(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】金属積層体及び金属積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220617BHJP
B21D 39/03 20060101ALI20220617BHJP
H02K 1/30 20060101ALI20220617BHJP
B21D 28/02 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
H02K15/02 F
B21D39/03 Z
H02K1/30 A
B21D28/02 D
(21)【出願番号】P 2018143615
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】泉 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】原口 誠
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-025533(JP,A)
【文献】特開昭61-249635(JP,A)
【文献】特開2009-226414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00- 1/34
H02K 15/00- 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属板と第2の金属板とが積層された積層体を備え、
前記第1の金属板は、前記第1の金属板の裏面側から突出し且つ前記第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメを含み、
前記第2の金属板は、前記カシメを収容し且つ前記カシメと嵌合するように構成された収容部を含み、
前記カシメは、
前記裏面側に向けて窪むように前記カシメの内側凹面に設けられた
第1及び第2の凹部と、
前記
第1の凹部に対応する位置において前記カシメの外側凸面に設けられ且つ前記収容部の内面と当接する
第1の当接部と
、
前記第2の凹部に対応する位置において前記カシメの外側凸面に設けられ且つ前記内面と当接する第2の当接部とを含み、
前記カシメの外側凸面は、
前記内側凹面の反対側に位置する底面と、
前記内側凹面と前記底面とを接続するように延び、且つ、前記内面と対向する第1の側面と、
前記内側凹面と前記底面とを接続するように延び、前記内面と対向し、且つ、前記第1の側面の反対側に位置する第2の側面とを含み、
前記第1の凹部は、前記第1の側面に沿って延びるように前記第1の側面の近傍に位置しており、
前記第2の凹部は、前記第2の側面に沿って延びるように前記第2の側面の近傍に位置しており、
前記
第1の当接部は
、前記第1の凹部の延在方向に沿って延びるように前記第1の側面に設けられ、前記
第1の側面から前記内面に向け
て膨らんで
おり、これによってその先端部が前記内面と当接しており、
前記第2の当接部は、前記第2の凹部の延在方向に沿って延びるように前記第2の側面に設けられ、前記第2の側面から前記内面に向けて膨らんでおり、これによってその先端部が前記内面と当接している、金属積層体。
【請求項2】
第1の金属板と第2の金属板とが積層された積層体を備え、
前記第1の金属板は、前記第1の金属板の裏面側から突出し且つ前記第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメを含み、
前記第2の金属板は、前記カシメを収容し且つ前記カシメと嵌合するように構成された収容部を含み、
前記カシメは、
前記裏面側に向けて窪むように前記カシメの内側凹面に設けられた凹部と、
前記凹部に対応する位置において前記収容部の内面と当接する当接部とを含み、
前記当接部の金属密度は前記カシメの他の部分の金属密度よりも高い、金属積層体。
【請求項3】
前記凹部の端部は、前記当接部に向けて延びているが前記当接部に至っていない、請求項
2に記載の金属積層体。
【請求項4】
前記凹部と前記当接部とが並ぶ方向に直交する方向で、前記当接部の幅は前記凹部の幅よりも大きい、請求項
2又は3に記載の金属積層体。
【請求項5】
前記内側凹面は、底面と、前記底面から立ち上がる側面とを含み、
前記凹部は前記底面の周縁近傍に位置している、請求項
2~
4のいずれか一項に記載の金属積層体。
【請求項6】
第1の金属板の裏面側から突出し且つ前記第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメが形成された第1の金属板と、前記カシメを収容可能に構成された収容部が形成された第2の金属板とを、前記カシメを前記収容部に嵌合させつつ積層することを含み、
前記第1及び第2の金属板を積層することは、前記カシメを前記収容部に嵌合させる際に、先端面に突起が設けられたプッシュパンチを前記カシメの内側凹面に押し付けて、前記内側凹面に
第1及び第2の凹部を形成しつつ、前記
第1の凹部に対応する位置において前記収容部の内面と当接する
第1の当接部
と、前記第2の凹部に対応する位置において前記収容部の内面と当接する第2の当接部とを形成することを含
み、
前記カシメの外側凸面は、
前記内側凹面の反対側に位置する底面と、
前記内側凹面と前記底面とを接続するように延び、且つ、前記内面と対向する第1の側面と、
前記内側凹面と前記底面とを接続するように延び、前記内面と対向し、且つ、前記第1の側面の反対側に位置する第2の側面とを含み、
前記第1の凹部は、前記第1の側面に沿って延びるように前記第1の側面の近傍に位置しており、
前記第2の凹部は、前記第2の側面に沿って延びるように前記第2の側面の近傍に位置しており、
前記第1の当接部は、前記第1の凹部の延在方向に沿って延びるように前記第1の側面に設けられ、前記第1の側面から前記内面に向けて膨らんでおり、これによってその先端部が前記内面と当接しており、
前記第2の当接部は、前記第2の凹部の延在方向に沿って延びるように前記第2の側面に設けられ、前記第2の側面から前記内面に向けて膨らんでおり、これによってその先端部が前記内面と当接している、金属積層体の製造方法。
【請求項7】
帯状の金属材料に第1のパンチを押し付けて、前記カシメを前記金属材料に形成することと、
前記金属材料に第2のパンチを押し付けて、前記収容部を前記金属材料に形成することと、
前記金属材料に第3のパンチを押し付けて、前記収容部を含む前記第2の金属板を前記金属材料から打ち抜くこととをさらに含み、
前記第1及び第2の金属板を積層することは、前記金属材料に前記第3のパンチを押し付けて、前記カシメを含む前記第1の金属板を前記金属材料から打ち抜きつつ前記カシメを前記収容部に嵌合させることを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
第1の金属板の裏面側から突出し且つ前記第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメが形成された第1の金属板と、前記カシメを収容可能に構成された収容部が形成された第2の金属板とを、前記カシメを前記収容部に嵌合させつつ積層することを含み、
前記第1及び第2の金属板を積層することは、前記カシメを前記収容部に嵌合させる際に、先端面に突起が設けられたプッシュパンチを前記カシメの内側凹面に押し付けて、前記内側凹面に凹部を形成しつつ、前記凹部に対応する位置において前記収容部の内面と当接する当接部を形成することを含み、
前記当接部の金属密度は前記カシメの他の部分の金属密度よりも高い、
金属積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属積層体及び金属積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、積層鉄心の製造方法を開示している。当該方法は、コイル状に巻回された帯状の金属板(被加工板)であるコイル材をアンコイラーから所定のピッチで間欠的に順次送り出しながら、金属板の所定箇所に貫通孔又はカシメを形成することと、金属板をパンチで打ち抜いて、貫通孔又はカシメを有する打抜部材を形成することと、複数の打抜部材を積層しつつ貫通孔及びカシメを介して複数の打抜部材を締結して積層鉄心を形成することとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、カシメの締結力を大幅に向上することが可能な金属積層体及び金属積層体の製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一つの観点に係る金属積層体は、第1の金属板と第2の金属板とが積層された積層体を備える。第1の金属板は、第1の金属板の裏面側から突出し且つ第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメを含む。第2の金属板は、カシメを収容し且つカシメと嵌合するように構成された収容部を含む。カシメは、裏面側に向けて窪むようにカシメの内側凹面に設けられた凹部と、凹部に対応する位置においてカシメの外側凸面に設けられ且つ収容部の内面と当接する当接部とを含む。当接部は外側凸面から内面に向けて側方に膨らんでいる。
【0006】
本開示の他の観点に係る金属積層体は、第1の金属板と第2の金属板とが積層された積層体を備える。第1の金属板は、第1の金属板の裏面側から突出し且つ第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメを含む。第2の金属板は、カシメを収容し且つカシメと嵌合するように構成された収容部を含む。カシメは、裏面側に向けて窪むようにカシメの内側凹面に設けられた凹部と、凹部に対応する位置において収容部の内面と当接する当接部とを含む。当接部の金属密度はカシメの他の部分の金属密度よりも高い。
【0007】
本開示の他の観点に係る金属積層体の製造方法は、第1の金属板の裏面側から突出し且つ第1の金属板の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメが形成された第1の金属板と、カシメを収容可能に構成された収容部が形成された第2の金属板とを、カシメを収容部に嵌合させつつ積層することを含む。第1及び第2の金属板を積層することは、カシメを収容部に嵌合させる際に、先端面に突起が設けられたプッシュパンチをカシメの内側凹面に押し付けて、内側凹面に凹部を形成しつつ、凹部に対応する位置において収容部の内面と当接する当接部を形成することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る金属積層体及び金属積層体の製造方法によれば、カシメの締結力を大幅に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、回転子積層鉄心の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、カシメの一例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図4】
図4(a)はカシメの一例を示す側面図であり、
図4(b)はカシメの一例を示す上面図である。
【
図6】
図6は、回転子積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7(a)は貫通孔の形成過程を説明するための概略断面図であり、
図7(b)はカシメの形成過程を説明するための概略断面図である。
【
図8】
図8は、打抜部材を積層させる機構と、積層体を金型から排出する機構とを模式的に示す断面図であり、電磁鋼板から打抜部材をパンチにより打ち抜く様子を説明するための図である。
【
図9】
図9は、プッシュパンチの一例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、V字形カシメを形成するためのプッシュパンチの他の例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図12】
図12(a)はプッシュパンチの他の例を下方から見た様子を示す斜視図であり、
図12(b)は丸平カシメの一例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、丸平カシメを形成するためのプッシュパンチの他の例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図14】
図14(a)はプッシュパンチの他の例を下方から見た様子を示す斜視図であり、
図14(b)は角平カシメの一例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【
図15】
図15(a)はプッシュパンチの他の例を下方から見た様子を示す斜視図であり、
図15(b)はスキューカシメの一例を下方から見た様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0011】
[回転子積層鉄心]
まず、
図1及び
図2を参照して、回転子積層鉄心1(金属積層体)の構成について説明する。回転子積層鉄心1は、回転子(ロータ)の一部である。回転子は、図示しない端面板及びシャフトが回転子積層鉄心1に取り付けられることにより構成される。回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。本実施形態における回転子積層鉄心1は、埋込磁石型(IPM)モータに用いられてもよいし、他の種類のモータに用いられてもよい。
【0012】
回転子積層鉄心1は、
図1に示されるように、積層体10と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14とを備える。
【0013】
積層体10は、円筒状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10aが設けられている。すなわち、軸孔10aは、積層体10の積層方向(高さ方向)に延びている。本実施形態において積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。軸孔10a内には、シャフトが挿通される。
【0014】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16が形成されている。磁石挿入孔16は、
図1に示されるように、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、
図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。すなわち、磁石挿入孔16は高さ方向に延びている。
【0015】
磁石挿入孔16の形状は、本実施形態では、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔である。磁石挿入孔16の数は、本実施形態では6個である。磁石挿入孔16は、上方から見て時計回りにこの順に並んでいる。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0016】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ES(金属材料)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。本明細書において、
図2に示されるように、積層体10の最下層以外を構成する打抜部材Wを「打抜部材W1」(第1の金属板)と称し、積層体10の最下層を構成する打抜部材Wを「打抜部材W2」(第2の金属板)と称することがある。
【0017】
積層体10は、いわゆる転積又はスキューによって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。「スキュー」とは、中心軸Axに対して捩れ角を有するように複数の打抜部材Wを積層することをいう。スキューは、コギングトルク、トルクリップル等の低減を目的に実施される。転積又はスキューの角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0018】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、
図1及び
図2に示されるように、カシメ部18によって締結されている。具体的には、カシメ部18は、
図2に示されるように、打抜部材W1に形成されたカシメ20と、打抜部材W2に形成された貫通孔22とを含む。
【0019】
カシメ20は、打抜部材W1の表面S1側に形成された窪み20aと、打抜部材W1の裏面S2側に形成された突起20bとで構成されている。カシメ20は、例えば、全体として山型状を呈している。このような形状のカシメ20は、「V字形カシメ」とも言われる。カシメ20の長さは例えば4mm程度であってもよい。カシメ20の幅は例えば1mm程度であってもよい。
【0020】
一の打抜部材W1の窪み20aは、当該一の打抜部材W1の表面S1側に隣り合う他の打抜部材W1の突起20bと嵌合している。一の打抜部材W1の突起20bは、当該一の打抜部材W1の裏面S2側において隣り合うさらに他の打抜部材W1の窪み20aと接合される。すなわち、さらに他の打抜部材の窪み20aは、一の打抜部材W1の突起20bを収容する収容部として機能する。
【0021】
貫通孔22は、カシメ20の外形に対応した形状を呈する長孔である。カシメ20がV字形カシメである場合、貫通孔22は矩形状を呈する。貫通孔22には、打抜部材W2に隣接する打抜部材W1Nの突起20bが嵌合される。すなわち、貫通孔22は、打抜部材W1Nの突起20bを収容する収容部として機能する。貫通孔22は、積層体10を連続して製造する際、既に製造された積層体10に対し、続いて形成された打抜部材Wがカシメ20(突起20b)によって締結されるのを防ぐ機能を有する。
【0022】
図2に示されるように、カシメ20の突起20bの先端部は、貫通孔22から外方に突出している。すなわち、積層体10の下端面が下向きの状態において、カシメ20の突起20bの底部は当該下端面から下方に突出している。裏面S2からのカシメ20の突出量は、打抜部材W1の板厚よりも大きくてもよく、例えば、0.25mm~0.5mm程度であってもよいし、0.28mm程度であってもよい。
【0023】
永久磁石12は、
図1及び
図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体形状を呈している。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0024】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入された後の磁石挿入孔16内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0025】
[カシメの詳細]
続いて、
図3~
図5を参照して、カシメ20の構成についてより詳細に説明する。
【0026】
カシメ20の窪み20aの表面は、カシメ20の内側凹面S3を構成している。内側凹面S3は、
図3及び
図4に示されるように、底面S3aと、底面S3aから立ち上がる側面S3bとを含む。
図3及び
図4に例示される形態では、カシメ20の長手方向において底面S3aの両側に一対の側面S3bが配置されており、一対の側面S3bは、底面S3aから上方に向かうにつれて互いに離間するように傾斜する傾斜面となっている。
【0027】
図4(b)及び
図5に示されるように、底面S3aには、裏面S2側に向けて窪む凹部24が設けられている。すなわち、カシメ20は、内側凹面S3に設けられた凹部24を含んでいる。凹部24は、カシメ20の短手方向(幅方向)において直線状に延びている。凹部24の長さは、カシメ20の幅よりも小さくてもよい。この場合、凹部24の端部は、後述する当接部26には到達しない(
図4(b)及び
図5参照)。すなわち、凹部24の端部と底面S3aの側縁との離間距離d1は、0より大きくてもよいし、10μm~200μm程度であってもよい。凹部24の幅d2は、例えば10μm~50μm程度であってもよい。凹部24の深さは、例えば、打抜部材W1の板厚の1/2以下であってもよい。なお、凹部24の深さは、その長手方向において必ずしも一定であるとは限らない。すなわち、凹部24の形状は、必ずしも、後述するプッシュパンチP4の頂部P4aと対応しているとは限らない。
【0028】
カシメ20の突起20bの表面は、カシメ20の外側凸面S4を構成している。外側凸面S4は、
図3及び
図4(a)に示されるように、底面S4aと、底面S4aから立ち上がる側面S4b,S4cとを含む。
図3及び
図4に例示される形態では、カシメ20の長手方向において底面S4aの両側に一対の側面S4bが配置されており、一対の側面S4bは、底面S4aから上方に向かうにつれて互いに離間するように傾斜する傾斜面となっている。
図3及び
図4に例示される形態では、カシメ20の短手方向(幅方向)において底面S4aの両側に一対の側面S4cが配置されている。各側面S4cは、底面S4a及び側面S4bと内側凹面S3とを接続するように延びている。
【0029】
側面S4cには、側面S4cから外側に向けて側方に膨らむ当接部26が設けられている。すなわち、カシメ20は、外側凸面S4に設けられた当接部26を含んでいる。当接部26は、凹部24に対応するように位置している。
図4(b)及び
図5に示される例では、当接部26は、凹部24の端部近傍に位置している。当接部26は、
図4及び
図5に示されるように、カシメ20の突起20bを収容している他のカシメ20の窪み20aの内面、又は、カシメ20の突起20bを収容している貫通孔22の内面と当接している。以下では、窪み20a及び貫通孔22をまとめて「収容部」と称することがある。
【0030】
当接部26の幅d3は、
図5に示されるように、凹部24の幅d2よりも大きくてもよく、例えば20μm~60μm程度であってもよい。当接部26の突出量は、例えば、0μm~20μm程度であってもよい。当接部26の金属密度は、カシメ20の他の部分の金属密度よりも高くなっていてもよい。これらの金属密度は、例えば、電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察により確認することができる。
【0031】
[回転子積層鉄心の製造装置]
続いて、
図6~
図10を参照して、回転子積層鉄心1の製造装置100について説明する。
【0032】
製造装置100は、
図6に示されるように、帯状の金属板である電磁鋼板ES(被加工板)から回転子積層鉄心1を製造するための装置である。電磁鋼板ESの厚さは、例えば、0.1mm~0.5mm程度であってもよく、0.25mm程度であってもよい。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、磁石取付装置(図示せず)と、コントローラ140(制御部)とを備える。
【0033】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラ140からの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて間欠的に順次送り出す。
【0034】
打抜装置130は、コントローラ140からの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを複数のパンチにより順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0035】
打抜装置130は、ベース131と、下型132と、ダイプレート133と、ストリッパ134と、上型135と、天板136と、プレス機137(駆動部)と、複数のパンチとを含む。
【0036】
ベース131は、床面上に設置されており、ベース131に載置された下型132を支持する。下型132は、下型132に載置されたダイプレート133を保持する。下型132には、電磁鋼板ESから打ち抜かれた材料(例えば、打抜部材W、廃材等)が排出される排出孔が所定の位置に設けられている。
【0037】
ダイプレート133は、複数のパンチと共に、打抜部材Wを成形する機能を有する。ダイプレート133には、各パンチに対応する位置にダイがそれぞれ設けられている。各ダイには、対応するパンチが挿通可能に構成されたダイ孔が設けられている。
【0038】
ストリッパ134は、各パンチで電磁鋼板ESを打ち抜く際に、電磁鋼板ESをダイプレート133との間で挟持する機能と、各パンチに食いついた電磁鋼板ESを各パンチから取り除く機能とを有する。上型135は、ストリッパ134の上方に位置している。上型135には、各パンチの基端部が取り付けられている。
【0039】
天板136は、上型135の上方において上型135を保持している。プレス機137は、天板136の上方に位置している。プレス機137のピストンは、天板136に接続されており、コントローラ140からの指示信号に基づいて動作する。プレス機137が動作すると、ピストンが伸縮して、ストリッパ134、上型135、天板136、各パンチが全体的に上下動する。
【0040】
磁石取付装置は、コントローラ140からの指示信号に基づいて動作する。磁石取付装置は、打抜装置130によって得られた積層体10の各磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能と、永久磁石12が挿通された磁石挿入孔16内に溶融樹脂を充填する機能とを有する。
【0041】
コントローラ140は、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130及び磁石取付装置をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、送出装置120、打抜装置130及び磁石取付装置に当該指示信号をそれぞれ送信する。
【0042】
ここで、打抜装置130が含む複数のパンチ及び複数のダイについて、より詳しく説明する。打抜装置130は、例えば、
図7及び
図8に示されるように、パンチ部P10,P20,P30を含む。
【0043】
パンチ部P10は、打抜部材W2となる電磁鋼板ESに貫通孔22を形成する機能を有する。パンチ部P10は、
図7(a)に示されるように、ダイD1及びパンチP1(第2のパンチ)の組み合わせにより構成されている。ダイD1には、ダイ孔D1aが形成されている。
【0044】
パンチP1は、ダイ孔D1aに対応する形状を有する。パンチP1は、ストリッパ134の貫通孔134aを通じてダイ孔D1a内に対して挿抜可能に構成されている。
【0045】
パンチ部P20は、打抜部材W1となる電磁鋼板ESにカシメ20を形成する機能を有する。パンチ部P20は、
図7(b)に示されるように、ダイD2及びパンチP2(第1のパンチ)の組み合わせにより構成されている。ダイD2には、ダイ孔D2aが形成されている。ダイ孔D2aの大きさは、ダイ孔D1aの大きさと同程度であってもよい。
【0046】
パンチP2は、ダイ孔D2aに対応する形状を有する。パンチP2は、ストリッパ134の貫通孔134bを通じてダイ孔D2a内に対して挿抜可能に構成されている。パンチP2の外形は、ダイ孔D2aの外形よりも若干小さく設定されている。ダイ孔D2aとパンチP2との間のクリアランスCLは、カシメ20と貫通孔22との間で生じさせようとする嵌合力に応じて種々の大きさに設定しうる。
【0047】
パンチP2の先端部は、全体として山型状を呈している。そのため、パンチP2で加工された電磁鋼板ESには、パンチP2の先端部に対応する形状の凹凸が形成される。当該凹凸がカシメ20を構成する。
【0048】
パンチ部P30は、電磁鋼板ESを打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能を有する。パンチ部P30は、
図8に示されるように、ダイD3、パンチP3(第3のパンチ)及びプッシュパンチP4の組み合わせにより構成されている。ダイD3には、ダイ孔D3aが形成されている。ダイ孔D3aは、打抜部材Wの外形形状に対応する形状を呈している。
【0049】
パンチP3は、ダイ孔D3aに対応する形状を有する。パンチP3は、ストリッパ134の貫通孔134cを通じてダイ孔D3a内に対して挿抜可能に構成されている。パンチP3は、その長手方向において延びる複数の貫通孔P3aを含む。複数の貫通孔P3aはそれぞれ、パンチP2によって電磁鋼板ESに形成される複数のカシメ20に対応するように位置している。
【0050】
プッシュパンチP4は、各貫通孔P3aにそれぞれ一つずつ挿通されている。プッシュパンチP4は、貫通孔P3a内において上下に移動可能であり、パンチP3の下端面からの突出量を調整できるように構成されている。ただし、パンチP3によって電磁鋼板ESを打ち抜く際には、プッシュパンチP4はパンチP3に対して固定される。
【0051】
プッシュパンチP4は、
図9に示されるように、直方体形状を呈しており、カシメ20の窪み20aに対応する形状を有する。プッシュパンチP4の下端部は、全体として山型状を呈している。より詳しくは、当該下端部は、頂部P4a(先端面)と、頂部P4aの両側に位置する裾野部P4bと、頂部P4aから下方に向けて突出する突起部P4c(突起)とを含む。
図9に示される例では、突起部P4cは、頂部P4a及び裾野部P4bが並ぶ方向(プッシュパンチP4の幅方向)に対して直交する方向(プッシュパンチP4の厚さ方向)に延びる突条である。
【0052】
プッシュパンチP4は、パンチP3による電磁鋼板ESの打ち抜き時にパンチP3と一体的に上下動して、カシメ20の窪み20aを押圧する機能を有する。プッシュパンチP4の下端部が窪み20aに押し付けられると、
図10に示されるように、頂部P4aは窪み20aの底面S3aを押圧し、裾野部P4bは窪み20aの側面S3bを押圧し、突起部P4cは底面S3aに凹部24を形成する。
【0053】
図8に戻って、ダイD3の下方の空間132a内には、シリンダ132bと、ステージ132cと、プッシャ132dとが配置されている。シリンダ132bは、コントローラ140からの指示信号に基づいて、ステージ132cに設けられた孔132eを通じて上下方向に移動可能に構成されている。具体的には、シリンダ132bは、シリンダ132b上に打抜部材Wが積み重ねられるごとに間欠的に下方に移動する。シリンダ132b上において打抜部材Wが所定枚数まで積層され、積層体10が形成されると、シリンダ132bの表面がステージ132cの表面と同一高さとなる位置へとシリンダ132bが移動する。
【0054】
このとき、打抜部材W2に隣接する打抜部材W1Nの突起20bは、貫通孔22を通じて積層体10の下端面から下方に突出した状態である。すなわち、打抜部材W2に隣接する打抜部材W1Nの突起20bの底面S4aは、シリンダ132bの表面(支持面)によって支持されている。
【0055】
プッシャ132dは、コントローラ140からの指示信号に基づいて、ステージ132cの表面上において水平方向に移動可能に構成されている。シリンダ132bの表面がステージ132cの表面と同一高さとなる位置にシリンダ132bが移動した状態で、プッシャ132dは、積層体10をシリンダ132bからステージ132cに払い出す。ステージ132cに払い出された積層体10は、コンベア又は人手により後続の磁石取付装置に搬送される。
【0056】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、回転子積層鉄心1の製造方法について、
図6~
図10を参照して説明する。
【0057】
まず、打抜装置130により電磁鋼板ESを順次打ち抜きつつ打抜部材Wを積層して、積層体10を形成する。具体的には、
図6に示されるように、電磁鋼板ESが送出装置120によって打抜装置130に送り出され、電磁鋼板ESの加工対象部位が所定のパンチに到達すると、軸孔10aに対応する貫通孔の形成(いわゆる内径抜き)、各磁石挿入孔16に対応する貫通孔の形成、カシメ20又は貫通孔22の形成、電磁鋼板ESからの打抜部材Wの打ち抜き(いわゆる外径抜き)がそれぞれ行われる。
【0058】
カシメ20及び貫通孔22は、選択的に形成される。すなわち、電磁鋼板ESのうち打抜部材W1が形成される予定の領域にカシメ20が形成され、電磁鋼板ESのうち打抜部材W2が形成される予定の領域に貫通孔22が形成される。
【0059】
貫通孔22は、次のように形成される。すなわち、
図7(a)に示されるように、コントローラ140からの指示信号に基づいて打抜装置130が動作すると、電磁鋼板ESがダイプレート133及びストリッパ134によって挟持され、続いてストリッパ134の貫通孔134aを通じてパンチP1が降下して、パンチP1の先端部が電磁鋼板ESをダイ孔D1a内へと押し出す。これにより、電磁鋼板ESに貫通孔22が形成される。
【0060】
カシメ20は次のように形成される。すなわち、
図7(b)に示されるように、コントローラ140からの指示信号に基づいて打抜装置130が動作すると、電磁鋼板ESがダイプレート133及びストリッパ134によって挟持され、続いてストリッパ134の貫通孔134bを通じてパンチP2が降下して、パンチP2の先端部が電磁鋼板ESをダイ孔D2a内へと押し出す。これにより、電磁鋼板ESにカシメ20が形成される。
【0061】
電磁鋼板ESからの打抜部材Wの打ち抜きは次のように行われる。すなわち、
図8~
図10に示されるように、コントローラ140からの指示信号に基づいて打抜装置130が動作すると、電磁鋼板ESがダイプレート133及びストリッパ134によって挟持され、続いてストリッパ134の貫通孔134cを通じてパンチP3及びプッシュパンチP4が降下して、パンチP3の先端部が電磁鋼板ESをダイ孔D3a内へと押し出す。これにより、電磁鋼板ESから打抜部材Wが打ち抜かれる。
【0062】
パンチP3による電磁鋼板ESからの打抜部材W2の打ち抜き時には、プッシュパンチP4は貫通孔22内に挿入されるので、プッシュパンチP4は電磁鋼板ESに接触しない。一方、パンチP3による電磁鋼板ESからの打抜部材W1の打ち抜き時には、プッシュパンチP4がカシメ20の窪み20aを押圧しつつ、パンチP3の先端部が電磁鋼板ESをダイ孔D3a内へと押し出す。これにより、シリンダ132b上において、カシメ20の突起20bは、カシメ20の窪み20a内又は貫通孔22内に圧入され、両者が嵌合する。
【0063】
このとき、プッシュパンチP4の突起部P4cは、窪み20aの底面S3aに貫入して、電磁鋼板ESを構成する金属を周囲に押し拡げながら底面S3aに凹部24を形成する。これにより、凹部24に対応する位置において、側面S4cから外側に向けて側方に膨らむ当接部26が形成される。側方に膨らんだ当接部26は、収容部の内面と当接し、当該内面を加圧する。この過程で、当接部26の金属密度が、カシメ20の他の部分の金属密度(プッシュパンチP4が押し付けられる前のカシメ20の金属密度)よりも高くなる。
【0064】
パンチP3によって電磁鋼板ESから打ち抜かれた打抜部材Wは、シリンダ132b上において積層され、積層体10が構成される。積層体10は、プッシャ132dによってシリンダ131bからステージ132cに払い出され、さらにコンベア又は人手によって磁石取付装置に搬送される。その後、磁石取付装置において、積層体10の磁石挿入孔16内に永久磁石12及び溶融樹脂が充填され、固化樹脂14によって永久磁石12が磁石挿入孔16内に固定される。これにより、回転子積層鉄心1が完成する。
【0065】
[作用]
以上の実施形態では、側方に膨らむ当接部26が収容部の内面と当接しているので、カシメ20と収容部との接触圧力が高まる。すなわち、当接部26と収容部の内面との間に作用する摩擦力が大きくなる。そのため、カシメ20の締結力を大幅に向上することが可能となる。その結果、打抜部材W1と打抜部材W2とが離間する方向の応力が作用しても、打抜部材W1が打抜部材W2に対して剥がれ難くなる。
【0066】
以上の実施形態では、当接部26の金属密度がカシメ20の他の部分の金属密度よりも高くなりうる。これは、収容部と当接する当接部26に対して、収容部からの反力が作用した結果、当接部26の金属密度が他の部分よりも高まったものと考えられる。すなわち、当接部26と収容部との間には、より大きな接触圧力が作用する。従って、カシメ20の締結力をより向上することが可能となる。
【0067】
以上の実施形態では、凹部24の端部が、当接部26に向けて延びているが当接部26に至っていない。そのため、凹部24の端部が当接部26に至っている場合(凹部24の端部が底面S3aの側縁に至っている場合)と比較して、当接部26と収容部の内面との接触面積が大きくなる。従って、カシメ20の締結力をより向上することが可能となる。
【0068】
以上の実施形態では、凹部24が底面S3aに設けられている。そのため、凹部24から押しのけられた金属材料が当接部26として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部26が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0069】
以上の実施形態では、当接部26の幅d3が凹部24の幅d2よりも大きくなりうる。この場合、当接部26と収容部の内面との接触面積が大きくなる。そのため、カシメ20の締結力をより向上することが可能となる。
【0070】
以上の実施形態では、貫通孔22を含む打抜部材W2を電磁鋼板ESから打ち抜いた後に、カシメ20を含む打抜部材W1を電磁鋼板ESから打ち抜き、打抜部材W1の打ち抜きのタイミングで、プッシュパンチP4を用いてカシメ20を収容部に嵌合させている。そのため、打抜部材W1の打ち抜きと、プッシュパンチP4による当接部26の形成とを、同じ又は近接したタイミングで行うことが可能となる。
【0071】
以上の実施形態では、打抜部材W2に隣接する打抜部材W1Nの突起20bの底面S4aは、シリンダ132bの表面(支持面)によって支持されている。そのため、プッシュパンチP4の頂部P4aの突起部P4cによって押しのけられる金属材料は、外側凸面S4の底面S4aではなく、カシメ20の外側凸面S4(側面S4c)から収容部の内面に向けて側方に向かいやすくなる。従って、当接部26が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0072】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0073】
(1)上記の実施形態では、プッシュパンチP4の突起部P4cは、プッシュパンチP4の厚さ方向に直線状に延びる一つの突条であったが、他の形態を呈していてもよい。例えば、突起部P4cは、
図11(a)に示されるように、頂部P4a(先端面)の縁に沿って環状(矩形環状)に延びる突条であってもよい。突起部P4cは、
図11(b)に示されるように、プッシュパンチP4の厚さ方向に直線状に延びる二つ以上の突条であってもよい。突起部P4cは、
図11(c)に示されるように、プッシュパンチP4の幅方向に沿って直線状に延びる一つ又は複数の突条であってもよい。
【0074】
(2)上記の実施形態ではカシメ20がV字形カシメである場合を例示したが、カシメ20の種類は特に限定されない。例えば、
図12に示されるように、カシメ20が丸平カシメであってもよい。この場合、
図12(a)に示されるように、プッシュパンチP4の頂部P4aには、半円柱状を呈する一対の突起部P4cが設けられていてもよい。このプッシュパンチP4でカシメ20を押圧した場合、
図12(b)に示されるように、丸平カシメの側面S4cから収容部の内面に向けて側方に膨らむ当接部26が形成される。なお、丸平カシメの場合には、上記の実施形態におけるV字形カシメの場合と異なり、丸平カシメの突起が積層体10の下端面から突出しない。
【0075】
カシメ20が丸平カシメの場合、
図12に示される形態以外の他の形態を呈していてもよい。例えば、突起部P4cは、
図13(a)に示されるように、頂部P4a(先端面)の縁に沿って環状(円環状)に延びる突条であってもよい。突起部P4cは、
図13(b)に示されるように、頂部P4a(先端面)の縁に沿って弧状(円弧状)に延びる複数の突条であってもよい。突起部P4cは、
図13(c)に示されるように、頂部P4a(先端面)の縁近傍から突出する一対の突起であってもよい。
【0076】
例えば、
図14に示されるように、カシメ20が角平カシメであってもよい。この場合、
図14(a)に示されるように、プッシュパンチP4の頂部P4aには、プッシュパンチP4の幅方向に延びる一対の突起部P4cが設けられていてもよい。このプッシュパンチP4でカシメ20を押圧した場合、
図14(b)に示されるように、角平カシメの側面S4cから収容部の内面に向けて側方に膨らむ当接部26が形成される。なお、角平カシメの場合には、上記の実施形態におけるV字形カシメの場合と異なり、角平カシメの突起が積層体10の下端面から突出しない。
【0077】
例えば、
図15に示されるように、カシメ20がスキューカシメであってもよい。この場合、
図15(a)に示されるように、プッシュパンチP4の頂部P4aには、プッシュパンチP4の幅方向に延びる一対の突起部P4cが設けられていてもよい。このプッシュパンチP4でカシメ20を押圧した場合、
図15(b)に示されるように、スキューカシメの側面S4cから収容部の内面に向けて側方に膨らむ当接部26が形成される。
【0078】
(3)プッシュパンチP4に設けられる突起部P4cの形状及び位置は特に限定されない。例えば、上記の実施形態では、突起部P4cによって形成される凹部24が底面S3aに位置していたが、側面S3b(傾斜面)に位置していてもよいし、底面S3aと側面S3bとの境界部分に位置していてもよい。この場合、凹部24から押しのけられた金属材料が当接部26として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部26が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0079】
(4)突起部P4cは、頂部P4aの周縁近傍に位置していてもよい。この場合、突起部P4cによって凹部24から押しのけられた金属材料が当接部26として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部26が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0080】
(5)パンチ部P10,P20,P30が打抜装置130の外部に配置されており、パンチ部P10において貫通孔22が形成された電磁鋼板ES1と、パンチ部P20においてカシメ20が形成された電磁鋼板ES2とを重ね合わせて、パンチ部P30のプッシュパンチP4によりカシメ20を貫通孔22に嵌合させてもよい。これにより、2枚の電磁鋼板ES1,ES2が積層された金属積層体が形成される。その後、打抜装置130において、カシメ20が貫通孔22に嵌合した状態の2枚の打抜部材W1,W2を金属積層体から打ち抜いてもよい。この場合、プッシュパンチP4により形成された当接部26が収容部の内面と当接し、カシメ20の締結力が高まった後に、電磁鋼板ES1,ES2から2枚の打抜部材W1,W2が略同時に形成される(いわゆる「2枚取り」)。そのため、2枚取りの際に、電磁鋼板ES1,ES2の相互のズレや捲れが極めて生じ難くなる。
【0081】
(6)上記の実施形態では、当接部26は側面S4cから収容部の内面に向けて側方に膨らんでいたが、突起20bと、当該突起20bが嵌合する収容部とのクリアランスがごくわずかである場合には、目視では当接部26が膨らんでいないように見える場合もありうる。これは、突起部P4cによって凹部24から押し出された金属材料が収容部の内面に向けて膨らもうとしても、当該金属材料の変形が収容部の内面によって阻まれうるためである。しかしながら、この場合であっても、金属密度の違いに基づいて当接部26を特定することができる。
【0082】
(7)2つ以上の永久磁石12が組み合わされた一組の磁石組が、一つの磁石挿入孔16内にそれぞれ挿入されていてもよい。この場合、一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の長手方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の延在方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が当該長手方向に並ぶと共に複数の永久磁石12が当該延在方向において並んでいてもよい。
【0083】
(8)上記の実施形態では、回転子積層鉄心1について説明したが、固定子積層鉄心に本開示を適用してもよい。この場合、複数の鉄心片が組み合わされてなる分割型の固定子積層鉄心であってもよいし、非分割型の固定子積層鉄心であってもよい。あるいは、2枚重ねされたリードフレーム等、他の金属積層体に本開示を適用してもよい。
【0084】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る金属積層体(1)は、第1の金属板(W1)と第2の金属板(W2)とが積層された積層体(10)を備える。第1の金属板(W1)は、第1の金属板(W1)の裏面(S2)側から突出し且つ第1の金属板(W1)の表面(S1)側において窪んだ山型状を呈するカシメ(20)を含む。第2の金属板(W2)は、カシメ(20)を収容し且つカシメ(20)と嵌合するように構成された収容部(20a,22)を含む。カシメ(20)は、裏面(S2)側に向けて窪むようにカシメ(20)の内側凹面(S3)に設けられた凹部(24)と、凹部(24)に対応する位置においてカシメ(20)の外側凸面(S4)に設けられ且つ収容部(20a,22)の内面と当接する当接部(26)とを含む。当接部(26)は外側凸面(S4)から内面に向けて側方に膨らんでいる。この場合、側方に膨らむ当接部が収容部の内面と当接しているので、カシメと収容部との接触圧力が高まる。すなわち、当接部と収容部の内面との間に作用する摩擦力が大きくなる。そのため、カシメの締結力を大幅に向上することが可能となる。その結果、第1の金属板と第2の金属板とが離間する方向の応力が作用しても、第1の金属板が第2の金属板に対して剥がれ難くなる。
【0085】
例2.例1の金属積層体(1)において、当接部(26)の金属密度はカシメ(20)の他の部分の金属密度よりも高くてもよい。この場合、収容部と当接する当接部に対して、収容部からの反力が作用した結果、当接部の金属密度が他の部分よりも高まったものと考えられる。すなわち、当接部と収容部との間には、より大きな接触圧力が作用している。従って、カシメの締結力をより向上することが可能となる。
【0086】
例3.本開示の他の例に係る金属積層体(1)は、第1の金属板(W1)と第2の金属板(W2)とが積層された積層体(10)を備える。第1の金属板(W1)は、第1の金属板(W1)の裏面(S2)側から突出し且つ第1の金属板(W1)の表面(S1)側において窪んだ山型状を呈するカシメ(20)を含む。第2の金属板(W2)は、カシメ(20)を収容し且つカシメ(20)と嵌合するように構成された収容部(20a,22)を含む。カシメ(20)は、裏面(S2)側に向けて窪むようにカシメ(20)の内側凹面(S3)に設けられた凹部(24)と、凹部(24)に対応する位置において収容部(20a,22)の内面と当接する当接部(26)とを含む。当接部(26)の金属密度はカシメ(20)の他の部分の金属密度よりも高い。この場合、収容部と当接する当接部に対して、収容部からの反力が作用した結果、当接部の金属密度が他の部分よりも高まったものと考えられる。そのため、カシメと収容部との接触圧力が高まっている。すなわち、当接部と収容部の内面との間に作用する摩擦力が大きくなる。従って、カシメの締結力を大幅に向上することが可能となる。その結果、第1の金属板と第2の金属板とが離間する方向の応力が作用しても、第1の金属板が第2の金属板に対して剥がれ難くなる。
【0087】
例4.例1~例3のいずれかの金属積層体(1)において、凹部(24)の端部は、当接部(26)に向けて延びているが当接部(26)に至っていなくてもよい。この場合、凹部の端部が当接部に至っている場合と比較して、当接部と収容部の内面との接触面積が大きくなる。そのため、カシメの締結力をより向上することが可能となる。
【0088】
例5.例1~例4のいずれかの金属積層体(1)において、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる側面(S3b)とを含み、凹部(24)は底面(S3a)に設けられていてもよい。この場合、凹部から押しのけられた金属材料が当接部として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0089】
例6.例1~例4のいずれかの金属積層体(1)において、カシメ(20)はV字形カシメであり、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる傾斜面(S3b)とを含み、凹部(24)は、傾斜面(S3b)、又は底面(S3a)と傾斜面(S3b)との境界部分に設けられていてもよい。この場合、凹部から押しのけられた金属材料が当接部として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0090】
例7.例1~例6のいずれかの金属積層体(1)において、凹部(24)と当接部(26)とが並ぶ方向に直交する方向で、当接部(26)の幅は凹部(24)の幅よりも大きくてもよい。この場合、当接部と収容部の内面との接触面積が大きくなる。そのため、カシメの締結力をより向上することが可能となる。
【0091】
例8.例1~例7のいずれかの金属積層体(1)において、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる側面(S3b)とを含み、凹部(24)は底面(S3a)の周縁近傍に位置していてもよい。この場合、凹部によって押しのけられた金属材料が当接部として側方に向かいやすくなる。そのため、当接部が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0092】
例9.本開示の他の例に係る金属積層体(1)の製造方法は、第1の金属板(W1)の裏面(S2)側から突出し且つ第1の金属板(W1)の表面側において窪んだ山型状を呈するカシメ(20)が形成された第1の金属板(W1)と、カシメ(20)を収容可能に構成された収容部(20a,22)が形成された第2の金属板(W2)とを、カシメ(20)を収容部(20a,22)に嵌合させつつ積層することを含む。第1及び第2の金属板(W1,W2)を積層することは、カシメ(20)を収容部(20a,22)に嵌合させる際に、先端面(P4a)に突起(P4c)が設けられたプッシュパンチ(P4)をカシメ(20)の内側凹面(S3)に押し付けて、内側凹面(S3)に凹部(24)を形成しつつ、凹部(24)に対応する位置において収容部(20a,22)の内面と当接する当接部(26)を形成することを含む。この場合、プッシュパンチの先端面の突起は、カシメの内側凹面の一部を潰して、凹部を形成する。この際、当該突起によって押しのけられた金属材料は、カシメの外側凸面から収容部の内面に向けて側方に向かう。これにより、当該内面と当接する当接部が形成され、カシメと収容部との接触圧力が高まる。すなわち、当接部と収容部の内面との間に作用する摩擦力が大きくなる。そのため、カシメの締結力を大幅に向上することが可能となる。その結果、第1の金属板と第2の金属板とが離間する方向の応力が作用しても、第1の金属板が第2の金属板に対して剥がれ難くなる。
【0093】
例10.例9の方法は、帯状の金属材料に第1のパンチ(P2)を押し付けて、カシメ(20)を金属材料に形成することと、金属材料に第2のパンチ(P1)を押し付けて、収容部(20a,22)を金属材料に形成することと、金属材料に第3のパンチ(P3)を押し付けて、収容部(20a,22)を含む第2の金属板(W2)を金属材料から打ち抜くこととをさらに含み、第1及び第2の金属板(W1,W2)を積層することは、金属材料に第3のパンチ(P3)を押し付けて、カシメ(20)を含む第1の金属板(W1)を金属材料から打ち抜きつつカシメ(20)を収容部(20a,22)に嵌合させることを含んでいてもよい。この場合、第1の金属板の打ち抜きと、プッシュパンチによる当接部の形成とを、同じ又は近接したタイミングで行うことが可能となる。
【0094】
例11.例9の方法は、積層された第1及び第2の金属板(ES1,ES2)に第3のパンチ(P3)を押し付けて、カシメ(20)が収容部(20a,22)に嵌合した状態の2枚の打抜部材(W1,W2)を第1及び第2の金属板(ES1,ES2)から打ち抜くことをさらに含んでいてもよい。この場合、プッシュパンチにより形成された当接部が収容部の内面と当接し、カシメの締結力が高まった後に、第1及び第2の金属板から2枚の打抜部材が略同時に形成される(いわゆる「2枚取り」)。そのため、2枚取りの際に、第1及び第2の金属板の相互のズレや捲れが極めて生じ難くなる。
【0095】
例12.例9~例11のいずれかの方法において、当接部(26)はカシメ(20)の外側凸面(S4)から内面に向けて側方に膨らんでいてもよい。この場合、側方に膨らむ当接部が収容部の内面と当接するので、カシメと収容部との接触圧力がより高まる。そのため、カシメの締結力をより向上することが可能となる。
【0096】
例13.例9~例12のいずれかの方法において、当接部(26)の金属密度はカシメ(20)の他の部分の金属密度よりも高くてもよい。この場合、収容部と当接する当接部に対して、収容部からの反力が作用した結果、当接部の金属密度が他の部分よりも高まったものと考えられる。すなわち、当接部と収容部との間には、より大きな接触圧力が作用している。従って、カシメの締結力をより向上することが可能となる。
【0097】
例14.例9~例13のいずれかの方法において、第1及び第2の金属板(W1,W2)を積層することは、プッシュパンチ(P4)をカシメ(20)の内側凹面(S3)に押し付ける際に、カシメ(20)の外側凸面(S4)の底部(S4a)を支持面(132b)によって支持することを含んでいてもよい。この場合、プッシュパンチが作用する内側凹面とは反対側の外側凸面の底部が支持面によって支持される。そのため、プッシュパンチの先端面の突起によって押しのけられる金属材料は、外側凸面の底部ではなく、カシメの外側凸面から収容部の内面に向けて側方に向かいやすくなる。従って、当接部が収容部の内面とより当接しやすくなる。
【0098】
例15.例9~例14のいずれかの方法において、凹部(24)の端部は、当接部(26)に向けて延びているが当接部(26)に至っていなくてもよい。この場合、例4と同様の作用効果を奏する。
【0099】
例16.例9~例15のいずれかの方法において、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる側面(S3b)とを含み、凹部(24)は底面(S3a)に設けられていてもよい。この場合、例5と同様の作用効果を奏する。
【0100】
例17.例9~例15のいずれかの方法において、カシメ(20)はV字形カシメであり、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる傾斜面(S3b)とを含み、凹部(24)は、傾斜面(S3b)、又は底面(S3a)と傾斜面(S3b)との境界部分に設けられていてもよい。この場合、例6と同様の作用効果を奏する。
【0101】
例18.例9~例17のいずれかの方法において、凹部(24)と当接部(26)とが並ぶ方向に直交する方向で、当接部(26)の幅は凹部(24)の幅よりも大きくてもよい。この場合、例7と同様の作用効果を奏する。
【0102】
例19.例9~例18のいずれかの方法において、内側凹面(S3)は、底面(S3a)と、底面(S3a)から立ち上がる側面(S3b)とを含み、凹部(24)は底面(S3a)の周縁近傍に位置していてもよい。この場合、例8と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0103】
1…回転子積層鉄心(金属積層体)、10…積層体、18…カシメ部、20…カシメ、20a…窪み(収容部)、20b…突起、22…貫通孔(収容部)、24…凹部、26…当接部、100…製造装置、130…打抜装置、132b…シリンダ(支持面)、140…コントローラ(制御部)、d2…凹部の幅、d3…当接部の幅、ES…電磁鋼板、ES1…電磁鋼板(第1の金属板)、ES2…電磁鋼板(第2の金属板)、P1…パンチ(第2のパンチ)、P2…パンチ(第1のパンチ)、P3…パンチ(第3のパンチ)、P4…プッシュパンチ、P4a…頂部(先端面)、P4c…突起部(突起)、P10,P20,P30…パンチ部、S1…表面、S2…裏面、S3…内側凹面、S3a…底面、S3b…側面(傾斜面)、S4…外側凸面、S4a…底面、S4b,S4c…側面、W…打抜部材、W1…打抜部材(第1の金属板)、W2…打抜部材(第2の金属板)。