(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】球面継手及びこれを利用した減衰装置
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20220617BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
F16C11/06 Z
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2018049225
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村尾 秀己
(72)【発明者】
【氏名】廣川 忠
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義仁
(72)【発明者】
【氏名】齊木 健司
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540175(JP,A)
【文献】特開2003-326519(JP,A)
【文献】特開2017-82932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の一端が固定される球体部と、
構造体に固定されると共に前記球体部の球面に摺接する凹球面を有して当該球体部を包み持つホルダと、
前記球体部と前記ホルダとの間に配置されて前記軸部材の軸線を中心とした前記球体部の回転を係止する回り止め部材と、を備え、
前記回り止め部材は、前記軸部材の軸線と直交し且つ前記球体部の回転中心を通る平面上に存在し、前記球体部の径方向に沿って設けられると共に軸線が互いに直交する第一支軸及び第二支軸を有し、
前記ホルダには前記凹球面を二分する環状溝が設けられて、前記回り止め部材は当該環状溝内に収容され、
前記環状溝内には前記第一支軸が嵌合する第一係止穴が設けられて当該環状溝と連通する一方、前記球体部には前記第二支軸が嵌合する第二係止穴が設けられ、
前記球体部を中心とした前記軸部材の歳差運動に応じ、前記回り止め部材は前記第一支軸を中心として前記ホルダに対して
前記環状溝内で揺動する一方、前記球体部は前記第二支軸を中心として前記回り止め部材に対して揺動することを特徴とする球面継手。
【請求項2】
前記回り止め部材は前記球体部を囲む環状に形成され、前記第一支軸が外周面に立設される一方、前記第二支軸が内周面に立設されることを特徴とする請求項1記載の球面継手。
【請求項3】
前記球体部は前記軸部材が嵌合する貫通孔を有していることを特徴とする請求項1記載の球面継手。
【請求項4】
前記球体部は前記軸部材と一体に設けられてボールスタッドを構成していることを特徴とする請求項1記載の球面継手。
【請求項5】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されると共に少なくとも一方の軸端が第一の構造体に連結されるロッドと、
第二の構造体に対して回転自在に保持されると共に前記ロッドのねじ溝に螺合し、第一の構造体に対する第二の構造体の振動に応じて往復回転するナット部材と、
このナット部材に連結されて当該ナット部材の往復回転を減衰させる減衰手段と、
前記ロッドの軸端を前記第一の構造体に連結する球面継手と、を備え、
前記球面継手は、
前記ロッドの一端が固定される球体部と、
前記第一の構造体に固定されると共に前記球体部の球面に摺接する凹球面を有して当該球体部を包み持つホルダと、
前記球体部と前記ホルダとの間に配置されて前記ロッドの軸線を中心とした前記球体部の回転を係止する回り止め部材と、を備え、
前記回り止め部材は、前記ロッドの軸線と直交し且つ前記球体部の回転中心を通る平面上に存在し、前記球体部の径方向に沿って設けられると共に軸線が互いに直交する第一支軸及び第二支軸を有し、
前記第一支軸は前記ホルダに設けられた第一係止穴に嵌合する一方、前記第二支軸は前記球体部に設けられた第二係止穴に嵌合し、
前記球体部を中心とした前記ロッドの歳差運動に応じ、前記回り止め部材は前記第一支軸を中心として前記ホルダに対して揺動する一方、前記球体部は前記第二支軸を中心として前記回り止め部材に対して揺動することを特徴とする減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転慣性質量ダンパ等の減衰装置を建物等の構造体に取り付ける際に利用する球面継手に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物に作用する振動を早期に収束させるための減衰装置としては、特許文献1に開示されるように、ボールねじ装置を利用したものが知られている。この減衰装置は、螺旋状の雄ねじを有すると共に一端が構造物に結合されたロッドと、このロッドに螺合するナット部材と、前記ナット部材を回転自在に支承すると共に構造物に固定される保持筒と、前記ナット部材によって回転を与えられる回転錘とを備えている。前記ロッドと前記ナット部材がボールねじ装置を構成しており、前記ロッドが軸方向へ進退すると、当該ロッドの周囲を前記ナット部材が回転する。
【0003】
このような減衰装置では、地震等によって前記構造物に生じた相対振動を前記ロッドと前記保持筒との間に入力すると、当該振動に伴って前記ロッドには軸方向相対加速度が生じ、この軸方向相対加速度は前記ロッドに螺合する前記ナット部材の角加速度に変換される。前記ナット部材及び前記回転錘は一体となって回転体を構成しており、当該回転体に生じる回転トルクは、当該回転体の慣性モーメントと前記角加速度の積で表される。そして、この回転トルクは、前記ロッドの軸方向相対加速度が反転する度に、前記ナット部材及びロッドによって逆変換されて、当該ロッドに軸方向反力として作用することになる。
【0004】
前記構造物に対する当該減衰装置の姿勢(取付角度)変化を許容するため、前記ロッドの一端には球面継手(ボールジョイント)が設けられており、当該減衰装置は球面継手を介して構造体に接続されている。前記球面継手は、前記ロッドの端部に設けられた球体部と、前記球体部を回転自在に保持すると共に前記構造体に固定されるブラケットと、を備えている。
【0005】
また、前記ロッドが前記ナット部材に作用する回転トルクによって連れ回されるのを防止するため、前記球面継手には前記ロッドの歳差運動を許容しつつも軸方向まわりの回転運動を防止する回り止め機構が設けられている。この回り止め機構は、前記ロッドの軸線方向に沿って前記球体部の球面に形成された長穴と、前記ブラケットを貫通して先端部が前記長穴に挿入された規制ボルトと、から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示される球面継手の回り止め機構は、前記規制ボルトの先端が前記球体部に形成された長穴内を移動することによって前記ロッドの歳差運動を許容していることから、当該規制ボルトの先端は前記長穴に対して遊嵌している必要があり、当該ロッドの回転方向に関して前記長穴と前記規制ボルトとの隙間を排除することが困難であった。このため、前記ナット部材の回転方向が変化する度に、前記規制ボルトが前記長穴の内壁に衝突してしまい、強度面で不利であった。また、前記規制ボルトの先端を挿入する長穴が球体部に設けられているので、この点においても強度面で不利であった。
【0008】
また、前記規制ボルトが長穴の内壁に衝突すると、当該衝突の度に前記回転体の回転に対して突発的なパルス状の角加速度の変化が生じ、これに伴って前記回転体の回転トルクが変動してしまう。この回転トルクの突発的な変化に起因して、前記ロッドには突発的な軸方向反力が作用し、前記構造物に生じた振動を滑らかに減衰することができないといった課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ボールねじ装置を用いた減衰装置を構造体に対して簡便に接続することが可能であり、また、巨大な回転トルクの伝達において強度面で有利となる球面継手を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明の球面継手は、軸部材の一端が固定される球体部と、構造体に固定されると共に前記球体部の球面に摺接する凹球面を有して当該球体部を包み持つホルダと、前記球体部と前記ホルダとの間に配置されて前記軸部材の軸線を中心とした前記球体部の回転を係止する回り止め部材と、を備えている。前記回り止め部材は、前記軸部材の軸線と直交し且つ前記球体部の回転中心を通る平面上に存在する第一支軸及び第二支軸を有している。これら第一支軸及び第二支軸は前記球体部の径方向に沿って設けられると共に軸線が互いに直交しており、前記第一支軸は前記ホルダに設けられた第一係止穴に嵌合する一方、前記第二支軸は前記球体部に設けられた第二係止穴に嵌合している。そして、前記球体部を中心とした前記軸部材の歳差運動に応じ、前記回り止め部材は前記第一支軸を中心として前記ホルダに対して揺動する一方、前記球体部は前記第二支軸を中心として前記回り止め部材に対して揺動する
【発明の効果】
【0011】
本発明の球面継手によれば、軸線が互いに直交する第一支軸及び第二支軸を回転中心として前記回り止め部材及び前記球体部が前記ホルダに対して揺動するので、軸部材の歳差運動を許容しながら当該軸部材の軸線まわりの回転運動を係止することができ、ボールねじ装置を用いた減衰装置を構造体に対して簡便に接続することが可能となる。
【0012】
また、前記第一支軸はホルダの第一係止穴に嵌合する一方、前記第二支軸は前記球体部の第二係止穴に嵌合し、これらホルダ及び球体部にはこれら支軸が遊嵌する長穴を設ける必要がないので、巨大な回転トルクの伝達において強度面で有利なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の球面継手を用いた減衰装置の取付け例を示す概略図である。
【
図2】本発明の球面継手を用いて取り付けられる減衰装置の第一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の球面継手の実施形態の一例を示す斜視図である。
【
図4】球体部とホルダの間に設けられた回り止め部材の一例を示す斜視図である。
【
図5】ホルダに設けられた第一係止穴の詳細を示す図である。
【
図6】ホルダに対して回り止め部材が揺動した状態を示す部分断面図である。
【
図7】回り止め部材に対して球体部が揺動した状態を示す部分断面図である。
【
図8】球体部とホルダの間に設けられた回り止め部材の第二の例を示す斜視図である。
【
図9】球体部とホルダの間に設けられた回り止め部材の第三の例を示す斜視図である。
【
図10】本発明の球面継手を用いて取り付けられる減衰装置の第二実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に沿って本発明の球面継手を詳細に説明すると共に、当該球面継手を用いて構造体に取り付けが可能な減衰装置について詳細に説明する
【0015】
図1は本発明の球面継手を用いた減衰装置の構造体への取付け例を示すものである。この減衰装置は、例えば、ビルディング、塔、橋梁等の構造物を含む系内の別々の部位(第一の構造体S1及び第二の構造体S2)に固定される第一連結部10と第二連結部11とを備えている。構造物を含む系とは、当該構造物が固定された基礎地盤を含む意であり、例えば構造物の内部に減衰装置が配置されている場合の外、前記第一連結部10は構造物に、第二連結部11は基礎地盤に固定される場合を含む。
【0016】
前記第一の構造体S1に固定される第一連結部10、前記第二の構造体S2に固定される第二連結部11には、それぞれ球面継手2が設けられている。これにより、前記減衰装置1は第一の構造体S1及び第二の構造体S2に対する接続角度を自由に調整することが可能となっており、第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に相対的な振動が作用すると、前記減衰装置1が当該振動に応じて第一の構造体S1と第二の構造体S2との間で伸縮する。尚、
図1では前記減衰装置1の長手方向の両端に一対の球面継手2を設けているが、例えば、双方の構造体が前記減衰装置1の軸直交方向に相対変位しない場合、長手方向の一端のみに球面継手2を設け、他端は第一の構造体S1又は第二の構造体S2に対して直接固定するようにすることもできる。
【0017】
図2は、本発明の球面継手を用いて構造体へ取付け可能な前記減衰装置の第一実施形態を示す斜視図であり、内部構造が把握できるように一部を切り欠いて描いてある。この減衰装置1は所謂回転慣性質量ダンパであり、中空部を有して円筒状に形成された固定筒12と、この固定筒12の中空部に対して挿入されると共に螺旋状のねじ溝が形成されたロッド13と、多数のボールを介して前記ロッド13のねじ溝に螺合するナット部材14と、前記固定筒12に対して回転自在に支承されると共に前記ナット部材14が結合された円筒状の軸受ハウジング15と、この軸受ハウジング15に固定された円筒状のフライホイール16と、前記固定筒12に対して回転自在に支承されると共に前記フライホイール16に対して結合されたロータ部材17とを備えている。前記ロッド13及び前記固定筒12は、球面継手2を介して構造体に接続し、軸まわりの回転を拘束される。
【0018】
前記固定筒12と前記軸受ハウジング15との間には軸受(図示せず)が設けられており、前記軸受ハウジング15は前記固定筒12に対して回転自在に支承されている。また、前記軸受ハウジング15の軸方向の一端には前記ナット部材14が固定されており、かかるナット部材14が回転すると、軸受ハウジング15がナット部材14と共に前記固定筒12に対して回転を生じるように構成されている。
【0019】
前記ロッド13及びナット部材14は所謂ボールねじ装置を構成している。前記ナット部材14は前記多数のボールの無限循環路を有しており、これらボールが前記ロッド13に形成された螺旋状のねじ溝を転動する。これにより、前記ロッド13と前記ナット部材14との間では軸方向の直線運動と前記ロッド13周囲の回転運動を相互に変換することが可能となっており、前記ロッド13に対して軸方向の直線運動を与えると、前記ナット部材14が前記ロッド13の周囲で回転運動を生じる一方、前記ナット部材14に回転運動を与えると、前記ロッド13が軸方向へ直線運動を生じることになる。
【0020】
前記軸受ハウジング15の外側には円筒状のフライホイール16が設けられている。このフライホイール16は前記軸受ハウジング15に固定されており、前記ナット部材14及び前記軸受ハウジング15と一体で回転するように構成されている。また、前記軸受ハウジング15が固定筒12に対して自由に回転し得ることから、前記フライホイール16は前記固定筒12に対しても自由に回転することが可能である。
【0021】
一方、前記固定筒12の周囲には前記ロータ部材17が設けられている。このロータ部材17は回転軸受を介して固定筒12の外周面に支承されると共に、エンドプレート18を介して前記フライホイール16に結合されており、前記フライホイール16の回転に伴って前記固定筒12の周囲を回転するように構成されている。前記ロータ部材17の内周面は固定筒12の外周面とわずかな隙間を介して対向しており、かかる隙間は粘性流体の密閉空間となっている。このため、ロータ部材17が回転すると、前記固定筒の外周面と前記ロータ部材の内周面との間に粘性流体から剪断抵抗力が作用し、ロータ部材17の回転運動のエネルギーが減衰されるようになっている。
【0022】
そして、この第一実施形態の減衰装置1では、前記第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に相対的な振動が作用すると、前記固定筒12に対して前記ロッド13が軸方向へ進退して当該減衰装置1が伸縮し、前記フライホイール16及び前記ロータ部材17が前記固定筒12の周囲を繰り返し反転する。前記フライホイール16が反転する際には当該フライホイール16の回転慣性によって大きな回転トルクが発生し、この回転トルクは前記ロッド13の軸方向移動に対して反力として作用する。また、前記ロータ部材17の回転に対しては粘性流体から剪断抵抗力が作用し、この剪断抵抗力も前記ロッド13の軸方向移動に対して反力として作用する。これにより、第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に作用する振動は前記回転慣性質量ダンパによって減衰される。
【0023】
図3は本発明を適用した球面継手の一例を示す分解斜視図であり、内部構造を示すために一部を切り欠いて描いてある。
【0024】
前記球面継手2は、軸部材(図示せず)が嵌合する貫通孔20を有する球体部21と、この球体部21の球面を包み込むと共に固定ボルトによって前記第一構造体S1又は第二の構造体S2等の構造物に締結されるホルダ22とを備えている。また、前記ホルダ22は、ボルト取付け孔23aを有するベース部材23と、前記ベース部材23に固定されて前記球体部21を覆う蓋部材24と、を備えている。前記蓋部材の中央には開口部24aが設けられており、前記軸部材は前記開口部24aを挿通して前記球体部21の貫通孔20に嵌合している。この開口部24aは前記構造物に対する前記軸部材の揺動範囲を制限している。前記蓋部材24は図示外の固定ボルトを用いて前記ベース部材23に締結され、それによって前記ホルダ22が完成するが、前記蓋部材24と前記ベース部材23とを一体化する手段はボルト締結に限られず、溶接等を用いることもできる。
【0025】
尚、この実施形態では前記球体部21に対して軸部材を固定するための貫通孔20を設けたが、当該貫通孔20を設けることなく前記球体部と前記軸部材とが一体に形成されたボールスタッドを設け、当該ボールスタッドの球体部をホルダで包み持つようにしてもよい。
【0026】
前記ベース部材23及び前記蓋部材24のそれぞれには前記球体部21の球面が摺接する凹球面23b,24bが設けられている。これらベース部材23と蓋部材24を図示外の結合ボルトで一体化すると、前記球体部21がベース部材23の凹球面23bと前記蓋部材24の凹球面24bによって挟み込まれ、当該球体部21は前記ホルダ22に包み持たれて当該ホルダ22に対して自在に回転することが可能である。
【0027】
前記球体部21と前記ホルダ22との間には環状に成形された回り止め部材25が設けられている。この回り止め部材25は、前記球体部21の貫通孔20に嵌合する軸部材の軸線(
図3中に一点鎖線で表示)と直交し且つ前記球体部21の中心を通る平面上に重ねて設けられており、前記球体部21の赤道付近、すなわち当該球体部21の最大外径部を外側から覆っている。また、前記回り止め部材25の内径は前記球体部21の最大外径よりも僅かに大きく形成され、前記回り止め部材25の内周面と前記球体部21の球面との間には僅かに隙間が設けられている。
【0028】
図4は前記回り止め部材25を示す斜視図である。同図に示されるように、前記回り止め部材25は金属製の平板を環状に成形したものであり、外周面には一対の第一支軸26が設けられる一方、内周面には一対の第二支軸27が設けられている。これら一対の第一支軸26及び一対の第二支軸27は前記球体部21の径方向に沿って設けられており、前記第一支軸26の軸線と前記第二支軸27の軸線は互いに直交している。前記第一支軸26及び前記第二支軸27は前記回り止め部材25と一体に成形してもよいし、ねじ止めや溶接等によって当該回り止め部材と一体化してもよい。
【0029】
前記ホルダ22には前記第一支軸26が嵌合する第一係止穴28が設けられており、前記回り止め部材25は前記第一支軸26を回転中心として前記ホルダ22に対して揺動自在である。また、前記球体部21には前記第二支軸27が嵌合する第二係止穴29が設けられており、前記球体部21は前記第二支軸27を回転中心として前記回り止め部材25に対して回転自在である。
【0030】
図5は前記ホルダ22に設けられた第一係止穴28の詳細を示す図である。前記第一係止穴28は前記ホルダ22の蓋部材24に対して長穴状に形成されており、前記ベース部材23に対して前記蓋部材24を固定することで、前記第一係止穴28が閉塞されて当該第一係止穴28の内部にスペーサ28aと前記第一支軸26が封じ込められる。前記スペーサ28aは前記第一係止穴28と相まって前記第一支軸26を包み込み、これにより当該第一支軸26は回転自在な状態で前記第一係止穴28内に保持される。尚、前記スペーサ28aを設ける代わりに、前記ホルダ22のベース部材23と蓋部材24の分割面を前記第一支軸26の軸中心に合致させ、前記ベース部材23及び前記蓋部材24の双方に半円筒状の第一係止穴を設けるようにしても良い。
【0031】
図6は前記第一支軸26を回転中心とした前記回り止め部材25の揺動を描いた断面図である。同図に示すように、前記ホルダ22には前記回り止め部材25を収容する環状溝30が設けられている。前記環状溝30は前記ベース部材23の凹球面と前記蓋部材24の凹球面の間に存在しており、その溝幅は前記回り止め部材25の幅よりも広く形成されている。前記回り止め部材25が前記第一支軸26を回転中心としてホルダ22に対して揺動した際に、当該回り止め部材25は前記環状溝30内を移動する。すなわち、前記環状溝30の溝幅が前記ホルダ22に対する前記回り止め部材25の揺動範囲を制限している。
【0032】
一方、
図7は前記第二支軸26を回転中心とした前記球体部21の揺動を描いた断面図である。同図に示すように、前記球体部21は前記第二支軸27を回転中心として前記回り止め部材25に対して揺動する。この球体部21の揺動は前記第一支軸26を回転中心とした前記回り止め部材25の揺動とは無関係に生じる。
【0033】
従って、
図3に示すように、前記球体部21の貫通孔20の軸方向をZ方向、前記第一支軸26の軸方向をX方向、前記第二支軸27の軸方向をY方向とした場合に、前記回り止め部材25はX方向を回転中心として前記ホルダ22に対して揺動する一方、前記球体部21はY方向を回転中心として前記回り止め部材25に対して揺動する。そして、これら回り止め部材25と球体部21の動きを重ねることにより、当該球体部21は前記ホルダ22に対してX方向及びY方向へ自在に揺動することが可能であり、前記球体部21の貫通孔20に嵌合した前記軸部材の歳差運動を許容しつつ、当該軸部材を構造物に接続することが可能となっている。この際、前記球体部21の球面は前記ホルダに設けられた凹球面23b,24bと摺接しているので、前記球体部21に作用する荷重は前記回り止め部材25を介することなくホルダ22によって直接的に負荷される。
【0034】
その一方、前記第一支軸26及び第二支軸27は前記球体部21の径方向に沿って設けられて、前記軸部材の軸線(
図3中の一点鎖線)を囲んでいることから、当該軸線の周囲における前記球体部21の回転は前記第一支軸26及び第二支軸27によって係止される。すなわち、前記球体部21に接続される軸部材に回転トルクが作用しても、当該回転トルクは前記第一支軸26及び第二支軸27によって負荷され、前記軸部材はZ軸周りの回転運動を行うことなく前記ホルダ22に接続される。
【0035】
また、前記第一支軸26は前記ホルダ22に対して移動することなく当該ホルダ22に設けられた第一係止穴28に嵌合する一方、前記第二支軸27は前記球体部21に対して移動することなく当該球体部21に設けられた第二係止穴29に嵌合しているので、前記軸部材に繰り返し反転する回転トルクが作用したとしても、前記第一支軸26と前記ホルダ22、第二支軸27と前記球体部21が衝突を繰り返すことがなく、前記球体部21に長穴を形成していた従来の球面継手に比較して支圧耐力が増加して強度面で有利となる。
【0036】
このように構成された球面継手2を用いて前記第一の構造体S1と前記第二の構造体S2との間に減衰装置1を設置する場合、前記ロッド13の軸端又は前記固定筒12の軸端を前記球体部の貫通穴に嵌合させる。
【0037】
図1に示すように、一対の球面継手2を用いて第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に前述した減衰装置1を設置すると、前記第一の構造体S1と前記第二の構造体S2の間に相対的な振動が作用した際に、前記固定筒12に対して前記ロッド13が軸方向へ並進運動を生じる。この並進運動に伴って前記ロッド13に螺合するナット部材14には回転トルクが作用することになり、その反作用として、前記ロッド13に対してもナット部材14に作用する回転トルクとは同じ大きさの逆方向の回転トルクが作用する。
【0038】
このとき、前記球面継手2は前記ロッド13又は前記固定筒12の歳差運動を許容しつつも、前記ロッド13又は前記固定筒12の軸周りの回転を係止するので、前記ナット部材14は前記ロッドの並進運動による移動量に応じた回転を生じることになる。その結果、前記減衰装置1ではナット部材14から前記フライホイール16及びロータ部材17に回転が伝達され、第一の構造体S1に対する第二の構造体S2の振動が強制的に減衰させられる。
【0039】
そして、この球面継手では前記ロッド13又は前記固定筒12の歳差運動を可能にするためには、従来の球面継手のように前記球体部21又は前記ホルダ22に対して長穴を形成する必要がなく、巨大な回転トルクの伝達において強度面で有利なものとなる。
【0040】
図8は前記回り止め部材の第二の例を示す斜視図、
図8は前記回り止め部材の第三の例を示す斜視図である。当該回り止め部材は前記第一支軸26及び前記第二支軸27を有するものであれば、
図4に示した回り止め部材25の如く環状に形成されている必要はない。
図8に示す回り止め部材25Aは、一対の第一支軸26及び一対の第二支軸27を有して略C字状に形成されている。また、
図9に示す回り止め部材25Bは第一支軸及び第二支軸を一本ずつ有しており、球体部を挟むようにして前記回り止め部材25Bを一対配置している。要は、前記第一支軸26が前記ホルダ22に対する回り止め部材25A,25Bの回転中心となり、前記第二支軸27が前記回り止め部材25A,25Bに対する前記球体部21の回転中心となれば、当該第一支軸26及び第二支軸27を支える回り止め部材25,25A,25Bの形状は任意に設計変更可能である。
【0041】
図10は本発明の球面継手を用いて構造体へ取付け可能な前記減衰装置の第二実施形態を示す断面図である。
【0042】
この減衰装置3は、
図2に示す減衰装置1と同様にボールねじ装置を利用した減衰装置を示しているが、前述したようなフライホイール16を備えず、粘性流体による剪断抵抗力のみで第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に作用する振動の減衰を行う。前記減衰装置3は、外周面に雄ねじを有すると共に軸方向の一端が前記球面継手2を介して第一の構造体S1に連結されるロッド31と、中空部を有して円筒状に形成されると共に前記球面継手を介して第二の構造体S2に連結される固定筒32、多数のボールを介して前記ロッド31の雄ねじに螺合すると共に前記固定筒に対して回転自在に支承されたナット部材33と、前記器固定筒32の中空部に収容されると共に軸方向の一端に前記ナット部材33が固定された円筒状のロータ部材34と、を備えている。
【0043】
前期前記第一の構造体S1と前記第二の構造体S2との間に作用する振動に伴って前記ロッド31が前記ナット部材33に対して軸方向へ進退すると、かかるナット部材33は前記ロッド部材31の軸方向運動を回転運動に変換し、このナット部材33の回転運動に伴って当該ナット部材33に固定されたロータ部材34が繰り返し反転する。
【0044】
前記固定筒32の内周面と前記ロータ部材34の外周面との隙間は、粘性流体の収容室35となっており、前記ロータ部材34が回転すると、前記固定筒32の内周面と前記ロータ部材34の外周面との間に粘性流体から剪断抵抗力が作用する。この剪断抵抗力は前記ロッド31の軸方向移動に対して反力として作用するので、第一の構造体S1と第二の構造体S2の間に作用する振動は前記減衰装置3によって減衰される。
【0045】
この第二の実施形態の減衰装置においても、前記球面継手2を用いて第一の構造体S1及び第二の構造体S2に連結することにより、ボールねじ装置を利用した当該減衰装置の性能を十分に発揮させ、且つ、巨大地震に対する減衰装置の損傷を未然に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1…減衰装置、13…ロッド、14…ナット部材、2…球面継手、21…球体部、22…ホルダ、25…回り止め部材、26…第一支軸、27…第二支軸、28…第一係止穴、29…第二係止穴