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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】難燃性熱可塑性材及びその発泡ビーズ
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220617BHJP
   C08K 5/5397 20060101ALI20220617BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20220617BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20220617BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20220617BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20220617BHJP
   B29C 44/02 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/5397
C08K3/11
C08J9/14 CES
C08J9/04 103
B29C44/00 G
B29C44/02
【請求項の数】 33
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017089662
(22)【出願日】2017-04-28
(65)【公開番号】P2018053232
(43)【公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-02-17
(31)【優先権主張番号】201610274735.2
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】510016575
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司北京化工研究院
【氏名又は名称原語表記】BEIJING RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL INDUSTRY,CHINA PETROLEUM & CHEMICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.14,BEISANHUAN EAST ROAD,CHAOYANG DISTRICT,BEIJING 100013,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】郭鵬
(72)【発明者】
【氏名】呂明福
(72)【発明者】
【氏名】徐耀輝
(72)【発明者】
【氏名】張師軍
(72)【発明者】
【氏名】権慧
(72)【発明者】
【氏名】徐凱
(72)【発明者】
【氏名】畢福勇
(72)【発明者】
【氏名】宋文波
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特公昭52-017050(JP,B1)
【文献】特開2005-170964(JP,A)
【文献】特開平01-263156(JP,A)
【文献】特開2010-100837(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022049(WO,A1)
【文献】特開昭47-042938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00- 44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ベース樹脂と、難燃剤と、任意の酸化防止剤とを含む難燃性熱可塑性材であって、上記難燃剤は、ホスフィンオキシドと遷移金属塩との錯体を含み、上記遷移金属塩に含まれる遷移金属は、コバルト及び/またはニッケルであり、上記熱可塑性材はカーボンナノファイバー静電防止剤をさらに含み、上記カーボンナノファイバー静電防止剤は、1~5重量%の遷移金属を含むことを特徴とする難燃性熱可塑性材。
【請求項2】
上記ホスフィンオキシドは、下記構造式I
【化I】
(式中、R、R、及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、炭素数1~18の直鎖状アルキル、炭素数3~18の分岐状アルキル、炭素数1~18の直鎖状アルコキシ、炭素数3~18の分岐状アルコキシ、炭素数6~20の置換または無置換アリール、及び炭素数6~20の置換または無置換アリールオキシから選択される)を有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項3】
、R 、及びR は、それぞれ独立して、炭素数4~18の直鎖状または分岐状アルキルと、1つまたは2つの炭素環を有する炭素数6~18のアリールとから選択されることを特徴とする請求項2に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項4】
、R 、及びR は、それぞれ独立して、主要な炭素鎖の炭素原子の数が6以上である炭素数6~12の直鎖状または分岐状アルキルと、置換または無置換フェニルとから選択されることを特徴とする請求項2に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項5】
上記ホスフィンオキシドは、トリフェニルホスフィンオキシド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(4‐カルボキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリへキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリブチルホスフェート、及びジブチルブチルホスフェートのうちの少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項2に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項6】
上記遷移金属塩は、遷移金属有機塩及び/または遷移金属無機塩であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項7】
上記遷移金属塩は、遷移金属の、硝酸塩、チオシアン酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、及びシュウ酸塩のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項8】
100重量部の上記熱可塑性ベース樹脂に対して、上記難燃剤の含有量は、5~50重量部であり、上記任意の酸化防止剤の含有量は0.1~0.5重量部であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項9】
100重量部の上記熱可塑性ベース樹脂に対して、上記難燃剤の含有量は、10~20重量部であることを特徴とする請求項8に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項10】
上記難燃剤は、無機難燃成分をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項11】
上記無機難燃成分は、IIA族金属及びIIIA族金属の水酸化物から選択されることを特徴とする請求項10に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項12】
上記無機難燃成分は、水酸化マグネシウム及び/または水酸化アルミニウムから選択されることを特徴とする請求項10に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項13】
上記難燃剤における上記無機難燃成分に対する上記錯体の重量比は、(1~5):1であることを特徴とする請求項10に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項14】
記熱可塑性ベース樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバー静電防止剤の量は、0.1~10重量部であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項15】
上記熱可塑性ベース樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバー静電防止剤の量は、1~3重量部であることを特徴とする請求項14に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項16】
上記熱可塑性ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂のうちの少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項1~15のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項17】
上記熱可塑性ベース樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド6系樹脂、及びポリ(ブチレンスクシネート)系樹脂のうちの少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項16に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項18】
上記熱可塑性ベース樹脂は、プロピレンホモポリマー成分とプロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含み、分子量分布M /M は、4以上、10以下であり、分子量分布M z+1 /M は、10より大きく20未満であるポリプロピレン系樹脂であり、
室温のキシレン可溶物質の含有量は、10重量%より多く30重量%未満であり、室温のトリクロロベンゼン不可溶物質のM に対する室温のトリクロロベンゼン可溶物質のM の割合は、0.4より大きく1未満であることを特徴とする請求項17に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項19】
上記ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であり、
上記ポリプロピレン系樹脂の室温のキシレン可溶物質におけるエチレン含有量は、25重量%より多く50重量%未満であることを特徴とする請求項16~18のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項20】
上記ポリプロピレン系樹脂におけるエチレンモノマーの含有量は、5~15重量%であり、及び/または、
上記ポリプロピレン系樹脂は、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、メルトインデックスが0.1~15g/10分間であることを特徴とする請求項17~19のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項21】
上記ポリプロピレン系樹脂は、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、メルトインデックスが0.1~6g/10分間であることを特徴とする請求項20に記載の難燃性熱可塑性材。
【請求項22】
1~10重量部のホスフィンオキシドと3~15重量部の遷移金属塩とを有機溶媒で攪拌混合し、その後、マイクロ波加熱と超臨界乾燥を行い、上記ホスフィンオキシドと上記遷移金属塩との錯体を得る工程と、
上記錯体を含む難燃剤と、熱可塑性ベース樹脂と、カーボンナノファイバー静電防止剤と、任意の酸化防止剤とを混合する工程とを含み、
上記遷移金属塩に含まれる遷移金属は、コバルト及び/またはニッケルであり、上記カーボンナノファイバー静電防止剤は、1~5重量%の遷移金属を含むことを特徴とする、難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項23】
上記熱可塑性ベース樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であり、
上記難燃性熱可塑性材の製造方法は、上記ポリプロピレン系樹脂を作製する工程を含み、上記ポリプロピレン系樹脂を作製する工程は、
(1)(i)第1の外部電子供与体を含むチーグラ・ナッタ触媒の活性により水素の存在下または非存在下でプロピレン単独重合反応を行って、第1のプロピレンホモポリマーを含む反応物流を得る第1の段階と、(ii)第2の外部電子供与体を加えて、上記反応物流において上記触媒と複合反応させ、そして上記第1のプロピレンホモポリマー及び水素の存在下でプロピレン単独重合を行って第2のプロピレンホモポリマーを作製し、それによって上記第1のプロピレンホモポリマーと上記第2のプロピレンホモポリマーとを含むプロピレンホモポリマー成分を得る第2の段階とを含む、プロピレン単独重合反応の第1の工程であって、
230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、上記第1のプロピレンホモポリマーのメルトインデックスは、0.001~0.4g/10分間であり、上記第1のプロピレンホモポリマーと上記第2のプロピレンホモポリマーとを含む上記プロピレンホモポリマー成分のメルトインデックスは、0.1~15g/10分間であり、上記第2のプロピレンホモポリマーに対する上記第1のプロピレンホモポリマーの重量比は、40:60~60:40である、プロピレン単独重合反応の第1の工程と、
(2)上記プロピレンホモポリマー成分及び水素の存在下でプロピレン‐エチレン共重合反応を行って、プロピレン‐エチレンコポリマー成分を作製し、それによって上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む上記ポリプロピレン系樹脂を得る、プロピレン‐エチレン共重合反応の第2の工程と、
を含むことを特徴とする請求項22に記載の難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項24】
上記プロピレンホモポリマー成分に対する上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分の重量比は、(11~40):100であり、及び/または、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定された、上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む上記ポリプロピレン系樹脂のメルトインデックスに対する上記プロピレンホモポリマー成分のメルトインデックスの割合は、0.6以上、1以下であることを特徴とする請求項23に記載の難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項25】
記難燃性熱可塑性材の製造方法は、上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程を含み、
上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程は、炭素源を酸処理し、そして遷移金属触媒で錯体を形成し、不活性ガスでの保護の下、800~1200℃で上記錯体を炭化処理することを含むことを特徴とする請求項2224のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項26】
上記難燃性熱可塑性材の製造方法は、上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程を含み、
上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程は、炭素源を酸処理し、そして遷移金属触媒で錯体を形成し、不活性ガスでの保護の下、800~1200℃で上記錯体を炭化処理することを含み、上記炭素源は、炭素ピッチ、石油ピッチ、コールタールピッチ、コールタール、天然黒鉛、人造黒鉛、竹炭、カーボンブラック、活性炭、及びグラフェンのうちの少なくとも1つから選択されるか、もしくは、炭素分が80重量%以上であるコールタールピッチ、石油ピッチ、及び竹炭のうちの少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項22~24のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項27】
上記難燃性熱可塑性材の製造方法は、上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程を含み、
上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製する工程は、炭素源を酸処理し、そして遷移金属触媒で錯体を形成し、不活性ガスでの保護の下、800~1200℃で上記錯体を炭化処理することを含み、上記遷移金属触媒は、遷移金属の、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、及びメンチル化合物のうちの少なくとも1つから選択されるか、もしくは、上記遷移金属は、鉄、コバルト、ニッケル、及びクロムのうちの少なくとも1つから選択され、及び/または、上記遷移金属に基づく上記炭素源に対する上記遷移金属触媒の質量比は、(35~70):100であることを特徴とする請求項22~24のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材の製造方法。
【請求項28】
請求項1~21のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性材100重量部と、0.001~1重量部の気泡造核剤と、を含む物質に対してバッチ発泡工程を行うことを含む、難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法。
【請求項29】
界面活性剤、分散剤、及び分散エンハンサーのうちの任意の少なくとも1つと分散媒とに上記難燃性熱可塑性材をオートクレーブの中で混合して分散液を得ることと、
上記オートクレーブ中に発泡剤を供給し、温度及び圧力を発泡温度及び発泡圧に調整し、攪拌しながら発泡反応を行うことと、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズを回収することとを含むことを特徴とする請求項28に記載の難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法。
【請求項30】
上記気泡造核剤は、ホウ酸亜鉛、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、及び水酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つから選択され、
上記発泡剤は、有機物質発泡剤及び/または無機物質発泡剤から選択され、上記有機物質発泡剤は、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロブタン、シクロヘキサン、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,2‐ジフルオロエタン、1,2,2,2‐テトラフルオロエタン、塩化メチル、塩化エチル、及びジクロロメタンのうちの少なくとも1つを含み、上記無機物質発泡剤は、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、及び水を含むか、及び/または、
上記発泡温度は、80~220℃であり、上記発泡圧は、1~10MPaであり、上記発泡反応の時間は、0.1~2時間であることを特徴とする請求項29に記載の難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法。
【請求項31】
上記発泡圧は、3~5MPaであることを特徴とする請求項30に記載の難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法。
【請求項32】
上記分散媒は、水、エチレングリコール、グリセロール、メタノール、エタノール、及びそれらの混合物のうちの少なくとも1つから選択され、
上記界面活性剤は、ステアリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第四アンモニウム化合物、レチシン、アミノ酸、ベタイン、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ソルビタン、及びポリソルベートのうちの少なくとも1つから選択され、
上記分散剤は、カオリン、雲母、マグネシウム・アルミニウム・ガーネット、粘土、アルミナ、チタニア、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、ホウ酸亜鉛、及び酸化鉄のうちの少なくとも1つから選択され、0.01~5重量部であり、
上記分散エンハンサーは、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、及び硝酸鉄のうちの少なくとも1つから選択され、0.0001~1重量部であることを特徴とする請求項29~31のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法。
【請求項33】
請求項2832のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造方法によって難燃性熱可塑性発泡ビーズを作製する工程と、
上記難燃性熱可塑性発泡ビーズから発泡成形物を作製する工程とを含み、
上記発泡成形物は、表面抵抗が1.0×10Ω~1.0×10Ωであり、限界酸素指数が20~40であるか、または圧縮強度が170~600kPaである発泡成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、ポリマー材料の技術分野に関する。より詳しくは、難燃性熱可塑性材及びその発泡ビーズに関する。
【0002】
〔背景技術〕
熱可塑性樹脂は、熱せられると軟化し冷やされると硬化する性質を持ち、このプロセスにおいて化学的反応を経ない。熱せられると軟化し冷やされると硬化する性質は、加熱及び冷却プロセスを繰り返しても維持される。それらの中で、結晶性樹脂の特徴的温度は融点であり、非結晶性樹脂の特徴的温度はガラス転移温度である。熱可塑性樹脂は以下の特徴を持つ。熱可塑性樹脂は、室温では高分子量固体であり、線状ポリマーあるいは分鎖が少量しかないポリマーであり、分子間架橋を有さず、ファン・デル・ワールス力または水素結合によってのみ互いを引き合う。成形プロセスでは、樹脂は加圧され加熱されて軟化し流れ、化学的に架橋されず、金型で形作ることができ、それから冷却され成形されて、ある形状の製品となる。加熱プロセスを繰り返しても分子構造は基本的に変化しないが、加熱温度が高すぎたり、加熱時間が長すぎたりすると、架橋、劣化、または分解が生じる。
【0003】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT))、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリビニル・アルコール(PVA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレン・オキシド(PPO)、ポリサルフォン(PSF)等や、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンスクシネート‐co‐ブチレンテレフタレート(PBST)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等の生分解性樹脂が挙げられる。
【0004】
社会の発展とともに、自動車、航空、物流、梱包、及び他の産業において、循環的で地球に優しい経済の要件を満たす軽量化が具体的に求められている。熱可塑性材及びそれから作られる発泡材は、軽量化プロセスを進めるうえで重要な役割を果たすだけでなく、設計上の自由度や違いを増す、もっとも重要な軽量化材である。軽量化は、材料本来の安全性と使用性能を減らすことを意味するものではない。設計、材料の選定、及び製造プロセスが理にかなったものである限り、軽量化は安全性基準、振動基準、騒音基準及び耐久性の要求を満たすことができ、使用性能を保証する。例えば、自動車製造の分野では、本体に加えて、自動車部品や内装及び外装の装飾部品(trimming parts)が、軽量化、省エネルギー、安全性、快適さ及び他の目標を達成するのに重大な貢献を果たし、自動車のバンパーのコア、天井、内装装飾、シェーディングパネル、そして自動車の座席すら、発泡熱可塑性材に置き換えることができる。
【0005】
軽量であることや機械的特性がよいといった特徴や、成形により特定形状の製品にすることができることから、発泡ポリプロピレン(EPP)ビーズは広く用いられるポリマー発泡材であり、開発及び工業生産の観点から、工業的及び学術的な注目を全国的に集めている。EPPビーズを成形することによって得られるEPPビーズの発泡成形物は、発泡ポリスチレン系樹脂ビーズの発泡成形に比べて、耐化学性に優れ、耐久性が高く、耐熱性が高く、圧縮復元力がよい等の特徴がある。しかし、現在の工業用EPPビーズは、成形温度が高く、難燃性が乏しく、静電気に対する耐性が乏しく、低温衝撃耐性が乏しい等の欠点がある。
【0006】
第一に、成形には多くのエネルギーが消費される。EPPビーズを挿入成形(insert molding)すると、発泡ビーズが二次的に発泡しつつ互いに接して溶融するために、高い飽和蒸気圧を有する水蒸気を用いて加熱する必要がある。したがって、高圧耐性金型及び高圧縮の特別な成形機を用いる必要があり、これはエネルギーコストの増加につながる。そのため、蒸気圧及び温度がより低いEPPビーズ成形プロセスを開発することが非常に重要である。
【0007】
第二に、EPPビーズは可燃性である。ポリプロピレンは可燃性物質であり、燃焼中、より多くの熱を発し、それに溶滴が伴うため、火が極めて広がりやすい。さらに、EPPビーズは気泡構造を持つため、難燃性に劣る。現在のところ、EPPビーズの大半は難燃機能を果たすことができず、高い難燃性が要求される分野での応用が限定されている。現在、国内市場では、難燃性PPは主に、ハロゲン含有化合物と三酸化アンチモンを混合してできる難燃剤を用いて製造している。ハロゲン含有難燃剤の可塑性製品は、燃焼すると毒性及び腐食性のガスと大量の煙を生じ、環境に対して大きな害をもたらす。近年、多くの環境アセスメント報告が、ハロゲン難燃性材は、処理、燃焼、再利用のプロセスにおいて、ベンゾフラン、ダイオキシン、及び他の毒性の高い発癌性物質を発生させ、環境及び人間の健康に深刻な害をもたらすと示した。2003年2月、EUが最初に、ハロゲンの使用制限のためのROHS(危険物質に関する制限)を発表し、ドイツ、合衆国、日本、中国も関連する環境法及び規則を発表した。製品及び製造ラインが現行及び将来の環境規則の要件を満たすようにするため、全世界の電気電子装置の製造者、供給者、消費者が、国内サプライチェーン(internal supply chain)における最も安全な要件-「ゼロハロゲン」を作る。
【0008】
現在のところ、通常用いられる、ハロゲンを含まないポリプロピレン難燃剤としては、水酸化物、リン系、窒素系、及びそれらの錯体が挙げられる。通常の水酸化物難燃剤は、マグネシウム水酸化物及びアルミニウム水酸化物であり、ポリプロピレンは、添加量が60重量%以上の場合は、絶縁シートが求めるUL94 V0 難燃レベルに達することができるが、しかしこれは難燃性ポリプロピレン処理を困難にする。通常のリン系難燃剤は赤リンと有機リン酸塩であり、添加量は水酸化物の添加量よりも少ないが、ポリプロピレンプレートの絶縁レベルは、高い吸水率と高い透過性のために減少している。通常の窒素系難燃剤はメラミン及びトリアジンであるが、発泡成形物またはプレートの厚みが0.125~0.75mmの範囲にある場合は、製品は高い難燃性レベルを達成することができない。したがって、煙が少なく、ハロゲンを含まず、環境に優しい難燃性PP複合材料を開発することは、非常に大きな実際的意味を持つ。
【0009】
第三に、EPPビーズは静電防止性が低い。成形EPPビーズが関連する電子材パッケージや液晶パネルのターンオーバーボックス(turnover box)として用いられる場合、高い静電防止性能が求められる。通常のPP発泡材は静電防止性能に乏しく、外部との摩擦または外部からの剥離によって容易に静電気を発生させ、静電気は簡単には漏出せず絶えず表面に溜まっている。ポリプロピレン表面の帯電後、効果的な表面処理や静電防止処理を行わないと、ポリプロピレンは空気中の埃や汚れを吸着する。人体が静電気を帯びたポリプロピレンにさらされると、人体は感電し、また、静電気は電子機器の誤作動も引き起こしうる。さらに深刻なことに、静電気の蓄積は静電気引力(または斥力)、感電、または火花放電現象を引き起こし、これは可燃性や爆発性の物質がある環境では大災害につながる。静電気の影響を避けるため、ポリプロピレンに静電防止の改良を施して特別な場合に備える(adapt to certain special occasions)必要がある。
【0010】
導電機能体(conductive functional bodies)(例えば、導電性カーボンブラック)または静電防止剤をポリマーマトリックスに添加することは、ポリマーベースの静電防止複合材を作製する主な方法の一つである。しかし、一般に、導電性ネットワークを形成するのに必要な導電性フィラーの充填量または静電防止材の添加量は比較的多く、その結果、ポリマーの機械的特性等が大幅に減少し、製造コストが上がり、材料の処理の困難さが増大する。したがって、導電性フィラーの量を減らすことは、静電防止複合材の開発及び応用の重要な一部である。中国特許出願200510004023.0は、ポリマー静電防止剤を用いた静電防止ポリオレフィン樹脂発泡成形物の作製を記載しており、得られた発泡成形物は10~1013Ωの固有の表面抵抗率を有しており、用いられたポリマー静電防止剤は主に、ポリエーテル・ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリエーテルエステルアミドとポリアミドの混合物等を含むが、しかし静電防止剤が4~6重量%の量、添加されており、これは非持続性静電防止剤であるので、30日間しか効力がない。中国特許出願200710192215.8は、静電防止及び導電防止ポリプロピレンの作製方法を記載しており、得られたポリプロピレンペレットの体積抵抗率は1010~1011Ω・cmの範囲で調整可能であり、カーボンブラックの添加量は25~35重量%である。カーボンブラックは見掛け密度が低く、添加量がより多く、ポリプロピレンベースの樹脂と混合するのが困難であるため、処理の複雑さと製造コストが増大する。
【0011】
最も重要なこととして、ポリプロピレンビーズが難燃剤と持続性静電防止剤を添加された後、EPPビーズの気泡構造及び発泡成形物の機械的特性が大幅に影響を受け、その後の成形によって得られる成形製品の品質を保証するのが難しくなり、その用途分野が制限される。難燃剤及び静電防止剤がともに添加された場合、難燃剤の難燃性または静電防止剤の静電防止性が減少することがしばしばある。
【0012】
第四に、ポリプロピレン、とりわけプロピレンホモポリマーは、低温衝撃耐性に乏しい。ゴム分散相(rubber dispersion phase)を添加して得られる耐衝撃性ポリプロピレンは、高温衝撃強度及び低温衝撃強度に優れ、引っ張り強度、曲げ弾性率、剛性が高く、耐熱温度が高く、成形自動車部品や押出自動車部品、家電製品、容器、家庭用品等の多くの分野において広く用いられている。耐衝撃性ポリプロピレンから作製される発泡ビーズはまた、低温に対する耐性が高く、低温流通輸送用の包装、スポーツ用品、建物の断熱材、及び航空宇宙産業において大きな可能性がある。従来の通常等級の耐衝撃性ポリプロピレンは、発泡ビーズを作製するのに用いられる場合、溶融強度が低いために、複合気泡破損、低い成形性等の問題がある。
【0013】
ポリプロピレンの溶融強度を高める一般的な方法は、メルトインデックスを減らすこと、すなわちポリプロピレンの分子量を大きくすることである。しかしこれにより、材料の溶融及び押出が難しくなる場合がある。他の方法は、分子量の分布を広げることである。例えば、US 7365136とUS 6875826は、広範な分子量分布と高い溶融強度を有するホモポリプロピレン及びランダムなコポリプロピレンを作製する方法を記載している。当該方法では、アルコキシシラン(例えば、ジシクロペンチルジメトキシシラン)を外部電子供与体として選択し、複数の連続反応器中の水素濃度を調整して分子量のサイズ及び分布を調整することで、ポリプロピレンの溶融強度を増大させる効果を得る。WO 9426794は、複数の連続反応器中で、高い溶融強度を有するホモポリプロピレン及びランダムなポリプロピレンを作製する方法を開示する。当該方法では、高い溶融強度及び広い分子量分布または二峰性分布を有するポリプロピレンを、別々の反応器の水素濃度を調整することによって作製する。触媒の性質は各反応器で調整はされず、そのため作製プロセスは大量の水素を必要とする。CN 102134290とCN 102134291は、広範な分子量分布と高い溶融強度を有するホモポリプロピレンを作製する方法を開示する。当該方法では、複数の連続反応器を採用し、異なる反応ステージで外部電子供与体成分の種類及び比率を制御し、それから分子量調整水素の量を制御することにより、広範な分子量分布と高い溶融強度を有するホモポリプロピレンまたはランダムなコポリプロピレンを作製する。中国特許出願201210422726.5も、広範な分子量分布と高い溶融強度を有するホモポリプロピレンまたはランダムなコポリプロピレンの作製方法を公表している。当該方法では、異なる反応器間のアイソタクチックインデックスと水素反応とを、シランとジエーテルという二種の異なる種類の外部電子供与体を適当にマッチさせることで調整する。
【0014】
〔発明の概要〕
本発明の目的は、熱可塑性ベース樹脂と難燃成分とを含み、良好な難燃効果を示す難燃性熱可塑性材を提供することである。本発明は、持続性静電防止剤を含む難燃性熱可塑性材をさらに提供する。上記難燃性熱可塑性材は、難燃と静電防止との相乗効果を生じる。
【0015】
本発明の別の目的は、発泡工程によって上述の難燃性熱可塑性材から作製される難燃性熱可塑性発泡ビーズであって、規則的な気泡形態特性と、適切な膨張率特性と、優れた高低温衝撃耐性、静電防止性及び難燃性と、容易な処理工程とを有する難燃性熱可塑性発泡ビーズを提供することである。上記難燃性熱可塑性発泡ビーズ及びその作製方法によれば、従来の熱可塑性樹脂は熱可塑性発泡ビーズの作製において難燃性と静電防止性が低く、難燃性と静電防止性との改変後は、のちの成形用途に影響を及ぼすため上記熱可塑性発泡ビーズの規則的な気泡形態と膨張率とは制御しにくい、という不利点は克服される。
【0016】
さらに、本発明は、上述の製品を作製する方法をも提供する。
【0017】
本発明の第1の態様は、熱可塑性ベース樹脂と、難燃剤と、任意の酸化防止剤とを含む難燃性熱可塑性材であって、上記難燃剤は、ホスフィンオキシドと遷移金属塩との錯体を含む難燃性熱可塑性材を提供する。
【0018】
好ましい実施形態において、上記難燃剤は、ハロゲンを含まない。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記難燃剤は、ハロゲン無含有難燃剤であって、ホスフィンオキシドと遷移金属塩との錯体を含む難燃剤である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記ホスフィンオキシドは、下記構造式I
【化I】
【0021】
(式中、R、R、及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、炭素数1~18の直鎖状アルキル、炭素数3~18の分岐状アルキル、炭素数1~18の直鎖状アルコキシ、炭素数3~18の分岐状アルコキシ、炭素数6~20の置換または無置換アリール、及び炭素数6~20の置換または無置換アリールオキシから選択される)を有する。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、R、R、及びRは、それぞれ独立して、メチル、エチル、プロピル、炭素数4~18の直鎖状または分岐状アルキル、及び炭素数6~20の置換または無置換アリールから選択され、より好ましくは、炭素数4~18の直鎖状または分岐状アルキルと、炭素数6~18の置換または無置換アリールとから選択される。
【0023】
さらに、上記アルキルは、それぞれ独立して、好ましくは炭素数4~12の直鎖状または分岐状アルキルから選択され、さらに好ましくは炭素数6~12の直鎖状または分岐状アルキルから選択され、特に好ましくは炭素数6~10の直鎖状アルキルから選択される。
【0024】
好ましい実施形態において、R、R、及びRは、それぞれ独立して、主要な炭素鎖の炭素原子の数が6以上である炭素数6~18のアルキルから選択され、より好ましくは主要な炭素鎖の炭素原子の数が6以上である炭素数6~12の分岐状または直鎖状アルキルから選択される。
【0025】
好ましい実施形態において、R、R、及びRは、それぞれ独立して、1つまたは2つの炭素環を有する炭素数6~18のアリールから選択され、より好ましくは置換または無置換フェニルから選択される。
【0026】
本発明によれば、上記アリールは、水酸基またはカルボキシル基等の置換基を有してもよい。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、R、R、及びRは、同じ置換基である。上述の構造を有する上記ホスフィンオキシドは、上記遷移金属との錯化力が高い。
【0028】
本発明によれば、上記ホスフィンオキシドは、例えば、トリフェニルホスフィンオキシド、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(4‐カルボキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリへキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、及びトリデシルホスフィンオキシドのうちの少なくとも1つから選択されてよく、より好ましくは、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリへキシルホスフィンオキシド、及びトリデシルホスフィンオキシドのうちの少なくとも1つから選択されてもよい。
【0029】
本発明の上記難燃剤において、上記遷移金属塩は、遷移金属有機塩及び/または遷移金属無機塩であってよく、好ましくは、遷移金属の、硝酸塩、チオシアン酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、及びシュウ酸塩のうちの少なくとも1つであってよく、より好ましくは、硝酸塩であってよく、上記遷移金属は、好ましくはVIII族金属元素であり、より好ましくはコバルト及び/またはニッケルである。特に、上記遷移金属塩は、例えば、酢酸コバルト、酢酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、チオシアン酸ニッケル、チオシアン酸コバルト、硝酸ニッケル、及び硝酸コバルトのうちの少なくとも1つから選択される。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記遷移金属塩は、硝酸コバルト及び/または硝酸ニッケルである。上記遷移金属有機塩及び上記遷移金属無機塩は、ホスフィンオキシドと錯体をより形成しやすく、そのため収率が高い。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記ホスフィンオキシドと上記遷移金属塩とによって形成される上記錯体は、下記構造式IIを有する。
【化II】
【0032】
上記構造式IIにおいて、Mは遷移金属であり、R、R、及びRは、構造式IのR、R、及びRと同じである。
【0033】
及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、蟻酸イオン(HCOO)、酢酸イオン(CHCOO)、シュウ酸イオン(C)、硝酸イオン(NO )、及びチオシアンイオン(SCN)のうちの少なくとも1つから選択され、好ましくは硝酸イオン及びチオシアンイオンのうちの少なくとも1つから選択され、より好ましくは硝酸イオンである。
【0034】
本発明の上記難燃剤において、上記錯体を作製する工程は、1~10重量部、好ましくは2~5重量部の上記ホスフィンオキシドと3~15重量部、好ましくは5~10重量部の上記遷移金属塩とを有機溶媒で攪拌混合し、その後マイクロ波加熱と超臨界乾燥を行うことを含み、上記有機溶媒は、好ましくは、エタノール、アセトン、ピリジン、テトラヒドロフラン、及びジメチルホルムアミド(DMF)のうちの少なくとも1つから選択される。
【0035】
攪拌速度は、例えば、90~120rpmであってよく、上記マイクロ波加熱の電力は35~55Wであり、上記マイクロ波加熱の加熱温度は35~50℃であり、加熱時間は3~4.5時間である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、超臨界乾燥後に得られる上記錯体は、M(CHO(OPRであってよく、Mはニッケルまたはコバルトであってよく、Rはフェニル、へキシル、オクチルまたはデシルであってよい。
【0037】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材において、100重量部の上記熱可塑性ベース樹脂に対して、上記難燃剤の含有量は、5~50重量部、好ましくは10~20重量部であり、上記任意の酸化防止剤の含有量は、0.1~0.5重量部、好ましくは0.15~0.25重量部である。
【0038】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材において、上記難燃剤は、無機難燃成分をさらに含み、上記無機難燃成分は、好ましくは、IIA族金属及びIIIA族金属の水酸化物から選択され、より好ましくは、水酸化マグネシウム及び/または水酸化アルミニウムから選択される。上記無機難燃成分を加えることにより、難燃効果はさらに高められる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記難燃剤における上記無機難燃成分に対する上記錯体の重量比は、(1~5):1、好ましくは(2.5~3.5):1である。
【0040】
好ましい実施形態において、上記難燃剤は、1~10重量部、好ましくは2~5重量部のホスフィンオキシドと、3~15重量部、好ましくは5~10重量部の、上記遷移金属塩によって形成された上記錯体と、1~10重量部、好ましくは3~6重量部の上記無機難燃成分とを含む。
【0041】
本発明の、上記無機難燃成分を含む上記難燃剤は、まず初めに上記錯体を作製し、次に上記錯体と上記無機難燃成分とを物質的に混合することによって作製される。上記物質的混合は、ボールミル粉砕または機械混合によるものであってよく、好ましくは均質に混合する機械攪拌であってよく、攪拌速度は約100rpmである。
【0042】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材は、熱可塑性発泡材またはその熱可塑性発泡材でできた発泡成形物を作製するのに特に適しており、上記静電防止剤と共に上記難燃性熱可塑性材を用いることにより、その熱可塑性製品は環境保護要件を満たし、難燃効率は向上される。
【0043】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材は、カーボンナノファイバー静電防止剤(導電性フィラー)をさらに含む。
【0044】
上記カーボンナノファイバー静電防止剤に対する上記難燃剤の重量比は、好ましくは(3~20):1、より好ましくは(6~15):1である。
【0045】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材において、上記熱可塑性ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリアミド系樹脂のうちの少なくとも1つから選択され、好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド6系樹脂、及びポリ(ブチレンスクシネート)系樹脂のうちの少なくとも1つから選択され、より好ましくはポリプロピレン系樹脂から選択される。本発明の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンホモポリマー成分とプロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含み、上記ポリプロピレン系樹脂の分子量分布M/M(重量平均分子量/数平均分子量)は、4以上、10以下、好ましくは5より大きく9未満であり、分子量分布Mz+1/M(Z+1平均分子量/重量平均分子量)は、10より大きく20未満、好ましくは10より大きく15未満であり、上記ポリプロピレン系樹脂における室温のキシレン可溶物質の含有量は、10重量%より多く30重量%未満であり、好ましくは10重量%より多く20重量%未満であり、室温のトリクロロベンゼン不可溶物質のMに対する室温のトリクロロベンゼン可溶物質のMの比は、0.4より大きく1未満であり、好ましくは0.5より大きく0.8未満である。上記ポリプロピレン系樹脂において、連続相としての上記プロピレンホモポリマー成分は、上記ポリプロピレン系樹脂にある程度の剛性を与え、ゴム相、つまり分散相としての上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分は、上記ポリプロピレン系樹脂の靱性を改善しうる。しかしながら、高い溶解強度を有する耐衝撃性ポリプロピレンは、上記連続相と上記分散相とを含む異相構造を有するものであり、上記溶解強度に影響を及ぼす要因はより複雑なものとなる。本発明の発明者らは、上述の成分分子量関係と分子量分布特性とを持ち、上記異相構造を有する上記ポリプロピレン系樹脂は、高い溶解強度を持ちながら、優れた剛性と靱性とを有することを見出した。
【0046】
上記ポリプロピレン系樹脂において、上記ゴム相の含有量は、上記室温のキシレン可溶物質の含有量で測定される。説明の便宜上、上記ゴム相の分子量は、上記室温のトリクロロベンゼン可溶物質の分子量で測定される。上記ゴム相の組成は、上記室温のキシレン可溶物質におけるエチレン含有量、好ましくは上記ポリプロピレン系樹脂の上記室温のキシレン可溶物質におけるエチレン含有量によって特徴づけられ、25重量%より多く50重量%未満であり、好ましくは30重量%より多く50重量%未満である。なお、上述の「上記室温のキシレン可溶物質におけるエチレン含有量」は、上記室温のキシレン可溶物質におけるエチレンモノマー成分の含有量を意味し、本発明における上記ゴム相に含まれるエチレンモノマー成分の含有量に等しく、クリステックス法によって決定される。
【0047】
本発明によれば、上記ポリプロピレン系樹脂におけるエチレンモノマー単位の含有量は、好ましくは5~15重量%である。なお、上記ポリプロピレン系樹脂における上記エチレンモノマー単位の上記含有量は、ポリプロピレンコポリマーにおけるエチレンモノマー成分の含有量を意味する。
【0048】
本発明によれば、好ましくは、上記ポリプロピレン系樹脂は、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、メルトインデックスが0.1~15g/10分間、好ましくは0.1~6g/10分間である。
【0049】
上記ポリプロピレン系樹脂の相対分子質量の多分散性指数(PI)は、好ましくは4~8であり、より好ましくは4.5~6である。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、上記プロピレンホモポリマー成分は、第1のプロピレンホモポリマーと第2のプロピレンホモポリマーとを少なくとも含み、上記第1のプロピレンホモポリマーは、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、メルトインデックスが0.001~0.4g/10分間であり、上記第1のプロピレンホモポリマーと上記第2のプロピレンホモポリマーとを含む上記プロピレンホモポリマー成分は、230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、メルトインデックスが0.1~15g/10分間であり、上記第2のプロピレンホモポリマーに対する上記第1のプロピレンホモポリマーの重量比は、40:60~60:40である。メルトインデックス(溶解流量)は互いに異なるが特定の割合を有する少なくとも2つのプロピレンホモポリマーの組み合わせとして上記ポリプロピレン系樹脂の上記プロピレンホモポリマー成分を設定することによって、本発明で用いられる上記ポリプロピレン系樹脂は、特定の連続相を有し、上記連続相と分散相ゴム成分との更なる組み合わせにおいて、高い溶解強度と良好な剛性及び靱性とを有する耐衝撃性ポリプロピレン材は製造される。
【0051】
確実に上記ポリプロピレン系樹脂がバランス良く剛性と靱性とを有するためには、エチレン/プロピレンランダム共重合体が上記分散相ゴム成分として採用され、本発明で用いられる耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂において、上記プロピレンホモポリマー成分に対する上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分の重量比は、(11~80):100であり、その結果、高い溶解強度及び耐衝撃性が達成される。さらに、好ましくは、上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む上記ポリプロピレン系樹脂のメルトインデックスに対する上記プロピレンホモポリマー成分のメルトインデックスの割合は、0.6以上、1以下である。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明で用いられる上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂を構成する上記プロピレンホモポリマー成分は、分子量分布M/Mが6~20、好ましくは10~16であり、分子量が5,000,000より大きい画分の含有量は、1.5重量%以上、5重量%以下であり、分子量が50,000より小さい画分の含有量は、15重量%以上、40重量%以下であり、分子量分布Mz+1/Mは、70以上、好ましくは150未満であることによって特徴づけられる。
【0053】
本発明で提供され用いられる上記ポリプロピレン系樹脂は、第1のプロピレンホモポリマーの存在下でプロピレン単独重合反応を行って、上記第1のプロピレンホモポリマーと第2のプロピレンホモポリマーとを含むプロピレンホモポリマー成分を得、そして上記プロピレンホモポリマー成分の存在下でプロピレン/エチレン共重合反応を行って、上記プロピレンホモポリマー成分とプロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む物質を得ることによって得られる。このように、本発明の上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂は、上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分との単純な混合物ではなく、上記プロピレンホモポリマーと上記プロピレン‐エチレンコポリマーとを含む一体化したポリプロピレン物質であり、上記特定のプロピレンホモポリマー成分に基づいて特定のプロピレン/エチレン共重合反応をさらに行うことによって得られる。
【0054】
本発明で用いられる上記ポリプロピレン系樹脂は、良好な耐熱性をも有し、最終生成物であるポリプロピレン樹脂の溶解ピーク温度Tは、示差走査熱量測定(DSC)で測ると158℃以上である。
【0055】
本発明によれば、高い溶解強度を有する上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂の作製方法は、
(1)(i)第1の外部電子供与体を含むチーグラ・ナッタ触媒の活性により水素の存在下または非存在下でプロピレン単独重合反応を行って、第1のプロピレンホモポリマーを含む反応物流を得る第1の段階と、
(ii)第2の外部電子供与体を加えて、上記反応物流において上記触媒と複合反応させ、そして上記第1のプロピレンホモポリマー及び水素の存在下でプロピレン単独重合反応を行って第2のプロピレンホモポリマーを作製し、それによって上記第1のプロピレンホモポリマーと上記第2のプロピレンホモポリマーとを含むプロピレンホモポリマー成分を得る第2の段階と、
を含む、プロピレン単独重合反応の第1の工程であって、
230℃かつ2.16kgの荷重下で測定した場合、上記第1のプロピレンホモポリマーのメルトインデックスは、0.001~0.4g/10分間であり、上記第1のプロピレンホモポリマーと上記第2のプロピレンホモポリマーとを含む上記プロピレンホモポリマー成分のメルトインデックスは、0.1~15g/10分間である、プロピレン単独重合反応の第1の工程と、
(2)上記プロピレンホモポリマー成分及び水素の存在下でプロピレン/エチレン共重合反応を行って、プロピレン‐エチレンコポリマー成分を作製し、それによって上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む上記ポリプロピレン系樹脂を得る、プロピレン/エチレン共重合反応の第2の工程とを含む。上記反応物流は、上記第1の工程で未反応触媒をさらに含む。本発明によれば、上記第2のプロピレンホモポリマーに対する上記第1のプロピレンホモポリマーの重量比は、40:60~60:40である。
【0056】
本発明によれば、好ましくは、上記第2の工程で得られる、上記プロピレンホモポリマー成分と上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分とを含む上記ポリプロピレン樹脂のメルトインデックスに対する、上記第1の工程で得られる上記プロピレンホモポリマー成分のメルトインデックスの割合は、0.6以上、1以下である。
【0057】
本発明によれば、好ましくは、上記プロピレンホモポリマー成分に対する上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分の重量比は、(11~80):100である。
【0058】
上記第1の段階における水素の使用量は、例えば、0~200ppmであってよい。上記第2の段階における水素の使用量は、2,000~20,000ppmである。
【0059】
本発明によって提供される上記方法において使用される触媒は、上記チーグラ・ナッタ触媒であるが、好ましくは高い立体選択性を有する触媒であることが好ましい。高い立体選択性を有するチーグラ・ナッタ触媒とは、アイソタクチック指数が95%より大きいプロピレンホモポリマーを作製するのに使用できる触媒である。上記触媒は、(1)マグネシウム、チタ二ウム、ハロゲン、及び内部電子供与体を主に含む、チタニウム含有固体触媒活性成分と、(2)有機アルミニウム化合物助触媒成分と、(3)外部電子供与体成分とを通常含む。
【0060】
本発明の上記方法で用いられる上記チーグラ・ナッタ触媒に含まれる上記固体触媒活性成分(主要触媒ともいう)は、従来技術において知られているものであってよい。そのようなチタニウム含有固体触媒活性成分(1)の具体例としては、例えば、中国特許85100997、中国特許98126383.6、中国特許98111780.5、中国特許98126385.2、中国特許93102795.0、中国特許00109216.2、中国特許99125566.6、中国特許99125567.4、及び中国特許02100900.7に記載されたものが挙げられる。これら特許の全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0061】
本発明の上記方法で用いられる上記チーグラ・ナッタ触媒に含まれる上記有機アルミニウム化合物は、好ましくはアルキルアルミニウム化合物であり、より好ましくはトリアルキルアルミニウム、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ‐n‐ブチルアルミニウム、及びトリへキシルアルミニウム等のうちの少なくとも1つである。
【0062】
本発明の上記方法で用いられる上記チーグラ・ナッタ触媒に含まれる上記有機アルミニウム化合物に対する上記チタニウム含有固体触媒活性成分のモル比は、アルミニウム/チタニウムに注目した場合に、10:1~500:1であり、好ましくは25:1~100:1である。
【0063】
本発明によれば、上記第1の外部電子供与体は、一般式RSi(ORで表される化合物の少なくとも1つから好ましくは選択される。式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖状または分岐状アルキル、炭素数3~8のシクロアルキル、及び炭素数5~12のヘテロアリールから選択され、Rは、炭素数1~3の直鎖状脂肪族基である。具体例としては、限定はされないが、メチル‐シクロペンチル‐ジメトキシシラン、エチル‐シクロペンチル‐ジメトキシシラン、n‐プロピル‐シクロペンチル‐ジメトキシシラン、ビス(2‐メチルブチル)‐ジメトキシシラン、ビス(3‐メチルブチル)‐ジメトキシシラン、2‐メチルブチル‐3‐メチルブチル‐ジメトキシシラン、ビス(2,2‐ジメチル‐プロピル)‐ジメトキシシラン、2‐メチルブチル‐2,2‐ジメチル‐プロピル‐ジメトキシシラン、3‐メチルブチル‐2,2‐ジメチル‐プロピル‐ジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチル‐ジエトキシシラン、ジイソブチル‐ジメトキシシラン、メチル‐シクロへキシル‐ジメトキシシラン、メチル‐イソブチル‐ジメトキシシラン、ジシクロへキシル‐ジメトキシシラン、メチル‐イソプロピル‐ジメトキシシラン、イソプロピル‐シクロペンチル‐ジメトキシシラン、ジシクロペンチル‐ジメトキシシラン、イソプロピル‐イソブチル‐ジメトキシシラン、及びジイソプロピル‐ジメトキシシラン等が挙げられる。
【0064】
上記第1の外部電子供与体に対する上記有機アルミニウム化合物のモル比は、アルミニウム/シリコンに注目した場合に、1:1~100:1であり、好ましくは10:1~60:1である。
【0065】
本発明に係る上記方法において、上記第1の外部電子供与体を含む上記触媒は、単独重合反応器に直接加えてもよいし、従来技術で一般的に知られている事前接触及び/または半重合の後、上記単独重合反応器に加えてもよい。上記半重合とは、比較的低い温度でかつ所望の粒子形態と反応速度的挙動とを制御できる速度での上記触媒の半重合を意味する。上記半重合は、液相連続バルク半重合であってよく、あるいは、不活性溶媒の存在下での間欠半重合であってよい。半重合温度は、通常、-10~50℃あり、好ましくは5~30℃である。上記事前接触は、上記半重合の前に任意に行われてもよい。上記事前接触は、上記助触媒と、上記外部電子供与体と、上記主要触媒(固体活性中心成分)との触媒系での錯体形成反応を行って、重合活性を有する上記触媒系を得ることを意味する。上記事前接触の温度は、通常、-10~50℃、好ましくは5~30℃に制御される。
【0066】
本発明によれば、上記第2の外部電子供与体は、下記化学式(III)、(IV)及び(V)で表される化合物のうちの少なくとも1つから選択される。
【化III】
【化IV】
【化V】
【0067】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~20の直鎖状、分岐状または環状脂肪酸基のうちの1つから選択され、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖状アルキル、炭素数3~20のシクロアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数7~20のアルカリール、及び炭素数7~20のアラルキルのうちの1つから選択され、R、R10、及びR11は、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖状脂肪酸基であり、R12は、炭素数1~6の直鎖状または分岐状アルキル、あるいは、炭素数3~8のシクロアルキルである。)
上記第2の外部電子供与体の具体例としては、限定はされないが、2,2‐ジイソブチル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2,2‐フェニル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2,2‐ベンジルメチル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2‐イソプロピル‐2‐イソペンチル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2,2‐ビス(シクロへキシルメチル)‐1,3‐ジメトキシプロパン、2‐イソプロピル‐2,3,7‐ジメチルオクチル‐ジメトキシプロパン、2,2‐イソプロピル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2‐イソプロピル‐2‐シクロへキシルメチル‐1,3‐ジメトキシプロパン、2,2‐ジイソブチル‐1,3‐ジエトキシプロパン、2,2‐ジイソブチル‐1,3‐ジプロポキシプロパン、2‐イソプロピル‐2‐イソペンチル‐1,3‐ジエトキシプロパン、2‐イソプロピル‐2‐イソペンチル‐1,3‐ジプロポキシプロパン、2,2‐ビス(シクロへキシルメチル)‐1,3‐ジエトキシプロパン、n‐プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリプロポキシシラン、イソブチルトリブトキシシラン、t‐ブチルトリエトキシシラン、t‐ブチルトリプロポキシシラン、t‐ブチルトリブトキシシラン、シクロへキシルトリエトキシシラン、シクロへキシルトリプロポキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、及びテトラブトキシシラン等が挙げられる。
【0068】
上記第2の外部電子供与体に対する上記有機アルミニウム化合物のモル比は、アルミニウム/シリコンまたはアルミニウム/酸素に注目した場合に、1:1~60:1であり、好ましくは5:1~30:1である。
【0069】
本発明の実施形態によれば、上記第1の外部電子供与体に対する上記第2の外部電子供与体のモル比は、1:30であり、好ましくは5:30である。
【0070】
本発明の上記方法において、好ましくは、上記第2の段階の上記単独重合反応の前に、上記第1の段階の反応生成物において、上記第2の外部電子供与体を上記触媒成分と十分に接触させてもよい。好ましい実施形態において、上記第2の段階での上記単独重合反応が行われる前に上記第1の段階の上記反応生成物において上記触媒との事前接触反応が行われるように、上記第2の段階における上記反応器前かつ上記第1の段階における上記反応器後の供給ラインに、あるいは上記第2の段階における上記反応器の上記供給ラインの前端に、上記第2の外部電子供与体を加えてもよい。
【0071】
好ましくは、上記第2の工程でのエチレンの使用量は、エチレン及びプロピレンの総量に対して20%~50%を占める。また、好ましくは、上記第2の工程において、エチレン及びプロピレンの総量に対する水素量の比は、0.02:1である。一方、上述したように、上記第1の段階での水素の使用量は、例えば0~200ppmであってよい。上記第2の段階での水素の使用量は、2,000~20,000ppmであってよい。本発明において、高い溶解強度、剛性及び靱性を有する上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂を得るために、上記分散相及び上記連続相の組成、構造または性能を制御することが重要である。本発明によれば、本発明の目的を達成するための分子量分布とエチレン含有量とを有する上記ゴム相は、これらの好ましい条件の下で作製することができ、そのため性質が改善した上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂を得ることができる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2のプロピレンホモポリマーに対する上記第1のプロピレンホモポリマーの歩留まりは、40:60~60:40である。上記プロピレンホモポリマー成分に対する上記プロピレン‐エチレンコポリマー成分の歩留まりは、(11~40):100である。
【0073】
上記第1の段階での上記重合反応は、液相‐液相あるいは気相‐気相で、または気液複合技術によって行われてよい。液相重合では、重合温度は0~150℃、好ましくは60~100℃であり、重合圧は、対応する重合温度でプロピレンの飽和蒸気圧より高くなければならない。気相重合では、重合温度は0~150℃、好ましくは60~100℃であり、重合圧は、大気圧以上であってもよく、好ましくは1.0~3.0MPa(ゲージ圧、以下同様)であってよい。
【0074】
上記第2の段階での上記重合反応は、気相で行われる。気相で上記重合反応を行う上記反応器は、気相流動床、気相移動床、または気相攪拌床反応器であってよい。反応温度は0~150℃、好ましくは60~100℃である。重合圧は、分圧におけるプロピレンの液化圧未満である。
【0075】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記第1の工程において、上記第1の段階での反応温度は50~100℃、好ましくは60~85℃であり、上記第2の段階での反応温度は55~100℃、好ましくは60~85℃である。上記第2の工程において、反応温度は55~100℃、好ましくは60~85℃である。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の上記方法は、上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂をαまたはβ結晶核剤でさらに改変して、上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂の剛性または靱性をさらに高めることをさらに含む。改変に適した上記αまたはβ結晶核剤は、従来技術において既知である。ポリプロピレンの総重量に対する上記核剤の重量の比は、通常、(0.005~3):100である。
【0077】
本発明の上記方法において、上記重合反応は連続的にあるいは間欠的に行われてよい。好ましくは、本発明によって提供される上記方法は、連続して運転を行う2つ以上の反応器で実施される。
【0078】
本発明の上記方法によれば、特定のメルトインデックスを有し、分子量が極めて大きい成分を多数含み、かつ非常に広範な分子量分布を有するホモポリプロピレン連続相は、好ましくは、連続して接続された複数の反応器において2種以上の外部電子供与体を用い、適量の上記外部電子供与体を選択し、反応において異なる量の連鎖移動剤を採用することによって作製することができ、ホモポリマー成分の分子量分布M/Mは、好ましくは6~20であり、分子量が5,000,000より大きい画分の含有量は、1.5重量%以上、5重量%以下であり、分子量が50,000未満の画分の含有量は、15.0重量%以上、40重量%以下であり、分子量分布Mz+1/Mは、70以上、150未満である。これに基づき、プロピレンとエチレンとの共重合は行われて、上記連続相に分散した上記ゴム相が得られ、上記ゴム相の組成及び構造は、共重合反応条件を調整することによって制御され、上記ポリプロピレン系樹脂の分子量分布M/Mは、好ましくは4以上、10以下であり、分子量分布Mz+1/Mは、10より大きく20未満で、好ましくは10より大きく15未満であり、上記ポリプロピレン系樹脂における上記室温のキシレン可溶物質の含有量は、10重量%より多く30重量%未満であり、室温のトリクロロベンゼン不可溶物質のMに対する室温のトリクロロベンゼン可溶物質のMの割合は、0.4より大きく1未満で、好ましくは0.5より大きく0.8未満である。最終的に、高い溶解強度を有する上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂が得られる。
【0079】
本発明の上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂を作製する方法において、添加された上記第2の外部電子供与体は、上記第1の段階の単独重合生成物において触媒活性中心と反応して、別の触媒活性中心が形成される。また、上記方法において、プロピレンの重合は、上記第2の段階でさらに始まり、上記第1の段階で得られた上記単独重合生成物の分子量とは異なる分子量を有するホモポリマーが得られる。上記第2の外部電子供与体は、上記第1の外部電子供与体より水素反応が強く、メルトインデックスが大きいポリマーは、少量の水素の存在下で作製することができる。そのため、分子量が極めて大きい画分を多く含み、広範な分子量分布を有するホモポリプロピレン成分は、少量の水素である場合に、上記外部電子供与体の量及び種類と、連続して接続された2つの反応器に加えられる水素の量とを調整することによって、または特別な触媒を用いずに異なる段階で間欠的な操作を行うことによって得ることができる。その後、上記プロピレン/エチレン共重合反応は、適切なエチレン/エチレンとプロピレン、適切な水素/エチレンとプロピレン、及び温度と圧力とを選択することによって、上記ホモポリプロピレン成分に基づいてさらに行われ、それによって特定の性能を有したゴム成分を一定量含みかつ高い溶解強度を有する耐衝撃性ポリプロピレンを得ることができる。ゴム相成分の組成及び構造を制御することによって溶解強度を高めることができ、上記ゴム相成分を特定量含むことによって、衝撃耐性を高めることができ、適切な分子量分布によってポリマーが良好な加工性を有することができる。つまり、適切な連続相、ゴム分散相、及びそれらの複合関係は、複数のプロピレン単独重合段階を設定し、各単独重合及び共重合反応に対して適切な反応パラメータ及び反応条件を選択することによって得られる。また、これにより、優れた性能を有する上記ポリプロピレン系樹脂が得られる。
【0080】
本発明で作製され用いられる、高い溶解強度を有する上記耐衝撃性ポリプロピレン系樹脂は、発明の名称「高い溶解強度を有する耐衝撃性ポリプロピレン材とその作製方法」と題する特許出願No. 2014106027987 に記載されており、該特許出願の全内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0081】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材において、上記カーボンナノファイバー静電防止剤は、1~5重量%の、例えば2~4重量%の遷移金属(例えば、ニッケル、またはコバルト)を含む。上記遷移金属の上記含有量は、上記カーボンナノファイバー静電防止剤を作製するときに用いられる触媒から誘導されてよい。好都合にも、使用されるカーボンナノファイバーは、そこに含まれる遷移金属触媒を取り除くことなく、上記難燃性熱可塑性材の作製にそのまま用いられる。上記遷移金属が存在するため、かつその他の潜在理由により、本発明で用いられる上記カーボンナノファイバーは、上記難燃剤との相乗効果を発揮して、燃焼を食い止める高密度の炭素層と上記難燃性熱可塑性材との形成が促進される。それによって、上記難燃剤の添加量が減る。また、上記難燃剤と上記カーボンナノファイバーとの組み合わせは、互いに悪影響を及ぼすものではなく、後の発泡工程、気泡構造、及び物性にも影響を及ぼさない。
【0082】
本発明において、上記カーボンナノファイバーの純度、アスペクト比、直径、及び形態に関しては特に要件はない。
【0083】
本発明での使用に適した上記カーボンナノファイバーを作製する方法は、炭素源を酸処理し、そして上記遷移金属触媒で錯体を形成し、上記錯体を炭化処理することを含む。
【0084】
上記カーボンナノファイバーを作製する方法は、例えば、
(1)リン酸、硝酸及び塩酸(1:1:1の体積比率)を用いる混合酸処理法または粉砕処理法で、上記炭素源を前処理して前処理済み物質を得ることを含み、
上記炭素源は、凝集状態の炭素源であり、炭素ピッチ、石油ピッチ、コールタールピッチ、コールタール、天然黒鉛、人造黒鉛、竹炭、カーボンブラック、活性炭、及びグラフェンのうちの少なくとも1つであってよく、好ましくは、炭素分が80重量%以上である炭素源であり、例えば、炭素分が80重量%以上であるコールタールピッチ、石油ピッチ、及び竹炭のうちの少なくとも1つであってよく、
(2)上記方法は、上記前処理済み物質と金属触媒との錯体を形成する錯化を含み、
上記金属触媒は、好ましくは遷移金属の、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、またはメンチル化合物であり、上記遷移金属は、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、またはクロム等のVIII族金属元素であり、
上記金属触媒における上記炭素源に対する遷移金属原子の質量百分率比は、(35~70):100であり、
上記金属触媒に窒素が含まれることによって相乗作用が促進されて難燃効果が高められることを考慮すると、上記金属触媒は好ましくは硝酸コバルト及び/または硝酸ニッケルであり、
(3)上記方法は、800~1200℃のうちで一定の温度を0.5~5時間保ちつつかつ高純度窒素下で上記錯体に対して炭化反応を行い、その後、室温まで冷却して自己組織化したカーボンファイバーを得る、炭化処理を含み、上記炭化処理の温度は好ましくは950~1150℃あり、上記一定温度での反応時間は1.5~2.5時間であり、金属不純物を除去する後処理は必要ない。
【0085】
従来技術で通常用いられるポリマー静電防止剤等の非持続性静電防止剤と比較して、本発明で用いられる上記カーボンナノファイバーは、持続性静電防止効果を示すことができる持続性静電防止剤である。
【0086】
本発明は、特にポリプロピレン発泡ビーズの作製において、本発明に係る上記難燃性熱可塑性材(例えば、ポリプロピレン組成物)を発泡ビーズに応用することも提供する。
【0087】
さらに、上記難燃性熱可塑性材は、従来技術において熱可塑性樹脂に以前から用いられている添加剤であって、本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性材の押出し性能、耐燃性、静電防止性、及び機械的特性に悪影響を与えない添加剤をさらに含んでもよい。上記添加剤としては、限定はされないが、スリップ剤及び粘着防止剤が挙げられる。さらに、上記添加剤の添加量は、当業者が理解できる、従来技術において一般的な量であってよい。
【0088】
上記難燃性熱可塑性材は、既存の各種方法によって作製されてよく、例えば、高い溶解強度を有する耐衝撃性熱可塑性樹脂と、上記難燃剤と、上記カーボンナノファイバー静電防止剤と、任意の酸化防止剤、潤滑剤、及びその他の添加剤とを上記の割合で、機械的混合器内で直接かつ機械的に混合し、そして170~200℃で溶解混合器により溶解混合及び造粒を行うことによって作製されてもよい。あるいは、上記難燃性熱可塑性材は、高い溶解強度を有する少量の熱可塑性樹脂と、上記難燃剤と、上記導電性フィラー、つまり上記カーボンナノファイバー静電防止剤とを濃縮して、170~210℃で混合して難燃性マスターバッチと静電防止性マスターバッチとを得、そして上記2つのマスターバッチと高い溶解強度を有する上記耐衝撃性熱可塑性樹脂とをバランス良く混合し、さらに170~200℃で粒状にすることによって作製されてもよい。本発明において、上記機械的混合器は、例えば、高速混合器あるいは混練機等であってよい。上記溶解混合器は、例えば、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、開放形ロール機、密閉式混合機、あるいはバス混練機等であってよい。
【0089】
本発明によって提供される、高性能ハロゲン無含有難燃性熱可塑性材は、高い機械的強度と、優れた加工性能と、限定された光学的性質と、優れた静電防止特性とを有する。上記高性能ハロゲン無含有難燃性熱可塑性材の特性は以下の通りである。支持ばりのノッチ付衝撃強度は、15MPa以上、好ましくは25MPa以上であり、酸素指数は、25以上、好ましくは28以上である。さらに、本発明の上記難燃性熱可塑性材から作製される静電防止フィルム原料シートの表面抵抗は、10~10Ωであり、好ましくは10~10Ωである。
【0090】
本発明の第2の態様によれば、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、本発明の上記第1の態様に記載の上記難燃性熱可塑性材100重量部と、0.001~1重量部の、好ましくは0.01~0.1重量部の、さらに好ましくは0.01~0.05重量部の気泡造核剤とに対して含浸発泡工程を行うことによって提供され作製される。
【0091】
本発明は、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズを作製する方法をさらに提供し、上記方法は、
任意の界面活性剤、分散媒及び分散エンハンサーのうちの少なくとも1つに上記難燃性熱可塑性材をオートクレーブの中で混合して分散液を得る工程と、
上記オートクレーブ中に発泡剤を供給し、温度及び圧力を発泡温度及び発泡圧にそれぞれ調整し、攪拌しながら発泡反応を行う工程と、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズを回収する工程とを含む。
【0092】
上記気泡造核剤は、無機粉末であってよく、例えば、ホウ酸亜鉛、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、及び水酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つであってよく、好ましくはホウ酸亜鉛であってもよい。上記酸化防止剤の使用量を減らすことを考慮して、難燃性静電防止ポリプロピレン組成物の作製において、上記気泡造核剤を添加してよい。
【0093】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性発泡ビーズ及びその作製方法によれば、上記難燃剤と上記静電防止剤とがともに上記難燃性熱可塑性材に含まれる場合に、それらは上記気泡造核剤の一部としても機能するため、後に添加される上記気泡造核剤の添加量を減らすことができ、その結果、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズの気泡形態への影響はできる限り軽減される。
【0094】
本発明によれば、反応器含浸法によってマイクロペレットを形成するが、上記反応器含浸法は、上記分散媒、好ましくは上記界面活性剤、分散剤、上記分散エンハンサー等の添加剤のうちの少なくとも1つを添加すること、及び上記発泡剤を添加することを要する。
【0095】
上記難燃性熱可塑性材のマイクロペレットが溶解はせず分散した成分なら、いかなる成分でも上記分散媒として使用できる。上記分散媒は、水、エチレングリコール、グリセロール、メタノール、エタノール、またはそれらの混合物であってよく、好ましくは水性分散媒、より好ましくは水、最も好ましくは脱イオン水であってよい。上分散媒の使用量は、容量5Lの上記反応器に対して、1~4L、好ましくは2.5~3.5Lである。
【0096】
上記分散媒中での上記マイクロペレットの分散を促進するために、界面活性剤を使用することが好ましい。上記界面活性剤は、ステアリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第四アンモニウム塩、レシチン、アミノ酸、ベタイン、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ソルビタン、及びポリソルベートのうちの少なくとも1つであってよく、好ましくは陰イオン界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであってよい。上記界面活性剤の使用量は、100重量部の難燃性ポリオレフィン組成物のマイクロペレットに対して、通常、0.001~1重量部、好ましくは0.01~0.5重量部、さらに好ましくは0.1~0.3重量部である。
【0097】
上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレットが上記発泡工程中に溶解結合することを防ぐために、微細な有機または無機固体である上記分散剤を上記分散媒に加えることが望ましい。取り扱いやすさの観点から、無機粉末を使用することが好ましい。上記分散剤は、天然または合成粘土鉱物(例えば、カオリン、雲母、マグネシウム・アルミニウム・ガーネット、または粘土)、アルミナ、二酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、ホウ酸亜鉛、または酸化鉄であってよく、好ましくはカオリンであってよい。上記分散剤の使用量は、100重量部の上記難燃性ポリオレフィン組成物の上記マイクロペレットに対して、通常、0.01~5重量部、好ましくは0.1~3重量部、さらに好ましくは0.5~2重量部である。
【0098】
上記分散剤の分散効率を高めるために、つまり、上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレットの溶解結合を防ぐ機能を保持しながら上記分散剤の使用量を減らすために、分散エンハンサーを上記分散媒に添加することができる。上記分散エンハンサーは、40℃の水100mLに約1mgが溶解する溶解度を有し、かつ二価または三価のアニオンあるいはカチオンを提供する無機化合物である。上記分散エンハンサーの例としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、及び硝酸鉄が挙げられる。上記分散エンハンサーは、好ましくは硫酸アルミニウムである。上記分散エンハンサーを使用することは、見掛け密度が100g/L以上のポリプロピレン発泡ビーズを得るのに好都合である。上記分散エンハンサーの使用量は、上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレット100重量部に対して、通常、0.0001~1重量部、好ましくは0.01~0.1重量部である。
【0099】
本発明での使用に適した上記発泡剤は、有機物質発泡剤または無機物質発泡剤であってよい。上記有機物質発泡剤の例としては、脂肪族炭化水素(例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、へプタン)、脂環式炭化水素(例えば、シクロブタン、シクロヘキサン)、及びハロゲン化炭化水素(例えば、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,2‐ジフルオロエタン、1,2,2,2‐テトラフルオロエタン、塩化メチル、塩化エチル、ジクロロメタン)が挙げられる。上記無機物質発泡剤の例としては、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、及び水が挙げられる。上記発泡剤としての上記水は、ポリオレフィン樹脂マイクロペレットを上記分散媒に分散するための水であってよい。上記有機物質発泡剤及び上記無機物質発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記ポリプロピレン発泡ビーズの見掛け密度を安定させ(均一にし)、上記ポリプロピレン発泡ビーズの価格を抑え、かつ上記ポリプロピレン発泡ビーズが環境に害を与えないために、上記発泡剤としては、二酸化炭素及び窒素が好ましくは採用される。
【0100】
上記発泡剤の使用量は、上記発泡剤の種類、発泡温度、及び作製される上記ポリプロピレン発泡ビーズの上記見掛け密度に基づいてこれまで通り決められてよい。上記発泡剤として上記窒素を用いかつ上記分散媒として上記水を用いる場合、発泡機の圧力除去が行われたときの密閉容器の圧力、つまり、上記密閉容器内の上部空間の圧力(ゲージ圧)は、1~12MPaである。上記発泡剤として二酸化炭素を用いる場合、ゲージ圧は、1~7MPaである。一般的に、上記密閉容器の上記上部空間の上記圧力は、作製される熱可塑性発泡ビーズの見掛け密度が小さくなるにつれ、上げられることが望ましい。
【0101】
本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性発泡ビーズを作製する上記方法は、上述の量の上記成分に対して溶解混合及び水中ペレット製造を行うことと、オートクレーブの中で含浸発泡を行うことを含んでよい。本発明において、上記原料成分の上記溶解混合と造粒工程は、上記難燃剤、上記持続性静電防止剤、上記熱可塑性樹脂、上記気泡造核剤、上記酸化防止剤、上記任意のスリップ剤、結合剤等の、上記難燃性熱可塑性材を作製するための原料を、高速攪拌機で混合し、一軸または二軸スクリュー押出機の1つ以上の金型を通ってワイヤー内に押し出し、そして切断して上記静電防止剤を含む上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレットを得ること、を含んでよい。上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレットは、水中マイクロペレット造粒システムを用いて、75℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは55~65℃の水中で切断されて、上記熱可塑性樹脂のマイクロペレットを得ることが好ましい。好ましくは、各粒子の直径に対する長さの割合は、0.5~2.0、好ましくは0.8~1.3、より好ましくは0.9~1.1であり、平均重量は、0.1~20mg、好ましくは0.2~10mg、より好ましくは1~3mgである。上記平均重量は、無作為に選択された200個のマイクロペレットの重量の平均である。
【0102】
本発明の実施形態によれば、上記発泡工程は、反応器含浸発泡によって行われ、以下の具体的な工程を含む。
【0103】
(1)上記難燃性熱可塑性材の上記マイクロペレットと、上記分散媒と、上記界面活性剤と、上記分散剤と、上記分散エンハンサーと、その他の添加剤とを上記オートクレーブ中にて混合する工程;
(2)不活性発泡剤である二酸化炭素及び/または窒素、好ましくは二酸化炭素を用いて上記反応器から残気を排出し、上記残気が取り除かれた上記反応器に蓋をし、上記オートクレーブに上記不活性発泡剤を供給し、圧力を初めのうちに調整して安定させ、攪拌速度50~150rpm、好ましくは90~110rpmで上記オートクレーブ内の混合物を攪拌する工程;
(3)上記反応器内の圧力を発泡に必要な圧力、つまり1~10MPa、好ましくは3~5MPa(ゲージ圧)に調整し、平均して0.1℃/分の温度上昇で80~220℃の発泡温度にまで温度上昇を行い、上記発泡温度及び上記圧力で0.1~2時間、好ましくは0.25~0.5時間連続して攪拌する工程;
(4)上記オートクレーブの出口を開き上記反応器内の物質を回収タンクに排出して熱可塑性発泡ビーズを得、上記物質を排出しながら二酸化炭素を供給して、全ての発泡成形物が完全に発泡して上記回収容器に排出されてしまうまで上記オートクレーブ内の圧力を発泡に必要な上記圧力近くに維持する工程。
【0104】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、ハロゲン成分を含まない。
【0105】
本発明の第3の態様によれば、本発明の上記第2の態様にかかる上記難燃性熱可塑性発泡ビーズから作製される発泡成形物は提供され、上記発泡成形物の表面抵抗は1.0×10Ω~1.0×10Ω、好ましくは1.0×10Ω~9.9×10Ωであり、上記発泡成形物の限界酸素指数は20~40(測定基準は以下に記載)である。上記発泡成形物の圧縮強度は、好ましくは170~600kPaである。上記圧縮強度は、US ASTM D3575‐08によって測定され、圧縮速度10mm/分で50%圧縮されたときの圧縮強度である。
【0106】
さらに、本発明は、本発明にしたがって作製された上記難燃性熱可塑性発泡ビーズまたはその発泡成形物を、自動車部品、医療器具、エレクトロニックパッケージング、家庭用品、極低温流通用包装、スポーツ用品、建物の断熱材、及び航空宇宙へ応用することをも提供する。
【0107】
本明細書における「系樹脂」は、純粋な樹脂、つまり組成物を形成しない樹脂を意味する。
【0108】
本発明における「ハロゲン無含有」は、化合物、混合物または組成物がハロゲンを含まないことを意味する。
【0109】
上記ホスフィンオキシドと上記遷移金属塩とによって形成される上記「錯体」は、本発明における式(II)に示された分子構造を有し、錯化合物を意味し、「配位化合物」または「錯塩」とも呼ばれ、周囲の原子または分子(配位子)に弱く結合した中心原子、イオンまたは分子からなる構造物である。
【0110】
本発明における「複合難燃剤」は、互いに異なる複数の、難燃剤または難燃物質でできている難燃剤を意味する。
【0111】
本明細書中における「1つの」及び「上記」は、本発明の各要素について説明または記述するにあたりその要素が1つ以上存在することを意味する。また、「含む」及び「有する」は、記載された要素以外の要素が存在しうることを意味する、包括的な表現である。
【0112】
本明細書における「約」、「基本的に」及び「主に」は、要素の範囲、濃度範囲、温度範囲、あるいはその他の物質的または化学的特性または特徴の範囲とともに用いられるときは、上記特性または上記特徴の上記範囲の上限及び/または下限に存在し得る変化分、例えば、丸めの測定法に起因する変化分、あるいはその他の統計上の変化分を含む。本明細書で記載のように、「約」で定義された量、重量等に関する値は、その値の±1%を含む。例えば、「約10%」は、「9%~11%」と解されるべきである。
【0113】
従来技術と比較して、以下の有益な効果がもたらされる。
【0114】
本発明は、高い溶解強度を有する上記耐衝撃性熱可塑性樹脂をベース樹脂として用い、かつ上記ホスフィンオキシドと上記遷移金属塩とによって形成される上記錯体を上記難燃剤として用いることによって、良好な難燃効果を示す上記難燃性熱可塑性材を提供する。上記静電防止剤を含む上記難燃性熱可塑性材は、上記特定の静電防止剤(つまり、上記持続性静電防止剤)をさらに添加することで得られる。上記難燃性熱可塑性材における上記難燃剤及び上記持続性静電防止剤は相乗効果を発揮し、それによって上記難燃性熱可塑性材の難燃効率を効果的に高め、難燃効果を高め、上記難燃剤の添加量を減らし、かつ静電防止性能に悪影響を及ぼすこともない。上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、反応器法によって上記難燃性熱可塑性材から作製される。上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、例えば、優れた高低温衝撃耐性、静電防止性及び難燃性と、高気孔率と、制御可能な密度とを有し、さらに形成しやすくもある。上記難燃性熱可塑性発泡ビーズの製造工程は、簡単で、省エネで、環境に優しいものである。
【0115】
さらに、本発明によって提供される上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、低価格、気泡が密、また気孔径分布が均一という利点を有し、自動車部品、食品パッケージ、エレクトロニックパッケージ、建物装飾、及び、発泡成形プラスチックの軽量化に対する要求が高いその他の場合に適用することができるとともに、医療器具、家庭用品、低温流通用包装、スポーツ用品、航空宇宙、及び、難燃性、静電防止性及び低温衝撃耐性の多岐にわたる要件を有する分野におけるその他の優れた材料にも適している。
【0116】
本発明によって作製される上記難燃性熱可塑性発泡ビーズは、架橋構造ではなく、また、副次的な汚染を引き起こすことなく循環経済の要件を守って、一般的な熱可塑性材の再利用法によって再利用することができる。
【0117】
〔図面の簡単な説明〕
図面を参照しつつ、本発明をさらに詳述する。図面では、同じ部分は同じ参照番号で示される。
【0118】
図1は、トリフェニルホスフィンオキシド及びCo(OPPh(NO錯体の赤外線スペクトルを示す。
【0119】
図2は、Co(OPPh(NO錯体の微小形態の走査電子顕微鏡写真を示す。
【0120】
図3は、カーボンナノファイバーの微小形態の走査電子顕微鏡写真を示す。
【0121】
図4は、実施例2で作製した難燃性静電防止発泡ポリプロピレンビーズの表面電子顕微鏡写真を示す。
【0122】
図5は、実施例2で作製した難燃性静電防止発泡ポリプロピレンビーズの断面電子顕微鏡写真を示す。
【0123】
図6は、比較例2で作製した発泡ポリプロピレンビーズの表面電子顕微鏡写真を示す。
【0124】
図7は、比較例2で作製した発泡ポリプロピレンビーズの断面電子顕微鏡写真を示す。
【0125】
〔発明を実施するための形態〕
以下の実施例を参照しつつ、本発明についてさらに記載する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0126】
下記実施例及び比較例における原材料を以下に示す。
【0127】
通常のポリプロピレン系樹脂:Qilu Company of China Petroleum & Chemical Corporation、商標 EPS30R
ポリエチレン系樹脂:Yangzi Petrochemical Company Limited of China Petroleum & Chemical Corporation、商標 7042
ポリエチレン系樹脂:Yanshan Company of China Petroleum & Chemical Corporation、商標 LD100ac
ポリエチレン系樹脂:Beijing Research Institute of Chemical Industry of China Petroleum & Chemical Corporation、商標 HPE1、HPE2
ポリ乳酸系樹脂:Natureworks
TPU系樹脂:BASF
PBT系樹脂:ChiMei Chemical Corporation
PET系樹脂:日本、東レ
PA6系樹脂:BASF
PBS系樹脂:Beijing Research Institute of Chemical Industry of China Petroleum & Chemical Corporation
カオリン:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
トリフェニルホスフィンオキシド:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
硝酸コバルト:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
硝酸コバルト:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
コールタールピッチ:Shanxi Institute of Coal Chemistry, Chinese Academy of Sciences、炭素含有量80重量%超、工業グレード
石油ピッチ:Sinopec、炭素含有量80重量%超、工業グレード
竹炭:Shanxi Institute of Coal Chemistry, Chinese Academy of Sciences、炭素含有量80重量%超、工業グレード
水酸化マグネシウム:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
水酸化アルミニウム:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
エタノール:J&K Scientific Ltd.、ACROS、分析的純度
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:Tianjin Guangfu Fine Chemical Research Institute、分析的純度
硫酸アルミニウム:Tianjin Guangfu Technology Development Co., Ltd.、分析的純度
ホウ酸亜鉛:Tianjin Guangfu Fine Chemical Research Institute、分析的純度
カーボンナノファイバー:Shanxi Institute of Coal Chemistry, Chinese Academy of Sciences、純度80重量%超、工業グレード
静電防止剤 Atmer129:Croda社、工業グレード
トリオクチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、ジブチルブチルホスホン酸塩(dibutyl butylphosphonate)はすべて、従来既知の作製方法で作製する。
【0128】
他の使用原材料も市販されている。
【0129】
実施例及び比較例で用いた製造及び試験装置・機器を以下に示す。
【0130】
水中造粒システム:Labline 1000、ドイツ、BKG社
溶融引っ張りテスタ(Melt Tensile Tester):Rheotens71.97、ドイツ、Goettfert社
濃度テスタ:CPA225D, Density Accessories YDK01、ドイツ、Sartorius社
成形機:ドイツ、Kurtz Ersa社、Kurtz T-Line
万能材料試験機:5967、合衆国、Instron Corporation
酸素指数計測機:6448、イタリア、Ceast社
コーンカロリーメータ:FTT200、英国、FTT社
表面抵抗メータ:4339B、合衆国、Agilent社。
【0131】
実施例のポリマー関連のデータは、以下の試験方法に従って得られた。
【0132】
(1)室温のキシレン可溶物質の含有量及び室温のキシレン可溶物質中のエチレン含有量(すなわち、ゴム相の含有量及びゴム相のエチレン含有量)を、CRYST‐EX(CRYST‐EX EQUIPMENT、IR4+検出器)(スペイン、Polymer Char社製)を用いてCRYSTEX法で測定した。室温のキシレン可溶物質の含有量が異なる一連のサンプルを校正用の標準サンプルとして選択し、標準サンプル中の室温のキシレン可溶物質の含有量をASTM D5492で測定した。上記機器それ自体が提供する赤外線検出器が、溶解物質中のプロピレンの重量含有量を検査でき、これを用いて、プロピレンの重量含有量を100%から引くことで、室温のキシレン可溶物質中のエチレン含有量(ゴム相中のエチレン含有量)の特性を示す。
【0133】
(2)樹脂の引っ張り強度は、GB/T 1040.2(ISO 527)に記載された方法に従って測定した。
【0134】
(3)メルトマスフローレートMFR(メルトインデックスとも知られる)は、230℃かつ2.16kgの荷重下、CEAST社製の7026 Melt Indexerを用いて、ASTM D1238に記載の方法に従って測定した。
【0135】
(4)曲げ弾性率は、GB/T 9341(ISO 178)記載の方法に従って測定した。
【0136】
(5)支持ばりのノッチ付衝撃強度は、GB/T 1043.1(ISO 179)に記載の方法に従って測定した。
【0137】
(6)エチレン含有量は、赤外分光法(IR)法で測定した。当該方法では、核磁気共鳴法で測定した標準サンプルを用いて校正を行った。核磁気共鳴法では、AVANCE III 400MHz核磁気共鳴(NMR)分光計(スイス、Bruker社製)と10mmプローブを用いて測定を行った。溶媒は重水素化o‐ジクロロベンゼンを用い、約250mgのサンプルを2.5mlの重水素化溶媒内に入れ、140℃の油浴で加熱して溶解して均一な溶液を生成した。13C‐NMRを収集し、プローブの温度を125℃とし、90°パルスを用い、サンプリング時間AQを5秒間とし、遅延時間D1を10秒間とし、走査周波数を5000回以上とした。他の操作やピーク同定等を、通常用いるNMR実験要件に従って実施した。
【0138】
(7)相対的分子量の多分散性指標(PI):樹脂サンプルを200℃で2mmシートに成形し、ARES(Advanced Rheometer Extension System)レオメータ(アメリカ合衆国、Rheometric Scientific Inc.製)を用いて、190℃で窒素の保護の下、動的周波数走査を行った。平行板クランプを用い、適切な歪み振幅を決めて、実験が直線領域(linear region)で行われるようにした。サンプルのエネルギー貯蔵弾性率(G’)、エネルギー消費弾性率(G'')等の変化を、周波数とともに測定した。PI=10/Gであり、G(Pa)は、G’周波数カーブとG''周波数カーブの交点の弾性率値である。
【0139】
(8)溶融強度は、レオテンス溶融強度メータ(ドイツ、Geottfert Werkstoff Pruefmaschinen社製)を用いて測定した。一軸スクリュー押出機でポリマーを溶融し可塑化して、アスペクト比が30/2の金型を有する90°ステアリングヘッドを通して下向きに押し出して溶融ストリップ(melt strips)を形成し、当該溶融ストリップは一定の加速度で向き合って回転する二つのローラの一団にはさまれて一軸方向に引き出され、溶融引き出しプロセスの力は、引き出しローラに接続された力測定ユニットによって測定され記録され、メルト・フラクチャーの時点で測定された最大の力値(force value)を溶融強度として定めた。
【0140】
(9)分子量(M、M)及び分子量分布(M/M、Mz+1/M)は、PL‐GPC 220ゲル透過クロマトグラフ(英国、Polymer Laboratories, Inc.製)またはGPCIR機器(IR5濃度検出器)(スペイン、Polymer Char社製)を用いて測定した。クロマトグラフィーカラムは、三本の連続PLgel 13um Olexisカラムを用い、溶媒及び移動相は、1,2,4‐トリクロロベンゼン(250ppmの酸化防止剤 2,6‐ジブチルp‐クレゾールを含む)であり、カラム温度は150℃であり、流速は1.0ml/分であった。EasiCal PS-1狭分布ポリスチレン標準サンプル(PL社製)を用いて、ユニバーサル校正を行った。室温のトリクロロベンゼン可溶物質の作製プロセスは、サンプル及びトリクロロベンゼン溶媒の重さを正確に量るステップと、150℃で5時間溶解するステップと、25℃で15時間放置(standing)するステップと、定量的グラスファイバフィルタペーパーを用いて濾過して、測定用の室温のトリクロロベンゼン可溶物質の溶液を得るステップとを含む。GPC曲線領域を、既知の濃度のポリプロピレンを用いて修正し、室温のトリクロロベンゼン可溶物質の含有量を測定した。室温のトリクロロベンゼン可溶物質の分子量データは、オリジナルのサンプルのGPCデータ及び可溶物質のGPCデータに従って計算した。
【0141】
(10)密度測定:GB/T 1033.1-2008(ISO 1183)に従って、ポリプロピレン系樹脂及び発泡ポリプロピレンビーズの密度を、ザルトリウス天秤の密度付属部品(density accessories)を用いた排水法(drainage method)によって得た。得られたポリプロピレン発泡材の発泡率を、公式:b=ρ1/ρ2(式中、bは発泡率、ρ1はポリプロピレン系樹脂の密度、ρ2は発泡材の見掛け密度)で計算した。
【0142】
(11)酸素指数は、GB/T 2406.2‐2009(ISO 4589)に記載の方法に従って検査した。
【0143】
(12)表面抵抗率は、GB/T 1410‐2006(国際電気標準会議(IEC) 60167)に記載の方法に従って検査した。
【0144】
(13)圧縮強度の検査:50×50×25mmのサンプルを発泡ビーズの発泡成形物から切り取り、万能材料試験機5967で、US ASTM D3575‐08に基づいて、10mm/分の圧縮率で検査し、発泡成形物が50%圧縮されたときの圧縮強度を得た。
【0145】
ポリプロピレン系樹脂HMSPPの作製
ポリプロピレン系樹脂HMSPP601の作製
ポリプロピレン装置内でポリプロピレン重合反応を行った。当該装置は主に、半重合反応器と、第1ループ反応器と、第2ループ反応器と、第3ガス相反応器を備えている。重合方法及び各工程は以下の通りであった。
【0146】
(1)半重合反応
主触媒(DQC‐401触媒、Beijing Oda Branch of Sinopec Catalyst社提供)、共触媒(トリエチルアルミニウム)、第1の外部電子供与体(ジシクロペンチル‐ジメトキシシラン、DCPMS)を6℃で20分間、事前接触(precontact)させ、その後、連続攪拌タンク半重合反応器に連続的に添加して半重合反応を行った。半重合反応器に入るトリエチルアルミニウム(TEA)の流速は6.33g/hrであり、ジシクロペンチル‐ジメトキシシランの流速は0.3g/hrであり、主触媒の流速は0.6g/hrであり、TEA/DCPMS比は50(mol/mol)であった。半重合は、プロピレン液相バルク環境で、温度15℃、滞留時間約4分間で行われた。触媒の半重合比は約80~120倍であった。
【0147】
(2)第1の工程:プロピレン重合反応
第1の段階:半重合後の触媒は、連続的に第1ループ反応器に入り、第1の段階のプロピレン単独重合反応を完了させた。第1ループ反応器における重合反応温度は70℃、反応圧は4.0MPaであった。第1ループ反応器の供給には水素は含まれておらず、オンラインクロマトグラフィ(online chromatography)で測定した水素濃度は10ppm未満であり、第1のプロピレンホモポリマーAが得られた。
【0148】
第2の段階:第2の段階のプロピレン単独重合反応を、第1ループ反応器と直列に接続した第2ループ反応器で行った。0.63g/hrのテトラエトキシシラン(TEOS)を、プロピレンとともに第2ループ反応器に添加し、第1ループ反応器からの反応物流(reaction stream)と混合させた。TEA/TEOS比は5(mol/mol)であった。TEOSは第2の外部電子供与体であった。第2ループ反応器の重合温度は70℃であり、反応圧は4.0MPaであった。ある量の水素を、プロピレンの供給とともに添加した。オンラインクロマトグラフィで測定した、上記供給中の水素の濃度は3,000ppmであった。第2のプロピレンホモポリマーBを第2ループ反応器で生成し、第1のプロピレンホモポリマーと第2のプロピレンホモポリマーを含むプロピレンホモポリマー成分が得られた。
【0149】
(3)第2の工程:エチレン/プロピレン共重合反応
ある量の水素を第3反応器に添加した。H/(C+C)=0.06(mol/mol)、C/(C+C)=0.3(mol/mol)であった(CとCはそれぞれ、エチレンとプロピレンを指す)。エチレン/プロピレン共重合反応を、第3反応器において、反応温度75℃でさらに開始し、プロピレン‐エチレンコポリマー成分Cを生成した。
【0150】
最終生成物は、第1のプロピレンホモポリマー、第2のプロピレンホモポリマー、プロピレン‐エチレンコポリマー成分を含む。反応しなかった触媒は、湿潤窒素によって非活性化し、最終生成物を加熱して乾燥させ、ポリマー粉末を得た。0.1重量%のIRGAFOS168添加剤、0.1重量%のIRGANOX1010添加剤、0.05重量%のステアリン酸カルシウムを得られた粉末に添加し、二軸スクリュー押出機で造粒した。上記ポリマーの分析結果と物質的特性を表1及び表2に示した。
【0151】
ポリプロピレン系樹脂HMSPP602の作製
HMSPP602の作製のための触媒、半重合、及び重合プロセス条件は、HMSPP601の作製のための条件と同じであった。HMSPP601の作製との違いは、第2の段階における第2反応器中の水素の量が13,000ppmであり、第2の工程のガス相反応器中のH/(C+C)が0.49(mol/mol)であり、第1の外部電子供与体がメチル‐イソプロピル‐ジメトキシシラン(MIPMS)であることであった。添加量は替えなかった。ポリマーの分析結果及び物質的特性を表1及び表2に示した。
【0152】
ポリプロピレン系樹脂HMSPP603の作製
HMSPP603の作製のための触媒、半重合、及び重合プロセス条件は、HMSPP601の作製のための条件と同じであった。HMSPP601の作製との違いは、第2の外部電子供与体が2,2‐ジイソブチル‐1,3‐ジメトキシプロパン(DIBMP)であること(添加量は替えず)であり、第2の段階における第2反応器中の水素の量が3,600ppmであることであった。ポリマーの分析結果及び物質的特性を表1及び表2に示した。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
実施例1
本実施例の難燃剤、ポリプロピレン組成物、発泡ビーズ、及び他の生成物を作製するための原料比及び反応条件を表3及び表4に示した。発泡ビーズの性能パラメータも、表4に載せた。これらの表では、難燃成分Aはホスフィンオキシドであり、難燃成分Bは遷移金属塩であり、難燃成分Cは無機難燃成分であった。
【0156】
(1)(ハロゲンを含まない)難燃剤の作製
トリフェニルホスフィンオキシド及び硝酸コバルトをエタノールに添加して、100rpmの速度で攪拌した。その後、混合物を攪拌しつつ、加熱出力50Wのマイクロ波照射により40℃で4時間、加熱した。トリフェニルホスフィンオキシド及び硝酸コバルトによって生成される錯体Co(OPPh(NOは、マイクロ波加熱後の物質の超臨界乾燥によって得られた。錯体の構造及び微小形態は、赤外分光法及び走査電子顕微鏡によって特徴づけられた。結果を図1及び図2に示した。
【0157】
作製した錯体Co(OPPh(NOは、水酸化マグネシウムとともに10rpmの速度で機械的に攪拌して、難燃剤を得た。
【0158】
図1は、錯体Co(OPPh(NOの赤外線スペクトルを示す。この図から、上記錯体の赤外線スペクトルでは、1143cm-1及び1070cm-1におけるピークはP‐O伸縮振動に対応し、トリフェニルホスフィンオキシドに比べて低い波数の方向へ動いていることがわかる。これは、上記錯体の形成を証明している。1258cm-1、1024cm-1、812cm-1におけるピークは、O・NOの配位(coordination)に対応し、上記錯体の4面体構造を実証している。
【0159】
(2)カーボンナノファイバー静電防止剤の作製
炭素源として85重量%の炭素含有量を有するコールタールピッチに、リン酸/硝酸/塩酸(体積比1:1:1)の混合酸を用いて粉砕前処理を行って、前処理済み物質を得た。
【0160】
上記の前処理済み物質及び触媒である硝酸コバルトをボールミルで混合して、錯体を得た。
【0161】
上記錯体を、高純度窒素の下、950℃で1.5時間、炭化反応させ、その後、室温まで冷却して、自己組織化カーボンナノファイバーを得た。触媒金属不純物を除去する後処理は必要なかった。カーボンナノファイバーは、測定値で(as measured)2重量%のコバルトを含んでいる。カーボンナノファイバーの微小形態を図3に示した。
【0162】
(3)(ハロゲンを含まない)難燃剤ポリプロピレン組成物の作製
HMSPP601と、上で作製したカーボンナノファイバー静電防止剤と、気泡造核剤であるホウ酸亜鉛と、静電防止剤1010(BASF社)と、静電防止剤168(BASF社)を、上で作製した難燃剤と、高速攪拌機内で均一に混合した。それから、混合した物質を二軸スクリュー押出機(Coperion社製)のフィーダーに添加し、上記物質はフィーダーを通して二軸スクリューに入った。処理の間、スクリューの温度は170~200℃に保たれていた。上記物質はスクリューによって溶融され均一に混合され、それからLabline 100 マイクロペレット作製システムに入れられた。トルクは約65%に制御され、回転速度は300rpmに制御された。難燃性静電防止ポリプロピレン組成物マイクロペレットが得られた。上記組成物の23℃におけるノッチ付アイゾット衝撃強度は25.8KJ/mであった。
【0163】
(4)(ハロゲンを含まない)難燃性静電防止発泡ポリプロピレンビーズの作製
1.上で作製した難燃性ポリプロピレン組成物、分散媒質である水、界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、分散剤であるカオリン、分散エンハンサーである硫酸アルミニウム、及び他の添加物をオートクレーブで混合して、分散液(dispersion)を得た。
【0164】
2.オートクレーブ内の残気を、不活性発泡剤である二酸化炭素を用いて除去し、当該不活性発泡剤をさらに導入して、オートクレーブ内の圧力をまず調節して安定させた。その後、オートクレーブ内の分散液を攪拌した。
【0165】
3.その後、オートクレーブ内の圧力を調節して、発泡に必要な圧力にした。温度を平均加熱速度0.1℃/分で発泡温度まで上昇させ、当該発泡温度は上記マイクロペレットの溶融温度よりも0.5~1℃低いようにした。上記の発泡温度及び圧力で、攪拌を0.25~0.5時間続けた。
【0166】
4.その後、オートクレーブの出口を開き、オートクレーブ内の物質を回収タンクへ排出して、発泡ポリプロピレンビーズを得た。排出を行いながら二酸化炭素ガスを供給して、すべての粒子が完全に発泡して回収タンクに入るまでオートクレーブ内の圧力が発泡圧力近くに保たれるようにした。その後、発泡ビーズを洗浄し、60℃で5時間乾燥させた。
【0167】
5.発泡ビーズの密度を測定し、その結果を表4に示した。発泡ビーズの表面及び断面の形態は、走査電子顕微鏡によって特性を示し、それらの結果をそれぞれ図4及び図5に示した。
【0168】
(5)発泡ビーズの発泡成形物の作製及び性能試験
乾燥させた発泡ビーズを、室温で約12時間、放置してエージングし、その後、成形機に添加して、水蒸気を用いて成形圧0.22MPaで発泡ビーズの発泡成形物へと成形した。得られた発泡成形物を80℃のオーブンに12時間放置した。酸素指数、残留炭素比、火炎高さ、煙の状態、表面抵抗率、圧縮強度、及び発泡成形物の他のパラメータを、上記した方法に従って測定した。発泡成形物が作製された直後に発泡成形物の表面抵抗率を測定し、発泡成形物を特別な保護手段無しに30日間放置した後で、発泡成形物の表面抵抗率を再度測定した。試験結果を表4に示した。
【0169】
実施例2
難燃剤、カーボンナノファイバー静電防止剤、難燃性ポリプロピレン組成物、及び発泡ビーズを、表3及び表4に示した出発物質及び反応条件が異なる以外は実施例1と同様の方法で作製した。例えば、本実施例では、HMSPP602を用い、生成されたハロゲン無含有難燃剤は、トリオクチルホスフィンオキシド及び硝酸ニッケルによって生成される錯体Ni(OPOt(NOであり、作製されたカーボンナノファイバー静電防止剤は3重量%のニッケルを含む。
【0170】
実施例3
難燃剤、カーボンナノファイバー静電防止剤、難燃性ポリプロピレン組成物、及び発泡ビーズを、表3及び表4に示した出発物質及び反応条件が異なる以外は実施例1と同様の方法で作製した。例えば、本実施例では、HMSPP603を用い、生成されたハロゲン無含有難燃剤は、トリオクチルホスフィンオキシド及び硝酸コバルトによって生成される錯体Co(OPOt(NOであった。
【0171】
実施例4
難燃剤、カーボンナノファイバー静電防止剤、難燃性ポリプロピレン組成物、及び発泡ビーズを、表3及び表4に示した出発物質及び反応条件が異なる以外は実施例1と同様の方法で作製した。例えば、本実施例では、生成されたハロゲン無含有難燃剤は、トリフェニルホスフィンオキシド及び硝酸ニッケルによって生成される錯体Ni(OPPh(NOであった。
【0172】
実施例5
難燃剤、カーボンナノファイバー静電防止剤、難燃性ポリプロピレン組成物、及び発泡ビーズを、表3及び表4に示した出発物質及び反応条件が異なる以外は実施例1と同様の方法で作製した。例えば、本実施例では、HMSPP602を用い、生成されたハロゲン無含有難燃剤は、トリヘキシルホスフィンオキシド及び硝酸コバルトによって生成される錯体Ni(OPHx(NOであった。
【0173】
実施例6
難燃剤、カーボンナノファイバー静電防止剤、難燃性ポリプロピレン組成物、及び発泡ビーズを、表3及び表4に示した出発物質及び反応条件が異なる以外は実施例1と同様の方法で作製した。例えば、本実施例では、HMSPP603を用い、生成されたハロゲン無含有難燃剤は、トリデシルホスフィンオキシド及び硝酸コバルトによって生成される錯体Co(OPDe(NOであった。
【0174】
実施例7
カーボンナノファイバー静電防止剤を作製しない、または使用しないこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0175】
実施例8
錯体を作製するのにトリフェニルホスフィンオキシドの代わりにトリブチルホスフェートを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0176】
実施例9
錯体を作製するのにトリフェニルホスフィンオキシドの代わりにジブチルブチルホスホン酸塩(dibutyl butylphosphonate)を用い、無機難燃成分を用いなかったこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0177】
実施例10
溶融強度が高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに通常の耐衝撃コポリプロピレンEPS30Rを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0178】
実施例11
プロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に静電防止剤がカーボンブラックであったこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0179】
実施例12
プロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に静電防止剤がAtmer129であったこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0180】
実施例13
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに1‐ブテンをコモノマーとして有する線状低密度ポリエチレン7042を用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0181】
実施例14
メタロセン触媒を用い、溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに1‐ヘキセンをコモノマーとして有するポリエチレンHPE001を用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0182】
実施例15
チーグラ・ナッタ触媒を用い、溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに1‐ヘキセンをコモノマーとして有するポリエチレンHPE002を用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0183】
実施例16
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに低密度ポリエチレンLD100ACを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0184】
実施例17
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレードポリ乳酸PLAを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0185】
実施例18
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレード熱可塑性ポリウレタンTPUを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0186】
実施例19
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレードポリブチレンテレフタレートPBTを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0187】
実施例20
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレードポリエチレンテレフタレートPETを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0188】
実施例21
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレードポリアミド6 PA6を用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0189】
実施例22
溶融強度の高いポリプロピレン系樹脂HMSPP601の代わりに発泡グレードポリ(ブチレンスクシネート)PBSを用いたこと以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0190】
比較例1
難燃剤がトリフェニルホスフィンオキシドと水酸化マグネシウムであること以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0191】
比較例2
プロセス(1)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0192】
比較例3
プロセス(1)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤がヘキサブロモシクロドデカンと三酸化アンチモンの組成物(重量比は約2.5:1)であること以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0193】
比較例4
難燃剤がリン酸コバルトであること以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0194】
比較例5
プロセス(1)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が水酸化アルミニウムであること以外は実施例2と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0195】
比較例6
プロセス(1)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤がポリリン酸アンモニウムであること以外は実施例3と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0196】
比較例7
難燃剤がトリヒドロキシメチルホスフィンオキシドであること以外は実施例1と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0197】
比較例8
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例13と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0198】
比較例9
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例14と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0199】
比較例10
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例15と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0200】
比較例11
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例16と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0201】
比較例12
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例17と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0202】
比較例13
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例18と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0203】
比較例14
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例19と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0204】
比較例15
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例20と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0205】
比較例16
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例21と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0206】
比較例17
プロセス(1)及びプロセス(2)が行われず、プロセス(3)の難燃性ポリプロピレン組成物の作製時に難燃剤が赤リンであること以外は実施例22と同様の試験プロセスを行った。最終的な発泡物質の具体的な原料化学式、反応条件、及び性能を表3及び表4に示した。
【0207】
【表3】
【0208】
【表4】
【0209】
表1及び表2からわかるように、本発明によって作製されるHMSPP601、HMSPP602、HMSPP603は、溶融強度、引っ張り強度、曲げ弾性率が高く、ノッチ付衝撃強度がより高い。
【0210】
上記難燃性静電防止組成物は、本発明によって作製される溶融強度の高い耐衝撃性ポリプロピレンをベース樹脂とし、ホスフィンオキシドと遷移金属塩との錯体を無機水酸化物と混合してできる難燃剤と、ニッケルまたはコバルトを含むカーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブである静電防止剤とを添加することにより、作製される。続いて、難燃性静電防止発泡ビーズが、本発明の提供するバッチ発泡方法に従って作製される。表3、表4、図4、及び図5から、0.07~0.21g/cmの密度を有する発泡ビーズを、発泡圧力及び温度のような条件を調節することにより得ることができ、非超臨界二酸化炭素が発泡剤として用いられる場合は、発泡効果は良く、気泡密度はより高く、気泡は緻密で均一であり、気泡サイズはより小さく、気泡壁は薄く、ビーズ表面はなめらかである。
【0211】
実施例10の結果から、溶融強度が高い耐衝撃性ポリプロピレンPPSPP601、HMSPP602、HMSPP603をベース樹脂とする発泡ビーズに比べて、通常の耐衝撃コポリプロピレンEPS30Rをベース樹脂として得られる発泡ビーズは密度がより高く、気泡は不均一で、ビーズの表面は平坦ではない。これは主に、EPS30Rの溶融強度がより低いために生じるものであり、必要な発泡温度はより高いので、成形圧はより高くなる。上記の構造的特徴により、EPS30Rをベース樹脂とする発泡ビーズの発泡成形物の衝撃耐性は、本発明が提供する溶融強度の高い耐衝撃性ポリプロピレン(例えば、HMSPP601、602、603)を用いる発泡ビーズの発泡成形物の衝撃耐性に比べて劣る。さらに、従来の耐衝撃コポリプロピレンを用いて得られる発泡ビーズの成形圧は高いので、製造エネルギー消費量が増す。
【0212】
表4は、本発明に従って提供される発泡ビーズから作製される発泡成形物が優れた機械的特性、難燃性、静電耐性を有し、酸素指数が28より大きく、より高い難燃性レベルが要求される分野で用いることができ、一方で表面抵抗率は10Ωの静電防止レベルに達することを示す。上記発泡ビーズは良好な気泡構造を有し、そのため発泡成形物は圧縮特性に優れている。発泡成形物の酸素指数試験及び関連する難燃性試験の結果は、難燃剤と静電防止剤は相乗効果を生み出すことができ、これは難燃剤の量を効果的に減らせることを示している。これは、実施例1及び実施例7の結果から証明される。
【0213】
表4に示す結果、とりわけ比較例2~7の結果から、以下のことがわかる。すなわち、従来の赤リン、臭素化難燃剤、個々の水酸化アルミニウムまたは個々のホスフィンオキシドのような難燃剤をニッケルまたはコバルト等を含むカーボンナノファイバーとともに用いて錯体難燃性静電防止剤とし、ポリプロピレン組成物を作製すると、そのようなポリプロピレン組成物から作製された発泡ビーズの発泡成形物の難燃性及び静電耐性は、実施例1~22に記載した組成物から作製した発泡ビーズの発泡成形物の難燃性及び静電耐性に比べて劣る。比較例で難燃剤及び静電防止剤を添加すると、発泡特性に負の影響を与え、その結果、気泡が不均一になったり気泡壁が損傷したりする。
【0214】
本発明の実施例では、有機リンとニッケルまたはコバルトのような遷移金属との錯体を水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムと混合することで得られる難燃剤とカーボンナノファイバーとからなる難燃性静電防止システムでは、遷移金属と難燃剤は、相乗触媒効果を生み出し、それにより、リン酸難燃剤の難燃性効率が改善される。カーボンナノファイバーは、樹脂の中に効果的な導電性ネットワークを構築することができ、それにより、長持ちする静電防止ネットワークシステムを形成し、発泡ビーズの発泡成形物の表面抵抗率を効果的に減らし、貯蔵時間または使用時間が30日間以上の場合でも、発泡成形物の静電防止能はほとんど変わらない。カーボンファイバー中の残留ニッケル触媒または残留コバルト触媒も、上記錯体と良好な相乗効果を有し、難燃性効率の改善を促進する。比較例2において、従来の赤リン難燃剤と静電防止剤とによって形成されるシステムを用いて得られる組成物では、相乗効果は生じず、難燃剤と静電防止剤がお互いに影響して難燃性と静電防止性を減少させ、ビーズの気泡構造に負の影響を与え、それにより、得られる発泡ビーズは気泡密度が小さくなり、気泡直径が大きくなり、気泡壁が破損する(図6及び図7に示す)。
【0215】
さらに、表3及び表4から、以下のことがわかる。すなわち、ポリプロピレン樹脂に適用されることに加え、上記難燃剤は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、及び様々な密度及びコモノマーを有する分解性熱可塑性材に適用される場合、優れた機械的特性や、難燃特性や、発泡性能や静電防止性能も有する。
【0216】
本発明を詳細に記載したが、本発明の精神及び範囲内での変更は当業者には明らかであろう。さらに、本発明の様々な態様、様々な部分、様々な実施形態に記載された様々な特徴は、合わせたり、あるいは、完全にあるいは部分的に交換したりすることができることを理解されたい。当業者ならば理解するように、上記の諸実施形態において、別の実施形態について言及する実施形態は他の実施形態と適切に合わせることができる。さらに、当業者ならば、上記記載はあくまでも実施例であり、本発明を限定するものではないことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0217】
図1】トリフェニルホスフィンオキシド及びCo(OPPh(NO錯体の赤外線スペクトルを示す。
図2】Co(OPPh(NO錯体の微小形態の走査電子顕微鏡写真を示す。
図3】カーボンナノファイバーの微小形態の走査電子顕微鏡写真を示す。
図4】実施例2で作製した難燃性静電防止発泡ポリプロピレンビーズの表面電子顕微鏡写真を示す。
図5】実施例2で作製した難燃性静電防止発泡ポリプロピレンビーズの断面電子顕微鏡写真を示す。
図6】比較例2で作製した発泡ポリプロピレンビーズの表面電子顕微鏡写真を示す。
図7】比較例2で作製した発泡ポリプロピレンビーズの断面電子顕微鏡写真を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7