(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】タイヤ故障検知装置、タイヤ故障検知方法、タイヤ故障検知プログラム及びタイヤ故障検知プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220617BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 B
(21)【出願番号】P 2020544961
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2018008059
(87)【国際公開番号】W WO2019167264
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 大生
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-108701(JP,A)
【文献】特開平10-281944(JP,A)
【文献】特開2008-049776(JP,A)
【文献】特開2003-312465(JP,A)
【文献】特開平06-206558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0156790(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0113494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角を検出する操舵角センサと、
ヨーレートを検出するヨーレートセンサと、
コントロールユニットと、
を有し、
前記コントロールユニットが、前記操舵角センサ
の出力信号、前記ヨーレートセンサ
の出力信号
、車両速度及び車両重量に基づいて横滑りエネルギーを求め、当該横滑りエネルギーが第1の閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定するように構成された、
タイヤ故障検知装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットが、前記操舵角センサ
の出力信号、前記ヨーレートセンサ
の出力信号
及び車両速度に基づいて横滑り角を求め、当該横滑り角を積分することで前記横滑りエネルギーを求めるように構成された、
請求項1に記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項3】
前記コントロールユニットが、前記操舵角センサの出力信号に第1のローパスフィルタを適用した値から、前記ヨーレートセンサの出力信号に第2のローパスフィルタを適用した値を減算して前記横滑り角を求めるように構成された、
請求項2に記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項4】
前記コントロールユニットが、前記横滑り角の絶対値が所定角度より大きい場合に、前記横滑りエネルギーを求めるように構成された、
請求項2又は請求項3に記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項5】
外部と無線通信するための無線機を更に有し、
前記コントロールユニットが、前記タイヤに故障が発生したと判定すれば、前記無線機を介して故障発生を外部に知らせるように構成された、
請求項1~
請求項4のいずれか1つに記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項6】
前記コントロールユニットが、前記無線機を介して受信した外部からのデータに応じて、前記第1の閾値を更新するように構成された、
請求項5に記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項7】
前記コントロールユニットが、前記横滑りエネルギーが前記第1の閾値より大きい第2の閾値を上回ったら、エンジンを電子制御するエンジンコントロールユニットに対して出力抑制指令を送信するように構成された、
請求項1~
請求項6のいずれか1つに記載のタイヤ故障検知装置。
【請求項8】
操舵角を検出する操舵角センサの出力信号と、ヨーレートを検出するヨーレートセンサの出力信号と、を読み込み可能なコントロールユニットが、前記操舵角センサ
の出力信号、前記ヨーレートセンサ
の出力信号
、車両速度及び車両重量に基づいて横滑りエネルギーを求め、当該横滑りエネルギーが第1の閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定する、
タイヤ故障検知方法。
【請求項9】
前記コントロールユニットが、前記操舵角センサ
の出力信号、前記ヨーレートセンサ
の出力信号
及び車両速度に基づいて横滑り角を求め、当該横滑り角を積分することで前記横滑りエネルギーを求める、
請求項8に記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項10】
前記コントロールユニットが、前記操舵角センサの出力信号に第1のローパスフィルタを適用した値から、前記ヨーレートセンサの出力信号に第2のローパスフィルタを適用した値を減算して前記横滑り角を求める、
請求項9に記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項11】
前記コントロールユニットが、前記横滑り角の絶対値が所定角度より大きい場合に、前記横滑りエネルギーを求める、
請求項9又は請求項10に記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項12】
前記コントロールユニットが、前記タイヤに故障が発生したと判定すれば、外部と無線通信するための無線機を介して故障発生を外部に知らせる、
請求項8~請求項11のいずれか1つに記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項13】
前記コントロールユニットが、前記無線機を介して受信した外部からのデータに応じて、前記第1の閾値を更新する、
請求項12に記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項14】
前記コントロールユニットが、前記横滑りエネルギーが前記第1の閾値より大きい第2の閾値を上回ったら、エンジンを電子制御するエンジンコントロールユニットに対して出力抑制指令を送信する、
請求項8~請求項13のいずれか1つに記載のタイヤ故障検知方法。
【請求項15】
操舵角
、ヨーレート
、車両速度及び車両重量に基づいて横滑りエネルギーを求める処理と、
前記横滑りエネルギーが閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定する処理と、
をコンピュータに実行させるためのタイヤ故障検知プログラム。
【請求項16】
操舵角
、ヨーレート
、車両速度及び車両重量に基づいて横滑りエネルギーを求める処理と、
前記横滑りエネルギーが閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定する処理と、
をコンピュータに実行させるためのタイヤ故障検知プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ故障検知装置、タイヤ故障検知方法、タイヤ故障検知プログラム及びタイヤ故障検知プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ摩耗などのタイヤ故障を検知することを目的として、国際公開第2006/001255号パンフレット(特許文献1)に記載されるように、タイヤに取り付けられた加速度センサの出力信号に基づいて、タイヤの摩耗を検知する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2006/001255号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイヤに取り付けられた加速度センサには、例えば、タイヤの回転による遠心力、走行路面の凹凸による衝撃力などが作用するため、加速度センサが壊れやすいなど、長期間の使用に耐え得る信頼性が十分ではなかった。
【0005】
そこで、本発明は、車両に取り付けられているセンサの出力信号を利用してタイヤの故障を検知することで、長期間の使用に耐え得るタイヤ故障検知装置、タイヤ故障検知方法、タイヤ故障検知プログラム及びタイヤ故障検知プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
タイヤ故障検知装置は、操舵角を検出する操舵角センサと、ヨーレートを検出するヨーレートセンサと、コントロールユニットと、を有する。そして、コントロールユニットが、操舵角センサの出力信号、ヨーレートセンサの出力信号、車両速度及び車両重量に基づいて横滑りエネルギーを求め、横滑りエネルギーが第1の閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤにセンサを取り付ける必要がないため、長期間の使用に耐え得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】テレマティクスシステムの一例を示すシステム構成図である。
【
図3】コントロールユニットの一例を示す内部構成図である。
【
図4】サーバコンピュータの一例を示す内部構成図である。
【
図5】タイヤ故障検知処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】横滑りエネルギーとタイヤダメージとの関係図である。
【
図8】データベース更新処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】データベースに格納されるレコードの一例の説明図である。
【
図10】タイヤダメージを表示する一例の説明図である。
【
図11】バリエーション1における車両の一例を示す平面図である。
【
図12】バリエーション1における車両物理モデルの一例の説明図である。
【
図13】バリエーション2における車両の一例を示す平面図である。
【
図14】バリエーション2における車両物理モデルの一例の説明図である。
【
図15】バリエーション3における車両の一例を示す側面図である。
【
図16】バリエーション3における解析モデルの一例の説明図である。
【
図18】誤差を含まない場合の横滑り角の推定値の時系列応答の一例の説明図である。
【
図19】誤差を含んだ場合の横滑り角の推定値の時系列応答の一例の説明図である。
【
図20】トラクタの物理モデルの一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、タイヤ故障検知装置を組み込んだテレマティクスシステムの一例を示す。
【0010】
テレマティクスシステム100は、トラックなどの車両200に搭載された車載器300と、アプリケーションプロバイダの管理センターMCに設置されたサーバコンピュータ400と、運輸会社などのバックオフィスBOに設置されたパーソナルコンピュータ500と、を有している。車両200は、トラックに限らず、例えば、バス、乗用車、トラクタ、建設機械などであってもよい。
【0011】
車載器300は、
図2に示すように、テレマティクスサービスを利用するためのテレマティクスユニット320と、タイヤ故障検知装置を実装するためのコントロールユニット340と、GPS(Global Positioning System)衛星600のGPS信号を受信するGPSアンテナ360と、管理センターMCのサーバコンピュータ400と無線通信するための無線機380と、を備えている。そして、テレマティクスユニット320は、コントロールユニット340、GPSアンテナ360及び無線機380と相互通信可能に接続されている。なお、車載器300は、テレマティクスユニット320に対する入出力機能を提供するHMI(Human Machine Interface)を備えることもできる。
【0012】
コントロールユニット340は、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ340Aと、不揮発性メモリ340Bと、揮発性メモリ340Cと、入出力回路340Dと、通信回路340Eと、これらを相互接続するバス340Fと、を内蔵している。不揮発性メモリ340Bは、例えば、電源を遮断してもデータを保持可能なフラッシュROM(Read Only Memory)からなり、タイヤ故障検知装置を実装するための制御プログラム(タイヤ故障検知プログラム)などを格納する。揮発性メモリ340Cは、例えば、電源を遮断するとデータが消失するダイナミックRAM(Random Access Memory)からなり、プロセッサ340Aの一時的な記憶領域となる。入出力回路340Dは、各種のセンサ、スイッチなどのデジタル信号又はアナログ信号を入力すると共に、アクチュエータなどの外部機器にデジタル又はアナログの駆動信号を出力する。通信回路340Eは、例えば、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークに接続するためのインタフェースを提供する。
【0013】
コントロールユニット340には、入出力回路340Dを介して、車両200の操舵角δを検出する操舵角センサ700の出力信号と、車両200のヨーレートrを検出するヨーレートセンサ720の出力信号と、車両200の車両速度Vを検出する車速センサ740の出力信号と、が入力されている。また、コントロールユニット340は、通信回路340Eを介して、図示しないエンジンを電子制御するエンジンコントロールユニット760と相互通信可能に接続されている。
【0014】
管理センターMCのサーバコンピュータ400は、
図4に示すように、CPUなどのプロセッサ400Aと、不揮発性メモリ400Bと、プロセッサ400Aの一時的な記憶領域となる揮発性メモリ400Cと、外部機器と接続するための入出力回路400Dと、ハードディスクドライブなどのストレージ400Eと、これらを相互接続するバス400Fと、を内蔵している。
【0015】
バックオフィスBOのパーソナルコンピュータ500は、アプリケーションプロバイダから提供されるサービスを利用するために、例えば、コンピュータネットワークの一例として挙げられるインターネット800を介して、管理センターMCのサーバコンピュータ400に相互通信可能に接続されている。ここで、アプリケーションプロバイダから提供されるサービスに関する各種設定を可能にすべく、パーソナルコンピュータ500には、例えば、ウェブブラウザが予めインストールされている。
【0016】
かかるテレマティクスシステム100において、車載器300のテレマティクスユニット320は、車両200のイグニッションスイッチがOFFからONになったことを契機として、管理センターMCのサーバコンピュータ400との間の無線通信を確立する。そして、テレマティクスユニット320は、管理センターMCのサーバコンピュータ400から提供されるテレマティクスサービスを利用できるようになる。
【0017】
また、車載器300のコントロールユニット340のプロセッサ340Aは、車両200のイグニッションスイッチがOFFからONになったことを契機として、不揮発性メモリ340Bに格納された制御プログラムを実行する。そして、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、操舵角センサ700、ヨーレートセンサ720及び車速センサ740の各出力信号に基づいて横滑りエネルギーEを求め、この横滑りエネルギーEが第1の閾値を上回ったらタイヤに故障が発生したと判定する。
【0018】
なお、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、操舵角センサ700、ヨーレートセンサ720及び車速センサ740の各出力信号に代えて、車載ネットワークを介して相互通信可能に接続された他のコントロールユニットから操舵角δ、ヨーレートr及び車両速度Vを読み込んでもよい。また、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、車速センサ740の出力信号に代えて、例えば、走行頻度が高い道路の制限速度など、所定の定数を使用してもよい。
【0019】
図5は、コントロールユニット340が起動されたことを契機として、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが所定時間ごとに繰り返し実行する、タイヤ故障検知処理の一例を示す。
【0020】
タイヤ故障検知処理は、コンピュータ、例えば、コントロールユニット340のプロセッサ340Aに、本実施形態で説明する処理を定義したタイヤ故障検知プログラムを実行させることにより実現可能である。タイヤ故障検知プログラムは、例えば、可搬メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、保存、配布などが可能である。また、タイヤ故障検知プログラムは、インターネットや電子メールなどを介して、タイヤ故障検知処理を行うコンピュータに配布することも可能である。
【0021】
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、ヨーレートセンサ720からヨーレートrを読み込む。
【0022】
ステップ2では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、ヨーレートrの絶対値が所定角速度より大きいか否かを判定する。ここで、所定角速度は、後述するように、横滑り角βを積分して横滑りエネルギーEを推定する際、誤差の蓄積によって推定精度が低下するのを抑制するための閾値であって、例えば、ヨーレートセンサ720の分解能を考慮して決定することができる。そして、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、ヨーレートrの絶対値が所定角速度より大きいと判定すれば、処理をステップ3へと進める(Yes)。一方、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、ヨーレートrの絶対値が所定角速度以下であると判定すれば、推定精度の低下を抑制すべく、制御サイクルにおけるタイヤ故障検知処理を終了させる(No)。
【0023】
ステップ3では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、操舵角センサ700から操舵角δを読み込む。
【0024】
ステップ4では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、車速センサ740から車両速度Vを読み込む。
【0025】
ステップ5では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、操舵角δ、ヨーレートr及び車両速度Vに基づいて、車両200の横滑り角βを推定する。具体的には、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、次式のように、操舵角δに1次のローパスフィルタh1/(T1s+1)を適用(乗算)した値から、ヨーレートrに1次のローパスフィルタh2/(T1s+1)を適用(乗算)した値を減算することで、横滑り角βを推定する。ここで、1次のローパスフィルタh1/(T1s+1)及びh2/(T1s+1)が、夫々、第1のローパスフィルタ及び第2のローパスフィルタの一例として挙げられる。
【0026】
【0027】
上記の横滑り角βの推定式において、sはラプラス演算子、T
1はローパスフィルタの時定数、h
1及びh
2はフィルタゲインである。ここで、ローパスフィルタの時定数T
1、フィルタゲインh
1及びh
2は、
図6に示すような車両の物理モデル(等価2輪モデル)を利用して設定することができる。具体的には、車両の物理モデルにおいて、車両重量をm、前輪コーナリングパワーをK
f、後輪コーナリングパワーをK、重心から前軸までの距離をl
f、重心から後軸までの距離をl
rとすると、これらと車両速度Vとの間には、次式のような関係式が成り立つ。従って、このような関係式を利用し、ローパスフィルタの時定数T
1、フィルタゲインh
1及びh
2を求めることができる。なお、車両重量mは、例えば、車両総重量、平均的な積荷状態での車両重量などを利用することもできる。また、ローパスフィルタの時定数T
1、フィルタゲインh
1及びh
2は、コントロールユニット340の不揮発性メモリ340Bに変更可能に格納しておけば、各車両200に容易に適合させることができる。
【0028】
【0029】
ステップ6では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、横滑り角βの絶対値が所定角度より大きいか否かを判定する。ここで、所定角度は、後述するように、横滑りエネルギーEを求める際、誤差の蓄積によって計算精度が低下することを抑制するための閾値であって、例えば、計算誤差などを考慮して決定することができる。そして、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑り角βの絶対値が所定角度より大きいと判定すれば、処理をステップ7へと進める(Yes)。一方、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑り角βの絶対値が所定角度以下であると判定すれば、計算精度の低下を抑制すべく、制御サイクルにおけるタイヤ故障検知処理を終了させる(No)。
【0030】
ステップ7では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、次式のように、横滑り角βを積分して横滑りエネルギーEを求める。
【0031】
【0032】
横滑りエネルギーEを求める上記の式において、車両重量mは、次のように求めることができる。なお、以下の例は、単なる例示であり、他の公知の技術によって車両重量mを求めたり、車両総重量、平均的な積荷状態での車両重量などを車両重量mとしたりすることもできる。
【0033】
(1)車両200がエアサスペンション装置を備えている場合、エアサスペンションに作用するエア圧力から車両重量mを推定することができる。
(2)運転者に積載量を選択させる入力デバイスが車両200に搭載されている場合、選択された積載量に空荷の車両重量を加算した値を車両重量mとすることができる。
【0034】
(3)車両200がリーフサスペンション装置を備えている場合、リーフスプリングに作用する荷重をピエゾ素子で検出し、その検出値から車両重量mを推定することができる。
(4)積載重量を検出するロードセルが車両200に搭載されている場合、ロードセルによって検出された積載荷重に空荷の車両重量を加算した値を車両重量mとすることができる。
【0035】
ステップ8では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、横滑りエネルギーEが第1の閾値を上回っているか否かを判定する。ここで、第1の閾値は、タイヤに故障が発生しているか否かを判定するための閾値であって、例えば、タイヤの摩耗特性などを考慮して初期値を適宜決定することができる。そして、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑りエネルギーEが第1の閾値を上回っていると判定すれば、タイヤ故障(例えば、タイヤ摩耗)が発生したと判断して、処理をステップ9へと進める(Yes)。一方、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑りエネルギーEが第1の閾値以下であると判定すれば、タイヤ故障が発生していないと判断して、処理をステップ11へと進める(No)。
【0036】
ステップ9では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、例えば、車載器300のHMIのディスプレイに、タイヤ故障が発生したことを表示する。
【0037】
ステップ10では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、テレマティクスユニット320を利用して、管理センターMCのサーバコンピュータ400にタイヤ故障が発生したことを送信する。ここで、サーバコンピュータ400に送信するデータには、タイヤ故障が発生したことを示す情報に加え、車両200を特定可能な識別子、タイヤ故障が発生したと判定した時点における横滑りエネルギーEなどを含むことができる。
【0038】
ステップ11では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、横滑りエネルギーEが第1の閾値より大きい第2の閾値を上回っているか否かを判定する。ここで、第2の閾値は、車両200の運転者などがタイヤ故障の発生を認識したにもかかわらず、その状態で走行を続けることを抑制するための閾値であって、例えば、タイヤの特性などに応じて適宜決定することができる。そして、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑りエネルギーEが第2の閾値を上回っていると判定すれば、タイヤがバーストする可能性があると判断して、処理をステップ12へと進める(Yes)。一方、コントロールユニット340のプロセッサ340Aは、横滑りエネルギーEが第2の閾値以下であると判定すれば、タイヤがバーストする可能性がないと判断して、制御サイクルにおけるタイヤ故障検知処理を終了させる(No)。
【0039】
ステップ12では、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが、通信回路340Eを介して、エンジンコントロールユニット760に対して出力抑制指令を出力する。なお、出力抑制指令を受信したエンジンコントロールユニット760は、例えば、燃料噴射量を低減したり、点火時期を遅角したりすることで、エンジン出力を低下させる。
【0040】
かかるタイヤ故障検知装置によれば、車両200のヨーレートrの絶対値が所定角速度より大きい場合、コントロールユニット340は、車両の物理モデルを数式化した簡単な推定式から、操舵角δ、ヨーレートr及び車両速度Vに応じた、車両200の横滑り角βを推定する。そして、コントロールユニット340は、横滑り角βの絶対値が所定角度より大きいとき、横滑り角βを積分することによって、車両200の横滑りエネルギーEを求める。
【0041】
車両200の横滑りエネルギーEは、タイヤの横滑りによって発生する摩擦エネルギーを表すので、タイヤ故障の前兆を示す指標となる。そこで、本実施形態では、例えば、タイヤの摩擦特性などを考慮して第1の閾値を適切に設定することで、コントロールユニット340は、横滑りエネルギーEが第1の閾値を上回ったら、タイヤに摩耗などの故障が発生したと判定する。また、コントロールユニット340は、タイヤに故障が発生したと判定した場合、テレマティクスユニット320の機能を利用して、管理センターMCのサーバコンピュータ400に対して、タイヤ故障が発生したことを送信する。さらに、コントロールユニット340は、タイヤに故障が発生したと判定した場合、例えば、テレマティクスユニット320のHMIを利用して、運転者に対してタイヤ故障の発生を知らせる。
【0042】
従って、横滑り防止装置などの挙動安定化装置を備える車両であれば、既設の操舵角センサ、ヨーレートセンサ及び車速センサの各出力信号を利用して、タイヤに摩耗などの故障が発生したか否かを検知することができる。このとき、故障発生の検知に利用されるセンサは、タイヤに取り付けられていないため、例えば、タイヤの回転による遠心力、走行路面の凹凸による衝撃力などが作用せず、長期間の使用に耐え得ることができる。
【0043】
車両200の運転者がタイヤ故障の発生を認識したにもかかわらずその状態での走行を続けた場合、横滑りエネルギーEが第1の閾値より大きい第2の閾値を上回ったら、エンジンコントロールユニット760に対して出力抑制指令が送信される。このため、車両200において、エンジンの出力が抑制されることから、タイヤに作用する駆動力が小さくなり、例えば、タイヤがバーストする可能性を低下させることができる。また、車両200の運転者は、例えば、加速がゆっくりとなることから、エンジン出力が抑制された状態での走行を続けることが苦痛となり、バーストが発生する前にタイヤのメンテナンスを受けることも期待できる。
【0044】
即ち、
図7に示すように、横軸を横滑りエネルギー、縦軸をタイヤダメージとした場合、横滑りエネルギーが閾値Aを上回ると、タイヤダメージは80%となって交換が必要となる。横滑りエネルギーが閾値Aより大きい閾値Bを上回ると、いつバーストしてもおかしくない状態となる。この場合、上述したように、エンジン出力が抑制されることから、いくらかでもバーストの可能性を低下させることができる。
【0045】
図8は、管理センターMCのサーバコンピュータ400が、ストレージ400Eに格納されている制御プログラムに従って、車両200からタイヤ故障が通知されたことを契機として実行する、データベース更新処理の一例を示す。ここで、サーバコンピュータ400のストレージ400Eには、
図9に示すようなデータベースが構築されている。このデータベースには、具体的には、車両を特定可能な識別子、タイヤタイプ、故障判定に使用されている閾値(第1の閾値)、横滑りエネルギーの推定値及びタイヤ状態が関連付けられたレコードが格納されている。なお、横滑りエネルギーEの推定値の初期値は、例えば、タイヤが新品であることを示す0に設定することができる。
【0046】
ステップ21では、サーバコンピュータ400のプロセッサ400Aが、ストレージ400Eに構築されたデータベースを参照し、車両200から送信されたデータに含まれる識別子に関連付けられたレコードを特定する。
【0047】
ステップ22では、サーバコンピュータ400のプロセッサ400Aが、ステップ21で特定したレコードにおける横滑りエネルギーの推定値を、車両200から送信されたデータに含まれる横滑りエネルギーEで更新する。また、サーバコンピュータ400のプロセッサ400Aは、ステップ21で特定したレコードにおけるタイヤ状態を故障に書き換える。
【0048】
かかるデータベース更新処理によれば、サーバコンピュータ400のプロセッサ400Aは、車両200からタイヤ故障の通知があったことを契機として、その車両の横滑りエネルギーの推定値及びタイヤ状態を更新する。従って、バックオフィスBOにおいて、運輸会社などの管理者は、パーソナルコンピュータ500を操作して管理センターMCのサーバコンピュータ400にログインすることで、例えば、自社の各車両のタイヤ状態などを任意の時点で把握することができる。
【0049】
そして、運輸会社などの管理者は、タイヤ状態が故障になっている車両200はタイヤメンテナンスが必要であると判断し、テレマティクスサービスを利用して、その車両200をディーラなどに呼び戻すことができる。また、運輸会社などの管理者は、タイヤメンテナンスにおいてデジタルタイヤ摩耗計などで測定した実際のタイヤ摩耗状態と故障発生時の横滑りエネルギーとに基づいて、タイヤ故障を判定する第1の閾値を更新することができる。このとき、運輸会社などの管理者は、管理センターMCに対してデータベースの更新を要求することができる。
【0050】
データベース更新要求を受信した管理センターMCでは、サーバコンピュータ400のデータベースを更新すると共に、テレマティクスサービスを利用して車両200に閾値更新要求を送信する。一方、閾値更新要求を受信した車両200は、タイヤ故障判定処理で使用する第1の閾値を更新する。なお、第1の閾値は、適宜更新可能とすべく、不揮発性メモリ340Bに格納しておくことができる。
【0051】
車両200の横滑りエネルギーEは、次のように利用することもできる。
車両200から所定時間間隔で横滑りエネルギーEが送信される場合、管理センターMCのサーバコンピュータ400は、車両200の経時的な横滑りエネルギーEをデータベースに順次格納する。そして、運輸会社などの管理者は、サーバコンピュータ400のデータベースを参照して、横滑りエネルギーEが増加傾向にある車両200を特定し、その車両200の運転者に対して、タイヤにやさしい運転指導を行うことができる。このようにすれば、横滑りエネルギーEが小さくなる運転が行われ、燃費改善が見込まれる。
【0052】
また、ディーラなどにおけるタイヤメンテナンスの結果、横滑りエネルギーEが第1の閾値未満でタイヤ故障が発生した車両をワーストケースとして、このワーストデータと各車両200の横滑りエネルギーEの予測値とを比較し、ワーストデータに近い車両をディーラなどに呼び戻してタイヤメンテナンスを行うこともできる。偶発的に低い横滑りエネルギーEで故障が発生したタイヤは、何らかの欠陥があるリコール対象のタイヤである可能性があるため、データベースを参照してこれを検知することもできる。この場合、タイヤメーカは、運輸会社などから提供されたデータを利用し、タイヤがリコール対象であるか否かを検証し、必要に応じてその対策をとることができる。
【0053】
以上の実施形態において、タイヤ故障検知装置は、コントロールユニット340によって実装されていたが、テレマティクスユニット320を利用して実装することもできる。この場合、テレマティクスユニット320は、車載ネットワークを介して、少なくとも操舵角δ及びヨーレートrを読み込めばよい。
【0054】
また、コントロールユニット340は、
図7に示す横滑りエネルギーとタイヤダメージとの関係図を参照し、横滑りエネルギーEから求めたタイヤダメージを、例えば、
図10に示すバーグラフを用いて、テレマティクスユニット320のHMIに表示するようにしてもよい。このようにすれば、車両200の運転者は、タイヤダメージを任意の時点で確認することができる。
【0055】
トラックの車軸レイアウトは、例えば、乗用車などと比較して多種多様であり、上述した方法では、車両200の横滑り角β及び横滑りエネルギーEを精度よく求めることができない。そこで、車両200としてトラックを適用する場合には、以下で説明する各バリエーションのように、トラックの車軸レイアウトに応じて、車体重心の横滑り角βを各車輪に割り付けることで、車両200の横滑りエネルギーEを求めることができる。
【0056】
[バリエーション1]
車両200が、
図11に示すように、前輪が1軸、後輪がダブルタイヤを装着した2軸であるトラックの場合、車両の物理モデルは、
図12のように表すことができる。車両の物理モデルにおいて、前輪のトレッドをd
f、外側の後輪のトレッドをd
ro、内側の後輪のトレッドをd
ri、車体重心から前軸までの距離をl
f、車体重心から前方の後軸までの距離をl
r1、車体重心から後方の後軸までの距離をl
r2とおく。すると、左側にある前輪の横滑り角β
f1、右側にある前輪の横滑り角β
f2は、夫々、次式により求めることができる。
【0057】
【0058】
また、左側の前方にある外側の後輪の横滑り角βr11、左側の前方にある内側の後輪の横滑り角βr12、右側の前方にある内側の後輪の横滑り角βr13、右側の前方にある外側の後輪の横滑り角βr14は、夫々、次式により求めることができる。
【0059】
【0060】
さらに、左側の後方にある外側の後輪の横滑り角βr21、左側の後方にある内側の後輪の横滑り角βr22、右側の後方にある内側の後輪の滑り角βr23、右側の後方にある外側の後輪の滑り角βr24は、夫々、次式により求めることができる。
【0061】
【0062】
このような車両の場合、各タイヤの横滑り角を用いて、次式により横滑りエネルギーEを求め、これを各タイヤの故障の前兆を示す指標としてもよい。
【0063】
【0064】
[バリエーション2]
車両200が、
図13に示すように、前輪が2軸、後輪がダブルタイヤを装着した2軸であるトラックの場合、車両の物理モデルは、
図14のように表すことができる。車両の物理モデルにおいて、前輪のトレッドをd
f、外側の後輪のトレッドをd
ro、内側の後輪のトレッドをd
ri、車体重心から前方の前軸までの距離をl
f1、車体重心から後方の前軸までの距離をl
f2、車体重心から前方の後軸までの距離をl
r1、車体重心から後方の後軸までの距離をl
r2とおく。すると、左側の前方にある前輪の横滑り角β
f11、右側の前方にある前輪の横滑り角β
f12、左側の後方にある前輪の横滑り角β
f21、右側の後方にある前輪の横滑り角β
f22は、夫々、次式により求めることができる。
【0065】
【0066】
また、左側の前方にある外側の後輪の横滑り角βr11、左側の前方にある内側の後輪の横滑り角βr12、右側の前方にある内側の後輪の横滑り角βr13、右側の前方にある外側の後輪の横滑り角βr14は、夫々、次式により求めることができる。
【0067】
【0068】
さらに、左側の後方にある外側の後輪の横滑り角βr21、左側の後方にある内側の後輪の滑り角βr22、右側の後方にある内側の後輪の横滑り角βr23、右側の後方にある外側の後輪の横滑り角βr24は、夫々、次式により求めることができる。
【0069】
【0070】
このような車両の場合、各タイヤの横滑り角を用いて、次式により横滑りエネルギーEを求め、これを各タイヤの故障の前兆を示す指標としてもよい。
【0071】
【0072】
[バリエーション3]
車両200が、
図15に示すようなセミトレーラの場合、前輪が1軸、後輪がダブルタイヤを装着した1軸を有するトラクタ220は、第5輪(カプラ)240を介してトレーラ260を牽引するため、トレーラ260の影響を受ける。従って、セミトレーラにおいて、トレーラ260を牽引しないトラックとは異なる、
図16に示すような解析モデルを定義し、これに
図17に示すような離散時間カルマンフィルタを適用して、トラクタ220の横滑り角を求めることができる。
【0073】
セミトレーラの解析モデルにおいて、トラクタ220の重心から前軸までの距離をa、トレーラ260の重心から第5輪240までの距離をa1、トラクタ220の重心から後軸までの距離をb、トレーラ260の重心から後軸までの距離をb1、トラクタ220の重心から第5輪240までの距離をc、トラクタ220のホイールベースをl、トレーラ260のホイールベースをl1、トラクタ220の質量をm、トレーラ260の質量をm1、トラクタ220の前輪のコーナリングパワーをCf、トラクタ220の後輪のコーナリングパワーをCr、トレーラ260のコーナリングパワーをC1、トラクタ220のヨー慣性モーメントをI、トレーラ260のヨー慣性モーメントをI1、トラクタ220の重心の横速度をv、トラクタ220の操舵角をδ、トレーラ260のヨー角をr1、第5輪240の角速度をω、第5輪240の角度をθ、車両速度をuとおく。すると、セミトレーラの運動を表す状態方程式は、次式で表すことができる。ここで、xは状態変数、Aはシステム行列、Bは制御行列、M-1は質量逆行列、A0は減衰行列、B0は外力行列である。
【0074】
【0075】
上記の運動方程式は、連続時間系の連立微分方程式であって、線形近似が含まれている。このため、上記の運動方程式を使用して横滑り角を求めると、横滑り角センサによって測定された実際の横滑り角と乖離してしまう。なぜならば、運動方程式に線形近似が含まれていることと、計算過程における値のフィードバックループが形成されていないこととが原因である。また、コントロールユニット340のプロセッサ340Aが計算することを考慮すると、離散時間系で変換する必要がある。
【0076】
サンプリング時間をTとして、システム行列A及び制御行列Bを離散化すると、次のような差分方程式を得ることができる。なお、Iは単位行列である。
【0077】
【0078】
上記の差分方程式におけるフィードバックループの形成は、カルマンフィルタゲインKを算出することによって行われる。カルマンフィルタゲインKは、外乱の分散マトリックスをQ、観測ノイズの分散マトリックスをRとすると、以下のようなリカッチ方程式の解によって求められる。
【0079】
【0080】
上記のリカッチ方程式におけるPは、誤差共分散マトリックスである。このようにして求められたフィードバックゲインKを用いて、状態変数の推定値xを次式により求める。
【0081】
【0082】
そして、状態変数の推定値xを使用して、次式より、横滑り角βを求める。
【0083】
【0084】
図18及び
図19は、セミトレーラがシングルレーンチェンジしたときの、横滑り角の推定値の時系列応答を示している。ここで、
図18及び
図19において、実線は横滑り角のシミュレーション結果を示し、破線はカルマンフィルタを使用した推定結果を示している。
【0085】
図18は、トラクタ220の質量m、トラクタ220のヨー慣性モーメントI、各コーナリングパワーC
f,C
r,C
1、トラクタ220の重心から前軸までの距離a、トラクタ220の重心から後軸までの距離b、トレーラ260の重心から第5輪240までの距離a
1、トレーラ260の重心から後軸までの距離b
1、トレーラ260の質量m
1、トレーラ260のヨー慣性モーメントI
1がノミナル値(平均値)の場合において、ヨーレートセンサ720の出力信号にノイズが重畳していない状態を示している。このとき、実線と破線とが一致していることから、横滑り角は良好に推定されていると把握することができる。
【0086】
図19は、トレーラ260の質量m
1及びヨー慣性モーメントI
1に夫々10%の誤差が含まれ、かつ、ヨーレートセンサ720の出力信号にノイズが重畳された場合の推定結果を示している。
図19を参照すると、トレーラ260の質量m
1及びヨー慣性モーメントI
1に誤差が含まれていたり、ヨーレートセンサ720の出力信号にノイズが重畳されていたりしても、実線と破線とが誤差10%以内に収まっている。このため、離散時間系カルマンフィルタは良好に機能していると把握することができる。
【0087】
次に、このようにして求めた横滑り角βを使用し、トレーラ260を連結したトラクタ220の各車輪の横滑り角を求める。ここで、
図20に示すようなトラクタ220の物理モデルにおいて、前輪のトレッドをd
f、外側の後輪のトレッドをd
ro、内側の後輪のトレッドをd
ri、車体重心から前軸までの距離をl
f、車体重心から後軸までの距離をl
rとおく。すると、左側の前輪の横滑り角β
f1、右側の前輪の横滑り角β
f2は、夫々、次式から求めることができる。
【0088】
【0089】
また、左側にある外側の後輪の滑り角βr1、左側にある内側の後輪の滑り角βr2、右側にある内側の後輪の滑り角βr3、右側にある外側の後輪の滑り角βr4は、夫々、次式から求めることができる。
【0090】
【0091】
このようなトラクタの場合、各タイヤの横滑り角を用いて、次式により横滑りエネルギーEを求め、これを各タイヤの故障の前兆を示す指標としてもよい。
【0092】
【0093】
以上のように、セミトレーラの場合には、離散時間系カルマンフィルタを使用して、トラクタ220の重心点での横滑り角δを推定し、これから各車輪の横滑り角を求めることで、トラクタ220の横滑りエネルギーEを求めることができる。
【符号の説明】
【0094】
340 コントロールユニット
380 無線機
700 操舵角センサ
720 ヨーレートセンサ
740 車速センサ
760 エンジンコントロールユニット