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特許7090640ZnOナノ粒子でコーティングされた剥離グラファイト複合材、複合材の製造方法、及びLiイオン電池における使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ZnOナノ粒子でコーティングされた剥離グラファイト複合材、複合材の製造方法、及びLiイオン電池における使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/225 20170101AFI20220617BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220617BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220617BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220617BHJP
【FI】
C01B32/225
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/48
H01M4/36 E
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019555841
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2017084117
(87)【国際公開番号】W WO2018188772
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2019-11-22
(31)【優先権主張番号】17000646.4
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502099902
【氏名又は名称】エッカルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Eckart GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イサキン オルガ
(72)【発明者】
【氏名】シンドラー カースティン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】モース ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ウィラート-ポラダ モニカ
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-065837(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103734188(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0054490(US,A1)
【文献】特表2016-534958(JP,A)
【文献】特開平09-249407(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107579219(CN,A)
【文献】PANG Xiu-yan et al.,Int.J.ChemTech Res.,2014年,6(5),pp.3137-3145
【文献】HSIEH Chien-Te et al.,Electrochimica Acta,2013年,p.359-365
【文献】SONG Na et al.,Applied Surface Science,2015年,353,p.580-587
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRDリートベルト解析により求められる黒鉛化度gが50~93%の範囲である剥離グラファイト支持材料を含む複合材であって、gは式(IV)によって決定され:
【数1】

式中、d002は(002)反射の測定位置について決定されブラッグ(Bragg)の式に従って算出された格子面の距離であり、d=335.4pmであって全体的に黒鉛化された炭素についての文献値であり、及びdngは非黒鉛化炭素を表しており344pmの値を有し、
前記剥離グラファイト支持材料はZnOナノ粒子によりコーティングされ、
式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量c sp,ZnO が0.2~0.85wt%g/m の範囲であり:
【数2】

式中、m ZnO はICP-OESにより決定される場合の複合材全体の質量に対するwt%でのZnOの含有量であり、β gr はBETにより決定される剥離グラファイト支持材料の比表面積であり、
前記複合材が以下から成り、
b)一次焼戻し複合材であって、剥離グラファイト支持体をZnOナノ粒子でコーティングした一次複合材a)を還元気体雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる一次焼戻し複合材、
又は
d)二次焼戻し複合材であって、前記一次焼戻し複合材b)をZnOナノ粒子でさらにコーティングした二次複合材c)を還元気体雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる二次焼戻し複合材
前記一次焼戻し複合材b)は、複合材の断面上でEDXにより決定され単独のZnO粒子上で測定され及びZn及び酸素含有量のみを参照した場合のZn含有量が52~58原子%である、複合材。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材であって、前記複合材は、複合材の合計重量に対する剥離グラファイト及びZnOの含有量が85~100wt%の範囲である、複合材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材であって、前記剥離グラファイト支持材料は非酸化グラファイトである、複合材。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の複合材であって、複合材。
【請求項5】
請求項1に記載の複合材であって、前記複合材が以下から成る、複合材:
b)一次焼戻し複合材であって、剥離グラファイト支持体をZnOナノ粒子でコーティングした一次複合材a)を還元気体雰囲気中で焼戻すことによって得られ、焼戻しの温度は、還元気体雰囲気を用いる場合は375℃~700℃の範囲である、一次焼戻し複合材。
【請求項6】
請求項に記載の複合材であって、少なくとも一回の焼戻し工程は還元気体雰囲気中で行われる、複合材。
【請求項7】
請求項に記載の複合材であって、一次複合材a)中のZnOナノ粒子のTEMにより決定される平均粒子サイズd1,ZnOは、3.0~7.0nmの範囲である、複合材。
【請求項8】
請求項に記載の複合材であって、前記複合材は一次焼戻し複合材b)であり、前記ZnOナノ粒子は式(VII)により決定されるZnOナノ粒子の被覆率θprを有し:
【数3】

式中、cはZnOの質量のZnO及び剥離グラファイトの質量の合計に対する質量比率であり、rprはTEMにより決定されるZnO一次粒子の平均半径であり、ρZnOはZnOナノ粒子の密度であり、及びβEGは剥離グラファイトである支持材料の比表面積(BET)であり、θprは一次焼戻し複合材b)については2.5~38%の範囲である、複合材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の複合材であって、
前記複合材は一次焼戻し複合材b)であり、ZnOナノ粒子によるXRD反射の強度から導かれるTCが、TC(100)>1、TC(002)>0.9を示し、及びTC(100)/TC(002)の比が0.8~1.3の範囲である、複合材。
【請求項10】
請求項に記載の複合材であって、前記複合材は一次焼戻し複合材b)であり、及び式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOが0.2~0.45wt%g/mの範囲であり:
【数4】

式中、mZnOは、ICPにより決定される複合材全体の質量に対するZnOのwt%における含有量であり、βgrは剥離グラファイト支持材料のBETにより決定される比表面積である、複合材。
【請求項11】
先行する請求項1~10のいずれかに記載の複合材であって、一次複合材a)及び一次焼戻し複合材b)についてのZnOナノ粒子の含有量が複合材の合計重量に対して3~15wt%である、複合材。
【請求項12】
以下を特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の複合材を構成する一次複合材a)の製造方法:
A)(syn)前記製造方法が以下の連続する工程を含むこと:
i)Zn(II)塩を溶媒中に溶解し、
ii)グラファイト及び塩基を同時に添加し、
iii)混合物を超音波の衝撃下で攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
B)(pre)前記製造方法が以下の連続する工程を含むこと:
i)グラファイトを溶媒に懸濁させ、超音波の衝撃によって剥離し、
ii)Zn(II)塩及び塩基を同時に添加しナノZnO粒子を形成し、
iii)混合物を攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
C)(post)前記製造方法が以下の工程を含むこと:
i)第一反応器中で、Zn(II)塩及び塩基を溶媒中で混合してナノZnO粒子を形成し、
ii)第二反応器中で、超音波の衝撃によってグラファイトを剥離し、
iii)i)及びii)の両方の懸濁液を混合し、
iv)工程iii)の後、懸濁液から溶媒を除去する。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の複合材を構成する一次焼戻し複合材b)の製造方法であって、請求項12の製造方法A)、B)、又はC)によって製造される一次複合材a)が、還元気体雰囲気中375℃~700℃の範囲の温度で焼き戻される、製造方法。
【請求項14】
記温度が375~550℃の範囲である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
記還元気体雰囲気は本質的に、不活性気体及び還元気体の混合物から成り、N/H混合物若しくはAr/H混合物又はこれらの混合物から成る群から採用される、請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1~11のいずれかに記載の複合材の、リチウムイオン電池のアノードにおける使用。
【請求項17】
請求項16に記載の使用であって、前記複合材が、請求項1又は請求項8~11のいずれかに記載の複合材である一次焼戻し複合材b)又は請求項1に記載の複合材である二次複合材d)である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnOナノ粒子と剥離グラファイトとの複合材、それらの製造方法、及び特にリチウムイオン電池用アノード材料としての、それらの使用に関する。
【0002】
過去数十年間の化石燃料消費の急激な増加は、多くの深刻な環境問題をもたらしてきた。二次電池は、非化石燃料の概念に基づく将来のエネルギーシステムにおいてこれらの問題を解消する助けとなり得る電気化学エネルギー貯蔵装置の重要な部類である。
【0003】
充電式電池の利用のうち最も有望な利用の1つに、リチウムイオン電池(LIB)がある。現在市販されているLIBはグラファイト材料を主体とするアノードを有する。ここでは以下の反応が起こる:
【0004】
xLi+C+xe⇔Li 理論容量:370mAhg-1 (I)
【0005】
これらの電池は現実の条件下で動作可能であることが分かってきたが、その容量はなお低すぎる。したがって、現行のグラファイトアノードは将来の装置のエネルギー及び電力の要件を満足することはできない。多くの研究グループが大きな理論容量及び高いエネルギー密度を有するアノード材料として金属酸化物を広く調査した(非特許文献1~3)。
【0006】
これらの材料の中でも、ZnOははるかに高い理論容量を有するため興味深い側面を有する材料である。以下の反応が関与する:
【0007】
転換反応:ZnO+2Li+2e⇔Zn+LiO (II)
合金化脱合金化反応:Zn+Li+e⇔LiZn (III)
【0008】
ZnOの理論容量は978mAhg-1であり、したがってグラファイトよりもはるかに高い。さらに、ZnOは環境に優しく、化学的安定性が良好で且つコストの低い材料である。しかしながら、これらの利点にもかかわらず、ZnOは電気伝導度に劣り、リチウム化の際に228%と大きく体積膨張し、そしてリチウム化/脱リチウム化のプロセスにおいて構造変化が起こる。これらの欠点は通常、特定数の電気化学サイクル後の強い容量の減衰につながる。
【0009】
しかしながら、ZnOのナノ粒子間でアセンブルされた炭素性シートは体積膨張及び収縮の間にそれぞれパッファ層(puffer layer)を誘発する(非特許文献4及び5)。
【0010】
したがって、両方の材料を含む複合材の形成によって容量を向上させることが可能である(非特許文献6及び7)。
【0011】
ZnOナノ粒子との複合材において、グラファイトをグラフェンで置き換えるために多くの研究がなされてきた。非特許文献8において総論が述べられている。
【0012】
多くの慣用の複合材は、ハマーズ法(Hummers method)によってグラファイトから製造されるグラフェンオキサイド(GO)を主体とすることが文献により既知である(非特許文献9。ここでは酸化されたグラフェンが(002)格子面間隔の顕著な増加を示すことが開示されている。
【0013】
以下にも同様の開示がある:非特許文献10及び11)。
【0014】
硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、及び過酸化水素等の強い酸化剤を適用することによって、ヒドロキシ、ケトン、カルボキシル、及びエポキシ等の官能基を有するGOの形成が誘発される(非特許文献12)。
【0015】
生成される官能基は、グラフェン単層間の初期格子面間隔の0.34nmから0.74nmへの増大を誘発する(非特許文献13)。
【0016】
さらに、炭素原子のspハイブリダイゼーションがspハイブリダイゼーションに変化し、これが電気伝導性の強い低下を誘発する。複合材形成のさらなる工程はGOに対する亜鉛塩の添加とその後の還元工程を伴う。還元工程は、ホウ素化水素ナトリウム、ヒドロキノン(どちらも非特許文献14に記載)、ヒドラジン(非特許文献15)のような化学剤の添加、又は熱的還元(非特許文献16)によってそれぞれ行うことができる。最終生成物はZnOでコーティングされた還元グラフェンオキサイド(rGO)であり、これによりspハイブリダイゼーション炭素原子の量が増加し、導電性の増大と容量の向上につながる。しかしながら、均質なコーティングの欠如、使用される化学剤の高い毒性、低い収率、及び高いコスト等の幾つかの問題のため、この製造プロセスは工業的な製造スケールには適さない。
【0017】
特許文献1に、酸化亜鉛でコーティングされたグラフェンオキサイドの方法が開示されている。酸化亜鉛は、二価の亜鉛イオンとアルカリとのアルコール溶液中での反応に基づくソフトな化学法により形成される。この複合材は消毒手段として良好な性質を示す。
【0018】
非特許文献17に、ZnOナノシートを厚さ11又は35nmの「グラファイト」層でコーティングすることが報告されている。実際にはこうした薄層はもはやグラファイトとは呼ばれないかもしれない。これらのモデル電極から100サイクル後に600mAhg-1前後の極めて高い容量が得られた。しかしながら、これらのZnOナノシートは、ZnO蒸着に先立ち厚さ200nmの白金層でコーティングされたステンレス鋼基材上で水熱法により製造された。このような電極の構成は工業的スケールにおいては利用可能ではない可能性がある。白金でコーティングされたステンレス鋼基材は、高価すぎて技術的に実用的でないため工業的な電極では使用されないであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】CN103734188A
【非特許文献】
【0020】
【文献】Shih,Y.T.;Wu,C.H.;Hung,F.Y.;Lui,T.S.;Chen,L.H.、リチウムイオン電池用Si(100-x)Alx薄膜アノードの充電放電特性の室温及び55℃における研究(A study at room temperature and 55 degrees C on the charge-discharge characteristics of Si(100-x)Alx thin film anode for Li-ion batteries)、Surface&Coatings Technology、2013,215,79-84
【文献】Birrozzi,A.;Raccichini,R.;Nobili,F.;Marinaro,M.;Tossici,R.;Marassi,R.、リチウムイオン電池用高安定グラフェンナノシート/SnO2複合材アノード(High-stability graphene nano sheets/SnO2 composite anode for lithium ion batteries)、Electrochim.Acta 2014,137,228-234
【文献】Wu,J.;Chen,C.H.;Hao,Y.;Wang,C.L.,リチウムイオン電池用アノードとしてのナノシートZnO/還元グラフェンオキサイド複合材の電気化学性能の向上(Enhanced electrochemical performance of nano sheet ZnO/reduced graphene oxide composites as anode for lithium-ion batteries)、Colloid Surf.A-Physicochem.Eng.Asp.2015,468,17-21
【文献】Guo,R.;Yue,W.B.;An,Y.M.;Ren,Y.;Yan,X.、リチウムイオン電池用高性能アノード材料としてのグラフェン被包多孔質カーボンZnO複合材(Graphene-encapsulated porous carbon-ZnO composites as high-performance anode materials for Li-ion batteries)、Electrochim.Acta 2014,135,161-167
【文献】Zhao,L;Gao,M.M.;Yue,W.B.;Jiang,Y.;Wang,Y.;Ren,Y.;Hu,F.Q.、高性能のためのカーボンナノ複合材におけるサンドイッチ構造グラフェン-Fe3O4(Sandwich-Structured Graphene-Fe304@Carbon Nanocomposites for High-Performance
【文献】Sun,X.;Zhou,C.G.;Xie,M.;Sun,H.T.;Hu,T.;Lu,F.Y.;Scott,S.M.;George,S.M.;Lian,J.,高リチウム貯蔵容量を有する原子層蒸着によるZnO量子ドット/グラフェンナノ複合材の合成(Synthesis of ZnO quantum dot/graphene nanocomposites by atomic layer deposition with high lithium storage capacity)、J.Mater.Chem.A 2014,2(20),7319-7326
【文献】Yoon,Y.S.;Jee,S.H.;Lee,S.H.;Nam,S.C、リチウム二次電池のための半大量生産ボールミリングにより合成されたナノSiコーティンググラファイト複合材アノード(Nano Si-coated graphite composite anode synthesized by semi-mass production ball milling for lithium secondary batteries)、Surface&Coatings Technology 2011,206(2-3),553-558
【文献】Jian Zhang、Peng Gu、Jing Xu、Huaiguo Xue、Huan Pang、Nanoscale,2016,8,18578-18595
【文献】Hsieh,C.T.;Lin,C.Y.;Chen,Y.F.;Lin,J.S.、リチウムイオン電池用アノード材料としてのグラフェン複合材におけるZnOの合成(Synthesis of ZnO@Graphene composites as anode materials for lithium ion batteries)、Electrochim.Acta 2013,111,359-365
【文献】Song,W.T.;Xie,J.;Liu,S.Y.;Zheng,Y.X.;Cao,G.S.;Zhu,T.J.;Zhao,X.B.、簡易なインサイチュ水熱経路により調製された改善された電気化学性を有するZnOナノクリスタルで修飾されたグラフェン(Graphene Decorated with ZnO Nanocrystals with Improved Electrochemical Properties Prepared by a Facile In Situ Hydrothermal Route)、Int.J.Electrochem.Sci.2012,7(3),2164-2174
【文献】Su,Q.M.;Dong,Z.M.;Zhang,J.;Du,G.H.;Xu,B.S.、インサイチュTEMによるZnOナノ粒子とリチウムとの電気化学反応の視覚化:2つの反応様式が判明(Visualizing the electrochemical reaction of ZnO nanoparticles with lithium by in situ TEM: two reaction modes are revealed)、Nanotechnology2013,24(25)
【文献】Zhang,Y.P.;Li,H.B.;Pan,L.K.;Lu,T.;Sun,Z.、スーパーキャパシタ用グラフェン-ZnO複合フィルムの容量挙動(Capacitive behavior of graphene-ZnO composite film for supercapacitors)、J.Electroanal.Chem.2009,634(1),68-71
【文献】Song,N.;Fan,H.Q.;Tian,H.L.、還元グラフェンオキサイド/ZnOナノハイブリッド:光電流及び光触媒応答の向上のための金属Zn粉末に誘発されるワンステップ合成(Reduced graphene oxide/ZnO nanohybrids: Metallic Zn powder induced one-step synthesis for enhanced photocurrent and photocatalytic response)、Appl.Surf.Sci.2015,353,580-587
【文献】Bourlinos,A.B.;Gournis,D.;Petridis,D.;Szabo,T.;Szeri,A.;Dekany,I.、グラファイトオキサイド:グラファイトへの化学還元及び一級の脂肪族アミン及びアミノ酸による表面修飾(Graphite oxide: Chemical reduction to graphite and surface modification with primary aliphatic amines and amino acids)、Langmuir 2003,19(15),6050-6055
【文献】Gilje,S.;Han,S.;Wang,M.;Wang,K.L.;Kaner,R.B.、デバイス用途のためのグラフェンへの化学的経路(A chemical route to graphene for device applications)、Nano Lett.2007,7(11),3394-3398
【文献】Zhang,Y.P.;Li,H.B.;Pan,L.K.;Lu,T.;Sun,Z.、スーパーキャパシタ用グラフェン-ZnO複合材フィルムの容量挙動(Capacitive behavior of graphene-ZnO composite film for supercapacitors)、J.Electroanal.Chem.2009,634(1),68-71
【文献】E.Quatrarone,V.Dall‘Asta,A.Resmini,C.Tealdi,I.G.Tredici,U.A.Tamburini,P.Mustarelli,Journal of Power Sources 320(2016)314-321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明は、上述した欠点を有さない、ZnOナノ粒子と炭素系材料との複合材料を見出すことを目的とする。それは簡単な方法で製造されなければならず、容易に入手可能な原料を主体とするものでなければならず、粉末やペーストとして容易に取り扱うことができ、またLiイオン単電池用のアノード材料としてグラファイトと比較して進歩した電気化学性能を示す。さらに、最終複合材のための可能な前駆体複合材料を見出すことを目的とする。
【0022】
本発明はさらに、そうした複合材ZnO/炭素材料を、容易に入手可能な炭素系材料の表面上に均質にコーティングされたZnOナノ粒子の、簡単でスケールアップ可能で無害で低コストで且つ高収率な合成経路によって、製造する方法を見出すことを目的とする。
【0023】
本発明はさらに、前記複合材を電池技術において使用することを目的とする。
【0024】
これらの目的は、XRDリートベルト(Rietveld)分析により得られる黒鉛化度gが50~93%の範囲である剥離グラファイト支持材料を含む複合材であって、gは式(IV)によって決定され:
【0025】
【数1】
【0026】
式中、d002は(002)反射の測定位置について決定されブラッグ(Bragg)の式に従って算出された格子面の距離であり、d=335.4pmであって全体的に黒鉛化された炭素についての文献値であり、及びdngは非黒鉛化炭素を表しており344pmの値を有し、前記剥離グラファイト支持材料はZnOナノ粒子によりコーティングされている、複合材を提供することによって達成される。
【0027】
請求項2~16に、これらの複合材の好ましい実施形態を示す。
【0028】
特に請求項7に、タイプa)又はb)の好ましい複合材が示される。
【0029】
前記目的はさらに、以下を特徴とする一次コーティング複合材a)を製造する方法を提供することによって達成された:
A)(syn)前記方法が以下の連続する工程を含むこと:
i)Zn(II)塩を溶媒中に溶解し、
ii)グラファイト及び塩基を同時に添加し、
iii)混合物を超音波の衝撃下で攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
B)(pre)前記方法が以下の連続する工程を含むこと:
i)グラファイトを溶媒に懸濁させ、超音波の衝撃によって剥離し、
ii)Zn(II)塩及び塩基を同時に添加しナノZnO粒子を形成し、
iii)混合物を攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
C)(post)前記方法は以下の工程を含むこと:
i)第一反応器中で、Zn(II)塩及び塩基を溶媒中で混合してナノZnO粒子を形成し、
ii)第二反応器中で、超音波の衝撃によってグラファイトを剥離し、
iii)i)及びii)の両方の懸濁液を混合し、
iv)工程iii)の後、懸濁液から溶媒を除去する。
【0030】
前記目的はさらに、一次焼戻し複合材b)を製造する方法であって、方法A)、B)、又はC)によって製造された一次コーティング複合材a)を、不活性雰囲気中420℃~750℃の範囲の温度で焼戻すか、又は還元雰囲気中375℃~700℃の範囲の温度で焼戻す方法によって達成される。
【0031】
請求項19及び20に、本方法の好ましい実施形態を示す。
【発明の詳細な説明】
【0032】
本発明について、以下の定義又は略語を使用する。
【0033】
本発明を通して剥離グラファイトを「EG」と略記することがある。
【0034】
本発明を通してナノ粒子を「NP」又は「NPs」と略記することがある。
【0035】
本発明を通して剥離グラファイトとZnOナノ粒子とからなる複合材をZnO@EGと略記することがある。
【0036】
「TEM」は透過型電子顕微鏡を表す。
【0037】
「SEM」は走査型電子顕微鏡を表す。
【0038】
「TC」はXRD信号から誘導される組織係数を表す。
【0039】
「ZnOナノ粒子」はZnOで構成されたナノ粒子を意味する。それらには準化学量論的な量の酸素を有する酸化亜鉛も含まれ、また特定量の他の金属元素でドープされた酸化亜鉛も含まれる。好ましい金属は例えばアルミニウム、鉄、又はクロム等の酸化状態(III)を有する金属である。元素状亜鉛の領域(domains)を有するZnOナノ粒子もまた含まれる。
【0040】
「ナノ粒子」は100nm未満の平均粒子サイズを有する粒子、特にZnO粒子を表すものと理解される。
【0041】
別途支持しない限り、「容量」をもって、比容量、即ち1gの複合材料についての容量を示す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】実施例1~3のSEM及びTEM写真である。
図2】一次コーティング焼戻し実施例のうちの選択された実施例(実施例4、7、及び9)のSEM写真及びサイズ分布のヒストグラムを示す。
図3】剥離グラファイト(比較例2)及び複合材(実施例3)のFTIRスペクトルを、選択された波長への拡大図及び振動とそれらの帰属の表示とともに示す。
図4】Aは種々の方法によって決定した実施例1~3の複合材のwt%でのZnO含有量の結果であり、Bは実施例3についての例示的なEDXスペクトルである。
図5】ICP-OESを用いて決定された初期希釈保存溶液中のZnOナノ粒子濃度及び吸着後のフリーのZnOナノ粒子の濃度である。吸着されたZnOナノ粒子の算出された理論値はそれぞれ3つの領域:完全吸着領域(I)、中間領域(II)、及び飽和領域(III)に分けられる。点線は、各曲線についての挙動を示す目当てである。
図6】適用された希釈ZnOナノ粒子保存溶液の関数としてのZnO@EG複合材(実施例3-3f)の表面被覆率を示す。点線は54%の妨害限界(jamming limit)を示す。
図7】実施例7の例示的なTEM写真を示す。焼戻し粒子及び新たにコーティングされた粒子の2つの異なる粒子サイズは、それらのサイズ及び形態における違いに起因してうまく分離することができる。小さな新しい粒子はどちらかと言えば球形であり、一方焼戻した大きな粒子は異なるモルホロジーを有する傾向にある。
図8】a)はEG(比較例2)及び調製されたZnO@EG(実施例3)複合材の例示的なXRDスペクトルであり、b)は対応する拡大図である。
図9】一次コーティング複合材の種々の実施例についてのXRDスペクトルの分析によって導出されたZnOの3つの格子面についての組織係数TCのグラフ表現である。
図10】a)は個別化した粒子を示す複合材料(実施例9)の断面のSEM顕微鏡像であり、b)は、a)に示した構成においてEDXにより決定された、種々の温度の焼戻し(実施例5、7、及び9)についての、原子%でのZn量及び酸素量である。
図11】不活性N雰囲気中で焼戻された例示の実施例についての容量対サイクル数を示している。破線は非コーティング剥離グラファイトの容量を表す。
図12】H/N雰囲気中で焼戻された例示の実施例についての容量対サイクル数を示している。破線は非コーティング剥離グラファイトの容量を表す。
図13】粒子a)、b)、c)、及びd)を表す不活性N雰囲気中で焼戻された実施例についての容量対サイクル数を示している。破線は非コーティング剥離グラファイトの容量を表す。
図14】粒子a)、b)、c)、及びd)を表すH/N雰囲気中で焼戻された実施例についての容量対サイクル数を示している。破線は非コーティング剥離グラファイトの容量を表す。
図15】剥離グラファイトと60~100nmの平均直径を有する市販のZnOナノ粒子との単純な混合物を表す比較例8についての容量及びクーロン効率対サイクル数を示している。実線は、各構成成分の重量を考慮したグラファイト及びZnOの理論容量から算出された理論容量を表す。
図16】不活性N雰囲気中で焼戻された種々の実施例(番号参照)についてのEDXによって算出された比容量及びZnの量対ZnOナノ粒子の平均直径を示している。ここでの比容量は、ZnO被覆の影響を除去するため、測定された比容量の理論上の比容量に対する百分率容量とする。
図17】H/N雰囲気中で焼戻された種々の実施例(番号参照)についてのEDXにより決定された比容量及びZnの量対ZnOナノ粒子の平均直径を示している。ここでの比容量とは、ZnO被覆の影響を除去するために、測定された容量の理論上の比容量に対する百分率容量とする。
図18】複合材タイプb)の種々の実施例についての、インピーダンス分光法測定(EIS)から導出されるオーム抵抗Ri対処理温度を示している。
【0043】
複合材ZnO@EG
本発明は、XRDリートベルト解析により求められる黒鉛化度gが50~93%である剥離グラファイト支持材料であって、ZnOナノ粒子でコーティングされた剥離グラファイト支持材料を含む複合材に基づく。好ましくは、黒鉛化度gは65~92.5%の範囲であり、より好ましくは75~92%の範囲である。
【0044】
黒鉛化度gは、剥離グラファイトの単独のグラフェンシート(d002)間の層間隔を用い、周知の式を用いて算出した:
【0045】
【数2】
【0046】
式中、d002は(002)反射の測定位置について決定されブラッグ(Bragg)の式に従って算出された格子面の距離であり、d=335.4pmであって全体的に黒鉛化された炭素についての文献値であり、及びdngは非黒鉛化炭素を表しており344pmの値を有する(V.A:Davydov、A.V:Rakhmanina、V.Agafonov、B.Narymbetov、J.P.Boudou、H.Szwarc、高圧での多環式芳香族炭化水素のグラファイト及びダイヤモンドへの転換(Conversion of polycyclic aromatic hydrocarbons to graphite and diamond at high pressures)、Carbon 2004,42(2),261-269)。本明細書ではリートベルト解析を用いてg値を評価する。
【0047】
発明複合材のgの範囲は既に、支持材料が「グラフェン」と呼ばれ得るカーボン水性の(carbonaqueous)材料ではないということを明らかに示している。それはむしろ、剥離グラファイトに典型的な値の範囲である。グラフェン材料は50%未満の、及び更には30%又は10%未満のg値を有し得る。
【0048】
本発明の複合材はその特徴において未だグラファイト状である支持材料を有する。この複合材のXRDスペクトルは典型的に、通常剥離グラファイトの[002]格子に起因する2θ=26.4°~26.5°にピークを示す。典型的にはこのピークはディフラクトグラム全体の最大強度を有する。
【0049】
式(IV)は336.01~337.95pmの範囲のd002を有するグラファイト材料にのみ適用可能である。(002)格子面はグラファイトの優勢な格子面である。より好ましくはd002は335.01~338.0pmの範囲である。
【0050】
なお、化学剥離グラフェンオキサイドシートは2θ=12.2°に特徴的な回折ピークを示す。好ましくは当該複合材のXRDスペクトルは本質的に、酸化されたグラフェンに起因し得る2θ=12.2°にピークを有さない。より好ましくは本発明の剥離支持材料のXRDスペクトル中にこのようなピークは完全に存在しない。グラフェンは例えばハマーズ法(Hummers method)によって酸化することができる。このような酸化されたグラフェンは約0.74nmの拡大された層間隔を有する。負のg値は物理的に意味をなさないと思われるため、この場合に式(IV)を適用することができない。したがって、好ましくは剥離グラファイト材料は非酸化グラファイトである。
【0051】
剥離グラファイト支持材料は、好ましくは後述するように超音波の衝撃によって、容易にグラファイトから入手可能である。
【0052】
Liイオン電池アノードにおいて、現在使用されているグラファイトはどちらかと言えばコンパクトな「ポテト状の」幾何学形状を有する。本発明では、様々なタイプのグラファイトを使用することができる。好ましくは超音波の衝撃によってうまく剥離することができるグラファイトが使用される。これらのグラファイトとしては、小板状構造、又はポテト状構造と小板状構造の間の中間構造、又はこれらの2つの構造の混合、又は多孔質グラファイトが挙げられる。
【0053】
複合材用の支持材料として使用される剥離グラファイト材料は本質的にグラファイトを主体とし、及びしたがって、大規模な工業スケールにおいて容易に利用可能である。それに対し、グラフェン材料は、Liイオン電池における代替的な支持材料として科学文献において大いに注目を集めているが、工業的スケールアップに必要な大きな量では未だ利用可能ではない。さらに、例えばハマーズ法によって記述されるようなグラフェン材料の酸化は、使用する上で環境によくない酸化性化学物質を使用する必要がある。
【0054】
特定量のZnOナノ粒子を表面に吸着させることが好ましい。
【0055】
ZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOは次式により決定される:
【0056】
【数3】
【0057】
式中、mZnOはICP-OESにより決定された場合の複合材全体の質量に対するwt%でのZnOの含有量であり、βgrは剥離グラファイト支持材料のBETにより決定される比表面積である。
【0058】
比含有量csp,ZnOは0.2~0.85wt%g/mの範囲であり、好ましくは0.25~0.8wt%g/mの範囲であり、より好ましくは0.3~0.7wt%g/mの範囲であり、及び最も好ましくは0.3~0.65wt%g/mの範囲である。
【0059】
0.2wt%g/m未満では、被覆が少なすぎて複合材の電気化学特性に対して目に見えた効果は得られない。発明複合材は本質的に剥離グラファイトの表面上にZnOのナノ粒子の単層を形成するため、最大量の0.8wt%g/mを超えることは難しい。
【0060】
発明組成物においては、剥離グラファイトが支持体を形成し、この支持体上にZnOナノ粒子がコーティングされる。好ましい実施形態では、複合材は、剥離グラファイト及びZnOの含有量が全複合材の合計に対して85~100wt%の範囲である。本発明の複合材に対して、結合材材料又は添加剤のような他の材料を、有意な量で又は全く、添加する必要がない。さらに、本発明の複合材は、複合材の2つの基本構成成分、剥離グラファイト又はZnOナノ粒子のどちらも、いずれかのさらなる支持材料上に形成されていないということを特徴とする。さらなる好ましい実施形態では、複合材は、剥離グラファイト及びZnOの含有量が全複合材の合計に対して90~99.5wt%、及び最も好ましくは95~99wt%である。
【0061】
本複合材は粉末として容易に取り扱い可能であるか、又は所望に応じてペーストに形成されてもよい。さらなる支持材料が存在しないため、例えばリチウム電池アノードにおいて、加工が容易となる。
【0062】
本発明において4つの基本的な複合材を識別することができる。これらの複合材は、以下から成る:
a)一次複合材であって、剥離グラファイト支持体のZnOナノ粒子による第1コーティング工程によって製造される一次複合材、又は
b)一次焼戻し複合材であって、一次複合材a)を不活性又は還元気体雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる一次焼戻し複合材、又は
c)二次複合材であって、一次焼戻し複合材b)をZnOナノ粒子でさらにコーティングすることによって得られる二次複合材、又は
d)二次焼戻し複合材であって、一次複合材c)を不活性又は還元雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる二次焼戻し複合材。
【0063】
最も好ましい複合材は以下である:
a)一次複合材であって、剥離グラファイト支持体のZnOナノ粒子による第1コーティング工程によって製造される一次複合材、又は
b)一次焼戻し複合材であって、一次複合材a)を不活性又は還元気体雰囲気中で焼戻すことによって得られる一次焼戻し複合材。焼戻しを不活性雰囲気中で行う場合、焼戻しの温度は好ましくは420℃~750℃の範囲であり、より好ましくは550~730℃の範囲である。420℃未満では、ZnOナノ粒子が十分に活性化されない。730℃を超えると、ZnO粒子の被覆率の有意な低下が観察される。
【0064】
焼戻しを還元雰囲気中で行う場合、焼戻しの温度は好ましくは375℃~700℃の範囲である。さらなる実施形態では、タイプb)の一次コーティング複合材を還元雰囲気中375~550℃の温度範囲において、より好ましくは400~550℃の範囲で焼戻す。さらに好ましい範囲は375~550℃、より好ましくは385~500℃、最も好ましくは390~450℃である。
【0065】
375℃未満では、粒子が小さすぎ、また酸素含有量が高くなりすぎる。550℃を超えると、粒子が大きくなりすぎ、またZnO粒子被覆率の低下が認められ比容量の減少につながる。
【0066】
複合材b)が容量及びサイクル安定性に関して最も有望な電気化学特性を有すると思われる。タイプa)の複合材は複合材b)を作製する際の前駆材料として使用される。
【0067】
最も好ましい実施形態は焼戻し工程を還元雰囲気中で行うタイプb)の複合材である。
【0068】
当該技術分野で周知のように、粒子サイズ分布はTEMにより、少なくとも70個、好ましくは少なくとも100個の粒子をカウントすることにより決定することができる。
【0069】
一次複合材a)については、ZnOナノ粒子は本質的に単分散の粒子サイズ分布を有する小さなナノ粒子である。平均粒子直径サイズd1,ZnOはTEMにより決定することができ、好ましくは3.0~7.0nmの範囲、より好ましくは4.0~6.0nmの範囲である。直径の相対標準偏差(d1,ZnOの標準偏差/平均直径d1,ZnO)は20%未満である。
【0070】
これらの粒子の形態はどちらかと言えば球状である。剥離グラファイトは剥離グラファイトシートの両側においてコーティングされる。
【0071】
球状のZnOナノ粒子は、単層の存在により示されるように、明らかな凝集を起こすことなくEGシート上に均質に分布される。各領域における表面被覆率(θ)は下記式(VI)により定量的に評価することができ、式中Nは吸着された粒子の平均数(単位面積当たりの)及びrprは吸着された一次粒子の半径である:
【0072】
【数4】
【0073】
したがって、調査される表面積内に吸着されるナノ粒子の平均数を決定することが必要である。低い表面被覆率では、粒子はランダムに吸着し、TEM画像から有用なデータを抽出することができなくなる。したがって、実存の複合材によって与えられる要件を満たす、表面被覆率決定のための新たな式が提示される。上述した式が調査面積によって限定されるのに対して、ここでの主な考え方は試料全体内の表面被覆率を計算することである。ここでは、表面被覆率は下記式(VII)により決定することができる:
【0074】
【数5】
【0075】
式中、CZnOはZnO及び剥離グラファイトの質量の合計に対するZnOの質量の質量比率であり、rprはTEMにより決定されるZnO一次粒子の平均半径であり、ρZnOはZnOナノ粒子の密度であり、βEGは剥離グラファイトである支持材料の比表面積(BET)である。この式に基づき、各領域についての表面被覆率を定量的に評価することができる。
【0076】
一次複合材a)については、θprは好ましくは21~54%の範囲、より好ましくは28~53%の範囲、最も好ましくは35~52%の範囲である。
【0077】
実験の項に詳細に示すように、一次粒子a)は剥離グラファイトの表面上にどちらかと言えばランダムな態様で吸着する。この種の吸着については、完全な単層被覆のための妨害限界は54%である。
【0078】
21%未満では、剥離グラファイト上のZnOナノ粒子の被覆率が低すぎて、第2工程において焼戻される場合であっても電気化学挙動の有意な改善を達成できない。典型的な吸着等温線を図5に示す。
【0079】
一次コーティング焼戻し複合材b)は焼戻し工程に起因してオストバルト熟成(Ostwald ripening)によりサイズが大きくなる。不活性雰囲気中で焼戻された一次コーティング焼戻し複合材b)は好ましくは、TEMにより決定される平均粒子直径サイズd1,ZnOが10~100nmの範囲、より好ましくは20~90nmの範囲、及び最も好ましくは30~80nmの範囲である。
【0080】
実験の項に示すように、平均サイズ、及び粒子サイズ分布の幅もまた、焼戻しの温度に、また雰囲気の条件にも、強く依存する。
【0081】
還元雰囲気中で焼戻された一次コーティング焼戻し複合材b)は好ましくは、TEMにより決定される平均粒子直径サイズd1,ZnOが7~150nmの範囲、より好ましくは7~50nmの範囲、及び最も好ましくは8~40nmの範囲である。さらに好ましい実施形態では、TEMにより決定される平均粒子直径サイズd1,ZnOが8~30nmの範囲である。
【0082】
これらのどちらかと言えば小さなサイズのZnOナノ粒子は、Znの還元に起因したより良好な電気化学性能とともに、このような小さなナノ粒子に特有の大きな比表面積を併せ持つことができ、こうした大きな比表面積は、Liイオンが大きなZnO表面に対し良好なアクセスを有することから拡散最適化挙動につながることが知られている。
【0083】
タイプb)のこれらの粒子の直径の相対標準偏差(d1,ZnOの標準偏差/平均直径d1,ZnO)は好ましくは、30~50%の範囲、及びより好ましくは32~45%の範囲である。
【0084】
焼戻し一次コーティング複合材b)の粒子サイズが実質的に増大するほど、式(VII)に従う被覆率は同様に減少する。剥離グラフェン支持体の多くの部位が焼戻し工程の後再びフリーとなる。
【0085】
焼戻し一次コーティング複合材b)について、θprは好ましくは2.5~38%の範囲であり、より好ましくは4~30%の範囲である。
【0086】
一次コーティング複合材a)及びb)についてのZnOナノ粒子の絶対的含有量は、複合材の合計重量に対して好ましくは3~15wt%の範囲であり、より好ましくは8~14wt%の範囲である。3%未満では、被覆率は電気化学挙動に対する有利な効果は得るためには低すぎ、また約15wt%を超えると、単層よりも多くの層が必要となる場合がある。しかしながら、ZnOの絶対量は支持する剥離グラファイトの比表面積にまさに依存し、したがってこれらの量は異なるグラファイト材料によって変化し得る。
【0087】
15wt%は極めて大きな量というわけではないため、リチウムイオン電池中のアノードとして使用する場合の複合材料の体積膨張は比較的小さいことが期待される。
【0088】
好ましくは一次コーティング複合材a)又は一次焼戻し複合材b)は、式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOが0.2~0.45wt%g/mの範囲、より好ましくは0.5~0.44g/mの範囲、及び最も好ましくは0.3~0.43g/mの範囲である。
【0089】
タイプa)の複合材についてはZnOナノ粒子の単層が形成されるため及び、複合材b)を製造する際にはZnOの量は増えないためこれらの複合材は0.45g/mの比含有量csp,ZnOを超えない。0.2g/m未満の比含有量csp,ZnOでは、ZnOの量は有意な電気化学的改善を達成するためには低すぎる。
【0090】
焼戻し一次コーティング複合材b)のZnOナノ粒子は、800℃において、おそらくは亜鉛の昇華によって、ほとんど完全に消失する(実験の項参照)。
【0091】
この温度でのZnOナノ粒子の消失は炭素熱還元に起因していた。
【0092】
ZnO+C→Zn+CO (VIII)
ZnO+CO→Zn+CO(IX)
【0093】
反応(IX)は約300℃で既に開始する。反応速度は温度の上昇とともに大きくなりついには800℃付近でZnO粒子の消失をもたらす。元素性のZnナノ粒子は800℃で昇華すると思われる。CO及びCOからの正確な濃度はさらに周知のブードアードの式(Bouduard equilibrium)による影響を受ける。この炭素熱反応の存在に起因して、ZnOナノ粒子は不活性気体雰囲気中であっても炭素熱反応の存在に起因して還元され得る。還元雰囲気において焼戻す場合には、ZnOの還元によるZnの形成は、気相からのZnOの直接還元に起因してさらにより強制される。
【0094】
ZnO結晶性ナノ粒子中に元素性亜鉛に富んだ領域が形成され、理論に拘泥するものではないが、この形成がより良好な電気化学挙動につながるものと考えられる。
【0095】
序文で述べた転換反応(II)によりLiOが生ずるが、これによりマトリックスが形成されることが文献により知られており、またこの反応は完全に不可逆的である。この酸化物は電気化学的に全く不活性であることが知られている。一方で元素性Zn領域の形成は合金化反応(II)を促進し、これは完全に可逆的である。さらに、ZnO結晶性ナノ粒子におけるZn領域の形成は、複合材材料の電気伝導性を高めるものと思われる。
【0096】
このような元素性Zn領域の形成は、焼戻しが還元雰囲気中で行われる場合にさらにより顕著である。この場合、還元プロセスはより低温で開始する。
【0097】
好ましい実施形態では、複合材は一次焼戻し複合材b)であり、複合材の断面上でEDXにより決定され単独のZnO粒子上で測定され及びZn及び酸素含有量のみを参照した場合のZn含有量が52~58原子%である。ZnO及び酸素の含有量を決定する方法は実験の項のB5章でさらに説明する。
【0098】
XRD反射の強度から、ZnO信号をさらに組織係数TC(hkl)に関して解析することができた。この係数は、複合材におけるZnOナノ粒子の結晶学的配向の分布を反映している。
【0099】
格子面<hkl>についての「組織係数」TCは、強度l(hkl)(データベースから取得)及び測定XRD強度I(hkl)からリートベルト解析を用いた式(X)によって算出することができる:
【0100】
【数6】
【0101】
式中、iは測定されたピークの数を表す。TC(hkl)≦1の場合、特定の(hkl)面に関して統計的な配向が起こる。TC(hkl)>1の場合には、特定の(hkl)面に関する優先的な配向が起こる。面(hkl)の方向における完全な配向は係数TC=iをもたらし得る(L.Spiess、G.Teichert、R.Schwarzer、H.Behnken、C.Genzel、Moderne Roentgenbeugung、Vieweg+Teubner、Wiesbaden、2009)。
【0102】
図9に、タイプa)の一次コーティング複合材(実施例3、本明細書ではRefと称する)及びまたタイプb)の一次焼戻し複合材(実施例3、4及び実施例7~9、実験の項参照)についての例示的なTCを示す。
【0103】
実施例3の一次コーティング複合材は、優勢なグラファイト格子面である<002>面における前決定を示す。
【0104】
一次コーティング複合材a)は好ましくはTC(100)>0.9、TC(002)>1.1、及びTC(100)/TC(002)<1を示すZnOナノ粒子に従うTCを有する。より好ましくはTC(100)/TC(002)の比は0.6~0.96の範囲であり、最も好ましくは0.65~0.95の範囲である。
【0105】
これは剥離グラファイトの表面上のナノ粒子のエピタキシャル成長に起因し得る。
【0106】
一次コーティング複合材b)については、<001>方向への前配向の温度上昇に伴う有意な変化が見られる。したがって、TC(100)は増加し、好ましくはTC(100)>1、TC(002)>0.9であり、及びTC(100)/TC(002)の比は0.8~1.3の範囲である。
【0107】
より好ましくは、一次コーティング複合材b)について、TC(100)/TC(002)の比は0.9~1.28の範囲、最も好ましくは0.95~1.25の範囲である。
【0108】
理論に拘泥されるものではないが、TC値のこの変化は一方ではオストバルト熟成によるタイプa)からタイプb)への粒子の成長、及び他方ではZnOナノ粒子におけるZnリッチ領域の形成に起因し得ると考えられる。
【0109】
本発明のさらなる実施形態では、一次コーティング焼戻し複合材b)はさらにZnOナノ粒子でコーティングされてタイプc)の二次コーティング複合材をもたらすことができ、及びこれらの複合材は再び焼戻されてタイプd)の二次コーティング焼戻し複合材を生成することができる。これらのタイプの複合材は当然、式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOがより高い値となる。好ましくは複合材c)及びd)について、csp,ZnOは0.5~0.85の範囲、より好ましくは0.55~0.75の範囲、及び最も好ましくは0.56~0.65の範囲である。
【0110】
二次コーティング複合材c)のZnOナノ粒子は、第1焼戻し工程により誘導されたより大きな粒子が基材のフリーな部位にコーティングされた新しい小さなナノ粒子と重なるため、2つの異なるサイズ範囲の粒子サイズ分布を有する。したがって、タイプc)のZnOナノ粒子は、TEMにより決定された場合、2つの平均直径d1,ZnO及びd2,ZnOを示す2つの識別可能な粒子分布を含み、ここで平均直径d1,ZnOは好ましくは3~7nmの範囲であり、平均直径d2,ZnOは7~100nmの範囲である。より好ましい実施形態では、d1,ZnOは4.0~6.0nmの範囲であり、d2,ZnOは20~80nmの範囲であり、より好ましくは30~70nmの範囲である。
【0111】
したがって、式(VII)による被覆率は1つの直径(又は半径)のみに関して働くため、この式をこれらのタイプの複合材に適用することはできない。
【0112】
ZnOナノ粒子によるXRD反射の強度から誘導される二次コーティング粒子c)についてのTCは好ましくは、TC(100)>1、TC(002)>0.95を示し、及びTC(100)/TC(002)は0.95~1.2の範囲である。
【0113】
タイプc)の複合材は、複合材a)と同様に、それらの電気化学挙動においてどちらかと言えば不活性であると判定せざるを得ない。しかし、それらはタイプd)の複合材の前駆材料である。
【0114】
タイプd)の複合材は、特に焼戻し工程が還元雰囲気中で行われた場合には、剥離グラファイトよりも電気化学的に活性である。
【0115】
したがってこのタイプの複合材d)は、少なくとも1回の焼戻し工程が還元雰囲気中で行われ、より好ましくは両方の工程が還元雰囲気中で行われるという点で、好ましい。
【0116】
二次コーティング複合材c)及びd)は好ましくは、複合材の合計重量に対するZnOナノ粒子の全含有量が12~25wt%の範囲である。
【0117】
複合材ZnO@EGの製造方法
タイプa)の一次コーティング複合材は3つの異なる非常に単純な方法によって製造することができる:
方法A:この方法は(syn)と呼ばれ、以下の連続する工程を含む:
i)Zn(II)塩を溶媒に溶解し、
ii)グラファイト及び塩基を同時に添加し、
iii)混合物を超音波の衝撃下で攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する。
方法B:この方法は(pre)と呼ばれ、以下の連続する工程を含む。
i)グラファイトを溶媒中に懸濁させ、超音波の衝撃によって剥離させ、
ii)Zn(II)塩及び塩基を同時に添加してナノZnO粒子を形成し、
iii)混合物を攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する。
方法C:この方法は(post)と呼ばれ、以下の工程を含む。
i)第1反応器中、溶媒中でZn(II)塩及び塩基を混合しナノZnO粒子を形成し、
ii)第2反応器中で、超音波の衝撃によってグラファイトを剥離させ、
iii)i)及びii)の両方の懸濁液を混合し、
iv)工程iii)の後、懸濁液から溶媒を除去する。
【0118】
すべての方法において、ZnOナノ粒子の形成はBahnemann(D.W.Bahnemann、C.Kormann、M.R.Hoffmann、量子サイズ亜鉛酸化物の調製及び特性決定-詳細な分光法研究(Preparation and Characterization of Quantum Size Zinc-Oxide - A detailed Spectroscopic Study)、J.Phys.Chem.1987、91(14)、p.3789-3798)及びMeulenkamp(E.A:Meulenkamp、ZnOナノ粒子の合成及び成長(Synthesis and growth of ZnO nanoparticles)、J.Phys.Chem.B1998、102(29)、p.5566-5572)の最適化された方法に基づく。
【0119】
タイプa)の複合材製造のすべての方法について、溶媒はエタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、又はこれらの混合物から成る群から選択される。イソプロパノール又はエタノールが特に好ましい。
【0120】
タイプa)の複合材製造のすべての方法について、温度は好ましくは10~35℃の範囲、好ましくは16~25℃の範囲、又は単純に室温である。
【0121】
タイプa)の複合材製造のすべての方法について、Zn(II)塩は好ましくはZn(アセテート)、ZnCl、ZnSO、又はこれらの混合物から成る群から選択される。Zn(アセテート)が特に好ましい。
【0122】
塩基は好ましくはLiOH、NaOH、KOH、NHOH、又はこれらの混合物から成る群から選択される。LiOHが特に好ましい。
【0123】
超音波の衝撃はグラファイト支持材料を剥離させるのに必要である。超音波衝撃の時間及び強度は特定のグラファイト材料の挙動及び所望される剥離の程度によって異なり得る。
【0124】
複合材からの溶媒の除去はろ過又は遠心分離等のいずれかの従来の手段により行うことができる。
【0125】
一次焼戻し複合材b)の製造方法は、不活性雰囲気中420℃~750℃の範囲の温度で、又は還元雰囲気中375℃~700℃の範囲の温度における、方法A)、B)、又はC)のいずれかによって製造されたタイプa)の一次コーティング複合材の焼戻し工程を含む。
【0126】
不活性雰囲気中で焼戻された複合材がより好ましく、その際の焼戻しの温度は550~730℃の範囲であり、及び還元雰囲気中で焼戻された複合材については、焼戻しの温度は好ましくは375~550℃の範囲、より好ましくは400~550℃の範囲である。さらに好ましい範囲は375~550℃、より好ましくは385~500℃、及び最も好ましくは390~450℃である。
【0127】
375℃未満では、粒子は小さすぎ、酸素含有量が高くなりすぎる。550℃を超えると、粒子は大きくなりすぎ及びZnO粒子被覆率の低下が認められ比容量の減少につながる。
【0128】
これらの温度範囲内では、最適化された粒子サイズ及びおそらくはZnO粒子中におけるZnに富んだ帯域の形成もまた実現可能である。
【0129】
この焼戻し工程の時間は好ましくは、所望の温度最高値において0.5~2.5時間の範囲とすべきである。温度傾斜を使用して室温から最終的な焼戻し温度まで試料を加熱してもよい。
【0130】
不活性雰囲気は好ましくはN又はアルゴン雰囲気又はこれらの気体の混合物である。
【0131】
還元雰囲気中で焼戻す場合、還元雰囲気は、好ましくはN/H混合物又はAr/H混合物又はこれらの混合物のような不活性気体と還元性気体との混合物から本質的に成る。ここで、これらの気体はv/v%比で90:10又は95:5で混合されてよい。
【0132】
水素はいずれの毒性の副生成物も生成しないため、好ましい還元剤である。
【0133】
試料内の均質な温度分布を確保し局所的な過熱を避けるために、焼戻し工程中に複合材を従来の手段によってわずかに移動させてもよい。還元雰囲気中で焼戻しを行う場合には、水素との均質な混合もまた促進され得る。
【0134】
還元雰囲気中で焼戻し工程を行うことが好ましい。
【0135】
二次複合材c)を製造する場合には、方法A)、B)、又はC)のいずれかを適用することによって、一次コーティング焼戻し複合材b)を剥離グラファイトの代わりに基材として使用する。方法B)(pre)又はC)(post)がより好ましく、方法C)(post)が最も好ましい。
【0136】
複合材d)は複合材b)の製造について上述した方法と本質的に同じ方法によって二次コーティング複合材c)を焼戻すことによって製造される。2回の焼戻し工程において異なる雰囲気を4つの可能な態様のいずれかで組み合わせることが可能である。
【0137】
ここで再び還元雰囲気が適用可能であり、また好ましい。2回の焼戻し工程の各々によって還元雰囲気を適用することが最も好ましい。
【0138】
本発明の別の実施形態は、太陽電池セル中のn-コンダクタとしての、光触媒材料としての、又は超容量デバイス中の、リチウムイオン電池のアノードにおけるタイプa)、b)、c)、又はd)の複合材の使用に関する。
【0139】
単純な方法によって製造できる複合材a)はこれらの適用分野の幾つか又は多くにおいて直接利用可能であると考えられる。確実に、複合材a)は少なくとも、これらの用途において利用可能な他の複合材料のための中間生成物として有用である。一次コーティング焼戻し複合材b)の製造のための中間生成物としての複合材a)の使用が特に好ましい。
【0140】
リチウムイオン電池のアノードにおける一次焼戻し複合材b)の使用が特に好ましい。好ましくは少なくとも1回の焼戻し工程、好ましくは両方の焼戻し工程を還元雰囲気中で行って作製された二次焼戻し複合材d)の使用がさらに好ましい。
【0141】
さらなる実施形態は複合材a)、b)、c)、又はd)を含む、リチウムイオン電池において使用可能なアノードであり、一次コーティング焼戻し複合材b)を含む、リチウムイオン電池において使用可能なアノードが特に好ましい。さらに好ましい実施形態は、好ましくは少なくとも1回の焼戻し工程、好ましくは両方の焼戻し工程を還元雰囲気中で行って作製される複合材d)を含む、リチウムイオン電池中で使用可能なアノードである。
【0142】
さらなる実施形態は複合材a)、b)、c)、又はd)を含むアノードを含むリチウムイオン電池であり、一次コーティング焼戻し複合材b)を含むリチウムイオン電池において使用可能なアノードを含むリチウムイオン電池が特に好ましい。さらに好ましい実施形態は、好ましくは少なくとも1回の焼戻し工程、好ましくは両方の焼戻し工程を還元雰囲気中で行って作製される複合材d)を含むアノードを含むリチウムイオン電池である。
【0143】
これらのリチウムイオン電池は、例えば電気自動車又はラップトップのような用途のいずれかおいて使用され得る。
【0144】
本発明はさらに以下の態様を含む。
【0145】
態様1によれば、本発明複合材は、XRDリートベルト解析により求められる黒鉛化度gが50~93%である剥離グラファイト支持材料を含み、gは式(IV)により決定され:
【0146】
【数7】
【0147】
式中、d002は(002)反射の測定位置について決定されブラッグ(Bragg)の式に従って算出された格子面の距離であり、d=335.4pmであって全体的に黒鉛化された炭素についての文献値であり、及びdngは非黒鉛化炭素を表しており344pmの値を有し、前記剥離グラファイト支持材料はZnOナノ粒子によりコーティングされている。
【0148】
態様2によると、態様1に従う複合材において、複合材の総重量に対する剥離グラファイト及びZnOの含有量は85~100wt%である。
【0149】
態様3によると、態様1又は態様2のいずれかに従う複合材において、式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOは0.2~0.85wt%g/mの範囲であり:
【0150】
【数8】
【0151】
式中、mZnOは、ICP-OESにより決定される複合材全体の質量に対するZnOのwt%における含有量であり、βgrは剥離グラファイト支持材料のBETにより決定される比表面積である。
【0152】
態様4によると、先行する態様1~3のいずれかに従う複合材において、剥離グラファイト材料が非酸化グラファイトである。
【0153】
態様5によると、先行する態様1~4のいずれか複合材において、複合材のXRDスペクトルは、剥離グラファイトの[002]格子に起因する2θ=26.4°~26.5°に最大ピークを示す。
【0154】
態様6によると、先行する態様1~5のいずれかに従う複合材において、複合材のXRDスペクトルは、酸化グラフェンに起因し得る2θ=12.2°に本質的にピークを有さない。
【0155】
態様7によると、先行する態様のいずれかに従う複合材において、剥離グラファイト支持体は、XRDにより決定される(002)格子面における平面状グラフェン単位間の距離d002が336.01~337.95pmの範囲であり、好ましくは335.01~338.0pmの範囲である。
【0156】
態様8によると、先行する態様のいずれかに従う複合材において、複合材の2つの基本構成成分、剥離グラファイト又はZnOナノ粒子のいずれも、さらなる支持材料上に形成されていない。
【0157】
態様9によると、先行する態様のいずれかに従う複合材において、複合材は以下から成る:
a)一次複合材であって、剥離グラファイト支持体のZnOナノ粒子による第1コーティング工程により製造される一次複合材、又は
b)一次焼戻し複合材であって、一次複合材a)を不活性又は還元気体雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる一次焼戻し複合材、又は
c)二次複合材であって、一次焼戻し複合材b)をZnOナノ粒子でさらにコーティングすることによって得られる二次複合材、又は
d)二次焼戻し複合材であって、一次複合材c)を不活性又は還元雰囲気中350~750℃の温度で焼戻すことによって得られる二次焼戻し複合材。
【0158】
態様10によると、態様9に従う複合材において、複合材は、a)一次複合材であって、剥離グラファイト支持体のZnOナノ粒子による第1コーティング工程により製造される一次複合材、又はb)一次焼戻し複合材であって、一次複合材a)を不活性又は還元雰囲気中で焼戻すことによって得られ、焼戻しの温度は不活性雰囲気を使用する場合は420℃~750℃の範囲であり又は還元雰囲気を使用する場合は375℃~700℃の範囲である、一次焼戻し複合材、から成る。
【0159】
態様11によると、態様9又は10のいずれかに従う複合材において、少なくとも1回の焼戻し工程は還元雰囲気中で行われる。
【0160】
態様12によると、態様9又は10に従う複合材において、一次コーティング複合材a)におけるZnOナノ粒子の平均粒子サイズd1,ZnOは、TEMにより測定される場合3.0~7.0nmの範囲である。
【0161】
態様13によると、態様12に従う複合材において、一次コーティング複合材a)におけるZnOナノ粒子の平均粒子サイズd1,ZnOは4.0~6.0nmの範囲である。
【0162】
態様14によると、態様9~13に従う複合材において、複合材は一次複合材a)又は一次焼戻し複合材b)であり、ZnOナノ粒子は式(VII)により決定されるZnOナノ粒子の被覆率θprを有し:
【0163】
【数9】
【0164】
式中、cはZnO及び剥離グラファイトの質量の合計に対するZnOの質量の質量比率であり、rpr,seはTEMにより決定されるZnO一次又は二次粒子の平均半径であり、ρZnOはZnOナノ粒子の密度であり、及びβは支持材料の比表面積(BET)であり、θprは一次複合材a)については21~54%の範囲であり、又はθprは一次焼戻し複合材b)については2.5~38%の範囲である。
【0165】
態様15によると、態様9~14のいずれかに従う複合材において、
複合材は一次コーティング複合材a)であり、ZnOナノ粒子のリートベルト解析によるXRD信号はTC(100)>0.9、TC(002)>1.1、及びTC(100)/TC(002)<1を示し、又は複合材は一次コーティング焼戻し複合材b)であり、ZnOナノ粒子のリートベルト解析によるXRD信号はTC(100)>1、TC(002)>0.9を示し、TC(100)/TC(002)の比は0.8~1.3の範囲である。
【0166】
態様16によると、態様9~11又は14~15のいずれかに従う複合材において、不活性雰囲気中で焼戻された一次コーティング焼戻し複合材b)におけるZnOナノ粒子の、TEMにより決定される平均粒子サイズd1,ZnOは、10~100nmの範囲である。
【0167】
態様17による、態様9又は態様15~16のいずれかにに従う複合材において、複合材は一次コーティング複合材a)又は一次焼戻し複合材b)であり、式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOは0.2~0.45wt%g/mの範囲であり:
【0168】
【数10】
【0169】
式中、mZnOは、ICPにより決定される複合材全体の質量に対するZnOのwt%における含有量であり、βgrは剥離グラファイト支持材料のBETにより決定される比表面積である。
【0170】
態様18によると、態様9又は10又は態様14~17のいずれかに従う複合材において、複合材は一次焼戻し複合材b)であり、複合材の断面上でのEDXにより決定され単独のZnO粒子上で測定され及びZn含有量及び酸素含有量のみを参照した場合のZn含有量が52~58原子%である。
【0171】
態様19によると、態様9又は態様15~18のいずれかに従う複合材において、一次コーティング焼戻し複合材b)は還元雰囲気中で焼戻され、及びTEMにより決定されるZnOナノ粒子の平均粒子サイズd1,ZnOは7~50nmの範囲である。
【0172】
態様20によると、態様19に従う複合材において、一次コーティング焼戻し複合材b)は還元雰囲気中で焼戻され、ZnOナノ粒子の平均粒子サイズd1,ZnOは8~40nmの範囲である。
【0173】
態様21によると、態様9に従う複合材において、複合材は二次コーティング複合材c)又はd)であり、ZnOナノ粒子は式(V)により決定されるZnOナノ粒子の比含有量csp,ZnOを有し:
【0174】
【数11】
【0175】
式中、mZnOは、複合材のwt%におけるZnOの含有量であり、及びβgrは剥離グラファイト基材の比表面積であり、csp,ZnOは複合材c)及びd)については0.5~0.85の範囲である。
【0176】
態様22によると、態様21に従う複合材において、csp,ZnOは0.55~0.75の範囲である。
【0177】
態様23によると、態様9又は21~22のいずれかに従う複合材において、ZnOナノ粒子のリートベルト解析による複合材c)又はd)についてのXRD信号はZnOナノ粒子について、TC(100)>1、TC(002)>0.95、及びTC(100)/TC(002)=0.95~1.2を示す。
【0178】
態様24によると、態様9又は21~23のいずれかに従う複合材において、二次コーティング複合材c)について、TEMにより決定されるZnOナノ粒子の粒子サイズ分布は、2つの平均直径d1,ZnO及びd2,ZnOを示す2つの識別可能な粒子分布を含み、平均直径d1,ZnOは3~7nmの範囲であり、及び平均直径d2,ZnOは7~100nmの範囲である。
【0179】
態様25によると、先行する態様9~16のいずれかに従う複合材において、ZnOナノ粒子の含有量は、一次コーティング複合材a)及びb)については複合材の合計重量に対して3~15wt%である。
【0180】
態様26によると、先行する態様9又は21~24のいずれかに従う複合材において、ZnOナノ粒子の含有量は、二次コーティング複合材c)及びd)については複合材の合計重量に対して12~25wt%である。
【0181】
態様27によると、態様9~15に従う一次コーティング複合材a)の製造方法は、以下を特徴とする:
A)(syn)前記方法が以下の連続する工程を含むこと:
i)Zn(II)塩を溶媒に溶解し、
ii)グラファイト及び塩基を同時に添加し、
iii)混合物を超音波の衝撃下で攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
B)(pre)前記方法は以下の連続する工程を含むこと:
i)グラファイトを溶媒中に懸濁し、超音波の衝撃によって剥離し、
ii)Zn(II)塩及び塩基を同時に添加してナノZnO粒子を形成し、
iii)混合物を攪拌し、
iv)懸濁液から溶媒を除去する;
又は
C)(post)前記方法が以下の工程を含むこと。
i)第1反応器中でZn(II)塩及び塩基を溶媒中で混合してナノZnO粒子を形成し、
ii)第2反応器中で超音波の衝撃によってグラファイトを剥離し、
iii)i)及びii)の両方の懸濁液を混合し、
iv)工程iii)の後、懸濁液から溶媒を除去する。
【0182】
態様28によると、態様27に従うZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の複合材の製造方法において、溶媒はエタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、又はこれらの混合物から成る群から選択される。
【0183】
態様29によると、態様27又は28に従うZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の複合材の製造方法において、温度は10~35℃の範囲である。
【0184】
態様30によると、態様27~29のいずれかに従うZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の複合材の製造方法において、Zn(II)塩はZn(アセテート)、ZnCl、ZnSO4、又はこれらの混合物から成る群から選択される。
【0185】
態様31によると、態様27~30のいずれかに従うZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の複合材の製造方法において、塩基はLiOH、NaOH、KOH、NHOH、又はこれらの混合物から成る群から選択される。
【0186】
態様32によりと、態様7~9のいずれか又は態様12~14のいずれかに従う一次焼戻し複合材b)の製造方法において、態様27~31のいずれかの方法A)、B)、又はC)により製造される一次コーティング複合材a)は、不活性雰囲気中420℃~750℃の範囲の温度で焼戻されるか又は還元雰囲気中375℃~700℃の範囲の温度で焼戻される。
【0187】
態様33によると、態様32に従う一次焼戻し複合材b)の製造方法において、不活性雰囲気中で焼戻される複合材については、焼戻しの温度は550~730℃の範囲であり、及び還元雰囲気中で焼戻される複合材については、焼戻しの温度は375℃~550℃の範囲、より好ましくは400~550℃の範囲である。
【0188】
態様35によると、態様32又は33に従う一次焼戻し複合材b)の製造方法において、還元雰囲気は本質的に不活性気体と還元性気体との混合物から成り、及びN/H混合物若しくはAr/H混合物又はこれらの混合物から成る群から選択される。
【0189】
態様35によると、態様9又は17~24に従う二次ZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の二次複合材c)の、態様32~34の方法のいずれかによって製造された一次コーティング焼戻し複合材b)を態様27~31のいずれかの方法A)、B)、又はC)のいずれかに従いコーティングすることによる製造方法において、これらの方法A)、B)、又はC)においてグラファイトの代わりに一次コーティング焼戻し複合材b)を使用する。
【0190】
態様36によると、態様35に従うZnOナノ粒子でコーティングされたグラファイト支持体の複合材の製造方法において、第2のZnOナノ粒子コーティング工程において態様27~31のB)(pre)又はC)(post)のコーティング方法によって二次コーティング複合材c)をコーティングする。
【0191】
態様37によると、態様7又は8又は態様21~23のいずれかに従う二次焼戻し複合材d)の製造方法において、態様35又は36の方法により得られた二次コーティング複合材c)を不活性雰囲気中550~700℃の範囲の温度で焼戻す。
【0192】
態様38によると、態様37に従う二次焼戻し複合材d)の製造方法において、焼戻しが還元雰囲気中で行われる。
【0193】
態様39によると、態様38に従う二次焼戻し複合材d)の製造方法において、還元雰囲気は本質的に不活性気体と還元性気体との混合物から成り、及びN/H混合物若しくはAr/H混合物又はこれらの混合物から成る群から採用される。
【0194】
態様40は、態様1~26のいずれかの複合材の、太陽電池セル中のn-コンダクタとして、光触媒として、又は超容量デバイスにおける、リチウムイオン電池のアノードにおける使用に特化される。
【0195】
態様41は、態様40に従うリチウムイオン電池のアノードにおける複合材の使用において、複合材は態様9若しくは10又は態様14~20のいずれかの一次焼戻し複合材b)又は態様8、11、21、22、又は26のいずれかに従う還元雰囲気中で焼戻された二次コーティング複合材d)である、使用に特化される。
【0196】
態様42は、態様1~26の複合材を含む、リチウムイオン電池において使用可能なアノードに特化される。
【0197】
態様43は、態様9若しくは10又は態様14~20のいずれかの一次コーティング焼戻し複合材b)又は態様8、11、21、22、又は26のいずれかに従う還元雰囲気中で焼戻された二次コーティング複合材d)を含む、リチウムイオン電池において使用可能な態様41に従うアノードに特化される。
【0198】
態様45は、態様42又は43のアノードを含むリチウムイオン電池に特化される。
【0199】
態様45は、態様9~14の一次コーティング複合材a)の、態様9又は10及び態様14~20の一次コーティング焼戻し複合材b)の製造のための中間生成物としての使用に特化される。
【実施例
【0200】
ZnOコーティング剥離グラファイト複合材の合成:
a 初期グラファイト(比較例1):
全体的に、グラファイト材料としてECOPHIT G GFG 350(SGL Carbon)を使用した(比較例1)。それは高い炭素含有量(純度≧95%)を示し、D50値が315~385μmである。比表面積(BET)は24.1m/gであった。グラファイトを複合材の形成に使用する前に、材料を400μm及び200μmメッシュふるいに通し、その後の実験には中間画分を使用した。
【0201】
b 剥離グラファイト(EG;比較例2):
比較例1のグラファイト4gを400mlのイソプロパノール中に分散させ、160Wで90分間、超音波衝撃(ドイツ、Hielscher製、Tip-signification)に供した。
【0202】
c ZnOナノ粒子の合成(純粋な形態:比較例3):
ZnOナノ粒子は常に、Bahnemann(D.W.Bahnemann、C.Kormann、M.R.Hoffmann、量子サイズ酸化亜鉛の調製及び特性決定-詳細な分光法研究(Preparation and Characterization of Quantum Size Zinc-Oxide - A detailed Spectroscopic Study)、J.Phys.Chem.1987、91(14)、p.3789-3798)及びMeulenkamp(E.A:Meulenkamp、ZnOナノ粒子の合成及び成長(Synthesis and growth of ZnO nanoparticles)、J.Phys.Chem.B1998、102(29)、p.5566-5572)の最適化した方法に従って合成した:
まずZn(CHCOO)-H0(Sigma-Aldrich、純度≧99%)3.99g(0.018モル)を1.46Lの沸騰イソプロパノール中に溶解し室温まで放冷した。超音波浴を用いて1.22g(0、029モル)のLiOHを365mlのイソプロパノール中に溶解した。その後LiOH溶液を溶解したZn(CHCOO)-H0溶液に攪拌しながら一度に添加した。分散により透明から白濁へと変わった。白濁は30分後に消え分散液をさらに24時間攪拌した。得られたZnOナノ粒子の直径は321nmに位置するUV/VISスペクトルにおいて最大値を示した。
【0203】
この方法によって合成されたZnOナノ粒子はTEM分析により評価した場合に3.7nmの平均直径を有していた。
【0204】
A1 一次コーティング複合材a):
3つの異なる方法を使用して一次コーティング複合材を製造した。
【0205】
実施例1 ZnO@EG(syn):
3.99gのZn(CHCOO)-H0を1.46Lのイソプロパノール中に溶解した溶液に4gのグラファイトを添加した。次いでこの混合物に、365mlのイソプロパノールに溶解した1.22gのLiOHを、激しく攪拌しながら一度に添加した。この混合物をさらに室温で一晩攪拌し、第1複合材を形成した。この複合材を160Wで190分間超音波処理(ドイツ、Hielscher製、Tip-sonofication)し、24時間静置して一次ZnO@EG複合材を得た。ブフナーロートを用いて固体複合材を溶液から分離し、イソプロパノールで繰り返し洗浄し、箱型乾燥機中で50℃にて3時間乾燥した。
【0206】
実施例2 ZnO@EG(pre):
複合材形成の第1工程は超音波衝撃によるグラファイトの剥離であった。したがって、90分間(160W)の超音波照射を用いて4.0gのグラファイトを400mlのイソプロパノール中に分散させた。次いで、3.99gのZn(CHCOO)-H0を含有する1.46Lのイソプロパノールを上述の分散液に添加した。最後にこの混合物に、365mLのイソプロパノール中に溶解した1.22gのLiOHを、激しく攪拌しながら一度に添加した。この混合物を室温で一晩攪拌した。得られた生成物を実施例1に記載したのと同様にしてろ過し、洗浄し、及び乾燥した。
【0207】
実施例3 ZnO@EG(post):
複合材形成のための2つの構成成分を別々に調製した。上記のパートcに記載したようにしてZnOナノ粒子形成を行った(比較例3)。剥離グラファイト(EG)を比較例2において上述したように調製した。激しく攪拌しながら両方の構成成分を混合して一晩攪拌した。得られた生成物を、実施例1で記載したのと同様にしてろ過し、洗浄し、及び乾燥した。
【0208】
実施例1~3のすべてが過剰なZnOナノ粒子を示した。このことは、洗浄溶液のUV/Visスペクトルを測定し、剥離グラファイト基材に吸着されなかった過剰なZnOナノ粒子の濃度を、321nmにおける吸光度及び594mol-1cm-1Lの拡張係数(extension coefficient)を用いることにより再計算することによって容易に検証することができた。さらに、溶液中のZnOナノ粒子の濃度をICP-OESを用いて決定すると、UV/VIS分光法により決定された濃度との良好な一致を示した。
【0209】
実施例3a~3h(post、種々な濃度の保存溶液):
実施例3を数回繰り返したが、ZnOナノ粒子の希釈溶液を使用した。ここで約3.7nmの直径を有するZnOナノ粒子保存溶液(SL)の性質には変更はなかった。剥離グラファイトの表面上での4.7nmの平均直径は、実施例3に従い剥離グラファイトとZnOナノ粒子分散液とを混合した後の、過剰な亜鉛塩及び塩基によるZnO粒子のさらなる成長に起因する可能性が最も高い。さらに、温度、吸着時間、剥離グラファイト濃度、超音波強度、及び処理時間といったパラメータは一定に保ったが、保存溶液のZnOナノ粒子濃度は100%SL(0.8g/l)から10%SL(0.08g/l)まで段階的に希釈して、さらなる複合材の形成を行った。
【0210】
実施例3(100%保存溶液)のZnOナノ粒子の溶液と比較した濃度を以下の表に示す。
【0211】
【表1】
【0212】
比較例4:実施例1を繰り返したが超音波衝撃を全く使用しなかった。
【0213】
比較例5:実施例3を繰り返したが超音波衝撃を全く使用しなかった。
【0214】
これらの2つの比較例は剥離無しの初期グラファイトのコーティング実験を表している。
【0215】
A2 一次コーティング焼戻し複合材b):
実施例4~11及び比較例6:
実施例3の調製を数回繰り返した。これらの一次コーティング複合材をマッフル炉中N雰囲気下で焼戻した。各場合において温度を10℃/分で最終温度に達するまで上昇させ、そこで1時間維持した。室温に戻したのち試料を回収した。その温度を420℃(実施例4)から800℃(比較例6)まで変化させた。様々な実施例について表3に示す。
【0216】
実施例12~17及び比較例7:
手順は実施例4~9と同じとしたが、不活性N雰囲気を使用する代わりに試料をH/N(10%/90%v/v)雰囲気中で350℃、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、及び800℃(比較例7)の最終温度にて焼戻した。詳細を表3に示す。
【0217】
A3 二次コーティング複合材c):
実施例18~22:
実施例4、5、7、8、及び9の一次コーティング焼戻し複合材を、実施例3の方法(post)に従いZnOナノ粒子でさらにコーティングし、実施例18~22の二次コーティング複合材を得た。
【0218】
さらに、実施例14の一次コーティング焼戻し複合材を、実施例3の方法(post)に従いZnOナノ粒子でさらにコーティングし、実施例23の二次コーティング複合材を得た。
【0219】
A4 二次コーティング焼戻し複合材d):
実施例24:
実施例7に基づく二次コーティング複合材c)の実施例20を、上述したようにN雰囲気中600℃で焼戻した。
【0220】
比較例8:実施例3の方法(post)に従って複合材を調製したが、化学的に調製されたZnO粒子の代わりに市販のZnO酸化亜鉛(NanoArc(商標)Zn-0605、Alfa Aesar、40-100nm APS Powder)を使用した。これを比較例2に従い別に調製した剥離グラファイトと混合した。その後この化合物を、実施例7と同様にN雰囲気中600℃で焼戻した。
【0221】
B 実施例及び比較例の詳細な特性決定
B1 TEM及びSEM分析:
走査型電子顕微鏡(SEM;Supra35、Zeiss)及び透過型電子顕微鏡(TEM;EM912Omega、Zeiss)を用いて元の材料及び複合化された材料のモルホロジー及びサイズ分布を決定した。SEMについては、顕微鏡中で1kV及び1.5kVの動作電圧にてそれぞれ試料を分析した。TEMについては、超音波を用いて試料をイソプロパノール中に溶解し及び200メッシュ銅製格子(Lacey)に付着させた。顕微鏡中で200kVの加速電圧にて試料を調査した。各試料について、100個を超える粒子のサイズをを測定して平均サイズを得た。TEM分析において使用した倍率は6,000x、12,500x、25,000x、及び50,000xであった。
【0222】
B1.1:タイプa)の一次コーティング複合材:
図1は実施例1~3の例示的なTEM(A-C)及びSEM(D-F)写真を示す。TEM写真は剥離グラファイトシートのZnOナノ粒子による分離形態又は凝集形態での広範にわたり均質な被覆を示している。これらの写真はグラファイトシートの被覆が基材の両面で起こっているかどうかは示していない。したがって追加のSEM写真を作成した。ここでは実際に、特に写真Eにおいて、ZnOナノ粒子がグラファイトシートを両側で覆っていることが検知できる。基材のナノ粒子による均質な被覆もまたこれらの写真上で見られる。特に実施例3の試料(post、写真F)について、非常に均質な被覆を見ることができる。写真D及びEは特定の島形態を示しており、これはSEM用の試料を調製することによる乾燥現象に起因する可能性が最も高い。
【0223】
超音波を約1分間用いて、実施例1~3のすべての試料をイソプロパノール中に再分散させた。それぞれの場合において分散性は非常に良好であった。24時間後に、黒色の複合材料の非常のわずかな沈降が起こっただけである。
【0224】
TEM及びSEMによるさらなる分析により、すべてのZnOナノ粒子が支持体表面に吸着され、被覆率の検出可能な低下はなかったことが示された。
【0225】
実施例1~3の複合材料はしたがって容易に、分散液の形態で又は粉末として、さらに加工することが可能である。
【0226】
さらに実施例1~25について、TEMにより少なくとも70個の粒子をカウントすることによって粒子サイズ分布を評価した。結果を表3に示す。タイプa)の一次コーティング複合材(実施例1~3)は、ナノ粒子の平均直径dZnOが約5nmと小さく、標準偏差は比較的狭かった。本質的に単分散ナノ粒子が存在する。
【0227】
タイプb)の一次コーティング焼戻し複合材は、オストバルト熟成に起因して焼戻し工程の温度上昇に伴いより大きな平均直径を示す。標準偏差もまた、絶対値においても相対標準偏差としても増加する。図2には、同じ倍率のTEM写真及び対応する粒子分布のヒストグラムを示す。実施例は温度により示している。420℃では粒子サイズの変化はどちらかと言えばまだ小さい。500℃以降は温度の上昇に伴い粒子サイズは増大し続ける。
【0228】
タイプcの複合材の場合、表3に示すように二峰性の粒子サイズ分布が見られた。ここでは成長したZnOナノ粒子の粒子サイズが新しく形成されたZnOナノ粒子の小さな粒子サイズと重なっている。
【0229】
B2 FT-IR分光法
明らかに、ZnOナノ粒子は剥離グラファイト支持体に極めて安定に結合されている。グラファイトの表面化学を決定するために、複合材をFTIR測定により調査した。KBrを用いて試料をペレット化しFTIR分光計を透過モードで使用した(Nicolet iS10、Thermo Fischer Scientific)。4000から400cm-1まで1.929cm-1のステップ幅でFT-IRスペクトルを収集した。
【0230】
比較例2のグラファイト純粋材料及び実施例3の複合材料をFT-IR分光法により特性決定した。図3aにおいて、第1写真は2つの試料のFT-IRスペクトルを表示し、このうち実線は初期のグラファイト(比較例1)、下方のスペクトルは複合材(実施例3)を示し、図3bのスペクトルには対応する拡大部を示す。
【0231】
純粋グラファイトのスペクトルは3434cm-1、1735cm-1、1634cm-1、1384cm-1、1060cm-1にそれぞれHO分子のO-H伸縮振動、COOH基のC=O伸縮振動、C=Cの骨格振動、C-OH基のO-H変形、及びC-O振動に対応するピークを有する。さらに、2852cm-1、2922cm-1及び2957cm-1におけるピークはそれぞれ-CH、-CH、及び-CH官能基の伸縮振動に対応する。
【0232】
複合材(ZnO@EG)のスペクトルにおいて、C-OH及びC=Oの特徴的なピークは明らかに弱くなるか又は完全に消失し、このことはZnOナノ粒子が剥離グラファイトシートに良好に結合していることを示している(Hong.W.;Li.L.Z.;Xue.R.N.;Xu.X.Y.;Wang.H.;Zhou.J.K.;Zhao.H.L;Song.Y.H.;Liu.Y.;Gao.J.P.、酸素還元反応のための効率的な電子触媒としての亜鉛フェライト/還元グラフェンオキサイドのワンポット水熱合成(One-pot hydrothermal synthesis of Zinc ferrite/reduced graphene oxide as an efficient electrocatalyst for oxygen reduction reaction)、Journal of Colloid and Interface Science、2017,485,175-182、及びZhou.X.F.;Hu.Z.L;Fan.Y.Q.;Chen.S.;Ding.W.P.;Xu.N.P.、階層的多孔質構造を有する多層ZnOナノシートの小球型組織化(Microspheric organization of multilayered ZnO nanosheets with hierarchically porous structures)、J.Phys.Chem.C 2008、112(31)、11722-11728)。
【0233】
さらに、スペクトルの変化は574cm-1の範囲においても検出可能でありZnOナノ粒子の良好な吸着が確認された(Sankapal.B.R.;Gajare.H.B.;Karade.S.S.;Salunkhe.R.R.;Dubal.D.P.、エネルギー貯蔵用途のための酸化亜鉛被包カーボンナノチューブ薄膜(Zinc Oxide Encapsulated Carbon Nanotube Thin Films for Energy Storage Applications)、Electrochim.Acta、2016、192、377-384)。さらに、実施例3の第一級亜鉛塩に帰属される酢酸残基の特徴的なピークは得られず、不純物を含まない複合材の形成が示された。
【0234】
B3 ZnO含有量及び被覆率の決定
B3.1 一次コーティング複合材:
ZnOナノ粒子の含有量を4つの方法:EDX、ICP-OES、及びXRDを用いて決定した。
【0235】
ICP-OES(Ciros SOP、SPECTRO)を行ってHCI:H(1:1)分解の元素組成を分析した。
【0236】
エネルギー分散X線分光法(EDX、X-Max150、Oxford Instruments)を用いて複合材微小領域の化学組成を分析した。試料を6~8.5mmの作動距離及び3kVの作動電圧を用いて分析した。
【0237】
ベルソープミニ(Belsorp mini)(BEL Japan、Inc.)を77Kで用いて窒素吸着/脱着に基づくブルナウアーエメットテラー(Brunauer-Emmett-Teller)(BET)法を測定しグラファイト基材の比表面積を決定した。測定に先立ち、試料を105℃で1時間脱気した。5点分析法を使用した。
【0238】
図4Bは実施例3の例示的なEDXスペクトルの概観を示す。試料中にC、Zn、及びO以外の元素は存在しないことがよく分かる。
【0239】
表2にEDXにより決定した実施例4~9の元素組成を示す。
【0240】
【表2】
【0241】
EDX分析において0.1wt%を超える量のさらに別の要素は確認されなかった。
【0242】
発明複合材は明らかにZnO及びグラファイト材料のみから構成される。
【0243】
図4Aに、実施例1~3の複合材のwt%におけるZnO含有量の結果を示す。これらの値は表3にも示される。基本的にZnOの濃度は一次コーティング複合材a)の3つの試料1~3すべてについてほぼ同じである。実施例3のpost法はわずかに低い値をもたらし、これは剥離グラファイトシートの表面に分離されたZnOナノ粒子が最も良好に形成されることに起因する。syn又はpreの合成法を用いると、剥離グラファイトの表面上で少なくとも部分的にZnOナノ粒子の核形成が始まり、わずかに高いZnO含有量がもたらされることになる。
【0244】
EDXにより得られる値は極めて大きな標準偏差に示されるように大きな変動を示し、これは、得られる信号の強度が非線形的に電子のプローブ材料への側方侵入深さに左右されるためである。得られた値はしたがって正確ではない。
【0245】
複合材におけるZnOナノ粒子の含有量を決定するためには、ICP-OES法が簡単で高精度であるため最も好ましい。表3に示される濃度CZnOはICP-OES法により決定された。
【0246】
ZnOナノ粒子による支持体の被覆の程度を特性化しようとする場合、最初から異なる支持材料を選択することによって、又はZnOナノ粒子のコーティング工程において使用される超音波衝撃によって引き起こされる剥離の程度の変化によって、剥離グラファイトの比表面積が変わる可能性があるため、wt%におけるZnO含有量の絶対値にはさほど意味がない。好都合なことに比表面積βは上述したように不活性雰囲気中800℃でZnOナノ粒子を除去することによって測定することができる。剥離グラファイト支持材料の比表面積はこの熱処理によって変化しない。
【0247】
ZnO/βの比ははるかに意義深く、それは剥離グラファイト基材の異なる比表面積の影響がここでは減少されるためである。表3に、すべての発明実施例及びいくつかの比較例について、この比が示されている。
【0248】
さらに種a)及びb)について被覆率θprを以下の式により算出した:
【0249】
【数12】
【0250】
式中、CZnOはZnOの質量のZnO及び剥離グラファイトの質量の合計に対する質量比率であり、rpr,seはTEMにより決定されるZnO一次粒子の平均半径であり(これは直径の半分を意味する)、ρZnOはZnOナノ粒子の密度g/cmであり、及びβは支持材料の比表面積(BET)である。
【0251】
式(VI)に基づくこのパラメータは、一次コーティング粒子a)又はb)にのみ意味のある形で起因し得る。したがって、すべての二次コーティング複合材の実施例についてこのパラメータを算出しなかった。
【0252】
最初の3つの実施例1~3は全く同様の被覆率を示す。これらの被覆率は密に充填された球状ZnOナノ粒子の単層についての54%という理論値に極めて近い。したがって剥離グラファイトのZnOナノ粒子による被覆は、すべての調製方法によってほぼ完全であると見なすことができる。
【0253】
吸着プロセス(実施例3a~3f):
ZnOナノ粒子の希釈保存溶液中での濃度の減少とともに、EG表面上で吸着粒子の量が少なくなることが期待された。図5はさらなる複合材形成のために使用された希釈保存溶液中でのZnOナノ粒子の濃度を示す。ZnOナノ粒子濃度と比例的希釈保存溶液との間の線形相関を得ることができる。さらに、吸着されないZnOナノ粒子の濃度が、吸着プロセスの後に残った分散液中でのICP-OESにより決定された。適用された保存溶液の濃度によって、3つの異なる吸着領域を観測することができた。第1領域I(10%~20%保存溶液)は、残存分散液中にフリーのZnOナノ粒子がないことによってナノ粒子の完全な吸着を明らかにした。第2領域II(30%~40%保存溶液)は、2つのプロセス、ナノ粒子の連続吸着及び初期表面飽和を組み合わせた中間の相を表す。第3領域III(>50%保存溶液)は表面被覆の飽和を表し、ZnOナノ粒子単層の存在を示している。吸着されたナノ粒子の濃度はZnOナノ粒子濃度のさらなる増大に影響されないままであり、一方フリーのZnOナノ粒子の濃度は引き続き増大する。
【0254】
実施例3a~3hについての吸着の進行(ZnOナノ粒子希釈保存溶液の濃度の増大による)は、比例希釈保存溶液の関数として式(VI)により算出される表面被覆率をプロットすることによって、可視化することができる(図6)。この図は、表3には含まれなかった70%及び60%保存溶液濃度におけるさらなる2つの実施例3b及び3cを含む。50%保存溶液未満で表面被覆率の急速な増加を観測することができ、一方で50%保存溶液を超えると有意な変化は検出できない。剥離グラファイト上のZnOナノ粒子の吸着のこれらの漸近的な特徴は表面飽和の結果として生ずる。ZnOナノ粒子の吸着は不可逆的であり且つナノ粒子は剥離グラファイト表面上でランダムな位置に1つずつ吸着されたため、54%という最大の可能な被覆率(妨害限界)を有する単分散硬質球体のランダムな連続吸着の理論的モデルが適用できた(Schaaf.P.;Talbot.J.、吸着プロセスにおける表面排除効果(Surface Exclusion Effects in Adsorption Processes)、J.Chem.Phys.、1989、91(7)、4401-4409;Schaaf.P.;Voegel.J.C;Senger.B.、ランダムな連続吸着から弾道的蒸着まで:不可逆的蒸着プロセスの概観(From random sequential adsorption to ballistic deposition: A general view of irreversible deposition processes)、J.Phys.Chem.B2000、104(10)、2204-2214)。
【0255】
剥離グラファイト表面が過剰に存在していた限りにおいて、完全な被覆が起こりさらなる粒子の付着が起こらなくなるまでナノ粒子は引き続き吸着された。希釈されたZnOナノ粒子保存溶液の適用によって、表面被覆率を制御して40%まで直接調節することができる。既存の複合材では、54%の理論限界の最大可能表面被覆率は達成されない。
【0256】
飽和領域におけるTEM画像上のブランク範囲の存在によって不完全な表面被覆が確認された。50%SLを超える濃度でのより長い吸着時間によって、表面被覆率の増加を達成することができた。
【0257】
剥離グラファイトのパラメータcZnO/βの読み取り(loading)がここでは0.2未満であったため、実施例3g及び3h(20%及び10%保存溶液)はむしろ比較例とみなした。このような複合材は、それらの低いZnO含有量のため、純粋な剥離グラファイトとそう大きく異ならないとみなされる。
【0258】
【表3】
【0259】
一次コーティング複合材を異なる温度で焼戻すと、ZnOの含有量は本質的に420~約700℃の温度に対して一定となる。しかし800℃では、ZnO粒子は、おそらく昇華によって、ほとんど完全に消失する。したがって、この温度における試料は比較例とした。
【0260】
この温度でのZnOナノ粒子の消失は炭素熱還元に起因していた。
【0261】
ZnO+C→Zn+CO (VIII)
ZnO+CO→Zn+CO(IX)
【0262】
CO及びCOの形成はSTA-MS(同時熱分析質量分析法)により脱着プロセスを観測した場合に検出することができた。その際COの第1信号は約300℃で既に検出可能であったことが分かった。反応速度は温度の上昇とともに増加し最終的にZnO粒子は800℃付近で消失した。元素性Zn粒子は800℃で昇華すると思われる。N/Hの不活性及び還元雰囲気中で焼戻す場合、ZnOの還元によるZnリッチ相の形成はさらにいっそう強制され、このことは電気化学挙動の有利な側面を有する。
【0263】
そして不活性雰囲気においても、高温において炭素及び中間体一酸化炭素に起因してZnOナノ粒子の還元プロセスが起こり得る。
【0264】
実施例4の試料は他の実施例と比較して低い含有量を示すが、これは420℃の温度ではZnO粒子はあまり成長せずしたがって新しいZnOナノ粒子のためにフリーになったグラファイト支持体の場所がほとんどなかったためである。
【0265】
実施例5~11のすべての試料について、ZnOナノ粒子の平均粒子サイズは、オストバルト熟成に起因して焼戻し温度の上昇とともに増加した。粒子サイズ分布についても標準偏差の値に見られる通りより広くなった。
【0266】
/N雰囲気中で処理された実施例12~17の場合には、気相からの直接還元が起こり得るため、ZnO還元ははるかに低い温度で開始する。同じ温度での不活性雰囲気焼戻しのサンプルと比較した場合、例えば実施例16を実施例6と比較した場合には、これらの試料についてより大きな直径を得ることができる。H/N雰囲気中のより早いZnO還元は、核形成プロセス及びしたがってより高度なオストバルト熟成を意味するものと思われる。
【0267】
ZnOナノ粒子の濃度は、幾らかの統計的な変動の範囲内で(精度は約1.5wt%)、本質的に一定に保持される。より高い温度(不活性雰囲気焼戻しについては720℃、実施例10参照、又は還元雰囲気焼戻しについては600℃、実施例17参照)の場合のみ、より高い温度で開始するZnO濃度の減少が見られる。800℃ではZnOはもはや全く観察できない(比較例6及び7)。
【0268】
被覆率は温度の上昇とともに劇的に減少し、これは主に粒子直径の増大に起因する。
【0269】
こうして焼戻し温度の上昇とともに、剥離グラファイト基材の表面の部分が次第にフリーになり再びZnOの吸着のために利用可能となる。
【0270】
B3.2 二次コーティング粒子c)
図7に、実施例7の例示的なTEM写真を示す。焼戻し粒子の2つの異なる粒子サイズ及び新たにコーティングされた粒子は、サイズ及び形態における違いに起因してうまく分離され得る。小さな新鮮な粒子はどちらかと言えば球形であり、焼き戻されたより大きな粒子は異なるモルホロジーを有する傾向にある。平均粒子直径及びその標準偏差により特徴付けられる粒子サイズ分布が重なるように見える実施例14でさえ、異なる粒子形状が2つの粒子分布を別々に決定することを可能にした。
【0271】
B4 XRD分析:
室温にてCu-Κα光源(波長=1.54178Å)を有するPhilips、X’Pert MPD PW3040ディフラクトメータを用い、0.02°の2θステップサイズを用いて粉末試料のX線ディフラクトグラムを記録した。分析に使用したソフトウェアはXPert High Score Plus 4.1であった。さらにデータベースICDD PDF-4の使用に基づいて分析を行った。
【0272】
XRDディフラクトグラムから、複合材料Zn@EGについての様々な情報が得られた。組成、並びにZnOナノ粒子の結晶構造及び結晶子径、並びに支持材料の黒鉛化度及び組織係数(TC)が得られた。種々のパラメータの決定の全体を通して、リートベルト解析を用いた。
【0273】
EGの及び調製されたZnO@EG複合材としての結晶度をX線回折(XRD)により特性決定した。その結果を図8aに、対応する拡大図を8bに示す。純粋なEGは2θ=26.4°、42.3°、44.5°、50.6°、56.5°、及び59.8°に、グラファイトの(002)、(100)、(101)、(004)、(110)、及び(112)の反射に起因する6つの回折ピークを示す(ICDD、PDF N00-056-0159)。2θ=26.4°にこの特徴的なグラファイトのピーク(002)が明らかに存在した。調査されたグラファイトの単独のグラフェンシート(d002)間の層間隔を用い、次式を用いて黒鉛化度gを算出した。
【0274】
【数13】
【0275】
ここで、d002は(002)反射の測定位置について決定されブラッグ(Bragg)の式に従って算出された格子面の距離であり、d=335.4pmであって全体的に黒鉛化された炭素についての文献値であり、及びdngは非黒鉛化(乱層)炭素を表しており344pmの値を有する(V.A:Davydov、A.V:Rakhmanina、V.Agafonov、B.Narymbetov、J.P.Boudou、H.Szwarc、高圧での多環芳香族炭化水素のグラファイト及びダイヤモンドへの転換(Conversion of polycyclic aromatic hydrocarbons to graphite and diamond at high pressures)、Carbon 2004,42(2),261-269)。式(IV)は、上述した範囲のd及びdngを有するグラファイトに対してのみ信頼性をもって適用できる。グラフェン基材には適用不可である。
【0276】
種々の実施例についての(002)ピークの位置、d002、及びgを表4に開示する。
【0277】
初期のグラファイト支持体(比較例1)は95.8%の黒鉛化度を有する。超音波処理によって、剥離グラファイトの黒鉛化度は95.8%から88%に減少し、これは初期グラファイトシートの剥離及びサイズ減少に起因する。それでも、なお高い黒鉛化度が得られた。実施例の測定された格子面d(002)の距離は0.3358~0.3370nm程度にすぎなかった。
【0278】
なお、化学剥離グラフェンオキサイドシートは2θ=12.2°において特徴的な回折ピークを表し、及び0.74nmの拡大された層間隔により酸化剤への暴露により生じたエポキシ基のような酸素含有基の存在が確認される((N.Son、H.Fan、H.Tian、Applied Surface Science 353 2015、580-587)。2θ=12.2°における回折ピークは初期グラファイトについてもいずれの剥離グラファイトについても検出されず、さらに層間隔は0.34nmを含み、複合材形成プロセス中に危険な化学物質が排除されたことが確認された。顕著な量の化学物質の存在が剥離グラファイトの表面における官能基の形成、及びしたがって層間隔の増大につながったものと思われる。
【0279】
同じ理由により酸化グラフェンについてはg値もまたおよそ<50%又はさらには<30%しかなかったようだ。
【0280】
この結果は明らかに、剥離グラファイト基材が非酸化グラファイトであることを示している。
【0281】
実施例4~9のg値を、各焼戻し温度についての対応する二次コーティング複合材の実施例(実施例14~18)と比較すると、二次コーティング実施例のg値のほうが低い傾向にある。これは無秩序(disorder)の量の増大によって説明され得る。幾らかのZnOナノ粒子が剥離グラファイトの格子面に組み込まれている可能性もある。同じ効果は純粋な剥離グラファイト(比較例2)のg値を実施例1~3と比較した場合にも見ることができる。
【0282】
ZnO@EG複合材は、グラファイトの回折ピークのみならず、さらに2θ=31.7°、34.3°、36.1°、47.4°、56.5°、62.7°、及び66.3°においても回折ピークを示し、これらはそれぞれウルツ鉱六方晶構造化ZnOの(100)、(002)、(101)、(102)、(110)、(103)、及び(112)面の反射に起因し得る(ICDD、PDFN04-008-8198)。これはZnOナノ粒子が剥離グラファイト表面にその基本的構造を変更することなく良好に固着していること示す。XRDパターンは不純物由来のピークを全く示さず、これによりZnOナノ粒子が高い純度を有することが確認される。
【0283】
ZnO信号について、複合材中のZnOナノ粒子の結晶学的配向の分布に関する組織TC(hkl)をさらに分析した。
【0284】
格子面<hkl>についての「組織係数」TCは、強度l(hkl)(データベースにより得られる)及び測定強度I(hkl)から式(X)により算出することができる:
【0285】
【数14】
【0286】
式中、iは測定されたピークの数を表す。TC(hkl)≦1の場合、特定の(hkl)面に対して統計的な配向が起こる。TC(hkl)>1の場合、特定の(hkl)面に対する優勢な配向が起こる。面(hkl)の方向における完全な配向は係数TC=iをもたらし得る。(L.Spiess、G.Teichert、R.Schwarzer、H.Behnken、C.Genzel、Moderne Roentgenbeugung、Vieweg+Teubner、Wiesbaden、2009)。
【0287】
図9は、実施例3のタイプa)の一次コーティング複合材(ここではRefで表す)及び実施例3、4及び実施例7~9のタイプb)の一次焼戻し複合材について示している。実施例3の一次コーティング複合材は<002>面における前決定を示し、温度の上昇とともに前配向は<001>方向へと変化する。表4には種々の試料についてのTC(100)、TC(002)、及びこれらの組織係数の比を示す。
【0288】
一次コーティング複合材(実施例1~3)は大きなTC(002)値を有する。これは主に(002)格子方向に配向するグラファイト表面上でのZnOのエピタキシャル成長に起因し得る。焼戻しの後(実施例4~9)、ZnO粒子は粒子サイズにおいて成長する。TC(001)は増大し、TC(002)は減少する。
【0289】
上述したように、焼戻し中にオストバルト熟成プロセスが起こるだけでなく、同時に上述したプロセスによって表されるような炭素熱還元(式(VIII)及び(IX)の反応)が起こる。(001)格子面は(002)格子面に直交し及びその増大は、成長するZnO結晶中における元素性亜鉛に富む相の形成をもって説明されると考えられる。このようなZnリッチ相はまた複合材タイプbの試料の断面のEDX分析によっても検出することができた。
【0290】
【表4】
【0291】
B5 EDXによるZn含有量の決定:
複合材試料をEpoFix Resin及びEpoFix Hardener(両方ともドイツ、Struers製)の混合物(25:3)中に懸濁した。この混合物をホイル上に塗り延ばし24時間乾燥した。その後硬化した試料をホイルから機械的に分離し薄いスライスを得た。これらを再びエポキシ樹脂中に埋め込み、硬化した後、断面へとカットした。SEM(Zeiss、モデルSupra35)を用いてZnOナノ粒子を検出した。試料に対して加速電圧3kV及び試料までの距離6~8.5mmでEDXを行った。亜鉛及び酸素の含有量によって5~10個の粒子を測定しデータを平均した。この方法により吸着された有機種に起因していくらかの酸素を含有するグラファイト基材から有意な信号が得られることを回避した。試料の電気伝導度は十分に高かったため追加のコーティングは必要なかった。
【0292】
結果を図10に例示的に示す。図10a)はこの決定に典型的に使用される断面のSEM写真(ここでは実施例9について)を示す。図10b)には、実施例5、7、及び9についての結果を示す。初めに500℃の焼戻し温度においては、酸素の含有量がZnの含有量よりも多いため、ZnOは化学量論下にある。温度の上昇とともにZn量が増加し同時に酸素の量が減少する。このことはZnの形成に起因し得るが、これによってZnOナノ粒子中にZnリッチ相が形成されやすくなる。
【0293】
C 電気化学的特徴:
C1:電極の製造:
比較例2、8、及び実施例3、6、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、20、22、23、24、及び25の粉末化ZnO@EG複合材をポリアクリル酸(PAA、Sigma Aldrich)及びカーボンブラック(DENKA-電気化学工業株式会社)と60:30:10の重量比で、1-メチル-2-ピロリドン溶媒(NMP、Merck)中で混合することによって電極を調製した。このスラリーを銅ホイル(Sigma Aldrich:99.98%、厚さ20μm;Schlenk AG;ドイツ)上に400μmのスパイラルを有するドクターブレードを用いてコーティングし減圧下100℃で1時間乾燥した。アルゴンで満たしたドライボックス中でリチウム金属(Chempur、99、8%、厚さ0.5mm)を負極として用いて単電池の全てを組み立てた。Whatmanセパレータ(ガラスマイクロファイバーフィルターセパレータ)及び炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DMC)との1:1v/v混合物中の1MのLiPF電解液(Selectilyte(商標)LP30;BASF)を用いてコイン電池を作製した。
【0294】
C2:電気化学特性:
CTS LAB(BaSyTec、ドイツ)試験ステーションを用いてLi/Liに対して5mV~2Vの電圧範囲でガルバノスタット充電/放電サイクルを行った。0.05Cの定電流を1サイクル当たり約40時間持続させて、50回の充電/放電サイクルを行った。
【0295】
表5にサイクル実験の結果を示す。バルク材料の理論容量及び複合材剥離グラファイト/ZnO材料の組成から理論容量を算出した。剥離グラファイト(比較例2)はその理論容量と比較してどちらかと言えば低い容量値を有していた。ここで選択されたグラファイト材料はこの目的のために最良のグラファイトではなかった可能性がある。このことを考慮に入れると、実施例7の他の複合材が、2つの材料の質量比によって算出される理論容量の79%に達したことは注目すべきである。これは支持材料とコーティング焼戻しZnOナノ粒子との相乗効果を示している。
【0296】
表5の第6列にΔCspを示すが、ΔCspは、非コーティング剥離グラファイト(比較例2)の測定容量に対する試料の実験的容量の相対的な差を反映する。それは以下のように算出された:
【0297】
ΔCsp=100%×(Csp-275mAh/g)/275mAh/g (XI)
【0298】
図11に、不活性雰囲気中で焼戻された種々の実施例(複合材タイプb)について、測定された比容量をサイクル数に対してプロットした。点線は275mAh/gの比容量を有する比較例2の非コーティング剥離グラファイトを表す。
【0299】
実施例11を除く全ての実施例は50サイクルの間全く一定の比容量を示した。
【0300】
実施例6を除く複合材タイプb)の全ての実施例が、比較例2の非コーティング剥離グラファイトと比較して増大された比容量を示した。このシリーズの最良の結果は実施例7(600℃にて焼戻し)及び実施例9(700℃にて焼戻し)について得られた。
【0301】
試料6(550℃にて焼戻し)は非コーティング剥離グラファイト(比較例2)と比較すると比容量のわずかな減少を示したが、少なくともサイクル数の増加とともに容量の増加を示し、これは普通のことではない。実施例11(750℃にて焼戻し)の比容量は比較例2よりもわずかに良好なだけである。このように焼戻し温度はZnO粒子の電気化学挙動に強い影響を有するように思われる。理論に拘泥されるものではないが、Znリッチ帯域の量は有効な効果を有すると考えられる。ZnOの平均粒子サイズは極めて大きく(実施例7について42nm及び実施例11については200nm超)、容量挙動に対してはあまり強い影響を有するようには思われない。
【0302】
複合材b)タイプと比較して、複合材タイプa)を表す実施例3は比較例2の剥離グラファイトよりもはるかに低い比容量を有する(表5参照)。
【0303】
図12では、複合材タイプbであるが還元雰囲気中で様々な温度にて焼戻された実施例12~16について、測定された比容量をサイクル数に対してプロットしている。点線は比較例2の非コーティング剥離グラファイトの容量を表す。
【0304】
全ての実施例は高いサイクル安定性を示し、及び比容量は非コーティング剥離グラファイト(比較例2)と比較して増大され、及び一般にそれらは不活性雰囲気中で焼戻された実施例よりも高い。サイクル実験はさらなる焼戻しを用いずに実験室中で室温にて行われるため、サイクルプログラム中の温度変動に起因して、例えば実施例12についてのようないくらか波状の曲線が得られることが非常に多い。
【0305】
実施例12(350℃にて焼戻し)は比較例2と比較して小さな増加を示しただけであった。最良の結果は実施例13(400℃にて焼戻し)において得られ、比較例2と比較して32%の相対的増加ΔCspを示した(表5)。実施例14~16は容量の減少傾向を示した。
【0306】
表5により分かるように、実施例17(600℃にて焼戻し)の比容量は比較例2よりもわずかに高いだけであった。これはZnOナノ粒子の全体濃度の減少に起因する(表3の第6列参照)。明らかに焼戻しの温度はこの場合も強い影響を有するが、比容量の最大限の増加を得るために必要とされる温度は、不活性雰囲気中で焼戻された実施例と比較してはるかに低い。
【0307】
複合材aと同様、タイプcの複合材は全て、表5から実施例20、22、及び23について分かるように、非コーティング剥離グラファイト(比較例2)と比較して低下した比容量を示す。これは剥離グラファイトの表面のフリーの空間を占有する新しい小さなZnOナノ粒子の存在に起因する。これらの非焼戻しZnOナノ粒子は、実施例3についてすでに見ることができたように、複合材料の比容量に対して負の影響を有する。
【0308】
それに対して、タイプdの複合材(2度焼戻し)は再び、表5から実施例25について分かるように、還元雰囲気中で焼戻しした場合、非コーティング剥離グラファイト(比較例2)と比較して比容量の増加を示す。しかしこの増加は小さく、タイプbの複合材の強い増加とは全く比較にならない。
【0309】
複合材のタイプの違いを指摘するために、図13に比容量対サイクル数を不活性雰囲気中600℃で焼戻された異なる実施例についてプロットした。タイプaの複合材(ここでは実施例3により例示された)の容量は非コーティング剥離グラファイトと比較して顕著に小さな容量を有していた。したがって初期の非常に小さなZnOナノ粒子は材料の容量を増加させないと思われる。この材料はタイプb及び全ての他のタイプの複合材の焼戻し試料の前駆体である。ここでは実施例7(タイプb)のみが非コーティング剥離グラファイト(比較例2)よりも高い容量を示している。
【0310】
二次コーティング複合材(実施例20及び24)は、実施例7及び実施例3の試料の間の容量を有する。それらは第1焼戻し工程に起因するより大きなZnO粒子と第2コーティング工程からの小さなZnO粒子との混合物を含有する。2度のコーティング及び焼戻し工程を伴う複合材を示す実施例24は、グラファイトの容量にほぼ達する容量を有する。しかしながら、二重のコーティング工程は、異なるサイズのZnO粒子の非常に広い範囲をもたらし、これは電気化学挙動にとって有利ではない場合がある。しかしながら採用される焼戻し温度や条件並びにZnO粒子の被覆率に関して最適化された複合材タイプd)の試料もまた、純粋な剥離グラファイトよりも高い容量を示す場合もあるであろう。
【0311】
同様に、図14に、還元雰囲気中450℃で焼戻された実施例についての容量をプロットする。複合材タイプa)を表す実施例3も再度プロットする。ここで実施例14(タイプb)及び実施例25(タイプd)は非コーティング剥離グラファイト(比較例2)よりも高い比容量を示している。実施例23はより低い容量を有するが、実施例20(不活性焼戻し)の場合よりもはるかに高い。還元雰囲気中で焼戻された試料の平均粒子サイズは、不活性雰囲気のものよりも低い(実施例23を実施例22と、また実施例25を実施例24と比較;表3)。粒子サイズは還元雰囲気中で焼戻されたZnO粒子についてより強い影響を有するように思われる。
【0312】
図15に、比較例8のリチウム化及び脱リチウム化プロセスについての比容量対サイクル数特性を、クーロン効率とともに示す。比容量は200mAh/g未満であり、したがって実施例7についてよりもはるかに低い。ここではZnO粒子が本発明の方法に従って合成されたのではなくて市販のZnOナノ粒子であったため、この比較例は本発明で特許請求される方法の利点を実証している。この比較例のZnOナノ粒子はグラファイト基材に結合されておらず、ZnO/グラファイト界面においてより高い抵抗を引き起こしていると思われる。それに対して発明複合材においては、ZnOナノ粒子は、FT-IRスペクトルによっても示されたように、剥離グラファイト表面に対する結合を形成しているように思われる。
【0313】
【表5】
【0314】
ZnOナノ粒子の平均粒子サイズ及びZnの含有量の影響をより明確に示すために、図16において、不活性雰囲気中で焼戻されたタイプb)の種々の実施例について、比容量(左軸)及びパートB5に記載したEDXにより決定されるZn含有量(右軸)を平均粒子直径に対してプロットした。ZnOの総濃度の影響を除外するために、比容量を、測定容量の計算理論容量に対するパーセンテージとして算出した。総ZnO含有量は理論容量に影響するため絶対ZnO濃度の影響をこの方法により除外する。各実施例番号をプロット中に示す。
【0315】
相対的な比容量は、約40nmの平均粒子サイズにて約80%容量のプラトーの達するまで増大する。Zn含有量もまた増大して約80nmの平均粒子サイズにおいて約58原子%の一定値に達する(実施例9)。理論に拘泥されるものではないが、より高いZn含有量によりZnOナノ粒子の電気伝導度が増大すると考えられる。電気化学サイクリングデータ並びにインピーダンス分光法データの詳細な分析によってこの仮説を裏付けることができた。
【0316】
ここでは、主にZnOナノ粒子のZn含有量によって比容量が決定される。粒子のサイズは優勢な効果を有さない。ZnO粒子は1~10nmの範囲を超える平均サイズを有する。このようにL+1イオンの拡散路の減少につながる高い比表面積の有利な効果は、ここでは得られない。
【0317】
表5から、測定された実施例10及び11の比容量は前述の実施例7~9と比較して減少することが分かる。これは、より高い焼戻し温度における炭素熱還元に起因するZnO含有量の絶対的低下に起因する。
【0318】
このプラトー値は一時的に確立された一定値と見られる。ZnOのZnへの炭素熱還元(式VIII及びIX参照)及びブードア(Budouard)の式は元素性Znナノ粒子の形成をもたらし、ナノ粒子はバルク材料よりも低い昇華点を有することが知られているため、この元素性Znナノ粒子はさらに高い温度においてグラファイト表面から昇華する。
【0319】
同様に、図17に、還元雰囲気中で焼戻されたタイプb)の実施例について同様のプロッティングを行った。ここでは、容量は、約9nmの平均粒子直径(実施例13)に対して約90%まで非常に急速な増加を示し、それから約150nmの平均粒子直径を有する実施例17については70%までの減少を示す。Zn含有量もまた初めは増加を示すが、すぐに(実施例15)約58原子%のプラトー値に達する。
【0320】
これらの反応はより低い温度において既に開始するため、最初は元素性Znが形成される。温度の上昇(約720℃、表3における実施例10及び17参照)において、ZnOの全体含有量は減少し、これは、巨視的な亜鉛よりも低い沸点を有するZn(0)ナノ粒子の昇華に起因し得る。
【0321】
亜鉛リッチZnOナノ粒子の形成は、ZnOの水素ガスによる還元に起因して、より低い温度で開始する。興味深いことに、ここでは粒子サイズの影響が非常によく見られる。約10nmの粒子サイズが最も活性であるように思われ及び比容量は粒子サイズの増大とともに減少する。
【0322】
サイクルプログラムの第1サイクルの間に、複合材アノードに対して固体電極界面(SEIと呼ばれる)が構築されることは周知である。この層の形成により、不活性なLiOが形成されるために、より低い電気化学活性が付与される。一方この層はある程度の安定性を有する必要がある。この層は、その低いイオン伝導に起因して、アノードに対するオーム抵抗の効果を有し、したがって容量は減少する。
【0323】
図18に、複合材タイプb)の種々の実施例について、サイクル前の抵抗RをEISにより決定し、焼戻し温度に対してプロットする。温度の上昇とともに抵抗は減少すること及びその減少がH/N雰囲気中で処理された実施例に対してはより強いということがよく分かる。
【0324】
全ての他のタイプの複合材に対する前駆材料であるタイプa)の複合材の電気化学的不活性はこのような高い抵抗に起因する。ZnO材料がそれ自身半導体であり及びしたがって良好な電気伝導度を有さないことから、ここでの抵抗は高い。
【0325】
高温で活性化した後にZnOを、不活性雰囲気中での焼戻しについての炭素熱反応又は還元雰囲気中での焼戻しについての直接還元のいずれかによって部分的に還元し、これによってより高い電気伝導性が得られる。次いでLiイオンをインターカレートする際にZnOのより強い理論容量が作用し始め、これが複合材の比容量の増大をもたらす。
【0326】
さらに著者らは、一次ZnOナノ粒子a)が、Lイオンの内部グラファイト基材への拡散路をさらにブロックすると考えている。焼戻し中にZnOナノ粒子が成長すると、それらは剥離グラファイトの面への吸着のみが起こるサイズレジメンにある。
図1
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