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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】吸着パッド
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
A61B5/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020509896
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010533
(87)【国際公開番号】W WO2019188341
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018065085
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591012266
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】辰己 良昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 信介
(72)【発明者】
【氏名】坪井 和樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 大樹
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/091356(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090782(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/001978(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249553(US,A1)
【文献】特開2004-147358(JP,A)
【文献】国際公開第2010/044398(WO,A1)
【文献】特開2004-349663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物に吸着させて用いる吸着パッドであって、厚さ20~200μmの第1の樹脂フィルム、厚さ1~20μmの電極層、及び厚さ20~200μmの第2の樹脂フィルムが順次積層された積層シートと、前記電極層に電圧を印加する電源装置とを備えて、少なくとも前記第2の樹脂フィルムの引張弾性率が1MPa以上100MPa未満であると共にその体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであり、前記電極層に電圧が印加されて発生する電気的吸着力により、前記第2の樹脂フィルムを吸着面として、被吸着物に吸着させることができることを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
前記第2の樹脂フィルムが、軟質ポリ塩化ビニルからなる請求項1に記載の吸着パッド。
【請求項3】
被吸着物が、人体皮膚、臓器、動物の皮膚、植物、肉及び肉加工物、野菜及び野菜加工物、並びに果物及び果物加工物からなる群から選択されるいずれか又はその組み合わせである請求項1又は2に記載の吸着パッド。
【請求項4】
前記電極層が、第1の電極及び第2の電極を有した双極型電極からなる請求項1~3のいずれかに記載の吸着パッド。
【請求項5】
前記電極層が、単極型電極からなる1~3のいずれかに記載の吸着パッド。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の吸着パッドを被吸着物に吸着する吸着方法であって、
電極層として、第1の電極及び第2の電極を有した双極型電極からなる電極層を使用し、前記第1の電極及び第2の電極のそれぞれに、プラス又はマイナスの対称な電圧をかけることにより、被吸着物の電位が略0Vとなるようにしながら、前記電極層に電圧を印加して、吸着パッドと被吸着物とを吸着させることを特徴とする吸着方法。
【請求項7】
請求項1~3又は5のいずれかに記載の吸着パッドを被吸着物に吸着する吸着方法であって、
電極層として、単極型電極からなる電極層を使用し、前記電源装置における電圧の発生源のグラウンドと、被吸着物とをアース接続(接地)することにより、被吸着物の電位が略0Vとなるようにしながら、前記電極層に電圧を印加して、吸着パッドと被吸着物とを吸着させることを特徴とする吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気的吸着力を利用して被吸着物に吸着させて用いる吸着パッドに関するものであり、詳しくは、導電体だけでなく、例えば、動物や植物及びそれらの加工物などのような柔らかく尚且つある程度の水分や油分を有するような被吸着物、特に、人体の皮膚に吸着・保持することができる吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、身体などに身に着けられる、いわゆるウェアラブルな新しい電気製品が登場してきており、例えば、各種センサーによって、生体のデータを収集しようという機運等が高まっている。このような用途において、接着剤や粘着剤などの接着手段を持つパッドを利用することが考えられるが、接着剤や粘着剤等を用いると着脱に手間がかかり、また、繰り返し使えないというデメリットがあった。
【0003】
ところで、被吸着物を電気的な吸着力によって吸着させるものとして、従来から、静電チャックが使用されている。静電チャックは、主に工業用として、半導体基板やガラス基板を処理する際の吸着・保持のために使用されており、通常は、電極を上下方向からそれぞれ誘電体で挟み込む構造を備え、吸着原理に応じて電極に電圧を印加することで、一方の誘電体の表面を吸着面として被吸着物を吸着できるものあり、場合によっては加熱手段を備えたり、或いは、冷媒を流す管路を備えた金属製のベースと一体に接着されたりした構造を有するものである。また、このような半導体基板等を処理する静電チャックのほかにも、本願の発明者らは、静電チャックの電気的な吸着の構造・原理を応用した静電吸着構造体を提案している。
【0004】
例えば、特許文献1には、2つの誘電体を電極に挟み込んだ複数のシート部材を積層させ、電極間に電圧を印加することで、部材同士を吸着固定できると共に、他の吸着面には紙や樹脂シートなどの展示・掲示物等を吸着させることができ、使用後には電圧の印加を切ることで、シート部材どうしや被吸着物を容易に分離できるような、構成変更の利便性の高い静電吸着構造体が提案されている。また、例えば、特許文献2には、2つの絶縁層の間に吸着電極を挟み込んだ静電チャックの表面を着脱手段として、これにフィルム状の太陽電池を取り付けることにより、設置場所の選択性や着脱性が良い発電装置が提案されている。これら特許文献1の静電吸着構造体や特許文献2の発電装置は、静電チャックの吸着原理を使用して着脱性が良く、また、薄くて取り扱い性に工夫されたものであるものの、あくまで、上記のような工業製品か日用品のような比較的大型であって表面が一様な人工物への吸着固定を目的としたものであって、未だ、人体の皮膚などのような柔らかく尚且つある程度の水分や油分を有するような被吸着物への適用は検討されていなかった。事実、これら特許文献1に記載された静電吸着構造体や特許文献2に記載された発電装置においては、具体的な誘電層(絶縁体)としてポリイミドフィルムやポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムが好適に使用されているが、本発明らの事前の検討によれば、これらの静電吸着構造体(発電装置)を生体(例えば、人体の皮膚等)に吸着させようとすると、詳細な原因は定かではないものの、静電チャック表面に逆帯電が生じることで吸着力の減少が生じると推測され、半導体基板などを用いた場合よりもこの逆帯電の発生・吸着力の減少が顕著であることから、人体皮膚の水分や油分がこれをより強く引き起こしているものと推察される。
【0005】
また、別の理由として、従来からの静電チャックでは、十分な吸着力を得るために対象物とチャックとの間に十分な接触面積が必要であり、接触面積を大きくするために、これまでは吸着対象側及びチャック側のいずれをも平らで一様なものとしていた。この点、生体(例えば、人体の皮膚等)の表面は一般的にある程度柔らかく尚且つ湾曲しているため、従来のような静電チャックでは吸着面の一部しか接触せず、十分な吸着力が得られないことが分かった。
【0006】
さらには、逆帯電や接触面積の問題だけでなく、そもそも従来の静電チャックの吸着原理であるいわゆるクーロン力では根本的に力が弱く(数g/cm2)、生体に吸着し利用することができるような有効な力は得られない。そのため、ジョンソン-ラーベック効果のようなチャック表面と生体との界面に生じる別のより強い力が必要であり、ジョンソン-ラーベック効果を使った静電チャックとしては、従来からセラミックを使ったものが多く見られるが、特に、吸着対象物との接触面積を確保できるような追従性が期待できる樹脂を使ったものは、これまであまり報告されていなかった。
【0007】
一方で、人体の皮膚に吸着させて使用するものとして、例えば、特許文献3に記載されるような心電測定用の電極パッドや、或いは、特許文献4に記載されるような発汗量測定用パッチなどのような医療用具などが従来から知られているが、これらはいずれも吸着面に粘着剤を使用したものであって、電気的な吸着力を利用したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2011/001978号公報
【文献】WO2012/128147号公報
【文献】特開2017-113141号公報
【文献】特開2017-023408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来技術のもと、本願の発明者らは、柔らかく尚且つある程度の水分や油分を有するような被吸着物、特に、人間の皮膚に対して、電気的吸着力を利用して吸着できるような手段について鋭意検討した結果、少なくとも被吸着物に対する吸着面には、特定の引張弾性率を有すると共に特定の体積抵抗値を有する樹脂フィルムを採用し、これを他の樹脂フィルムとともに電極層を挟み込んで積層した積層シートとし、電極層に電圧を印加できるような電源装置と共に用いた簡便な吸着パッドの構成とすることで、従来のような粘着剤は使用することなく、電気的吸着力によって、特に、人間の皮膚に対しても追従性良く吸着・保持できることを初めて見出して、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は電気的吸着力を利用して、特に、人間の皮膚に対して追従性良く吸着・保持できる吸着パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]被吸着物に吸着させて用いる吸着パッドであって、厚さ20~200μmの第1の樹脂フィルム、厚さ1~20μmの電極層、及び厚さ20~200μmの第2の樹脂フィルムが順次積層された積層シートと、前記電極層に電圧を印加する電源装置とを備えて、少なくとも前記第2の樹脂フィルムの引張弾性率が1MPa以上100MPa未満であると共にその体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであり、前記電極層に電圧が印加されて発生する電気的吸着力により、前記第2の樹脂フィルムを吸着面として、被吸着物に吸着させることができることを特徴とする吸着パッド。
[2]前記第2の樹脂フィルムが、軟質ポリ塩化ビニルからなる[1]に記載の吸着パッド。
[3]被吸着物が、人体皮膚、臓器、動物の皮膚、植物、肉及び肉加工物、野菜及び野菜加工物、並びに果物及び果物加工物からなる群から選択されるいずれか又はその組み合わせである[1]又は[2]に記載の吸着パッド。
[4]前記電極層が、第1の電極及び第2の電極を有した双極型電極からなる[1]~[3]のいずれかに記載の吸着パッド。
[5]前記電極層が、単極型電極からなる[1]~[3]のいずれかに記載の吸着パッド。
[6]前記[1]~[4]のいずれかに記載の吸着パッドを被吸着物に吸着する吸着方法であって、
電極層として、第1の電極及び第2の電極を有した双極型電極からなる電極層を使用し、前記第1の電極及び第2の電極のそれぞれに、プラス又はマイナスの対称な電圧をかけることにより、被吸着物の電位が略0Vとなるようにしながら、前記電極層に電圧を印加して、吸着パッドと被吸着物とを吸着させることを特徴とする吸着方法。
[7]前記[1]~[3]又は[5]のいずれかに記載の吸着パッドを被吸着物に吸着する吸着方法であって、
電極層として単極型電極からなる電極層を使用し、前記電源装置における電圧の発生源のグラウンドと、被吸着物とをアース接続(接地)することにより被吸着物の電位が略0Vとなるようにしながら、前記電極層に電圧を印加して、吸着パッドと被吸着物とを吸着させることを特徴とする吸着方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気的吸着力を利用しながら、柔らかく尚且つある程度の水分や油分を有するような被吸着物、特に、人間の皮膚に対しても追従性良く吸着・保持できる吸着パッドを提供することができる。このように電気的吸着力によって吸着・固定させることができるようになることから、接着剤や粘着剤などの化学的な接着手段を用いることなく繰り返し利用が可能となり、さらに、それらに用いる離形フィルム等も不要となることから簡便でコスト性も良い。そして、本発明の技術を利用することにより、人間の皮膚を初めとした生体やそれに相当する被吸着物の表面にウェアラブルな電気製品等(例えば、生体の情報を読み取る各種センサー、医療機器、装飾品)を取り付けることができるようになり、例えば、医療、美容、スポーツ、服飾、ウェアラブルデバイス等の分野・業界への展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、双極型の積層シートの一形態を説明するための模式図であり、(i)は平面図であり、(ii)はA-A断面における積層前の状態を説明する断面説明図であり、(iii)はB-B断面における積層前の状態を説明する断面説明図である。(ii)及び(iii)中の白矢印は被吸着物に対する吸着面を示す。
図2図2は、図1に示した双極型の積層シートを電源装置と共に用いて本発明の吸着パッドとした一実施形態(回路構成)を説明するための模式説明図である。
図3図3は、実施例で使用した単極型の積層シートを説明するための模式図であり、(i)は平面図であり、(ii)はX-X断面における積層前の状態を説明する断面説明図であり、(iii)はY-Y断面における積層前の状態を説明する断面説明図である。(ii)及び(iii)中の白矢印は被吸着物に対する吸着面を示す。
図4図4は、図3に示した単極型の積層シート電源装置と共に用いて本発明の吸着パッドとした一実施形態(回路構成)を説明するための模式説明図である。
図5図5は、実施例で行った吸着パッドの吸着性の評価方法を説明するための説明写真である。図中の白矢印は鉛直下向きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の吸着パッドは、図1~4に示されるように、少なくとも、第1の樹脂フィルム、電極層及び第2の樹脂フィルムが順次積層されて、電極層が樹脂フィルムに挟み込まれてなる積層シートと、電極層に電圧を印加する電源装置とを備える。また、図1及び2に示されるように、電極層として、正電極及び負電極を有する双極型か、或いは、図3及び4に示されるように、正(負)電極のみを有して負(正)電極側は接地される単極型であってよい。以下、各構成について詳しく説明する。
【0015】
<樹脂フィルム>
本発明の吸着パッドで使用される第1及び第2の樹脂フィルムについて、本発明においては、第2の樹脂フィルムを被吸着物に対する吸着面とするが、少なくともこの吸着面となる当該第2の樹脂フィルムの体積抵抗率が1×1010~1013Ω・cmであることが必要である。後述の実施例で示される通り、この吸着面の第2の樹脂フィルムの体積抵抗率が1×1013Ω・cmを超えると、被吸着物(人体皮膚等)に対する吸着力が低下して、例えば、吸着パッドの自重でも落下するようになる。一方で、体積抵抗率が1×1010Ω・cm未満であると、被吸着物に作用する吸着力自体は大きくなると推測されるものの、吸着パットと被吸着物の間で小さな放電が連続的に発生し、特に人体に用いる上では痒みや痛みを伴う場合もあり、皮膚にダメージを与える可能性があることから、好ましくない。好ましくは、吸着力の発現と安全性との両面から、当該体積抵抗率が1×1010~1012Ω・cmであることがよい。
なお、本発明において被吸着物の吸着面とは反対側に使用する第1の樹脂フィルムについては、その体積抵抗率を適宜設定できるが、第2の樹脂フィルムを通じて被吸着物との間に流れるべき電流を第1の樹脂フィルム側へ流してしまう虞があることから、第1の樹脂フィルムの体積抵抗率は第2の樹脂フィルムの体積抵抗率と同じか、それよりも大きいことが好ましい。
【0016】
また、吸着面となる当該第2の樹脂フィルムについては、その引張弾性率(ヤング率)を1MPa以上100MPa未満とすることが必要となる。特に、人体皮膚等のような比較的柔らかい被吸着物を対象とする場合には、詳細な原理は定かではないものの、被吸着物の形状に追従して吸着できるようにすると共に、被吸着物に吸着している際に吸着パッド内部に発生する反発力(応力)を可及的に抑えて吸着状態を保持できるようにすることが求められることから、当該樹脂フィルムについては、少なくとも吸着面となる第2の樹脂フィルムの引張弾性率(ヤング率)を上記の範囲とする。なお、被吸着物の吸着面とは反対側に使用する第1の樹脂フィルムについては、その引張弾性率(ヤング率)を適宜設定できるが、吸着パット(積層シート)全体の柔軟性を阻害しないために、第1の樹脂フィルムの引張弾性率(ヤング率)は第2の樹脂フィルムの引張弾性率(ヤング率)と同じか、それよりも小さいことが好ましい。
【0017】
また、前記樹脂フィルムについては、絶縁性、被吸着物に対する吸着の追従性、及び吸着力の確保のため、第1及び第2の樹脂フィルムのいずれも、その各厚みを20~200μmとする必要があり、好ましくは、50~100μmとすることがよい。当該厚みが20μm未満である場合には、絶縁破壊が起こりやすくなり、それによって樹脂フィルムにピンホールができると吸着パッドとして機能しなくなる虞がある。一方で、200μmを超える場合には、被吸着物に対する吸着の追従性に劣るようになることや、被吸着物に対する距離が大きくなることからそれにより吸着力が低下する虞があるため好ましくない。
【0018】
そして、上記のような樹脂フィルムの具体例としては、第1及び第2の樹脂フィルムについて、それぞれ同じでもよく、また、異なるものでもよいが、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができ、又はそれらの導電性を調整するために加工(フィラーを混ぜ込む等)されたもの等を挙げることができる。特に、第2の樹脂フィルムについては、体積抵抗率及び引張弾性率を上記の所定の範囲内にするために、ポリウレタン、軟質ポリ塩化ビニルであることが好ましく、より好ましくは、軟質ポリ塩化ビニルである。
【0019】
<電極層>
本発明において使用される電極層は、その材質、形状などについては特に限定されないが、その厚みを1~20μmとする必要がある。厚みが1μm未満の場合には、吸着パッドの変形により電極層の断絶や導電性の低下が起こる虞があり、一方で、厚みが20μmを超える場合には、電極層の硬度が高くなる傾向があることから吸着パット全体の柔軟性が阻害され、被吸着物に対する追従性に乏しくなる虞がある。材質、製法については、例えば、金属箔をそのまま用いたり、スパッタ法、イオンプレーティング法などにより成膜した金属を所定の形状にエッチングして得たりしたものでもよく、また、金属材料を溶射したり、導電性インクを印刷したりして所定の形状としたものでもよい。形状としては、例えば、平板状、半円状、櫛歯状やメッシュのようなパターン形状など、適宜選定することができる。
【0020】
<積層シート>
そして、このような第1及び第2の樹脂フィルム並びに電極層を使用して、これらを積層して積層シートとする。電極層が露出しないように樹脂フィルムに挟み込む必要があり、具体的な方法としては、これらの樹脂フィルム及び電極層を順次積層させて、熱と圧力を加えて、樹脂フィルム自体の熱可塑性を利用して、融着させる方法がある。もしくは、必要に応じてボンディングシートや接着剤もしくは粘着剤を用いて接着させてもよい。ただし、吸着パッドを変形及び伸縮させたとき、接着層に別の素材が挿入されていると、変形及び伸縮を阻害したり、接着面の剥離が起こったりする虞があるため、フィルムの熱可塑性によって融着させる方法が好ましい。
【0021】
<電源装置>
前記のように積層シートを形成した後には、電極層に電圧を印加して電気的吸着力を発生させるための電源装置が必要となる。電源装置は前記積層シートの電極層と接続端子およびスイッチ(いずれも図示外)を介して接続させることができて、一般的な静電吸着構造体で使用されるものと同様なものを用いることができ、直流の高電圧を発生できるものであればよい。発生させる電位差は500~5000V程度までとすることができ、必要に応じて、必要な電圧まで昇圧させることができる昇圧回路(高電圧発生回路)を備えるようにしてもよい。特に、本発明の吸着パッドを人体の皮膚に適用するためには、以下の(a)~(c)を考慮した設計とすることが好ましい。すなわち、
(a)十分な吸着力を生じさせるために、できるだけ高電圧を付与すること。
(b)人体の電位をできるだけ0Vにすること。人体に掛かる電位がプラス又はマイナスのどちらか一方に偏ると、人体内に静電気が溜まるようになり、放電時に衝撃を受けるからである。
(c)万が一でも、人体に危険を及ぶす程度の電流が流れないようにすること。
【0022】
このような(a)~(c)の設計思想の下、特に(b)及び(c)を考慮して、吸着パッドに付与する電圧を決定することが好ましい。そして、(b)を達成するためには、単極型の電極層を用いる場合には、被吸着物(人体皮膚)と、電源装置における電圧の発生源(例えば、高電圧発生回路)のグラウンドとに、アース(接地)接続を行うようにすることが好ましく、一方で、双極型の電極層を用いる場合には、電極層における第1の電極及び第2の電極のそれぞれに、プラス及びマイナスの対称な電圧をかけることが好ましく、それにより人体ができるだけ0Vとなるようにすることが好ましい。さらに、(c)を達成するためには、電源よりの出力電流を0.5mA以下に抑えることが好ましい。0.5mA以下であれば、通常は、人体は知覚できないからである。但し、電流が吸着パッドや人体に蓄えられて一気に放電するような場合には大きな電流が発生する場合があることから、吸着パッドの静電容量を人体と同程度の1000pF以下、具体的には10pF~100pF程度とし、電圧を±5000V以内とすることによって、仮に、人体に蓄えられたとしても5μC以下となるため、このように設定することが好ましい。
【0023】
前記のような積層シート及び電源装置を備えるようにして本発明の吸着パッドとする。本発明の吸着パッドは、必要に応じて、センサー等が別途設けられてもよく、また、例えば、電極層のパターンの変更等、本発明の目的の範囲で適宜構成の変更及び追加などが行われてもよい。
【0024】
なお、被吸着物としては、導電体はもちろんのこと、電気伝導性に乏しい紙や布等も対象とすることができるが、特に、人体の皮膚を初めとして、人体皮膚に相当するような柔らかさ尚且つある程度の水分や油分を有する物であって、吸着パッドが接触・吸着できる一定の面を有するもの(例えば、臓器、動物の皮膚、植物、肉及び肉加工物・野菜及び野菜加工物・果物及び果物加工物等の食品、或いは、それらの組み合わせ)であっても対象とすることができる。また、その吸着の原理は定かではないものの、吸着パッド(積層シート)の吸着面と被吸着物との間に微小の電流が生じるためであると推測され、吸着パッド(積層シート)の吸着面と被吸着物との間にジョンソン・ラーベック効果による吸着力が作用しているものと推測される。
【実施例
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
【0026】
[製造例1]
双極型の吸着パッドとして、図1に示すような寸法(単位:mm)を有する所定の形状の2枚のアルミ箔b(厚み:0.012mm)を電極層として、これを上下から2枚の軟質ポリ塩化ビニルからなる樹脂フィルムc及びc’〔いずれも、体積抵抗率:1×1010Ω・cm(後述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):20~30MPa、厚み100μm〕で挟み込んで、温度150℃で熱圧着して、双極型の積層シートaとした。
なお、この作製した積層シートaについては、例えば、図2に示すような電源装置〔電池d(DC3.7V)、DCDCコンバータe(5V出力)及び高電圧発生回路f(±2000V出力)からなる電源装置〕を備えて本発明に係る吸着パッドhとし、電極層における第1の電極及び第2の電極のそれぞれにプラス(+2000V)及びマイナス(-2000V)の対称な電圧をかけることにより、被吸着物(人体皮膚)gに対して、被吸着物(人体)の電位が略0Vとなるように取り付けることができる。
【0027】
[実施例1]
<吸着パッドの作製>
単極型の吸着パッドとして、図3に示すような寸法(単位:mm)を有する所定の形状を有する1枚のアルミ箔b(厚み:0.012mm)を電極層とし、また、被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムとして軟質ポリ塩化ビニルフィルムc’〔体積抵抗率:1×1010Ω・cm(後述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):20~30MPa、厚み100μm〕を用い、さらに、吸着面とは反対側の面に使用される第1の樹脂フィルムとしてポリイミドフィルムc〔東レ・デュポン株式会社製、商品名:カプトン(登録商標)H、厚み25μm〕を用い、前記第1の樹脂フィルムには別途厚み30μmのシリコーンからなる粘着層(図示外)を用いて、これら全てを圧着して貼り合わせて、電極層を第1及び第2の樹脂フィルムに挟み込んでなる単極型の積層シートa’として得た。
【0028】
このようにして作製した積層シートa’に対して、図4に示すような電源装置〔商用電源d’(AC100V)、ACアダプタe’(5V出力)及び高電圧発生回路f(-4000V出力)からなる電源装置〕を備えて本発明に係る吸着パッドh’とし、これを被吸着物(人体皮膚)gに取り付けた。被吸着物(人体皮膚)g及び高電圧発生回路fのグラウンド(図示外)は接地接続させた。
【0029】
<吸着パッドの吸着性の評価>
図5に示すように、人体(成人男性)の前腕部の皮膚g’に対して、前記で作製した実施例1の吸着パッドh’を、電源装置をONした上で、鉛直下向き(図中の白矢印方向)に荷重が掛かるように他方の手で押さえながら貼り付け、吸着パッドと前腕部の皮膚との間に電気的吸着力を発生させて保持した。吸着パッドの下端に真鍮からなるおもりjを取り付けて、何グラムのおもりが把持できるかを確認して、これを吸着性の評価とした。おもりの保持時間は15秒以上とした。結果を以下の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
なお、上記実施例1における軟質ポリ塩化ビニルフィルムの体積抵抗率については、二重リング電極法(IEC60093、ASTM D257、JIS K6911、JIS K6271)により測定し、後述する実施例2~6及び比較例1~3で使用した各樹脂フィルムの体積抵抗率についても同じ方法で測定した。
【0032】
[実施例2]
被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムc’として、体積抵抗率が1×1012Ω・cm(前述の方法にて測定)、及び引張弾性率(ヤング率)が20~30MPaである軟質ポリ塩化ビニルフィルム(厚み100μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして実施例2に係る吸着パッドを作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0033】
[実施例3]
被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムc’として、体積抵抗率が1×1013Ω・cm(前述の方法にて測定)の軟質ポリ塩化ビニルフィルム(厚み:100μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして実施例3に係る吸着パッドを作製し、また、同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0034】
[実施例4]
前記実施例1で使用した吸着パッドh’を用い、また、被吸着物g’として、人体の皮膚の代わりに観葉植物の葉(植物名:フィカス・ウンベラータ)を用いてその表面に吸着させた以外は、前記実施例1と同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0035】
[実施例5]
前記実施例1で使用した吸着パッドh’を用い、また、被吸着物g’として、人体の皮膚の代わりに豚加工肉(株式会社フードリエ製商品名:ロースハム)を用い、表面の油分をある程度ふき取った後にその表面に吸着させた以外は、前記実施例1と同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0036】
[実施例3]
前記実施例1で使用した吸着パッドh’を用い、また、被吸着物g’として、人体の皮膚の代わりに野菜のナスを用いて、カット等の加工はせずにその皮の表面から吸着させた以外は、前記実施例1と同じようにその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【0037】
[比較例1]
被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムc’として、体積抵抗率が1×1015Ω・cm(前述の方法にて測定)の軟質ポリ塩化ビニルフィルム(株式会社中川ケミカル製商品名:711M、厚み:100μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例1に係る吸着パッドh’を作製し、また、同じように人体皮膚に対してその吸着性の評価を行った。結果は表1に示す通りである。
【0038】
[比較例2]
被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムc’として、ポリイミドフィルム〔東レ・デュポン株式会社製商品名:カプトン(登録商標)H、体積抵抗率:1×1017Ω・cm(前述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):3×10MPa、厚み50μm〕を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例2に係る吸着パッドh’を作製し、また、同じように人体皮膚に対してその吸着性の評価を行った。結果は表1に示す通りである。
【0039】
[比較例3]
被吸着物の吸着面となる第2の樹脂フィルムc’として、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム〔東レ株式会社製商品名:ルミラー(登録商標)S10、体積抵抗率:1×1017Ω・cm(前述の方法にて測定)、引張弾性率(ヤング率):4×10MPa、厚み50μm〕を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例3に係る吸着パッドh’を作製し、また、同じように人体皮膚に対してその吸着性の評価を行った。結果は表1に示した通りである。
【符号の説明】
【0040】
a…積層シート(双極型)、a’…積層シート(単極型)、b…電極層、c…第一の樹脂フィルム、c’…第2の樹脂フィルム、d…電池、d’…商用電源、e…DCDCコンバータ、e’…ACアダプタ、f…高電圧発生回路、g・g’…被吸着物(人体皮膚等)、h…吸着パッド(双極型)、h’…吸着パッド(単極型)、i…接地、j…おもり。
図1
図2
図3
図4
図5