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特許7090406光学装置における光線の強度を調整するための方法、および対応する光学装置
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  • 特許-光学装置における光線の強度を調整するための方法、および対応する光学装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】光学装置における光線の強度を調整するための方法、および対応する光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
G02B21/06
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017110093
(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公開番号】P2017219842
(43)【公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】LU 93098
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル クレーマー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュヌ ヴァルダン クリシュナマチャリ
(72)【発明者】
【氏名】アーノルト ギスケ
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089680(JP,A)
【文献】特開2008-046470(JP,A)
【文献】特表2012-527633(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013227104(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
H01S 3/00-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学装置における光線の強度を調整するための方法であって、
前記光線を、音響光学フィルタであるAOTF(3)に通し、
前記光線の強度を、前記AOTF(3)を動作させる音波の周波数および振幅に依存して調整する方法において、
前記音波の所与の周波数における前記音波の振幅を、前記光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率(18)の第1の極大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択し、
前記音波の振幅をさらに、前記AOTF(3)の伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値が、前記第1の極大値に到達するために選択される前記振幅の大きさにおける前記AOTF(3)の伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値よりも大きくなるように選択し、
前記光線を生成する1つの光源(16)または複数の光源(1.1~1.N)を、生成される前記光線の波長スペクトルが前記AOTF(3)の波長依存性の前記伝達関数の幅と同じか、またはそれよりも広くなるように選択または調整する、
方法。
【請求項2】
前記振幅を、前記第1の極大値に到達するために選択される前記振幅の2倍超に選択する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記振幅を、前記第1の極大値に到達するために選択される前記振幅の3倍以下に選択する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記光線は、設定可能な波長帯域幅を有する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記光線を、白色光レーザ(16)またはダイオードレーザによって供給する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記光線を、複数の個々のレーザ(1.1~1.N)によって1つに統合された光線として供給する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
とりわけ請求項1から6までのいずれか1項記載の光線の強度を調整するための方法を実施するための、好ましくは顕微鏡における光学装置であって、
前記光線を、音響光学フィルタであるAOTF(3)に通し、
前記光線の強度を、前記AOTF(3)を動作させる音波の周波数および振幅に依存して調整する光学装置において、
前記音波の所与の周波数における前記音波の振幅を、前記光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率(18)の第1の極大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択し、
前記音波の振幅をさらに、前記AOTF(3)の伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値が、前記第1の極大値に到達するために選択される前記振幅の大きさにおける前記AOTF(3)の伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値よりも大きくなるように選択し、
前記光線を生成する1つの光源(16)または複数の光源(1.1~1.N)を、生成される前記光線の波長スペクトルが前記AOTF(3)の波長依存性の前記伝達関数の幅と同じか、またはそれよりも広くなるように選択または調整する、
ことを特徴とする光学装置。
【請求項8】
前記光学装置が顕微鏡に組み込まれている場合に、励起光を遮断するためのノッチフィルタ(19)が検出光路に配置されている、
請求項7記載の光学装置。
【請求項9】
前記光学装置が顕微鏡に組み込まれている場合であって、前記光学装置の音響光学ビームスプリッタであるAOBSが2結晶構造で構成されている場合に、試料(10)によって反射された励起光(20)を検出光路(11)から回折するための前記AOBSの第2の結晶を、前記AOTF(3)と同様に、対応する大きさに選択された振幅で動作させることが可能である、
請求項7または8記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置における光線の強度を調整するための方法であって、前記光線を、音響光学フィルタ、すなわちAOTFに通し、前記光線の強度を、前記AOTFを動作させる音波の周波数および/または振幅に依存して調整する方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、光線の強度を調整するための方法を実施するための、好ましくは顕微鏡における光学装置であって、前記光線を、音響光学フィルタ、すなわちAOTFに通し、前記光線の強度を、前記AOTFを動作させる音波の周波数および/または振幅に依存して調整する光学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
光線の強度を調整するための方法ならびに光学装置は、実践から公知である。この場合に広く普及している1つの可能性は、このために例えばレーザ走査型顕微鏡における励起光の強度を変化させる音響光学可変波長フィルタ(Acousto-Optical Tunable Filter、すなわちAOTF)を使用することである。
【0004】
この場合には、音響的な音波(通常は無線周波数範囲にある)がトランスデューサを介して光学結晶に印加され、この音波によって結晶の局地的な屈折率の周期的な変調が生成される。この変調は、光学格子またはブラッグ格子のように機能し、対応する波長の光を回折させることができる。音響光学フィルタは、このような音響波を迅速に変調することができるので、他の方法(例えば電気光学効果)に比べて低コストであることも併せて、例えばレーザ走査型顕微鏡における光変調のための標準的なツールとなっている。非常に広く普及しているのは、可視光領域のレーザ波長のための音響光学フィルタであるが、赤外光(多光子顕微鏡)または紫外光のための構成も存在する。
【0005】
図1は、レーザ走査型顕微鏡または共焦点レーザ走査顕微鏡におけるAOTFの使用例を示す。それぞれ異なる波長を有する一連のレーザ1.1~1.Nの光線が、波長選択性光学要素2、例えばエッジフィルタ、バンドパスフィルタ、またはノッチフィルタを使用して1つに統合され、1つの共通の光路に位置するAOTF3に衝突する。ビーム直径を適合させるための任意選択の光学系4を通過した後、励起ビーム5は、顕微鏡の主ビームスプリッタ6と走査ユニット7とに衝突する。光線は、その後、フィールド光学系8によって走査ユニット7から対物レンズ9に結像され、最後には試料10に集束される。そこで生成された蛍光は、検出光路11において主ビームスプリッタ6を通過した後、集束光学系12と共焦点ピンホール13とコリメーション光学系14とに衝突し、最後に検出モジュール15において検出される。
【0006】
図2には、同じ顕微鏡が示されている。ただし、図1の個々のレーザ1.1~1.Nの代わりに1つのスーパーコンティニウムレーザ16(いわゆる白色光レーザWLL)が使用されており、また、図1の主ビームスプリッタ6の代わりに音響光学ビームスプリッタ17(Acousto-Optical Beam Splitter、すなわちAOBS)が使用されている。
【0007】
図3には、音響光学フィルタ、すなわちAOTFの動作に特徴的な関数が示されている。図3の左半分には、音響波または音波の特定の周波数に対する回折効率18が、強度を調整すべき光の波長の関数として示されており、その一方で、図3の右半分には、回折効率が音響波または音波の振幅の関数として示されている。伝達関数は、振幅が小さい場合にはsinc関数の2乗によって良好な近似で記述することができる。伝達関数の幅は、波長が所与の場合にはトランスデューサの形状および寸法に依存しており、典型的には0.1nm~10nmの間の範囲で変動する。音響波または音波の振幅に依存した回折効率は、大値(振幅Aopt)に到達後、再び減少し、2Aoptにおいて最小値を有することとなる。AOTFが光強度のための純粋な変調器として使用される場合には、通常、顕微鏡の制御ソフトウェアに調整要素が設けられており、この調整要素によって音響振幅を、ゼロとAoptとの間で、すなわち図3に図示された領域において調整することが可能である。任意選択的に図示の曲線を計算によって線形にしてもよく、これにより、調整値を2倍にすることによって光線の強度も2倍になる。
【0008】
種々異なる用途において、少なくとも白色光レーザの個々の波長のために、例えば光退色実験のために従前一般的であった照明強度よりも高い照明強度を利用できることが望まれている。
【0009】
さらには、蛍光励起のために従来使用されているガスレーザ、例えばヘリウムネオンレーザまたはアルゴンレーザやダイオード励起固体レーザの代わりに、より低コストのダイオードレーザを使用すると、このダイオードレーザのレーザスペクトルが比較的広い(数ナノメータ)ことに起因して回折効率の損失が大きくなり、ひいては利用可能な光出力が比較的小さくなってしまう。これに関して、対応する音響光学要素の帯域幅を拡大することは、簡単に実現することができ、最終的により高い光出力を実現するために蛍光顕微鏡検査法にとって有益であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の基礎となる課題は、特に高い光出力が簡単に達成可能となるように、冒頭に述べた形式の方法および光学装置を構成および改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記の課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法と、請求項8に記載の特徴を有する光学装置とによって解決される。
【0012】
したがって、請求項1によれば、本方法は、前記音波の所与の周波数における前記音波の振幅が、前記光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率の第1の大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択されるように、前記音波の振幅がさらに、前記AOTFの伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値が、前記第1の大値に到達するために選択される前記振幅の大きさにおける積分値よりも大きくなるように選択されるように、構成および改善されている。
【0013】
さらに請求項8によれば、本光学装置は、前記音波の所与の周波数における前記音波の振幅を、前記光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率の第1の大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択されるように、前記音波の振幅がさらに、前記AOTFの伝達関数と前記光線の波長スペクトルとの積の積分値が、前記第1の大値に到達するために選択される前記振幅の大きさにおける積分値よりも大きくなるように選択されるように、構成および改善されている。
【0014】
本発明によればまず、通常のAOTFの動作方式が、通常の実践に限定されていないことが判明した。本発明によればさらに、AOTFの巧妙な代替的な動作方式によって、上記の課題が驚くほど簡単に解決されることが判明した。このためにまず、音波の所与の周波数における音波の振幅が、光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率の第1の大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択される。すなわち、回折効率の第1の大値に到達するために必要な振幅を上回る振幅が選択される。これによって通常はまず回折効率が減少する。さらなる制約として、音波の振幅はさらに、AOTFの伝達関数と光線の波長スペクトルとの積の積分値が、第1の大値に到達するために選択される振幅の大きさにおける積分値よりも大きくなるように選択される。すなわち振幅は、単純に、光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率の第1の大値に到達するために選択される振幅よりも大きくなるように選択されるだけではない。そのように選択しただけでは、回折効率は、第1の大値を単に下回っているだけになろう。しかしながら、本発明によれば、振幅をさらに増大させることによって回折効率が最初の減少後に再び増加すること、より詳細には第1の大値における回折効率の値を超えることが判明した。このときに付随して発生しうる、伝達関数のピークの広がりは、広帯域のスペクトル光線の場合には決定的な役割を果たす。なぜなら、全体として達成可能な光強度は、AOTFの伝達関数と光線の波長スペクトルとの積の積分値に依存しているからである。この積分値が、回折効率の第1の大値に到達するために必要な振幅における積分値よりも大きい場合には、全体として比較的高い光強度が得られる。この際、とりわけ例えば光退色作用を増大させたいだけの場合には、このときに発生する、通常はたった数ナノメータである光線のスペクトル幅の拡大は、使用されている色素が有する典型的な広帯域の吸収スペクトルのおかげで結局のところさほど重要ではないことに留意すべきである。
【0015】
したがって、本発明による方法および本発明による光学装置によれば、特に高い光出力が簡単に達成可能となるような、冒頭に述べた形式の方法および光学装置が示されている。
【0016】
光出力の特に効果的な増加に鑑みて、前記光線を生成する1つの光源または複数の光源を、生成される前記光線の波長スペクトルが前記AOTFの波長依存性の前記伝達関数の幅と同じか、またはそれよりも広くなるように選択または調整することができる。換言すれば、光線の波長スペクトルがAOTFの伝達関数の幅に比べてより広い幅を有する場合には、AOTFの伝達関数と光線の波長スペクトルとの積の積分値を、音波の振幅の増大によって特に確実に大きくすることが可能となる。
【0017】
具体的な実施形態では、前記振幅を、前記第1の大値に到達するために選択される前記振幅の2倍超に選択することができる。この場合には、光線の所与の波長または所与の波長スペクトルに対する回折効率が、(振幅をさらに増大させると)第1の大値の値を超えて増大する。
【0018】
AOTFの特に確実な動作に鑑みて、前記振幅を、前記第1の大値に到達するために選択される前記振幅の3倍以下に選択することができる。基本的には、振幅をこれより大きく選択することも可能ではあるが、振幅の増大は、AOTFの機械的頑強性によって、かつ/またはAOTFの結晶、トランスデューサ、または電子ドライバにおいて発生しうる不所望な非線形性によって基本的には制限されている。振幅を過度に大きく選択すると、AOTFが損傷するおそれがある。
【0019】
別の具体的な実施例では、前記光線は、設定可能な波長帯域幅を有することができる。この場合には、その都度の使用事例に合わせるべきである。
【0020】
本方法を特に確実かつ簡単にすることに鑑みて、前記光線を、白色光レーザまたは1つまたは複数のダイオードレーザによって供給することができる。この場合にも、その都度の使用事例に合わせるべきであり、個々の使用事例にとって最も有利な変形例を選択することができる。
【0021】
とりわけ光線を生成するために複数の個々のレーザを使用する場合には、前記光線を、1つに統合された光線として供給することができる。
【0022】
本光学装置の特に有利な実施形態では、前記光学装置が顕微鏡に組み込まれている場合に、励起光を遮断するためのノッチフィルタを検出光路に配置することができる。とりわけ光線を生成する光源として白色光レーザを使用する場合に、より高い光強度が望まれる、白色光レーザのいくつかの選択された波長に限定する場合には、このような配置構成が適当である。
【0023】
本光学装置の特に有利な実施形態では、前記光学装置が顕微鏡に組み込まれている場合であって、前記光学装置の音響光学ビームスプリッタ、すなわちAOBSが2結晶構造で構成されている場合に、試料によって反射された励起光を検出光路から回折するための前記AOBSの第2の結晶を、前記AOTFと同様に、対応する大きさに選択された振幅で動作させることが可能である。これにより、反射された励起光が検出光路から確実に回折される。
【0024】
以上をまとめると、本発明による方法および本発明による光学装置では、AOTFに作用する音波の選択された周波数および/または振幅の関数関係と、影響を与えるべき光線の波長と、得られる回折効率とに鑑みて、AOTFの挙動における非線形性が利用し尽くされ、これによってAOTFの通過後に結果的に生じる光線の強度および幅が増加されることを確認することができる。
【0025】
本発明の教示を有利に構成および改善するための種々異なる可能性が存在する。このために一方では従属請求項を参照すべきであり、他方では図面に基づく本発明の好ましい実施例の後続の説明を参照すべきである。図面に基づく本発明の好ましい実施例の説明に関連して、本教示の一般的に好ましい実施形態および改善形態についても説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】光線の強度を調整するためのAOTFを有する光学装置の概略図である。
図2】光線の強度を調整するためのAOTFを有する別の光学装置の概略図である。
図3】AOTFの動作に特徴的な関数を示す2つの線図である。
図4】複数の異なる振幅における波長に依存した回折効率と、音波の振幅に依存した光強度とを示す3つの線図である。
図5】本発明の1つの実施例に基づく追加的なノッチフィルタを有する顕微鏡の形態の光学装置の概略図である。
図6】本発明の別の実施例に基づく試料領域における光学装置の部分領域を示す図である。
図7】本発明の1つの実施例に基づく相応の制御による2つの可能な動作モードの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図3に示したAOTFの通常の動作方式を、本発明の枠内では、より高い光強度の達成に鑑みて最適化できることが判明している。したがって本発明では、AOTFまたは図1および図2に示された構造および光路における構造的な変更を加えることなく照明強度の増加を可能にする、新しい動作モード(拡張出力(Enhanced-Power)モード)が説明される。
【0028】
スペクトル狭帯域レーザ(蛍光顕微鏡の場合には典型的にヘリウムネオンレーザ、アルゴンレーザ、またはダイオード励起固体レーザ)の強度を変化させるためにAOTFを使用する場合には、AOTF(図3参照)の波長依存性の伝達関数の正確な形状は実際には重要ではなく、その代わりに最大回折効率だけが重要となる。したがって、音響波または音波の振幅は、通常はゼロとAoptとの間だけで変化する。しかしながら、Aoptを上回る振幅に関してAOTFの伝達関数を考慮してみると、まず伝達関数の側波帯が増加し、中央の最大値が減少することが確認される。この最大値は、振幅が2Aoptの場合にはゼロまで減少し、振幅が増大するにつれて再び増加する。図4の左側には、この挙動が示されている。見易くするために、Aoptと3Aoptとの間の振幅Aの曲線が2つの線図で図示されている。既に説明した中央の最大値の挙動の他に、振幅が増大するにつれてこの最大値またはピーク値が広がることも確認することができる。スペクトル広帯域レーザの場合には、全回折効率のために、最大値の値だけではなく、図4の左側に示された曲線の下の積分値も(より具体的に言えば、伝達関数とレーザスペクトルまたは光線スペクトルとの積の積分値も)重要である。ここから得られる光強度は、振幅に依存した図4の右側(同様に「回折効率」と記載されている)に、レーザスペクトルがAOTFの伝達関数よりも格段に広い場合に関して示されている。この場合には、第1の大値がAoptの振幅において発生し、第2の大値が3Aoptにおいて発生する。このようにして、AOTFの一次回折における光強度を2倍超にも増加させることができる。この場合に発生する、励起光の比較的広いスペクトル幅(数ナノメータ)は、蛍光顕微鏡で使用される色素が有する広い励起スペクトルにとってさほど重要ではない。
【0029】
本発明による新しい動作モードを、レーザ走査型顕微鏡に関連して実際に使用するためには、この関連において2つの重要な条件を満たすことが必要である:
1. 図1の主ビームスプリッタ6または図2のAOBS17の出射効率が十分に高くなければならない。
2. 光学要素および/または被検試料10において反射される励起光の抑制が阻害されてはならない。
【0030】
1.に関して:ノッチフィルタまたはエッジフィルタを使用する場合には、励起光の若干拡大されたスペクトル幅は、典型的な構成の場合には問題ではない。なぜなら、このようなフィルタの帯域幅は、AOTFによって回折されるレーザ光の帯域幅よりも依然として格段に大きいからである。ビームスプリッタとしてAOBSを使用する場合には、このAOBSは、当該AOBSの伝達関数が、前置接続されているAOTFの伝達関数よりも大きい帯域幅(典型的には約2倍)を有するように、設計毎に構成されている。比較的広い励起スペクトルによってAOBSの回折効率は低下するが、上述した考察と同じように単純に考察すると、比較的低い効率にもかかわらず、Aoptの最大振幅を有する通常動作モードよりも依然として60~70%多い励起光が試料に到着することが分かる。
【0031】
2.に関して:励起光の抑制は、フィルタをベースにした構成の場合には、1.と同じ理由から問題ではない。AOBSの場合には、選択されたAOTFおよびAOBSの設計に依存して反射抑制が悪化する。励起光の抑制はさらに、使用されている検出器と、とりわけその配置構成とに強く依存しているので、どの点まで抑制が容認されうるのかを示す一般的な基準を定めることはできない。それどころか、低下した反射抑制が容認されうるかどうかを、適用毎に判別しなければならない。ここでは、どのようにして抑制をさらに改善することができるかについての2つの可能性を、実施例に基づいて端的に説明する:
【0032】
●一方の可能性では、検出光路に1つまたは複数のノッチフィルタを配置することができる。白色光レーザの場合に、拡張出力モードが許可されるいくつかの選択された波長に限定する場合には、励起光を遮断するための追加的なノッチフィルタを検出光路に取り付けることができる。図5は、このような可能な実施例を示す。ただし、光路11におけるノッチフィルタ19の厳密な位置は重要ではない。
【0033】
●第2の可能性およびさらに別の実施例に基づいてAOBSが2結晶構造で構成される場合には、結晶2も、AOTFと同様に拡張出力モードで、すなわち増大された振幅で動作させることができる。このことは、改めて励起光をより強力に抑制するために作用する。図6は、さらに別の実施例におけるこのような配置構成を示す。励起光5は、通常動作モードにある第1のAOBS結晶から試料へと偏向される。反射された励起光20は、結晶1(通常動作モードにある)と、結晶2(拡張出力モードにある)とによって検出光路11から回折される。
【0034】
反射された励起光20の複数の異なる回折方向は、光の種々異なる偏光から結果的に生じる。
【0035】
本発明による方法に基づく拡張出力モードを光退色実験のためだけに使用する場合には、反射抑制はさほど重要ではない。なぜなら、光退色中には通常、検出は行われず、光退色に後続する測定のために再び通常動作モードに戻すことができるからである。
【0036】
図7は、2つの可能な動作モードと、可能な有利な制御の実施方法と、を図示している。通常動作モードでは、調整要素によって音響振幅または音波振幅がゼロとAoptとの間で変化される。これによって光強度は0~100%の間で変化する。拡張出力モードをスイッチオンすると、第2の調整要素によって振幅をA’opt大値との間で調整することができ、これによって100%の光と、達成可能な最大パーセンテージ数MAXの光と、の間で光強度を変化させることができる。2つの調整要素を(場合によってはそれぞれ異なる数学的な関数によって)線形にしてもよい。
【0037】
本発明による方法および本発明による光学装置のさらなる有利な構成に関しては、繰り返しを避けるために明細書の概要部分および添付の特許請求の範囲が参照される。
【0038】
最後に、上述した実施例が、特許請求する教示を説明するためだけに使用されており、特許請求する教示をこれらの実施例に限定していないこと明示的に指摘しておく。
【符号の説明】
【0039】
1.1~1.N レーザ
2 光学要素
3 AOTF
4 光学系
5 励起ビーム
6 主ビームスプリッタ
7 走査ユニット
8 フィールド光学系
9 対物レンズ
10 試料
11 検出光路
12 集束光学系
13 ピンホール
14 コリメーション光学系
15 検出モジュール
16 レーザ
17 AOBS
18 回折効率
19 ノッチフィルタ
20 励起光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7