(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】円形立坑の覆工構造及び構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 5/10 20060101AFI20220617BHJP
E21D 1/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
E21D5/10
E21D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018164463
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本島 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小池 真史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 健司
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-189296(JP,A)
【文献】特開2006-241800(JP,A)
【文献】特開2000-144740(JP,A)
【文献】特開平11-200369(JP,A)
【文献】特開昭55-152294(JP,A)
【文献】特開平10-054045(JP,A)
【文献】特開2000-064793(JP,A)
【文献】特開平05-098893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 5/10
E21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表から地山深部に向けて上下に連なる複数のリング状覆工体により延設された円形立坑の覆工構造であり、
前記リング状覆工体は少なくとも掘削壁面にリング状に形成された一次覆工体と、
前記一次覆工体の内面側にリング状に形成された二次覆工体とからなり、
上下に連続する前記リング状覆工体のうち上方の前記二次覆工体と下方の前記一次覆工体とが連続体であることを特徴とする円形立坑の覆工構造。
【請求項2】
前記一次覆工体及び前記二次覆工体の下端部には下方に向かって前記掘削壁面の方向に傾斜している傾斜部が施されていることを特徴とする請求項1に記載の円形立坑の覆工構造。
【請求項3】
前記連続体である二次覆工体と一次覆工体との間に縁切材が埋め込まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円形立坑の覆工構造。
【請求項4】
前記二次覆工体には前記掘削壁面に沿ってリング状に鋼製支保工が埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の円形立坑の覆工構造。
【請求項5】
地表から地山深部に向けて上下に連なる複数のリング状覆工体からなり、コンクリート打設により延設された円形立坑を構築する方法であり、
前記円形立坑は少なくとも前記地山を掘削して露出した掘削壁面に打設してリング状に形成された一次覆工体と、
前記一次覆工体の内面側に打設してリング状に形成された二次覆工体とからなり、
上下に連続する前記リング状覆工体のうち上方の前記二次覆工体と下方ロットの前記一次覆工体とを
連続体として連続的に打設することを特徴とする円形立坑覆工の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大土被り・高地圧下の地山に円形立坑を構築する際の合理的かつ安全な覆工構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数百mを超える大深度立坑の掘削工事には、標準的にショートステップ工法が適用される。同工法は、1ステップ分の岩盤を掘削した後、直ちに覆工コンクリートを打設して坑壁を支保し、次のステップの掘削に移行するというサイクルを繰り返す工法である。そのため、水平方向に掘り進む山岳トンネル掘削に標準的に採用されるNATM工法とは異なり、覆工コンクリートに大きな応力が発生する。
鉛直方向に掘り進む立坑では、掘削に伴い地圧が大きくなるため、深度が深くなるほど覆工コンクリートへの作用応力が大きくなり、コンクリートや鋼材といった覆工を構成する部材の高強度化、大断面化が必要となる。ところが、部材強度には限界があるため、必要耐力がそれを上回る場合は、覆工断面を大きくすることで対応せざるを得ないが、断面を大きくすると、剛性も大きくなり、当然に作用荷重も大きくなるため、応力を低減するという効果が薄れてしまう。
そこで、荷重自体を低減するために、従前から、吹付コンクリートとロックボルトで立坑掘削壁面を支保し、岩盤を変形させつつ岩盤の耐力を最大限利用するNATM工法と同様の考え方による掘削工法、いわゆるロングステップ工法も採用されていた。しかしながら、ロングステップ工法では、岩盤の変形の収束を待った後、鉛直上方に移動して覆工コンクリートを打設するため、鉛直上下方向への掘削・覆工機械設備の入れ替え等の段取りに手間がかかる。このため、施工の時間的ロスが多く、近年は採用が少ない。また本工法の場合、覆工コンクリートのような剛な構造を作らなければ、そもそも一定の内空を確保することも難しく、断面が確保されなければ上下方向の掘削機械等の設備移動も困難となる。
特許文献1に先進導坑や上半を先行掘削させるベンチカットを併用したNATM工法によるトンネルの構築方法が開示されているが、こうした掘削方法を立坑のロングステップ工法に併用しても、立坑の場合は必ず上下作業になるため、前述と同様に設備移動のための段取り替え等の時間的ロスが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の通り、覆工コンクリートに作用する応力を小さく抑えるために、岩盤の変形が収束したのちに覆工コンクリートを打設するNATM工法や掘削方法の工夫を取り入れたロングステップ工法の採用は、施工効率および断面確保の観点から難しい。
一方、ショートステップ工法は、発生応力を小さく制御することが可能であれば、施工効率、断面確保及び安全性等の観点からは優れた工法である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、過大な地圧が想定される大深度立坑の掘削においても、覆工コンクリートに作用する応力を小さく抑えることができる円形立坑の覆工構造及びその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の円形立坑の覆工構造は、地表から地山深部に向けて上下に連なる複数のリング状覆工体により延設された円形立坑の覆工構造であり、前記リング状覆工体は少なくとも掘削壁面にリング状に形成された一次覆工体と、前記一次覆工体の内面側にリング状に形成された二次覆工体とからなり、上下に連続する前記リング状覆工体のうち上方の前記二次覆工体と下方の前記一次覆工体とが連続体であることを特徴とする。
係る円形立坑の覆工構造によれば、上下に連続する前記リング状覆工体のうち上方の前記二次覆工体と下方の前記一次覆工体とが連続体であるので、掘削の進行で解放される応力を下方の一次覆工体に負わせながら変形も許容し、その分だけ低減された応力を上方の二次覆工体に作用させることができる。一次覆工体には大きな応力が発生するが、仮設構造物として扱うことで、一次覆工体が仮に終局限界を超えても破壊さえ生じなければ良いという設計思想のもと、一次覆工体が有する耐荷性能を限界まで利用できるので、本設構造物としての二次覆工体の発生応力を低減でき、部材断面の合理化を図ることができる。
【0007】
前記円形立坑の覆工構造には、一次覆工体及び前記二次覆工体の下端部には下方に向かって前記掘削壁面の方向に傾斜している傾斜部が施されていても良い。
この傾斜によって、連続体である一次覆工体及び二次覆工体との間に楔状の隙間が確保できるため、コンクリート打設するためのシュートや配管挿入のためのスペースを確保することができる。
【0008】
前記円形立坑の覆工構造には、連続体である二次覆工体と一次覆工体との間に縁切材が埋め込まれていても良い。
この縁切材により連続体である上下覆工体を構造上確実に分離できるため、掘削の進行によって下方の一次覆工体に生じる応力を上方の二次覆工体に伝達することを遮断することが可能となる。
【0009】
前記円形立坑の覆工構造の二次覆工体には掘削壁面に沿ってリング状に鋼製支保工が埋め込まれていても良い。
周辺地盤の傾斜や断層等の存在によって、土圧に異方性(偏荷重)が認められる場合は、作用荷重の条件によっては、覆工体に引張り力が生じる可能性がある。覆工体に掘削壁面に沿ってリング状に鋼製支保工が埋め込まれていれば、係る引張力を担うことができる。
【0010】
本発明の円形立坑覆工構造の構築方法は、地表から地山深部に向けて上下に連なる複数のリング状覆工体からなり、コンクリートの打設により延設された円形立坑を構築する方法であり、前記円形立坑は少なくとも前記地山を掘削して露出した掘削壁面に打設してリング状に形成された一次覆工体と、前記一次覆工体の内面側に打設してリング状に形成された二次覆工体とからなり、上下に連続する前記リング状覆工体のうち上方の前記二次覆工体と下方の前記一次覆工体とを連続体として連続的に打設することを特徴とする。
係る円形立坑覆工構造の構築方法によれば、上下に連続する上方の二次覆工体と下方の一次覆工体とが連続的に打設されて構築されるため、型枠形状を工夫して連続する上方の二次覆工体と下方の一次覆工体とを同時に打設できるので、施工サイクルとして覆工体が一重のショートステップ工法と同様に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の円形立坑の覆工構造によれば、一次覆工体には大きな応力が発生するが、仮設構造物として扱うことで、一次覆工が仮に終局限界を超えても破壊さえ生じなければ良いという設計思想のもと、一次覆工体が有する耐荷性能を限界まで利用できるので、本設構造物としての二次覆工体の発生応力を低減でき、部材断面の合理化を図ることができる。
また、覆工体の下端に傾斜が設けられていることで、コンクリート打設するためのシュートや配管の挿入スペースを確保することができ、さらに、連続する一次,二次覆工体との間に縁切材を設けることで、掘削の進行によって下方の一次覆工体に生じる応力を上方の二次覆工体へ伝達することを遮断できる。さらに、二次覆工体に支保工が埋め込まれていれば、土圧の異方性によって覆工体に生じる引張力に対抗できる。
また、本発明の円形立坑覆工構造の構築方法によれば、上下に連続する一次,二次覆工体のコンクリートを一度に打設できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)本発明の円形立坑の覆工構造の正面図である(A-A矢視)。(b)B-B矢視の断面図である。
【
図3】本発明の円形立坑覆工の構築方法の構築サイクルである。
【
図4】一般的なトンネル切羽進行と変位との関係を示す概念図である。
【
図5】円形立坑覆工の構築方法の効果確認のための数値解析のモデル。
【
図6】円形立坑覆工の構築方法の効果確認のための数値解析の結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<円形立坑の覆工構造>
図1(a)に、同図(b)のA-A矢視である円形立坑の覆工構造の正面図を示す。また、同図(b)に、同図(a)のB-B矢視である断面図をそれぞれ示す。
本発明の円形立坑の覆工構造Sは、地表から地中G内に円筒形に掘削された掘削壁面Wに打設してリング状に形成された一次覆工体1と、一次覆工体1の内面側に打設してリング状に形成された二次覆工体2とからなる。本実施形態では、床付け掘削後に底版Bが構築されているが、底版Bは必要に応じて構築されれば良く、必須の構成ではない。
【0014】
図2に、
図1のC部である覆工構造の詳細を示す。一次覆工体1は、掘削壁面Wに沿ってリング状に形成された円筒部11と、円筒部11の下端部に下方に向かって掘削壁面Wの方向に傾斜している傾斜部12と、から成っている。二次覆工体2は、一次覆工体1の内面側にリング状に形成された円筒部21と、円筒部21の下端部に、下方に向かって掘削壁面Wの方向に傾斜している傾斜部22と、から成っている。また、二次覆工体2には鋼製支保工4が同じく掘削壁面Wまたは一次覆工体1に沿って埋設されている。
【0015】
本発明の円形立坑の覆工構造は、上下に連続する上方の二次覆工体2と下方の一次覆工体1とが連続体であることが特徴である。例えば、地表からn-1番目の二次覆工体2(n-1)とその下方に位置するn番目の一次覆工体1(n)は同時に打設されて構築されているので連続体である。
ここで、連続体である上方の二次覆工体2と下方の一次覆工体1との間に縁切材3が埋め込まれているが、一次覆工体1で生じた応力の構造的に連続する二次覆工体2への伝達が抑制されれば、縁切材3の材質、寸法、形状等は限定されない。
また、二次覆工体2内には、掘削壁面Wまたは一次覆工体1に沿ってリング状の鋼製支保工4が埋め込まれていることが望ましい。
【0016】
<円形立坑覆工構造の構築方法>
図3は、本発明の円形立坑覆工の構築方法の構築サイクルを示す。
同図(a)は、m次掘削を完了し、型枠5内にn番目の一次覆工体1(n)と、その上方であるn-1番目の二次覆工体2(n-1)のコンクリートを同時に打設した後の立坑断面図を示す。また同図(b)は、m+1次掘削完了後、n+1番目の一次覆工体1(n+1)と、その上方であるn番目の二次覆工体2(n)を同時に打設するために型枠5を下方に移動させた断面図を示す。なお、型枠5の脱型後、下方への移動・設置に際し、予めn番目の鋼製支保工4を敷設しておく。
以降、上下に連続する一次覆工体1と二次覆工体2のコンクリートを同時・連続的に打設、掘削、型枠5の脱型、鋼製支保工4の設置、型枠5の下方への移動・設置を繰り返すことで円形立坑の覆工構造が構築される。
なお、縁切材3及び鋼製支保工4の設置は必要に応じて行えば良く、縁切材3は、打設した覆工コンクリートの硬化具合を見計らって設置する。
【0017】
図4は、一般的な水平方向のトンネルの切羽進行とトンネルの内空変位との関係を示す概念図である。トンネル内空の変位は、掘削による切羽進行に伴い切羽通過前から生じる先行変位から切羽通過後の変位収束までの累積であるが、切羽通過後直後数mにおける地盤の応力解放が最も大きく、変位も顕著に生じることが分かっている。この現象は、鉛直下向きに切羽が進行する立坑でも同じことが言える。
【0018】
図5は、円形立坑覆工の構築方法の効果確認のための数値解析のモデルである。3次元1/4断面モデルを用いて想定した地盤条件におけるGL-500mの掘削を想定した3次元有限要素体積法による数値解析を行い、本発明の構築方法の妥当性の検証を行った。
図6に数値解析結果である覆工体に生じる発生応力の深度分布を示す。従来のショートステップ工法を反映した結果をA、本発明の円形立坑覆工の構築方法における結果をBとする。2ケースとも所定の深度を掘削後、鋼製支保工の建て込み、型枠の設置、覆工コンクリートの打設という構築サイクルは共通しているが、従来のショートステップ工法は、本発明の構築方法における一次覆工体1を構築する時点と同じタイミングで一次覆工体1と二次覆工体2とを合わせた厚さ(剛性)の覆工コンクリートを一度に打設するとした点で相違する。
解析の結果、従来工法によるAの覆工コンクリートでは、終局限界を超える応力が発生するが、本発明の構築方法によるBの二次覆工体2では、Aの3割減の発生応力で、終局限界以内に抑えることができることを確認できた。
【0019】
本発明の円形立坑の覆工構造の実施形態によれば、一次覆工体には大きな応力が発生するが、仮設構造物として扱うことで、一次覆工体は仮に終局限界を超えても破壊さえ生じなければ良いという設計思想のもと、一次覆工体が有する耐荷性能を限界まで利用できるので、本設構造物としての二次覆工体の発生応力を低減でき、部材断面の合理化を図ることができる。
また、覆工体の下端に傾斜が設けられていることで、コンクリート打設するためのシュートや配管の挿入スペースを確保することができ、上下に連続する一次,二次覆工体との間に縁切材を設けることで、掘削の進行によって下方の一次覆工体に生じる応力の上方の二次覆工へ伝達を遮断することができる。さらに、二次覆工体に鋼製支保工が埋め込まれていれば、土圧の異方性によって覆工体に生じる引張力に対抗できる。
また、円形立坑覆工の構築方法の実施形態によれば、連続する一次,二次覆工体のコンクリートを一度に打設できる。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
覆工体の数は実施形態で示した一次、二次に限定されず、例えば、三次以上の覆工体があっても良く、立坑の形状も矩形形状であっても良い。また、鋼製支保工4は本設構造物である二次覆工体2に埋設するとしたが、必要に応じて仮設構造物である一次覆工体内にも埋設しても良い。
【符号の説明】
【0021】
G 地中
S 円形立坑の覆工構造
W 掘削壁面
B 底版
1 一次覆工体
11 円筒部
12 傾斜部
21 円筒部
22 傾斜部
2 二次覆工体
3 縁切材
4 鋼製支保工
5 型枠