(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】LiNbO3被覆されたスピネルのワンポット合成
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20220617BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220617BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020556749
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 CA2019050460
(87)【国際公開番号】W WO2019200464
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-11-26
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515256187
【氏名又は名称】ナノ ワン マテリアルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル ステファン
(72)【発明者】
【氏名】タライエ エラヘ
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2005-0093535(KR,A)
【文献】中国特許第103066263(CN,B)
【文献】中国特許出願公開第102394295(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104409700(CN,A)
【文献】Kim, Hyeongwoo,A nano-LiNbO3 coating layer and diffusion-induced surface control towards high-performance 5 V spinel cathodes for rechargeable batteries,Journal of Materials Chemistry A,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2017年12月21日,Number 47, Volume 5,p.25077-25089,DOI:10.1039/C7TA07898F
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法であって、
ワンポットで、
カソード酸化物前駆体の形成に適した、
炭酸金属塩又は酢酸金属塩を含む、第1の金属の分解可能な原料と多価カルボン酸とを含む第1の溶液を形成することと、
前記分解可能な原料を分解して、溶液中で第1の金属塩を形成し、前記第1の金属塩は、脱プロトン化された前記多価カルボン酸の塩として析出し、それにより酸化物前駆体を形成することと、ここで、前記第1の金属塩は、リチウムと、Mn、Ni、Co、Al又はFeの少なくとも1つとを含み、
前記分解後に被覆金属前駆体塩を添加することと、
前記酸化物前駆体を加熱して、前記リチウムイオンカソード材料上の被覆としての前記被覆金属前駆体塩の酸化物を有する、前記リチウムイオンカソード材料を形成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記被覆金属前駆体塩は、ニオブを含む、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項3】
前記被覆金属前駆体塩の前記酸化物は、ニオブ酸リチウムである、請求項2に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項4】
前記被覆金属前駆体塩は、多価カルボン酸塩を含む、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項5】
前記多価カルボン酸塩は、シュウ酸塩である、請求項4に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項6】
前記被覆は、少なくとも95重量%の前記被覆金属を含む、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項7】
前記被覆は、5重量%以下の前記リチウムイオンカソード材料を含む、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項8】
前記分解可能な原料は、前記第1の金属の炭酸塩
、又は酢酸塩であり、ここで前記第1の金属は、Li、Mn及びNiからなる群から選択される、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項9】
前記分解可能な原料は、炭酸リチウム、炭酸マンガン、及び炭酸ニッケルの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項10】
前記分解可能な原料は、炭酸リチウム、炭酸マンガン、及び炭酸ニッケルを含む、請求項9に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項11】
前記分解可能な原料は、炭酸コバル
トを更に含む、請求項9に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項12】
前記多価カルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項13】
前記多価カルボン酸は、シュウ酸である、請求項12に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項14】
前記カソード材料は、式I:
LiNi
xMn
yCo
zE
eO
4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、x+y+z+e=2、及び0≦e≦0.2である)により定義される、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項15】
前記式Iは、スピネル結晶形である、請求項14に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項16】
xもyもゼロではない、請求項14に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項17】
前記リチウムイオンカソード材料は、LiNi
0.5Mn
1.5O
4である、請求項16に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項18】
前記カソード材料は、式LiNi
xMn
yO
4(式中、0.5≦x≦0.6、及び1.4≦y≦1.5である)により定義される、請求項14に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項19】
0.5≦x≦0.55、及び1.45≦y≦1.5である、請求項18に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項20】
前記カソード材料は、3以下のNiに対するMnのモル比を有する、請求項14に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項21】
前記カソード材料は、少なくとも2.33から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項20に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項22】
前記カソード材料は、少なくとも2.64から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項21に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項23】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項14に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項24】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項23に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項25】
前記カソード材料は、式II:
LiNi
aMn
bX
cG
dO
2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、Xは、Co又はAlであり、a+b+c+d=1、及び0≦d≦0.1である)により定義される、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項26】
0.5≦a≦0.9である、請求項25に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項27】
0.58≦a≦0.62、又は0.78≦a≦0.82である、請求項26に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項28】
a=b=cである、請求項25に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項29】
前記加熱は空気中で行う、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項30】
前
記カソード酸化物前駆体は、コアを形成する、請求項1に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項31】
前記加熱の前に、
追加のカソード酸化物前駆体の形成に適した第2の金属の第2の分解可能な原料、及び第2の多価カルボン酸を形成し、
前記第2の分解可能な原料を分解して、第2の金属塩を形成し、その際、前記第2の金属塩は、前記コア上にシェルとして析出し、
前記第2の金属は、Ni、Mn、Co、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項30に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項32】
前記第2の金属は、前記第1の金属及び前記第2の金属の全モル数の10モル%以下に相当する、請求項31に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項33】
前記第2の金属は、前記全モル数の5モル%以下に相当する、請求項32に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項34】
前記第2の金属は、前記全モル数の1モル%以下に相当する、請求項33に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項35】
前記第2の原料は、Alを含む、請求項31に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項36】
前
記分解可能な原料は、Ni及びMnを第1のモル比で含み、かつ前記第2の分解可能な原料は、Ni及びMnを第2のモル比で含む、請求項31に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項37】
前記第1のモル比及び前記第2のモル比は異なっている、請求項36に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項38】
前記第1のモル比は、前記第2のモル比よりも、Mnに対するNiのより高いモル比を有する、請求項37に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項39】
被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法であって、
ワンポットで、
炭酸リチウム、炭酸マンガン及び炭酸ニッケルと、シュウ酸とを反応させ、CO
2(g)及びH
2O
(l)を遊離させて、シュウ酸リチウム、シュウ酸マンガン及びシュウ酸ニッケルを含む析出物を形成させて、酸化物前駆体を形成することと、
前記酸化物前駆体に被覆金属前駆体塩を添加することと、
前記酸化物前駆体を加熱して、前記被覆されたリチウムイオンカソード材料を形成することと、
を含む、方法。
【請求項40】
前記被覆金属は、ニオブである、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項41】
前記被覆金
属は、ニオブ酸リチウムである、請求項40に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項42】
前記被覆金属前駆体塩は、多価カルボン酸塩を含む、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項43】
前記多価カルボン酸塩は、シュウ酸塩である、請求項42に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項44】
前記被覆は、少なくとも95重量%の前記被覆金属を含む、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項45】
前記被覆は、5重量%以下の前記リチウムイオンカソード材料を含む、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項46】
前記炭酸マンガン及び前記炭酸ニッケルは、第1のモル比で存在し、前記酸化物前駆体は、コアを形成する、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項47】
炭酸リチウム、炭酸マンガン、及び炭酸ニッケルを第2の比で含む第2のスラリーを形成することと、
前記コア上にシュウ酸マンガン及びシュウ酸ニッケルのシェルを析出させることと、を更に含み、その際、前記シェル中の前記シュウ酸マンガン及び前記シュウ酸ニッケルは、前記第2の比で存在する、請求項46に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項48】
前記第2のスラリーは、ドーパントを更に含む、請求項47に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項49】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Zn、Cu、V、Bi、Nb、及びBから選択される、請求項48に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項50】
前記第2のスラリーは、Alを含む、請求項49に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項51】
前記シェル中のシュウ酸マンガン及びシュウ酸ニッケルの合計は、前記酸化物前駆体中の全てのシュウ酸マンガン及びシュウ酸ニッケルの合計の10モル%未満に相当する、請求項47に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項52】
前記カソード材料は、式I:
LiNi
xMn
yCo
zE
eO
4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、x+y+z+e=2、及び0≦e≦0.1である)により定義される、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項53】
前記式Iは、スピネル結晶形である、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項54】
xもyもゼロではない、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項55】
前記カソード材料は、LiNi
0.5Mn
1.5O
4である、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項56】
前記カソード材料は、式LiNi
xMn
yO
4(式中、0.5≦x≦0.6、及び1.4≦y≦1.5である)により定義される、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項57】
0.5≦x≦0.55、及び1.45≦y≦1.5である、請求項56に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項58】
前記カソード材料は、3以下のNiに対するMnのモル比を有する、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項59】
前記カソード材料は、少なくとも2.33から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項58に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項60】
前記カソード材料は、少なくとも2.64から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項59に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項61】
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Zn、Cu、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、請求項52に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項62】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項61に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項63】
前記カソード材料は、式II:
LiNi
aMn
bX
cG
dO
2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、Xは、Co又はAlであり、a+b+c+d=1、及び0≦d≦0.1である)により定義される、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項64】
0.5≦a≦0.9である、請求項63に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項65】
0.58≦a≦0.62、又は0.78≦a≦0.82である、請求項64に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項66】
a=b=cである、請求項63に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項67】
前記加熱は空気中、酸素中、又はそれらの混合物中で行う、請求項39に記載の被覆されたリチウムイオンカソード材料の形成方法。
【請求項68】
Ni及びMnを第1のモル比で含むコアと、
Ni及びMnを第2のモル比で含み、前記第2のモル比が前記第1のモル比とは異なっている、前記コアの周りの少なくとも1つのシェルと、
前記シェル上のリチウム金属被覆と、
を含み、前記リチウム金属被覆は、ニオブ酸リチウムを含
み、前記コア又は前記シェルの少なくとも1つは、式I:
LiNi
x
Mn
y
Co
z
E
e
O
4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択され、x+y+z+e=2、及び0≦e≦0.2である)により定義される組成を有する、
被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項69】
前記
リチウム金属被覆は、少なくとも95重量%の前記
ニオブ酸リチウムを含む、請求項68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項70】
前記
リチウム金属被覆は、5重量%以下の前記
ニオブ酸リチウムを含む、請求項68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項71】
前記コアは、前記シェルよりも、Mnに対するNiのより高い比を有する、請求項68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項72】
前記式Iは、スピネル結晶形である、請求項
68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項73】
xもyもゼロではない、請求項
68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項74】
前記
式Iにより定義される化合物は、LiNi
0.5Mn
1.5O
4である、請求項
73に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項75】
0.5≦x≦0.6、及び1.4≦y≦1.5であ
る、請求項
68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項76】
0.5≦x≦0.55、及び1.45≦y≦1.5である、請求項
75に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項77】
前記
式Iにより定義される化合物は、3以下のNiに対するMnのモル比を有する、請求項
68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項78】
前記
式Iにより定義される化合物は、少なくとも2.33から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項
77に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項79】
前記
式Iにより定義される化合物は、少なくとも2.64から3未満のNiに対するMnのモル比を有する、請求項
78に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項80】
前記ドーパントは、Al及びGdからなる群から選択される、請求項
68に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項81】
Ni及びMnを第1のモル比で含むコアと、
Ni及びMnを第2のモル比で含み、前記第2のモル比が前記第1のモル比とは異なっている、前記コアの周りの少なくとも1つのシェルと、
前記シェル上のリチウム金属被覆と、
を含み、前記リチウム金属被覆は、ニオブ酸リチウムを含み、前記コアは、式II:
LiNi
aMn
bX
cG
dO
2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択され、Xは、Co又はAlであり、a+b+c+d=1、及び0≦d≦0.1である)により定義される
、被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項82】
0.5≦a≦0.9である、請求項
81に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項83】
0.58≦a≦0.62、又は0.78≦a≦0.82である、請求項
82に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項84】
a=b=cである、請求項
81に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【請求項85】
請求項
81に記載の被覆されたリチウム金属酸化物カソードを含む電池。
【請求項86】
式I:
LiNi
xMn
yCo
zE
eO
4
式I
(式中、Eは、ドーパントであり、
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択される、x+y+z+e=2、及び0≦e≦0.2である)により定義される組成を有するコアと、
式II:
LiNi
aMn
bX
cG
dO
2
式II
(式中、Gは、ドーパントであり、
前記ドーパントは、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb、及びBからなる群から選択され、Xは、Co又はAlであり、a+b+c+d=1、及び0≦d≦0.1である)により定義される組成を有する、前記コアの周りの少なくとも1つのシェルと、
前記シェル上のリチウム金属被覆と、を含む、被覆されたリチウム金属酸化物カソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年4月18日に出願された係属中の米国特許出願第62/659,159号に対する優先権を主張するものであり、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本出願は、電池用のリチウムイオンカソードの微細粉末及び超微細粉末及びナノ粉末を形成する改善された方法に関する。より具体的には、本発明は、限定されるものではないが、リチウムイオン電池用カソードに関し、そして材料の消費が最小限であり、焼結及びか焼に不利益な方法工程が減らされたスピネル材料及びその他の先進材料の効率的な製造方法に関する。更により具体的には、本発明は、スピネルと被覆とを単一容器反応法で形成することができる、好ましくはニオブ酸リチウムを含む被覆を有するスピネル材料の形成に関する。
【背景技術】
【0003】
電池において絶えず改善が求められている。電池には主に2つの用途が存在し、1つは定置式用途であり、もう1つは移動式用途である。定置式用途及び移動式用途の両方で、貯蔵容量の増大、より長い電池寿命、より素早く満充電に達する能力、及びより低価格が望まれている。リチウム金属酸化物カソードを備えるリチウムイオン電池は、殆どの用途に適した電池として非常に有利であり、それらは幅広い用途にわたって支持されている。特にリチウムイオン電池の貯蔵能力、再充電時間、価格、及び貯蔵安定性には、依然として改善が望まれている。本発明は主として、スピネル結晶形又は岩塩結晶形のリチウムイオン電池、及びそれらの生産方法の改善に着目している。
【0004】
岩塩結晶形のリチウム及び遷移金属を基礎とするカソードを備えるリチウムイオン電池の製造は、米国特許第9,136,534号、同第9,159,999号、及び同第9,478,807号、並びに米国特許出願公開第2014/0271413号、同第2014/0272568号、及び同第2014/0272580号に記載されており、それら各々は、引用することにより本明細書の一部をなす。岩塩結晶形を有するカソード材料は、一般式:
LiNiaMnbXcO2
(式中、Xは、好ましくはCo又はAlであり、かつa+b+c=1である)を有する。Xがコバルトである場合に、カソード材料は、便宜上NMCと称され、そしてXがアルミニウムである場合に、カソード材料は、便宜上NCAと称される。岩塩結晶形の製造において、化学量論的当量の炭酸リチウムの添加によって炭酸塩として析出させることで、カソード材料前駆体が形成され得る。次いで、カソード材料前駆体を焼結させることで、カソード材料が形成される。
【0005】
スピネル結晶構造を有するカソード材料は、一般式:
LiNixMnyCozO4
(式中、x+y+z=2である)を有する。スピネルにおいては、リチウムの化学量論量は、遷移金属の半分の化学量論量である。したがって、炭酸リチウムから得ることができる炭酸塩は、カソード材料前駆体の合成に際して遷移金属を析出させるには不十分である。過剰な炭酸塩の添加は、例えば炭酸ナトリウムが使用される場合には、ナトリウムのような不所望な対イオンの導入を通じてのみ達成され得るか、又は例えば炭酸アンモニウムが添加される場合には、pH制御を複雑にし、不十分な析出をもたらす場合がある。原理的には、化学量論的に2倍過剰量の炭酸リチウムが使用され、水性上清のデカンテーションにより除去され得るが、これはリチウムの化学量論量の変化に伴うセル性能の感受性のため望ましくない。
【0006】
LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネルカソード材料は、しばしば、液体系電解質の攻撃により引き起こされる表面劣化に見舞われる。電解質の攻撃により、Mn3+の不均化がもたらされる。セル内で、Mn3+は可溶性のMn2+化学種に不均化することがあり、この化学種が黒鉛アノードを汚染し、急速なセルの故障を起こす可能性がある。この作用は高温で増強されて、Cレート(1時間の放電)で100サイクル足らずでセルの故障が観察され得る。LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネルカソードは、固体電解質と共に使用するのに優れた候補でもあるが、カソードと電解質との間のLi+拡散速度の違いにより界面に空間電荷が形成される。空間電荷は、不所望な電解質/電極界面内のLi輸送抵抗を増加させる。
【0007】
リチウムイオンカソード、特にスピネル結晶構造及び岩塩結晶構造のリチウム/マンガン/ニッケルを基礎とするカソードを生産する改善された方法が望まれている。劣化、特に液体系電解質で一般的に生ずる劣化を抑える表面被覆を備えたスピネル結晶構造及び岩塩結晶構造のリチウム/マンガン/ニッケルを基礎とするカソードを提供することが特に望まれている。本発明はそのような方法を提供する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、リチウムイオン電池用のカソードを製造する改善された方法を提供することである。
【0009】
本発明の課題は、か焼することでリチウム金属酸化物カソードが形成されるリチウム金属酸化物の前駆体を形成する改善された方法を提供することである。
【0010】
本発明の具体的な課題は、スピネル結晶構造又は好ましくはNMC及びNCAから選択される岩塩構造の遷移金属を基礎とするカソードを備えるリチウムイオン電池を形成する改善された方法を提供することである。
【0011】
本発明の具体的な特徴は、酸化物全体を通じて遷移金属組成の勾配を有するリチウムイオン金属酸化物カソードを予測通りに再現性良く生産可能なことであり、それによりコア中のようなバルク特性とコアの周囲の部分のようなシェル特性との変化が可能となる。
【0012】
別の特定の特徴は、カソード材料の表面上に、劣化、特に液体系電解質の攻撃により生ずる劣化を抑える安定化被覆を含むことである。
【0013】
本発明の1つの実施の形態は、リチウムイオンカソード材料の形成方法であって、カソード酸化物前駆体の形成に適した金属塩の分解可能な(digestible)原料、及び多価カルボン酸を含み、上記分解可能な原料を分解して、溶液中で金属塩を形成し、その際、上記金属塩は、脱プロトン化された上記多価カルボン酸の塩として析出し、それにより酸化物前駆体を形成することと、上記酸化物前駆体を加熱して、上記リチウムイオンカソード材料を形成することとを含む、方法にて提供される。
【0014】
更に別の実施の形態は、リチウムイオンカソード材料の形成方法であって、炭酸リチウム、炭酸マンガン及び炭酸ニッケルと、シュウ酸との反応を生じさせ、CO2(g)及び/又はH2O(l)を遊離させて、シュウ酸リチウム、シュウ酸マンガン及びシュウ酸ニッケルを含む析出物を形成させて、酸化物前駆体を形成することと、上記酸化物前駆体を加熱して、上記リチウムイオンカソード材料を形成することとを含む、方法にて提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】遷移金属酢酸塩原料(上部)及び遷移金属炭酸塩原料(下部)を使用した場合の、噴霧乾燥されたシュウ酸塩前駆体及び900℃で15時間にわたりか焼されたLiNi
0.5Mn
1.5O
4材料のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図2】炭酸マンガンとシュウ酸との水中での種々の条件での反応から析出したシュウ酸マンガン水和物のX線回折(XRD)パターンを示す図である。
【
図3】改善された方法により形成されたスピネル材料についての電圧に対する比容量の改善を裏付ける図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図5】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図6】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図7】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図8】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図9】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図10】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図11】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図12】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図13】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図14】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図15】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図16】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図17】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図18】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図19】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図20】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図21】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図22】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図23】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図24】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図25】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図26】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図27】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図28】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図29】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図30】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図31】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図32】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図33】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図34】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図35】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図36】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図37】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図38】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図39】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図40】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図41】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図42】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図43】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図44】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図45】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図46】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図47】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図48】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図49】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図50】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図51】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図52】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図53】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【
図54】本発明の1つの実施形態のXRDパターンを示す図である。
【
図55】本発明の1つの実施形態のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【
図56】本発明の1つの実施形態のグラフ表示の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、リチウムイオン電池、特にリチウムイオン電池のカソードを製造する改善された方法に特化している。より具体的には、本発明は、リチウムイオン電池において使用するためのスピネル結晶形又は岩塩形のカソードを形成する改善された方法に特化している。ここで、好ましい岩塩形は、NMC材料及びNCA材料である。更により具体的には、本発明は、表面に空間電荷領域を形成するのを抑える被覆を備えたリチウムイオン電池でのカソードの形成に特化しており、より好ましくは、上記被覆はカソード材料の形成と協調して共通の容器内で形成され得る。
【0017】
好ましい実施形態においては、本発明のリチウム金属化合物は、式I:
LiNixMnyCozEwO4
式I
(式中、Eは、任意のドーパントであり、かつx+y+z+w=2及びw≦0.2である)により定義されるスピネル結晶構造、又は式II:
LiNiaMnbXcGdO2
式II
(式中、Gは、任意のドーパントであり、Xは、Co又はAlであり、かつa+b+c+d=1及びd≦0.1である)により定義される岩塩結晶構造を有するリチウム金属化合物を含む。
【0018】
好ましい実施形態においては、式Iのスピネル結晶構造において、0.5≦x≦0.6、1.4≦y≦1.5、及びz≦0.9である。より好ましくは、0.5≦x≦0.55、1.45≦y≦1.5、及びz≦0.05である。好ましい実施形態においては、xもyもゼロではない。式Iにおいては、Mn/Ni比が3以下であり、好ましくは少なくとも2.33で3未満であり、最も好ましくは少なくとも2.6で3未満であることが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態においては、式IIの岩塩結晶構造は、高ニッケルNMCであり、ここで、0.5≦a≦0.9であり、より好ましくは、NMC622と表される0.58≦a≦0.62、又はNMC811と表される0.78≦a≦0.82である。好ましい実施形態においては、NMC111と表されるa=b=cである。
【0020】
本明細書全体を通した式において、リチウムは、リチウムがアノードとカソードとの間を移動可能であるという理解の下に、電荷の均衡を保つように化学量論的に定義される。したがって、任意の所与の時間では、カソードは相対的にリチウムが豊富であっても、又は相対的にリチウムが減少していてもよい。リチウムが減少したカソードにおいては、リチウムは化学量論的均衡を下回ることとなり、充電時にはリチウムは化学量論的均衡を上回る場合がある。同様に、本明細書全体を通じて列挙される配合において、実際には完全に均衡した化学量論量を配合することはできないため、元素分析による測定により金属が僅かに豊富である場合も、又は僅かに減少する場合もあるという理解の下に、金属は電荷均衡において表される。本明細書全体を通して、式I及び式IIによって表されるものとして具体的に列挙された配合又はそれらの具体的な実施形態は、10%の範囲内の金属のモル比を表すことが意図されている。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2の場合に、各金属は化学量論量の10%以内で示されるため、Ni0.5はNi0.45~Ni0.55を表す。
【0021】
ドーパントは、電子伝導性及び安定性等の酸化物の特性を高めるために添加することができる。ドーパントは、好ましくは、一次ニッケル、マンガン、及び任意のコバルト又はアルミニウムと協調して添加される置換ドーパントである。好ましくは、ドーパントは、酸化物の10モル%以下に相当し(represent)、好ましくは酸化物の5モル%以下に相当する。好ましいドーパントには、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Cu、Fe、Zn、V、Bi、Nb、及びBが含まれ、Al及びGdが特に好ましい。
【0022】
カソードは、本明細書でより十分に説明されるように、Li、Ni、Mn、Co、Al、又はFeの塩を含む酸化物前駆体から形成される。酸化物前駆体をか焼することで、リチウム金属酸化物としてカソード材料が形成される。
【0023】
スピネルカソード材料、特にLiNi0.5Mn1.5O4は、好ましくは、スピネル形成と同じ容器内で金属酸化物、最も好ましくはニオブ酸リチウム(LiNbO3)で被覆され、これは本明細書ではワンポット合成と称される。この方法によりLiNbO3の不動態化層が作製され、この不動態化層はエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)1:1等の液体系電解質が使用される場合にMn2+の溶解を妨げ、固体電解質が使用される場合に空間電荷抵抗を低下させる。ワンポット合成を通して、ニオブは5+の酸化状態にあり、他の遷移金属よりも分子量が大きいため、スピネル構造内にドープされるよりも表面偏析が優位となると仮定される。
【0024】
酸化物前駆体は、相対的に不溶性の塩を形成する対イオンの存在下での塩の反応により形成される。相対的に不溶性の塩は、オストヴァルト熟成であると考えられる懸濁された結晶を形成し、最終的に規則格子として析出すると考えられる。本発明の目的上、好ましくはマンガン及びニッケル、任意にコバルト又はアルミニウムの塩は、結晶成長させるのに十分な速度でマンガン、ニッケル、及びコバルト又はアルミニウムを析出させる対イオンを含む溶液中で混合される。マンガン、ニッケル、コバルト、又はアルミニウムの可溶性の対イオンは、酢酸塩、硝酸塩、又は炭酸水素塩を含む20℃で100グラムの溶媒当たりに少なくとも0.1gの塩の溶解度を有する対イオンである。それらの金属は、炭酸塩及びシュウ酸塩を含む20℃で100gの溶媒当たりに0.05g未満の塩の溶解度を有する不溶性塩として析出する。
【0025】
全反応は、順番に2つの二次反応を含み、ここで、第1の反応は、反応A:
XCO3(s)+2H+(aq)→X2++CO2(g)+H2O(l) A
(式中、Xは、好ましくはLi2、Mn、Ni、Co、又はAlから選択されるカソード材料において使用するのに適した金属を表す)により表される過剰の多価カルボン酸の存在下での炭酸塩原料の分解である。反応Aにおいて、酸は多価カルボン酸により遊離されるが、それは単純化のために反応Aには特段示されていない。反応Aの結果、溶液中に金属塩が生成し、該塩は、反応B:
X2++-OOCR1COO-→X(OOCR1COO) B
(式中、R1は、多価カルボン酸イオンを構成するアルキル鎖を表す)により表されるように脱プロトン化された多価カルボン酸によりキレート化される。X(OOCR1COO)により表される塩は、本明細書の他の箇所で論じられるように規則格子として析出する。
【0026】
反応Aの金属炭酸塩は、水溶液又は固体材料として添加され得るLi(O2CCH3)、Ni(O2CCH3)2、又はMn(O2CCH3)2等の金属酢酸塩と置換され得る。
【0027】
所望であれば、単純化のために、そしてpHを正確に制御する改善された能力のため、pHは水酸化アンモニウムを用いて調整され得る。従来技術の方法においては、反応:
[Ni(H2O)6]2++xNH3→[Ni(NH3)x(H2O)6-x]2++xH2O
により表されるように、NH3が水溶液中でニッケルと錯形成する傾向のため、水酸化アンモニウムの使用は問題を引き起こした。結果として、ニッケルの不完全な析出が生じ、それにより最終的な酸化物前駆体の化学量論量の決定及び制御が複雑になる。多価カルボン酸、特にシュウ酸は、NH4
+よりも優先的にニッケルと効率的に配位結合し、それにより析出速度と規則的な酸化物前駆体へのニッケルの導入とが高まる。多価カルボン酸による優先的な析出は反応をニッケル析出へと向かわせることから、水酸化アンモニウムの使用は回避される。
【0028】
特に好ましい実施形態は、好ましくは水性の反応:
0.5Li2CO3+0.5NiCO3+1.5MnCO3+2.5H2C2O4→
0.5Li2C2O4+0.5NiC2O4+1.5MnC2O4+2.5CO2+2.5H2O
(式中、NiC2O4及びMnC2O4は、規則格子において酸化物前駆体として析出し、水を除去すると、その上にLi2C2O4が析出する)により表される酸化物前駆体からのLiNi0.5Mn1.5O4の形成により表される。全体組成(Li2C2O4)0.5(NiC2O4)0.5(MnC2O4)1.5を有する酸化物前駆体をか焼することで、反応:
(Li2C2O4)0.5(NiC2O4)0.5(MnC2O4)1.5+2O2→LiNi0.5Mn1.5O4+5CO2
が生ずる。
【0029】
多価カルボン酸の存在下での炭酸塩の分解過程は、金属炭酸塩とシュウ酸とを合わせて好ましくは水の存在下で反応器へと入れた後に撹拌することを含む。次いで、得られたスラリーを、好ましくは噴霧乾燥により乾燥させた後にか焼する。か焼温度が400℃から1000℃まで変動することで、異なる構造特性、例えばスピネルのLiNi0.5Mn1.5O4における種々のMn/Niカチオン配列を有する材料が形成され得る。
【0030】
炭酸塩の分解過程の具体的な特徴は、これらの工程を所望により行うことができるとしても、前駆体粉末を細砕又は配合する必要がなく、スラリーを濾過する必要がなく、又は上清をデカンテーションする必要がないことである。
【0031】
一例としてシュウ酸塩を使用する、炭酸塩の分解過程、すなわち分解(加水分解)-析出反応は、好ましくは水の存在下で起こる、以下の反応式:
H2C2O4(aq)+XCO3(s)→CO2(g)+H2O(l)+XC2O4(s,aq)
(X=遷移金属、Li2である)により説明することができる。
【0032】
理論に縛られるものではないが、シュウ酸が炭酸塩を加水分解して、CO2(g)、H2O(l)、及び金属イオンを形成すると仮定される。その後に遷移金属イオンは、金属シュウ酸塩として析出する。シュウ酸リチウムは、含水量に応じて析出し得るか、又は水中に溶解したままとなり得る。可溶性のシュウ酸リチウムは、噴霧乾燥の間に遷移金属シュウ酸塩粒子上に被覆されると予想される。金属炭酸塩又はシュウ酸の完全な溶解を達成する必要はない。それというのも、水は単に、金属炭酸塩を分解し、制御された様式で金属シュウ酸塩を析出させ、それにより核形成及び結晶成長を可能にする媒体であるからである。分解(加水分解)-析出反応の速度は、温度、含水量、pH、ガス導入、原料の結晶構造及び形態に依存する。
【0033】
その反応は10℃~100℃の温度範囲で完結することができるが、1つの実施形態においては、分解の反応速度が増大するため、水の還流温度が好ましい。
【0034】
シュウ酸1g当たり、含水量は、約1mlから約400mlまで変動することができるが、反応速度が増大し、後に除去せねばならない水がより少ないため、含水量を減少させることが好ましい。
【0035】
その溶液のpHは、0から12まで変動することができる。炭酸塩の分解過程の特に有利な点は、反応を追加のpH制御なくして行うことができ、それにより過程が単純化され、追加のプロセス制御又は添加の必要が排除されることである。
【0036】
上記反応は未処理の大気空気下で行うことができるが、幾つかの実施形態においては、CO2、N2、Ar等のその他の気体、その他の不活性ガス、又はO2を使用することができる。幾つかの実施形態においては、溶液中へのN2バブリング及びCO2バブリングが好ましい。それというのも、それらのバブリングは、析出した金属シュウ酸塩の結晶性を僅かに高め得るからである。
【0037】
前駆体の結晶性及び形態、例えば炭酸塩原料の非晶質対結晶性は、溶解度及び粒度及び粒度の範囲の違いのため分解速度に影響を及ぼし得る。
【0038】
炭酸塩の分解過程は、固体炭酸塩原料から固体シュウ酸塩前駆体材料への段階的に起こる平衡を介して進行する。議論の目的上、以下の反応:
(1)H2C2O4(s)→H2C2O4(aq)(シュウ酸の溶解)
(2)H2C2O4(aq)←→H+
(aq)+HC2O4
-
(aq)(シュウ酸解離工程1、pKa=1.25)
(3)HC2O4
-
(aq)←→H+
(aq)+C2O4
2-
(aq)(シュウ酸解離工程2、pKa=4.19)
(4)XCO3(s,aq)+2H+
(aq)→X2++H2O(l)+CO2(g)(炭酸塩加水分解)
(5)X2+
(aq)+C2O4
2-
(aq)→XC2O4(s)(金属シュウ酸塩の析出)
に従ってこの過程を幾つかの別個の過程により定義することができるが、それらに限定されるものではない。
【0039】
この反応が高電圧LiNi0.5Mn1.5O4材料の作製のために使用されるならば、以下の反応:
(6)0.25Li2CO3(s)+0.25NiCO3(s)+0.75MnCO3(s)+1.25H2C2O4(aq)→0.25Li2C2O4(aq)+Ni0.25Mn0.75C2O4(s)+1.25CO2(g)+1.25H2O(l)
が起こり、該反応は、好ましくはH2Oの存在下で行われるが、必ずしもそうではない。
【0040】
議論及び説明の目的上、作業上の反応条件下で反応が同時に生じ得るという理解の下に、該反応は段階的に記載される。含水量/イオン強度、過剰のシュウ酸含量、バッチサイズ、温度、雰囲気、反応混合物の還流、pH制御等のような種々の反応パラメーターを変動させることにより、各工程の速度を制御することができ、固体含量等のその他の所望のパラメーターを最適化することができる。
【0041】
炭酸塩の分解過程は、上記反応4のように溶液からCO2(g)が発生して、上記反応5のように高度に不溶性の金属シュウ酸塩が析出するように段階的に起こる平衡において進行すると説明することができる。CO2の発生及び析出の両者で反応が完了する。
【0042】
炭酸塩の加水分解の速度は金属炭酸塩のKspと相関し、便宜上、以下のように定められる:
炭酸リチウム、Li2CO3、8.15×10-4 非常に速い(数秒ないし数分)、
炭酸ニッケル(II)、NiCO3、1.42×10-7 速い(数分)、
炭酸マンガン(II)、MnCO3、2.24×10-11 より遅い(数時間ないし数日)、及び、
水酸化アルミニウム、Al(OH)3、3×10-34 非常に遅い。
【0043】
共沈の均質性は、炭酸塩の加水分解の速度に依存し得る。例えば、炭酸ニッケル(II)が炭酸マンガン(II)の前に完全に加水分解される場合に、それは引き続き、NiC2O4及びMnC2O4として別々に析出し得る。
【0044】
シュウ酸の溶解、炭酸塩の加水分解、及び金属シュウ酸塩の析出の速度に影響を及ぼすので、温度が制御され得る。具体的には、水の還流温度で反応を実施することが有効であることとなる。この反応でCO2(g)が生成され、温度上昇はCO2(g)の除去速度を高めることとなり、したがって高温では水性CO2(g)溶解度がより低いため、温度の増大は炭酸塩の加水分解の速度を高め得る。
【0045】
ガスバブリングも、CO2発生速度の変更により反応速度を制御する効果的な方法であり得る。N2(g)、O2(g)、CO2(g)、及び/又は大気空気のバブリングは、そのガスが溶解CO2(g)と置き換わるか、又は反応物の混合を改善するように機能し得るため有益であり得る。
【0046】
炭酸塩は、それらが初めに準安定の重炭酸塩の形である場合、より迅速に分解され得る。例えば、Li2CO3については以下の反応:
Li2CO3(s)+CO2(g)+H2O(l)←→2LiHCO3(aq)
が起こる。
【0047】
準安定の重炭酸リチウムは、Li2CO3よりもはるかに可溶性であり、引き続いての加水分解は、以下に示されるように:
LiHCO3(aq)+H+
(aq)→H2O(l)+CO2(g)+Li+
(aq)l
上記反応4のような進行とは対照的に単独のプロトンにより化学量論的に進行し得る。
【0048】
二価の金属シュウ酸塩、例えばNiC2O4、MnC2O4、CoC2O4、ZnC2O4等は、高度に不溶性であるが、一価の金属シュウ酸塩、例えばLi2C2O4は幾分可溶性であり、25℃の水中で8g/100mLの溶解度を有する。シュウ酸リチウムが溶解され、混合金属シュウ酸塩析出物全体を通して均質に分散される必要がある場合に、シュウ酸リチウムの溶解度限界を上回る水容量を保つことが有益となり得る。
【0049】
炭酸塩の加水分解速度、金属シュウ酸塩の析出、並びに金属シュウ酸塩析出物の結晶構造及び粒度は、pH及び含水量又はイオン強度により影響される。幾つかの実施形態においては、より高いイオン強度又はより低い含水量で作業することが有効であり得る。それというのも、これは、シュウ酸のプロトン活性及び金属シュウ酸塩の析出速度を高めるからである。含水量は、炭酸塩原料の含量に正規化され得る。その際、炭酸塩のモル数の水の容量(L)に対する好ましい比は、約0.05~約20の範囲内である。1.25モルの炭酸塩当たり約1.64Lの含水量により、炭酸塩のモル数の水の容量(L)に対する比は1.79となり、それは本発明の実証のために適している。
【0050】
シュウ酸塩の炭酸塩に対する化学量論量は、完全な析出の達成のために十分である。しかしながら、過剰なシュウ酸の添加は、反応速度を増大させ得る。それというのも、シュウ酸の第2のプロトンははるかに酸性が低く、加水分解に関与するからである。炭酸塩に対してシュウ酸が約5モル%過剰であれば、炭酸塩の加水分解の完了を確実にするのに十分である。ICP分析により、シュウ酸が10%過剰であっても、反応が完了した際の化学量論的に0%過剰の場合と同様の数のMn/Niイオンが溶液中に残ることが示された。シュウ酸が化学量論的に少量過剰であると、完全な析出の達成において効果的なはずだが、化学量論的に少量の過剰は、炭酸塩の加水分解の速度に影響を及ぼし得る。
【0051】
炭酸塩の分解過程の特に有利な点は、単一の反応器中で全反応を完了するまで行うことができることである。リチウム源は理想的には噴霧乾燥工程及びか焼工程の前に溶液であるので、遷移金属を別個に析出させ、リチウム源を共沈後にシュウ酸塩等の水性リチウム塩の溶液として添加することが有用であり、及び/又はそれが可能であり得る。
【0052】
金属が格子内に取り込まれない被覆金属前駆体塩を分解(digestion)後に添加することで、最終的に金属酸化物被覆を形成することができる。特に好ましい金属はニオブであり、被覆金属前駆体塩として特に好ましいニオブ前駆体はジカルボン酸塩であり、ここで、シュウ酸塩が最も好ましい。好ましいシュウ酸ニオブは、炭酸ニオブからin-situで形成され得るか、又はシュウ酸ニオブは個別に調製されて、カソード金属前駆体に添加され得る。上記被覆は、主として被覆材料をリチウム塩、好ましくはニオブ酸リチウムとして含み、ここで、被覆の少なくとも95モルパーセントは被覆金属酸化物のリチウム塩である、又は被覆中の金属イオンの5モルパーセント未満は式I若しくは式IIに規定されるカソード活物質のリチウム塩である。特に好ましい実施形態では、被覆中の金属は少なくとも95モルパーセントのニオブ酸リチウムである。
【0053】
本発明は、遷移金属酢酸塩及び混合炭酸塩原料と一緒に使用するために適しており、それにより金属錯体の溶解度をより近く合致させることが可能である。LiNi0.5Mn1.5O4材料の生成のために混合炭酸塩原料、例えばNi0.25Mn0.75CO3+Li2CO3が検討される。原料不純物は、最終材料の性能に重要となる場合がある。特に、MnCO3の試料は、還流の間に加水分解されない少量の未知の不純物を有し得る。
【0054】
多価カルボン酸は、少なくとも2個のカルボキシル基を有する。特に有利な多価カルボン酸は、か焼の間に除去せねばならない炭素が最小限となることを一部の理由として、シュウ酸である。その他の低分子量ジカルボン酸、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸を使用することができる。より高分子量のジカルボン酸を使用することができ、偶数の炭素を有し、より高い溶解度を有するものを使用することができるが、追加の炭素の除去の必要性及び溶解度の低下のためあまり望ましくない。その他の酸、例えばクエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、及びその他の多価カルボン酸を使用することができるが、但し、それらは、少なくとも化学量論的に少量の過剰を達成するのに十分な溶解度を有し、十分なキレート化特性を有するものとする。ヒドロキシル基を有する酸は、それらの高められた吸湿特性のため使用しないことが好ましい。
【0055】
酸化物前駆体の形成のための反応を達成するために、出発塩の溶液が調製される。好ましくはニッケル、マンガン、及びコバルト又はアルミニウムの溶液を含む添加溶液を、まとめて、別々に、又は幾らかの組み合わせにおいて調製し、好ましくはリチウムを含むバルク溶液を調製することが好ましい。その後に、添加溶液は、本明細書の他の箇所に記載されるように、バルク溶液に添加される。それらの溶液は逆であってもよいが、遷移金属を意図される化学量論量で添加することが好ましく、したがって全ての遷移金属を含む単一の溶液としてリチウム含有のバルク溶液に添加することが有利である。
【0056】
それぞれの溶液は、固体を選択された溶剤、好ましくは極性溶剤、例えば限定されるものではないが水中に溶解させることにより調製される。溶剤の選択は、固体反応物の溶剤中での溶解度、及び溶解温度により決定される。溶解で大量のエネルギーを消費しないように、周囲温度で溶解させ、速い速度で溶解させることが好ましい。溶解は、僅かにより高い温度であるが、好ましくは100℃未満の温度で実施され得る。その他の溶解助剤は、酸又は塩基の添加であり得る。
【0057】
混合の間に、ガスをバルク溶液中にバブリングすることが好ましい。議論の目的上、そのガスは、化学反応に寄与しない不活性として定義されるか、又はそのガスは、pHを調整し、若しくは化学反応に寄与する反応性として定義される。好ましいガスには、空気、CO2、NH3、SF6、HF、HCl、N2、ヘリウム、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、又はそれらの混合物が含まれる。特に好ましいガスには、反応物溶液が空気感受性でなければ、周囲空気が含まれる。還元性雰囲気が必要であれば二酸化炭素が特に好ましく、二酸化炭素は、炭酸塩が形成されるのであればpH調節剤等の溶解剤として、又は反応物としても使用され得る。アンモニアも、pH調節のためにガスとして導入することができる。アンモニアは、遷移金属とアンモニア錯体を形成することができ、そのような固体の溶解を補助することができる。一例としてアルゴン中の10%のO2のようなガス混合物が採用され得る。
【0058】
酸化物前駆体の形成のために、pHは、限定されるものではないが、好ましくは少なくとも約1から約9.6以下である。アンモニア又は水酸化アンモニウムは、任意の可溶性塩基のようにpHの増大のために適しており、その際、必要に応じてLiOHが調節のために特に好ましい。酸、特にギ酸は、必要であればpHの減少のために適している。1つの実施形態においては、リチウムが、例えば酢酸リチウムの添加により添加され、こうして適切な固体含量、一般的に約20重量%~30重量%が乾燥の前に達成され得る。
【0059】
本発明の特に有利な点は、酸化物の本体全体を通じた遷移金属濃度の勾配を形成することができることであり、ここで、領域、例えば中央は、或る比率の遷移金属を有し得て、かつその比は、酸化物の本体全体を通じて連続的又は段階的のいずれかの様式で変動し得る。限定されるものではないが、議論及び明確化の目的上、NMCを考えると、Ni、Mn、及びCoの濃度は、コアから粒子の表面に向かって半径方向に変化し得る。明確にするために提供される例示的な実施形態においては、Ni含量は勾配を有することができ、それにより酸化物粒子の表面上又は表面近くで相対的に低いニッケル濃度、及び酸化物粒子のコア中で相対的に高いニッケル濃度が可能となる。Li対遷移金属の比は、化学量論的中性に基づき、酸化物粒子全体を通じて一定のままとなる。明確にする例によって、Ni:Mn:Coの全組成は、それぞれNMC622及びNMC811について6:2:2及び8:1:1であり得て、その際、コアでは、或る遷移金属が相対的に豊富であり、シェルでは、同じ遷移金属が相対的に少ない。更により具体的には、コアでは、或る遷移金属、例えばニッケルが豊富であり得て、その際、その遷移金属が他の金属に対して半径方向に減少する比率を有する。例えば、NMC8:1:1コアは、非限定的な段階的な例として、その外側にNMC6:2:2シェルと共に、外側にNMC1:1:1シェルを有し得る。これらの反応は、段階的な添加において、又は遷移金属のポンプ速度の変更により連続的勾配で行うことができる。それぞれの添加における遷移金属の比率及び添加の回数を変更することで、所望の勾配分布を得ることができる。
【0060】
本発明の具体的な特徴は、ドーパント及びその他の材料を、優先的に酸化物内部に、又は表面近くに、又は表面でさえも導入することができることである。従来技術では、例えばドーパントは、酸化物内に均質に分散される。さらに、例えばアルミニウムでの任意の表面処理は、形成された酸化物上に表面反応物として存在するが、必ずしも酸化物格子中に導入される原子としては存在しない。本発明は、ドーパントが初期遷移金属スラリー中に導入される場合がそうであるように、ドーパントをコアで規則正しく分散させることを可能にし、ドーパントが後続の遷移金属スラリー中に導入される場合がそうであるように、ドーパントを半径方向の帯状に分散させることを可能にし、又はドーパントが最終遷移金属スラリー中に導入される場合がそうであるように、ドーパントを外側シェル中に分散させることを可能にする。
【0061】
本発明の目的上、酸化物粒子のそれぞれの半径方向部分は、その部分の形成のために使用される遷移金属のパーセントに基づいて定義される。例として、初期スラリーが遷移金属の第1の比率を有し、かつ初期スラリーが、酸化物の形成のために使用される全遷移金属の10モル%を占めるのであれば、コアは、酸化物の体積の10%であるとみなされ、コアの組成は、遷移金属の第1の比率と同じ比率を有すると定義されることとなる。同様に、コアを取り囲むそれぞれのシェルは、その中の遷移金属のパーセントにより定義されることとなる。非限定的な例としては、第1のスラリーが8:1:1のNi:Mn:Co比を有し、第2のスラリーが6:2:2のNi:Mn:Co比を有し、かつ第3のスラリーが1:1:1のNi:Mn:Co比を有する、それぞれ遷移金属が等モルである3種のスラリーを用いて形成される酸化物のための前駆体は、8:1:1の比で遷移金属を有するコアである1/3体積の酸化物粒子に相当する酸化物と、6:2:2の遷移金属比を有する1/3体積の酸化物粒子に相当するコア上の第1のシェルと、1:1:1の遷移金属比を有する1/3体積の酸化物粒子に相当する第1のシェル上の外側シェルとを、酸化物のための前駆体の焼結の間に生じ得る遷移金属の移行を顧慮せずに形成するとみなされることとなる。
【0062】
特に好ましい実施形態においては、ドーパントは、外側シェル中に導入され、その際、具体的なドーパントはアルミニウムである。より好ましくは、ドーパントを含む外側シェルは、酸化物粒子の体積の10%未満、更により好ましくは酸化物粒子の体積の5%未満、最も好ましくは酸化物粒子の体積の1%以下に相当する。本発明の目的上、ドーパントは、Ni、Mn、Co、Al、及びFeから選択される少なくとも1種の遷移金属と協調して酸化物のための前駆体の形成の間に析出する材料として定義される。より好ましくは、酸化物のための前駆体は、Ni及びMn、そして任意にCo又はAlのいずれかを含む。少なくとも1種の遷移金属の析出の完了後に添加される材料は、本明細書ではニオブによる表面処理として定義され、特にニオブ酸リチウムが好ましい。
【0063】
酸化物前駆体の形成のための反応の完了に際して、得られるスラリー混合物を乾燥させることで、溶剤が除去され、乾燥前駆体粉末が得られる。好ましい最終生成物に応じて選択される噴霧乾燥器、箱型乾燥器、凍結乾燥器等を含む任意の種類の乾燥法及び乾燥装置を使用することができる。乾燥温度は、利用される装置により定義及び限定されることとなり、そのような乾燥は、好ましくは350℃未満であり、より好ましくは200℃~325℃である。乾燥は、蒸発器を使用して、スラリー混合物をトレイに入れ、温度の上昇に伴い溶剤が放出されるように行うことができる。産業で使用されるあらゆる蒸発器を使用することができる。特に好ましい乾燥方法は、流動化ノズル又は回転アトマイザーを備える噴霧乾燥器である。これらのノズルは、好ましくはスラリー混合物中の酸化物前駆体のサイズに適した最小サイズの直径を有する。乾燥媒体は、費用を考慮して、好ましくは空気である。
【0064】
酸化物前駆体の粒度は、ナノサイズの一次粒子及び二次粒子、そしてより小さいサイズに非常に容易に粉砕される50ミクロン未満の凝集体までの範囲の小ミクロンサイズの二次粒子までである。最終的な粉末の組成が同様に形態に影響を及ぼすことが知られる。酸化物前駆体は、約1μm~5μmの好ましい粒度を有する。噴霧乾燥器、凍結乾燥器等が使用される場合、得られる混合物は、噴霧乾燥器のヘッドにポンプ導入されるので、連続的に撹拌される。箱型乾燥器の場合には、溶液の表面から液体が蒸発する。
【0065】
乾燥された粉末は、か焼システム中に回分式に又はコンベアベルトによって移送される。大規模生産においては、この移送は連続式又は回分式であり得る。か焼システムは、限定されるものではないが、容器としてセラミックトレイ又はサガーを利用する箱形炉、回転か焼炉、並流又は向流であり得る流動床、回転管炉、及びその他の同様の装置であり得る。
【0066】
か焼の間の加熱速度及び冷却速度は、所望の最終生成物の種類に依存する。一般的に、約5℃毎分の加熱速度が好ましいが、通常の工業的な加熱速度を適用することもできる。
【0067】
か焼工程後に得られる最終粉末は、従来の処理において現在行われるように追加の破砕、細砕、又は粉砕を必要とし得ない微細粉末、超微細粉末、又はナノサイズ粉末である。粒子は、比較的軟質であり、従来の処理でのように焼結されない。
【0068】
最終的な、か焼された酸化物粉末は、好ましくは表面積、電子顕微鏡法による粒度、空隙率、元素の化学分析、そしてまた好ましい専門用途により必要とされる性能試験について特徴付けられる。
【0069】
噴霧乾燥された酸化物前駆体は、好ましくは非常に微細であり、ナノサイズである。
【0070】
噴霧粉末がか焼炉に移されるときに出口弁が開閉するような噴霧乾燥器の収集器の改良が実現され得る。回分式に、収集器中の噴霧乾燥された粉末は、トレイ又はサガー中に移送され、か焼炉中に移動され得る。回転か焼炉又は流動床か焼炉を使用して、本発明を実証することができる。か焼温度は、粉末の組成、及び所望される最終相純度により決定される。殆どの酸化物型の粉末については、か焼温度は、400℃ほどの低い温度から1000℃より僅かに高い温度までの範囲である。か焼後に、粉末はこれらが軟質であり焼結されていない場合に篩別される。か焼された酸化物は、狭い粒度分布を得るためには長い粉砕時間も分級も必要としない。
【0071】
LiM2O4スピネル酸化物は、1μm~5μmの好ましい結晶子径を有する。LiMO2岩塩酸化物は、約50nm~250nm、より好ましくは約150nm~200nmの好ましい結晶子径を有する。
【0072】
本発明の特に有利な点は、酢酸塩とは対照的な多価カルボン酸の金属キレートの形成である。酢酸塩は、酸化物前駆体の後続のか焼の間の燃料として機能し、追加の酸素が適切な燃焼のために必要とされる。より低分子量の多価カルボン酸、特により低分子量のジカルボン酸、より具体的にはシュウ酸は、追加の酸素の導入なしに、より低い温度で分解(decompose)する。例えばシュウ酸塩は、追加の酸素なくして約300℃で分解(decompose)し、それによりか焼温度のより正確な制御が可能となる。これは焼成温度の低下を可能にし、それにより、高温で見られるような不純物相の発生を最小限に抑えながら不規則Fd3mスピネル結晶構造の形成を容易にする。
【0073】
酸化物前駆体の形成のためのこの方法は、本明細書では錯形成前駆体配合(CPF)法と称され、その方法は、専門用途のための性能仕様を満たすために必須である規定された特有の化学的特性及び物理的特性を必要とする高性能の微細粉末、超微細粉末、及びナノサイズ粉末の大規模工業生産のために適している。CPF法は、酸化物前駆体をもたらし、その際、金属は塩として規則格子で析出する。次いで酸化物前駆体をか焼することで、酸化物が形成される。理論に限定されるものではないが、規則格子の形成は、非晶質固体とは対照的に、か焼の間の酸化物形成を容易にすると仮定される。
【0074】
CPF法は、特殊なマイクロ構造又はナノ構造の制御された形成をもたらし、性能仕様を満足するように適合された粒度、表面積、空隙率、相純度、化学的純度、及びその他の必須の特性を有する最終生成物をもたらす。CPF法により生成される粉末は、現在使用される技術に対して減少した処理工程数で得られ、現在利用可能な工業装置を利用することができる。
【0075】
CPF法は、求電子性配位子又は求核性配位子を有するあらゆる無機粉末及び有機金属粉末に適用することができる。CPF法は、出発原材料として低コストの原材料を使用することができ、必要であれば、追加の精製又は分離をin-situで行うことができる。粉末合成のために必要とされる不活性大気条件又は酸化性大気条件は、この方法のための装置で容易に達成される。該反応のための温度は、周囲温度又は僅かに温暖であってよいが、好ましくは100℃以下である。
【0076】
CPF法は、結晶化、溶解度、遷移錯体形成、相化学、酸性度及び塩基性度、水性化学、熱力学並びに表面化学の化学原理の統合により簡単で効率的な様式で酸化物前駆体の微細粉末、超微細粉末、及びナノサイズ粉末を生成する。
【0077】
結晶化し始める時間、特に核形成工程が始まる時間は、ナノサイズの粉末の形成の最も重要な段階である。CPFにより提供される特に有利な点は、この核形成工程の開始時にナノサイズの粒子を製造可能であることである。出発反応物からの溶質分子は、所与の溶剤中に分散され、溶解される。この場合、クラスターは、温度、過飽和、及びその他の条件の適切な条件下にてナノメートル規模で形成し始めると考えられる。これらのクラスターは核を構成し、その際、原子はそれら自体、結晶微細構造を後に決定する規定の周期的な様式で配列し始める。結晶サイズ及び結晶形状は、内部結晶格子構造によって生じる結晶の巨視的特徴である。
【0078】
核形成が始まった後に、結晶成長も始まり、過飽和が存在する限り、核形成及び結晶成長の両方が同時に生じ得る。核形成及び成長の速度は、溶液中に存在する過飽和により決定され、核形成又は成長のいずれかが、過飽和状態に応じてもう一方を上回って生ずる。結晶サイズ及び形状を適合させるためには、相応して必要とされる反応物の濃度を規定することが重要である。核形成が成長より優位となる場合に、より微細な結晶サイズが得られることとなる。核形成工程は非常に重要な工程であり、この初期工程での反応の条件が、得られる結晶を決定する。定義上、核形成は、液体溶液から形成する結晶のような小さい領域における初期相変化である。それは、準安定平衡の状態にある均質相における分子規模での急速な局所的変動の結果である。全体の核形成は、一次核形成及び二次核形成の2つのカテゴリーの加算効果である。一次核形成においては、結晶が形成されるが、開始剤として結晶は存在しない。核形成過程を開始するために結晶が存在する場合に、二次核形成が生ずる。それが、CPF法の基礎を成す初期核形成工程のこの重要性の理由である。
【0079】
CPF法では、反応物は、好ましくは周囲温度で、又は必要であれば僅かに高められた温度で、しかし好ましくは100℃以下の温度で溶液中に溶解される。廉価な原材料及び適切な溶剤の選択は、本発明の重要な態様である。出発材料の純度も重要である。それというのも、この純度は、その性能仕様に必要な特定の純度レベルを必要とし得る最終生成物の純度に影響を及ぼすからである。そのため、処理費用を大幅に高めることなく製造方法の間に精製することができる低コストの出発材料を考慮に入れねばならない。
【0080】
CPFは、反応物を緊密混合するのに従来の装置を使用し、好ましくは、特に反応物ガスが有利である場合に、好ましくはガスのバブリングで十分にかき混ぜられた混合物を含む。
【0081】
ガスは溶液中に直接的に導入されることが好ましいが、導入方法は限定されない。ガスは、反応器側面に位置するチューブのような幾つかのガスディフューザーを備えることにより反応器内の溶液中に導入することができ、ここで上記チューブは、ガスが出るための穴を有する。もう1つの構成は、ガスが反応器の内壁を通過するような二重壁反応器を有することである。反応器の底部は、ガスのための入り口を有してもよい。ガスは、排出時に気泡を生ずる撹拌機シャフトを通じて導入することもできる。幾つかのその他の構成も可能であり、本明細書に示されるこれらの配置の説明はこれらに限定されない。
【0082】
1つの実施形態においては、曝気装置をガスディフューザーとして使用することができる。ガスを拡散する曝気装置が反応器中に組み込まれ得る。チューブ形状又はドーム形状のいずれかであるセラミック製の拡散曝気装置は、本発明の実証のために特に適している。セラミック製の気泡ディフューザーの細孔構造は、比較的微細な気泡を生じ得るため、供給されるガスの立方フィート毎分(cfm)当たりのガスと液体との界面が極めて増える。微細な気泡の速度がより遅いことによる接触時間の増加と相まってガスと液体との界面の高比率は、より高い移行速度をもたらし得る。セラミックの多孔性は、気泡形成における重要な要素であり、核形成過程に大きく寄与する。限定されるものではないが、殆どの構成について、1分当たりの溶液1リットル当たり、少なくとも1リットルのガスのガス流量が、本発明の実証のために適している。
【0083】
反応器壁側面にあるセラミックチューブガスディフューザーは、本発明の実証のために特に適している。これらのチューブの幾つかは、反応器全体を通じてより均一にガスを分配するために、好ましくは互いに等間隔で異なる位置に配置されていてよい。ガスは、好ましくは、チューブ内腔を僅かに加圧するヘッダーアセンブリーに接続された取付具を通じて反応器内のディフューザー中に導入される。ガスはセラミックディフューザ本体を通って透過するにつれ、材料の多孔質構造及びセラミックチューブの外側の液体の表面張力によって、微細な気泡が形成し始め得る。表面張力に打ち勝つと、微細な気泡が形成される。その後、この小さな気泡は、液面に達する前に、気体と液体との間の移行のために界面を形成しながら、液体を通って上昇する。
【0084】
ドーム形状のディフューザーは、反応器底部又は反応器側面に位置し得る。ドーム形状のディフューザーでは、一般的に、底部から表面に向かって絶えず上昇する気泡の柱が生成され、こうして大きな反応性表面がもたらされる。
【0085】
ガス流が表面張力に打ち勝つのに十分でない場合に閉じるメンブレンディフューザーは、本発明の実証のために適している。これは、任意の生成物粉末がディフューザー中へと失われることを防ぐために有効である。
【0086】
より高いガス効率及び利用率を得るためには、ガス流及び圧力を減らし、より少ないポンプ操作エネルギーしか消費しないことが好ましい。ディフューザーは、同じ体積のガスに関して、より大きな気泡がより少なく形成される場合よりも高い表面積でより小さな気泡が形成されるように構成され得る。より大きな表面積は、ガスが液体中でより素早く溶解することを意味する。このことは溶液中で有利であり、その際、そのガスは、溶液中のその溶解度を高めることにより反応物を可溶化するためにも使用される。
【0087】
ノズル、好ましくは一方向ノズルを使用することで、溶液反応器中にガスを導入することができる。そのガスはポンプを使用して送り出すことができ、流速は、所望の気泡及び気泡速度が達成されるように制御されるべきである。好ましくは反応器の側面又は底部の少なくとも1つにあるジェットノズル型ディフューザーが、本発明の実証のために適している。
【0088】
ガス導入速度は、撹拌機の作用を除いて、好ましくは溶液の容量を少なくとも5%だけ増加させるのに十分である。殆どの場合に、毎分溶液1リットル当たり少なくとも約1リットルのガスが、本発明を実証するために十分である。そのガスを反応器中に戻して再循環させることが好ましい。
【0089】
添加溶液のバルク溶液への移送は、好ましくは、移送されるべき溶液を反応器に接続するポンプに取り付けられたチューブを使用して行われる。反応器中へのチューブは、好ましくは、直径サイズが添加溶液の流れを所与の速度で送り出すことができるように選択された所定の内径を有する単一のオリフィス又は幾つかのオリフィスを有するチューブである。微細なノズルを有するアトマイザーは、添加溶液を反応器中に送り出すために適している。この移送チューブの先端はシャワーヘッドを備え得ることから、添加溶液の幾つかの流れが同時に供給される。大規模生産においては、移送速度は時間的要因であるため、移送速度は、所望の適切なサイズを生ずるのに十分、素早くあるべきである。
【0090】
撹拌機には異なる構成の幾つかのプロペラが備え付けられていてよく、各セットは、互いに或る角度で又は同一平面上に配置された1つ以上のプロペラを備える。さらに、混合器は、これらのプロペラの1つ以上のセットを有し得る。その目的は、適切な溶液の回転のために十分な乱流を生成させることである。真っ直ぐなパドル又は傾いたパドルが適している。これらのパドルの寸法及び設計は、溶液の流れの種類及び流れの方向を決める。少なくとも約100回転毎分(rpm)の速度は、本発明の実証のために適している。
【0091】
添加溶液のバルク溶液への移送速度は、核形成の速度に対して動力学的効果を有する。好ましい方法は、結晶成長速度によって核形成及び核形成速度に影響を及ぼす反応物の局所的濃度を制御するための微細な移送流を有することである。より小さなサイズの粉末のためには、より遅い移送速度がより微細な粉末をもたらす。競合する核形成及び成長の適切な条件は、所望の最終粉末特性によって決定されなければならない。反応温度は、周囲温度又は必要であれば穏やかな温度下が好ましい。
【0092】
最終生成物にもたらされる特別なナノ構造が予め形成され、こうして所望の用途における材料の性能が向上する。本発明の目的上、ナノ構造は、平均サイズ100nm~300nmの一次粒子を有する構造として定義される。
【0093】
界面活性剤も乳化剤も必要ではない。事実、界面活性剤及び乳化剤はそれらが乾燥を抑えるので使用されないことが好ましい。
【0094】
サイズ制御は、溶液の濃度、ガスの流速、又は添加溶液のバルク溶液への移送速度によって行うことができる。
【0095】
繰り返しの面倒な粉砕工程及び分級工程は使用されない。
【0096】
か焼時間の短縮を達成することができ、繰り返しのか焼は一般的に必要とされない。
【0097】
反応温度は周囲温度である。可溶化のために必要であれば、温度が高められるが、好ましくは100℃以下である。
【0098】
粉末の適合された物理的特性、例えば表面積、空隙率、タップ密度、及び粒度は、反応条件及び出発材料の選択により慎重に制御され得る。
【0099】
本方法は、現在利用可能な装置及び/又は現在の産業用装置の革新を使用して大規模生産のために容易に拡張可能である。
【実施例】
【0100】
電極の製造:
複合電極を、活物質と、導電性添加剤としての10重量%の導電性カーボンブラック、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶剤中に溶解されたバインダーとしての5重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合することにより製造した。そのスラリーを、黒鉛被覆されたアルミニウム箔上にキャストし、60℃で真空下に一晩乾燥させた。1.54cm2の面積を有する電極ディスクを、4mg・cm-2の典型的な担持量を有する電極シートから切り出した。
【0101】
コインセルの組み立て:
コインセルを、アルゴンで満たしたグローブボックス中で組み立てた。リチウム箔(340μm)を、ハーフセルにおいてカウンター電極及び参照電極として使用し、市販のLi4Ti5O12(LTO)複合電極を、フルセルにおいてカウンター電極及び参照電極として使用した。7:3(容量%)のエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)中の1MのLiPF6を、電解質として使用した。それらの電極を、ハーフセルにおいて1枚又は2枚の25μm厚のCelgard(商標)メンブレンのシートによって隔離し、フルセルにおいて1枚のCelgardメンブレンのシートによって隔離した。
【0102】
サイクル試験プロトコル:
スピネルのカソードセルの定電流でのサイクル試験を、Arbin Instruments社製のバッテリーテスター(モデル番号BT 2000)を使用して、3.5V~4.9Vの電圧範囲で様々なCレート(1Cレートは、146mAg-1に相当する)において25℃で行った。1C以上のレートの定電流充電工程の終わりに、該セルに4.9Vで10分間の定電圧充電工程を適用した。岩塩NMCのセルの定電流でのサイクル試験を、2.7V~4.35Vの電圧範囲で様々なCレート(1Cレートは、200mAg-1に相当する)において25℃で行った。1C以上のレートの定電流充電工程の終わりに、該セルに4.35Vで10分間の定電圧充電工程を適用した。
【0103】
実施例1:
噴霧乾燥された混合シュウ酸塩前駆体及びLiNi
0.5Mn
1.5O
4カソード材料の製造からのか焼された材料のSEM分析は、両方とも結晶性であり、
図1に図示されるように、遷移金属酢酸塩原料及び遷移金属炭酸塩原料の使用により同様の材料形態がもたらされる。
【0104】
実施例2:
図2は、炭酸マンガンとシュウ酸(5%モル過剰)とを水中で6時間にわたり(a)室温で空気中にて、(b)室温で窒素バブリングしながら、(c)室温で二酸化炭素バブリングしながら、(d)水還流温度で空気中にて、そして(e)室温で空気中にて実験(a~d)における含水量の10倍の含水量で反応させることにより析出されたシュウ酸マンガン水和物のXRDパターンを示す。実験(a~c)で析出された材料のXRDパターンは、空間群C2/cを有するシュウ酸マンガン二水和物のXRDパターンと一致している。N
2ガスバブリング及びCO
2ガスバブリングは、材料の結晶性に僅かに影響を及ぼしていた。水還流温度での反応(b)により、2種の異なるシュウ酸マンガン二水和物相が生じ、一方はC2/c空間群にあり、一方はP2
12
12
1空間群にある。実験(a~d)における反応物濃度の1/10までの反応物濃度の低下により、空間群Pccaを有する一次元鎖構造を有するカテナ-ポリ[[[ジアクアマンガン(II)]-μ-オキサラト]モノヒドレート]がもたらされた。これらの実験は、炭酸マンガンとシュウ酸との水中での反応で析出した生成物への温度、濃度、及び雰囲気等の反応条件の大きな影響を裏付けている。
【0105】
実施例3:
LiNi
0.5Mn
1.5O
4スピネルで特に問題となるのは、4Vプラトーと称される現象であり、その際、電圧は、
図3に図示されるように放電の終わりで4.7Vから4.0Vまで降下する。そのプラトーは、空気中での焼成の間の酸素不足により形成されるMn
3+の結果であると考えられる。
図3に図示される従来技術の方法による結果においては、酸化物のための規則的前駆体は、炭酸ニッケル及び炭酸マンガンと一緒に化学量論的な酢酸リチウムを含む析出物として形成され、その酸化物のための前駆体をか焼することで、LiNi
0.43Mn
1.57O
4(Mn:Ni比は3.70であった)のスピネルが得られた。電圧に対する充電容量を測定することで、
図3に図示されるかなりの4ボルトプラトーがもたらされた。
【0106】
本発明によるAにおいては、シュウ酸塩が遷移金属酢酸塩から形成され、こうして
図3に図示されるように4ボルトプラトーのかなりの軽減がもたらされた。本発明によるAにおいては、酸化物のための規則的前駆体を、炭酸リチウム、酢酸ニッケル、及び酢酸マンガンからシュウ酸の分解により
図3で参照される方法において形成した。次いでその酸化物のための前駆体をか焼することで、LiNi
0.48Mn
1.52O
4(式中、Mn:Ni比は3.13であった)のスピネルが得られた。電圧に対する放電容量を測定することで、
図3に図示される4ボルトプラトーのかなりの軽減がもたらされた。
【0107】
本発明によるBにおいては、金属炭酸塩が原料として使用され、その際、炭酸塩のシュウ酸塩の分解は、特に僅かに過剰のニッケルを使用することで4ボルトプラトーの実質的な排除をもたらし、ここで、Niに対するMnの比は3以下であり、好ましくは少なくとも2.33から3未満であり、最も好ましくは2.64から3未満である。酸化物のための規則的な前駆体を、炭酸リチウム、炭酸ニッケル、及び炭酸マンガンからシュウ酸の分解により、
図3で最適な方法として参照される方法において形成した。その酸化物のための前駆体をか焼することで、LiNi
0.51Mn
1.49O
4(式中、Mn:Ni比は2.90であった)のスピネルが得られた。電圧に対する放電容量を測定することで、
図3に図示される4ボルトプラトーのほぼ完全な排除がもたらされた。
【0108】
実施例4:
LiNi
0.5Mn
1.5O
4の式を有する高電圧スピネルのための前駆体を、炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸マンガン、及びシュウ酸を使用して合成した。820.0gのH
2C
2O
4・2H
2Oを、化学反応器の容器中で2.0Lの水に約40℃の温度で添加した。2つ目の容器において、1.2Lの脱イオン水中にLi
2CO
3(96.1g)、NiCO
3(148.4g)、MnCO
3(431.1g)を含む炭酸塩混合物スラリーを調製した。炭酸塩混合物スラリーを、化学反応器の容器中に約0.2L/h~0.3L/hの速度でポンプ導入した。反応器内の混合物を40℃で周囲雰囲気中にて激しく混合することで、スラリーを形成した。噴霧乾燥器を使用してそのスラリーを乾燥させることで、高電圧スピネル前駆体材料が生成した。X線回折(XRD)パターンを
図4に提供し、乾燥された粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図5に提供する。XRD回折は高規則化結晶格子を示し、SEMはナノ構造の結晶性材料を裏付けている。
【0109】
実施例5:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルを、実施例4の前駆体から製造した。実施例4の前駆体をアルミナ坩堝に入れ、箱形炉において空気中にて900℃で15時間にわたり周囲雰囲気において焼成した。得られた粉末を、粉末X線回折分析により分析することで、
図6に提供される回折パターンが得られた。
図7に提供されるSEMは、前駆体のナノ構造が大幅に維持されていることを説明している。そのスピネル構造の格子パラメーターは、8.174(1)Åであると計算された。合成された材料の電気化学的性能を、カソードとしてリチウム金属アノードに対するハーフセルにおいて、そしてLi
4Ti
5O
12(LTO)アノードに対するフルセルにおいて評価した。0.1Cでのハーフセルにおける放電容量に対する電圧を
図8に図示する。ハーフセルにおける1Cレートでの25℃でのサイクル数に対する比容量を
図9に図示する。ハーフセルにおける25℃での様々な放電レートでの比容量を
図10に図示する。LTOアノードとのフルセルにおける1Cでの25℃での比容量を
図11に図示する。
【0110】
実施例6:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルを、実施例4の前駆体から製造した。その前駆体材料をアルミナボート中に入れ、50cm
3/分の酸素流下で管状炉において焼成した。
図12に図示される焼成手順は、350℃での予備焼成工程と、900℃での焼成と、650℃への緩慢な冷却、及び650℃でのアニーリングを含んでいた。緩慢な冷却に加えて酸素中で焼成することで、酸素不足は緩和され、これらの材料で通常観察される4Vプラトーの軽減がもたらされる。得られた粉末のX線回折を
図13に提供する。それに基づいて、スピネル構造の格子パラメーターは、8.168(1)Åであると計算された。合成された材料の電気化学的性能を、カソードとしてリチウム金属アノードに対するハーフセルにおいて評価した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で得られる電圧プロファイルを
図14に図示する。特に特徴的な点は、これらの材料において通常得られる4V電圧プラトーが見られないことである。ハーフセルにおいて25℃で1Cのサイクルレートで得られる比容量を
図15に図示する。ハーフセルにおいて25℃で様々な放電レートで得られる比容量を
図16に図示する。
【0111】
実施例7:
実施例4の前駆体材料をアルミナ坩堝に入れ、箱形炉において周囲雰囲気において
図12に図示される焼成手順を使用して焼成した。得られた粉末のX線回折パターンを
図17に提供する。スピネル構造の格子パラメーターは、8.169(1)Åであると計算された。合成された材料の電気化学的性能を、カソードとしてリチウム金属アノードに対するハーフセルにおいて評価した。ハーフセルにおける0.1Cの放電レートでの25℃における放電容量に対する電圧を
図18に図示する。ハーフセルにおいて25℃で1Cの放電レートで得られる比容量を
図19に図示する。
【0112】
実施例8:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、8.62gのMnCO
3(Alfa社、粒度1μm~3μm)、2.97gのNiCO
3(Alfa社、無水)、及び1.92gの炭酸リチウムを出発材料として使用して合成した。16.4gのシュウ酸二水和物(H
2C
2O
4・2H
2O)をキレート化剤として使用した。金属炭酸塩を、1つのビーカー内で20mLの脱イオン水と混合することでスラリーを形成し、酸を別のビーカー内の40mLの脱イオン水へと添加した。次いでシュウ酸スラリーを40℃に加熱し、炭酸塩スラリーを8.9mL/時間の速度で酸溶液に添加することで、前駆体を形成した。噴霧乾燥器を使用してその前駆体を乾燥させた。乾燥された前駆体をアルミナ坩堝内にて900℃で15時間にわたり周囲雰囲気において焼成した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で測定された放電容量に対する電圧を
図20に図示する。
【0113】
実施例9:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、より大きい粒度を有するMnCO
3(Sigma社、粒度≦74μm)を利用することを除き、実施例8と同様に合成した。その前駆体を乾燥させ、実施例8と同様に焼成した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で測定された放電容量に対する電圧を
図21に図示する。
【0114】
実施例10:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、8.62gのMnCO
3(Sigma社、粒度≦7m)、2.97gのNiCO
3(Alfa社、無水)、及び1.92gの炭酸リチウムを出発材料として使用して合成した。16.4gのシュウ酸二水和物(H
2C
2O
4・2H
2O)をキレート化剤として使用した。金属炭酸塩を、1つのビーカー内で80mLの脱イオン水と混合することでスラリーを形成し、酸を別のビーカー内の120mLの脱イオン水中に溶解させた。炭酸塩スラリーを、シュウ酸溶液に約25℃の周囲温度で16mL/時間の速度で添加することで、前駆体を形成した。次いで、噴霧乾燥器を使用してその前駆体を乾燥させた。乾燥された前駆体をアルミナ坩堝内にて900℃で15時間にわたり周囲雰囲気において焼成した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で測定された放電容量に対する電圧を
図22に図示する。
【0115】
実施例11:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、より少ない水を反応で使用することを除き、実施例10と同様に合成した。つまり、同量の金属炭酸塩を12mLの脱イオン水と混合し、同量のシュウ酸を28mLの水に添加した。炭酸塩スラリーをシュウ酸スラリーに3mL/時間の速度で添加した。次いで、前駆体を乾燥させ、実施例7と同様に焼成した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で測定された放電容量に対する電圧を
図23に図示する。実施例11は、非常に少量の水の添加により前駆体を形成することができ、幾つかの実施形態においては水が添加されないことを裏付けている。それというのも、水は分解により供給され、出発材料の水和水は、反応の開始及び完了に十分である場合があるからである。
【0116】
実施例12:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、塩基性炭酸ニッケル(Sigma社、NiCO
3・2Ni(OH)
2・xH
2O)源が使用されることを除き、実施例11と同様にして合成した。次いで、前駆体を乾燥させ、実施例11と同様に焼成した。ハーフセルにおいて0.1Cの放電レートにて25℃で測定された放電容量に対する電圧を
図24に図示する。
【0117】
実施例13:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、8.62gのMnCO
3(Sigma社、粒度≦74μm)、2.97gのNiCO
3(Alfa社、無水)、及び1.92gの炭酸リチウムを出発材料として使用して合成した。16.4gのシュウ酸二水和物(H
2C
2O
4・2H
2O)をキレート化剤として使用した。金属炭酸塩を、1つのビーカー内で80mLの脱イオン水と混合することでスラリーを形成し、酸を別のビーカー内の160mLの脱イオン水中に溶解させた。次いで溶解されたシュウ酸の入ったビーカーを、氷浴内に入れて、約5℃の温度を維持した。炭酸塩スラリーをシュウ酸溶液に23mL/時間の速度で添加した。乾燥された前駆体のXRDパターンを
図25に提供する。
【0118】
実施例14:
式LiNi
0.5Mn
1.5O
4を有する高電圧スピネルのための前駆体を、合成を水の沸点(100℃)で実施したことを除き、実施例13と同様に合成した。還流凝縮器を使用して、反応の水位を維持した。乾燥された前駆体のXRDパターンを
図26に提供する。
【0119】
実施例15:
式LiMn
2O
4を有するスピネルのための前駆体を、炭酸リチウム、炭酸マンガン、及びシュウ酸を出発材料として使用して合成した。16.39gのH
2C
2O
4・2H
2Oをビーカー内で40mlの水に添加した。2つ目のビーカーにおいて、Li
2CO
3(1.85g)及びMnCO
3(11.49g)を、24mlの脱イオン水中で混合した。炭酸塩混合物スラリーをシュウ酸スラリー中に0.01L/時間の速度でポンプ導入した。反応器内の混合物を周囲温度で混合した。得られたスラリーを蒸発により乾燥させることで、LiMn
2O
4のための前駆体が生成した。XRDパターンを
図27に提供する。
【0120】
前駆体材料を、箱形炉において空気中にて350℃で1時間にわたり焼成し、次いで850℃で5時間にわたり焼成した。焼成された材料のX線回折パターン及び走査型電子顕微鏡像を、それぞれ
図28及び
図29に示す。
【0121】
実施例16:
式LiMn1.9M0.1O4(M:Mn、Al、Ni)のスピネルのための前駆体を、金属炭酸塩及びシュウ酸を表1に示される量で使用して合成した。
【0122】
それぞれの組成の出発材料を、32mlの脱イオン水中で6時間にわたり周囲温度で混合した。得られたスラリーを蒸発により乾燥させた。
図30に示されるX線回折パターンは、LiMn
2O
4のための前駆体であるシュウ酸マンガン二水和物(試料A)、及びLiMn
1.9Al
0.1O
4のための前駆体(試料B)が斜方晶空間群(P2
12
12
1)で結晶化されたことを示している。LiMn
1.9Ni
0.1O
4(試料C)は、単斜晶空間群(C2/c)で結晶化されている。
【0123】
【0124】
実施例17:
式LiNi
0.333Mn
0.333Co
0.333O
2を有するNMC111のための前駆体を、丸底フラスコ内で240mLの脱イオン水中に分散された3.88gのLi
2CO
3、3.79gのNiCO
3、3.92gのMnCO
3、3.93gのCoCO
3、及び19.23gのH
2C
2O
4・2H
2Oから製造した。該混合物を還流下で6.5時間にわたり加熱し、冷却した。最終混合物は、約13%の固体含量を有していた。噴霧乾燥により粉末を得ることで、式LiNi
0.333Mn
0.333Co
0.333(C
2O
4)
1.5を有する前駆体が得られた。その前駆体を110℃で1時間にわたり加熱し、800℃で7.5時間にわたり空気下で箱形炉においてか焼することで、NMC111が得られた。その前駆体のSEMを
図32に提供する。か焼された粉末のXRDパターンを
図31に提供する。か焼された粉末のSEMを
図33に提供する。ここで、その前駆体のナノ構造は、大幅に維持されていることが示される。サイクル数に対する放電容量を
図34に図示する。
【0125】
実施例18:
式LiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2を有するNMC622のための前駆体を、ビーカー内で200mLの脱イオン水中に分散された39gのLi
2CO
3、71gのNiCO
3、23gのMnCO
3、及び24gのCoCO
3から製造した。炭酸塩の混合物を、400mLの脱イオン水中に201gのH
2C
2O
4・2H
2Oを含有する別のビーカー内に1時間当たり0.38モルの炭酸塩の速度でポンプ導入した。次いで、その反応混合物を1時間にわたり撹拌した。約20%の固体含量を有する最終混合物を噴霧乾燥させることで、式LiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2(C
2O
4)
1.5を有する前駆体が得られた。その前駆体のXRDパターンを
図35に提供し、SEMを
図37に提供する。その前駆体を110℃で1時間にわたり加熱し、800℃で7.5時間にわたり空気下で箱形炉においてか焼することで、NMC622が得られ、それは
図36に図示されるXRDパターン及び
図38のSEMを有する。そのSEMは、その前駆体のナノ構造規則格子が、か焼された粉末中に実質的に維持されることを裏付けている。サイクル数に対する1Cで25℃でのハーフセルの放電容量を
図39に示す。
図40は、0.1Cでの容量に対する初期充電電圧及び放電電圧のプロファイルを示す。
【0126】
実施例19:
式LiNi
0.8Mn
0.1Co
0.1O
2を有するNMC811のための前駆体を、ビーカー内で200mLの脱イオン水中に分散された39gのLi
2CO
3、95gのNiCO
3、12gのMnCO
3、及び12gのCoCO
3から製造した。その混合物を、400mLの脱イオン水中に201gのH
2C
2O
4・2H
2Oを含有する別のビーカー内に1時間当たり0.38モルの炭酸塩の速度でポンプ導入した。次いで、その反応混合物を1時間にわたり撹拌した。約20%の固体含量を有する最終混合物を噴霧乾燥させることで、式LiNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(C
2O
4)
1.5を有する前駆体が得られた。その前駆体を600℃で5時間にわたり空気下にて箱形炉内で加熱し、125℃で1時間にわたり酸素流下で加熱し、そして830℃で15時間にわたり酸素流下にて管状炉内でか焼することで、NMC811が得られた。NMC811酸化物のXRDを
図41に提供する。サイクル数に対する放電容量を
図42に提供し、容量に対する電圧プロファイルを
図43に図示する。NMC811を125℃で1時間にわたり加熱し、830℃で15時間にわたり酸素流下で管状炉においてか焼することで、再焼成されたNMC811が形成された。再焼成されたXRDのXRDパターンを
図44に提供し、SEMを
図45に提供する。放電容量を
図46に提供する。ここで、実線の曲線は平均容量を表し、エラーバーは、一連の試料についての最大容量及び最小容量を表す。
【0127】
実施例20:
式
LiNi
0.8
Co
0.15
Al
0.05
O
2
を有するNCAのための前駆体を、ビーカー内で40mLの脱イオン水中に分散された8gのLi
2CO
3、19gのNiCO
3、2gのAl(OH)(CH
3COO)
2、及び4gのCoCO
3から製造した。その混合物を、80mLの脱イオン水中に40gのH
2C
2O
4・2H
2Oを含有する別のビーカー内に1時間当たり0.08モルの炭酸塩の速度でポンプ導入した。次いで、その反応混合物を1時間にわたり撹拌した。約20%の固体含量を有する最終混合物を噴霧乾燥させることで、式
LiNi
0.8
Co
0.15
Al
0.05
O
2
を有する前駆体が得られた。その前駆体を125℃で1時間にわたり加熱し、次いで830℃で15時間にわたり酸素流下で管状炉においてか焼することで、NCAが得られた。XRDパターンを
図47に提供し、SEMを
図48に提供する。ここで、その前駆体に由来する層状ナノ構造を容易に観察することができる。
【0128】
実施例21:
全体式LiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2を有するNMC622を、中心部すなわちコアから外側までの遷移金属の段階的濃度勾配をもって製造した。その前駆体を、ビーカー内で10mLの脱イオン水中に分散された3.9gのLi
2CO
3、9.5gのNiCO
3、1.2gのMnCO
3、及び1.2gのCoCO
3から製造した。その混合物を、80mLの脱イオン水中に40.4gのH
2C
2O
4・2H
2Oを含有する別のビーカー内にポンプ導入することで、コア前駆体を形成した。引き続き、5mLの脱イオン水中に分散された1.0gのLi
2CO
3、1.8gのNiCO
3、0.6gのMnCO
3、及び0.6gのCoCO
3を含む混合物を、上記反応混合物中にポンプ導入することで、コアの周りに前駆体の第1のシェルを形成した。2.9gのLi
2CO
3、3.0gのNiCO
3、2.9gのMnCO
3、及び3.0gのCoCO
3を含む追加の混合物を、10mLの脱イオン水中に分散させ、上記反応混合物中にポンプ導入することで、第1のシェルの周りの第2のシェル中に第3の比を形成した。添加速度は、それぞれの溶液につき1時間当たり15mLで一定に保った。次いで、該反応混合物を1時間にわたり撹拌し、噴霧乾燥させることで、全体式LiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2(C
2O
4)
1.5を有する前駆体が得られた。次いで、その前駆体を110℃で1時間にわたり加熱し、800℃で7.5時間にわたり空気下で箱形炉においてか焼することで、LiNi
0.8Mn
0.1Co
0.1O
2の式を有するニッケルが豊富なコアであるNMC811コアと、体積の大部分に相当するLiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2の式を有するNMC622の第1のシェルと、式LiNi
0.333Mn
0.333Co
0.333O
2を有する外側のNMC111シェルとを有する勾配NMC622が得られた。その結果、本発明により、表面特性はその大部分とは異なっている。段階的なNMCについてのXRDパターンを
図49に提供し、SEMを
図50に提供する。サイクル数に対する放電容量を
図51に提供する。NMC622(実施例15)、NMC811(実施例16)、2回焼成したNMC811(実施例16)、NCA(実施例17)、及び勾配NMC(実施例18)についての放電容量の対比図を
図52に提供し、
図53で正規化している。
【0129】
実施例22:被覆されたスピネルの調製
表面上にニオブ酸塩被覆を有する被覆されたスピネルを形成した。ビーカー内で16.39gのH2C2O4・2H2Oを40mLの水に添加することによって、前駆体を調製した。2つ目のビーカー内で、Li2CO3(1.92g)、NiCO3(2.97g)、MnCO3(8.62g)を24mLの脱イオン水中で混合した。炭酸塩混合物のスラリーをシュウ酸のスラリーのビーカーにゆっくりと加え(20分ごとに3mL)、混合した。このスラリーを周囲雰囲気において室温で一晩混合した。翌日に、LiNbO3の原材料である0.816gのNb(HC2O4)5・xH2O(x=6.35、TGAから推定)及び0.046gのLi2CO3をスラリーに添加した。3時間混合した後に、スラリーを噴霧乾燥器によって乾燥させた。前駆体を5時間焼成した後に、750℃で24時間のアニーリング工程を行った。
【0130】
焼成された材料のXRDパターン(
図54)は、主相としてスピネルLNMOのピークを示し、第2相としてLiNbO
3のピークを示している。
図54には、ニオブ酸リチウムが被覆されたLNMOのXRDパターンが示されており、ここで、2番目のパネルはニオブ酸リチウムのピークを拡大して示している。
【0131】
図55における材料のSEM画像は、500nm~2μmの範囲の粒度を示しており、この粒度は、おそらく合成温度がより低いため、他のスピネル材料よりも小さい。この画像は、粒子の表面上に幾つかの斑点を示している。これらの斑点は、SEMによって同日に分析された元のスピネル試料も同様の特徴を示したため、おそらくLiNbO
3とは関係がない。SEM画像は、分離したLiNbO
3粒子の明確な証拠を一切示さないことから、スピネル粒子上の被覆が示唆される。
【0132】
焼成された材料のプロピルアルコール(PrOH)懸濁液を、炭素含浸されたformvar支持体を備えた200メッシュのCu製の透過型電子顕微鏡(TEM)グリッド上にドロップキャストすることによってサンプリングされた個々の二次凝集体に対して、走査型透過電子顕微鏡(STEM)分析を実施した。1つの凝集体のMn及びNbの高角度散乱暗視野(HAADF)画像及びエネルギー分散X線(EDX)マップにより、はっきりと見えるLiNbO3の分離した一次微結晶が示された。分離したLiNbO3結晶の結晶性は高解像度TEM(HRTEM)により確認されたが、粒度が大きいため、存在する任意のLiNbO3被覆の存在、結晶性及び厚さを確認するのが困難であった。
【0133】
さらに、2つの別個の凝集体中の領域について高倍率で定量を行った。EDXマップでは、一次粒子の周りのNbの明確な輪郭と共に、強度はより低いものの、粒子の本体全体にわたるNbの均一な分布が示された。これは、LiNbO3被覆が非常に薄いが均一であることを示している。試料の本体内のNbの分布が表面のNbのみに対応するか、又は本体全体にわたるNbのドーピングに対応するかを確かめることはできないが、境界のピーク濃度により、Nbの大部分は表面上に存在し、表面の金属は少なくとも95重量%のニオブであることが示唆される。全体として、2つの別個の凝集体上の5つの領域を標本化したところ、同様の結果が得られた。
【0134】
LiNbO
3被覆されたLNMO材料を、3つのハーフセルにおけるカソード材料として評価した。ここで、Liをアノードとして使用し、7:3(容量%)のエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)中の1MのLiPF
6を電解質として使用した。これらのセルのサイクル試験を、3.5V~4.9Vの電圧範囲内で1サイクル目には0.1Cで、後続サイクルには1Cで、55℃で行った。この材料は100サイクルにわたって平均的な比容量を示す。この材料は、1Cレートで50サイクルを超えてサイクルさせると通常故障する基準材料よりも改善された容量維持を55℃で示す(
図56)。この性能の改善は、おそらくLNMO粒子が被覆層により高温での電解質との反応から保護されることによるものである。
【0135】
本発明を、好ましい実施形態を参照してそれに限定することなく説明した。当業者であれば、特に本明細書に示されていないが、添付の特許請求の範囲においてより具体的に示されている本発明の範囲内にある追加の実施形態及び改良形態を認識するであろう。