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▶ ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニムの特許一覧

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  • 特許-コーキングを防止する鉄スピネル表面 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】コーキングを防止する鉄スピネル表面
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/56 20060101AFI20220617BHJP
   C10G 75/00 20060101ALI20220617BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20220617BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220617BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220617BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220617BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20220617BHJP
   C23C 14/28 20060101ALI20220617BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20220617BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
C23C16/56
C10G75/00
C23C28/04
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C23C16/40
C23C14/58
C23C14/28
C22C19/07 Z
C22C19/05 Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019547394
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 IB2018051162
(87)【国際公開番号】W WO2018158669
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】2959625
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マー、エバン
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼンコフ、ワシリー
(72)【発明者】
【氏名】ベナム、レスリー
(72)【発明者】
【氏名】ファラグ、ハニー
(72)【発明者】
【氏名】オライーワラ、ボラジ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/078148(WO,A1)
【文献】特表2007-505210(JP,A)
【文献】特表2008-540842(JP,A)
【文献】特表2005-519188(JP,A)
【文献】特表2017-512250(JP,A)
【文献】SHAO Ming-zeng et al.,Journal of China University of Petroleum,2010年,vol.34, No.4,pp.127-130
【文献】PING WEI et al,Conversion of copper and manganese metallic films of spinel,Journal of materials science,2012年,vol.47,No.13,5205-5215
【文献】Yoshitaka Nishiyama et al,The role of copper in resisting metal dusting of Ni base alloys,Materials science forum,2006年,vol.522-523,581-588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C
C21D
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20~50重量%のNiと、CuおよびAlからなる群から選択される1つ以上の元素であって、0重量%超0.05重量%未満の当該元素とを含む金属基材上に、15ミクロンまでの厚さを有する基材表面の75%以上を覆う表面であって、15~50重量%のMnCrと、15~25重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、10~30重量%のCr1.3Fe0.7と、12~20重量%のCrと、4~12重量%のCuFe、FeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物であって、0重量%超5重量%未満の当該化合物と、0重量%超0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムを含み、但し、成分の合計は100質量%である、表面。
【請求項2】
前記金属基材は、さらに、13~50重量%のCrと、0.2~3.0重量%のMnとを含む、請求項1に記載の表面。
【請求項3】
前記金属基材は、さらに、0.3~2.0重量%のSiと、チタン、ニオブおよび全ての他の微量金属と、0重量%超0.75重量%未満の量の炭素とを含み、当該チタン、当該ニオブおよび当該全ての他の微量金属の全量が、0重量%超5重量%未満である、請求項2に記載の表面。
【請求項4】
前記金属基材において、Crは、20~38重量%の量で存在する、請求項3に記載の表面。
【請求項5】
前記金属基材において、Niは、25~48重量%の量で存在する、請求項4に記載の表面。
【請求項6】
結晶化度が40%以上であり、平均結晶サイズが0ミクロン超5ミクロン未満である、請求項5に記載の表面。
【請求項7】
厚さが0ミクロン超12ミクロン未満である、請求項6に記載の表面。
【請求項8】
15~25重量%のMnCrと、20~24重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、20~30重量%のCr1.3Fe0.7と、15~20重量%のCrと、8~12重量%のCuFe、FeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物であって、0重量%超5重量%未満の当該化合物と、0重量%超0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムとを含み、但し、成分の合計は100重量%である、請求項7に記載の表面。
【請求項9】
40~50重量%のMnCrと、15~20重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、10~15重量%のCr1.3Fe0.7と、12~18重量%のCrと、4~7重量%のCuFe、FeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物であって、0重量%超5重量%未満の当該化合物と、0重量%超0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムとを含み、但し、成分の合計は100重量%である、請求項7に記載の表面。
【請求項10】
請求項1に記載の内部表面の少なくとも一部を有する反応器。
【請求項11】
操作温度が700℃~1300℃である、請求項10に記載の反応器。
【請求項12】
鉄鉱還元反応器である、請求項11に記載の反応器。
【請求項13】
蒸気クラッキング炉である、請求項11に記載の反応器。
【請求項14】
炭化水素改質機である、請求項11に記載の反応器。
【請求項15】
流動床触媒クラッキング機である、請求項11に記載の反応器。
【請求項16】
請求項11に記載のジェットエンジン。
【請求項17】
基材表面の75%以上に、80重量%以上の銅および銅酸化物のうち1つ以上であるが、金属銅が0重量%超10重量%未満の量で存在し、およびSiを含む0重量%超2重量%未満の微量元素を含み、厚さが0ミクロン超12ミクロン未満である、均一なコーティングを塗布することと、前記表面を500℃~1000℃の温度まで、少なくとも15時間の酸化雰囲気と少なくとも1時間の還元雰囲気を交互して、少なくとも3サイクル加熱することとを含む、請求項1に記載の表面を製造するためのプロセス。
【請求項18】
酸化雰囲気での個々の処理は、15~20時間である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
還元雰囲気での個々の処理は、1~2時間である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
銅酸化物は、コーティングの重量を基準として、90重量%以上の量でコーティング中に存在する、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記コーティングが、化学蒸着(CVD)コーティングである、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記コーティングが、スプレーコーティングである、請求項20に記載のプロセス。
【請求項23】
前記コーティングが、レーザーアブレーションコーティングである、請求項20に記載のプロセス。
【請求項24】
請求項10に記載の反応器を用い、炭化水素を処理するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、典型的には、20~50重量%のNiを含む、基材上の鉄スピネル表面に関する。鉄スピネル表面は、典型的には、厚さが約15ミクロンまでである。この表面は、1種類以上の炭化水素が約500℃~約1000℃の温度に加熱され得る環境で、炭素生成または炭化に耐えることが有用である。これは、クラッキングおよび改質などの典型的な炭化水素プロセスを含んでいてもよく、鉄鉱還元炉の配管からジェットエンジンまで、さらに多様な用途を含んでいてもよい。
【背景技術】
【0002】
高いNiCr鋼上でのクロム系スピネルの製造に関連する、Benum et al.の名で、NOVA Chemicalsに帰属する多くの特許が存在する。スピネルは、典型的には、単独で、またはMnまたはSiの酸化物と組み合わせて、式MnCrを有する。本発明のスピネルは、鉄銅系スピネルを含み、Benumのものとは異なっている。
【0003】
英国特許出願公開第2159542号は、Man Maschinenfabrik Augsburg Nurnbergの名で1985年12月4日に公開されており、保護コーティングを製造するために種々の鋼を処理することを教示している。実施形態5(プロセス変形例b)は、鋼基材上にFeの表面コーティングを製造することを教示する。実施形態6(プロセス変形例b)は、鋼基材上にクロム鉄スピネル(Fe,Cr)を製造することを教示する。この特許は、本発明の表面組成とは離れた内容を教示している。
【0004】
米国特許第4,613,372号および第4,524,643号は、スズおよび銅、アンチモンおよび銅、スズ、アンチモンおよび銅の組み合わせである、特定の防汚剤を記載している。これは、本発明の発明特定事項に反する教示である。
【0005】
Pareek et al.に対して1996年5月28日に登録され、Exxon Research and Engineering Companyに譲渡された、米国特許第5,520,751号は、低クロム鋼を酸化し、鉄クロムスピネル(FeCr)である表面を生成することを教示する。この参考文献は、金属表面を銅で処理することを教示または示唆をしておらず、本発明の最終的な表面組成物を教示していない。
【0006】
Heyse et al.に対して2003年8月5日に登録され、Chevron Phillipsに譲渡された米国特許第6,602,483号は、蒸気クラッカーを処理するためのいくつかの概念を教示している。1つの概念は、銅などの金属の均一な金属コーティングを作成することである。銅が使用されるとき、銅は、スズの層で、鋼に結合される(第8欄、30~65行目)。本発明は、この特許の中間バインダーコーティングを必要としない。
【0007】
放棄された公開済の米国特許出願第20060191600号は、所定量のFe、CrおよびAlを酸化物の形態で含む化合物酸化物膜が、鋼の水素脆化を引き起こす鋼基材への水素浸透に対する障壁を与えることを教示する。障壁フィルムは、銅を含んでいない。銅は、得られる化合物の酸化物フィルムの上にメッキされてもよい(段落38)。
【0008】
本発明は、スピネルが高温で炭化水素にさらされる環境でのコークス生成に耐える鉄銅スピネルコーティングを含むコーティングを与えることを探求している。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態では、本発明は、基材の厚さが15ミクロンまでの、処理される基材表面の75%以上を覆う、20~50重量%のNiと、0.05重量%未満のCuおよびAlからなる群から選択される1つ以上の元素とを含む金属基材上に、15~50重量%のMnCrと、15~25重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、10~30重量%のCr1.3Fe0.7と、12~20重量%のCrと、4~20重量%のCuFeと、5重量%未満のFeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物と、0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムを含む表面を提供し、但し、成分の合計は100質量%である。
【0010】
さらなる実施形態では、金属基材は、さらに、13~50重量%のCrと、0.2~3.0重量%のMnとを含む。
【0011】
さらなる実施形態では、金属基材は、さらに、0.3~2.0重量%のSiと、5重量%未満のチタン、ニオブおよび全ての他の微量金属(trace metal)と、0.75重量%未満の量の炭素とを含む。
【0012】
さらなる実施形態では、金属基材において、Crは、20~38重量%の量で存在する。
【0013】
さらなる実施形態では、金属基材において、Niは、25~48重量%の量で存在する。
【0014】
さらなる実施形態では、表面は、結晶化度が40%以上であり、(平均)結晶サイズが5ミクロン未満、好ましくは2ミクロン未満である。
【0015】
さらなる実施形態では、表面は、厚さが12ミクロン未満である。
【0016】
さらなる実施形態では、表面は、15~25重量%のMnCrと、20~24重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、20~30重量%のCr1.3Fe0.7と、15~20重量%のCrと、4~7重量%のCuFeと、5重量%未満のFeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物と、0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムとを含み、但し、成分の合計は100重量%である。
【0017】
さらなる実施形態では、表面は、40~50重量%のMnCrと、15~20重量%のCr0.23Mn0.08Ni0.69と、10~15重量%のCr1.3Fe0.7と、12~18重量%のCrと、8~18重量%、いくつかの実施形態では、8~12重量%のCuFeと、5重量%未満のFeO(OH)、Cr+3O(OH)、CrMn、SiおよびSO(酸化ケイ素または石英のいずれか)からなる群から選択される1つ以上の化合物と、0.5重量%未満の任意の形態のアルミニウムとを含み、但し、成分の合計は100重量%である。
【0018】
さらなる実施形態では、請求項1に記載の内部表面の少なくとも一部を有する反応器が提供される。
【0019】
さらなる実施形態では、反応器は、操作温度が700℃~1300℃である。
【0020】
さらなる実施形態では、反応器は、鉄鉱還元反応器(精錬機)である。
【0021】
さらなる実施形態では、反応器は、蒸気クラッキング炉である。
【0022】
さらなる実施形態では、反応器は、炭化水素改質機である。
【0023】
さらなる実施形態では、反応器は、流動床触媒クラッキング機である。
【0024】
さらなる実施形態では、反応器は、ジェットエンジン(例えば、インジェクタノズルおよびファンブレードなどは、本発明のコーティングを含む)である。
【0025】
さらなる実施形態では、(処理される)基材表面の75%以上に、80重量%の銅および銅酸化物のうち1つ以上(但し、金属銅が10重量%未満の量で存在する)、およびSiを含む2重量%未満の微量元素を含み、厚さが12ミクロンまでである、均一なコーティングを塗布することと、その表面を500℃~1000℃の温度まで、15~20時間の酸化雰囲気と、1~2時間の還元雰囲気を交互して加熱することとを含む、上述の表面を製造するためのプロセスが提供される。
【0026】
さらなる実施形態では、酸化雰囲気での個々の処理は、16~18時間である。
【0027】
さらなる実施形態では、銅酸化物は、コーティングの重量を基準として、90重量%以上の量でコーティング中に存在する。
【0028】
さらなる実施形態では、コーティングは、化学蒸着(CVD)コーティングである。
【0029】
さらなる実施形態では、コーティングは、スプレーコーティングである。
【0030】
さらなる実施形態では、コーティングは、レーザーアブレーションコーティングである。
【0031】
さらなる実施形態では、上述の反応器を用い、炭化水素を処理するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、例1のSEMおよび原子スペクトルグラフから誘導される、例1の表面についての定量的な元素分布である。
図2図2は、例2のSEMおよび原子スペクトルグラフから誘導される、例2の表面についての定量的な元素分布である。
図3図3は、例1の表面の実際状態と理論状態の両方のX線回折パターンである。
図4図4は、例2の表面の実際状態と理論状態の両方のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
多くの産業、特に、化学産業において、ステンレス鋼基材は、ステンレス鋼表面のコーキング(coking)が生じ得る厳しい環境で使用される装置(例えば、炉の管、蒸気改質反応器、熱交換器および反応器)を作るために使用される。エチレン炉において、炉の管は、コークスの蓄積(コーキング)のが起こり得る、単一の管または一緒にはんだ付けされ、コイルを形成する複数の管および固定具であってもよい。炭化水素改質機において、反応器および配管には、同様のコーキングの課題がある。流動触媒クラッカーにおいて、特に降下管において、同様の課題が存在する。鉄鋼還元プロセス、特に、流動床の鉄鋼還元中に生成するガスのための配管において、同様の課題が存在する。気体により駆動するタービン(例えば、ジェットエンジン)において、タービン中の構成要素上でも、コークスが蓄積する課題が存在する。
【0034】
基材は、複合材料コーティングが結合し得る任意の材料であってよい。基材は、炭素鋼またはステンレス鋼であってもよく、鍛錬用ステンレス、オーステナイト系ステンレス鋼およびHP、HT、HU、HWおよびHXステンレス鋼、耐熱性鋼、およびニッケル系アロイ(nickel based alloy)からなる群から選択されてもよい。基材は、高強度低アロイ鋼(HSLA)、高強度構造鋼または超高強度鋼であってもよい。このような鋼の分類および組成は、当該技術分野で知られている。
【0035】
一実施形態では、ステンレス鋼、好ましくは、耐熱性ステンレス鋼は、典型的には、13~50重量%、好ましくは20~50重量%、最も好ましくは20~38重量%のクロムを含む。ステンレス鋼は、さらに、20~50重量%、好ましくは25~50重量%、最も好ましくは25~48重量%、望ましくは約30~45重量%のNiを含んでいてもよい。ステンレス鋼の残りは、実質的に鉄である。
【0036】
本発明はまた、ニッケルおよび/またはコバルト系の極端なオーステナイト系高温アロイ(HTA)と共に使用してもよい。典型的には、アロイは、多量のニッケルまたはコバルトを含む。典型的には、高温ニッケル系アロイは、約50~70重量%、好ましくは約55~65重量%のNiと、約20~10重量%のCrと、約20~10重量%のCoと、約5~9重量%のFeとを含み、残りは、組成が100重量%になるまでの、以下に示す1種類以上の微量元素である。典型的には、高温コバルト系アロイは、40~65重量%のCoと、15~20重量%のCrと、20~13重量%のNiと、4重量%未満のFeと、残り、以下に示されるような1つ以上の微量元素および20重量%までのWとを含む。添加する成分の合計は100重量%までである。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、基材は、さらに、少なくとも0.2重量%、3重量%まで、典型的には1.0重量%、2.5重量%まで、好ましくは2重量%以下のマンガンと、0.3~2重量%、好ましくは0.8~1.6重量%、典型的には1.9重量%未満のSiと、3重量%未満、典型的には2重量%未満のチタン、ニオブ(典型的には、2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満のニオブ)と、全ての他の微量金属と、2.0重量%未満の量の炭素とを含んでいてもよい。
【0038】
保護コーティングは、基材の処理される表面の表面積の75%以上、好ましくは85%より多く、望ましくは95%より多くを覆っているべきである。
【0039】
いくつかの実施形態では、表面層またはコーティングは、厚さが10ミクロンまでであり、ある場合には、7ミクロン、典型的には5ミクロン以下であり、いくつかの実施形態では、少なくとも1.5ミクロン、好ましくは2ミクロンの厚さである。典型的には、表面は、結晶化度が40%以上、好ましくは60%より大きく、(平均)結晶サイズは、7ミクロンまで、好ましくは5ミクロン未満、典型的には2ミクロン未満である。典型的には、表面は、基材表面の少なくとも約70%、好ましくは85%、最も好ましくは95%以上、望ましくは98.5%以上を覆っている。
【0040】
低コーキング表面は、基材の望ましい表面を、1種類以上の銅および銅酸化物の酸化物(例えば、CuO、CuO)およびこれらの混合物を用いてコーティングすることによって調製される。コーティングは、化学蒸着(CVD)、スプレーコーティング、レーザーアブレーションコーティングなどを含め、コーティングのための任意の従来の方法を用いて塗布されてもよい。一般的に、コーティングは、厚さが約15ミクロン以下、典型的には12ミクロン未満、一般的には約3~12ミクロンの厚さを有する薄いものである。
【0041】
コーティングは、60重量%以上の1種類以上の銅酸化物(CuOおよびCuO)およびこれらの混合物と、Siを含む2重量%以下の微量元素とを含むべきである。好ましくは、1種類以上の銅酸化物は、コーティングの90重量%以上、好ましくは95重量%以上、望ましくは少なくとも98重量%の量で存在する。典型的には、原子状の銅(酸化物とは対照的に)は、塗布されるコーティングの10重量%未満、好ましくは5重量%未満の量で存在すべきである。この銅は、その後の熱処理中に酸化される場合がある。
【0042】
次いで、コーティングは、一般的に500℃~1000℃、典型的には約700℃~約950℃の温度で、連続的な酸化還元処理を受ける。少なくとも3サイクルの酸化還元、いくつかの実施形態では、5以上のサイクルであるべきである。酸化還元のサイクル数は多いほど好ましく、例えば、8以上である。
【0043】
酸化雰囲気は、蒸気と空気の混合物であってもよく、典型的には、30~90重量%の蒸気と、60~10重量%の空気、いくつかの実施形態では、60~90重量%の蒸気と、40~60重量%の空気、さらなる実施形態では、75~85重量%の蒸気と、25~15重量%の空気の混合物であってもよい。いくつかの実施形態では、空気は、窒素などの不活性ガスと混合された酸素(例えば、20重量%の酸素と80重量%の不活性ガス)と交換されてもよい。還元雰囲気は、質量(重量)比が約3:1(例えば、約2.85:1~約3.15:1)の蒸気とエタンの混合物であってもよい。酸化の1サイクルに対する合計処理時間は、16時間以上であってもよく(15時間の1回の酸化サイクルと、1時間の1回の還元サイクル)、22時間と長くてもよい(20時間の1回の酸化サイクルと、2時間の1回の還元サイクル)。合計処理時間は、最短で48時間(16時間を3サイクル)、好ましくは少なくとも66時間(22時間を3サイクル)、いくつかの実施形態では、少なくとも110時間(22時間を5サイクル)であってもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも176時間(22時間を8サイクル)であってもよい。
【0044】
基材金属(鋼)は、ある部品へと製造され、次いで、適切な表面が処理される。鋼は、鍛造されてもよく、圧延されてもよく、または鋳造されてもよい。本発明の一実施形態では、鋼は、パイプまたは管の形態である。管は、本発明の内部表面を有している。これらの管を、炭化水素のクラッキング、特に、エタン、プロパン、ブタン、ナフサおよび軽油、またはこれらの混合物のクラッキングなど、石油化学プロセスに使用してもよい。本発明のコーティングを有するステンレス鋼は、本発明の内側表面を有する反応器または容器の形態であってもよい。ステンレス鋼は、熱交換器の形態であってもよく、その内部および/または外部表面のいずれかまたは両方が、本発明に従う。このような熱交換器は、熱交換器の中または上を通る流体のエンタルピーを制御するために使用されてもよい。処理される鋼は、炭化水素を改質するための反応器を作成するために使用することができる。流動床触媒クラッカー中の下降管は、本発明のコーティングを有する鋼を用いて作成されてもよい。流動床鉄鋼還元反応器内の還元ガスを運ぶためのさらなる配管は、本発明に従って処理された鋼から作られていてもよい。最後に、本発明に従って処理される鋼は、タービン(静的に発電またはジェットエンジンを動かすための)で使用されてもよい。炭素の蓄積が起こりやすいタービンの部品は、本発明に従ってコーティングされてもよい。
【0045】
本発明の表面への有用な用途は、アルカン(例えば、エタン、プロパン、ブタン、ナフサおよび軽油、またはこれらの混合物)からオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ブテンなど)までのクラッキングに使用される炉の管またはパイプでの用途である。一般的に、このような操作では、原料(例えば、エタン)が、気体形態で、典型的には、外径が1.5~8インチ(例えば、典型的な外径は、2インチ(約5cm)、3インチ(約7.6cm)、3.5インチ(約8.9cm)、6インチ(約15.2cm)、7インチ(約17.8cm))である管、パイプまたはコイルに供給される。管またはパイプは、一般的に約900℃~1050℃に維持された炉を通って走り、出口のガスは、一般的に、温度が約800℃~900℃である。原料が炉を通って流れるにつれて、水素(および他の副生成物)を放出し、不飽和になる(例えば、エチレン)。このようなプロセスに典型的な操作条件、例えば、温度、圧力および流速は、当業者によく知られている。
【0046】
典型的な熱分解炉の操作条件は、当該技術でよく知られているものが挙げられ、例えば、750℃~1100℃の範囲の温度、0.05~0.6秒の滞留時間、相対的に低い炭化水素分圧、例えば、20~30psia、いくつかの実施形態では、22~28psiaが挙げられる。流出物の下流での処理は、従来の装置および方法論、例えば、移動ライン交換器および/または急冷交換器、オレフィン蒸留および回収などを使用する。
【0047】
改質機は、炭化水素(典型的には、脂肪族または芳香族炭化水素、アルコール、アルデヒドまたはエステル)を部分的に水和し、合成ガスを生成するために用いられる。反応器は、典型的には、管状であり、コア触媒床と同軸のシェルとを備えている。供給物は、一般的に、より重い脂肪族または芳香族の供給物が、蒸気形態で触媒に供給される。蒸気も、反応器に供給され、触媒床を通って流れる。蒸気は、供給物と反応し(Fischer Tropsch)、典型的には、低級アルカン生成物(合成ガス)を生成し、部分的にクラッキングされた供給ガスは、典型的には、側鎖を有する。反応が行われる温度は、約500℃~約800℃の範囲であってもよい。圧力は、約5~45気圧(約520kPa~約4200kPa)であってもよい。一般的に、このプロセスは、より高いオクタン価を有するガソリンにブレンドするための成分を製造する。副生成物は、エタンなどの低級アルカンおよび水素を含む。本発明の保護表面を有する金属を、特に、直列に並んだ2つ以上の反応器が存在する場合、反応器または反応器の配管に使用してもよい。
【0048】
本発明のコーティングを有する鋼を、流動床触媒クラッカーの反応器および配管に使用してもよい。これらの反応器は、当業者にはよく知られている。反応器は、典型的には、円筒形反応器である。供給物、一般的に、大きな分子量を有する芳香族供給物(例えば高減圧軽油)は、反応器の基部に入るラインに入る。また、反応器の基部またはさらに低い部分には、コークスが洗浄された触媒の流れが入る。供給物は、流動触媒床を通って上方向に通り、500℃~800℃まで加熱され、クラッキングされる。クラッキングプロセス中、触媒は、「コーク化」した状態になる。触媒は、流動床から除去され、降下管のラインによって再生器に戻される。再生器では、コークスが燃やされ、次に、触媒粒子および触媒が、反応器の流動床に戻される。本発明のコーティングを有する鋼を、流動床触媒クラッカーの一部に使用してもよく、その場合、反応器および降下管の上側部分などにコークを生成する傾向がある。
【0049】
本発明のコーティングを有する鋼を、例えば、Simanzhenkov et al.の名で2016年9月8日に公開された公開済の米国特許出願第20160258687号に開示される流動鉄鋼還元プロセスで使用してもよい。このプロセスにおいて、典型的にはコークスの燃焼生成物を含む還元ガスは、一連の反応器内で還元される鉄鋼の下方向への流れに対して向流で通過する。還元ガスは、反応器の間のライン内でコークスを生成する傾向がある。
【0050】
本発明のコーティングを有する鋼は、セメントの製造にも使用することができる。ラインバーナおよび関連する部品は、本発明に従ってコーティングされた鋼から作られていてもよい。
【0051】
また、本発明のコーティングを有する鋼を、静的に発電するためにジェットタービンに、または航空機中の携帯機器に使用してもよい。燃焼ゾーン内の燃料インジェクタおよびファン構成要素は、エンジンのコーキングを減らすために、本発明のコーティングを有する鋼でコーティングされていてもよい。
【0052】
本発明を以下の例によって説明する。
【0053】
鋳造し水素処理したステンレス鋼の管または35/45クロムニッケルを含む通過部分のサンプルを、その内部表面について、化学蒸着によって銅酸化物でコーティングし、表面コーティングを作成した(厚さは15ミクロン未満)。得られたサンプルを、工学反応器中、約850℃の温度で加熱し、管は、約850℃で、酸化(蒸気および空気)および還元(エタン)雰囲気の3回の交互に起こるサイクルを受けた。
【0054】
X線、SEMおよび元素スペクトルグラフを、各サンプルの表面(例えば、約5ミクロン)について取得した。このデータから、各サンプルの定量的な元素分布を調べた。表面1および表面2についてそれぞれ、図1および図2に示す。
【0055】
各サンプルについて、表面の主成分を以下に示す。
【0056】
Ni/Crオーステナイト系ステンレス鋼のサンプルを、Benum et al.に対して2005年5月31に登録され、NOVA Chemicals(International)S.A.に譲渡された米国特許第6,899,966号に従って調製した。Technical Scale反応器中の米国特許第6,899,966号のものを含め、パイプサンプルを試験した経験から、エタンからエチレンへの蒸気クラッキングの初期の5~9時間の後、非常にわずかに増加していくコークスが生成されることが知られている。
【0057】
米国特許第6,899,966号のサンプルは、蒸気クラッキングモードで約30時間実施された。サンプル1は、エタンからエチレンへの蒸気クラッキングモードで約12時間実施された。パイプまたは管のサンプルは、同じサイズを有していた。両実施は、同じスタートアップ、操作手順およびシャットダウン手順を使用した。エタン転化率、エチレン収率、生成したコークを、各サンプルについて測定した。結果を表1に報告している。
【表1】
【0058】
表1から、本発明のコーティングは、米国特許第6,899,966号に対して、優れていないにしても、少なくとも同等であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、厚さが基材上で15ミクロンまでであり、典型的には、1種類以上の炭化水素が約500℃~約1000℃の温度まで加熱され得る環境での炭素生成または炭化に耐えることが有用であり、20~50重量%のNiを含む、鉄スピネル表面を提供する。
図1
図2
図3
図4