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特許7090604びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後予測因子、及び予後予測方法
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  • 特許-びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後予測因子、及び予後予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後予測因子、及び予後予測方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20220617BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12N15/09 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019518738
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2018018165
(87)【国際公開番号】W WO2018212071
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017097943
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】土橋 映仁
(72)【発明者】
【氏名】竹内 賢吾
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】Blood, 2012, Vol.120, No.19, p.3986-3996
【文献】Hypertens. Res., 2010, Vol.33, No.5, p.511-514
【文献】Blood, 2017.12.07, Vol.130, No.Suppl 1, Article.1464 [online], [retrieved on 2018.07.18], Retrieved
【文献】Oncotarget. 2018.04.13, Vol.9, No.28, p.19555-19568
【文献】病理と臨床, 2015, Vol.33, No.5, p.512-516
【文献】日本臨牀, 2015, Vol.73, No.増刊号8, p.149-153
【文献】日本リンパ網内系学会会誌, 2017.05.30, Vol.57, p.87(O-4)
【文献】日本リンパ網内系学会会誌, 2017.05.30, Vol.57, p.97(P5-3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後予測検査方法であって、
TP53の変異を検出し、
一方のアリルにTP53の変異が、
他方のアリルに17p欠損が併存している場合に予後不良であるとすることを特徴とする検査方法。
【請求項2】
DLBCLの予後予測検査方法であって、
OSBPL10の変異を検出し、
OSBPL10の変異を有する場合に予後良好であるとする検査方法。
【請求項3】
DLBCLの予後予測検査方法であって、
請求項1及び2記載の検査方法によって予後予測することを特徴とする予後予測検査方法。
【請求項4】
DLBCLの予後を予測するための検査キットであって、
TP53の変異及び17p欠損を検出するための試薬、並びに/又はOSBPL10の変異を検出するための検出試薬を含む検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse large B-cell Lymphoma、以下DLBCLと記載する。)の予後予測因子、及び予後予測を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DLBCLは、リンパ腫の1種であり、B細胞から発生する非ホジキンリンパ腫である。我が国の非ホジキンリンパ腫のうち30~50%はDLBCLであると言われており最も頻度の高いリンパ腫である。DLBCLとしての初発例以外に、他の低悪性度B細胞リンパ腫から組織学的進展する例もあり、様々な病態を示す疾患群である。
【0003】
DLBCLは、形態学的、分子生物学的、免疫組織学的に不均一な集団であり、種々のバリアント、あるいはサブグループに分類される。2004年、Hansのクライテリアと呼ばれる胚中心B細胞(germinal center B-cell、GCB)とnon-GC(CD10、BCL-6、MUM-1の発現により分類)サブタイプの2群への分類が提唱された(非特許文献1)。その後、WHOのDLBCLの分類では、幾度かの変遷を経て、2016年にGCBと活性化B細胞(activated B-cell、ABC)のサブタイプの2群に分類するようになった(非特許文献2)。
【0004】
DLBCLの治療は、現在CHOP療法(シクロホスファミド、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、オンコビン(商品名)(ビンクリスチン)、プレドニゾロン)に抗CD20抗体であるリツキシマブを加えたR-CHOPが標準療法となっている。DLBCLはR-CHOP療法の導入により飛躍的に予後が改善されたが、一方でR-CHOP療法の効かない患者群が存在する。WHOの分類も患者の予後とは対応しておらず、分類はされてはいるものの治療の層別化は行われていないのが現状である。
【0005】
免疫組織学的な解析や、全ゲノムシーケンス、全エクソームシーケンス、トランスクリプトームシーケンスなどの解析手法を用いてDLBCLの変異が解析されているが(非特許文献3-7)、これら解析間で体細胞変異が一致しているものは10-20%に過ぎない(非特許文献8)。すなわち、DLBCLは、体細胞変異の観点から見ても多様な疾患であることが示唆される。また、遺伝子変異を治療効果予測につなげようという試みもされているが、実用化には至っていない(特許文献1、2)。
【0006】
近年、変異とR-CHOP療法などの治療法と予後との関連が解析されている(非特許文献9-13)。215症例の再発、難治性のDLBCLについて、文献や全エクソーム解析より選択した34遺伝子を解析した報告によれば、TNFAIP3及びGNA13の変異が、ABC(活性化B細胞)に分類される患者においてR-CHOP療法の予後が悪いことと相関している(非特許文献9)。また、他の再発、難治症例の全エクソーム解析によれば、ABCサブタイプでは、TBL1XR1、IRF4の変異、REL、CDKN2A、HYAL2、及びTP53のコピー数に変異が生じていることが報告されている(非特許文献10)。さらに、他の38症例の難治性のDLBCLの全エクソーム解析によれば、TP53、FOXO1、KMT2C、CCND3、NFKB1Z、及びSTAT6の変異と治療抵抗性とが相関することが報告されている(非特許文献11)。また、TP53のミスセンス変異やコピー数の欠失、CD58の変異などが予後と相関することが報告されている(非特許文献12、13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2011-525106号公報
【文献】国際公開第2006/112483号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hans C.P., et al., 2004, Blood, Vol.103(1), pp.275-282.
【文献】Swerdlow S.H., et al., 2016, Blood. Vol.127(20), pp.2375-2390.
【文献】Morin R.D., et al., 2011, Nature, Vol.476(7360), pp.298-303.
【文献】Morin R.D., et al., 2013, Blood, Vol.122(7), pp1256-1265.
【文献】Zhang J., et al., 2013, Proc Natl Acad Sci U S A., Vol.110(4), pp.1398-1403.
【文献】Lohr J.G., et al., 2012, Proc Natl Acad Sci U S A., Vol.109(10), pp.3879-3884.
【文献】Pasqualucci L., et al., 2011, Nat Genet. Vol.43(9), pp.830-837.
【文献】Dobashi A., 2016, J Clin Exp Hematop. Vol.56(2), pp.71-78.
【文献】Dubois S., et al., 2016, Clin. Cancer Res., Vol.22(12), pp.2919-2928.
【文献】Mareschal S., et al., 2016, Genes Chromosomes Cancer, Vol.55(3), pp.251-267.
【文献】Morin R.D., et al., 2016, Clin. Cancer Res., Vol.22(9), pp.2290-2300.
【文献】Park H.Y., et al., 2016, Oncotarget, Vol.7(52), pp.86433-86445
【文献】Cao Y., et al., 2016, Oncotarget, Vol.7(50), pp.83294-83307.
【文献】Robinson J.T., et al., 2011, Nat. Biotechnol., Vol.29(1), pp.24-26.
【文献】Ng P.C, and Henikoff, S., 2003, Nucleic Acids Res. Vol.31(13), pp.3812-3814.
【文献】http://www.divat.fr/en/softwares/ipwsurvival
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、難治性のDLBCLと関連の高い遺伝子変異に関する報告は、数多くあるものの、変異の報告されている遺伝子が多岐にわたっており、再現性が必ずしも高くはない。そのため、遺伝子変異と治療抵抗性との関連が報告間で必ずしも一致しておらず、予後予測が十分になされているとは言えない。DLBCLに対してR-CHOP療法を行っても、治療効果がさほど期待できない患者を予め検出することができれば、代替する療法としてサルベージ療法を行うなど、患者に合わせてより良い長期治療計画を立てることが可能となる。効果のあまりない治療を継続することは、患者にとって望ましいことではないだけでなく、医療経済上も望ましいことではない。
【0010】
また、R-CHOP療法に対して反応性が高い患者を検出することも重要なことである。R-CHOP療法で用いられるドキソルビシンは心毒性があるため、過剰な治療を避ける必要があるからである。すなわち、DLBCLの予後不良、及び予後の良い患者の両方を検出することは、治療計画を立てるうえで重要なことである。本発明は、種々の病態を示す疾患群であるDLBCLを層別化し、DLBCLの予後因子、予後予測を検査する方法を提供し、有効な治療を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下に示すびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後予測の検査方法、予後予測因子、予後予測を行うための検査キットを提供する。
(1)DLBCLの予後予測検査方法であって、TP53及び/又はOSBPL10の変異を検出することを特徴とする検査方法。
(2)一方のアリルにTP53の変異が、他方のアリルに17p欠損が併存している場合に、予後不良であるとする(1)記載の検査方法。
(3)OSBPL10の変異を有する場合に、予後良好であるとする(1)記載の検査方法。
(4)DLBCLの予後予測因子であって、一方のアリルにTP53の変異が存在し、他方のアリルの17p欠損が併存していること、及び/又はOSBPL10の変異であることを特徴とする予後予測因子。
(5)(4)記載のDLBCLの予後予測因子を検出するための検出試薬を含む検出キット。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Dp群(予後が極端に悪い症例、poor prognosis case in discovery cohort;Dp)、Dg群(予後が良い症例(3年間無増悪生存)、good prognosis case in discovery cohort;Dg)における変異の数を示す図。
図2図2Aは探索群におけるTP53、OSBPL10の変異の位置や種類を示す図。図2Bは検証群におけるTP53、OSBPL10の変異の位置や種類を示す図。
図3】TP53、OSBPL10の変異と全生存期間(Overall survival、OS)、無増悪生存期間(Progression free survival、PFS)との関係を示す図。図3AはTP53の変異の検証群における全生存期間及び無増悪生存期間を示す。TP53D:TP53欠損、TP53M:TP53変異、TP53W:TP53野生型、TP53M+D:TP53変異かつ欠損。図3BはOSBPL10の変異と検証群における全生存期間及び無増悪生存期間を示す。OSBPL10W:OSBPL10野生型、OSBPL10M:OSBPL10変異。
図4】傾向スコア解析(IPW)によるTP53、OSBPL10の変異と全生存期間、無増悪生存期間との関係を示す図。図4AはTP53の変異と全生存期間及び無増悪生存期間を示す。TP53 wt:TP53野生型、TP53 mut with del:TP53変異かつ欠損を示す。図4Bは、OSBPL10の変異と全生存期間及び無増悪生存期間を示す。OSBPL10 mut:OSBPL10変異、OSBPL10 wt:OSBPL10野生型を示す。
図5図5Aは、TP53の変異かつ欠損とOSBPL10の変異を組み合わせ、検証群における全生存期間を示す。TP53M+D:TP53変異かつ欠損、WT:TP53、OSBPL10ともに野生型、OSBPL10M:OSBPL10変異。図5Bは、検証群における国際予後指標(International Prognostic Index、IPI)による全生存期間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、変異を解析するために全エクソームシーケンスを行ったが、DLBCLの予後と相関の見られる遺伝子である17番染色体短腕(17p)の欠損(17p欠損)を伴うTP53の変異、OSBPL10の変異を検出することができればどのような手法を用いてもよい。
【0014】
以下で詳細に説明するが、TP53の変異は、DNA結合領域に変異が集中している。したがって、DNA結合領域の変異の解析を行うことにより検出してもよいが、変異がコーディング領域全域にわたっていることから、コーディング領域全域のシーケンスを行うことが好ましい。OSBPL10の変異はエクソン1に偏在しているため、この領域のみをシーケンス解析すればよい。
【0015】
ここで、TP53の変異とは、ミスセンス変異、フレームシフト変異などp53タンパク質の機能が変わるような変異をさす。また、17p欠損とは、TP53遺伝子の存在する領域を含む17番染色体短腕が広範囲に欠失している状態を示す。後述のように、DLBCLでは、片方のアリルのTP53遺伝子にp53タンパク質の機能が変わる変異が存在し、他方のアリルの17番染色体短腕が広範囲に欠失している場合に、予後不良であることが明らかとなった。
【0016】
TP53の変異は、次世代シーケンサを用いてコーディング領域全域を対象としたアンプリコンシーケンス、ターゲットキャプチャーシーケンスをすることで検出することが可能である。また、簡易的には、TP53のコーディング領域のうち、DNA結合領域に変異が集中していること(図2)から、この領域のダイレクトシーケンスにより、変異の検出が可能である。OSBPL10の変異も同様に、アンプリコンシーケンス、ターゲットキャプチャーシーケンスをすることで検出することが可能であり、さらに、エクソン1に偏在していることから、この領域のダイレクトシーケンスのみでも検出が可能である。また、17番染色体の短腕の欠損は、17番染色体の短腕に存在する一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)のターゲットキャプチャーシーケンス、comparative genomic hybridization(CGH)、リアルタイムPCR法、Fuluorescence in situ hybridization(FISH)などの方法を用いて検出することが可能である。
【0017】
2006年以降に、がん研有明病院で治療を行い、インフォームドコンセントが得られた患者の中から、標準療法であるR-CHOPまたは、それに類似した治療に対して転帰が極端な2群(R-CHOP抵抗性症例9例、反応性症例26例)を探索群(discovery cohort)とし、85例の検証群(validation cohort)で確認した。
【0018】
解析対象とする患者は、凍結組織が存在する、あるいは凍結組織か新鮮材料から抽出したDNAが得られることを選択基準とした。35のDLBCL症例(2006年1月~2011年12月に診断)を探索群として、85症例(2012年1月~2014年12月に診断)を検証群としてした。
【0019】
探索群におけるR-CHOP抵抗性症例9例は、初期治療(R-CHOPまたは、それに類似した治療)に対して不変、あるいは進行性であり、予後が極端に悪い症例(poor prognosis case in discovery cohort、以下、Dpと記載する。)である。反応性症例26例は、初期治療に反応し、2016年11月までの観察期間において少なくとも3年間無増悪生存であった症例(good prognosis case in discovery cohort、以下、Dgと記載する。)である。探索群のうち33症例では、リンパ腫が浸潤していない骨髄試料を正常試料として解析を行った。また、骨髄試料が得られなかったDg24、Dg25症例は、末梢血から得たDNAを正常試料として解析を行った。また、検証群85症例もR-CHOPまたは、それに類似した治療を受けた症例である。すべての症例は、通常の組織学的検査を行った後、病理学者によって2008年のWHO分類により分類を行った。
【0020】
遺伝子変異は、SureSelect XT Human All Exon V5(アジレント・テクノロジー株式会社)に基づいた特別仕様のキャプチャープローブセットを用いて、35の探索群のがん部及び正常組織について全エクソームシーケンスを行った。ライブラリーはSureSelect Target Enrichiment kit(アジレント・テクノロジー株式会社)を用い、次世代シーケンサHiSeq(イルミナ株式会社)を用いて行った。解析したがん組織におけるがん細胞の含有率は平均56.4%(30.98-89.16%)と推測された。
【0021】
予後の良い群(Dg群)と悪い群(Dp群)における検出された体細胞変異の数を示す(図1)。Dg群、Dp群の2群間で最も変異の出現頻度に差が見られるのは、TP53であり、次にOSBPL10、CTBP2に差が認められる(図1中、両群で出現頻度に差が見られるTP53、OSBPL10、CTBP2を↓で示す。)。
【0022】
Integrative Genomics Viewer(IGV、非特許文献14)を用いて結果を検討し、偽陽性と考えられる変異を除き解析を行った。例えば、CTBP2の変異は、がん組織、正常組織両者に同じ変異が多数見られたことからリファレンスゲノムへのマッピングの誤りであると考えられた。したがって、TP53、及びOSBPL10(図1中★印で示す。)をDg群、Dp群の2群を区別することのできる変異であると結論づけ、TP53、OSBPL10の変異について詳細に検討を行った。
【0023】
TP53、OSBPL10の変異がDLBCLの予後と相関しているとの結果が探索群で得られたことから検証群を用いてさらに解析を進めた。探索群でDLBCLの予後と相関が見出された変異(TP53、及びOSBPL10)については、サンガーシーケンスによって確認を行った。シーケンスに用いたプライマーを以下に示す。
【0024】
OSBPL10
F:ATCACTGGGTTCGCTGAAGG(配列番号1)
R:CATTTCCCGGGGATTTGGAG(配列番号2)
TP53
F1:AGAGGAGCTGGTGTTGTTGG(配列番号3)
R1:TTGGGAGTAGATGGAGCCTG(配列番号4)
F2:GCCAGAGAAAAGAAAACTGAGTG(配列番号5)
R2:CCCCATGAGATGTGCAAAGT(配列番号6)
F3:ATTTACTTTGCACATCTCATGGG(配列番号7)
R3:CACTTGTGCCCTGACTTTCA(配列番号8)
なお、Fはフォワードプライマーを、Rはリバースプライマーを示し、TP53のシーケンスは、1~3の3組のプライマーを用いて行った。
【0025】
検証群については、TruSeq Custom Amplicon Low Input Kit(イルミナ社)を用いてアンプリコンシーケンス解析を行った。なお、解析した領域は、探索群でDLBCLの予後と相関が見られたTP53の全コーディング領域、及びOSBPL10のエクソン1の領域である。解析は次世代シーケンサMiSeq(イルミナ株式会社)を用いて行った。
【0026】
まず、TP53、OSBPL10に、どのような変異が生じているか解析した。探索群(図2A)、検証群(図2B)に、TP53、OSBPL10の変異の位置や種類を示す。TP53の変異は、コーディング領域全体にわたっているものの、主としてDNA結合領域に見られることが明らかとなった。また、OSBPL10の変異はエクソン1でコードされる領域に偏在していた。
【0027】
まず、TP53の変異について解析すると、Dp群においてTP53に変異が見られた5人の患者全てにおいて17番染色体短腕に欠損が見られたのに対し(TP53 missence mutation+17p deletion:3人、TP53 frameshift indel+17p deletion:2人)、Dg群ではそのような欠損が見られたのは1人の患者のみ(TP53 missence mutation+17p deletion:1人)であった。Dg群では、17p欠損を有する患者は6人、TP53変異が見られた患者は3人いたが、17p欠損を伴いTP53変異を有していた患者は1人のみで、TP53変異が見られた他の2人の患者は17p欠損を伴っていなかった。
【0028】
検証群において、TP53の変異と予後について検討すると、TP53変異のみ12例、欠損のみ7例の各群は、ともに陰性60例の群と比較し、全生存期間、無増悪生存期間とも差は認められなかった。これに対し、TP53の変異かつ欠損がある症例群6例は、全生存期間(p=0.0016)、無増悪生存期間(p=0.023)ともに、有意に予後不良であった(図3A)。
【0029】
したがって、TP53の変異かつ欠損は、DLBCLにおける予後不良因子であると結論づけた。また、表1は、検証群におけるTP53の変異かつ欠損を有するDLBCL患者群と、TP53が野生型、あるいはTP53変異、欠損のどちらかを単独で有している患者群との比較を示したものである。TP53の変異かつ欠損を有する患者群は、ECOG-PS(全身状態、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)が定めるPerformance status)が有意に悪かった(p<0.01)。
【0030】
【表1】
【0031】
次に、OSBPL10の変異について解析を行った(表2)。OSBPL10の変異を有しているものは、検証群において、全生存期間(p=0.037)、無増悪生存期間(p=0.041)と有意に予後良好であった(図3B)。また、OSBPL10に変異を有する検証群21人の患者のLDH(lactate dehydrogenase、乳酸脱水素酵素)値は有意に低かった(p=0.04)。LDH値は、IPI(国際予後指標)において予後因子の一つとして用いられている指標である。
【0032】
【表2】
【0033】
IPIの影響を除くために、傾向スコア解析(Inverse Probability Weighting法)を行った。解析は、R version 3.3.2(非特許文献15)及びIPW survival package(非特許文献16)を用いて行った(図4)。
【0034】
IPW法を適用しても、17p欠損を伴うTP53変異は、有意に全生存率(p<0.01)、無増悪生存期間(p<0.01)ともに予後不良であった(図4A)。OSBPL10の変異に関しては、IPW法を適用した後は、変異を有する群は、全生存率(p=0.05)、無増悪生存期間(p=0.05)ともに、予後が良い傾向が見られた(図4B)。
【0035】
一般的にDLBCLの予後の指標として用いられているIPIと本発明の方法との比較を行った。IPIは、年齢、臨床病期、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)、PS(全身状態、ECOG-PS)、リンパ節以外の病変(Extranodal lesion)の予後因子から算出される値を示す。図5Bに検証群におけるIPIの分類による全生存期間を示す。
【0036】
これに対し、本発明の方法による予後予測方法(TP53の変異かつ欠損とOSBPL10の変異を組み合わせたGenomic Prognostic Index:GPI)による予後を検証群にて確認した(図5A)。IPIとGPIを比較すると、GPIは非常に精度良くDLBCLの予後を予測可能であった(p=0.0034)。
【0037】
以上、示したように、極端な転帰を示した2群の全エクソームシーケンス解析より、予後を予測し得る因子として、17番の染色体短腕の欠損を伴うTP53変異、OSBPL10の変異を見出し、検証群にて確認した。これら変異を予後予測因子として用いることによって、DLBCLの予後を予測が可能となり、DLBCL患者に対して長期の治療計画を立てることができるようになった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
0007090604000001.app