(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】熱処理システム、それが備える匣鉢及び熱処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220617BHJP
F27B 9/26 20060101ALI20220617BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20220617BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20220617BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20220617BHJP
F27D 7/00 20060101ALI20220617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220617BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/04 A
F27B9/26
F27D3/12 S
C22C19/03 J
F27B9/04
F27D7/00 Z
H01M4/36 Z
F27B9/02
(21)【出願番号】P 2021188132
(22)【出願日】2021-11-18
【審査請求日】2021-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】小牧 毅史
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257171(JP,A)
【文献】特開2015-137814(JP,A)
【文献】特開平05-033092(JP,A)
【文献】特開2019-178819(JP,A)
【文献】特開2019-121601(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
F27B 9/26
F27D 3/12
C22C 19/03
F27B 9/04
F27D 7/00
H01M 4/36
F27B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム正極材の粉体を収容する匣鉢と、
前記匣鉢に収容された前記粉体を熱処理する熱処理炉と、を備えており、
前記匣鉢は
、前記粉体と接触する表面
のみがニッケル基合金により形成されて
いると共に、
前記表面以外の部分がセラミックで形成されており、
前記熱処理炉は、前記匣鉢に収容された前記粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理するように構成されている、熱処理システム。
【請求項2】
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、1wt%以上10wt%以下である、請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
リチウム正極材の粉体を収容する匣鉢と、
前記匣鉢に収容された前記粉体を熱処理する熱処理炉と、を備えており、
前記匣鉢は、少なくとも前記粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されており、
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、1wt%以上10wt%以下であり、
前記熱処理炉は、前記匣鉢に収容された前記粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理するように構成されており、
前記匣鉢を雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、前記匣鉢の表面に形成されるAl
2
O
3
膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる、熱処理システム。
【請求項4】
前記熱処理炉は、酸素を含む雰囲気下で前記匣鉢に収容された前記粉体を熱処理する、請求項1
~3のいずれか一項に記載の熱処理システム。
【請求項5】
前記匣鉢に前記粉体を供給する供給装置と、
前記匣鉢から前記熱処理炉で熱処理された前記粉体を回収する回収装置と、
前記回収装置で前記粉体が回収された後の前記匣鉢の表面を清掃する清掃装置と、をさらに備えており、
前記清掃装置は、前記回収装置での前記粉体の回収後の前記匣鉢の表面から、前記匣鉢の表面に残留する粉体と、熱処理により発生した反応物と、を除去し、
前記匣鉢は、前記供給装置と前記熱処理炉と前記回収装置と前記清掃装置の間を循環して用いられる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱処理システム。
【請求項6】
前記熱処理炉は、前記匣鉢に収容された前記粉体を熱処理する熱処理部と、前記熱処理部で熱処理された前記粉体を冷却する冷却部を備えている、請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱処理システム。
【請求項7】
前記匣鉢は、上下方向に複数重ねて前記熱処理炉内に配置可能である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱処理システム。
【請求項8】
前記匣鉢を雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、前記匣鉢の表面に形成されるAl
2O
3膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる、請求項2に記載の熱処理システム。
【請求項9】
リチウム正極材の粉体を収容した状態で熱処理炉内に配置されて前記粉体を熱処理するための匣鉢であって、
前記匣鉢は、少なくとも前記粉体と接触する表面がアルミニウムを含有するニッケル基合金により形成されており、
前記ニッケル基合金は、雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、前記ニッケル基合金の表面に形成されるAl
2O
3膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる、匣鉢。
【請求項10】
リチウム正極材の粉体を熱処理する熱処理方法であって、
匣鉢にリチウム正極材の粉体を供給する供給工程と、
前記匣鉢に供給された前記粉体を熱処理する熱処理工程と、を備えており、
前記匣鉢は
、前記粉体と接触する表面
のみがニッケル基合金により形成されて
いると共に、
前記表面以外の部分がセラミックで形成されており、
前記熱処理工程では、前記匣鉢に供給された前記粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理する、熱処理方法。
【請求項11】
リチウム正極材の粉体を熱処理する熱処理方法であって、
匣鉢にリチウム正極材の粉体を供給する供給工程と、
前記匣鉢に供給された前記粉体を熱処理する熱処理工程と、を備えており、
前記匣鉢は、少なくとも前記粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されており、
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、1wt%以上10wt%以下であり、
前記熱処理工程では、前記匣鉢に供給された前記粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理し、
前記匣鉢を雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、前記匣鉢の表面に形成されるAl
2
O
3
膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる、熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、リチウム正極材の粉体を熱処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉(例えば、ローラーハースキルン等)を用いて、リチウム正極材の原料となる粉体を熱処理することがある。リチウム正極材の粉体(以下、単に粉体ともいう)を熱処理炉内で熱処理する際には、粉体を匣鉢に収容し、粉体が収容された匣鉢を熱処理炉内に搬送させる。リチウム正極材の粉体を熱処理するための温度は高温であるため、粉体は、高い耐熱性を有するセラミックで形成された匣鉢内に収容される。例えば、特許文献1には、セラミック製の匣鉢の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、セラミック製の匣鉢に粉体を収容して、粉体を熱処理している。しかしながら、セラミックは熱伝導率が低いため、セラミック製の匣鉢に収容して粉体を熱処理すると、匣鉢内の粉体を効率よく熱処理できないことがあった。
【0005】
本明細書は、リチウム正極材の粉体を効率よく熱処理する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する熱処理システムは、リチウム正極材の粉体を収容する匣鉢と、匣鉢に収容された粉体を熱処理する熱処理炉と、を備えている。匣鉢は、少なくとも粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されている。熱処理炉は、匣鉢に収容された粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理するように構成されている。
【0007】
上記の熱処理システムでは、匣鉢は、粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されている。ニッケル基合金は、セラミックより熱伝導率が高い。ニッケル基合金で形成された匣鉢に粉体を収容して熱処理することによって、匣鉢内の粉体を効率よく加熱して熱処理することができる。また、熱処理炉は、粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理する。上記の匣鉢を用いると共に上記の条件下で粉体を熱処理することによって、リチウム正極材である粉体を好適に熱処理することができる。
【0008】
また、本明細書に開示する匣鉢は、リチウム正極材の粉体を収容した状態で熱処理炉内に配置されて粉体を熱処理するための匣鉢である。匣鉢は、少なくとも粉体と接触する表面がアルミニウムを含有するニッケル基合金により形成されている。ニッケル基合金は、雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、ニッケル基合金の表面に形成されるAl2O3膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる。
【0009】
上記の匣鉢は、粉体と接触する表面がアルミニウムを含有するニッケル基合金により形成されている。また、ニッケル基合金は、雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、ニッケル基合金の表面に形成されるAl2O3膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となる。このため、上記の匣鉢を用いて上記の条件で粉体を熱処理すると、匣鉢の表面には、膜厚が1μm~1mmの範囲のAl2O3膜が形成される。匣鉢の表面にAl2O3膜が形成されることによって、粉体へのコンタミネーションを防止しながら、粉体(リチウム正極材)による匣鉢(ニッケル基合金)の劣化を好適に抑制することができる。
【0010】
また、本明細書に開示する熱処理方法は、リチウム正極材の粉体を熱処理する方法である。熱処理方法は、匣鉢にリチウム正極材の粉体を供給する供給工程と、匣鉢に供給された粉体を熱処理する熱処理工程と、を備えている。匣鉢は、少なくとも粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されている。熱処理工程では、匣鉢に供給された粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理する。
【0011】
上記の熱処理方法では、粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成された匣鉢に粉体を収容し、その匣鉢に収容した粉体が300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下で熱処理される。このため、上記の熱処理システムと同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る熱処理システムの概略構成を示す図。
【
図2】実施例2に係る熱処理システムの概略構成を示す図。
【
図3】熱処理炉の概略構成を示す図であり、匣鉢の搬送方向に平行な平面で熱処理炉を切断したときの縦断面図。
【
図5】実施例に係る熱処理システムの制御系を示すブロック図。
【0013】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0014】
本明細書に開示する熱処理システムでは、ニッケル基合金は、アルミニウムを含有していてもよい。ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、1wt以上10wt%以下であってもよい。このような構成によると、熱処理の際に匣鉢の表面に適切な膜厚のAl2O3膜を形成することができる。
【0015】
本明細書に開示する熱処理システムでは、熱処理炉は、酸素を含む雰囲気下で匣鉢に収容された粉体を熱処理してもよい。このような構成によると、熱処理の際に、匣鉢の表面にAl2O3膜を好適に形成させることができる。
【0016】
本明細書に開示する熱処理システムでは、匣鉢に粉体を供給する供給装置と、匣鉢から熱処理炉で熱処理された粉体を回収する回収装置と、回収装置で粉体が回収された後の匣鉢の表面を清掃する清掃装置と、をさらに備えていてもよい。清掃装置は、回収装置での粉体の回収後の匣鉢の表面から、匣鉢の表面に残留する粉体と、熱処理により発生した反応物と、を除去してもよい。匣鉢は、供給装置と熱処理炉と回収装置と清掃装置の間を循環して用いられてもよい。このような構成によると、熱処理システムにより匣鉢を繰り返し使用して粉体を熱処理できる。このため、匣鉢を再使用するための作業者の負担を低減することができる。
【0017】
本明細書に開示する熱処理システムでは、熱処理炉は、匣鉢に収容された粉体を熱処理する熱処理部と、熱処理部で熱処理された粉体を冷却する冷却部を備えていてもよい。このような構成によると、匣鉢は、熱処理部で熱処理された後、冷却部で冷却される。匣鉢が熱伝導率の高いニッケル基合金で形成されていることにより、熱処理部において効率よく粉体を熱処理できると共に、冷却部においても効率よく粉体を冷却できる。
【0018】
本明細書に開示する熱処理システムでは、匣鉢は、上下方向に複数重ねて熱処理炉内に配置可能であってもよい。このような構成によると、匣鉢を上下方向に複数重ねて熱処理できるため、同時に多くの粉体を熱処理できる。また、匣鉢はニッケル基合金で形成されているため、上下方向に複数重ねたときに上下に隣接する匣鉢間で熱が伝達され易い。このため、匣鉢を上下方向に複数重ねた場合であっても、他の匣鉢によって粉体への熱の伝達が妨げられることなく、複数の匣鉢内に収容される粉体を適切に熱処理することができる。
【0019】
本明細書に開示する熱処理システムでは、匣鉢を雰囲気温度800℃の酸素雰囲気下で10時間だけ曝露したときに、匣鉢の表面に形成されるAl2O3膜の膜厚が1μm~1mmの範囲となっていてもよい。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
図面を参照して、本実施例に係る熱処理システム1について説明する。
図1に示すように、熱処理システム1は、匣鉢2と、熱処理炉110を備えている。
【0021】
匣鉢2は、粉体である被処理物を収容する。本実施例では、匣鉢2に収容される被処理物は、リチウム正極材の粉体(以下、単に「粉体」ともいう)である。
【0022】
匣鉢2は、上下方向に複数重ねることができる形状を有している。図1に示すように、匣鉢2は、本体3と支持部4を備えている。本体3は、平面視すると略矩形の箱型であり、その内部に粉体を収容する。本体3の各面は、約2~3mmの板厚を有している。支持部4は、本体3の下面に下方に突出して配置されている。支持部4は、本体3の外形より一回り小さくされている。具体的には、支持部4は、平面視したときに、本体3の側面の内周よりわずかに小さくされている。これにより、複数の匣鉢2を上下方向に積むことができると共に、1の匣鉢2の上に他の匣鉢2を重ねたときに、他の匣鉢2の位置が1の匣鉢2に対してずれることを抑制できる。
【0023】
また、本体3の各側面には、凹部5が設けられている。具体的には、凹部5は、匣鉢2を側方から見たときに、本体3の側面の上端の中央付近が下方に切り欠かれることで形成されている。凹部5が設けられることによって、複数の匣鉢2を上下方向に重ねて熱処理した場合に、匣鉢2内に収容される粉体から熱処理によって発生するガスを凹部5から匣鉢2外に逃がすことができる。
【0024】
また、匣鉢2は、ニッケル基合金で形成されている。本実施例のニッケル基合金は、ニッケルを90wt%以上含有しており、アルミニウムを1wt%以上10wt%以下含有している。熱処理の際には、匣鉢2の表面において、粉体と匣鉢2の成分が反応し、匣鉢2の成分が粉体に混入することがある。匣鉢2が、リチウム正極材に含まれる金属(例えば、ニッケル、コバルト、マンガン等)以外の成分を多く含有していると、熱処理の際にその成分が粉体に混入し、コンタミの原因となる。ニッケル基合金がニッケルを90wt%以上含有することによって、リチウム正極材に含まれる金属以外の金属の含有量が少なくなり、熱処理の際に粉体にコンタミすることを抑制することができる。
【0025】
また、粉体の成分(例えば、リチウム)と匣鉢2が反応すると、粉体の成分が匣鉢2に侵入することもある(すなわち、粉体に含まれる成分によって匣鉢2が酸化されることがある。)。匣鉢2を形成するニッケル基合金は、アルミニウムを含有している。これにより、熱処理の際に酸素雰囲気下で加熱されることで、匣鉢2の表面にAl2O3膜が形成される。匣鉢2の表面にAl2O3膜が形成されることで、匣鉢2の強度を向上させることができると共に、粉体の成分が匣鉢2に侵入すること(匣鉢2の酸化(コンタミ))を抑制することができる。アルミニウムの含有量が1wt%以上であることによって、熱処理により匣鉢2の表面に十分な膜厚のAl2O3膜を形成することができる。また、アルミニウムの含有量が10wt%以下であることによって、ニッケル基合金におけるニッケルの含有量が少なくなり過ぎることを抑制することができる。さらに、匣鉢2の表面に形成されるAl2O3膜の膜厚が厚くなり過ぎることを抑制することができる。本実施例のニッケル基合金は、Alを0.05~6.0wt%、Siを0.1~3.0wt%、Crを0.8~6.0wt%、Mnを0.05~1.5wt%を含んでおり、残部がNi及び不可逆不純物によって構成されている。
【0026】
熱処理炉110は、匣鉢2内の粉体を熱処理する。本実施例では、熱処理炉110は、バッチ式熱処理炉である。
図1に示すように、熱処理炉110は、炉体112と、棚板120を備えている。
【0027】
炉体112は、略直方体形状であり、天井壁と、底壁と、3つの側壁(なお、
図1では、図の奥側の側壁の図示は省略)と、開閉扉114を備えている。
図1は、開閉扉114を開いた状態を示している。開閉扉114を開いた状態では、炉体112内に匣鉢2を収容したり、炉体112内から匣鉢2を取り出したりすることができる。開閉扉114を閉めた状態にすると、炉体112内の空間122は、天井壁と底壁と3つの側壁と開閉扉114によって囲まれる。
【0028】
炉体112内には、断熱材116とヒータ118が設けられている。断熱材118は、炉体112の内壁に沿って配置されている。断熱材118は、炉体118の内表面を覆っている。具体的には、断熱材118は、天井壁の内表面と、底壁の内表面と、3つの側壁のそれぞれの内表面と、開閉扉114の内表面(開閉扉114を閉じたときに炉体112内の空間122に接する面)に配置されている。ヒータ118は、3つの側壁のうちの開閉扉114と直交する2つ(
図1に図示されている2つ側壁)の内表面にそれぞれ設置されている。なお、ヒータの配置位置は、上記の構成に限定されない。ヒータは、例えば、炉体112内に収容する匣鉢2の設置位置や数等に合わせて、所望の位置に適宜変更して設置してもよい。
【0029】
棚板120は、匣鉢2を載置可能に構成されており、本実施例では、上面が平板状である。匣鉢2は、棚板120の上面に上下方向に複数重ねて載置することができる。棚板120は、炉体112内(具体的には、底壁上)に収容可能であると共に、炉体112内から取り出すことができる。匣鉢2は、炉体112外で棚板120上に載置され、棚板120は、上面に匣鉢2を載置した状態で炉体112内に収容される。炉体112内に匣鉢2を収容し、開閉扉114を閉じた状態で、匣鉢2内に収容された粉体が熱処理される。
【0030】
なお、本実施例では、棚板120は、上面視したときに匣鉢2を1つ載置可能な形状であったが、このような構成に限定されない。棚板は、上面視したときに複数の匣鉢2を載置可能な形状であってもよい。また、本実施例では、熱処理炉110は、略直方体状の炉体112を有しているが、このような構成に限定されない。熱処理炉は、匣鉢2を収容した状態で匣鉢2内の粉体を熱処理できる構成であればよく、例えば、炉体は、円筒状であってもよい。
【0031】
また、熱処理炉110には、雰囲気ガス供給部(図示省略)から酸素を含有するガスが供給される。上述したように、匣鉢2を形成するニッケル基合金は、アルミニウムを含有している。このため、匣鉢2に収容された粉体を酸素雰囲気下で熱処理することにより、匣鉢2の表面には、Al2O3膜が形成される。
【0032】
また、本実施例では、熱処理炉110内の空間122は、雰囲気温度が300℃以上かつ1000℃以下となるように調整される。雰囲気温度を300℃以上とすることにより、匣鉢2に収容される粉体を適切に熱処理することができる。また、雰囲気温度を1000℃以下とすることにより、後述の熱処理時間の範囲内であれば、ニッケル基合金で形成された匣鉢2の耐熱性(すなわち、耐高温酸化特性)が維持される。
【0033】
また、熱処理炉110では、匣鉢2に収容される粉体は、10時間以上かつ30時間以下熱処理される。匣鉢2が熱処理炉110内で熱処理される時間を10時間以上とすることにより、匣鉢2の表面にAl2O3膜が好適に形成された状態を維持することができる。また、匣鉢2が熱処理炉110内で熱処理される時間を30時間以上とすることにより、ニッケル基合金で形成された匣鉢2の耐熱性を維持することができる。
【0034】
リチウム正極材の粉体を高温で熱処理する場合には、一般的には、耐熱性の高いセラミック製の匣鉢を用いることが多い。しかしながら、セラミックは熱伝導率が低いため、セラミック製の匣鉢に収容して粉体を熱処理すると、匣鉢内の粉体を効率よく熱処理できないことがある。また、セラミックは、金属と比較すると耐久性が低く、繰り返し使用可能な回数が限られる。本実施例では、ニッケル基合金で形成された匣鉢2を用いて粉体を熱処理する。ニッケル基合金は熱伝導率が高いため、ニッケル基合金で形成された匣鉢2を用いることにより、匣鉢2内の粉体を効率良く熱処理することができる。また、本実施例の匣鉢2は熱伝導率が高い材料で形成されているため、熱処理部20において、匣鉢2内の粉体が目的の雰囲気温度に達するまでの時間を短縮することができる。このため、熱処理時間全体を短縮することできる。加えて、匣鉢2は熱伝導率が高い材料で形成されていることにより、セラミック製の匣鉢を使用した場合と比較すると、熱処理の際の雰囲気温度を低くしても粉体を十分に熱処理することが可能となる。このように、熱処理時間を短くできると共に、熱処理時の雰囲気温度も低くできるため、ニッケル基合金で形成された匣鉢2であっても高温での熱処理に使用することができる。さらに、熱処理時間を短くできると共に、熱処理温度も低くできることにより、熱エネルギーを低減することができる。また、匣鉢2の熱伝導率が高いことにより、冷却部40における冷却時間も短縮することができる。したがって、熱処理炉10における熱処理全体(すなわち、熱処理及び冷却処理)に掛かる時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。さらに、セラミック製の匣鉢は、一般的に厚みが10~15mmであるが、本実施例の匣鉢2は、金属製であるため厚みを2~4mmにすることができる。このため、本実施例の匣鉢2は、熱伝導性についてはセラミック製の匣鉢より向上させることができると共に、厚みを薄くできることによって、内部に収容可能な粉体の量を増加させることができる。この点においても、本実施例の匣鉢2を用いることによって、生産性を向上させることができる。
【0035】
また、匣鉢2はアルミニウムを含有するニッケル基合金で形成されているため、腐食に強く、繰り返しの使用に対する耐久性が高い。このため、匣鉢2は、セラミック製の匣鉢と比較して繰り返し使用可能な回数を多くすることができる。
【0036】
さらに、匣鉢2は熱伝導率が高い材料で形成されているため、熱処理炉10内で隣接して配置される他の匣鉢2に熱が伝達され易い。このため、Y方向に隣接する匣鉢2の間や上下方向に重ねた匣鉢2の間で熱が交換され易くなり、匣鉢2間における熱処理のムラを生じ難くすることができる。
【0037】
本実施例では、熱処理炉110は、匣鉢2が約10時間かけて熱処理されるように調整されている。また、熱処理部20内を酸素雰囲気下にすると共に、熱処理部20内の雰囲気温度が約800℃となるように調整されている。この条件下で匣鉢2に収容された粉体を熱処理すると、匣鉢2の表面に膜厚が1μm~1mmの範囲のAl2O3膜が形成されるように構成されている。Al2O3膜の膜厚を1μm以上とするのは、粉体(Li)による匣鉢の酸化を十分に抑制するためである。Al2O3膜の膜厚を1mm以下とするのは、匣鉢からAl2O3膜が剥離して粉体へのコンタミが生じることを防止するためである。このため、熱処理の際に匣鉢2の腐食を抑制することができると共に、コンタミを抑制することができ、熱処理炉110により匣鉢2に収容された粉体を好適に熱処理することができる。
【0038】
(実施例2)
上記の実施例では、熱処理システム1は、バッチ式の熱処理炉110を備えていたが、このような構成に限定されない。例えば、
図2及び
図3に示すように、熱処理システム100は、搬送装置(52、54)によって匣鉢2を搬送しながら熱処理する熱処理炉10を備えていてもよい。
【0039】
図2及び
図5に示すように、熱処理システム100は、匣鉢2と、供給装置60と、熱処理炉10と、回収装置70と、清掃装置80と、循環搬送装置90と、管理装置92を備えている。なお、匣鉢2の構成は、上記の実施例1と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
本実施例の熱処理システム100では、匣鉢2は、供給装置60と熱処理炉10と回収装置70と清掃装置80の間を循環するように構成されている。粉体は、匣鉢2が熱処理炉10内を搬送される間に熱処理される。
【0040】
供給装置60は、匣鉢2内に粉体を供給する装置である。なお、供給装置60は、匣鉢2内に粉体を供給するように構成されていればよく、具体的な構造については特に限定されない。
図1に示すように、例えば、供給装置60は、供給部62と均し部64を備えている。供給部62は、匣鉢2の内部に粉体を供給するように構成されている。具体的には、供給部62は、匣鉢2の上方から匣鉢2の内部に粉体を落下させる供給口(図示省略)を備えている。供給口は、供給部62内に匣鉢2を配置したときに、匣鉢2の中心部の上方に位置するように配置されている。なお、供給部62には、複数の供給口が配置されていてもよい。供給部62は、粉体を上方から落下させることで匣鉢2内に粉体を供給するため、供給部62で匣鉢2に粉体が供給されると、匣鉢2内の粉体の上面は、供給口の下方の位置で盛り上がった状態となる。均し部64は、供給部62で匣鉢2内に供給された粉体を均す。具体的には、均し部64は、平板の側面で匣鉢2内の粉体の上面を押さえることで粉体の上面を均すように構成されている。均し部64で粉体の上面を均すことによって、匣鉢2に収容された粉体の上面は略水平面となる。
【0041】
熱処理炉10は、匣鉢2内の粉体を熱処理する。
図3及び
図4に示すように、熱処理炉10は、炉体14と、搬送装置(52、54)を備えている。熱処理炉10は、搬送装置(52、54)によって匣鉢2が炉体14内を搬送される間に、匣鉢2内に収容される粉体を熱処理する。
【0042】
炉体14は、熱処理部20と冷却部40を備えている。炉体14は、略直方体形状であり、天井壁22aと、底壁22bと、側壁22c~22fによって囲まれている。炉体14は、内部に隔壁24が配置されている。炉体14には、隔壁24の上流側に熱処理部20が設けられ、隔壁24の下流側に冷却部40が設けられている。熱処理部20は、天井壁22aと、底壁22bと、側壁22c、22e、22fと、隔壁24によって囲まれている。熱処理部20には、複数のヒータ30、32と、複数の搬送ローラ52が配置されている。ヒータ30は、搬送ローラ52の上方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置され、ヒータ32は、搬送ローラ52の下方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置されている。ヒータ30、32が発熱することで、熱処理部20内の空間28が加熱されると共に匣鉢2内に収容される粉体が加熱される。冷却部40は、熱処理部20の下流側に配置されている。冷却部40は、天井壁22aと、底壁22bと、隔壁24と、側壁22d、22e、22fによって囲まれている。冷却部40には、天井壁22aの近傍と底壁22bの近傍にそれぞれ図示しない水冷ジャケットが配置されている。水冷ジャケット内には水が循環している。水冷ジャケットを設置することによって、冷却部40内の空間42が冷却されると共に匣鉢2内に収容される粉体が冷却される。なお、冷却部40には、水冷ジャケットの代わりに空冷ジャケットを配置してもよい。
【0043】
図3に示すように、側壁22cには、開口26aが形成されており、側壁22dには、開口26cが形成されている。また、隔壁24には、開口26bが形成されている。匣鉢2は、搬送装置によって開口26aから熱処理炉10内に搬送され、熱処理部20内を搬送され、開口26bから冷却部40に搬送される。そして、匣鉢2は、搬送装置によって冷却部40内を搬送され、開口26cから熱処理炉10外へ搬送される。
【0044】
搬送装置(52、54)は、複数の搬送ローラ52と、駆動装置54を備えている。搬送ローラ52は、匣鉢2を搬送する。搬送装置(52、54)は、開口26aから熱処理部20内に匣鉢2を搬送し、熱処理部20及び冷却部40において匣鉢2を搬送する。そして、搬送装置(52、54)は、開口26cから匣鉢2を冷却部40外に搬送する。搬送ローラ52は円筒状であり、その軸線は搬送方向と直交する方向に(すなわち、Y方向に)伸びている。複数の搬送ローラ52は、全てが同じ直径を有しており、搬送方向に一定のピッチで等間隔に配置されている。搬送ローラ52は、その軸線回りに回転可能に支持されており、駆動装置54の駆動力が伝達されることによって回転する。駆動装置54は、搬送ローラ52を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。駆動装置54は、動力伝達機構を介して、搬送ローラ52に接続されている。駆動装置54の駆動力が動力伝達機構(例えば、スプロケットとチェーンによる機構)を介して搬送ローラ52に伝達されると、搬送ローラ52は回転するようになっている。駆動装置54は、搬送ローラ52が略同一の速度で回転するように、搬送ローラ52のそれぞれを駆動する。駆動装置54は、制御装置56によって制御されている。
【0045】
ここで、匣鉢2に収容された粉体を熱処理する際の熱処理炉10の動作について説明する。まず、ヒータ30、32を作動させて、空間28の雰囲気温度を設定した温度とする。次いで、駆動装置54を作動させて、開口26aから、熱処理部20内の空間28を通って、開口26bまで匣鉢2を搬送する。この間に、匣鉢2に収容されている粉体が熱処理される。次いで、開口26bから、冷却部40内の空間42を通って、開口26cまで匣鉢2を搬送する。この間に、熱処理部20で加熱された粉体を冷却する。本実施例では、匣鉢2は、Y方向に2つ並べて搬送されているが、このような構成に限定されない。匣鉢2は、Y方向に並べることなく1列のみで搬送されてもよし、Y方向に3つ以上並べて搬送されてもよい。また、匣鉢2は、上下方向に重ねることなく搬送されているが、上下方向に複数重ねて搬送されてもよい。
【0046】
また、熱処理部20は、匣鉢2に収容される粉体を10時間以上かつ30時間以下熱処理するように構成されている。具体的には、匣鉢2が熱処理部20内を搬送される時間が10時間以上かつ30時間以下となるように、熱処理部20の搬送方向の長さと、搬送ローラ52及び駆動装置54による匣鉢2の搬送速度が調整される。
【0047】
回収装置70は、熱処理炉10で熱処理された粉体を匣鉢2から回収する装置である。なお、回収装置70は、匣鉢2から粉体を回収するように構成されていればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、回収装置70は、匣鉢2を上下方向に反転させて回収する反転回収部(図示省略)と、匣鉢2の表面に付着した粉体をエアで剥離して回収するエア回収部(図示省略)を備えている。反転回収部は、匣鉢2を上下方向に反転させることによって、匣鉢2内の粉体を回収用容器(図示省略)に移動させる。これにより、匣鉢2内に収容されていた粉体のほぼ全てが回収用容器に移動する。その後、反転回収部は、匣鉢2を再び上下方向に反転させて元の向きに戻す。エア回収部は、反転回収部で匣鉢2内の粉体が回収された後に使用される。エア回収部は、匣鉢2の内表面にエアを吹き付けながら匣鉢2内の空気等を吸引する。匣鉢2の内表面にエアを吹き付けることによって、匣鉢2の内表面に付着している粉体が内表面から剥離する。匣鉢2の内表面にエアを吹き付けながら匣鉢2内の空気等を吸引すると、匣鉢2の内表面から剥離された粉体が空気等と共に吸引される。これにより、匣鉢2の内表面に残留した粉体が回収され、粉体の回収率が上昇する。なお、上記の例では、回収装置70はエア回収部を備えていたが、このような構成に限定されない。例えば、匣鉢2の内表面に残留した粉体は、回転ブラシで剥離して回収するように構成されていてもよい。
【0048】
清掃装置80は、回収装置70において粉体が回収された後の匣鉢2の内表面を清掃する装置である。なお、清掃装置80は、匣鉢2の内表面を清掃するように構成されていればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、清掃装置80は、回転ブラシを用いて匣鉢2の内表面に付着している物質を剥離させながら、匣鉢2内の空気等を吸引する。また、サンダーを用いて内表面に形成された腐食部を削り取り、匣鉢2内の空気等を吸引する。吸引した空気等には、剥離された物質が含まれる。清掃装置80で匣鉢2の内表面を清掃することにより、匣鉢2の内表面に残留した粉体を完全に除去する。また、熱処理の際に、匣鉢2を形成するニッケル基合金が含有するアルミニウムと粉体との反応物が発生することがある。清掃装置80で匣鉢2の内表面を清掃することにより、匣鉢2の内表面から熱処理の際に発生したアルミニウムと粉体との反応物も除去することができる。
【0049】
循環搬送装置90は、供給装置60と熱処理炉10と回収装置70と清掃装置80の間に配置され、これらの間で匣鉢2を循環して搬送する。具体的には、循環搬送装置90は、供給装置60と熱処理炉10の間に配置される第1搬送部90aと、熱処理炉10と回収装置70の間に配置される第2搬送部90bと、回収装置70と清掃装置80の間に配置される第3搬送部90cと、清掃装置80と供給装置60の間に配置される第4搬送部90dを備えている。第1~第4搬送部90a、90b、90c、90dは、ベルトコンベアであるが、匣鉢2を搬送可能な構成であればよく、他の構成であってもよい。
【0050】
図5に示されるように、管理装置92は、供給装置60と、熱処理炉10と、回収装置70と、清掃装置80と、循環搬送装置90と接続している。管理装置92は、供給装置60と、熱処理炉10と、回収装置70と、清掃装置80と、循環搬送装置90の動作を制御している。
【0051】
次に、熱処理システム100による粉体の熱処理について説明する。以下では、第4搬送部90dにより搬送される匣鉢2が、供給装置60、第1搬送部90a、熱処理炉10、第2搬送部90b、回収装置70、第3搬送部90c及び清掃装置80を順に通り、再び第4搬送部90dに戻るまでの処理について説明する。
【0052】
第4搬送部90dは、清掃装置80の下流に配置されているため、第4搬送部90dで搬送される匣鉢2は、清掃装置80による清掃後であり、内部に粉体等の物質が収容及び付着していない状態となっている。第4搬送部90dは、清掃後の匣鉢2を供給装置60に搬送する。匣鉢2が供給装置60に搬送されると、供給装置60は、匣鉢2に粉体を供給する。次いで、匣鉢2は、第1搬送部90aによって搬送される。このとき、匣鉢2は、内部に粉体を収容した状態となっている。次いで、第1搬送部90aは、粉体を収容した匣鉢2を熱処理炉10まで搬送する。
【0053】
匣鉢2が熱処理炉10に搬送されると、熱処理炉10は、匣鉢2を搬送ローラ52で搬送しながら熱処理する。なお、匣鉢2を上下方向に重ねて熱処理する場合には、熱処理炉10内に匣鉢2を搬送する前に、匣鉢2を上下方向に重ねる。上述したように、本実施例では、熱処理部20において、匣鉢2に収容された粉体を、酸素雰囲気下で約800℃の雰囲気温度で10時間熱処理する。匣鉢2に収容された粉体が熱処理部20で熱処理されると、匣鉢2は冷却部40内を搬送される。この間に、匣鉢2及びその中に収容された粉体は冷却される。次いで、匣鉢2は、第2搬送部90bによって回収装置70まで搬送される。このとき、匣鉢2は、熱処理後の粉体を収容した状態となっている。
【0054】
次いで、回収装置70によって、匣鉢2内に収容された粉体が回収される。すなわち、熱処理後の粉体が回収される。次いで、匣鉢2は、第3搬送部90cによって搬送される。このとき、匣鉢2は、内部に粉体がほとんど収容されていないものの、その内表面に回収されなかった粉体や熱処理の際に発生した反応物(例えば、アルミニウムと粉体との反応物)が付着した状態となっている。次いで、第3搬送部90cは、匣鉢2を清掃装置80まで搬送する。次いで、清掃装置80によって、匣鉢2の内表面が清掃される。その後、匣鉢2は、第4搬送部90dに再び戻る。このとき、匣鉢2は、その内表面には粉体や熱処理の際に発生した反応物が残留していない状態となっており、再利用可能な状態となっている。そして、匣鉢2は、再び供給装置60に搬送され、粉体の熱処理のために使用される。
【0055】
なお、上記の実施例1及び2では、匣鉢2はニッケル基合金で形成されていたが、このような構成に限定されない。例えば、
図6に示すように、匣鉢2aは、粉体と接触する内表面のみがニッケル基合金で形成されており、その他の部分はセラミックで形成されていてもよい。具体的には、匣鉢2aの本体3aは、セラミックで形成されており、本体3aの内表面(匣鉢2aに粉体を収容したときに、粉体と接触する面)は、ニッケル基合金で形成されていてもよい。セラミックは、金属と比較すると重量が小さい。このため、本体3aをセラミックで形成することによって、匣鉢2aの重量を小さくすることができると共に、匣鉢2aの内表面3bをニッケル基合金で形成することによって、上記の匣鉢2と同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
また、上記の実施例1では、熱処理炉110はバッチ式の熱処理炉であり、上記の実施例2では、熱処理炉10は搬送装置(52、54)によって被処理物を搬送しながら熱処理する熱処理炉(例えば、ローラハースキル)であったが、このような構成に限定されない。熱処理システムが備える熱処理炉は、匣鉢2、2aに収容されたリチウム正極材の粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理可能であればよく、熱処理炉における匣鉢2、2aの搬送方法や、熱処理炉内での匣鉢2、2aの搬送の有無は特に限定されない。例えば、熱処理炉は、プッシャーで匣鉢2、2aを押すことで匣鉢2、2aを搬送するプッシャーキルンであってもよいし、ウォーキングビーム方式により匣鉢2、2aを搬送するウォーキングビーム式加熱炉であってもよい。
【0057】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0058】
1、100:熱処理システム
2、2a:匣鉢
3:本体
4:支持部
5:凹部
10:熱処理炉
14:炉体
20:熱処理部
40:冷却部
52:搬送ローラ
54:駆動装置
56:制御装置
60:供給装置
70:回収装置
80:清掃装置
90:循環搬送装置
92:管理装置
110:熱処理炉
112:炉体
120:棚板
【要約】
【課題】リチウム正極材の粉体を効率よく熱処理する。
【解決手段】熱処理システムは、リチウム正極材の粉体を収容する匣鉢と、匣鉢に収容された粉体を熱処理する熱処理炉と、備えている。匣鉢は、少なくとも粉体と接触する表面がニッケル基合金により形成されている。熱処理炉は、匣鉢に収容された粉体を、300℃以上1000℃以下の雰囲気温度で10時間以上30時間以下熱処理するように構成されている。
【選択図】
図1