(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】給紙装置
(51)【国際特許分類】
B65H 3/48 20060101AFI20220617BHJP
B65H 7/16 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B65H3/48 310A
B65H7/16
B65H3/48 320A
(21)【出願番号】P 2018046889
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】増田 直哉
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-057379(JP,A)
【文献】特開2014-019512(JP,A)
【文献】特開2008-222404(JP,A)
【文献】特開2001-039564(JP,A)
【文献】特開2001-031272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00- 3/68
B65H 7/00- 7/20
B65H 43/00-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積載された用紙の搬送方向下流側に配置され、用紙に浮上エアを噴射して用紙を浮上させる一対の浮上エア噴射部と、
一対の前記浮上エア噴射部の間に配置され、用紙に分離エアを噴射して用紙を分離する分離エア噴射部と、
を備えており、
前記浮上エアと前記分離エアの衝突位置を示す2本の衝突線が近接する領域と、載置された用紙の搬送方向下流の端部が合致するように、前記浮上エアと前記分離エアの各風量と、前記浮上エア噴射部と前記分離エア噴射部の各配
置が設定されていることを特徴とする給紙装置。
【請求項2】
前記一対の浮上エア噴射部は、前記分離エア噴射部を中心として対称的に位置が変更可能であり、
給紙しようとする用紙に対応して、前記浮上エアの風量を制御するとともに、前記分離エアの風量と前記一対の浮上エア噴射部の位置の少なくとも一方を制御する制御部を有することを特徴とする請求項1記載の給紙装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積載された用紙の端面にエアを吹き付けることにより用紙を分離して浮上させ、浮上した用紙を搬送部に吸着して搬送する給紙装置に係り、特に、用紙の種類やサイズに関わりなく、用紙を確実に吸着して給紙できる給紙装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シート給送装置の発明が開示されている。このシート給送装置は、シートを積層載置する給紙台と、シートを一枚ずつ給紙する給送手段と、シートの端面にエアを吹き付ける送風手段と、送風手段の送出するエアの流量を一時的に増加させる送風制御手段を備えている。送風制御手段としては、ファンの給気口等を開閉するシャッタ部材と、シャッタ部材を駆動するシャッタ駆動手段を備えている。この発明によれば、エアアシスト方式を用いたシート給送装置において、送風手段を大型化することなく簡易な構成でエアの流量を増加することにより密着性の強いシートを確実に捌くことができ、重送及び給紙不良を防止することができるものとされている。
【0003】
特許文献2には、給紙装置の発明が開示されている。この給紙装置は、昇降自在の用紙載置台と、用紙の上限検知センサと、最上位の用紙を吸着する吸着面と、吸着された用紙を搬送する搬送機構と、吸着された用紙の先端面に分離エアを吹きつける分離エア送風機構と、用紙載置台上の用紙の側方から浮上エアを吹きつける浮上エア送風機構を備えている。用紙を吸着して搬送機構で搬送を開始するまでの間は、用紙の上面位置を分離エア吹出口より下側の吸着可能高さH1に位置させ、吸着された用紙がエアを吹き付けられる分離領域E1の下側に、分離領域E1に対して圧力差がある落下領域E2を形成する。この間、浮上エアの吹き出しは停止し、分離エア吹出機構による分離エアの吹き出しは継続する。用紙の給紙動作では、吸着機構が駆動されると共に、分離エア送風機構と、浮上エア送風機構が駆動され、用紙の吸着動作が行われる。
【0004】
【文献】特開2004-365250号公報
【文献】特開2010-126305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すシート給送装置の発明によれば、エアの流量を一時的に増加させる送風制御手段としてファンの給気口等を開閉するシャッタ部材を用いているが、機械的な構成及び制御で風量の制御を行なうため、シャッタ部材を開閉する動作時間が比較的長く必要になり、例えば数10msec程度の時間を要し、シートの高速給送の要請に十分に応えることが難しかった。
【0006】
特許文献2に示す給紙装置の発明によれば、特許文献1に記載の発明のような機械的な構成に起因する制御の遅れはないとしても、分離エア送風機構と浮上エア送風機構の作動及び停止の制御が複雑であり、また一度停止した送風機構を再度作動させる場合には所定のエア吹き出し量が得られるまでに所定の時間を要するため、やはり給紙のスピードアップは困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来の技術及びその課題に鑑みてなされたものであり、給紙における制御上又は機構上の時間的遅延を最小化でき、重送等の搬送不良を起こすことなく、円滑かつ速やかな給紙を実現できる給紙装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された給紙装置は、
積載された用紙の搬送方向下流側に配置され、用紙に浮上エアを噴射して用紙を浮上させる一対の浮上エア噴射部と、
一対の前記浮上エア噴射部の間に配置され、用紙に分離エアを噴射して用紙を分離する分離エア噴射部と、
を備えており、
前記浮上エアと前記分離エアの衝突位置を示す2本の衝突線が近接する領域と、載置された用紙の搬送方向下流の端部が合致するように、前記浮上エアと前記分離エアの各風量と、前記浮上エア噴射部と前記分離エア噴射部の各配置が設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載された給紙装置によれば、浮上エアと分離エアの各風量と、浮上エア噴射部と分離エア噴射部の各配置とをそれぞれ適宜に設定することにより、浮上エアと分離エアは、積載された用紙の搬送方向下流で衝突する。従って、積載された用紙の搬送方向下流では、エアの風速が減少して圧力が上昇し、このために積載された用紙の最上部では用紙と用紙の間の圧力が上昇して分離力が効果的に発生する。このように浮上エアと分離エアを最適な条件で衝突させることにより好ましい用紙の浮上と分離を実現し、浮上した最上位の用紙のみを給紙に供することができるため、重送等の搬送不良を起こすことなく、円滑かつ速やかな給紙を実現できる。また、給紙のために煩雑な制御や機構を採用する必要がないので、係る制御や機構に起因する時間的遅延を最小化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の実施形態の左側面を画面下側として表した模式的平面図である。
【
図4】本発明の実施形態において、浮上エアと分離エアが噴射されて衝突する場合のエアの放射方向及び領域内での圧力分布を、数値流体力学に基づいてコンピュータで計算したシミュレーション結果として平面図に表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施形態の給紙装置1の構成について(1)
実施形態の給紙装置1の基本的な構成について
図1~
図3を参照して説明する。
給紙装置1は、積載された複数枚の用紙Pから一番上の用紙Pを順次取り出して下流に向けて搬送する装置である。用紙Pを供給する対象又は目的については特に限定しない。一例を挙げれば、供給された用紙Pに任意の画像を形成して排出する画像形成装置の用紙供給部として利用できる。
なお、以下の説明で多用される用語について定義を示しておく。一般的に「風量」は、単位時間内に動く空気の量であり、単位は[m
3/min]で表される。「風速」は空気が移動する速さであり、単位は[m/s] で表される。
【0012】
図1に示すように、給紙装置1は、用紙Pが載置される平面視で略矩形の給紙台2を有している。この給紙台2は、矢印で示す用紙搬送方向の下流側に用紙搬送方向に直交して配置された前壁部3と、その他の図示しないガイド機構に案内され、水平を保ちながら垂直方向に上下動することができる。給紙台2は、図示しないモータ等の駆動源により、多数枚の用紙Pを載置した状態で安定して上下動することができる。
【0013】
図1~
図3に示すように、前壁部3の下流側の隣部には、一対の浮上エア噴射部4,4が用紙Pの幅方向に所定間隔をおいて配置されている。一対の浮上エア噴射部4,4は、噴射ノズルは一対であるが、エア流を発生させる送風手段としてのファンと、ファンから一対のノズルに至るダクトの部分は共通であってもよい。浮上エア噴射部4は、用紙搬送方向に直交する用紙の幅方向の中心線について対称となる2つの位置で、用紙Pの搬送方向下流に浮上エアLAを噴射し、用紙を浮上させることができる。
【0014】
図1~
図3に示すように、前壁部3の下流側の隣部には、一対の浮上エア噴射部4の間であって、用紙搬送方向についてはやや下流側の位置に、分離エア噴射部5が設けられている。
図3に示すように、分離エア噴射部5は、給紙台2上の用紙Pの幅方向の中央であって、さらに一対の浮上エア噴射部4,4が配置された平面と同一の平面内に配置されている。従って、分離エア噴射部5と浮上エア噴射部4は、給紙台2の用紙Pの搬送方向下流付近に対し、同一平面内でエアを噴射することができる。しかしながら、実質的に同一平面内にエアを噴射できるのであれば、
図1に模式的に示すように、分離エア噴射部5の噴射ノズルの方が、浮上エア噴射部4の噴射ノズルよりも若干上方に位置していてもよい。分離エア噴射部5は、送風手段としてのファンと、エアを導くダクト備えている。分離エア噴射部5は、用紙Pの搬送方向下流の略中央部分に分離エアSAを噴射して、浮上エア噴射部4によって浮上した用紙Pを分離することができる。
【0015】
図3に示すように、一対の浮上エア噴射部4,4は、用紙Pの幅方向の中央に相当する位置に配置された分離エア噴射部5を中心として、左右対称的に位置が変更可能である。
図3に示すように、一対の浮上エア噴射部4,4は、相対的に狭い2Aの間隔で配置される第1位置と、相対的に広い2Bの間隔で配置される第2位置の何れかに選択的に配置される。配置されるべき位置の選択をどのように行うかについては後述する。
【0016】
図1~
図3に示すように、各浮上エア噴射部4の噴射口と、分離エア噴射部5の噴射口との間であって、給紙台2上の用紙の搬送方向下流側の端部と対面する2つの位置には、それぞれ風速センサ6が設けられている。
図3に示すように、風速センサ6は、浮上エア噴射部4と分離エア噴射部5が配置されている同一高さの共通平面内の所要位置に設けられている。なお、詳細は後述するが、この風速センサ6が設けられている所要位置とは、前記共通平面内において、浮上エア噴射部4と分離エア噴射部5から噴射されるエアが衝突し、エアの風速が低下するライン(後述するが「衝突線」と称する。)内の定められた位置である。
【0017】
図1に示すように、給紙台2の上にある用紙の上方には、給紙台2の上に浮上した複数枚の用紙Pのうち、最上部の用紙Pを吸着して用紙搬送方向に搬送する吸着搬送部7が設けられている。吸着搬送部7は、ベルトコンベア方式の搬送機構8と、搬送機構8のベルトに設けられた図示しない多数の孔を通して上方にエアを吸引する吸着機構9とを備えている。用紙Pの搬送時には、給紙台2の上方に浮上した用紙Pのうち、最上部の用紙Pが吸着機構9によって搬送機構8に吸着保持され、搬送機構8の駆動によって次段の工程に搬出される。
【0018】
図示はしないが、実施形態の給紙装置1は、以上説明した各構成を統合的に制御するための制御部と、給紙装置1を制御するための指令や情報等を入力する入力部と、必要な表示を行なう表示部等を備えている。制御部の記憶部には、制御に必要なデータや制御ソフトウエアが記憶されており、入力部から入力した搬送すべき用紙Pの種類等に応じて、浮上エア噴射部4の風量や位置の切り換え、及び分離エア噴射部5の風量の切り換え等の制御を構成各部に最適に実行させることができる。
【0019】
2.実施形態の給紙装置1の構成について(2)
実施形態の給紙装置1の基本的な構成は前項に説明した通りであるが、さらにその詳細な構成について説明する。
先に説明した給紙装置1の基本的構成によれば、浮上エア噴射部4からの浮上エアLAで給紙台2上の用紙Pを浮上させ、浮上した1枚目と2枚目の用紙Pの間に、分離エア噴射部5から分離エアSAを吹き込んで分離し、浮上した1枚目の用紙Pを吸着搬送部7により吸着搬送することができる。しかしながら、浮上した1枚目の用紙Pと2枚目の用紙Pの間に分離エアSAが吹き込まれず、分離されない場合も考えられる。また、分離エアSAが吹き込まれたとしても、分離エアSAが用紙Pの搬送方向下流から搬送方向上流まで吹き抜けてしまうと、吹き抜けた部分だけは分離していても、用紙P間の風速が上がってその他の部分では逆に負圧となり、2枚目の用紙Pが浮上して1枚目の用紙Pと密着してしまい、重送が発生することも考えられる。このような課題は、先に「従来の技術」で説明した先行技術では見出されておらず、本願発明者は、この新たに発見された課題を、本実施形態の基本的構成において次のような手段で解決した。
【0020】
すなわち、本発明に係る実施形態では、先に説明した給紙装置1の基本的構成において、用紙Pの搬送方向下流側に配置した分離エア噴射部5からの分離エアSAと、その両側に配置した一対の浮上エア噴射部4,4からの浮上エアLAとの衝突を利用し、浮上した1枚目の用紙Pと2枚目の用紙Pを以下に説明するような作用により効果的に分離することができる。
【0021】
浮上エア噴射部4から放射状に噴射される浮上エアLAに対して、分離エア噴射部5から放射状に噴射される分離エアSAを衝突させると、両エアが衝突する位置(衝突位置と称する。)におけるエアの風速が減少し、圧力が上昇する現象が見られる。これは、エネルギーが速度から圧力に変換される現象と考えられる。このように圧力が上昇する衝突位置が、用紙Pの搬送方向下流であって用紙Pの幅方向の中央にくるように、浮上エアLAと分離エアSAの風量及び放射範囲と、浮上エア噴射部4と分離エア噴射部5の配置を最適に設定する。これによって、浮上した2枚目の用紙Pに、1枚目の用紙Pに対する強い分離力を発生させ、浮上した2枚目を引き下げることができる。
【0022】
空間内の各位置における圧力は直接には測定できないため、上述したような仕組みで分離力を得る具体的な構成上の条件を見出すため、本願発明者は、浮上エアLAと分離エアSAの衝突により空間内に生じる圧力分布をシミュレーションによって検討した。
図4は、本実施形態の給紙装置1において、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5から放射された浮上エアLA及び分離エアSAが衝突した場合の圧力分布と、エアの放射方向の一部を、数値流体力学に基づいてコンピュータで計算したシミュレーション結果を示すものである。このシミュレーションを行なうため、株式会社ソフトウェアクレイドル社製の構造格子系汎用三次元熱流体解析システム「STREAM」(登録商標)を使用した。このシミュレーションを実行するに当たっては、前記熱流体解析システムにおいて、計算に必要な数値項目、例えば、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5の位置、浮上エアLA及び分離エアSAの風量及び放射範囲等のデータを入力して計算を実行する。
なお、シミュレーション結果を示す
図4は平面図であるが、
図1とは向きが相違しており、
図4の画面下側が
図1の左側面に対応している。従って、
図4においては、用紙搬送方向は紙面に平行な上向きである。
【0023】
図4において、グレーの階調で示したコンターが圧力の分布を表しており、より濃い階調がより高い圧力に相当する。また、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5から離れる方向に向いた複数の矢印が、放射された浮上エアLA及び分離エアSAの方向を示している。また、2つの浮上エア噴射部4と分離エア噴射部5との間に示された2本の破線は、浮上エアLAと分離エアSAが衝突する衝突位置が連続する線を示しており、衝突線CLと称する。
【0024】
図4に示すように、浮上エアLAと分離エアSAの衝突線CLに沿って圧力が高くなっており、特に、2本の衝突線CLが図中下方で互いに内向きに湾曲して近接する領域では、濃い階調で示されるように、
図4に示す領域内では最も圧力が高くなっている。この領域では、エア同士の衝突によりエネルギーが速度から圧力に変換されるため、圧力が上昇していると考えられる。
【0025】
図4において、2本の衝突線CLが互いに内向きに湾曲して接近する領域には、2個の丸印で示すように、特に圧力が高い領域(特定領域Xと称する。)が存在する。この特定領域Xを、用紙Pの幅方向(
図4中左右方向)に通過する線を仮想し、これを給紙台2の上に載置された用紙Pの搬送方向下流の端部であるとする(この仮想線を用紙前端線FLと称する。)。このように圧力が高い特定領域Xが用紙Pの搬送方向下流にくるように諸条件を設定すれば、用紙Pの搬送方向下流の端部に強い分離力を与えることができる。
【0026】
前記特定領域Xに発生する圧力は、多様な種類の用紙Pについて適切な浮上力と分離力を生じさせるものでなければならない。すなわち、シミュレーション結果に基づいて、用紙前端線FLに特定領域Xを合致させる条件を整えるとともに、その特定領域Xにおける圧力が実際の用紙Pに最適な浮上と分離の効果をもたらすように、風量等の諸条件を定める必要がある。このため、給紙装置1に積載された用紙Pの搬送方向下流の端部に特定領域Xが存在する状況下において、用紙Pの種類ごとに、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5の風量等を変化させる実験を行い、最適な浮上と分離の効果が得られる条件を予め調べて制御データとして制御部に記憶させておく。これにより、用紙Pの不浮上や過浮上とならない適切な浮上エアLAの風量及び分離エアSAの風量による制御を行なうことができる。
【0027】
本実施形態の給紙装置1は、以上の考え方及び
図4に示したようなシミュレーション結果に基づいて、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5の位置、浮上エアLA及び分離エアSAの風量及び放射範囲等を最適に設定した。このため、そのシミュレーションで設定したデータと実質的に同一の条件で駆動すれば、給紙台2の用紙Pの搬送方向下流の端部の中央部分には、必要な圧力の特定領域Xが発生し、必要な浮上力と分離力が得られる。その結果、分離エアSAと浮上エアLAのON/OFF制御等を行わなくとも、分離エアSAと浮上エアLAを共に常時吹き出ししている状態で、用紙Pの不浮上や過浮上などが生じない確実な用紙Pの浮上・分離を実現することができ、給紙工程中の時間的遅延が最小化されて生産性の向上が図れる。
【0028】
なお、本実施形態の給紙装置1が有する2個の風速センサ6,6は、
図4に示すように、衝突線CL上の特定領域X以外の位置に設けるものとする。シミュレーションでの当該位置における風速を制御手段に記憶しておけば、シミュレーションに近い条件で給紙装置1を運転した場合、風速センサ6はシミュレーション結果と同程度の風速を検出する。このように風速センサ6の検出値から、給紙装置1が適切な状態で作動しているか否かを,給紙装置1の作動時に確認することができる。検出値がシミュレーション結果、又はシミュレーションで取得した値に基づく基準値と有意に異なる場合には、その相違に応じて、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5の位置、浮上エアLA及び分離エアSAの風量及び放射範囲等を適宜に変更して補正を行なう。その結果、風速センサ6の検出値がシミュレーション結果と同一又は基準値を下回る風速になれば、給紙装置1の作動が適切な状態に補正された保障が得られる。このように、風速センサ6の測定値が、シミュレーションで取得した値又はこれに基づき設定した基準値以下となるように、浮上エアLAと分離エアSAの風量もしくは風向き等を調整するものとしてもよい。
【0029】
あるデータを使用し、上述したような特定領域Xが存在する用紙前端線FLが得られた場合、その他の可能なデータの組合せにおいても、同様の用紙前端線FLに特定領域Xが存在する状態が得られるようにする必要がある。すなわち、給紙台2の位置によって決まる用紙Pの搬送方向下流の端部の位置、すなわち用紙前端線FLの位置と、浮上エア噴射部4及び分離エア噴射部5の位置関係は、浮上エア噴射部4の第1位置と第2位置の選択を除き、機構的には変更できない。そこで、搬送する用紙Pの種類を変更するために浮上エア噴射部4の風量を変える必要がある場合には、設定した用紙前端線FLに特定領域Xが発生するような組合せのデータを使用する。このようなデータを用いて行なう浮上エアLA及び分離エアSAの制御は、前述したように制御部が行なう。
【0030】
図2に示すように、浮上エア噴射部4は、その風量とエアの放射範囲を2段階に切り換えることができる。ここで、風量が小さいときには狭い放射範囲の浮上エアLA1となり、風量が大きいときには広い放射範囲の浮上エアLA2となる。浮上エア噴射部4が噴射する浮上エアLAの風量は、使用する用紙Pの重量に合せて設定する。すなわち、用紙Pの重量は、用紙Pの種類(坪量)とサイズに応じて決まるため、指定した用紙Pに応じて浮上エア噴射部4の風量を2段階から選択する。相対的に重い用紙Pの場合は大きい風量が選択され、相対的に軽い用紙Pの場合は小さい風量が選択される。なお、
図2では、分離エア噴射部5の分離エアSAの風量と放射範囲については一種類のみを示しているが、これも2段階に切り換えられる。
【0031】
図2に示すように、使用する用紙Pが相対的に重い用紙Pであり、浮上エア噴射部4が大きい風量の浮上エアLA2に設定され、広い放射範囲となっている場合に、図示のような位置に特定領域Xが得られているものとする。このとき、一対の浮上エア噴射部4,4は、
図3に示すように広い間隔2Bである第2位置に設定されている。
【0032】
図2に示すような特定領域Xの状態から、次に使用する用紙Pを相対的に軽い用紙Pに変えた場合、浮上エア噴射部4は小さい風量の浮上エアLA1に設定され、狭い放射範囲となる。この状態では、特定領域Xは
図2に示した元の位置から変化し、用紙Pの搬送方向下流の端部と特定領域Xが重ならなくなってしまい、用紙Pの浮上と分離が適切に行なわれなくなる。そこで、この場合には、一対の浮上エア噴射部4,4を、
図3に示すように狭い間隔2Aの第1位置に設定する。これにより、用紙Pの搬送方向下流の端部に圧力の高い特定領域Xを発生させる状態を維持することができ、用紙Pの種類等が変わっても用紙Pの浮上と分離を適切に行なわせることができる。
【0033】
上述の例では、浮上エア噴射部4の風量及びエアの放射範囲を2種類としたが、用紙Pの多様なサイズ、用紙の種類(坪量)に対応し、より精密に制御を行なうため、3種類以上としてもよい。また、上述の例において、浮上エア噴射部4の風量切り換えや位置(間隔)の調整とともに、分離エア噴射部5の風量の切り換えも必要に応じて行なうことにより、エア噴射等の条件が変化した場合にも、用紙Pの搬送方向下流の端部に圧力の高い特定領域Xを発生させる状態をより容易に維持することができ、用紙Pの不浮上や過浮上が発生しない適切な浮上エアLAの風量とすることができる。
【0034】
3.実施形態における各態様の給紙装置1の構成とその効果について
第1の給紙装置1は、
積載された用紙Pの搬送方向下流側に配置され、用紙Pに浮上エアLAを噴射して用紙Pを浮上させる一対の浮上エア噴射部4と、
一対の前記浮上エア噴射部4の間に配置され、用紙Pに分離エアSAを噴射して用紙Pを分離する分離エア噴射部5と、
を備えており、
前記浮上エアLAと前記分離エアSAの衝突位置を示す2本の衝突線CLが近接する領域Xと、載置された用紙Pの搬送方向下流の端部が合致するように、前記浮上エアLAと前記分離エアSAの各風量と、前記浮上エア噴射部4と前記分離エア噴射部5の各配置が設定されていることを特徴としている。
【0035】
第1の給紙装置1によれば、浮上エアLAと分離エアSAの各風量と、浮上エア噴射部4と分離エア噴射部5の各配置とが、浮上エアLAと分離エアSAが用紙Pの搬送方向下流で衝突するような最適の状態に設定されている。このため、積載された用紙Pの搬送方向下流では、エアの風速が減少して圧力が上昇し、このため積載された用紙Pの最上部では用紙Pと用紙Pの間の圧力が上昇して必要な大きさの分離力が発生するので、浮上した最上位の用紙Pのみを給紙に供することができる。
【0036】
第2の給紙装置1は、
前記一対の浮上エア噴射部4,4が、前記分離エア噴射部5を中心として対称的に位置が変更可能であり、
給紙しようとする用紙Pに対応して、前記浮上エアLAの風量を制御するとともに、前記分離エアSAの風量と前記一対の浮上エア噴射部4の位置の少なくとも一方を制御する制御部を有することを特徴としている。
【0037】
第2の給紙装置1によれば、給紙する用紙Pの変更に対応して、浮上エアLAの風量を変えたために浮上エアLAの放射範囲が変化しても、分離エアSAの風量を変化させることにより、または浮上エア噴射部4の位置を変更することにより、浮上エアLAと分離エアSAが用紙Pの搬送方向下流で衝突して当該位置の圧力が高くなる状況を維持することができ、効果的な用紙Pの浮上及び分離を続行することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…給紙装置
2…給紙台
3…前壁部
4…浮上エア噴射部
5…分離エア噴射部
6…風速センサ
7…吸着搬送部
8…搬送機構
9…吸着機構
P…用紙
LA…浮上エア
SA…分離エア
CL…衝突線
FL…用紙前端線
X…特定領域