(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】船舶推進用電動機駆動システム
(51)【国際特許分類】
B63H 23/18 20060101AFI20220617BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B63H23/18
B63H21/17
(21)【出願番号】P 2020523959
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2018022058
(87)【国際公開番号】W WO2019234920
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】松本 和則
(72)【発明者】
【氏名】柳川 昌樹
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-345628(JP,A)
【文献】特開2016-094193(JP,A)
【文献】特開2001-270495(JP,A)
【文献】特開2015-143097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/18
B63H 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推力の一部又は全部を供給する第1動力源である電動機に電力を供給するインバータと、
前記船舶の推力の一部又は全部を供給する第2動力源及び主軸に連結されたプロペラと、前記電動機との間に設けられた自動嵌脱クラッチである第1のクラッチの状態を、前記インバータを制御することにより脱状態にする制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記電動機をトルク制御で駆動する第1モードと前記電動機を速度制御で駆動する第2モードとの少なくとも2つのモードを有し、
前記第2モードで電動機を駆動しているときに、前記第2動力源が前記プロペラに推力を供給する場合には、前記第1モードで前記電動機を駆動させるように運転モードを切り替える、
船舶推進用電動機駆動システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記電動機への電力供給を停止させてから所定時間が経過した後に前記電動機に直流制動をかける、
請求項
1記載の船舶推進用電動機駆動システム。
【請求項3】
前記所定時間は、
前記電動機の誘起電圧が所定値以下に低下する時間に相当することを特徴とする、
請求項
2記載の船舶推進用電動機駆動システム。
【請求項4】
前記電動機は、前記第1のクラッチを介して所定の減速比の減速機に接続され、
前記制御部は、
前記電動機の軸の回転速度が、前記主軸の回転速度を前記所定の減速比で割った商以上である場合に
、嵌合状態にある第2のクラッチによってエンジンと前記減速機とが連結された状態にあり、且つ前記第1のクラッチが嵌合状態にあると判定する、
請求項
1記載の船舶推進用電動機駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶推進用電動機駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶推進用電動機駆動システムは、船舶を推進させるための電動機を、電力変換装置から供給する電力により駆動する。このような船舶には、エンジンと電動機とを推進用の動力源にして、共通するプロペラを駆動するハイブリッド型のものがある。このような船舶には、SSSクラッチ(Synchro Self Shifting clutch)等を利用して、プロペラが設けられている主軸から、上記のエンジンと電動機を適宜機械的に切り離すものがある。SSSクラッチの連結状態は、そのクラッチ本体の動力側の入力軸と負荷側の出力軸の双方の軸の回転速度の差によって決定される。このSSSクラッチが切れないと、電動機がエンジンの動力等によって機械的に駆動されて、その電動機が発電状態になる。SSSクラッチを利用する船舶に、船舶推進用の電動機駆動システムに回生能力を有していない電力変換装置とSSSクラッチとを利用すると、電動機が生成する電力によって過電圧状態が発生することがある。このような過電圧から自らを保護するために電力変換装置が停止してしまい、船舶推進用電動機駆動システムが安定に動作しない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より安定に動作する船舶推進用電動機駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様の船舶推進用電動機駆動システムは、インバータと、制御部とを備える。インバータは、船舶の推力の一部又は全部を供給する第1動力源である電動機に電力を供給する。制御部は、前記船舶の推力の一部又は全部を供給する第2動力源及び主軸に連結されたプロペラと、前記電動機との間に設けられた自動嵌脱クラッチである第1のクラッチの状態を、前記インバータを制御することにより脱状態にする。前記制御部は、前記電動機をトルク制御で駆動する第1モードと前記電動機を速度制御で駆動する第2モードとの少なくとも2つのモードを有し、前記第2モードで電動機を駆動しているときに、前記第2動力源が前記プロペラに推力を供給する場合には、前記第1モードで前記電動機を駆動させるように運転モードを切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態の船舶推進用電動機駆動システムの構成図。
【
図2】実施形態の電動機に対する制動制御に係るタイミングチャート。
【
図3】実施形態のトルク信号切替部110の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態に係る船舶推進用電動機駆動システムについて説明する。なお、以下の説明では、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、座標変換に係る座標系として直交座標系を例示するが、これに制限されることはなく2つの軸の成分を独立に扱える2つの軸を有する座標系に代えてもよい。
【0008】
図1は、実施形態の船舶推進用電動機駆動システムの構成図である。
図1に示す電動機駆動システム1は、船舶推進用電動機駆動システムの一例である。
図1に示す船舶2は、少なくともエンジン10と電動機20を推進用の動力源として利用するハイブリッド型の電気推進構造を備える。
【0009】
船舶2に適用される電動機駆動システム1は、少なくともエンジン10と、電動機20と、クラッチ部30と、減速機40と、プロペラ50と、発電機60と、電力変換装置100と、上位制御装置200とを備える。電動機駆動システム1は、船舶2に設けられている。
【0010】
エンジン10は、化石燃料等を燃焼させて動力を生成することでクランク軸11を回転させる。エンジン10のクランク軸11は、クラッチ31(第2のクラッチ)を介して減速機40の第1の入力軸である軸41に連結される。
【0011】
電動機20は、例えば3相交流型の誘導電動機である。電動機20の軸21は、クラッチ32(第1のクラッチ)を介して減速機40の第2の入力軸である軸42に連結される。電動機20には、速度センサ24が設けられている。速度センサ24は、電動機20の軸21の回転速度を検出して、電動機速度ωMを出力する。電動機速度ωMの単位は、例えば(rad/秒)である。エンジン10と電動機20は、それぞれが船舶2の推進用の動力源である。ここで、エンジン10の出力は電動機20の出力より十分大きいとする。
【0012】
クラッチ部30は、少なくともクラッチ31と、クラッチ32とを含む。クラッチ部30に含まれる各クラッチは、少なくとも船舶推進用の動力が供給される入力軸(第1軸)と、負荷側の出力軸(第2軸)と、クラッチ本体とを備える。クラッチ31の種類については、任意の種類のものを適宜選択してよい。少なくともクラッチ32の種類は、入力軸と出力軸との速度に基づいて連結状態を決定するSSSクラッチ(Synchro Self Shifting clutch)である。SSSクラッチは、例えば、第1軸の速度が第2軸の速度を超えるとクラッチ32が嵌合状態になり、第1軸の速度が第2軸の速度より低下するとクラッチ32が脱状態になる。なお、クラッチ32は、自動嵌脱クラッチの一例である。
【0013】
クラッチ31の入力軸は、エンジン10のクランク軸11に連結されている。クラッチ31の出力軸は減速機40の軸41に連結されている。クラッチ32の入力軸は、電動機20の軸21(第1軸)に連結されている。クラッチ32の出力軸は減速機40の軸42(第2軸)に連結されている。なお、クラッチ31とクラッチ32は、それぞれの連結状態を上位制御装置200に出力してもよい。
【0014】
なお、クラッチ部30が、クラッチ31と、クラッチ32とを含む事例について説明するが、クラッチの個数が図に示す個数等に制限されることなく、適宜変更してもよい。
【0015】
減速機40は、入力軸である軸41と軸42とを有し、さらに、出力軸である軸43とを有している。減速機40は、軸41の回転速度(回転数)を所定の減速比kで減速し、また、軸42の回転数を所定の減速比kで減速して、軸41と軸42の回転に合わせて軸43を回転させる。kは、設計的に決定される定数である。
【0016】
軸43には、主軸51が連結されている。主軸51にはプロペラ50が設けられている。減速機40は、軸43の回転数で主軸51、つまりプロペラ50を回転させる。プロペラ50が回転することにより、船舶2の推力が生じる。
【0017】
主軸51には、速度センサ44が設けられている。速度センサ44は、主軸51の軸の速度(以下、主軸速度ωAという。)を検出する。主軸速度ωAの単位は、例えば(rad/秒)である。なお、速度センサ44を軸43に設けてもよい。
【0018】
ここで、軸43の回転速度と主軸51の回転速度(主軸速度ωA)とが同一であると定義すると、軸41と軸42の回転速度は、(k×ωA)になる。上記の通りkの値は任意であるが、説明を簡略化するために、以下の説明ではkの値を1にした事例について説明する。つまり、この場合、軸41と軸42は、等速で回転する。なお、kの値を1以外にする場合には、kを用いた比例計算を適宜実施するとよい。
【0019】
発電機60は、発電した交流電力を電力変換装置100に供給する。電力変換装置100は、この電力を電動機20の駆動に利用する。
【0020】
電力変換装置100は、少なくとも整流器101とインバータ102とを備える。
【0021】
整流器101の交流入力には発電機60が接続されている。整流器101の直流出力にはインバータ102の直流入力が接続されている。例えば、整流器101は、図示しない複数のダイオードを要素に含むブリッジとして形成されている。整流器101は、発電機60から供給される電力を全波整流し、インバータ102に供給する。
【0022】
インバータ102は、後述するゲート制御部140が生成したゲート信号(ゲート制御信号GCM)等によって制御される複数の半導体スイッチ(不図示)を備える。
【0023】
インバータ102の直流入力は、整流器101の直流出力が接続されている。インバータ102の直流入力には、整流器101の直流出力から電力が供給される。インバータ102の交流出力には電動機20が接続されている。インバータ102は、ゲート制御部140からの制御により複数の半導体スイッチの導通状態が調整される。
【0024】
インバータ102は、整流器101側から供給される直流電力を変換して、例えば電動機20を駆動するための3相交流電力を生成する。なお、インバータ102が生成する3相交流電力の周波数(基本周波数)は、電動機20の回転速度の指令値(以下、速度指令という。)に合わせて調整されている。
【0025】
整流器101は、回生運転機能を有していないものである。インバータ102が回生運転状態になると、インバータ102の直流入力側等に過電圧が生じることがある。
【0026】
上記の通りインバータ102を含む電力変換装置100は、回生運転機能を有していない。そのため、電力変換装置100は、例えば、以下に示す方法で回生運転状態が生じないようにインバータ102を制御する。以下、電力変換装置100の詳細について説明する。
【0027】
なお、電力変換装置100は、電動機駆動システム1の状態を検出するための各種検出器として、少なくとも電流センサ103と、直流電圧検出部104とを備える。電流センサ103は、インバータ102が電動機20の巻線(不図示)に流す電流を検出する。例えば、電流センサ103は、3相のうち少なくとも複数の相の相電流を検出する。直流電圧検出部104は、整流器101とインバータ102との間の直流リンク部分の電圧VDCを検出する。なお、一部図示を省略するが、電流センサ103の出力と、直流電圧検出部104の出力と、速度センサ24の出力と、速度センサ44の出力とが、上位制御装置200に夫々接続されている。各出力から、夫々の検出結果が上位制御装置200に供給される。
【0028】
電力変換装置100は、さらにインバータ制御部105(制御部)を備える。インバータ制御部105は、少なくともトルク信号切替部110と、電流制御部120と、ゲート制御部140とを備える。なお、上記の通り、上位制御装置200から独立した電力変換装置100は、インバータ制御部105を備えていてもよい。或いは、上位制御装置200は、インバータ制御部105の一部又は全部を備えていてもよい。
【0029】
なお、インバータ制御部105と上位制御装置200は、例えば、プロセッサを含み、そのプロセッサ(コンピュータ)がプログラムを実行することにより実現される機能部であってもよく、その一部又は全部がハードゥエアであってもよい。上記の各部に関する詳細については後述する。
【0030】
上位制御装置200は、電動機駆動システム1の各部に関する各種情報を収集する。上位制御装置200は、各種情報と、予め定められる諸条件とに基づいて、エンジン10と電動機20とを制御して船舶2の推力を調整する。例えば、上記の各種情報には、各種検出器の検出結果又はその解析結果、電動機駆動システム1の各部の状態又はその解析結果、ユーザの操作、予め定められた航行計画などが含まれる。なお、
図1において上位制御装置200と上記の各種検出器等との接続線の一部の記載を省略する。上位制御装置200は、上記の各種情報と諸条件とに基づいて船舶2の推力を決定する。上位制御装置200は、その推力が得られるようにエンジン10と電動機20がそれぞれ発生する要求トルクを決定し、船舶2の推力を制御する。
【0031】
例えば、上位制御装置200は、電動機20の駆動に対する下記の要求を電力変換装置100に対して要求する。電動機20に対する第1の要求は、電動機20が発生するトルク(要求トルク)に関するものである。上位制御装置200は、電動機20に対する要求トルクに関するトルク指令T_COMを電力変換装置100に通知する。電動機20に対する第2の要求は、電動機20の回転速度に関するものである。上位制御装置200は、電動機20に対する速度指令ω_COMを電力変換装置100に通知する。
【0032】
さらに、上位制御装置200は、クラッチ31の状態に関する情報と、クラッチ32の状態制御に関する要求とを、電力変換装置100に通知する。例えば、上位制御装置200は、クラッチ31の状態を検出し、信号S_C31ONによってクラッチ31の状態を、電力変換装置100に通知する。クラッチ32の嵌合状態を脱状態に切り替える場合には、上位制御装置200は、クラッチ脱指令C32OFF_COMによって、クラッチ32を脱状態に切り替える要求を電力変換装置100に通知する。例えば、嵌合状態にあるクラッチ32を脱状態に切り替えるために、上位制御装置200は、クラッチ脱指令C32OFF_COMをHレベルにする。
【0033】
なお、上位制御装置200は、下記の保護機能を有するものであってもよい。
上位制御装置200は、直流電圧検出部104の検出結果に基づいて、整流器101とインバータ102の間にあたる直流部の電圧VDCから、その直流部の過電圧状態を検出する。なお、上位制御装置200は、その検出結果に基づいて、過電圧状態を解消するように電力変換装置100を制御する。
【0034】
上位制御装置200は、電流センサ103の検出結果に基づいて、インバータ102が電動機20の巻線に流す電流の過電流状態を検出する。その検出結果により、上位制御装置200は、例えばインバータ102と電動機20を保護するように、インバータ102の動作を停止させる。
【0035】
次に、トルク信号切替部110の概要について説明する。なお、その詳細については後述する。
【0036】
トルク信号切替部110は、少なくとも加算器114と、減算器115と、速度制御部116と、最小値選択部117と、判定部119とを含む。トルク信号切替部110は、電動機速度ωMと、主軸速度ωAと、クラッチ31の状態(信号S_C31ON)と、トルク指令T_COMと、速度指令ω_COMとに基づいて、トルク制御に用いる要求トルク(算定トルク値Tcal)を導出する。
【0037】
例えば、トルク信号切替部110は、上記の要求トルクを、速度指令ω_COMの値を基準にして決定する。その際、トルク信号切替部110は、エンジン10に対応するクラッチ31の状態(信号S_C31ON)により、上記の要求トルクの値を調整して、調整後の算定トルク値Tcalを出力する。
【0038】
次に、電流制御部120の一例について説明する。電流制御部120は、少なくとも磁束演算部121と、除算器122と、選択器123と、減算器124と、Q軸電流制御部125と、磁化電流演算部126と、選択器127と、減算器128と、D軸電流制御部129と、直流制動電流指令部130と、積分器131と、位相値保持部132と、電流座標変換器133と、電流座標変換器134と、滑り周波数推定部135と、積分器136と、加算器137とを備える。
【0039】
磁束演算部121の入力には速度センサ24の出力が接続されている。磁束演算部121の出力には除算器122の第2入力と磁化電流演算部126の入力とが接続されている。磁束演算部121は、速度センサ24によって検出された電動機20の軸21の速度に対応する電動機速度ωMに基づいて、磁束の状態を示す磁束Φを導出する。磁束演算部121は、磁束Φの導出結果を除算器122と磁化電流演算部126に出力する。
【0040】
除算器122の第1入力には、トルク信号切替部110の出力が接続されている。除算器122の第2入力には磁束演算部121の出力が接続されている。除算器122の出力には選択器123の第1入力が接続されている。除算器122は、トルク信号切替部110によって導出された算定トルク値Tcalを、磁束演算部121によって導出された磁束Φの値で割った商をQ軸の電流指令値Iqcとして、選択器123に出力する。
【0041】
選択器123の第1入力には除算器122の出力が接続されている。選択器123の第2入力には固定値が供給されている。選択器123の制御入力には上位制御装置200からクラッチ脱指令C32OFF_COMが供給されている。選択器123の出力には減算器124の第1入力が接続されている。選択器123は、除算器122によって導出されたQ軸の電流指令値Iqcと固定値とのうちの何れかを、クラッチ脱指令C32OFF_COMに従い選択して、電流基準Iqrとして減算器124に出力する。上記の固定値は、例えば、0又は0近傍の微小値である。
【0042】
例えば、初期状態としてクラッチ32は嵌合状態であるのでクラッチ脱指令C32OFF_COMは、その信号レベルがL(ロー)レベルであり、選択器123は、制御入力がLレベルになる。この場合に、選択器123は、第1入力を選択して、Q軸の電流指令値Iqcを電流基準Iqrとして出力する。
【0043】
その後、クラッチ脱指令C32OFF_COMが発せられて、クラッチ脱指令C32OFF_COMの信号レベルがH(ハイ)レベルになる。これにより、選択器123の制御入力はHレベルになる。この場合に、選択器123は、第2入力を選択して、0又は0近傍の微小値の固定値を電流基準Iqrとして出力する。
【0044】
減算器124の第1入力には選択器123の出力が接続されている減算器124の第2入力には電流座標変換器133のQ軸出力が接続されている。減算器124の出力にはQ軸電流制御部125の入力が接続されている。減算器124は、選択器123から出力されたQ軸の電流基準Iqrから、電流座標変換器133によって導出されたQ軸電流Iqを減算し、その減算の結果である差分値ΔIqを出力する。
【0045】
Q軸電流制御部125の入力には減算器124の出力が接続されている。Q軸電流制御部125の出力には電流座標変換器134のQ軸入力が接続されている。Q軸電流制御部125は、減算器124の減算によって導出された差分値ΔIqに基づいてQ軸の電圧基準Vqrを導出して、Q軸の電圧基準Vqrを電流座標変換器134のQ軸入力に出力する。例えば、Q軸電流制御部125は、比例積分回路で構成され、差分値ΔIqが最小になるようにその出力であるQ軸の電圧基準Vqrを制御する。
【0046】
磁化電流演算部126の入力には磁束演算部121の出力が接続されている。磁化電流演算部126の出力には選択器127の第1入力が接続されている。磁化電流演算部126は、磁束演算部121によって導出された磁束Φの大きさに基づいて、D軸の電流指令値Idcを導出し、その導出の結果を選択器127に出力する。
【0047】
選択器127の第1入力には磁化電流演算部126の出力が接続されている。選択器127の第2入力には直流制動電流指令部130の出力が接続されている。選択器127の制御入力には上位制御装置200クラッチ脱指令C32OFF_COMが供給される。選択器127の出力には減算器128の第1入力が接続されている。選択器127は、磁化電流演算部126によって導出されたD軸の電流指令値Idcと、直流制動電流指令部130の出力である直流制動電流指令Ibrkとのうちの何れかを、クラッチ脱指令C32OFF_COMに従い選択して、選択の結果を電流基準Idrとして出力する。例えば、直流制動電流指令Ibrkは、電動機20の直流制動時の電流値を規定する。
【0048】
例えば、初期状態としてクラッチ32は嵌合状態であるので、クラッチ脱指令C32OFF_COMはLレベルである。選択器123は、制御入力がLレベルである場合に、第1入力を選択して、D軸の電流指令値Idcを電流基準Idrとして出力する。
【0049】
選択器127は、クラッチ脱指令C32OFF_COMが発せられて制御入力がHレベルである場合に、第2入力を選択して、第2入力に関する直流制動電流指令Ibrkを電流基準Idrとして出力する。
【0050】
減算器128の第1入力には選択器127の出力が接続されている。減算器128の第2入力には電流座標変換器133のD軸出力が接続されている。減算器128の出力にはD軸電流制御部129の入力が接続されている。減算器128は、選択器127から出力されるD軸の電流基準Idrから、電流座標変換器133によって導出されたD軸電流Idを減算し、その減算の結果である差分値ΔIdを出力する。
【0051】
D軸電流制御部129の入力には減算器128の出力が接続されている。D軸電流制御部129の出力には電流座標変換器134のD軸入力が接続されている。D軸電流制御部129は、減算器128の減算によって導出された差分値ΔIdに基づいてD軸の電圧基準Vdrを導出して、D軸の電圧基準Vdrを電流座標変換器134のD軸入力に出力する。例えば、D軸電流制御部129は比例積分回路で構成され、差分値ΔIdが最小になるようにその出力であるD軸の電圧基準Vdrを制御する。
【0052】
なお、直流制動電流指令部130は、直流制動電流指令Ibrkを出力する。直流制動電流指令Ibrkは、直流制動時の電流値を決定する指令値であり、例えば、予め定められた固定値であってよい。この直流制動電流指令Ibrkは、任意の値であってよい。なお、直流制動電流指令Ibrkの値が固定値であることに制限されることはなく、調整された値にしてもよい。例えば、電動機速度ωMの大きさに応じて直流制動電流指令Ibrkの値を決定してもよい。或いは、上位制御装置200が出力する値であってもよい。
【0053】
積分器131の入力には速度センサ24の出力が接続されている。積分器131の出力には加算器137の第1入力が接続されている。積分器131は、電動機速度ωMに基づいて電動機20の回転子の電気角θMを導出する。例えば、積分器131は、電動機速度ωMを時間積分することにより機械角度を求め、さらに電動機20の極数pを考慮し電動機20の回転子の電気角θMを導出する。
【0054】
位相値保持部132の第1入力には加算器137を経て積分器131の出力が接続されている。位相値保持部132の第2入力には位相値保持部132の出力が接続されている。位相値保持部132の制御入力にはクラッチ脱指令C32OFF_COMが供給される。位相値保持部132の出力には電流座標変換器133の基準位相入力と電流座標変換器134の基準位相入力とが接続されている。
【0055】
例えば、位相値保持部132は、メイク・ビフォア・ブレーク(Make-Before-Break)型の接点を備える選択器を含む。位相値保持部132は、加算器137によって導出された位相θを、クラッチ脱指令を示す信号C32OFF_COMに従い保持する。保持された位相θは、直流制動に利用される。位相θの詳細は後述する。
【0056】
例えば、初期状態としてクラッチ32が嵌合状態である場合のクラッチ脱指令C32OFF_COMは、Lレベルである。選択器132は、制御入力がLレベルである場合に第1入力を選択して位相θを基準位相θrefとして出力する。位相値保持部132から出力される基準位相θrefは、後段の電流座標変換に利用される。
【0057】
位相値保持部132は、クラッチ脱指令C32OFF_COMが発せられて制御入力がHレベルである場合に、第2入力を選択する。位相値保持部132は、クラッチ脱指令C32OFF_COMが発せられる直前の位相θを保持して、保持した位相θを基準位相θrefとして出力する。
【0058】
電流座標変換器133は、例えば、入力端子であるA軸入力とB軸入力と、出力端子であるD軸出力とQ軸出力と、基準位相入力とを有する。図に示す電流座標変換器133の入力は、上記のA軸入力であり、B軸入力の記載を省略している。電流座標変換器133の入力には電流センサ103の出力が接続されている。電流座標変換器133の基準位相入力には位相値保持部132の出力が接続されている。電流座標変換器133のQ軸出力には減算器124の第2入力が接続されている。電流座標変換器133のD軸出力には減算器128の第2入力が接続されている。電流座標変換器133は、電流センサ103により検出された出力電流Iと位相値保持部132から出力された基準位相θrefとに基づいてDQ変換して、DQ変換によってQ軸電流IqとD軸電流Idを導出する。
【0059】
ここで、電流座標変換器133を例示してDQ変換について説明する。DQ変換は、直交固定座標から、交流の位相に伴い回転する直交回転座標への変換である。上記の位相を適切に設定することにより、例えば、直交回転座標のQ軸に有効電流(有効電力)成分を射影し、Q軸に直交するD軸に無効電流(有効電力)成分を射影することができる。電流座標変換器133は、基準位相入力に供給される基準位相θrefを基準に、以下の式(1)と式(2)とによって直交固定座標から直交回転座標への座標変換(DQ変換)を行なう。
【0060】
D = Acos(θref) +Bsin(θref) …(1)
Q = -Asin(θref) +Bcos(θref) …(2)
【0061】
なお、上記の式(1)と式(2)におけるBの値を0にすることにより、第2項を省略できる。
【0062】
電流座標変換器134のQ軸入力にはQ軸電流制御部125の出力が接続されている。電流座標変換器134のD軸入力にはD軸電流制御部129の出力が接続されている。電流座標変換器134の基準位相入力には位相値保持部132の出力が接続されている。電流座標変換器134の出力にはPWM制御器141の入力が接続される。電流座標変換器134は、Q軸電流制御部125によって導出されたQ軸電圧基準Vqrと、D軸電流制御部129によって導出されたD軸電圧基準Vdrと、基準位相θrefとに基づいてDQ逆変換を実施して、電圧指令値Vrを導出する。DQ逆変換は、直交回転座標から直交固定座標への座標変換である。
【0063】
滑り周波数推定部135の入力には電流センサ103が接続されている。滑り周波数推定部135の出力には積分器136の入力が接続されている。滑り周波数推定部135は、電流センサ103により検出されたインバータ102の交流出力電流Iに基づいて電動機20の滑り周波数の推定値を導出する。
【0064】
積分器136の入力には滑り周波数推定部135の出力が接続されている。積分器136の出力には加算器137の第2入力が接続されている。積分器136は、滑り周波数推定部135により導出された滑り周波数の推定値を積分して滑り周波数の位相を滑り量調整値θadjとして出力する。
【0065】
加算器137の第1入力には積分器131の出力が接続されている。加算器137の第2入力には積分器136の出力が接続されている。加算器137の出力には位相値保持部132の第1入力が接続されている。加算器137は、積分器131から出力された電動機20の回転子の電気角θMと、積分器136から出力された滑り量調整値θadjとを加算して位相θを導出し、導出の結果の位相θを位相値保持部132に出力する。
【0066】
次に、ゲート制御部140の一例について説明する。ゲート制御部140は、少なくともPWM制御器141(図中の記載はPWM)と、GB制御部142(図中の記載はGB)とを備える。
【0067】
PWM制御器141の入力には電流座標変換器134の出力が接続されている。PWM制御器141の出力にはGB制御部142の入力が接続されている。PWM制御器141は、電流座標変換器134によって導出された電圧指令値Vrに基づいて、インバータ102を駆動するためのPWMパルス信号GCを生成する。
【0068】
GB制御部142の入力にはPWM制御器141の出力が接続されている。GB制御部142の制御入力には上位制御装置200からクラッチ脱指令C32OFF_COMが供給される。GB制御部142の出力にはインバータ102の入力が接続されている。GB制御部142は、PWM制御器141によって生成されたPWMパルス信号GCを、インバータ102にゲート制御信号GCMとして供給する。GB制御部142は、予め定められた運転規則に従い、ゲート制御信号GCMのインバータ102への供給を制限する。
【0069】
図2を参照して、電動機に対する制動制御について説明する。
図2は、実施形態の電動機に対する制動制御に係るタイミングチャートである。この図の上から順に、クラッチ31の状態(S_C31ON)、クラッチ32の状態(S_C32ON)、クラッチ脱指令C31OFF_COMと、ゲート制御信号GCMと、電動機20の状態と、電動機速度ωMとが順に示されている。上記のうち、電動機20の状態が、複数の状態の何れかを示す。電動機速度ωMは、連続的に変化する値を示す。その他のものは2値で示される。ゲート制御信号GCMは、複数の信号であるが代表として1信号で模式的に表現している。
【0070】
この図に示す初期状態は、クラッチ31とクラッチ32が嵌合状態にあり、クラッチ脱指令C32OFF_COMがLレベルに維持され、ゲート制御信号GCMとして、オン期間とオフ期間を交互に繰り返すゲートパルスが連続的に出力され、電動機20がトルク制御で稼働され、電動機20が所望の速度で回転している状態にある。
【0071】
例えば、時刻t1においてクラッチ32を脱状態にするために、クラッチ脱指令C32OFF_COMがHレベルに切り替わる。これにより、GB制御部142は、クラッチ脱指令C32OFF_COMがHレベルに変化したことを検出し、その検出の結果に応じてゲート制御信号GCMの出力を、予め定められた所定の期間Tに亘り停止して、即ち、ゲートブロックを行う。
例えば、GB制御部142は、この期間Tに亘りゲートパルスの信号レベルをLレベルに固定して、上記の所定の期間T内におけるインバータ102を構成するスイッチング素子をオフ状態にする。これにより、動力が供給されなくなった電動機20の電動機速度ωMは、徐々に低下する。
【0072】
所定の期間Tが経過した時刻t2に、GB制御部142は、インバータ102内のスイッチング素子へゲート制御信号GCMの出力を許可する。ここで出力されるスイッチング素子へのゲート制御信号GCMは、電動機20に対して直流電流を通電し制動(いわゆる直流制動)を掛ける信号になる。電動機速度ωMは、その直流制動の作用により減速傾向が強まり、その速度がさらに低下する。
【0073】
時刻t3に、電動機速度ωMが主軸速度ωA以下に低下して、クラッチ32が脱状態になる。その結果、クラッチ32の状態を示すS_C32ONがLレベルになる。なお、電動機20は、その後停止するが、制動状態は継続される。
【0074】
時刻t4に、GB制御部142は、ゲート制御信号GCMの出力を停止して、例えばLレベルにすることで、インバータ102の変換動作を停止させる。
【0075】
なお、上記の所定の期間Tは、PWMパルス信号の周期に比べて十分に長い。例えば、所定の期間Tは、回転状態にある電動機20の誘起電圧が所定値以下になるまでの時間に基づいて予め定められる。例えば、GB制御部142は、クラッチ脱指令C32OFF_COMのHレベルへの変化をトリガにして起動するタイマーを備えていて、そのタイマーの計時結果により、上記のゲート制御信号GCMの出力を制限してもよい。ここで言う、誘起電圧が所定値以下とは、インバータ102が電動機20に対して直流電流を流そうとしたときに、その直流電流が過電流にならないような電電動機20の誘起電圧のレベル以下という意味である。
【0076】
例えば、誘起電圧の振幅(誘起電圧振幅)は、次の式(3)から概算できる。
【0077】
誘起電圧振幅=K・ωM・Lm・I0・exp(-t/τ)
(3)
【0078】
ここで K :比例定数
Lm:電動機20の励磁インダクタンス
I0:電動機20の二次電流の初期値
τ :時定数 τ=(Lm+ls)/rs
ls:電動機20の2次漏れ電流
rs:電動機20の2次抵抗
【0079】
よって、電動機20の特性等に基づいて上記の式(3)の各変数を決定してよい。式(3)により算出される誘起電圧振幅の低減特性に基づいて期間Tを固定値に定めてもよい。また電動機速度ωMにより可変させてもよい。
【0080】
図3を参照して、トルク信号切替部110について説明する。
図3は、実施形態のトルク信号切替部の構成図である。この
図3に示す範囲は、トルク信号切替部110とその周辺部分が含まれる。
【0081】
トルク信号切替部110は、少なくとも速度比較器111と、AND回路112と、選択器113と、加算器114と、減算器115と、速度制御部116と、最小値選択部117と、を備える。なお、速度比較器111と、AND回路112と、選択器113は、前述の判定部119の一例である。
【0082】
速度比較器111の第1入力(図中の記載はA)には速度センサ24の出力が接続されている。速度比較器111の第2入力(図中の記載はB)には速度センサ44の出力が接続さている。速度比較器111の出力(図中の記載はA≧B)にはAND回路112の第2入力が接続されている。速度比較器111は、電動機速度ωMと主軸速度ωAとを比較して、電動機速度ωM(第1入力)が主軸速度ωA(第2入力)未満の場合には、Lレベルを出力する。速度比較器111は、電動機速度ωM(第1入力)が主軸速度ωA(第2入力)以上の場合には、Hレベルを出力する。
【0083】
なお、速度比較器111は、減速機40の減速比k等に基づいた補正を実施してもよい。減速機40の減速比kに基づいた補正の一例として、主軸速度ωAに代えて、主軸速度ωAを値が1ではないkで割った商を利用してもよい。
【0084】
AND回路112の第1入力には上位制御装置200の信号S_C31ONの出力が接続されている。AND回路112の第2入力には速度比較器111の出力が接続されている。AND回路112の出力には選択器113の制御入力が接続されている。AND回路112は論理積回路である。
【0085】
選択器113の第1入力には予め定められた速度指令ω_COM用のバイアス値が供給される。選択器113の第2入力には固定値が供給される。選択器113の制御入力にはAND回路112の出力が接続されている。選択器113の出力には加算器114の第2入力が接続されている。なお、上記の固定値は、0又は0近傍の微小値である。上記のバイアス値は、固定値より大きい正の値をとる。
【0086】
AND回路112からLレベルが出力される場合には、選択器113は、第2入力の値を出力として選択し、これを調整値ωAdjにする。即ち調整値ωAdjは0又は0近傍の微小値になる。
【0087】
AND回路112からHレベルが出力される場合には、選択器113は、AND回路112からLレベルが出力される場合の固定値より大きな値のバイアス値を出力し、これを調整値ωAdjにする。例えば、調整済速度指令値aω_COMが、速度指令ω_COMの上限値の数%から10%程度の値になるように、上記のバイアス値を適宜決定してよい。
【0088】
加算器114の第1入力には上位制御装置200の速度指令ω_COMの出力が接続されている。加算器114の第2入力には選択器113の出力が接続されている。加算器114の出力には減算器115の第1入力が接続されている。加算器114は、速度指令ω_COMと選択器113から出力された調整値ωAdjとを加算して調整済速度指令値aω_COMを導出し、調整済速度指令値aω_COMを減算器115に出力する。
【0089】
減算器115の第1入力には加算器114の出力が接続されている。減算器115の第2入力には速度センサ24の出力が接続されている。減算器115の出力に速度制御部116の入力が接続されている。減算器115は、加算器114によって導出された調整済速度指令値aω_COMから電動機速度ωMを減算し、その差分を速度制御部116に出力する。
【0090】
速度制御部116の入力には減算器115の出力が接続されている。速度制御部116の出力には最小値選択部117の第2入力が接続されている。速度制御部116は、減算器115の減算によって導出された差分が最小となるような速度指令に基づいたトルク指令Tωを最小値選択部117に出力する。速度制御部116は例えば比例積分回路で構成される。
【0091】
最小値選択部117の第1入力には上位制御装置200のトルク指令T_COMの出力が接続されている。最小値選択部117の第2入力には速度制御部116の出力が接続されている。最小値選択部117の出力には除算器122の第1入力が接続されている。最小値選択部117は、速度制御部116によって導出されたトルク指令値Tωと、上位制御装置200から指示されたトルク指令(トルク指令値T_COM)とを比較して、それらのうちからより小さい方を選択する。最小値選択部117は、上記の選択の結果を算定トルク値Tcalとして出力する。
【0092】
ここで、トルク信号切替部110の動作の原理を整理する。
【0093】
電力変換装置100は、エンジン10の動力と電動機20の動力を利用して、プロペラ50を駆動する。プロペラ50に供給される動力は、クラッチ31とクラッチ32の状態により異なる。
【0094】
クラッチ31とクラッチ32の状態を、主軸速度ωAと、電動機速度ωMと、クラッチ31の状態の3つの情報に基づいて整理する。
【0095】
(状態1)ωM≧ωA、且つ信号S_C31ONがHレベル。
上記から、クラッチ31とクラッチ32がともに嵌合状態であると推定される。即ち、船舶2はエンジン10と電動機20の両方の動力で推進していると推定される。
【0096】
(状態2)ωM≧ωA、且つ信号S_C31ONがLレベル。
上記から、クラッチ31が脱状態にあり、クラッチ32が嵌合状態であると推定される。即ち、船舶2は電動機20の動力で推進していると推定される
【0097】
(状態3)ωM<ωA、且つ信号S_C31ONがHレベル。
上記から、クラッチ31が嵌合状態にあり、クラッチ32が脱状態であると推定される。即ち、船舶2はエンジン10の動力で推進していると推定される。
【0098】
(状態4)ωM<ωA、且つ信号S_C31ONがLレベル。
上記から、クラッチ31とクラッチ32がともに脱状態であると推定される。即ち、船舶2はエンジン10と電動機20の両方とも推進に関与していないと推定される。
【0099】
上記の(状態1)から(状態3)の何れかの状態にあると、プロペラ50がエンジン10と電動機20の一方又は両方の動力によって駆動される。
【0100】
なお、上記の状態のうち、(状態1)と(状態2)の場合は、クラッチ32が嵌合状態である。このうち、クラッチ31も嵌合状態にあるのは、(状態1)である。
【0101】
上記の(状態1)、つまりクラッチ31とクラッチ32がともに嵌合状態にあると、エンジン10のトルクが各軸と各クラッチと減速機40とを経由して電動機20にまで伝達されることがある。この場合、インバータ102が電動機20を速度制御によって駆動すると、エンジン10の出力の方が大きいのでインバータ102が回生動作を行い直流回路に過電圧が生じることがある。上記の駆動方法では、電動機20を安定に駆動させることが困難である。
【0102】
そこで、(状態1)の場合には、インバータ102は、電動機20を定トルクのトルク制御で駆動するとよい。
【0103】
例えば、トルク信号切替部110は、主軸速度ωAと、電動機速度ωMと、クラッチ31の状態の3つの情報を、トルク信号への切替に利用する。トルク信号切替部110は、上記の場合分けと同様に、主軸速度ωAと電動機速度ωMの大小関係と、クラッチ31の状態とにより、上記の(状態1)の場合を検出する。トルク信号切替部110のAND回路112は、上記の(状態1)の場合にHレベルを出力する。これに応じて、判定部119の選択器113は、バイアス値に設定された調整値ωAdjを出力する。
【0104】
上記の通り、トルク信号切替部110は、(状態1)の場合に、選択器113の第1入力に供給されているバイアス値を選択器113から出力させ、(状態1)以外の場合には、バイアス値を付加しない固定値(例えば0)を選択器113から出力させる。つまり、トルク信号切替部110は、(状態1)の場合の出力信号(調整値ωAdj)の大きさを、上記の(状態2)から(状態4)の各状態の値より大きな値に制御する。
【0105】
これにより、加算器114の出力値に対し、(状態1)の場合に、上記のバイアス値分の大きさに相当する値が加算される。この場合加算器114の出力値は、例えば速度指令ω_COMに対して速度指令ω_COMの上限値の数%から10%程度のバイアス値が加算されたものになる。そのため、減算器115の出力値は、バイアス値程度増加する。これにより速度制御部116から出力されるトルク指令Tωは、速度制御部116による積分演算により正方向に飽和して大きな値になる。
【0106】
最小値選択部117は、入力される信号の中からより小さい方を選択する。その結果、最小値選択部117は、上記の(状態1)の場合には、上位制御装置200から指示されたトルク指令(トルク指令値T_COM)を選択して、算定トルク値Tcalとして出力する。これにより、トルク制御が選択される。
上記の制御により、(状態1)の場合に電動機20の動力でプロペラ50を加勢する際の安定性を確保できる。
【0107】
なお、(状態2)(状態3)(状態4)の場合は速度指令ω_COMに加算される調整値ωadjの値は0または微小値であるので、調整済速度指令値aω_COMは速度指令ω_COMとほほ等しい。したがって、速度調整部116の出力であるトルク指令Tωは、電動機速度ωMが速度指令ω_COMに追従するようになる。このとき、上位制御装置200から指示されたトルク指令T_COMが示すトルクより、速度調整部116から出力されるトルク指令Tωが示すトルクが小さければ、最小値選択部117はトルク指令Tωを選択し、Tcalとして除算器122に出力する。この場合には速度指令ω_COMに追従するようにインバータ102が動作しても、トルク指令T_COMより小さい値になるため、インバータ102の動作が不安定になることはない。
【0108】
上記の4つの状態のうち、(状態1)の場合には、クラッチ31が嵌合状態にある。上記のクラッチ31が嵌合している(状態1)の場合も、電力変換装置100は、インバータ102を制御して電動機20を直流制動等により制動させることにより、エンジン10のトルクに影響されることなくクラッチ32を脱状態に切り替えることができる。
【0109】
なお、上記の通り整流器101には回生能力がない。インバータ102が運転していて、SSSクラッチ部30が切れずに機械的な作用で電動機20の回転が継続していると、インバータ102が回生状態になる。電力変換装置100は、これを避けるように、クラッチ32を脱状態にして電動機20を機械的に回転させる力を遮断することにより、インバータ102の直流入力側に過電圧を生じさせることを抑制できる。
【0110】
通常の運転時の各部の状態は下記のとおりである。クラッチ32は嵌合状態である。上位制御装置200からのクラッチ脱指令C32OFF_COMはLレベルであり、選択器123、選択器127及び選択器132は、夫々第1入力を選択して出力する。また、GB制御部142は、PWM制御器141の出力であるPWM信号GCに基づきゲート制御信号GCMをインバータ102に出力している。したがって、電力変換装置100は、上位制御装置200からのトルク指令T_COMまたは速度制御部116からのトルク指令Tωに基づく電流指令値IqcをQ軸の電流基準Iqrとし、磁化電流演算部の出力である電流指令値IdcをD軸の電流基準Idrとし、加算器137の出力である位相θを基準位相θrefとして、所謂ベクトル制御によりインバータ102を動作させる。
【0111】
ここで、
図2に示す時刻t1にてクラッチ32を切り離すためクラッチ上位制御装置200からのクラッチ脱指令C32OFF_COMがHレベルになると、選択器123、選択器127及び選択器132は、夫々第2入力を選択する。
【0112】
すると、Q軸の電流基準Iqrは0または微小値になる。D軸の電流基準Idrは直流制動電流指令Ibrkの値になる。さらに、位相値保持部132は、クラッチ脱指令C32OFF_COMがHレベルになる直前の位相θを保持して、保持した位相θを基準位相θrefとして出力する。
【0113】
したがって、時刻t1以降の基準位相θrefは一定の値に固定される。GB制御部142はクラッチ脱指令C32OFF_COMがHレベルになると、所定の期間Tの間ゲート制御信号GCMの出力を停止してゲートブロックを行う。
【0114】
GB制御部142は、所定の期間Tを経過した時刻t2になると、ゲートブロックを解除し、PWM制御器141の出力であるPWM信号GCに基づきゲート制御信号GCMをインバータ102に出力する。
【0115】
なお、時刻t1以降、基準位相θrefは、直前の位相θに固定されているので、時刻t2以降のインバータ102は、D軸の電流基準Idrと固定された位相θで定められた直流電流を、電動機20に通電して直流制動を掛けることができる。直流制動が開始されると
図2に示されるように、時刻t2以降電動機速度ωMは急速に低下する。このように、軸21の速度である電動機速度ωMを主軸速度ωAに比例する軸42の速度より低下させることにより、クラッチ32を脱状態にすることができる。
【0116】
以上のように、本実施形態によれば、電力変換装置100が回生状態で過電圧になることなく安定してクラッチ32を脱状態にすることができる。
【0117】
なお、本実施形態では、時刻t1に、直流制動時にQ軸の電流基準Iqrを0または微小値とし、D軸の電流基準Idrは直流制動電流指令Ibrkの値としているが、GB解除時の時刻t2でQ軸およびD軸の電流基準の設定を変更してもよい。
【0118】
さらに、本実施形態では、直流制動時にQ軸の電流基準Iqrを0または微小値とし、D軸の電流基準Idrは直流制動電流指令Ibrkの値としているが、直流制動時にQ軸の電流基準Iqrを直流制動電流指令Ibrkの値とし、D軸の電流基準Idrを0または微小値にしてもよい。即ち、D軸及びQ軸の電流基準を互いに直交する座標空間におけるベクトルを用いて規定すると、そのベクトルの大きさ(絶対値)を直流制動電流指令Ibrkの値として規定できる。例えば、その大きさは固定値にしてよい。
【0119】
なお、直流制動を行う時刻t2以降の基準位相θrefも任意の固定位相にしてもよい。
【0120】
電力変換装置100は、上記のクラッチ32の出力軸の回転速度、つまり主軸速度ωAに対してクラッチ32の入力軸の速度を調整することで、電動機駆動システム1の安定な状態を保ちながら、クラッチ32を切ることができる。
【0121】
上記の実施形態によれば、インバータ102は、船舶の推力の一部又は全部を供給する動力源(第1動力源)である電動機20に電力を供給する。インバータ制御部105は、船舶の推力の一部又は全部を供給するエンジン10(第2動力源)及びプロペラ50と、電動機20との間に設けられたクラッチ32(第1のクラッチ)の状態を、インバータ102を制御することにより脱状態にすることにより、電動機20に発電させないようにクラッチ部30を切ることができ、電動機駆動システム1をより安定に稼働させることができる。
【0122】
また、インバータ制御部105は、クラッチ32を切る場合に、インバータ102を制御して電動機20を制動させることにより、クラッチ32に掛けるトルクを調整することで、クラッチ32を切ることができる。なお、電流制御部120は、電動機20を直流制動により減速させることによりクラッチ32を切ることができる。
【0123】
また、インバータ制御部105は、電動機20をトルク制御で駆動する第1モードと電動機20を速度制御で駆動する第2モードとの少なくとも2つのモードを有している。インバータ制御部105は、第2モードで電動機20を駆動しているときに、エンジン10(第2動力源)がプロペラ50に推力を供給する場合には、第1モードで電動機20を駆動させるように運転モードを切り替える。これにより、動力源からの推力の供給状態に変動が生じても、電動機駆動システム1をより安定に稼働させることができる。
【0124】
例えば、電流制御部120は、インバータ102から電動機20への電力供給を停止させてから所定の期間Tが経過した後に電動機20に直流制動をかけることで、電動機20に誘導電圧が発生している期間を避けて、電動機20に制動トルクを発生させることができる。なお、GB制御部142は、所定時間が経過するまでインバータ102に対するゲート制御信号GCMの供給を中断し、インバータ102から電動機20への電力供給を停止させる。
【0125】
例えば、上記の所定の期間Tは、電動機20の誘起電圧が所定値以下に低下する時間に相当するようにしてもよい。これにより、インバータ制御部105は、電動機20の誘起電圧を直接検出することなく、予め定められた所定の時間に基づいて、電動機20の誘起電圧が所定値以下に低下していると識別することができる。
【0126】
なお、電流制御部120は、電動機20の誘起電圧が所定値以下になってから直流制動をかけるようにしてもよい。例えば、上記の場合に、上位制御装置200は、電動機速度ωM又は主軸速度ωAが予め定められた所定値以下に低下したことを検出する。上記の所定値以下に低下した後に、上位制御装置200は、電力変換装置100に対して、クラッチ脱指令C32OFF(Hレベル)を送り、電動機20に直流制動をかけてもよい。なお、GB制御部142がゲート制御信号GCMの出力を制限している期間は、インバータ102に対するゲート制御信号GCMの供給が制限される。そのため、電動機20の誘起電圧が所定値を超えるような期間であれば、上記の直流制動の適用が制限され、電動機20の巻線に過電流が流れることを回避できる。なお、上位制御装置200は、上記の誘起電圧を、直流電圧検出部104によって検出された直流電圧の変動から推定することができる。
【0127】
例えば、電動機20は、クラッチ32を介して所定の減速比kの減速機40に接続される。電流制御部120は、電動機20の電動機速度ωMが、主軸回転速度ωAを減速比kで割った商以上である場合に、嵌合状態にあるクラッチ31によってエンジンと減速機40とが連結された状態にあり、且つクラッチ32が嵌合状態にあると判定してもよい。これにより、電動機速度ωMが、減速比kと主軸速度ωAとの積以上である場合を識別することで、クラッチ31とクラッチ32がそれぞれ嵌合状態にあると判定することができる。
【0128】
例えば、電動機20は、クラッチ32を介して減速比kの減速機40に接続される。電流制御部120は、電動機20の電動機速度ωMが、主軸回転速度ωAを減速比kで割った商以上である場合に、クラッチ脱指令C32OFF_COMを受けることにより、電動機速度ωMを下げるようにインバータ102を制御してもよい。これにより、電動機速度ωMが、減速比kと主軸速度ωAとの積以上であり、且つ、クラッチ脱指令C32OFF_COMを受けた場合に、電動機速度ωMを下げるようにインバータ102を制御することにより、回生運転状態が発生しうる状況を、クラッチ32を脱状態にして回避させることができる。
【0129】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、船舶推進用電動機駆動システムは、インバータと、制御部とを備える。インバータは、船舶の推力の一部又は全部を供給する第1動力源である電動機に電力を供給する。制御部は、前記船舶の推力の一部又は全部を供給する第2動力源及び主軸に連結されたプロペラと、前記電動機との間に設けられた自動嵌脱クラッチである第1のクラッチの状態を、前記インバータを制御することにより脱状態にすることにより、船舶推進用電動機駆動システムがより安定に動作するようになる。
【0130】
上記の制御装置は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0131】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0132】
なお、上記の実施形態において、減速機40の減速比kを1であるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、速度比較器111は、電動機速度ωMと(減速比kと主軸速度ωAとの積)とを比較し、電動機速度ωM(第1入力)が(減速比kと主軸速度ωAとの積)(第2入力)以上の場合に出力をHレベルにする。その出力がHレベルである場合は、クラッチ31とクラッチ32がともに嵌合状態にあることを示す。
【符号の説明】
【0133】
1…電動機駆動システム(船舶推進用電動機駆動システム)、2…船舶、10…エンジン、20…電動機、30…クラッチ部、31…クラッチ(第2のクラッチ)、32…クラッチ(第1のクラッチ)、40…減速機、50…プロペラ、51…主軸、60…発電機、100…電力変換装置、101…整流器、102…インバータ、105…インバータ制御部、110…トルク信号切替部、120…電流制御部、130…直流制動電流指令部、140…ゲート制御部、200…上位制御装置