(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】油性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20220617BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220617BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C09D11/36
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2019509798
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012118
(87)【国際公開番号】W WO2018181170
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2017067840
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】志村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 一行
(72)【発明者】
【氏名】守永 真利絵
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
(72)【発明者】
【氏名】菅原 徳朗
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-006790(JP,A)
【文献】特開2007-154149(JP,A)
【文献】特開2010-215700(JP,A)
【文献】特開2007-126564(JP,A)
【文献】特開2011-162757(JP,A)
【文献】特開2002-363465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
B41J 2/01-2/215
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、沸点が300℃以上であり下記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤と、石油系炭化水素溶剤とを含み、
前記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤はインク全量に対し50質量%以上であり、
前記石油系炭化水素溶剤はインク全量に対し1質量%~
48質量%である、油性インクジェットインク。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立的に炭素数が7~18であり、側鎖数が1~4である分岐アルキル基であり、R
1及びR
2に含まれる側鎖の数が
5以上7以下であり、1分子中の炭素数が19~27である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤の沸点が360℃以上である、請求項1に記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2の少なくとも一方は炭素数が14以上である分岐アルキル基である、請求項1
又は2に記載の油性インクジェットインク。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、1分子中の炭素数が24以上である、請求項1から
3のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項5】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2に含まれる側鎖の数が6以上である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤の沸点は300~450℃である、請求項1から
5のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項7】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立的に炭素数が8~18である分岐アルキル基である、請求項1から
6のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対して、油性インクは記録媒体への浸透が主となって乾燥する。
【0003】
油性インクジェットインクの溶剤としては、石油系炭化水素溶剤等の非極性溶剤と、脂肪酸系溶剤、アルコール系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤等の極性溶剤とが単独で、又は複数種を組み合わせて用いられる。
脂肪酸エステル系溶剤は、脂肪酸部分及びアルコール部分の分子構造によって様々な特性を備えることができ、油性インクジェットインクに配合させることが検討されている。一方で、脂肪酸エステル系溶剤は、脂肪酸とアルコールに加水分解する性質があり、分解した脂肪酸とアルコールが臭気の原因になる問題がある。
【0004】
特許文献1(特開2007-154149号公報)では、透明ファイルを膨潤させたり、大きく変形させることなく、高い吐出安定性を有するインクジェット用非水系インク組成物として、顔料と分散剤と非水系溶媒とを含有し、非水系溶媒の全重量の50%以上は、炭素数24以上36以下のエステル系溶媒であるインクを提案している。
【0005】
特許文献2(特開2011-162757号公報)では、印刷物からのアルコール臭を防止するために、顔料、分散剤、溶剤を含み、溶剤が特定の脂肪酸エステル溶剤を含むことを提案している。特許文献2の脂肪酸エステル溶剤の例示には、ネオペンタン酸イソデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、ネオデカン酸オクチルドデシル等が含まれる。
【0006】
特許文献3(特開2002-363465号公報)では、1分子中の炭素数が10~22である分岐鎖エステルからなる分散媒と、顔料と、分散剤とを含むインクジェット用非水系顔料インクによって、保存安定性、吐出安全性が改善されることが提案されている。特許文献3の段落0017~0018には、分岐鎖エステルの炭素数が減少すると臭気が強くなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-154149号公報
【文献】特開2011-162757号公報
【文献】特開2002-363465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
油性インクジェットインクでは、印刷後に印刷物を複数枚重ねて保管する際に、保管後の印刷物に濃度ムラが発生する問題がある。この濃度ムラは、印刷物を重ねることで、隣り合う印刷物にインク成分、特に溶剤成分が移動し、一方の印刷物からインク成分が移った印刷物の画像領域が、溶剤成分によって濡れたように感じられる現象である。この濃度ムラは、脂肪酸エステル系溶剤のような極性溶剤、中でも低沸点の溶剤を用いるときに特に問題になる。
高沸点の脂肪酸エステル系溶剤を用いて、印刷物から溶剤が揮発しないようにして、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止する方法もあるが、高沸点の脂肪酸エステル系溶剤は粘性が高くなり、インクジェットノズルからの吐出性能が低下する問題がある。
【0009】
また、高炭素数の脂肪酸エステル系溶剤は、比較的に高沸点であるが高粘度でもあるため、この脂肪酸エステル系溶剤を用いたインクでは、吐出性能が低下する問題がある。
さらに、脂肪酸エステル系溶剤は、側鎖の数が多い方が沸点が低下する傾向にある。油性インクジェットインクでは、沸点が低下しないように、側鎖の数が少ない脂肪酸エステル系溶剤が選択されることが多い。
【0010】
特許文献1で用いられている高炭素数の脂肪酸エステル系溶剤は、比較的に側鎖の数が少なく、高沸点で高粘度となる。特許文献1では、高炭素数の脂肪酸エステル系溶剤を用いる場合は、インクを加熱して粘度を低下させて吐出させている。
また、脂肪酸エステル系溶剤が低炭素数であってさらに側鎖の数が多い場合は、沸点が低下する。特許文献1の比較例の脂肪酸エステル系溶剤は、比較的に沸点が低く、印刷物を重ねる際の濃度ムラの原因となる可能性がある。
【0011】
一方で、脂肪酸エステル系溶剤を含むインクによって印刷された印刷物は、空気中の水分を吸収して、印刷物上で脂肪酸エステル系溶剤が加水分解され、脂肪酸とアルコールが生成される性質を有する。高沸点の脂肪酸エステル系溶剤であっても、加水分解によって脂肪酸とアルコールが生成すると、臭気の原因となることがある。
【0012】
特許文献2で用いられているネオペンタン酸イソデシル等は、印刷物上で加水分解されてネオペンタン酸、イソデカノール等が生成され、臭気の原因となる可能性がある。特に、印刷物上で徐々に加水分解されて、長時間にわたり、臭いが継続する問題がある。
【0013】
特許文献3では、インクサンプルの臭いから2-エチルヘキサン酸-2-エチルへキシルの臭いを評価している。しかし、印刷物上で空気にさらされた状態では、2-エチルヘキサン酸-2-エチルへキシルはさらに加水分解しやすくなって、分解物の2-エチルヘキサン酸、2-エチルヘキサノールが臭気の原因になる可能性がある。
また、特許文献3で用いられているイソノナン酸イソノニルは、側鎖の数が比較的に多いため沸点が低下する傾向がある。イソノナン酸イソノニルは、インクから揮発して臭いの原因になるほどではないが、印刷物を重ねた状態で保管すると、他の印刷物に溶剤が浸透し濃度ムラが発生する可能性がある。
また、特許文献3で用いられているイソノナン酸イソトリデシルは、高炭素数の脂肪酸エステル系溶剤であるが、分子構造に起因して加水分解されやすく、印刷物から臭気が発生する可能性がある。
【0014】
本発明の一目的としては、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止し、印刷物から発生する臭気を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態としては、色材と、沸点が300℃以上であり下記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤とを含み、石油系炭化水素溶剤はインク全量に対し1質量%~50質量%である、油性インクジェットインクである。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立的にアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくとも一方は分岐アルキル基であり、R
1及びR
2に含まれる側鎖の数が4以上である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止することができ、印刷物から発生する臭気を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0018】
一実施形態による油性インクジェットインク(以下、単にインクと称することがある。)としては、色材と、沸点が300℃以上であり下記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤とを含み、石油系炭化水素溶剤はインク全量に対し1質量%~50質量%である、ことを特徴とする。
【化2】
(一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立的にアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくとも一方は分岐アルキル基であり、R
1及びR
2に含まれる側鎖の数が4以上である。)
【0019】
これによれば、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止することができ、印刷物から発生する臭気を防止することができる。
脂肪酸エステル系溶剤の沸点が300℃以上であることで、この溶剤を含むインクを用いて印刷物を作製する際に、印刷物の内部に脂肪酸エステル系溶剤が留まり、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止することができる。
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、側鎖の数が4以上であるので、比較的に沸点が低い傾向がある。その中でも、沸点が300℃以上となる脂肪酸エステル系溶剤を選択することで、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止することができる。
【0020】
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、加水分解されにくく、分解生成物である脂肪酸及びアルコールの生成を抑制することができる。これによって、分解生成物に起因する臭気の発生を防止することができる。例えば、脂肪酸エステル系溶剤を含むインクを用いて印刷物を作製する際に、印刷物が空気中の水分等を吸収して、印刷物上で脂肪酸エステル系溶剤が加水分解され、臭気が発生することがある。
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、側鎖の数が4以上であるので、分子構造の立体障害によって、水分子からエステル結合が保護されて、加水分解されにくい構造となっている。そのため、この溶剤は、加水分解されにくく、臭気の原因となる脂肪酸及びアルコールの生成を抑制することができる。
【0021】
石油系炭化水素溶剤の配合量をインク全量に対して50質量%以下に制限することで、印刷装置の放置後の吐出性能を改善することができる。また、石油系炭化水素溶剤の配合量がインク全量に対して1質量%以上であることで、色材との親和性を高めて、分散安定性を向上させることができる。
【0022】
インクジェット印刷装置の一例では、インクを収容するインクタンクと、インクを記録媒体に吐出するインクジェットノズルとを有し、インクタンクからインクジェットノズルまでインクはチューブを通して搬送される。このチューブには塩化ビニル製等の樹脂製チューブが一般的に用いられている。このチューブはインクの非水系溶剤によって劣化する問題がある。チューブの劣化は、チューブの破損の他にも、チューブからインク中に不純物が溶出しインクが変質する問題につながる。例えば、印刷装置を稼働させない状態が続いて、チューブ内にインクが長期間に渡り収容される際に、インクが変質すると、ノズル詰まり等が発生し、吐出不良につながる問題がある。
また、樹脂製チューブは、柔軟性を付与するために、可塑剤が多く配合される。この可塑剤は、特に石油系炭化水素溶剤に溶出しやすく、インクの変質につながる。
そのため、石油系炭化水素溶剤の配合量を制限し、一般式(1)で表される脂肪酸エステルを用いることで、チューブの劣化を防止し、インクの変質を抑制して、放置後の吐出性能を改善することができる。
【0023】
インクは、色材として顔料、染料、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、銅フタロシアニン顔料等の金属フタロシアニン顔料、及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
顔料の平均粒子径としては、吐出安定性と保存安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下であり、一層好ましくは100nm以下である。
顔料は、インク全量に対し、通常0.01~20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から、1~15質量%であることが好ましく、4~10質量%であることが一層好ましい。
【0025】
インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに顔料分散剤を用いることができる。
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0026】
顔料分散剤の市販品例としては、例えば、アイ・エス・ピー・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)、V220(ビニルピロリドン・エイコセン共重合体)」(いずれも商品名);日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、16000、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名);BASFジャパン株式会社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名);楠本化成株式会社製「ディスパロンKS-860、KS-873N4(ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名);第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA-202、OA-600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名);ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK2155、9077」(いずれも商品名);クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0027】
顔料分散剤は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。例えば、質量比で、顔料1に対し顔料分散剤を0.1~5で配合することができ、好ましくは0.1~1である。また、顔料分散剤は、インク全量に対し、0.01~10質量%で配合することができ、好ましくは0.01~6質量%であり、より好ましくは0.1~6質量%である。
【0028】
染料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。油性インクでは、染料は、インクの非水系溶剤に親和性を示すことで、貯蔵安定性がより良好となるため、油溶性染料を用いることが好ましい。
油溶性染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
染料は、インク全量に対し、通常0.01~20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から、1~15質量%であることが好ましく、4~10質量%であることが一層好ましい。
【0029】
非水系溶剤は、上記一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤を含む。この脂肪酸エステル系溶剤を用いることで、印刷物を重ねる際の濃度ムラとともに印刷物の臭気を防止することができる。また、放置後の吐出性能を改善することができる。
【0030】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立的にアルキル基であり、R1及びR2の少なくとも一方は分岐アルキル基である。そして、R1及びR2に含まれる側鎖の数が4以上である。
【0031】
ここで、R1及びR2の主鎖は、それぞれエステル結合部「-COO-」に結合する炭素原子から数えて最も炭素数が多くなる炭素鎖である。このR1及びR2の主鎖から分岐する炭素鎖を側鎖とする。R1及び/又はR2が側鎖を有する場合、それぞれの側鎖は直鎖状でも分岐状でもよい。
また、R1及びR2において、それぞれエステル結合部に結合する炭素原子から数えて最も炭素数が多くなる炭素鎖が複数存在する場合、側鎖の炭素数が最も多くなるものを主鎖とする。
また、R1及びR2において、それぞれエステル結合部に結合する炭素原子から数えて最も炭素数が多くなる炭素鎖が複数存在し、複数の炭素鎖に含まれる側鎖の炭素数が同じである場合、側鎖の数が最も少なくなるものを主鎖とする。
【0032】
R1及びR2に含まれる側鎖の数は、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。これによって、脂肪酸エステル系溶剤の加水分解を防止し、臭気の発生をより防ぐことができる。
R1及びR2に含まれる側鎖の数は、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。脂肪酸エステル系溶剤は、側鎖の数が増加すると沸点が低下する傾向があるため、側鎖の合計数を制限することで沸点低下を抑制することができる。
R1及びR2のうち一方が直鎖アルキル基であり、R1及びR2のうち他方が4以上の側鎖を有する分岐アルキル基であってもよい。また、R1及びR2の両方が分岐アルキル基であり、R1及びR2の両方に含まれる側鎖の合計数が4以上であってもよい。
【0033】
R1及びR2に含まれる側鎖は、それぞれ独立的に、直鎖アルキル基、分岐アルキル基のいずれであってもよい。
R1及びR2に含まれる側鎖は、それぞれ独立的に、炭素数が1以上が好ましく、2以上であってもよく、4以上であってもよい。
R1及びR2に含まれる側鎖は、それぞれ独立的に、炭素数が10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下であってもよい。
低炭素数の側鎖を用いる場合、脂肪酸エステル系溶剤に側鎖の数を多く導入することができる。複数の側鎖は、互いに同一でも異なってもよい。脂肪酸エステル系溶剤は、側鎖の数を多くするために、炭素数が1又は2の側鎖を有することが好ましい。
【0034】
R1及び/又はR2に含まれる側鎖としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができる。
好ましくは、メチル基、エチル基、n-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基である。
また、脂肪酸エステル系溶剤に側鎖の数を多く導入するために、側鎖としてのメチル基が1分子中に1以上導入されることが好ましく、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上である。
【0035】
R1が分岐アルキル基である場合、R1の全体の炭素数は、3以上であってよく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。この場合、R1の全体の炭素数は、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。
R2が分岐アルキル基である場合、R2の全体の炭素数は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。この場合、R2の全体の炭素数は、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。
この範囲で、脂肪酸エステル系溶剤の分岐アルキル基の側鎖の数を多くすることができ、脂肪酸エステル系溶剤の加水分解をより防止することができる。
【0036】
R1又はR2が直鎖アルキル基である場合、R1又はR2で示される直鎖アルキル基の全体の炭素数は、1以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。この場合、R1又はR2で示される直鎖アルキル基の全体の炭素数は、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。
脂肪酸エステル系溶剤の脂肪酸部分及びアルコール部分の両方のアルキル基がある程度の長さを有することで、脂肪酸エステル系溶剤が加水分解したとしても、その分解物特有の臭気を低減することができる。
【0037】
R1及びR2のうち少なくとも一方は、全体の炭素数が10以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上がさらに好ましい。特に、R1及びR2のうち少なくとも一方が分岐アルキル基の場合では、少なくとも1つの分岐アルキル基の全体の炭素数が10以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上がさらに好ましい。これによって、脂肪酸エステル系溶剤の側鎖の数が4以上である場合にも、脂肪酸エステル系溶剤の沸点をより高くすることができる。
R1及びR2の全体の炭素数は、互いの主鎖の長さ、側鎖の炭素数、脂肪酸エステル系溶剤全体の炭素数に応じて調節されるものである。
【0038】
また、脂肪酸エステル系溶剤の脂肪酸部分のアルキル基R1及びアルコール部分のアルキル基R2の両方がある程度の長さを有することで、脂肪酸エステル系溶剤が脂肪酸及びアルコールに分解したとしても、分解生成物のアルキル基の分子量がある程度大きくなり、分解生成物が揮発して臭気の原因となる問題を防止することができる。
臭気を低減するために、脂肪酸エステル系溶剤のR1及びR2の全体の炭素数は、それぞれ独立的に6以上が好ましく、8以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。より好ましくは、R1及びR2の全体の炭素数はともに6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは9以上である。
【0039】
脂肪酸エステル系溶剤の1分子中の炭素数は、8以上であってよいが、18以上がより好ましく、19以上がさらに好ましく、20以上が一層好ましく、24以上が特に好ましい。脂肪酸エステル系溶剤の炭素数がこの範囲であることで、側鎖の合計数を十分に確保するとともに、沸点の低下を抑制し、臭気の発生とともに印字物を重ねる際の濃度ムラをより改善することができる。
また、脂肪酸エステル系溶剤の1分子中の炭素数は、35以下が好ましく、30以下がより好ましく、28以下がさらに好ましい。高炭素数になると高粘度となることがあるため、脂肪酸エステル系溶剤の炭素数がこの範囲であることで、インクを低粘度化して、吐出性能をより改善することができる。
【0040】
脂肪酸エステル系溶剤の沸点は、300℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましく、360℃以上がさらに好ましい。これによって、印字物を重ねる際の濃度ムラを防止することができる。
脂肪酸エステル系溶剤の沸点は、450℃以下が好ましく、400℃以下がさらに好ましい。これによって、インクを低粘度化して、吐出性能をより改善することができる。
脂肪酸エステル系溶剤の沸点は、JIS K2254 「石油製品-蒸留試験方法」の(1)初留点の方法に準拠にて測定することができる。
【0041】
上記した一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、これに限定されないが、以下の方法によって製造することができる。
脂肪酸エステル系溶剤は、脂肪酸とアルコールとを反応させて得ることができる。例えば、原料の脂肪酸及びアルコールのうち少なくとも一方に側鎖を有するものを用いて、脂肪酸及びアルコールに含まれる側鎖の数が4以上になるように脂肪酸及びアルコールを組みわせて用いることができる。また、R2に側鎖を導入するために、炭素数3以上の2級アルコール、炭素数4以上の3級アルコールを用いることができる。
反応温度は、脂肪酸及びアルコールの種類に応じて80~230℃の範囲で調節することができる。反応時間は、脂肪酸及びアルコールの種類や、原料の使用量に応じて1~48時間の範囲で調節することができる。エステル化反応に際して生成する水分を除去することが好ましい。
脂肪酸とアルコールとは、モル比で1:1で反応させることが好ましい。
反応に際して、濃硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の触媒を適量で用いてもよい。
【0042】
原料となる側鎖を有する脂肪酸としては、例えば、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2-(4,4-ジメチル-2-ペンチル)-5,7,7-トリメチル-n-オクタン酸、9,9-ジメチルデカン酸、ネオペンタン酸、2-プロピルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、7-メチルオクタン酸、2-ヘキシルデカン酸、2-ヘプチルウンデカン酸、2-ブチルオクタン酸、2-オクチルドデカン酸等を挙げることができる。
【0043】
原料となる直鎖脂肪酸としては、例えば、酢酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸等を挙げることができる。
【0044】
原料となる側鎖を有するアルコールとしては、例えば、5,7,7-トリメチル2-(1,3,3-トリメチルブチル)オクタノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、7-メチル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、イソオクタデカノール、1-ブチル-1-ペンタノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール等を挙げることができる。
【0045】
原料となる炭素数3以上の2級アルコールとしては、例えば、プロパン-2-オール、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、3-エチル-3-ペンタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、4-メチル-2-ペンタノール、5-デカノール、7-テトラデカノール等を挙げることができる。
原料となる炭素数4以上の3級アルコールとしては、例えば、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール等を挙げることができる。
【0046】
原料となる直鎖アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘキサデカノール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、1-ノナデカノール、1-イコサノール、1-ドコサノール等を挙げることができる。
【0047】
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、上記した原料となる脂肪酸とアルコールとを、脂肪酸エステル系溶剤のR1及びR2に含まれる側鎖の数が4以上となるように組み合わせて用いることで、合成することができる。また、合成される脂肪酸エステル系溶剤の1分子中の炭素数、R1及びR2に含まれる側鎖の数、その側鎖の炭素数、R1及びR2の炭素数等を適宜調節することで、沸点が300℃以上の脂肪酸エステル系溶剤を得ることができる。
【0048】
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤の具体例としては、3,5,5-トリメチルヘキサン酸5,7,7-トリメチル2-(1,3,3-トリメチルブチル)オクチル、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチルオクタン酸1,1,-ジエチルプロピル、3,5,5-トリメチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、9,9-ジメチルデカン酸3,7-ジメチルオクタノール、9,9-ジメチルデカン酸3,5,5-トリメチルヘキシル等を挙げることができる。
脂肪酸エステル系溶剤は、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
インク全量に対する一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、インク全量に対し、10質量%以上で含まれることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上であってもよい。これによって、印刷物を重ねる際の濃度ムラとともに臭気の発生をより防止することができる。
インク全量に対する一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、特に制限されないが、インク全量に対し、98質量%以下であってよく、90質量%以下が好ましい。
【0050】
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、非水系溶剤全量に対し、特に制限されないが、10質量%以上で含まれることが好ましい。
印刷物を重ねる際の濃度ムラとともに臭気の発生を防止する観点から、その他の溶剤による影響を排除するために、一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、非水系溶剤全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、例えば、90質量%以上であってもよく、さらに100質量%であってもよい。
【0051】
インクへの沸点が300℃未満の脂肪酸エステル系溶剤及び側鎖の数が3以下の脂肪酸エステル系溶剤の配合量は制限されることが好ましい。例えば、沸点が300℃未満の脂肪酸エステル系溶剤及び側鎖の数が3以下の脂肪酸エステル系溶剤の配合量の合計は、インク全量に対し、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が一層好ましい。これによって、印刷物を重ねる際の濃度ムラとともに臭気の発生をより防止することができる。
【0052】
また、石油系炭化水素溶剤は、インク全量に対し、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。石油系炭化水素溶剤の詳細は、後述する通りである。
石油系炭化水素溶剤がインク全量に対し50質量%以下、好ましくは48質量%以下、より好ましくは45質量%以下であることで、印刷装置の放置後にも吐出性能を改善することができる。例えば、インクジェット印刷装置内でインクを搬送するための樹脂製チューブ内で、チューブからインクに成分が溶け出すことを防止し、インクの変質によってチューブが詰まることを防止することができる。
さらに、石油系炭化水素溶剤は、インク全量に対し、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤は、樹脂を劣化させにくいため、石油系炭化水素の量を制限する場合に好ましく用いることができる。
【0053】
また、石油系炭化水素溶剤がインク全量に対し1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であることで、色材との親和性を高めて、分散安定性を向上させることができる。また、顔料と顔料分散剤を用いるインクでは、顔料と顔料分散剤との親和性をより高めて、分散安定性をより向上させることができる。
【0054】
インクには、その他の非水系溶剤が含まれてもよい。
その他の非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。なお、一実施形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0055】
非極性有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができる。市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンN-15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN-16、テクリーンN-20、テクリーンN-22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製);モレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも株式会社MORESCO製)等を好ましく挙げることができる。
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製)等を好ましく挙げることができる。
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが一層好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0056】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
脂肪酸エステル系溶剤としては、例えば、全体の炭素数が12以上、好ましくは16~30であって、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸ヘキシル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、大豆油メチル、トール油メチル等の直鎖アルキル基を有する溶剤;イソステアリン酸イソプロピル、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、オレイン酸イソプロピル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル(炭素数34)、大豆油イソブチル、トール油イソブチル等の側鎖の数が3以下の溶剤等が挙げられる。
【0057】
高級アルコール系溶剤としては、例えば、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤が挙げられる。
高級脂肪酸系溶剤としては、例えば、ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0058】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(1)で表される脂肪酸エステル系溶剤の他に、その他の非水系溶剤を用いる場合は、高沸点溶剤を用いることが好ましい。高沸点溶剤としては、蒸留初留点が200℃以上である非極性溶剤、沸点が250℃以上の極性溶剤、またはこれらの組み合わせを用いることが好ましい。
【0059】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。
【0060】
インクは、色材及び非水系溶剤を含む各成分を混合することで作製することができる。好ましくは、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより調製できる。
【0061】
油性インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、一層好ましい。
【0062】
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから一実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
一実施形態によるインクは、低粘性でインクジェットノズルからの吐出に適するため、常温(23℃)付近で適性に吐出することが可能である。
【0063】
一実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0064】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0065】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0067】
「脂肪酸エステルの合成」
脂肪酸エステルの処方を表1に示す。
表1に示す処方にしたがって、脂肪酸とアルコールを四つ口フラスコに入れて混合撹拌し均一な溶液を得た。四つ口フラスコにディーンスターク装置を装着し、仕込んだ原材料が反応して水が発生したら取り除けるようにした。均一な溶液が入っている四つ口フラスコにさらに触媒として硫酸を適量加え、系全体を加熱した。加熱温度は脂肪酸及びアルコールの種類に応じて80℃~230℃に設定した。加熱反応時間は1~48時間に設定した。反応後、未反応の原材料や不純物を取り除くため、得られた溶液を減圧蒸留し、脂肪酸エステルを得た。
脂肪酸とアルコールとは、モル比で1:1となるように混合した。
脂肪酸及びアルコールは、東京化成工業株式会社及びsasol社から入手することができる。
【0068】
【0069】
「インクの作製」
インクの処方を表2、表3に示す。脂肪酸エステルの1分子中の炭素数、R1及びR2の炭素数、側鎖数を各表にそれぞれ示す。
各表に示す配合量にしたがって、顔料、顔料分散剤、及び溶剤を混合し、ビーズミル「ダイノーミルKDL-A」(株式会社シンマルエンタープライゼス製)により滞留時間15分間の条件で、十分に顔料を分散した。続いて、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去し、インクを得た。
【0070】
用いた成分は、以下の通りである。
(顔料)
カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製「MA77」。
銅フタロシアニンブルー:DIC株式会社製「FASTOGEN Blue LA5380」。
(顔料分散剤)
ソルスパース13940:日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940」、有効成分40質量%。有効成分量を表中にカッコ内に示す。
ソルスパース18000:日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース18000」、有効成分100質量%。
(その他溶剤)
アルコール系溶剤「1-エイコサノール」:東京化成工業株式会社製。
炭化水素溶剤「エクソールD130」:エクソンモービル社製。
【0071】
「評価」
上記実施例及び比較例のインクについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を表2、表3に示す。
【0072】
(印刷物を重ねる際の濃度ムラ)
各インクを、インクジェットプリンタ「オルフィス EX9050」(理想科学工業株式会社製)に導入し、普通紙「理想用紙薄口A4」(理想科学工業株式会社製)に、主走査方向約51mm×副走査方向260mmのベタ画像を片面印刷し印刷物を2枚得た。印刷直後の印刷物に濃度ムラがないことを目視で確認した。
この印刷物を印刷面を表にし、印刷面を副走査方向に3cmずらして2枚重ねて実験机に置き、印刷部が重なる部分と重ならない部分を作った。室温で2時間放置した後に、上から1枚目の印刷物を剥がし、2枚目の印刷物を目視で観察した。
印刷物の濃度ムラは、上から1枚目の印刷物から2枚目の印刷物に溶剤が移り、2枚目の印刷物が溶剤で濡れ、濃度にムラやにじみができたように観察される。
S:2枚目の印刷物のムラ・にじみがわからない。
A:2枚目の印刷物のムラ・にじみがわずかにわかる程度。
B:2枚目の印刷物のムラ・にじみがはっきりわかる。
【0073】
(印刷物の臭気)
各インクを用いて、上記印刷物を重ねる際の濃度ムラの評価と同様にして、印刷物を得た。この印刷物をポリプロピレン(PP)製ポリ袋に入れ封をし、密閉状態で、室温で1か月放置した後に、ポリ袋の中の臭気を評価した。臭気の評価は、10人のパネルに印刷物を嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。評価結果は10人のパネルの評価結果を平均化したものである。
S:アルコール臭を全く感じない。
A:アルコール臭をわずかに感じる。
B:アルコール臭を強く感じる。
【0074】
(インク中の異物の有無)
透明PVCチューブ(内径φ3mm×外径φ5mm、アズワン株式会社製「8001-0305E」)3cmをガラス瓶(SV-50)に入れ、そこに15mlのインクを入れ、チューブ全体がインクで浸るようにした。この状態で、50℃環境下で2週間放置した。その後、2mlのインクをメンブレンフィルター(孔径2μm、メルクミリポア製「アイソポアメンブレンフィルター TTTP-02500)を用いてろ過した。ろ過後に残ったろ物から、インク中の異物量を確認した。
S:異物が全く確認されなかった。
A:異物があるものの、インクはすべて通過した。
B:異物が多量に存在し、ろ過途中で目詰まりした。
【0075】
特に詳述しないが、各実施例のインクを用いた印刷では、十分な画像濃度の印刷物を得ることができた。また、各実施例のインクの粘度も適正であった。
【0076】
【0077】
【0078】
表中に示す通り、各実施例のインクでは、印刷物を重ねる際の濃度ムラを防止し、印刷物の臭気を防止し、インク中に異物も発生しなかった。
実施例を通して、脂肪酸エステル系溶剤の1分子中の分子量がより大きく、R1及びR2の炭素数がより大きいほど、印刷物を重ねる際の濃度ムラを改善できることがわかる。
また、脂肪酸エステル系溶剤のR1及びR2の側鎖の炭素数の合計が4以上、特に5以上であることで、印刷物の臭気をより防止できることがわかる。
【0079】
比較例1は、直鎖の脂肪酸エステル系溶剤を用いている例であり、脂肪酸エステル系溶剤が分解して、臭気の原因となった。
比較例2、3は、側鎖数が少ない脂肪酸エステル系溶剤を用いている例であり、脂肪酸エステル系溶剤が分解して、臭気の原因となった。
比較例4は、沸点が低い脂肪酸エステル系溶剤を用いている例であり、印刷物を重ねる際の濃度ムラが発生した。
比較例5は、炭化水素溶剤を用いている例であり、樹脂製チューブによってインクが変質し、インク中に異物が多数発生した。