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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/06 20060101AFI20220617BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20220617BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20220617BHJP
   B29B 9/14 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B29B9/06
B29B7/48
B29B7/90
B29B9/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018007013
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019123201
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】横山 知成
(72)【発明者】
【氏名】田尻 敏之
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-182839(JP,A)
【文献】特開2005-230771(JP,A)
【文献】特開2004-059673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0130443(US,A1)
【文献】特開平11-058373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
B29C 37/00-37/04
B29C 71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部と、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、ポリアミド系繊維およびステンレス系繊維から選択される柔軟性繊維15~50質量部とを押出機によって溶融混練してなる樹脂組成物を、面積が30~150mm2の吐出穴から、ストランド状に樹脂組成物を吐出させ、冷却した後、切断することを含み、前記柔軟性繊維の数平均繊維長が、5~12mmである、ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記冷却した後、切断を連続して行う、請求項1に記載のペレットの製造方法。
【請求項3】
前記切断したストランド状の樹脂組成物をさらに切断することを含む、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。
【請求項4】
前記押出機は、二軸押出機である、請求項1~3のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【請求項5】
ダイの吐出穴の形状は、非円形である、請求項1~4のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【請求項6】
前記切断を、回転刃と固定刃を有する切断装置で行い、前記回転刃と固定刃のクリアランスが0.01~0.06mmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【請求項7】
前記溶融混練の後、吐出穴を1~4つ有するダイから、ストランド状に樹脂組成物を吐出させる、請求項1~6のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【請求項8】
溶融状態にある熱可塑性樹脂に、柔軟性繊維を配合した後に混練することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のペレットの製造方法。
【請求項9】
前記回転刃のすくい角が、25~45°である、請求項に記載のペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペレットの製造方法に関する。特に、熱可塑性樹脂と柔軟性繊維を含むペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から柔軟性繊維が知られている。例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系の柔軟性繊維が開示されている。また、特許文献2には、柔軟性繊維として、ポリエステル系繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-238775号公報
【文献】特開2013-253169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような柔軟性繊維は、その柔軟性を活かし各種樹脂成形品に広く用いられている。特に、柔軟性繊維で強化した樹脂組成物は、活用が期待されている。
ここで、特許文献2では、柔軟性繊維に張力を付与した状態で、溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、ストランド状に引き取り、カットすることによってペレットを製造している。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、柔軟性繊維は、柔軟であるがゆえに、引き取り速度を早くすると、繊維が切れてしまうことが分かった。そのため、ペレットの生産性が問題となる。そこで、ペレットを製造するに際し、熱可塑性樹脂と柔軟性繊維を溶融混練することが考えられる。
しかしながら、熱可塑性樹脂と柔軟性繊維を溶融混練した樹脂組成物をストランドとして押出しする場合、繊維としてガラス繊維などを用いる場合とは異なり、押出が困難であることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、柔軟性繊維を含む樹脂ペレットであって、生産性が高く、かつ、ストランドの押出性に優れた、すなわち、製造が容易なペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、熱可塑性樹脂と柔軟性繊維とを溶融混練してなる樹脂組成物を、面積が15~150mm2の吐出穴から、ストランド状に吐出させることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<9>により、上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂100質量部と、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、ポリアミド系繊維およびステンレス系繊維から選択される柔軟性繊維15~50質量部とを溶融混練してなる樹脂組成物を、面積が15~150mm2の吐出穴から、ストランド状に樹脂組成物を吐出させ、冷却した後、切断することを含む、ペレットの製造方法。
<2>前記冷却した後、切断を連続して行う、<1>に記載のペレットの製造方法。
<3>前記切断したストランド状の樹脂組成物をさらに切断することを含む、<1>または<2>に記載のペレットの製造方法。
<4>前記柔軟性繊維の数平均繊維長が、3~12mmである、<1>~<3>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<5>前記熱可塑性樹脂および柔軟性繊維は、二軸押出機によって溶融混練する、<1>~<4>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<6>前記ダイの吐出穴の形状は、非円形である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<7>前記切断を、回転刃と固定刃を有する切断装置で行い、前記回転刃と固定刃のクリアランスが0.01~0.06mmである、<1>~<6>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<8>前記溶融混練の後、吐出穴を1~4つ有するダイから、ストランド状に樹脂組成物を吐出させる、<1>~<7>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<9>溶融状態にある熱可塑性樹脂に、柔軟性繊維を配合した後に混練することを含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、生産性が高く、かつ、ストランドの押出性に優れた、すなわち、製造が容易なペレットの製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明のペレットの製造方法は、熱可塑性樹脂100質量部と、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、ポリアミド系繊維およびステンレス系繊維から選択される柔軟性繊維15~50質量部とを溶融混練してなる樹脂組成物を、面積が15~150mm2の吐出穴から、ストランド状に樹脂組成物を吐出させ、冷却した後、切断することを含むことを特徴とする。
熱可塑性樹脂と柔軟性繊維の溶融混練物について、発明者が検討したところ、前記溶融混練物をストランド状に押し出そうとすると、ガラス繊維などの場合と比して、押出が困難であることが分かった。この理由をさらに検討したところ、ガラス繊維などは、溶融混練の際に破砕されやすいためと考えられた。そこで、ダイの吐出穴の面積を、通常の場合と比して大き目に設定することにより、適切に押出可能であることを見出した。さらに、このように大き目の吐出穴から押出しても、機械的強度を高く維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明について説明する。
【0009】
<熱可塑性樹脂>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂の混合物、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂のアロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂のアロイ、熱可塑性ポリエステル樹脂、メチルメタクリレート/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂、メチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ゴム強化ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等が挙げられる。本発明では、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂の混合物、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂およびポリアセタール樹脂の少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリアセタール樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0010】
本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂をペレットの67質量%以上の割合で含むことが好ましく、73質量%以上の割合で含むことがより好ましい。また、上限値は、86質量%以下の割合で含むことが好ましい。
本発明のペレットの製造方法では、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0011】
<<ポリアセタール樹脂>>
本発明で用いるポリアセタール樹脂は、アセタール構造-(-O-CRH-)n-(但しRは水素原子、有機基を示す。)を繰り返し構造に有する高分子であり、通常はRが水素原子であるオキシメチレン基(-CH2O-)を主たる構成単位とするものである。本発明に用いるポリアセタール樹脂は、この繰り返し構造のみからなるアセタールホモポリマー以外に、前記オキシメチレン基以外の繰り返し構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマーを含む)やターポリマー等も含み、さらには線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。
【0012】
前記オキシメチレン基以外の構成単位としては例えば、オキシエチレン基(-CH2CH2O-)、オキシプロピレン基(-CH2CH2CH2O-)、オキシブチレン基(-CH2CH2CH2CH2O-)等の炭素数2以上10以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が挙げられ、中でも炭素数2以上4以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が好ましく、特にオキシエチレン基が好ましい。またこの様な、オキシメチレン基以外のオキシアルキレン構造単位の含有量としては、ポリアセタール樹脂中において、0.1mol%以上20mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以上15mol%以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明に用いるポリアセタール樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキソカン、1,3-ジオキセパン等の炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を含む環状オリゴマーとを共重合することによって製造することができる。
【0014】
中でも本発明に用いるポリアセタール樹脂としては、トリオキサンやテトラオキサン等の環状オリゴマーと、エチレンオキサイドまたは1,3-ジオキソランとの共重合体であることが好ましく、特にトリオキサンと1,3-ジオキソランとの共重合体であることが好ましい。その溶融粘度は任意だが、溶融指数(MI)[ASTM-D1238:190℃、2.16kg荷重下]で、通常0.01~150g/10分であり、中でも0.1~100g/10分、特に1~70g/10分であることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0016】
<<ポリカーボネート樹脂>>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂としては特に制限されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族-脂肪族ポリカーボネートのいずれも用いることができる。中でも芳香族ポリカーボネートが好ましく、さらに、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体がより好ましい。
【0017】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-P-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性が高い組成物を調製する目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、またはシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を、使用することができる。
【0018】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の好ましい例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体;が含まれる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、14,000~30,000であるのが好ましく、15,000~28,000であるのがより好ましく、16,000~26,000であるのがさらに好ましい。粘度平均分子量が前記範囲であると、機械的強度がより良好となり、且つ成形性もより良好となるので好ましい。
【0020】
ポリカーボネート樹脂の製造方法については、特に限定されるものではなく、本発明には、ホスゲン法(界面重合法)、および溶融法(エステル交換法)等の、いずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、本発明では、一般的な溶融法の製造工程を経た後に、末端基のOH基量を調整する工程を経て製造されたポリカーボネート樹脂を使用してもよい。
【0021】
さらに、本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、バージン原料としてのポリカーボネート樹脂のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0022】
その他、本発明で用いるポリカーボネート樹脂については、例えば、特開2012-072338号公報の段落番号0018~0066の記載を参酌でき、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0024】
本発明で用いる他の熱可塑性樹脂は、WO2017/110458号公報の段落0049~0062の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0025】
<柔軟性繊維>
本発明で用いる樹脂組成物は、柔軟性繊維を含む。柔軟性繊維としては、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、ポリアミド系繊維およびステンレス系繊維から選択され、ポリエステル系繊維およびステンレス系繊維が好ましく、ポリエステル系繊維がより好ましい。
樹脂組成物に配合する柔軟性繊維は、連続繊維であっても、短繊維であってもよく、短繊維が好ましい。
樹脂組成物に配合する柔軟性繊維の数平均繊維長の下限値は、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、8mm以上であってもよい。前記数平均繊維長の上限は、12mm以下であることが好ましく、11mm以下であることがより好ましい。
樹脂組成物に配合する柔軟性繊維の数平均繊維径は、特に定めるものではないが、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることがさらに好ましい。前記数平均繊維径の上限は、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
本発明で用いる柔軟性繊維は、表面処理剤や集束剤を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0026】
上記樹脂組成物における、熱可塑性樹脂100質量部に対する柔軟性繊維の配合量は、15~50質量部であり、20~50質量部であることが好ましく、20~35質量部であることがより好ましく、20~30質量部であることがさらに好ましい。
上記樹脂組成物は、柔軟性繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および柔軟性繊維の合計量が全成分の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上、98質量%以上であってもよい。
【0028】
次に、ポリエステル系繊維の詳細について説明する。
ポリエステル系繊維を構成するポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリトリエチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂およびポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂等が挙げられる。これらの中では、特にポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が好ましい。
ポリエステル系繊維は、ポリエステル系樹脂が90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
ポリエステル系繊維には、ポリエステル系樹脂の他、熱安定剤、酸化防止剤などの一般的樹脂添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
本発明では、熱可塑性樹脂(主材)と柔軟性繊維の両方が熱可塑性樹脂である場合、柔軟性繊維の軟化点の方が高いことが好ましく、両者の軟化点の差が50℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。また、前記軟化点の差は、30℃以下であってもよい。軟化点は、JIS-K7206に従って測定される。
【0030】
<他の成分>
上記樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、従来公知の任意の添加剤や充填剤を含んでいてもよい。本発明に用いる添加剤や充填剤としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、光安定剤、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウイスカー、顔料等が挙げられる。これらの詳細は、特開2017-025257号公報の段落0113~0124の記載を参酌することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
上記樹脂組成物には、柔軟性繊維の強化繊維、例えば、炭素繊維およびガラス繊維を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、上記樹脂組成物における柔軟性繊維以外の強化繊維の含有量が、柔軟性繊維の含有量の30質量%以下であることをいい、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、一層好ましくは3質量%以下、より一層好ましくは1質量%以下であることをいう。
【0031】
本発明のペレットの製造方法では、熱可塑性樹脂と柔軟性繊維とを溶融混練してなる樹脂組成物を得る工程を含む。
熱可塑性樹脂の溶融温度は、熱可塑性樹脂の融解温度以上で適宜定めることができる。熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、溶融温度は、融点Tm+240~Tm+80℃の範囲が好ましく、Tm+220~Tm+120℃の範囲がより好ましく、Tm+195~Tm+155℃の範囲がさらに好ましい。熱可塑性樹脂を2種以上含む場合、混合物の平均のTmを基準に考える。熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、溶融温度は、ガラス転移温度Tg+240~Tg+80℃の範囲が好ましく、Tg+200~Tg+100℃の範囲がより好ましく、Tg+180~Tg120℃の範囲がさらに好ましい。熱可塑性樹脂を2種以上含む場合、混合物の平均のガラス転移温度Tgを基準に考える。
【0032】
本発明のペレットの製造方法では、溶融状態にある熱可塑性樹脂に、柔軟性繊維を配合した後に混練することが好ましい。溶融状態にある熱可塑性樹脂に柔軟性繊維を配合することにより、柔軟性繊維の分散性を向上させることができる。
熱可塑性樹脂に、柔軟性繊維を配合する際に用いる混合機はニーダー、バンバリーミキサー、押出機等が例示され、押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましい。二軸押出機を用いることにより、長時間の安定な供給を達成可能になる。
押出機を用いる場合、スクリューピッチは、35mm以上であることが好ましく、35~45mmであることがより好ましい。
特に、1つの二軸押出機で、最初に熱可塑性樹脂を投入して溶融し、次いで、柔軟性繊維を投入して混練することが好ましい。
【0033】
本発明のペレットの製造方法では、上記溶融混練後の樹脂組成物を、ダイからストランド状に吐出させ、冷却する工程を含む。
本発明では、前記溶融混練の後、面積が15~150mm2の吐出穴から、ストランド状に樹脂組成物を吐出させる。このような面積とすることにより、ストランドの押出性をより向上させることができる。吐出穴の面積とは、ストランドが押出される部分の面積をいい、通常は、ストランドの断面積は、吐出穴の面積に応じて定まる。
吐出穴の面積の下限は、20mm2以上であることが好ましく、30mm2以上であることがより好ましく、40mm2以上であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、繊維の絡まりによってダイ穴が閉塞するのを効果的に抑制することができる。また、吐出穴の面積の上限は、145mm2以下であることが好ましく、143mm2以下であることがより好ましく、140mm2以下であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、ダイ穴が大きすぎてストランドの冷却やカッティングが困難になることを効果的に抑制可能となる。
ダイ中の吐出穴の数は、1~4が好ましい。このような構成とすることにより、ストランドを均一に穴から吐出させ、生産性を向上させることができる。
ダイの吐出穴の数が1つの場合、ダイの吐出穴の形状は、非円形、例えば、長円形や楕円形が好ましい。非円形とすることにより、ストランドをカットしやすくなる。特に、本発明では、吐出穴の面積が、ガラス繊維などを含むペレットに比べて大きき方が好ましいため、内部が十分に冷却せずに切断する場合も想定される。このような場合に、ダイの吐出穴の形を非円形とすることにより、切断をより容易にすることができる。本発明では、ダイの吐出穴が楕円形または長円形の場合、長径が短径の3倍以上であることが好ましく、3~5倍であることがより好ましく、3.5~4.5倍であることがさらに好ましい。
ダイの吐出穴の数が2つ以上の場合、ダイの吐出穴の形状は、円形が好ましいが、非円形であってもよいことは言うまでもない。
【0034】
冷却は、ダイから吐出した後に行う。通常は、ダイから押出されたストランドの状態で冷却を行う。冷却は、空冷式であってもよいいし、水冷却であってもよい。
【0035】
本発明のペレットの製造方法では、冷却後のストランドを、回転刃と固定刃を有する切断装置で切断することを含み、前記回転刃と固定刃のクリアランスが0.01~0.06mmであることが好ましい。
カッティング装置の回転刃と固定刃とは、互いに接すると刃物の破損の原因となるため、接しない方がよく、通常、クリアランスが設けられている。ここで、カッティング装置の固定刃と回転刃は、熱可塑性樹脂が100℃ぐらいの状態のストランドをカットするため、固定刃および回転刃自体が、熱で膨張してしまうこともある。そのため、固定刃と回転刃のクリアランスは、通常、安全率をみて0.07mm程度以上である。本発明では、0.06mm以下とすることにより、カッティング断面に繊維の飛び出しや毛羽立ちが生じることを抑制できる。
その後、冷却したストランドを連続して切断して製造することが好ましい。すなわち、吐出したストランドをそのままカットすることが好ましい。ストランドの切断は、また、冷却直後に切断せずに、時間をあけて行ってもよい。
本発明でストランドを切断する方法としては、回転刃と固定刃を有する、ストランドの一般的な切断装置を用いることができる。
回転刃と固定刃のクリアランスとは、回転刃の最も先の部分が、固定刃の先の部分に最も近づくときの、両者の距離をいう。本発明では、回転刃と固定刃のクリアランスの下限は、0.02mm以上であることが好ましい。また、回転刃と固定刃のクリアランスの上限は、0.05mm以下であることが好ましく、0.04mm以下であることがより好ましい。
また、回転刃のすくい角は、25~45°であることが好ましく、25~35°であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、ペレットの切断面がシャープになり、断面からの毛羽立ちを効果的に低減することが可能になる。
本発明では、上記の通り切断したストランド状の樹脂組成物をさらに切断してもよい。特に、ダイの吐出穴が長円形または楕円形であるなど、非円形断面の場合、ペレットは、ストランドの吐出方向に垂直な方向にさらに切断することが好ましい。このような構成とすることにより、ペレット中の繊維長をより長く保つことが可能になる。2度目の切断は、1度目と同様に回転刃と固定刃を備えた装置により切断することが好ましい。
【0036】
本発明では、ペレットの吐出量を60Kg/hr以上とすることができ、70kg/hr以上とすることもでき、80kg/hr以上とすることもでき、90kg/hr以上とすることもできる。吐出量の上限値については、特に定めるものではないが、例えば130kg/hr以下、さらには120kg/hr以下、特には110kg/hrであっても、十分に要求性能を満たすものである。
【0037】
本発明の製造方法で得られるペレットの数平均ペレット長は、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがさらに好ましい。数平均ペレット長の上限値は、16mm以下であることが好ましく、14mm以下であることがより好ましく、12mm以下であることがさらに好ましい。
本発明におけるペレットの数平均ペレット長は、ペレットのカット長が一定の場合、カット長が数平均ペレット長となる。
【0038】
<成形品>
本発明の製造方法で得られるペレットは、各種成形法で成形して成形品として用いられる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。本発明の成形品は、完成品であってもよいし、部品であってもよい。
【0039】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0040】
上記ペレットを成形した成形品は、摺動部品(摺動部材)として好ましく用いられる。
摺動部品の具体的な例としては例えば、電気・電子機器、事務機器、車両(自動車)、産業機器等で要求されている高品質化を目的とした、歯車、回転軸、軸受け、各種ギア、カム、メカニカルシールの端面材、バルブなどの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、ライダーリング等のシール部材、圧縮機の回転軸、回転スリーブ、ピストン、インペラー、ローラー等の摺動部品が挙げられる。
【0041】
上記ペレットを成形してなる摺動部品は、本発明の摺動部品同士はもちろん、他の樹脂製摺動部品や、繊維強化樹脂摺動部品の他、セラミックスや金属製摺動部品と組み合わせた摺動部品としても適用することが可能である。
【実施例
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0043】
<原料>
熱可塑性樹脂(主材)
ポリアセタール樹脂(POM):トリオキサンと1,3-ジオキソランとのオキシメチレンコポリマーであり、オキシエチレンユニット1.5mol%を含有するポリアセタール樹脂(MI:50g/10分)(溶融指数(MI)は、ASTM-D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重下の条件での測定値である。)、融点:66℃
ポリカーボネート樹脂(PC):ユーピロン S-3000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量22000
【0044】
柔軟性繊維
ポリエステル系繊維(PET):ユニチカ製、ユニチカES、数平均繊維長:10mm
ステンレス系繊維(SUS):ベカルト製、BU11(カット品)、数平均繊維長:6mm
【0045】
<実施例1、実施例2、比較例1~3>
二軸押出機(日本製鋼所製製 TEX44αII)を用いて、シリンダー温度190℃、スクリュー回転数200rpmの条件でポリアセタール樹脂(POM)を溶融させた後、表1に示す質量割合となるように、ポリエステル系繊維(PET)を添加し、溶融混練したのち、表1に示す面積の吐出穴を、表1に示す吐出穴数を有するダイを用いて、ストランド状に押出し、ペレタイザーにて回転刃(すくい角30°)と固定刃のクリアランスが0.03mmの距離となる条件で、ペレット長6mmに切断することでペレットを製造した。
【0046】
<実施例3>
二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44II)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件でポリカーボネート樹脂(PC)を溶融させた後、表1に示す質量割合となるように、ステンレス系繊維(SUS)を添加し、溶融混練したのち、表1に示す面積の吐出穴を、表1に示す吐出穴数を有するダイを用いて、ストランド状に押出し、ペレタイザーにて回転刃(すくい角30°)と固定刃のクリアランスが0.03mmの距離となる条件で、ペレット長6mmに切断することでペレットを製造した。比較例3については、押し出しできなかった(押出不可)。
【0047】
<押出性>
上記ストランドの押出に際し、良好、押出困難、押出不可の3つに分けて評価した。なお、実施例1~3、比較例1~3では、押出困難に該当するものはなかった。
【0048】
<吐出量>
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2で得られたペレットの吐出量はストランドを切断したペレットとして得られた樹脂組成物の時間当たりの重量である。
単位は、1時間当たりの量(kg/hr)として示した。
【0049】
<衝撃強度>
上記実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100SX」)を用いて、シリンダー温度195℃、金型温度60℃の条件で射出成形し、ISO179に準拠した厚さ4mm、幅10mm(ノッチ部幅8mm)、長さ80mmのノッチ付き試験片を作製した。実施例3については、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、同様の形状の試験片を作製した。得られた試験片について温度23℃でISO179に準拠したシャルピー衝撃強さ(単位:kJ/m2)を測定した。
【0050】
結果を下記表1に示す。
【表1】
【0051】
上記結果から明らかなとおり、本発明の製造方法で得られるペレットは、押出性に優れており、製造が容易であることが分かった。また、吐出量が多く、生産性に優れていることが分かった。さらに、得られた成形品の機械的強度にも優れていた(実施例1~3)。
これに対し、ダイ吐出穴の面積が本発明の範囲を外れる場合、押出ができなかった(比較例3)。また、連続繊維を用いた場合、押出性は良好であったが、吐出量が少なく、生産性が劣っていた(比較例1)。