列を含むように改変することができる。この改変α-ガラクトシダーゼ分子の、チオレダクターゼモチーフを含むこの無差別エピトープを予めワクチン接種してペプチド特異的細胞溶解性CD4+ T細胞の産生が誘導されている個体への投与は、α-ガラクトシダーゼに対する免疫応答を惹起しない。
アミノ酸1277~1290に相当する配列LFLKSDGRVKYTLN [配列番号20]のアポリポタンパク質B-100の無差別エピトープ(P1にL1279が位置する(下線))は、チオレダクターゼモチーフと共に化学合成により作製する。これにより、配列CPYC-LF-LKSDGRVKYTLN [配列番号21]が得られる。
この配列はP6位に1つのアルギニン(R)を含む。このR残基を、ペプチジルアルギニンデイミナーゼの作用により得られるアミノ酸であるシトルリンに置換する。この改変は、正電荷の喪失をもたらし、P6でのMHCクラスIIアンカー残基とのより高い相互作用を導く。
したがって、ワクチン接種に用いるペプチドの最終配列は、CPYC-LF-LKSDG-シトルリン-VKYTLN [配列番号22]である。
ファブリー病に罹患した患者を、水酸化アルミニウムに吸着させたペプチドの標準的手順を用いて、配列番号21のペプチドのSC注射により免疫する。その後、エピトープ特異的細胞溶解性CD4+ T細胞が生成される。
次いで、このワクチン接種患者に、無差別エピトープのLFLKSDGRVKYTLN配列[配列番号20]を含むように改変された組換えα-ガラクトシダーゼ[配列番号23]を投与することができる。
【0067】
実施例4:細胞療法
免疫抑制療法下の患者は、治療用抗体の投与の恩恵を受け得るが、クラスII制限エピトープを含むペプチドを用いる能動ワクチン接種は、その状況下では困難であり得る。
しかし、そのような患者の末梢血から細胞を採集し、細胞溶解性細胞へのインビトロ形質転換用のナイーブのCD4+ T細胞(この細胞は、その後、患者に厳密に自家様式で再投与することができる)を調製することは可能である。このようにすることで、患者は、考えている治療剤に対する望ましくない免疫応答から即座に保護される。このような状況の1つの代表例は、患者が免疫抑制療法下である多発性硬化症であり、該患者は、抗体(例えば、抗CD52特異的抗体(Campath-1H、アレムツズマブ)の投与の恩恵を受け得る。
このような患者から末梢血の50mlサンプルを採集し、磁性ビーズ吸着によりナイーブCD4+ T細胞を調製する。樹状細胞を、同じ血液サンプル採取から得た単球から、当該分野において公知の方法により取得する。
マイコバクテリア細胞侵入タンパク質(Mce2)の無差別クラスII制限エピトープDPIELNATLSAVA [配列番号24] (アミノ酸163~175)を選択した(Panigada (2002) Infect. Immun. 70, 79-85)。
チオレダクターゼモチーフをこのペプチドのアミノ末端に付加して、配列CPYC-DP-IELNATLSAVA [配列番号25]を作製した。
樹状細胞に配列番号25のペプチドをロードし、ナイーブCD4+ T細胞をこれら樹状細胞で4回、7日間刺激して細胞溶解性CD4+ T細胞を作製する。
5×106の細胞溶解性細胞をIV経路で細胞ドナーに投与する。
抗CD52特異的抗体は、該分子のアミノ末端に付加した配列DPIELNATLSAVA [配列番号24]を含有し、リンカーとして2グリシン残基を有するもの[配列番号26]として、遺伝子工学により取得した。
この改変抗CD52抗体を、配列番号25のペプチドでインビトロにて活性化した自家CD4+ T細胞を投与されている個体に投与することにより、ペプチドDPIELNATLSAVA [配列番号24]に対する細胞溶解性CD4+ T細胞の活性化がもたらされ、そのため、治療用抗体に対する免疫応答を惹起する可能性が妨げられる。
【0068】
実施例5:改変CLIP無差別エピトープと融合したタンパク質の発現用ベクター
サイトメガロウイルスプロモーターを有する哺乳動物発現ベクターpCMVは、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞における任意の代償療法用タンパク質の実施例2に記載した無差別CLIP由来エピトープ[配列番号17]との融合での発現を可能にするように操作する。代償療法用タンパク質の注射を必要とする患者に、先ず、チオレダクターゼモチーフと実施例2に記載の改変CLIP由来エピトープ[配列番号18]とを含むペプチドの投与によりワクチン接種する。この免疫は、特許出願WO200817517に記載されているように、エピトープ特異的細胞溶解性CD4+ T細胞を惹起することが知られている。
CLIP配列が側方に位置する融合タンパク質の形態である興味対象の治療用タンパク質は、投与に際して完全な活性を保持し、ワクチン接種により得られる細胞溶解性CD4+ T細胞を活性化し、そのため有害な免疫応答が妨げられる。CLIP改変エピトープの無差別性により、その治療法を必要とする患者に関して、HLAプロフィールに関わらず、同じワクチン及び同じEPO分子の使用が可能となる。
この発現ベクターを得るため、下記に示すように、2つのグリシンから構成されるリンカーが先行し、制限酵素特異的配列Xho-I/Nhe-Iに挟まれたCLIP由来エピトープからなるアダプターを工学的に操作した。
【0069】
【0070】
このアダプターを市販の発現ベクターpCMVにクローニングすることにより、エリスロポエチン(EPO)cDNAの挿入用マルチクローニング部位を有する改変発現pCMV-CLIPを作製する。この目的のために、EPOをコードする配列を、EPO特異的配列と、KOZAK配列が先行するAge-I特異的配列とからなるフォワードプライマー及びEPO特異的配列とSal-I特異的配列から作製されるリバースプライマーを用いるPCRにより増幅する。Age-I/Sal-I消化後、EPO構築物を、Age-I及びXho-Iで予め消化したpCMV-CLIPに挿入する。このプラスミドをDH5-α E. coliに形質転換し、増幅する。精製及び直鎖状化の後、EPO-CLIP融合タンパク質の発現ベクターを、CHO細胞中にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトしたCHO細胞をアンピシリンで選択し、EPO-CLIPをより高レベルで産生するクローンを、配列番号40を有する組換え融合タンパク質(改変CLIP配列、下線を付す)の大量産生について選択した。
【0071】
MGVHECPAWL WLLLSLLSLP LGLPVLGAPP RLICDSRVLE RYLLEAKEAE NITTGCAEHC
SLNENITVPD TKVNFYAWKR MEVGQQAVEV WQGLALLSEA VLRGQALLVN SSQPWEPLQL
HVDKAVSGLR SLTTLLRALR AQKEAISPPD AASAAPLRTI TADTFRKLFR VYSNFLRGKL
KLYTGEACRT GDRVEGGKFF MATRLLMQAL S [配列番号40]
【0072】
実施例6:本願で開示した配列:
【表1-1】
【表1-2】
【配列表】