IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

特許7090626重合触媒組成物、重合体の製造方法、重合体、ゴム組成物およびタイヤ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】重合触媒組成物、重合体の製造方法、重合体、ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/70 20060101AFI20220617BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20220617BHJP
   B60C 1/00 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
C08F4/70
C08F4/80
B60C1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019539548
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031831
(87)【国際公開番号】W WO2019044855
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017169573
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】高野 重永
(72)【発明者】
【氏名】会田 昭二郎
(72)【発明者】
【氏名】小坂田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大介
(72)【発明者】
【氏名】山川 進二
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-055915(JP,A)
【文献】特表2006-503141(JP,A)
【文献】特開平10-237131(JP,A)
【文献】特開平07-062152(JP,A)
【文献】SIEK Sopheavy et al.,Iridium and Ruthenium Complexes of N-Heterocyclic Carbene- and Pyridinol-Derived Chelates as Catalys,ORGANOMETALLICS,vol.36,2017年03月03日,pp.1091-1106
【文献】Eder Tomas-Mendivil et al.,Palladium(II) complexes with symmetrical dihydroxy-2,2'-bipyridine ligands: Exploring their inter- and intramolecular interactions in solid-state,Polyhedron,2013年05月03日,Vol. 59,p. 69-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/70
C08F 4/80
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式Iで表される化合物(式中、当該化合物は、ビピリジル環の3~6位および3’~6’位のうち、少なくとも1つにOH基を有し、Mは、遷移金属、ランタノイド、スカンジウムまたはイットリウムであり、RおよびRは、炭素数1以上の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RおよびRは、互いに同一または異なっていてもよい。)を含み、
【化1】
以下の構造式IIの化合物:
YR 式II
(式中、Yは、周期表の第1族、第2族、第12族および第13族から選択される金属であり、R およびR は、水素原子または置換もしくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、R は、置換または非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、R 、R およびR は、それぞれ互いに同一または異なっていてもよく、a、bおよびcは独立して0または1であり;ただし、Yが前記第1族から選択される金属である場合には、aは1でありかつbおよびcは0であり;Yが前記第2族および第12族から選択される金属である場合には、aおよびbは1でありかつcは0であり;Yが前記第13族から選択される金属である場合には、a、bおよびcは1である。)
をさらに含む、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合するための触媒組成物。
【請求項2】
アルミノキサンをさらに含む、請求項に記載の触媒組成物。
【請求項3】
イオン性化合物およびハロゲン化合物から選択される1種以上の化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
構造式I中のMが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)または銅(Cu)である、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項5】
構造式I中のRおよびRが、ハロゲン原子である、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記構造式Iで表される化合物が、構造式Iのビピリジル環の3~6位のいずれかの位置にOH基を1つ有し、かつ、3’~6’位のいずれかの位置にOH基を1つ有する、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の触媒組成物を用いた、重合体の製造方法であって、
前記触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合する工程を含む、重合体の製造方法。
【請求項8】
前記共役ジエン化合物が、ブタジエンであり、前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、エチレンおよびノルボルネンからなる群より選択される1種以上である、請求項に記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合触媒組成物、重合体の製造方法、重合体、ゴム組成物およびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
チーグラー・ナッタ触媒に代表される触媒系を用いた配位アニオン重合では、オレフィンやジエンの単独重合が可能であることがよく知られている。しかしながら、このような触媒系では、オレフィンとジエンとを効率良く共重合させることは困難であった。例えば、特許文献1には、エチレンとブタジエンとの共重合についての記載があるものの、特許文献1に記載の方法では、得られる重合体が限定的な構造を有する、触媒活性が低い、あるいは、生成する重合体の分子量が低いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2006-503141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、例えば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合するにあたり、重合活性の高い、触媒組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合可能な、重合体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該重合体の製造方法により製造された、重合体を提供することを目的とする。また、本発明は、当該重合体を含む、ゴム組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該ゴム組成物を用いた、タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る触媒組成物は、以下の構造式Iで表される化合物(式中、当該化合物は、ビピリジル環の3~6位および3’~6’位のうち、少なくとも1つにOH基を有し、Mは、遷移金属、ランタノイド、スカンジウムまたはイットリウムであり、RおよびRは、炭素数1以上の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RおよびRは、互いに同一または異なっていてもよい。)を含む、触媒組成物である。
【化1】
本発明に係る触媒組成物によれば、共役ジエン化合物の重合体、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合体および共役ジエン化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物との共重合体から選択される1種以上を製造するにあたり、重合活性が高い。
【0006】
本発明に係る重合体の製造方法は、上記いずれかの触媒組成物を用いた、重合体の製造方法であって、前記触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合する工程を含む、重合体の製造方法である。
本発明に係る重合体の製造方法によれば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合可能である。
【0007】
本発明に係る重合体は、上記いずれかの重合体の製造方法により製造された、重合体である。
本発明に係る重合体によれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、上記重合体を含む、ゴム組成物である。
本発明に係るゴム組成物によれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。
【0009】
本発明に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いた、タイヤである。
本発明に係るタイヤによれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合するにあたり、重合活性の高い、触媒組成物を提供することができる。また、本発明によれば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合可能な、重合体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該重合体の製造方法により製造された、重合体を提供することができる。また、本発明によれば、当該重合体を含む、ゴム組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該ゴム組成物を用いた、タイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0012】
本発明では、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0013】
(触媒組成物)
本発明に係る触媒組成物は、以下の構造式Iで表される化合物(式中、当該化合物は、ビピリジル環の3~6位および3’~6’位のうち、少なくとも1つにOH基を有し、Mは、遷移金属、ランタノイド、スカンジウムまたはイットリウムであり、RおよびRは、炭素数1以上の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RおよびRは、それぞれ互いに同一または異なっていてもよい。)を含む、触媒組成物である。
【化2】
構造式Iで表される化合物中、ビピリジル環上の2つのN原子は、Mに配位している。すなわち、少なくとも1つのOH基を有するビピリジル環が配位子である。ビピリジル環上に少なくとも1つのOH基を有することにより、重合活性が高まる。構造式Iで表される化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
<構造式Iで表される化合物>
構造式Iで表される化合物は、重合反応の触媒として作用する。構造式Iで表される化合物は、ビピリジル環の3~6位および3’~6’位のうち、少なくとも1つにOH基を有する。OH基の数は、重合活性の観点から、2個が好ましい。
【0015】
構造式Iで表される化合物が、OH基を2個有する場合、OH基の位置は、特に限定されないが、例えば、以下の式I-1(3,3’位)、式I-2(4,4’位)、式I-3(5,5’位)および式I-4(6,6’位)などのように左右対称でもよいし、以下の式I-5(5,6’位)および式I-6(4,6’位)などのように左右非対称でもよい。
【化3】
【0016】
一実施形態では、前記構造式Iで表される化合物は、構造式Iのビピリジル環の3~6位のいずれかの位置にOH基を1つ有し、かつ、3’~6’位のいずれかの位置にOH基を1つ有する。
【0017】
構造式I中、Mは、遷移金属、ランタノイド、スカンジウムまたはイットリウムである。遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)などが挙げられる。
【0018】
本発明に係る触媒組成物は、構造式I中のMが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)または銅(Cu)であることが好ましい。これにより、重合活性がより高まる。
【0019】
構造式I中、RおよびRは、炭素数1以上の炭化水素基またはハロゲン原子であり、RおよびRは、互いに同一または異なっていてもよい。
【0020】
およびRの炭化水素基としては、例えば、メチル基、イソプロピル基など、例えば、炭素数1~4の炭化水素基が挙げられる。
【0021】
およびRのハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0022】
本発明に係る触媒組成物は、構造式I中のRおよびRが、ハロゲン原子であることが好ましい。これにより、重合活性がより高まる。
【0023】
構造式Iで表される化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシビピリジル(以下、単に「DHBP」ということがある)CoCl、(DHBP)PdClおよび(DHBP)NiBrなどが挙げられる。
【化4】
【0024】
本発明に係る触媒組成物における前記構造式Iで表される化合物の量は、触媒作用を発揮し得る有効量であれば特に限定されず、適宜調節することができる。
【0025】
前記構造式Iで表される化合物の合成方法は、特に限定されず、例えば、(DHBP)CoClの場合、以下のスキームに示すように、DHBP(すなわち、6,6’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)を、THFなどの溶媒中で、CoClと反応させ、ろ過、洗浄および乾燥を行うことにより、(DHBP)COClを緑青色固体として得ることができる。
【化5】
【0026】
<助触媒>
本発明に係る触媒組成物は、上記構造式Iで表される化合物に加えて、任意に、助触媒を含んでいてもよい。助触媒としては、例えば、後述する構造式IIの化合物、アルミノキサン、イオン性化合物およびハロゲン化合物などが挙げられる。助触媒は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明に係る触媒組成物は、以下の構造式IIの化合物をさらに含むことが好ましい。
YR 式II
(式中、Yは、周期表の第1族、第2族、第12族および第13族から選択される金属であり、RおよびRは、水素原子または置換もしくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、Rは、置換または非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、R、RおよびRは、それぞれ互いに同一または異なっていてもよく、a、bおよびcは独立して0または1であり;ただし、Yが前記第1族から選択される金属である場合には、aは1でありかつbおよびcは0であり;Yが前記第2族および第12族から選択される金属である場合には、aおよびbは1でありかつcは0であり;Yが前記第13族から選択される金属である場合には、a、bおよびcは1である。)
これにより、重合活性がより高まる。構造式IIの化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
構造式IIの化合物中のYは、一実施形態では、第13族の金属であり、別の実施形態では、Yは、ホウ素またはアルミニウムである。式Iの化合物のYは、さらに別の実施形態では、第1族の金属であり、別の実施形態では、Yは、リチウムである。
【0029】
構造式IIの化合物中のR、RおよびRの炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、フェニル基などが挙げられる。
【0030】
構造式IIの化合物中のR、RおよびRの炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基は置換基で置換されていてもよく、その置換基としては、例えば、直鎖または分岐のアルキル基(例えば、メチル基、tert-ブチル基)、ハロゲン(例えば、フッ素)などが挙げられる。
【0031】
構造式IIの化合物としては、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、リチウム2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)メチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどが挙げられる。これらのうち、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、リチウム2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)メチルアルミニウムが好ましい。
【0032】
本発明に係る触媒組成物に構造式IIの化合物を用いる場合、構造式IIの化合物と、前記構造式Iで表される化合物のMとのモルの比率(構造式IIの化合物/M)は、好適な実施形態では、2以上、5以上、10以上、または20以上であり、10,000以下、5,000以下、1,000以下、300以下、250以下、または100以下である。
【0033】
本発明に係る触媒組成物は、アルミノキサンをさらに含むことが好ましい。これにより、重合活性種を効率よく発生させることができる。アルミノキサンは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
アルミノキサンは、有機アルミニウム化合物と、水などの縮合剤とを接触させることによって得られる化合物である。アルミノキサンとしては、例えば、一般式:(-Al(R’)O-)で表される繰り返し単位を有する、鎖状アルミノキサンまたは環状アルミノキサンを挙げることができる(式中、R’は炭素数1~10の炭化水素基であり、一部の炭化水素基はハロゲン原子および/またはアルコキシ基で置換されていてもよく、繰り返し単位の重合度は、一実施形態では5以上であり、別の実施形態では10以上である)。
【0035】
R’として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基などが挙げられる。一実施形態では、R’は、メチル基である。
【0036】
また、アルミノキサンの原料として用いられる有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムおよびその混合物などが挙げられる。一実施形態では、有機アルミニウム化合物は、トリメチルアルミニウムである。
【0037】
また、アルミノキサンは市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、東ソー・ファインケム社製のMMAOおよびTMAOなどを挙げることができる。
【0038】
本発明に係る触媒組成物にアルミノキサンを用いる場合、アルミノキサン中のAlと、前記構造式Iで表される化合物のMとのモルの比率(Al/M)は、例えば、1~10,000であり、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、50以上がさらに好ましく、80以上が特に好ましく、5,000以下が好ましく、1,000以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。
【0039】
本発明に係る触媒組成物は、イオン性化合物およびハロゲン化合物から選択される1種以上の化合物をさらに含むことが好ましい。これにより、生成する重合体に含まれる不純物の割合を減少させることができる。
【0040】
イオン性化合物としては、例えば、特開2014-019729号公報に記載のN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、およびトリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。イオン性化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明に係る触媒組成物にイオン性化合物を用いる場合、イオン性化合物と、前記構造式Iで表される化合物のMとのモルの比率(イオン性化合物/M)は、好適な実施形態では、0.1以上、0.5以上、または1以上であり、10,000以下、5,000以下、1,000以下、または100以下である。
【0042】
ハロゲン化合物としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、セスキエチルアルミニウムクロリドなどの有機金属ハロゲン化合物が挙げられる。ハロゲン化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明に係る触媒組成物にハロゲン化合物を用いる場合、ハロゲン化合物と、前記構造式Iで表される化合物のMとのモルの比率(ハロゲン化合物/M)は、好適な実施形態では、0.1以上、0.5以上、1以上、10以上、または20以上であり、10,000以下、5,000以下、1,000以下、500以下、300以下、または100以下である。
【0044】
(重合体の製造方法)
本発明に係る重合体の製造方法は、上記いずれかの触媒組成物を用いた、重合体の製造方法であって、前記触媒組成物の存在下、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合する工程(以下、単に重合工程ということがある)を含む、重合体の製造方法である。
【0045】
<共役ジエン化合物>
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン(1,3-ブタジエン)、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエンなどが挙げられる。共役ジエン化合物は、置換されていてもよいし、非置換であってもよい。一実施形態では、共役ジエン化合物の炭素数は、4~8である。共役ジエン化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
一実施形態では、共役ジエン化合物は、1,3-ブタジエンおよびイソプレンからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、共役ジエン化合物は、1,3-ブタジエンのみである。
【0047】
<エチレン性不飽和二重結合を有する化合物>
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、非共役オレフィン、芳香族ビニル化合物などが挙げられる。エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、置換されていてもよいし、非置換であってもよい。エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
非共役オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンなどの非環状の非共役オレフィンおよびノルボルネン、5-ノルボルネン-2-メタノール、5-ノルボルネン-2-メチルアセテートなどの環状の非共役オレフィンなどが挙げられる。一実施形態では、非共役オレフィンの炭素数は、2~10である。非共役オレフィンは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
一実施形態では、非共役オレフィンは、非環状の非共役オレフィン、すなわち、直鎖の非共役オレフィンおよび分岐の非共役オレフィンと、環状の非共役オレフィンとから選択される1種以上である。別の実施形態では、非共役オレフィンは、α-オレフィンである。α-オレフィンはオレフィンのα位に二重結合を有するため、共役ジエン化合物との共重合を効率よく行うことができる。
【0050】
一実施形態では、非共役オレフィンは、エチレン、プロピレン、1-ブテンおよびノルボルネンからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、非共役オレフィンは、エチレンのみである。別の実施形態では、非共役オレフィンは、ノルボルネンのみである。
【0051】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、アルキルスチレン、ハロゲン化アルキルスチレンなどが挙げられる。芳香族ビニル化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
アルキルスチレンのアルキル基の炭素数は、例えば、1~5個である。アルキルスチレンとしては、例えば、4-メチルスチレン、3-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンなどが挙げられる。
【0053】
ハロゲン化アルキルスチレンのアルキル基の炭素数は、例えば、1~5個である。ハロゲン化アルキルスチレンのハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。ハロゲン化アルキルスチレンとしては、例えば、4-クロロメチルスチレン、3-クロロメチルスチレンなどが挙げられる。
【0054】
一実施形態では、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、エチレン、ノルボルネンおよび5-ノルボルネン-2-メタノールからなる群より選択される1種以上である。
【0055】
本発明に係る重合体の製造方法は、上記前記共役ジエン化合物が、ブタジエンであり、前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、エチレンおよびノルボルネンからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。このような化合物の重合でも重合活性が高く、重合体を製造しやすい。
【0056】
一実施形態では、重合工程における、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上(以下、これらをまとめてモノマーということがある)は、共役ジエン化合物のみである。別の実施形態では、モノマーは、共役ジエン化合物と環状オレフィンである。さらに別の実施形態では、モノマーは、共役ジエン化合物とOH基含有環状オレフィン(例えば、5-ノルボルネン-2-メタノール)である。
【0057】
重合工程における、モノマーと、上記構造式Iで表される化合物中のMとのモルの比率(モノマー/M)は、適宜調節すればよいが、活性度、重合体の分子量を高めるおよび多分散度(Mw/Mn)を増大させる観点から、例えば、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、2000以上がさらに好ましい。
【0058】
重合方法としては、特に限定されず、例えば、配位重合、溶液重合(アニオン重合)などを用いることができる。また、連続重合、半連続式重合、バッチ重合など、従来公知のいずれの方法で重合を行ってもよい。
【0059】
上記重合工程では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、モノマーと触媒組成物以外に、重合溶媒、重合開始剤、重合停止剤、安定剤、伸展油、変性剤などを用いてもよい。重合溶媒としては、例えば、これらに限定されないが、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ブテンなどの炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0060】
重合温度は、特に限定されず、モノマーの種類、触媒の種類、所望のシス-1,4含量、数平均分子量、多分散度およびムーニー粘度などに応じて適宜設定すればよい。一実施形態では、重合温度は、例えば、-100~150℃とすることができる。
【0061】
重合工程は、窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0062】
(その他の工程)
本発明に係る重合体の製造方法では、上記重合工程以外に、ジエン系重合体などの製造で行われている従来公知の、原料および溶媒の精製工程;溶媒および未反応モノマーの回収工程;重合後の重合体の脱水工程、乾燥工程および包装工程;その他の工程のうち1以上を任意に含んでいてもよい。
【0063】
(重合体)
本発明に係る重合体は、上記いずれかの重合体の製造方法により製造された、重合体である。本発明に係る重合体によれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。
【0064】
重合体の分子量は特に限定されず、適宜調節すればよい。例えば、重合体の数平均分子量(Mn)は、10,000~100,000である。
【0065】
一実施形態では、重合体は、ポリブタジエン、合成ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン、エチレン-ブタジエン共重合体、ブタジエン-ノルボルネン共重合体、イソプレン-ノルボルネン共重合体、ブタジエン-5-ノルボルネン-2-メタノール共重合体およびブタジエン-5-ノルボルネン-2-メチルアセテート共重合体からなる群より選択される1種以上である。
【0066】
(ゴム組成物)
本発明に係るゴム組成物は、上記重合体を含む、ゴム組成物である。本発明に係るゴム組成物によれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。重合体は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明に係るゴム組成物には、上記重合体以外のゴム成分が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。このようなその他のゴム成分としては、公知のゴム成分から適宜選択すればよい。その他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、などが挙げられる。これらのその他のゴム成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
<その他の成分>
本発明に係るゴム組成物には、上記重合体および任意に含まれ得るその他のゴム成分の他、ゴム組成物に配合される公知の添加剤を適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、フィラー、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、オイルなどが挙げられる。これらは、それぞれ、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
本発明に係るゴム組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、上記重合体を含む各成分を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサーなどの混練り機を用いて混練りすることによって得られる。また、加硫促進剤と加硫剤以外の成分を非生成(ノンプロ)段階で混合し、その混合物に加硫促進剤と加硫剤を生成(プロ)段階で配合および混合してゴム組成物を調製してもよい。
【0070】
(ゴム製品)
本発明に係るゴム組成物を用いて得られるゴム製品としては、特に限定されないが、例えば、タイヤ、コンベヤベルト、防振ゴム、免震ゴム、ゴムクローラ、ホース、発泡体などが挙げられる。
【0071】
本発明に係るゴム組成物を用いてゴム製品を得る方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ゴム組成物を架橋ないし加硫する条件としては、適宜調節すればよく、例えば、温度120~200℃、加温時間1分間~900分間とすればよい。
【0072】
(タイヤ)
本発明に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いた、タイヤである。本発明に係るタイヤによれば、ウェット性、低ロス性および耐衝撃性に優れる。本発明のゴム組成物のタイヤにおける適用部位としては、特に限定されないが、例えば、トレッドゴム、ベーストレッドゴム、サイドウォールゴム、サイド補強ゴムおよびビードフィラーなどが挙げられる。
【0073】
タイヤを製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0075】
実施例で用いた材料の詳細は以下のとおりである。
6、6’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン(DHBP):東京化成工業社製
2,2’-ビピリジン(bpy):東京化成工業社製
6、6’-ジメトキシ-2,2’-ビピリジン(DMBP):C.J.Liらの報告(J.Am.Chem.Soc.2016,138,5433-5440)を参考に合成した
塩化コバルト(CoCl):関東化学社製
臭化ニッケル(NiBr):東京化成工業社製
ジエチルアルミニウムクロリド(ハロゲン化合物、以下、DEACと表記):東京化成工業社製
トリイソブチルアルミニウム(構造式IIの化合物、以下、TIBAと表記):和光純薬工業社製
トリメチルアルミニウム(構造式IIの化合物、以下、MeAlと表記):シグマアルドリッチ社製
水素化ジイソブチルアルミニウム(構造式IIの化合物、以下、DIBALと表記):東京化成工業社製
ポリメチルアルミノキサン(アルミノキサン、以下、TMAOと表記):東ソー・ファインケム社製、TMAO-211
【0076】
実施例において、DMBP、(DMBP)CoCl、bpy、(bpy)CoClおよび(bpy)NiBrは、それぞれ、以下の構造を指す。
【化6】
【0077】
表1~7中、各略号の名称および各略記の内容は次のとおりである。
BD:ブタジエン
ET:エチレン
MeOH:メタノール
NB:ノルボルネン
IP:イソプレン
NBM:5-ノルボルネン-2-メタノール
NBMA:5-ノルボルネン-2-メチルアセテート
(CB:トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン
Ph(C:トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
1,4-cis:1,4-シス結合含有量
1,4-trans:1,4-トランス結合含有量
1,2:1,2-ビニル結合含有量
【0078】
実施例において、活性度(g/mmol(M)時)は、単位時間当たりの構造式Iで表される化合物または比較化合物1mmol当たりの、得られた重合体の質量(g)を指す。また、活性度(g/mmol(M)時 atm)は、エチレン1atmあたりかつ単位時間当たりの構造式Iで表される化合物または比較化合物1mmol当たりの、得られた重合体の質量(g)を指す。
【0079】
実施例において、重合体のミクロ構造は、H-NMRスペクトル(1,2-ビニル結合の結合含有量)および13C-NMRスペクトル(1,4-シス結合と1,4-トランス-結合の含有量比)の積分比などから求めた。
【0080】
実施例において、重合体の数平均分子量Mnと、多分散度Mw/Mnは、単分散ポリスチレンを基準として、溶離液としてTHFを用いて、測定温度40℃において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー社製HLC-8220GPC/HT、カラム:東ソー社製GMHHR-H(S)HT×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]を用いて求めた。
【0081】
実施例の表中、収量と収率は、別段の記載がない限り、メタノール不溶部に基づく。N.D.は、未決定not determinedを表す。
【0082】
表5において、ブタジエンおよびノルボルネンの転化率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ5.1-5.2(ブタジエンモノマーのビニルユニットの=CH)、6.0(ノルボルネンモノマーのビニルユニットの-CH=)、6.4(ブタジエンモノマーのビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。得られた共重合体のモノマー単位の比率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ1.0-2.8(ノルボルネンユニットの-CH-および-CH―とブタジエンの1,4-ユニットの-CH-)、5.3-5.5(ブタジエンの1,4-ユニットの-CH=)、5.5-5.7(1,2-ビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。イソプレンおよびノルボルネンの転化率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ6.0(ノルボルネンモノマーのビニルユニットの-CH=)、6.5(イソプレンモノマーのビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。得られた共重合体のモノマー単位の比率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ1.0-2.8(ノルボルネンユニットの-CH-および-CH―)、4.5-4.9(イソプレンのビニルユニットの=CH)、4.9-5.3(イソプレンの1,4-ユニットの-CH=)5.6-5.7(イソプレンの1,2-ビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。
【0083】
表6において、ブタジエンおよび5-ノルボルネン-2-メタノールの転化率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:5.1-5.2(ブタジエンモノマーのビニルユニットの=CH)、6.0-6.2(5-ノルボルネン-2-メタノールモノマーのビニルユニットの-CH=)、6.4(ブタジエンモノマーのビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。得られた共重合体のモノマー単位の比率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ3.3-3.7(5-ノルボルネン-2-メタノールユニットの-CH-O)、5.3-5.5(ブタジエンの1,4-ユニットの-CH=)、5.5-5.7(1,2-ビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。
【0084】
表7において、得られた共重合体のモノマー単位の比率については、H-NMRにより得られたピーク[H-NMR:δ3.6-3.8(5-ノルボルネン-2-メチルアセテートユニットの-O-CH)、5.3-5.5(ブタジエンの1,4-ユニットの-CH=)、5.5-5.7(1,2-ビニルユニットの-CH=)]の積分比からそれぞれ算出した。
【0085】
(合成例1)
(DHBP)CoCl(構造式Iで表される化合物)の合成
DHBPとCoClとを、THF中で、室温下、24時間反応させ、目的物である(DHBP)CoClを緑青色固体として収率98%で得た。構造解析はIR測定および元素分析により行い、得られた化合物が(DHBP)CoClであることを確認した。
【0086】
(合成例2)
(bpy)CoCl(比較化合物)の合成
合成例1において、DHBPをbpyに変えたこと以外は、合成例1と同様に反応を行い、(bpy)CoClを得た。
【0087】
(合成例3)
(DMBP)CoCl(比較化合物)の合成
合成例1において、DHBPをDMBPに変えたこと以外は、合成例1と同様に反応を行い、(DMBP)CoClを得た。
【0088】
(合成例4)
(DHBP)NiBr(構造式Iで表される化合物)の合成
合成例1において、CoClをNiBrに変えたこと以外は、合成例1と同様に反応を行い、(DHBP)NiBrを得た。
【0089】
(合成例5)
(bpy)NiBr(比較化合物)の合成
合成例1において、DHBPをbpyに変えたことおよびCoClをNiBrに変えたこと以外は、合成例1と同様に反応を行い、(bpy)NiBrを得た。
【0090】
(実施例1)
重合体の製造(ブタジエンの単独重合)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中で、耐圧ガラス反応器に、ブタジエンを含むトルエン30mLの溶液を添加した後、撹拌しながら、合成例1で得た(DHBP)CoCl 0.02mmolおよび助触媒DEACを、モル比でブタジエン/(DHBP)CoCl/DEAC=5,000/1/100となるように添加した。次いで、温度30℃で1時間重合を行った。重合後、エタノールを加えて反応を停止させた。次いで、その溶液を、濃塩酸15mLおよびブチルヒドロキシトルエン(BHT)100mgを含むメタノール300mLの混合液に注いだ。デカンテーションにより沈殿した重合体を分離し、60℃で6時間、真空乾燥して重合体を得た。重合反応の収量(mg)と、収率(%)と、活性度と、得られた重合体のミクロ構造、MnおよびMw/Mnについて、表1に合わせて示す。
【0091】
【表1】
【0092】
(比較例1~2、実施例2~3、実施例4~7および実施例8~9)
実施例1において、表1および表2に示すように、条件を変えたこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、重合体を得た。
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例10)
重合体の製造(エチレンの単独重合)
合成例1で得た(DHBP)CoCl 0.02mmolおよび助触媒としてTMAOの存在下、トルエン30mL中、30℃でエチレンを反応させた。その際、モル比で(DHBP)CoCl/TMAO=1/100とした。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、デカンテーションによって沈殿物またはオイルを回収した。ろ液はアンモニア水溶液で中和し溶媒を減圧留去後、ジクロロメタン/水で抽出を行い、エバポレーターで濃縮してオイル状化合物を回収した。重合反応の収量(mg)と、活性度と、得られた重合体のMnおよびMw/Mnについて、表3に合わせて示す。
【0095】
【表3】
【0096】
(比較例4~6)
実施例10において、表3に示すように、条件を変えたこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、重合体を得た。
【0097】
(実施例11)
実施例10において、エチレンの圧力を10atmに変えたこと以外は、実施例10と同様に重合を行い、重合体を得た。
【0098】
(実施例12)
共重合体の製造(ブタジエンとエチレンの共重合)
(DHBP)CoCl 0.02mmolおよび助触媒としてTMAOの存在下、トルエン30mL中、30℃でブタジエンとエチレン(投入圧力1atm)を19時間反応させた。その際、モル比でブタジエン/(DHBP)CoCl/TMAO=2,500/1/100とした。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、デカンテーションによって沈殿物またはオイルを回収した。ろ液はアンモニア水溶液で中和し溶媒を減圧留去後、ジクロロメタン/水で抽出を行い、エバポレーターで濃縮してオイル状化合物を回収した。重合反応の収量(mg)と、活性度と、得られた共重合体のミクロ構造、MnおよびMw/Mnについて、表4に合わせて示す。
【0099】
【表4】
【0100】
(実施例13~14および実施例15~16)
実施例12において、表4および表2に示すように、条件を変えたこと以外は、実施例12と同様に重合を行い、共重合体を得た。
【0101】
(実施例17)
共重合体の製造(ブタジエンとノルボルネンの共重合)
(DHBP)CoCl 0.02mmolおよび助触媒としてTMAOの存在下、トルエン5mL中、30℃でブタジエンとノルボルネンを4時間反応させた。その際、モル比でブタジエン/ノルボルネン/(DHBP)CoCl/TMAO=250/250/1/100とした。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、吸引ろ過によって沈殿物を回収した。重合反応の収量(mg)と、活性度と、モノマー比率と、モノマー変換率と、得られた共重合体のブタジエン単位とノルボルネン単位の比率と、Mn、Mw/Mnおよび形態について、表5に合わせて示す。
【0102】
【表5】
【0103】
(実施例18~20)
実施例17において、表5および表2に示すように、条件を変えたこと以外は、実施例17と同様に重合を行い、共重合体を得た。
【0104】
(実施例21)(イソプレンとノルボルネンの共重合)
実施例20において、表5および表2に示すように、条件を変えたこと以外は、実施例20と同様に重合を行い、共重合体を得た。
【0105】
(実施例22)
共重合体の製造(ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メタノールの共重合)
(DHBP)NiBr 0.02mmolおよび助触媒としてTMAOとTIBAの存在下、トルエン10mL中、30℃でブタジエンと5-ノルボルネン-2-メタノールを4時間反応させた。その際、モル比でブタジエン/5-ノルボルネン-2-メタノール/(DHBP)NiBr/TMAO/TIBA=250/250/1/100/250とした。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、吸引ろ過によってオイル状沈殿物を回収した。重合反応の収量(mg)と、活性度と、モノマー比率と、モノマー変換率と、得られた共重合体のブタジエン単位と5-ノルボルネン-2-メタノール単位の比率と、MnおよびMw/Mnについて、表6に合わせて示す。
【0106】
【表6】
【0107】
(比較例3)
実施例22において、表6および表2に示すように、(DHBP)NiBrを、合成例5で得た(bpy)NiBrに変えたこと以外は、実施例22と同様に重合を行ったが、ほとんど反応が進行しなかった。
【0108】
(実施例23)
共重合体の製造(ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メチルアセテートの共重合)
(DHBP)NiBr 0.02mmolおよび助触媒としてTMAOの存在下、トルエン5mL中、80℃でブタジエンと5-ノルボルネン-2-メチルアセテートを18時間反応させた。その際、モル比でブタジエン/ノルボルネン/(DHBP)CoCl/TMAO=250/250/1/100とした。反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、溶液をアンモニア水溶液で中和し、溶媒を減圧留去後、酢酸エチル/水で抽出を行い、エバポレーターで濃縮してオイル状化合物を回収した。重合反応の収量(mg)と、モノマー比率と、得られた共重合体のブタジエン単位と5-ノルボルネン-2-メチルアセテート単位の比率について、表7に合わせて示す。
【0109】
【表7】
【0110】
表1および3~7に示したように、構造式Iで表される化合物を含む触媒組成物を用いることにより、ブタジエンの単独重合、エチレンの単独重合、ブタジエンとエチレンの共重合、ブタジエンまたはイソプレンとノルボルネンの共重合、ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メタノールの共重合、ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メチルアセテートの共重合を、bpyを配位子とした触媒よりも高活性に行うことができた。また、これらの重合により、ポリブタジエン、ポリエチレン、ブタジエン-エチレン共重合体、ブタジエン-ノルボルネン共重合体、イソプレン-ノルボルネン共重合体、ブタジエン-5-ノルボルネン-2-メタノール共重合体およびブタジエン-5-ノルボルネン-2-メチルアセテート共重合体を得ることができた。
【0111】
表1について、実施例1と比較例1~2の対比から分かるように、同一の助触媒(DEAC)を用いた場合であっても、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いた場合に活性度が高いことが明らかとなった。また、実施例1から助触媒を変えた場合(実施例2~9)でも、問題なく重合反応が進むことを確認した。
【0112】
表3から分かるように、エチレンの重合でも、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いた場合に活性度が高いことが明らかとなった(実施例10~11および比較例4~6)
【0113】
表4から分かるように、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いた場合では、エチレンの圧力を変えても、エチレンとブタジエンの共重合反応が問題なく進むことを確認した(実施例12~16)。
【0114】
表5から分かるように、助触媒を変えた場合(実施例17~19)でも、そして遷移金属Mを変えた場合(実施例17および20)でも、ブタジエンとノルボルネンの共重合反応が問題なく進むことを確認した。また、実施例21から分かるように、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いた場合では、イソプレンとノルボルネンの共重合反応も問題なく進むことを確認した。
【0115】
表6について、実施例22と比較例3の対比から分かるように、ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メタノールの共重合において、同一の助触媒(TMAOおよびTIBA)を用いた場合であっても、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いた場合に、活性度が高いことが明らかとなった。
【0116】
また、表7の実施例23から分かるように、ブタジエンと5-ノルボルネン-2-メチルアセテートの共重合において、構造式Iで表される化合物を含む本発明の触媒組成物を用いることで、問題なく共重合反応が進むことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、例えば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合するにあたり、重合活性の高い、触媒組成物を提供することができる。また、本発明によれば、共役ジエン化合物およびエチレン性不飽和二重結合を有する化合物からなる群より選択される1種以上を重合可能な、重合体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該重合体の製造方法により製造された、重合体を提供することができる。また、本発明によれば、当該重合体を含む、ゴム組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該ゴム組成物を用いた、タイヤを提供することができる。