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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】高分子重合体シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220617BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220617BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220617BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20220617BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08K7/06
C08L101/00
C08F2/44 A
C08F20/56
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021565688
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047503
(87)【国際公開番号】W WO2021125339
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019230499
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】宮村 泰直
(72)【発明者】
【氏名】門脇 靖
(72)【発明者】
【氏名】山竹 邦明
(72)【発明者】
【氏名】原 真尚
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
(72)【発明者】
【氏名】大籏 英樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-70821(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104919543(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0374268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0090405(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0074207(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0318071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08F,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を準備する準備工程と、
前記モノマー組成物を水平に静置し、前記銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させる静置工程と、
前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させた状態で前記モノマー組成物を重合する重合工程と、を有する、
高分子重合体シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子重合体シートの製造方法に関する。
本願は、2019年12月20日に、日本に出願された特願2019-230499号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノワイヤは、樹脂やゲル等の材料中に混練、分散等されて、例えば透明なタッチパネルに代表されるような光学フィルム等に用いられる。これらの材料の物性を決定づける特性として銀ナノワイヤの配向が挙げられる。前記物性としては具体的には、力学強度、伸び強度、光学異方性、複屈折性、導電異方性、電熱異方性といった物性が挙げられる。
【0003】
非特許文献1では、凹凸を設けた基材へのスプレー方向の制御により配向ナノワイヤフィルムが作製されている。
【0004】
また、非特許文献2では、バーコート時のせん断応力による配向を利用して配向ナノワイヤフィルムが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-168386号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Probst, P. T. et al. ACS Applied Materials & Interfaces 10, 2018, 3046-3057
【文献】Byoungchoo Park et al. Scientific Reports volume 6, 2016, Article number: 19485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1や非特許文献2の方法では、いずれもナノワイヤの配向は実質面内方向であり、配向方向は限られる。
【0008】
本発明の第一の態様及び第二の態様は、上記のような事情を鑑み、銀ナノワイヤが厚さ方向に配向している高分子重合体シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は以下に示す構成を備えるものである。
【0010】
[1] 所定の方向に厚さ方向を有する高分子重合体シートであって、銀ナノワイヤを含み、前記銀ナノワイヤが厚さ方向に配向している高分子重合体シート。
本発明の第一の態様は以下の[2]~[3]の特徴を好ましく含む。これらの特徴は2つを好ましく組み合わせることができる。
[2] 小角X線散乱の散乱ベクトルから求められる前記銀ナノワイヤの厚さ方向の配向度S値が0.1~1.0であり、
前記S値は、下記式(1)で求められる[1]に記載の銀ナノワイヤを含む高分子重合体シート。
【数1】
(ただし、式(1)中のCは、式(2)を満たし、式(2)中のI(θ)は、小角X線散乱の散乱パターンより求められる銀ナノワイヤの散乱が極大値をとる散乱ベクトルを半径とした円上の方位角θにおける散乱強度である。)
【数2】
[3] 前記厚さ方向は、前記高分子重合体シートの面のうち面積が最大の面に垂直な方向である、[1]又は[2]に記載の高分子重合体シート。
本発明の第二の態様は、以下の高分子重合体シートの製造方法である。
[4] 銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を準備する準備工程と、前記モノマー組成物を水平に静置し、前記ナノワイヤを鉛直方向に配向させる静置工程と、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させた状態で前記モノマー組成物を重合する重合工程と、を有する、高分子重合体シートの製造方法。
本発明の第二の態様は以下の[5]~[6]の特徴を好ましく含む。これらの特徴は2つを好ましく組み合わせることができる。
[5] 前記重合工程では、前記モノマー組成物に紫外線を照射する、[4]に記載の高分子重合体シートの製造方法。
[6] 前記重合工程で得られた高分子重合体シートのS値を測定し、次のサイクルの条件を調整する予備工程をさらに有し、前記予備工程では、前記S値が所望のS値よりも小さければS値が高くなるように条件を調整し、前記S値が所望のS値よりも低ければS値が高くなるように条件を調整し、再度前記準備工程と前記静置工程と前記重合工程とを行う方法であり、前記S値は、下記式(1)で求められる[4]又は[5]に記載の高分子重合体シートの製造方法
【数3】
(ただし、式(1)中のCは、式(2)を満たし、式(2)中のI(θ)は、小角X線散乱の散乱パターンより求められる銀ナノワイヤの散乱が極大値をとる散乱ベクトルを半径とした円上の方位角θにおける散乱強度である
【数4】
)。
【発明の効果】
【0011】
銀ナノワイヤが厚さ方向に配向している高分子重合体シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態の例を挙げて説明するが、本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、位置、角度、数、材料、量、構成等について、変更、付加、省略、置換等が可能である。
【0013】
(高分子重合体シート)
本実施形態の高分子重合体シートは、所定の厚さ方向を有する。厚さ方向は、厚さ方向とは、例えば高分子重合体シートの面のうち面積が最大の面に垂直な方向である。例えば高分子重合体シートが六面体である場合、六面体を構成する辺のうち長さの最も短い辺に平行な方向であり、高分子重合体シートが円柱形である場合、円に垂直な方向である。本実施形態の高分子重合体シートは、銀ナノワイヤを含む。前記銀ナノワイヤは高分子重合体シートの厚さ方向に配向している。なお、本発明において、「シート」は、フィルム及び板を含む。また、前記高分子重合体シートの高分子重合体の種類は特に限定されず、樹脂やゲルであってもよい。本実施形態の高分子重合体シートの製造に用いるモノマー組成物は、重合して前記高分子重合体が得られるものであればよい。
【0014】
前記銀ナノワイヤの厚さ方向の配向の配向度は、S値で得られる。S値は、特許文献1に記載の小角X線散乱測定法により求められる。すなわち、S値は、下記式(1)で求められる。なお、S値は、等方性の場合0となり、完全に配向している場合1となる。
【数5】
(ただし、式(1)中のCは、であり、式(2)中のI(θ)は、小角X線散乱の散乱パターンより求められる銀ナノワイヤの散乱が極大値をとる散乱ベクトルを半径とした円上の方位角θにおける散乱強度である。)
【数6】
より具体的には、後述する実施例に記載の方法でS値を求める。
【0015】
前記高分子重合体シートのS値は、0.1~1.0であることが好ましい。
【0016】
前記高分子重合体シートの用途が導電材料の場合、配向度が高い方が高い異方性が得られる。一方、配向度が低く銀ナノワイヤ同士の絡み合いがあった方が高い導電性が得られる。そのため、導電材料に用いる高分子重合体シートのS値は0.1~0.5が好ましく、0.2~0.3がより好ましい。
【0017】
前記高分子重合体シートの用途が光学材料の場合、配向度が高い方が偏光などの光学特性が得られやすい。そのため、S値は0.2~1.0が好ましく、0.4~1.0がより好ましい。
【0018】
(高分子重合体シートの製造方法)
このような高分子重合体シートは、水や有機溶媒などの液中で重力方向(鉛直方向)に配向する性質を利用し、銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を重合することにより得られる。すなわち、銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を準備する準備工程と、前記重合前に、得られる高分子重合体シートの厚さ方向が鉛直方向となる状態で、前記モノマー組成物を静置し、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させて重合する。
【0019】
高分子重合体シートの具体的な方法の例を以下に示す。本実施形態に係る高分子重合体シートの製造方法は、例えば、準備工程と、静置工程と、重合工程と、を有する。
【0020】
(準備工程)
準備工程は、銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を準備する。
モノマー組成物としては、例えば、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、2,2-ジエトキシアセトフェノン及び銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を用いる。モノマー組成物は、例えば所定の厚さ方向を有する石英セルに滴下する。
【0021】
(静置工程)
次いで、静置工程を行う。静置工程では、モノマー組成物を水平に静置し、銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させる。静置工程では、例えば石英セルの厚さ方向と鉛直方向を一致させた状態で銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を有する石英セルを静置する。静置工程は、例えば5分間以上行ってもよい。
【0022】
(重合工程)
次いで、重合工程を行う。重合工程では、モノマー組成物中の銀ナノワイヤを鉛直方向に配向させた状態でモノマー組成物を重合する。重合工程では、例えば、銀ナノワイヤを含むモノマー組成物に紫外線等の光を照射する光重合により行う。
【0023】
より高い配向度、すなわちより高いS値を得るには、静置工程において前記静置時間を長くするか、準備工程において前記モノマー組成物の粘度を低くするか、或いは折れや破断の少ない銀ナノワイヤを用いればよい。より低いS値とする場合は、それらの逆を行えばよい。すなわち、静置工程において静置時間を短くするか、準備工程においてモノマー組成物の粘度を高くするか、或いは折れや破断の多い銀ナノワイヤを用いればよい。
【0024】
本実施形態に係る高分子重合体シートの製造方法は、所望の配向殿高分子重合体シートを得るために、これらを基に予備実験を行う予備工程を有してもよい。予備工程は、得た高分子重合体シートのS値を測定し、次のサイクルの条件を調整する。予備工程を有する高分子重合体シートの製造方法は、準備工程、静置工程、及び重合工程を順に行い(第1サイクル)、次いで予備工程を行い、再度準備工程、静置工程、及び重合工程を行う(第2サイクル)。予備工程を有する高分子重合体シートの製造方法では、上述の過程を少なくとも1回有する。
【0025】
予備工程では、第1サイクルで得た高分子重合体シートのS値が所望のS値と比較し、第2サイクルでの各条件を調整する。具体的には、第1サイクルで得た高分子重合体シートのS値が所望のS値よりも小さい場合、静置工程での静置時間を長くするか、準備工程において準備するモノマー組成物の粘度を低くするか、或いは折れや破断の少ない銀ナノワイヤを用いるように調整する。第1サイクルで得た高分子重合体シートのS値が所望のS値よりも大きければ、静置工程での静置時間を短くするか、準備工程において準備するモノマー組成物の粘度を高くするか、或いは折れや破断の多い銀ナノワイヤに調整する。
尚、超音波処理工程または高濃度・高粘度状態での攪拌・混錬・流動等のせん断応力がかかる工程を経た銀ナノワイヤは、そうした工程を経ない銀ナノワイヤよりも折れや破断が多い。
予備工程を行うことにより、前記各条件を決定し、所望の配向度を有する高分子重合体シートを得ることができる。
【0026】
なお、前記モノマー組成物中で銀ナノワイヤが配向しつつある状態で重合を開始するよりも、銀ナノワイヤが十分配向する時間まで待って重合を行った方が安定なS値を得やすい。例えば、静置工程を20分以上行うと良い。S値の調整は銀ナノワイヤの種類を選択することで行うことが好ましい。
【0027】
前記銀ナノワイヤが十分配向する時間は、前記モノマー組成物の粘度が低い方が短く、高い方が長くなる。前記モノマー組成物の粘度が、一般的な有機溶媒や水などと同程度であれば、前記銀ナノワイヤが十分配向する時間の目安は、5分間~1時間や、10分間~1時間程度である。
【実施例
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
実施例1では、以下のように高分子重合体シートを作製した。
8質量%N,N’-ジメチルアクリルアミド、0.1質量%N,N’-メチレンビスアクリルアミド、0.1質量%2,2-ジエトキシアセトフェノンを含む0.1質量%銀ナノワイヤ(平均直径28nm)水分散液をモノマー組成物とし、これを底面(10mm×30mm)を水平に保った石英セル中に深さ5mmとなるように滴下し、5分間静置した。
【0030】
次に、前記石英セル中のモノマー組成物に、250WUVランプ(浜松ホトニクス製L10852)にて20分間紫外線を照射することで重合を行い、ゲル(高分子重合体シート)を得た。
【0031】
(実施例2~4)
静置した時間を10分(実施例2)、20分(実施例3)、40分(実施例4)としたことを除き実施例1と同様に高分子重合体シートを作製した。
【0032】
(配向度の測定)
実施例1~4の高分子重合体シートを幅1mmとなるように厚さ方向に切断した切片を試料とした。試料を、切断面がX線ビーム方向に対し垂直となるようにサンプルホルダーに設置し、小角X線散乱測定を行った。その際、測定条件を、カメラ長2.3m、X線波長0.1nm、X線ビーム径0.1mm、検出器Pilatus、散乱ベクトルの測定範囲を0.1nm-1~4nm-1とした。
また、対比として面内方向への配向が存在するか確認するため、厚さ方向がX線ビームと平行に照射して小角X線散乱測定を行った。
【0033】
測定された小角X線散乱の散乱パターンから、サンプルの散乱の極大値近傍となる散乱ベクトル(今回用いた銀ナノワイヤにおいては0.3nm-1)における散乱強度の方位角分布を求め、強度が極大値をとる角度を0°と規定して前述の式(2)のS値を算出した。なお、バックグラウンド補正は行わず、得られた直接の散乱強度に基づきそれぞれのS値を算出した。
【0034】
実施例1で得られた高分子重合体シート中で銀ナノワイヤはその厚さ方向に配向しておりS値は0.18であった。一方で、面内方向への配向はなく、S値は0であった。
【0035】
実施例2~4で得られた高分子重合体シートのいずれでも、銀ナノワイヤはその厚さ方向に配向しておりS値は0.22(実施例2)、0.24(実施例3)、0.24(実施例4)であった。これらの面内方向へのS値はすべて0であった。これらより、20分以上静置工程を行うと、前記銀ナノワイヤが配向しやすく、高いS値を得やすいことが分かった。また、面内方向への配向がないことも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法で得られる高分子重合体は、偏光フィルタなどの光学材料や異方性導電フィルムなどの電子材料などに利用可能である。