(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】近赤外発光蛍光体、蛍光体混合物、発光素子、および発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/78 20060101AFI20220617BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20220617BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20220617BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20220617BHJP
C09K 11/59 20060101ALI20220617BHJP
C09K 11/79 20060101ALI20220617BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220617BHJP
【FI】
C09K11/78
C09K11/08 J
C09K11/80
C09K11/64
C09K11/59
C09K11/79
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2018082590
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】丹野 裕明
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107573937(CN,A)
【文献】国際公開第2014/046173(WO,A1)
【文献】Qiyue Shao, et al.,RSC Advances,2018年03月28日,vol. 8,pp. 12035 - 12042,DOI: 10.1039/c8ra01084f
【文献】LAI, S. T., et al.,ScBO3:Cr - A Room Temperature Near-Infrared Tunable Laser,IEEE Journal of Quantum Electoronics,1986年,vol. QE-22, no. 10,pp. 1931-1933
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ScBO
3:Cr(Scの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい)
を含む蛍光体混合物であって、
重量比率で(Y
3
Al
5
O
12
:Ce蛍光体):(Y
3
Ga
5
O
12
:Cr蛍光体):(ScBO
3
:Cr蛍光体)が1:4:6で混合されていることを特徴とする、
蛍光体混合物。
【請求項2】
一般式ScBO
3
:Cr(Scの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい)を含む蛍光体混合物であって、
重量比率で(Y
3
Al
5
O
12
:Ce蛍光体):(Y
3
Ga
5
O
12
:Cr蛍光体):(CaAlSiN
3
蛍光体):(ScBO
3
:Cr蛍光体)が1:4:0.1:6で混合されていることを特徴とする、
蛍光体混合物。
【請求項3】
一般式ScBO
3
:Cr(Scの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい)を含む蛍光体混合物であって、
重量比率で(Y
3
Al
5
O
12
:Ce蛍光体):(Y
3
Ga
5
O
12
:Cr蛍光体):(SrCaAlSiN
3
蛍光体):(ScBO
3
:Cr蛍光体)が1:4:0.1:6で混合されていることを特徴とする、
蛍光体混合物。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれかに記載の蛍光体混合物を備えることを特徴とする
発光素子。
【請求項5】
請求項
1~3のいずれかに記載の蛍光体混合物を備えることを特徴とする
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線の波長領域で発光する蛍光体に関し、特に発光特性に優れた近赤外線発光蛍光体およびそれを使用した蛍光体混合物、発光素子、および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、優れた発光特性を有すると共に、非常に省エネルギーで発光することから、環境面においても注目されている材料である。特に、近年の省電力に対する社会ニーズの増大に伴って、蛍光体の優れた省エネルギー性を活かして、既存のランプに対する代替ニーズが高い。近赤外光は生体への光透過性が高く、非破壊計測への応用が期待されている。また近赤外広帯域光源は多変量解析に適し、成分分析などへの応用が期待されている。特に広帯域な発光分布を有する光源にはLEDのようなシャープな発光の組み合わせより蛍光体のようなブロードな発光スペクトルを組み合わせる光源が強く望まれているところである。
【0003】
このようなランプを実現するためには、発光特性に優れた各種波長領域の蛍光体が必要であるが、とりわけ、近赤外線の波長領域で発光する蛍光体(近赤外線発光蛍光体)については、他の波長領域の蛍光体と比べて発光特性が十分とは言えず、さらに発光特性に優れたものが求められている。
【0004】
従来の近赤外線発光蛍光体としては、InBO3:Cr、Y3Al5O12:Cr、Y3Ga5O12:Cr、Gd3Al5O12:Cr、Gd3Ga5O12:Crなどのクロム賦活蛍光体が知られており、これらの蛍光体に含まれるクロム元素の濃度を変化させても254nm励起強度は変化しなかったことが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】第32回照明学会全国大会講演論文集(平成11年度)47頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の近赤外線発光蛍光体は、他の発光色と比べて発光強度が十分なものとは言えず、より優れた発光強度のものが要求されている。特に広帯域で発光するランプとしての用途では、蛍光体に対してハイパワーおよび持続稼動が高水準で要求されており、強い発光強度が必要とされている。
【0007】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、優れた発光強度を発揮する新しいタイプの近赤外線発光蛍光体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来蛍光体として知られていない新たな組成の蛍光体が、ピーク的に高い近赤外線を発光することを見出し、本発明を導き出した。さらに、当該蛍光体と他のある種の蛍光体を含む蛍光体混合物が、広い範囲の近赤外線領域にわたってブロードな発光をすることも見出し、本発明を導き出した。
【0009】
かくして、本願に開示する近赤外線発光蛍光体は、一般式ScBO3:Cr(Scの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい)で表される。また、本願に開示する蛍光体混合物は、当該近赤外線発光蛍光体を含む蛍光体混合物であって、Y3Al5O12:Ce蛍光体、CaAlSiN3蛍光体、SrCaAlSiN3蛍光体、(Y, Lu, Gd)3(Ga, Al, Sc)5O12 : Cr蛍光体、(Ba,Sr)2SiO4:Eu蛍光体、(Ba,Sr)3SiO5:Eu蛍光体、(Lu, Y, Gd)3Al5O12:Ce蛍光体、La3Si6N11:Ce蛍光体、およびα-サイアロン蛍光体から成る群から選択される少なくとも1つの蛍光体を含むものである。また、本願に開示する発光素子は、当該近赤外線発光蛍光体または当該蛍光体混合物を備えるものである。また、本願に開示する発光装置は、当該近赤外線発光蛍光体または当該蛍光体混合物を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1の蛍光体のX線回折パターンである。
【
図2】本発明の実施例1の蛍光体から得られた発光特性である。
【
図3】本発明の実施例2の蛍光体から得られた発光特性である。
【
図4】本発明の実施例3の蛍光体混合物から得られた発光特性である。
【
図5】本発明の実施例4の蛍光体混合物から得られた発光特性である。
【
図6】本発明の実施例4の蛍光体混合物から得られた発光特性である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る近赤外線発光蛍光体は、一般式ScBO3:Crで表されるものである。なお、本発明に係る近赤外線発光蛍光体を構成するScの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい。このような希土類元素としては、Ce (セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd (ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu (ユウロピウム)、Gd (ガドリニウム)、Tb (テルビウム)、Dy (ジスプロシウム)、Ho (ホルミウム)、Er (エルビウム)、Tm (ツリウム)、Yb (イッテルビウム)、Lu (ルテチウム)を挙げることができる。また、第13族元素としてはB(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)を挙げることができる。
【0012】
励起源としては、近赤外線領域よりも短波長であれば特に限定されないが、好ましくは、波長200nm~380nmの紫外線領域や、波長380~450nmの紫色可視光や、波長450~495 nmの青色可視光、波長570~590 nmの黄色可視光、波長590~620 nmの橙色可視光を用いることである。このことから、例えば、紫外線発光蛍光体や、青色発光蛍光体を励起源として利用することができる。
【0013】
本発明に係る近赤外線発光蛍光体は、この励起源からの照射によって、波長550nm~950nmに発光ピークを有する演色性の高い発光スペクトルを示す橙色可視光~赤色可視光~近赤外線が発光される。なお、本発明の近赤外線発光蛍光体は、上記の波長550nm~950nmに発光ピークを有することから、本発明の近赤外線発光蛍光体で定義される近赤外線とは、近赤外線(750nm~1400nm)を主体とする波長領域を意味するものであり、橙色可視光および赤色可視光も含むものである。
【0014】
このように、本発明に係る近赤外線発光蛍光体は、橙色可視光および赤色可視光も含む近赤外線(750nm~1400nm)を高い発光強度で発光するものであり、発光素子、発光装置などに利用することができる。
【0015】
このような本発明に係る発光装置の一態様としては、本発明に係る近赤外線発光蛍光体と、近紫外光を発光する発光素子を含んで構成することができる。本発明に係る近赤外線発光蛍光体が、近紫外光を発光する発光素子から近紫外線を照射されることによって、効率的に近赤外線を発光する装置を構成することができる。また、他の公知の蛍光体と組み合わせることによって、太陽光に近い白色光源としての白色光発光装置に利用することもできる。
【0016】
さらに、本発明者は、本発明に係る近赤外線発光蛍光体を、他の特定の蛍光体と混合することによって、よりブロードな(フラットな)近赤外線発光が実現されることを確認している。例えば、本発明に係る近赤外線発光蛍光体と、Y3Al5O12:Ce蛍光体と、CaAlSiN3蛍光体と、(Y, Lu, Gd)3(Ga, Al, Sc)5O12 : Cr蛍光体との混合物としての蛍光体混合物を構成することによって、よりブロードな(フラットな)近赤外線発光が実現される(後述の実施例参照)。
【0017】
このように従来では得られなかった優れた近赤外線発光を生じるメカニズムは未だ詳細には解明されていないが、本発明に係る近赤外線発光蛍光体の各構成元素が最適なバランスで配合されていることによって、結晶性が高められ、優れた発光特性が発揮されるという結晶構造が形成されているものと推察される。
【0018】
このような本発明に係る近赤外線発光蛍光体としては、一般式Sc1-xBO3:Crx(xは、0<x<1)として表され、例えば、Sc0.99BO3:Cr0.01、Sc0.95BO3:Cr0.05、Sc0.9BO3:Cr0.1などが挙げられる。
【0019】
上記一般式で示される各構成元素の組成比は、出発原料の原料モル組成比から定められるものである。すなわち、上記一般式中に定義された組成比xは、出発原料におけるCrの原料モル組成比を表している。また、上記一般式中に定義された組成比(1-x)は、出発原料におけるScの原料モル組成比を表している。
【0020】
このような優れた特性を有する本発明に係る近赤外線発光蛍光体を合成する方法は、特に限定されないが、例えば、発光センターのCr源と、Sc源、B源のうちの一または複数を、乾式或いは湿式法を用いて均一混合し、それを還元雰囲気で焼成することにより製造することができる。
【0021】
当該各原料化合物については、本発明に係る近赤外線発光蛍光体の構成元素(例えば、Cr、Sc、B)が含有されている化合物を、所望とする構成元素の近赤外線発光蛍光体が得られるように(構成元素が漏れないように)用いれば、特に制限はされない。
【0022】
このような原料化合物の一例としては、近赤外線発光蛍光体の構成元素を含有する酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硫化物、水酸化物、ハロゲン化物等を用いることができる。例えば、近赤外線発光蛍光体の構成元素の1つであるクロム元素(Cr)に関しては、原料化合物の1つとしては、酸化クロム等を用いることが可能である。本発明に係る近赤外線発光蛍光体を製造する際に、当該各原料化合物は熱処理されるため、当該熱処理によって、最終的には当該各原料化合物から構成元素だけが残り、原料化合物が酸化物、水酸化物、又は炭化物であるかどうかに依存することはなく、本発明に係る所望とする近赤外線発光蛍光体が形成される。
【0023】
このようにして得られた本発明に係る近赤外線発光蛍光体は、それ自体として上述の優れた特性を有するものであるが、さらに、他の蛍光体と混合することによって、より広い範囲の近赤外線領域にわたってブロードな発光をする蛍光体混合物として利用することができる。
【0024】
このような本発明に係る蛍光体混合物としては、上述の近赤外線発光蛍光体ScBO3:Cr(Scの一部は、希土類元素および第13族元素から選ばれる少なくとも一つの元素で置換されていてもよい)を含むと共に、Y3Al5O12:Ce蛍光体、CaAlSiN3蛍光体、SrCaAlSiN3蛍光体、(Y, Lu, Gd)3(Ga, Al, Sc)5O12 : Cr蛍光体、(Ba,Sr)2SiO4:Eu蛍光体、(Ba,Sr)3SiO5:Eu蛍光体、(Lu, Y, Gd)3Al5O12:Ce蛍光体、La3Si6N11:Ce蛍光体、およびα-サイアロン蛍光体から成る群から選択される少なくとも1つの蛍光体を含むものである。
【0025】
好ましくは、Y3Al5O12:Ce蛍光体および(Y, Lu, Gd)3(Ga, Al, Sc)5O12 : Cr蛍光体を含むことであり、よりブロードな(フラットな)近赤外線発光が得られる。さらに好ましくは、CaAlSiN3蛍光体および/またはSrCaAlSiN3蛍光体を含むことであり、さらにブロードな(フラットな)近赤外線発光が得られる。
【0026】
また、本発明に係る蛍光体混合物は、混合される各蛍光体の重量比率は特に限定されない。
【0027】
本発明に係る蛍光体混合物は、この励起源からの照射によって、波長550nm~950nmに発光ピークを有するブロードな(フラットな)発光スペクトルを示す橙色可視光および赤色可視光も含む近赤外線(750nm~1400nm)を高い発光強度で発光することができ、各種の発光素子や発光装置などに利用することができる。
【0028】
本発明の特徴を更に明らかにするため、以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0029】
(実施例1)
原料として、Cr
2O
3、H
3BO
3、Sc
2O
3を最終的なCr:Sc:B:Oのモル組成比が、0.01:0.99:1:3、0.05:0.95:1:3、0.1:0.9:1:3となるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製坩堝にいれ、電気炉に大気中1200℃で5時間焼成した。焼成物を水洗浄、乾燥、分級処理後、実施例1に該当する近赤外線発光蛍光体Sc
0.99BO
3:Cr
0.01、Sc
0.95BO
3:Cr
0.05、Sc
0.9BO
3:Cr
0.1を得た。線源がCuKα線のX線回折装置(XRD6100、島津製作所社製)を用いてX線回折パターンを測定した。蛍光分光光度計(FP6500、JASCO社製)で波長450nm励起および590nm励起による発光特性を測定した。得られた蛍光体のX線回折パターンを
図1に示す。
図1から、得られた蛍光体において異相は認められず、高品位な結晶が形成されたことが確認された。
【0030】
また、得られた蛍光体の波長450nm励起および590nm励起での発光特性を、各々
図2および
図3に示す。得られた結果から、近赤外線領域において極めて高い発光強度での発光が確認された。
【0031】
(実施例2)
(3種の蛍光体混合物)
以下、上記実施例1で得た近赤外線発光蛍光体ScBO
3:Crを、他の蛍光体と混合して蛍光体混合物を得た。本実施例では、3種類の蛍光体を混合した。すなわち、重量比率で、Y
3Al
5O
12:Ce蛍光体:Y
2.9Ga
5O
12 : Cr
0.1蛍光体:近赤外線発光蛍光体ScBO
3:Crを1:4:6で混合した蛍光体混合物を得た。得られた蛍光体混合物について、波長450nm励起による発光特性の測定結果を
図4に示す。
【0032】
得られた蛍光体混合物は、波長550nm~850nmの広範囲にわたりフラットな発光スペクトルで近赤外線を発光することが確認された。
【0033】
(実施例3)
(4種の蛍光体混合物)
本実施例では、4種類の蛍光体を混合した。すなわち、重量比で、Y
3Al
5O
12:Ce蛍光体:Y
2.9Ga
5O
12 : Cr
0.1蛍光体:CaAlSiN
3蛍光体:近赤外線発光蛍光体ScBO
3:Crを1:4:0.1:6で混合した蛍光体混合物を得た。また、同じ重量比率で、CaAlSiN
3蛍光体をSrCaAlSiN
3蛍光体に替えて混合した蛍光体混合物を得た。得られた蛍光体混合物について、波長450nm励起による発光特性の測定結果を各々
図5および
図6に示す。
【0034】
得られた蛍光体混合物は、いずれも、波長550nm~850nmの広範囲にわたりフラットな発光スペクトルで近赤外線を発光することが確認された。いずれも良好な発光を示しており、特に、CaAlSiN3蛍光体を用いた蛍光体混合物がより高い発光強度で発光したことが確認された。
【0035】
得られた結果から、各実施例の蛍光体混合物では、これまでにはない高い発光強度を有するフラットな近赤外線が発光されたことから、その用途の一例としては、可視から近赤外光が必要な多変量解析用のランプとして利用することが可能である。