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特許7090529エレベーターのドア制御装置、及びドア制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】エレベーターのドア制御装置、及びドア制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 13/12 20060101AFI20220617BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20220617BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B66B13/12 F
B66B5/02 X
B66B5/00 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018212111
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2020079126
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小柳 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 真輔
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-220999(JP,A)
【文献】特開2002-003116(JP,A)
【文献】特開2001-002350(JP,A)
【文献】特開2015-147645(JP,A)
【文献】特開2014-024657(JP,A)
【文献】特開2015-093770(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078135(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/00 - 13/30
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗りかごの乗降口を開閉するかご側ドアと、各階床の乗場の乗降口を開閉する乗場側ドアと、前記かご側ドアを開閉駆動する電動機と、前記かご側ドアと前記乗り場側ドアとの間に設けられ、前記電動機の開閉駆動による前記かご側ドアの開閉動作に連動して前記乗場側ドアを開閉動作する前記かご側ドアに設けた係合部材と前記乗場側ドアに設けた被係合部材からなる係合機構と、前記電動機を制御する駆動制御手段を有するエレベーターのドア制御装置であって、
前記駆動制御手段は、
前記かご側ドアの移動速度を検出し、検出された前記かご側ドアの前記移動速度が予め設定された速度閾値より小さいと、前記かご側ドアと前記乗場側ドアが係合されたと判断する係合状態判別手段と、
前記係合状態判別手段によって前記かご側ドアと前記乗場側ドアが係合されたと判断されると、前記かご側ドアに設けた前記係合部材が、前記乗場側ドアに設けた前記被係合部材に係合された時の前記係合部材の移動距離である実係合距離を求める実係合距離算出手段と、
前記実係合距離と予め定められた前記係合部材と前記被係合部材の間の所定の基準係合距離とに基づいて、前記係合部材と前記被係合部材の近接度合いを表す係合ずれ量を求める係合ずれ量算出手段と、
前記係合ずれ量に基づいて前記係合部材と前記被係合部材が所定の距離以上に近接していると判断されると異常状態と判定する異常判定手段とを備え
前記異常判定手段は、
前記係合ずれ量と前記基準係合距離に基づいて予め定めた許容係合ずれ量である係合ずれ量閾値との差分である係合ずれ差分を、予め定めた第1差分判定閾値、及び前記第1差分判定閾値より小さい第2差分判定閾値と比較し、
前記係合ずれ差分が前記第1差分判定閾値より大きいと異常状態と判定し、
前記係合ずれ差分が前記第1差分判定閾値より小さく前記第2差分判定閾値より大きいと、前記実係合距離の調整が必要な状態と判定する
ことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーターのドア制御装置において、
前記駆動制御手段は、
更に、前記係合ずれ量に基づいて前記係合部材と前記被係合部材の間の前記実係合距離を調整する調整量を求める調整量算出手段を備える
ことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーターのドア制御装置において、
前記実係合距離算出手段は、前記係合部材の移動が開始されて前記被係合部材に接触した時までの前記係合部材の移動距離から前記実係合距離を求めるものであり、
前記係合ずれ量算出手段は、前記基準係合距離から前記実係合距離を減算して前記係合ずれ量を求めるものであり
前記調整量算出手段は、前記係合ずれ量と前記係合ずれ量閾値との差分である前記係合ずれ差分を前記調整量である係合ずれ調整量として求めるものである、
ことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベーターのドア制御装置において、
前記係合ずれ量算出手段の演算で使用される前記基準係合距離は、
設計段階で予め決められた係合距離であるか、或いは実際に前記エレベーターを建築物に設置して、設置初期の昇降動作で得られた前記実係合距離であることを特徴とするエレベーターのドア制御装置
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のエレベーターのドア制御装置において、
前記駆動制御手段は、
少なくとも、前記異常判定手段で判定された異常状態と、前記調整量算出手段で求めた前記係合ずれ調整量を、管制センター、或いは保守員の作業端末に送信する
ことを特徴とするエレベーターのドア制御装置。
【請求項6】
エレベーターの乗りかごの乗降口を開閉するかご側ドアと、各階床の乗場の乗降口を開閉する乗場側ドアと、前記かご側ドアを開閉駆動する電動機と、前記かご側ドアと前記乗り場側ドアとの間に設けられ、前記電動機の開閉駆動による前記かご側ドアの開閉動作に連動して前記乗場側ドアを開閉動作する前記かご側ドアに設けた係合部材と前記乗場側ドアに設けた被係合部材からなる係合機構と、前記電動機を制御する駆動制御手段を有するエレベーターのドア制御方法であって、
前記駆動制御手段はマイクロコンピュータを備えており、前記マイクロコンピュータは、
前記かご側ドアの移動速度を検出し、検出された前記かご側ドアの前記移動速度が予め設定された速度閾値より小さいと、前記かご側ドアと前記乗場側ドアが係合されたと判断し、
前記かご側ドアと前記乗場側ドアが係合されたと判断されると、前記かご側ドアに設けた前記係合部材が、前記乗場側ドアに設けた前記被係合部材に係合された時の前記係合部材の移動距離である実係合距離を求め、
前記実係合距離と予め定められた前記係合部材と前記被係合部材の間の所定の基準係合距離とに基づいて、前記係合部材と前記被係合部材の近接度合いを表す係合ずれ量を求め、
前記係合ずれ量と前記基準係合距離に基づいて予め定めた許容係合ずれ量である係合ずれ量閾値との差分である係合ずれ差分を、予め定めた第1差分判定閾値、及び前記第1差分判定閾値より小さい第2差分判定閾値と比較し、
前記係合ずれ差分が前記第1差分判定閾値より大きいと異常状態と判定し、
前記係合ずれ差分が前記第1差分判定閾値より小さく前記第2差分判定閾値より大きいと、前記実係合距離の調整が必要な状態と判定する
ことを特徴とするエレベーターのドア制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のエレベーターのドア制御方法において、
前記駆動制御手段は、
前記係合ずれ量に基づいて前記係合部材と前記被係合部材の間の前記実係合距離を調整する調整量を求める
ことを特徴とするエレベーターのドア制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載のエレベーターのドア制御方法において、
前記駆動制御手段は、
前記係合部材の移動が開始されて前記被係合部材に接触した時までの前記係合部材の移動距離から前記実係合距離を求め、前記基準係合距離から前記実係合距離を減算して前記係合ずれ量を求め、
前記係合ずれ量と前記係合ずれ量閾値との差分である前記係合ずれ差分を前記調整量である係合ずれ調整量として求める
ことを特徴とするエレベーターのドア制御方法
【請求項9】
請求項8に記載のエレベーターのドア制御方法において、
少なくとも、前記異常状態と前記係合ずれ調整量を、管制センター、或いは保守員の作業端末に送信する
ことを特徴とするエレベーターのドア制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベーターのドア制御装置に係り、特にかご側ドアと乗場側ドアを係合機構で連結して開閉するエレベーターのドア制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なエレベーターにおいては、利用客が乗り降りするために、建築物の各階に設けられた乗場ホールに乗降口(以下、乗場側乗降口と表記する)が設けられている。同様に、乗りかごにも利用客が乗り降りする乗降口(以下、かご側乗降口と表記する)が設けられている。そして、これらの乗場側乗降口やかご側乗降口には、それぞれ開閉可能なドア(以下、乗場側ドア、及びかご側ドアと表記する)が設けられている。
【0003】
かご側ドアは、乗りかごに設けたドア開閉駆動機構によって開閉され、乗場側ドアはかご側ドアによって間接的に開閉される構造となっている。つまり、乗場側ドア、及びかご側ドアには、夫々のドアの開閉時にだけ係合する係合機構が設けられており、乗りかごのドア開閉駆動機構によってかご側ドアが開閉されると、係合機構を介して乗場側ドアが、かご側ドアに連動して開閉される。
【0004】
かご側ドアと乗場側ドアを連動して開閉する係合機構は、かご側ドアに設けられた係合部材と、乗場側ドアに設けられた被係合部材からなり、乗りかごが乗場ホールに到着して停止している状態で、かご側ドアの係合部材が乗場側ドアの被係合部材に係合する構成となっている。そして、かご側ドアがドア駆動機構によって開閉されると、この開閉動作は係合部材が被係合部材に係合して伝達され、結果的に乗場側ドアがかご側ドアに連動して開閉される。
【0005】
このようなエレベーターのドア制御装置は、例えば国際公開第2012/093441号(特許文献1)等に示されている。特許文献1には、ドア開閉駆動機構の電動機の回転を検出する回転検出手段と、電動機のトルクを検出する電流センサと、回転検出手段と電流センサとから得られる時系列データを乗場側ドアとの係合前後で統計的に分離する識別線を計算する手段と、識別線を保存する記憶手段と、新たに開閉することによって得られる回転検出手段と電流センサの出力と識別線を用いて、乗場側ドアと係合したことを検知するようにしている。
【0006】
このため、階床や偏荷重などよってかご側ドアの係合部材と乗場側ドアの被係合部材の間の係合距離の変動があっても、かご側ドアと乗り場側ドアの係合を素早く検知できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/093441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、乗りかごは各階床を昇降するように昇降路内で走行されるので、走行中にかご側ドアの係合部材、及び乗場側ドアの被係合部材は、それぞれ接触しないように所定の隙間を有するように構成されている。しかしながら、経年変化に基づく建築物の傾きや、乗りかごを昇降させるロープの伸びに基づく乗りかごの傾きが発生した場合、かご側ドアの係合部材と乗場側ドアの被係合部材の間の隙間が狭くなる現象が生じる。
【0009】
したがって、乗りかごが昇降路を走行したときに、かご側ドアに設けられた係合部材と乗場側ドアに設けられた被係合部材とが接触して係合機構が破損する、という好ましくない事象を生じることがある。このため、かご側ドアに設けられた係合部材と乗場側ドアに設けられた被係合部材との間に、所定の隙間を確保することが必要である。尚、この隙間は係合部材と被係合部材とが係合するまでの隙間であり、以下では「係合距離」として表記する。
【0010】
従来のエレベーターにおいては、定期的に保守員によって係合機構を点検して係合部材と被係合部材の間の係合距離を確認し、係合部材と被係合部材の間の係合距離が、許容される距離より短くなっていると、かご側ドアの係合部材と乗場側ドアの被係合部材の係合距離を許容される距離になるように調整し直している。
【0011】
そして、建築物の各階には乗場ホールが設けられているので、係合機構の係合部材と被係合部材の間の係合距離の確認と調整が各階毎に必要なことから、保守員による係合機構の確認作業と調整作業に長い時間がかかるという課題を有している。
【0012】
尚、特許文献1に記載されたエレベーターのドア制御装置では、かご側ドアと乗場側ドアの係合を素早く検知し加速するために係合位置を検知しているだけなので、上述した課題を解決することはできないものである。
【0013】
本発明の目的は、係合機構の係合距離の確認作業及び調整作業に必要な時間を短縮することができるエレベーターのドア制御装置、及びドア制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の特徴は、かご側ドアが開き動作、或いは閉じ動作されて、かご側ドアの係合部材が乗場側ドアの被係合部材に係合された時の係合部材の移動距離である実係合距離を求め、この実係合距離と予め定められた係合部材と被係合部材の間の所定の基準係合距離とに基づいて、係合部材と被係合部材の近接度合いを表す近接距離を求め、この近接距離に基づいて係合部材と被係合部材が所定の距離以上に近接していると判断されると異常状態と判定する、ところにある。
【0015】
また、更に好ましくは、近接距離に基づいて係合部材と被係合部材の間の実係合距離を調整する調整量を求める、ところにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、かご側ドアの係合部材と乗場側ドアの被係合部材の間の係合距離が、許容距離範囲内に収まっているかどうかを自動的に判定し、更に好ましくは許容距離範囲内に収まっていない場合は、その調整量を自動的に求めて報知するので、保守員による係合機構の係合距離の確認作業及び調整作業に必要な時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】乗りかごが乗場ホールに到着して停止した状態での係合機構の位置関係を説明する説明図である。
図2】本発明の実施形態になるエレベーターのドア制御装置の機能を説明する機能ブロック図である。
図3図2に示す係合ずれ演算部で実行される演算の考え方を説明する説明図である。
図4図2に示す実施形態で実行される制御フローの前半を示すフローチャートである。
図5図2に示す実施形態で実行される制御フローの後半を示すフローチャートである。
図6図5に示す後半の制御フローの変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0019】
図1は、乗りかごが乗場ホールに到着して停止した状態での係合機構の位置関係を示している。図1において、かご側ドア4、及び乗場側ドア5は一対のドアが互いに接近、及び離間することで、かご側乗降口、及び乗場側乗降口を開閉している。ただ、本実施形態ではこれに限定されるものではなく、一つのドアが移動することで、かご側乗降口、及び乗場側乗降口を開閉させる構成でも差し支えない。
【0020】
そして、乗りかご1が任意の階床に停止した際、乗場側ドア5に取り付けられた「被係合部材」である一対の係合ローラ2は、かご側ドア4に取り付けられた「係合部材」である一対の係合子3の間に配置されている。このように、一対の係合ローラ2と、一対の係合子3を設けているのは、開き動作と閉じ動作を行なうためである。尚、係合子3と係合ローラ2の関係は、逆であっても差し支えない。
【0021】
そして、ドア開閉駆動機構(図示せず)によってかご側ドア4が開閉される際に、係合子3が係合ローラ2に係合し、係合子3と係合ローラ2が係合することで、乗場側ドア5に設けたロック機構(図示せず)が解除され、乗場側ドア5が開閉可能な状態となる。これにより、乗場側ドア5とかご側ドア4は、係合子3と係合ローラ2により連結されて、互いに連動して開閉される。
【0022】
尚、かご側ドア4に設けた係合子3と乗場側ドア5に設けた係合ローラ2によって係合機構が構成されるが、係合機構の構成は、上述した係合子3と係合ローラ2に限定されるものではなく、互いに平板状の係合部材を用いても良いことはいうまでもない。また、係合子3と係合ローラ2は、相互の位置関係を調整できる構成とされており、このため、係合子3と係合ローラ2は、保守員によって互いの係合距離Gを調整できるものである。
【0023】
そして、上述した構成を有するかご側ドア4と乗場側ドア5の開閉動作は、図2に示すエレベーターのドア制御装置によって制御される。次に、ドア制御装置の構成について図2を参照して説明する。
【0024】
図2は、かご側ドア4、及び乗場側ドア5の開閉動作を制御するエレベーターのドアを駆動制御する制御盤10、及び駆動制御部(駆動制御手段)11の機能ブロックを示している。制御盤10は乗りかご以外の昇降路等に設けられており、駆動制御部11は乗りかごの天面に設けられている。尚、駆動制御部11は昇降路に設けられる場合もある。
【0025】
この駆動制御部11は、電動機からなる駆動部を制御することで、かご側ドア4、及び乗場側ドア5を開閉動作させる。また、駆動制御部11は電源回路、マイクロコンピュータ、及び入出力回路等から構成されているが、図2では電源回路を除く機能ブロックとして示している。
【0026】
駆動制御部11は、ドア開閉指令信号14を受けて速度指令演算部15にてドア開閉時の速度パターンを生成し、速度パターンに基づいて速度制御演算部16で速度指令を生成する。速度制御演算部16にて生成された速度指令は、電流制御演算部17にて電流指令を生成し、電動機19を駆動するための電力変換を電圧変換部18にて実施する。
【0027】
電動機19は、電圧変換部18からの出力によって回転され、この時の回転情報を回転検出部20にて検出する。電動機19の回転情報を検出する回転検出部20は、例えば、ロータリーエンコーダー等により構成されている。
【0028】
回転検出部20は、電動機19の駆動軸に設けられており、駆動軸の回転を検出する。回転検出部20が検出した回転情報は、駆動制御部11のパルス演算部21に入力されている。
【0029】
パルス演算部21に入力された回転情報は、かご側ドア4が移動した移動距離を算出するために、係数K1を掛けて演算することで移動距離情報を算出する。位置演算部22は、パルス演算部21で算出された移動距離情報と係数K2を掛けてかご側ドア4の移動距離を算出する。
【0030】
また、かご側ドア4の移動速度を検出するために、パルス演算部21で算出された移動距離情報を速度演算部23において微分することで、かご側ドア4の移動速度Vaを算出する。この移動速度Vaは、後述する係合子3と係合ローラ2が係合したことを検出するために利用される。
【0031】
更に、速度指令演算部15は、位置演算部22で算出したかご側ドア4の移動距離を用いてドア開閉時の速度パターンを生成する。同様に、速度制御演算部16は、速度演算部23で算出したかご側ドア4の移動速度を用いて速度指令を生成する。
【0032】
電流検出部24は、電動機19を駆動するための電流値を検出し、電流制御演算部17は、電流検出部24にて検出した電流値を用いて電流指令を生成する。
【0033】
このような構成は、既に良く知られている構成であるので詳細な説明は省略し、以下では、本実施形態の特徴である係合部調整量判定部13の構成について説明する。
【0034】
係合部調整量判定部13は、かご側ドアが開き動作、或いは閉じ動作されて、かご側ドアの係合部材が乗場側ドアの被係合部材に係合された時の係合部材の移動距離である実係合距離を求め、この実係合距離と予め定められた係合部材と被係合部材の間の所定の基準係合距離とに基づいて、係合部材と被係合部材の近接度合いを表す近接距離を求め、この近接距離に基づいて係合部材と被係合部材が所定の距離以上に近接していると判断されると異常状態と判定し、更に近接距離に基づいて係合部材と被係合部材の間の実係合距離を調整する調整量を求めることを特徴としている。
【0035】
さて、係合部調整量判定部13は、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に係合した時の係合子3の実移動距離を実係合距離(La)として算出する係合位置演算部25と、かご側ドア4係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2の間の実係合ずれ量(ΔLa)、及び係合ずれ調整量(ΔLajt)を算出する係合ずれ演算部28と、少なくとも実係合距離(La)、実係合ずれ量(ΔLa)、及び係合ずれ調整量(ΔLajt)を記憶する記憶部27を有している。
【0036】
係合位置演算部25は、ドア開閉時に電動機19が駆動されることで移動するかご側ドア4に備えられた係合子3と、乗場側ドア5に備えられた係合ローラ2が接触して係合したときのかご側ドア4の移動速度の低下を検出して、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に係合する実係合距離(La=係合子3の実移動距離)を推定している。以下では、実係合距離と実移動距離は等価として説明する。
【0037】
係合子3と係合ローラ2が係合したときのかご側ドア4の移動速度の低下は、速度演算部23で算出したかご側ドア4の移動速度(Va)と、係合子3と係合ローラ2が係合したことを判定する速度閾値(Vsh)とを比較して判定することができる。或いは、かご側ドア4の移動速度の変化の傾きが小さくなることを検出して判定することができる。要は、かご側ドア4の移動速度が、係合子3と係合ローラ2が係合して遅くなったことを検出してやれば良いものである。
【0038】
更には、例示はしていないが、電動機19のトルク値の変化、或いは電流値の変化を検出して、係合子3と係合ローラ2が係合したことを検出することも可能である。このように係合子3と係合ローラ2が係合したことを示す状態量を検出することで、後述するようにかご側ドア4の実係合距離(La)を求めることができる。
【0039】
そして、係合位置演算部25は、係合子3と係合ローラ2が係合したことを判定する速度閾値(Vsh)とかご側ドア4の移動速度(Va)とを比較し、係合子3と係合ローラ2が係合したことを判定したとき、位置演算部22で算出したかご側ドア4の実係合距離(La)を係合位置として記憶部27に出力する。
【0040】
尚、この実係合距離(La)が、現時点での係合子3と係合ローラ2の間の係合距離を表している。記憶部27は書き換え可能なメモリ素子から構成されており、例えば、電源バックアップRAMやEEPROM等を使用することができる。
【0041】
ここで、記憶部27には階床判別信号26が入力されており、受信した階床判別信号26を元に、求められたかご側ドア4の係合子2の実係合距離(La)を階床毎に記憶する構成とされている。このように、建築物の全階床、或いは特定の複数の階床のかご側ドア4の係合子2の実係合距離(La)を記憶することによって、後述するように、保守員による係合子3と係合ローラ2の間の係合距離の調整作業を効率的に行うこともできる。
【0042】
係合ずれ演算部28は、かご側ドア4の係合子3、及び乗場側ドア5の係合ローラ2の間の係合距離である、予め設定した基準係合距離(初期仕様値:Lset)と、記憶部27に記憶された、係合位置と見做したかご側ドア4の係合子3の実係合距離(La)とを用いて、実際の実係合ずれ量(ΔLa)を、「ΔLa=Lset-La」の式に基づいて算出する。ここで、係合ずれ量(ΔLa)は、上述したロック機構が動作することによって若干の誤差が生じるが、この誤差は係合ずれ量(ΔLa)に反映しても良いし、無視しても良い場合もある。以下では、この誤差は無視できるものとして説明する。
【0043】
ここで、実係合ずれ量(ΔLa)は、実際の係合子3と係合ローラ2の近接度合いを表す「近接距離情報」として取り扱うことができる。算出された実係合ずれ量(ΔLa)も記憶部27に階床毎に記憶される。
【0044】
また、基準係合距離(Lset)は、設計段階で予め決められている係合子3と係合ローラ2の係合距離を示す仕様値であるが、実際にエレベーターを建築物に設置して、設置初期の昇降動作で得られた実係合距離Laを基準係合距離(Lset)としても良い。これによれば、建築物の実形態を加味した基準係合距離(Lset)を設定することができる。
【0045】
そして、かご側ドア4の係合子3、及び乗場側ドア5の可動ローラ2の間の基準係合距離(Lset)から予め決められた許容係合ずれ量である係合ずれ量閾値(ΔLsh)と、記憶部27に記憶された実係合ずれ量(ΔLa)の差分から、実係合距離(La)の調整作業に必要な「係合ずれ調整量ΔLajt」を「ΔLajt=ΔLa-ΔLsh」の式に基づいて算出して求めることができる。この実係合距離(La)の調整作業に必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)も、記憶部27に階床毎に記憶される。
【0046】
図3は、上述した係合ずれ演算部28で実行される演算の考え方を示している。図3の(A)、(B)においては、係合子3、及び係合ローラ2の間の基準係合距離(Lset)、係合ずれ量閾値(ΔLsh)、実係合距離(La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)の関係を示している。尚、破線で示す係合子3の位置は、実係合距離Laが変動した場合を示している。
【0047】
図3の(A)からわかるように、かご側ドア4の係合子3の実係合ずれ量(ΔLa)が係合ずれ量閾値(ΔLsh)の範囲に収まっているので、かご側ドア4の係合子3、及び乗場側ドア5の可動ローラ2の間の係合距離(La)の距離を調整する必要はない。
【0048】
一方、図3の(B)においては、かご側ドア4の係合子3の実係合ずれ量(ΔLa)が係合ずれ量閾値(ΔLsh)の範囲から逸脱しているので、かご側ドア4の係合子3、及び乗場側ドア5の可動ローラ2の間の係合距離(La)の距離を長く調整する必要がある。そして、その調整量は、係合ずれ調整量(ΔLajt)となる。
【0049】
このように、「近接距離情報」である実係合ずれ量(ΔLa)に基づいて、係合子3と係合ローラ2の間の実係合距離Laを調整する係合ずれ調整量(ΔLajt)を求めることができる。
【0050】
次に、異常判定部29は、基準係合距離Lset)から予め決められた係合ずれ量閾値(ΔLsh)と実係合ずれ量(ΔLa)から係合ずれ差分(ΔLa-ΔLsh)を求め、この係合ずれ差分(ΔLa-ΔLsh)が、所定値以上の差分があると判定すると後述の異常処理を実行する。
【0051】
尚、この異常判定処理は、上述の方法とは別に、実係合ずれ量(ΔLa)の時間的な変化傾向を把握する手法を用いて、実係合距離の異常な変動を判定することもできる。この方法についても図6を用いて簡単に説明する。
【0052】
ここで、異常判定部29の異常判定処理は、少なくとも「第1差分判定閾値」と「第2差分判定閾値」の2つの差分判定閾値によって異常判定が行われており、第1差分判定閾値の方が第2差分判定閾値より大きい値に設定されている。
【0053】
つまり、第1差分判定閾値は、かご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2が近接し過ぎて、係合子3と係合ローラ2が接触する恐れがあると見做して直ちに異常処理を行なうための判定(=異常判定)を行なうものである。尚、この第1差分判定閾値は、図5では「異常検出閾値」として記載している。
【0054】
また、第2差分判定閾値は、かご側ドア4の係合子3と乗場側係合ローラ2が近接していないが、将来的に見て係合子3と係合ローラ2がいずれ接触する可能性(予兆)があると見做して、異常判定する前に調整作業を促すための判定(=調整促進判定)を行なうものである。尚、この第2差分判定閾値は、図5では「予兆検出閾値」として記載している。
【0055】
異常判定部29にて「異常判定」、或いは「調整促進判定」の判断がされた場合は、異常判定部29は、発報信号30と調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)の情報を制御盤10に送信し、更に制御盤10から管制センター32に発報する。ここまでが制御盤10、及び駆動制御部11で実行される機能である。
【0056】
一方、管制センター32は、異常判定部29から発報信号30と調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)の情報を受信すると、保守員による現地作業指示と調整作業が必要な階床毎の係合ずれ調整量(ΔLajt)の情報を、保守員が備える作業用端末に送信する。
【0057】
そして、保守員は作業用端末からの情報に基づき、実際のエレベーターのかご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2との係合距離の調整作業を行なうことになる。この場合、保守員は調整すべきドアの調整量が予め送信されていているので、これにしたがって調整することになる。尚、制御盤10から管制センター32に上述した情報を発報せずに、保守員の作業用端末33に直接的に発報することも可能である。
【0058】
このように、本実施形態になるドア制御装置においては、係合子3と係合ローラ2からなる係合機構の係合状態を自動的に確認でき、更に好ましくは係合子3と係合ローラ2の実係合距離(La)の調整量も自動的に求めて管制センターに送信できる。このため、現地にいる保守員による、かご側ドア4と乗場側ドア5の係合機構の確認作業、調整作業が容易となり、またこれに費やす時間も短縮することができる。
【0059】
次に、図4図5を用いて調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)の算出と、現地の保守員への作業指示と調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)の情報を管制センターに送信するまでの制御フローを説明する。尚、この制御フローは、エレベーターが稼働している期間の所定時間毎に実行しても良いし、エレベーターの稼働開始時、或いは稼働停止時、或いは点検作業時に実行しても良いものである。
【0060】
所定時間毎に実行する場合は、駆動制御部11に内蔵されているマイクロコンピュータのタイマ機能のコンペアマッチ割り込みを利用して制御フローを起動することができ、エレベーターの稼働開始時、稼働停止時、或いは点検作業時に実行する場合は、スイッチ信号等の外部割り込みを利用して制御フローを起動することができる。
【0061】
以下、図4図5に基づき、かご側ドア4、及び乗場側ドア5の開き動作について説明するが、閉じ動作も実質的に同じなので、ここでは閉じ動作の説明は省略する。
【0062】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、ドア開閉指令信号14を受けて駆動部12の電動機19を駆動させて、かご側ドア4、及び乗場側ドア5の開き動作を実行する。開き動作が開始されるとステップS11に移行する。
【0063】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、電動機19の駆動軸の回転情報に係数K1を掛けて演算することで、移動距離情報を算出し、更に、移動距離情報に係数K2を掛けて演算することで、かご側ドア4の移動距離を算出する。ここで、かご側ドア4の移動距離は、かご側ドアに設けられている係合子3の移動距離と実質的に等価である。このステップS11では、図2のパルス演算部21と位置演算部22の機能ブロックの動作を実行している。かご側ドア4の移動距離を算出するとステップS12に移行する。
【0064】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、回転情報に基づいて算出された移動距離情報を微分することで、かご側ドア4の移動速度(Va)を算出する。もちろん、かご側ドア4の移動速度(Va)は、かご側ドアに設けられている係合子3の移動速度と実質的に等価である。このステップS12では、図2のパルス演算部21と速度演算部23の機能ブロックの動作を実行している。かご側ドア4の移動速度を算出するとステップS13に移行する。
【0065】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、ステップS12で求めたかご側ドア4の移動速度(Va)が予め設定された速度閾値(Vsh)を下回ったか否かを判断する。尚、速度閾値(Vsh)は、速度指令演算部15の速度指令値よりも遅い速度に設定されている。
【0066】
この判断を行なうのは、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に接触したことを判定するもので、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に接触すると、負荷が増大してかご側ドア4の移動速度(Va)が遅くなることを利用している。
【0067】
尚、このステップS13の判断では、かご側ドア4の移動速度(Va)の速度変化量を検出して判断することもできる。例えば、所定時間毎の速度変化量を検出して、速度変化量が小さくなる、或いは負の変化量となった時に、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に接触したと判断することができる。このステップS13では、図2の係合位置演算部25の機能ブロックの動作を実行している。
【0068】
ステップS13で、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に接触していないと判断されると再びステップS11に戻り、係合子3が係合ローラ2に接触したと判断されるとステップS14に移行する。
【0069】
≪ステップS14≫
ステップS14においては、かご側ドア4の係合子3が乗場側ドア5の係合ローラ2に接触したと判断されているので、この時のかご側ドア4の実移動距離を実係合距離(La)として推定し、かご側ドア4の実係合距離(La)を係合位置として記憶する。更に、このかご側ドア4の実係合距離(La)は、後述の演算のためにRAMのワークエリアに記憶される。
【0070】
このステップS14では、図2の係合位置演算部25の機能ブロックの動作を実行している。かご側ドア4の実係合距離Laが求められるとステップS15に移行する。
【0071】
≪ステップS15≫
ステップS15においては、予め定めた基準係合距離(Lset)と、RAMのワークエリアに記憶されている実係合距離(La)を用いて、実際の実係合ずれ量(ΔLa)を「ΔLa=Lset-La」の式に基づいて算出して記憶する。更に、この実係合ずれ量(ΔLa)も、後述の演算のためにRAMのワークエリアに記憶される。尚、基準係合距離(Lset)は設計段階で決められた仕様値であるが、実際にエレベーターを建築物に設置して、設置初期の昇降動作で得られた実係合距離(La)を基準係合距離(Lset)としても良い。
【0072】
このステップS15では、図2の係合ずれ演算部28の機能ブロックの動作を実行している。尚、後述のステップS20までの制御ステップは、図2の係合ずれ演算部28の機能ブロックの動作を実行している。かご側ドア4の実係合ずれ量(ΔLa)が求められるとステップS16に移行する。
【0073】
≪ステップS16≫
ステップS16においては、かご側ドア4の係合子3、及び乗場側ドア5の可動ローラ2の間の基準係合距離(Lset)から予め決められた許容係合ずれ量である係合ずれ量閾値(ΔLsh)と、RAMのワークエリアに記憶されている実係合ずれ量(ΔLa)との「係合ずれ差分」から、調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)を「ΔLajt=ΔLa-ΔLsh」の式に基づいて算出して記憶する。更に、この係合ずれ調整量(ΔLajt)も、後述の演算のためにRAMのワークエリアに記憶される。係合ずれ調整量(ΔLajt)が求められるとステップS17に移行する。
【0074】
≪ステップS17≫
ステップS17においては、階床判別信号を受信して現在の階床を特定する。これによって、現時点の階床のかご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ3の係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等が特定されることになる。階床の特定が完了するとステップS18に移行する。
【0075】
≪ステップS18≫
ステップS18においては、ステップS17で特定された階床に紐つけて、係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等を記憶部27に記憶する。したがって、階床毎に係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等の情報を検索することが可能となる。係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等を記憶部27に記憶すると、ステップS19に移行する。
【0076】
≪ステップS19≫
ステップS19においては、全階床、或いは予め設定された複数の階床で、上述した係合機構の係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量ΔLajt等の測定を完了したかどうかを判定する。
【0077】
このステップS19で、複数の階床の係合機構の係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等の測定を完了していないと判定されると、再びステップS10に戻り上述の制御ステップを実行する。一方、複数の階床の係合機構の係合位置(実係合距離La)、実係合ずれ量(ΔLa)、係合ずれ調整量(ΔLajt)等の測定を完了したと判定されるとステップS20に移行する。
【0078】
≪ステップS20≫
ステップS20は、本実施形態の変形例として追加している制御ステップであるので破線で表示している。したがって、このステップS20を実行しない場合は、これ以降の制御ステップは個別の階床毎に係合ずれ調整量(ΔLajt)を使用することになる。
【0079】
さて、ステップS20においては、複数の階床に一律に適用できる係合ずれ調整量(ΔLajtm)を演算する。この演算は、複数の係合ずれ調整量(ΔLajt)を平均化して求めている。また、複数の階床としては、「全階床」であっても良く、また、「偶数階」、或いは「奇数階」、或いは、「所定階数毎」、或いは、「最下階、中央階、最上階」といった階床を選択することができる。したがって、これらから選択された複数の階床から、一律に適用できる係合ずれ調整量(ΔLajtm)を演算すれば良い。ステップS20が終了するとステップS21に移行する。
【0080】
上述したように、このステップS20は変形例として追加したものであるので、以下の制御ステップでは、階床毎の係合ずれ調整量(ΔLajt)による異常判定について説明する。尚、ステップS20を実行した場合の説明は後述する。また、ステップS21の以降の制御ステップは図5に示しているので、以下は図5を用いて説明する。
【0081】
≪ステップS21≫
ステップS21においては、階床毎にステップS16で求められた調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)を異常検出閾値(第1差分判定閾値)と比較する。係合ずれ調整量(ΔLajt)が大きいほど、かご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2の実係合距離(La)が短く、係合子3と係合ローラ2が近接していることを示している。したがって、係合子3と係合ローラ2とが接触する可能性が高いことになる。
【0082】
一方、係合ずれ調整量(ΔLajt)が小さいほど、かご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2の実係合距離(La)が長く、係合子3と係合ローラ2が離間していることを示している。したがって、係合子3と係合ローラ2とが接触する可能性が低いことになる。
【0083】
そして、係合ずれ調整量(ΔLajt)が、異常検出閾値を超えている場合はステップS22に移行し、係合ずれ調整量(ΔLajt)が、異常検出閾値を超えていない場合はステップS23に移行する。
【0084】
≪ステップS22≫
ステップS22においては、ステップS21で係合ずれ調整量(ΔLajt)が、異常検出閾値を超えていると判定されているので、実係合ずれ量(ΔLa)が異常に大きいと見做されて異常判定される。このように、異常と判定されると係合子3と係合ローラ2とが接触する可能性が高いので、エレベーターを止めるようなメッセージ送ることや、特別に異常を発生する環境に陥っている可能性が高いので、重点点検階床に設定して保守員に充分な点検確認を促すメッセージを送ることもできる。
【0085】
もちろん、この場合も係合ずれ調整量(ΔLajt)が求められているので、異常判定されると、点検階床の優先順位を付されて直ちに調整作業を優先するように設定することもできる。異常判定されるとステップS26に移行する。
【0086】
≪ステップS23≫
ステップS23においては、ステップS16で求められた調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)を予兆検出閾値(第2差分判定閾値)と比較する。上述したように、係合ずれ調整量(ΔLajt)が大きいほど、かご側ドア4の係合子3と乗場側係合ローラ2の実係合距離(La9が短く、係合子3と係合ローラ2が近接していることを示している。したがって、係合ずれ調整量(ΔLajt)が予兆検出閾値を超えている場合は、将来的に係合子3と係合ローラ2とが接触する可能性が高いと見做している。
【0087】
一方、係合ずれ調整量(ΔLajt)が小さいほど、かご側ドア4の係合子3と乗場側係合ローラ2の実係合距離(La)が長く、係合子3と係合ローラ2が離間していることを示している。したがって、係合子3と係合ローラ2とが接触する可能性が低いことになる。
【0088】
そして、係合ずれ調整量(ΔLajt)が、予兆検出閾値を超えている場合はステップS25に移行し、係合ずれ調整量(ΔLajt)が、異常検出閾値を超えていない場合はステップS24に移行する。
【0089】
≪ステップS24≫
ステップS24においては、ステップS23で係合ずれ調整量(ΔLajt)が、予兆検出閾値を超えていない判定されているので、実係合ずれ量(ΔLa)が許容範囲内にあると見做されて正常判定される。尚、正常判定されると、保守員に正常である旨のメッセージを送ることができる。正常判定されるとステップS26に移行する。
【0090】
≪ステップS25≫
ステップS25においては、ステップS23で係合ずれ調整量(ΔLajt)が、予兆検出閾値を超えていると判定されているので、実係合ずれ量(ΔLa)が将来的に大きくなると見做されて調整促進判定される。
【0091】
この場合も係合ずれ調整量(ΔLajt)が求められているので、調整促進判定されると優先順位を付されて、調整作業を優先するように設定される。尚、この場合は、優先度は異常判定された場合より低くなっており、直ちに調整作業を行なわなくても良く、次回の定期点検作業時に実施するように保守員に次回の点検確認を促すメッセージを送ることもできる。調整促進判定されるとステップS26に移行する。
【0092】
≪ステップS26≫
ステップS26においては、ステップS22の異常判定、ステップS24の正常判定、及びステップS25の調整促進判定の結果を、管制センター32に発報信号30として階床毎に「正常」「異常」「調整促進」の情報を付して送信し、また調整作業が必要な各階床の係合ずれ調整量(ΔLajt)を係合調整量31として発報する。
【0093】
以上が制御盤10を含めた駆動制御部11で実行される制御フローである。尚、管制センター32に上述した情報を発報せずに、保守員の作業用端末33に直接的に発報することも可能である。
【0094】
ここで、ステップS20で一律に適用できる一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)を算出した場合は、ステップS21、ステップS23においては、係合ずれ調整量(ΔLajt)に代えて一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)を比較判定すれば良い。そして、ステップS26においては、複数の階床の係合ずれ量として、一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)を送信することになる。そして、保守員はこの一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)に基づいて、各階床の係合子3と係合ローラ2の実係合距離(La)の調整を行なうことになる。
【0095】
≪ステップS27≫
ステップS27においては、管制センター32の制御ステップを示しており、管制センター32は、ステップS26の発報信号30や係合ずれ調整量(ΔLajt)、或いは一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)の情報を受信すると、保守員による現地作業指示と調整作業が必要な係合ずれ調整量(ΔLajt)、一律係合ずれ調整量(ΔLajtm)の情報を、保守員が備える作業用端末に送信する。
【0096】
そして、保守員は作業用端末からの情報に基づき、実際のエレベーターのかご側ドア4の係合子3と乗場側ドア5の係合ローラ2との係合距離の確認作業、及び調整作業を行なうことになる。
【0097】
上述した制御フローは、選択された階床(全階床を含む)の全てで、かご側ドア4、及び乗場側ドアを開閉した後に異常判定動作を行なっているが、各階床毎にかご側ドア4、及び乗場側ドアを開閉した後に判定動作を行なうことも可能であることはいうまでもない。この場合は、階床毎に実行する制御ステップとしては、ステップS10~ステップS18、ステップS21~ステップS27を実行すれば良い。
【0098】
次に図5に示す制御フローの変形例を図6に基づいて説明する。図6は実係合距離(La)の時間的な変動を監視しておき、異常判定される前に係合子3と係合ローラ2との実係合距離(La)の確認作業、及び調整作業を行なうことを可能にしている。
【0099】
≪ステップS28≫
図4のステップS19が実行された後に、ステップS28においては、前回の判定時期から所定の判定時間が経過しているかどうかを判定している。この判定時間は、係合子3と係合ローラ2との実係合距離(La)が変動する可能性がある時間に設定されている。したがって、この判定時間は、経験的に求められた時間や、シミュレーションによって求められた実係合距離(La)が変動する時間から設定することができ、比較的長い時間である。ステップS28で判定時間を過ぎていないと判定されると再びステップS28に戻り、判定時間を過ぎていると判定されるとステップS29に移行する。
【0100】
≪ステップS29≫
ステップS29においては、前回の判定時期で求めた、前々回の係合ずれ調整量(ΔLajt-2)と前回の係合ずれ調整量(ΔLajt-1)の差分(ΔLajt-1-ΔLajt-2)に対して、今回の判定時期で求めた、前回の係合ずれ調整量(ΔLajt-1)と今回の係合ずれ調整量(ΔLajtc)の差分(ΔLajtc-ΔLajt-1)の方が大きいかどうかを判定する。
【0101】
このように、本ステップS29においては、係合子3と係合ローラ2の実係合距離(La)の変動傾向から、変動傾向が現状維持、或いは変動傾向が促進されているかどうかを推定している。したがって、この変動傾向の推定状態から将来的に係合子3と係合ローラ2とが接触する、という異常に至る前にその予兆を推定できる。
【0102】
この判定で、今回の係合ずれ調整量の差分の方が小さいと判定されるとステップS24に移行し、今回の係合ずれ調整量の差分の方が大きいと判定されるとステップS30に移行する。
【0103】
≪ステップS30≫
ステップS29で係合子3と係合ローラ2の実係合距離(La)の変動傾向が促進されていると判定されているので、ステップS30においては、予兆検出差分閾値と比較して、予兆の確からしさを判定している。したがって、今回の係合ずれ調整量の差分(ΔLajtc-ΔLajt-1)が予兆検出差分閾値より小さいと判定されると、ステップS24に移行する。一方、今回の係合ずれ調整量の差分(ΔLajtc-ΔLajt-1)が予兆検出差分閾値より大きいと判定されると、ステップS25に移行する。尚、ステップS24~ステップS27は図5に示す制御ステップと同じなので、説明は省略する。
【0104】
このように、図6に示す変形例では、実係合距離(La)の時間的な変動を監視しておき、異常判定される前に異常が発生する予兆を把握し、これに基づいて係合子3と係合ローラ2との実係合距離(La)の確認作業、及び調整作業を行なうことができる。
【0105】
以上述べた通り、本発明は、かご側ドアが開き動作、或いは閉じ動作されて、かご側ドアの係合部材が乗場側ドアの被係合部材に係合された時の係合部材の移動距離である実係合距離を求め、この実移動距離と予め定められた係合部材と被係合部材の間の所定の係合距離とに基づいて、係合部材と被係合部材の近接度合いを表す近接距離を求め、この近接距離に基づいて係合部材と被係合部材が所定の距離以上に近接していると判断されると異常状態と判定し、更に近接距離に基づいて係合部材と被係合部材の間の係合距離を調整する調整量を求める構成とした。
【0106】
これによれば、かご側ドアの係合部材と乗場側ドアの被係合部材の間の係合距離が、許容距離範囲内に収まっているかどうかを自動的に判定し、更に許容距離範囲内に収まっていない場合は、その調整量を自動的に求めて報知するので、保守員による係合機構の係合距離の確認作業及び調整作業に必要な時間を短縮することができる。
【0107】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…乗りかご、2…係合ローラ、3…係合子、4…かご側ドア、5…乗場側ドア、10…制御盤、11…駆動制御部、12…駆動部、13…係合部調整量判定部、14…ドア開閉指令信号、15…速度指令演算部、16…速度制御演算部、17…電流制御演算部、18…電圧変換部、19…電動機、20…回転検出部、21…パルス演算部、22…位置演算部、23…速度演算部、24…電流検出部、25…係合位置演算部、26…階床判別信号、27…記憶部、28…係合ずれ演算部、29…異常判定部、30…発報信号、31…係合部調整量、32…管制センター、33…作業用端末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6