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特許7090514メタルガスケット中間製品およびメタルガスケットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】メタルガスケット中間製品およびメタルガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220617BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220617BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20220617BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20220617BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20220617BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/00 A
F16J15/08 H
C22C30/02
C21D9/46 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018170291
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020041195
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】濱田 尊仁
(72)【発明者】
【氏名】熊野 尚仁
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196889(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043199(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208563(WO,A1)
【文献】特開昭61-060868(JP,A)
【文献】特開2005-023357(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104755(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006843(WO,A1)
【文献】特開平10-267130(JP,A)
【文献】特開2018-150606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 9/00
F16J 15/08
C22C 30/02
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005~0.100%、Si:0.02~3.00%、Mn:0.02~2.50%、Ni:19.00~35.00%、Cr:16.00~25.00%、Mo:0.02~1.00%、Cu:0.01~2.00%、Ti:0~2.50%、Nb:0~2.50%、Al:0.002~2.00%、N:0.002~0.200%、B:0~0.010%、V:0~0.50%、Zr:0~0.50%、W:0~0.50%、Ta:0~0.50%、Co:0~0.50%、REM(Yを除く希土類元素):0~0.200%、Y:0~0.200%、Ca:0~0.100、Mg:0~0.100、かつTiとNbの合計含有量が0.30%以上、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延面のビッカース硬さHV30が400HV以下である鋼板素材の表面に、プレス成形ビードを有するメタルガスケット中間製品。
【請求項2】
前記鋼板素材は、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)における平均結晶粒径が10~50μmである、請求項1に記載のメタルガスケット中間製品。
【請求項3】
前記鋼板素材は、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、下記(1)式で表されるΔHV値が50以上となる析出強化能を有するものである、請求項1または2に記載のメタルガスケット中間製品。
ΔHV=H1-H0 …(1)
ここで、H0は当該鋼板素材の圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)、H1は上記熱処理後における圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)である。
【請求項4】
前記鋼板素材は、圧延面のビッカース硬さHV30が200HV以下であり、かつ600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、下記(1)式で表されるΔHV値が150以上となる析出強化能を有するものである、請求項1または2に記載のメタルガスケット中間製品。
ΔHV=H1-H0 …(1)
ここで、H0は当該鋼板素材の圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)、H1は上記熱処理後における圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)である。
【請求項5】
前記鋼板素材は、当該鋼板から採取した試料に曲げ軸が圧延直角方向である曲げ半径R=0.5mmでの90°曲げ加工を施したのち、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施した試験片を作製したとき、X線回折法により求まる当該試験片の曲げ稜線における稜線方向の残留応力の絶対値が200MPa以下となるものである、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタルガスケット中間製品。
【請求項6】
前記鋼板素材は、板厚が0.10~0.50mmである請求項1~5のいずれか1項に記載のメタルガスケット中間製品。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のメタルガスケット中間製品に、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施す、メタルガスケットの製造方法。
【請求項8】
当該メタルガスケットは前記ビードの頭頂部を接触相手材に押し当てて使用するものである請求項7に記載のメタルガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のエンジン、排ガス経路部材(エキゾーストマニホールド、触媒コンバータ)、インジェクタ、EGRクーラー、ターボチャージャーなど、特に材料温度が800℃を超える高温域まで上昇しうる環境での使用に適した、プレス成形ビードを有するタイプのメタルガスケットを製造するための中間製品に関する。また、その中間製品からメタルガスケットを得るための製造方法に関する。本発明の中間製品には前記ビードが既に形成されている。この中間製品に析出強化のための熱処理を加えることによって高温強度に優れるメタルガスケットを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンの高性能化や環境規制に伴い内燃機関の排ガス温度は上昇し、メタルガスケットの材料温度は800℃超える高温域に達することがある。そのため、800℃前後の高温に長時間曝され、場合によってはそれより高い温度に昇温することが想定される環境でガスシール性能が十分に維持できる信頼性の高いメタルガスケットのニーズが増加している。
【0003】
これまでに種々の耐熱ガスケット用ステンレス鋼素材が開発されているが、800℃前後の高温域で長時間使用される用途に適用するには問題がある。例えば特許文献1、2、3の開示に代表されるSUS301やSUS431系の材料は、加熱される温度がマルテンサイト相の分解温度に相当するため軟化が著しく、耐へたり性に劣る。特許文献4、5、6、7には、Nにより強化されたFe-Cr-Mn-Niオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。これらはマルテンサイト相を多く含む場合やN含有量が高い場合に硬質化し、ガスケットへの成形時に加工部表面の肌荒れを生じて気密性を劣化させる要因を有しており、800℃前後で長時間使用した場合の信頼性に劣る。特許文献8にはNCF718(JIS G4902)系のニッケル基合金が開示されている(合金D)。この合金は800℃付近での析出強化には有効であるが、Niを50~55%と多量に含有するため非常に高コストである。特許文献9、10にはSUH660(JIS G4312)系の材料が開示されているが、Cr含有量が少ないため800℃付近まで昇温すると耐酸化性が著しく劣化する。また、800℃付近での析出硬化能はニッケル基合金である上記NCF718より劣り、800℃域で使用する際の耐へたり性が不十分である。特許文献11には上記SUH660系をベースにNi、Al含有量を増量したタイプの材料が開示されている。Ni、Alの増量によりγ’相(Ni3(Al,Ti))の数密度が増加して加熱による軟化特性は向上するが、耐へたり性は向上しないので、800℃前後で長時間使用できる信頼性は十分でない。特許文献12には材料の最高到達温度が600~800℃となることを想定した比較的安価なメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板が開示されている。しかし、800℃前後で長時間使用する場合や材料温度が800℃より高温域に上昇した際の優れた耐久性に関しては、更なる改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-3406号公報
【文献】特開2008-111192号公報
【文献】特開平7-278758号公報
【文献】特開2003-82441号公報
【文献】特開平7-3407号公報
【文献】特開平9-279315号公報
【文献】特開平11-241145号公報
【文献】特開2011-80598号公報
【文献】特開2013-32851号公報
【文献】特開2015-83718号公報
【文献】国際公開第2016/043199号
【文献】特許第6029611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、800℃前後の温度に長時間曝され、場合によってはそれより高い温度域に昇温することもあるメタルガスケットにおいて、優れた耐へたり性、耐高温酸化性、および耐ガスリーク性を実現可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
高温の燃焼ガスが流れる管路部材の締結箇所をシールする耐熱メタルガスケットは、締結される双方の部材の間で高い締め付け応力を受けた状態で高温に曝される。この種のガスケットの使用中での変形には、昇温時および高温保持の初期段階では主として高温強度が関与し、それ以降の高温保持段階では主としてクリープ変形が関与する。メタルガスケットの「へたり」はクリープ変形が主因となって生じる現象である。
【0007】
本発明では、高温強度の向上および耐へたり性の向上させるために、600~800℃で生成する析出相による析出強化が利用できる化学組成を採用する。ただし、耐へたり性を安定して顕著に向上させるためには、析出相による粒界強化に加えて、ビード部の残留応力が低いガスケットを構築することが極めて効果的であることがわかった。
【0008】
600~800℃で十分な析出能力を発揮し、かつビード部の残留応力が低いガスケットを実現するために、本発明では、質量%で、C:0.005~0.100%、Si:0.02~3.00%、Mn:0.02~2.50%、Ni:19.00~35.00%、Cr:16.00~25.00%、Mo:0.02~1.00%、Cu:0.01~2.00%、Ti:0~2.50%、Nb:0~2.50%、Al:0.002~2.00%、N:0.002~0.200%、B:0~0.010%、V:0~0.50%、Zr:0~0.50%、W:0~0.50%、Ta:0~0.50%、Co:0~0.50%、REM(Yを除く希土類元素):0~0.200%、Y:0~0.200%、Ca:0~0.100、Mg:0~0.100、かつTiとNbの合計含有量が0.30%以上、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延面のビッカース硬さHV30が400HV以下である鋼板素材の表面に、プレス成形ビードを有するメタルガスケット中間製品を提供する。
【0009】
上記において、B、V、Zr、W、Ta、Co、REM(Yを除く希土類元素)、Y、Ca、Mgは任意含有元素である。また、Ti、Nbについては、少なくとも一方の含有が必要である。
【0010】
前記鋼板素材は、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)における平均結晶粒径が例えば10~50μmである。
【0011】
前記鋼板素材は、例えば600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、下記(1)式で表されるΔHV値が50以上となる析出強化能を有するものである。焼鈍材を鋼板素材とする場合は、例えば圧延面のビッカース硬さHV30が200HV以下であり、かつ600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、下記(1)式で表されるΔHV値が150以上となる析出強化能を有するものが好適な対象となる。
ΔHV=H1-H0 …(1)
ここで、H0は当該鋼板素材の圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)、H1は上記熱処理後における圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)である。
【0012】
また、この中間製品を構成している材料である鋼板素材は、具体的には例えば以下の性質を有するものである。すなわち、当該鋼板から採取した試料に曲げ軸が圧延直角方向である曲げ半径R=0.5mmでの90°曲げ加工を施したのち、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施した試験片を作製したとき、X線回折法により求まる当該試験片の曲げ稜線における稜線方向の残留応力の絶対値が200MPa以下となる性質を有する。前記鋼板素材の板厚は、例えば0.10~0.50mmである。
【0013】
上記の中間製品に、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、メタルガスケットを製造することができる。このメタルガスケットは前記ビードの頭頂部を接触相手材に押し当てて使用するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、800℃前後の高温に長時間曝され、それより高温域に材料温度が上昇することもありうる環境で優れた耐久性を呈するメタルガスケットが、ステンレス鋼材料によって実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ガスケット試験片の形状を模式的に示した図。
図2】ガスケット試験片を拘束治具にセットした状態の断面を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔化学組成〕
以下に、本発明のメタルガスケット中間製品の成分元素について説明する。鋼の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0017】
Cは、高温強度の向上に有効な元素であり、固溶強化や析出強化によってステンレス鋼を強化する。C含有量は0.005%以上とする必要があり、0.010%以上とすることがより効果的である。C含有量が多すぎると溶製時にTiやNbの炭化物を形成して、析出強化に必要なマトリックス(金属素地)中のTi量あるいはNb量の不足を招く場合がある。C含有量は0.100%以下に制限され、0.050%未満に管理してもよい。
【0018】
Siは、Ni32Siタイプ(MはTiなど)の析出相であるG相の構成元素である。G相は、結晶粒界の強化作用を有し、耐へたり性の向上に有効である。Si含有量は0.02%以上とする必要があり、0.40%以上とすることがより効果的である。Si含有量が多くなりすぎるとオーステナイト相の安定性を損なうとともに、加工性低下の要因となる。Si含有量は3.00%以下の範囲に制限される。2.00%未満、あるいは1.50%以下に管理してもよい。
【0019】
Mnは、オーステナイト形成元素であり、高価なNiの一部を代替することができる。また、Sを固定して熱間加工性を改善する作用を有する。Mn含有量は0.02%以上とする必要があり、0.40%以上とすることがより好ましい。多量のMn含有は高温強度や機械的性質を低下させる要因となるので、本発明ではMn含有量を2.50%以下に制限する。2.00%未満、あるいは1.50%以下に管理してもよい。
【0020】
Niは、安定なオーステナイト組織を得るために必須の元素であるとともに、本発明ではG相などの析出相の構成元素としても機能する。Ni含有量は19.00以上のNi含有量が必要であり、22.00%以上とすることがより好ましい。Ni含有量が高いほど耐へたり性の改善には有利となるが、コスト的な観点からNi含有量は35.00%以下のNi含有量範囲で成分調整することが望ましい。28.00%以下に管理してもよい。
【0021】
Crは、耐食性、耐高温酸化性の向上に必要な元素である。発明者らの検討によると、材料の到達温度が750℃程度である場合、13%程度Cr含有量でもガスケットとして使用できる特性を得ることは可能である。しかしながら、材料温度が800℃以上の高温になると、メタルガスケットの耐久性は、材料の高温強度や耐へたり性だけでなく、昇温、降温を繰り返した場合の耐高温酸化性にも大きく左右されることがわかった。種々検討の結果、材料温度が800℃以上に上昇することが想定されるガスケット環境で優れた耐久性を発揮させるためには、耐高温酸化性を向上させる観点から16.00%以上のCr含有量を確保する必要がある。18.00%以上がより好ましい。ただし、多量のCr含有はFe,Crタイプの析出相であるσ相が生成することにより、G相などの析出相による強化能の低下や靭性の低下を招く要因となる。Cr含有量は25.00%以下に制限され、23.00%以下に管理してもよい。
【0022】
Moは、耐食性の向上に有効であるとともに、高温保持中に炭窒化物となって微細分散し高温強度の向上に寄与する。Mo含有量は0.02%以上を確保する必要がある。しかしながら、Mo含有量が多くなると、800℃以上に温度が上昇するメタルガスケットにおいて耐ガスリーク性の向上が不十分となることがわかった。発明者らの検討によれば、Mo含有量が増大すると(Fe,Cr)2Moタイプの析出相であるLaves相が生成することにより、G相による強化能が低下してしまうことが原因として考えられた。Mo含有量は1.00%以下に制限する必要がある。
【0023】
Cuは、メタルガスケットとして使用する際の昇温に伴ってCu系析出物を形成し、高温強度および耐軟化性の改善に寄与する。Cu含有量は0.01%以上とする。ただし、多量のCu含有は熱間加工性を低下させる要因となる。Cu含有量は2.00%まで許容される。
【0024】
Tiは、G相などの析出相の構成元素として機能する。ただし、過剰のTi含有は介在物起因による表面品質の低下を招く要因となる。Ti含有量は2.50%以下に制限される。
Nbは、析出強化に有効な析出相の構成元素として機能する。また、オーステナイトマトリックス中に固溶し、硬度上昇および耐軟化性向上にも寄与する。ただし、過剰のNb含有は高温延性低下に起因して熱間加工性を低下させる要因となる。また、Nbは(Fe,Cr)2NbタイプのLaves相を生成する構成元素であるため、過剰のNb含有はG相など、他の有効な析出相による強化能低下を招く要因となる。Nb含有量は2.50%以下に制限される。
本発明では上記TiおよびNbの1種以上を含有させ、TiとNbの合計含有量を0.30%以上とする。TiとNbの合計含有量を0.80%以上とすることがより好ましい。
【0025】
Alは、脱酸剤として有効であり、0.002%以上の含有量を確保する必要がある。また、高温強度の向上に有効な析出相の構成元素ともなる。Alによる析出強化能を十分に発揮させるためには0.20%以上のAl含有量を確保することが効果的である。ただし、過剰にAlを含有すると結晶粒界の強化に寄与する析出相の強化作用を阻害して、耐へたり性の向上効果が低減する場合がある。Al含有量は2.00%に制限され、0.80%以下の範囲に管理してもよい。
【0026】
Nは、オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度の上昇に有効な元素である。本発明では0.002%以上のN含有量を確保することが望ましく、0.004%以上とすることがより好ましい。N含有量が多すぎると溶製時にTiやNbの炭化物を形成して、析出強化に必要なマトリックス(金属素地)中のTi量あるいはNb量の不足を招く場合がある。N含有量は0.200%以下に制限され、0.050%未満に管理してもよい。
【0027】
Bは、任意添加元素であり、高温強度の上昇に有効な炭窒化物の微細析出を促進させ、熱間圧延温度域においてはS等の粒界偏析を抑制しエッジクラックの発生を防止する作用を呈する。Bを添加する場合は0.0005%以上の含有量とすることがより効果的である。過剰量のBを添加すると低融点硼化物が生成しやすくなり、却って熱間加工性を劣化させる要因となる。B含有量は0.010%以下に制限される。
【0028】
Vは、任意添加元素であり、硬度上昇、耐へたり性改善に有効な析出物を形成する。Vを添加する場合は0.05%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。過剰のV含有は加工性、靭性の低下要因となる。V含有量は0.50%以下に制限される。
【0029】
Zrは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効であるとともに、微量の添加で耐高温酸化性を向上させる作用を有する。Zrを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.05%以上とすることが一層効果的である。過剰のZr含有はσ脆化を招き、鋼の靱性を損なう。Zr含有量は0.50%以下に制限される。
【0030】
Wは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効である。Wを添加する場合は0.05%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。過剰にWを含有させると鋼が過度に硬質となり、原料コストも高くなる。W含有量は0.50%以下に制限される。
【0031】
Taは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効である。Taを添加する場合は0.05%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。過剰のTa含有は製造性、靭性の低下要因となる。Ta含有量は0.50%以下に制限される。
【0032】
Coは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効である。Coを添加する場合は0.05%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。過剰にCoを含有させると鋼が過度に硬質となり、原料コストも高くなる。Co含有量は0.50%以下に制限される。
【0033】
REM(Yを除く希土類元素)、Y、Ca、Mgは、任意添加元素であり、いずれも熱間加工性や耐酸化性の改善に有効である。これらの1種以上を添加する場合、添加する各元素とも0.001%以上の含有量とすることがより効果的である。過剰に添加しても上記の効果は飽和する。REM(Yを除く希土類元素)は0.200%以下、Yは0.200%以下、Caは0.100%以下、Mgは0.100%以下の含有量範囲でそれぞれ添加すればよい。
【0034】
〔平均結晶粒径〕
本発明のメタルガスケット中間製品は、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)における平均結晶粒径が10~50μmである鋼板素材で構成されていることがより好ましい。平均結晶粒径をある程度大きくすることによって耐クリープ性の低下を抑制することができ、メタルガスケットの耐へたり性を確保するうえで有利となる。一方、平均結晶粒径が大きすぎると、ビードの形状によっては、プレス成形により形成されたビード凸部の表面が荒れ、メタルガスケットの耐ガスリーク性が悪くなる場合がある。平均結晶粒径は以下のようにして測定する。
【0035】
(平均結晶粒径の測定方法)
鋼板のL断面を研磨したのち、王水(塩酸:硝酸=3:1)にてエッチングすることによりオーステナイト結晶粒界を現出させて観察面を調製し、その観察面の顕微鏡画像を取得する。顕微鏡画像上に、板厚中心を通り、板厚の1/2以上の長さを有する、板厚方向に平行な直線の試験線を引き、試験線と結晶粒界の交点の数nをカウントし、結晶粒内を横切る試験線の1結晶粒当たりの平均線分長L(μm)を求める。平均線分長Lは、試験線の一端に最も近い交点と他端に最も近い交点の距離L0(μm)を、n-1の値で除した値とする。試験線は、無作為に選択したL方向位置に、試験線を横切る結晶粒の総数が250個以上となるように、1本または複数本設定する。複数本の試験線を設定する場合は、1つの結晶粒が複数の試験線によって横切られることがないようにする。各試験線で得られた上記平均線分長L(μm)の相加平均値を当該鋼板の平均結晶粒径(μm)とする。
【0036】
〔硬さ〕
本発明のメタルガスケット中間製品は、析出強化処理を受けていない鋼板素材に、プレス成形ビードが形成された状態のものである。その素材鋼板は、圧延面(板厚方向に垂直な表面)のビッカース硬さHV30が400HV以下であることが好ましく、350HV以下であることがより好ましい。硬すぎると、メタルガスケットビード形状によっては、加工性が不足する場合がある。ここで、ビッカース硬さHV30は、JIS Z2244:2009に従う試験力294.2Nでのビッカース硬さである。なお、鋼板素材として焼鈍材を適用する場合は、上記圧延面(板厚方向に垂直な表面)のビッカース硬さHV30は例えば200HV以下である。硬さの下限は特に規定しないが、上記化学組成を有する鋼の場合、通常145HV以上となる。
【0037】
〔鋼板素材の析出強化能〕
本発明のメタルガスケット中間製品を構成する鋼板素材は、例えば600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施すことによって、下記(1)式で表されるΔHV値が50以上となる析出強化能を有するものである。本明細書では、この析出強化をもたらす熱処理を「析出処理」と呼んでいる。なお、鋼板素材として例えば上記の硬さが200HV以下のものを適用する場合、下記(1)式で表されるΔHV値が150以上となる析出強化能を呈するものが好適な対象となる。
ΔHV=H1-H0 …(1)
ここで、H0は当該鋼板素材の圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)、H1は上記熱処理後における圧延面のビッカース硬さHV30の値(HV)である。
上述の化学組成を有し、かつ上述の硬さに調整されている鋼板において、上記ΔHV値が50以上となる析出強化能を得ることができる。
【0038】
〔残留応力の低減性能〕
本発明のメタルガスケット中間製品は、既にプレス成形ビードが形成された状態のものである。ただし、まだ析出処理を受けていない鋼板素材にプレス加工を施してビードを形成したものである。ビードが形成された後に、析出処理を受けるので、ビード成形時に生じたビード部の残留応力を析出処理の加熱によって低減させることができる。本発明の中間製品に使われている鋼板素材は、ビード成形と、その後の析出処理を模擬した試験に供したときに、加工部の残留応力が顕著に低減する性質を有している。具体的には、当該鋼板から採取した試料に曲げ軸が圧延直角方向である曲げ半径R=0.5mmでの90°曲げ加工を施したのち、600~800℃で1~10時間保持する熱処理を施した試験片を作製したとき、X線回折法により求まる当該試験片の曲げ稜線における稜線方向の残留応力の絶対値が200MPa以下となるものである。上述の化学組成を有し、かつ上述の硬さに調整されている鋼板において、上記残留応力の絶対値が200MPa以下となる残留応力の低減性能を得ることができる。このような鋼板にプレス成形ビードを形成してなるメタルガスケット中間製品は、これまでに無かった。
【0039】
(残留応力の求め方)
上記の残留応力の測定は、曲げ稜線を含む平面内でψ角を段階的に変化させて、Cr-Kα線の照射によるオーステナイト結晶{220}面の面間隔の変化を調べる「並傾法」によって行う。ψ角は、0°、5°、10°、15°、20°、25°、30°、40°、45°の9段階とする。横軸がsin2ψ、縦軸が2θである直交座標系に各ψ角での(sin2ψ,2θ)をプロットし、最小二乗法により求まる直線の傾きから、下記(2)式により残留応力σ(MPa)を定めることができる。
σ=K・∂(2θ)/∂(sin2ψ) …(2)
ここで、2θはオーステナイト結晶{220}面の回折角(°)、ψは試料面法線と結晶面法線のなす角度(°)である。Kは、材料が無歪状態であるときのヤング率、ポアソン比から定まる定数であり、ここではK=196000MPaとして算出することができる。
上記の試験によって生じる稜線方向の残留応力は圧縮応力となるので、(2)式により定まるσは負の値となる。したがって、圧縮残留応力の大きさを評価するために、σの絶対値(マイナス符号を除いた正の数値)の大きさを評価指標として採用する。
【0040】
〔高温硬さ〕
本発明のメタルガスケット中間製品を構成する鋼板素材は、800℃まで昇温したのち800℃で5分保持後、荷重300gで30秒保持する高温硬さ試験による高温硬さが75HV以上である。すなわち、上記鋼板素材は800℃で5分保持する比較的短時間の熱処理で高温強度の向上に有効な析出相が生成する能力を有している。
【0041】
〔中間製品の製造方法〕
本発明のメタルガスケット中間製品に使用する鋼板素材は、一般的なステンレス鋼板の大量生産設備を利用して製造することができる。具体的には、以下の工程が例示できる。
溶製→連続鋳造→熱間圧延→熱延板焼鈍→冷間圧延→(中間焼鈍→中間冷間圧延)→仕上焼鈍→(仕上冷間圧延)
ここで、括弧内の中間焼鈍および中間冷間圧延は必要に応じて1回または複数回行うことができる。上記には記載していないが、各焼鈍後には適宜酸洗が行われる。仕上焼鈍は例えば1000~1100℃、均熱0~60秒の範囲で設定することができる。仕上焼鈍後の冷却は、焼鈍温度から400℃までの平均冷却速度が例えば10℃/s以上となるようにすることが好ましい。鋼板素材の平均結晶粒径が10~50μmとなり、仕上焼鈍後の圧延面の硬さが200HV以下となるように仕上焼鈍条件を設定することが好ましい。仕上冷間圧延率は例えば30~75%とすることができる。仕上冷間圧延後の圧延面の硬さHV30が400HV以下、より好ましくは350HV以下となるように仕上冷間圧延率を設定すればよい。このようにしてガスケット形状への加工に供するための鋼板素材を得ることができる。また、仕上冷間圧延を省略して、仕上焼鈍材を鋼板素材としてもよい。鋼板素材の板厚は例えば0.10~0.50mmである。
【0042】
上記の鋼板素材にプレス加工を施してメタルガスケットの形状に成形し、鋼板素材の表面にプレス成形ビードを有する本発明のメタルガスケット中間製品を得る。鋼板素材はガスケット形状への加工前に析出処理を受けていないので、良好なプレス成形性を有している。また、プレス成形によってビード部に付与される残留応力も、既に析出処理を終えた鋼板を素材に用いる場合に比べ軽減することができる。
【0043】
〔メタルガスケットの製造方法〕
上記のようにして得られた本発明のメタルガスケット中間製品に析出処理を施すことによって、メタルガスケットを製造することができる。析出処理は、600~800℃で1~10時間保持する熱処理条件で行うことができる。加熱保持後の冷却は、冷却時の変形を抑制するために空冷とすることが望ましい。この温度域での保持によって、結晶粒内および結晶粒界に高温強度および耐へたり性の向上に有効な析出相が生成する。また、プレス成形によってビード部に付与された残留応力が低下し、優れた耐へたり性が実現できる。得られたメタルガスケットは、ビードの頭頂部を接触相手材に押し当てて使用される。
【実施例
【0044】
表1に示す鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚4.0mmとし、焼鈍、酸洗を施し、その後「冷間圧延、焼鈍、酸洗」の工程を2回行ったのち仕上冷間圧延を施して、板厚0.25mmの鋼板素材を得た。最後の焼鈍(仕上焼鈍)は、いずれの例も仕上焼鈍の雰囲気は大気、仕上焼鈍加熱後の冷却は空冷とした。仕上冷間圧延率は40%とした。ただし、一部の例(後述のNo.18)では上記仕上冷間圧延を省略して、板厚0.25mmの冷延焼鈍鋼板を作製し、それを鋼板素材とした。各鋼板素材について以下の調査を行った。
【0045】
(平均結晶粒径)
鋼板のL断面について、上掲の「平均結晶粒径の測定方法」に従い平均結晶粒径を求めた。
【0046】
(硬さ)
鋼板の圧延面(板厚方向に垂直な表面)について、JIS Z2244:2009に従う試験力294.2Nでのビッカース硬さHV30を測定した。
【0047】
(ΔHV)
表2に記載の条件で析出処理を施し、析出処理後の圧延面のビッカース硬さHV30を上記と同様の方法で測定し、析出処理による硬さの変化を表す指標ΔHV値を、上述(1)式により求めた。
【0048】
(曲げ加工部についての析出処理後の残留応力)
鋼板素材から採取した試料に曲げ軸が圧延直角方向である曲げ半径R=0.5mmでの90°曲げ加工を施したのち、表2に記載の析出処理条件(上記ΔHVの測定のために行った析出処理と同条件)で析出処理を施すことにより、残留応力測定用の試験片を作製した。微小部X線応力測定装置(理学電機株式会社製、PSPC微小部X線応力測定装置)により、試験片の曲げ加工部の稜線上にX線を照射し、前掲の「残留応力の求め方」に従う方法で曲げ加工部稜線方向の残留応力σを上述(2)式により求めた。測定条件は、管電流:30mA、管電圧:40kV、X線:Cr-Kα、コリメータ:φ0.5mm、ピークサーチ:半価幅中点法とした。
【0049】
(800℃の高温硬さ)
鋼板素材から5mm角の試験片を切り出し、その表面を番手1000(JIS R6010:2000に規定される粒度P1000)のエメリー研磨紙による乾式研磨仕上とした。上記試験片について、高温硬さ試験機を用いて800℃での高温硬さを測定した。測定条件は、800℃まで昇温したのち、800℃での試験予熱時間:5分(JIS Z2252準拠)、硬度測定荷重保持時間:30秒(JIS Z2252準拠)、測定荷重:300gとした。
以上の結果を表2に示す。
【0050】
(耐高温酸化性)
鋼板素材から25mm×35mmの試験片を採取し、表2に記載の析出処理条件(上記ΔHVの測定のために行った析出処理と同条件)で析出処理を施したのち、表面を番手400(JIS R6010:2000に規定される粒度P400)のエメリー研磨紙による乾式研磨仕上とし、「大気中800℃で5分間加熱→常温大気中で5分間冷却」を1サイクルとする熱処理を連続して2000サイクル行い、下記(3)式により酸化増減量(mg/cm2)を求めた。
酸化増減量(mg/cm2)=(W2000-W0)/S0 …(3)
ここで、W2000は2000サイクル終了後の試験片質量(mg)、W0は試験前の試験片質量(mg)、S0は試験前の試験片表面積(cm2)である。
この酸化増減量が0~1.00mg/cm2である鋼板は、800℃以上の温度で使用されるメタルガスケット素材に適した耐高温酸化性を有していると評価できる。したがって、酸化増減量0~1.00mg/cm2のものを○(耐高温酸化性;良好)、それ以外を×(耐高温酸化性;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。なお、この酸化増減量が負の値である鋼板は、酸化スケールが剥離したことにより質量が減少したものである。
この酸化試験結果については、後述のメタルガスケットの耐高温酸化性を表すものであるため、メタルガスケットの特性として後述表3中に示す。
【0051】
(メタルガスケット中間製品の作製)
次に、上記の各鋼板素材にプレス成形を施すことにより、外径がφ50mm、内径がφ32mmのリング状を呈し、そのリングの内縁部周辺に幅3mm、高さ0.5mmのビードを有する形状のメタルガスケット中間製品を作製した。図1にそのメタルガスケット中間製品の形状を模式的に示す。図1中の右側の図は、メタルガスケット中間製品のリング中心を通り、板厚方向に平行な平面で切断した断面の形状(リング中心に対し片側のみ)を表したものである。ビード高さを記号hで示してある。
【0052】
(メタルガスケットの作製)
上記のメタルガスケット中間製品に、一部の例(No.39、40)を除き、表2に記載の析出処理条件(上記ΔHVの測定のために行った析出処理と同条件)で析出処理を施すことにより、メタルガスケットを作製した。No.39、40は、メタルガスケット中間製品をそのままメタルガスケットとして使用した例である。各メタルガスケットについて以下の調査を行った。
【0053】
(耐へたり性)
各メタルガスケットについて、以下の拘束試験AおよびBを行い、それらの試験後のビード高さの差を求めて、へたり量を定めた。
【0054】
拘束試験A;
締め付け履歴をまだ一度も受けていないメタルガスケット(以下「新品メタルガスケット試験片」と言う。)を、鋼製の拘束治具にセットした。図2に、ガスケット試験片を拘束治具にセットした状態の断面を模式的に示す。ガスケット試験片1を接触相手材2の間にはさみ、締結ボルト3によって所定のトルクで均等に締め付けた。締結ボルト3はガスケット試験片1の周囲に均等に4本あり、図2中には締結ボルト3およびナットについてのみ便宜的に外観形状を表示してある。締め付け終了後、締結ボルト3による締め付けを緩めて除荷し、ガスケット試験片1を取り出した。
【0055】
拘束試験B;
別の新品メタルガスケット試験片を、上記と同様の方法で拘束治具にセットした。締め付けトルクは拘束試験Aと同じとした。この拘束治具をガスケット試験片1が拘束されている状態のまま大気中800℃で300時間保持した後、常温の室内で放冷した。放冷後、常温にて拘束治具の一方の接触相手材2のみに取り付けてあるガス導入管4から、窒素ガスを0.5MPaの圧力で、ガスケット試験片1と上下の接触相手材2に囲まれる空間に導入し、その空間から外部にリークするガスの流量(cm3/min)を測定した。その後、締結ボルト3による締め付けを緩めて除荷し、ガスケット試験片1を取り出した。
【0056】
拘束試験AおよびBを終えたガスケット試験片について、それぞれ図1に符号hで示したビード高さを測定した。そして、下記(4)式により「へたり量」(μm)を求めた。
へたり量(μm)=hA-hB …(4)
ここで、hAは拘束試験Aを終えた試験片のビード高さ(μm)、hBは拘束試験Bを終えた試験片のビード高さ(μm)である。
この「へたり量」が50μm以下であるメタルガスケットは、800℃以上の温度で非常に優れた耐へたり性を呈すると評価できる。したがって、へたり量50μm以下を○(耐へたり性;良好)、それ以外を×(耐へたり性;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。結果を表3に示す。
【0057】
(耐ガスリーク性)
上記の拘束試験Bを行ったときに測定したガスリーク流量により、耐ガスリーク性を評価した。この試験におけるガスリーク流量が10.0cm3/min以下であれば、800℃付近あるいはそれより高温域に昇温されるメタルガスケットとして優れたシール性能を有していると判断できる。したがって、ガスリーク流量10.0cm3/min以下のものを○(耐ガスリーク性;良好)、それ以外を×(耐ガスリーク性;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。結果を表3に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
本発明のメタルガスケット中間製品に析出処理を施すことによって得られたメタルガスケットは、耐高温酸化性、耐へたり性および耐ガスリーク性に優れるものであった。
【0062】
これに対し、比較例No.31は析出処理の温度が低かったのでビード部の残留応力が高くなり、ガスケットの使用を模擬した拘束試験B中に上記残留応力が低下することに起因して大きな「へたり」が生じた。No.32~36は本発明の規定を満たさない化学組成の鋼を使用した例である。これらの例では、耐高温酸化性、耐へたり性および耐ガスリーク性のすべてに優れるガスケットは得られなかった。No.37、38は析出処理を施していないメタルガスケット中間製品をそのままメタルガスケットとして上記の試験に供したものである。この場合、ビード部の残留応力が高いことに起因して、耐へたり性および耐ガスリーク性が悪かった。
【符号の説明】
【0063】
1 ガスケット試験片
2 接触相手材
3 締結ボルト
4 ガス導入管
図1
図2