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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及びガラス基板群
(51)【国際特許分類】
   C03B 3/00 20060101AFI20220620BHJP
   C03B 1/00 20060101ALI20220620BHJP
   C03B 5/16 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C03B3/00
C03B1/00
C03B5/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018556641
(86)(22)【出願日】2017-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2017044232
(87)【国際公開番号】W WO2018110459
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2016240557
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】櫻林 達
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-083714(JP,A)
【文献】特表2002-511380(JP,A)
【文献】特開2001-220176(JP,A)
【文献】特開2014-162659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料及びカレットを溶融炉で溶融して溶融ガラスを得る溶融工程を備えるガラス物品の製造方法において、
前記溶融炉に供給する前記カレットの発泡温度の変動範囲を規制することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記カレットの発泡温度が、所定の基準値の±20℃の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記基準値が、前記溶融炉における溶融温度の±30℃の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記基準値が、前記溶融ガラスの粘度が150dPa・sとなる温度以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記基準値が、前記溶融ガラスの粘度が180dPa・sとなる温度以下であることを特徴とする請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記カレットが、相対的に低温の第一発泡温度を有する第一カレットと、相対的に高温の第二発泡温度を有する第二カレットとを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記カレットを前記溶融炉に供給する前に、前記カレットの発泡温度を測定する測定工程を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記溶融炉の下流側に配置された清澄室で前記溶融ガラスを清澄する清澄工程を備え、
前記発泡温度が、前記清澄室における清澄温度以下であることを請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記溶融炉において、前記溶融ガラスの液面の一部に、前記ガラス原料及び前記カレットに覆われていない部分が形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
複数のガラス基板からなるガラス基板群であって、
前記ガラス基板が、原料として用いられたカレットに由来する発泡温度を有すると共に、
前記ガラス基板を粉砕して溶融した際に、前記粉砕したガラス基板から生じる微小泡の拡大が認められる温度を前記発泡温度とした場合に、
前記発泡温度の最大値と最小値との差が40℃以下であることを特徴とするガラス基板群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法及びガラス基板群に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスなどのガラス物品の製造方法には、溶融ガラスを得る溶融工程が含まれる。この溶融工程では、資源の有効活用の観点などから、溶融炉でシリカ・長石などのガラス原料にカレットを加えた混合原料を溶融して溶融ガラスを得るのが一般的である(例えば、特許文献1及び2を参照)。ここで、カレットとは、溶融工程を経て製造されたガラス物品(不良ガラス物品を含む)を破砕して得られるリサイクル原料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-037437号公報
【文献】国際公開第2006/051953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の溶融工程では、溶融炉において、ガラス原料及びカレットを含む混合原料の溶融に伴って微小泡が発生する。この微小泡は、加熱による泡径の拡大を伴いながら溶融ガラス中(液中)を浮力によって上昇し、溶融炉内に貯留されている溶融ガラスの表層部において泡層を形成する。この泡層は、溶融ガラスからの放熱を防ぐ効果(断熱効果)を有している。
【0005】
しかしながら、混合原料を用いて溶融ガラスを得る場合には、泡層の範囲が不安定になりやすい。そのため、泡層による断熱効果が増減し、溶融炉内の溶融温度が安定しないという問題がある。このような問題が生じると、最終的に製造されるガラス物品の品質(例えば、泡品位や脈理品位)にも悪影響を及ぼすことになる。
【0006】
本発明は、ガラス原料及びカレットを溶融して溶融ガラスを得る際の溶融炉内の溶融温度を安定化させ、優れた品質のガラス物品を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス原料及びカレットを溶融炉で溶融して溶融ガラスを得る溶融工程を備えるガラス物品の製造方法において、溶融炉に供給するカレットの発泡温度の変動範囲を規制することを特徴とする。
【0008】
本願発明者は鋭意研究を重ねた結果、例えばディスプレイ用ガラス基板のような高い水準でガラスの組成、色度、粒度を管理したカレットを使用した溶融炉であっても、溶融炉内の溶融温度を不安定にする泡層範囲の変動が、カレットを原因として生じ得ることを知見するに至った。具体的には、主たる泡層範囲の変動原因はカレットの発泡温度にある。ここで、発泡温度とは、カレットを溶融した際に、カレットから生じる微小泡の拡大が認められた温度とする。この発泡温度は、カレットの元となった破砕前のガラス物品製造時における溶融工程の熱履歴の影響を大きく受ける。すなわち、同じ溶融温度の溶融工程を経たカレットであれば発泡温度は実質的に同じであるが、異なる溶融温度の溶融工程を経たカレットであれば発泡温度も異なる。そのため、カレットの発泡温度を何ら管理しなければ、溶融工程で溶融炉にカレットを供給する都度、カレットの発泡温度が変動する蓋然性が高い。この発泡温度の変動が大きくなると、所定温度にて泡層が形成されたり形成されなかったりし、泡層範囲が変動しやすくなる。そこで、本願発明では、上記の構成のように、溶融炉に供給するカレットの発泡温度の変動範囲を規制している。このようにすれば、泡層が生じる温度範囲をコントロールできるので、泡層範囲を安定させることができる。したがって、泡層による断熱効果の変動を抑え、溶融炉内における溶融温度の安定化を図ることができる。
【0009】
上記の構成において、カレットの発泡温度は、所定の基準値の±20℃の範囲内であることが好ましい。このようにすれば、カレットの発泡温度の変動範囲が小さくなるため、泡層範囲の変動をより確実に抑えることができる。
【0010】
上記の構成において、基準値が、溶融炉における溶融温度の±30℃の範囲内であることが好ましい。このようにすれば、溶融温度にて泡層の形成範囲が安定するので、泡層による断熱効果を高めることができる。その結果、温度調整に必要なエネルギー投入量が安定するため、ガラス原料及びカレットを省エネルギーで溶融できることが期待できる。
【0011】
上記の構成において、基準値が、溶融ガラスの粘度が150dPa・sとなる温度以下であることが好ましく、180dPa・sとなる温度以下であることがより好ましい。このようにすれば、基準値が、清澄室の温度と同程度か、溶融温度よりも低くなる場合が多く、有効に清澄を行うことができる。
【0012】
上記の構成において、カレットが、相対的に低温の第一発泡温度を有する第一カレットと、相対的に高温の第二発泡温度を有する第二カレットとを含むことが好ましい。例えば、第一カレットと第二カレットとの二種のカレットを混合したカレットの発泡温度は、第一カレットと第二カレットの発泡温度の影響を受け、第一発泡温度と第二発泡温度の間に変化する。そのため、カレットの発泡温度をコントロールしやすくなる。
【0013】
上記の構成において、カレットを溶融炉に供給する前に、カレットの発泡温度を測定する測定工程を備えることが好ましい。このようにすれば、溶融工程で溶融炉に供給するカレットの発泡温度を確実に把握し、管理することができる。
【0014】
上記の構成において、溶融炉の下流側に配置された清澄室で溶融ガラスを清澄する清澄工程を備え、発泡温度が、清澄室における清澄温度以下であることが好ましい。このようにすれば、溶融ガラスの脱泡を確実に行うことができる。
【0015】
上記の構成において、溶融炉において、溶融ガラスの液面の一部に、ガラス原料及びカレットに覆われていない部分が形成されていることが好ましい。このようにすれば、溶融ガラスの液面の全部がガラス原料及びカレットに覆われている場合に比べて、溶融炉における溶融温度が泡層の影響を受けやすくなるので、本願発明の効果がより有用となる。
【0016】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、複数のガラス基板からなるガラス基板群であって、発泡温度の最大値と最小値との差が40℃以下であることを特徴とする。従来は、カレットの発泡温度のばらつきに起因して、溶融工程の熱履歴(溶融炉内の溶融温度や炉内に供給するエネルギー)が不安定となり、その結果、ガラス基板の発泡温度が変動し、発泡温度の最大値と最小値との差が40℃を超える場合があった。本発明の製造方法によれば、カレットの発泡温度の変動範囲が規制されているので、溶融工程の熱履歴(溶融炉内の溶融温度や炉内に供給するエネルギー)を安定させることができ、ガラス基板の発泡温度の変動を40℃以下とすることができる。ガラス基板の発泡温度の変動が40℃以下であれば、品質(例えば、泡品位や脈理品位)に優れる。特に、ガラス基板からカレットを作製し、これを使用すれば、炉内の表面温度を安定させることができ、得られる製品ガラスの泡不良を低減できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス原料及びカレットを溶融して溶融ガラスを得る際の溶融炉内の溶融温度を安定化させることができるため、品質の優れたガラス物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ガラス物品の製造装置を示す側面図である。
図2図1のガラス物品の製造装置の溶融炉を示す断面図である。
図3】実施例の確認試験の結果を示すグラフである。
図4】実施例の確認試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るガラス物品の製造方法及びガラス基板群の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示すように、本製造方法に用いる板ガラス製造装置は、上流側から順に、溶融炉1と、清澄室2と、均質化室(攪拌室)3と、状態調整室4と、成形装置5と、これら各部を繋ぐ移送管6~9とを備える。ここで、清澄室2などの「室」という用語には、槽状構造を有するものや、管状構造を有するものが含まれるものとする。
【0021】
溶融炉1は、溶融ガラスGmを得る溶融工程を行うための空間である。溶融炉1は、移送管6によって、下流側の清澄室2に接続されている。
【0022】
清澄室2は、溶融炉1から供給された溶融ガラスGmを清澄剤などの働きにより清澄する清澄工程を行うための空間である。清澄室2は、移送管7によって、下流側の均質化室3に接続されている。
【0023】
均質化室3は、清澄された溶融ガラスGmを攪拌翼3aにより攪拌し、均一化する均質化工程を行うための空間である。均質化室3は、移送管8によって、下流側の状態調整室4に接続されている。
【0024】
状態調整室4は、溶融ガラスGmを成形に適した状態に調整する状態調整工程を行うための空間である。状態調整室4は、移送管9によって、下流側の成形装置5に接続されている。なお、状態調整室4は省略してもよい。
【0025】
成形装置5は、溶融ガラスGmを所望の形状に成形する成形工程を行うためのものである。本実施形態では、成形装置5は、オーバーフローダウンドロー法によって溶融ガラスGmを板状に成形する。
【0026】
詳細には、成形装置5は、断面形状(紙面と直交する断面形状)が略楔形状をなし、成形装置5の上部にオーバーフロー溝(図示省略)が形成されている。移送管9によって溶融ガラスGmをオーバーフロー溝に供給した後、溶融ガラスGmをオーバーフロー溝から溢れ出させて、成形装置5の両側の側壁面(紙面の表裏面側に位置する側面)に沿って流下させる。そして、その流下させた溶融ガラスGmを側壁面の下頂部で融合させ、板状に成形する。成形された板ガラスは、例えば、厚みが0.01~10mm(好ましくは0.05~3mm、より好ましくは0.1~1mm)であって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。なお、成形装置5は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法を実行するものであってもよい。また、成形装置5は、フロート法を実行するものであってもよい。
【0027】
移送管6~9は、例えば白金又は白金合金からなる円筒管で構成されており、溶融ガラスGmを横方向(略水平方向)に移送する。移送管6~9は、必要に応じて通電加熱される。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、溶融炉1は、ガラス原料とカレットの混合原料Grを電気溶融して溶融ガラスGmを形成する電気溶融炉である。溶融炉1は、例えば耐熱煉瓦で構成された壁部によって溶融空間を区画形成する。溶融炉1の底壁部及び/又は側壁部には、溶融ガラスGmに浸漬された状態で複数の電極10が設けられている。溶融炉1内には、電極10以外の他の加熱手段が設けられておらず、電極10の通電加熱(電気エネルギー)のみで混合原料Grを溶融(全電気溶融)するようになっている。なお、溶融ガラスGmの液面Gm1の上方に電気ヒータなどの他の加熱手段を設けてもよい。また、溶融炉1は、混合原料Grをガス燃焼のみで溶融してもよいし、ガス燃焼と電気加熱を併用して溶融してもよい。
【0029】
本実施形態では、溶融炉1は、混合原料Grの溶融空間が一つだけのシングルメルターであるが、複数の溶融空間を連ねたマルチメルターであってもよい。
【0030】
溶融炉1には、原料供給手段としてのスクリューフィーダ11が設けられている。スクリューフィーダ11は、溶融ガラスGmの液面Gm1の一部に混合原料(固体原料)Grに覆われていない部分が形成されるように混合原料Grを順次供給する。すなわち、溶融炉1は、いわゆるセミホットトップタイプである。なお、溶融炉1は、溶融ガラスGmの液面Gm1の全部が混合原料Grに覆われた、いわゆるコールドトップタイプでもよい。また、原料供給手段は、振動フィーダなどであってもよい。
【0031】
溶融炉1には、溶融炉1内の気体を外部に排出するための気体排出路としての煙道12が設けられている。煙道12内には、気体を外部に送るためのファン13が設けられている。ファン13は省略してもよい。なお、本実施形態では、溶融炉1内の気体は空気であるが、これに限定されない。
【0032】
ここで、混合原料Grに含まれるガラス原料及びカレット(又は溶融ガラスGm)が無アルカリガラスの場合に、本製造方法は特に有用である。また、混合原料Grは、清澄剤として酸化スズを含んでいることが好ましい。酸化スズの含有量は、例えば、0.01質量%以上であることが好ましい。さらに、ガラス原料及び/又はカレットの粒子径は、0.5~50mmであることが好ましく、1~10mmであることがより好ましい。カレットは粗砕機、中砕機による破砕およびメッシュふるい装置による分級を繰返して1~10mmの大きさに破砕する。なお、0.5mm以下のカレットが混入してもよい。また、国際公開第2006/051953号に記載の方法で分級しても差し支えない。また、混合原料Grにおいてカレットが占める割合は、例えば20質量%以上である。
【0033】
図2中の符号BLは、混合原料Grの溶融に伴って発生する泡層である。泡層BLは、溶融ガラスGmの表層部に形成される。泡層BLの範囲が大幅に変動しなければ、溶融ガラスGmの表層部において、泡層BLが形成されていない領域があってもよい。
【0034】
次に、以上のように構成された製造装置によるガラス物品の製造方法を説明する。
【0035】
本製造方法は、上述のように、溶融工程と、清澄工程と、均質化工程と、状態調整工程と、成形工程とを備える。なお、清澄工程、均質化工程、状態調整工程及び成形工程は上述の製造装置の構成に併せて説明した通りであるので、以下では溶融工程について詳述する。
【0036】
図2に示すように、溶融工程では、ガラス原料及びカレットからなる混合原料Grを溶融炉1で溶融して溶融ガラスGmを得る。この際、溶融炉1に供給する混合原料Grに含まれるカレットの発泡温度(再沸温度ともいう)の変動範囲が規制される。具体的には、カレットの発泡温度が、所定の基準値の±20℃の範囲内になるように規制される。カレットの発泡温度は、基準値の±15℃であることが好ましく、基準値の±10℃であることがより好ましい。ここで、発泡温度とは、カレットを溶融した際に、カレットから生じる微小泡の拡大が認められた温度を意味する。本実施形態では、カレットの発泡温度は、カレットの加熱に伴って発生した微小泡の初期泡径(例えば70~80μm)が1.5倍の直径まで拡大したときの温度とする。
【0037】
基準値は、溶融炉1における溶融温度の±30℃の範囲内であることが好ましい。このようにすれば、溶融温度にて泡層BLの形成範囲が安定するので、泡層BLによる断熱効果を高めることができる。そのため、混合原料Grを省エネルギーで溶融できることが期待できる。ここで、溶融炉1における溶融温度は、炉内の最高温度(例えば、炉内の底面温度)で測定するものとする。
【0038】
基準値は、溶融ガラスGmの粘度が150dPa・sとなる温度以下であることが好ましく、180dPa・sとなる温度以下であることがより好ましく、200dPa・s~2000dPa・sとなる温度範囲であることが更に好ましい。このようにすれば、基準値が、清澄室の温度と同程度か、溶融温度よりも低くなる場合が多く、有効に清澄を行うことができる。本実施形態において基準値は、例えば、1615℃以下であることが好ましく、1600℃以下であることがより好ましく、1400℃以上1580℃以下であることが更に好ましい。
【0039】
カレットの発泡温度は、清澄室2における清澄温度(加熱温度)以下であることが好ましい。このようにすれば、清澄室2において、カレットから泡が出るので、溶融ガラスGmの脱泡を確実に行うことができる。
【0040】
ここで、溶融炉1における溶融温度は、例えば溶融ガラスGmの粘度が210dPa・sとなる温度以下であることが好ましく、例えば1580℃以下である。清澄室2における清澄温度は、例えば溶融ガラスの粘度が210~70dPa・sとなる温度範囲であることが好ましく、例えば1580~1700℃である。ガラスの粘度は温度上昇とともに低下することから、上記の粘度の関係では、清澄温度は溶融温度よりも高くなる。
【0041】
混合原料Grに含まれるカレットの発泡温度の変動範囲の規制は、例えば、次のようにして行われる。
【0042】
まず、溶融炉1の内部に供給する前に、一つのロットに含まれるカレットの一部を抜き出し、その抜き出したカレットの発泡温度を測定する(測定工程)。この測定工程では、例えば石英るつぼ内にカレットを投入し、これを所定温度まで電気加熱する。この加熱過程で、カレットの溶融により巻き込まれた微小空気泡の初期泡径が1.5倍の直径まで拡大したときの温度(発泡温度)を測定する。この際、泡径は高温度用CCDカメラで拡大観察することによって測定する。抜き出したカレットと同一ロットに含まれる残りのカレットは、元となるガラス物品(板ガラスやガラス瓶)が同じ溶融温度の溶融工程を経ているので、上記の測定された発泡温度と同じ発泡温度を有するものとみなすことができる。したがって、測定された発泡温度が基準値の±20℃の範囲内であれば、同一ロットに含まれる残りのカレットを溶融炉1内にそのまま供給する。カレットの溶融、泡径変化の確認には、例えばGLASS SERVICE株式会社製のHigh Temperature Observation Systemを用いることができる。なお、上記カレットの発泡温度の測定方法は一例であり、他の手法を用いてもよい。
【0043】
一方、基準値の±20℃の範囲外であれば、同一ロットに含まれる残りのカレットを溶融炉1内にそのまま供給せず、次のような処理を行う。すなわち、測定工程において、発泡温度が基準値よりも低温と測定されたカレット(相対的に低温の第一発泡温度を有する第一カレット)と、発泡温度が基準値よりも高温と測定されたカレット(相対的に高温の第二発泡温度を有する第二カレット)とを用意する。この際、第一カレットと第二カレットの平均粒径及びガラス組成を同程度とすることが好ましい。そして、これら第一カレットと第二カレットとを混合する。このように混合すると、混合後のカレットの発泡温度は、第一カレット及び第二カレットの両方の影響を受け、第一発泡温度と第二発泡温度の間に変化する。例えば、第一発泡温度と第二発泡温度がそれぞれ1570℃、1600℃であるカレットを同量混合した場合、混合後のカレットの発泡温度が1585℃に調整されることが確認できた。したがって、第一カレットと第二カレットとを混合することで、発泡温度を基準値の±20℃の範囲内に調整することができる。第一カレットと第二カレットの混合比は、各発泡温度と基準値との温度差などを考慮し、適宜調整することができる。すなわち、第一カレットの量を第二カレットの量より多くしてもよいし、第一カレットの量を第二カレットの量より少なくしてもよい。
【0044】
なお、カレットの発泡温度の調整やカレットの供給量確保のために次のようにしてもよい。すなわち、発泡温度の異なる三種以上のロットのカレットを混合してもよい。また、発泡温度が基準値以上のカレットのみを混合してもよいし、発泡温度が基準値以下のカレットのみを混合してもよい。さらに、基準値の±20℃の範囲内の異なる二種以上のロットのカレットを混合してもよい。
【0045】
以上のように、溶融炉1内に順次供給されるカレットの発泡温度を基準値の±20℃の範囲内に管理すれば、カレットの発泡温度のばらつきを抑制することができる。これにより、泡層BLが生じる温度範囲をコントロールできるので、泡層BLの範囲を安定させることができる。したがって、泡層BLによる断熱効果の変動を抑え、溶融炉1内における溶融温度の安定化を図ることができる。よって、泡品位や脈理品位などの品位が安定したガラス基板(ガラス物品)を製造することができる。
【0046】
ここで、このようにして製造された複数のガラス基板からなるガラス基板群は、例えば、発泡温度の最大値と最小値との差が40℃以下となる。発泡温度の最大値と最小値との差は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。ガラス基板群は、例えば、一つのパレットに積層されている100~500枚のガラス基板からなる。
【0047】
ガラス基板群の発泡温度の測定は、例えば次のようにして行う。まず、ガラス基板群からガラス基板を5枚採取する。次に、採取した各ガラス基板を所定のサイズに破砕して、それぞれカレットを得る。そして、各カレットの発泡温度を測定し、最小値、最大値、差を求める。
【0048】
ガラス基板は、オーバーフロー法によって成形されたガラス基板であることが好ましい。
【0049】
ガラス基板は、質量%で、SiO2 50~70%、Al23 12~25%、B23 0~12%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0~1%未満、MgO 0~8%、CaO 0~15%、SrO 0~12%、BaO 0~15%を含有する無アルカリガラスであることが好ましい。
【実施例
【0050】
カレットの発泡温度の影響を調べるために確認試験を行った。カレットは日本電気硝子株式会社の無アルカリガラスであるOA-11で行った。ガラスの溶解は酸素バーナー、モリブデン電極を備えた溶融炉で行った。その結果を図3及び図4に示す。図3は、溶融炉内天井温度を変化させたとき(溶融炉内に供給するエネルギーを変化させたとき)に、その溶融工程を経て製造されたガラス物品の発泡温度がどのように変化するかを示すグラフであり、図4は、溶融炉内に供給するエネルギーをほぼ一定に維持した状態で、使用カレットの発泡温度を変化させたときに、炉内天井温度がどのように変化するかを示すグラフである。
【0051】
図3に示すように、点線で示す近似直線が右肩上がりであるように、溶融工程における炉内天井温度(溶融温度)が高ければ、ガラス物品の発泡温度も高くなる。このことは、ガラス物品を粉砕して得られるカレットの発泡温度も、元となるガラス物品製造時の溶融温度に比例して高くなることを意味している。すなわち、元となるガラス物品製造時の溶融温度が低ければ、そのガラス物品から得られるカレットの発泡温度も低く、元となるガラス物品製造時の溶融温度が高ければ、そのガラス物品から得られるカレットの発泡温度も高くなる傾向にある。したがって、元となるガラス物品製造時の溶融温度に基づいて、そのガラス物品から得られるカレットの発泡温度はある程度予想することができる。
【0052】
一方、図4に示すように、炉内に供給するエネルギーが同じであっても、使用するカレットの発泡温度が変化すると、溶融工程における炉内天井温度(溶融温度)が大きく変動することが分かる。詳細には、点線で示す近似直線が右肩下がりであるように、カレットの発泡温度が高くなるに従って、炉内天井温度が低くなっている。これは、カレットの発泡温度が高くなるに連れて泡層が形成されにくくなり、泡層による断熱効果が低下するためと考えられる。このような結果からも、炉内に順次供給されるカレットの発泡温度を適正に管理し、泡層範囲を安定化させることができる本願発明が有用であることが確認できる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
上記の実施形態では、溶融炉1にカレットを供給する前に測定工程を行う場合を説明したが、測定工程は省略してもよい。すなわち、カレットと、そのカレットの元となったガラス物品製造時の溶融工程における溶融温度とを予め紐付けして記録しておけば、測定工程を行わなくてもカレットの発泡温度を概ね把握することができる。すなわち、カレットの発泡温度の変動範囲を規制する方法は、カレットの発泡温度を直接測定する方法に限定されるものではなく、カレットの発泡温度を間接的に把握する方法も含まれる。
【0055】
上記の実施形態では、成形装置5で成形されるガラス物品が板ガラスである場合を説明したが、これに限定されない。例えば、成形装置5で成形されるガラス物品は、例えば、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック、ガラス繊維、ガラスロールなどであってもよいし、任意の形状であってよい。
【符号の説明】
【0056】
1 溶融炉
2 清澄室
3 均質化室
3a 攪拌翼
4 状態調整室
5 成形装置
6~9 移送管
10 電極
11 スクリューフィーダ
12 煙道
13 ファン
BL 泡層
Gm 溶融ガラス
Gr 混合原料(ガラス原料及びカレット)
図1
図2
図3
図4