(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】木骨造を補修する方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
E04G23/02 B
(21)【出願番号】P 2019529824
(86)(22)【出願日】2018-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2018026626
(87)【国際公開番号】W WO2019013356
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017138644
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504424454
【氏名又は名称】アップコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】松藤 展和
(72)【発明者】
【氏名】川口 宏二
(72)【発明者】
【氏名】小菅 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】漆原 孝成
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-144269(JP,A)
【文献】特開平4-178483(JP,A)
【文献】実開昭54-70789(JP,U)
【文献】特開2005-188093(JP,A)
【文献】特開2006-283485(JP,A)
【文献】特開2001-3028(JP,A)
【文献】重要文化財(建造物)耐震診断・耐震補強の手引き,日本,文化庁文化財部参事官,2013年09月,97頁,http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hogofukyu/pdf/kokko_hojyo_taisin14.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材からなる柱と梁により骨組を作り、目地材として漆喰やモルタルを用いて骨組の間に煉瓦や石材を積み上げて壁体を作ることで構成される木骨造における柱および/または梁と壁体の目地に生じた空隙に、膨張性樹脂を注入して膨張させ、膨張した樹脂
が、空隙を単に埋めるだけでなく、柱や梁に生じた割れ目や表面のささくれ、煉瓦や石材の表面の凹凸、漆喰やモルタルに生じたヒビなどに入り込み、アンカー効果を発揮して、柱および/または梁と壁体を固定することによる、木骨造を補修する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木骨煉瓦造や木骨石造などの木骨造を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杉材や桧材などの木材からなる柱と梁により骨組(フレーム)を作り、目地材として漆喰やモルタルなどを用いて骨組の間に煉瓦や石材などを積み上げて壁体を作ることで構成される木骨造は、我が国において明治期に西洋建築を模倣した建物に盛んに採用され、現存する建物は、群馬県富岡市に所在する旧官営富岡製糸場の繭倉庫をはじめとして、歴史的価値を持つものが多い。しかしながら、近年、経年による目地材の劣化(割れ欠けによる脱落や痩せ細りなど)が原因で、柱や梁と壁体の目地に空隙が生じている建物が散見されており、そうした建物をこのまま何らの対処もせずに放置した場合、地震が起こると壁体が崩れたり、骨組から外れてしまって倒壊したりする恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、木骨造における柱や梁と壁体の目地に生じた空隙を埋めることにより、木骨造を補修する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の点に鑑みてなされた本発明の木骨造を補修する方法は、請求項1記載の通り、木材からなる柱と梁により骨組を作り、目地材として漆喰やモルタルを用いて骨組の間に煉瓦や石材を積み上げて壁体を作ることで構成される木骨造における柱および/または梁と壁体の目地に生じた空隙に、膨張性樹脂を注入して膨張させ、膨張した樹脂が、空隙を単に埋めるだけでなく、柱や梁に生じた割れ目や表面のささくれ、煉瓦や石材の表面の凹凸、漆喰やモルタルに生じたヒビなどに入り込み、アンカー効果を発揮して、柱および/または梁と壁体を固定することによる。
【発明の効果】
【0005】
本発明の木骨造を補修する方法によれば、膨張した樹脂によって柱や梁と壁体が固定されるので、壁体の崩落や倒壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】木骨煉瓦造における、ある高さ位置の模式的な水平断面図の一例であって、木柱と煉瓦の目地に生じている空隙を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の木骨造を補修する方法は、木骨造における柱および/または梁と壁体の目地に生じた空隙に、膨張性樹脂を注入して膨張させ、膨張した樹脂によって空隙を埋めることによるものである。
【0008】
本発明の方法の適用対象となる木骨造は、杉材や桧材などの木材からなる柱と梁により骨組を作り、目地材として漆喰やモルタルなどを用いて骨組の間に煉瓦や石材などを積み上げて壁体を作ることで構成されるものであり、壁体が煉瓦で作られている木骨煉瓦造や、壁体が石材で作られている木骨石造などが例示される。
【0009】
図1は、木骨煉瓦造における、ある高さ位置の模式的な水平断面図の一例であって、木柱と煉瓦の目地に生じている空隙を示す。
図1に示す木骨煉瓦造においては、壁厚が二枚の煉瓦の短辺の長さ合計からなり、煉瓦の長辺方向に並べられた列の端部の煉瓦は、木柱の10mmほど削られた凹部に嵌合され、建築当初、目地が漆喰で埋められることで、木柱と煉瓦が固定されていた。しかしながら、木柱と煉瓦の目地には、建物の重みや重みによる歪みが加わるため、目地材として用いられている漆喰が、経年によって割れ欠けすることで脱落したり、痩せ細ったりすることにより、目地に空隙が生じている(空隙Aおよび空隙B)。なお、上下左右の煉瓦同士の目地は、漆喰で埋められている。また、建物の内壁の全面は、漆喰で塗り固められている。
【0010】
空隙への膨張性樹脂の注入は、例えば、混合することで膨張性樹脂となる2種類の膨張性樹脂成分(後述するポリオールとイソシアネートの組み合わせなど)を用事混合して注入することが可能な、コンプレッサからのエアで作動する注入ガンに接続した、内径が5~15mmの可撓性を有する合成樹脂製の注入管を用いたり、2種類の膨張性樹脂成分が個別に充填され、両者を用事混合して注入することが可能なダブルシリンジに接続した注入管を用いたりして行う。空隙の存在場所は、外からの目視、漆喰が脱落している目地や漆喰の一部を除去した目地から挿入したCCDカメラなどによって特定し、空隙の大きさに応じて、膨張性樹脂の注入量を、その膨張率などを考慮して決定する。空隙が大きい場合、一度に大量の膨張性樹脂を注入すると、注入箇所から噴出したり、空隙が壁体の反対側まで連通している場合には反対側から噴出したりするため、少量(例えば一度の注入量は30mL以下)を複数回にわたって注入し、膨張性樹脂を複数回にわたって膨張させることが望ましい。空隙への膨張性樹脂の注入は、外から目視できる空隙Aの場合、木柱と煉瓦の隙間から、注入ガンやダブルシリンジに接続した注入管を挿入したり差し込んだりして行えばよく、外から目視できない空隙Bの場合、漆喰が脱落している目地や漆喰の一部を除去した目地から注入管を挿入したり差し込んだりして行えばよい。煉瓦を削孔することによる膨張性樹脂の注入は、建物の歴史的価値の毀損に直結するため避けるべきである。空隙に注入された膨張性樹脂は、その場で膨張し、膨張した樹脂によって空隙が埋まることで、木柱と煉瓦が固定される。特筆すべきは、膨張した樹脂は、空隙を単に埋めるだけでなく、木柱に生じた割れ目や表面のささくれ、煉瓦の表面の凹凸、漆喰に生じたヒビなどに入り込み、アンカー効果を発揮して木柱と煉瓦を堅固に固定するとともに、しなやかさを有するので、建物の重みや重みによる歪みが加わっても割れ欠けすることがなく、また、痩せ細ることもないことである。木柱と煉瓦の目地に生じた空隙が、煉瓦と煉瓦の目地にも拡大している場合には、膨張した樹脂は、煉瓦と煉瓦の目地に生じた空隙もあわせて埋めるので、煉瓦と煉瓦も固定される(空隙Aを参照)。異なる高さに存在する複数の空隙に膨張性樹脂を異なる高さの複数の注入箇所から注入する場合、下の注入箇所から上の注入箇所の順で行う。上の注入箇所から下の注入箇所の順で膨張性樹脂を注入すると、上方の注入対象の空隙と連通する空隙が下方に存在する場合、注入対象の空隙に注入した膨張性樹脂がその場で膨張する前に下方に存在する空隙に流れ込んでしまい、所定量の膨張性樹脂が注入対象の空隙において膨張しないことになるからである。補修完了後は、必要に応じて、目視やCCDカメラなどにより、膨張した樹脂による空隙の解消状況を確認することが望ましい。
【0011】
空隙に膨張性樹脂を注入する際、木柱、煉瓦、漆喰の表面に膨張性樹脂が付着しないように養生することは、歴史的価値を持つ建物を保護するために重要である。例えば、空隙に注入した膨張性樹脂が注入箇所から噴出しないように、注入ガンやダブルシリンジに接続した注入管の周囲は、粘土を貼り付けたり布切れ(ウエス)を詰め込んだりすることで封止することが望ましい。また、注入箇所から注入した膨張性樹脂が噴出する可能性がある箇所(注入箇所の側に存在する箇所のみならずその反対側に存在する箇所を含む)も、同様にして封止することが望ましい。詰め物として布切れを用いる場合、合成樹脂フィルム(ビニールフィルムなど)を介して詰め込むことが望ましい。布切れを直接的に詰め込むと、膨張した樹脂と接着することで両者の分離が困難となり、詰め込んだ布切れを無理やり引き抜こうとすると周辺の漆喰の破損を招いたりする恐れがあるからである。また、漆喰の表面の養生には紙テープが有効である。紙テープは接着力が弱いので、補修完了後に漆喰から剥がす際に漆喰も剥がしてしまうといったことがない。
【0012】
外からの目視で存在が特定できない空隙の特定や、そうした空隙に膨張性樹脂を注入するために、目地の漆喰の一部を除去した場合、補修完了後に新たな漆喰を用いて原状回復する。
【0013】
木柱と煉瓦の目地に空隙が存在するとともに、煉瓦と煉瓦の目地にも空隙が存在する場合、煉瓦と煉瓦の目地に存在する空隙に、膨張性樹脂を注入して膨張させ、膨張した樹脂によって空隙を埋めることが望ましい。
【0014】
なお、
図1を用いた上記の説明は、あくまで例示に過ぎず、本発明の方法は、柱や梁の材質、壁体を作るための煉瓦や石材の積み上げ方、目地材の種類などの違いによって、適用に制限が生じるものではない。
【0015】
本発明の方法において用いる膨張性樹脂は、木骨造における柱や梁と壁体の目地に生じた空隙に注入されて膨張し、空隙を埋めることで柱や梁と壁体を固定することができるものであればどのようなものであってもよいが、中でも地球温暖化を引き起こすことなく環境に優しいノンフロン系膨張性樹脂が望ましい。ノンフロン系膨張性樹脂としては、フロンガスを発生することなく反応して発泡ウレタンとなる、ポリオールとイソシアネートからなる市販のものなどが挙げられる(具体的には日本パフテム株式会社のノンフロンポリオールFF5020-UCと同社のイソシアネートNP-90の組み合わせが例示される)。このようなノンフロン系膨張性樹脂は、ポリオールとイソシアネートを1:0.8~1.5の重量割合で20~70℃にて混合して用いることができる。ノンフロン系膨張性樹脂は、ポリオールとイソシアネートからなるものの他、水とイソシアネートとの反応で炭酸ガス発泡するもの、液化炭酸ガスを利用して発泡させるもの、発泡特性を有する炭化水素系のものなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、木骨造における柱や梁と壁体の目地に生じた空隙を埋めることにより、木骨造を補修する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。