(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220617BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20220617BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/86 Z
H01M4/86 B
G01N21/892 A
H01M8/10
(21)【出願番号】P 2016214549
(22)【出願日】2016-11-01
【審査請求日】2019-10-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】市川 篤
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-153188(JP,A)
【文献】特開2008-098152(JP,A)
【文献】特開2010-164559(JP,A)
【文献】特開2010-117337(JP,A)
【文献】特開2011-141119(JP,A)
【文献】特開2016-091605(JP,A)
【文献】特開2005-294175(JP,A)
【文献】特開2016-042442(JP,A)
【文献】特開2015-227827(JP,A)
【文献】特開2013-145130(JP,A)
【文献】特開昭52-138183(JP,A)
【文献】特開2011-007695(JP,A)
【文献】特開2008-003488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/04- 8/0668
H01M 8/08- 8/2495
G01N21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒物質と導電性担体と高分子電解質とを少なくとも含む電極触媒層であって、
当該電極触媒層の表面において、所定の面積を有する領域にブリュースター角で入射する検査光を照射した際の正反射光のうち、P偏光成分のみを通過させる偏光子を通過した光の反射光量をLpとし、4096階調で表したとき、前記領域を重複させることなく前記電極触媒層の表面
の全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下であることを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
前記領域の所定の面積が、1600μm
2以上10000μm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記電極触媒層の表面と直交する方向の厚みが、1μm以上30μm以下の範囲内となるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
前記電極触媒層の表面と直交する方向の厚みが、2μm以上20μm以下の範囲内となるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の電極触媒層。
【請求項5】
前記導電性担体の重量に対する前記高分子電解質の重量の比率が、0.8以上1.6以下となるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項6】
高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の少なくとも酸素極側の面に接合された請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電極触媒層とを備えていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体を備えていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の化学反応から電気を生み出す発電システムである。従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの使用が有望視されており、近年、固体高分子形燃料電池に関する様々な研究開発が行われている。その実用化に向けての課題には、発電特性や耐久性などの電池性能向上、インフラ整備、製造コストの低減、等が挙げられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、燃料ガスを供給する燃料極(アノード)と酸化剤を供給する酸素極(カソード)の二つの電極で高分子電解質膜を挟んで接合した膜電極接合体を、ガス流路および冷却水流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。これらの燃料極及び酸素極の各々は、白金系の貴金属などの触媒物質、導電性担体および高分子電解質を少なくとも含む電極触媒層と、ガス通気性と導電性とを兼ね備えたガス拡散層とで主に構成されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池では、以下のような電気化学反応を経て電気を取り出すことが出来る。まず、燃料極側の電極触媒層において、燃料ガスに含まれる水素が触媒物質により酸化され、プロトンおよび電子となる。生成したプロトンは、電極触媒層内の高分子電解質および電極触媒層に接している高分子電解質膜を通り、酸素極側の電極触媒層に達する。また、同時に生成した電子は、電極触媒層内の導電性担体、電極触媒層の高分子電解質膜と異なる側に接しているガス拡散層、セパレーターおよび外部回路を通って酸素極側の電極触媒層に達する。そして、酸素極側の電極触媒層において、プロトンおよび電子が酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し、水を生成する。
【0005】
膜電極接合体を構成している電極触媒層には、製造工程で発生するムラが存在することがある。電極触媒層に発生するムラは、触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層内部の局所的な熱履歴の差や、電極触媒層の厚みのばらつきによるものである。ムラのある電極触媒層を有する膜電極接合体は、周辺部材と積層してセル化し、発電した際に、高分子電解質膜またはガス拡散層と電極触媒層の密着性が部分的に低下して生成水が滞留したり、電極触媒層の内部に局所的に高い電気的負荷のかかる部分が存在したりするおそれがある。このような局所的な負荷は膜電極接合体の劣化を促進しやすく、長期的には破膜等を生じる可能性が高い。
【0006】
上述のような電極触媒層にムラのある膜電極接合体が燃料電池に用いられた場合、電池性能や耐久性の著しい低下を生じるため、膜電極接合体の製造工程において、問題となるムラを高精度で検出し、不良品を除外する方法が提案されている。
膜電極接合体やガス拡散層の欠陥部の検出には、欠陥部における照射光の透過光や反射光を撮像し、画像処理する方法がある。例えば、特許文献1に記載されている方法は、シート部材の片側から検査光を照射して、欠損部で透過した検査光を反対側に設けた検出器で検出するものである。
【0007】
また、特許文献2に記載されている方法は、膜電極接合体の片側から検査光を照射して、欠陥部で反射した検査光を検出器で検出するものである。
また、特許文献3に記載されている方法は、多孔質電極基材の表面に検査光を照射し、その透過光、正反射光および散乱光を撮像し、それらの撮像データを画像処理部にて解析し、その欠陥の種類、存在位置および大きさを知るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-190706号公報
【文献】特開2014-225340号公報
【文献】特許第5306053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1による方法では、検査の光源として透過光を用いるため、光を透過しない電極触媒層に発生したムラの検査には適用できないという問題があった。
また、特許文献2による方法は、検査に反射光を用いるものであるが、膜電極接合体の表面に相紙を設置するため、シワを検出することは出来ても電極触媒層の表面に発生したムラを検出することは出来ないという問題があった。
【0010】
特許文献3による方法は、披検査体の表面に直接検査光を照射して欠陥を検出するものであり、電極触媒層の検査にも応用できる可能性がある。しかし、多孔質電極基材に発生する欠陥と電極触媒層に発生するムラではサイズやコントラストが異なるため、そのまま適用することはできない。また、特許文献3では電極触媒層に関しては言及されておらず、電極触媒層に発生したムラの良否の基準が不明であるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、固体高分子形燃料電池の実用において問題となる電極触媒層のムラを高精度で検出して不良品を除外し、長期的にも電池性能や耐久性の著しい低下を生じることのない電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る電極触媒層は、触媒物質と導電性担体と高分子電解質とを少なくとも含む電極触媒層であって、当該電極触媒層の表面において、所定の面積を有する領域にブリュースター角で入射する検査光を照射した際の正反射光のうち、P偏光成分のみを通過させる偏光子を通過した光の反射光量をLpとし、4096階調で表したとき、前記領域を重複させることなく前記電極触媒層の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下であることを特徴としている。
【0013】
また、この電極触媒層において、前記領域の所定の面積が、1600μm2以上10000μm2以下であることが好ましい。
また、この電極触媒層において、前記電極触媒層の表面と直交する方向の厚みが、1μm以上30μm以下の範囲内となるように構成されていことが好ましく、当該厚みが、2μm以上20μm以下の範囲内となるように構成されていることが一層好ましい。
【0014】
また、この電極触媒層において、前記導電性担体の重量に対する前記高分子電解質の重量の比率が、0.8以上1.6以下となるように構成されていることが好ましい。
また、上記課題を解決するために、本発明の第2態様に係る膜電極接合体は、高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の少なくとも酸素極側の面に接合された上記第1態様に係る電極触媒層とを備えていることを特徴としている。
また、上記課題を解決するために、本発明の第3態様に係る固体高分子形燃料電池は、上記第2態様に係る膜電極接合体を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池によれば、電極触媒層を、当該電極触媒層の表面において、所定の面積を有する領域にブリュースター角で入射する検査光を照射した際の正反射光のうち、P偏光成分のみを通過させる偏光子を通過した光の反射光量をLpとし、4096階調で表したとき、前記領域を重複させることなく前記電極触媒層の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下となるように構成した。これにより、触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層内部の局所的な熱履歴の差や、電極触媒層の厚みのばらつきを抑制し、長期的にも電池性能や耐久性の著しい低下を生じることのない電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る膜電極接合体を示し、(a)は、膜電極接合体を電極触媒層の上面側(酸素極側)から見た平面図、(b)は、(a)のX-X´線に沿う断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電極触媒層を形成した触媒層付き転写基材の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電極触媒層の表面において反射光量Lpを得る際の構成例を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の構成例を示す分解斜視図である。
【
図5】実施例1の反射光量Lpのマッピング画像を示す図である。
【
図6】実施例1の反射光量Lpのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づく設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本実施形態の範囲に含まれるものである。また、各図面は理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0018】
本発明者は、固体高分子形燃料電池の発電性能と耐久性能について鋭意検討を行った結果、これらの性能には電極触媒層における触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層内部の局所的な熱履歴の差や、電極触媒層の厚みのばらつきが大きく影響していることを見出した。そして、電極触媒層における反射輝度のばらつきを所定の範囲内として膜電極接合体における局所的な負荷が生じないようにすることで、劣化を抑制し、長期的にも高い発電性能を発揮する固体高分子形燃料電池を得ることに成功した。
【0019】
(膜電極接合体及び電極触媒層の構成)
以下、本実施形態に係る膜電極接合体及び電極触媒層の具体的な構成を説明する。
図1(a)は、本実施形態に係る膜電極接合体1を電極触媒層12Cの上面側(酸素極側)から見た平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のX-X´線に沿う断面図(電極触媒層12Cの表面と直交する厚さ方向の断面図)である。
【0020】
図1(a),(b)に示すように、膜電極接合体1は、一対の電極触媒層12C、12Aが高分子電解質膜11を挟んで対向配置され、接合しているものである。本実施形態において、高分子電解質膜11の上面に形成される電極触媒層12Cは酸素極を構成するカソード側触媒層であり、高分子電解質膜11の下面に形成される電極触媒層12Aは燃料極を構成するアノード側触媒層である。以下、一対の電極触媒層12C、12Aは、区別する必要が無い場合に、「電極触媒層12」と略記する場合がある。
【0021】
なお、電極触媒層12の外周部は、ガスケット等(図示せず)によりシールされていてもよい。
本実施形態に係る電極触媒層12は、少なくとも触媒物質と導電性担体と高分子電解質とを含んでいる。
本実施形態において用いられる触媒物質としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることが可能である。
【0022】
また、これらの触媒を担持する導電性担体は、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、一般的にカーボン粒子が使用される。例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンを好ましく用いることが可能である。カーボン粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下したりするので、10~1000nm程度が好ましい。更に好ましくは、10~100nmが良い。
【0023】
本実施形態において用いられる高分子電解質膜11や電極触媒層12に含まれる高分子電解質は、プロトン伝導性を有するものであれば良く、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることが可能である。この場合、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製の「Nafion(登録商標)」、旭硝子社製の「Flemion(登録商標)」、旭化成社製の「Aciplex(登録商標)」、等を用いることが可能である。また、炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることが可能である。特に、高分子電解質膜11として、デュポン社製の「Nafion(登録商標)」系材料を好適に用いることが可能である。また、電極触媒層12に含まれる高分子電解質としては、様々なものを用いることが可能である。但し、高分子電解質膜11と電極触媒層12との界面抵抗や、湿度変化時の高分子電解質膜11と電極触媒層12とにおける寸法変化率の点から考慮すると、高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層12に含まれる高分子電解質とは同じか類似の成分であることが好適である。
【0024】
高分子電解質膜11の上面及び下面に電極触媒層12を形成し、膜電極接合体1を得る方法としては、高分子電解質膜11の表面に直接、触媒物質と導電性担体と高分子電解質と溶媒とを少なくとも含む触媒インクを塗布し、触媒インクの塗膜から溶媒成分を除去して電極触媒層12を形成する方法や、予め用意した触媒層付き転写基材2(
図2参照)を用いて、高分子電解質膜11と電極触媒層12の表面を接触させて加熱・加圧することで接合及び転写を行う方法を用いることができる。
【0025】
図2は、触媒層付き転写基材2の説明図(電極触媒層12の表面と直交する厚さ方向の断面図)である。
図2に示すように、触媒層付き転写基材2は、基材13の表面に触媒物質と導電性担体と高分子電解質と溶媒とを少なくとも含む触媒インクを塗布し、触媒インクの塗膜から溶媒成分を除去して電極触媒層12が形成されているものである。
触媒インクは、少なくとも上述のような触媒物質と導電性担体と高分子電解質と溶媒とを混合し、分散処理を加えることにより得られる。分散処理には、例えば、遊星ボールミル、ビーズミル、超音波ホモジナイザー等の様々な手法を用いることが可能である。
【0026】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質や導電性担体や高分子電解質を浸食することがなく、流動性の高い状態で高分子電解質を溶解または微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。
なお、溶媒には高分子電解質となじみがよい水が含まれていてもよい。触媒インク中には揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高く、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒にするのが好ましい。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限はない。
【0027】
触媒インクを塗布する方法としては、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、スキージーなど様々な塗工方法を用いることが可能であるが、塗布中間部分の膜厚が安定しており間欠塗工にも対応可能であるダイコートを、特に好適に用いることが可能である。
また、塗布した触媒インクの乾燥には、例えば、温風オーブン、IR乾燥、ホットプレート、減圧乾燥等を用いることが可能である。
【0028】
触媒層付き転写基材2を用い、高分子電解質膜11と電極触媒層12を接触させて加熱・加圧することで接合及び転写を行う場合には、電極触媒層12にかかる圧力が膜電極接合体1の発電性能に影響する。そのため、発電性能の良い膜電極接合体1を得るには、積層体にかかる圧力は、0.5MPa以上20MPa以下の範囲内であることが望ましく、2MPa以上15MPa以下の範囲内であることがより望ましい。20MPaより大きい圧力では電極触媒層12が圧縮されすぎ、また0.5MPより小さい圧力では電極触媒層12と高分子電解質膜11の接合性が低下して、発電性能が低下する。
【0029】
また、接合時の温度は、電極触媒層の高分子電解質のガラス転移点付近に設定するのが、高分子電解質膜11と電極触媒層12の界面の接合性が向上し、界面抵抗を抑えられる点で効果的であり、望ましい。
また、基材13としては、例えばエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの転写性に優れたフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなどの高分子フィルムも用いることができる。
【0030】
また、基材13として、ガス拡散層を用いることもできる。
本発明の実施形態に係る電極触媒層12は、
図3に示すような電極触媒層12の表面において、所定の面積を有する領域Dにブリュースター角θ
Bで入射する検査光を照射した際の正反射光のうち、P偏光成分のみを通過させる偏光子15を通過した光の反射光量をLpとし、4096階調で表したとき、領域Dを重複させることなく当該電極触媒層12の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下となるように構成されている。検査光は光源14より照射され、電極触媒層12の表面で反射されて偏光子15を透過した光が受光部16に入射し、検出される。このとき検出された光の反射光量がLpとなる。
【0031】
即ち、領域Dを重複させることなく電極触媒層12の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σは、小さいほど電極触媒層12が均一であり、大きいほど触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層12の局所的な熱履歴の差や厚みのばらつきが大きいという指標となる。
反射光量Lpの標準偏差σの算出方法は、検査光を電極触媒層12の表面に照射し、反射光をP偏光成分のみを通過させる偏光子15を通して受光部16で検出する方法で取得した全ての反射光量Lpのデータについてヒストグラム分析を行うことで得られる。
【0032】
ここで、
図3においては、電極触媒層12は高分子電解質膜11の表面に形成されているが、基材13の表面に形成されていてもよい。
ここで、光源14としては、例えば、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)やハロゲンランプやキセノンランプ等が用いられる。なお、検査光は、被検査体の全幅に対して均一な照射を行えるよう平行光もしくは高指向性であるのが望ましく、均一照明レンズやテレセントリックレンズを併用してもよい。
【0033】
また、受光部16としては、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーを用いたエリアカメラやラインスキャンカメラが用いられる。特に、被検査体の全幅に対してラインスキャンカメラを設置し、受光部16と垂直の方向に被検査体を移動させながら順次検査を行った場合、検査精度と検査効率に優れるとともに、様々な被検査体のサイズに対応することが可能であり、好適である。
【0034】
なお、光源14および受光部16の有効サイズが十分に大きい場合には、走査することなく複数の領域Dにおける反射光量Lpを得ることが可能である。
一般的に、平滑な被検査体の表面にブリュースター角で光が入射した場合、P偏光の反射率は0であり、S偏光のみが反射する。つまり、披検査体の表面で反射した光がP偏光成分のみを通過させる偏光子15を通過した場合には、受光部16には、光が入射しない。
【0035】
しかし、電極触媒層12の表面のようにミクロな凹凸が存在する場合、凹凸面で光が散乱するためP偏光成分のみを通過させる偏光子15が選択されている場合でも受光部16に検査光が入射する。さらに、電極触媒層12の表面に平滑性や組成の異なる部分が存在する場合、反射率が異なるため、受光部16に入射し、検出される光の反射光量Lpが異なる。
本発明の実施形態に係る電極触媒層12は、領域Dを重複させることなく当該電極触媒層12の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下となるように構成されている。
【0036】
反射光量Lpの標準偏差σが150よりも大きい場合には、触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層12の局所的な熱履歴の差や厚みのばらつきが大きく、周辺部材と積層してセル化し発電した際に、電池の出力や耐久性の著しい低下を生じる。これは、高分子電解質膜11またはガス拡散層と電極触媒層12の密着性が部分的に低下したり、電極触媒層12や膜電極接合体1に局所的に高い電気的負荷のかかる部分が存在したりするためであると考えられる。一方、反射光量Lpの標準偏差σが30よりも小さい場合には、導電性担体が密に詰まりすぎている状態であり、発電により生成及び凝縮した水が細孔に詰まってガスの通り道を塞ぎやすいため、電池の出力が低下する。
【0037】
より望ましくは、領域Dの所定の面積が、1600μm2以上10000μm2以下であるのが良い。領域Dの面積が10000μm2よりも大きい場合には、より広いエリアが平均化されてしまうため電極触媒層12に存在するムラを正確に検出することができない。また、領域Dの面積が1600μm2よりも小さい場合には、非常に高解像度の受光部を要し、電極触媒層の全域を走査するための時間も長く要することから、製造工程の観点で実用的ではない。
【0038】
また、本発明の実施形態に係る電極触媒層12の厚みは、1μm以上30μm以下の範囲内の厚さであると良く、製造上のばらつき等を考慮すると、2μm以上20μm以下の範囲内とすることがより好ましい。
電極触媒層12の厚みが30μmよりも厚い場合には、電極触媒層表面にひび割れが生じたり、ガスや生成する水の拡散を妨げたり、導電性が低下したりして、燃料電池に用いた際の出力が低下する。また、電極触媒層12の厚みが1μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒物質や高分子電解質が不均一となりやすい。電極触媒層12の表面のひび割れや、厚みの不均一性は、燃料電池として使用し、長期に渡り運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高く、好ましくない。
【0039】
電極触媒層12の厚みは、例えば、以下のようにして確認することができる。まず電極触媒層12の断面を露出させ、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて3000倍から10000倍程度で5カ所以上の断面を観察する。各観察点で3点以上厚さを計測し、その平均値を各観察点での代表値とする。これら代表値の平均値を、電極触媒層12の厚みとする。
【0040】
電極触媒層12の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の方法を用いることができる。断面を露出させる加工を行う際には、電極触媒層12を構成する高分子電解質へのダメージを軽減するため、電極触媒層12を冷却しながら加工を行うことが好ましい。
また、電極触媒層12は、当該電極触媒層12中の導電性担体の重量に対する高分子電解質の重量の比率が、0.8以上1.6以下の範囲内となるように構成されている。重量比率が1.6よりも高い場合には、高分子電解質が電極触媒層内の細孔を塞いでしまい、ガスや生成する水の拡散を妨げて燃料電池の出力が低下する可能性がある。また、重量比率が0.8よりも低い場合には、高分子電解質のプロトン伝導パスの減少や遮断が生じ、燃料電池の出力が低下する可能性がある。
【0041】
(固体高分子形燃料電池の構成)
次に、
図4を参照しつつ、本発明の実施形態に係る膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池の具体的な構成を説明する。
図2は、膜電極接合体1を装着した固体高分子形燃料電池3の構成例を示す分解斜視図である。但し、
図4は、単セルの構成例であり、この構成に限らず、複数の単セルを積層した構成としてもよい。
【0042】
図4に示すように、固体高分子形燃料電池3は、膜電極接合体1と、ガス拡散層17Cと、ガス拡散層17Aとを備える。ガス拡散層17Cは、膜電極接合体1の酸素極側のカソード側触媒層である電極触媒層12Cと対向して配置され、ガス拡散層17Aは、膜電極接合体1の燃料極側のアノード側触媒層である電極触媒層12Aと対向して配置されている。電極触媒層12Cおよびガス拡散層17Cから酸素極4Cが構成され、電極触媒層12Aおよびガス拡散層17Aから燃料極4Aが構成される。
【0043】
さらに、固体高分子形燃料電池3は、酸素極4Cに面して配置されたセパレーター18Cと、燃料極4Aに面して配置されたセパレーター18Aとを備える。
セパレーター18Cは、導電性でかつガス不透過性の材料からなり、ガス拡散層17Cに面して配置された反応ガス流通用のガス流路19Cと、ガス流路19Cと相対する主面に配置された冷却水流通用の冷却水流路20Cとを備える。さらに、セパレーター18Aは、セパレーター18Cと同様の構成を有しており、ガス拡散層17Aに面して配置されたガス流路19Aと、ガス流路19Aと相対する主面に配置された冷却水流路20Aとを備える。
【0044】
この固体高分子形燃料電池3は、セパレーター18Cのガス流路19Cを通って空気や酸素などの酸化剤が酸素極4Cに供給され、セパレーター18Aのガス流路19Aを通って水素を含む燃料ガスもしくは有機物燃料が燃料極4Aに供給されることによって、発電するようになっている。
【0045】
以上、本実施形態では、電極触媒層12を、当該電極触媒層12の表面において、所定の面積を有する領域Dにブリュースター角θBで入射する検査光を照射した際の正反射光のうち、P偏光成分のみを通過させる偏光子15を通過した光の反射光量をLpとし、4096階調で表したとき、領域Dを重複させることなく当該電極触媒層12の表面の概ね全域を走査して得られる反射光量Lpの標準偏差σが、30以上150以下となるように構成した。これにより、触媒物質、導電性担体および高分子電解質の偏在や、電極触媒層12の局所的な熱履歴の差や厚みのばらつきを適正な状態とし、周辺部材と積層してセル化し発電した際に、電池の出力や耐久性に優れた電極触媒層および膜電極接合体を得ることが可能となる。
【0046】
さらに、電極触媒層12の表面における領域Dの所定の面積を、1600μm2以上10000μm2以下とした。これにより、電極触媒層12に存在するムラを、実用上適切な速度で正確に検出することが可能となる。
また、電極触媒層12の厚みを、1μm以上30μm以下の範囲内に構成したので、層厚ムラや表面のひび割れ等の問題がない電極触媒層12を得ることが可能となり、更には、耐久性に優れた膜電極接合体1を得ることが可能となる。
【0047】
また、電極触媒層12を、該電極触媒層12中の導電性担体に対する高分子電解質の重量比率が、0.8以上1.6以下の範囲内となるように構成したので、ガスや水の拡散性を維持しつつ、高いプロトン伝導性を有する電極触媒層および膜電極接合体を得ることが可能となる。
また、膜電極接合体1を用いて固体高分子形燃料電池3を構成したので、フラッディング現象及びプロトン伝導性低下による発電性能の低下がなく、高い発電性能を発揮し、耐久性にも優れた固体高分子形燃料電池を得ることが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例に係る膜電極接合体を備えた燃料電池と、比較例に係る膜電極接合体を備えた燃料電池とについて、これらの性能を比較した結果を説明する。
(実施例1)
白金担持カーボン触媒(TEC10E50E,田中貴金属工業社製)と水、エタノールの混合溶媒と高分子電解質(ナフィオン(登録商標),Dupont社製)分散液を混合し、遊星型ボールミルで30分間分散処理を行い、触媒インクを調製した。その際、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が1.0となるようにした。
【0049】
調整した触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターにより矩形に塗布し、続けて、触媒インクが塗布されたPTFEフィルムを80度の温風オーブンに入れて、触媒インクのタックがなくなるまで乾燥させ、カソード側触媒層をPTFE表面に形成した。また、同様の方法で、アノード側触媒層をPTFE表面に形成した。
そして、PTFEフィルム上に形成したカソード側触媒層とアノード側触媒層とを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両面に対面するように配置し、この積層体を120℃、10MPaの条件でホットプレスした後にPTFEフィルムを剥離することで、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0050】
(実施例2)
カソード側触媒層の塗布量を2倍とした以外は上記実施例1と同様にして、実施例2の膜電極接合体を得た。
(実施例3)
触媒インクを調製する際に、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が0.8となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、実施例3の膜電極接合体を得た。
【0051】
(実施例4)
触媒インクを調製する際に、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が1.6となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、実施例4の膜電極接合体を得た。
(比較例1)
触媒インクを調製する際に、分散時間10分間となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、比較例1の膜電極接合体を得た。
【0052】
(比較例2)
触媒インクを調製する際に、分散時間が300分間となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、比較例2の膜電極接合体を得た。
(比較例3)
触媒インクを調製する際に、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が0.7となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、比較例3の膜電極接合体を得た。
【0053】
(比較例4)
触媒インクを調製する際に、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が1.7となるようにした以外は上記実施例1と同様にして、比較例4の膜電極接合体を得た。
(比較例5)
カソード側触媒層の塗布量を5倍とした以外は上記実施例1と同様にして、比較例5の膜電極接合体を得た。
【0054】
(比較例6)
温風オーブンの風量を3倍とした以外は上記実施例1と同様にして、比較例6の膜電極接合体を得た。
(評価)
以下、上記実施例1~4の膜電極接合体および上記比較例1~6の膜電極接合体を備えた燃料電池のそれぞれの、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率と、カソード電極触媒層の厚みと、電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σと、発電性能と、耐久性とを比較した結果を説明する。
【0055】
(電極触媒層の厚み計測)
電極触媒層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層の断面を観察することで得られた。具体的には、まず、日立ハイテクノロジー社製イオンミリング装置IM4000を使用して電極触媒層の断面を露出させた。次いで、得られた断面を、日立ハイテクノロジー社製FE-SEM S-4800を使用して、5000倍で観察し、5カ所の観察点における視野内で3点の厚みを計測して、その平均値を各観察点での代表値とした。5カ所の観察点における代表値の平均値を、電極触媒層の厚みとした。
【0056】
(電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σの算出)
電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σは、検査光を電極触媒層表面に照射し、反射光をP偏光子を通してラインCCDカメラで検出する方法で取得した全ての反射光量Lpのデータについてヒストグラム分析を行うことで算出した。
【0057】
具体的には、まず、膜電極接合体を、多孔質真空吸着板を用いた検査ステージにシワやたるみがないようして載置し、真空ポンプを用いて固定した。入射角がブリュースター角である50度となるように設置した高指向性直線照明を検査光源として用い、多孔質真空吸着板に固定された膜電極接合体の電極触媒層部分で検査光を反射させた。反射した検査光は、P偏光のみ透過させるように設置された偏光子を通してラインCCDカメラで検出した。その際、検査光源、偏光子およびラインCCDカメラの有効幅は電極触媒層の幅以上とし、検査光源およびラインCCDカメラの主走査方向と直交する方向に検査ステージを移動させながら順次、反射光量Lpのデータを取得した。なお、領域DにあたるCCDカメラの一画素のサイズは6400μm
2であった。取得した全ての反射光量Lpのデータについてヒストグラム分析を行い、標準偏差σを得た。具体的には、下記(1)~(3)の手順で標準偏差σを得た。
図5は、CCDカメラで撮像した反射光量Lpのマッピング画像の一例を示す図であり、
図6は、反射光量Lpのヒストグラムの一例である
。
(1)電極触媒層の表面の全域を、撮像領域Dを重複させることなく走査して、
(2)領域D毎の反射光量Lpのデータを取得し、
(3)そのデータを直接、標準偏差の一般的な計算式(下記式(1))を用いて、標準偏差を算出する。
【数1】
【0058】
(発電性能の測定)
発電性能の測定には、膜電極接合体の両面にガス拡散層およびガスケット、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたセルを評価用単セルとして用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載の方法に概ね準じてI-V測定を実施した。
【0059】
(耐久性の測定)
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルを用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載の方法に概ね準じて湿度サイクル試験を実施した。
【0060】
(比較結果)
上記実施例1~4の膜電極接合体および上記比較例1~6の膜電極接合体を備えた燃料電池のそれぞれのカーボン担体に対する高分子電解質の重量比率と、カソード電極触媒層の厚みと、電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σと、発電性能と耐久性とを表1に示す。なお、発電性能については、電圧0.6Vにおける電流が、20A以上を「○」20A未満を「×」として記載した。また、耐久性については、8000サイクル後の水素クロスリーク電流が初期値の10倍未満を「○」初期値の10倍以上を「×」として記載した。
【0061】
本実施例においては、上記実施例1~4のいずれも、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率が0.8以上1.6以下であり、カソード電極触媒層の厚みは2μm以上20μm以下の範囲内となった。また、電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σが30以上150以下の範囲内となった。そして、発電性能および耐久性については、いずれも「○」となった。すなわち、上記実施例1~4において、発電性能および耐久性に優れた燃料電池を構成可能な膜電極接合体が得られた。
【0062】
一方、比較例においては、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比率は、比較例1、2、5、6においては0.8以上1.6以下であるが、比較例3、4においてはこの範囲内ではなかった。カソード電極触媒層の厚みは、比較例1~4および比較例6においては2μm以上20μm以下の範囲内となったが、比較例5においてはこの範囲内ではなかった。また、電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σは、比較例1~5のいずれも30以上150以下の範囲内ではなかった。そして、発電性能については、比較例1、2、4で「×」となり、耐久性については、比較例1および比較例3~6で「×」となった。すなわち、電極触媒層のムラを表す指標である電極触媒層表面における反射光量Lpの標準偏差σが上記各範囲外となることで発電性能および耐久性の少なくとも一方が低下した。
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池の運転において問題となる電極触媒層のムラを高精度で検出して不良品を除外し、長期的な使用に供しても電池出力や耐久性に優れた電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池を得ることができる。
したがって、本発明は固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車などに好適に用いることのできる性能を有し、産業上の利用価値が大きい。
【符号の説明】
【0065】
1…膜電極接合体
2…触媒層付き転写基材
3…固体高分子形燃料電池
4C…酸素極
4A…燃料極
11…高分子電解質膜
12,12C,12A…電極触媒層
13…基材
14…光源
15…偏光子
16…受光部
17C,17A…ガス拡散層
18C,18A…セパレーター
19C,19A…ガス流路
20C,20A…冷却水流路