(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20220617BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K5/20
(21)【出願番号】P 2018183170
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】指輪 仁之
(72)【発明者】
【氏名】福田 竜司
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-513578(JP,A)
【文献】特表2014-517864(JP,A)
【文献】特開2009-155489(JP,A)
【文献】特開2004-292625(JP,A)
【文献】特開平09-194280(JP,A)
【文献】特開平09-194281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートと、式:H
2N-OC-R
1-CO-NH
2(R
1は2価の炭化水素基を示す)で表されるジアミド化合物とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
R
1が、炭素数が偶数のアルキレン基を示す、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ジアミド化合物がスクシンアミド又はアジポアミドである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ジアミド化合物の含有量が、ポリヒドロキシアルカノエート100重量部に対して0.05~20重量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
ポリヒドロキシアルカノエートに対し、式:H
2N-OC-R
1-CO-NH
2(R
1は2価の炭化水素基を示す)で表されるジアミド化合物を配合することを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエートの固化促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の樹脂であるポリヒドロキシアルカノエートを含む樹脂組成物、及び、それを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックは加工や使用の容易性、再利用の困難性、衛生上の問題などの観点から使い捨てされてきた。しかし、プラスチックが多量に使用、廃棄されるにつれ、その埋め立て処理や焼却処理に伴う問題がクローズアップされている。そのような問題としては、例えばゴミ埋め立て地の不足、非分解性のプラスチックが環境に残存することによる生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷などが挙げられる。
【0003】
近年、プラスチック廃棄物の問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。一般的に生分解性プラスチックは、1)ポリヒドロキシアルカノエート等の微生物生産系脂肪族ポリエステル、2)ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の化学合成系脂肪族ポリエステル、3)澱粉や酢酸セルロース等の天然高分子といった、3種類に大別される。化学合成系脂肪族ポリエステルの多くは嫌気性分解しないため廃棄時の分解条件に制約があり、しかも、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンは耐熱性に問題がある。また、澱粉は非熱可塑性で脆く、耐水性に劣るといった問題がある。
【0004】
一方、ポリヒドロキシアルカノエートのなかでもポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(以下P3HAと略すことがある)は好気性、嫌気性何れの環境下でも分解性に優れ、燃焼時には有毒ガスを発生せず、植物原料を使用して微生物により生産され得るプラスチックで、高分子量化が可能であり、地球上の二酸化炭素を増大させずカーボンニュートラルである、といった優れた特徴を有している。該P3HAは脂肪族ポリエステルに分類されるが、先に述べた化学合成系脂肪族ポリエステルや天然高分子とはポリマーの性質が大きく異なり、嫌気性下でも分解する性質や、耐湿性に優れる点、高分子量化が可能である点は特筆すべき性能である。また、P3HAが共重合体の場合、構成するモノマーの組成比を制御することで、融点、耐熱性や柔軟性といった物性を変化させることが可能である。このためP3HAは、包装材料、食器材料、建築・土木・農業・園芸材料、自動車内装材、吸着・担体・濾過材等に応用可能な成形体としての使用が期待されている。
【0005】
一方、P3HAは加工性に関して二つの大きな問題を有する。一つは高温に加熱した場合の熱分解による分子量低下、もう一つは遅い結晶化速度に由来する加工性の悪さである。P3HAのなかでもポリヒドロキシブチレート(以下、PHBと略すことがある)は、融点が約175℃と高く耐熱性に優れているものの、加工温度が高くなることから加熱加工時に非常に熱分解し易く、分子量が低下してしまうため、耐熱性が高くても脆い成形体となりやすい。
【0006】
これに対し、P3HAの共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、PHBHと略すことがある)は、共重合成分のうち3-ヒドロキシヘキサノエートの比率が増大することで融点が低下するため、加熱加工時の温度を下げることができ、熱分解を抑制して分子量を維持しながらの加工が可能になる。
【0007】
従来よりポリエステルの結晶化速度を改善する方法として種々の結晶核剤を添加することが検討されている。例えば特許文献1には、生分解性樹脂に用いる結晶核剤として、天然または合成珪酸塩化合物、酸化チタン、硫酸バリウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸ソーダなどが挙げられ、前記珪酸塩化合物として、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト、バーミュライト、マイカなどが例示されている。また、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶核剤として、特許文献2では、タルク、微粒化雲母、窒化ホウ素、炭酸カルシウムが挙げられ、より効果的なものとして、有機ホスホン酸もしくは有機ホスフィン酸、またはそれらのエステル、あるいはそれらの酸もしくはエステルの誘導体、及び周期律表の第I~V族の金属の酸化物、水酸化物、及び飽和または不飽和カルボン酸塩からなる群より選択される金属化合物が開示され、特許文献3ではポリビニルアルコール、キチンおよびキトサンが開示され、特許文献4ではチロシン、フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸からなる化合物などが開示されている。特許文献5には、熱可塑性ポリエステルの結晶核剤として、窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物が開示されている。特許文献6には、熱可塑性樹脂の結晶核剤として、アミノ酸の金属塩が開示されている。特許文献7には、アミノ酸やジペプチド類を結晶核剤に用いているものが開示されている。
【0008】
特許文献9では、ポリヒドロキシアルカノエートに結晶核剤としてペンタエリスリトールを添加することにより、上述した各種結晶核剤を用いた場合と比較しても、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の速度が著しく改善され、射出成形やブロー成形の成形加工における固化性が改善されて加工速度が向上することが記載されている。しかしながら、非特許文献1によるとペンタエリスリトールは昇華性を有するために、ポリヒドロキシアルカノエートの成形加工時にペンタエリスリトールが昇華することがあり、この場合、成形機の真空ベントを詰まらせる可能性がある。また、ペンタエリスリトールを含む成形体を室温または120℃にて放置すると、時間と共にペンタエリスリトールが成形体の表面にブリードアウトする場合があり、成形体の品質安定性を阻害する可能性がある。このように、ペンタエリスリトールは、ポリヒドロキシアルカノエートに対する優れた結晶核剤であるが、昇華およびブリードアウトの可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-336448号公報
【文献】特開平3-24151号公報
【文献】特開2007-77232号公報
【文献】米国特許第5,516,565号明細書
【文献】特表2007-517126号公報
【文献】米国特許第6,555,603号明細書
【文献】特開2010-47732号公報
【文献】特許第6150399号報
【非特許文献】
【0010】
【文献】垰田博史、早川 浄、化学工学論文集、1987年、第13巻、第1号、p51-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリヒドロキシアルカノエートの固化速度が改善され、かつ、結晶核剤の昇華およびブリードアウトが抑制された樹脂組成物、及び、それを成形してなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、ポリヒドロキシアルカノエートに対し、特定式で表されるジアミド化合物を配合することで、ポリヒドロキシアルカノエートの固化速度が改善されることに加え、当該ジアミド化合物が昇華およびブリードアウトしにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
(1) ポリヒドロキシアルカノエートと、式:H2N-OC-R1-CO-NH2(R1は2価の炭化水素基を示す)で表されるジアミド化合物とを含む樹脂組成物。
(2) R1が、炭素数が偶数のアルキレン基を示す、前記(1)に記載の樹脂組成物。
(3) ジアミド化合物がスクシンアミド又はアジポアミドである、前記(1)に記載の樹脂組成物。
(4) ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(5) ジアミド化合物の含有量が、ポリヒドロキシアルカノエート100重量部に対して0.05~20重量部である、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(6) 前記(1)~(5)の何れか1つに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
(7) ポリヒドロキシアルカノエートに対し、式:H2N-OC-R1-CO-NH2(R1は2価の炭化水素基を示す)で表されるジアミド化合物を配合することを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエートの固化促進方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリヒドロキシアルカノエートの固化速度が改善され、かつ、結晶核剤の昇華およびブリードアウトが抑制された樹脂組成物、及び、それを成形してなる成形体を提供することができる。本発明によると、射出成形、フィルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡などにおけるポリヒドロキシアルカノエートの加工性を改善することができ、さらに、成形加工中の結晶核剤の昇華や、成形体からの結晶核剤のブリードアウトが抑制され得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を詳述する。
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートと、特定のジアミド化合物とを含む、ポリエステル樹脂組成物に関する。ポリヒドロキシアルカノエートとしては、少なくとも3-ヒドロキシアルカン酸単位を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が好ましい。以下では、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)をP3HAと略する場合がある。
【0016】
(P3HA)
本発明で用いられるP3HAとは、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸単位を含有するポリエステルであり、特に、式:[-CHR-CH2-CO-O-](式中、RはCnH2n+1で表される直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含むポリエステルが好ましい。該ポリエステルは単独重合体であってよいし、前記繰り返し単位を2種類以上含む共重合体であってもよい。このような共重合体は、単独重合体と比較して融点が低くなり得るために、溶融時の温度を低くすることができ、高温による樹脂の分解を抑制できるため好ましい。
【0017】
P3HAは、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸単位のみを含有するポリエステルであってもよいが、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸単位と共に、他のヒドロキシアルカン酸単位(例えば、4-ヒドロキシアルカン酸単位)を含有する共重合ポリエステルであってもよい。前記共重合ポリエステルでは、全ヒドロキシアルカン酸単位のうち3-ヒドロキシアルカン酸単位が占める含有割合は特に限定されないが、例えば50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が特に好ましく、90モル%以上が最も好ましい。
【0018】
本発明におけるP3HAの具体例としては、例えば、PHB〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、又はポリ3-ヒドロキシ酪酸〕、PHBH〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又はポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシヘキサン酸)〕、PHBV〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、又はポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)〕、P3HB4HB〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、又はポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-4-ヒドロキシ酪酸)〕、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。これらのなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、PHB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが好ましく、PHBHがより好ましい。
【0019】
P3HAは、柔軟性と強度の観点から、3-ヒドロキシブチレート単位を含む単独重合体又は共重合体が好ましい。なかでも、柔軟性と強度のバランスの観点から、P3HAに含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%~99モル%を示すものがより好ましく、85モル%~97モル%を示すものがさらに好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%未満であると剛性が不足する傾向があり、99モル%より多いと柔軟性が不足する傾向がある。
【0020】
本発明において、P3HAは1種類のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、P3HAとしてPHBH等の共重合体を使用する場合には、3-ヒドロキシブチレート単位等のモノマー単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を混合して使用することもできる。
【0021】
本発明で使用するP3HAの分子量は、最終物の成形体が目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであればよく、特に限定されない。しかし、分子量が低いと成形体の強度が低下する傾向があり、逆に高いと加工性が低下し、加工が困難になる場合があるので、それらを勘案して分子量を決定すればよい。この観点から、本発明で使用するP3HAの重量平均分子量の範囲は、50,000~3,000,000が好ましく、100,000~1,500,000がより好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算の分子量として測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0022】
本発明で使用するP3HAのガラス転移温度は特に限定されないが、-30~10℃が好ましい。本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量分析で10℃/minの昇温速度にて測定される。
【0023】
P3HAを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、P3HA産生能を有する微生物によりP3HAを産生させる方法が挙げられる。そのような微生物としては特に限定されないが、例えば、PHB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumの他、カプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等が挙げられる。また、3-ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、PHBVおよびPHBH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が挙げられる。特に、PHBH生産菌としては、PHBHの生産性を上げるためにPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821-4830(1997))が挙げられる。
【0024】
これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HAを蓄積させ、そのP3HAを回収することでP3HAを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。また、上掲した微生物以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を培養してP3HAを製造することもできる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートに加えて、デンプン、セルロースなどの天然高分子などを配合することもできる。また、ポリヒドロキシアルカノエート以外の熱可塑性樹脂を必要に応じて配合することもできる。
【0026】
(ジアミド化合物)
本発明の樹脂組成物は、特定のジアミド化合物を含有する。当該ジアミド化合物は、ポリヒドロキシアルカノエートに対する結晶核剤または固化促進剤として作用し得る。前記ジアミド化合物は、式:H2N-OC-R1-CO-NH2で表される化合物である。
前記式中、R1は、2価の炭化水素基を示す。当該炭化水素基は、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~10であることがより好ましく、炭素数2~6であることがさらに好ましい。前記炭化水素基は、飽和の炭化水素基、不飽和の炭化水素基のいずれであってもよいが、飽和の炭化水素基であることが好ましい。また、前記炭化水素基は、脂肪族基、芳香族基、脂環式基のいずれであってもよいが、脂肪族基であることが好ましい。さらに、前記脂肪族基は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状であることがより好ましい。特に、前記炭化水素基は、炭素数が偶数のアルキレン基であることが好ましく、具体的には、-(CH2)2-基、-(CH2)4-基、-(CH2)6-基、-(CH2)8-基が好ましい。
前記ジアミド化合物の具体例としては、特に限定されないが、マロン酸ジアミド、スクシンアミド(コハク酸ジアミド)、グルタル酸ジアミド、アジポアミド(アジピン酸ジアミド)、ピメリン酸ジアミド、スベリン酸アミド、アゼライン酸ジアミド、セバシン酸ジアミド、フタル酸ジアミド、イソフタル酸ジアミド、テレフタル酸ジアミド等を挙げることができる。なかでも、スクシンアミド、アジポアミドが好ましく、スクシンアミドが特に好ましい。
【0027】
前記ジアミド化合物は、予め粉砕等により粒径を小さくしてからポリヒドロキシアルカノエートに配合することにより、結晶核剤としての効果をより高めることができる。このような前記ジアミド化合物の平均粒径としては100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下である。該平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置や、BET(Brunauer Emmett Teller)吸着法により測定することができる。
【0028】
前記ジアミド化合物の粒径を小さくする方法としては、乳鉢による粉砕のほか、衝突板式または粉体衝突式のジェットミル、ビーズミル、ハンマーミルなど従来公知の方法を使用することができる。また、粉砕によらず、例えば結晶核剤の溶液とポリヒドロキシアルカノエートを混合し、その後溶媒を除去することによって、ポリエステル樹脂表面に結晶核剤を小粒径で分散させることもできる。
【0029】
本発明における樹脂組成物中の前記ジアミド化合物の含有量は、結晶化速度向上および得られる樹脂組成物の物理的性質のバランスの観点から、ポリヒドロキシアルカノエート100重量部に対し、0.05重量部~20重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05重量部~10重量部であり、さらに好ましくは0.1重量部~10重量部である。
【0030】
(任意成分)
本発明の樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートと前記ジアミド化合物を必須成分として含有するものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の添加剤を適宜含有してもよい。そのような添加剤としては特に限定されないが、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、染料や顔料などの着色剤、無機系または有機系粒子、可塑剤、滑剤、離型剤、撥水剤、無機充填剤、帯電防止剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤等が挙げられる。各添加剤の含有量は、その目的に応じて適宜決定することができる。また、添加剤は1種類のみを配合してもよいし、2種類以上を配合してもよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、結晶核剤として、前記ジアミド化合物のみを含有してもよいし、前記ジアミド化合物と、前記ジアミド化合物以外の結晶核剤を含有してもよい。
【0032】
以下、本発明の樹脂組成物に配合可能な添加剤を具体的に説明する。
本発明の樹脂組成物には、汎用プラスチックやポリ乳酸系樹脂等に対して用いられている増粘剤または結晶核剤を添加剤として配合することができる。そのような増粘剤または結晶核剤としては特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、塩化アンモニウム、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維等の無機繊維や、人毛、羊毛、竹繊維、パルプ繊維の有機繊維等が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物には、可塑剤(滑剤)を配合してもよい。可塑剤を配合することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、更にフィルムやシートを成形品として得る場合には伸び性などを付与することができる。
【0034】
可塑剤としては特に限定されないが、例えば、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤が好ましく、ポリヒドロキシアルカノエートとの相溶性に優れる点から、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。エステル系可塑剤としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができる。前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、前記脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、n-ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、1、2-プロピレングリコール、1、3-プロピレングリコール、1、3-ブタンジオール、1、5-ペンタンジオール、1、6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族アルコールの2種以上の組み合わせを含む共重合体(ジ-コポリマー、トリ-コポリマー、テトラ-コポリマーなど)、または、これらのホモポリマーおよびコポリマーから選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。更に、ヒドロキシカルボン酸のエステル化物も挙げられる。上記可塑剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物には、脂肪酸アミド(ただし、前記ジアミド化合物を除く)を配合してもよい。本発明の樹脂組成物において前記脂肪酸アミドは、結晶核剤として、又は、内滑剤及び外滑剤として作用し得る。
【0036】
前記脂肪酸アミドとしては、式:R2-C(=O)-NR3R4で表される脂肪酸モノアミド化合物が挙げられる。ここで、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~30の炭化水素基を表す。当該炭化水素基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。また、当該炭化水素基は、置換基を有していなくてもよいし、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等の置換基を有してもよい。さらに、R2と、R3又はR4とが結合して環状構造を形成してもよい。
【0037】
前記脂肪酸アミドの具体例としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド(EA)、ベヘン酸アミド(BA)、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド、ヘキサンメチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。これら脂肪酸アミドは1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記脂肪酸アミドとしては、100~150℃(特に100~120℃)程度の融点を持つ化合物が好ましい。このような融点を示す脂肪酸アミドを、融点が90℃以上のポリヒドロキシアルカノエートに対して配合すると、当該ポリヒドロキシアルカノエートの融点よりも10~30℃高い温度での成形加工において結晶化速度が向上し、成形加工性を改善することができる。
【0039】
前記脂肪酸アミドとしては、前記式においてR2が炭素数1~30(特に炭素数10~20)の脂肪族炭化水素基を表し、R3及びR4が水素原子を表す1級アミドが好ましい。なかでも、ベヘン酸アミド(融点114℃)、ステアリン酸アミド(融点102℃)、エチレンビスステアリン酸アミド(融点147℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(107℃)、メチロールベヘン酸アミド(融点110℃)が好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物における前記脂肪酸アミドの含有量としては特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、より好ましくは0.2~5重量部、さらに好ましくは0.5~3重量部である。前記脂肪酸アミドの含有量を上記範囲内にすることにより、本発明の樹脂組成物の成形加工性がいっそう向上する傾向がある。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、各成分を溶融混練した後、溶融樹脂をストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のペレットとすることができる。得られたペレットを、40~80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法によって成形加工することで、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0042】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。また、本発明の樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0043】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他の目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH-PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、押出成形機を用いて、ペレット、または、フィルム状、シート状、又は繊維状等の成形体に加工しても良いし、射出成形により所定形状の成形体に加工することも可能である。
【0045】
また、本発明の樹脂組成物が発泡剤を含有する場合、本発明の成形体は発泡性の成形体であってもよいし、加工後に発泡させることで成形発泡体としてもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は各種形状の成形体に加工することができる。該成形体としては、例えば、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品等が挙げられる。また、本発明の成形体は、その物性を改善するために、本発明の樹脂組成物とは異なる材料から構成される成形体(例えば、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等)と複合化することもできる。本発明の成形品の用途は特に限定されず、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
<P3HA>
各実施例又は比較例では、P3HAとして、PHBH:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を使用した。このPHBHは、PHBH生産菌を培養した後、菌体から樹脂成分を回収して得たもので、HH率:PHBH中の3-ヒドロキシヘキサノエートのモル分率(mol%)は11mol%、Mwは67.2万である。なお、PHBH生産菌としては、Alcaligenes eutrophusに、Aeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligenes eutrophus AC32(J.Bacteriol.,179,4821(1997))を使用した。
【0049】
<分子量測定>
PHBHの重量平均分子量Mwは、GPC測定により求めた。GPC装置はLC-10Aシステム(島津製作所製)を使用し、カラムはGPCK-806M(昭和電工製)を使用し、カラム温度は40℃とした。対象物質3mgをクロロホルム2mlに溶解したものを、10μl注入して、ポリスチレン換算によりMwを求めた。
【0050】
<添加剤>
スクシンアミド:R1が1,2-エチレン基(-(CH2)2-)を示すジアミド化合物、東京化成工業社より購入したものを使用。
アジポアミド:R1が1,4-ブチレン基(-(CH2)4-)を示すジアミド化合物、東京化成工業社より購入したものを使用。
ペンタエリスリトール:商品名:ペンタリット、広栄化学工業株式会社品より購入したものを使用。
【0051】
<固化試験>
固化試験は次のように実施した。DSM社製小型混練機XPloreシリーズMC5を用いた。PHBH樹脂粉末4.5gに対して所定部数の添加剤を加えた配合物を、設定温度180℃、スクリュー回転数100rpm、混練時間3分で溶融混練した後、溶融した樹脂を約55℃の温浴に投入し、溶融樹脂が固化するのに要した時間を測定した。結晶化が早いほど固化時間が短くなるので、固化時間の数字が小さいほど固化特性が優れていることを意味する。固化特性に優れていることは、成形加工の際に溶融樹脂を迅速に固化させることができ、成形体を優れた生産性で製造できる(即ち、成形加工性に優れる)ことを意味する。同じ手順で固化時間の測定を3回行い、その平均値を表1に示した。
【0052】
<ブリードアウト試験>
PHBH100重量部に対し、添加剤1重量部、並びに、ジアミド化合物以外の脂肪酸アミドとしてベヘン酸アミド0.5重量部及びエルカ酸アミド0.5重量部を含むPHBH樹脂粉末(1kg)を、東芝機械社製の二軸混錬押出機TEM-26SSを用いて150℃にて溶融加工を行い、樹脂ペレットを得た。この樹脂ペレットを、神藤金属工業所社製圧縮成形機NSF-50を用いて160℃にて再度溶融加工を行い、厚さ約100μmのプレスシートを得た。このプレスシートを120℃のオーブン内に2時間静置し、室温まで冷却した後、シート表面を目視観察することによりブリードアウトの有無を判定した。シート表面に粉状の物質が観察された場合は、ブリードアウト有りと判定し、観察されなかった場合は、ブリードアウト無しと判定した。
【0053】
(実施例1)
PHBH100重量部に対して添加剤としてスクシンアミド1重量部をドライブレンドして粉体の混合物を得た。この粉体混合物を用いて上述の固化試験を行なった。同様に、添加剤としてスクシンアミドを用いて上述のブリードアウト試験を行なった。
【0054】
(実施例2)
スクシンアミドの代わりにアジポアミドを用いた以外は実施例1と同様にして、固化試験及びブリードアウト試験を行なった。
【0055】
(実施例3)
アジポアミドの配合量を1.25重量部に変更した以外は実施例2と同様にして、固化試験を行なった。
【0056】
(比較例1)
スクシンアミドを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、固化試験及びブリードアウト試験を行なった。
【0057】
(比較例2)
スクシンアミドの代わりにペンタエリスリトールを用いた以外は実施例1と同様にして、固化試験及びブリードアウト試験を行なった。
【0058】
<昇華性試験>
昇華性試験は次のように実施した。重量を予め計測したスクシンアミド、アジポアミド、又はペンタエリスリトールを内径50mm、高さ10mmのガラスシャーレに入れ、フタをせずに、ヤマト科学社製定温乾燥機DVS602を用いて170℃にて24時間加熱処理した。処理後の各サンプルの重量を計測して重量減少率を算出した。結果、スクシンアミドの重量減少率は4.5%、アジポアミドは3.5%、ペンタエリスリトールは25.6%であった。
【0059】
このようにペンタエリスリトールは大幅な重量減少を示したことから、この物質が昇華性を有することが分かる。スクシンアミドとアジポアミドは、5%未満の重量減少率であったことから、この重量減少はサンプルに付着していた水分の蒸発に起因する程度のものと考えられるので、これらの物質が昇華性を有しないことが分かった。
以上で得た結果を次の表1に示す。
【0060】
【0061】
表1の結果から、PHBHに対しスクシンアミド又はアジポアミドを配合した実施例1~3は、添加剤を配合していない比較例1と比較して、PHBHの固化時間がはるかに短く、また、ペンタエリスリトールを配合した比較例2と同程度の固化時間を示した。このことから、スクシンアミド又はアジポアミドが、ポリヒドロキシアルカノエートに対する優れた結晶核剤であるペンタエリスリトールに匹敵する結晶化促進作用を示すことが分かる。
【0062】
また、ペンタエリスリトールを配合した比較例2ではブリードアウトが観察されたのに対し、スクシンアミド又はアジポアミドを配合した実施例1及び2ではブリードアウトが観察されなかった。このことから、スクシンアミド又はアジポアミドを含む成形体では、ペンタエリスリトールを含む成形体と比較してブリードアウトが抑制されており、成形体の品質安定性に優れていることが分かる。
【0063】
さらに、ペンタエリスリトールは昇華性を示したのに対し、スクシンアミド又はアジポアミドは昇華性を示さなかった。このことより、スクシンアミド又はアジポアミドは、成形加工時に生じ得る結晶核剤の昇華の問題を回避できることが分かる。