(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】僧帽弁疾患による無症候性心不全の患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延のためのピモベンダンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/501 20060101AFI20220617BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220617BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220617BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20220617BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
A61K31/501
A61P9/04
A61P43/00 121
A61K31/341
A61K31/55
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020103487
(22)【出願日】2020-06-16
(62)【分割の表示】P 2018552151の分割
【原出願日】2017-04-04
【審査請求日】2020-07-15
(32)【優先日】2016-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】シューマー クリストフ マティアス
(72)【発明者】
【氏名】イェンス オラフ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510781(JP,A)
【文献】J. Vet. Med. Sci.,2007年,Vol.69, No.4,pp.373-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無症候性(潜伏、前臨床)僧帽弁疾患 (MVD)による心不全をわずらっている患者の臨床的症候の発生を遅延する方法における使用のためのピモベンダンを含む医薬組成物であって、ピモベンダン治療が、患者の既に病的に拡大された心臓の心臓サイズの減少を行ない、ピモベンダン治療が、偽薬治療又は非ピモベンダン治療と較べて患者の生存の時間の延長を行なう、医薬組成物。
【請求項2】
ピモベンダン治療が基準線、即ち、ピモベンダン治療が開始される前と較べて、好ましくはピモベンダンによる治療の10~100 日以内、更に好ましくは約30~40日以内、最も好ましくは約35日以内に、患者の既に病的に拡大された心臓の心臓サイズの少なくとも5%の減少、より好ましくは少なくとも10%、15%、20%、25%又は少なくとも30%の減少を行なう、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ピモベンダン治療が偽薬治療又は非ピモベンダン治療と較べて、少なくとも30日、更に好ましくは少なくとも2ヶ月、更に好ましくは少なくとも3ヶ月、更に好ましくは少なくとも4ヶ月、更に好ましくは少なくとも5ヶ月、更に好ましくは少なくとも6ヶ月、更に好ましくは少なくとも7ヶ月、更に好ましくは少なくとも8ヶ月、更に好ましくは少なくとも9ヶ月、更に好ましくは少なくとも10ヶ月、更に好ましくは少なくとも11ヶ月、更に好ましくは少なくとも12ヶ月、更に好ましくは少なくとも13ヶ月、更に好ましくは少なくとも14ヶ月、更に好ましくは少なくとも15ヶ月の患者の生存の時間の延長を行なう、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ピモベンダン治療が鬱血性心不全の臨床的症候を示さないで前臨床期の延長を行ない、鬱血性心不全(の臨床的症候)の発生の遅延を行ない、偽薬治療と較べて治療された患者の生存時間を増大し、治療された患者の生活の質を改善し、基準線 (即ち、治療の開始前) と較べて治療された患者の心臓サイズの減少をもたらし、治療された患者の心臓機能/拍出量を改善し、心臓の理由による患者の突然心臓死/安楽死を減少し、かつ/又は鬱血性心不全に至るリスクを低減する、請求項1から3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
患者が哺乳類、好ましくはヒト、イヌ、ネコ又はウマ、更に好ましくはイヌである、請求項1から4のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
ピモベンダンが体重1kg当り0,2 mg~0,6 mg、好ましくは体重1kg当り0,5 mgの毎日の用量で投与される、請求項1から5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
毎日のピモベンダン用量が体重1kg当り0,1 mg~0,3 mgの2回の用量、好ましくは12時間毎に体重1kg当り0,1 mg~0,3 mgの2回の用量、更に好ましくは12時間毎に体重1kg当り0,25mgの2回の用量として投与される、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
ピモベンダンが経口投与又は非経口投与、好ましくは経口投与、更に好ましくは錠剤又はカプセルの形態で経口投与、最も好ましくは錠剤の形態で経口投与される、請求項1から7のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
ピモベンダンがACE 阻害薬、好ましくはベナゼプリル; 及び利尿薬、好ましくはフロセミドからなる群から選ばれた一種以上の付加的な活性医薬成分の投与の前、その間又は後に投与される、請求項1から8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
ピモベンダンがベナゼプリル及び/又はフロセミド、好ましくは ベナゼプリル及びフロセミドと同時に投与される、請求項9記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療、特に獣医療の分野に関する。特に、本発明は (原始間葉状) 僧帽弁疾患 [(M)MVD] 及び/又は慢性弁状心臓疾患 (CVHD; また慢性弁疾患、CVD として知られている)及び/又は心房心室弁閉鎖不全 (AVVI) による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全 (HF) の患者の心臓サイズの減少のため及び/又は(m)MVD 及び/又はCVHD/CVD及び/又はAVVIによる無症候性 (潜伏、前臨床) HFの患者の臨床的症候の発生の遅延のため、及び/又は (原始間葉状) 僧帽弁疾患 [(M)MVD] 及び/又は慢性弁状心臓疾患(CVHD;また慢性弁疾患、CVD として知られている)及び/又は心房心室弁閉鎖不全 (AVVI) による心不全の発生の遅延のためのピモベンダンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全は異なるステージに分けられ、これらは異なる分類システム、例えば、国際小動物心臓健康カウンセル(the International Small Animal Cardiac Health Council )(ISACHC)機能性分類システム、ニューヨーク心臓協会 (NYHA) 機能性分類システム及び米国獣内科医科大学(the American College of Veterinary Internal Medicine) (ACVIM)のコンセンサス記述, 2009による現在使用される分類により特定された。
国際小動物心臓健康カウンセル (ISACHC) システムによる分類:
クラス I: 無症候性 (また潜伏又は前臨床として知られている)
クラス IA: 基礎となる心臓疾患についての保証の証拠なし (放射線写真又は心エコー検査により検出される体積過負荷又は圧力過負荷なし)
クラス IB: 基礎となる心臓疾患についての保証の臨床的徴候 (放射線写真又は心エコー検査により検出される体積過負荷又は圧力過負荷)
クラス II: 静止時又は軽度の運動で臨床的徴候を有する軽度~中等度の心不全 (治療が必要とされる)
クラス III: 進行した心不全; 重度の鬱血性心不全の臨床的徴候
クラス IIIA: 家庭治療可能
クラス IIIB: 入院を必要とする
【0003】
ニューヨーク心臓協会 (NYHA) 機能性分類システム:
クラス I: 無症候性心臓疾患 (例えば、慢性弁状心臓疾患 (CVHD) が存在するが、臨床的徴候が運動でさえも明らかではない) の患者を記載する
クラス II: 活発な運動中に臨床的徴候を生じる心臓疾患の患者を記載する
クラス III:ルーチンの毎日の活動又は軽度の運動で臨床的徴候を生じる心臓疾患の患者を記載する
クラス IV:静止時でさえも重度の臨床的徴候を生じる心臓疾患の患者を記載する。
ACVIM システムは心臓疾患及び心不全の四つの基本的ステージを記載している:
ステージ A:心臓疾患を発生する高いリスクがあるが、心臓の同定し得る構造障害を現在有しない患者(例えば、心雑音のないそれぞれのCavalier King Charles)
ステージ B:構造心臓疾患(例えば、僧帽弁逆流の典型的な心雑音が存在する) を有するが、心不全により生じられる臨床的徴候を発生しなかった患者(予後及び治療に重要な臨床的インプリケーションのために、パネルがステージBをステージB1及びB2に更に細分割した)
ステージ B1: CVHDに応答する心臓リモデリングの放射線写真又は心エコー検査の証拠を有しない無症候性患者
ステージ B2:左側の心臓拡大の放射線写真又は心エコー検査の知見により証明されるような、血流力学的に重大な弁逆流を有する無症候性患者
ステージ C:構造心臓疾患と関連する心不全の過去又は現在の臨床的徴候を有する患者
ステージ D:“通常の治療”に難治性であるCVHDにより生じられる心不全の臨床的徴候を有する末期の疾患の患者。
【0004】
心臓の病気はISACHC クラス I、NYHA クラス I 及びACVIM ステージ B2 で始まり、この場合、心雑音又は心室拡大が存在するが、臨床的症候は存在しない (ISACHC クラス I又は無症候性/潜伏/前臨床ステージ)。臨床的症候は疾患の進行の過程で顕著になる(ISACHC クラスII又はIII 、NYHAクラスII、III 又はIV、ACVIM ステージC及びD) 。
(M)MVD又はCVHD/CVD又はAVVI心不全の既知の進行は心臓サイズの増大と関連している。
心臓内の形態変化による心臓リモデリングは一般にリスク因子と考えられ、心不全をもたらす心臓の病態生理学的変化の悪化と関連している。心不全の治療の一つの目標は心臓サイズの減少及び心臓の形態変化の遅延である。
心不全を治療するのに知られている医薬活性化合物はEP 0 008 391に開示され、下記の式を有するピモベンダン (4,5-ジヒドロ-6-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]-5-メチル-3(2H)-ピリダジノン) である。
【0005】
【0006】
ピモベンダンは、例えば、動物、特にイヌの拡張心筋症 (DCM)又は僧帽弁疾患 (MVD)に由来する鬱血性心不全 (CHF)の治療のための公知の化合物である。ピモベンダンはまた日本でヒトの心血管治療のための薬物製品として認可されている。
幾つかの刊行物、例えば、下記のものが動物の心不全の治療におけるピモベンダンの使用を開示している。
WO 2005/092343 は心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少のためのPDE-III 阻害薬、例えば、ピモベンダンの使用を記載しているが、僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の患者に言及していない。
Lombard 及び共同研究者 (Lombard CW ら著, J Am Anim Hosp Assoc 2006, 42: 249-261) はイヌの臨床上の後天性房室弁疾患の治療のためのピモベンダン対ベナゼプリルの臨床効力を開示している。
WO 2007/054514 は無症候性 (また潜伏又は前臨床として知られている) 心不全の治療のためのPDE-III 阻害薬、例えば、ピモベンダンの使用に関するが、僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の患者に言及していない。
Haggstrom Jら (J Vet Intern Med 2008, 22: 1124-1135)は天然により生じる原始間葉状僧帽弁疾患により生じられる臨床上の鬱血性心不全のイヌの生存時間についてのピモベンダン又はベナゼプリル塩酸塩の効果を記載しているが、僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の患者に言及していない。
【0007】
Summerfield NJ 及び共同研究者ら (Summerfield NJ ら著, J Vet Intern Med 2012, 26: 1337-1349) は前臨床の拡張心筋症 (DCM)のDoberman Pinschersの鬱血性心不全又は突然死の予防におけるピモベンダンの効力についての臨床研究に関する。しかしながら、彼らは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の患者について言及しない。
Haggstrom Jら (J Vet Intern Med 2013, 27: 1452-1462) は臨床上の原始間葉状僧帽弁疾患及び鬱血性心不全のイヌにおけるピモベンダン及びベナゼプリルの短期の血流力学的効果及び神経内分泌効果を記載している。しかしながら、彼らは僧帽弁疾患 (MVD) による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の患者について言及しない。
インターネットウェブサイトwww.epictrial.comは僧帽弁疾患 (MVD)による鬱血性心不全の臨床的症候の発生の遅延におけるピモベンダンの効果を調べるための研究である、EPIC試験に関する。しかしながら、この特許出願の優先日に、この試験は依然として進行中であり、研究結果が公に入手し得なかった。
【0008】
しかしながら、幾つかのその他の刊行物、例えば、下記のものがピモベンダン治療の不利な心臓作用に関する。
Schneider Pら(Exp Toxic Pathol 1997, 49: 217-224) は雌のビーグル犬にIV投与されたピモベンダンの比較心臓毒性を記載している。
Tissier R及び共同研究者ら (Tissier Rら著, Cardiovascular Toxicology 2005, 5(1): 43-51) は長期(慢性)臨床ピモベンダン治療による2種のイヌにおける不利な作用、増大された僧帽弁逆流及び心筋肥大を開示している。
Amsallem E ら (Cochrane Database Syst Rev 2005, 25: 1)はホスホジエステラーゼ阻害薬、例えば、とりわけピモベンダンが、ヒト患者で有意に17%増大された死亡率と関連し、加えて、心臓死、突然死、不整脈及びめまいを有意に増加することを見い出した。著者らはホスホジエステラーゼ阻害薬の慢性使用が心不全患者で避けられるべきであると結論している。
Chetboul V 及び共同研究者ら (Chetboul V ら著, J Vet Intern Med 2007, 21: 742-753) は軽度の変性無症候性僧帽弁疾患のイヌにおけるピモベンダン及びベナゼプリル単一療法の比較の不利な心臓作用についての有望な、制御された、盲検及びランダム化研究の結果を示している。
Ouellet Mら (J Vet Intern Med 2009, 23: 258-263)は無症候性僧帽弁疾患のイヌにおける心エコー検査値についてのピモベンダンの効果を記載している。しかしながら、この研究はACE 阻害薬治療へのピモベンダンの追加後の僧帽弁逆流の重度における有益な長期変化を同定することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故、本発明の基礎となる課題は、上記された従来技術の課題を解決する医療措置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全、好ましくは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全、更に好ましくは原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延、及び/又は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心不全の発生の遅延、好ましくは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の鬱血性心不全の発生の遅延、更に好ましくは原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD) による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の鬱血性心不全の発生の遅延の方法における使用のためのピモベンダンに関する。
僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延及び/又は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の(鬱血性)心不全の発生の遅延の相当する方法並びに僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延及び/又は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心不全、好ましくは鬱血性心不全の発生の遅延のための医薬組成物/薬物の調製のための使用がまた本発明の範囲内であると意図されている。
【0011】
更に、本発明は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全、好ましくは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全、更に好ましくは原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全をわずらっている患者の心臓サイズを減少し、かつ臨床的症候の発生を遅延し、また僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心不全の発生を遅延し、好ましくは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の鬱血性心不全の発生を遅延し、更に好ましくは原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の鬱血性心不全の発生を遅延する方法における使用のためのピモベンダンに関する。
僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延及び/又は僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の(鬱血性)心不全の発生の遅延の相当する方法並びに僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心臓サイズの減少及び/又は臨床的症候の発生の遅延、また僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっている患者の心不全、好ましくは鬱血性心不全の発生の遅延のための医薬組成物/薬物の調製のための使用がまた本発明の範囲内であると意図されている。
本発明のピモベンダンの一種以上の医療上の使用の利点は以下のとおりである。
-鬱血性心不全の臨床的症候を示さない前臨床 (また無症候性又は潜伏として知られている) 期の延長
-鬱血性心不全(の臨床的症候)の発生の遅延
-偽薬治療と較べて治療された患者の生存時間の増大
-治療された患者の生活の質の改善
-基準線(即ち、治療の開始前)と較べて治療された患者の心臓サイズの減少
-治療された患者の心臓機能/拍出量の改善
-心臓上の理由のための患者の突然心臓死/安楽死の減少
-鬱血性心不全に至るリスクの低減
薬物の安全性に関する何らかの既に高められた関心はあらゆる原因の死亡率分析においてピモベンダングループで観察された一層長い生存により静められるべきである。観察される潜在的な不利な事象の割合又は型にグループ間の差がなかった。これはピモベンダングループのイヌがその研究で一層長い時間を過ごし、それ故、長期間にわたって不利な事象を経験するリスクがあったという事実にもかかわらずである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施態様が更に詳しく記載される前に、本明細書及び特許請求の範囲に使用される、単一形態“a”、“an”、及び“the ”は、状況が明らかにそれ以外を示さない限り、複数の言及を含むことが注目されるべきである。
特に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術用語及び科学用語は本発明が属する業界の当業者により普通に理解されるのと同じ意味を有する。全ての示された範囲及び値は、特に示されず、又は当業者により特に知られていない限り、1~5%だけ変化してもよく、それ故、“約”という用語が記載及び特許請求の範囲から通常省かれる。本明細書に記載されたものと同様又は均等のあらゆる方法及び物質が本発明の実施又は試験
に使用し得るが、好ましい方法、装置、及び物質が今、記載される。本明細書に挙げられた全ての刊行物は本発明と関連して使用し得る刊行物に報告されているような物質、賦形剤、担体、及び方法を記載し、開示する目的のために本明細書に参考として含まれる。本明細書中の何ものも本発明が先の発明のためにこのような開示に先行する権利を与えられないという許可と見なされるべきではない。
本明細書に先に、また以下に使用される“患者”という用語は(鬱血性)心不全をわずらっている動物又はヒトに関する。“患者”という用語は哺乳類、例えば、ヒトを含む霊
長類を含む。霊長類に加えて、種々のその他の哺乳類が本発明の方法に従って治療し得る。例えば、ウマ、イヌ、ネコ、又はウマ種、イヌ種、ネコ種を含むが、これらに限定されない哺乳類が治療し得る。ヒト患者、イヌ、ネコ及びウマが好ましい。ヒト患者は心不全をわずらっている女性又は男性のヒトである。一般に、このようなヒトは6才~80才、好ましくは30才~65才の年齢の幼児、若い成人、成人又は老人である。イヌが最も好ましい。
【0013】
本明細書に先に、また以下に使用される“心不全”、好ましくは“鬱血性心不全”という用語は心臓のあらゆる収縮性の障害又は疾患に関する。臨床的顕在化は一般に心臓の細
胞成分及び分子成分並びにホメオスタシスコントロールを誘導する媒介物質についての変化の結果である。心不全、好ましくは鬱血性心不全は、一般に心臓サイズの増大及び心臓機能の劣化により伴なわれる。
本明細書に先に、また以下に使用される“心臓サイズの減少”という用語は患者の心臓のサイズの減少に関するものであり、これは心エコー検査により診断され、またこれはJa
mes W.Buchananら (Buchanan JW ら著, J Am Vet Med Assoc 1995, 206(2), 194-199) により示唆された放射線写真方法に従って測定されてもよく、椎体心サイズの相対的変化で表わされる。好ましくは、前記患者の相対的心臓サイズは基準線、即ち、ピモベンダン治療が開始される前と較べて、更に好ましくはピモベンダンによる治療の10~100 日以内、更に好ましくは約30~40日以内、最も好ましくは約35日以内に、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、15%、20%、25%又は少なくとも30%だけ減少される。
【0014】
本明細書に先に、また以下に使用される“僧帽弁疾患疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) (鬱血性) 心不全”という用語はMVD に二次的によるが、まだ(鬱血性)心不全の臨床的症候のない心臓のあらゆる収縮性の障害又は疾患に関する。特に、それはISAC
HC クラス I (クラス IA 及び/又はクラス IB) 、NYHAクラスI及びACVIM ステージB2の心不全に関する。
“臨床的症候の発生の遅延“及び“臨床的症候の発生までの時間の延長”という用語は本明細書に先に、また以下に互換可能に使用され、患者の心臓の形態変化の診断から僧帽
弁疾患疾患 (MVD)による心不全、好ましくは鬱血性心不全の臨床的症候の始まりまでの時間期間に関する。特に、それらはISACHC クラス I (クラス IA 及び/又はクラス IB) 、NYHAクラスI及びACVIM ステージB2の依然として無症候性 (潜伏、前臨床) (鬱血性) 心不全からISACHC クラスII及び更にはクラスIII (クラスIIIA及び/又はクラスIIIB) 、NYHAクラスII、III 及びIV並びにACVIM ステージC及びDの臨床上明らかな心不全、好ましくは鬱血性心不全までの時間の延長に関する。
本発明の過程における明瞭化のために、医療上の指示用語“僧帽弁疾患 (MVD)”、“原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD)”、“慢性弁状心臓疾患(CVHD)”、“慢性弁疾患 (CVD)”及び
“心房心室弁閉鎖不全(AVVI)”は全て互換可能に使用される。ISACHC クラス I (クラスIA及び/又はクラスIB) 、NYHAクラスI並びにACVIM ステージ B2心不全について、それらは全て互いに同義であり、同じ医療上の意味を有する。
本明細書に先に、また以下に使用される“鬱血性心不全に至るリスクの減少”という用語は臨床上明らかな心不全、好ましくは鬱血性心不全を経験する相対的リスクに関する。
好ましくは、相対的リスクが少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、15%、20%、25%、又は少なくとも30%だけ減少される。
本明細書に使用される“有効量”という用語はピモベンダンが単一剤形中で投与される場合に、僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全(HF)の患者の心臓サイ
ズの減少を得、かつ/又はMVD による無症候性 (潜伏、前臨床) HFの患者の臨床的症候の発生の遅延を得、かつ/又はMVD による無症候性 (潜伏, 前臨床) HFの患者の心不全、好ましくは鬱血性心不全の発生の遅延を得るのに充分な量を意味する。
【0015】
一局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、僧帽弁疾患 (MVD) による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全、好ましくは僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全、更に好ましくは原始間葉状僧帽弁疾患(MMVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 鬱血性心不全はステージ ISACHC クラスI、好ましくはISACHC クラスIA又はクラスIB、更に好ましくはステージISACHC クラスIB、NYHAクラスI及びACVIM ステージB2の心不全である。
別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダン治療が患者の既に病的に拡大された心臓の心臓サイズの減少を行なう。換言すれば、このような患者がISACHC クラスI (クラスIA及び/又はクラスIB) 、NYHAクラスI及びACVIM ステージB2の僧帽弁疾患 (MVD) による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっており、既に病的に拡大された心臓(例えば、心エコー検査により見える)を有するが、心不全、好ましくは鬱血性心不全の臨床的症候をまだ示していない。
別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダン治療が偽薬治療又は非ピモベンダン治療と較べて患者の生存の時間の延長を行なう。これに関して、非ピモベンダン治療はそれぞれの患者グループがピモベンダンに代えてピモベンダン以外の活性医薬成分又は偽薬を受ける比較治療を表す。好ましくは、このようなピモベンダン治療が偽薬治療又は非ピモベンダン治療と較べて、少なくとも30日、更に好ましくは少なくとも2ヶ月、更に好ましくは少なくとも3ヶ月、更に好ましくは少なくとも4ヶ月、更に好ましくは少なくとも5ヶ月、更に好ましくは少なくとも6ヶ月、更に好ましくは少なくとも7ヶ月、更に好ましくは少なくとも8ヶ月、更に好ましくは少なくとも9ヶ月、更に好ましくは少なくとも10ヶ月、更に好ましくは少なくとも11ヶ月、更に好ましくは少なくとも12ヶ月、更に好ましくは少なくとも13ヶ月、更に好ましくは少なくとも14ヶ月、更に好ましくは少なくとも15ヶ月の患者の生存の時間の延長を行なう。
【0016】
別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダン治療が鬱血性心不全の臨床的症候を示さないで前臨床期の延長を行ない、鬱血性心不全(の臨床的症候)の発生の遅延を行ない、偽薬治療と較べて治療された患者の生存時間を増大し、治療された患者の生活の質を改善し、基準線 (即ち、治療の開始前) と較べて治療された患者の心臓サイズの減少をもたらし、治療された患者の心臓機能/拍出量を改善し、心臓の理由による患者の突然心臓死/安楽死を減少し、かつ/又は鬱血性心不全に至るリスクを低減する。
別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、患者が哺乳類、好ましくはヒト、イヌ、ネコ又はウマ、更に好ましくはイヌである。
ピモベンダンについての投薬養生法は、勿論、既知の因子、例えば、薬物力学的特性及びその投与の様式及び経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康、医療状態、及び体重;症候の性質及び程度;同時の治療の種類;治療の頻度;投与の経路、患者の腎臓機能及び肝臓機能、並びに所望される効果に応じて変化するであろう。医師又は獣医は障害を予防し、迎え撃ち、遅延し、又はその進行を静止するのに必要とされる薬物の有効量を決めて、処方することができる。
一般の指針のために、ピモベンダンの毎日の経口用量は、示された効果のために使用される場合に、体重1kg当り約0.2 mg~0.6 mg (SID) 、特に1日当り投与されるピモベンダン体重1kg当り約0.2 mg~0.6 mg (EU) また1日当り投与されるピモベンダン体重1kg当り0.5 mg (US)の範囲であろう。好ましくは、毎日のピモベンダン用量は体重1kg当り0.1 mg~0.3 mgの2回の用量、好ましくは12時間毎に体重1kg当り0.1 mg~0.3 mgの2回の用量(EU)、更に好ましくは12時間毎に体重1kg当り0.25mgの2回の用量として投与される。
【0017】
更に別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダンが体重1kg当り0.2 mg~0.6 mg (SID) 、特に1日当り投与されるピモベンダン体重1kg当り0.2 mg~0.6 mg (EU) また1日当り投与されるピモベンダン体重1kg当り0.5 mg (US)の毎日の用量で投与される。好ましくは、毎日のピモベンダン用量は体重1kg当り0.1 mg~0.3 mgの2回の用量、好ましくは12時間毎に体重1kg当り0.1 mg~0.3 mgの2回の用量(EU)、更に好ましくは12時間毎に体重1kg当り0.25mgの2回の用量 (USA)として投与される。
本発明の別の局面によれば、ピモベンダンが少なくとも一種の第二の活性医薬成分 (API) と組み合わせて投与される。このような少なくとも一種の第二のAPI は後負荷軽減剤 (動脈拡張剤) 、例えば、ACE 阻害薬、前負荷軽減剤 (静脈拡張剤) 、例えば、利尿薬、血小板阻害薬、ベータ遮断薬及びアンギオテンシンIIアンタゴニスト、アルドステロンアンタゴニスト、坑不整脈薬 (不整脈が生じる場合) 及び/又は利尿薬からなる群から選ばれることが好ましく、特に、この場合、
【0018】
-ACE 阻害薬がオマパトリラート、MDL100240 、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、フォシノプリラート、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラート、サララシンアセテート、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラート、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラート及び/又はスピラプリルからなる群から選ばれ、かつ/又は
-後負荷軽減剤 (動脈拡張剤) がヒドララジン、カルシウムチャンネル遮断薬ジルチアゼム、ベラパミル、及びアムロジピン、ニトロプルシッド、及びホスホジエステラーゼ阻害薬、例えば、シルデナフィルからなる群から選ばれ、かつ/又は
-ベータ遮断薬がビソプロロール、カルベジロール、メトプロロール、プロプラノロール、アテノロール、エスモロール、及び/又はチモロールからなる群から選ばれ、かつ/又は
-血小板阻害薬がアスピリン、クロピドグレル、因子Xa阻害薬、ヘパリン、及び低分子量ヘパリンからなる群から選ばれ、かつ/又は
-アンギオテンシンIIアンタゴニストがサララシンアセテート、カンデサルタン、シレキセチル、バルサルタン、カンデサルタン、ロサルタンカリウム、エプロサルタン、イルベサルタン、タソサルタン、ポミサルタン及び/又はテルミサルタンからなる群から選ばれ、かつ/又は
-アルドステロンアンタゴニストがスピロノラクトン、トリアムプテレン、エプレレノン、カンレノン、カリウムカンレノンからなる群から選ばれ、かつ/又は
-坑不整脈薬がアミオダロン、ベトリリウム、ジソピラミド、ドフェチリド、フレカイニド、イブチリド、メキシレチン、トカイニド、プロカインアミド、リドカイン、プロパフェノン、ジルチアゼム、ベラパミル、ジゴキシン、ジギタリス、キニジン及び/又はソタロールからなる群から選ばれ、かつ/又は
-利尿薬がフロセミド、スピロノラクトン、トラセミド、ブメタニド、エタクリン酸、アゾセミド、ムゾリミド、ピレタニド、トリパミド、ベンドロフルメタジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルチアリドン、インダパミド、メトラゾン、キネタゾン、エトゾリン、トリアムテレン及び/又はアミロリドからなる群から選ばれ、かつ/又は
-前負荷軽減剤 (静脈拡張剤) がニトログリセリン、ニトロプルシッド、及びイソルビドからなる群から選ばれ、かつ/又は
-正変力薬がドブタミン、ジゴキシン、ジギタリス、ドーパミン、アムリノン、及びミルリノンからなる群から選ばれ、かつ/又は
-過分極活性化環状ヌクレオチドゲート (HCN)チャンネル遮断薬又は負の変時性薬がシロブラジン、イバブラジン、及びアデノシンからなる群から選ばれる。
【0019】
好ましくは、ピモベンダンが一種以上のACE 阻害薬及び一種以上の利尿薬からなる群から選ばれた一種以上のAPI と一緒に投与される。
更に別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダンがACE 阻害薬、好ましくはベナゼプリル;及び利尿薬、好ましくはフロセミドからなる群から選ばれた一種以上の付加的な活性医薬成分の投与の前、その間又は後に投与される。更に好ましくは、ピモベンダンがベナゼプリル及びフロセミドと同時に投与される。
ピモベンダンは錠剤、咀嚼可能な錠剤、咀嚼剤、カプセル(これらのそれぞれが持続放出製剤又は時間放出製剤を含む) 、ピル、粉末、顆粒、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁液、溶液、シロップ、及びエマルションの如き経口剤形中で投与し得る。それはまた静脈内形態(巨丸剤又は注入)、腹腔内形態、皮下形態、又は筋肉内形態で投与されてもよく、全てが医薬業界の当業者に公知の剤形を使用する。それは単独で投与し得るが、一般に投与の選ばれた経路及び通常の医薬慣例に基づいて選ばれる医薬担体とともに投与されるであろう。
別の局面において、本発明は本明細書に先に、また以下に開示される局面及び好ましい実施態様による使用のためのピモベンダンに関するものであり、この場合、ピモベンダンが経口投与又は非経口投与、好ましくは経口投与、更に好ましくは錠剤又はカプセルの形態で経口投与、最も好ましくは錠剤の形態で経口投与される。
ピモベンダンは好適な鼻内ビヒクルの局所使用により、又は経皮パッチを使用して、経皮経路により鼻内形態で投与し得る。経皮送出系の形態で投与される場合、その投薬投与は、勿論、投薬養生法により間欠的ではなく連続的であろう。
【0020】
ピモベンダンは典型的には投与の意図される形態、即ち、経口錠剤、カプセル、エリキシル剤、シロップ等に関して適切に選ばれ、かつ通常の医薬慣例と合致する好適な医薬希釈剤、賦形剤及び/又は担体(本明細書中集約して医薬担体と称される)と混合して投与される。
例えば、錠剤又はカプセルの形態の経口投与につき、活性薬物成分が経口、無毒性、医薬上許される、不活性担体、例えば、ラクトース、澱粉、蔗糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール等と合わされ、液体形態の経口投与につき、経口薬物成分があらゆる経口、無毒性、医薬上許される不活性担体、例えば、エタノール、グリセロール、水等と合わされる。更に、所望又は必要の場合、好適なバインダー、滑剤、崩壊剤、及び着色剤がまたその混合物に混入し得る。好適なバインダーとして、澱粉、ゼラチン、天然糖、例えば、グルコース又はベータ-ラクトン、トウモロコシ甘味料、天然及び合成のガム、例えば、アカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が挙げられる。これらの剤形中に使用される滑剤として、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。崩壊剤として、澱粉、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。
ピモベンダンはまたリポソーム送出系、例えば、小単層小胞、大単層小胞、及び多層小胞の形態で投与し得る。リポソームは種々のリン脂質、例えば、コレステロール、ステアリルアミン、又はホスファチジルコリンから形成し得る。
ピモベンダンはまた固形医薬製剤の一部として脂質被覆形態 (例えば、WO 2015/082389号を参照のこと) で投与し得る。
【0021】
ピモベンダンはまた標的可能な薬物担体として可溶性ポリマーと対にされてもよい。このようなポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド-フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノール、又はパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキサイドポリリシンが挙げられる。
更に、ピモベンダンは薬物の制御された放出を得るのに有益な生分解性ポリマーのクラス、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー、ポリエプシロンカプトラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、及びヒドロゲルの架橋又は両親媒性ブロックコポリマーと対にされてもよい。
投与に適した剤形 (医薬組成物) は投薬単位当り活性成分約1mg~約100 mgを含んでもよい。
これらの医薬組成物中に、活性成分が組成物の合計質量を基準として通常約0.5-95質量%の量で存在するであろう。
ゼラチンカプセルは活性成分及び粉末担体、例えば、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等を含んでもよい。同様の希釈剤が圧縮錠剤をつくるのに使用し得る。錠剤及びカプセルの両方は時間の期間にわたって薬物の連続の放出を与えるために持続放出製品として製造し得る。圧縮錠剤は不快な味をマスクし、錠剤を雰囲気から保護するために糖被覆又はフィルム被覆でき、又は胃腸道中の選択的崩壊のために腸被覆し得る。
経口投与のための液体剤形は患者許容性を増大するために着色剤及び風味料を含み得る。
【0022】
一般に、水、好適な油、食塩水、水性デキストロース (グルコース) 、並びに関連糖溶液及びグリコール、例えば、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールが非経口溶液に適した担体である。非経口投与のための溶液は活性成分の水溶性の塩、好適な安定剤、及び必要な場合には、緩衝剤物質を含むことが好ましい。酸化防止剤、例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、又はアスコルビン酸(単独で、又は組み合わされて)が、好適な安定剤である。また、クエン酸及びその塩並びにナトリウムEDTAが使用される。加えて、非経口溶液は防腐剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン又はプロピルパラベン、及びクロロブタノールを含み得る。
好適な医薬担体がこの分野の通常の参考書籍である、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Company 発行)に記載されている。
2種以上の上記の第二のAPI がピモベンダンとともに投与される場合、一般に典型的な毎日の投薬及び典型的な剤形中のそれぞれの成分の量は組み合わせて投与される場合のAPIの累積的又は相乗的効果に鑑みて、単独で投与される場合のAPI の通常の用量に対して減少し得る。
特に単一投薬単位として提供される場合、可能性が組み合わされたAPI の間の化学的相互作用について存在する。この理由のために、ピモベンダン及び少なくとも一種の第二のAPI が単一投薬単位中で合わされる場合、それらはAPI が単一投薬単位中で合わされるが、API 間の物理的接触が最小にされる(即ち、減少される)ように製剤化される。例えば、一種のAPI が腸被覆されてもよい。API の一種を腸被覆することにより、合わされたAPI 間の接触を最小にすることが可能であるだけでなく、これらの成分の一種が胃中で放出されないが、むしろ腸中で放出されるように胃腸道中のこれらの成分の一種の放出をコントロールすることが可能である。API の一種がまた胃腸道中の持続放出を行ない、また合わされたAPI 間の物理的接触を最小にするのに利用できる物質で被覆されてもよい。
更に、持続放出される成分はこの成分の放出が腸中でのみ起こるように更に腸被覆し得る。更に別のアプローチは一種の成分が持続放出及び/又は腸放出ポリマーで被覆され、かつその他の成分がまた低粘度等級のヒドロキシメチルセルロース(HPMC)の如きポリマー又は活性成分を更に分離するために、当業界で知られているその他の適当な物質で被覆される組み合わせ製品の製剤化を伴なうであろう。ポリマー被覆はその他の成分との相互作用に対する付加的なバリヤーを形成するのに利用できる。
【実施例】
【0023】
下記の実施例は本発明を更に説明するのに利用できるが、これらは本明細書に開示された発明の範囲の限定と見なされるべきではない。
実施例1-中間分析データ
従来の研究はピモベンダン治療がCHF のイヌで症例致死性及び罹患率を有意に減少することを示唆していた。僧帽弁疾患 (MVD)によるイヌの無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全の進行を遅延することにおけるピモベンダン治療の潜在的利益は未だ実証されていなかった。ピモベンダンは強力な正変力性効果及び血管拡張効果を有するベンゾイミダゾピリダジノンである。前負荷減少及び後負荷減少のこの合わされた効果は、正変力支持と一緒に、僧帽弁疾患による潜伏心不全のイヌの心臓サイズ及び心臓中の充満圧力の減少をもたらす。
僧帽弁疾患 (MVD)による無症候性 (潜伏、前臨床) 心不全をわずらっているイヌへのピモベンダンの投与は偽薬と較べて鬱血性心不全の臨床的症候の発生までの時間を約359日 (12.0ヶ月) 延長し、また偽薬と較べて生存時間 (あらゆる原因の死亡) を約168 日 (5.6 ヶ月) 延長する。それ故、ピモベンダンによる心不全の前臨床期のイヌの治療は改善された結果をもたらす。
【0024】
実施例2-最終研究結果の予備分析
360 匹のイヌの盲検、偽薬対照研究の最終結果の予備分析はMMVD並びに心臓肥大の心エコー検査法及び放射線写真の証拠を有するイヌへのピモベンダンの投与が前臨床期間の延長をもたらし、かつ安全であり、かつ良く寛容されることを示す。
一次終点までのメジアン時間がピモベンダングループで1228日 (95% CI 856-NA)であり、また偽薬グループで766 日 (95% CI 667-875) である (P = 0.0038)。約15ヶ月までの前臨床期間の延長は実質的な臨床上の利益に相当する。
あらゆる原因の死亡率により測定されるような、総合の生存はまた偽薬グループよりもピモベンダングループで有意に長く (P = 0.012) 、これがまた有意な臨床上の利益に相当する。
ピモベンダンはまた、その研究の最初の35日にわたって測定された時に、偽薬グループと較べて、心臓サイズの減少を生じる (P < 0.0001) 。
最終の研究結果はしばらくして公表された (Boswood A ら著, J Vet Intern Med 2016, 30(6): 1765-1779)。
【0025】
実施例3-心臓サイズの減少
心臓サイズの別の目安である、椎体心和を、その研究に残った動物から規則的な間隔(8ヶ月毎)で得た。これがグループ間で比較し得る種々の方法がある。その研究の期間にわたってそれぞれのグループにおける平均椎体心スコアを纏め、比較するのに最も有益な方法は2回より多い測定が得られたそれぞれのイヌについての単一の概略の統計に相当する“曲線下の面積”値を生じることである [Matthews JNら著, BMJ 1990, 300(6719): 230-235] 。この方法は既に獣医学研究で使用されていた[Haggstrom J ら著, J Vet Intern
Med 2013, 27(6): 1441-1451]。
その研究の期間にわたる両方のグループのイヌについての平均の椎体心スコアをグループ間で計算し、比較する場合に、下記の結果を得る。
こうして、研究の全期間にわたって平均される場合にその研究に残っているイヌについてのメジアン椎体心スコアはピモベンダンを受けるイヌについて約0.35椎体低いことが見られる(表1)。こうして、心エコー検査結果は1ヶ月後に明らかである心臓サイズの急な減少を示す。放射線写真の知見は心臓サイズの測定が研究の期間にわたって平均される時に心臓サイズの差が持続することを示す。
【0026】
【0027】