(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】耐火性木質複合材及び耐火木製構造材
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20220617BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220617BHJP
B27M 1/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B27K3/02 C
E04B1/94 R
E04B1/94 W
B27M1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018189562
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】猪野 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】小峰 早貴
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-161588(JP,A)
【文献】特開2005-036457(JP,A)
【文献】特開2017-190644(JP,A)
【文献】実開昭47-020862(JP,U)
【文献】特開2013-028042(JP,A)
【文献】特開2016-055646(JP,A)
【文献】特開2003-003601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
B27M 1/00 - 3/38
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、
前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されて
おり、
前記難燃薬剤保持層のうち少なくとも1つは、前記厚み方向における前記木質基材の片側又は両側に、該木質基材の前記開孔と重なる位置に開孔を有しない封止層を有している、耐火性木質複合材。
【請求項2】
平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、
前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されており、
前記難燃薬剤保持層は、前記木質基材の厚みが前記難燃薬剤保持層の厚みに対して、80%以上95%以下である、耐火性木質複合材。
【請求項3】
平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、
前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されており、
前記厚み方向の両端に位置する前記難燃薬剤保持層のうち少なくとも1つは、別の前記難燃薬剤保持層が存在する側とは反対側に化粧層が配されており、
前記化粧層の前記難燃薬剤保持層とは反対側の面に、難燃薬剤が塗布されている、耐火性木質複合材。
【請求項4】
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔どうしが重ならないように積層されている、請求項1
~3の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項5】
前記難燃薬剤保持層は、前記開孔が第1方向及び第2方向のそれぞれに等間隔に形成されている、請求項1~
4の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項6】
前記難燃薬剤保持層は、前記開孔の開口面積の合計面積が前記木質基材の前記開孔が形成されている面の面積に対して、9%以上30%以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項7】
前記難燃薬剤保持層は、単位体積当たりの前記難燃薬剤含有固形物の保持量が、90kg/m
3以上270kg/m
3以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項8】
前記難燃薬剤含有固形物は、難燃薬剤としてホウ酸及び/又はホウ酸系化合物を含んでいる、請求項1~7の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項9】
前記厚み方向の両端に位置する前記難燃薬剤保持層のうち少なくとも1つは、別の前記難燃薬剤保持層が存在する側とは反対側の面に、難燃薬剤が塗布されている、請求項1~8の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項10】
角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、
前記耐火被覆層は、
請求項1~9の何れか1項に記載の耐火性木質複合材からなる、耐火木製構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性木質複合材、難燃薬剤保持体及び耐火木製構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、火災時に外部から加熱されると表面が燃えて炭化層が形成される、この炭化層が木材の表面に均一に形成されると木材内部への熱の侵入が抑制され、木材内部の構造的な劣化が抑制される。この特性を利用し、柱や梁等に使用する木材を太くし、燃焼後の木材の内部に長期荷重を支持し得る健全な断面が確保されるように、木材の表面に、燃えて炭化層を形成すべき所定の厚みの燃えしろを設ける技術が知られている。このような燃えしろを設けた構造材等を主要構造部に用いて、木造建築物を準耐火建築物とすることも行われている。
【0003】
木材や木材と他の材料との複合材の表面に燃えしろを設けて、耐火材の部材を得る技術は種々提案されており、例えば、特許文献1には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、断熱材を有する燃え止まり層と、該燃え止まり層の外側に配置され、所定の厚さを有する木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。また特許文献2には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、該荷重支持層より熱慣性を低くした木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。また特許文献3には、難燃薬剤を含まない木材で構成された表面層と、該表面層の内側に、木材に難燃薬剤を注入処理した難燃薬剤注入層とを備える耐火集成材が提案されている。
【0004】
また木材に耐火性能を持たせる技術として、水に溶解した難燃薬剤を木材に含侵させたあと、該木材を乾燥させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-36457号公報
【文献】特開2005-48585号公報
【文献】特開2008-31743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、水に溶解した難燃薬剤を木材に含侵させたあと、該木材を乾燥させた場合、含侵時に難燃薬剤の含侵ムラが生じてしまったり、乾燥時に木材の表面側の難燃薬剤含有量が木材の内部に比べて多くなってしまったりし、木材全体における難燃薬剤の含有量が不均一となってしまうため、木材に安定的に耐火性能を担保することは困難である。特許文献3では、木材にインサイジング処理を施すことで穿孔を形成し、該穿孔から難燃薬剤を注入することにより、難燃薬剤の含侵ムラを改善することはできるが、乾燥時に難燃薬剤の含有量が不均一になってしまうことを防ぐことはできず、木材に安定的に耐火性能を担保することは困難である。
また特許文献1~3においては、燃えしろ層や燃え止まり層を構成する木材は縁切りされていないため、該木材が火災にさらされたときに、該木材に大きな割れが生じてしまう場合がある。
【0007】
本発明の目的は、木質基材に大きな割れが生じ難く、安定的に耐火性能を担保することができる、耐火性木質複合材、難燃薬剤保持体及び耐火木製構造材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されている、耐火性木質複合材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、開孔を有する木質基材と該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えている難燃薬剤保持体を提供するものである。
【0010】
また本発明は、角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、前記耐火被覆層は、平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向と、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持層積層部とを有しており、前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを有しており、前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されている、耐火木製構造材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐火性木質複合材、難燃薬剤保持体及び耐火木製構造材によれば、木質基材に大きな割れが生じ難く、安定的に耐火性能を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態の耐火性木質複合材を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のA部を平面視した平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のI-I線断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1のA部における難燃薬剤保持層の積層状態を説明するための平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のII-II線断面図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、難燃薬剤保持層の積層状態の変形例を示す横断面図であり、
図3(b)相当図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の好ましい実施形態の耐火木製構造材の横断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)に示す本実施形態の耐火木製構造材の変形例であり、
図5(c)は、本発明の他の実施形態の耐火木製構造材の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の好ましい実施形態の耐火性木質複合材1は、
図1に示すように、難燃薬剤保持層10が厚み方向に複数積層された構成を有する。耐火性木質複合材1は、難燃薬剤保持層10が厚み方向Zに3つ積層されている。耐火性木質複合材1は、平面視において第1方向X及び第1方向Xに直交する第2方向Yを有している。
【0014】
難燃薬剤保持層10は、複数の開孔21を有する木質基材20と、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えている。木質基材20は複数の単板又は板材の積層体からなる。木質基材20が単板の積層体から構成される場合、積層体は、繊維の配向方向が互いに異なる複数種類の単板を含んでいても良いし、単板積層板(LVL)のように、繊維の配向方向が同じ単板のみから構成されていても良い。木質基材20は、複数の単板の積層体からなるものに代えて非積層材である1枚の板材から構成されていてもよい。
木質基材を構成する木材、例えば単板の原料木材の樹種は、針葉樹でも広葉樹でも良く、例えば、オーク、チーク、ウォルナット、ファルカタ、バルサ、レッドラワン、タモ、ニレ、カバ、キリ、スギ、ヒノキ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、アカマツ、ヒバ、ホワイトウッド、オウシュウアカマツ、ダフリカカラマツ、ダグラスファー等を用いることができる。原料木材の樹種としては、上述した各種の樹種から選択した1種又は2種以上を組み合わせた積層体を木質基材20としてもよい。
これらの中でも、燃焼時の発熱量を軽減させることと、単板の原材料として確保し易いことの観点から、スギ、トドマツ等の、針葉樹で比較的軽く、原料確保が容易な樹種を用いることが好ましい。また同様の観点から、気乾密度が0.3~0.6g/cm3であるものを用いることが好ましく、気乾密度が、0.4~0.5g/cm3であるものを用いることが更に好ましい。気乾密度は、複数の単板積層体の平均値により決定される。
【0015】
難燃薬剤含有固形物30は、固体状態の固形物である。難燃薬剤含有固形物30は、製造された耐火性木質複合材1において開孔21に充填された状態で、固形物となっていればよく、例えば耐火性木質複合材1の製造段階では液体等の流動体であってもよい。例えば、難燃薬剤含有固形物30は、加熱したときに溶融又は軟化し流動体となるものであってもよい。このような性質を有する難燃薬剤含有固形物30としては、熱可塑性を有するバインダーを含むものが挙げられる。また難燃薬剤含有固形物30は、製造段階では、溶媒に溶解した流動体となっており、時間経過や加熱等により溶媒を揮発させることにより、固形物となるものであってもよい。難燃薬剤含有固形物30を溶解させる溶媒としては、有機溶剤等を用いることができる。
難燃薬剤含有固形物30は、難燃薬剤として、リン系防火薬剤、窒素系防火薬剤、ホウ素系防火薬剤、ハロゲン系防火薬剤、等一般的な難燃薬剤を含んでいるものを使用することができる。難燃薬剤含有固形物30は、難燃薬剤としてホウ酸及び/又はホウ酸系化合物を含んでいることが好ましい。
【0016】
難燃薬剤保持層10は、単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が、難燃薬剤保持層10自体の強度確保や燃焼時における吸熱性能の向上と炭化断熱層の保持の観点から、90kg/m3以上であることが好ましく、100kg/m3以上であることがより好ましく、270kg/m3以下であることが好ましく、200kg/m3以下であることがより好ましく、90kg/m3以上270kg/m3以下であることが好ましく、100kg/m3以上200kg/m3以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0017】
上述のように、難燃薬剤保持層10は、複数の開孔21を有する木質基材20と、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えている。この構成により、難燃薬剤保持層10は、木質基材20の開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持層10が燃焼したときに、難燃薬剤保持層10に大きな割れが生じ難くなっている。ここで、縁切りとは、割れの伸長を開孔部分で止めることを意味する。また、難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、従来技術のように難燃薬剤の含侵ムラや乾燥時に難燃薬剤の含有量が不均一になってしまうことを防ぎ易くなり、難燃薬剤保持層10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持層10における難燃薬剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。
【0018】
木質基材20は、
図2に示すように、複数の開孔21を有している。
図2では、説明の便宜上、開孔21に充填されている難燃薬剤含有固形物30を図示せず省略しているが、本実施形態では、
図1に示すように、開孔21には難燃薬剤含有固形物30が充填されている。
【0019】
開孔21は木質基材20を貫通している。個々の開孔21は略円柱形状を有しており、複数の開孔21の形状は略同一となっている。開孔21の開口面積の合計は、木質基材20の開口が形成されている面の面積に対して、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することの観点から、9%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、30%以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましく、9%以上30%以下であることが好ましく、11%以上22%以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の開口面積の合計が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の開口面積の合計が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0020】
開孔21の直径は、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、6mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、12mm以下であることが好ましく、11mm以下であることがより好ましく、6mm以上12mm以下であることが好ましく、7mm以上11mm以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の直径が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の直径が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0021】
開孔21は、
図2(a)に示すように、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている。より詳述すると、開孔21は、その複数が、第2方向Yに沿って一定の間隔Tyで一列に配された第1開孔列21Rを形成している。第1開孔列21Rは、第1方向Xに間隔を空けて複数列配されている。第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21どうしは、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。また、開孔21は、その複数が、第1方向Xに沿って一定の間隔Txで一列に配された第2開孔列21Lを形成している。第2開孔列21Lは、第2方向Yに間隔を空けて複数列配されている。第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lを構成する開孔21どうしは、第1方向Xにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。
【0022】
つまり、第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21は、第1方向Xに沿って一定の間隔で一列に配された第2開孔列21Lを形成している。そして、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとは一致している。「第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Ty」とは、第2方向Yに隣り合う開孔21の中心点21aどうしの距離を意味し、「第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Tx」とは、第1方向Xに隣り合う開孔21の中心点21aどうしの距離を意味する(
図2(a)参照)。
【0023】
第1開孔列21R及び第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Ty及び間隔Txは、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上30mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の間隔Ty及び間隔Txが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Ty及び間隔Txが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0024】
開孔21が第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されていることにより、複数の難燃薬剤保持層10を積層するときに、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10を、開孔21の中心点21aどうし、好ましくは開孔21どうしが重ならないよう積層することが容易となる。
【0025】
難燃薬剤保持層10は、
図1及び
図2(b)に示すように、厚み方向Zにおける木質基材20の片側に封止層4を有している。本実施形態では、封止層4は1枚の板材により構成されている。板材としては、無垢材、合板、LVL、中密度繊維板(MDF)、パーティクルボード、集成材等を用いることができ、これらは難燃薬剤が含浸処理されているものであってもよいし、難燃薬剤が含浸処理されていないものであってもよい。封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤としては、リン系防火薬剤、窒素系防火薬剤、ホウ素系防火薬剤、ハロゲン系防火薬剤等、一般的な難燃薬剤を含んでいるものを使用することができる。封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤と、難燃薬剤含有固形物30に用いられる難燃薬剤とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また封止層4は、木質基材20と同様に、複数の単板の積層体により構成されていてもよい。封止層4を複数の単板の積層体により構成する場合、単板の原料木材の樹種は、木質基材20と同様のものを用いることができる。封止層4は、厚み方向Zにおける木質基材20の両側に配されていてもよい。封止層4は、木質基材20と同じ部材であってもよいし、別の部材であってもよい。
【0026】
封止層4は、木質基材20が有する開孔21と重なる位置に開孔を有していない。つまり、難燃薬剤保持層10が厚み方向Zにおける片側に封止層4を有していることにより、木質基材20が有する開孔21の一方の開口が封止されることになる。封止層4は、難燃薬剤保持層10の開孔21の底面を形成している。本実施形態では、封止層4は開孔を全く有していないが、封止層4は、木質基材20が有する開孔21と重ならない位置に開孔を有していてもよい。
【0027】
難燃薬剤保持層10は、開孔21を有する木質基材20と開孔を有しない封止層4とを備えている。開孔21は木質基材20を貫通しているので、難燃薬剤保持層10における開孔21の深さは木質基材20の厚みと同じである。木質基材20の厚みH2は、難燃薬剤保持層10の厚みH1に対して、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、80%以上95%以下であることが好ましく、85%以上90%以下であることがより好ましい(
図2(b)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで木質基材20の厚みH2が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで木質基材20の厚みH2が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0028】
耐火性木質複合材1では、
図3に示すように、難燃薬剤保持層10が3つ積層されている。尚、
図3(a)では、説明の便宜上、開孔21に充填されている難燃薬剤含有固形物30を図示せず省略している。また
図3(a)においては実線で図示した円が
図3(b)における最上層の難燃薬剤保持層10の開孔21を表しており、破線で図示した円が
図3(b)における中間の難燃薬剤保持層10の開孔21を表している。尚、最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21は、最上層の難燃薬剤保持層10の開孔21と同じ位置に位置している。
【0029】
耐火性木質複合材1では、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしは、開孔21の位置を、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層されている(
図3(a)参照)。より具体的には、最上層の難燃薬剤保持層10における第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rどうしの間に、中間の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rが配されている。更に、最上層の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rと中間の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rとは第2方向Yに半ピッチ分ずれている。また、最上層の難燃薬剤保持層10における第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lどうしの間に、中間の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lが配されている。更に、最上層の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lと中間の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lとは第1方向Xに半ピッチ分ずれている。上記では、上層の難燃薬剤保持層10と中間の難燃薬剤保持層10との積層状態について説明したが、中間の難燃薬剤保持層10と最下層の難燃薬剤保持層10との積層状態についても同様である。
図3(a)においては、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、開孔21どうしが重ならないように積層されているが、本発明の耐火性木質複合材においては、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、開孔21の中心点の位置を、第1方向X及び/又は第2方向Yにずらした状態に積層されていても良い。開孔21の中心点の位置を、第1方向X及び/又は第2方向Yにずらした状態には、
図3(a)に示すように、開孔21どうしが重ならない場合と、開孔21の一部は重なっているが、開孔21の中心点21aどうしが重ならない場合の両者が含まれる。
厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の50%以上100%以下が重ならないことが好ましく、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の70%以上100%以下が重ならないことがより好ましく、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の90%以上100%以下が重ならないことが更に好ましい。
【0030】
耐火性木質複合材1は、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、難燃薬剤含有固形物30が充填されている開孔21どうしの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層されているので、最上層の難燃薬剤保持層10の木質基材20の開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、中間の難燃薬剤保持層10の開孔21が位置している。同様に、中間の難燃薬剤保持層10の木質基材20の開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21が位置している。つまり、耐火性木質複合材1の厚み方向Zに沿う断面においては、
図3(b)に示すように、難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が充填されていない部分と、難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が充填されている部分とが交互に配置されている。
このような構成により、例えば厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10のうち上側の難燃薬剤保持層10における開孔21ではない部分が燃焼し、燃焼が厚み方向Z下側に進行したとしても、上側の難燃薬剤保持層10における開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、下側の難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が配されているため、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっている。
【0031】
中間の難燃薬剤保持層10の開孔21ではない部分20Aに着目すると、該部分20Aを囲むように最上層及び最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21が配されている(
図3(b)参照)。従って、難燃薬剤保持層10が燃焼し、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30が溶融したときに、前記部分20Aを囲う開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30の溶融物どうしが繋がって三次元の網目構造を形成することができ、例えば前記部分20Aが燃え落ちることを防ぐことができる。このような観点から、難燃薬剤含有固形物30は、難燃薬剤としてホウ酸及び/又はホウ酸系化合物を含んでいることが好ましい。
【0032】
本実施形態の耐火性木質複合材1は以下のようにして製造することができる。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。次に、開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填する。そして、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。このようにして難燃薬剤保持層10を製造する。開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填し易くする観点から、難燃薬剤含有固形物30は充填するときに固形物であることが好ましい。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
封止層4の木質基材20への接合及び難燃薬剤保持層10どうしの接合は、木質複合材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、水性高分子-イソシアネート系接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、レゾルシノール・フェノール樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、メラミンユリア樹脂接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が挙げられる。これらのなかでも、レゾルシノール樹脂接着剤又はレゾルシノール・フェノール樹脂接着剤が好ましい。
【0033】
また難燃薬剤含有固形物30として、難燃薬剤含有固形物30を開孔21に充填するときに液体状態であるものを使用する場合は、耐火性木質複合材1を以下のようにして製造することもできる。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。次に、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。そして、流動体となっている難燃薬剤含有固形物30の前駆体を開孔21に充填する。該前駆体は、例えば難燃薬剤含有固形物30が加熱されることにより溶融し、流動体となったものである。前記前駆体を、例えば時間経過等により冷却し固体状態の難燃薬剤含有固形物30とすることにより、難燃薬剤保持層10が製造される。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。封止層4を配した後に、難燃薬剤含有固形物30を開孔21に充填することにより、難燃薬剤含有固形物30が充填時に液体状態であっても、難燃薬剤含有固形物30を開孔21に容易に充填することができる。
【0034】
また、難燃薬剤含有固形物30を充填した難燃薬剤保持層10を製造したあとに該難燃薬剤保持層10を積層し、耐火性木質複合材1を製造することに代えて、以下のように耐火性木質複合材1を製造してもよい。まず、開孔21が形成されていない木質基材20を複数積層し、積層した複数の木質基材20を厚み方向Zに貫通する開孔21を第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成する。次に、複数の木質基材20を貫通する開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填する。そして、積層した複数の木質基材20を、厚み方向Zに隣り合う木質基材20の開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向にずらすことで、耐火性木質複合材1を製造する。
【0035】
尚、上述の製造方法では、開孔21が形成されていない木質基材20を使用した場合について説明したが、別工程にて予め開孔21が形成されている木質基材20を使用してもよい。
【0036】
以上、本発明の耐火性木質複合材の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、斯かる実施形態に制限されず適宜変更可能である。例えば、耐火性木質複合材1は、
図1及び
図3に示すように、3つの難燃薬剤保持層10を、封止層4を同じ側に向けて積層しているが、難燃薬剤保持層10の積層数や積層方法はこれに限られない。
図4に示すように難燃薬剤保持層10を2つ積層してもよいし、4つ以上積層してもよい。また厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを、封止層4どうしが対向するように積層してもよい(
図4(a)参照)。また厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを、封止層4を厚み方向Zの外側に向けて積層してもよい(
図4(b)参照)。また、難燃薬剤保持層10が封止層4を有している必要は必ずしもなく、封止層4を有していなくてもよい。
【0037】
また厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていてもよい(
図4(a)参照)。具体的には、耐火性木質複合材1における火災時に外部から加熱される側の面を化粧層5が構成していることが好ましい。化粧層5としては、単板、合成樹脂、紙等からなる化粧シート並びに塗工層等を用いることができる。また封止層4が耐火性木質複合材1における火災時に外部から加熱される側の面を構成している場合は、化粧層5を別に設けずに、封止層4を化粧層5としてもよい。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていることにより、耐火性木質複合材1の意匠性を向上させることが可能となる。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10は、複数の難燃薬剤保持層10のうち、厚み方向の端部又は最も端部に寄りに位置する難燃薬剤保持層である。
【0038】
また
図4(b)に示すように、厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10の少なくとも1つは、別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側の面6に難燃薬剤が塗布されていてもよい(
図4(b)参照)。具体的には、耐火性木質複合材1の火災時に外部から加熱される側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることが好ましい。耐火性木質複合材1が化粧層5を有している場合は、化粧層5における、難燃薬剤保持層10側とは反対側の面に難燃薬剤が塗布されていてもよい。また、化粧層5及び難燃薬剤保持層10の一方又は双方に難燃薬剤が塗布される等の方法により、化粧層5と難燃薬剤保持層10との間に難燃薬剤が配されていても良い。
化粧層5や難燃薬剤保持層10に塗布する難燃薬剤は、難燃薬剤含有固形物30に含まれる難燃薬剤や、封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
耐火性木質複合材1の外側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることにより、耐火性木質複合材1の耐火性能をより向上させることが可能となる。
【0039】
また耐火性木質複合材1は、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを第1方向Xと第2方向Yの両方にずらした状態に積層しているが、必ずしもその必要はなく、第1方向X又は第2方向Yの何れか一方向にずらした状態に積層されていてもよい。
【0040】
また開孔21は、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている必要は必ずしもなく、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとは異なっていてもよい。
【0041】
第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとが異なっている場合、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyは、難燃薬剤保持層10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも開孔21の間隔Tyが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Tyが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0042】
第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとが異なっている場合、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txは、難燃薬剤保持層10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも開孔21の間隔Txが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Txが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0043】
また第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21どうしは、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している必要は必ずしもなく、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよい。例えば、第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rどうしは、第2方向Yに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。また第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lを構成する開孔21どうしは、第1方向Xにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよく、例えば、第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lどうしは、第1方向Xに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。
【0044】
本実施形態では、耐火性木質複合材1は四角形の面材であり、第1方向Xは面材の一辺と平行な方向であり、第2方向Yは該一辺と直交する辺と平行な方向であるが、面材の一辺に対して0度超90度未満の角度を有するように第1方向Xを定め、該第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとしてもよい。
【0045】
本実施形態の耐火性木質複合材1における難燃薬剤保持層10は、複数積層し、耐火性木質複合材1として用いるのみならず、1つの難燃薬剤保持層10を単独で用いることもできる。単独の難燃薬剤保持層10(以下、難燃薬剤保持体10という)は、木質基材20の開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持体10が燃焼したときに、難燃薬剤保持体10に大きな割れが生じ難くなっている。また、難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、難燃薬剤保持体10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持体10における難燃薬剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。
本発明の難燃薬剤保持体及び耐火性木質複合材は、例えば壁、床又は天井等に張り付けて用いることができる。
【0046】
図5(a)~(c)に、本発明の耐火木製構造材の好ましい実施形態を示す。本発明の耐火木製構造材は、木造建築物の梁や柱として使用される構造用の角材である。
図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aは、木造建築物の柱として使用される構造用の角材であり、荷重支持部8と耐火被覆層9とを備えている。
荷重支持部8は角材であり、単独で、固定荷重、積載荷重等の長期に生ずる荷重(長期荷重)に対して構造耐力上安全であるようにその断面設計がなされている。斯かる断面設計は公知である。荷重支持部8の横断面形状は四角形状であり、耐火木製構造材7Aの横断面における、荷重支持部8の縦方向の長さ及び横方向の長さは、梁や柱の形状、或いは大きさ等によって適宜に変更することができる。
【0047】
耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う4側面を被覆するように配されている。耐火被覆層9は、難燃薬剤保持層10が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持層積層部40を有している。難燃薬剤保持層積層部40は、上述の耐火性木質複合材1と同様の構成を具備しており、平面視において第1方向と第1方向に直交する第2方向を有している。耐火被覆層9は、難燃薬剤保持層積層部40に加えて化粧層5を有している。化粧層5としては、上述の耐火性木質複合材1が有する化粧層5と同様のものを用いることができる。尚、耐火被覆層9は化粧層5を有している必要は必ずしもなく、化粧層5を有していなくてもよい。
【0048】
図5(a)では、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eを、荷重支持部8の角を挟んで両側に位置する耐火被覆層9どうしを接合させた横断面L字形状の耐火被覆層9により形成している。また、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eは、
図5(b)に示すように、荷重支持部8の一側面に沿う耐火被覆層9を、荷重支持部8が存在する部分9sよりも延出させることにより形成してもよい。
【0049】
耐火木製構造材7Aの耐火被覆層9は、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により木質基材20が縁切りされた難燃薬剤保持層10を具備しているため、耐火木製構造材7Aは、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、耐火被覆層9に大きな割れが生じ難くなっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。また耐火木製構造材7Aは、耐火被覆層9が、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが開孔21の中心点21aどうしが重ならないように、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層された難燃薬剤保持層積層部40を具備しているため、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。
【0050】
次に、本発明の他の実施形態の耐火木製構造材7Bについて、
図5(c)を参照しながら説明する。
図5(c)に示す耐火木製構造材7Bについては、
図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aと異なる点について説明する。特に説明しない点については、耐火木製構造材7Aと同様であり、耐火木製構造材7Aの説明が適宜適用される。
【0051】
図5(c)に示す耐火木製構造材7Bは、木造建築物の梁として使用される構造用の角材である。耐火木製構造材7Bでは、耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う3側面を被覆するように配されている。耐火木製構造材7Bの荷重支持部8は、横断面の中心から耐火被覆層9が形成されていない側面に亘って存在するものである。耐火木製構造材7Bの耐火被覆層9が形成されていない側面は、例えば床等を載せて荷重支持部8の上側を被覆してもよい。
【実施例】
【0052】
(実施例)
図2に示す難燃薬剤保持層10と同様の構成を有する難燃薬剤保持体を製造した。具体的には、木質基材として、縦方向の長さが420mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが24mmである、針葉樹合板を使用した。開孔の直径は10mmであり、第1方向及び第2方向における開孔の間隔は20mmであった。開孔に充填する難燃薬剤含有固形物として、ホウ酸系難燃薬剤を使用した。このようにして製造した難燃薬剤保持体を、開孔どうしが重ならないように、厚み方向に2つ積層した。厚み方向に隣り合う難燃薬剤保持体の開孔の中心点どうしは、第1方向及び第2方向にそれぞれ、10mmずれていた。積層した難燃薬剤保持体の厚み方向における一方の面に、縦方向の長さが420mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが12mmである、針葉樹合板からなる化粧層を配した。積層した難燃薬剤保持体の厚み方向における他方の面には、縦方向の長さが420mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが24mmである、針葉樹からなる合板を2つ積層したものを配した。化粧層、難燃薬剤保持体及び合板の接着には、酢酸ビニルを含む接着剤を使用した。このようにして製造した、化粧層、難燃薬剤保持体及び合板の積層体における化粧層側の面以外の面をセラミックブランケットと石膏ボードで養生し、実施例1の試験体とした。
【0053】
(比較例)
実施例の試験体において、難燃薬剤保持体に代えて、縦方向の長さが420mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが24mmである、針葉樹からなる合板を用いた以外は、実施例と同様にして試験体を製造した。
【0054】
(燃焼試験)
実施例及び比較例で得られた試験体を燃焼試験炉に収容した。試験体においては、化粧層側の面が一面加熱される加熱面である。そして通常の火災を想定したISO834標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、加熱時間の3倍以上の時間(3時間以上、約5時間)の炉内放冷を行った。その際、鉛直方向の上側の面から90mm、100mm、110mmの位置において加熱面からの深さが30mm、60mm、90mmとなる位置、及び鉛直方向の下側の面から90mm、100mm、110mmの位置において加熱面からの深さが30mm、60mm、90mmとなる位置における温度変化を計測し、各位置における温度の継時的変化を確認した。また加熱面の状態を目視により確認した。
【0055】
実施例においては、燃え止まりが確認でき、1時間耐火性能を有していることが確認できた。また炭化層に大きなひび割れや脱落は見られなかった。一方、比較例においては燃え止まりが確認できず、炭化層に大きなひび割れや脱落が見られた。
【符号の説明】
【0056】
1 耐火性木質複合材
10 難燃薬剤保持層
20 木質基材
21 開孔
21a 開孔の中心点
30 難燃薬剤含有固形物
4 封止層
5 化粧層
7 耐火木製構造材
8 荷重支持部
9 耐火被覆層
40 難燃薬剤保持層積層部
X 第1方向
Y 第2方向
Z 厚み方向