(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ製造システム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/164 20170101AFI20220617BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220617BHJP
B05B 7/08 20060101ALI20220617BHJP
B05B 17/06 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C01B32/164
B82Y40/00
B05B7/08
B05B17/06
(21)【出願番号】P 2021501062
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 CN2018080531
(87)【国際公開番号】W WO2019183766
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520372995
【氏名又は名称】スーチョウ・ジェルナノ・カーボン・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】勇 振中
(72)【発明者】
【氏名】李 清文
(72)【発明者】
【氏名】金 赫▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲達▼
(72)【発明者】
【氏名】李 志
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03214212(EP,A1)
【文献】中国実用新案第203558855(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158-32/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを生成する前に原料の初期の予備反応のための予備成長管と、
カーボンナノチューブの原料を霧化して前記予備成長管内に噴射するためのアトマイザであって、前記予備成長管内までに延びる噴霧吐出管を有し、前記予備成長管の前端に設置されるアトマイザと、
カーボンナノチューブの生成及び生成したカーボンナノチューブの連続的な成長のための成長管であって、前端が前記予備成長管の後端に封止接続される成長管と、
前記噴霧吐出管の出口の周りに噴霧気流を包むガスカーテンを形成するためのガスカーテン発生器であって、前記ガスカーテンが前記予備成長管の伸び方向に平行に延伸し、前記ガスカーテン発生器が前記予備成長管内に設置されるガスカーテン発生器と、を含
み、
前記ガスカーテン発生器は、少なくとも一つのガスカーテン形成板を含み、前記ガスカーテン形成板には、複数の気孔が開いている、
ことを特徴とするカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項2】
前記ガスカーテン形成板はリング形状を有し、前記噴霧吐出管は前記ガスカーテン形成板の中心における貫通された箇所に位置し、ガス孔は前記ガスカーテン形成板に放射状に分布している、
ことを特徴とする請求項
1に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項3】
前記ガスカーテン形成板の縁部の輪郭は前記予備成長管の内壁に適合し、少なくとも一部のガス孔は、前記予備成長管の内壁に密着するガスカーテン流を形成するように前記ガスカーテン形成板の縁部のエリアに設置される、
ことを特徴とする請求項
1または
2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項4】
前記ガスカーテン発生器は、さらに、キャリアガスを前記予備成長管に搬送するためのガス導入口を少なくとも一つ備え、前記ガス導入口は、前記予備成長管の前端に設置されている、
ことを特徴とする請求項
1または
2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項5】
前記予備成長管と前記成長管との間は、管状の第一断熱部材により接続されている、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項6】
前記予備成長管内の温度は200~950℃であり、
前記成長管内の温度は1100~1600℃である、
ことを特徴とする請求項
5に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項7】
前記予備成長管は第一予備成長セクションおよび第二予備成長セクションを含み、
前記第一予備成長セクションは前記予備成長管の前端近くに位置し、前記第二予備成長セクションは前記予備成長管の後端近くに位置し、
前記第一予備成長セクション内の温度と、前記第二予備成長セクション内の温度とが異なる、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項8】
前記第一予備成長セクションの外側に第一温度コントローラが設けられ、前記第二予備成長セクションの外側に第二温度コントローラが設けられ、
前記第一予備成長セクションと前記第二予備成長セクションとの間は、第二断熱部材により接続されている、
ことを特徴とする請求項
7に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項9】
前記第一温度コントローラは、第一加熱装置及び第一冷却装置を含み、
前記第二温度コントローラは、第二加熱装置及び第二冷却装置を含む、
ことを特徴とする請求項
8に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項10】
前記第一予備成長セクション内の温度は200~300℃であり、
前記第二予備成長セクション内の温度は700~950℃である。
ことを特徴とする請求項
7に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項11】
前記成長管の内壁には、カーボンナノ材料が前記成長管の内壁に付着することを防止するための付着防止コーティングを備える。
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項12】
前記付着防止コーティングは、酸化ジルコニウム又は酸化亜鉛である、
ことを特徴とする請求項
11に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項13】
前記成長管には、キャリアガスを導入して前記キャリアガスによって前記成長管の内壁の表面にガス保護層を形成する通気孔が開き、前記通気孔は前記成長管の管壁を貫通して均一に分布している、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項14】
前記通気孔の軸方向と前記成長管の伸び方向との角度は5度未満である、
ことを特徴とする請求項
13に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項15】
前記アトマイザは、前記原料を均一に混合し霧化して噴出する超音波霧化ノズルと、超音波数値を調整する超音波コントローラとを含む、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブ製造システムは、垂直型または水平型である、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項17】
前記予備成長管及び前記成長管は、鉛直に設置され、前記アトマイザは、前記予備成長管及び前記成長管の伸び方向に沿って鉛直に設置される、
ことを特徴とする請求項
16に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【請求項18】
前記ガスカーテンは、重力方向に平行に分布している、
ことを特徴とする請求項
17に記載のカーボンナノチューブ製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ製造装置に関し、特に、カーボンナノチューブ製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な一次元ナノ材料として、カーボンナノチューブ材料は、力学的、熱的、電気的特性に優れるものであり、幅広く応用される。中国国内または海外の大学、研究機関、会社は、マクロで性能がより優れたカーボンナノチューブ材料を合成することを検討している。
【0003】
現在、最も一般的なカーボンナノチューブの合成方法は、化学気相成長(CVD)法に基づいて、カーボンナノチューブ薄膜およびカーボンナノチューブ繊維などのマクロカーボンナノチューブ材料を製造することである。しかし、研究室段階の研究と産業化量産との間には大きな違いがある。特にCVDプロセスは、装置のサイズが拡大するにつれて不安定要素の影響も大きくなり、研究室の段階で気付かれていない多数の問題は、産業化に際してカーボンナノチューブ材料の合成や品質に顕著な影響を与える。従って、プロセスの安定性や生産の連続性を向上させることは、カーボンナノチューブの産業化において重要な問題となっている。
【0004】
従来、電界や磁界をかけることにより、カーボンナノチューブの成長方向をガイドして引き寄せつつ、連続的に成長させる方法がある。しかし、産業化に適用すると、装置の複雑性と制御の困難さが増し、スムーズに応用することが困難である。したがって、プロセスの安定性および連続性を簡易且つ可能にすることが依然として課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これにより、カーボンナノチューブの生産の安定性と連続性をどのように実現するかという問題点に対して、プロセスでの気流を安定させ、カーボンナノチューブの連続的な安定合成を保証することによって、カーボンナノチューブ材料の生産の産業化を促進することができるカーボンナノチューブ製造システムを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カーボンナノチューブ製造システムであって、
カーボンナノチューブを生成する前に原料の初期の予備反応のための予備成長管と、
カーボンナノチューブの原料を霧化して前記予備成長管内に噴射するためのアトマイザであって、前記予備成長管内までに延びる噴霧吐出管を有し、前記予備成長管の前端に設置されるアトマイザと、
カーボンナノチューブの生成及び生成したカーボンナノチューブの連続的な成長のための成長管であって、前端が前記予備成長管の後端に封止接続される成長管と、
前記噴霧吐出管の出口の周りに噴霧気流を包むガスカーテンを形成するためのガスカーテン発生器であって、前記ガスカーテンが前記予備成長管の伸び方向に平行に延伸し、前記ガスカーテン発生器が前記予備成長管内に設置されるガスカーテン発生器と、を含む、ことを特徴とするカーボンナノチューブ製造システムを提供する。
【0007】
上記カーボンナノチューブ製造システムは、アトマイザの噴霧吐出管の周囲にガスカーテンを形成する。ガスカーテンにより予備成長管に層流を形成し、気流を安定させる。一方、不純物やカーボンナノチューブの粘着を回避し、カーボンナノチューブの連続的な成長を保証する。
【0008】
一実施形態において、前記ガスカーテン発生器は、少なくとも一つのガスカーテン形成板を含み、前記ガスカーテン形成板には、複数の気孔が開いている。
【0009】
一実施形態において、前記ガスカーテン形成板はリング形状を有し、前記噴霧吐出管は前記ガスカーテン形成板の中心における貫通された箇所に位置し、ガス孔は前記ガスカーテン形成板に放射状に分布している。
【0010】
一実施形態において、前記ガスカーテン形成板の縁部の輪郭は前記予備成長管の内壁に適合し、少なくとも一部のガス孔は、前記予備成長管の内壁に密着するガスカーテン流を形成するように前記ガスカーテン形成板の縁部のエリアに設置される。
【0011】
一実施形態において、前記ガスカーテン発生器は、さらに、キャリアガスを前記予備成長管に搬送するためのガス導入口を少なくとも一つ備え、前記ガス導入口は、前記予備成長管の前端に設置されている。
【0012】
一実施形態において、前記予備成長管と前記成長管との間は、管状の第一断熱部材により接続されている。
【0013】
一実施形態において、前記予備成長管内の温度は200~950℃である。
【0014】
前記成長管内の温度は1100~1600℃である。
【0015】
一実施形態において、前記予備成長管は第一予備成長セクションおよび第二予備成長セクションを含み、
前記第一予備成長セクションは前記予備成長管の前端近くに位置し、前記第二予備成長セクションは前記予備成長管の後端近くに位置し、
前記第一予備成長セクション内の温度と、前記第二予備成長セクション内の温度とが異なる。
【0016】
一実施形態において、前記第一予備成長セクションの外側に第一温度コントローラが設けられ、前記第二予備成長セクションの外側に第二温度コントローラが設けられ、
前記第一予備成長セクションと前記第二予備成長セクションとの間は、第二断熱部材により接続されている。
【0017】
一実施形態において、前記第一温度コントローラは、第一加熱装置及び第一冷却装置を含み、
前記第二温度コントローラは、第二加熱装置及び第二冷却装置を含む。
【0018】
一実施形態において、前記第一予備成長セクション内の温度は200~300℃であり、
前記第二予備成長セクション内の温度は700~950℃である。
【0019】
一実施形態において、前記成長管の内壁には、前記カーボンナノ材料が前記成長管の内壁に付着することを防止するための付着防止コーティングを備える。
【0020】
一実施形態において、前記付着防止コーティングは、酸化ジルコニウム又は酸化亜鉛である。
【0021】
一実施形態において、前記成長管には、キャリアガスを導入して前記キャリアガスによって前記成長管の内壁の表面にガス保護層を形成する通気孔が開き、前記通気孔は前記成長管の管壁を貫通して均一に分布している。
【0022】
一実施形態において、前記通気孔の軸方向と前記成長管の伸び方向との角度は5度未満である。
【0023】
前記アトマイザは、前記原料を均一に混合し霧化して噴出する超音波霧化ノズルと、超音波数値を調整する超音波コントローラとを含む。
【0024】
一実施形態において、前記カーボンナノチューブ製造システムは、垂直型または水平型である。
【0025】
一実施形態において、前記予備成長管及び前記成長管は、鉛直に設置され、前記アトマイザは、前記予備成長管及び前記成長管の伸び方向に沿って鉛直に設置される。
【0026】
一実施形態において、エアーカーテンは、重力方向に平行に分布している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】産業上でカーボンナノチューブ材料を連続に生産する製造システムの一実施形態の構造模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ製造システムの構造模式図である。
【
図3】
図2の一実施形態に係るガスカーテン形成板の構造模式図である。
【
図3b】ガスカーテン形成板のB-B線の断面図である。
【
図4】
図2の別の実施形態に係るガスカーテン形成板の構造模式図である。
【
図4b】ガスカーテン形成板のC-C線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の上記の目的、特徴および利点をより明瞭にするために、以下、本発明の具体的な実施態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の十分な理解を容易にするために、以下の説明において、多くの具体的な詳細が記載されている。本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であり、以下に示す具体例により本発明は限定されない。
【0029】
現在、カーボンナノチューブの製造方法は、通常に、種々のエネルギーの印加により、炭素源を原子またはイオン形態に分解し、その後、集合してカーボンナノチューブのマクロ材料を生成する。カーボンナノチューブの主な製造方法は、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法の3つが一般的である。産業上では、カーボンナノチューブが化学気相成長(CVD)法により製造されることが多い。
【0030】
CVDによるカーボンナノチューブの製造は、主に気体又は液体の炭化水素系物質を炭素源とする。炭素源を霧化した後、適切な温度で触媒を添加することにより、炭素源が触媒粒子の表面で炭素原子のクラスターに分解される。その後、炭素原子が再結合してカーボンナノチューブを形成し、さらに特別に設計された収集装置により形態の異なるカーボンナノチューブ材料を得る。そのうち、触媒は、炭素源と共に、キャリアガスによってチャンバに運ばれる。この製造方式は、浮遊触媒法によるカーボンナノチューブ製造技術と呼ばれる。本発明では、カーボンナノチューブの製造に主にカーボンナノチューブを浮遊触媒法で処理するプロセスを用いる。
【0031】
図1は産業上でカーボンナノチューブ材料を連続に生産するシステムの一実施形態の構造模式図である。
図1に示すように、カーボンナノチューブの生産システム100は、カーボンナノチューブ製造システム200と、カーボンナノチューブ収集システム300と、排気システム400とを備える。カーボンナノチューブ製造システム200は、原料を合成して連続的なカーボンナノチューブを製造するために用いられる。カーボンナノチューブ収集システム300は、製造されたカーボンナノチューブを緻密化し、所望の材料に加工し成形してから収集することに用いられる。カーボンナノチューブ収集システム300は、カーボンナノチューブをワイヤーまたは薄膜シートに加工してから、ロール状に収集することができる。排気システム400は、生産システム100内の有害ガスが大気に排出されなく、生産システム100内の残留ガスが内部気流の安定性を妨げないように、反応後のガスを収集して統合的に処理するために使用される。
【0032】
図2は本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ製造システムの構造模式図である。
図2に示すように、カーボンナノチューブ製造システム200は、予備成長管210、アトマイザ220、成長管230、及びガスカーテン発生器240を含む。予備成長管210は、カーボンナノチューブを生成する前に原料の初期の予備反応のためのものである。アトマイザ220は、カーボンナノチューブの原料を霧化して前記予備成長管210内に噴射するためのものである。前記アトマイザ220は、前記予備成長管210の前端に設けられる。前記アトマイザ220は、前記予備成長管210内までに延びる噴霧吐出管221を有する。成長管230は、カーボンナノチューブの生成と、生成したカーボンナノチューブの連続的な成長のためのものである。前記成長管230の前端は、前記予備成長管の後端に封止接続される。
【0033】
図2に示されるように、一実施形態において、アトマイザ220は、蠕動ポンプ222、超音波コントローラ223、及び超音波霧化ノズル224を更に含む。反応原料は、蠕動ポンプ222で均一に混合された後、超音波コントローラ223によって超音波数値が調整され、超音波霧化ノズル224、噴霧吐出管221を経て、予備成長管210に入る。
【0034】
一実施形態において、炭素源は、気相または液相の炭素源であり、アセチレン、エタノール、メタン、エチレン、プロピレン、ブテン、n-ヘキサン、一酸化炭素、およびベンゼンなどの炭化水素系物質であってもよい。
【0035】
一実施形態において、触媒は、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属の任意の一つ又はいくつかの組み合わせであってもよく、それらの酸化物又は他の化合物であってもよい。
【0036】
一実施形態において、触媒前駆体を使用してもよい。触媒前駆体は一定の温度の条件で分解され、金属原子を生成する。触媒粒子の直径がカーボンナノチューブの直径を決定するので、触媒の種類と粒径を選択して制御することにより、純度が高く、寸法の分布が比較的均一なカーボンナノチューブを成長させることができる。一実施形態において、触媒前駆体は、フェロセンFe(C5H5)2であってもよい。
【0037】
一実施形態において、原料は、触媒の活性を増加させるための促進剤をさらに含んでもよい。促進剤は、チオフェン、他の硫黄含有化合物、またはそれらの組み合わせであってもよい。促進剤は、テトラヒドロチオフェンC4H8Sであってもよい。
【0038】
一実施形態において、アトマイザ220内にキャリアガスを導入してもよい。液相の炭素源及びその他の原料は霧化されて均一に分布した小さな液滴となる。そして、キャリアガスによって原料を予備成長管210に運搬する。キャリアガスとして、H2、He、または任意の他の不活性ガスを用いることができる。一実施形態において、キャリアガスは、H2とArとの混合ガスであってもよい。キャリアガスを導入することにより、液相の炭素源の霧化後の霧化形態を制御することが容易となり、霧化後の液相の炭素源を成長管230内の高温反応のエリアに速やかに到達させることができ、原料供給の連続性及び安定性を維持することができる。
【0039】
一実施形態において、噴霧吐出管221内の温度は、100~250℃の範囲とすることで、噴霧吐出管221内の混合原料が噴霧吐出管221の内壁に凝結することを防止する。
【0040】
一実施形態において、アトマイザ内のキャリアガスの総流量が1~100L/minに制御され、液体の炭素源の投入速度が10~1500ml/hに制御され、気体の炭素源の投入流量が1~100L/minに制御されることによって、原料の投入速度とカーボンナノチューブの合成速度をほぼ均一にすることができ、カーボンナノチューブの製造の連続性に寄与する。
【0041】
一実施形態において、予備成長管210は、前端と、前記前端に対向する後端とを備える。前記前端と前記後端との間に延伸通路がある。
【0042】
一実施形態において、アトマイザ220の噴霧吐出管221は、予備成長管210の前端に封止接続される。噴霧吐出管221は、フランジを設けることによって、予備成長管210の前端に封止固定されてもよい。
【0043】
一実施形態において、予備成長管210の管径と成長管230の管径とは等しい。
【0044】
一実施形態において、予備成長管210は、管径が50~500mmであり、長さが200~500mmである。成長管230は長さが500~2000mmである。
【0045】
図2を参照し、カーボンナノチューブ製造システム200は、ガスカーテン発生器240をさらに含む。ガスカーテン発生器240は、噴霧気流を包むガスカーテンを前記噴霧吐出管221の出口の周りに形成するためのものである。前記ガスカーテンは、前記予備成長管210の伸び方向(A)に平行に延びる。前記ガスカーテン発生器240は、予備成長管210内に設置される。
【0046】
CVDプロセスでは、ガスがチャンバ内で乱流を形成しやすく、後続のプロセスの安定化に不利である。特に、産業化のプロセスでは、装置のサイズアップに伴い、気流の安定性の制御は困難さが増し、カーボンナノチューブ製造システム200にガスの乱流の発生することを極力に回避すべきである。最も好ましくは、気体が安定した層流を形成することである。従来、通常には、原料投入装置にキャリアガスを導入し、液状の炭素源の気化の均一性を向上させる。そして、原料投入装置と反応管との間に、カーボンナノチューブの成長方向をガイドするライナーを設ける。しかし、ライナー管と反応管との境界では、断面積の変化により、気流が該箇所に乱流を形成する。一方、反応時間が長くなると、反応中に発生した不純物がライナー管の末端であるライナー管と反応管の境界に蓄積し、ライナー管の末端でカーボンナノチューブが管壁に付着しやすくなり、カーボンナノチューブの断裂を招き、カーボンナノチューブの成長の連続性に直接に影響を及ぼす。従って、従来の技術では気流の安定制御やカーボンナノチューブの断裂の回避という点で未だ不十分であり、浮上工程が安定的に継続することには不利である。特に、大口径のチャンバの浮上の触媒反応システムに適用すると、上記の不具合が顕著となる。
【0047】
本発明は、上記技術案によって、従来のライナー管を採用しなく、アトマイザ220の噴霧吐出管221の周囲にガスカーテンを形成する。ガスカーテンにより予備成長管に層流を形成し、気流を安定させるとともに、不純物やカーボンナノチューブの粘着を回避し、カーボンナノチューブの持続的な成長を保証する。
【0048】
一実施形態において、ガスカーテン発生器240は、少なくとも一つのガスカーテン形成板241を含む。前記ガスカーテン形成板241には複数のガス孔が開いている。
【0049】
図3は
図2の一実施形態に係るガスカーテン形成板の構造模式図である。
図3aはガスカーテン形成板の正面図であり、
図3Bはガスカーテン形成板のB-B線の断面図であり、
図3cは
図3Bの破線部分Dの部分拡大図である。
図2及び
図3に示すように、前記ガスカーテン形成板241はリング形状を有し、前記噴霧吐出管221は前記ガスカーテン形成板241の中心における貫通された箇所に位置する。前記ガス孔は、前記ガスカーテン形成板241に放射状に分布している。
【0050】
一実施形態において、ガスカーテン形成板241の縁部の輪郭は、前記予備成長管210の内壁に適合し、少なくとも一部のガス孔は、前記予備成長管210の内壁に密着するガスカーテン流を形成するようにガスカーテン形成板241の縁部のエリアに設置される。
【0051】
図3cに示すように、ガスカーテン形成板241の気孔は孔径が揃ったストレート孔である。
【0052】
一実施形態において、ガスカーテン形成板241の数が複数であってもよい。複数のガスカーテン形成板241同士は、予備成長管210の伸び方向に沿って前後に重なるように設置される。複数のガスカーテン形成板241同士は、互いに平行となる関係である。
【0053】
一実施形態において、ガスカーテン発生器240は、1~4枚のガスカーテン形成板241を有する。
【0054】
図4は
図2の別の実施形態に係るガスカーテン形成板の構造模式図である。
図4aはガスカーテン形成板の正面図であり、
図4bはガスカーテン形成板のC-C線の断面図であり、
図4Cは
図4bの破線部分Eの部分拡大図である。
図4cに示すように、ガスカーテン形成板241の気孔は、孔径が前端で広くて末端が狭いラッパ状の孔であってもよい。
【0055】
一実施形態において、気孔は、ガスカーテン形成板241の中心の貫通された箇所に沿って対称に分布している。単側の気孔の数は2~6個である。気孔の直径は10cmであってもよい。
【0056】
図2に示すように、前記ガスカーテン発生器240は、さらに、キャリアガスを前記予備成長管210に搬送するためのガス導入口242を少なくとも一つ備え、前記ガス導入口242は、前記予備成長管210の前端に設置されている。
【0057】
一実施形態において、ガスカーテン発生器240は、2つのガス導入口242を含む。2つのガス導入口242は、噴霧吐出管221の両側に設置される。ガス導入口242がフランジに設けられてもよい。キャリアガスはガス導入口242から予備成長管210に入り、1~4層のガスカーテン形成板241を介して均一に分布して均一な方向の気流を形成する。
【0058】
一実施形態において、ガスカーテン発生器240からのキャリアガスの総流量は、1~20L/minの範囲内に制御される。
【0059】
原料ガスが予備成長管210に入った後、まず、触媒前駆体を分解して触媒鉄原子を得る。その後、促進剤を分解して硫黄原子を放出させる。硫黄は、触媒粒子のクラスターと相互作用して触媒粒子のサイズの分布を制御することによって、カーボンナノチューブ構造体の直径を制御する。最後に炭素源が分解されて触媒粒子上にカーボンナノチューブが成長する。ただし、触媒前駆体の分解、促進剤の分解及び炭素源の分解の温度範囲は互いに異なる。反応の円滑な進行とカーボンナノチューブの品質を確保するためには、予備成長管210と成長管230とで異なるエリアの反応温度を細かく制御し、段階の温度を形成する必要がある。
【0060】
一実施形態において、予備成長管210内で触媒前駆体の分解および促進剤の分解を含む反応が行われ、成長管230内で炭素源の分解およびカーボンナノチューブの成長が行われる。このため、前記予備成長管210内の温度と成長管230内の温度とは異なる。
【0061】
一実施形態において、前記予備成長管210内の温度は200~950℃の範囲である。前記成長管230内の温度は、1100℃~1600℃の範囲である。
【0062】
図2に示すように、一実施形態において、予備成長管210と成長管230との間には、チューブ状の第一断熱部材250が接続される。
【0063】
第一断熱部材250は、予備成長管210と成長管230との間の温度干渉を減らすためのものである。炭素源の分解を確実に行うために、成長管230内の温度は1100~1600℃にする必要がある。一方、予備成長管の後端は、促進剤の分解に必要な温度として、一般に700~950℃である。予備成長管210と成長管230との間には、一定の温度差がある。各エリアの温度は互いに独立性を確保して干渉を回避する。予備成長管210と成長管230との間は一定の距離を離し、断熱効果を有する第一断熱部材250で接続されることによって、異なるエリアの間の干渉を低減する。
【0064】
一実施形態において、第一断熱部材250は断熱材料からなり、第一断熱部材250の管径は、成長管230および予備成長管210の管径と同一である。第一断熱部材250と、成長管230と、予備成長管210とはそれぞれ封止接続される。
【0065】
一実施形態において、第一断熱部材250は、高温断熱材料で構成される。高温断熱材料は、高アルミナ質れんが(high alumina brick)、コランダム、マグネシアれんが及び高温耐火繊維のうちのいずれか一つであってもよい。
【0066】
一実施形態において、第一断熱部材250は、管径が50~500mmであり、長さが50~200mmである。
【0067】
図2に示すように、一実施形態において、前記予備成長管210はセグメント化されており、少なくとも第一予備成長セクション211と第二予備成長セクション212とを含む。第一予備成長セクション211は前記前端に近い部分であり、第二予備成長セクション212は前記後端に近い部分である。第一予備成長セクション211は触媒前駆体の分解反応のエリアであり、第二予備成長セクション212は促進剤の分解反応のエリアである。第一予備成長セクション211の温度と第二予備成長セクション212の温度は異なる。
【0068】
一実施形態において、前記第一予備成長セクション211内の温度は、200~300℃である。第二予備成長セクション212内の温度は700℃~950℃である。
【0069】
一実施形態において、前記第一予備成長セクション211と前記第二予備成長セクション212との間は、第二断熱部材260で接続されることによって、第一予備成長セクション211と第二予備成長セクション212との間の温度干渉を低減する。
【0070】
一実施形態において、第二断熱部材260は、断熱部材料からなる。第二断熱部材260の管径は第一予備成長セクション211および第二予備成長セクション212の管径と同一である。第二断熱部材260の両側は、第一予備成長セクション211および第二予備成長セクション212にそれぞれ封止接続される。
【0071】
一実施形態において、第二断熱部材260は、管径が50~500mmであり、長さが50~200mmである。
【0072】
図2に示すように、第一予備成長セクション211、第二予備成長セクション212、成長管230の外側には、それぞれに第一温度コントローラ271、第二温度コントローラ272、第三温度コントローラ273が設けられている。
【0073】
第一温度コントローラ271は、第一予備成長セクション211内の温度を制御し、第一予備成長セクション211内の温度を一定の数値範囲内に制御し、第一予備成長セクション211内の温度分布を均一にする。
【0074】
一実施形態において、第一温度コントローラ271は、第一加熱装置及び第一冷却装置を含む。第一温度コントローラ271は、さらに、いくつかの温度センサーを備える。前記温度センサーは第一予備成長セクション211内の温度値を検出する。
【0075】
第二温度コントローラ272は、第二予備成長セクション212内の温度を制御し、第二予備成長セクション212内の温度を一定の数値範囲内に制御し、第二予備成長セクション212内の温度分布を均一にする。一実施形態において、第二温度コントローラ272は、第二加熱装置及び第二冷却装置を含む。第二温度コントローラ272は、さらに、いくつかの温度センサーを備える。前記温度センサーは第二予備成長セクション212内の温度値を検出する。
【0076】
第三温度コントローラ273は、成長管230内の温度を制御し、成長管230内の温度を一定の数値範囲内に制御し、成長管230内の温度分布を均一にする。一実施形態において、第三温度コントローラ273は、第二加熱装置及び第二冷却装置を含む。第三温度コントローラ273は、さらに、いくつかの温度センサーを備える。前記温度センサーは成長管230内の温度値を検出する。
【0077】
一実施形態において、第一加熱装置、第二加熱装置及び第三加熱装置は、蒸気加熱、湯加熱、鉱油加熱、電磁誘導加熱又は抵抗加熱などの方式を採用してもよい。
【0078】
一実施形態において、第一冷却装置、第二冷却装置及び第三冷却装置は、冷媒冷却、冷却水冷却、冷却油冷却などの方式であってもよい。
【0079】
本発明は、反応のエリアを細分化することで、第一予備成長管、第二予備成長管及び成長管の3つの部分に分かれる。各セグメントの間には一定の隙間が設けられ、相互の干渉が低減されている。段階的に管理することで温度精度が向上し、プロセスの微細化の制御に有利となり、カーボンナノチューブの品質が向上する。
【0080】
一実施形態において、成長管230の内壁には、カーボンナノ材料が成長管の内壁に付着することを防止するための付着防止コーティングを備える。
【0081】
一実施形態において、前記付着防止コーティングは、ジルコニアまたは酸化亜鉛である。
【0082】
産業上でカーボンナノチューブを連続に生産するプロセスでは、カーボンナノチューブの断裂により生産が継続できなく、カーボンナノチューブの連続生産を阻害する要因である。そのうち、カーボンナノチューブの管壁への付着及び粘着は、カーボンナノチューブ断裂の要因となる。成長管230の内壁に高温に耐えるジルコニア又は酸化亜鉛の粘着防止コーティングを設けることによって、管壁へのカーボンナノチューブの付着及び粘着を低減することに有利となる。
【0083】
一実施形態において、付着防止コーティングの表面の粗さのプロファイルの平均偏差Raは、0.1μm~1μmである。
【0084】
一実施形態において、前記成長管230には、キャリアガスを導入して前記キャリアガスにより前記内壁の表面にガス保護層を形成する通気孔が開き、前記通気孔は前記成長管の管壁を貫通して均一に分布している。成長管230の内壁の近傍に保護ガスを設けることにより、カーボンナノチューブの付着を避けることができ、カーボンナノチューブの移動方向をガイドしてカーボンナノチューブの収集を補助することに有利となる。
【0085】
一実施形態において、前記通気孔の軸方向と前記成長管の伸び方向との角度は、5度未満とすることによって、前記キャリアガスを前記内壁表面にガス保護層を形成させる。
【0086】
一実施形態において、カーボンナノチューブ製造システム200は、水平型のレイアウトになってもよい。すなわち、アトマイザ220、予備成長管210、成長管230が水平方向に順に配置されている。
【0087】
一実施形態において、カーボンナノチューブ製造システム200は、垂直型のレイアウトになってもよい。すなわち、アトマイザ220、予備成長管210、成長管230が上下方向に順に配置されている。これで、ガスカーテン発生器240が形成する前記ガスカーテンは重力方向に平行に分布する。
【0088】
一実施形態において、カーボンナノチューブ製造システム200は、垂直型のレイアウトになってもよい。カーボンナノチューブ収集システム300及び排気システム400は、水平型の構造とし、カーボンナノチューブの回収を容易にする。
【0089】
なお、水平型の構造では、気体が重力の影響を受け、ガスカーテンが水平方向に絶対的な水平方向の層流を維持できるとの保証は困難である。カーボンナノチューブ製造システム200を垂直型に設置することで、重力の影響を克服し、ガスカーテンの絶対的な層流を保証することができる。さらに、重力により、予備成長管210と成長管230内の気流の方向の一致性にも有利となり、システム内の気流の安定性を大きく向上させることができる。この利点について、水平型のシステムが比べるものにならない。
【0090】
実状に適用すると、垂直型のシステムは15時間まで連続生産が可能であり、水平型のシステム(通常、横型のシステムが5時間の程度で連続に生産することが可能である)より良いである。
【0091】
本発明の製造システムにより得られるカーボンナノチューブ薄膜材料は、電気伝導率が5×104~5×105S/m(四探針式抵抗率試験機で測定)、引張強度が80~200MPa(ナノ引張計で測定)という特性を有する。
【0092】
上記実施形態の各特徴は、任意に組み合わせることが可能であり、説明の簡潔化のため、上記実施形態の各特徴の全ての可能な組み合わせを記載していないが、これらの特徴の組み合わせに矛盾が生じない限り、本明細書に記載の範囲内にあると考えるべきである。
【0093】
上記実施形態は、本発明のいくつかの実施態様を示したに過ぎず、その説明は、具体的かつ詳細なものであるが、特許請求の範囲を制限するものと理解すべきではない。当業者にとって、本発明の要旨から逸脱しない限り、本発明を若干変更または改善することができ、これらも本発明の範囲内にある。したがって、本発明の保護範囲は、添付の請求項の範囲によって規定されるべきである。
【符号の説明】
【0094】
100 カーボンナノチューブの生産システム
200 カーボンナノチューブ製造システム
210 予備成長管
211 第一予備成長セクション
212 第二予備成長セクション
220 アトマイザ
221 噴霧吐出管
222 蠕動ポンプ
223 超音波コントローラ
224 超音波霧化ノズル
230 成長管
240 ガスカーテン発生器
241 ガスカーテン形成板
242 ガス導入口
250 第一断熱部材
260 第二断熱部材
271 第一温度コントローラ
272 第二温度コントローラ
273 第三温度コントローラ
300 カーボンナノチューブ収集システム
400 排気システム